(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】接着剤塗布装置及び接着剤塗布方法、回転子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05C 5/00 20060101AFI20240404BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240404BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240404BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240404BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20240404BHJP
H02K 1/2706 20220101ALI20240404BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05C11/10
B05D7/00 N
B05D7/24 301P
B05D1/26 Z
H02K1/2706
H02K15/02 K
(21)【出願番号】P 2019194403
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】石川 雄治
(72)【発明者】
【氏名】佐野 博之
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 義浩
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-204693(JP,A)
【文献】特開2018-008210(JP,A)
【文献】特開2015-061344(JP,A)
【文献】特開2011-172347(JP,A)
【文献】特開2020-089212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00-21/00
B05D 1/00-7/26
H02K 1/2706-1/2798
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴が設けられたワークに対し、前記穴の内壁面に接着剤を塗布する装置であって、
前記ワークを保持するワーク保持部と、
液状の接着剤を微粒子化してノズルから直線的、且つ連続的に射出することにより、接着剤を非接触で塗布するジェット式のディスペンサと、
前記ワークの穴に対する前記ディスペンサのノズルの相対位置を自在に移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御して前記ワークの位置決め、前記ワークに対する前記ノズルの相対位置決め、及び前記ノズルの移動を含む接着剤の塗布作業を自動で実行させる制御装置とを備え、
前記穴が延びる方向と直交する方向に2つの前記ディスペンサが対称的に設けられており、
前記穴の内壁面に対し前記ノズルから斜め方向に接着剤を射出塗布させ、斜め方向となる角度は、前記穴の外部に位置する前記ノズルから直線的に射出する接着剤が前記穴の開口部に干渉せずに所望の深さの前記穴の内壁面に塗布できる角度で
あり、
2つの前記ディスペンサによる塗布を交互に実行する接着剤塗布装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記穴の内壁面に対し前記ノズルを平行移動させながら塗布を実行させる請求項1に記載の接着剤塗布装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記ノズルを前記ワークの上方に配置して、前記穴に対して上方から接着剤の塗布作業を行う請求項1または2に記載の接着剤塗布装置。
【請求項4】
前記穴の内壁面を撮影する画像センサを備え、
前記制御装置は、前記接着剤の塗布後の前記画像センサの撮影画像から、接着剤の塗布作業が適切に行われたかを確認する請求項1から3のいずれか一項に記載の接着剤塗布装置。
【請求項5】
穴が設けられたワークに対し、前記穴の内壁面に接着剤を塗布するための方法であって、
液状の接着剤を微粒子化してノズルから直線的、且つ連続的に射出することにより、接着剤を非接触で塗布するジェット式のディスペンサにより、前記ワークの穴に対し前記ディスペンサのノズルを移動させながら接着剤を塗布させる接着剤塗布工程を含むと共に、
前記接着剤塗布工程においては、前記穴が延びる方向と直交する方向に2つの前記ディスペンサを対称的に設け、前記穴の内壁面に対し前記ノズルから斜め方向に接着剤を射出塗布させると共に、斜め方向となる角度を、前記穴の外部に位置する前記ノズルから直線的に射出する接着剤が前記穴の開口部に干渉せずに所望の深さの前記穴の内壁面に塗布できる角度と
し、
2つの前記ディスペンサによる塗布を交互に実行する接着剤塗布方法。
【請求項6】
前記接着剤塗布工程においては、前記穴の内壁面に対し前記ノズルを平行移動させながら塗布を実行させる請求項5に記載の接着剤塗布方法。
【請求項7】
前記接着剤塗布工程においては、前記ノズルを前記ワークの上方に配置し、前記穴に対して上方から接着剤の塗布作業を行う請求項5または6に記載の接着剤塗布方法。
【請求項8】
前記穴の内壁面を画像センサにより撮影し、その撮影画像から接着剤の塗布作業が適切に行われたかを確認する検査工程を実行する請求項5から7のいずれか一項に記載の接着剤塗布方法。
【請求項9】
回転子鉄心に軸方向に貫通するように設けられた複数の穴に対し、永久磁石を埋め込むように設けて構成される回転子を製造する方法であって、
前記回転子鉄心の穴に対し、ジェット式のディスペンサにより液状の接着剤を微粒子化してノズルから直線的、且つ連続的に射出することにより、前記穴の内壁面に接着剤を非接触で塗布する接着剤塗布工程と、
内面に接着剤が塗布された前記穴内に前記永久磁石を挿入して接着固定する磁石挿入工程とを含み、
前記接着剤塗布工程においては、前記穴が延びる方向と直交する方向に2つの前記ディスペンサを対称的に設け、前記穴の内壁面に対し前記ノズルから斜め方向に接着剤を射出塗布させると共に、斜め方向となる角度を、前記穴の外部に位置する前記ノズルから直線的に射出する接着剤が前記穴の開口部に干渉せずに所望の深さの前記穴の内壁面に塗布できる角度と
し、
2つの前記ディスペンサによる塗布を交互に実行する回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、接着剤塗布装置及び接着剤塗布方法、回転子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば永久磁石式の回転電機の回転子は、回転子鉄心に軸方向に貫通するように設けられた複数の磁石挿入穴に対し、永久磁石を埋め込むように設けて構成される。この場合、前記磁石挿入穴の内面に接着剤が塗布され、永久磁石がその磁石挿入穴内に挿入されて接着により固定される。特許文献1には、回転子鉄心の磁石挿入穴内に接着剤を塗布して、永久磁石を接着することが開示されている。接着剤を塗布するにあたっては、ヘラの先端上に接着剤を載せ、ヘラを磁石挿入穴内に水平に挿入して、挿入穴の内面に押し付けて接着剤を塗布するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、この種の回転子として、回転子鉄心の外周寄り部分に薄型の永久磁石を二層に配置したダブルレイヤタイプのものが開発されてきている。この場合、永久磁石を挿入する磁石挿入穴は薄型で偏平なものとなり、このような偏平形状の磁石挿入穴の内面に対して接着剤を塗布する必要が生ずる。具体的には、磁石挿入穴の高さ方向の寸法が、2.0mm以下となるものも開発されてきている。
【0005】
ところが、上記特許文献1に記載されたようなヘラを用いた接着剤の塗布方法では、ヘラの厚み寸法が0.8mmであるのに対し、その上面に供給される接着剤が、1~2mm程度の高さで盛り上がった形態とされる。そのため、薄型で偏平な磁石挿入穴に対しては、ヘラを磁石挿入穴に挿入して接着剤を塗布する作業が困難となる。
そこで、本願は、偏平形状を有する穴の内面に接着剤を塗布するものであって、薄型の穴に対しても接着剤の塗布作業を良好に行うことができる接着剤塗布装置及び接着剤塗布方法、回転子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る接着剤塗布装置は、穴が設けられたワークに対し、前記穴の内壁面に接着剤を塗布する装置であって、前記ワークを保持するワーク保持部と、液状の接着剤を微粒子化してノズルから直線的、且つ連続的に射出することにより、接着剤を非接触で塗布するジェット式のディスペンサと、前記ワークの穴に対する前記ディスペンサのノズルの相対位置を自在に移動させる移動機構と、前記移動機構を制御して前記ワークの位置決め、前記ワークに対する前記ノズルの相対位置決め、及び前記ノズルの移動を含む接着剤の塗布作業を自動で実行させる制御装置とを備え、前記穴が延びる方向と直交する方向に2つの前記ディスペンサが対称的に設けられており、前記穴の内壁面に対し前記ノズルから斜め方向に接着剤を射出塗布させ、斜め方向となる角度は、前記穴の外部に位置する前記ノズルから直線的に射出する接着剤が前記穴の開口部に干渉せずに所望の深さの前記穴の内壁面に塗布できる角度であり、2つの前記ディスペンサによる塗布を交互に実行する。
【0007】
実施形態に係る接着剤塗布方法は、穴が設けられたワークに対し、前記穴の内壁面に接着剤を塗布するための方法であって、液状の接着剤を微粒子化してノズルから直線的、且つ連続的に射出することにより、接着剤を非接触で塗布するジェット式のディスペンサにより、前記ワークの穴に対し前記ディスペンサのノズルを移動させながら接着剤を塗布させる接着剤塗布工程を含むと共に、前記接着剤塗布工程においては、前記穴が延びる方向と直交する方向に2つの前記ディスペンサを対称的に設け、前記穴の内壁面に対し前記ノズルから斜め方向に接着剤を射出塗布させると共に、斜め方向となる角度を、前記穴の外部に位置する前記ノズルから直線的に射出する接着剤が前記穴の開口部に干渉せずに所望の深さの前記穴の内壁面に塗布できる角度とし、2つの前記ディスペンサによる塗布を交互に実行する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態を示すもので、接着剤塗布装置の構成を概略的に示す斜視図
【
図5】作業時におけるノズルと磁石挿入穴との位置関係を示す側面図
【
図6】塗布作業におけるノズルの移動パターンを示す図(
図5のa方向矢視図)
【
図9】ノズルの傾斜角度の最小角度、最大角度を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、回転子鉄心の磁石挿入穴に対する永久磁石の接着作業に適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、永久磁石式の回転電機の回転子の製造に適用している。まず、
図8は、本実施形態において接着剤の塗布対象となるワークとしての、いわゆるダブルレイヤタイプの回転子鉄心1の外観構成を示している。この回転子鉄心1は、例えば電磁鋼板を所定の形状即ちほぼ円板状に打抜き、その打抜いた電磁鋼板を複数枚積層して構成されている。回転子鉄心1の中心部には、図示しない回転軸が挿入される軸孔1aが形成されている。
【0010】
そして、回転子鉄心1の外周寄り部分には、図示しない永久磁石が挿入されて接着固定される穴としての磁石挿入穴2、3が、軸方向に貫通して形成されている。具体的には、磁石挿入穴2は、偏平形状、つまり細長い形状を有し、2個が逆「ハ」の字形をなすような対となって、円周方向に均等に並んで例えば8組即ち8対形成されている。磁石挿入穴3は、やはり偏平形状つまり細長い形状を有し、前記磁石挿入穴2の外周側に位置して、2個が逆「ハ」の字形をなすような対となって例えば8組即ち8対形成されている。
【0011】
このとき、外周側の磁石挿入穴3は、内周側の磁石挿入穴2よりも小さく構成されている。ちなみに、磁石挿入穴2は、例えば、幅寸法が15mm、高さ即ち厚み寸法が3mmとされている。これに対し、磁石挿入穴3は、例えば、幅寸法が9mm、高さ即ち厚み寸法が2mmとされている。挿入・接着される永久磁石は、それら磁石挿入穴2、3の寸法に対応した大きさとされることは勿論であり、例えば縦横共に0.1mmだけ小さい寸法とされる。
【0012】
次に、上記回転子鉄心1に形成された磁石挿入穴2、3の内面に対して、永久磁石を固定するための接着剤を塗布する、接着剤塗布装置11の構成について、
図1~
図7を参照して述べる。
図1~
図3は、本実施形態に係る接着剤塗布装置11の外観構成を概略的に示している。ここで、接着剤塗布装置11は、上面が水平な台状をなすベース12上に、ワーク保持部としてのインデックステーブル13、ジェット式のディスペンサからなるディスペンスヘッド14、移動機構となるロボット15、画像センサ16等を備える。
【0013】
このとき、前記ロボット15及びディスペンスヘッド14、並びに画像センサ16については、ベース12上の左右に位置して2組が対称的に設けられている。そして、この接着剤塗布装置11は、前記各機構13~16を制御する制御装置17(
図7にのみ図示)を備えている。尚、接着剤塗布装置11は、固有のXYZ座標系を有しており、以下の説明においては、ベース12の図で左右方向をX方向、前後方向をY方向、上下方向をZ方向として説明する。
【0014】
前記インデックステーブル13は、
図2等に示すように、前記回転子鉄心1をその中心軸Oが垂直となるように保持すると共に、モータを含む回転駆動機構により保持した回転子鉄心1を前記中心軸O周りに自在に回転させるように構成されている。この場合、インデックステーブル13は、接着剤の塗布対象となる磁石挿入穴2、3が、順次所定の塗布位置に来るように回転子鉄心1を移動させるようになっており、その塗布位置では、磁石挿入穴2、3の延びる方向即ち長手方向が、前後方向であるY方向に一致される。これにより、接着剤の塗布作業時には、磁石挿入穴2、3の接着剤が塗布される内面は、YZ平面に平行な面とされる。
【0015】
前記ロボット15は、
図1等に示すように、この場合、周知の直交座標型ロボットからなり、Z軸移動機構18とY軸移動機構19とを備えている。前記Z軸移動機構18は、上下方向に延びるZ軸レール20に沿って移動可能に設けられた移動体21を、Z軸モータ22を駆動源とした駆動機構により上下方向に自在に移動させるように構成されている。Y軸移動機構19は、前記Z軸移動機構18を、前後方向に延びるY軸レール23に沿って移動可能に支持し、Y軸モータ24を駆動源とした駆動機構により前後方向に自在に移動させるように構成されている。尚、前記Y軸移動機構19のY軸レール23は、いわゆる門型の支持部25を介してベース12の上方に支持されているが、
図1~
図3では、左側のロボット15における支持部25の図示を省略している。
【0016】
前記移動体21には、次に述べるディスペンスヘッド14が取付けられる。これにより、ロボット15は、ディスペンスヘッド14を、Y方向即ち前後方向及びZ方向即ち上下方向の任意の位置に自在に移動させることができる。この場合、ロボット15は、ディスペンスヘッド14のノズル(後述)を、前記塗布位置の上方、即ち、インデックステーブル13に保持された回転子鉄心1の所定の磁石挿入穴2、3の外部である上方に位置させる。これにて、詳しくは後述するように、磁石挿入穴2、3の内壁面に対して、接着剤を上方から非接触で塗布する塗布作業が実行されるようになっている。
【0017】
前記ディスペンスヘッド14は、接着剤を非接触で塗布するものであり、液状の接着剤を微粒子化してノズルから直線的且つ連続的に射出する周知のジェット式のディスペンサからなる。
図4では、接着剤の微粒子を符号Aで示している。
図4にも示すように、ディスペンスヘッド14は、本体部26と、液状の接着剤を貯留するシリンジ27等を備えている。前記本体部26の下端部には、下向きのノズル28が設けられている。本実施形態では、前記ノズル28として、内径がごく小径のもの、例えば0.1mmφのものが採用されている。また、前記接着剤としては、粘度が100Pa・s程度のものが使用される。検査工程での視認性を良くするために、接着剤に所定の着色を行っても良い。
【0018】
詳しく図示はしないが、前記本体部26は、矩形状のケース内に、前記シリンジ27から接着剤が供給される液体チャンバや、液体チャンバの接着剤を微粒子化し、所定量の液滴を押出して前記ノズル28から下方に直線的且つ連続的に射出させる例えばピエゾ駆動方式のバルブアクチュエータ等を備えている。このものでは、例えば0.04mL/回、500Hz即ち500個/sで接着剤を直線的に連射することが可能である。また、使用する接着剤の粘度として、200Pa・s程度まで対応が可能である。
【0019】
このディスペンスヘッド14は、前記ロボット15の移動体21の取付フランジに取付けられる。このとき、
図5に示すように、ディスペンスヘッド14のノズル28は、垂直軸即ちZ軸に対して、傾斜した形態で配置されている。これにより、
図5に示すように、回転子鉄心1の磁石挿入穴2、3の内壁面に対して、前記ノズル28から斜め方向から接着剤Aを射出塗布させるようになっている。また、その際の傾斜角度θは、磁石挿入穴2、3の外部に位置するノズル28から直線的に射出する接着剤Aがそれら磁石挿入穴2、3の開口部に干渉せずに所望の深さの磁石挿入穴2、3の内壁面に塗布できる角度とされる。より詳細には、次に述べるように、ノズル28の傾斜角度θは、最小角度θsと最大角度θmとの間の範囲内とされている。具体例をあげると、傾斜角度θは、例えば、4°~10°の範囲内とされる。
【0020】
ここで、
図9を参照して、ノズル28の傾斜角度θの、磁石挿入穴2、3の開口部に干渉せずに接着剤Aの射出塗布が可能な最小角度θs、最大角度θmについて述べる。
図9は、磁石挿入穴2、3部分の断面の状態を示している。最小角度θs、最大角度θmは、磁石挿入穴2、3の開口高さ寸法h、つまり塗布対象となる内壁面のそれと対向する内壁面との間の距離h、磁石挿入穴2、3の内壁面に対する開口部からの塗布深さ寸法z、接着剤Aの塗布厚み寸法tに関係する。即ち、最小角度θs、最大角度θmは、次の式で表すことができる。
最小角度θs=DEG(ATAN(h/2/z))
最大角度θm=DEG(ATAN((h/2-t)/z))
また、
図9には、開口高さ寸法hの異なる2種類の穴について、最小角度θs、最大角度θmを計算した結果を、併せて示している。
尚、このとき、塗布条件としては、1)接着剤Aを、穴の両面(図で上下面)に塗布する、2)塗布は穴の奥側から開口側に向けて行う、3)角度θは大きい方が塗布量即ち塗布厚や塗布幅を制御しやすい、4)角度θは接着剤Aの塗布厚みの影響を受ける、5)穴の両側の開口から塗布を行うとは限らず、鉄心厚みや開口高さ寸法hによっては片側からで済ませる、ものとしている。
【0021】
また、
図2等に示すように、前記画像センサ16は、例えばCCDカメラ等からなり、前記インデックステーブル13の斜め上方に位置して、前記Y軸レール23の下方に取付けられている。これにて、画像センサ16により、前記回転子鉄心1の塗布位置に位置している磁石挿入穴2、3の内壁面を撮影することが可能とされている。後述するように、前記制御装置17は、接着剤の塗布後の前記画像センサ16の撮影画像から、磁石挿入穴2、3の内壁面に対する接着剤の塗布作業が適切に行われたかを確認する検査工程を実行する。
【0022】
図7は、前記制御装置17を中心とした電気的構成を概略的に示している。ここで、前記制御装置17は、コンピュータを含んで構成され、前記インデックステーブル13を制御すると共に、前記ロボット15、ディスペンスヘッド14を制御する。また、制御装置17には、前記画像センサ16からの信号が入力される。尚、画像センサ16の撮影画像を表示するモニタを設け、作業者により確認できる構成としても良い。制御装置17は、予め入力設定された制御プログラムや動作用データ、リアルタイムで入力されるセンサ信号等に基づいて、インデックステーブル13、ロボット15、ディスペンスヘッド14等を制御する。これにて、制御装置17は、回転子鉄心1の磁石挿入穴2、3に対する接着剤塗布の作業、即ち、前記回転子鉄心1の位置決め、前記回転子鉄心1に対する前記ノズル28の相対位置決め、及び前記ノズル28の移動を含む本実施形態に係る接着剤塗布方法の各工程を実行させる。
【0023】
本実施形態の接着剤塗布装置11においては、制御装置17により、以下のような塗布作業が実行される。即ち、まず、インデックステーブル13により、接着剤の塗布対象となる磁石挿入穴2、3が塗布位置に来るように回転子鉄心1が回転方向に移動され位置決めされる位置決め工程が実行される。この回転子鉄心1の位置決め状態では、磁石挿入穴2、3の延びる方向がY軸方向に平行とされる。次いで、ロボット15によりディスペンスヘッド26を移動させながら、磁石挿入穴2、3の内壁面に対し、斜め上方に位置されるノズル28から連続的に接着剤の微粒子Aを射出させて接着剤を塗布させる接着剤塗布工程が実行される。
【0024】
このとき、本実施形態では、上記したように、磁石挿入穴2、3の内壁面に対し、ディスペンスヘッド26のノズル28から傾斜角度θで斜め方向に接着剤Aを射出塗布させる。そして、前記ロボット15により、ディスペンスヘッド14即ちノズル28を平行移動させながら塗布を実行させる。具体的には、
図6にディスペンスヘッド14のノズル28の移動パターン、即ち磁石挿入穴2、3の内壁面に対して接着剤Aが当たる軌跡(
図5のa方向矢視図)を矢印で示す。例えば、ノズル28は、前から後方に向けて、磁石挿入穴2、3の幅寸法に対応して所定長さ移動され(1)、次いで、上方に若干量例えば1.8mmだけ移動され、今度は後ろから前方に向けて所定長さ移動され(2)、再び上方に若干量だけ移動される。
【0025】
同様の動作を、(3)、(4)、(5)と繰返して、磁石挿入穴2、3の内壁面に、例えば5本の平行線を描くようなパターンで接着剤が塗布されるようになる。塗布速度は、例えば70mm/sとされている。この場合、磁石挿入穴2、3の延びる方向はY軸方向に平行なので、ディスペンスヘッド14のノズル28は、X軸方向には移動せず、Y軸及びZ軸方向に移動制御される。これにより、磁石挿入穴2、3の内壁面には、接着剤が四角形の範囲に全体として薄く供給されるようになる。
【0026】
また本実施形態では、接着剤塗布工程が終了すると、磁石挿入穴2、3の内壁面に塗布された接着剤を画像センサ16で撮影し、その撮影画像から接着剤の塗布作業が適切に行われたかを確認する検査工程が実行される。もし、磁石挿入穴2、3の内壁面に対する接着剤の塗布不良、例えば塗布量の不足や未塗布等が発生したと判定された場合には、エラー報知或いは接着剤塗布工程の再実行が行われる。撮影画像から接着剤の供給が適切に行われたと判定された場合には、次の磁石挿入穴2、3が塗布位置に来るように位置決め工程が実行され、更に接着剤塗布工程が実行される。
【0027】
以上のような工程からなる塗布作業は、左右2台のロボット15及びディスペンスヘッド14並びに画像センサ16により、例えば交互に連続的に繰り返して実行される。全ての磁石挿入穴2、3に対する接着剤の塗布作業が終了すると、回転子鉄心1は、次の工程に送られ、各磁石挿入穴2、3に夫々永久磁石を挿入して接着する作業、即ち磁石挿入工程が実行され、回転子が得られる。
【0028】
このような本実施形態の接着剤塗布装置11及び接着剤塗布方法によれば、次のような作用、効果を得ることができる。即ち、本実施形態では、ディスペンスヘッド14として、接着剤を微粒子化してノズル28から直線的、且つ連続的に射出することにより、接着剤を非接触で塗布するジェット式のディスペンサを採用している。このディスペンスヘッド14にあっては、ノズル28として、ごく細径のものを採用することができ、小さい磁石挿入穴2、3内でも、その内壁面に、接着剤を噴射塗布することが可能となる。
【0029】
このとき、ノズル28の相対位置の制御により、磁石挿入穴2、3の内壁面に対し斜め方向から接着剤を射出塗布させると共に、その際の傾斜角度θを、上記した計算式で求められる最小角度θsと最大角度θmとの間の範囲内とした。本発明者らの研究によれば、そのような斜め方向からの射出塗布によって、小さな磁石挿入穴2、3に対しても高精度で塗布作業を行うことができる。磁石挿入穴2、3の開口部の周囲といった不要な部位に接着剤Aが塗布されることもなく、他の部分への汚染を防止することができる。
【0030】
また、ディスペンスヘッド14は、接着剤を射出する際の応答性が良く、高速での塗布でありながら、塗布量のばらつきは少なく、目的とする位置や範囲に対して非接触で均一に安定して接着剤を塗布することができる。ちなみに、本発明者らの実施した塗布量のばらつき評価の試験において、塗布量を常にばらつきなく一定にすることができるという極めて優れた結果が得られた。
【0031】
従って、本実施形態によれば、回転子鉄心1の偏平形状を有する各磁石挿入穴2、3の内面に、永久磁石を接着するための接着剤を塗布するものにあって、従来のようなヘラを用いるものと異なり、薄型の磁石挿入穴2、3に対しても接着剤の塗布作業を良好に行うことができるという優れた効果を奏する。
【0032】
このとき、本実施形態では、磁石挿入穴2、3の内壁面に対し、ディスペンスヘッド14のノズル28を平行移動させながら塗布作業を実行させるように構成した。これにより、磁石挿入穴2、3の内壁面に接着剤を線状に塗布することを、ノズル28を平行移動させながら繰り返し、いわばスキャンして所定のパターンで接着剤を塗布することができる。この結果、磁石挿入穴2、3の内壁面の広い範囲に、塗布精度良く、高速で安定して塗布作業を行うことができる。ひいては、スループットや歩留まりを高めることができる。
【0033】
また本実施形態では、ノズル28を回転子鉄心1の上方に配置して、上下向きの磁石挿入穴2、3に対して上方から接着剤の塗布作業を行う構成とした。これにより、ノズル28により上方から接着剤を射出塗布することにより、横向き或いは上向きの場合と比較して、磁石挿入穴2、3の内壁面に対し、精度良く接着剤を当てることができ、安定して塗布作業を行うことができる。
【0034】
特に本実施形態では、画像センサ16を設け、磁石挿入穴2、3の内壁面を画像センサ16により撮影し、その撮影画像から接着剤の塗布作業が適切に行われたかを確認する構成とした。これにより、画像センサ16の撮影画像に基づいて磁石挿入穴2、3の内壁面に対する接着剤の塗布状況、即ち塗布量、塗布面積、塗布位置等を確認することができるので、塗布状態が不良のまま次工程に進むことを防止でき、確実な塗布作業ひいては磁石の接着作業を行うことができる。
【0035】
尚、上記実施形態では、接着剤塗布装置における移動機構即ちロボットとして、2軸の直交座標型ロボットを採用したが、それに限定されるものではなく、3軸以上の多関節形ロボット等を採用しても良い。また、移動機構として、ディスペンスヘッドをX方向に移動させる機構、或いは、ディスペンスヘッドの角度、つまり穴に対するノズルの角度を自在に変更する構成を付加するようにしても良い。ディスペンスヘッドのノズルに対してワーク側を移動させながら塗布作業を行う構成としても良い。1台或いは3台以上ディスペンスヘッド及びロボットを設けて、塗布作業を行うようにしても良い。
【0036】
上記実施形態においては、接着剤の塗布の対象として回転電機の回転子の回転子鉄心1を例にあげたが、ワークとしてはそれに限定されるものではなく、穴の形状などについても、様々な変更が可能である。また、画像センサを用いた確認の工程は必要に応じて設ければ良い。更には、穴の内壁面に対して、接着剤を塗布するパターンつまりノズルを移動させるパターンについても、様々な変形が可能であることは勿論である。その他、ノズルの内径寸法や傾斜角度、穴の寸法やディスペンスヘッドの駆動周波数、接着剤の粘度等の具体的数値についても一例をあげたものに過ぎず、適宜変更できることは勿論である。
【0037】
以上説明した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
図面中、1は回転子鉄心(ワーク)、2、3は磁石挿入穴(穴)、11は接着剤塗布装置、12はベース、13はインデックステーブル(ワーク保持部)、14はディスペンスヘッド(ジェット式のディスペンサ)、15はロボット(移動機構)、16は画像センサ、17は制御装置、28はノズルを示す。