(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】車両用シート及びこの車両用シートを備えた車両、車両の制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B60N 2/04 20060101AFI20240404BHJP
B60N 2/10 20060101ALI20240404BHJP
B60W 40/107 20120101ALI20240404BHJP
【FI】
B60N2/04
B60N2/10
B60W40/107
(21)【出願番号】P 2020021041
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(72)【発明者】
【氏名】石原 慶隆
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭史
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 隆太
(72)【発明者】
【氏名】湊 裕貴
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071370(JP,A)
【文献】特開2017-213940(JP,A)
【文献】特開2000-262758(JP,A)
【文献】特開2008-284949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/04
B60N 2/10
B60W 40/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備えられた座面に着座した乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測する予測手段が予測した加速度又は躍度を打ち消す方向及び速度で前記座面を傾斜する傾斜手段と、
を備え、
前記予測手段は、前記車両の走行路に関する情報である走行路情報、前記車両に設けられたアクセルペダルの踏み込み角度に関する情報であるアクセル開度情報、前記車両に設けられたブレーキペダルの踏み込み角度に関する情報であるブレーキ開度情報及び前記車両に設けられたハンドルの舵角に関する情報であるハンドル舵角情報に基づいて、前記車両の加速度に関する情報である加速度及び躍度を予測し、前記乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測することを特徴とする、
車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートにおいて、
車両用シートを支持するブラケットと、
前記座面を保持するフレームと、
前記フレームを前記ブラケットに傾斜可能に固定する一対のフロントジョイント及び一対のバックジョイントと、
を備え、
一対の前記フロントジョイント又は一対の前記バックジョイントは、少なくとも一方がそれぞれユニバーサルジョイント構造を有することを特徴とする、
車両用シート。
【請求項3】
乗員が着座する座面を有する車両用シートと、
前記乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測する予測手段が予測した加速度又は躍度を打ち消す方向及び速度で前記座面を傾斜する傾斜手段と、
を備えた車両において、
前記予測手段は、前記車両の走行路に関する情報である走行路情報、前記車両に設けられたアクセルペダルの踏み込み角度に関する情報であるアクセル開度情報、前記車両に設けられたブレーキペダルの踏み込み角度に関する情報であるブレーキ開度情報及び前記車両に設けられたハンドルの舵角に関する情報であるハンドル舵角情報に基づいて、前記車両の加速度に関する情報である加速度及び躍度を予測し、前記乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測することを特徴とする、
車両。
【請求項4】
車両の走行路に関する情報である走行路情報、前記車両に設けられたアクセルペダルの踏み込み角度に関する情報であるアクセル開度情報、前記車両に設けられたブレーキペダルの踏み込み角度に関する情報であるブレーキ開度情報及び前記車両に設けられたハンドルの舵角に関する情報であるハンドル舵角情報に基づいて、前記車両の加速度に関する情報である加速度及び躍度を予測し、乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測する予測ステップと、
前記予測ステップで予測した加速度又は躍度を打ち消す方向及び速度で座面を傾斜する傾斜ステップと、
を含むことを特徴とする、
車両の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の各ステップを1又は2以上のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート及びこの車両用シートを備えた車両、車両の制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の各シート位置において、乗り心地の向上、および運転姿勢の安定化を図る乗員姿勢制御装置が知られている。例えば、特許文献1には、車両用シートの少なくともピッチ方向の傾きおよび/または位置を変位させるRY軸方向アクチュエータと、車両の加速度を含む車両の状態を表す情報を収集するX軸方向加速度センサと、車両の加速度に基づいてRY軸方向アクチュエータによる車両用シートの傾きおよび/または位置の変化量を調節する制御部と、を備え、制御部は、車両の前進方向を正として車両用シートのピッチ方向の制御のゲインについて、車両の加速度が正の場合のゲインの絶対値を車両の加速度が負の場合のゲインの絶対値より小さくする、車両の乗員姿勢制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の乗員姿勢制御装置では、車両の状態を表す情報に基づいてRY軸方向の傾きを変更することで、加速時や減速時に乗員に発生する加速度を減少させることで乗員の快適性を向上させることを目的としており、車両のRX軸方向への傾きを変更することは想定していない。
【0005】
ところで、車両が旋回する際に乗員に対して旋回軌道の外側方向に加速度が生じた場合や路面の起伏等が原因で車両が上下に大きく動くことで乗員に対して上下方向に加速度が生じることになる。このように、乗員に対する加速度が変化することが、車酔いの一因になることが知られている。このため、車酔いの発生を低減するために、乗員に対する加速度変化を低減することが有効であると考えられる。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、乗員の頭部の移動を低減することで乗員が酔い状態となる可能性を未然に低減することができる車両用シートを提供することを主目的とする。また、このような車両用シートを備えた車両、車両の制御方法及びプログラムを提供することも、目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の目的の少なくとも一つを達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の車両用シートは、
車両に備えられた座面に着座した乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測する予測手段が予測した加速度又は躍度を打ち消す方向及び速度で前記座面を傾斜する傾斜手段と、
を備えたことを特徴とする、
ものである。
【0009】
この車両用シートでは、乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測し、乗員が着座した座面を傾斜することで乗員に生じる加速度又は躍度の変化を低減する。乗員に生じる加速度又は躍度の変化は、乗員の車酔いの原因となる可能性があるため、乗員が着座した座面を乗員に生じる加速度又は躍度を打ち消す方向に傾斜することで、乗員に生じる加速度又は躍度の変化を低減し、乗員が車酔いを感じる可能性を未然に低減することができる。なお、ここで「走行路情報」とは、例えば、車両の前方側を撮像する撮像手段によって取得される路面の湾曲や凹凸等に関する情報や、予め定められた地図情報と車両の位置情報から推測される、車両が進行する経路の路面の湾曲や勾配に関する情報等、車両が走行する路面に関する情報を意味する。
【0010】
本発明の車両用シートにおいて、前記予測手段は、前記車両の走行路に関する情報である走行路情報、前記車両の加速度に関する情報である加速度情報、前記車両に設けられたアクセルペダルの踏み込み角度に関する情報であるアクセル開度情報、前記車両に設けられたブレーキペダルの踏み込み角度に関する情報であるブレーキ開度情報、前記車両に設けられたハンドルの舵角に関する情報であるハンドル舵角情報の少なくとも一つに基づいて前記乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測することを特徴としてもよい。これらの情報は、いずれも車両の加速度又は躍度に影響を与える可能性が高く、乗員に生じる加速度又は躍度の変化に影響を与える可能性が高いため、これらの情報に基づいて乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測することで、予測精度を高め、乗員に生じる加速度の変化をより正確に低減し、乗員が車酔いを感じる可能性を未然に低減することができる。
【0011】
本発明の車両用シートは、車両用シートを支持するブラケットと、前記座面を保持するフレームと、前記フレームを前記ブラケットに傾斜可能に固定する一対のフロントジョイント及び一対のバックジョイントと、を備え、一対の前記フロントジョイント又は一対の前記バックジョイントは、少なくとも一方がそれぞれユニバーサルジョイント構造を有することを特徴としてもよい。こうすることにより、ブラケットに固定されたフレームを車両の進行方向側だけでなく、側面方向側にも傾斜することができる。
【0012】
本発明の車両は、
乗員が着座する座面を有する車両用シートと、
前記乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測する予測手段が予測した加速度又は躍度を打ち消す方向及び速度で前記座面を傾斜する傾斜手段と、
を備えたことを特徴とする、
ものである。
【0013】
この車両では、乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測し、乗員が着座した座面を傾斜することで乗員に生じる加速度又は躍度の変化を低減する。乗員に生じる加速度又は躍度の変化は、乗員の車酔いの原因となる可能性があるため、車両の走行路情報に基づいて乗員が着座した座面を乗員に生じる加速度又は躍度を打ち消す方向に傾斜することで、乗員に生じる加速度又は躍度の変化を低減し、乗員が車酔いを感じる可能性を未然に低減することができる。
【0014】
本発明の車両の制御方法は、
乗員が着座する座面を有する車両用シートと、前記乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測する予測手段が予測した加速度又は躍度を打ち消す方向及び速度で前記座面を傾斜する傾斜手段と、を備えたことを特徴とする車両を制御するための制御方法であって、
前記乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測する予測ステップと、
前記予測ステップで予測した加速度又は躍度を打ち消す方向及び速度で前記座面を傾斜する傾斜ステップと、
を含むことを特徴とする、
ものである。
【0015】
この車両の制御方法では、乗員に生じる加速度又は躍度の変化を予測し、乗員が着座した座面を傾斜することで乗員に生じる加速度又は躍度の変化を低減する。乗員に生じる加速度又は躍度の変化は、乗員の車酔いの原因となる可能性があるため、車両の走行路情報に基づいて乗員が着座した座面を乗員に生じる加速度又は躍度を打ち消す方向に傾斜することで、乗員に生じる加速度又は躍度の変化を低減し、乗員が車酔いを感じる可能性を未然に低減することができる。
【0016】
本発明の車両の制御方法において、車両の制御方法は上述したいずれかの車両が備えている各構成を備えていてもよいし、また、上述したいずれかの車両の機能を実現するようなステップを追加してもよい。
【0017】
本発明のプログラムは、車両の制御方法の各ステップを1又は2以上のコンピュータに実行させるためのプログラムである。このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体(例えば、ハードディスク、ROM、CD、DVD、フラッシュメモリなど)に記録されていても良いし、伝送媒体(インターネットや有線/無線LANなどの通信網)を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ送信されても良いし、その他どのような形で授受されても良い。また、制御方法の各ステップを実行する装置で実行されるものであっても、プログラムが実行される装置と処理が行われる装置とが異なっていてもよい。いずれの場合であっても、このプログラムを1つのコンピュータに実行させるか又は複数のコンピュータに各ステップを分担して実行させれば、上述した制御方法と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、車両用シート30の構造の概略を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、車両用シート30の内部構造の一部を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、車両20の電気的な接続を説明するためのブロック図である。
【
図4】
図4は、傾斜制御処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態の一例である車両20について詳しく説明する。以下に説明する実施の形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。なお、各図において対応する構成要素には同一又は類似の符号を付す。また、車両20における制御方法の一例を示すことで、本発明の車両の制御方法及び制御プログラムの一例を明らかにする。
【0020】
本発明の実施の形態の一例である車両20は、
図1に示すように、乗員が座面32に着座する車両用シート30と、車両20の前方方向を撮像する撮像カメラ50(
図3参照)と、車両20の走行及び車両用シート30の傾斜を制御する制御ユニット60と、を備えている。この車両20では、制御ユニット60からの制御信号に基づいて座面32の傾斜が制御される。
【0021】
車両用シート30は、
図1及び
図2に示すように、座面32を保持するフレーム34と、車両用シート30を支持するブラケット36と、を有しており、ブラケット36とフレーム34とは、それぞれ一対のフロントジョイント38及び一対のバックジョイント40によってフレーム34が摺動可能に固定されている。また、バックジョイント40は、制御ユニット60と電気的に接続されたモータ42とそれぞれ連接されている。このため、制御ユニット60から制御信号が送信されると、モータ42の回転が制御され、バックジョイント40が揺動する。このとき、フロントジョイント38はユニバーサルジョイント構造であるため、バックジョイント40の揺動に伴って揺動し、座面32が所定の方向、所定の速度で傾斜する。このようにユニバーサルジョイント構造を採用することにより、全てのフロントジョイント38及びバックジョイント40に駆動モータを有しない場合であっても、座面32を所定の方向、所定の速度で傾斜させることができる。付言すると、乗員の加速度を減少させる方向、速度で座面32を傾斜させることで、乗員の加速度の変化を低減させ、車酔いの原因となる加速度の変化を減少させ、車酔いの発生を未然に低減することができる。
【0022】
撮像カメラ50は、本発明の走行路情報取得手段に相当する公知のデジタルカメラであり、車両の前方側に向けて設けられている。この撮像カメラ50は、車両20の前方方向を撮像する方向に向けて取り付けられており、車両20の進行方向側の走行路を撮像し、制御ユニット60に走行路情報を含む撮像情報を送信する。
【0023】
制御ユニット60は、本発明の制御手段に相当し、CPU61を中心とするマイクロプロセッサとして構成されている。この制御ユニット60は、傾斜制御処理ルーチンを含む各種プログラム等が記憶されたROM62と、撮像カメラ50から出力された撮像情報等を一時的に記憶するRAM63と、酔い判定閾値等各種情報を記憶する記憶手段64と、撮像カメラ50やモータ42等との間の各種信号の送受信を行うインタフェース65(以下、「I/F65」と言う。)がそれぞれバス66を介して電気的に接続されている。この制御ユニット60は、撮像カメラ50から出力された撮像情報に基づいて乗員の将来の加速度の変化の予測値を算出し、加速度の変化の予測値に基づいて座面32を傾斜させる。こうすることにより、車両20の走行による加速度の少なくとも一部を座面32の傾斜による加速度で相殺し、乗員に生じる加速度の変化を低減することができる。乗員に生じる加速度の変化は、乗員の酔いの発生の原因となるため、この加速度の変化を低減することにより、乗員が車酔い状態となる可能性を未然に低減することができる。なお、この制御ユニット60は、酔い状態であるか否かを判定する処理のみを行うものであってもよいし、車両に備えられたECU等の制御ユニットの一部であってもよい。
【0024】
次に、座面32の傾きを制御する傾斜制御処理ルーチンの一例について、
図4を用いて説明する。ここで、
図4は、座面32の傾きを制御する傾斜制御処理ルーチンの一例を示すフローチャートであり、この傾斜制御処理ルーチンは、撮像カメラ50から撮像情報が出力された際に繰り返し実行される。
【0025】
この傾斜制御処理ルーチンが実行されると、CPU61は、撮像カメラ50から出力された撮像情報及び現在の車両20の速度に関する情報である速度情報を取得し(ステップS110)、撮像情報及び速度情報に基づいて乗員に生じる加速度変化量の予測値を算出する(ステップS120)。具体的には、例えば、撮像情報に進行方向側の路面の湾曲が含まれている場合には、撮像情報から湾曲する路面の曲率を算出し、算出した曲率と速度情報から湾曲した路面を走行する際に乗員に生じる加速度の予測値を算出する。この加速度の予測値と現在の加速度の差を算出することにより、加速度変化量の予測値を算出する。
【0026】
次に、CPU61は、ステップS120で算出した加速度変化量の予測値が予め定められた酔い判定閾値範囲内に含まれているか否かを判定し(ステップS130)、酔い判定閾値範囲内に含まれていないと判定した場合には、本ルーチンを終了する。このような場合には、乗員に酔いが生じる可能性が低いため、座面32を傾斜する必要がないためである。
【0027】
一方、ステップS130において、加速度変化量の予測値が酔い判定閾値範囲内に含まれているとCPU61が判定した場合には、モータ42の回転を制御し(ステップS140)、座面32を傾斜する。具体的には、モータ42の回転数を調整することで、加速度の変化を減少させ、酔い判定閾値範囲内に含まれない加速度となる方向及び量で加速度が生じる速度及び方向に座面32を傾斜させる。こうすることにより、走行によって発生する加速度の変化を低減し、酔い判定閾値範囲内に含まれない加速度変化量とすることで、乗員の酔いが発生する可能性を未然に低減することができる。例えば、乗員の頭部に右方向に大きな加速度が増加することを加速度変化量の予測値が示した場合には、座面32が左方向に傾斜する向きにモータ42を回転させることにより、座面32が左方向に傾くことによって乗員の頭部に左方向への加速度を発生させる。こうすることにより、加速度の変化を低減することができる。
【0028】
以上詳述した実施の形態の車両20によれば、撮像カメラ50が取得した走行路情報を含む撮像情報に基づいて、制御ユニット60が乗員に生じる加速度変化量の予測値を算出し(ステップS120)、予め定められた酔い判定閾値範囲内に含まれていると判定した場合には、モータ42の回転速度を制御することで乗員が着座した座面32を傾斜させて乗員に加速度を生じさせる。このとき、予測加速度変化量が減少する速度及び方向で座面32を傾斜し、乗員が感じる加速度の変化量を予め定められた酔い判定閾値範囲に含まれない範囲まで低減することで、乗員の酔いが発生する可能性を未然に低減することができる。
【0029】
また、加速度変化量の予測値を算出する際、走行路情報と速度情報に基づいて加速度変化量の予測値を算出するため(ステップS120)、加速度の変化の発生タイミングと発生量を正確に算出することができる。
【0030】
更に、車両用シート30において、ブラケット36とフレーム34とは、それぞれ一対のフロントジョイント38及び一対のバックジョイント40によってフレーム34が摺動可能に固定されており、フロントジョイント38はいずれもユニバーサルジョイント構造を有しているため、一対のバックジョイント40に連接するモータ42の回転数を制御することにより、車両の進行方向に限定されず、側面方向も含めた所望の方向に所望の速度で座面32を傾斜することができる。
【0031】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
例えば、上述した実施の形態では、ステップS120で加速度変化量の予測値を算出し、ステップS130で加速度変化量の予測値に基づいて乗員が酔い状態であるか否かを判定するものとしたが、ステップS120で加速度変化量の予測値を時間微分し、躍度(加加速度)変化量を算出し、ステップS130で加速度変化量に代えて、躍度変化量を用いて乗員が酔い状態であるか否かを判定してもよい。この場合も、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0033】
上述した実施の形態では、ステップS120で撮像情報及び速度情報に基づいて乗員に生じる加速度変化量の予測値を算出するものとしたが、走行路に関する情報である走行路情報及び速度情報に基づいて加速度変化量の予測値を算出するものとしてもよい。例えば、予め定められた走行路に従って走行する場合には、予め定められた走行路の湾曲する路面の曲率を算出し、算出した曲率と速度情報から湾曲した路面を走行する際に乗員に生じる加速度の予測値を算出してもよい。こうして算出した加速度の予測値と現在の加速度の差を算出することにより、加速度変化量の予測値を算出することができ、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0034】
上述した実施の形態では、ステップS120で撮像情報及び速度情報に基づいて乗員に生じる加速度変化量の予測値を算出するものとしたが、前記車両に設けられたアクセルペダルの踏み込み角度に関する情報であるアクセル開度情報に基づいて加速度変化量の予測値を算出するものとしてもよい。例えば、アクセルの踏み込み角度が大きくなった場合には、車両が加速し、加速に伴って後方方向に加速度が生じることが予想される。このとき生じる加速度を加味することにより、より正確に加速度変化量の予測値を算出することができ、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0035】
上述した実施の形態では、ステップS120で撮像情報及び速度情報に基づいて乗員に生じる加速度変化量の予測値を算出するものとしたが、前記車両に設けられたブレーキペダルの踏み込み角度に関する情報であるブレーキ開度情報に基づいて加速度変化量の予測値を算出するものとしてもよい。例えば、ブレーキの踏み込み角度が大きくなった場合には、車両が減速し、減速に伴って前方方向に加速度が生じることが予想される。このとき生じる加速度を加味することにより、より正確に加速度変化量の予測値を算出することができ、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0036】
上述した実施の形態では、ステップS120で撮像情報及び速度情報に基づいて乗員に生じる加速度変化量の予測値を算出するものとしたが、前記車両に設けられたハンドルの舵角に関する情報であるハンドル舵角情報及び速度情報に基づいて加速度変化量の予測値を算出するものとしてもよい。例えば、ハンドルが右方向に所定の角度回動した場合、車両が右方向に旋回するに伴って回転角度及び速度に応じた加速度が左方向に生じることが予想される。このとき生じる加速度を加味することにより、より正確に加速度変化量の予測値を算出することができ、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0037】
上述した実施の形態では、撮像カメラ50が進行方向側の路面を撮像することで、走行路情報を含む撮像情報を取得するものとしたが、走行路情報はこれに限定されるものではなく、例えば、予め定められた地図情報とGPSシステムによって取得した位置情報とから予測されるルートを走行路情報としてもよいし、予め記憶された路面情報を走行ルートに基づいて読み出し走行路情報としてもよい。これらの場合も、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0038】
上述した実施の形態では、ステップS120において、現在の車両20の速度に関する情報である速度情報を用いるものとしたが、速度情報を取得する方法としては、例えば、車両20の図示しない車軸の回転数に基づいて車両速度を算出することで速度情報を取得してもよいし、GPSシステムによる位置情報の移動度から車両速度を算出してもよいし、加速度センサ等各種センサからの情報に基づいて速度情報を取得してもよい。いずれの場合も、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0039】
上述した実施の形態では、一対のフロントジョイント38はいずれもユニバーサルジョイント構造であるものとしたが、このユニバーサルジョイント構造は、公知の種々の構造を採用することができる。いずれの構造であっても、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0040】
上述した実施の形態では、一対のフロントジョイント38がユニバーサルジョイント構造であり、一対のバックジョイント40にモータ42を連接させることで座面32を傾斜させるものとしたが、一対のフロントジョイント38に変えて、一対のバックジョイント40がユニバーサル構造であり、モータ42がそれぞれ一対のフロントジョイント38に連接することで座面32を傾斜させるものとしてもよい。また、右側に位置するフロントジョイント38及び右側に位置するバックジョイント40がユニバーサルジョイント構造であり、左側に位置するフロントジョイント38及び左側に位置するバックジョイント40にモータ42を連接させることで座面32を傾斜させるものとしてもよいし、左側に位置するフロントジョイント38及び左側に位置するバックジョイント40がユニバーサルジョイント構造であり、右側に位置するフロントジョイント38及び右側に位置するバックジョイント40にモータ42を連接させることで座面32を傾斜させるものとしてもよい。いずれの場合も、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0041】
上述した実施の形態では、撮像カメラ50はデジタルカメラであるものとしたが、撮像カメラ50はデジタルビデオカメラであってもよい。この場合も、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0042】
上述した実施の形態では、酔い判定閾値はあらかじめ記憶手段64に定められているものとしたが、酔い判定閾値を入力する入力手段(例えば、タッチパネルやテンキー等)を備え、入力手段から入力された値を酔い判定閾値として記憶手段64に記憶するものとしてもよい。酔い状態であると感じるか否かは、乗員の個人差があるため、乗員に応じて酔い判定閾値を設定することで、座面32を傾斜する際の速度及び方向を制御する際、個人差を加味することができる。
【0043】
上述した実施の形態では、酔い判定閾値はあらかじめ記憶手段64に定められているものとしたが、酔い判定閾値を表示する表示手段(例えば、液晶モニタ等)と、酔い判定閾値を変更する変更手段(例えば、タッチパネルやテンキー等)と、を備え、記憶手段64に記憶された酔い判定閾値を表示手段に表示するとともに、入力手段から入力された入力情報(例えば、アップや上、ダウンや下、といった数値の変更を意図する信号)に基づいて酔い判定閾値を変更してもよい。酔い状態であると感じるか否かは、乗員の個人差があるため、座面32を傾斜する際の速度及び方向を制御する際、個人差を加味することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
上述した実施の形態で示すように、車両の制御分野、特に乗員の酔い軽減機能を有する車両用シートとして利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
20…車両、30…車両用シート、32…座面、34…フレーム、36…ブラケット、38…フロントジョイント、40…バックジョイント、42…モータ、50…撮像カメラ、60…制御ユニット、61…CPU、62…ROM、63…RAM、64…記憶手段、65…インタフェース、66…バス。