(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】免震装置および設計方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240404BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
E04H9/02 331B
F16F15/023 A
(21)【出願番号】P 2020059974
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大熊 潔
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-310227(JP,A)
【文献】特開2006-010015(JP,A)
【文献】特開2018-003853(JP,A)
【文献】特開2009-019383(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0159370(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
F16F 9/00-9/58
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物に接続される
、応答速度に対する減衰力の増加率が極小値となる所定速度および不連続に減少するリリーフ速度を有する免震装置であって、
応答速度の増加に対して減衰力が増加し、第1速度における減衰力の第1増加率が当該第1速度より大きい第2速度における減衰力の第2増加率よりも大きい第1ダンパと、
前記第1ダンパに対して並列に配置された第2ダンパであって、応答速度の増加に対して減衰力が増加し、前記第1速度における減衰力の第3増加率が前記第2速度における減衰力の第4増加率よりも小さく、当該第2速度よりも大きい第3速度における減衰力の第5増加率が、前記第4増加率よりも小さい第2ダンパと、
を備え
、
前記第1速度は、応答速度が0から前記所定速度までの領域に属する速度であり、
前記第2速度は、応答速度が前記所定速度から前記リリーフ速度までの領域に属する速度であり、
前記第3速度は、応答速度が前記リリーフ速度から設計最大速度までの領域に属する速度である免震装置。
【請求項2】
前記第1速度と前記第2速度との間における前記第2ダンパの減衰力が、応答速度の二乗に比例する、請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記第1速度と前記第2速度との間における前記第1ダンパの減衰力が、応答速度のα乗(αは0.1以上0.9以下)に比例する、請求項1または請求項2に記載の免震装置。
【請求項4】
前記第2速度における前記第2ダンパの減衰力は、前記第2速度における前記第1ダンパの減衰力より小さい、請求項1から請求項
3のいずれかに記載の免震装置。
【請求項5】
前記第2速度は、前記第1ダンパまたは前記第2ダンパの設計最大速度の半分である、請求項
4に記載の免震装置。
【請求項6】
前記第2速度は、0.5m/sである、請求項
4または請求項
5に記載の免震装置。
【請求項7】
前記第2速度は、0.75m/sである、請求項
4または請求項
5に記載の免震装置。
【請求項8】
前記第2速度における前記第2ダンパの減衰力は、前記第2速度における前記第1ダンパの減衰力に対する0.2以上0.8以下である、請求項
5から請求項
7のいずれかに記載の免震装置。
【請求項9】
前記第2ダンパは、前記第1ダンパに対して平行に配置されている、請求項1から請求項
8のいずれかに記載の免震装置。
【請求項10】
請求項1から請求項
9のいずれかに記載の免震装置において前記第1増加率から前記第5増加率を実現するように、前記第1ダンパおよび前記第2ダンパの粘性減衰係数を決定することを含む、設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の基礎上に積層ゴムなどを用いた免震層を形成した免震建築物によれば、基礎から建築物へ地震動が伝播することを抑制している。粘性ダンパまたはオイルダンパなどの免震装置を免震層に配置することで、地震動による振動を減衰させる。この構成においては、免震層の可動域の中で建築物の揺れを抑えることで擁壁衝突を回避し、かつ建築物上層の加速度が極端に上昇してしまうことを抑制していた。
【0003】
これまで大地震を想定したレベル2地震動(以下、L2地震動という)を想定することで免震層の構成を設計していたが、レベル2地震動を大幅に超える極大地震レベル3地震動(以下、L3地震動という)に対応する免震建築物が求められている。擁壁衝突を回避するのであれば、ダンパの粘性減衰係数を高めるように設計することが考えられる。しかしながら、この方法によると、中小規模の地震であっても建築物上層の応答加速度が増大することで家具等の転倒が生じやすくなったり、ダンパから発生する力が建築物本体に伝わることで建築物自体を損傷させてしまったりすることが想定され、免震建築物の効果を損なうことも考えられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、大地震が発生したときにダンパの粘性減衰係数を増加させる構成が開示されている。これによれば、中小規模の地震であるときには粘性減衰係数が小さいことから、建築物上層の応答加速度の増加を抑えることができ、大地震のときに粘性減衰係数を高めることで擁壁衝突を避けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたダンパは構造が複雑であり、また、粘性減衰係数が急激に変化することで減衰力が不連続に変化するため、それを考慮した耐震設計が必要であった。
【0007】
本発明の目的の一つは、容易な構造で様々な地震動に対応可能な免震装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、建築物に接続される免震装置であって、応答速度の増加に対して減衰力が増加する第1ダンパであって、第1速度における減衰力の第1増加率が、当該第1速度より大きい第2速度における減衰力の第2増加率よりも大きい第1ダンパと、前記第1ダンパに対して並列に配置され、応答速度の増加に対して減衰力が増加する第2ダンパであって、前記第1速度における減衰力の第3増加率が前記第2速度における減衰力の第4増加率よりも小さく、当該第2速度よりも大きい第3速度における減衰力の第5増加率が、前記第4増加率よりも小さい第2ダンパと、を備える免震装置が提供される。
【0009】
前記第1速度と前記第2速度との間における前記第2ダンパの減衰力が、応答速度の二乗に比例してもよい。
【0010】
前記第1速度と前記第2速度との間における前記第1ダンパの減衰力が、応答速度のα乗(αは0.1以上0.9以下)に比例してもよい。
【0011】
前記第1ダンパと前記第2ダンパとの合計減衰力の増加率の変化は、応答速度の増加に伴い徐々に減少した後に徐々に増加し、さらに応答速度が増加した所定速度において不連続に減少してもよい。
【0012】
前記第1ダンパは、前記第1速度と前記第2速度との間の所定の速度における減衰力の増加率が、前記第1増加率であってもよい。
【0013】
前記第2速度における前記第2ダンパの減衰力は、前記第2速度における前記第1ダンパの減衰力より小さくてもよい。
【0014】
前記第2速度は、前記第1ダンパまたは前記第2ダンパの設計最大速度の半分であってもよい。
【0015】
前記第2速度は、0.5m/sであってもよい。
【0016】
前記第2速度は、0.75m/sであってもよい。
【0017】
前記第2速度における前記第2ダンパの減衰力は、前記第2速度における前記第1ダンパの減衰力に対する0.2以上0.8以下であってもよい。
【0018】
前記第2ダンパは、前記第1ダンパに対して平行に配置されてもよい。
【0019】
また、本発明の一実施形態によれば、上記の免震装置において前記第1から第5増加率を実現するように、前記第1ダンパおよび前記第2ダンパの粘性減衰係数を決定することを含む、設計方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、容易な構造で様々な地震動に対応可能な免震装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態における免震装置の配置例を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施形態における免震装置の減衰力の応答速度依存性を示す図である。
【
図3】本発明の第1実施形態における免震装置の減衰力の増加率を示す図である。
【
図4】本発明の第1実施形態における頂部加速度と免震層変位との関係性を示すシミュレーション結果を示す図である。
【
図5】本発明の第1実施形態におけるダンパ速度と免震層変位との関係性を示すシミュレーション結果を示す図である。
【
図6】本発明の第2実施形態における免震装置の減衰力の応答速度依存性を示す図である。
【
図7】本発明の第2実施形態における免震装置の減衰力の増加率を示す図である。
【
図8】本発明の第3実施形態における免震装置の減衰力の応答速度依存性を示す図である。
【
図9】本発明の第3実施形態における免震装置の減衰力の増加率を示す図である。
【
図10】本発明の第4実施形態における免震装置の減衰力の応答速度依存性を示す図である。
【
図11】本発明の第4実施形態における免震装置の減衰力の増加率を示す図である。
【
図12】本発明の第5実施形態における免震装置の配置例を示す図である。
【
図13】本発明の第6実施形態における免震装置の配置例を示す図である。
【
図14】シミュレーションに用いたモデルを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0023】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態における免震装置の配置例を示す図である。第1実施形態における免震装置1および免震ゴム50は、建築物80と基礎60との間に設けられ、免震層を構成する。建築物80は、擁壁90との間でクリアランスdを有するように設計されている。地震動による建築物80の変位が免震層によって抑制されるが、この変位がクリアランスdより小さくなるようにして、建築物80が擁壁90に衝突しないように免震層を構成する各構造が設計される。
【0024】
免震装置1は、並列に配置された2種類のダンパを含む。2種類のダンパは、この例では、粘性ダンパ10(第1ダンパ)と速度二乗型ダンパ20(第2ダンパ)とを含み、上下に並んで互いに平行に配置されている。粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20とのそれぞれの両端は、基礎60に固定された基礎側支持部64と建築物80に固定された建築物側支持部84に支持されている。この例では、1つの粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20との組が、1つの基礎側支持部64と建築物側支持部84との間に配置されている。粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20との位置関係は
図1に示す関係に限られず、例えば、いずれが上に設置されてもよいし、設置される場所によって互いの位置関係が異なっていてもよい。
【0025】
免震装置1によれば、この2種類のダンパのそれぞれが後述する特性を有していることにより、大地震が発生しても建築物80が擁壁90に衝突することを避けつつ、中小規模の地震において建築物80の上層における応答加速度が増大することを抑制することができる。
【0026】
粘性ダンパ10は、粘性体を封入するシリンダ内をピストンヘッドが移動することによってピストンロッドに減衰力を発生させる。粘性ダンパ10が発生する減衰力F(kN)は、粘性減衰係数Cとピストンの移動速度V(m/s)とを用いて、F=CVα(αは0.1以上0.9以下)として表される。粘性ダンパ10の全体(
図1に示す2つの粘性ダンパ10の合計)としては、この例では、粘性減衰係数C=1800(kN/(m/s)α)、α=0.3となる特性を有するように設計され、設計上の最大速度(以下、設計最大速度という)は1.0(m/s)として決められたものである。
図1においては、2つの粘性ダンパ10が用いられているが、1つの粘性ダンパ10であってもよいし、さらに多くの粘性ダンパ10が用いられてもよい。また、粘性ダンパ10は、
図1に示す方向以外、例えば、水平面内のうち、この方向と垂直方向(
図1における奥行き方向)にも配置されてもよい。
【0027】
速度二乗型ダンパ20は、オリフィスダンパであって、オイルを封入するシリンダ内をオリフィスが形成されたピストンヘッドが移動することによってピストンロッドに減衰力を発生させる。速度二乗型ダンパ20が発生する減衰力F(kN)は、粘性減衰係数Cとピストンの移動速度V(m/s)とを用いて、F=CV2として表される。この粘性減衰係数Cは、(ρ・A3)/(Cf・a2)で表される。ここで、ρはオイルの密度、Aはピストンヘッドの面積(シリンダ内部の断面積)、Cfは流量係数、aはオリフィス面積である。
【0028】
速度二乗型ダンパ20の全体(
図1に示す2つの速度二乗型ダンパ20の合計)としては、この例では、粘性減衰係数C=4000(kN/(m/s)
2)となる特性を有するように設計され、設計上の最大速度(設計最大速度)は1.0(m/s)として決められたものである。速度二乗型ダンパ20は、この設計最大速度において減衰力Fが2000(kN)になるように、リリーフ速度VSr(m/s)以上(この例ではVSr=0.65(m/s)において減衰力Fを低下させるリリーフ機構を有している。
図1においては、2つの速度二乗型ダンパ20が用いられているが、1つの速度二乗型ダンパ20であってもよいし、さらに多くの速度二乗型ダンパ20が用いられてもよい。また、速度二乗型ダンパ20は、
図1に示す方向以外、例えば、水平面内のうち、この方向と垂直方向(
図1における奥行き方向)にも配置されてもよい。
【0029】
続いて、粘性ダンパ10、速度二乗型ダンパ20、およびこれらを組み合わせた免震装置1について、減衰力Fの応答速度Vに対する依存性を説明する。ここでは、応答速度Vの増加に伴う減衰力Fの増加率R、すなわち、応答速度Vによる減衰力Fの微分値についても併せて説明する。
【0030】
図2は、本発明の第1実施形態における免震装置の減衰力の応答速度依存性を示す図である。
図3は、本発明の第1実施形態における免震装置の減衰力の増加率を示す図である。
図2は、横軸に応答速度V、縦軸に減衰力Fを示したものであり、粘性ダンパ10の減衰力FV(破線)、速度二乗型ダンパ20の減衰力FS(二点鎖線)、および免震装置1の減衰力FF(実線)についての関係を示す。上述したように、免震装置1は粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20とが並列かつ平行に配置されている。したがって、免震装置1の減衰力FFは、粘性ダンパ10の減衰力FVと速度二乗型ダンパの減衰力FSを加算した値である。
図3は、減衰力FVの増加率RV(破線)、減衰力FSの増加率RS(二点鎖線)、および減衰力FFの増加率RF(実線)が示されている。
【0031】
免震装置1としての減衰力FFの増加率RFは、応答速度Vが0から速度VFmに増加する間(領域RA)において徐々に減少し、速度VFmにおいて極小値となった後リリーフ速度VSrまで増加する間(領域RB)において徐々に増加し、リリーフ速度VSrにおいて不連続に減少し、その後の設計最大速度まで増加する間(領域RC)において最も低い値を維持する。
【0032】
粘性ダンパ10の減衰力FVは、上述したように応答速度Vの0.3乗に比例して変化する。したがって、応答速度Vが大きくなるほど、増加率RVが小さくなる。言い換えると、ある第1速度(例えば領域RAにおける速度)における増加率(第1増加率)が、第1速度より大きい第2速度(例えば領域RBにおける速度)における増加率(第2増加率)よりも大きくなる。
【0033】
速度二乗型ダンパ20の減衰力FSは、上述したように応答速度Vの二乗に比例して変化し、リリーフ機構も有する。したがって、応答速度Vが大きくなるほど増加率RSが増加し、リリーフ速度VSrにおいて不連続に減少し、その後の設計最大速度までは最も低い値を維持する。言い換えると、上記の第1速度における増加率(第3増加率)が、上記の第2速度における増加率(第4増加率)よりも小さくなる。また、第2速度よりも大きい第3速度(領域RCにおける速度)における増加率(第5増加率)が第4増加率よりも小さい。
【0034】
この例では、設計最大速度の半分である0.5(m/s)において、速度二乗型ダンパ20の減衰力FSが粘性ダンパ10の減衰力FVの概ね2/3倍になるように、粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20との粘性減衰係数Cが決められている。その結果、上述したように、粘性ダンパ10は粘性減衰係数C=1800(kN/(m/s)0.3)になるように設計され、速度二乗型ダンパ20は粘性減衰係数C=4000(kN/(m/s)2)になるように設計されている。
【0035】
なお、この応答速度において速度二乗型ダンパ20の減衰力FSが粘性ダンパ10の減衰力FVの2/3倍になる場合に限らず、使用状況、目標仕様などに応じて、0.2倍以上0.8倍以下になるように、より好ましくは0.5倍以上0.7倍以下になるように、粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20との粘性減衰係数Cが決められればよい。少なくとも、粘性ダンパ10の減衰力FVより速度二乗型ダンパ20の減衰力FSが小さいことが好ましい。また、このような関係を決定するときの応答速度は、設計最大速度の半分として決められるものでなくてもよく、例えば、設計最大速度がより大きい場合でも、L2地震動に対応する0.5(m/s)であってもよく、少なくともリリーフ速度VSrより小さい速度であればよい。また、設計最大速度の半分と上述した第2速度とが対応してもよい。
【0036】
このように、粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20とにおける各パラメータ(例えば、粘性減衰係数Cおよびリリーフ速度VSr等)を設定することで、上述した第1増幅率から第5増幅率のような免震装置1の特性を設計することができる。このように本発明は、中小規模の地震動から大規模の地震動まで対応するための免震装置1の特性を設計する方法として捉えることもできる。
【0037】
続いて、免震装置1による地震応答解析結果を、従来のように粘性ダンパ10のみを用いた例(従来例)、粘性ダンパ10の粘性減衰係数Cを2倍にした例(比較例)と対比することによって説明する。ここでは、以下の条件設定により地震応答のシミュレーションを行った。
【0038】
図14は、シミュレーションに用いたモデルを説明するための図である。モデル1000は、免震層1Mと建築物80Mとを含む。免震層1Mは、免震装置1のほか、対比のために上述した従来例および比較例に入れ替えられる部分である。建築物80Mは、7階建を想定した。1層あたりの高さは4.0(m)であり、1層あたりの重さは750トンである。建築物80Mの上部の振動周期は0.8(s)(上部構造の一次固有周期に対して2%の減衰)とし、免震層1Mの振動周期4(s)とした。使用した地震動は、日本建築センタの模擬地震動のBCJ-L2を基準とし、0.5倍をレベル1地震動(L1地震動)、1.0倍をL2地震動、1.5倍をL3地震動とみなした。
【0039】
図4は、本発明の第1実施形態における頂部加速度と免震層変位との関係性を示すシミュレーション結果を示す図である。
図5は、本発明の第1実施形態におけるダンパ速度と免震層変位との関係性を示すシミュレーション結果を示す図である。
図4および
図5は、免震装置1の解析結果FP(実線)、従来例の解析結果VP1(二点鎖線)および比較例の解析結果VP2(破線)を示す。ダンパ速度は、上述した応答速度に対応し、ピストンの移動速度に相当する。
【0040】
解析結果VP1によれば、粘性ダンパ10のみを用いた場合には、ダンパ速度が速くなっても減衰力が大きくならないため、L3地震動の場合に免震層の変位が0.6(m)を越え、他の結果と比べて変位が大きくなっていることがわかる。
【0041】
一方、解析結果VP2によれば、粘性ダンパ10の粘性減衰係数Cが従来例の2倍にした結果、ダンパ速度が低くても減衰力が大きくなり、L3地震動の場合に免震層の変位が0.4(m)から0.5(m)程度に抑えられている一方、頂部加速度が0.3(m/s2)を越え、さらに、L2地震動の場合であっても頂部加速度が0.3(m/s2)に近く、他の結果と比べて加速度が大きくなっていることがわかる。このように大きな加速度が生じると、家具等の転倒が生じたり、建築物自体が損傷したりすることも考えられる。
【0042】
解析結果FPによれば、L2地震動の場合に頂部加速度が1.5(m/s2)程度に抑えられ、ほぼ粘性ダンパ10のみの従来例と同じであるのにかかわらず、L3地震動の場合に免震層の変位が0.5(m)程度に抑えられ、頂部加速度も2.3(m/s2)程度に抑えられている。
【0043】
このように、免震装置1は、L2地震動の応答速度0.5(m/s)程度までは、粘性ダンパ10による減衰力の影響を主として増加率を低く抑え、より大きな地震動になるほど速度二乗型ダンパ20による減衰力の影響を主として増加率を大きくし、全体として減衰力を急激に大きくすることができる。このように、2種類のダンパを組み合わせた免震装置1を免震層に用いることで、免震層の変位を小さくして
図1に示すクリアランスdを小さくすることができ、頂部加速度を低く抑えることもできる。
【0044】
<第2実施形態>
第1実施形態における免震装置1では設計最大速度が1.0(m/s)であったが、第2実施形態では1.50(m/s)とする例について説明する。
【0045】
図6は、本発明の第2実施形態における免震装置の減衰力の応答速度依存性を示す図である。
図7は、本発明の第2実施形態における免震装置の減衰力の増加率を示す図である。設計最大速度の半分である0.75(m/s)において、速度二乗型ダンパ20の減衰力FSが粘性ダンパ10の減衰力FVの概ね0.6倍になるように、粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20との粘性減衰係数Cが決められている。この例では、粘性ダンパ10は第1実施形態と同じ粘性減衰係数C=1800(kN/(m/s)
0.3)に設定されている。速度二乗型ダンパ20は、第1実施形態よりも小さい粘性減衰係数C=1800(kN/(m/s)
2)に設定されている。そのため、速度二乗型ダンパ20のリリーフ速度VSrは第1実施形態に比べて大きくなるように設定されている。
【0046】
このように設計最大速度を第1実施形態とは異なる値としても、粘性減衰係数Cおよびリリーフ速度VSrを適宜設定することによって、中小規模の地震動では粘性ダンパ10による減衰力の影響を主として増加率を低く抑え、より大きな地震動になるほど速度二乗型ダンパ20による減衰力の影響を主として増加率を大きくし、全体として減衰力を急激に大きくするように免震装置1の特性を制御することができる。
【0047】
<第3実施形態>
粘性ダンパ10のみが設置されている建築物において、耐震補強工事などによって、速度二乗型ダンパ20を追加して設置することによって、大きな地震動にも対応できるようにしてもよい。速度二乗型ダンパ20を追加することによって、免震装置全体として減衰力が大きくなるが、基礎側支持部64および建築物側支持部84の強度によっては、第1実施形態の特性を有する速度二乗型ダンパ20では、その減衰力に耐えるのに余裕がない場合がある。その場合には、設計最大速度における減衰力を第1実施形態の場合に比べて低下させる必要がある。
【0048】
図8は、本発明の第3実施形態における免震装置の減衰力の応答速度依存性を示す図である。
図9は、本発明の第3実施形態における免震装置の減衰力の増加率を示す図である。設計最大速度の半分である0.5(m/s)において、速度二乗型ダンパ20の減衰力FSが粘性ダンパ10の減衰力FVの概ね1/3倍になるように、粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20との粘性減衰係数Cが決められている。この例では、粘性ダンパ10は、第1実施形態と同じ粘性減衰係数C=1800(kN/(m/s)
0.3)に設定されている。速度二乗型ダンパ20は、第1実施形態よりも小さい粘性減衰係数C=1000(kN/(m/s)
2)に設定されている。速度二乗型ダンパ20のリリーフ速度VSrは第1実施形態と同じである。粘性減衰係数Cをこれよりも大きくして、リリーフ速度VSrを第1実施形態に比べて小さくなるように設定することによって、設計最大速度における減衰力を小さくしてもよい。
【0049】
このように設計最大速度における減衰力を第1実施形態よりも小さくする必要があっても、粘性減衰係数Cおよびリリーフ速度VSrを適宜設定することによって、中小規模の地震動では粘性ダンパ10による減衰力の影響を主として増加率を低く抑え、より大きな地震動になるほど速度二乗型ダンパ20による減衰力の影響を主として増加率を大きくし、全体として減衰力を急激に大きくするように免震装置1の特性を制御することができる。
【0050】
<第4実施形態>
第1実施形態においては、免震装置1は粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20とを組み合わせた構成を有していたが、粘性ダンパ10に代えてオイルダンパ(第1ダンパ)を用いてもよい。オイルダンパは、オイルを封入するシリンダ内を調整弁が配置されたピストンヘッドが移動することによってピストンロッドに減衰力を発生させる。オイルダンパが発生する減衰力F(kN)は、粘性減衰係数Cとピストンの移動速度V(m/s)とを用いて、F=CVとして表される。
【0051】
図10は、本発明の第4実施形態における免震装置の減衰力の応答速度依存性を示す図である。
図11は、本発明の第4実施形態における免震装置の減衰力の増加率を示す図である。
図10において、オイルダンパの減衰力はFL(破線)で示されている。
図11においてオイルダンパの増加率はRL(破線)で示されている。オイルダンパは、粘性減衰係数C=2000(kN/(m/s))となる特性を有するように設計され、設計最大速度において減衰力Fが2000(kN)になるように、リリーフ速度VLr(m/s)以上(この例ではVLr=0.3)において減衰力Fを低下させるリリーフ機構を有している。速度二乗型ダンパ20の特性は、第1実施形態と同じである。免震装置全体の減衰力FFは、オイルダンパの減衰力FLと速度二乗型ダンパの減衰力FSを加算した値である。
【0052】
オイルダンパの減衰力FLは、上述したように応答速度Vに比例して変化し、リリーフ機構も有する。したがって、応答速度Vが大きくなっても増加率RLが一定であり、リリーフ速度VSrにおいて不連続に減少し、その後の設計最大速度までは低い値を維持する。言い換えると、ある第1速度(例えば領域RAにおける速度)における増加率(第1増加率)が、第1速度より大きい第2速度(例えば領域RBにおける速度)における増加率(第2増加率)よりも大きくなる。また、第1速度と第2速度との間における所定速度(領域RAのいずれかの速度)における増加率は、第1速度と同じ増加率(第1増加率)である。
【0053】
増加率RFは、応答速度Vが0から速度VLrに増加する間(領域RA)において徐々に増加し、速度VLrにおいて不連続に減少し、その後リリーフ速度VSrまで増加する間(領域RB)において徐々に増加し、リリーフ速度VSrにおいて不連続に減少し、その後の設計最大速度まで増加する間(領域RC)において低い値を維持する。
【0054】
このように粘性ダンパ10に代えてオイルダンパを用いても、粘性減衰係数Cおよびリリーフ速度VLr、VSrを適宜設定することによって、中小規模の地震動ではオイルダンパによる減衰力の影響を主として増加率を低く抑え、より大きな地震動になるほど速度二乗型ダンパ20による減衰力の影響を主として増加率を大きくし、全体として減衰力を急激に大きくするように免震装置1の特性を制御することができる。
【0055】
<第5実施形態>
第1実施形態において、粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20とは鉛直方向に並んで配置されていたが、第5実施形態では水平方向に並んで配置された免震装置1Aを説明する。
【0056】
図12は、本発明の第5実施形態における免震装置の配置例を示す図である。
図12は、建築物80側から基礎60の方向に免震層を見た場合の粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20との位置関係を示した図である。第1実施形態よりも水平方向に拡がった形状を有する基礎側支持部64Aおよび建築物側支持部84Aを用いることで、粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20とを水平方向に並んで配置した免震装置1Aが実現される。粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20との位置関係は
図12に示す関係に限られず、例えば、いずれが外側に設置されてもよいし、設置される場所によって互いの位置関係が異なっていてもよい。
【0057】
<第6実施形態>
第1実施形態において、1つの粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20とが、1つの基礎側支持部64と建築物側支持部84とによって支持されていたが、それぞれ別々の構成で支持されていてもよい。
【0058】
図13は、本発明の第6実施形態における免震装置の配置例を示す図である。第6実施形態における免震装置1Bでは、粘性ダンパ10が基礎側支持部64B-1と建築物側支持部84B-1とに支持され、速度二乗型ダンパ20が基礎側支持部64B-2と建築物側支持部84B-2とに支持されている。基礎側支持部64B-1と基礎側支持部64B-2とは、いずれも基礎60に固定されているが、それ以外の部分では別々の構造体である。建築物側支持部84B-1と建築物側支持部84B-2とは、いずれも建築物80に固定されているが、それ以外の部分では別々の構造体である。このように、粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20とは、同じ構造体によってまとめて支持されている場合に限らず、それぞれ別々の構造体によって支持されてもよい。
【0059】
なお、別々の構造体によって支持されることにより、粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20とは、互いに離れた位置に設置されてもよいし、平行に配置されなくてもよい。粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20とが平行に配置されない場合には、粘性ダンパ10と速度二乗型ダンパ20とが形成する角度等に応じて、粘性減衰係数Cの値を調整すればよい。
【符号の説明】
【0060】
1,1A,1B…免震装置、10…粘性ダンパ、20…速度二乗型ダンパ、50…免震ゴム、60…基礎、64,64A,64B-1,64B-2…基礎側支持部、80…建築物、84,84A,84B-1,84B-2…建築物側支持部、90…擁壁