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特許7465653振動構造ジャイロスコープ、およびジャイロスコープの較正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】振動構造ジャイロスコープ、およびジャイロスコープの較正方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 19/5684 20120101AFI20240404BHJP
【FI】
G01C19/5684
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019229186
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2020101546
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】1821021.1
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508296554
【氏名又は名称】アトランティック・イナーシャル・システムズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Atlantic Inertial Systems Limited
【住所又は居所原語表記】Clittaford Road,Southway,Plymouth,Devon PL6 6DE,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】マシュー ウィリアムソン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン キース シェアド
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー エム グレゴリー
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-529716(JP,A)
【文献】特表2011-528103(JP,A)
【文献】特開平06-281661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/5684
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動構造ジャイロスコープであって、
永久磁石と、
前記永久磁石の磁場内に配置され、少なくとも1つの一次駆動電極からの刺激で振動するように構成された構造と、
共振周波数で前記構造を振動させるように構成された駆動システムであって、
記構造に運動を誘発するように構成された前記少なくとも1つの一次駆動電極と、
記構造内の運動を感知するように構成された少なくとも1つの一次感知電極と、
前記一次感知電極に依存する前記一次駆動電極を制御する駆動制御ループと、
を備える、前記駆動システムと、
前記駆動制御ループ内の利得を表す信号を前記駆動システムから受信するように構成され、その信号に基づいて前記振動構造ジャイロスコープのレート信号に適用するためのスケールファクタ補正を出力するように構成された補償ユニットと、
を備え、
前記補償ユニットが、前記駆動システムからの前記信号、及び較正手続き中に得られた前記信号の保存された基準値に基づいて、前記スケールファクタ補正を出力するように構成されており、
前記補償ユニットが、前記駆動システムからの前記信号レベル、磁場強度、及びスケールファクタ誤差の間の既知の関係にさらに基づいて、前記スケールファクタ補正を出力するように構成されている、振動構造ジャイロスコープ。
【請求項2】
前記駆動システムからの前記信号が、
前記一次駆動電極のための駆動信号の振幅、
前記一次感知電極からの前記信号の振幅、
前記駆動制御ループの前記利得、
のうち1つ以上を含む、請求項1に記載の振動構造ジャイロスコープ。
【請求項3】
前記補償ユニットが、前記駆動システムからの前記信号に従ってスケールファクタ補正値を提供するように構成されたルックアップテーブルを含む、請求項1または2に記載の振動構造ジャイロスコープ。
【請求項4】
前記補償ユニットが、温度信号を受信し、前記駆動システムからの前記信号と前記温度信号の両方に基づいてスケールファクタ補正を出力するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の振動構造ジャイロスコープ。
【請求項5】
前記補償ユニットが、前記駆動システムからの前記信号と前記温度信号の両方に応じてスケールファクタ補正値を提供するように構成されたルックアップテーブルを含む、請求項4に記載の振動構造ジャイロスコープ。
【請求項6】
記構造の前記振動を感知するように構成され、かつ前記感知した振動に基づいて角速度信号を出力するように構成された感知システムをさらに含み、
前記振動構造ジャイロスコープが、前記スケールファクタ補正を前記角速度信号に適用し、前記振動構造ジャイロスコープの出力を提供するように構成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の振動構造ジャイロスコープ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のジャイロスコープを提供することと、
前記ジャイロスコープが回転していないときに、テスト環境で前記駆動システムからの前記信号の強度を評価することと、
前記駆動システムからの前記信号から前記スケールファクタ補正を決定できる、その評価に基づいた情報を前記補償ユニットに保存することと、
を備えた、ジャイロスコープの較正方法。
【請求項8】
前記駆動システムからの前記信号の前記強度と前記永久磁石の前記磁場の前記強度との間の関係に関する情報を前記補償ユニットに保存することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記評価するステップが、温度範囲にわたって前記駆動システムの前記強度を評価することを含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記保存するステップが、ルックアップテーブルに前記情報を保存することを含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、振動構造ジャイロスコープ、特に、角速度(複数可)を測定するための微小電気機械システム(MEMS)ベースの、例えば、慣性計測装置(IMU)内の振動構造ジャイロスコープに関する。本開示は、特に誘導型ジャイロスコープに関する。
【背景技術】
【0002】
ジャイロスコープは角速度(すなわち回転速度)を測定するセンサである。ジャイロスコープは、慣性航法、ロボット工学、航空電子工学、自動車など、多くの用途で使用されている。慣性航法の用途では、ジャイロスコープは「慣性計測装置」(IMU)として既知の内蔵型システムにおいて見られ得る。IMUは通常、複数の加速度計及び/またはジャイロスコープを含んでおり、ジャイロスコープ(複数可)及び/または加速度計(複数可)の出力に基づいて、角速度、加速度、姿勢、位置、速度などの対象物の移動パラメータの推定値を提供する。
【0003】
MEMSベースのジャイロスコープは、近年普及してきており、多くの場合、従来式の巨視的なジャイロスコープよりもはるかに効果的である。MEMSベースのジャイロスコープは、通常、振動構造を使用して実装されており、当技術分野においては、多くの場合、「振動構造ジャイロスコープ」または「VSG」と称される。振動構造ジャイロスコープは、一般に、振動するように配置された微細加工されたマスを含んでいる。振動構造ジャイロスコープの典型的な実施例には、振動リングジャイロスコープ、振動音叉ジャイロスコープ、並びに、例えば、梁、円柱、半球シェル、及びディスクを含む他の振動構造が挙げられる。
【0004】
一般的な動作では、微細加工されたマスは、事前に規定された振動モードで、通常はcos nθモードの振動(例えばn=2)で振動するように駆動される。振動の駆動モードは通常、一次モードと称される。ジャイロスコープが回転すると、コリオリ力が振動マスに及び、この力がマスを一次モードとは異なる振動の二次モードで振動させ得る。通常、振動の二次モードは一次モードに加えて発生し、二次モードにより、一次モードの所定の振動とは異なる方向に沿ってマスが振動する。
【0005】
二次モードの振動の振幅は回転速度に比例しているため、(例えば、秒あたりの度数で測定した)角速度が適切なセンサ(例えば、誘導型または容量型トランスデューサなどのトランスデューサ)を使用して二次振動の振幅を直接検出することによって決定されることができる(これは「開ループ測定」として知られている)。代替的に、角速度は、復元力を適用して二次モードの振動を無効にし、それによってマスを一次モードのみで振動し続けるようにすることによって測定され得る。復元力は通常、二次振動の検出された振幅に基づいている。復元力は適用された角速度に比例するため、二次モードを無効にするために必要な信号の振幅は角速度の測定値を提供する。この後者の方法は、「閉ループ測定」として当技術分野において公知である。角速度を測定する方法の実施例は、例えば、米国特許第5,419,194号及び米国特許8,347,718号において議論されている。
【0006】
永久磁石を使用する振動構造ジャイロスコープの問題は、磁石が経時的に劣化するとジャイロスコープの性能が低下する可能性があることである。(容量型または圧電型とは対照的に)誘導型ジャイロスコープは、永久磁石を使用して、動作の一部として磁場を形成する。誘導型ジャイロスコープ構造の一実施例が図1に示されている。誘導型ジャイロスコープ1は、下部磁極片20、上部磁極片24、及びそれらの間に挟まれた永久磁石22を備えている。振動リング10は、上部磁極片24と下部磁極片20との間に配置され、これら2つの磁極片の間に形成される磁場内に位置するようになっている。振動リング10は、上記のように振動できるように、リング10の半径方向外縁から支持フレーム12まで延びる外部取り付け脚(図示せず)を介して取り付けられている。支持フレーム12は、通常、ガラス台座14に取り付けられており、次いで、ガラス台座14は通常、ガラス基板16に取り付けられている。
【0007】
使用中、磁束線はジャイロスコープ構造(すなわちリング10)を貫通する。導電性トラックがジャイロスコープ構造に形成され、(通常は取り付け脚の1つに沿って通過して)次いで、同一または異なる取り付け脚に沿って戻る前にリング構造の局所部分にループを形成する。交流電流は、ジャイロスコープ構造上のこれらの導電性トラックを貫通し、対応する交番磁界を生成する。この磁界と永久磁石の間の引力と反発力は、ジャイロスコープ構造内に振動を生成する。典型的な配置の1つでは、それら8つのループは(直径方向に対向するループが対を形成して)4つの対になるよう形成される。これらの対は、振動の一次モードを駆動し、振動の一次モードを感知(すなわちピックオフ)し、振動の二次モードを感知し、(閉ループ動作の場合)リング構造を駆動して、振動の二次モードを無効にするために使用される。
【0008】
ジャイロスコープのスケールファクタは、システムの一次ドライブの利得、すなわち振動構造の振動の振幅を維持する駆動ループの利得に依存している。振動構造にかかる力が磁場の強さに依存し、同様に一次駆動ピックオフ信号の強さが、磁場の強さに依存しているように、この利得の駆動要因の1つは、永久磁石の強度である。同様に、二次ピックオフからの出力は、振動構造に対する二次駆動の影響のように磁場の強さに依存している。
【0009】
磁石が老化すると、磁場の強度は時間経過とともにゆっくりと減衰する。これにより、ジャイロスコープのスケールファクタ誤差が徐々に増加することになる。磁石の電界強度の変化は、短期的には小さいが(通常、高温などのかなり厳しい動作条件下であっても毎年100ppmから1000ppmの間であり)、しかし時間が経過するにつれて、これはスケールファクタに著しく寄与するように増大することがある。例えば、一部のジャイロスコープは、20年の耐用年数を有するように設計されている。このような時間尺度では、磁石の磁場強度の変化により、(磁場強度の2%の変化が、二次駆動及び二次ピックオフにおける組み合わせ効果によって、スケールファクタにおける4%の変化となる)最大約4%のスケールファクタの変化が生じることがある。高精度で高感度のジャイロスコープの場合、このスケールファクタの変化が大きくなることがあるため、磁場強度の変化を低減することが望ましい。
【0010】
磁石の経年劣化を補償する際の主な問題は、それが時間依存性であるが、ジャイロスコープには初期の工場較正からの時間を測定するクロックを有していないことである(導入することは実用的でなく、望ましくもない)。従って、磁場の劣化は、(例えば、製造時に)較正中に確認された元のスケールファクタと比較した場合、スケールファクタに未知の劣化を引き起こす。既存システムは、代わりに、製品耐用年数にわたる劣化の全体的な影響の事前算出された推定値を取得し、平均値を取得し、それを一定のスケールファクタ補正として適用して、ジャイロスコープのスケールファクタ補償がその耐用年数の前半で改善されるようにし、耐用年数の半分辺りで最適値に近づき、耐用年数の後半で再び劣化するようになる。高い精度が要求されないシステムの場合、この手法は非常に適切である。しかし、高精度システムでは、製品の耐用年数の極限において精度に制限が課される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明は、改善されたジャイロスコープを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示によれば、永久磁石と、永久磁石の磁場内に配置され、少なくとも1つの一次駆動電極からの刺激下で振動するように構成された構造と、共振周波数で振動構造を振動させるように構成された駆動システムであって、振動構造に運動を誘発するように構成された少なくとも1つの一次駆動電極、振動構造内の運動を感知するように構成された少なくとも1つの一次感知電極、及び一次感知電極に依存する一次駆動電極を制御する駆動制御ループを備える駆動システムと、駆動制御ループ内の利得を表す信号を駆動システムから受信するように構成され、その信号に基づいてスケールファクタ補正を出力するように構成された補償ユニットと、を含む振動構造ジャイロスコープが提供されている。
【0013】
振動構造ジャイロスコープの駆動システムは、フィードバックループ(駆動制御ループ)を含み、フィードバックループは、製品の耐用年数にわたり、様々な温度にわたり、様々な動作条件にわたってジャイロスコープの振動構造の正しい振幅を維持するように試みる。一次感知電極(一次ピックオフ電極としても知られる)は、振動構造の動きから信号を生成する。必要なフィードバックを提供するために、駆動制御ループが、一次感知電極からの信号を測定し、一次駆動電極に比例信号を適用する必要がある。この増幅に必要な利得の量が調整され、共振運動の望ましい振幅を達成及び維持するようになっている。従って、駆動制御ループは通常、利得を調整して安定した共振を維持するようにする自動利得制御(AGC)を含むことになる。駆動制御ループはまた、通常、位相ロックループ(PLL)を含むことになり、振動構造の共振周波数と同じ位相と周波数での一次駆動電極への駆動信号の位相と周波数を維持するようになっている。
【0014】
磁石が劣化すると(例えば、材料の自然な経年変化により)、磁場は弱まる。その結果、振動構造において誘導される運動の振幅が減少し、一次感知電極で検出されるピックオフ信号の振幅が減少する。これを補償するために、一次駆動制御ループが自動的に利得を増加させる。従って、駆動制御ループの利得は磁石の劣化の尺度として使用でき、その磁石劣化によって引き起こされるスケールファクタの変化を補償するために使用できる。使用時の駆動制御ループの利得を較正時に取得した駆動制御ループの利得の基準値と比較することにより、磁石劣化によって生じた較正時からのスケールファクタの変化量を計算するために基準値からの利得の変化量が使用され得る。この処理は、従って、磁石の経年劣化に応じて、ジャイロスコープのスケールファクタが耐用年数全体にわたって正確に補償されることを可能にする。磁石の磁場強度のほとんどの変化は経年変化によるものと予想されるが、磁場強度は、激しい衝撃やその他の損傷などの他の要因によっても低下し得ることに留意されたい。磁石を弱めるこのような変化は、駆動制御ループの利得の対応する増加をもたらすことにもなり、このシステムによって適切に補償されることにもなる。
【0015】
駆動制御ループにおける利得は、様々な方法で測定され得る。例えば、駆動システムからの信号は、一次駆動電極の駆動信号の振幅、一次感知電極からの信号の振幅、及び駆動制御ループの利得のうち1つ以上を含んでいる。利得の測定方法の選択は、駆動システムの設定方法に依存することになる。例えば、駆動システムが所定レベルの駆動信号を維持するように設定されている場合、磁石強度の劣化が、漸進的に弱くなるピックオフ信号となる。減少したピックオフ信号を相殺し、駆動信号を所望のレベルに維持するために増加した利得が適用される。このような実施例では、ピックオフ信号または利得のいずれかの大きさの測定が好適となる。他の実施例においては、駆動システムが所定レベルのピックオフ信号を維持するように設定されている場合、磁石強度の劣化が、駆動制御ループの利得を増加させることで得られる駆動信号の漸進的な増加を必要とすることになる。このような実施例では、駆動信号または利得のいずれかの大きさの測定が好適となる。他の実施例では、振動構造の物理的振動の振幅を検出する別個のセンサを使用することが可能である場合がある。上記の実施例では、このことが駆動信号の強度、及び磁場の強度によっても変化するため、駆動制御ループの利得も示す。或いは、駆動構造ループが振動構造の振動の一定の大きさを維持するように構成されている場合、駆動制御信号の大きさ、またはピックオフ信号の大きさのいずれか(または両方)がシステム内の利得の指標として使用される。
【0016】
最も好ましい構成では、ループの利得係数は、増幅器から、例えば、AGCまたは同様のものから導出されている。これは、アナログ信号またはデジタル値として測定または出力され得る。
【0017】
駆動制御ループの利得を表す信号は、磁石の劣化量の指標である。いくつかの用途では、これを潜在的に磁石の全体的な電流の強さを示す標準的な既知の基準と組み合わせて取得されることができる一方で、このことから、結果的なスケールファクタへの全体的変化は、基準が特定のユニット、例えば、特定の機器の特定の磁石に依存するようになり得る。従って、好ましくは、補償ユニットは、駆動システムからの信号、及び較正手順中に得られた信号の保存された基準値に基づいて、スケールファクタ補正を出力するように構成されている。このような較正手順は、製造中または製造直後に実行されてもよく(しかし、再較正が必要な場合は後で実行することもできる)、装置の特性を測定するために使用されることができ、その時点でのスケールファクタを計算し、本質的にゼロにする。例えば、(磁石の強度に依存している)一次駆動信号の大きさは、基準値として測定され保存されてもよく、それに続き一次駆動信号の大きさに生じるすべての変化は、この基準値に比較されることができ、基準値との差が電界強度の変化、つまり、スケールファクタの変化を計算するために使用されることができる。補償ユニットは、信号レベル、磁場強度、及びスケールファクタ誤差の間の既知の関係にさらに基づいて、スケールファクタ補正を出力するように構成されてもよい。
【0018】
ジャイロスコープは、この関係を式または計算処理として保存してもよく、入力(利得を示す測定値と保存された基準値)を受け取り、計算されたスケールファクタ補正を出力する。しかし、処理の効率のために、補償ユニットは、駆動システムからの入力信号に従ってスケールファクタ補正値を提供するように構成されたルックアップテーブルを含んでもよい。このようなルックアップテーブルは高速に動作し、入力の範囲に対応する値の個別のセットのみを提供する一方で、これらは一般に、大きな保存スペースを必要とせずに適切な補正を提供することになる(つまり、ルックアップテーブルのサイズは、出力値の解像度を高くするために非常に大きなものである必要はない)。当然ながら、さらなる分解能が必要とされ、保存スペースが問題である場合、補間手法がルックアップテーブルと組み合わせて使用されることがある。
【0019】
ルックアップテーブルの値は、較正時に生成された事前に計算された値であるってよい。これらの値は、ジャイロスコープがテストリグに取り付けられ、既知の回転速度(例えば、ゼロ回転、及び/または1つ以上の固定回転速度)を受けている間に、駆動制御ループの特性、及び/または磁石が存在する振動構造の測定値に基づいて計算されてもよい。これらの値は、磁力の劣化率と、駆動ループの適切な特性の対応する変化率との間の既知の関係に基づいて計算されてもよい。このような関係は、事前の調査を通じて確立されていてもよい。或いは、必要に応じて、較正中のユニット内の特定の磁石の強度及び/または劣化率が、較正プロセスの一部としてテストされてもよく、ルックアップテーブルの値の計算に使用してもよい(または、ルックアップテーブルがない場合の保存された数式またはアルゴリズムでの使用のために保存され得る)。
【0020】
多くの場合、温度はジャイロスコープの動作に影響するため、スケールファクタと利得/駆動信号/ピックオフ信号も温度とともに変化することになる。従って、補償ユニットは、温度信号を(例えば、温度センサから)受信し、駆動システムからの信号と温度信号の両方に基づいてスケールファクタ補正を出力するように構成され得る。そのために、補償ユニットは、駆動システムからの信号と温度信号の両方に応じてスケールファクタ補正値を提供するように構成されたルックアップテーブルを含んでもよい。
【0021】
また、高温に長時間曝されると、(特定の保存状態または長時間の動作中に発生する場合がある)、磁石の磁場強度がより早く低下することが知られている。(何らかの理由で)磁場強度が低下すると、駆動制御ループに対応する変化が生じるため、システムは再び自動的に調整されるようになる。
【0022】
振動構造ジャイロスコープは、振動構造の振動を感知するように構成され、感知された振動に基づいて角速度信号を出力するように構成された感知システムをさらに備えてもよく、振動構造ジャイロスコープは、角速度信号にスケールファクタ補正を適用するように構成され、振動構造ジャイロスコープの出力を提供する。感知システムは、振動の二次モードを検出するために使用され(振動リングジャイロスコープでは、これは通常、cos 2θモードで動作するとき、振動の一次(駆動)モードに対して45度の角度である)、その振幅はジャイロスコープの回転速度に関連している。
【0023】
本開示の別の態様によれば、ジャイロスコープを較正する方法が提供されており、方法は、上述のようなジャイロスコープを提供することと、ジャイロスコープが回転していないときに、テスト環境で駆動システムの強度を評価することと、その評価に基づいて、駆動システムからの信号からスケールファクタ補正を決定できる情報を補正ユニットに保存することと、を含む。
【0024】
この評価は、駆動システムの現在の強度を磁石の現在の強度に結び付け、それによって、駆動強度の将来の変化が磁場強度の変化に起因することを可能にする。補償ユニットに保存された情報は、駆動強度の変化が磁場強度の変化にどのように対応するかという情報を含み得る。これは、例えば、数式またはルックアップテーブルによるものであり得る。この情報は、あるユニットから別のユニットへの変更が予想されていない較正前に事前にプログラムされているか、補正ユニットに事前にロードされている場合がある。代替的に、この情報は較正プロセスの一部として保存される場合があり、ユニットで使用される特定の磁石または磁石のバッチにより密接に一致する特定の情報または更新された情報がロードされることを可能にする。従って、好ましくは、本方法は、駆動システムの強度と永久磁石の磁場の強度との間の関係に関する情報を補償ユニットに保存することをさらに含む。
【0025】
ジャイロスコープに関連して上述したように、評価するステップは、温度範囲にわたって駆動システムの強度を評価することを含み得る。保存するステップは、情報をルックアップテーブルに保存することを含み得る。
【0026】
ここで、1つ以上の非限定的な実施例について、単なる例として、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、誘導型振動構造ジャイロスコープの例示的配置を示す。
図2図2は、スケールファクタ補償を備えたジャイロスコープの一実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1を参照すると、誘導型振動リングジャイロスコープ1が示されている。リング状共振器10は、共振器10の外周から支持フレーム12まで延び、共振器10が発振の一次モード及び二次モードで振動することを可能にする柔軟な支持脚(図示せず)によって支持フレーム12に取り付けられている。支持フレーム12は、ガラス台座14に取り付けられており、ガラス台座14は、次いでガラス基板16に取り付けられている。
【0029】
磁石アセンブリ18は、下部磁極片20、上部磁極片24、及び下部磁極片20と上部磁極片24との間に配置された永久磁石22を備えている。下部磁極片は共振器10の下で基板16に取り付けられ、一方、上部磁極片24はキャップとして形成され、その周縁が共振器10の上に形成されている。永久磁石22によって形成された磁場は、共振器10を通して導かれている。
【0030】
図2は、誘導振動構造ジャイロスコープ30をその制御及び検出システムとともに示している。ジャイロスコープ30の共振器10及び磁石アセンブリ18の物理的構造は、図1に示されるようなものであり得る。
【0031】
駆動システム31は、駆動信号を一次駆動電極PDに提供するように構成されている(実際には、これは直径方向に対向する電極対であってもよい)。ピックオフ信号は、駆動電極PDから共振器リング10の周りに90度の位置にある一次ピックオフ電極PP(一次感知電極)によって生成されている。ピックオフ信号は増幅器32によって増幅され、信号の位相及び周波数を調整し、共振器10の共振周波数にロックして、発振の一次モードを維持する電圧制御発振器/位相ロックループ回路33に供給されている。調整された信号は、共振を維持するために、増幅器35を介して一次駆動電極PDに提供されている。ピックオフ信号はまた、自動利得制御(AGC)回路34に並列に提供されており、増幅器35の利得を調整して共振の振幅が維持されることを確実にしている。
【0032】
図2の実施例では、AGC34はピックオフ信号(実際には増幅器32から出力されたピックオフ信号の増幅されたバージョン)を受信し、それを閾値と比較する。ピックオフ信号の大きさが閾値よりも低い場合、増幅器35の利得が増加し、一方、ピックオフ信号の大きさが閾値よりも大きい場合、増幅器35の利得が減少する。これにより駆動信号の大きさが変化し、次いで共振器の振動の振幅が変化し、次いでピックオフ信号の振幅が変化する。従って、(増幅器32、VCO/PLL33、AGC34及び増幅器35を含む)一次駆動制御ループは、信号を常に調整し、共振器10を共振され、及び正しい運動振幅に維持するようになっている。
【0033】
AGC34の利得は、補償ユニット36に提供される出力としても提供されている。補償ユニット36は、AGC34からの入力に基づいてスケールファクタ補正37を出力する。
【0034】
いくつかの実施例では、補償ユニット36は、単独でAGC34からの入力、及び保存された情報(例えば、式及び既知のパラメータ値)に基づいてスケールファクタ補正37を計算し得る。他の実施例では、補償ユニットは、較正手順中に取得及び保存され、較正時に必要とされたAGC利得を示す(従って、その時点での磁石の状態を表す)基準値Refをさらに考慮し得る。他のいくつかの実施例では、補償ユニット36は、較正時に補償ユニット36内に事前に計算され保存されているルックアップテーブル38内のAGC34からの現在の利得値のルックアップを実行し得る。ルックアップテーブルは、特定の磁石の強度に対応し、従ってAGC34の特定の利得レベルに対応するようになる事前に計算されたスケールファクタ補正を有している。
【0035】
スケールファクタ補正37は、39においてレート信号に適用され、ジャイロスコープ30の補正レート出力(図2の「レート」)を提供する。
【0036】
レート信号は、二次ピックオフ電極SP及び増幅器40を介して取得される。
【0037】
二次ピックオフからの出力には、観測信号の「実(Real)」成分と「直交(Quadrature)」成分の両方が含まれており、これらの成分は位相が直交しており、一次ループからの周波数入力によって決定されている。「実」成分は、適用される実際のレートの所望のジャイロスコープ出力を提供する。「直交」成分は、システム内の不完全性を通じて生成され、エネルギーが二次動作に結合されるようにし、この直交(つまり90°)成分は、レート出力には寄与しない。
【0038】
開ループの実施例では、増幅器40の出力は復調器42を通過して実成分を抽出し、これが(39のスケールファクタ補正37によって補正される)レート出力として使用される。図2に示すような閉ループの実施例では、増幅器40の出力もまた、復調器43を通過して直交成分を抽出する。実成分と直交成分は再結合され、増幅器41を介して二次駆動信号を生成するために使用され、二次駆動信号は二次駆動電極SDに印加されて、共振器10の二次モード動作を無効にするようになっている。この動作を無効にするために必要な信号の実部分の大きさは、(39においてスケールファクタ補正37によって補正される)レート出力として使用される。
【0039】
AGC34はまた、温度変動などの他の動作条件も補償することが理解されるであろう。これを考慮するために、補償ユニット36はまた、温度センサ50からの温度入力を有してもよい。そのような実施例では、補償ユニット36に保存された数式またはルックアップテーブル38もまた温度を考慮している。例えば、ルックアップテーブル38は、いくつかの異なる利得レベルのエントリを有することができ、各利得レベルについて、複数の温度のそれぞれに対してスケールファクタ補償出力を提供することができる。
【0040】
本システムによれば、ジャイロスコープのスケールファクタは、磁石が老朽化、及び/または劣化するとともに、製品の耐用年数全体にわたって補正され得る。このことは、以下のように達成され得る。
【0041】
第一に、製造中、温度範囲にわたってジャイロの一次駆動レベルが特徴付けられる。これは、よく制御された環境内でテスト装置の上で、(例えば、静止または既知の角速度での回転の)既知の回転状態のジャイロスコープを使用して実行され得る。
【0042】
第二に、使用中、ジャイロスコープはジャイロに必要な一次駆動レベルを(例えば、直接的に、またはAGCの利得を介して)測定し、較正中に取得した情報と比較する。
【0043】
第三に、ジャイロスコープはこのデータと比較結果を使用して、製造以来(または較正以降)の磁石の経年劣化によるスケールファクタの変動を補正する。一次駆動の増加は、磁石強度の減少と相関しており、そのためスケールファクタの正の増加と相関している。
【0044】
較正情報(温度及び駆動レベル)をジャイロスコープに保存できるようにするために、ジャイロスコープにはデータ転送インターフェースが設けられ得る。このインターフェースは、使用中にジャイロスコープのデータを出力することもできる双方向通信インターフェースの形式をとってもよい。
【0045】
このスケールファクタ補償方法は、特に高性能ジャイロスコープに適している。スケールファクタの向上は、特定のジャイロスコープの設計に依存するが、例として、20年の耐用年数と1年あたり100ppmの磁石劣化を有する既存のジャイロスコープでは、既存の方法は、製品の耐用年数の開始時と終了時に約1000ppmずれている一定のスケールファクタ補正を有することになる。本開示によって提供される補正は、スケールファクタへのこの要因を完全、またはほぼ完全に打ち消すことができ、そのために既存のシステムと比較して最大で1000ppmのスケールファクタの向上がもたらされる。
【0046】
一特定の実施例では、SmCo磁石は、165°Cの比較的高い温度(高温は磁石のエージング効果を高めることが知られている)で動作した場合、毎時約0.0532ppmのエージング係数を有することが判明した。20年の製品耐用年数にわたって、これは9300ppm超、すなわち、ほぼ1パーセントに相当する。この劣化により、高性能ジャイロスコープにとって重要なスケールファクタの変化が生じるが、本開示は、スケールファクタにおけるこの変化を追跡及び補償する方法を提供している。
【0047】
このプロセスとは別に、またはこのプロセスに加えて、補償可能でもあり得る他のスケールファクタ誤差の原因があることが理解されるであろう。
図1
図2