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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】荷電粒子の照射制御装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
A61N5/10 H
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020053252
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151401
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】酒井 弘満
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-047115(JP,A)
【文献】特開2011-237301(JP,A)
【文献】特開2005-103255(JP,A)
【文献】特開2000-331799(JP,A)
【文献】特開2006-288875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
G21K 5/10
G21K 1/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線の照射を受けて中性子を発生する物質からなるターゲットに対して、当該荷電粒子の照射制御を行う照射制御装置において、
前記荷電粒子を偏向させる偏向手段と、
前記ターゲットの照射面上で前記荷電粒子のビームを移動させることで、前記照射面の中心を通り直径方向に延びる基準線を設定した場合、前記基準線を通過する前記ビームの経路の一つ分によってできる熱密度の山が前記照射面の前記基準線における中央と端部との間で複数形成されるように、前記偏向手段を制御する制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、前記偏向手段を制御して、前記照射面の中央側と端部側とで、前記ビームの移動速度または同一の照射領域への照射回数を変化させる、荷電粒子の照射制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記偏向手段を制御して、前記荷電粒子のビームの直径を前記照射面の半径より小さくする、請求項1に記載の荷電粒子の照射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、荷電粒子の照射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、ターゲットに対して荷電粒子を照射する際に、ターゲット面の照射面上で荷電粒子のビームを周回移動させることが示されている。具体的には、特許文献1には、荷電粒子のビームの径をターゲットの直径の略1/2とすること、荷電粒子のビームの中心の周回軌道をターゲットの中心を中心としたターゲット直径の略1/4を半径とした円形軌道とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-237301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、荷電粒子のビームに係るビーム電流を増加することが求められている。しかしながら、特許文献1記載の方法では、ターゲットへの入熱の分布に偏りがあるため局所的にターゲットが高い熱負荷を受ける可能性があり、ビーム電流の増加が難しいと考えられる。
【0005】
本開示は、ターゲットへの入熱に係る熱密度をより均一にすることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の一形態に係る荷電粒子の照射制御装置は、荷電粒子線の照射を受けて中性子を発生する物質からなるターゲットに対して、当該荷電粒子の照射制御を行う照射制御装置において、前記荷電粒子を偏向させる偏向手段と、前記ターゲットの照射面上で前記荷電粒子のビームを移動させることで、前記ビームによってできる熱密度の山が前記照射面の中央と端部との間で複数形成されるように、前記偏向手段を制御する制御手段と、を有する。
【0007】
上記の荷電粒子の照射制御装置によれば、ターゲットの照射面上で荷電粒子のビームを移動させることで、ビームによってできる熱密度の山が照射面の中央と端部との間で複数形成される。その結果、照射面に対するビーム照射の合算によるターゲットへの入熱に係る熱密度をより均一にすることができる。
【0008】
前記制御手段は、前記偏向手段を制御して、前記荷電粒子のビームの直径を前記ターゲットの半径より小さくする態様とすることができる。
【0009】
ビームの直径がターゲットの半径より小さい場合、ビームによる照射領域をより細かく調整することができる。したがって、長時間の照射の合算によるターゲットへの入熱に係る熱密度をより均一にすることができる。
【0010】
前記制御手段は、前記偏向手段を制御して、前記照射面の中央側と端部側とで、前記ビームの移動速度または同一の照射領域への照射回数を変化させる態様とすることができる。
【0011】
ビームの移動速度および同一の照射領域への照射回数はターゲットへの入熱に係る熱密度に影響する。したがって、ビームの移動速度または同一の照射領域への照射回数を変化させることによって、ターゲットへの入熱に係る熱密度がより均一になるように調整することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ターゲットへの入熱に係る熱密度をより均一にすることが可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係る荷電粒子の照射制御装置を備える中性子発生装置の構成を示す図である。
図2図2は、一実施形態に係る荷電粒子の照射制御装置の構成を示す図である。
図3図3は、ターゲットの照射面に対する荷電粒子の照射制御方法の一例を示す図である。
図4図4は、ターゲットの照射面に対する荷電粒子による入熱の分布について説明する図である。
図5図5は、ターゲットの照射面に対する荷電粒子による入熱の分布について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本開示を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本開示の一実施形態に係る荷電粒子の照射制御装置を備える中性子発生装置の構成を示す図であり、図2は、本発明の実施形態に係る荷電粒子の照射制御装置の構成を示す図である。また、図3は、ターゲットの照射面に対する荷電粒子の照射制御方法を示す図である。
【0016】
図1に示す中性子発生装置1は、例えば、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)等の中性子捕捉療法を用いたがん治療などを行うために用いられる装置である。
【0017】
中性子発生装置1は、サイクロトロン10等の加速器を備える。加速器は、陽子などの荷電粒子を加速して、粒子線を作り出す。サイクロトロン10は、例えば、ビーム径40mm、60kw(=30MeV×2mA)の陽子線を生成する能力を有している。
【0018】
サイクロトロン10から取り出された陽子、重陽子等のイオン(以下、荷電粒子という。)Pのビーム(荷電粒子線)は、例えば、水平型ステアリング12、4方向スリット14、水平垂直型ステアリング16、マグネット18,19,20、90度偏向電磁石22、マグネット24、水平垂直型ステアリング26、マグネット28、4方向スリット30、CTモニタ32、照射制御装置100、ビームダクト34を順次に通過し、中性子発生部36に導かれる。
【0019】
水平型ステアリング12、水平垂直型ステアリング16,26は、例えば電磁石を用いて荷電粒子Pのビーム軸調整を行うものである。同様に、マグネット18,19,20,24,28は、例えば電磁石を用いて荷電粒子Pのビーム軸調整を行うものである。4方向スリット14,30は、端のビームを切ることにより、荷電粒子Pのビーム整形を行うものである。90度偏向電磁石22は、荷電粒子Pの進行方向を90度偏向するものである。CTモニタ32は、荷電粒子Pのビーム電流値をモニタするためのものである。
【0020】
中性子発生部36は、図2に示すように、荷電粒子Pが照射面38aに照射されて、中性子nを出射面38bから発生するターゲット38を有する。ターゲット38は、例えば、ベリリウム(Be)等の荷電粒子Pの照射によって中性子を発生する物質からなり、外周部がターゲット固定部39にボルト等で固定される。ビーム照射面側においてターゲット固定部39によって固定されていない領域(ターゲット固定部39によって覆われていない内周側の領域)が荷電粒子Pの照射面38aとなり得る。照射面38aにおけるビーム照射の有効直径Dtは、例えば、直径220mmとされる。中性子発生部36で発生させた中性子nは、患者に照射されることとなる。
【0021】
また、90度偏向電磁石22には切替部40が設けられており、切替部40によって荷電粒子Pを正規の軌道から外してビームダンプ42に導くことが可能になっている。ビームダンプ42は、治療前などにおいて荷電粒子Pの出力確認を行うものである。
【0022】
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態に係る荷電粒子の照射制御装置100及び照射制御方法について説明する。照射制御装置100は、ターゲット38に対して荷電粒子Pの照射制御を行う装置であり、X方向偏向部110と、Y方向偏向部120と、制御部130(制御手段)とを備える。X方向偏向部110およびY方向偏向部120は、荷電粒子Pを偏向させる偏向手段として機能する。
【0023】
X方向偏向部110は、例えば電磁石を備え、入射する荷電粒子PをX方向に偏向させて出射する。同様に、Y方向偏向部120は、例えば電磁石を備え、入射する荷電粒子PをY方向に偏向させて出射する。X方向偏向部110及びY方向偏向部120は、制御部130によって制御される。
【0024】
制御部130は、荷電粒子PのビームBpの径を調整する。一例として、図3に示すように、制御部130は、荷電粒子PのビームBpの直径Dpを、ターゲット38の照射面38a上で、ターゲット38の有効直径(最小外形幅)Dt=220mmの略1/2以下に調整する。一例として、直径Dpを220×3/8=82.5mm(半径を41.25mm)とする。
【0025】
また、制御部130は、X方向偏向部110及びY方向偏向部120を制御して、ターゲット38の照射面38a上で、荷電粒子PのビームBpの中心Opが、照射面38aの中心Oを軌道中心Oとし、所定の半径の円形の軌道を描くように、荷電粒子PのビームBpを周回移動させる。これにより、ビームBpは、ターゲット38の照射面38aにおいて、照射面38aの中心Oを中心とした円環状の領域を照射することになる。また、制御部130は、荷電粒子PのビームBpの中心Opが、照射面38aの中心Oを軌道中心Oとした互いに異なる半径の複数の円形軌道を描くように、荷電粒子PのビームBpを複数回周回移動させる。この際に、制御部130は、ビームBpの中心Opが描く複数の周回軌道同士が多重円を形成するように、周回軌道の径R(後述のRL1,RL2,…)を決定する。
【0026】
例えば、図3に示す例では、制御部130は、荷電粒子PのビームBpについて、まず、中心Opを円形状の周回軌道L1に沿って周回させる。周回軌道L1の軌道中心O、半径RL1は、それぞれ、ターゲット38の照射面38aの中心O、照射面38aの有効直径Dt=220mmの略5/16の68.75mmに設定されている。このような条件で、荷電粒子PのビームBpの中心Opを周回軌道L1に沿って周回させる。
【0027】
次に、制御部130は、荷電粒子PのビームBpについて、中心Opを円形状の周回軌道L2に沿って周回させる。周回軌道L2の軌道中心O、半径RL2は、それぞれ、ターゲット38の照射面38aの中心O、照射面38aの有効直径Dt=220mmの略3/16の41.25mmに設定されている。このような条件で、荷電粒子PのビームBpの中心Opを周回軌道L2に沿って周回させる。
【0028】
次に、制御部130は、荷電粒子PのビームBpについて、中心Opを円形状の周回軌道L3に沿って周回させる。周回軌道L3の軌道中心O、半径RL3は、それぞれ、ターゲット38の中心O、ターゲット38の有効直径Dt=220mmの略1/16の13.75mmに設定されている。このような条件で、周回軌道L3に沿って周回させる。
【0029】
上記のように、互いに異なる半径の周回軌道でビームBpの中心Opを周回させながら、荷電粒子PのビームBpを照射することで、ターゲット38の照射面38aに対する入熱に係る熱密度をターゲット38表面の場所によらず略均一とすることができる。なお、本実施形態において「略均一」とは、ターゲット38の照射面38a上での熱密度のばらつきに関して、最大値に対する極小値の割合が50%以下であることをいう。熱密度のばらつきについて、最大値に対する極小値の割合が30%以下であると、より均一であるといえる。
【0030】
この点について、図4および図5を参照しながら説明する。図4は、ターゲット38の照射面38aの中心Oを通る直径方向で見たときの各位置での入熱量の分布を示したものである。横軸は、ターゲット38の中心を0として、有効直径Dt=220mmの外縁を+110mm、-110mmとして示している。また、図4では、横軸の有効直径を16σ(半径8σ)とし、照射面38aの中心Oを0とした-8σ~+8σとして示している。図4に示す例では、σ=13.75mmとなり、ターゲット38の外縁に相当する+110mm,-110mmが、それぞれ+8σ,-8σに相当する。また、図4では、縦軸は熱密度を示している。
【0031】
荷電粒子PのビームBpは、その中央付近(中心Op付近)と周縁部分とで、ターゲット38に対する入熱量が異なっている。具体的には、ビームBpの入熱に係るターゲット38の照射面38aでの熱密度は、その中心からの径に応じた正規分布となると推定される。このような場合、ビームBpの中央付近に対応する領域と、ビームBpの端部に対応する領域との間で、ビームBpによる熱密度に偏りが生じる。荷電粒子のビームBpの直径を大きくすると、中心部分の熱密度も大きくなる。ただし、ビームBpはターゲット38の照射面38a上に照射されるように照射範囲が調整されることから、ビームBpの直径を大きくすると、ビームBpのOpでは、ビームBpの周縁と比べて入熱量が非常に大きくなり、熱応力等が生じ得る。
【0032】
これに対して、図4に示すように、中心Opに係るL1~L3の3つの周回軌道に沿って、ある程度直径Dpが小さくされているビームBpを用いてターゲット38の照射面38aを照射した場合、周回軌道L1~L3それぞれに沿って中心Opが周回するようにビームBpを照射した際の一度の熱密度は正規分布を示す。一方、周回軌道L1~L3の3回の周回によるターゲット38の照射面38aへのビームBpの照射の合算による入熱量Tは、3回の周回それぞれにおけるターゲット38の照射面38aへの入熱量の合算となるため、図4に示すように略平坦となる。このように、一度のターゲット38の照射面38aへの荷電粒子PのビームBpの照射と比べて、ビームBpの直径Dpを小さくして、中心Opが互いに異なる経路を辿るようにビームBpを複数回照射することで、ターゲット38に対して入熱量を場所によらず平坦とすることができる。また、入熱量を平坦とすることができると、ターゲット38の各位置で中性子を均等に生成することができると共に、応力の発生等も抑制することができる。
【0033】
図5は、従来の荷電粒子Pのビームの照射方法によるターゲット38へ入熱する熱密度と、本実施形態による荷電粒子Pのビームの照射方法によるターゲット38へ入熱する熱密度と、の違いを模式的に示したものである。横軸はターゲット38の照射面38aの半径であり、ターゲット38の中心Oを0と想定したものである。
【0034】
荷電粒子Pのビームによるターゲット38への熱密度は、ビームの中心からの距離に応じた正規分布となると推定される。このとき、荷電粒子Pのビームの直径を大きくすると、中心部分の熱密度も大きくなる。例えば、図5では、ターゲットの照射面38aにおける中心から半径55mmの位置を中心位置とし、ビーム直径を50mmとした場合のビームのビーム形状Aの例を示している。この場合、ターゲットの照射面38aにおける中心から半径80mm付近では、ピーク位置(ターゲットの照射面38aにおける中心から半径55mm)と比べて熱密度が1/10以下となり、荷電粒子Pのビームが十分に到達していないことが分かる。この場合、ターゲット38の外周部分には、荷電粒子Pのビームが十分に照射されないため当該位置では中性子の生成が十分に行われない。同様に、ターゲットの照射面38aにおける中心から半径30mm付近では、ピーク位置(ターゲットの照射面38aにおける中心から半径55mm)と比べて熱密度が1/10以下となり、荷電粒子Pのビームが十分に到達していないことが分かる。この場合、ターゲット38の中央部分についても、荷電粒子Pのビームが十分に照射されないため当該位置では中性子の生成が十分に行われない。
【0035】
これに対して、図5に示すビーム形状Bのように、ターゲット38の照射面38aの中央(0mm)から周縁(110mm)にかけてできるだけ均等になるように荷電粒子Pのビームが照射できるようになると、ターゲット38の位置によらず熱密度を均一にすることができる。したがって、特定位置での熱密度が大きくならなくても全体としての入熱量を大きくすることができる。
【0036】
熱密度を均一にする方法として、本実施形態では、荷電粒子PのビームBpの径および照射経路を制御することで、ビームによってできる熱密度の山(ピーク)が、ターゲット38(の照射面38a)の中央と端部との間で向けて複数形成される。この結果、図4に示すように、ターゲット38の位置に応じた熱密度の差(合算結果の差)を小さくすることができる。
【0037】
以上のように、上記の荷電粒子の照射制御装置100によれば、ターゲット38の照射面38a上で荷電粒子PのビームBpを複数回周回させることで、ビームBpによってできる熱密度の山が照射面の中央から端部へ向けて複数形成される。その結果、複数回の照射の合算によるターゲットへの入熱に係る熱密度をより均一にすることができる。
【0038】
従来から、ターゲット38の照射面38aにおいてビームBpの中心が円軌道を描くように周回移動させることが検討されていた。しかしながら、ビームBpをターゲット38上に照射する(ターゲット38外に照射しない)ようにビームBpの直径Dpを大きくすると、ビームBpの中心と周縁との間での熱密度の差がある程度大きくなるため、さらなる検討が求められていた。ターゲット38の場所に応じてビームBp照射による入熱の際の熱密度に大きな偏りが出ると、ターゲット38の温度上昇の偏り、熱応力の発生等の影響を受けて、ターゲット38が破損することが考えられる。そのため、ビーム電流を大きくすることが難しいという問題があった。
【0039】
これに対して、上記の照射制御装置100では、ターゲット38の照射面38a上でビームBpを複数回周回させることによって、ビームBpによってできる熱密度の山を照射面の中央から端部へ向けて複数形成させる。この結果、ターゲット38の照射面38a上の各位置に照射される荷電粒子のビームによる熱密度の分布をより均一にすることができる。この結果、従来の構成と比較してターゲット38の周縁に近い部分まで荷電粒子PのビームBpを照射することができ、ターゲット38の有効利用ができる。また、このように、照射面38a上の各位置における熱密度の差が小さくなると、応力によるターゲット38の変形も防がれるため、ビーム電流を大きくした状態でもターゲット38の破損等を防ぎながら荷電粒子PのビームBpを照射することができる。したがって、中性子の発生量も増やすことができ、例えば、中性子捕捉療法では、中性子の照射時間を短くすることも期待できる。
【0040】
なお、上記実施形態では、「複数回周回」させることで、ビームによってできる熱密度の山を、ターゲット38の中央から径方向に沿って端部へ向けて複数形成している。しかしながら、複数回の「周回」に限定されるものではない。一例として、ビームBpの経路(ビームBpの中心Opの経路)をらせん状とした場合でも、ビームBpによってできる熱密度の山を、ターゲット38の中央と端部との間で複数形成することができる。すなわち、荷電粒子の照射制御装置100によれば、ターゲット38の照射面38a上で荷電粒子PのビームBpを移動させて、ビームBpによってできる熱密度の山を照射面の中央と端部との間で複数形成することによって、複数回の照射の合算によるターゲットへの入熱に係る熱密度をより均一にすることができる。上記実施形態は、その一例として、ビームBpの中心Opによる、ターゲット38の照射面38aの中心Oを軌道中心Oとした「周回軌道」を複数設けることで、ターゲットへの入熱に係る熱密度を均一にすることができるものを示したものである。
【0041】
制御手段としての制御部130は、偏向手段を制御して、荷電粒子のビームの直径Dpがターゲット38の照射面38aの半径より小さくする態様とすることができる。この場合、荷電粒子PのビームBpによる照射領域をより細かく調整することができ、その結果、各位置でのビームBpによる入熱に係る熱密度をより細かく調整することができる。すなわち、ターゲット38の照射面38a上における熱密度がより均一となるように、ビームBpの照射経路(例えば、周回軌道の径等を含む)を設定することができる。したがって、複数回の照射の合算によるターゲットへの入熱に係る熱密度をより均一にすることができる。
【0042】
荷電粒子PのビームBpのビームの直径Dpによって、ビームBpの中心Opによる周回軌道の数、周回軌道間の距離等は適宜変更される。すなわち、ターゲットへの入熱に係る熱密度が略均一となるように、ビームの直径Dp等に基づいてビームBpの軌道(ビームBpの中心Opが移動する経路)を設定することができる。
【0043】
なお、制御手段としての制御部130は、偏向手段を制御して、ターゲット38の中心と端部との間で、ビームBpの回転速度(照射面38aに対するビームBpの移動速度)を変化させてもよい。ビームBpが特定の位置を照射した時間の長さによって、当該ビームBpによる入熱の熱密度は変化し得る。換言すると、ターゲット38に対するビームBpの回転速度(移動速度)はターゲット38への入熱に係る熱密度に影響する。したがって、ビームの回転速度を変化させることによって、ターゲットへの入熱に係る熱密度がより均一になるように調整することができる。
【0044】
例えば、上記実施形態の例では、ビームBpの周回軌道L1~L3によってそれぞれ周回軌道L1~L3を周回する際のビームの回転速度を変化させることが考えられる。図3に示すように、ターゲット38上で周回軌道L1~L3に沿ってビームBpを周回させる場合、軌道に沿ったビームBpの移動速度を揃えることで、熱密度をより均一にすることができると考えられる。したがって、より長い周回軌道L1に沿ってビームBpを照射する場合の1周の所要時間を、周回軌道が短い周回軌道L2,L3に沿ってビームBpを照射する場合の1周の所要時間よりも長くすることで、熱密度をより均一にすることができる。
【0045】
なお、照射面38aでのビームBpの回転速度(周回軌道に沿ってビームBpが周回する際の1周あたりの所要時間)が同じである場合、各周回軌道での回転数を変化させた場合でも熱密度をより均一にすることができる。例えば、周回軌道L1に沿ったビームBpの周回を1回とするのに対して、周回軌道L3に沿ったビームBpの周回を3回とする。この場合、周回軌道L3に沿った周回においては周回軌道L1に沿った周回と比較して、照射面38aに対するビームBpの移動速度が速い場合であっても、ビームBpが同一の照射領域を複数回照射することにより、照射面に対するビーム照射の合算によるターゲットへの入熱に係る熱密度をより均一とすることができる。このように、ビームBpの移動速度、または、同一の照射領域へのビームBpの照射回数を変化させることで、入熱に係る熱密度を調整してもよい。
【0046】
なお、本開示は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。
【0047】
例えば、本実施形態では、荷電粒子のビームを円形状に拡大したが、円形状以外の様々な形状であってもよい。また、本実施形態では、荷電粒子の周回移動の軌道を円形状としたが、円形軌道以外の様々な周回軌道が適用可能である。
【0048】
また、ターゲット38としてはベリリウム(Be)に限定されず、タンタル(Ta)、リチウム(Li)などを用いることもできる。この場合にも、本発明の荷電粒子の照射制御装置は効果を奏する。また、ターゲット38の形状についても、円形に限定されず適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…中性子発生装置、10…サイクロトロン、36…中性子発生部、38…ターゲット、100…照射制御装置、110…X方向偏向部、120…Y方向偏向部、130…制御部。
図1
図2
図3
図4
図5