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特許7465716全芳香族ポリアミド繊維、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】全芳香族ポリアミド繊維、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/90 20060101AFI20240404BHJP
   D01F 6/60 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
D01F6/90 331
D01F6/60 371Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020083712
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021179029
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠介
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-156800(JP,A)
【文献】特開2012-119225(JP,A)
【文献】特開2009-231281(JP,A)
【文献】特開2014-025183(JP,A)
【文献】特開2013-177716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 6/00
D01F 9/00
C08G 69/00
C08L 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が20万以上~45万未満である全芳香族ポリアミドと架橋剤から構成される成分を含有する全芳香族ポリアミド繊維であって、架橋剤が、カルボジイミドであり、破断強度が3.0~6.0cN/dtexであることを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
前記の架橋剤の構造が分子内にカルボジイミド基を2個以上もつカルボジイミド架橋剤である請求項1に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
サイズ排除クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量が20万以上~45万未満である全芳香族ポリアミドと架橋剤を溶媒に溶解させて全芳香族ポリアミド紡糸用ドープを調製し、該架橋剤がカルボジイミドである該紡糸用ドープを、凝固液に紡出した後、延伸および熱セット処理し、得られた繊維の破断強度が3.0~6.0cN/dtexであることを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項4】
前記の架橋剤の構造が分子内にカルボジイミド基を2個以上もつカルボジイミド架橋剤である請求項3に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項5】
前記の全芳香族ポリアミド紡糸用ドープ内に、全芳香族ポリアミドに対して、前記の架橋剤を0.1~10質量%を含む、請求項3または4に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項6】
前記の全芳香族ポリアミドが、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、およびその共重
合体を含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項7】
前記の全芳香族ポリアミド紡糸用ドープが、15~30質量%の全芳香族ポリアミドを含むアミド系溶媒溶液であり、該アミド系溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンからなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒である請求項3~6のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、難燃性、機械物性などの優れた性質を持った全芳香族ポリアミド繊維において、使用環境により化学分解が進行してなる分子量が低下した全芳香族ポリアミドに、架橋剤を用いて合成することにより、実用的に十分に高い繊維、およびその製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性および難燃性に優れていることは周知であり、かかる全芳香族ポリアミドのうち、ポリフェニレンイソフタルアミドで代表される全芳香族ポリアミド(以下アラミドと称する場合がある。)の繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものである。これらの特性を発揮して、例えば防護衣等の防災安全衣料用途や耐熱フィルター、電子部品、高強度ケーブル等の産業用途に用いられている。しかし、このような高度な耐熱・難燃特性が求められる使用環境は、高温や湿熱、腐食性の薬品、紫外線等に曝される場合がほとんどである。したがって、長期の使用後は化学分解が進行しポリマーの分子量が著しく低下することから、機械物性が低下するため廃棄することとなる。全芳香族ポリアミドおよびその布帛や紡績糸を廃棄する際は、化学的安定性および難燃性の観点から焼却処分等を行うことができないため、埋め立てによる処分をせざるを得ないのが現状である。
【0003】
資源の廃棄処分とする課題の解決に当たり、リサイクル技術が検討されている。
全芳香族ポリアミド繊維のリサイクル技術としては、特開2014-70133号公報や特開2007-321069号公報には、アラミド繊維を製造・加工する工程において発生するアラミド繊維屑を無機塩含有溶媒と混合し、せん断等をかけることでアラミド溶解物(ドープ)を製造する方法を報告している。また、特開平7-286061号公報や特開2007-321310号公報には、上記のようにして作成したアラミドドープを水中でせん断を与えながら攪拌することでフィブリッド化させ、構造材へ使用可能なアラミドパルプとする方法が報告されている。このようなアラミドドープは湿式紡糸手法により再紡糸し、再びアラミド繊維とすることもできる。しかし、人為的および環境的要因により標準状態よりも分子量が大きく低下したポリマー(繊維)を用いる場合は、紡糸性が悪くなるためリサイクルドープを使用して再度繊維を得ることが難しくなるだけでなく、実用に十分な強度を得ることができないなどの課題があった。
【0004】
したがって、近年地球環境に対する配慮から、使用環境により化学分解が進行した繊維であってもリサイクルを可能にできる技術革新が求められており、低分子量全芳香族ポリアミドから繊維を製造する方法が開発できれば工業的および環境的に非常に有用なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-70133号公報
【文献】特開2007-321069号公報
【文献】特開平7-286061号公報
【文献】特開2007-321310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、かかる背景における問題点を解消し、耐熱性、難燃性、機械物性など
の優れた性質を持った全芳香族ポリアミド繊維において、使用環境により化学分解が進行してなる分子量が低下した全芳香族ポリアミドに、架橋剤を用いて合成することにより、実用的に十分に高い繊維、およびその製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、分子量の低い全芳香族ポリアミドに、架橋剤を添加したドープを用いて紡糸することで、強度の低い低分子量ポリアミドの分子間架橋を形成し、実用に十分な強度を持った全芳香族ポリアミド繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明によれば、
1.重量平均分子量が20万以上~45万未満である全芳香族ポリアミドと架橋剤から構成される成分を含有する全芳香族ポリアミド繊維であって、架橋剤が、カルボジイミドであり、破断強度が3.0~6.0cN/dtexであることを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維
2.前記の架橋剤の構造が分子内にカルボジイミド基を2個以上もつカルボジイミド架橋剤である前記1に記載の全芳香族ポリアミド繊維、
3.サイズ排除クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量が20万以上~45万未満である全芳香族ポリアミドと架橋剤を溶媒に溶解させて全芳香族ポリアミド紡糸用ドープを調製し、該架橋剤がカルボジイミドである該紡糸用ドープを、凝固液に紡出した後、延伸および熱セット処理し、得られた繊維の破断強度が3.0~6.0cN/dtexであることを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維の製造方法
4.前記の架橋剤の構造が分子内にカルボジイミド基を2個以上もつカルボジイミド架橋剤である前記3に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
5.前記の全芳香族ポリアミド紡糸用ドープ内に、全芳香族ポリアミドに対して、前記の架橋剤を0.1~10質量%を含む、前記3または4に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
6.前記の全芳香族ポリアミドが、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、およびその共重合体を含む、前記3~5のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
7.前記の全芳香族ポリアミド紡糸用ドープが、15~30質量%の全芳香族ポリアミドを含むアミド系溶媒溶液であり、該アミド系溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンからなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒である前記3~6のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、重量平均分子量が20万以上~45万未満の分子量が極めて低い全芳香族ポリアミドを、通常の湿式紡糸で生産することは不可能であるが、架橋剤を用いることにより、繊維を製造することが可能になり、得られる繊維の破断強度が良好な全芳香族ポリアミド繊維が提供される。また、本発明で使用する全芳香族ポリアミドは、使用環境により化学分解が進んでいる状態であってもリサイクル原料として紡糸できる点で環境配慮へ大きく貢献でき、本発明の工業的価値は極めて大きい。
【0010】
また、本発明の製造方法は、架橋剤を導入した紡糸ドープの状態では架橋反応が起こらず、紡糸の過程(紡糸とは吐出から延伸、巻き取りまで含む)で架橋反応が進行するため、紡糸性に影響がなく工程通過性に優れ、品質の安定した繊維を得ることができる。さらには、架橋反応のための追加の処理工程が必要ないため、合理的な生産が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維を構成する全芳香族ポリアミド(以下アラミドと称する場合がある。)は、芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、他の共重合成分が共重合されていてもよい。
【0012】
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性に優れ、環境要因により低分子量化が起きやすい用途に使用されている観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モルである。
【0013】
そして、本発明の全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン等、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば、2,4-トルイレンジアミン、2,6-トルイレンジアミン、2,4-ジアミノクロロベンゼン、2,6-ジアミノクロロベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0014】
全芳香族ポリアミドを構成するメタ型芳香族ジカルボン酸成分の原料としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3-クロロイソフタル酸クロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドそのもの、または、イソフタル酸クロライドを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0015】
上記メタアラミドの合成方法としてはメタフェニレンジアミンとイソフタル酸クロライドとを含む生成ポリアミドの良溶媒ではない有機溶媒系(例えばテトラヒドロフラン)と無機の酸受容剤ならびに可溶性中性塩を含む水溶液系とを接触させることによって、ポリメタフェニレンイソフタルアミド重合体の粉末を単離する方法(特公昭47-10863号公報)、またはアミド系溶媒で上記ジアミンと酸クロライドを溶液重合し次いで水酸化カルシウム、酸化カルシウム等で中和する方法(特開平8-074121号公報、特開平10-88421号公報)などに記載の方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、本発明にはメタアラミドポリマーとしてメタアラミド繊維から構成される布帛や紡績糸など繊維構造物を使用することもできる。
【0016】
本発明に用いられる全芳香族ポリアミドの重量平均分子量は、本発明の手法において、使用環境により化学分解が進行してなる分子量が低下した全芳香族ポリアミドを原料とした際に、架橋させて実用に耐え得る破断強度を持つ繊維を形成し得る観点から、本発明で生産する、架橋させる前のポリアミド原料の分子量(重量平均分子量)は、後述する分析方法に従い20万以上~45万未満である。好ましくは20万~40万、より好ましくは30万~40万である。なお、重量平均分子量が20万に満たない場合、延伸不良により十分な強度が発現しない、或いは紡調が安定せず生産が行えないという問題が発生する。
また、分子量が45万を超える場合は、通常の湿式紡糸設備にて実用に耐え得る破断強度を持つ繊維を得ることができるため、本発明を適用する意義はない。
【0017】
カルボジイミド架橋剤は分子間架橋構造を効率的に形成させる必要がある観点から、1分子内にカルボジイミド基を2つ以上有する構造であることが好ましい。また、紡糸ドープの段階では架橋構造は形成せずに、紡糸中に架橋構造を形成させる観点からカルボジイミド基が好ましい。
【0018】
カルボジイミド基はポリマー末端と反応した際、イソシアネート基を遊離し得ることから作業環境保全の観点で、下記式(i)に示すような多環状カルボジイミドを使用することが特に好ましい。なお、下記化学構造は1例であり、本発明の目的を損なわない範囲内であれば特に限定されるものではない。
【0019】
【化1】
【0020】
(式(i)中、XおよびAr~Arは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである結合基であり、ヘテロ原子、置換基を含んでいてもよい。)
【0021】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、上記の製造方法によって得られたメタアラミド重合体を用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、洗浄工程、沸水延伸工程、乾熱処理工程、熱延伸工程を経て製造される。
【0022】
紡糸液調製工程においては、メタアラミド重合体を溶媒に溶解して、紡糸液(ドープ)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常アミド系溶媒を用い、該溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)等を例示することができる。これらの中では溶解性と取扱い安全性の観点から、NMP、またはDMAcを用いることが好ましい。また、アミド系溶媒は、少なくとも1種、または2種以上の混合溶媒を用いてもよい。
【0023】
本発明において繊維構造物を原料として利用する場合、繊維を溶解するために紡糸液(ドープ)中に無機塩を導入する必要があり、全芳香族ポリアミド繊維に対して1~50質量%の無機塩を含有するアミド系溶媒を使用することが肝要である。
【0024】
50質量%を超える無機塩を含むと繊維の溶解速度は上がるが、紡糸溶液の濃度調整が難しくなる。なお、無機塩としては塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウムなどの塩化物塩を使用することが好ましい。
【0025】
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、通常は10~30質量%の範囲とすることが好ましい。安定な紡糸を達成するためには15~25質量%の範囲とすることがさらに好ましい。
【0026】
架橋剤はメタアラミド重合体に対して0.1質量%以上20質量%未満導入することが好ましく、良好な紡糸性を得るためには0.1~10質量%がさらに好ましい。より強固な架橋構造を形成し、十分な破断強度を発揮するためには1~10質量%導入することがより好ましい。カルボジイミド架橋剤が0.1質量%未満であった場合、十分な破断強度を発揮することができず、20質量%以上であった場合、含有量が多すぎて紡糸性が著しく低下するため繊維を得ることができない。
【0027】
本発明ではドープ中に無機塩を導入することもできるが、良好な繊維を得るためにはドープに対して0~20質量%の無機塩を含むことが好ましく、安定した紡糸性を得るためには0~10質量%の無機塩がさらに好ましい。
【0028】
ここで、20質量%を超えた無機塩を含むと凝固速度が速くなりすぎてしまい、繊維中に多数のボイドを形成することから目的の物性を持った繊維を得ることができない。なお、無機塩としては塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウムなどの塩化物塩を使用することが好ましい。
【0029】
かくして得られた全芳香族ポリアミド紡糸液は、紡糸・凝固工程において凝固液中に紡出して凝固させる。紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が10~30000個、紡糸孔径が0.03~0.2mmのステープルファイバー用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。また、紡糸口金から紡出する際のドープの温度は、20~90℃の範囲が適当であるが、特に70~90℃が好ましい。
【0030】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維を得るために用いる凝固浴としては、塩化カルシウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム等の無機塩を30質量%以上、好ましくは35~45質量%含み、アミド系溶剤を1~20質量%、好ましくは3~15質量%含む水溶液を50~95℃の範囲で用いる。また、実質的に無機塩を含まないアミド系溶媒の水溶液を用いる方法も知られており、このような凝固液を使用することもできる。
【0031】
かくして得られた凝固糸は水性洗浄浴にて十分水洗され、湿式延伸工程に送られる。通常、湿式延伸は沸水延伸浴中で行われ、その際の延伸倍率は1.5~5.0倍が適当であり、さらに好ましくは2.0~3.5倍の範囲である。本発明においては、湿式延伸を当該倍率の範囲で行い、分子鎖配向を上げることにより、最終的に得られる繊維の破断強度を確保することができる。
【0032】
上記洗浄・湿式延伸工程を経た繊維に対して、好ましくは、乾熱処理工程を実施する。乾熱処理工程においては、上記洗浄・湿式延伸工程により洗浄と延伸が実施された繊維を、好ましくは100~250℃、さらに好ましくは100~200℃の範囲で、乾熱処理をする。ここで、乾熱処理は、特に限定されないが、定長下で行うのが好ましい。前記の温度範囲をはずれると、乾燥が不十分となるか、結晶化の進行により、後述する延伸工程に影響をあたえるため好ましくない。
なお、上記の乾熱処理の温度は、熱板、加熱ローラーなどの繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0033】
本発明においては、上記乾熱処理工程を経た繊維に対して、熱延伸工程を施す。熱延伸工程においては、290~370℃で熱処理を加えながら、延伸を実施する。好ましくは310~340℃である。延伸倍率は1.2~5.0倍が適当であり、さらに好ましくは1.5~3.5倍の範囲である。前記の温度、延伸倍率の範囲をはずれると、目的とする強度を得ることができなくなるか、著しく繊維の破断が増加し、工程性に影響を与えるた
め好ましくない。
【0034】
以上の方法により得られる本発明の架橋を有する全芳香族ポリアミド繊維の破断強度は3.0~6.0cN/dtexである。破断強度が3.0cN/dtex未満である場合、繊維の機械物性が劣ることから工程通過性に支障が出るだけでなく、製品の耐久性が低下するため実用に適さない繊維となる。本発明の架橋を有する全芳香族ポリアミドからなる繊維の破断強度は、6.0cN/dtex以上の繊維を得る場合、本発明の低分子量ポリマーの架橋を有するポリマーでは、延伸倍率をさらに高める必要があり、著しく毛羽が多いまたは繊維の破断が生じるため、安定的に繊維を得ることができない。
【0035】
さらに、単繊維繊度は0.5~15.0dtexである。該単繊維繊度が0.5dtex未満、または15dtexを超えると、工程通過性が劣り、安定な紡糸を達成することが出来ない。
【実施例
【0036】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。尚、実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0037】
[重量平均分子量Mw]
JIS-K-7252に準じ、サイズ排除クロマトグラフィー用カラムを装着した高速液体クロマトグラフィー装置にて分析をおこない、展開溶媒にはジメチルホルムアミド(塩化リチウムを0.01モル%含有)を用いて測定した。なお、標準分子量サンプルとしてはシグマアルドリッチ製ポリスチレンセット(ピークトップ分子量Mp=400~2000000)を用いた。
【0038】
[単糸繊度]
JIS L 1015に準じ、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛け繊度にて表記した。
【0039】
[破断強度]
引張試験機(インストロン社製、型式:5565)を用いて、JIS L 1015に基づき、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g/dtex)
引張速度 :20mm/分
【0040】
[カルボジイミド架橋剤]
カルボジイミド架橋剤は下記式(ii)に示すものを使用した。
【0041】
【化2】
【0042】
[実施例1]
メタ型全芳香族ポリアミド(重量平均分子量35万)および該重合物に対して質量比で10%のカルボジイミド架橋剤粉末を溶解させ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させた後、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してメタ型全芳香族ポリアミドの質量濃度が20%になるよう調整した。
【0043】
このポリマー溶液を89℃に加温し紡糸原液として、孔径0.12mm、孔数100の吐出孔が円形の紡糸口金から70℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴の組成は、塩化カルシウムが43質量%、NMPが3質量%、残りの水が54質量%であり、浸漬長(有効凝固浴長)120cmにて糸速5.0m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出した。
【0044】
この凝固糸条を第1~第2水洗浄浴にて水洗し、この際の総浸漬時間は230秒とした。なお、第1~第2水性洗浄浴温度はそれぞれ20、30℃の水を用いた。次に、この洗浄糸条を90℃の沸水中にて2.5倍に延伸し、引続き95℃の温水中に50秒浸漬し、洗浄した。
【0045】
次に表面温度170℃のローラーに巻回して乾熱処理した後、表面温度320℃の熱板にて1.75倍に延伸し、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維は単繊維繊度2.0dtex、破断強度3.3cN/dtexであった。
【0046】
[実施例2]
メタ型全芳香族ポリアミド重合物(重量平均分子量35万)および該重合物に対して質量比で5%のカルボジイミド架橋剤を溶解させ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させた後、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してメタ型全芳香族ポリアミド重合物の質量濃度が20%になるよう調整した。
【0047】
このポリマー溶液を実施例1に記載の方法と同様の方法により架橋メタ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維は単繊維繊度2.1dtex、破断強度3.1cN/dtexであった。
【0048】
[実施例3]
メタ型全芳香族ポリアミド重合物(重量平均分子量40万)および該重合物に対して質量比で1%のカルボジイミド架橋剤を溶解させ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させた後、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してメタ型全芳香族ポリアミド重合物の質量濃度が20%になるよう調整した。
【0049】
このポリマー溶液を実施例1に記載の方法と同様の方法により架橋メタ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維は単繊維繊度2.6dtex、破断強度4.3cN/dtexであった。
【0050】
[比較例1]
メタ型全芳香族ポリアミド(重量平均分子量35万)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してメタ型全芳香族ポリアミドの質量濃度が20%になるよう調整した。
【0051】
このポリマー溶液を実施例1に記載の方法と同様の方法により紡糸、水洗、延伸、乾熱処理しようとしたが、延伸工程において多量の断糸が発生し、安定してメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることはできなかった。得られた繊維は単繊維繊度2.4dtex、破
断強度0.6cN/dtexであった。
【0052】
[比較例2]
メタ型全芳香族ポリアミド(重量平均分子量40万)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してメタ型全芳香族ポリアミドの質量濃度が20%になるよう調整した。
【0053】
このポリマー溶液を実施例1に記載の方法と同様の方法により紡糸、水洗、延伸、乾熱処理しようとしたが、延伸工程において断糸が発生し、安定してメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることはできなかった。得られた繊維は単繊維繊度2.9dtex、破断強度2.3cN/dtexであった。
【0054】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、通常の湿式紡糸では不可能である重量平均分子量が20万以上~45万未満の全芳香族ポリアミドを原料ポリマーとして用いて、架橋剤を適用することにより、繊維の破断強度が3.0~6.0cN/dtexと良好な全芳香族ポリアミド繊維が提供される。また、本発明で使用する全芳香族ポリアミドは使用環境により化学分解が進んでいる状態であってもリサイクル原料として紡糸できる点で環境負荷低減へ大きく貢献でき、本発明の工業的価値は極めて大きい。
【0056】
さらに本発明の製造方法は、架橋剤を導入した紡糸ドープ作成時には架橋反応が起こらず、紡糸の過程で架橋反応が進行するため、紡糸性に影響がなく該繊維を得ることができ、架橋反応を起こすための追加の処理工程が必要ないことから、効率的な製造を行うことができる。