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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】メディアレス型分散装置用の分散ロータ
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/271 20220101AFI20240404BHJP
   B01F 27/1152 20220101ALI20240404BHJP
   B01F 27/93 20220101ALI20240404BHJP
   B01F 27/111 20220101ALI20240404BHJP
   B01F 23/53 20220101ALI20240404BHJP
   B01F 27/86 20220101ALI20240404BHJP
【FI】
B01F27/271
B01F27/1152
B01F27/93
B01F27/111
B01F23/53
B01F27/86
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023116261
(22)【出願日】2023-07-14
【審査請求日】2023-08-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591111868
【氏名又は名称】淺田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】大槻 充彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 康博
(72)【発明者】
【氏名】小田 真也
(72)【発明者】
【氏名】小川 菜摘
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-100352(JP,A)
【文献】国際公開第2010/061430(WO,A1)
【文献】特開2019-181410(JP,A)
【文献】国際公開第2008/143056(WO,A1)
【文献】実公昭45-028234(JP,Y1)
【文献】国際公開第2020/213048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 27/00 - 27/96
B01F 23/40 - 23/57
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散対象物の貯留された有底筒状の槽内に懸垂保持されたリング状の天板および底板を有する筒状本体からなるステータに収納され、前記天板および前記底板の各中央に形成された開口を貫通する回転軸に固定され、前記回転軸の回転に伴って前記槽内の前記分散対象物を前記ステータ内に引き込んで前記ステータの前記筒状本体に形成された貫通孔またはスリットを通して前記分散対象物を前記ステータ外に排出させるメディアレス型分散装置用の分散ロータであって、
前記分散ロータは、円盤状であり、その回転に伴って前記回転軸に沿って引き込む前記分散対象物を受ける、前記回転軸の周りに形成されたリング状溝を有し、かつ、前記天板および前記底板と対向する各面に前記回転軸側から外周に向けて放射状に形成された複数の溝を有し、
前記リング状溝は、その外縁を前記複数の溝と連通しており、
前記溝は、前記回転軸側から外周に向かうにつれて断面が小さい
ことを特徴とするメディアレス型分散装置用の分散ロータ。
【請求項2】
前記複数の溝の各々、前記分散ロータの回転方向の前向きに対して前記リング状溝と連通する入口から出口にかけて斜め後方に向かう形状であり、前記入口から入った前記分散対象物を前記溝を通して前記出口から前記後方に向けて送り出す
ことを特徴とする請求項1に記載のメディアレス型分散装置用の分散ロータ。
【請求項3】
前記分散ロータは、隣り合う前記溝の間に扇状の凸部を有し、前記分散ロータを前記回転軸の軸心側から平面視したときに前記扇状の凸部の表面積が、前記溝の開口面積よりも大きい
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のメディアレス型分散装置用の分散ロータ。
【請求項4】
前記分散ロータは、前記回転軸と直交する側から正面視したときに前記回転軸側から外周に向けて先細り傾斜したテーパ状である
ことを特徴とする請求項1に記載のメディアレス型分散装置用の分散ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、インキ、レジストインキ、封止材(LED、半導体などに使用する接着剤)、ハンダペースト、リチウムイオン電池の活物質ペースト、医薬品および化粧品などの分散対象物を製造する過程において、分散対象物を分散装置の槽に貯留し、分散および剪断するためのバッチ式のメディアレス型分散装置に用いるメディアレス型分散装置用の分散ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品、医薬品などの乳化製品、懸濁製品を製造するタービン・ステータ型の撹拌装置が知られている。撹拌装置は、容器内において高速で回転するタービンと当該タービンを取り囲むステータとから構成されている。タービンは、放射状に複数の溝部を有する環状のインペラ部と、インペラ部の中央開口において当該インペラ部の内壁と連結し、かつ、回転軸の下端に位置する4枚の羽根部を有するインデューサ部とから構成されている。ステータは、円筒状であり、その外周に複数の貫通孔が形成されている。この構成により撹拌装置は、タービンの回転に伴うインデューサ部の吸引力によって、ステータの下端開口部からインペラ部に処理対象物を流入させ、ステータ内で回転する当該インペラ部の外周とステータの本体部の内壁との間のクリアランス内で処理対象物を剪断している(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2022-189749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年において、低粘度の分散対象物からリチウムイオン電池の活物質ペーストのような高粘度までの幅広い特性の分散対象物を製造している。しかしながら、特定の分散対象物は、異なる装置を利用して分散対象物の粒径を段階的に小さくする必要がある。例えば、バッチ式の撹拌機によって分散対象物を大まかに撹拌するプレミキシング処理、メディア型分散装置による前分散処理、分散対象物を供給および排出循環させる連続式のメディア型分散装置による本分散処理を行っている。このような場合、次のような不都合が生じている。バッチ式および連続式の異なるタイプのメディア型分散装置を利用する場合、工程ごとに分散対象物を各装置の槽または容器に移し替える必要がある。また、各工程で利用した槽などは、利用後に洗浄する必要ある。洗浄の際にはメディアが残留しないよう丁寧に洗浄する必要がある。そこで、メディア型分散装置を利用した処理を減らすことが望まれている。
【0005】
しかしながら、メディアレス型分散装置は、メディア型分散装置に比べて剪断能力および分散能力が低いため、全ての種類の分散対象物の処理に利用できないといった問題がある。すなわち、引用文献1の撹拌装置は、回転時のインデューサ部による吸引力によってインペラ部に流入した対象物を当該インペラ部の外周とステータの内壁のクリアランス部だけでしか剪断することができないので、分散対象物を予め決めた粒径まで微小化することができないといった不都合が生じている。
【0006】
本発明は、このような課題を解決すべくなされたものであり、メディアを利用することなしに分散対象物を予め決めた粒径まで微小化を可能とするメディアレス型分散装置用の分散ロータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のようなメディアレス型分散装置用の分散ロータを提供する。
【0008】
分散対象物の貯留された有底筒状の槽内に懸垂保持されたリング状の天板および底板を有する筒状本体からなるステータに収納され、前記天板および前記底板の各中央に形成された開口を貫通する回転軸に固定され、前記回転軸の回転に伴って前記槽内の前記分散対象物を前記ステータ内に引き込んで前記ステータの前記筒状本体に形成された貫通孔またはスリットを通して前記分散対象物を前記ステータ外に排出させるメディアレス型分散装置用の分散ロータであって、
前記分散ロータは、円盤状であり、その回転に伴って前記回転軸に沿って引き込む前記分散対象物を受ける、前記回転軸の周りに形成されたリング状溝を有し、かつ、前記天板および前記底板と対向する各面に前記回転軸側から外周に向けて放射状に形成された複数の溝を有し、
前記リング状溝は、その外縁を前記複数の溝と連通しており、
前記溝は、前記回転軸側から外周に向かうにつれて断面が小さい
ことを特徴とするメディアレス型分散装置用の分散ロータ。
【0009】
上記の本発明の分散ロータにおいて、放射状に形成される複数の溝とは、平面視で、分散ロータの中心から半径方向に真直ぐに延びる直線状をなす複数の溝に限定されるものではなく、曲線状であってもよい。曲線状は、例えば、後述する弓状のように1つの屈曲を有する形状であってもよく、複数の屈曲を有する形状であってもよい。ただし、分散対象物が溝の入口から出口まで流れる過程において分散対象物の流れを妨げる、または減速させる程度に、平面視形状が屈折若しくは屈曲した溝、または、流れ方向に沿って断面が変形した溝は、ここでいう放射状に形成される溝に該当しない。屈折は、折れ曲がり部分である。例えば、溝が平面視で「く」の字形状を有し、屈折部分で分散対象物の流れが妨げられる、または減速する場合には、「く」の字形状の溝は、放射状に形成される溝に該当しない。屈曲は、折れ曲がらずに曲がっている部分である。屈曲は、屈折よりも、分散対象物の流れを妨げ難い、または減速させ難いが、屈曲の程度によっては、分散対象物の流れを妨げる、または減速させてしまう。そのような屈曲部分を有する溝は、放射状に形成される溝に該当しない。変形は、例えば、溝の途中に形成される凸部による断面の変化である。放射状に形成された溝は、例えば、分散対象物が、分散ロータの回転中に溝の入口から入り、上流から下流に向けて流れる過程で衝突部などに衝突して減速することなく分散ロータの外縁の出口から送り出される形状であればよい。それ故に、溝の入口から入った分散対象物を出口から送り出すまでに分散対象物の流れを妨げる又は減速させる構造を有さない。
【0010】
また、本発明の分散ロータは、分散対象物の衝突に起因する減速とは別に減速を招く出口からの分散対象物の侵入を抑制するように出口が後向きであることが好ましい。すなわち、図1に示すように、矢印Rで示す方向に回転する分散ロータ1のある一つの溝5に着目すると、溝5は半径に沿って真っすぐに延びているので、出口は真横を向いている。したがって、分散ロータ1の回転時に出口からの分散対象物の侵入が抑制されるので、溝5を流れる分散対象物を減速させることがない。そこで、この溝5を基準に出口から分散対象物が侵入しない位置を次のように設定している。
【0011】
先ず、溝5を基準に分散ロータ1を上下半分に分け、上側を前、下側を後として規定する。そして、溝5の入口の位置を固定し、出口が、分散ロータ1の下半分の円弧上に位置すれば出口が後向きになる。例えば、溝5a~5dは、円弧上に沿って各出口を矢印Lの方向に設定したものであり、各出口は常に後向きとなり、分散ロータ1の回転時に出口からの分散対象物の侵入が抑制される。したがって、固定した入口と各出口を結ぶ溝5a~5dは、直線状のみに限定されず、前向きに突入湾曲した弓状(溝5d)を含む。以上のことから、本発明の放射状の複数の溝は、回転軸側から外周に真直ぐ延びる形態に限定されず、弓状などを含む。
【0012】
この構成によれば、分散ロータの回転に伴って分散対象物が回転軸の周りから引き込まれる。このとき、分散ロータは、その回転に伴って各面において分散対象物に二つの流れを形成する。第1の流れは、分散ロータを挟んでステータの天板および底板との各間で回転しながら回転軸側(以下、適宜に「上流」と称す)から外周側(以下、適宜に「下流」と称す)に向かう。第2の流れは、分散ロータの両面に形成された各溝に沿って下流に向かう。すなわち、分散対象物は、リング状溝に受け入れられるが、逐次に引き込まれる分散対象物によって押圧される。すなわち、分散ロータは、リング状溝で押圧された分散対象物を当該リング状溝の外縁と連通する複数の溝に効率よく圧送される。
【0013】
第1の流れの分散対象物は、分散ロータの回転に伴って天板および底板と対向する各面で発生する摩擦抵抗により剪断される。
【0014】
第2の流れの分散対象物は、上流から下流に向かうにつれて狭くなる溝により下流側への圧力が増す。ここで、溝の断面が小さいとは、幅が狭い、深さ方向に狭い(浅い)またはこれらを組み合わせたときの断面の大きさである。また、溝を流れる分散対象物は、分散ロータの回転に伴う遠心力がかかる。つまり、溝を流れる分散対象物に遠心力がかかることにより、溝内の圧力が高まり、分散対象物が、出口から勢いよく送り出される。このとき、分散対象物の一部がステータの内壁に勢いよく衝突し、その衝撃によって分散対象物が分散される。また、回転する分散ロータの外周エッジによって分散対象物が剪断される。
【0015】
したがって、分散ロータは、その表面および裏面で摩擦抵抗を利用した剪断、溝によって上流から下流に向けて加速させてステータの内壁に分散対象物を衝突させることにより生じる分散および分散ロータの外周エッジによる剪断の3つの作用による相乗効果を発揮するので、メディアを利用せずとも分散対象物を所定の粒径まで分散処理することができる。また、従来の製造ラインのように、プレミキシング処理の後に異なるメディア型分散装置を利用して段階的な前分散処理および本分散処理をする必要がない。換言すれば、プレミキシング処理および前分散処理をメディアレス型分散装置に置き換えて、その後、本分散処理を行うことができる。したがって、メディアの管理およびメディアが残留しないような丁寧な洗浄処理は本分散処理のメディア型分散装置のみでよく、さらに使用する装置を減らすことができ、ひいては製造ラインにおける処理工程数の削減となり作業効率が格段に向上する。
【0016】
さらに、加速した分散対象物の一部は、ステータの貫通孔またはスリットに直接に流れ込む。すなわち、分散ロータは、ステータの外に勢いよく分散対象物を排出させることもできる。
【0017】
また、上記構成において、前記複数の溝の各々、前記分散ロータの回転方向の前向きに対して前記リング状溝と連通する入口から出口にかけて斜め後方に向かう形状であり、前記入口から入った前記分散対象物を前記溝を通して前記出口から前記後方に向けて送り出すことが好ましい。
【0018】
この構成によれば、各溝は、分散ロータの回転中に分散対象物を常に後領域へ向けて送り出すので、分散ロータの回転中に出口からの分散対象物の侵入を抑制される。したがって、分散ロータの回転時に各溝内の分散対象物は、遠心力の影響を受けながら圧送されるので、分散対象物を出口から勢いよく送り出すことができ、ひいては、分散対象物を勢いよくステータの内壁に衝突させて分散させるとともに、ステータの貫通孔またはスリットに分散対象物を勢いよく送り込むことができる。
【0019】
上記構成において、前記分散ロータは、隣り合う前記溝の間に扇状の凸部を有し、前記分散ロータを前記回転軸の軸心側から平面視したときに前記扇状の凸部の表面積が、前記溝の開口面積よりも大きいことが好ましい。
【0020】
この構成によれば、分散ロータは、溝の開口面積よりも大きい表面積を有する扇状の凸部によって天板および底板の各内壁面との間を流れる第1の流れの分散対象物に対して摩擦抵抗を効率よく発生させ、ひいて分散対象物を効率よく剪断することができる。
【0023】
上記構成において前記分散ロータは、前記回転軸と直交する側から正面視したときに前記回転軸側から外周に向けて先細り傾斜したテーパ状であることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、分散ロータは、その回転に伴って引き込まれる分散対象物を分散ロータの傾斜面に沿って円滑に流し、ひいては効率よく加速させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、メディアを利用することなしにステータ内に引き込んだ分散対象物を効率よく剪断および分散することが可能なメディアレス型分散装置用の分散ロータを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の放射状の溝を説明する模式図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る分散ロータの斜視図である。
図3】分散ロータおよびステータの正面図である。
図4】分散ロータをステータに収納した状態を示す平面図および溝とスリットの各出入口の幅の関係を示す部分拡大図である。
図5】分散ロータの溝の傾斜角を説明する縦断面図である。
図6】第一実施形態の分散ロータを組み込んだ分散装置の概略構成図である。
図7】本発明の第二実施形態に係る分散ロータの斜視図である。
図8】分散ロータの正面図である。
図9】分散ロータの平面図である。
図10】分散ロータおよびステータの分解斜視図である。
図11】ステータ内に分散ロータを収納した状態を示す平面図である。
図12】変形例の分散ロータの斜視図である。
図13】変形例のステータの筒状本体を示す正面図である。
図14】インペラを備えた分散装置の概略構成図である。
図15】インペラの斜視図である。
図16】インペラの平面図および正面図である。
図17】撹拌翼を備えた分散装置の概略構成図である。
図18】撹拌翼の斜視図である。
図19】撹拌翼の平面図および正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第一実施形態>
以下、本発明に係るメディアレス型分散装置に用いる分散ロータの一実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。なお、分散ロータは、分散対象物の貯留された有底筒状の槽内に懸垂保持されたリング状の天板および底板を有する筒状本体とからなるステータに収納され、天板および底板の各中央に形成された開口を貫通する回転軸に固定される。以下の各実施形態において底板は筒状本体と一体化されているが、底板と筒状本体が個別の構成であってもよいし、天板と筒状本体が一体化された構成であってもよい。なお、以下の各実施形態の分散ロータにおいて、ステータの天板と対向する面を「表面」、底板と対向する面を「裏面」と適宜に称する。また、分散ロータは、後述するように、その回転に伴って分散対象物を回転軸側から外周側に送り出すものであり、以下において回転軸側を「上流」または「内側」、外周側を「下流」または「外側」と適宜に称する。
【0028】
分散ロータ1は、図2ないし図4に示すように、その中央に形成された回転軸を挿通する貫通孔2の中心側から平面視したときに円盤状であり、正面視したときに外周に向けて先細り傾斜したテーパ状である。回転軸への取付部3を挟んで当該取付部3の周りにリング状溝4が形成されている。さらに、分散ロータ1は、回転軸側から外周に向けて放射状に複数の溝5を表面と裏面の両方に形成されている。なお、分散ロータ1は、図4に示すように、軸心Pを中心に矢印で示す回転方向Rに回転する。
【0029】
リング状溝4は、図5および図7に示すように、内側壁部4Aおよびその外側の凸部6によって形成されている。内側壁部4Aは、底面に向かうにつれて先細りテーパ状の傾斜面を成している。外側は、複数の溝5と連通している。なお、本実施形態において、リング状溝4は、その外径をステータ50の天板および底板の開口の直径と略同じに設定されている。
【0030】
溝5は、回転軸側から外周に向けて真っすぐに延びており、分散ロータ1の表面および裏面の両面に同数の溝5が等間隔に形成されている。また、溝5は、分散ロータ1の表面と裏面で異なる位置に形成されている。すなわち、分散ロータ1の表面で隣り合う溝5の中間位置のその裏面側の位置に溝5が形成されている。換言すれば、表面と裏面の溝5は、回転方向に交互に形成されている。なお、各溝5は、上流から下流に向かうにつれて断面が小さくなっている。すなわち、本実施形態の溝5は、図4の部分拡大図に示すように、上流の入口幅L1>下流の出口幅L2となるように設定されている。また、溝5は、その深さが一定に設定されている。したがって、溝5の底面は、後述する凸部6の表面と同じ角度で傾斜している。
【0031】
なお、分散ロータ1のテーパ状の傾斜角は、当該分散ロータ1を後述する分散装置に組み込んだ状態において、ステータの筒状本体の内壁またはステータに形成されたスリットまたは貫通孔との相対的な位置関係によって設定される。なお、本実施形態では、以下のように設定されている。
【0032】
本実施形態において、分散ロータ1の表面と裏面の溝5が同じ位置で重なり、分散対象物をステータ50のスリット54に同時に送り込むことはないが、説明の便宜上、図5では表面と裏面の溝5が同じ位置にあると仮定して説明する。
【0033】
分散ロータ1の表面および裏面に形成された両溝5の出口は、ステータ50の入口と対向する。また、両溝5の長手方向の中心軸を外方に延伸した両仮想線(図5の鎖線)の交差する位置Xが、ステータ50の筒状本体51に形成されたスリット54の入口よりも奥側になるように設定されている。この設定により、分散ロータ1の両面に形成された各溝5から送り出される分散対象物は、ステータ50の内壁に到達するまでに互いに衝突しない。すなわち、分散ロータ1は、その回転によって加速させて表面および裏面から送り出した分散対象物の2つの流れを互いに衝突させて失速させることがない。したがって、ステータ50の内壁に対し、分散対象物は、その勢いを維持したまま衝突し、この衝突によって分散される。また、ステータ50の筒状本体51に形成されたスリット54に対し、分散対象物は勢いよく送り込まれ、ステータ外の槽内に排出される。
【0034】
分散ロータ1の表面および裏面における隣り合う溝5の間には略扇状の凸部6が形成されている。本実施形態において、凸部6は、分散ロータ1を回転軸の軸心側から平面視したとき、凸部6の表面積が、溝5の開口面積よりも大きい面積を有するように設定されている。
【0035】
<分散装置>
次に上記の構成を有する分散ロータ1を組み込んだ分散装置およびその動作について説明する。
【0036】
分散装置10は、図6に示すように、分散対象物を貯留する槽20、分散ロータ1を装着する回転軸30、回転軸30を回転させる動力源40およびステータ50を備えている。
【0037】
槽20は有底筒状であり、その外周にジャケット21を備えている。ジャケット21は、その内部に形成された流路に冷媒または温水などを供給および循環させることにより、槽20の内部温度を調整する。また、槽20は、上部に着脱可能な上蓋22を備えている。上蓋22は、槽内を密閉する。さらに、槽20は、貯留されている分散対象物を排出する排出部23を下部に備えている。
【0038】
回転軸30は、グランドパッキンまたはメカニカルシールなどのシールを介して上蓋22の中央に形成された貫通孔を通って槽内に挿入されている。回転軸30の先端側に分散ロータ1が装着されている。
【0039】
動力源40は、例えばモータなどである。当該モータの駆動軸と回転軸30にベルトが懸架されており、駆動力が回転軸30に伝達される。なお、動力源40のモータは、回転軸30と直結してもよい。
【0040】
ステータ50は、上蓋22に形成された貫通孔を通って槽内に挿入される複数のステータロッド60によって槽内に懸垂保持されている。すなわち、ステータ50は、筒状本体51、回転軸30を挿通する貫通孔(開口)の形成された天板52および底板53から構成されており、回転軸30に装着されている分散ロータ1を収納する(図5および図6を参照)。
【0041】
筒状本体51は、上端面にステータロッド60を挿入して連結する複数の穴55(図4を参照)を有し、その外壁周りに等間隔に複数のスリット54を形成されている。スリット54は、内側から外側に向かうにつれて狭くなるように設定されている。すなわち、本実施形態ではスリット54の幅が、内側の入口幅L3>外側の出口幅L4となっている。また、溝5の出口幅L2とスリット54の入口幅L3の関係は、溝5の出口幅L2≦スリット54の入口幅L3に設定されている。すなわち、スリット54の入口は、溝5の出口から加速して送り出される分散対象物を減速させることなく受け入れやすく設定されている。また、スリット54の入口深さは、溝5の出口よりも深い。
【0042】
また、スリット54は、天板52を被せることにより、上部が閉塞されて貫通孔を構成する。なお、本実施形態において、筒状本体51に形成するのはスリット54に限定されるものではなく、壁を貫いて形成した貫通孔であってもよい。
【0043】
天板52および底板53は、回転軸側から筒状本体51の内壁に向かうにつれて厚みが増し、分散ロータ1の表面および裏面と平行で所定のクリアランスを有する傾斜面を成している。また、天板52および底板53の各開口は、分散ロータ1のリング状溝4と略同じ外径に設定されている。なお、本実施形態において、クリアランスは、分散ロータ1の回転時に各内壁と接触することのないように、分散ロータ1の固有振動数とその回転時における振動加速の周波数解析から求まる共振現象に基づいて適宜に設定される。
【0044】
<動作説明>
次に、分散装置10の動作について説明する。先ず、槽20に未処理の分散対象物を所定量まで貯留する。このとき、ステータ50および分散ロータ1は、分散対象物に浸漬している。動力源40であるモータを作動して分散処理を開始する。すなわち、モータの回転力がベルトを介して回転軸30に伝達され、所定の回転速度およびトルクを発生させながら回転軸30を回転させる。回転軸30の回転に伴って分散ロータ1が、ステータ内で回転しながらステータ50の天板52および底板53の各開口における回転軸30との間隙から分散対象物をステータ内に引き込む。このとき、分散ロータ1は、その回転に伴って表面および裏面の両面のそれぞれにおいて分散対象物に二つの流れを形成する。
【0045】
第1の流れは、ステータ内において、分散ロータ1を挟んで天板52および底板53との間に形成される各クリアランスで分散ロータ1の回転方向に回転しながら回転軸側の上流から外周側の下流に向かう。第2の流れは、分散ロータ1の両面に形成された各溝5を流れて下流に向かう。
【0046】
第1の流れの分散対象物は、分散ロータ1の回転に伴ってクリアランスにおいて分散ロータ1の表面および裏面で発生する摩擦抵抗により剪断される。
【0047】
第2の流れの分散対象物は、上流から下流に向かうにつれて幅の狭くなる溝5によって、下流に向けて圧送される。すなわち、溝5を流れる分散対象物は、分散ロータ1の回転に伴う遠心力がかかる。つまり、溝5を流れる分散対象物に遠心力がかかることにより、溝内の圧力が高まり、分散対象物が、出口から勢いよく送り出される。このとき、分散対象物の一部が、ステータ50の筒状本体51の内壁に勢いよく衝突し、その衝撃によって分散される。また、分散対象物の他の一部は、筒状本体51のスリット54に勢いよく流れ込む。すなわち、分散ロータ1は、ステータ外の槽内へと分散対象物を効率よく排出させる。また、分散ロータ1の表面および裏面の溝5は、回転方向に交互に形成されているので、表裏面で同じ位置に溝5を形成されている場合に比べて、分散対象物を筒状本体51の内壁およびスリット54に向けて連続的に送り出すことができる。さらに、分散ロータ1の回転に伴って分散ロータ1と筒状本体51の間で回転方向に回転している分散対象物は、分散ロータ1の外周エッジにより剪断される。
【0048】
ステータ外の槽内に排出された分散対象物は、分散ロータ1の回転の影響により槽内において分散ロータ1と同じ回転方向に回転する流れと、分散ロータ1の吸引力によって生じる上下に分断させる流れとが合成された循環流となる。
【0049】
分散対象物が予め決めた粒径になる所定時間の処理を実行した後、モータを停止し、分散対象物を槽20のまま移動、または、排出部23から排出して他の容器に移し替えて搬出する。以上で分散装置10による一連の動作および処理が完了する。
【0050】
上記構成の分散装置10に備わった分散ロータ1は、ステータ内に引き込んだ分散対象物に対して、その表面および裏面で摩擦抵抗を利用した剪断、溝5によって上流から下流に向けて加速させてステータ50の筒状本体51の内壁に分散対象物を衝突させることにより生じる分散および分散ロータ1の外周エッジによる剪断の3つの作用による相乗効果によって、メディアを利用せずとも分散対象物を所定の粒径まで分散処理することができる。
【0051】
また、従来の製造ラインは、撹拌機によって分散対象物のプレミキシング処理を行った後、メディア型分散装置による前分散処理を行い、さらに前分散処理時に用いたメディアよりも小径のメディアを用いて他のメディア型分散装置による本分散処理を行っていた。しかしながら、上記構成のメディアレス型分散装置を利用することにより、撹拌機によるプレミキシング処理およびメディア型分散装置による前分散処理を省略することができる。したがって、メディアの管理およびメディアが残留しないような丁寧な洗浄処理は本分散処理のメディア型分散装置のみでよく、さらに使用する装置を減らすことができ、ひいては製造ラインにおける処理工程数の削減となり作業効率が格段に向上する。
【0052】
<第二実施形態>
本実施形態は、第一実施形態の分散ロータ1における溝5の構成が異なる。したがって、異なる構成について詳述し、第一実施形態と同一の構成については同一符号を付すに留めて説明する。
【0053】
図7および図8に示すように、表裏面の溝5Aは、入口から入った分散対象物を出口から後方に向けて送り出すように形成されている。すなわち、図9に示すように、溝5Aの回転方向側の内壁から延長した仮想線Tが、リング状溝4の外縁との接点Mを通る接線をなす。それ故に、溝5Aは、分散ロータ1Aを平面視すると、回転軸側から後方に向けて傾斜している。換言すれば、溝5Aは、入口から出口にかけて斜め後方に向かうように形成されている。また、溝5Aは、上記第一実施形態と同様に分散ロータ1Aの表面および裏面に同じ数を等間隔に形成されている。また、溝5Aは、分散ロータ1Aの表面と裏面で異なる位置に形成されている。すなわち、分散ロータ1Aの表面で隣り合う溝5Aの中間位置のその裏面側の位置に溝5Aが形成されている。換言すれば、表面と裏面の溝5Aは、回転方向に交互に形成されている。
【0054】
分散ロータ1Aの表面および裏面における隣り合う溝5Aの間には略扇状の凸部6Aが形成されている。本実施形態も第一実施形態と同様に、分散ロータ1Aを回転軸の軸心側から平面視したとき、凸部6Aは、溝5Aの幅の開口面積よりも大きい表面積を有するように設定されている。なお、これら各溝5Aは、上流側で連通しているリング状溝4から外周の下流に向かうにつれて幅が狭くなっている。また、溝5Aの深さは一定に設定されている。したがって、溝5の底面は、凸部6Aの表面と同じ角度で傾斜している。
【0055】
分散ロータ1Aのテーパ状の傾斜角は、分散ロータ1Aを分散装置10に組み込んだ状態でステータ50の筒状本体51の内壁または筒状本体51に形成されたスリット54との相対的な位置関係によって設定される。
【0056】
すなわち、本実施形態の溝5Aの傾斜角は、第一実施形態の溝5と同様に分散ロータ1Aの表面および裏面に形成された両溝5Aの長手方向の中心軸を外側に延伸した両仮想線の交差する位置Xが、ステータ50に形成されたスリット54の入口の奥側になるように設定されている。特に本実施形態では、位置Xが、後述するスリット54の受け部54Aと衝突部54Bの連接部に設定することが好ましい。この構成により、スリット内に送り込まれた分散対象物の流れを失速させることなく衝突部54Bの壁部に勢いよく衝突させることができる。
【0057】
<分散装置>
次に上記構成を有する分散ロータ1Aを組み込んだ分散装置およびその動作について説明する。
【0058】
第一実施形態と同様に分散装置10は、分散対象物を貯留する槽20、分散ロータ1を装着する回転軸30、回転軸30を回転させる動力源40およびステータ50を備えている(図6を参照)。なお、分散装置10は、分散ロータ1Aを除いて第一実施形態と同じ構成であってもよいが、ステータ50の筒状本体51に形成されているスリット54の形状およびその構造を変更している。したがって、ステータ50の構成について詳述し、同じ構成については同一符号を付すに留める。
【0059】
ステータ50の筒状本体51に形成されたスリット54は、図10および図11に示すように、平仮名の「く」の字またはアルファベットの「L」字のように屈折している。すなわち、スリット54は、ステータ50の内側から外側に向けて、分散ロータ1Aから後向きに送り出される分散対象物を同方向に受け流す受け部54Aと、当該受け部54Aに受け入れた分散対象物の流れを前向きに反転させる際に内壁に衝突させる衝突部54Bとを有する。さらに、スリット54は、上流から下流に向かうにつれて幅が狭くなっている。なお、スリット54は、天板52を被せることにより、上部が閉塞された貫通孔を構成するが、当該スリット54に限定されるものではなく壁を貫く貫通孔であってもよい。
【0060】
受け部54Aは、図11に示すように、分散ロータ1Aの溝5Aと同じく斜め後方に向かっている。具体的に、溝5Aの外側の出口と受け部54Aの内側の入口が対向する位置にあるとき、溝5Aの長手方向と受け部54Aの長手方向の両中心軸Gが重なるように設定されている。また、受け部54Aの入口が、溝5Aの出口よりも幅広に設定されている。すなわち、受け部54Aは、溝5Aから送り出される分散対象物を受け入れやすく設定されている。
【0061】
<動作説明>
次に、分散装置10の動作について説明する。分散処理を開始すると、分散ロータ1Aが、ステータ内で回転しながらステータ50の天板52および底板53の開口における回転軸30との間隙から分散対象物をステータ内に引き込む。このとき、分散ロータ1Aは、第一実施形態と同様に、表面および裏面の両面において分散対象物に二つの流れを形成する。
【0062】
第1の流れは、ステータ内において、分散ロータ1Aを挟んで天板52および底板53との間に形成される各クリアランスで分散ロータ1Aの回転方向に回転しながら回転軸側の上流から外周側の下流に向かう。第2の流れは、分散ロータ1Aの両面に形成された各溝5Aを流れて下流に向かう。
【0063】
第1の流れの分散対象物は、分散ロータ1の回転に伴ってクリアランスにおいて分散ロータ1の表面および裏面で発生する摩擦抵抗により剪断される。
【0064】
第2の流れの分散対象物は、上流から下流に向かうにつれて幅の狭くなる溝5Aによって、下流に向けて圧送される。すなわち、溝5Aを流れる分散対象物は、遠心力がかかる。つまり、溝を流れる分散対象物に遠心力がかかることにより、溝内の圧力が高まり、分散対象物が、出口から後方に向けて勢いよく送り出される。このとき、分散ロータ1Aは、溝5Aから送り出す分散対象物を失速させることなくステータ50の内壁に勢いよく衝突させて分散させるとともに、ステータ50のスリット54に分散対象物を勢いよく送り込む。なお、分散ロータ1Aの表面および裏面の溝5Aは、回転方向に交互に形成されているので、分散対象物を筒状本体51の内壁およびスリット54に向けて連続的に送り出される。
【0065】
ここで、分散対象物がスリット54に送り込まれるのは溝5Aの出口がスリット54の入口の前を通過するときである。この通過する過程において、スリット54の受け部54Aの入口が、溝5Aの出口よりも幅広に設定されているので、溝5Aからの分散対象物を失速させることなくより確実に内部に受け入れる。受け部54Aに受け入れられた分散対象物は、しだいに幅の狭くなるスリット54を通過する過程において、さらに上流からの押圧によってその勢いを維持している。
【0066】
この通過する過程において、分散対象物が衝突部54Bに到達したとき、その内壁に衝突しながら流れが反転されてステータ外に排出される。すなわち、上記の第一実施形態における図5に基づく説明と同様に、分散ロータ1Aの表面および裏面の両溝5Aから延伸した仮想線Tの交差する位置Xを受け部54Aと衝突部54Bの連接部である屈折部位に設定しているので、当該屈折部位の内壁に衝突までに分散対象物は、その勢いを維持している。したがって、分散対象物は、屈折部位での衝突による衝撃によってさらに分散される。
【0067】
さらに、分散対象物は、分散ロータ1Aと筒状本体51の間で回転している分散ロータ1Aの外周エッジにより剪断される。
【0068】
ステータ外の槽内に排出された分散対象物は、槽内において分散ロータ1Aと同じ回転方向に回転する流れと、分散ロータ1Aの吸引力によって生じる上下に分断させる流れとが合成された循環流となる。
【0069】
分散対象物が予め決めた粒径になる所定時間の処理を実行した後、モータを停止し、分散対象物を槽20のまま移動、あるいは、排出部23から排出して他の容器に移し替えて搬出する。以上で分散装置10による一連の動作および処理が完了する。
【0070】
上記構成の分散装置10に備わった分散ロータ1Aは、ステータ内に引き込んだ分散対象物に対して、その表面および裏面で摩擦抵抗を利用した剪断、溝内での遠心力を付与しながらの分散対象物の圧送と圧送される分散対象物の出口からの勢いのある送り出し、ステータ50の筒状本体51の内壁に分散対象物を衝突させることにより生じる分散、および分散ロータ1Aの外周エッジによる剪断の3つの作用による相乗効果によって分散対象物を所定の粒径まで分散処理することができる。また、ステータ内を分散対象物が通過する過程で受け部54Aと衝突部54Bの連接部である屈折部位の内壁に衝突することによる4つめ目の作用により、さらに分散されるので、分散処理がより一層に向上する。
【0071】
また、従来の製造ラインは、撹拌機によって分散対象物のプレミキシング処理を行った後、メディア型分散装置による前分散処理を行い、さらに前分散処理時に用いたメディアよりも小径のメディアを用いて他のメディア型分散装置による本分散処理を行っていた。しかしながら、上記構成のメディアレス型分散装置を利用することにより、撹拌機によるプレミキシング処理およびメディア型分散装置による前分散処理を省略することができる。したがって、メディアの管理およびメディアが残留しないような丁寧な洗浄処理は本分散処理のメディア型分散装置のみでよく、さらに使用する装置を減らすことができ、ひいては製造ラインにおける処理工程数の削減となり作業効率が格段に向上する。
【0072】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能である。
【0073】
(1)上記の各実施形態において、溝5、5Aは、深さを一定に設定されているが、下流に向かうにつれて浅くなるように設定してもよい。例えば、図12に示すように、分散ロータ1Bは、リング状溝4の底面と同一の平面上(水平面)に溝5Bの底面を設定することにより、溝5Bの深さが上流から下流に向かうにつれて浅くなる。あるいは、溝5Bの傾斜角を凸部6の傾斜角よりも緩く設定することにより、溝5Bの深さを適宜に調整してもよい。この構成によれば、溝5Bを流れる分散対象物の圧力をより高めることができる。
【0074】
分散ロータ1Bのように溝5Bを水平に設定する場合、両面の溝5Bから送り出される分散対象物は、交差しない。したがって、本実施形態では各面の溝5Bからの分散対象物が、個々に決められたスリットまたは貫通孔に送り込まれるように設定する。そこで、ステータ50の筒状本体51は、図13に示すように、スリット54と貫通孔56を円周に沿って上下交互に形成する。すなわち、分散ロータ1Bの表面側の溝5Bから送り出される分散対象物は、上側のスリット54に送り込み、裏面側の溝5Bから送り出される分散対象物は、下側の貫通孔56に送り込むように設定する。この構成によれば、分散ロータ1Bの表面および裏面から交互に送り出される分散対象物の流れが互いに干渉し難くなり、ひいてはステータ外への分散対象物の排出効率が向上する。なお、本実施形態において、スリット54と貫通孔56は、同じ位置で上下に設けてもよいし、スリット54と貫通孔56を一体化した縦長のスリット54にしてもよい。
【0075】
上記の本実施形態において、ステータ50は、さらにスリット54を僅かに上向き傾斜させ、貫通孔56を僅かに下向きに傾斜させてもよい。この構成によれば、スリット54を通過する分散対象物を槽内の上向きに循環流に寄与させ、貫通孔56を通過する分散対象物を槽内の下向きの循環流に寄与させることができる。さらに、スリット54および貫通孔56が、回転方向に屈折しているとともに、上または下に傾斜していることにより、これらを通過する分散対象物に捻りを加えることができ、分散効率および剪断効率を高めることができる。
【0076】
なお、本実施形態の分散ロータ1Bを分散装置10に組み込む場合、ステータ50は、上記の第一実施形態および第二実施形態のものを利用してもよい。
【0077】
(2)上記の各実施形態において、分散ロータ1、1A、1Bの厚みに応じて表面と裏面の各溝5A、5Bの位置が交互でなく同じ位置に重なっていてもよい。
【0078】
(3)上記の第二実施形態および変形例の分散ロータ1A、1Bにおいて、溝5A、5Bは、回転軸30の軸心側から平面視したときにリング状溝4の外縁との接線を成す真直ぐに斜め後方に向かう形状であるが、回転方向の前むきに突入湾曲した弓状で後方に向かう形状であってもよい。
【0079】
(4)上記の各実施形態において、凸部6は、その表面を粗面にすることが好ましい。本実施形態において、粗面とは、面積が拡張される形態であればよく、例えば表面が粗くてざらざらしていてもよいし、複数のスリット、凹凸を設けてもよい。この構成によれば、分散対象物と凸部6との接触面積が増加し、ひいては摩擦抵抗が増すので剪断能力がより向上する。
【0080】
(5)上記の各実施形態において、分散ロータ1、1A、1Bは、リング状溝4を有さずに取付部3から溝5、5Aおよび凸部6、6Aを形成した構成であってもよい。
【0081】
(6)上記の各実施形態において、分散装置10は、図14に示すように、分散ロータを挟んで回転軸30に一対のインペラ70を備えていてもよい。インペラ70は、図15に示すように、リング状の取付部71の各々の外周に複数条の螺旋翼72を有する。螺旋翼72は、図16の平面図および正面図に示すように、前後で隣り合う螺旋翼72の前側の螺旋翼72Aの後部分と後側の螺旋翼72Bの前部分で、軸方向から目視して重なり合う部分を有するよう設定されている。なお、螺旋翼72の条数は、インペラ70のサイズや螺旋翼72のサイズなどに応じて適宜に設定変更されるが、6条以上が好ましく、さらに好ましくは8条以上である。
【0082】
この構成によれば、分散ロータ1を挟んで回転軸30に装着された一対のインペラ70が、天板52および底板53の開口の各々で回転することにより、ステータ内への分散対象物の引き込みを促進させる。すなわち、ステータ内への分散対象物の引き込みが促進されるのに伴ってステータ50の内圧が高まり、分散対象物の流れを加速させる。また、この内圧が高まるにつれて分散対象物は、天板52および底板53の各開口部からステータ外へ戻ろうとする。しかしながら、各開口は、平面視したときに隣り合う螺旋翼72のうち前側の螺旋翼72の後部分が後側の螺旋翼72の前部分に覆い被さっているので、各開口が大凡に閉塞された状態にあり、分散対象物は吸引力に逆らって開口からステータ外に戻るのを抑制される。したがって、分散装置10は、ステータ内の圧力を略一定に維持し続けることができ、ひいては分散ロータ1の溝5によって分散対象物を効率よく加速させて送り出すことができる。
【0083】
(7)上記の各実施形態において、ステータ50の衝突部54Bは、回転方向の斜め前向きに1回だけ屈折または屈曲した形態であったが、この形態に限定されることなく、スリット54に送り込まれた分散対象物が、上流側に逆流し難い構成であればよい。したがって、衝突部54Bの屈折または屈曲の回数は1回以上であればよい。また、衝突部54Bの屈折等の向きは、段階的に向きを変更する構成であってもよい。
【0084】
(8)上記の各実施形態において、分散装置は、さらに槽内の分散対象物の循環流の流れおよび撹拌を補助する補助翼を備えた構成であってもよい。例えば、本実施形態の分散装置10は、図17に示すように、補助翼81、補助翼81を装着する回転軸82および回転軸82を回転させる動力源83(例えば、モータ)をさらに備える。
【0085】
補助翼81は、図18および図19に示すように、円盤状の外周に形成した複数の突片81Aおよび突片81Aの外縁側を周方向に沿って上下交互に折り曲げて形成した垂直翼81Bとから成る。突片81Aは、鋸刃状であり、垂直翼81Bは、矩形状である。なお、垂直翼81Bは、突片81Aから垂直に屈折している。
【0086】
回転軸82は、グランドパッキンまたはメカニカルシールなどのシールを介して上蓋22に形成された貫通孔を通って槽内に挿入されている。回転軸82の先端側に補助翼81が装着されている。
【0087】
動力源83のモータは、例えばモータなどである。当該モータの駆動軸と回転軸82にベルトが懸架されており、駆動力が回転軸82に伝達される。なお、モータは、回転軸82と直結してもよい。したがって、本実施形態の動力源83は、分散ユニット用の動力源40と独立して回転数を調整することができる。なお、本実施形態の補助翼81は、分散ユニット用の動力源40によって回転させてもよい。この構成の場合、分散ロータ1の回転数と同じ回転数で補助翼81を回転させてもよいし、或いはギアボックスなどによってギア比を調整し、異なる回転数で補助翼81を回転させてもよい。
【0088】
この構成によれば、補助翼81は、その回転に伴って分散ロータ1とステータ50から成る分散ユニットによって発生させる分散対象物の循環流を補助し、その流れを増大する。また、補助翼81は、その回転に伴って鋸刃状の突片81Aおよび垂直翼81Bによって分散対象物を剪断する。したがって、本実施形態の分散装置は、分散ユニットによる分散処理と補助翼81の回転に伴う分散処理を同時に行うので、処理効率がさらに向上する。
【0089】
(9)上記の各実施形態において、分散装置は、槽20にジャケット21を備えた構成であったが、ジャケット21を備えない構成であってもよい。また、上記各実施形態は、槽20の上蓋22およびシールなどを備えて構成であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1、1A、1B 分散ロータ
2 貫通孔
3 取付部
4 リング状溝
5、5A、5B 溝
6 凸部
10 分散装置
20 槽
21 ジャケット
22 上蓋
23 排出部
30 回転軸
40 動力源
50 ステータ
51 筒状本体
52 天板
53 底板
54 スリット
54A 受け部
54B 衝突部
60 ステータロッド
70 インペラ
81 補助翼
【要約】
【課題】メディアを利用することなしにステータ内に引き込んだ分散対象物を効率よく剪断および分散することが可能なメディアレス型分散装置用の分散ロータを提供する。
【解決手段】 分散ロータ1は、分散対象物の貯留された有底筒状の槽内に懸垂保持されたリング状の天板および底板を有する筒状のステータに収納され、天板および底板の各中央に形成された開口を貫通する回転軸に固定され、回転軸の回転に伴って槽内の分散対象物をステータ内に引き込んでステータの筒壁部に形成された貫通孔またはスリットから分散対象物を排出させる。すなわち、分散ロータ1は、円盤状であり、天板および底板と対向する各面に回転軸側から外周に向けて放射状に形成された複数の溝5を有する。溝5は、回転軸側から外周に向かうにつれて断面が小さくなっている。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19