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特許7465578計測治具およびそれを用いた校正方法、テラヘルツ波の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】計測治具およびそれを用いた校正方法、テラヘルツ波の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/03 20060101AFI20240404BHJP
   G01N 21/3586 20140101ALI20240404BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G01N21/03 Z
G01N21/3586
G01N21/01 B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022511138
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2021014188
(87)【国際公開番号】W WO2021201237
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020067788
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515130555
【氏名又は名称】フェムトディプロイメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】渡部 明
(72)【発明者】
【氏名】奥野 雅史
(72)【発明者】
【氏名】上田 剛慈
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-127950(JP,A)
【文献】特開2008-275638(JP,A)
【文献】特開2010-071660(JP,A)
【文献】特開2010-071915(JP,A)
【文献】特開2010-078544(JP,A)
【文献】特開2013-190423(JP,A)
【文献】特開2008-051533(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0267575(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/61
G01N 22/00-G01N 22/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波分光装置で使用する計測治具であって、
テラヘルツ波を透過または反射させる被測定物を入れるための均一な深さを持つ窪みによる空間を板状の分光セル本体部に1つ以上備えている容器としての分光セルと、
前記分光セルの前記被測定物を入れる空間に対応した位置に配置される1つ以上の第1ホルダー貫通孔を持つホルダーとを備え、
前記分光セルはテラヘルツ波が透過する樹脂材料でできており、前記分光セルを前記ホルダーに装填させて使用するようになされ、
前記ホルダーは、前記分光セルを保持する機能と、前記分光セルの歪み、捻れ、曲がりの1つ以上を補正することができる機能とを持つ
ことを特徴とする計測治具。
【請求項2】
前記分光セルが、前記被測定物を入れる空間以外にセル貫通孔を更に備え、
前記ホルダーが、前記セル貫通孔に対応した位置に配置される第2ホルダー貫通孔を更に持つことを特徴とする請求項1に記載の計測治具。
【請求項3】
前記第2ホルダー貫通孔に対して、前記テラヘルツ波を一定量吸収する物体が配置されていることを特徴とする請求項2に記載の計測治具。
【請求項4】
前記テラヘルツ波を一定量吸収する物体は、前記第2ホルダー貫通孔の外部に配置され、前記ホルダーに接着されていることを特徴とする請求項3に記載の計測治具。
【請求項5】
前記テラヘルツ波を一定量吸収する物体は、前記第2ホルダー貫通孔の内部に充填されていることを特徴とする請求項3に記載の計測治具。
【請求項6】
前記セル貫通孔の内部に、前記テラヘルツ波を一定量吸収する物体が配置されていることを特徴とする請求項2に記載の計測治具。
【請求項7】
前記テラヘルツ波を一定量吸収する物体が、フォトニック結晶構造をもつことを特徴とする請求項3または6に記載の計測治具。
【請求項8】
前記テラヘルツ波を一定量吸収する物体は、前記分光セルの本体部を成形する材料と同一の樹脂材料で成形されるフォトニック結晶構造を有する吸収基準部により構成されることを特徴とする請求項6に記載の計測治具。
【請求項9】
前記分光セルは、前記セル貫通孔を少なくとも2つ有し、当該少なくとも2つの前記セル貫通孔には、異なる種類のテラヘルツ波を一定量吸収する物体が配置されていることを特徴とする請求項2に記載の計測治具。
【請求項10】
前記異なる種類のテラヘルツ波を一定量吸収する物体が、少なくともその1つがフォトニック結晶構造をもつことを特徴とし、2つ以上のフォトニック結晶構造がある場合は、その2つ以上のフォトニック結晶構造がすべて異なることを特徴とする請求項9に記載の計測治具。
【請求項11】
前記ホルダーが、前記分光セルの着脱機能を有したことを特徴とする請求項1に記載の計測治具。
【請求項12】
前記分光セルは、前記被測定物を入れる空間を複数備えるとともに、前記セル貫通孔を1つ備え、
前記被測定物を入れる複数の空間は、前記セル貫通孔を間に挟まずに並べて配置されている
ことを特徴とする請求項2に記載の計測治具。
【請求項13】
前記ホルダーは、前記分光セルの歪み、捻れ、曲がりの1つ以上を補正することができる機能として、前記ホルダーの背面部の複数箇所に配置される押圧機構を備え、
前記押圧機構は、内部のバネ機構が有する付勢力によって押し出されるピンにより、前記分光セルの本体部を押圧する
ことを特徴とする請求項1に記載の計測治具。
【請求項14】
前記押圧機構は、前記ホルダーの背面部の複数箇所に設けられた接続穴内に配置され、
前記押圧機構および前記接続穴は、前記接続穴内に配置される前記押圧機構の位置をネジ機構により調整可能に構成され、前記ピンが前記分光セルの本体部を押す圧力を微調整できるようになっている
ことを特徴とする請求項13に記載の計測治具。
【請求項15】
テラヘルツ波分光装置のテラヘルツ波光路の途中に、請求項1~14の何れか1項に記載の計測治具を設置して、上記テラヘルツ波分光装置により被測定物の特性を分光計測するテラヘルツ波の測定方法。
【請求項16】
テラヘルツ波分光装置のテラヘルツ波光路の途中に、請求項1~14の何れか1項に記載の計測治具を設置して、上記テラヘルツ波分光装置により測定物の特性を分光計測し、透過率、反射率、位相差、強度、あるいは位相の内、少なくとも1つを校正量として使用することを特徴とする校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測治具およびそれを用いた校正方法、テラヘルツ波の測定方法に関し、特に、テラヘルツ波が伝播する経路中に被測定物を配置し、当該被測定物を透過または反射したテラヘルツ波の特性を計測する際に使用する計測治具およびその計測治具を用いた校正手法、テラヘルツ波の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波は、その波長により紫外線、赤外線、テラヘルツ波、マイクロ波などと呼ばれている。電磁波を用いて物質の種々の特性を計測する技術の一つは、分光計測もしくは分光法と呼ばれ、その計測装置は分光装置と呼ばれている。ここで用いる電磁波の波長領域によって、計測できる特性が大きく変わる。例えば、分子の特性では、紫外線では電子状態を、赤外線では分子振動・回転状態を、マイクロ波では分子の電気双極子の回転状態を、テラヘルツ波領域では分子間相互作用をそれぞれ観測することが可能である。よって、分子間相互作用が状態を支配している液体を計測する際には、テラヘルツ波領域の分光計測が適している。
【0003】
分光法では、試料に電磁波を入射させ、通過中あるいは反射中に電磁波と試料とが相互作用することによって生じる電磁波の変化から、その試料の物理的・化学的性質を計測する。このような電磁波を利用した分光装置において、同じ試料を同じ条件で計測した結果の再現性が保証され、かつ、できるだけ真値になるように、装置あるいは、装置から出力された結果について調整が行われる。これを校正という。一般的に、校正では、基準となる標準器や、標準試料を使って装置から出力されるデータと、予め既知の標準器や標準試料のデータとを比較する事により、その差異を修正する。
【0004】
液体試料の計測では、一例として、電磁波を透過する材料で作られた容器(一般的には分光セルと呼ばれる)に試料を入れ、分光セルの外部から電磁波を入射し、透過・反射・散乱した電磁波を計測している。
【0005】
一般的には、テラヘルツ波領域の電磁波を用いた液体試料の分光計測では、液体試料の温度や形状を常に一定の条件で計測するために、液体試料を入れるための分光セルを必要とする。このとき、分光セルの必要条件は、テラヘルツ波が十分透過する材料であること、また形状が安定していることが重要となる。さらに、人による液体試料の充填作業を行う場合、作業性を考慮すると、分光セルに液体を充填する過程が目視で確認できる程度の可視光領域の透明度を有する材料であることも必要となる。
【0006】
このような条件を満たし、工業的に大量に生産可能で安価な材料として樹脂がある。樹脂材料による分光セルの課題は、分光セルの最も基本的な性能である分光セル内部の液体試料を充填する隙間間隔(以下、セルギャップ厚)が、樹脂材料であるために分光セル全体構造が曲がる等の理由で個別に変形し、セルギャップ厚がばらつくことにより、個々の分光セル間で被検査試料の計測データが一定しない、ばらつく等があった。同じ状態の液体試料を計測していても結果が変化してしまう可能性が高く、計測の再現性という意味では、大きな課題となっていた。
【0007】
特許文献1に、テラヘルツ波分光装置の計測方法の一例として、1つのテラヘルツ波ビームを2つのビームに分割して、他方に参照試料を、もう一方に、被計測試料を配置する事により、参照試料に対する被計測試料の差を正確に計測する方法が記載されている。この光学系は、参照試料と被検査試料からそれぞれ通過後のテラヘルツ波ビームを干渉させることで、差だけをより高感度に検出することができる。このとき、参照試料と被検査試料を充填するそれぞれの分光セルのセルギャップ厚などの特性が同一であれば、検出された差は正確に試料の特性差を現しているといえる。しかし、それぞれの分光セル間にさまざまな要因による特性の差異がある場合には、計測結果に分光セルの差異が反映され、計測結果が不正確になるという課題があった。
【0008】
特許文献2に、テラヘルツ波分光装置の計測方法の一例として、ガラス板で作製された分光セルを使用しテラヘルツ波測定をすることが記載されている。通常のガラスでは、テラヘルツ波の透過性が悪いためガラス板の厚みをより薄くし、分光セルを作製することになるが、薄いガラスは割れやすく、被測定物充填時など手動操作する場合に、操作性が悪いという課題があった。
【0009】
【文献】特開2017-78599号公報
【文献】特開2011-127950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、精度の高いテラヘルツ測定を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明の計測治具は、テラヘルツ波を透過または反射させる被測定物を入れるための均一な深さを持つ窪みによる空間を板状の分光セル本体部に1つ以上備えた分光セルと、当該分光セルの被測定物を入れる空間に対応した位置に配置される1つ以上の第1ホルダー貫通孔を持つホルダーとを備え、分光セルはテラヘルツ波が透過する樹脂材料でできており、分光セルをホルダーに装填させて使用するようになされ、ホルダーは、分光セルを保持する機能と、分光セルの歪み、捻れ、曲がりの1つ以上を補正することができる機能とを持つ。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成した本発明によれば、樹脂製品製造時に発生する曲がりや樹脂製品保管時に生じる経年変化など、その他の複数の要因による分光セルの曲がりを機械的に補正することができる。これにより、分光セル内部のセルギャップ厚が保障されることとなり、試料の正確な分光情報を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】分光セルの外観形状例を示す図である。
図2】分光セルとホルダーの組み合わせを示す図であり、(a)は外形全体図、(b)は断面図を示す。
図3】分光セルの断面の構造例を示す図である。
図4】テラヘルツ波分光装置の構成例を示す図である。
図5】分光セルの例を示す図であり、(a)は外形全体図、(b)は断面図を示す。
図6】分光セルの例を示す図であり、(a)は外形全体例1、(b)は外形全体例2、(c)は断面図を示す。
図7】分光セルとホルダーの分解図である。
図8】計測時の分光セルとテラヘルツ波ビームとの位置関係の概略図である。
図9】フォトニック結晶構造のテラヘルツ波吸収スペクトルの例を示す図である。
図10】2つの吸収物体をホルダーに貼り付けた場合のホルダーと分光セルとを組み合わせた例を示す図である。
図11】2つの吸収物体をもつ場合の分光セルの例を示す図であり、(a)は外形全体例1、(b)は外形全体例2、(c)は断面図を示す。
図12】分光セルの例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は断面図を示す。
図13】分光セルの反射の実施形態の概略を示した図である。
図14】分光セルの断面の構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態によるテラヘルツ波分光装置で使用する分光セル100の外観形状例を示す図である。本実施形態では、液体試料を充填した分光セル100を図2のようにホルダーと組み合わせて使用し、これを図4に示すように、テラヘルツ波が伝播する経路中に配置し、当該液体試料を透過したテラヘルツ波から当該液体試料の特性を計測するものである。ここで記載している液体試料の例として食塩水、シリコンオイル等、その他様々な液体が挙げられる。液体試料の特性によりテラヘルツ波の吸収係数は様々であるが、計測に適した分光セルのセルギャップ厚を選べば良い。
【0015】
上記した課題を解決するための手段として、液体の充填作業を目視確認できる機能を確保し、テラヘルツ波を透過させ測定が可能となるために、分光セル100を形成する材料は可視光領域で透明であることが必要である。そのことにより、充填作業中における分光セル100内の充填量を目視もしくは可視カメラで確認することができ、テラヘルツ波測定が可能となる。材料としてガラスが挙げられるが、ガラスはテラヘルツ波の吸収が少なくないため、測定に十分な透過性を確保するためには板の厚みを薄くする必要があるが、そうすると割れやすく取り扱いが困難となる。よって、この取り扱いやすさも含めたこれらの条件を満たす材料はいくつかの樹脂材料であり、これを用いて分光セル100を製造することにより、課題を解決できる。この樹脂材料として、シクロオレフィンポリマーやポリメチルペンテンなどが例として挙げられる。
【0016】
ただし、上述したとおり、分光セル100が樹脂の場合、曲がるなど変形しやすいために、図2に示すように、樹脂成形された分光セル100の歪み、捻れ、曲がりの1つ以上を補正するためのホルダー6を発明した。
【0017】
この機構により、分光セル100の個々の歪みや変形によって分光セル100の内部の液体試料が充填される部分のセルギャップ厚が個々に変化して発生する分光計測データのばらつきを改善できる。また、利便性向上のために、このホルダー6は、分光セル100の着脱機能を有し、分光セル100とホルダー6とを常に組み合わせて、テラヘルツ波分光装置で使用する機構を合わせて発明した。
【0018】
また、図2に示すように、ホルダー6の一部に、テラヘルツ波を一定量吸収する物体(以下、テラヘルツ波吸収物体7という)を配置した。このテラヘルツ波吸収物体7は、テラヘルツ波の吸収量が既知あるいは計算などから算出することができるものである。そうすると、液体などの被測定物計測と同時、その前、あるいは、その後でテラヘルツ波吸収物体7を計測することで、テラヘルツ波分光装置、計測治具および図示しないコンピュータを含んだ計測システム全体で、同時あるいは、その前後で校正を行うことができるようになる。つまり、被測定物計測のたびに校正を行うことができるようになり、より高精度の計測が可能となる。
【0019】
液体などの被測定物についてテラヘルツ波分光装置により計測されたテラヘルツ信号と、当該被測定物の計測と同時、その前、あるいは、その後でテラヘルツ波吸収物体7についてテラヘルツ波分光装置により計測されたテラヘルツ信号は、図示しないコンピュータに供給される。そして、コンピュータにより校正を含む処理が行われ、テラヘルツ波の周波数毎の振幅や位相の情報から被測定物の特性が解析される。このとき、透過率、反射率、位相差、強度あるいは位相のうち少なくとも1つを校正量として校正が行われる。特に、本実施形態では、分光セル100が有する3つの分光セル窓2,4,5(詳細は後述する)にテラヘルツ波を透過させて計測した3つのテラヘルツ信号を用いて校正を行うことにより、線形のみならず非線形な関数等に基づく校正を行うことも可能である。
【0020】
また、テラヘルツ波吸収物体7をフォトニック構造をもつ吸収物体とすることで、その吸収特性を人工的に設計することが可能となり、周波数帯域や吸収領域などの計測対象に適した構成を行うことが可能となる。これは、被計測試料に合わせて設計することが可能で、適した標準器や標準試料が存在しないときに非常に有効な手段となる。
【0021】
図1に示すように、分光セル100は、機械的強度のベースとなる分光セル本体部1、テラヘルツ波が通過する分光セル窓2(特許請求の範囲のセル貫通孔に相当)、分光セル窓4、分光セル窓5、および分光セル窓カバー板3で構成される。図3に、この分光セル100の断面図の一例を示す。
【0022】
安価で大量生産が容易な樹脂成形を前提に考えると、分光セル本体部1は、厚さ12の板に均一な深さを持つ液体充填部8、および液体充填部8と均一で同じ深さを持つ液体充填部10の窪みを持ち、貫通孔2をもつ形状で、樹脂成型されている。分光セル窓カバー板3は、分光セル本体部1側の面と平行に密着して接着されている。このように分光セル100を製作すれば、分光セル窓カバー板3と液体充填部8の底面9との間のセルギャップ厚11は液体充填可能な厚みとなり、液体充填部8は液体充填可能となる。同じ分光セル窓カバー板3で覆われている液体充填部10も同様に液体充填可能となる。このように製作すれば、成形精度の範囲内で、分光セル窓4と分光セル窓5のそれぞれのセルギャップ厚11は同一かつ、均一さを確保することができる。分光セル本体部1の内部に形成される流路15、流路16は、それぞれ一端が液体注入口13、エアー抜き穴14に繋がり、他端が分光セル窓4における液体充填部8に繋がる。分光セル窓5における液体充填部10も同様に、2つの流路を介して液体注入口、エアー抜き穴に繋がる。液体充填部8,10は、特許請求の範囲の「被測定物を入れる板状の空間」に相当する。
【0023】
分光セル本体部1および分光セル窓カバー板3の材質は、テラヘルツ波が十分に透過する必要がある。さらに、人が液体充填の目視確認を行う場合は、分光セル本体部1あるいは、分光セル窓カバー板3の材質のどちらか片方あるいは両方は、テラヘルツ波だけでなく、可視光領域でも透過性を有している。もちろん、カメラなどによる液体充填確認の場合は、カメラが観測可能な波長領域での透過性でも良い。なお、分光セル窓カバー板3と分光セル本体部1は、融着もしくは接着剤を用いて、分光セル窓4,5以外の箇所が接着されている。
【0024】
樹脂の材料として、シクロオレフィンポリマーやポリメチルペンテンなどが一例として挙げられ、これらを用いて分光セル100を製造する。また、これらの樹脂材料が液体に接触する部分を親水性・疎水性、あるいはタンパク質低吸着などその他様々な表面処理を行うことにより、充填部への液体の注入の容易さや充填した液体の変質抑制など液体の性質に即した表面機能を設けることで、安定したテラヘルツ波の測定が可能となる。
【0025】
ホルダー6に分光セル本体部1が装填された一例を図2に示す。ホルダー6は、分光セル本体部1の歪みを補正する機能を有するように設計されている。その機構の詳細は図7の説明で後述する。ホルダー6の側面には、ホルダー窓6a、ホルダー窓6b、ホルダー窓6cがあり、それぞれ貫通孔であり(ホルダー窓6aは特許請求の範囲の第2ホルダー貫通孔に相当し、ホルダー窓6b,6cは特許請求の範囲の第1ホルダー貫通孔に相当する)、それぞれ分光セル窓2、分光セル窓4、分光セル窓5の位置と一致するように設計されている。さらに、分光セル100がテラヘルツ波に対して透明媒体であるために、テラヘルツ波が分光セル窓2、分光セル窓4、分光セル窓5などの外形縁に触れると、複雑な回折光を発生し、計測の精度や再現性に支障をきたす。よって、ホルダー窓6a、ホルダー窓6b、ホルダー窓6cはそれぞれ分光セル窓2,分光セル窓4,分光セル窓5より小さい方が好ましい。この場合、ホルダー6の材質は金属などテラヘルツ波に対して不透明であるほうが好ましく、ホルダー窓6a、ホルダー窓6b、ホルダー窓6cの縁は、回折を発生しにくい工夫がされている(例えば、角はR形状になっている)などが好ましい。テラヘルツ波吸収物体7は、ホルダー窓6aの外部に備わっているか、もしくは、分光セル本体部1と機械的に干渉しないホルダー内部に備わっていても良い。
【0026】
図4に、テラヘルツ波分光装置の構成の一例を示す。テラヘルツ波分光装置は、フェムト秒レーザ光源17、レーザ光分光部19、集光レンズ22、テラヘルツ波発生用半導体23、テラヘルツ波集束部24、ホルダー可動部26、テラヘルツ波集束部27、テラヘルツ波検出用半導体28、集光レンズ29、テラヘルツ信号検出装置30、反射ミラー31a,31b,31c、および時間遅延用可変光学遅延部32を備えて構成されている。
【0027】
レーザ光分光部19は、フェムト秒レーザ光源17から放射されるレーザ光(フェムト秒レーザパルス)を、テラヘルツ波光源であるテラヘルツ波発生用半導体23を動作させるためのポンプ光20と、テラヘルツ波検出部であるテラヘルツ波検出用半導体28に入射してテラヘルツ波が作り出す微弱電流を増大させるためのサンプリング光21との2つに分ける。具体的に、レーザ光分光部19は、半透過ミラーにより構成される。
【0028】
テラヘルツ波発生用半導体23から発生されたテラヘルツ波25は、集光ミラーから成るテラヘルツ波集束部24によって、ホルダー6に装着された分光セル本体部1の各分光セル窓2,4,5の何れかに集束される。3箇所の分光セル窓2,分光セル窓4,分光セル窓5と集束されたテラヘルツ波との詳細は後述する。また、図示していないが、分光セル100が設置されたことを視認性高く確認するために、テラヘルツ波発生用半導体23あるいはテラヘルツ波検出用半導体28、あるいは、ホルダー可動部26にLEDライトを設置することにより、ホルダー6に分光セル本体部1が装填された際に、分光セル本体部1の上部が光って見える機能を備えることもできる。
【0029】
テラヘルツ波集束部27は、集光ミラー27aにより、分光セル本体部1を透過したテラヘルツ波をテラヘルツ波検出用半導体28に集束させる。
【0030】
テラヘルツ波検出用半導体28は、テラヘルツ波集束部27により集束されたテラヘルツ波を検出し、その波形を表すテラヘルツ波信号電流を出力する。テラヘルツ信号検出装置30は、このテラヘルツ波信号電流を検出し、当該検出信号をフーリエ変換することにより、テラヘルツ波の周波数毎の振幅と位相の情報を得る。
【0031】
時間遅延用可変光学遅延部32は、レーザ光分光部19により分光された一方のレーザ光であるサンプリング光21が伝播する経路中に設けられ、当該サンプリング光がテラヘルツ波検出用半導体28まで到達する時間の遅延量を可変設定する。この時間遅延用可変光学遅延部32は、固定した反射ミラー31a,31b,31cに対して2つの可動する反射ミラー32a、32bを有しており、この反射ミラー32a、32bが矢印Aの方向に物理的に平行移動可能に構成されている。これにより、サンプリング光の遅延時間を可変にしている。この時間遅延用可変光学遅延部32は、サンプリング光がテラヘルツ波検出用半導体28に到達するタイミングをずらしながらテラヘルツ波の時間波形を計測するために用いられる。
【0032】
ホルダー可動部26は、矢印Bの方向に物理的に平行移動可能であり、ホルダー6のホルダー窓6a、ホルダー窓6b、ホルダー窓6cのそれぞれの位置に、テラヘルツ波ビームが通過できるように移動させることができるようにコンピュータで制御される。制御するコンピュータはこの図4には含まれていない。
【0033】
次に、液体充填部8および10にそれぞれ試料液体が充填された分光セル100をホルダー6に装着している場合を例に、ホルダー窓6a、ホルダー窓6b、およびホルダー窓6cと、分光セル本体部1の分光セル窓2、分光セル窓4、分光セル窓5と、集束されたテラヘルツ波との関係を説明する。
【0034】
ホルダー窓6a、ホルダー窓6b、およびホルダー窓6cと、分光セル本体部1の分光セル窓2、分光セル窓4、分光セル窓5は、分光セル100がホルダー6に装着された状態でそれぞれの中心が一致するように製作されている。
【0035】
ホルダー可動部26を移動し、ホルダー窓6aにテラヘルツ波が集束されている場合には、テラヘルツ波は、ホルダー6の側面に設置されているテラヘルツ波吸収物体7を通過し、かつ、分光セル窓2を通過する。この時、分光セル窓2は、図1に示すように中空であるため、テラヘルツ波吸収物体7を通過したテラヘルツ波は、テラヘルツ波吸収物体7だけの特性を計測することになる。
【0036】
次に、ホルダー可動部26を移動し、ホルダー窓6bにテラヘルツ波が集束されている場合には、テラヘルツ波は分光セル窓4を通過する。この時、集束されたテラヘルツ波は、試料液体が充填された液体充填部8を通過するため、分光セル窓4を通過したテラヘルツ波は、液体充填部8に充填された試料液体の特性を計測することになる。
【0037】
次に、ホルダー可動部26を移動し、ホルダー窓6cにテラヘルツ波が集束されている場合には、テラヘルツ波は分光セル窓5を通過する。この時、集束されたテラヘルツ波は、試料液体が充填された液体充填部10を通過するため、分光セル窓5を通過したテラヘルツ波は、液体充填部10に充填された試料液体の特性を計測することになる。
【0038】
以上のように、ホルダー可動部26を制御しながら、テラヘルツ波吸収物体7と分光セル本体部1に充填した2つの試料液体とを計測することにより、時間的な差を開けずに、校正用のデータと試料液体のデータとを取得可能である。このため、装置のノイズやドリフトによる計測のズレや、計測治具に起因する僅かなノイズなどを最小限に抑えて計測や補正が可能となり、液体試料の精度の高いデータとなる。
【0039】
図5に、分光セル100Aの別の形態の例を示す。図5に示す分光セル本体部33は、図1および図3で示した分光セル本体部1と材料や外形寸法が同一であるが、分光セル窓33aは中空ではなく、分光セル窓4と同様の構造である。分光セル窓33b,33cはそれぞれ分光セル窓4,5と同様の構造である。また、分光セル窓カバー板34は、分光セル窓カバー板3より長く、3つの分光セル窓33a,33b,33cを覆い、分光セル窓33aの内部にも溶液を充填できる空間を形成している。図5(b)に分光セル100Aの断面図を示す。図5(b)に示していないが、分光セル100Aは、図3の流路15、流路16や液体注入口13、エアー抜き穴14と同様の構成を備えており、分光セル窓33a、分光セル窓33b、分光セル窓33cに繋がっている。また、分光セル窓33aは液体試料を封止して使用することもできる。
【0040】
分光セル本体部33のような構造にすることにより、分光セル窓33aに、基準となりうるテラヘルツ波周波帯において既知の複素誘電率(あるいは、吸収係数と屈折率など)特性の液体を充填することができ、ホルダー6に装着した固体材料によるテラヘルツ波吸収物体7と同等の機能を有することとなり、前記と同様、液体試料測定直前の校正が可能となる。
【0041】
図6に、別の構造による分光セル100B,100Cの例を示す。図6(c)に分光セル100B,100Cの断面図を示す。図6(a)に示す分光セル本体部35は、図1および図3で示した分光セル本体部1と材料や外形寸法が同一であるが、分光セル窓36は中空ではなく、図6(c)に示すように吸収基準部41で構成されている。分光セル窓37、分光セル窓38はそれぞれ分光セル窓4,5と同様の構造である。分光セル100B,100Cが流路や液体注入口、エアー抜き穴などを備えることは図3と同様であり、図示を省略する。
【0042】
図6(a)に示す分光セル窓36においては、吸収基準部41は、分光セル本体部35を成形する材料と同一の樹脂で成形されるフォトニック結晶構造を有する。フォトニック結晶構造を形成することにより、この部分を通過するテラヘルツ波による分光データには、吸収基準部41に形成する幾何学的溝パターンの設計により、その成形材料に依存する吸収特性および位相特性とは異なる周波数軸、透過率軸および位相軸に特定の指標を付与することが可能となる。その結果、分光セル窓36は、ホルダー6に装着した固体材料によるテラヘルツ波吸収物体7と同等の機能を有することとなり、前記と同様、液体試料測定直前の校正が可能となる。
【0043】
前記では、同一の樹脂での成形の場合について説明したが、もちろん、フォトニック結晶構造を調整するなどして同じ特性を有するのであれば、異種の樹脂で成形しても良く、同一樹脂材料に限定するものではない。さらに、フォトニック結晶構造の材料は幾何学的な穴が空いた金属でも良いため、材料を樹脂に限定するものではない。また、前記では、溝のパターンで幾何学的構造をつくりフォトニック結晶を成形する場合を説明したが、これは樹脂内に空気などの屈折率の異なる球を配置するなどでのフォトニック結晶構造でもよく、フォトニック結晶構造を幾何学的溝パターンに限定するものではない。
【0044】
図6(b)に示す分光セル窓40においては、吸収基準部41は、テラヘルツ波吸収物体7を成形する材料と同一の樹脂で成形される構造を有する。その結果、分光セル窓40は、ホルダー6に装着した固体材料によるテラヘルツ波吸収物体7と同等の機能を有することとなり、前記と同様、液体試料測定直前の校正が可能となる。
【0045】
図7にホルダー6の内部構造の一例を示す。図7では、図7(b)に分光セル100を、図7(a)にホルダー前面部42を、図7(c)にホルダー背面部44を示している。ホルダー前面部42には、ホルダー窓42a、ホルダー窓42b、ホルダー窓42cがあり、それぞれ貫通穴であり、それぞれ分光セル100の分光セル窓2,4,5の位置と一致するように設計されている。テラヘルツ波吸収物体7は、ホルダー窓42aの外部に接着されている。ビス穴49は、ホルダー前面部42とホルダー背面部44とを接続するために使用する。ビス穴49に対応して存在するホルダー背面部44のタップ穴は図示を省略している。
【0046】
ホルダー背面部44には、ホルダー窓45a、ホルダー窓45b、ホルダー窓45cがあり、それぞれ貫通穴であり、それぞれ分光セル100の分光セル窓2,4,5の位置と一致するように設計されている。
【0047】
ホルダー背面部44には複数箇所に接続穴46が設けられており、これを通して分光セル押ユニット47(押圧機構)を複数箇所に配置することにより、分光セル100の歪みを補正する機能をもたせている。分光セル押ユニット47には、内部のバネ機構により一定の圧力で押し出すピン48が具備されている。ホルダー背面部44の複数箇所にある接続穴46に分光セル押ユニット47を配置することにより、ピン48の付勢力によって分光セル本体部1の背面のベース板を一定の圧力で押さえることができる。
【0048】
ホルダー前面部42の背面にある溝43は、ホルダー前面部42とホルダー背面部44とが密着して接合した場合に、分光セル本体部1の厚さを考慮して、分光セル本体部1のベース板の背面に対するピン48の接触が適切な圧力となるように、深さを最適化している。さらに、接続穴46と分光セル押ユニット47は前後に可動できるネジ機構があり、接続穴46内に配置される分光セル押ユニット47の位置(分光セル本体部1のベース板の背面からの離間距離)を調整することにより、ピン48が分光セル本体部1のベース板の背面を押す圧力を微調整できるようになっている。
【0049】
図8及び図9を用いて、校正の手続きに関する実施例を説明する。ここでは図6(a)の分光セル100Bを用いる例について説明する。校正は、何れかの箇所または全ての箇所に対する分光セル押ユニット47の配置およびピン48の圧力の微調整によって行うことが可能である。
【0050】
校正の際、ホルダー6にはテラヘルツ波吸収物体7は取り付けられていないものとする。分光セル本体部35は、ホルダー可動部26により、テラヘルツ波ビームに対して移動でき、数分以内で図8(a)、(b)、(c)の状態を作り出すことができる。図8(a)は入射テラヘルツ波ビーム50が分光セル窓36を通過する状態であり、分光セル窓36の機能であるフォトニック結晶構造による影響を受けた透過テラヘルツ波ビーム51がテラヘルツ波検出用半導体28に入る。その結果、得られるテラヘルツ波吸光度スペクトルの例を図9に示す。
【0051】
フォトニック結晶構造が形成されている分光セル窓36を通過したテラヘルツ波は、図9に示すように、特定の周波数に特定のピーク吸光度をもつ複数のピークをもった吸光度スペクトルを発生させることができる。つまり、分光セル100Bごとに周波数に対する既知の吸光度を示す指標ができることになるので、これを校正に利用することが可能になる。もちろん、ここでは、吸光度のみについて説明したが、位相差についても同様に校正可能になる。
【0052】
この特性をもった分光セル100Bを利用することにより、樹脂成形品の加工精度の範囲内で常に同じ吸収スペクトルを分光セル100B毎に計測可能になり、分光セル100B毎に校正することが可能となる。その結果、図4の測定装置要因の周波数や強度のズレやドリフトを、図8(a)のように計測することで、毎回分光セル100B毎に校正を行うことが可能となり、より高精度および再現性の高い測定が可能となる。
【0053】
さらに、図8(b)、(c)に示すように、同じ分光セル本体部35に形成されている分光セル窓37、分光セル窓38に対してテラヘルツ波ビームを通過させる計測手順を順に実施する。その計測時点においては既に校正がなされているので、より正確な被検査試料の計測を行うことができる。その結果、計測装置個体間の誤差や、計測日時間の誤差など最小限に抑えることが可能となる。もちろん、上述したように校正は、分光セル窓36~38にテラヘルツを透過させて計測されたテラヘルツ信号をそれぞれコンピュータに取り込んだ後に行われるので、上記図8(a)は、図8(b)や図8(c)の後で行ってもよく、その順序は特定しない。
【0054】
図10に、別の構造によるホルダー63の例を示す。このホルダー63は、テラヘルツ波吸収物体7と同様にテラヘルツ波を一定量吸収する物体64,65を2つ設け、テラヘルツ波の測定を行うことにより、2種類の異なる周波数依存した吸光度および位相差を校正量として使用することができる機能を有する。その結果、図2のように1つのテラヘルツ波吸収物体7を備える場合に比べ、より精度の高い校正が可能となる。また、ここでは2つのテラヘルツ波吸収物体64,65を説明したが、図示はしていないが、3つ以上などより多数の異なる特性をもつテラヘルツ波吸収物体を配置して利用することで、さらに高精度の構成が可能となる。
【0055】
図11に、別の構造による分光セル100D,100Eの例を示す。図11(a)に示す分光セル100Dに関して、分光セル本体部66に設けられた最上部の分光セル窓67および最下部の分光セル窓70は、図11(c)のようにそれぞれ特性の異なるテラヘルツ波吸収物体でできた吸収基準部73と吸収基準部74で構成される。同様に、図11(b)に示す分光セル100Eに関して、分光セル本体部66に設けられた最上部の分光セル窓71および最下部の分光セル窓72は、図11(c)のようにそれぞれ特性の異なるテラヘルツ波吸収物体でできた吸収基準部73と吸収基準部74で構成される。分光セル窓カバー板69は、真ん中に配置された分光セル窓68に対してのみ設けられる。
【0056】
このように構成した分光セル100D,100Eを用いてテラヘルツ波測定を行うことにより吸収基準部73と吸収基準部74の、それぞれ異なる周波数依存した吸光度、位相差を校正量として得ることができる。その結果、図2のように1つのテラヘルツ波吸収物体7を備える場合に比べ、より精度の高い校正を行うことができる。また、ここでは2つのテラヘルツ波吸収物体を説明したが、図示はしていないが、3つ以上などより多数の異なる特性をもつテラヘルツ波吸収物体を配置して利用することで、さらに高精度の構成が可能となる。
【0057】
図12に、別の構造による分光セル100A’の例を示す。なお、この図12において、図5に示した構成要素と同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付している。図12に示す分光セル100A’では、分光セル窓33a,33b,33cの中にそれぞれ支柱35a,35b,35cが設けてある。こうすることによって、液体充填部36a,36b,36cの分光セル窓カバー板34が、液体充填部36a,36b,36cに対する液体の充填後にへこんだり、出っ張ったりしないようにすることができる。なお、ここでは図5に示す構成において支柱35a,35b,35cを設ける例について説明したが、図3図6図11についても同様に適用可能である。
【0058】
以上詳しく説明したように、上記実施形態によれば、樹脂製品製造時に発生する曲がりや樹脂製品保管時に生じる経年変化など、その他の複数の要因による分光セルの曲がりを機械的に補正することができる。これにより、分光セル内部のセルギャップ厚が保障されることとなり、試料の正確な分光情報を計測することができる。
【0059】
また、上記実施形態によれば、個々の充填部のセルギャップ厚のバラツキは、1個の分光セルに、複数の充填部を有しているものと1つの充填部を有しているものと比べ、複数の充填部を有しているものの方が大きく減少させる効果があり、正確な分光情報を計測する特徴となっている。
【0060】
また、上記実施形態によれば、ホルダーと分光セルの構成において、ホルダーのテラヘルツ波ビームが通過する窓に、校正に用いるテラヘルツ波を一定量吸収する物体を配置したことにより、計測ごとに校正データを計測することができ、より精度の高い計測が可能になる。
【0061】
さらに、上記実施形態によれば、可視光領域で透明な樹脂を選択したことにより、液体を手作業で分光セルに充填する際に、不透明な材料で作られた分光セルに比べて、格段に操作性が良く確実性が高いので、連続的に検査作業を行うような産業利用現場において大きく貢献する。
【0062】
なお、上記実施形態では、液体試料を用いる例について記載しているが、気体試料あるいは固体試料を用いてもよい。この場合でも、液体試料の場合と同様の効果が得られる。また、樹脂材料で作製した分光セルは、樹脂成型だけでなく切削加工でも作製可能であり、その他の樹脂加工方法でも同様の効果が得られる。また、テラヘルツ波を一定量吸収する物体を固体や液体で説明したが、これに限定するものではない。
【0063】
また、上記実施形態では、被測定物にテラヘルツ波を透過させる例について説明したが、被測定物にてテラヘルツ波を反射させるようにしてもよい。図13(a)~(c)に反射の実施形態の概略を示す。なお、この図13において、図5に示した構成要素と同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付している。
【0064】
例えば図13(a)に示すように、分光セル100Aの液体充填部36cに、テラヘルツ波を反射させる被測定物(例えば、水銀など)を充填し、被測定物を計測することが可能である。なお、図13(b)に示すように、液体充填部36cに充填される被測定物によっては、反射面が被測定物の表面ではなく底部になる場合もあり得る。また、液体充填部36cに充填される被測定物によっては、被測定物の表面で全てが反射するだけでなく、一部が反射し、一部が透過する場合もあり得る。さらに、これらが、被測定物内で繰り返され多重反射される場合もあり得る。
【0065】
図13(c)は、反射の取得方法が異なる例を示すものである。反射する被測定物への入射は、テラヘルツ波発生用半導体からハーフミラーを透過して行われる。反射は、ハーフミラーで反射されたテラヘルツ波をテラヘルツ波検出用半導体で検出する構成である。
【0066】
また、上記実施形態では、ホルダー6にテラヘルツ波吸収物体7を配置するか、分光セル100B,100C,100D,100Eに吸収基準部41,73,74を配置する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、テラヘルツ波吸収物体7を第2ホルダー貫通孔の内部に充填するようにしてもよい。例えば、図14に示すように、ホルダー背面部44が備えるホルダー窓45aにテラヘルツ波吸収物体7を充填するようにしてもよい。あるいは、図示はしていないが、ホルダー前面部42が備えるホルダー窓42aにテラヘルツ波吸収物体7を充填するようにしてもよい。
【0067】
その他、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、テラヘルツ波を利用する分光計測における精度、再現性および操作性の向上を図るための分光装置計測治具やその校正方法に関するものである。これまで、校正がうまく行われなかったために、産業分野では、利用が控えられていたが、本発明の校正も同時に行える分光セルにより、計測値の信頼度が格段に向上する。また、当然ではあるが、テラヘルツ波計測装置の機種間での差異を極力小さくすることができ、いままで難しかった製造ライン間の補正や工場間の補正を容易に行うことができ、組織内での一貫した管理の対象となる。また、可視光領域で透明性が、本発明の特徴のひとつであり、これは、測定作業者の操作性を格段に向上させ、液体試料の充填ミスを事前に防ぐことが可能となり、ひいては、測定精度の向上にもつながることで、工場などでの抜き取り検査などに大きく貢献する。
【符号の説明】
【0069】
1 分光セル本体部
2 分光セル窓
3 分光セル窓カバー板
4 分光セル窓
5 分光セル窓
6 ホルダー
6a ホルダー窓
6b ホルダー窓
6c ホルダー窓
7 テラヘルツ波を一定量吸収する物体
8 液体充填部
9 液体充填部の底面
10 液体充填部
11 セルギャップ厚
12 厚さ
13 流路
14 流路
15 液体注入口
16 エアー抜き穴
17 フェムト秒レーザ光源
18 サンプリング光
19 レーザ光分光部
20 ポンプ光
21 サンプリング光
22 集光レンズ
23 テラヘルツ波発生用半導体
24 テラヘルツ波集束部
25 テラヘルツ波
26 ホルダー可動部
27 テラヘルツ波集束部
27a 集光ミラー
28 テラヘルツ波検出用半導体
29 集光レンズ
30 テラヘルツ信号検出装置
31a 反射ミラー
31b 反射ミラー
31c 反射ミラー
32 時間遅延用可変光学遅延部
32a 反射ミラー
32b 反射ミラー
33 分光セル本体部
34 分光セル窓カバー板
35 分光セル本体部
36 分光セル窓
37 分光セル窓
38 分光セル窓
39 分光セル窓カバー板
40 分光セル窓
41 吸収基準部
42a ホルダー窓
42b ホルダー窓
42c ホルダー窓
43 ホルダー前面部背面にある溝
44 ホルダー背面部
45a ホルダー窓
45b ホルダー窓
45c ホルダー窓
46 接続穴
47 分光セル押ユニット
48 ピン
49 ビス穴
50 入射テラヘルツ波ビーム
51 透過テラヘルツ波ビーム
52 入射テラヘルツ波ビーム
53 透過テラヘルツ波ビーム
54 入射テラヘルツ波ビーム
55 透過テラヘルツ波ビーム
56 基準周波数1
57 基準周波数2
58 基準周波数3
59 基準吸光度1
60 基準吸光度2
61 基準吸光度3
62 分光セル
63 ホルダー
63a ホルダー窓
63b ホルダー窓
63c ホルダー窓
64 テラヘルツ波を一定量吸収する物体
65 テラヘルツ波を一定量吸収する物体
66 分光セル
67 分光セル窓
68 分光セル窓
69 分光セル窓カバー板
70 分光セル窓
71 分光セル窓
72 分光セル窓
73 吸収基準部
74 吸収基準部
100,100A~100E 分光セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14