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特許7465630OA機器用ポリウレタン樹脂歯付伝動ベルトの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】OA機器用ポリウレタン樹脂歯付伝動ベルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/40 20060101AFI20240404BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20240404BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20240404BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240404BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
D02G3/40
D06M15/55
D06M15/564
C08J5/24 CFF
D06M101:40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019058173
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020158902
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡村 脩平
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179634(JP,A)
【文献】特表2013-512405(JP,A)
【文献】特許第6132949(JP,B1)
【文献】特開平03-185139(JP,A)
【文献】特開昭62-053495(JP,A)
【文献】特開2006-214043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00-3/48、D02J1/00-13/00、
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維コードであり、該炭素繊維コードが単糸構成本数3500本以上の炭素繊維束であり、炭素繊維束を1本あるいは複数本を引き揃えてS方向、あるいはZ方向に、片側に撚り(片撚り)を施したものであり、炭素繊維束の総繊度が、200~4800texであり、繊維束の撚り係数(TM、下記式)が1.0~2.0の範囲であり、イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂が付着し、イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂がイソシアネートとエポキシから構成される樹脂であり、イソシアネートが脂肪族系のイソシアネートで、エポキシが多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物であって、樹脂付着量が5~10重量%、3点曲げ強さが、30~150MPaである炭素繊維コードを金型に取付け、液状の熱硬化性ポリウレタン樹脂を注型して加熱・硬化させるOA機器用ポリウレタン樹脂歯付伝動ベルトの製造方法
TM=T×√D/1150
[但し、TM;撚り係数、T;撚り数(回/m)、D;樹脂付着前の炭素繊維の総繊度(tex)を示す。]
【請求項2】
炭素繊維束が1本の繊維束から構成されたものである請求項1記載のOA機器用ポリウレタン樹脂歯付伝動ベルトの製造方法
【請求項3】
炭素繊維コードの引張強度が13cN/dtex以上である請求項1または2に記載のOA機器用ポリウレタン樹脂歯付伝動ベルトの製造方法
【請求項4】
炭素繊維コードの引張弾性率が1100cN/dtex以上である請求項1~3のいずれか1項記載のOA機器用ポリウレタン樹脂歯付伝動ベルトの製造方法
【請求項5】
繊維束が片撚りである請求項1~4のいずれか1項記載のOA機器用ポリウレタン樹脂歯付伝動ベルトの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードに関し、さらに詳しくは屈曲疲労性及び耐ホツレ性に優れたウレタン樹脂補強用炭素繊維コード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂成形品は、一般的なエラストマー組成物と比較して耐摩耗性、機械的性質、動的物性、耐溶剤性、耐油性、耐オゾン性などに優れていることから、一般産業用伝動ベルト、ロール、キャスターなどの工業部品、紙送りロール、複写機用ロールなどのオフィスオートメーション(OA)機器部品の他、スポーツ、レジャー用品などの広範囲の分野に利用されている。
【0003】
特に精密OA機器などでは、ポリウレタン樹脂成形体として歯付ベルトが広く使用されているが、高度なベルト寸法安定性が要求される精密OA機器用の歯付ベルトにおいては、その心線として高モジュラスな補強用繊維コードが利用されることが多い。また現状ではガラス繊維コードを用いた歯付ベルトが寸法安定性及び経時寸法安定性に比較的優れているため、軸間固定レイアウト等に好ましく用いられている。しかし、ガラス繊維コードには、ベルト本体を構成するエラストマー部との接着性に劣るとの問題点があった(特許文献1)。
【0004】
一方近年では、ガラス繊維に代えて炭素繊維を樹脂補強用繊維として用いることが期待されている。炭素繊維は、高弾性率、高強度、寸法安定性、耐熱性および耐薬品性等の優れた特性を有するためである。しかし炭素繊維はその表面が比較的不活性であるため、そのままではポリウレタン樹脂等のマトリックスとの接着性が不十分であり、ガラス繊維と同様にその特性を十分に発揮することはできないという問題があった。
【0005】
その問題の解決法として、補強繊維の表面をレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)系接着剤等で処理した炭素繊維コードが、特に汎用的なゴム補強用途で提案されている(特許文献1-3)。しかしこのような汎用ゴム用の炭素繊維コードでは、マトリックスをポリウレタン樹脂とした場合に、その接着性が劣るという問題があった。
【0006】
他方その他の問題として、補強用繊維を含有するポリウレタン樹脂成形体には、一旦成形した後に切断する場合に、その切断面において繊維がほつれるという問題があった。この問題は特にベルト用途において指摘されており、さらにマトリックスにウレタンを用いた場合に顕著であった。複合体のマトリックスを構成するポリウレタン樹脂が変形しやすいのに対し、高強力の補強用繊維は追随して変形しにくく、複合材料の端面から繊維が露出し、ホツレとなるのである。
【0007】
今までマトリックスがウレタン樹脂の場合に、補強効果と耐ホツレ性を十分に満足させる補強用炭素繊維コードは、得られていなかったため、それらの特性を両立させるポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードの開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-36654号公報
【文献】特開2014-70296号公報
【文献】特開2011-241502号公報
【文献】特開昭61-215772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、屈曲疲労性及び耐ホツレ性に優れたウレタン樹脂補強用炭素繊維コード及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のOA機器用ポリウレタン樹脂歯付伝動ベルトの製造方法は、炭素繊維コードであり、該炭素繊維コードが単糸構成本数3500本以上の炭素繊維束であり、炭素繊維束を1本あるいは複数本を引き揃えてS方向、あるいはZ方向に、片側に撚り(片撚り)を施したものであり、炭素繊維束の総繊度が、200~4800texであり、繊維束の撚り係数(TM、下記式)が1.0~2.0の範囲であり、イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂が付着し、イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂がイソシアネートとエポキシから構成される樹脂であり、イソシアネートが脂肪族系のイソシアネートで、エポキシが多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物であって、樹脂付着量が5~10重量%、3点曲げ強さが、30~150MPaである炭素繊維コードを金型に取付け、液状の熱硬化性 ポリウレタン樹脂を注型して加熱・硬化させることを特徴とする。
なお、ここで撚り係数(TM)は、下記式にて得たものである。
TM=T×√D/1150
[但し、TM;撚り係数、T;撚り数(回/m)、D;樹脂付着前の炭素繊維の総繊度(tex)を示す。]
【0011】
さらには、炭素繊維束が1本の繊維束から構成されたものであることが好ましい。また、炭素繊維コードの引張強度が13cN/dtex以上であることや、炭素繊維コードの引張弾性率が1100cN/dtex以上であること、繊維束が片撚りであること、が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、屈曲疲労性及び耐ホツレ性に優れたウレタン樹脂補強用炭素繊維コードが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードは、単糸構成本数が3500本以上の炭素繊維束であって、イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂が付着し、3点曲げ強さが、30~150MPaであるものである。
ここで本発明に用いられる炭素繊維としては、ピッチ系やPAN系などの従来公知のものを用いることができるが、特には強度に優れたポリアクリルニトリル系のPAN系炭素繊維であることが好ましい。
【0015】
また本発明の樹脂補強用としては、単糸構成本数が3500本以上の繊維束であることが必要であり、より好ましくはフィラメント数が5000本~72000本の範囲であることが、特には10000本~50000本の範囲であることが好ましい。そしてこの繊維束の総繊度としては200tex~4800texの範囲であることが好ましい。より好ましくは、800tex~3200texの範囲であることが好ましい。なお、繊維束を構成する各単糸(フィラメント)の繊維断面形状、繊維物性、微細構造などには、特に制限はないが、その強力保持の面からは断面形状が円であることが、接着性の面からは微細な凹凸を有することが好ましい。また、この炭素繊維にはあらかじめ製糸段階、延伸段階、耐炎化処理後、または炭素化処理後後に、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などによる、前処理を施されていることも、好ましい態様である。
【0016】
そして本発明の炭素繊維コードは、繊維束から構成されるものであるが、撚りを有する繊維束から構成されたものであることが好ましい。この時の撚り係数(TM)としては1.0~2.0の範囲であることが好ましい。特には撚り係数が1.2~1.8の範囲であることが好ましい。このような範囲を満たすことによって、接着剤等の樹脂成分を繊維コードの内部へ十分に浸透させ、耐ホツレ性を発揮しつつ引張物性と耐屈曲疲労性を満たすポリウレタン樹脂補強用の炭素繊維コードとして、特に好ましい効果を発揮することが可能となる。
【0017】
特に好ましくは、本発明で用いる炭素繊維コードとしては、撚り係数(TM)1.0~2.0の片撚りを有していることが好ましい。また、炭素繊維束を1本あるいは複数本を引き揃えてS方向、あるいはZ方向に、片側に撚り(片撚り)を施したものであることが好ましい。そしてこのように片撚り(下撚り)した繊維束コードをさらに複数本引き揃えて、片撚りの方向と反対方向に撚り(上撚り)を施すことにより諸撚りコードとして用いることも可能だが、工程通過性の観点からは、下撚りのみ施した片撚りコードであることが好ましい。さらにはその炭素繊維束が、複数本の繊維束を合糸したものではなく、もともと1本の繊維束から構成されたものであることが、特に好ましい。
【0018】
なお、ここでの撚り係数(TM)は、次式(1)によって、撚り数と総繊度から導き出される係数(TM)である。
TM=T×√D/1150 式(1)
[但し、TM;撚り係数、T;撚り数(回/m)、D;総繊度(tex)を示す。]
【0019】
この計算式は、一般的に、綿の紡績糸に使用される計算式、K=t/√N (K:撚係数、t:撚数t/inch、N:綿番手)について、綿の比重を炭素繊維の比重に変換し、綿番手を繊度(tex)に変換して、再計算したものである。TM=1.0に近い時に、単糸が繊維軸方向に適度に傾き、繊維束の引き揃えを良くすることで、引張強力が最大限に発揮される。さらに撚り係数が高い場合には、単糸の傾きが大きくなりすぎ、屈曲時の歪を単糸が受けにくくなり、耐屈曲疲労性が向上するものの、引張強力が低下する傾向にある。また撚り係数が大きすぎると、小さな負荷荷重を受ける際の初期の伸びが増加し、僅かな伸びで負担可能な荷重が低下することになる。
【0020】
そして本発明のポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードは、このような繊維束にイソシアネート化合物を構成成分とする樹脂が付着した炭素繊維コードである。さらに詳しくは、イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂によって集束された炭素繊維コードであることが好ましく、さらには繊維コードの最外層に、繊維の重量に対してイソシアネート化合物を構成成分とする樹脂が固形分比で5~10重量%付着していることが好ましい。
このような本発明にて用いられるイソシアネート化合物を構成成分とする樹脂としては、イソシアネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ウレア樹脂、あるいはイソシアネートとエポキシの架橋体等であることが好ましい。
【0021】
この時本発明に用いるイソシアネート化合物として、芳香族系のジフェニルメタンジイソシアネートや、トルエンジイソシアネート、脂肪族系のヘキサメチレンジイソシアネート等から選択することができる。さらに好ましくは、脂肪族系のイソシアネートの使用が推奨され、繊維束内部への浸透性や、ポリウレタン樹脂との接着性に優るものとなる。さらにはブロックドイソシアネートを用いることが好ましく、ジメチルピラゾールブロック、メチルエチルケトンオキシムブロック、カプロラクタムブロック等のブロック体を用いたブロックドイソシアネートであることが好ましく、より具体的にはジメチルピラゾールブロックヘキサメチレンジイソシアネートを用いることが特に好ましい。また、上記の剤の二つ以上を組み合わせて用いることも好ましい態様である。
【0022】
本発明においては、上記のようなイソシアネート化合物を用いてイソシアネート樹脂としても良いし、また樹脂としてはウレア樹脂を用いることも好ましい。ここでウレア樹脂とは、アミンとイソシアネート化合物の縮合により得られる樹脂である。
【0023】
そして本発明の特に好ましいイソシアネート化合物を構成成分とする樹脂としては、イソシアネートとエポキシから構成される樹脂であることが好ましい。特にはイソシアネート化合物とエポキシ化合物が架橋された樹脂であることが好ましい。このような架橋体を用いる際には、比較的低分子量のイソシアネート化合物と、反応性の高い同じく比較的低分子量のエポキシ化合物とを、いったん繊維内部に浸透させた後に熱処理をすることで、樹脂が付着した繊維集束体とすることができる。このような方法により、繊維束内部に存在する低分子量化合物を架橋して樹脂化することにより、繊維束内部において単糸と単糸を十分に接着させ、強固に集束した繊維集束体を得ることが可能となる。
【0024】
ここで用いるエポキシ化合物としては、繊維表面にエポキシ基を有するエポキシ化合物を付着させ、熱処理等により高分子量化することが可能なものであることが好ましい。具体的には、エチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、レゾルシン、ピス(4-ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類と前記ハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、過酢酸又は過酸化水素等で不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、即ち3,4-エポキシシクロヘキセンエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ビス(3、4-エポキシ-6-メチル-シクロヘキシルメチル)アジベートなどを挙げることができる。
【0025】
これらのうち、多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物、即ち多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物用いた場合、優れた性能を発現する。特に、水溶性の高いソルビトールポリグリシジルエーテル構造を有するエポキシ化合物の水分散体を使用することが好ましい。さらには繊維束内部への浸透性に優れる脂肪族ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)構造を有するブロックドイソシアネートと、水溶性の高いソルビトールポリグリシジルエーテル構造を有するエポキシ化合物の水分散体を使用することが、特に好ましい。より具体的にはブロックドイソシアネートとして、ジメチルピラゾールブロックヘキサメチレンジイソシアネートを用い、エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテル系エポキシ化合物を組み合わせて用いることが好ましい。この時ブロックドイソシアネートとして、脂肪族イソシアネートに加えて、芳香族イソシアネートを併用することも好ましい形態である。
【0026】
そして本発明では、イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂が炭素繊維コードの外周まで覆い、最外層にも存在していることが好ましい。イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂は、炭素繊維撚糸コードの集束剤としてのみではなく、最終的な成形品とした時のマトリックス樹脂となるポリウレタン樹脂との、接着剤としても機能し、より強固な成形体を得ることが可能となる。
【0027】
また、本発明のポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードは、3点曲げ強さが、30~150MPaであることであることが必要である。ここで3点曲げ強さとは、JIS K7017の3点曲げ装置にて測定される曲げ強さであるが、30~150MPaの値であることが、さらには60~140MPaであることが好ましい。このような曲げ強さは、炭素繊維束中の各単糸が十分に集束されることによって発現されるものである。したがって、炭素繊維束中への樹脂の浸透が不十分であったり、浸透はしていても、単糸と単糸の間を架橋できていない場合には、炭素繊維コードが曲げられた際に、各単糸に応力が分散してしまい、十分な曲げ強さを得ることができない。そのようなコードはすぐに折れ曲がってしまい十分な曲げ強さが得られないのである。また、炭素繊維束の表面だけが強く集束された場合にも、初期の曲げ剛性(弾性率)こそ高くはなるが、表面の集束が壊れるとすぐに折れ曲がってしまうため、十分な曲げ強さは得られない。また、このように表面だけが集束されたコードは曲げ強さが得られないだけでなく、例えば後のベルト製造工程等で、コード中央付近から切断された際に、ホツレが発生しやすくなるという問題もある。
【0028】
本発明では、十分な曲げ強さを有する炭素繊維コードが好ましく、このような十分な曲げ強さをもつ本発明の炭素繊維コードは、各単糸が樹脂によって十分に集束されており、各単糸が本来持つ特性がひとまとまりで発現されるため、優れた引張強度、引張弾性率を示す。
【0029】
一方で、曲げ強さが高すぎる場合、非常に硬いコードであるため、後のポリウレタン樹脂成型体製造時等の金型に取り付ける際に、その取り扱い性等が非常に悪くなることに加えて、金型取り付け工程等の通過時に折れ曲がり損傷しやすくなる傾向にあり、最終製品の引張物性が、大きく低下する。例えば曲げ強さが大きくなりすぎる場合としては、炭素繊維コードの単糸間の大部分が樹脂によって埋められ、強固に集束された場合が挙げられ、曲げ強さが150MPa以上となりやすい。
【0030】
炭素繊維コードの曲げ強さを、30~150MPaの適正なコード硬さとするためには、例えばポリウレタン樹脂の原料として液状成分を利用することが好ましい。なお、液状成分が炭素繊維コード内部に含浸しすぎると、炭素繊維コードが硬く集束されることがあるため、最終的なポリウレタン樹脂成型体の使用に問題がない範囲で、含浸を行うことが好ましい。
【0031】
さらに本発明の炭素繊維コードとしては、高い真円度を保つことが好ましい。真円度が低下すると、適切な3点曲げ強さを確保することが困難になる。曲げ方向による曲げ強度の違いが大きくなるという問題も発生する。さらに炭素繊維コードの真円度が低いと、金型に心線を捲き付ける際に、狙いのコード間のピッチに制御し難いといった不具合が生じやすい。炭素繊維コード間のピッチが乱れた場合、ベルト運転時に一部の心線にのみ応力が集中し、ベルトの片寄り、プーリフランジへの乗り上げ、ベルト早期切断等の欠点につながるのである。特にポリウレタン樹脂成形体として主要な用途である伝動ベルト用、中でもOA用ベルトとして用いる場合、蛇行等の不安定な走行により、高い位置決め精度が得られにくくなるという問題がある。
【0032】
また本発明の炭素繊維コードの引張強度としては13cN/dtex以上であることが好ましく、さらには15~18cN/dtexの範囲にあることが好ましい。引張強度の値が低い場合には、ガラス繊維を始めとする従来のポリウレタン樹脂補強用繊維と同様に、熱硬化ポリウレタン樹脂成形体を十分に補強することができない傾向にある。
【0033】
さらに本発明のポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードの引張弾性率は1100cN/dtex以上であることが好ましい。特には1200~1500cN/dtexの範囲にあることが好ましい。引張弾性率は、荷重が付与された際のコードの変形度に対応する数値であり、このように高い引張弾性率によって、最終的に得られる熱硬化ポリウレタン樹脂成形体の寸法安定性をより高めることが可能になる。例えばOA機器用の伝動ベルト用途等に本発明のコードを用いた場合、その伝動ベルトを用いたOA機器の精度向上に、大きく貢献することが可能となる。
【0034】
そしてこのような本発明のポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードは、もう一つの本発明であるポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードの製造方法によって得ることができる。すなわち、単糸構成本数が3500本以上の炭素繊維束に撚りを施し、次いでイソシアネート化合物を構成成分とする樹脂を含有する処理液に浸漬し、熱処理する炭素繊維コードの製造方法である。
【0035】
本発明の製造方法にて用いる、炭素繊維束やイソシアネート化合物を構成成分とする樹脂は、上記と同様なものである。
また、処理液に浸漬する前の撚りとしては、その撚り係数(TM)が1.0~2.0の範囲であることが好ましい。特には撚り係数が1.2~1,8の範囲であることが好ましい。このような撚りを事前に施すことによって、接着剤等の樹脂成分を繊維コードの内部へ十分に浸透させ、耐ホツレ性を発揮しつつ引張物性と耐屈曲疲労性を満たすポリウレタン樹脂補強用の炭素繊維コードとすることが可能となる。
【0036】
特にあらかじめ撚り係数(TM)1.0~2.0の片撚りを施すことが好ましい。また、炭素繊維束を1本あるいは複数本を引き揃えてS方向、あるいはZ方向に、片側に撚り(片撚り)を施したものであることも好ましい。またこのように片撚り(下撚り)した繊維束コードをさらに複数本引き揃えて、片撚りの方向と反対方向に撚り(上撚り)を施すことにより諸撚りコードとして用いることも可能だが、工程通過性の観点からは、下撚りのみ施した片撚りコードを用いることが好ましい。さらには処理前の炭素繊維束が、複数本の繊維束を合糸したものではなく、もともと1本の繊維束から構成されたものであることが、特に好ましい。
【0037】
なお、ここでの撚り係数(TM)は、次式(1)によって、撚り数と総繊度から導き出される係数(TM)である。
TM=T×√D/1150 式(1)
[但し、TM;撚り係数、T;撚り数(回/m)、D;総繊度(tex)を示す。]
【0038】
ちなみに本発明の製造方法と異なる順番で、すなわち、撚りの無い状態の炭素繊維束に樹脂を処理し、その後に撚りを施す方法があるが、その場合には樹脂の含浸性こそ若干向上するものの、先に樹脂処理された後に撚糸するため、炭素繊維コードの真円度が低下するという問題がある。このような炭素繊維コードでは、適切な3点曲げ強さを確保することが困難になる。さらに炭素繊維コードの真円度が低いと、金型に心線を捲き付ける際に、狙いのコード間のピッチに制御し難いといった不具合が生じやすい。炭素繊維コード間のピッチが乱れた場合、ベルト運転時に一部の心線にのみ応力が集中し、ベルトの片寄り、プーリフランジへの乗り上げ、ベルト早期切断等の欠点につながるのである。特にポリウレタン樹脂成形体として主要な用途である伝動ベルト用、中でもOA用ベルトとして用いる場合、蛇行等の不安定な走行により、高い位置決め精度が得られにくくなるという問題がある。
【0039】
また本発明のポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードでは、イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂を含有する処理液に浸漬し、その後熱処理を行うことによって炭素繊維コードを集束するのであるが、最終的にはコードの最外層に繊維の重量に対してイソシアネート化合物を構成成分とする樹脂が固形分比で5~10重量%付着していることが好ましい。イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂としては、先に述べたようにイソシアネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ウレア樹脂、あるいはイソシアネートとエポキシの架橋体等であることが好ましい。
【0040】
特に本発明の製造方法では、イソシアネート樹脂を用いる場合に、イソシアネート化合物をトルエン等の有機溶剤に溶解した液に、繊維束を浸漬後、熱処理によりイソシアネート化合物の自己架橋により繊維集束体を得る方法や、水系ブロックドイソシアネートの水分散体に繊維束を浸漬後、熱処理によりブロック剤が解離したイソシアネート化合物の自己架橋により繊維集束体を得る方法が好ましい。さらには、この作業性として水系の剤を使用することが好ましく、そのように水系の剤を用いる場合には、ブロックドイソシアネートを併用することが好ましい。ブロックイソシアネートを用いることにより、水分を揮発させる工程になって初めて水とイソシアネートが反応するため、それまでの浸漬工程等で官能基が失活するのを抑制することが可能となり、高い物性を確保することが可能になる。
【0041】
また、樹脂としてイソシアネート化合物とエポキシ化合物の架橋体を使用する方法であることも好ましい。特に、比較的低分子量のイソシアネート化合物と、反応性の高い同じく比較的低分子量のエポキシ化合物とからなる処理液を、一旦、繊維内部に浸透させた後に、熱処理をする方法が好ましい。このように繊維束内部から架橋させることで、繊維束内部において単糸と単糸を接着させ、強固に集束した繊維集束体を得ることが可能になる。
【0042】
この方法に用いるエポキシ化合物としては、繊維表面にエポキシ基を有するエポキシ化合物を付着させ、熱処理等により高分子量化したものであることが好ましく、特には多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物、即ち多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が優れた性能を発現するので好ましい。特に、水溶性の高いソルビトールポリグリシジルエーテル構造を有するエポキシ化合物の水分散体を使用することが、好ましい。さらには繊維束内部への浸透性に優れる脂肪族ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)構造を有するブロックドイソシアネートと、水溶性の高いソルビトールポリグリシジルエーテル構造を有するエポキシ化合物の水分散体を使用することが、特に好ましい。より具体的にはブロックドイソシアネートとして、ジメチルピラゾールブロックヘキサメチレンジイソシアネートを用い、エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテル系エポキシ化合物を組み合わせて用いることが好ましい。ブロックドイソシアネートとして、脂肪族イソシアネートに加えて、芳香族イソシアネートを併用することも可能である。
【0043】
そして繊維集束体の内部に集束剤として用いられる樹脂を付着させる方法としては、単繊維が集まったマルチフィラメント長繊維、さらにはそれを複数本に引き揃えた形状のものやトウ状の長繊維を、ボビンやビームクリールから連続的に送繊されるようにして、集束剤の入った漕の中で含浸させる方法や、ローラータッチ法によって付着させる方法、スプレー方式により該集束剤を噴霧して付着させる方法などが挙げられる。中でも繊維に均一に樹脂を付着させるためには、集束剤の入った漕の中で含浸させる方法が好ましく、さらには次いで絞りロールで一定の付着量に調整することが好ましい。
【0044】
また、先に述べたように集束剤をより繊維束内部に含浸、浸透させるためには、集束剤を水系マルション、または有機溶剤に分散、または溶解させ、希釈して使用する方法が好ましい。その際、有機溶剤に溶解させる処理方法を採用する場合には、大量に有機溶剤を用いるために、安全や作業環境負荷が高く、また接着処理設備および回収・廃液処理やその周辺設備にかかるコストが非常に高いため、本発明の実施方法としては水系処理を行うことが好ましい。ちなみに集束剤を溶解させた有機溶剤は粘性が高くなり、繊維束内部への浸透が不十分となりやすい傾向にあり、その観点からも、水溶性を高めた比較的低分子量の化合物を使用することが特に好ましい。
【0045】
本発明のポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードの製造方法の特に好ましい方法としては、炭素繊維に撚りを施した後に、上記のようなイソシアネート化合物を含む水系処理剤に炭素繊維撚糸コードを浸漬し、熱処理を施す方法である。
【0046】
なお本発明の製造方法では処理液に浸漬後に熱処理を行うが、この熱処理により、集束剤の分散媒である水を乾燥、時には熱処理により架橋させることが好ましい。処理装置としては特に限定されるものではなく、接触型のホットローラー等も用いることができるが、非接触型の熱風乾燥炉を用いると集束剤による装置への付着や汚れがなく作業しやすいため好ましい。好ましい熱処理条件としては、2段階の加熱処理であることが好ましい。具体的には例えば、80~150℃の温度で60~240秒間の乾燥を行い、次いで180~240℃の温度で60~240秒間の熱処理を行うことが好ましい。
【0047】
これはまず第一段の熱処理により、コード表面およびコード内部の樹脂を含む処理液を繊維コード内部に拡散させながら、水分を乾燥させる。処理条件が高温の場合には、水分が留去する間もなく、水分の揮発が開始されるため、十分な拡散が得られず、集束性が不十分となる。逆にあまり低温すぎると、乾燥が不十分な樹脂が糸導ガイド等に転写され、樹脂がコードから脱落してしまい、十分な付着量が得られない。この乾燥熱処理に引き続き、第二段の熱処理により、樹脂を架橋反応し、強い皮膜とする。
【0048】
集束剤として用いる樹脂の付着量は、4~10重量%であることが好ましい。少なすぎると繊維コードのフィラメントを充分に集束できず単糸間の摩耗による強力低下や、ポリウレタン樹脂成形体のホツレ性が低下する傾向にある。一方、多すぎる場合は、処理工程でのガムアップなど工程通過性が低下する恐れがある。より好ましくは、5~10重量%である。この固形分付着量を制御するためには、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターの手段により行うことができ、付着量を多くするためには浸漬時間の増加や、処理液中の固形分濃度の向上、複数回の浸漬等で行えばよい。
【0049】
本発明では、炭素繊維撚糸コードの集束剤であるイソシアネート化合物を構成成分とする樹脂が、ポリウレタン樹脂との接着剤としても機能することができる。そのため、イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂が炭素繊維コードの外周まで多い、最外層に存在していることが好ましい。
【0050】
このような本発明の製造方法により得られるポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードは、引張物性、屈曲疲労性、接着性、耐ホツレ性が大幅に改善されたポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードであり、本ポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードは、補強材として用いることにより物性の非常に優れたポリウレタン樹脂成形体を得ることが出来る。
【0051】
また、本発明のこのようなポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードは、炭素繊維コードを金型に取り付けて、成型することにより、ポリウレタン樹脂成形体とすることができる。ポリウレタン樹脂成形体としては、より機械物性、耐熱性に優れる熱硬化性ポリウレタン樹脂と炭素繊維コードを組み合わせて用いることが好ましい。
【0052】
このようなポリウレタン樹脂成形体に用いるマトリックス樹脂として好ましい熱硬化性ポリウレタン樹脂は、液状の原料を注型して加熱・硬化させることによって得られるものである。そして成形方法としては、ポリオール、触媒、鎖延長剤、顔料等を混合したプレミックス液と、イソシアネート成分を含有する溶液とを混合し、これを注型して硬化反応させるワンショット法や、予めイソシアネートとポリオールを反応させて、イソシアネートの一部をポリオールで変性したプレポリマーと硬化剤を混合して注型し、架橋反応させるプレポリマー法を採用することができるが、本発明ではプレポリマー法が特に好ましい。
【0053】
ここで用いるイソシアネートとしては限定されるものではないが、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、またそれらの変性体であることが好ましい。より具体的には、トルエンジイソシアネート(TDI)、メチレンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)そしてイソホロンジイソシアネート(IPDI)などが例示できるが、中でも芳香族ポリイソシアネートが好ましく用いられ、TDI及びMDIがより好ましく用いられる。
【0054】
ポリオールとしては、エステル系ポリオール、エーテル系ポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、及びこれらの混合ポリオール等が挙げられる。エーテル系ポリオールとしては、ポリエチレンエーテルグリコール(PEG)、ポリプロピレンエーテルグリコール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)などがあり、またエステル系ポリオールとしては、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHA)、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)などが例示できる。なかでも、耐湿性や耐水性に優れると共に強靭な物性とヒステリシスロスの小さい特性を有する成形品が得られるポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)が好適に用いられる。
【0055】
硬化剤としては、1級アミン、2級アミン、3級アミンであるアミン化合物が用いられ、具体的には1,4-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノトルエン、1,5-ナフタレンジアミン、4,4´-ジアミノジフェニルメタン、3,3´-ジクロロ-4,4´-ジアミノジフェニルメタン(以下MOCAと記す)、3,3´-ジメチル-4,4´-ジアミノジフェニルメタン、1-メチル-3,5-ビス(メチルチオ)-2,6-ジアミノベンゼン、1-メチル3,5´-ジエチル-2,6-ジアミノベンゼン、4-4´-メチレン-ビス-(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)、4,4´-メチレン-ビス-(オルト-クロロアニリン)、4,4´-メチレン-ビス-(2,3-ジクロロアニリン)、トリメチレングリコールジ-パラ-アミノベンゾエート、4,4´-メチレン-ビス-(2,6-ジエチルアニリン)、4,4´-メチレン-ビス-(2,6-ジイソプロピルアニリン)、4,4´-メチレン-ビス-(2-メチル-6-イソプロピルアニリン)、4,4´-ジアミノジフェニルスルホンなどが利用できる。
【0056】
上記各成分以外の他に、成形物のマトリックス樹脂には、可塑剤、顔料、消泡剤、充填材、触媒、安定剤等の添加剤を配合することができる。可塑剤としては、一般にはフタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、リン酸トリクレジル(TCP)、塩素系パラフィン、フタル酸ジアルキルなどが利用できる。
【0057】
また触媒としては、酸触媒である有機カルボン酸化合物が利用され、具体的にはアゼライン酸、オレイン酸、セバシン酸、アジピン酸などの脂肪族カルボン酸、安息香酸、トルイル酸などの芳香族カルボン酸が用いられる。その他に、トリエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチレンジアミンに代表されるアミン化合物、スタナスオクトエート、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンマーカプチドに代表される有機金属化合物が適宜用いられる。
【0058】
ポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードを用いた熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体のより具体的な製造方法としては、例えば、前記イソシアネートとポリオールとを予め反応させたウレタンプレポリマーに、必要に応じて消泡剤、可塑剤などを配合し、50~80℃にて保管する。また、硬化剤を100℃以上の雰囲気温度下にて完全に溶解させた液を予め準備しておく。尚、触媒をポリウレタン原料に配合する場合は上述の硬化剤に予め攪拌混合しておくことが好ましい。
【0059】
次いで金型に炭素繊維コードをスパイラルに巻きつけた状態で、上記のウレタンプレポリマー液と、硬化剤液とを攪拌混合して金型内に注入し、一定条件下で加熱して熱硬化させることによって製造することができる。代表的なポリウレタン樹脂成形体である歯付ベルト等では、生産効率の観点から一般的に大型のベルトスリーブを作製し、その後で所定幅にカットすることによってベルトを製造することが好ましい。
【0060】
このようにして得られるポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードと、それを用いたポリウレタン樹脂成形体は、引張物性、屈曲疲労性、接着性、耐ホツレ性に優れ、そのポリウレタン樹脂成形体の具体例としては、樹脂ベルトを挙げることができる。
【実施例
【0061】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、実施例は説明のためのものであって、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本発明の実施例における評価は下記の測定法で行った。
【0062】
(1)コードの繊度、コードの径(コードゲージ)、引張強力、引張弾性率(初期引張抵抗度)
JIS L1017(2002)に準じて測定を行った。
【0063】
(2)コード曲げ強さ
JIS K7017(1999)の3点曲げ装置にて実施した。応力は、以下の式で計算できる。
曲げ強さ=(曲げ荷重)・8Lv/(π・D
[但し、Lv:エッジスパン長、D;コードゲージを示す。]
【0064】
(3)コードの引抜接着力
まず、ポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードの先端約100mmを離型剤を塗布した金型に設置した。その後、トリレンジイソシアネートとポリテトラメチレンエーテルグリコールとの反応により得られるプレポリマー100部とアミン系硬化剤(メチレンビス(2-クロロアニリン)(MOCA)17部を、それぞれ所定の温度(主原料液:60℃、硬化剤液:120℃)に加熱したのち混合し、真空脱泡した。真空脱泡後の混合液を、115℃に加熱した金型内に注入し、60℃で24時間硬化させ、熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体を得た。離型後、ポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードを熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体から引抜く際の接着力で評価した。
【0065】
(4)ポリウレタン樹脂成形体の引張強力
ポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードを、巾50mm、長さ500mm、厚み2mmの金型に8本等間隔に埋包したのち、(3)と同様に熱硬化性ポリウレタン樹脂原料を金型に注入、硬化し、平ベルト状の熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体を得た。得られたポリウレタン樹脂成形体の引張強力を測定した。
【0066】
(5)ポリウレタン樹脂成形体の屈曲疲労後強力保持率
上記の(4)で得られた平ベルト状のポリウレタン樹脂成形体に30kgの荷重をかけて直径50mmのローラーに取り付け、100℃の雰囲気下でローラー屈曲(接触)距離100mmで100rpmの往復運動をさせ、100,000回の繰返し屈曲を行ったのち、残強力を測定し、屈曲疲労後の強力保持率を求めた。
【0067】
(6)ホツレ性
上記の(4)で得られた炭素繊維コードを埋法したベルト状ポリウレタン樹脂成型体を、1°傾けた状態で切断し、コード中央で切断された部分の断面に露出した繊維コードの集束状態を目視および光学顕微鏡で観察してホツレ性を評価した。ホツレ性は以下の通り3段階で評価判定した。
[ホツレ性(屈曲疲労試験後)]
○:繊維コードのフィラメントが集束しており外観上の異常は認められず良好。
△:繊維コードの一部のフィラメントに集束不良箇所が見受けられる。
×:繊維コードのフィラメントが集束不良が発生しており、集束していない。
【0068】
[実施例1]
ソルビトールポリグリシジルエーテル構造を有するポリエポキシド化合物(「デナコールEX-614B」、ナガセケムテックス株式会社製、濃度100%)110gに、界面活性剤としてジアルキルスルホコハク酸エステルナトリウム塩水溶液(「ネオコールSW-C」、第一工業製薬株式会社製、濃度70%)30gを加えて攪拌し、これを水300gに攪拌添加して溶解させた。ここに、イソシアネート化合物として官能基が3以上であるジメチルピラゾールブロック-HDIトリマーの縮合物(「Trixene BI201」、英国Baxenden社製、濃度40%)460.0gを攪拌添加して、固形分濃度が31.5%の処理剤の水分散体を調整した後、水で希釈して20%の水分散体とした。
【0069】
800tex/12000フィラメントの炭素繊維(「UTS50」、帝人株式会社製)を1本用いて撚数60回/mのZ方向の片撚りを行い、炭素繊維撚糸コードを得た。この繊維コードをコンピュートリーター処理機(CAリッツラー社製ディップコード処理機)を用いて5m/分の速度で給糸し、前記の処理剤の水分散体に浸漬した後、定長で120℃、120秒間の乾燥、次いで定長で235℃、60秒間の熱処理を行いポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードを得た。
この炭素繊維コードには、炭素繊維撚糸コードに対して固形分換算で、エポキシ化合物およびイソシアネート化合物を構成成分とする架橋樹脂が5.5重量%付着していた。得られた炭素繊維コードと、その炭素繊維コードを用いて作製したポリウレタン樹脂成形体の性能評価結果を表1に示す。
【0070】
[実施例2]
処理剤の水分散体の濃度を実施例1の20%から25%になるよう、希釈率を変更して処理した以外は、実施例1と同様に炭素繊維コードの接着処理を行った。得られた炭素繊維処理コードとその炭素繊維コードを用いて作製したポリウレタン樹脂成形体の性能評価結果を表1にまとめて示す。
【0071】
[実施例3]
処理剤の水分散体として、イソシアネート化合物のみを用い、ポリエポキシド化合物を用いずに、20.5%の処理剤の水分散体を調整し、処理した以外は、実施例1と同様に炭素繊維コードの接着処理を行った。得られた炭素繊維処理コードとその炭素繊維コードを用いて作製したポリウレタン樹脂成形体の性能評価結果を表1にまとめて示す。
【0072】
[比較例1]
樹脂処理をせずに、撚糸のみ実施した炭素繊維処理コードとその炭素繊維コードを用いて作製したポリウレタン樹脂成形体の性能評価結果を表1にまとめて示す。
【0073】
[比較例2]
処理剤の水分散体を水で希釈せずに31.5%のまま処理した以外は、実施例1と同様に炭素繊維コードの接着処理を行ったところ、コード曲げ硬さが194MPaと硬いコードが得られた。得られた炭素繊維処理コードとその炭素繊維コードを用いて作製したポリウレタン樹脂成形体の性能評価結果を表1にまとめて示す。
【0074】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、ホツレ性が大幅に改良され、ポリウレタンとの接着性、屈曲疲労性、耐久性に優れ、伝動ベルトの心線として好適に用いられる炭素繊維コードを、提供することができ、特に摩擦伝動ベルトや歯付ベルトの心線として好適に用いることができる。