IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧 ▶ ルノー エス.ア.エス.の特許一覧

特許7465719車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法
<>
  • 特許-車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法 図1
  • 特許-車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法 図2
  • 特許-車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法 図3
  • 特許-車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法 図4
  • 特許-車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法 図5
  • 特許-車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法 図6
  • 特許-車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法 図7
  • 特許-車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法
(51)【国際特許分類】
   G09B 19/00 20060101AFI20240404BHJP
   G09B 9/04 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G09B19/00 G
G09B9/04 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020086564
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021182029
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】宝来 淳史
(72)【発明者】
【氏名】清水 俊行
(72)【発明者】
【氏名】ギョルゲ ルチアン
【審査官】鈴木 崇雅
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-084970(JP,A)
【文献】特許第6472709(JP,B2)
【文献】特開2009-297501(JP,A)
【文献】特開2019-130211(JP,A)
【文献】特開2011-206452(JP,A)
【文献】国際公開第2014/088073(WO,A1)
【文献】特開2011-133548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00-56
G09B 19/00-26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を運転する運転能力を判定する車両運転能力判定装置において、
人間の脳のうち運転能力に寄与する脳部位である特徴脳部位の脳容積と、運転能力との関係性を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置から情報を取得可能なコントローラと、
を有し、
前記特徴脳部位は、運転能力の差異による脳容積の比較において統計的有意性を示す脳部位であって、脳内に複数存在しており、前記複数の特徴脳部位は、一次運動野、一次視覚野及び視床を含み、
前記コントローラは、
運転能力を判定する判定対象者の前記特徴脳部位の脳容積を取得し、
前記記憶装置に記憶された前記関係性に基づいて、前記判定対象者の前記特徴脳部位の脳容積から前記判定対象者の運転能力を判定する
車両運転能力判定装置。
【請求項2】
前記判定対象者の脳容積を計測する脳容積計測装置をさらに有し、
前記コントローラは、
前記脳容積計測装置から、前記特徴脳部位の脳容積を取得する
請求項1記載の車両運転能力判定装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
複数の特徴脳部位の中から選択される一つ以上の特徴脳部位の脳容積を取得し、
前記一つ以上の特徴脳部位の脳容積と運転能力との関係を規定した関係式に基づいて、前記判定対象者の運転能力を判定する
請求項2記載の車両運転能力判定装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
複数の特徴脳部位のうち前記統計的有意性が最も高い特徴脳部位の脳容積を取得し、
前記統計的有意性が最も高い特徴脳部位の脳容積と運転能力との関係を規定した関係式に基づいて、前記判定対象者の運転能力を判定する
請求項2記載の車両運転能力判定装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
脳内に存在する複数の特徴脳部位の脳容積を取得し、
前記複数の特徴脳部位の脳容積のそれぞれに重み係数を付与した値の合計値と、運転能力との関係を規定した関係式に基づいて、前記判定対象者の運転能力を判定する
請求項2記載の車両運転能力判定装置。
【請求項6】
前記統計的有意性が最も高い特徴脳部位は、一次運動野である
請求項4記載の車両運転能力判定装置。
【請求項7】
前記コントローラは、
前記判定対象者が目標とする運転能力である運転能力目標値を取得し、
前記記憶装置に記憶された前記関係性に基づいて、前記運転能力目標値に対応する前記特徴脳部位の脳容積を脳容積目標値として特定し、
前記脳容積目標値と、前記判定対象者について計測された前記特徴脳部位の脳容積の計測値とに基づいて、前記運転能力目標値に到達するために前記判定対象者が発達させるべき前記特徴脳部位の脳容積の発達量を発達量目標値として算出する
請求項1記載の車両運転能力判定装置。
【請求項8】
前記コントローラは、
複数の特徴脳部位毎に、前記発達量目標値を算出する
請求項記載の車両運転能力判定装置。
【請求項9】
情報を入力する入力装置をさらに有し、
前記コントローラは、前記入力装置を介して、外部装置で計測された前記特徴脳部位の脳容積を取得する
請求項1記載の車両運転能力判定装置。
【請求項10】
車両を運転する運転能力を判定する車両運転能力判定方法において、
コンピュータが、
運転能力を判定する判定対象者の脳のうち運転能力に寄与する脳部位である特徴脳部位の脳容積を取得し、
前記特徴脳部位は、運転能力の差異による脳容積の比較において統計的有意性を示す脳部位であって、脳内に複数存在しており、前記複数の特徴脳部位は、一次運動野、一次視覚野及び視床を含み、
前記特徴脳部位の脳容積と運転能力との関係性に基づいて、前記判定対象者の前記特徴脳部位の脳容積から前記判定対象者の運転能力を判定する
車両運転能力判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、脳内の特定脳部位の脳波活動強度に基づいて、判定対象者の運転能力を判定する運転能力判定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6472709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、判定対象者の体調の違い、又は周囲の環境の違いによって、計測される脳波に違いが生じることがあり、判定結果にばらつきが生じる虞がある。また、脳波を計測する場合、経時における一時的な脳波の乱れを排除するため、ある程度の時間をかけて計測を継続する必要がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、体調又は環境の変化若しくは計測時間にかかわらず、判定対象者の運転能力を精度よく判定することができる車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る車両運転能力判定装置は、運転能力を判定する判定対象者の脳のうち運転能力に寄与する脳部位である特徴脳部位の脳容積を取得し、特徴脳部位の脳容積と運転能力との関係性に基づいて、判定対象者の運転能力を判定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、体調又は環境の変化若しくは計測時間にかかわらず、判定対象者の運転能力を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態にかかる車両運転能力判定装置のシステム構成を示す図である。
図2図2は、脳内における特徴脳部位の様子を模式的に示す図である。
図3図3は、第1の実施形態における運転能力の判定処理の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、脳容積と運転能力との関係式を示す説明図である。
図5図5は、第2の実施形態にかかる車両運転能力判定装置のシステム構成を示す図である。
図6図6は、第2の実施形態における運転能力の判定処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、脳容積と運転能力との関係式を示す説明図である。
図8図8は、車両運転能力判定装置の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1を参照して、本実施形態に係る車両運転能力判定装置の構成を説明する。車両運転能力判定装置は、車両を運転する運転能力を判定する装置である。車両運転能力判定装置が適用される車両は、例えば自動車であるが、自動車以外の車両であってもよい。運転能力を判定する被験者を判定対象者という。
【0011】
車両運転能力判定装置は、脳容積計測装置10と、脳容積DB20と、表示装置30と、スピーカ40と、コントローラ50とを主体に構成されている。
【0012】
脳容積計測装置10は、判定対象者の脳容積を計測する。例えば、脳容積計測装置10は、脳画像撮像装置11と、演算装置12とから構成される。
【0013】
脳画像撮像装置11は、判定対象者の脳画像を撮像し、脳データを演算装置12に出力する。脳画像撮像装置11は、例えばMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置である。脳画像は、判定対象者の頭部の断層画像であり、撮像平面、例えば頭部の前後方向及び左右方向を含む平面に沿った二次元画像である。脳データは、判定対象者の脳全体を含むように、上下方向にかけて所定の間隔で撮像された複数の脳画像の集合である。脳データは、判定対象者の3次元的な脳画像に相当する。
【0014】
演算装置12は、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースなどを備えるコンピュータで構成されている。演算装置12は、CPUがROMなどから処理内容に応じた各種プログラムを読み出し、RAMに展開し、展開した各種プログラムを実行することにより、各種の処理を行う。
【0015】
演算装置12は、脳画像撮像装置11から、判定対象者の脳データを取得する。演算装置12は、脳データに対して必要な前処理を施したり、前処理を施した脳データに基づいて、判定対象者の脳容積を計測したりする。演算装置12は、脳を構成する脳部位毎に、その脳部位の脳容積を求めることができる。本実施形態において、脳容積の計測対象となる脳部位は、人間の脳のうち運転能力に寄与する脳部位(以下「特徴脳部位」という)である。演算装置12は、特徴脳部位の脳容積を計測すると、特徴脳部位の脳容積の情報を含む容積データを生成する。
【0016】
図2を参照し、特徴脳部位について説明する。図2において、Zは、頭部の上下方向を示し、Yは、頭部の前後方向を示し、Xは、頭部の左右方向を示す。脳を構成する各脳部位に着目し、運転能力に長けたドライバーの脳容積と、そうではないドライバーの脳容積とを比較したところ、図2に破線を用いて模式的に示すように、一次運動野、一次視覚野及び視床といった特定の脳部位においては、統計的有意性を示す結果を得られた。
【0017】
具体的には、一次運動野、一次視覚野及び視床といった3つの脳部位において、運転能力に長けたドライバーの脳容積は、そうではないドライバーの脳容積と比較して、統計的に有意な増加が認められた。すなわち、運転能力が高いドライバーほど、一次運動野、一次視覚野及び視床の各脳容積が大きい。このように、一次運動野、一次視覚野及び視床の各脳容積は、運転能力の差異による比較において統計的有意性を示し、これらの脳部位は、特徴脳部位に相当する。また、一次運動野、一次視覚野及び視床のうち、一次運動野は、統計的有意性が最も高い特徴脳部位であることが認められた。
【0018】
図1において、脳容積DB20は、特徴脳部位の脳容積と、運転能力との関係性を記憶する記憶装置である。上述したように、特徴脳部位の脳容積と運転能力との間には、特定の相関関係が認められる。すなわち、脳容積DB20は、特徴脳部位の脳容積と運転能力とを関連付けて記憶するデータベースである。特徴脳部位の脳容積と運転能力との関係性は、特徴脳部位の脳容積と運転能力との関係を規定する関係式として定義される。なお、この関係性は、関係式に限らず、テーブルなどであってもよい。
【0019】
脳容積DB20は、上記の関係性を記憶する記憶装置として構成される以外にも、クラウドコンピューティングにより上記の関係性を外部のデータサーバから取得する構成であってもよい。
【0020】
表示装置30は、コントローラ50に制御され、コントローラ50から出力される情報を表示する。スピーカ40は、コントローラ50に制御され、コントローラ50から出力される情報を音声などで出力する。
【0021】
コントローラ50は、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースなどを備えるコンピュータで構成されている。コントローラ50は、CPUがROMなどから処理内容に応じた各種プログラムを読み出し、RAMに展開し、展開した各種プログラムを実行することにより、判定対象者の運転能力を判定する。
【0022】
コントローラ50は、複数の情報処理回路として機能する。なお、本実施形態では、ソフトウェアによってコントローラ50が備える複数の情報処理回路を実現する例を示すが、もちろん、以下に示す各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、情報処理回路を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路を個別のハードウェアにより構成してもよい。
【0023】
コントローラ50は、複数の情報処理回路として、情報取得部51と、運転能力判定部52とを備えている。
【0024】
情報取得部51は、脳容積計測装置10から、判定対象者の容積データを取得する。
【0025】
運転能力判定部52は、脳容積DB20に記憶された関係式に基づいて、判定対象者の容積データから判定対象者の運転能力を判定する。運転能力判定部52は、判定した運転能力を表示装置30に表示したり、スピーカ40から音声出力したりすることができる。
【0026】
図3を参照し、第1の実施形態における運転能力の判定処理を説明する。図3のフローチャートに示す処理は、車両運転能力判定装置によって実行される。以下の説明では、一次運動野、一次視覚野及び視床のうち、統計的有意性が最も高い一次運動野を特徴脳部位として扱う。すなわち、車両運転能力判定装置は、判定対象者の一次運動野の脳容積を評価して判定対象者の運転能力を判定する。脳容積DB20には、一次運動野の脳容積と運転能力との関係を規定する関係式が記憶されている。
【0027】
まず、ステップS10において、脳容積計測装置10の演算装置12は、脳画像撮像装置11から判定対象者の脳データを取得する。脳データは、判定対象者の3次元的な脳画像であり、脳画像撮像装置11を用いて予め生成されている。
【0028】
ステップS11において、演算装置12は、脳データを標準化する。判定対象者によって脳の形状、大きさが異なる。そのため、脳データから得られる脳容積をそのまま評価するのではなく、判定対象者の脳データを標準化する必要がある。演算装置12は、脳データを対象として、脳画像撮像装置11によって定義される観測点の座標を標準脳座標系、例えばMNI(Montreal. Neurological Institute)座標系に変換する処理を行う。脳データの標準化は、空間正規化を行うことであり、異なる判定対象者を同一座標(標準脳座標)で評価することができる。
【0029】
なお、演算装置12は、脳データを標準化する処理以外にも、必要な前処理を行ってよい。例えば、演算装置12は、磁場の安定を確保するために測定し始めの数枚の脳画像を脳データから除外したり、撮像平面ごとのタイミングの補正を行ったりしてもよい。
【0030】
ステップS13において、演算装置12は、容積データを生成する。演算装置12は、標準化された脳データから、一次運動野(特徴脳部位)の脳容積を計算する。一次運動野などの脳部位は、脳内での位置及び領域が予め定義されている。演算装置12は、予め定められた定義に従って、脳データから一次運動野を特定すると、その一次運動者の脳容積を計算する。演算装置12は、計算した脳容積を容積データとして生成する。
【0031】
なお、脳データを生成する場合、脳容積の具体的な数値を計算する以外の方法を用いてもよい。例えば、演算装置12は、標準的な脳モデルである標準脳における一次運動野の領域(空間領域)と、判定対象者の一次運動野の領域(空間領域)との比率を演算し、この比率を容積データとして生成してもよい。比率に標準脳の一次運動野の脳容積を乗算することで、判定対象者についての一次運動野の脳容積を具体的な数値として求めることができる。よって、このような比率も、特徴脳部位の脳容積の情報を含む容積データに相当する。
【0032】
ステップS13において、コントローラ50の情報取得部51は、脳容積計測装置10から、判定対象者の容積データを取得する。情報取得部51は、容積データから、判定対象者の一次運動野の脳容積を認識することができる。
【0033】
ステップS14において、コントローラ50の運転能力判定部52は、脳容積DB20に記憶された情報に基づいて、運転能力を判定する。図4に示すように、脳容積DB20には、一次運動野の脳容積と運転能力との関係を規定した関係式Laが記憶されている。図4に示す例では、一次運動野の脳容積と運転能力との関係が線形的な関係で示されている。運転能力判定部52は、脳容積DB20に記憶された関係式に基づいて、判定対象者の一次運動野の脳容積から、判定対象者の運転能力を判定する。例えば、一次運動野の脳容積がVaであれば、この脳容積Vaを関係式Laに当てはめることで、運転能力がAaとして判定されるといった如くである。
【0034】
以上の一連の処理を通じて、判定対象者の一次運動野の脳容積より、その判定対象者の運転能力を判定することができる。なお、脳容積DB20に記憶される関係式は、運転能力が高いほど一次運動野の脳容積が大きくなるという傾向を有していればよく、線形的な関係に限らず、2次曲線で表現される関係、非線形的な関係などであってもよい。
【0035】
本実施形態の車両運転能力判定装置及び車両運転能力判定方法は、運転能力に寄与する脳部位(特徴脳部位)の脳容積を指標として、判定対象者の運転能力を判定している。運転能力に長けたドライバーの脳容積と、そうではないドライバーの脳容積とを比較したところ、特徴脳部位においては、統計的有意性を示す結果を得られた。一方で、ドライバー個人に着目した場合、2週間程度の間隔をあけた脳容積の比較は、統計的有意性を示さなかった。すなわち、体調の違い、又は環境の違いによる脳容積の比較は、統計的有意性を示さなかった。また、成長や老いなどの長期的な変化は別にして、短期的な時間軸での脳容積の比較は、統計的有意性を示さなかった。すなわち、特徴脳部位の脳容積は、体調、環境、経時による変化が少ないという傾向が統計的に認められた。したがって、脳容積を指標とすることで、体調又は環境の変化若しくは計測時間にかかわらず、判定対象者の運転能力を精度よく判定することができる。
【0036】
本実施形態の車両運転能力判定装置は、脳容積計測装置10を備えている。この構成によれば、脳容積計測装置10によって計測される判定対象者の脳容積から、特徴脳部位の脳容積を取得することができる。これにより、運転能力の判定に必要な情報を適切に取得することができる。
【0037】
本実施形態の車両運転能力判定装置は、運転能力の差異による脳容積の比較において統計的有意性を示す脳部位を、特徴脳部位として扱っている。これにより、運転能力の差異によって脳容積が変化する脳部位を評価することができるので、判定対象者の運転能力を適切に判定することができる。
【0038】
また、本実施形態の車両運転能力判定装置は、一次運動野の脳容積を評価して運転能力を判定している。統計的有意性が最も高い特徴脳部位の脳容積を評価の対象とすることで、判定対象者の運転能力を適切に判定することができる。
【0039】
なお、本実施形態では、一次運動野の脳容積を評価して運転能力を判定する方法を示した。しかしながら、一次運動野の他、一次視覚野及び視床といったように、特徴脳部位は、脳内に複数存在している。よって、一次視覚野の脳容積を評価して運転能力を判定してもよいし、視床の脳容積を評価して運転能力を判定してもよい。一次運動野、一次視覚野及び視床のいずれも、運転能力の差異によって脳容積に違いがある。したがって、一次運動野、一次視覚野及び視床のいずれかの脳容積を評価することで、判定対象者の運転能力を適切に判定することができる。
【0040】
また、本実施形態の車両運転能力判定装置は、一次運動野といったように一つの特徴脳部位の脳容積のみを評価して転能力を判定している。しかしながら、車両運転能力判定装置は、一次運動野及び一次視覚野、或いは、一次運動野、一次視覚野及び視床といったように、複数の特徴脳部位の脳容積を評価して運転能力を判定してもよい。この場合、車両運転能力判定装置は、複数の特徴脳部位の脳容積を、各特徴脳部位の脳容積を合算した値として取り扱えばよい。同様に、脳容積DB20には、複数の特徴脳部位の脳容積と運転能力との関係性(例えば関係式)が記憶される。この構成によれば、複数の特徴脳部位を複合的に評価することができるので、運転能力を多面的に判定することができる。
【0041】
なお、複数の特徴脳部位の脳容積を利用する場合、複数の特徴脳部位の脳容積を合算するのではなく、個々の特徴脳部位の脳容積を個別に評価して、特徴脳部位毎に運転能力を判定してもよい。この場合、脳容積DB20には、複数の特徴脳部位毎に、特徴脳部位の脳容積と運転能力との関係性(例えば関係式)が記憶される。
【0042】
また、複数の特徴脳部位の脳容積を評価する場合には、個々の特徴脳部位に重みを考慮してもよい。すなわち、車両運転能力判定装置は、複数の特徴脳部位の脳容積を、複数の特徴脳部位の脳容積のそれぞれに重み係数を付与した値の合計値として取り扱えばよい。この場合、車両運転能力判定装置は、統計的有意性が高い特徴脳部位ほど加重されるように、重み係数を設定することができる。同様に、脳容積DB20には、複数の特徴脳部位の脳容積のそれぞれに重み係数を付与した値の合計値と、運転能力との関係性(例えば関係式)が記憶される。重み係数を考慮することで、個々の特徴脳部位を同列に扱うのではなく、特徴脳部位に優劣をつけた状態で脳容積を評価することができる。これにより、判定対象者の運転能力を適切に判定することができる。
【0043】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態の車両運転能力判定装置について説明する。第2の実施形態の車両運転能力判定装置が第1の実施形態のそれと相違する点は、目標とする運転能力に到達するために判定対象者が発達させるべき特徴脳部位の発達量を算出することにある。以下、第1の実施形態と重複する構成の説明は省略し、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0044】
図5に示すように、車両運転能力判定装置は、第1の実施形態に示す構成に加え、目標値入力装置60を備えている。目標値入力装置60は、判定対象者が目標とする運転能力である運転能力目標値を入力する装置であり、車両運転能力判定装置を操作する操作者によって操作される。目標値入力装置60としては、例えば、キーボード、マウス又は他のポインティングデバイスなどが挙げられる。
【0045】
コントローラ50は、第1の実施形態に示す構成に加え、脳容積解析部53と、発達量演算部54とをさらに有している。脳容積解析部53及び発達量演算部54の詳細については後述する。
【0046】
図6を参照し、第2の実施形態における運転能力の判定処理を説明する。図6のフローチャートに示す処理は、車両運転能力判定装置によって実行される。以下の説明では、一次運動野、一次視覚野及び視床を、複数の特徴脳部位として扱う。そして、車両運転能力判定装置は、個々の特徴脳部位の脳容積を個別に評価して、特徴脳部位毎に運転能力を判定する。
【0047】
ステップS20からステップS25までの各処理は、第1の実施形態において説明したステップS10からステップS15までの各処理と対応している。よって、ステップS26以降の処理を説明する。
【0048】
ステップS26において、脳容積解析部53は、目標値入力装置60から運転能力目標値を取得する。
【0049】
ステップS27において、脳容積解析部53は、脳容積DB20に記憶された情報に基づいて、脳容積目標値を特定する。図7に示すように、脳容積DB20には、複数の特徴脳部位毎に、特徴脳部位の脳容積と運転能力との関係性(例えば関係式)が記憶される。関係式La1は、一次運動野の脳容積と運転能力との関係を規定した関係式であり、関係式La2は、一次視覚野の脳容積と運転能力との関係を規定した関係式である。関係式La3は、視床の脳容積と運転能力との関係を規定した関係式である。脳容積解析部53は、脳容積DB20に記憶された関係式La1、La2、La3に基づいて、運転能力目標値から、運転能力目標値に対応する特徴脳部位の脳容積を脳容積目標値として特定する。例えば、運転能力目標値がAtであれば、脳容積解析部53は、関係式La1から一次運動野の脳容積目標値をVb1として特定する。同様に、脳容積解析部53は、関係式La2から一次視覚野の脳容積目標値をVb2として特定し、関係式La3から視床の脳容積目標値をVb3として特定する。
【0050】
ステップS28において、発達量演算部54は、発達量目標値を算出する。発達量目標値は、運転能力目標値Atに到達するために判定対象者が発達させるべき、特徴脳部位の脳容積の発達量である。具体的には、発達量演算部54は、判定対象者について計測された特徴脳部位の脳容積である脳容積計測値を取得する。発達量演算部54は、容積データを保有する情報取得部51から、脳容積計測値を取得することができる。発達量演算部54は、一次運動野の脳容積計測値Va1、一次視覚野の脳容積計測値Va2及び視床の脳容積計測値Va3をそれぞれ取得する。
【0051】
発達量演算部54は、脳容積目標値Vb1、Vb2、Vb3と、脳容積計測値Va1、Va2、Va3とに基づいて、発達量目標値を算出する。発達量目標値は、特徴脳部位毎に算出される。具体的には、発達量演算部54は、脳容積目標値Vb1、Vb2、Vb3から、脳容積計測値Va1、Va2、Va3を減じることにより、発達量目標値Δ1、Δ2、Δ3を算出する。発達量目標値Δ1、Δ2、Δ3は、その値が大きいほど、運転能力目標値Atと現在の運転能力との乖離が大きいことを意味する。発達量演算部54は、算出した発達量目標値Δ1、Δ2、Δ3を表示装置30に表示したり、スピーカ40から音声出力したりすることができる。
【0052】
このように本実施形態の車両運転能力判定装置は、発達量目標値Δ1、Δ2、Δ3を算出することができる。これにより、発達量目標値Δ1、Δ2、Δ3を定量的に把握することができるので、判定対象者が運転能力の向上を目指すことができる。
【0053】
本実施形態の車両運転能力判定装置によれば、特徴脳部位毎に、発達量目標値Δ1、Δ2、Δ3を得ることができる。これにより、一次運動野、一次視覚野及び視床といったように、特徴脳部位毎に発達量目標値Δ1、Δ2、Δ3を個別に評価することができる。
【0054】
なお、上述した第1及び第2の実施形態では、コントローラ50の情報取得部51が、脳容積計測装置10から容積データを取得している。しかしながら、情報取得部51は、脳容積計測装置10の演算装置12の機能を備えていてもよく、脳データを利用して容積データを取得してもよい。すなわち、情報取得部51は、脳容積計測装置10の脳画像撮像装置11から脳データを取得する機能、脳データに対して標準化などの前処理を施す機能、脳データから容積データを生成することで特徴脳部位の脳容積を取得する機能を備えていてもよい。
【0055】
また、本実施形態では、車両運転能力判定装置が、容積データを生成する脳容積計測装置10を備えている。しかしながら、図8に示すように、車両運転能力判定装置は、脳容積計測装置10に代えて、外部装置によって生成された容積データ又は脳データをコントローラ50に入力するデータ入力装置70を有していてもよい。データ入力装置70は、クラウドコンピューティングにより外部のデータサーバから容積データ又は脳データを取得する構成であってもよい。また、データ入力装置70は、容積データ又は脳データが格納された可搬性のメモリより、容積データ又は脳データを取得する構成であってもよい。
【0056】
この構成によれば、コントローラ50は、データ入力装置70を介して特徴脳部位の脳容積を取得することができる。車両運転能力判定装置は、脳容積計測装置10を備えなくてもよいので、簡素な構成で運転能力を判定することができる。
【0057】
また、本実施形態では、特徴脳部位として、一次運動野、一次視覚野及び視床といった3つの脳部位を例示した。しかしながら、特徴脳部位は、人間の脳のうち運転能力に寄与する脳部位であればよく、一次運動野、一次視覚野及び視床以外の脳部位であってもよい。
【0058】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0059】
10 脳容積計測装置
11 脳画像撮像装置
12 演算装置
20 脳容積DB(記憶装置)
30 表示装置
40 スピーカ
50 コントローラ
51 情報取得部
52 運転能力判定部
53 脳容積解析部
54 発達量演算部
60 目標値入力装置
70 データ入力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8