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  • 特許-眼内レンズインプラント 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】眼内レンズインプラント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
A61F2/16
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019569472
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2018065930
(87)【国際公開番号】W WO2018229245
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】17176165.3
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502277463
【氏名又は名称】アコモ アー・ゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘフリガー,エドゥアルト・アントン
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】佐々木 一浩
【審判官】井上 哲男
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-535381(JP,A)
【文献】特表2003-521335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0219633(US,A1)
【文献】特表2006-516002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0250020(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0216329(US,A1)
【文献】特開平3-23857(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0053954(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の水晶体嚢から生来の水晶体本体を除去した後、嚢内空間の後部に配置するためのレンズインプラントと、
前記嚢内空間を充填するための眼内手術に使用するための嚢充填組成物とを備え、
前記レンズインプラントは、1つの部品から形成され、適切な透明な非細胞構造材料から製造され、前記非細胞構造材料は、シリコーン、疎水性アクリル材料、親水性アクリル材料、ヒドロゲルおよびコラーゲンポリマーからなる群から選択され、
前記レンズインプラントは、前記嚢内空間の前部に前記非細胞構造材料および前記非細胞構造材料のサブユニットを含まないような寸法にされており、
前記レンズインプラントは、前記嚢内空間内の前記非細胞構造材料の唯一の沈着物であり、
前記レンズインプラントは、除去された前記生来の水晶体本体の体積または平均サイズの生来の水晶体本体の体積の最大40%を含み、
前記レンズインプラントは、前記嚢の後部内面に適合するように成形されている曲率を有する凸状後面を有し、
前記嚢充填組成物は水性組成物であり、前記非細胞構造材料または前記非細胞構造材料のサブユニットを含まず、
前記嚢充填組成物の体積は、前記レンズインプラントの体積とともに、前記生来の水晶体本体の体積を置換するように構成され、
それによって、前記嚢内空間の前部は、前記非細胞構造材料または前記非細胞構造材料のサブユニットを含まない、キット。
【請求項2】
前記レンズインプラントが、前記生来の水晶体本体の体積の最大で35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%または2%の体積を含むような寸法にされている、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記レンズインプラントの後面の曲率半径が4~8mmの範囲内、または4.6~7.5mmまたは5~7mmの範囲内または約6mmである、請求項1または2に記載のキット。
【請求項4】
前記レンズインプラントの最大直径が、前記生来の水晶体本体の赤道直径の長さ以下であるか、または
前記レンズインプラントの前記最大直径が、最大で前記生来の水晶体本体の前記赤道直径の98%、95%、90%、80%、70%、60%または50%になるか、または、前記レンズインプラントの前記最大直径が、5~12mmの上限を有する範囲内になる、請求項1~3のいずれか1項に記載のキット。
【請求項5】
前記レンズインプラントの前記最大直径が、前記生来の水晶体本体の前記赤道直径の少なくとも50%、60%、70%、80%もしくは90%になるか、または、前記レンズインプラントの前記最大直径が、3~7mmの範囲内になる、請求項1~4のいずれか1項に記載のキット。
【請求項6】
前記レンズインプラントの前記非細胞構造材料が、変形可能であるように選択され、前記レンズインプラントが、前記水晶体嚢内の開口を通じて折り畳まれた状態または巻かれた状態で前記嚢内空間に導入されることを可能にし、前記開口の最大直径は、0.5~4mmの範囲内である、請求項1~5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項7】
前記レンズインプラントの前面も凸状であるか、または前記前面が平坦または凹面である、請求項1~6のいずれか1項に記載のキット。
【請求項8】
前記レンズインプラントが、無限遠に適応する見方に適した屈折力を提供するような寸法および形状にされている、請求項1~7のいずれか1項に記載のキット。
【請求項9】
前記嚢充填組成物が、水晶体線維を発現させることが可能である細胞を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
前記細胞は、眼のプローブから取得される、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記プローブは、水晶体上皮細胞を含む、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記細胞が、自家もしくは異なるヒトの眼または非ヒトの眼に由来する、請求項9~11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
前記嚢充填組成物は、
ヒアルロン酸、
抗TGFβ遮断薬、
FGF-1およびFGF-2を含む線維芽細胞成長因子、表皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン成長因子IまたはII(IGF-IまたはIGF-II)のうちの1つまたは複数の成長因子、
レチノイド
から選択される成分を含む、請求項8~12のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
本発明は、ヒトおよび獣医学、特に眼科手術の技術分野に関し、水晶体嚢内に配置するための眼内レンズインプラントに関し、さらに、レンズインプラントに関する組成物、キットおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶体嚢内に埋め込むための眼内レンズインプラントは、当該技術分野において知られている。生来の水晶体の除去および人工眼内水晶体との置換は、主に白内障の治療のために世界で最も頻繁に行われている外科的処置の1つである。この処置は、加齢に伴う老眼などの他の水晶体欠陥の治療にもますます想定されるようになっている。一般に、手術による感染のリスクを下げるために、眼および水晶体嚢の開口を維持するように注意が払われ、それを通じて生来の水晶体本体が除去され、可能な限り小さい人工レンズインプラントが挿入される。
【0003】
したがって、さまざまな市販のレンズインプラントが、小さいサイズで、かつ/またはシリコーンおよびアクリル素材などの柔軟な人工素材から作成されることにより、小さい切開を通して水晶体嚢に導入されるように適合されている。通常、そのような小さいレンズインプラントは、光学ゾーンと、インプラントを水晶体嚢に固定するための1つまたは複数の触覚要素とを備える。当該技術分野で利用可能ないくつかの遠近調節レンズインプラントは、近見と遠見との間で眼を調節するために、眼の小帯装置の収縮および弛緩に応答するように、触覚要素を有するレンズインプラントを水晶体嚢と接続する。ただし、このようなインプラントはサイズが小さいとともに、これらの柔軟な材料の屈折率が高いために、白内障手術後の異常光視症の発生率が高くなっており、特に夜間の網膜への光の反射が視角を妨げている。眼内インプラントに伴うさらに一般的な弊害は、後発白内障の形成である。
【0004】
欧州特許第1251801号に記載されている代替の手法では、そのサイズが水晶体本体の生理学的サイズにほぼ対応するフルサイズのレンズインプラントが提供された。当該レンズインプラントは、埋め込まれたときに水晶体嚢の前部および後部内面に並置される、水晶体本体と置換するための人工材料から作成される2つの部分を含む。この2部品インプラントの後部は、水晶体嚢内への配置を容易にする、好ましくは柔軟な固体材料でできている。この2部品インプラントの前部は、例えば、合成材料によって、または単離された天然製剤に基づく材料によって人工的に作成され、例えば、水晶体嚢が本質的に充填され、in situで硬化されるまで、好ましくは液体状態において水晶体嚢内に導入されるポリシロキサン、ヒドロゲル、またはコラーゲン化合物を含む。結果として生じる2部品人工レンズインプラントは、それにより、自然な水晶体本体のような嚢内圧を生成する。特に前部の材料は、天然水晶体と同様の弾性特性を有するように選択される。有利なことに、このフルサイズの人工レンズは、それにより、眼の生来の調節システムと、すなわち、小帯および毛様体筋と、天然の水晶体のように相互作用するように設計されている。毛様体筋の収縮により、小帯が弛緩し、それにより、特に、この2部品インプラントの前部がより丸い形状になる。それにより、生来の水晶体の場合のように、インプラントの表面の曲率が増加するため、近見視力が調節される。さらに、このインプラントは、上記のより小型のインプラントのいくつかの欠点を克服する。
【0005】
ただし、この2部品フルサイズレンズインプラントには、遠近調節可能な他のタイプのレンズインプラントにも存在する欠点が依然として存在する。すなわち、人工インプラントを埋め込んだ後約10年以内に水晶体嚢の弾性が失われ、付随して、近見視力の調節能力が失われることが分かっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の開示
したがって、本発明の一般的な目的は、特に嚢充填組成物と組み合わせて、当該技術分野で利用可能な人工レンズインプラントの欠点を克服するための改善された眼内レンズインプラントを提供することである。
【0007】
第1の態様では、本発明は、眼の水晶体嚢から生来の水晶体本体を除去した後、嚢内空間の後部に配置するための眼内レンズインプラントを提供する。レンズインプラントは1つの部品から形成され、適切な非細胞構造の透明材料から製造される。レンズインプラントは、嚢内空間の前部に到達しない、すなわち、嚢内空間の前部は、非細胞構造材料またはその構成要素がないように保たれる。レンズインプラントには、非細胞構造材料またはその構成要素によって形成されるさらなる部分が一切ない。レンズインプラントは、生来の水晶体本体の体積の最大40%を含むような寸法にされている。レンズインプラントは、嚢の後方内面の曲率に適合するように成形された曲率を有する凸状後面を有する。
【0008】
生来の水晶体または生来の水晶体本体という用語は、手術によって除去された実際の水晶体または水晶体本体を指すか、または、例えば、成人の患者のような患者群を代表する平均サイズの生理学的レンズまたはレンズ本体を指す場合がある。水晶体本体という用語は、水晶体線維を含む水晶体の部分を指す。
【0009】
水晶体嚢(または略して嚢)と呼ばれる透明な殻が水晶体本体を囲んでいる。水晶体線維を含む水晶体本体を嚢から除去すると、嚢内空間を囲む本質的に空の嚢袋が生じる。そのような空の嚢は、本質的に水晶体線維を含まないが、嚢の内面、特に内側後面およびまた嚢の赤道円周に沿った赤道部の内面を覆う水晶体上皮細胞の一部または大部分を依然として含む。有利には、水晶体上皮細胞の大部分に触れないままにする穏やかな外科的処置が利用可能である(以下を参照)。
【0010】
本発明によるレンズインプラントは、適切な透明非細胞構造材料から製造される。透明度は、レンズインプラントの治療用途に従って選択されてもよく、部分的に透明な材料を含んでもよい。非細胞構造材料という用語は、水晶体繊維細胞または他の生体細胞を含まない、除去された水晶体線維と置換するのに適した構造材料を指す。非細胞構造材料は、特に、例えばポリシロキサン、ヒドロゲルまたはコラーゲンなど、特にポリマー材料などの製造された無機または有機、人工または天然の構造材料を含む柔軟な材料である。非細胞構造材料は、特に、シリコーン、疎水性アクリル材料、親水性アクリル材料、ヒドロゲルまたはコラーゲンポリマーから選択される。非細胞構造材料のサブユニットという用語は、例えばポリマーまたはポリマーブレンドのモノマー、ダイマーまたはオリゴマーのような構造材料の構成要素を指す。
【0011】
本発明によるレンズインプラントは、生来の水晶体本体の40%までを置換する1つの部分から形成される、すなわち、レンズインプラントは、以前に空にされている水晶体嚢の容積を40%までのみ充填する。いくつかの実施形態では、1部品インプラントの材料組成は均質である。他の実施形態では、材料組成は、レンズインプラントの異なるゾーンで異なってもよい。材料組成は、例えば、視軸周りの中心部において、赤道円周に沿った赤道部から異なってもよい。レンズインプラントは水晶体嚢の後部内に配置されるため、水晶体嚢の前部には非細胞性物質が含まれないままである。レンズインプラントには、それ以上の部品はない。水晶体本体の残りの体積の再構築は、細胞水晶体線維の成長によるレンズインプラントの埋め込み後に行われる。
【0012】
したがって、レンズインプラントは嚢内インプラントであり、インプラントは、除去された生来の水晶体の体積の40%までを構成する1部品の透明な構造材料によって完結する。この1部品レンズインプラントは、水晶体嚢内の非細胞構造材料の唯一の沈着物である。レンズインプラントは、水晶体本体の後部のみを置換し、水晶体線維細胞による水晶体本体の前部の再生を可能にするように成形される。
【0013】
後面の曲率(または略して後部曲率)という用語は、いずれも嚢の内側後面に並置されている水晶体またはレンズインプラントの後面の曲率に関連する。明らかに、本質的に同一または同心の円形体の半径が、これらの後面を定義する。特に、後部曲率という用語は、眼の毛様体筋の弛緩状態、すなわち遠見に適合した水晶体の状態における水晶体および水晶体嚢の後部曲率を指す。ただし、特に、遠近調節中、生来の水晶体の後部曲率は大きく変化せず、生来の水晶体の前部曲率ほど変化しない。
【0014】
さらに、水晶体と水晶体嚢の後面の自然な曲率は、球の曲率に非常に近い。生理学的レンズの後部曲率半径は、平均で約5.5mm~6mmの範囲内である。したがって、嚢の後面の曲率に適合するように成形されるという用語は、曲率半径が約5.5mm~6mm±25パーセント、特に±20、15、10または5パーセントの範囲である、本質的に球形の後面を指す。したがって、有利には、空の嚢の内側後面に並置されたレンズインプラントの後面は、隙間なく適合する必要がない。本発明者は、インプラントの後面と嚢の内側後面との間のそのような隙間が、埋め込み後に、残っている水晶体上皮細胞によって埋められることを観察した。嚢内圧の低下に応答して、これらの上皮細胞は、生理学的経路に従って増殖、成長、および分化して、生理学的嚢内圧に達するまで、透明な上皮細胞および/または水晶体線維細胞の1つ、いくつかまたは多くの層を形成する。隙間を埋める新しく形成された組織の観察された厚さは、1μm~1mmの範囲であり、一般に100μmまで、または200、300または400μmまでなどの数百μmであった。このタイプの制御された組織成長は、術後も低減され得るが、可能性のある嚢内圧を提供する状況下での適切なインプラントの埋め込み後にのみ観察されたが、これは、生理的嚢内圧と比較して2倍未満の倍数で低減されることが好ましい。対照的に、術後、本質的に嚢内圧が存在しない場合、残っている水晶体上皮細胞は、しばしば異常な細胞増殖に関与し、結果として、例えば線維および真珠(pearl)ならびに二次白内障(後嚢混濁)が形成される。
【0015】
いくつかの実施形態では、空の嚢の内側後面に並置されるレンズインプラントの後面の曲率半径の最大長は、生来の水晶体本体の後部曲率半径の長さより大きい。水晶体嚢の柔軟性および弾性は、生来の水晶体に対応する後部曲率半径の長さと比較して、25パーセントまで、特に20、15、10または5パーセントまでの長さの増加を補償することが可能である。
【0016】
いくつかの実施形態では、後部曲率半径は、例えば光干渉断層法によって取得可能なものとしての、水晶体の除去前の生来の水晶体本体の測定値に従って適合させることができる。レンズインプラントの後面は、除去された水晶体本体の測定された表面に、例えば、10μmまでまたは100μmまで、300μmまたは1mmの公差、または特に約100μm±25μmまたは50μmの公差内で適合するように成形することができる。
【0017】
第2の態様では、本発明は、眼の水晶体嚢から生来の水晶体本体を除去した後に嚢内空間を充填するための、上記のような適切な透明の非細胞構造材料から製造されたレンズインプラントの導入を伴う眼内手術に使用するための嚢充填組成物に関する。嚢内空間の後部に配置されるレンズインプラントは、最大で40%まで、生来の水晶体本体の体積を部分的にのみ置換する。嚢に導入される充填組成物の体積は、インプラントの体積とともに、除去された生来の水晶体本体または適切な平均サイズの水晶体本体の体積を本質的に再構築する体積まで嚢を充填するように調整される。嚢充填組成物は水性組成物であり、それ自体が生来の水晶体本体の水晶体線維を構造的に置換する役割を果たす非細胞構造材料を欠いている(2)。充填組成物はまた、そのような材料のサブユニットを含まず、特に、例えば、欧州特許第1251801号に示すin vivo硬化による生来の水晶体線維の置換物としてのポリマーの形成に有用な量のサブユニットを含まない。
【0018】
しかしながら、充填組成物は、生来の水晶体本体に元々存在する水晶体線維の再生置換のための生細胞を含むことができる。代替的または付加的に、充填組成物は、生化学的成分、特に、例えば、生細胞および特に水晶体上皮細胞の増殖および/または分化を刺激する成分など、生細胞による水晶体線維の再生を促進する以下に記載する成分を含むことができる。
【0019】
したがって、従来のインプラントとは対照的に、本発明によるインプラントおよび充填組成物は、水晶体上皮細胞が非細胞性物質および人工構造構成要素によって触れられない状態で、嚢内空間の前部および特に水晶体嚢の前方内面を保持する。これは、嚢の内側前面を覆う水晶体上皮細胞が、生涯を通じて水晶体前嚢を構成する基底膜を分泌しているため、重要である。これにより、前嚢が長期間柔軟に保持される。実際、水晶体嚢は一般に、レンズインプラントのない個人では約80歳まで柔軟性があるが、対照的に、すでに従来のレンズインプラントを埋め込んだ後すでに約10年経っていると、嚢の柔軟性はしばしば、遠近調節能力を損ないまたは破壊する点まで低下している。
【0020】
したがって、有利には、本発明によるインプラント、本発明による嚢充填組成物、およびそれらの両方を含むキットは、水晶体上皮細胞の基底膜の生成と干渉し、それによって嚢の柔軟性および遠近調節能力を損なう可能性がある人工レンズインプラント材料および非細胞構造構成要素が導入されないように、嚢内空間の前部を保持する。
【0021】
さらに、充填組成物は有利には、生来の水晶体本体を除去する前の生理学的嚢内圧に本質的に対応する、嚢内圧を高めるのに必要な体積の置換を可能にする。任意選択的に当該技術分野において公知の適切なさらなる成分を含む生理食塩水のような生理学的水性組成物としての充填組成物は、嚢の内面に残存する内因性水晶体上皮細胞、および/または、充填組成物と共に嚢内空間に導入されるかもしくは充填組成物に含まれる細胞、特に水晶体上皮細胞による水晶体線維の生物学的産生を可能にするかまたは促進する。Lin他(Nature,531,p.323,2016)、Lovicu他(Exp Eye Res,142:p.92,2016)らによる最近の研究は、水晶体上皮細胞がin vitroおよびin vivoの両方で増殖し、水晶体線維細胞に分化することが可能であることを実証しており、これは、それらが透明な水晶体本体またはその一部を再構築することができることを実証している。さらに、充填組成物は、有利には、嚢内空間の後部の位置にインプラントが留まることを促進し得る。
【0022】
手術後、水晶体線維が再生し、インプラントに置換されない限り生来の水晶体本体を漸進的に置換する初期期間中、治療された眼の遠近調節能力は時間とともに漸進的に回復している。有利なことに、この再生の状態に関係なく、嚢の後部に配置されたレンズインプラントの屈折力に起因して、手術後数時間以内にある程度の遠見がすでに可能である。
【0023】
本発明の第3の態様では、上記のレンズインプラントおよび上記の嚢充填組成物はキットに組み合わされる。キットの嚢充填組成物は有利には、嚢内空間の体積を充填することと、生来の水晶体本体を除去した後、嚢内空間の前部が非細胞物質を含まないままにしながら、細胞水晶体線維の成長を促進することとを可能にする。このキットは、上記の従来技術のインプラントの欠点を克服する。特に、前方嚢内空間における生来の水晶体の生理学的な細胞置換は、遠近調節に必要な前嚢の持続的な弾性を可能にする。
【0024】
上述の本発明によるレンズインプラントおよび充填組成物のさらなる利点は、嚢内に残る細胞の制御されない成長による後嚢混濁(二次白内障)の形成速度の低下である。しかし、それにもかかわらず後嚢混濁が発生した場合、水晶体嚢の内側後面に並置される本発明によるインプラントの配置は、特に効果的な治療を可能にする。すなわち、肥厚して不透明になった後嚢の領域を、嚢内空間を囲む殻を穿孔することなく、後嚢の厚さ全体にわたって、例えば、例としてYagまたはフェムトレーザを使用する後嚢切開などのようなレーザ手術によって完全に除去することができる。それにより、インプラントは、より広い範囲の事例において嚢の不透明化領域の完全な除去を可能にする。
【0025】
本発明のさらなる態様は、生来の水晶体本体の置換のために、上記の個人に合わせた眼内レンズインプラントまたはキットを提供する方法に関する。いくつかの実施形態では、方法は、(a)眼の寸法および/または屈折力に関する測定結果を提供するステップを含み、および/または、眼の寸法および/または屈折力を測定するステップを含む。そのような結果または測定は、特に、例えば、角膜または生来の水晶体の屈折力、角膜または水晶体の寸法、水晶体または水晶体嚢の後面の視軸または曲率に沿った眼の長さなどに関する。さらに、個人に合わせたキットまたはインプラントを提供する方法は、ステップ(a)の提供または測定結果に関して適合された上記のインプラントを選択するステップ(b)を含む。
【0026】
本発明のさらなる態様は、特に白内障または老眼の治療のために、生来の水晶体本体を外科的に除去し、それを上記のインプラントおよび上記の嚢充填組成物と置換することを含む、患者の医学的治療方法に関する。
【0027】
図面の簡単な説明
以下の詳細な説明を考慮すると、本発明はよりよく理解され、上記のもの以外の目的が明らかになるであろう。この説明では、添付の図面を参照している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の文脈に関連する部分を概略的に示す健康な人間の眼の断面図である。
図2】水晶体嚢から生来の水晶体本体を除去した後に嚢内空間に導入するための、眼内レンズインプラントの例示的な実施形態および嚢充填組成物の例示的な実施形態を含むキットの例示的な実施形態を使用した後の人間の眼の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明を実施するための形態
本発明の文脈において最も関連する眼の部分が、水晶体1、および水晶体1の2つの赤道極6の間の赤道直径5を有する図1の眼の部分に概略的に示されており、赤道直径5は、水晶体1を前部と後部とに分割する。前方という用語は、角膜に向かう側を指し、後方という用語は、眼の網膜に向かう側を指す。水晶体1は、赤道直径5に沿って前部2aと後部2bとに適切に分割される水晶体本体2を含む。
【0030】
水晶体本体2は、本質的に透明な水晶体線維から構成されている。水晶体本体2は、前方内面13aおよび後方内面13bを有する嚢13によって囲まれている。水晶体本体2の除去後、本質的に空の嚢(または空の嚢袋)が嚢内空間3を形成する。嚢内空間3は、赤道直径5に沿って前部3aと後部3bとに分割される。赤道直径5は、それぞれ水晶体2または嚢13または嚢内空間3の最大直径であり、視軸に本質的に垂直に向けられている。
【0031】
嚢13は、IV型コラーゲン繊維および硫酸化グリコサミノグリカンを含む細胞外基底膜から構成される。嚢は、コラーゲン繊維の層状構成のために弾性がある。嚢13は、前方において水晶体上皮細胞4によって分泌され、後方において、伸長する水晶体線維細胞によって分泌される。水晶体上皮細胞(LEC)4は、挿入図Aに拡大して示すように、水晶体嚢13の前部内面13aに沿って並んでいる。LEC4はさらに、赤道を中心とする内側嚢面の領域に沿って並んでおり、また、嚢の後部にも達していることが観察されている。LEC4は、水晶体嚢13の前部を分泌するだけでなく、水晶体1の赤道円周に沿った赤道部内で、伸長する水晶体線維細胞に分化もする。さらに、LECはin vivoだけでなくin vitroでも増殖して水晶体線維細胞に分化することができ、透明な水晶体本体2またはその一部を再構築することができる。
【0032】
白内障手術では、欠陥のある水晶体を除去するための低侵襲手術技法が開発されている。カプスロレキシスと呼ばれる頻繁に適用される方法では、嚢13、特に嚢13の前部を切開することによって、水晶体本体2が取り出されることを可能にする円形開口が作成される。水晶体超音波乳化吸引術と呼ばれる一般的に使用される処置では、欠陥のある水晶体本体2が超音波処理によって乳化され、吸引される。例えば、Zhou他(Invest Ophthalmol Vis Sci.2016;57,p.6615、特に補足2も参照されたい)に記載されているような外科的処置は、生来の水晶体本体2が除去された、前部3aと後部3bを有する嚢内空間3を囲む本質的に空の嚢袋をもたらす。有利なことに、そのような最小侵襲手術によって、水晶体嚢13の大部分および前嚢内側表面13a上のLEC4の内層は無傷のままになる。これにより、透明な水晶体組織の自発的な再生が可能になることが示されている(例えば、上記で引用したLin他、2016を参照、拡張データについては図1またはZhou他、Invest Ophthalmol Vis Sci.2016,57,p.6615,補足2を参照されたい)。生来の水晶体本体の外科的除去を含む本発明による医学的治療方法では、視軸11から離れた水晶体嚢の周縁領域の嚢袋に切開を入れるために特別な注意が払われる。さらに、切開のサイズを小さく保つように、特に切開孔の最大直径を3mm未満、特に2.5mm、2mm、1.5mmまたは1mm未満に保つように注意が払われる。インプラントの導入後、切開は、例えば、フィブリンシーラントまたは別の生物学的接着剤によって閉じられる。切開を閉じるための代替選択肢は、例えばレーザ組織溶接、回転可能ラメラ閉鎖によって形成されたプラグの導入、または少量の硬化性人工材料によって形成されたプラグの導入(ここで、切開を閉じるプラグの形成に必要なものよりも多くの人工材料は使用されない)を含む。任意選択的に、キットのいくつかの実施形態では、嚢袋への切開を閉じるための構成要素が含まれてもよい。
【0033】
図1は、角膜10、虹彩9、および水晶体1を水平に通過する赤道直径5に垂直な視軸11をさらに示す。図1では、両方の赤道極6において図1に示すように、赤道に沿って円周方向に水晶体1に付着する小帯7で概略的に示されているように、遠見に適した状態で眼が表されている。小帯7は伸張された状態で示されており、それにより水晶体1を平らにしている。円形の毛様体筋8は、収縮時に小帯7を弛緩させ、これにより水晶体1が、より高い屈折力をもたらす、より丸い形状をとることを可能にし、それにより眼を近見に順応させる。
【0034】
成人の眼の水晶体の後面の曲率半径は約4.5~7.5mmの範囲であり、成人の眼では後部の曲率半径は平均で約5.5~6mmである。成人の眼の水晶体の赤道直径は、約9~11mmの範囲である。in vitroで測定される成人の眼の水晶体の体積は、約180μl~280μlである(Rosen他、Vision Research 2006、46:1002)。成人の眼の水晶体1の体積は、本質的に、水晶体本体2の体積に対応し、および、嚢内空間の体積に対応する。
【0035】
図2は、嚢内空間3の後部3bに配置された眼内レンズインプラント12の例示的な実施形態を示す。この例示的な実施形態から明らかなように、適切な透明材料から作成されたレンズインプラント12は、嚢内空間3の前部3aに到達しない。レンズインプラント12の体積は、生来の水晶体本体2の体積の40%未満である。例示的な実施形態では、この体積は、生来の水晶体の体積の20%または10%未満であり得る。
【0036】
いくつかの実施形態において、レンズインプラント12は、生来の水晶体本体2の体積の最大35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%または2%を含むような寸法にされている。特に、レンズインプラント12は、最大で120μl、110μl、100μl、90μl、80μl、70μl、60μl、50μl、40μl、30μl、20μlまたは10μlの体積を含むような寸法にされている。
【0037】
レンズインプラント12は、特に、例えばシリコーンまたは疎水性および親水性アクリル材料、ヒドロゲルまたはコラーゲンポリマーなどの眼内レンズの製造のための当該技術分野で知られている材料など、柔軟な材料から選択される、適切な透明材料から製造される。
【0038】
レンズインプラント12は、嚢13の後面の曲率に適合するように成形された曲率を有する凸状後面、または略して後部曲率を有する。レンズインプラント12のいくつかの実施形態では、後面の曲率半径は、例えば、4.6~7.5mmまたは5~7mmの範囲内または約6mmなど、4~8mmの範囲内、特に5.5mm~6mm±25または20または15または10または5パーセントの範囲内で変化する。
【0039】
上記の曲率半径は、特に視軸11上または視軸11の近傍で測定される曲率半径を指す。視軸の近傍は、視軸11の10°まで、20°まで、または30°までの立体角内で視軸に隣接する範囲として定義される。
【0040】
これらおよび他の実施形態のいくつかでは、レンズインプラント12は、最大直径14、特に、最大で生来の水晶体1の赤道直径5の長さに等しい、レンズインプラント12の外面から外面まで測定される最大外径14を有する。特に、最大直径14は、図2に示すように、眼の視軸11に垂直であり、赤道直径5に平行である。特に、インプラント12の最大直径14は、最大で生来の水晶体1の赤道直径5の98%、95%、90%、80%、70%、60%または50%になる。これらおよび他の実施形態の一部において、インプラント12の最大直径14は、生来の水晶体1の赤道直径5の少なくとも50%、60%、70%、80%または90%になる。いくつかの実施形態では、インプラント12の最大直径14は、5~12mm、特に11、10、9、8、7、または6mmの上限を有する範囲内になる。インプラントのこれらおよび他の実施形態の一部において、インプラントの最大直径14の下限は3~7mmの範囲内、特に3、4、5または6mmである。生来の水晶体の赤道直径5よりも小さい最大直径14を有するレンズインプラントの実施形態は、嚢内空間の赤道部に達しない。それにより、嚢袋の後部においても内面の赤道部を覆う上皮細胞は、非細胞構造材料によって触れられないままである。この触れられない後方赤道部のサイズは、インプラントの最大直径14が小さくなると大きくなる。
【0041】
これらおよび他の実施形態の一部において、レンズインプラント12は、変形可能であるように選択された透明材料から製造され、それにより、インプラント12が水晶体嚢13内の開口を通じて折り畳まれたまたは巻かれた状態で嚢内空間3内に導入されることが可能になる。いくつかの実施形態では、レンズインプラントは、インプラントが嚢13の開口を通して導入されることを可能にする柔軟な材料から製造され、開口の最大直径は、0.5~4mm、特に0.5~3mmの範囲内、より詳細には3、2、1.75、1.5または1.25または1mm未満になる。
【0042】
これらおよび他の実施形態の一部において、レンズインプラント12は、液体の吸収により拡張可能な透明材料から製造される。これらの実施形態において、インプラント12は、水晶体嚢内の水性環境への導入後にその拡張体積に達したとき、形状およびサイズを含むその特性が、拡張可能な材料から製造されないインプラントの実施形態について本明細書に記載される特性に対応する。拡張可能なレンズ材料は、当該技術分野で知られている。例えば、http://www.boamumbai.com/journalpdfs/jan-mar2001/torpedo.pdfにおいてMehtaによって記載されているような、もしくは、米国特許第4,834,753号に記載されているようなヒドロキシエチルメタクリレート、ビニルピリリドンおよびメチルメタクリレートを含む親水性アクリルポリマーもしくは親水性ポリマーもしくは親水性/疎水性コポリマー、または、国際公開第2004/026928号に記載されているような膨張性ヒドロゲルから作成される市販のインプラント(Acqua)。
【0043】
これらおよび他の実施形態の一部において、レンズインプラント12は、同じく凸状であるインプラント12の前面を有するか、または、平面である前面を有するか、または、凹状である前面を有する。いくつかの実施形態では、レンズインプラントは、所望の屈折力(すなわち、光学力)を達成するような適切な寸法にされた正のメニスカスまたは負のメニスカスを有する後方凸面および前方凹面を有する。いくつかの実施形態では、レンズインプラントは乱視を矯正するために円環状にすることができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、レンズインプラント12は、特定の患者の治療に所望されるような、特に-20ディオプター~+60ディオプターの範囲内の屈折力を有する、無限遠に適応した見方に適した屈折力を提供するような寸法および形状である。屈折力が0のレンズインプラント12が含まれている。これは、レンズインプラントが、嚢13bの後部内面に形状が適合していることに起因して屈折力補正とは無関係に、レーザ手術による二次白内障の特に効果的な治療が可能になり、それによって、水晶体後嚢の領域を完全に除去することさえでき、依然として上記のように孔のない殻で囲まれた嚢内空間3を維持することができるためである。
【0045】
図2は、嚢内空間3の後部3bに配置された眼内レンズインプラント12の例示的な実施形態を示すことに加えて、眼内手術で使用するための嚢充填組成物15の例示的な実施形態およびこの充填組成物15を水晶体嚢13内の嚢内空間3に充填し得る方法をも概略的に示す。明らかに、充填組成物15は、嚢内空間3の前部3aだけでなく、嚢内空間3の後部3bの部分も充填する。それにより、充填組成物は、レンズインプラント12によって置換されない程度まで、除去された生来の水晶体本体2の残りの体積を本質的に置換する。したがって、充填組成物15の体積は、インプラント12の体積に対する補完的な体積として定義することができ、2つの合計が、空の水晶体嚢内の生来の水晶体本体2の体積または嚢内空間3の容積に対応する。
【0046】
嚢充填組成物15は水性組成物から成り、生来の水晶体本体に含まれる水晶体線維の永続的な置換のための非細胞構造成分を欠いている。嚢充填組成物15は、嚢内空間3を充填することによって、生来の水晶体本体の除去前の生理学的嚢内圧に対応する嚢内圧を提供する。損なわれていない嚢内圧は、眼の遠近調節機能に関連する。
【0047】
レンズインプラント12の形状、ジオメトリおよびサイズは、図2に示されるような例示的な形状およびサイズに限定されず、レンズインプラント12が嚢内空間3の前部3aに達しないこと、および特に、嚢13の前部内面13a上の上皮細胞4の内層がインプラント12と接触せず、代わりに嚢充填組成物15と接することを条件として、特定の眼のサイズおよび光学特性に適合し、所望の屈折力をもたらすように非常に自由に適合させることができる。
【0048】
これらおよび他の実施形態の一部において、嚢充填組成物15は生細胞を含む。そのような細胞は、例えばin vitro培養または組織プローブから取得されてもよい。特に、細胞は、眼のプローブ、より詳細には水晶体上皮細胞4を含むプローブから取得されてもよい。特に、水性充填組成物15に添加される細胞は、水晶体線維を発現させることができ、かつ/または残存するもしくは添加された水晶体上皮細胞からの水晶体線維の形成を促進する分泌因子である。
【0049】
これらおよび他の実施形態の一部において、嚢充填組成物15に含まれる細胞は、嚢充填組成物15に混合する前の、または、嚢充填組成物15とともに細胞を嚢内空間3に投与する前のin vitro培養を伴うまたは伴わない、自家もしくは異なるヒトの眼または非ヒトの眼、特に非ヒト哺乳動物の眼に由来する。異種細胞または非ヒト細胞の移植は、嚢13内の内容物が免疫特権を有する、すなわち免疫系にアクセスできず、したがって免疫拒絶を受けにくいという事実から利益を得る。いくつかの実施形態では、嚢充填組成物は1つの画分として投与され、他の実施形態では、複数の画分において投与され、これらの画分は同時にまたは別個の時点において投与されてもよく、それらは同じまたは可変の組成物であってもよい。
【0050】
嚢充填組成物15のこれらおよび他の実施形態の一部において、嚢充填組成物は特に、
ヒアルロン酸、
成長因子、特に、FGF-1およびFGF-2を含む線維芽細胞成長因子、表皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン成長因子IまたはII(IGF-IまたはIGF-II)のうちの1つまたは複数、
抗TGFβ遮断薬
レチノイド
から選択される成分を含む。
【0051】
成分という用語は、水晶体嚢内に生理学的水性環境を確立するのに適した液体または可溶性化合物を指し、例えば生理食塩液に基づいてもよい。成分という用語は、特に、例えば、透明な水晶体線維組織の再生を積極的に促進する成分など、積極的な生化学的機能を有する活性成分を含む。例えば、Lovicu他(Exp Eye Res,142:92,2016)は、抗TGFβ遮断薬が水晶体上皮細胞からの水晶体線維形成の開始を促進することを示している。さらに、例えば、Henry(Int.Rev.Cytology,228:195,2001)によって考察されているように、水晶体再生を刺激する成長因子が知られている。さらなる成分は、栄養素、抗生物質、または、例えば、嚢内圧を調節する浸透活性成分などの、生化学的効果を有する他の薬剤を含む。
【0052】
さらなる態様では、上述したものとしてのレンズインプラント12と嚢充填組成物15の両方を含むキットが提供される。キットのいくつかの実施形態では、患者の必要に応じて適切なインプラントを選択するために、異なるサイズおよび/または形状および/または屈折力のインプラントの集合をキットに含めることができる。このキットは、除去された生来の水晶体本体2の体積を完全に置換するのに適している。キットのいくつかの実施形態では、レンズインプラント、および、生来の水晶体本体の体積と本質的に同じ体積をもたらす補完的な体積の嚢充填組成物を有するサンプルが提供され得る。充填組成物15は、残留細胞に基づいて、または、添加される細胞、特に水晶体上皮細胞に基づいて水晶体線維の再生を促進することができる。いくつかの実施形態では、充填組成物は、活性成分、特に特定の患者の必要性に従って選択された成分を含むことにより、再生を積極的に促進することができる。いくつかの実施形態では、キットは、術中、術前または術後に眼に使用または投与されるさらなる適切な成分を含んでもよい。
【0053】
さらなる態様は、個人に合わせた眼内レンズインプラント12を提供するか、または上述したような眼内レンズインプラント12を含み、任意選択的に上述したような嚢充填組成物15をさらに含む個人に合わせたキットを提供する方法に関する。キットを提供する方法のいくつかの実施形態では、眼を測定するステップ(a)と、少なくとも1つのインプラント12を選択するステップ(b)とを含む。ステップ(a)では、特に角膜および/または水晶体および/または眼軸長の寸法が決定される。眼または眼球の軸長は、眼球の前極と後極との間の距離によって定義される。ステップ(a)およびステップ(b)は、異なる時点において、特に例えば手術の数週間前、特に手術の最大1または2ヶ月前など、手術の前に実施されてもよい。そのような測定方法は、人体または動物の体に対して行われる侵襲的または外科的処置なしで可能である。個人に合わせたレンズインプラントまたはキットを提供する方法のさらなる実施形態は、ステップ(a)において、外部ソースから得られた測定結果の提供に依拠する。
【0054】
眼および水晶体嚢のサイズを測定する方法は、当該技術分野で知られている(例えば、国際公開第2011/02068号を参照)。生体測定方法は、近年日常的に使用されている眼のレーザ干渉生体測定(光学生体測定とも呼ばれる)における白内障および屈折矯正治療などのための超音波生体測定を含む。当該技術分野において知られている代替的な方法は、部分干渉性干渉分光法である。一般的に使用され、市販されている例示的な眼球バイオメータは、ZeissのIOL MasterおよびHaag StreitのLenstarシステムを含む。
【0055】
個人に合わせたキットを提供する方法のいくつかの実施形態では、追加のステップにおいて、充填組成物15の成分は、特定の患者の必要に適合される。いくつかの実施形態では、充填組成物15は、例えば、自家細胞の添加によって、または、異種生細胞および/もしくは特定の成分もしくは活性成分の選択によって適合される。細胞を含む充填組成物を有する個人に合わせたキットを提供する方法のいくつかの実施形態では、例えば、当該技術分野において知られている処置による増幅のために、細胞がin vitroで培養されてもよい。充填組成物は、すべての成分が予混合されたキットにおいて提供されてもよい。代替的に、充填組成物は、複数の画分において提供されてもよく、複数の画分の一部は、患者への充填組成物の投与前の所定の時点において充填組成物に添加および混合されるか、または、同じもしくは異なる時点において充填組成物の別個の画分として充填組成物とともに嚢内空間に投与される成分または細胞を含んでもよい。
【0056】
本方法のいくつかの実施形態において、インプラントの体積に対する補完的な充填組成物の好ましい体積または体積の範囲は、嚢内空間への導入のために決定される。
【0057】
1つまたは複数のインプラント12を含む個人に合わせたキットを提供するこの方法によって、またはいくつかの実施形態において、充填組成物15をさらに含むことにより、インプラントまたはキットは有利には、例えば外科的処置前の適切な時期に患者の特定の必要性に適合される。
【0058】
本発明の現在好ましい実施形態を示し説明したが、本発明はそれに限定されず、添付の特許請求項の範囲内で他の様態で様々に具体化および実践されてもよいことを明確に理解されたい。
図1
図2