(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】家禽卵の生産方法、家禽卵、及び家禽用飼料
(51)【国際特許分類】
A23K 50/75 20160101AFI20240404BHJP
A23K 10/28 20160101ALI20240404BHJP
【FI】
A23K50/75
A23K10/28
(21)【出願番号】P 2023132352
(22)【出願日】2023-08-15
【審査請求日】2023-08-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521169125
【氏名又は名称】ISEホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保庭 真
(72)【発明者】
【氏名】畠 明宏
(72)【発明者】
【氏名】香西 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】香取 久美
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-054537(JP,A)
【文献】特開2018-134016(JP,A)
【文献】特開2017-012012(JP,A)
【文献】特開2007-111047(JP,A)
【文献】特許第2775043(JP,B2)
【文献】特開2011-244741(JP,A)
【文献】特開2021-153543(JP,A)
【文献】特開平02-200152(JP,A)
【文献】特開昭60-141232(JP,A)
【文献】特開平04-179460(JP,A)
【文献】特表昭60-500700(JP,A)
【文献】特開平06-271473(JP,A)
【文献】特開平08-000184(JP,A)
【文献】特開平08-000185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 50/75
A23K 10/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳原料を配合した飼料を、家禽に給餌する工程を含
み、
前記乳原料は、発酵乳及びホエイを含み、
前記発酵乳の含有量は、乾燥質量で、前記飼料全量に対し0.05質量%以上0.5質量%以下であり、
前記発酵乳に対する前記ホエイの含有量は、質量換算で、1~8倍である、風味を改良した家禽卵の生産方法。
【請求項2】
前記発酵乳は、乳又は脱脂粉乳の発酵物である、請求項1に記載の生産方法。
【請求項3】
前記乳原料は、脱脂粉乳を含む、請求項
1に記載の生産方法。
【請求項4】
前記発酵乳に対する前記脱脂粉乳の含有量は、質量換算で、0.3~5倍である、請求項
3に記載の生産方法。
【請求項5】
前記飼料における前記乳原料の総質量に対する、前記ホエイの含有量は、20~80質量%である、請求項
1に記載の生産方法。
【請求項6】
前記乳原料は、バタ
ーを含む、請求項1に記載の生産方法。
【請求項7】
前記乳原料は、乳系香料を含む、請求項1に記載の生産方法。
【請求項8】
2週間以上継続して、150~600日齢の前記家禽に前記飼料を給餌する、請求項1に記載の生産方法。
【請求項9】
請求項1~
8の何れか一項に記載の生産方法により生産された、家禽卵。
【請求項10】
鶏卵である、請求項
9に記載の家禽卵。
【請求項11】
乳原料を配合した、家禽用飼料であって、
前記乳原料は、発酵乳及びホエイを含み、
前記発酵乳は乳又は脱脂粉乳の発酵物であり、
前記発酵乳の含有量は、乾燥質量で、前記飼料全量に対し0.05質量%以上0.5質量%以下であり、
前記発酵乳に対する前記ホエイの含有量は、質量換算で、1~8倍である、家禽用飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家禽卵の生産方法、当該生産方法により生産された家禽卵、及び当該家禽卵の生産に用いる家禽用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鶏等の家禽の餌の配合を工夫し、風味や栄養素等に特徴を持たせた家禽卵が生産されている。例えば、特許文献1には、基礎飼料と、紫蘇、小松菜、ほうれん草のいずれかを含有する野菜の粉末、ペプチド鉄及びビタミンCを規定量含有する鶏用飼料を産卵鶏又は食用鶏に給餌させて、野菜に含有された鉄分を鶏卵又は鶏肉に移行させる鶏の飼育方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、炭素数C9~C12の飽和脂肪族ラクトン類及びバニリン類を含有する着香料、乾燥ホエイ並びにごま油粕を鶏の飼料中に配合することにより、鶏卵の風味を改善することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許7133824号公報
【文献】特許2775043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術のあるところ、本発明は、新たな風味を付与した家禽卵を取得するための、新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者らは、家禽卵に新たな風味として乳系の風味を付加させることを目的とし、鋭意研究を行った。かかる課題を解決する本発明は、以下の通りである。
【0007】
[1]発酵乳及び/又はバターを含む乳原料を配合した飼料を、家禽に給餌する工程を含む、風味を改良した家禽卵の生産方法。
乳原料として発酵乳及び/又はバターを含む飼料を用いることで、乳由来の風味を有する特徴的な家禽卵を得ることができる。
【0008】
また、本発明の好ましい形態は、以下の通りである。
[2]前記乳原料は、ホエイを含む、[1]に記載の生産方法。
発酵乳及び/又はバターと共にホエイを含む飼料を用いることで、風味のバランスが取れた家禽卵を得ることができる。
【0009】
[3]前記乳原料は、脱脂粉乳を含む、[1]又は[2]に記載の生産方法。
脱脂粉乳を含む飼料を用いることで、家禽卵にまろやかな風味を付加することができる。
【0010】
[4]前記乳原料は、発酵乳及びホエイを含み、
前記発酵乳に対する前記ホエイの含有量は、質量換算で、1~8倍である、[1]~[3]の何れか一つに記載の生産方法。
かかる形態とすることで、発酵乳由来の酸味とホエイ由来のミルク風味のバランスの取れた卵を得ることができる。
【0011】
[5]前記乳原料は、発酵乳及び脱脂粉乳を含み、
前記発酵乳に対する前記脱脂粉乳の含有量は、質量換算で、0.3~5倍である、[1]~[4]の何れか一つに記載の生産方法。
かかる形態とすることで、脱脂粉乳によるまろやかさの効果で、発酵乳由来の酸味とあいまってバランスの取れた風味を有する卵を得ることができる。
【0012】
[6]前記乳原料は、バター及びホエイを含む、[1]~[5]の何れか一つに記載の生産方法。
かかる形態とすることで、適度なミルク風味が付加された、濃厚な風味を有する新規な卵を得ることができる。
【0013】
[7]前記バターに対する前記ホエイの含有量は、質量換算で、0.5~5倍である、[6]に記載の生産方法。
バターに対するホエイの含有量を上記範囲とすることで、バター由来の濃厚感を保持し、好ましいミルク風味も感じられる卵を得ることができる。
【0014】
[8]前記飼料における前記乳原料の総質量に対する、前記ホエイの含有量は、20~80質量%である、[2]~[7]の何れか一つに記載の生産方法。
上記形態とすることで、好ましいミルク風味が付与された家禽卵を得ることができる。さらに、複数の乳原料を配合した飼料を用いた場合、得られる卵の風味に統一感を持たせ、発酵乳やバター等の他の乳原料の風味が好適に発揮される卵を得ることができる。
【0015】
[9]前記乳原料は、乳系香料を含む、[1]~[8]の何れか一つに記載の生産方法。
乳系香料を含む飼料を用いることで、卵に好ましいミルク風味を付与することができる。
【0016】
[10][1]~[9]の何れか一つに記載の生産方法により生産された、家禽卵。
【0017】
[11]鶏卵である、[10]に記載の家禽卵。
【0018】
[12]発酵乳及び/又はバターを含む乳原料を配合した、家禽用飼料。
発酵乳及び/又はバターを含む家禽用飼料を用いることで、乳由来の風味を有する特徴的な家禽卵を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、新たな風味を付与した家禽卵を取得するための、新規な技術を提供することができる。
より具体的には、本発明によれば、乳由来の風味を付与した家禽卵を生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の風味を改良した家禽卵の生産方法は、乳原料を含む飼料を家禽に給与する工程を含む。
【0021】
本発明おける家禽とは、人が飼育する商用の鳥類のことをいい、鶏、七面鳥(ターキー)、うずら、ガチョウ、キジ、アヒル等が挙げられる。本発明では、家禽は鶏であることが好ましい。
【0022】
<飼料>
以下、本発明の家禽卵の生産方法で用いる飼料に配合する、乳原料について詳述する。
【0023】
(1)発酵乳
本発明で使用する乳原料は、好ましくは、発酵乳を含む。
発酵乳を含む飼料を家禽に与えることで、後味がすっきりとしたほのかな酸味が付与された卵を得ることができる。
【0024】
本発明において、発酵乳は、乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したものをいい、乳酸菌又は酵母による発酵物の加工物又はこれを主原料として飲料(乳製品乳酸菌飲料)も含む。
【0025】
本発明で用いる発酵乳は、固形状、糊状、液状のいずれの形状であってもよいが、飼料に配合する観点から固形粉末状であることが好ましい。
また、本発明では、脱脂粉乳を乳酸発酵した発酵乳を用いることが好ましい。
【0026】
発酵乳の含有量(乾燥質量)は、飼料全量に対し、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.08質量%以上であり、さらに好ましくは0.09質量%以上である。
また、発酵乳の含有量は、飼料全量に対し、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.25質量%以下であり、さらに好ましくは0.20質量%以下であり、特に好ましくは0.15質量%以下である。
上記範囲内の発酵乳を含む飼料を家禽に与えることで、後味がすっきりとしたほのかな酸味が付与された卵を得ることができる。
【0027】
飼料における乳原料の総質量に対する、発酵乳の含有量(乾燥質量)は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは11質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上、特に好ましくは13質量%以上である。
飼料における乳原料の総質量に対する、発酵乳の含有量(乾燥質量)は、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、より好ましくは28質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。
上記の範囲内で発酵乳を配合した飼料を用いることで、他の乳原料を共に配合した場合であっても、発酵乳の有する後味がすっきりとしたほのかな酸味を感じる卵を得ることができる。
【0028】
発酵乳は、市販品を用いることができ、例えば、発酵粉末FD-R(筑波乳業株式会社製)、ヨーグルトパウダーYP-A(森永乳業株式会社製)、ニューラクトF-S(アサヒグループ食品株式会社製)等を好適に用いることができる。
【0029】
(2)バター
本発明で使用する乳原料は、好ましくは、バターを含む。
バターを配合した飼料を用いることで、卵にバターの風味を付与し、濃厚感を与えることができる。
【0030】
本発明におけるバターは、生乳、牛乳または特別牛乳から得られた脂肪粒を練圧したものである。本発明では、バターは、乳脂肪分が80%以上のものであることが好ましい。
【0031】
本発明で用いるバターは、固形状、糊状、液状のいずれの形状であってもよいが、飼料に配合する観点から固形粉末状であることが好ましい。また、バターは市販品を用いることができる。
【0032】
バターの含有量(乾燥質量)は、飼料全量に対し、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上であり、さらに好ましくは0.4質量%以上であり、特に好ましくは0.45質量%以上である。
また、バターの含有量(乾燥質量)は、飼料全量に対し、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以下であり、さらに好ましくは0.6質量%以下であり、特に好ましくは0.55質量%以下である。
上記範囲のバターを配合した飼料を用いることで、卵にバターの風味を付与し、濃厚感を与えることができる。
【0033】
飼料における乳原料の総質量に対する、バターの含有量(乾燥質量)は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上であり、特に好ましくは30質量%以上である。
飼料における乳原料の総質量に対する、バターの含有量(乾燥質量)は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、さらに好ましくは53質量%以下、特に好ましくは50質量%以下である。
上記の範囲内でバターを配合した飼料を用いることで、他の乳原料を共に配合した場合、当該他の乳原料に由来する風味を損なうことなく、濃厚感を卵に付与することができる。
【0034】
(3)ホエイ
本発明で使用する乳原料は、好ましくは、ホエイ(乳清)を含む。
ホエイを含む飼料を家禽に与えることで、ミルク風味が付与された卵を得ることができる。また、他の乳原料と共にホエイを配合した飼料を用いることで、風味のバランスを向上させることができる。
【0035】
本発明におけるホエイは、牛乳から脂肪、カゼイン、脂溶性ビタミン等を除去した際に分離する水溶性成分のことをいう。ホエイには、ホエイタンパク質、脂質、乳糖、ミネラル(灰分)、水分等が含まれる。
【0036】
本発明で用いるホエイは、固形状、糊状、液状のいずれの形状であってもよいが、飼料に配合する観点から固形粉末状であることが好ましい。
本発明では、チーズホエイ、カゼインホエイ、ヨーグルトホエイ等を用いることができる。
【0037】
ホエイの含有量(乾燥質量)は、飼料全量に対し、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.25質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上であり、さらに好ましくは0.35質量%以上であり、特に好ましくは0.4質量%以上である。
また、ホエイの含有量(乾燥質量)は、飼料全量に対し、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以下であり、さらに好ましくは0.6質量%以下であり、特に好ましくは0.55質量%以下である。
上記範囲のホエイを配合した飼料を用いることで、卵にミルク風味を付与することができる。
【0038】
飼料における乳原料の総質量に対する、ホエイの含有量(乾燥質量)は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、特に好ましくは50質量%以上である。
飼料における乳原料の総質量に対する、ホエイの含有量(乾燥質量)は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは78質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下、特に好ましくは70質量%以下である。
上記の範囲内でホエイを配合した飼料を用いることで、土台となるミルク風味を持たせることができ、発酵乳やバター等の他の乳原料の風味が好適に発揮される卵を得ることができる。
【0039】
ホエイは、市販品を用いることができ、例えば、ホエーパウダー(森永乳業株式会社製)等を好ましく用いることができる。
【0040】
(4)脱脂粉乳
本発明で使用する乳原料は、好ましくは、脱脂粉乳(スキムミルク)を含む。
本発明における脱脂粉乳は、牛乳から乳脂肪及び水分を除去し、粉末状にしたものをいう。脱脂粉乳を含む飼料を家禽に与えることで、まろやかさが付与された卵を得ることができる。
本発明において、「まろやかさ」は、口当たりが良く、刺激がないまるい風味であることをいう。
【0041】
脱脂粉乳の含有量(乾燥質量)は、飼料全量に対し、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.08質量%以上であり、さらに好ましくは0.09質量%以上である。
また、脱脂粉乳の含有量(乾燥質量)は、飼料全量に対し、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.25質量%以下であり、さらに好ましくは0.20質量%以下であり、特に好ましくは0.15質量%以下である。
上記範囲の脱脂粉乳を配合した飼料を用いることで、卵にまろやかな風味を付与することができる。
【0042】
飼料における乳原料の総質量に対する、脱脂粉乳の含有量(乾燥質量)は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは11質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上、特に好ましくは13質量%以上である。
飼料における乳原料の総質量に対する、脱脂粉乳の含有量(乾燥質量)は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。
上記の範囲内で脱脂粉乳を配合した飼料を用いることで、他の乳原料を共に配合した場合、まろやかさを加えることで風味に統一感を持たせることができる。
【0043】
(5)香料
本発明で使用する乳原料は、好ましくは、乳系香料を含む。乳系香料を含む飼料を用いることで、卵に好ましいミルク風味を付与することができる。
【0044】
乳系香料の含有量は、飼料全量に対し、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.02質量%以上であり、特に好ましくは0.025質量%以上である。
また、乳系香料の含有量は、飼料全量に対し、好ましくは0.05質量%以下であり、より好ましくは0.04質量%以下であり、さらに好ましくは0.035質量%以下である。
【0045】
乳系香料としては、フレーバーを用いることができ、例えばミルクフレーバーを好ましく用いることができる。
【0046】
以下、本発明の生産方法で用いる飼料の好ましい形態(飼料A及び飼料B)について、詳述する。
【0047】
(飼料A)
飼料Aは、乳原料として、発酵乳を含む。
発酵乳を含む飼料Aを家禽に給餌することで、適度な酸味を有する卵を得ることができる。
【0048】
好ましくは、飼料Aは、発酵乳に加え、ホエイを含む。
発酵乳及びホエイを含むことで、飼料を摂食した家禽の卵に、発酵乳由来の酸味とホエイ由来のミルク風味を付与することができる。
【0049】
飼料Aにおいて、発酵乳に対するホエイの含有量は、質量換算で、好ましくは1倍以上、より好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは4倍以上、特に好ましくは4.5倍以上である。
また、飼料Aにおいて、発酵乳に対するホエイの含有量は、質量換算で、好ましくは8倍以下であり、より好ましくは6倍以下、さらに好ましくは5.5倍以下、特に好ましくは5倍以下である。
また、飼料Aにおいて、発酵乳に対するホエイの含有量は、質量換算で、好ましくは1~8倍であり、より好ましくは1~6倍であり、より好ましくは2~5.5倍であり、より好ましくは3~5.5倍であり、さらに好ましくは4~5.5倍であり、特に好ましくは4.5~5倍である。
発酵乳に対するホエイの含有量を上記の範囲とすることで、発酵乳由来の酸味とホエイ由来のミルク風味のバランスの取れた卵を得ることができる。
【0050】
さらに好ましくは、飼料Aは、発酵乳及びホエイに加え、脱脂粉乳を含む。
発酵乳及びホエイに加え、脱脂粉乳を含むことで、飼料を摂食した家禽の卵にまろやかな風味が付加され、風味のバランスの取れた卵を得ることができる。
【0051】
飼料Aにおいて、発酵乳に対する脱脂粉乳の含有量は、質量換算で、好ましくは0.3倍以上、より好ましくは0.5倍以上、より好ましくは0.6倍以上、さらに好ましくは0.7倍以上、特に好ましくは0.8倍以上である。
また、飼料Aにおいて、発酵乳に対する脱脂粉乳の含有量は、質量換算で、好ましくは5倍以下であり、より好ましくは3倍以下、さらに好ましくは2倍以下、特に好ましくは1.5倍以下である。
また、飼料Aにおいて、発酵乳に対する脱脂粉乳の含有量は、質量換算で、好ましくは0.3~5倍であり、より好ましくは0.5~3倍であり、より好ましくは0.6~3倍であり、さらに好ましくは0.7~2倍であり、特に好ましくは0.8~1.5倍である。
発酵乳に対する脱脂粉乳の含有量を上記の範囲とすることで、脱脂粉乳によるまろやかさの効果と発酵乳由来の酸味とがあいまってバランスの取れた風味を有する卵を得ることができる。
【0052】
飼料Aにおいて、ホエイに対する脱脂粉乳の含有量は、質量換算で、好ましくは0.05倍以上であり、より好ましくは0.08倍以上であり、より好ましくは0.1倍以上であり、さらに好ましくは0.15倍以上であり、特に好ましくは0.2倍以上である。
また、飼料Aにおいて、ホエイに対する脱脂粉乳の含有量は、質量換算で、好ましくは2倍以下、より好ましくは1.5倍以下であり、さらに好ましくは1倍以下である。
また、飼料Aにおいて、ホエイに対する脱脂粉乳の含有量は、質量換算で、好ましくは0.05~2倍であり、より好ましくは0.08~2倍であり、より好ましくは0.1~2倍であり、さらに好ましくは0.15~1.5倍であり、特に好ましくは0.2~1倍である。
【0053】
飼料Aは、さらに、乳系香料を含むことが好ましい。乳系香料としては、ミルクフレーバーが好適に挙げられる。
【0054】
(飼料B)
飼料Bは、乳原料として、バターを含む。
バターを含む飼料Bを家禽に給餌することで、バター風味を有し、濃厚感が向上した卵を得ることができる。
【0055】
さらに好ましくは、飼料Bは、乳原料としてホエイを含む。
バター及びホエイを含む飼料Bを家禽に給餌することで、適度なミルク風味が付加された、濃厚な風味を有する新規な卵を得ることができる。
【0056】
飼料Bにおいて、バターに対するホエイの含有量は、質量換算で、好ましくは0.5倍以上、より好ましくは0.6倍以上、さらに好ましくは0.8倍以上、特に好ましくは1.0倍以上である。
また、飼料Bにおいて、バターに対するホエイの含有量は、質量換算で、好ましくは5倍以下、より好ましくは4倍以下、より好ましくは3倍以下、さらに好ましくは2.5倍以下であり、特に好ましくは2倍以下である。
また、飼料Bにおいて、バターに対するホエイの含有量は、質量換算で、好ましくは0.5~5倍、より好ましくは0.6~4倍、より好ましくは0.8~3倍、より好ましくは0.8~2.5倍、さらに好ましくは1~2.5倍であり、特に好ましくは1~2倍である。
バターに対するホエイの含有量を上記範囲とすることで、バター由来の濃厚感を保持し、さらにミルク風味も感じられる卵を得ることができる。
【0057】
本発明で用いる飼料は、基礎飼料に上記の乳原料を配合し、既存の方法により加工することで製造することができる。
用いる基礎飼料は、特に限定されず、一般的に市販されている基礎飼料を用いることができる。例えば、粕類、魚粉、貝殻等の動物性飼料原料、米、米糠、ふすま、小麦全粒粉、トウモロコシ、大豆粕等の穀類及びその加工品、動物性油脂、植物性油脂、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0058】
<家禽の飼育>
家禽の飼育は、家禽の種類や発育段階、出荷時期等を考慮し、適宜変更することができる。家禽として鶏を対象とする場合、本発明にかかる飼料の給餌時期は、産卵鶏の成鶏期に給餌することが好ましい。飼育する家禽の日齢に特に限定されないが、鶏を用いる場合、産卵鶏の日齢は、150日齢~600日齢の範囲内とすることが好ましい。
また、成鶏に対し2週間以上継続して給餌することが好ましい。
【0059】
給餌方法についても特に限定されず、不断給餌又は制限給餌等を任意で選択することができる。また、飼料の形態についても限定されず、マッシュ飼料、ペレット飼料及びクランブル飼料の何れでもよい。
【0060】
本発明により得られた家禽卵は、生卵及び茹で卵の何れの形態でも、優れた風味を有する。そのため、生卵の場合、卵がけご飯用の卵としても好適に利用できる。また、本発明により得られた家禽卵は、任意の方法で加工することで、卵加工品として利用することができる。
【0061】
また、本発明は、上記の家禽卵の生産方法により生産された、家禽卵である。前記家禽卵は、好ましくは、鶏卵である。上記の家禽卵の生産方法により、風味の改善された家禽卵を取得できる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されない。
【0063】
以下の試験例における乳原料の配合量は、特に記載のない限り、乳原料以外の飼料原料100質量部に対する、乳原料の配合量(質量部)である。
また、下記の表において、「原料1」に対する「原料2」等の記載は、「原料1」の質量を基準(1)とした場合における、「原料2」の質量の比率(倍)を指す。
【0064】
また、以下の試験例で使用する乳原料のうち、ホエイ、脱脂粉乳及びバターは、乾燥粉末状のものを用いた。このうち、発酵乳はニューラクトF-S(アサヒグループ食品株式会社製)を使用した。また、香料はミルクフレーバーを使用した。
【0065】
以下の試験例で使用する飼料は、基礎飼料に、表に記載した乳原料、その他の色素等を混合することで作製した。基礎飼料には、トウモロコシ、DDGS、大豆粕、ナタネ粕、等の混合物を用いた。
【0066】
<試験例1>
下記表1に示す乳原料を配合した飼料を1区画10羽の鶏(成鳥)に給与し、給与試験を行った。給与試験は試験鶏舎にて2022年6月10日から6月30日にかけて実施し、給与開始から2週間経過後の卵を用いて官能評価を実施した。
【0067】
官能評価は、鶏卵を専門に扱う評価者8名により、比較例1(ホエイのみを配合した飼料)を用いた場合と比した鶏卵の風味の変化について評価した。結果を、表1に示す。なお、評価者ごとに評価のばらつきは生じず、各評価者の評価結果は同様の傾向を示した。
【0068】
【0069】
表1に示す通り、乳原料として発酵乳及びホエイを含む実施例1の飼料を給与して得られた鶏卵は、ほどよい酸味とまろやかな乳風味を有する鶏卵であった。発酵乳及びホエイに、さらに脱脂粉乳を加えた実施例3の飼料を用いた場合には、より風味がまろやかとなり、濃厚感のある鶏卵となった。
また、乳原料としてホエイとバターを含む実施例2の飼料を給与して得られた鶏卵は、生卵黄でもバター風味を感じるものであった。
このように、乳原料として発酵乳又はバターを配合した飼料を用いることで、家禽卵に新規な風味を付与することができた。
【0070】
<試験例2>
下記表2に示す乳原料を配合した飼料を1区画10羽の鶏(成鳥)に給与し、給与試験を行った。給与試験は試験鶏舎にて2022年8月17日から9月2日にかけて実施し、給与開始から2週間経過後の卵を用いて官能評価を実施した。
【0071】
【0072】
官能評価は、鶏卵を専門に扱う評価者9名により、比較例1’(ホエイのみを配合した飼料)を用いた場合と比した鶏卵の風味の変化について評価した。
官能評価は、鶏卵の甘さ、濃厚さ、味の後引き、色、及び全体評価の5項目について、各評価者が項目ごとに5段階の評価値(-2、-1、0、1、2)で評価を行った後、各項目の評価値の平均値を算出した。全体評価は、風味全体の好ましさを判断した、総合的な評価である。結果を、表3に示す。なお、評価者による評価値の平均値は、各項目の評価の傾向を表す。
【0073】
【0074】
表3に示す通り、乳原料として発酵乳及びホエイを含む飼料を用いた実施例1’は、乳原料としてホエイのみを含む飼料を用いた比較例1’と比して、得られた鶏卵の全体評価が高い結果となった。また、発酵乳、ホエイ及び脱脂粉乳を含む飼料を用いた実施例4、5及び6は、ゆで卵又は生卵の少なくとも何れかにおいて、実施例1’よりも全体評価が高い結果となった。
以上より、発酵乳及びホエイを配合した飼料を用いることで、全体のバランスに優れた好ましい鶏卵を生産できることが分かった。さらに、発酵乳、ホエイ及び脱脂粉乳を配合した飼料を用いることで、より風味のバランスの取れた鶏卵を生産できることが分かった。
【0075】
<試験例3>
下記表4に示す乳原料を配合した飼料を1区画10羽の鶏(成鳥)に給与し、給与試験を行った。給与試験は試験鶏舎にて2022年10月13日から11月9日にかけて実施し、給与開始から2週間経過後の卵を用いて官能評価を実施した。
【0076】
【0077】
官能評価は、鶏卵を専門に扱う評価者9名により、実施例5’を用いた場合と比した鶏卵の風味の変化について評価した。官能評価は、試験例2と同様の手順で実施した。結果を、表5に示す。なお、評価者による評価値の平均値は、各項目の評価の傾向を表す。
【0078】
【0079】
表5に示す通り、乳原料として発酵乳、ホエイ及び脱脂粉乳を含む飼料を用いた実施例5’、7及び8は、何れも、鶏卵の甘さ・濃厚さ・味の後引き及び色の評価に大きな差異はなく、好ましい風味が付加されていた。
【0080】
また、実施例9及び10の結果から、発酵乳、ホエイ及び脱脂粉乳に、さらに香料を配合することで、特に生卵における風味の全体評価が向上することが明らかとなった。そして、実施例9において得られた鶏卵は、生卵の状態では、甘さと酸味のバランスが良く、後味としてミルク風味を感じるものであり、ゆで卵の状態では味の濃厚感が向上していた。実施例10は、生卵の状態で味が濃厚で甘さを感じ、ゆで卵の状態では味の濃厚感が向上していた。
【0081】
<試験例4>
下記表6に示す乳原料を配合した飼料を1区画10羽の鶏(成鳥)に給与し、給与試験を行った。給与試験は試験鶏舎にて2022年12月5日から翌年1月2日にかけて実施し、給与開始から2週間経過後の卵を用いて官能評価を実施した。
【0082】
官能評価は、鶏卵を専門に扱う評価者9名により、乳原料を配合した実施例11~13の鶏卵の風味を評価した。なお、評価者ごとに評価のばらつきは生じず、各評価者の評価結果は同様の傾向を示した。
【0083】
【0084】
官能評価の結果、発酵乳、ホエイ、及び脱脂粉乳を含み、配合した飼料を用いた実施例11及び12では、ミルク風味を有する鶏卵となった。特に香料を含む飼料を用いた実施例12は、後味の広がりおよび甘みがあり、さらには味にコク及び濃厚さが付加された鶏卵を得ることができた。
また、バター及びホエイを配合した飼料を用いた実施例13では、適度な苦みを有し、味が濃厚な鶏卵となった。
【0085】
以上の通り、発酵乳及び/又はバター等の乳原料を含む飼料を家禽に給与することで、従来にない新たな風味が付与された家禽卵を生産できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、養鶏業において好適に利用、応用することができる。
【要約】
【課題】本発明の解決しようとする課題は、新たな風味を付与した家禽卵を取得するための、新規な技術を提供することにある。
【解決手段】本発明は、発酵乳及び/又はバターを含む乳原料を配合した飼料を、家禽に給餌する工程を含む、風味を改良した家禽卵の生産方法である。
【選択図】なし