(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
A61B5/055 364
A61B5/055 311
(21)【出願番号】P 2018226534
(22)【出願日】2018-12-03
【審査請求日】2021-10-26
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】副島 和幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恭弘
【合議体】
【審判長】石井 哲
【審判官】伊藤 幸仙
【審判官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-266897(JP,A)
【文献】Mikio Shiraishi,A Simultaneous Coefficient Calculation Method for SincN FIR Filters,IEEE TRANSACTIONS ON CIRCUITS AND SYSTEMS-I: FUNDAMENTAL THEORY AND APPLICATIONS,2003年,VOL.50, NO.4,pp.523-529
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ係数の設定に応じて異なる周波数特性を示すように構成されるデジタルフィルタ回路と、
実行されるパルスシーケンスに対応する磁気共鳴信号の帯域幅から、前記フィルタ係数を、前記パルスシーケンスを実行する都度算出し、算出した前記フィルタ係数を、前記パルスシーケンスを実行する都度、前記デジタルフィルタ回路に設定する算出設定部と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
フィルタ係数の設定に応じて異なる周波数特性を示すように構成されるデジタルフィルタ回路と、
実行されるパルスシーケンスの種類から、前記フィルタ係数を、前記パルスシーケンスを実行する都度算出し、算出した前記フィルタ係数を、前記パルスシーケンスを実行する都度、前記デジタルフィルタ回路に設定する算出設定部と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
複数の種類のパルスシーケンスを実行順に配列することによりパルスシーケンス群を設定するシーケンス設定部、をさらに備え、
前記算出設定部は、前記パルスシーケンスの夫々の種類に対応するフィルタ係数を、前記パルスシーケンス群が設定されてから、当該種類のパルスシーケンスが実行されるまでに算出し、前記デジタルフィルタ回路に設定する、
請求項1または2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記算出設定部は、前記パルスシーケンス群が設定された直後から、前記パルスシーケンス群に含まれる前記パルスシーケンスの夫々の種類に対応するフィルタ係数の算出を開始する、
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記パルスシーケンス群には、診断画像取得用の診断スキャンのパルスシーケンスと、前記診断スキャンの準備用のプリスキャンのパルスシーケンスが含まれ、
前記算出設定部は、前記プリスキャンの実行中に、前記プリスキャンに続く前記診断スキャンのパルスシーケンスに対応する前記フィルタ係数の算出する、
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記プリスキャンのパルスシーケンスに対応する前記フィルタ係数の数は、前記診断スキャンのパルスシーケンスに対応する前記フィルタ係数の数よりも少ない、
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記パルスシーケンス群には、診断画像取得用の第1の診断スキャンのパルスシーケンスと、第1の診断スキャンの後に実行される第2の診断スキャンのパルスシーケンスが含まれ、
前記算出設定部は、前記第1の診断スキャンの実行中に、前記第2の診断スキャンのパルスシーケンスに対応する前記フィルタ係数を算出する、
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
記憶部と、
算出された前記フィルタ係数を、対応するパルスシーケンスの種別と関連付けて前記記憶部に登録する登録部と、をさらに備え、
前記算出設定部は、実行しようとするパルスシーケンスの前記フィルタ係数が前記記憶部に登録されている場合は、前記実行しようとするパルスシーケンスに対応する前記フィルタ係数を前記記憶部から読み出して、前記デジタルフィルタ回路に設定する、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
ディスプレイ、をさらに備え、
前記算出設定部は、前記パルスシーケンス群の夫々のパルスシーケンスに対応するフィルタ係数の予想算出時間を前記ディスプレイに表示する、
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
ディスプレイ、をさらに備え、
前記算出設定部は、前記パルスシーケンス群の夫々のパルスシーケンスに対応するフィルタ係数の算出状況を前記ディスプレイに表示する、
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置は、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF:Radio Frequency)信号で励起し、励起に伴って被検体から発生する磁気共鳴信号(MR(Magnetic Resonance)信号)を再構成して画像を生成する撮像装置である。
【0003】
磁気共鳴イメージング装置では、RF信号による励起に伴って生じるMR信号をRFコイルで受信する。そして、受信したMR信号を、受信回路が具備するAD変換器によって、所定のサンプリング周波数でサンプリングすると共に、アナログ信号のMR信号からデジタル信号のMR信号に変換している。
【0004】
デジタル信号に変換されたMR信号は、デジタルフィルタによって所望の周波数特性をもつようにフィルタリングされ、後段の再構成処理等に供給される。
【0005】
一般に、MR信号の帯域幅は、読み出し方向における、ピクセルサイズ、ピクセル数、FOVの大きさ等のパラメータの設定値によって異なりうる。そして、これらのパラメータの設定値は、設定するパルスシーケンスの種類ごとに異なった値となりうる。
【0006】
このため、MR信号の帯域幅はパルスシーケンスの種類ごとに異なる。そこで、例えば、想定される帯域幅よりも十分に高いサンプリング周波数でMR信号をサンプリングしてAD変換した後、MR信号の帯域幅に応じて(即ち、パルスシーケンスの種類に応じて)、異なるサンプリング周波数に変換するリサンプリング処理を行う場合がある。また、通常、リサンプリング処理に伴ってフィルタリング処理が行われる。フィルタリング処理は、MR信号の帯域に折り重なってくるエイリアシングノイズを除去或いは低減するための処理である。このフィルタリング処理では、MR信号の帯域幅に応じたカットオフ周波数をもつデジタルフィルタを用いている。
【0007】
パルスシーケンスの種類やMR信号の帯域幅に応じてカットオフ周波数を変えるためには、デジタルフィルタの係数を、パルスシーケンスの種類やMR信号の帯域幅の大きさに応じて変更する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、磁気共鳴信号用のデジタルフィルタを、拡張性が高く、且つ、パルスシーケンスの種類の変更や受信帯域幅の変更等のパラメータ変更に柔軟に対応できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、デジタルフィルタ回路と、算出設定部とを有する。デジタルフィルタ回路は、フィルタ係数の設定に応じて異なる周波数特性を示すように構成される。算出設定部は、実行されるパルスシーケンスに対応する磁気共鳴信号の帯域幅から、前記フィルタ係数を、前記パルスシーケンスを実行する都度算出し、算出した前記フィルタ係数を、前記パルスシーケンスを実行する都度、前記デジタルフィルタ回路に設定する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の全体構成例を示す構成図。
【
図4】実施形態の磁気共鳴イメージング装置における処理回路の機能ブロック図。
【
図5】実施形態の磁気共鳴イメージング装置の処理例を示すフローチャート。
【
図6】パルスシーケンスの設定画面の一例を示す図。
【
図7】夫々のパルスシーケンスが実行される時間経過とフィルタ係数セットの算出と設定の時間経過との関係の第1の例を模式的に示す図。
【
図8】夫々のパルスシーケンスが実行される時間経過とフィルタ係数セットの算出と設定の時間経過との関係の第2の例を模式的に示す図。
【
図9】フィルタ係数セットを登録し再利用する動作の処理例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の全体構成を示すブロック図である。実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、磁石架台100、制御キャビネット300、コンソール400、寝台500等を備えて構成される。
【0013】
磁石架台100は、静磁場磁石10、傾斜磁場コイル11、WB(Whole Body)コイル12等を有しており、これらの構成品は円筒状の筐体に収納されている。寝台500は、寝台本体50と天板51を有している。また、磁気共鳴イメージング装置1は、被検体に近接して配設されるRFコイル20を有している。
【0014】
制御キャビネット300は、傾斜磁場電源31(X軸用31x、Y軸用31y、Z軸用31z)、RF受信器32、RF送信器33、及びシーケンスコントローラ34を備えている。
【0015】
磁石架台100の静磁場磁石10は、概略円筒形状をなしており、被検体(例えば患者)の撮像領域であるボア(静磁場磁石10の円筒内部の空間)内に静磁場を発生させる。静磁場磁石10は超電導コイルを内蔵し、液体ヘリウムによって超電導コイルが極低温に冷却されている。静磁場磁石10は、励磁モードにおいて静磁場用電源(図示せず)から供給される電流を超電導コイルに印加することで静磁場を発生し、その後、永久電流モードに移行すると、静磁場用電源は切り離される。一旦永久電流モードに移行すると、静磁場磁石10は長時間、例えば1年以上に亘って、大きな静磁場を発生し続ける。なお、静磁場磁石10を永久磁石として構成しても良い。
【0016】
傾斜磁場コイル11も概略円筒形状をなし、静磁場磁石10の内側に固定されている。この傾斜磁場コイル11は、傾斜磁場電源(31x、31y、31z)から供給される電流によりX軸,Y軸,Z軸の方向に傾斜磁場を被検体に印加する。
【0017】
寝台500の寝台本体50は天板51を上下方向に移動可能であり、撮像前に天板51に載った被検体を所定の高さまで移動させる。その後、撮影時には天板51を水平方向に移動させて被検体をボア内に移動させる。
【0018】
WBコイル12は、傾斜磁場コイル11の内側に被検体を取り囲むように概略円筒形状に固定されている。WBコイル12は、RF送信器33から伝送されるRFパルスを被検体に向けて送信する一方、水素原子核の励起によって被検体から放出される磁気共鳴信号(即ち、MR信号)を受信する。
【0019】
RFコイル20は、被検体から放出されるMR信号を被検体に近い位置で受信する。RFコイル20は、例えば、複数の要素コイルから構成される。RFコイル20は、被検体の撮像部位に応じて、頭部用、胸部用、脊椎用、下肢用、或いは全身用など種々のタイプがあるが、
図1では胸部用のRFコイル20を例示している。
【0020】
RF送信器33は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいて、WBコイル12にRFパルスを送信する。一方、RF受信器32は、WBコイル12やRFコイル20によって受信されたMR信号を検出し、検出したMR信号をデジタル化して得られる生データをシーケンスコントローラ34に送る。
【0021】
シーケンスコントローラ34は、コンソール400による制御のもと、傾斜磁場電源31、RF送信器33およびRF受信器32をそれぞれ駆動することによって被検体のスキャンを行う。そして、シーケンスコントローラ34は、スキャンを行ってRF受信器32から生データを受信すると、その生データをコンソール400に送る。
【0022】
シーケンスコントローラ34は、処理回路(図示を省略)を具備している。この処理回路は、例えば所定のプログラムを実行するプロセッサや、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで構成される。
【0023】
コンソール400は、処理回路40、記憶回路41、ディスプレイ42、及び入力デバイス43を有するコンピュータとして構成されている。
【0024】
記憶回路41は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の他、HDD(Hard Disk Drive)や光ディスク装置等の外部記憶装置を含む記憶媒体である。記憶回路41は、各種の情報やデータを記憶する他、処理回路40が具備するプロセッサが実行する各種のプログラムを記憶する。
【0025】
ディスプレイ42は、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELパネル等の表示デバイスである。入力デバイス43は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル等であり、各種の情報やデータを操作者が入力するための種々のデバイスを含む。
【0026】
処理回路40は、例えば、CPUや、専用又は汎用のプロセッサを備える回路である。プロセッサは、記憶回路41に記憶した各種のプログラムを実行することによって、後述する各種の機能を実現する。処理回路40は、FPGA(field programmable gate array)やASIC(application specific integrated circuit)等のハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても後述する各種の機能を実現することができる。また、処理回路40は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
【0027】
これらの各構成品によって、コンソール400は、磁気共鳴イメージング装置1全体を制御する。具体的には、検査技師等の操作者による、マウスやキーボード等(入力デバイス42)の操作によってパルスシーケンスの種類等の撮像条件や、各種の情報、或いは撮像開始等指示を受け付ける。そして、処理回路40は、入力された撮像条件に基づいてシーケンスコントローラ34にスキャンを実行させる一方、シーケンスコントローラ34から送信された生データ、即ち、デジタル化されたMR信号に基づいて画像を再構成する。再構成された画像はディスプレイ43に表示され、或いは記憶回路41に保存される。
【0028】
図2は、対比例のRF受信器39の構成例を示す図である。また、
図3は、本実施形態のRF受信器32の構成例を示す図である。対比例のRF受信器39、及び、本実施形態のRF受信器32は、いずれもAD変換器320とデジタルフィルタ321を有する構成となっている。
【0029】
AD変換器320は、RFコイル20から出力されるアナログ信号のMR信号をデジタル信号のMR信号に変換している。
図2及び
図3は、RFコイル20から出力されるラーモア周波数帯のMR信号を直接AD変換器320でサンプリングする、所謂、ダイレクトサンプリング方式の回路構成を例示している。この場合、例えば、AD変換器320とデジタルフィルタ321との間に、ラーモア周波数帯からベースバンドに変換する周波数変換機能が必要となるが、
図2及び
図3では周波数変換機能の図示を省略している。
【0030】
前述したように、MR信号の帯域幅は、パルスシーケンスの種類によって変化しうる。より具体的には、リードアウト方向(読み出し方向)の傾斜磁場の大きさや、これに関連する読み出し方向における、ピクセルサイズ、ピクセル数、FOVの大きさ等の、パルスシーケンスを規定するパラメータの値により、MR信号の帯域幅は変化する。
【0031】
そこで、このようなMR信号の帯域幅の変化に対応するため、サンプリング周波数を変化させる処理、即ち、リサンプリング処理を行う一方、エイリアシングノイズを除去或いは低減するためのフィルタリング処理を、デジタルフィルタ321で実現している。デジタルフィルタ321は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェア回路で実現することができる。
【0032】
図2及び
図3では、FIR(Finite Impulse Response)型のデジタルフィルタ321を例示しているが、IIR(Infinite Impulse Response)型でもよい。なお、以下では、FIR型のデジタルフィルタ321を例にとって説明していく。
【0033】
FIR型のデジタルフィルタ321は、タップ数Nに対応する複数の遅延素子「Z-1」と、各遅延素子の間から出力される信号に乗ずる複数のフィルタ係数am, n(m=0~M, n=0~N)と、「+」で図示している複数の加算器とを備えて構成される。ここで、(N+1)は1つのデジタルフィルタ321に含まれるフィルタ係数の数であり、Mはフィルタ係数セットの数である。(N+1)個のフィルタ係数am, n(n=0~N)によって、1つのフィルタ係数セットを構成する。
【0034】
1つのフィルタ係数セットによって、デジタルフィルタ321の1つの周波数特性が決定される。周波数特性として規定されるべきパラメータにはいくつかの種類があるが、デジタルフィルタ321をLPF(Low Pass Filter)として構成する場合の重要なパラメータの1つは、カットオフ周波数である。この他にも、阻止帯域における減衰量、通過帯域におけるリップル量等のパラメータも、デジタルフィルタ321の重要な周波数特性として規定される。
【0035】
複数の異なる周波数特定を有するデジタルフィルタ321を実現するには、複数の異なるフィルタ係数セットをデジタルフィルタ321に設定すればよい。例えば、M個の異なるカットオフ周波数を有するデジタルフィルタ321を実現するには、M個の異なるフィルタ係数セットを、デジタルフィルタ321に設定すればよい。カットオフ周波数等の周波数特性が規定されれば、公知技術により、フィルタ係数セット(即ち、デジタルフィルタ321に設定する複数のフィルタ係数の夫々の値)を算出することができる。
【0036】
図2に示す対比例のRF受信器39では、デジタルフィルタ321を構成する回路素子、例えばFPGAの形態で構成されるデジタルフィルタ321の外部に、複数のフィルタ係数セットを記憶するメモリ322を有する構成となっている。メモリ322は、例えば、読み出し専用の半導体メモリや、フラッシュメモリ等の不揮発性の半導体メモリである。
【0037】
複数のフィルタ係数セット(
図2の例では、フィルタ係数0~フィルタ係数Mで示されている、M個のフィルタ係数セット)のうち、どのフィルタ係数セットを選択するかは、例えば、コンソール32から送られてくる帯域指定信号によって選択される。
【0038】
そして、選択されたフィルタ係数セットをメモリ322から読み出し、デジタルフィルタ321に設定する。このような回路構成のRF受信器39では、パルスシーケンスの種類の変更や、これに伴う帯域幅の変更などによってフィルタ係数セットが増えた場合には、変更作業や確認作業が大きな負担となる。
【0039】
例えば、帯域幅の変更に伴って新たなフィルタ係数セットを増加する場合には、変更すべき帯域幅に対応するフィルタ係数セットを算出するだけではなく、ア)メモリ322が実装されている印刷基板を取りはずし、イ)メモリ322に新たに算出したフィルタ係数セットのデータを書き込み、ウ)印刷基板の単体での動作確認を行い、エ)さらに印刷基板を装置に組み込んで、磁気共鳴イメージング装置全体としての動作確認を行う、といった作業が必要となる。このように、対比例のRF受信器39では、フィルタ係数セットの追加に容易に対応できず、拡張性や柔軟性が低い。また、係数セットの変更に伴う確認作業等の負担が大きい。
【0040】
これに対して、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置1が具備するRF受信器32では、デジタルフィルタ321を、拡張性が高く、且つ、パルスシーケンスの種類の変更や、これに伴うMR信号の帯域幅の変更等のパラメータ変更に柔軟に対応することができるような構成にしている。
【0041】
図3は、本実施形態における、主にRF受信器32の構成例を示す図である。
図3から明らかなように、本実施形態のRF受信器32は、前述した対比例のRF受信器39と同様に、AD変換器320とデジタルフィルタ321を具備しているものの、複数のフィルタ係数セットが保存されているメモリ322が取り除かれた構成となっている。
【0042】
後述するように、磁気共鳴イメージング装置1では、多くの場合、複数の種類のパルスシーケンスが実行順に配列されたパルスシーケンス群を設定しておき、一旦撮像が開始されると、設定された順序で、パルスシーケンスの種類を変えながら撮像が進行していく。
【0043】
したがって、撮像が開始されると、パルスシーケンスの種類は時間的に動的に変化し、パルスシーケンスの種類の変化に伴ってMR信号の帯域幅も動的に変化する。そこで、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、撮像開始後に動的に変化するパルスシーケンスの種類、或いは、MR信号の帯域幅に応じて、リアルタイムでフィルタ係数セットを算出し、対応する種類のパルスシーケンスが実行されるときまでに、算出したリアルタイムでフィルタ係数セットを、デジタルフィルタ321に設定する構成としている。フィルタ係数の算出は、例えば、コンソール400の処理回路40で行っている。
【0044】
図4は、磁気共鳴イメージング装置1のうち、特に処理回路40の機能ブロック図を示す。
図4に示すように、磁気共鳴イメージング装置1の処理回路40は、パルスシーケンス設定機能401、フィルタ係数算出設定機能402、フィルタ係数登録機能403、再構成機能404、及び、画像処理機能405の各機能を実現する。これらの各機能は、例えば、処理回路40が具備するプロセッサが所定のプログラムを実行することによって実現される。
【0045】
上記各機能のうち、パルスシーケンス設定機能401は、複数の種類のパルスシーケンスを実行順に配列することによりパルスシーケンス群を設定する。例えば、ディスプレイ42に表示させた設定画面SC1(
図6参照)を見ながら、マウスやキーボード等の入力デバイス43をユーザが操作することにより、パルスシーケンス群を設定する。
【0046】
パルスシーケンス設定機能401で設定されたパルスシーケンスのパラメータに関する情報は、シーケンスコントローラ34に送出され、X軸、Y軸、Z軸の各軸方向の傾斜磁場の波形(傾斜磁場の大きさとタイミングを含む)、RF信号の波形(RF信号の大きさとタイミングを含む)、MR信号のサンプリングタイミング等の各種信号が、シーケンスコントローラ34で生成される。
【0047】
一方、パルスシーケンス設定機能401で設定されるパルスシーケンスの種類、或いは、パルスシーケンスの種類に基づいて定まるMR信号の帯域幅に関する情報は、フィルタ係数算出設定機能402にも送出される。
【0048】
フィルタ係数算出設定機能402は、実行されるパルスシーケンスに対応するMR信号の帯域幅から、パルスシーケンスを実行する都度フィルタ係数セットを算出する。そして、算出したフィルタ係数セットを、パルスシーケンスを実行する都度、デジタルフィルタ321に設定する。
【0049】
フィルタ係数登録機能403は、フィルタ係数算出設定機能402によって算出されたフィルタ係数セットを、対応するパルスシーケンスの種別と関連付けて記憶回路41に登録する。
【0050】
図5は、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置1の処理例を示すフローチャートである。
図5に示すフローチャートに沿って、磁気共鳴イメージング装置1の動作をより詳しく説明していく。
【0051】
まず、ステップST100で、パルスシーケンス群の設定を行う。ステップST100の処理は、主に、パルスシーケンス設定機能401によって行われる。
【0052】
図6は、ディスプレイ42に表示されるパルスシーケンスの設定画面SCの一例を示す図である。設定画面SCは、その右側から、撮像部位を指定するウィンドウW1、PAS名を指定するウィンドウW2、及び、指定されたPASに含まれるパルスシーケンス群を表示するウィンドウW3を有している。さらに、PASに含まれるパルスシーケンス群の中から複数のパルスシーケンスを選択し、これから行う撮像において実行すべきパルスシーケンス群として、実行順に配列するウィンドウW4を有している。
【0053】
ここで、PAS(Programmable Anatomical Scan)とは、様々な解剖学的撮像部位(例えば、頭部や脚部等)に応じた複数のパルスシーケンス群を記憶するデータベースである。例えば、
図6に例示するように、ウィンドウW1において、撮像対象部位としてユーザが「頭部」を選択すると、ウィンドウW2に、「頭部」に対応する複数のPAS名(即ち、複数のパルスシーケンス群の夫々に付された識別名)が表示される。ユーザが、複数のPAS名の中から、例えば、「HEAD MRA」を指定すると、指定されたPASに含まれるパルスシーケンス群がウィンドウW3に表示される。
【0054】
ユーザが、ウィンドウW3に表示されたパルスシーケンス群の中から、所望のパルスシーケンスを選択すると、選択したパルスシーケンスが、選択した順序に従ってウィンドウW4に表示される。そして、撮像が開始されると、ウィンドウW4に配列された順序で、各パルスシーケンスが順次実行されることになる。なお、パルスシーケンスは「プロトコル」と呼ばれ、パルスシーケンス群は「プロトコル群」と呼ばれることもある。
【0055】
図5に戻り、
図5のステップST101で、選択されたパルスシーケンス群の中の夫々のパルスシーケンスの種別に対応するフィルタ係数セットの算出を開始する。
【0056】
一方、
図5のステップST110では、選択されたパルスシーケンス群の中の夫々のパルスシーケンスの種別に対応するフィルタ係数セットの算出状況をディスプレイ42に表示する。
【0057】
図6に示すように、ディスプレイ42に表示される設定画面SCのウィンドウW4には、実行順序を示す「No」の欄と、選択されたパルスシーケンスの種別を示す「Sequence ID」の欄に加えて、「算出時間」と「算出状況」の欄が設けられている。
【0058】
フィルタ係数算出設定機能402は、これから実行しようとするパルスシーケンス群のうち、少なくとも1つのパルスシーケンスが選択されると、選択されたパルスシーケンスの種類に対応するMR信号の帯域幅を決定することが可能であり、対応するフィルタ係数セットの算出を開始することができる。
【0059】
ウィンドウW4の「算出状況」欄は、フィルタ係数セットの算出状況を表示している。例えば、該当するパルスシーケンスに対応するフィルタ係数セットの算出が終了しているときは、「算出状況」欄に「済」と表示し、フィルタ係数セットをまさに算出中であるときには、「算出中」と表示し、未だ算出していない場合には、「未」と表示する。このような表示により、フィルタ係数セットの算出状況を容易に把握することができる。ウィンドウW4の「算出状況」欄への表示は、例えば、フィルタ係数算出設定機能402が行うことができる。
【0060】
他方、
図5のステップST102で、フィルタ係数算出設定機能402は、夫々のパルスシーケンスに対応するフィルタ係数セットの予想算出時間をディスプレイ42に表示させてもよい。例えば、ウィンドウW4の「算出時間」欄に、フィルタ係数セットの予想算出時間を表示することができる。パルスシーケンスの種類、或いは、これに対応するMR信号の帯域が決定されれば、実際にフィルタ係数セットの算出を行う前に、概略の予想算出時間を、過去の計算実績等から推定することが可能である。ウィンドウW4の「算出時間」欄には、推定された予想算出時間が表示される。
【0061】
ステップST103で、撮像開始がユーザによって指示される。この指示に伴って、設定されたパルスシーケンス群の実行順序にしたがって、パルスシーケンス群内の夫々のパルスシーケンスが、順次実行される。
【0062】
ステップST104では、夫々のパルスシーケンスの実行前に、対応するフィルタ係数セットをデジタルフィルタ321に設定する。ステップST104の処理も、フィルタ係数算出設定機能402によって行われる。
【0063】
ステップST105では、ステップST104の処理の後、即ち、実行しようとするパルスシーケンスに対応するフィルタ係数セットがデジタルフィルタ321に設定された後、当該パルスシーケンスが実行される。
【0064】
このパルスシーケンスの実行により、RFコイル20で収集されたMR信号は、その帯域幅に適合されたデジタルフィルタ321によりフィルタリング処理される。フィルタリング処理されたMR信号は、その後、
図4に示す再構成機能404によって画像化され、診断用の画像が生成される。さらに、この診断用の画像は、画像処理機能405で所望の画像処理が施された後、ディスプレイ42に表示される。
【0065】
図5のステップST106では、撮像の終了判定が行われる。設定されたパルスシーケンス群内のパルスシーケンスの実行が全て終了した場合は処理を終了する。一方、実行すべきパルスシーケンスが未だ残っている場合には、ステップST104に戻り、ステップST104とステップST105の処理を繰り返す。
【0066】
図7及び
図8は、パルスシーケンス群を設定し、夫々のパルスシーケンスが実行される時間経過(
図7及び
図8の上段に示す)と、フィルタ係数セットを算出し、デジタルフィルタ321に設定する時間経過(
図7及び
図8の下段に示す)との関係を模式的に示した図である。
【0067】
図7は、ユーザによるパルスシーケンス群の設定が開始され、少なくとも1つのパルスシーケンスの種類が設定された直後からフィルタ係数セットの算出し、撮像が開始されるまでの期間の間に、全てのフィルタ係数セットの算出を完了させる、第1の例を示している。
【0068】
図7の上段に示す「パルスシーケンス群の設定」の期間は、
図6に示すウィンドウW3に表示されたパルスシーケンス群の中から、所望のパルスシーケンスをユーザが選択することにより、1つの検査で連続して実行しようとするパルスシーケンス群を設定する期間である。
【0069】
「パルスシーケンス群の設定」の後に続く「パルスシーケンスの編集」の期間は、設定したパルスシーケンス群の中の各パルスシーケンス内の、例えばフリップ角、スライス数等の個々のパラメータを必要に応じて編集する期間である。
【0070】
「パルスシーケンスの編集」が終了すると、撮像開始がユーザによって指示され、一連のパルスシーケンスが、設定された順序にしたがって実行される。
図7及び
図8に示した例では、「プリスキャン(1)」の後に「診断スキャン(1)」が続き、さらに、「プリスキャン(2)」の後に「診断スキャン(2)」が続く例が示されている。「診断スキャン(1)」は、例えば、拡散強調撮像(DWI:Diffusion Weighted Imaging)用のパルスシーケンスを用いて診断画像を取得する診断スキャンであり、「診断スキャン(2)」は、例えば、T2強調撮像(T2WI:T2 Weighted Imaging)用のパルスシーケンスを用いて診断画像を取得する診断スキャンである。
【0071】
プリスキャンは、診断スキャンの前に、例えば、当該診断スキャンの信号レベルを調整するために、RF受信器32が具備している増幅器の利得の校正等を行うスキャンである。例えば、「プリスキャン(1)」は、「診断スキャン(1)」のための利得校正用のプリスキャンであり、「プリスキャン(2)」は、「診断スキャン(1)」のための利得校正用のプリスキャンである。
【0072】
診断スキャンでは高精細な画像を生成する必要があるため、診断スキャンで収集するMR信号に適用するデジタルフィルタの特性にも高い性能が要求される。例えば、阻止帯域の減衰量にも非常に大きな値が要求される一方、通過帯域のリプルにも非常に小さな値が要求される。このため、FIR型のデジタルフィルタのタップ数(即ち、フィルタ係数の数)も、例えば、数百タップといった大きな数が求められることになり、フィルタ係数セットの算出にも時間を要することになる。
【0073】
これに対して、プリスキャンで収集するデータは画像を直接生成するためのものではないため、阻止帯域の減衰量や通過帯域のリプル等のデジタルフィルタの性能も、診断スキャンの性能に比べて高くない。そこで、本実施形態では、プリスキャンのパルスシーケンスに対応するタップ数(即ち、フィルタ係数の数)を、診断スキャンのパルスシーケンスに対応するタップ数よりも少なくしている。これにより、プリスキャンと診断スキャンとを含めた全体のフィルタ係数セットの算出時間を短縮している。
【0074】
図8は、撮像開始の時点では全てのフィルタ係数セットの算出は完了していないものの、該当する診断スキャンのパルスシーケンスが実行される前までには、このパルスシーケンスに対応するフィルタ係数セットの算出が完了している例を示している。
【0075】
例えば、「診断スキャン(1)」に対応するフィルタ係数(2)は、「プリスキャン(1)」の実行中に算出され、「診断スキャン(1)」の開始時点では算出が完了して、デジタルフィルタ321に設定している。
【0076】
また例えば、「診断スキャン(2)」に対応するフィルタ係数(4)は、「診断スキャン(2)」よりも前に実行される「診断スキャン(1)」の実行中に算出され、「診断スキャン(2)」の開始時点では算出が完了し、デジタルフィルタ321に設定している。
【0077】
高い性能を有するデジタルフィルタ321はタップ数も多くなり、フィルタ係数セットの算出に、例えば、数秒を要することも考えられる。このため、ユーザが撮像開始を指示した時点では、全てのフィルタ係数セットの算出が完了しない場合も考えられる。このような場合でも、上述したように、a)プリスキャン用のデジタルフィルタ321のタップ数を診断スキャン用のタップ数よりも少なくし、プリスキャン用のフィルタ係数セットの算出時間を短縮する、b)プリスキャン実行中に次の診断スキャンのフィルタ係数セットの算出を行う、c)診断スキャンの実行中に、実行中の診断スキャンよりも後に行なわれる診断スキャンのフィルタ係数セットの算出を行う、等の方策により、該当する診断スキャンのパルスシーケンスが実行される前までに、このパルスシーケンスに対応するフィルタ係数セットの算出を完了させることができる。
【0078】
さらに、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置1では、フィルタ係数登録機能403により、既に算出したフィルタ係数セットを再利用することもできる。
図9は、フィルタ係数セットを登録し、再利用する動作の処理例を示すフローチャートである。
【0079】
図9では、
図5と同じ処理には同じ符号を付している。ステップST101で、各パルスシーケンスのフィルタ係数セットの算出を開始した後、ステップST200で、設定されているパルスシーケンスに対応するフィルタ係数セットが登録済みであるか否かを、例えば、記憶回路41を参照して判定する。登録済みの場合は、ステップST201で、当該登録済みのフィルタ係数セットを記憶回路41から読み出して、当該パルスシーケンスに対応するフィルタ係数セットの算出処理をスキップする。
【0080】
設定されているパルスシーケンスに対応するフィルタ係数セットが登録されていない場合には、前述したように、対応するフィルタ係数セットを順次新たに算出する。
【0081】
ステップST106で終了判定が行われた後、ステップST202では、新たに算出したフィルタ係数セットを、対応するパルスシーケンスの種別と関連付けて、記憶回路41に登録する。
【0082】
上述した処理では、同じ種別のパルスシーケンスに対応するフィルタ係数セットを繰り返し算出することを避けることができ、全体として、フィルタ係数セットの算出時間を短縮することが可能となる。
【0083】
以上説明してきたように、各実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、磁気共鳴信号用のデジタルフィルタを、拡張性が高く、且つ、パルスシーケンスの種類の変更や受信帯域幅の変更等のパラメータ変更に柔軟に対応させることができる。
【0084】
なお、各実施形態の記載におけるパルスシーケンス設定機能は、特許請求の範囲の記載におけるシーケンス設定部の一例である。また、各実施形態の記載におけるフィルタ係数算出設定機能は、特許請求の範囲の記載における算出設定部の一例である。また、各実施形態の記載における、フィルタ係数登録機能は、特許請求の範囲の記載における登録部の一例である。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0086】
1 磁気共鳴イメージング装置
32 RF受信器
34 シーケンスコントローラ
40 処理回路
41 記憶回路
42 ディスプレイ
43 入力デバイス
320 AD変換器
321 デジタルフィルタ
400 コンソール
401 パルスシーケンス設定機能
402 フィルタ係数算出設定機能
403 フィルタ係数登録機能
404 再構成機能
405 画像処理機能