(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】コンパクト容器
(51)【国際特許分類】
A45D 33/00 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
A45D33/00 630Z
(21)【出願番号】P 2020091031
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2022-12-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】前田 信也
【審査官】粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-136629(JP,A)
【文献】特開2003-070531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 33/00、40/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の容器本体及び蓋体を備えるコンパクト容器であって、
前記容器本体及び前記蓋体の何れか一方は、該容器本体に対して該蓋体を揺動可能に支持する軸部と、弾性材により形成される弾性部とを有し、
前記容器本体及び前記蓋体の何れか他方は、前記軸部に揺動可能に支持される軸受け部を有し、
前記軸受け部は、閉蓋時には前記弾性部に対して非接触であって、該容器本体に対して該蓋体を開蓋方向に揺動させると該弾性部に接触する接触部を有し、前記接触部は前記軸受け部において径方向外側に突出し、
前記軸部は、左右方向の壁部と、前記壁部に対向する第2壁部とを接続するように左右方向に延在し、前記弾性部は前記軸部に対向して設けられ、
前記軸受け部は、前記軸部の外径よりも開口幅が小さい切り欠き部を有し、前記切り欠き部を押し広げるように前記軸受け部を弾性変形させて前記軸部に嵌め込まれ、
前記切り欠き部は、閉蓋時には前記弾性部に対向し、前記蓋体が開蓋方向に揺動して前記接触部が前記弾性部に接触する状態では前記弾性部に対し非対向にな
り、
前記弾性部は、前記軸部と同心に配置される円弧状の凹状面を有し、前記凹状面は、閉蓋時には前記切り欠き部に対向し、
前記蓋体が開蓋方向に揺動した状態では、前記接触部の外周面が前記凹状面に面状に接触するコンパクト容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパクト容器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば粉体の化粧料を固形化したプレストパウダーの如き固形内容物を携帯する際に使用される容器として、固形内容物を収めた中皿が収容される容器本体と、軸部によって容器本体に対して揺動可能に支持される蓋体とを備えるコンパクト容器が既知である。
【0003】
このようなコンパクト容器においては、従来、軸部として主に金属製のものが使用されていたが、特許文献1に示されているように合成樹脂製のものを採用することも検討されている。このような樹脂製の軸部を採用する場合は、廃棄時に分別の手間を省くことができるうえ、樹脂製品としてリサイクルもしやすいため、環境面でも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでコンパクト容器の中には、蓋体の揺動を途中で止めたときにその時の角度で蓋体が保持されるフリーストップ機能を備えるものがある。従来、フリーストップ機能を発揮させる構成としては、軸部として金属製のスプリングピンを使用し、スプリングピンの弾性力でもって軸部を挿通させる穴との間で摩擦力を生じさせるものが知られている。しかし、このようなスプリングピンに替えて樹脂製の軸部を使用したとしても、スプリングピンと同等の弾性力を得ることは難しく、フリーストップ機能を十分に発揮させることは困難であった。また、弾性力を高めるために樹脂製の軸部の周囲にエラストマー等を巻き付けることも考えられるが、常時圧力が作用するためにエラストマー等が潰れて弾性力が弱くなり、フリーストップ機能が次第に低下することが想定される。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決することを課題とするものであって、金属製のスプリングピンを使用せずとも十分なフリーストップ機能を発揮させることが可能なコンパクト容器を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、合成樹脂製の容器本体及び蓋体を備えるコンパクト容器であって、前記容器本体及び前記蓋体の何れか一方は、該容器本体に対して該蓋体を揺動可能に支持する軸部と、弾性材により形成される弾性部とを有し、前記容器本体及び前記蓋体の何れか他方は、前記軸部に揺動可能に支持される軸受け部を有し、前記軸受け部は、閉蓋時には前記弾性部に対して非接触であって、該容器本体に対して該蓋体を開蓋方向に揺動させると該弾性部に接触する接触部を有し、前記接触部は前記軸受け部において径方向外側に突出し、前記軸部は、左右方向の壁部と、前記壁部に対向する第2壁部とを接続するように左右方向に延在し、前記弾性部は前記軸部に対向して設けられ、前記軸受け部は、前記軸部の外径よりも開口幅が小さい切り欠き部を有し、前記切り欠き部を押し広げるように前記軸受け部を弾性変形させて前記軸部に嵌め込まれ、前記切り欠き部は、閉蓋時には前記弾性部に対向し、前記蓋体が開蓋方向に揺動して前記接触部が前記弾性部に接触する状態では前記弾性部に対し非対向になり、前記弾性部は、前記軸部と同心に配置される円弧状の凹状面を有し、前記凹状面は、閉蓋時には前記切り欠き部に対向し、前記蓋体が開蓋方向に揺動した状態では、前記接触部の外周面が前記凹状面に面状に接触するコンパクト容器である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンパクト容器によれば、容器に対して蓋体を開蓋方向に揺動させると、接触部が弾性部に接触するため、フリーストップ機能を発揮させることができる。また閉蓋時には、弾性部に対して接触部が非接触であるため、弾性部の弾性力が維持されてフリーストップ機能の低下を抑制することができる。また金属製のスプリングピンが不要となるため、リサイクル性に優れる上、部品点数も削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に従うコンパクト容器の一実施形態を示す、(a)は閉蓋時の平面図であり、(b)は蓋体を最大限開いた状態の平面図である。
【
図2】
図1に示したコンパクト容器の閉蓋時の状態をしめす、(a)は
図1のA-Aに沿う断面図であり、(b)は正面図であり、(c)は背面図である。
【
図3】
図2(a)の部分拡大図であって、(a)は閉蓋時の状態を示し、(b)は蓋体を開いて接触部が弾性部に接触した状態を示し、(c)は蓋体を最大限開いた状態を示す。
【
図4】比較例のコンパクト容器を
図3に対応させて示した図であって、(a)は閉蓋時の状態を示し、(b)は蓋体を開いて接触部が弾性部に接触した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明に従うコンパクト容器の一実施形態について説明する。なお、本明細書等における「上」、「下」とは、基本的には容器本体(符合1)の底壁部(符合1a)が水平面に載置される状態での向き(
図2(a)に示す向き)である。また「前」は、
図1に示した本体爪部(符合1h)を設けた側であり、「後」とは、その逆側である。また「左」、「右」とは、前方から後方に向かって見る際の左右方向である。
【0012】
図1、
図2は、本発明に従うコンパクト容器の一実施形態を示している。本実施形態のコンパクト容器100は、粉体の化粧料を固形化したプレストパウダーの如き固形内容物を携帯する際に使用される。コンパクト容器100は、容器本体1と、蓋体2(蓋体本体3、鏡4で構成される)を備えている。
図2(a)に示すように容器本体1には、有底筒状をなしていて内側に固形内容物が収められる中皿5が収容される。またコンパクト容器100は、中皿5の上方にパフ等の塗布具6を載置した状態で蓋体2を閉じることが可能である。
【0013】
容器本体1は、比較的硬質の合成樹脂(例えばアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂)で形成されている。容器本体1は、
図1、
図2に示すように、平面視で矩形状をなす板状の底壁部1a(
図2(a)参照)と、底壁部1aの外縁部の周囲に設けられた本体周壁部1b(
図1(b)参照)とを備え、概略有底筒状に形作られている。
【0014】
容器本体1の後部には、
図1(b)に示すように、左右両側の本体周壁部1bから容器本体1の内側に向かって延在する一対の第一壁部1cと、それぞれの第一壁部1cの内側端部から後方に向かって延在する第二壁部1dが設けられている。第二壁部1dの左右方向外側面と、これに対向する本体周壁部1bの左右方向内側面との間には、円柱状をなしていて左右方向に延在する軸部1eが設けられている。
【0015】
図2(a)に示すように第一壁部1cの後面には、軸部1eに対向するように設けられる弾性部1fが設けられている。弾性部1fは、左右方向に長く延在していて、
図3(a)に示すようにその後面には、軸部1eと同心になる(軸部1eの中心軸Oと共通の中心軸を有する)円弧状の凹状面1gが、左右方向に長く延在するように設けられている。弾性部1fは弾性材(例えばエラストマー(ゴムを含む熱硬化性エラストマーや熱可塑性エラストマー)等)により形成されていて、力を付与すると弾性変形する一方、付与した力を取り除くと復元させることが可能である。本実施形態の弾性部1fは、二色成形やインサート成形を利用して、成形時において容器本体1と一体化させている。なお弾性部1fは、容器本体1とは別異に形成して後から容器本体1に保持させてもよい(例えば弾性部1fを容器本体1に嵌合保持させてもよいし、接着剤等で固着保持させてもよい)。
【0016】
そして容器本体1の前部には、
図2(a)の部分拡大図に示すように、前方に向けて突出して蓋体2を閉蓋した状態で保持するための本体爪部1hが設けられている。
【0017】
蓋体本体3は、閉蓋時において容器本体1の上面を覆うように形作られている。蓋体本体3も、比較的硬質の合成樹脂によって形成されている。蓋体本体3は、
図1に示すように平面視で矩形状をなす板状の天壁部3aと、天壁部3aの外縁部の周囲に設けられた蓋体周壁部3bとを備え、概略有蓋筒状に形作られている。天壁部3aの内側中央部には、鏡4が取り付けられる段差部3cが設けられている。
【0018】
また蓋体本体3は、閉蓋時における後部において、第二壁部1dと本体周壁部1bとの間に収まるとともに軸部1eに揺動可能に支持される一対の軸受け部3dを備えている。本実施形態の軸受け部3dは、
図3(a)に示すように、軸部1eへの軸受け部3dの嵌め込みを可能とする切り欠き部3eを備えていて、断面視でC字状になるように形作られている。切り欠き部3eは、図示したように蓋体2を閉蓋した状態において弾性部1fに対向する(前方に向けて開口する)位置関係で設けられている。
【0019】
また
図3(a)に示すように軸受け部3dは、その外周面の下方から後方にかけての部分において、径方向外側に向けて拡径する大径部3fを備えている。大径部3fの外周面は、中心軸Oを中心とする円弧状の面である。大径部3fは、後述するように弾性部1fに接触する部位であって、本明細書等で「接触部」と称する部位に相当する。
【0020】
また蓋体本体3は、閉蓋時における前部において、
図2(a)の部分拡大図に示す如き蓋体爪部3gを備えている。図示したように蓋体爪部3gは、閉蓋時において本体爪部1hに係合するものである。
【0021】
鏡4は、板状をなすとともに平面視で矩形状になるように形作られていて、段差部3cに取り付けられる。鏡4は、合成樹脂(例えばアクリル(PMMA)樹脂やポリカーボネート(PC)樹脂)で形成された板状の基材にアルミニウム等の金属を蒸着することや、この基材に鏡面性を有するシールを貼着することにより形成される。
【0022】
このような部材で構成されるコンパクト容器100は、軸部1eに対して切り欠き部3eを押し付けるようにして軸受け部3dを軸部1eに嵌め込むことが可能であり、簡単に組み立てることができる。また、容器本体1に設けた弾性部1fは、閉蓋時において、軸受け部3dによって外側から直接視認されることがないため(
図2(c)参照)、外観が損なわれることもない。そして、従来使用していた金属製のスプリングピンを使用せず、また鏡4は合成樹脂製であるため、コンパクト容器100を廃棄する際は、合成樹脂製の部材とその他の素材で形成された部材に分別する必要がなく、リサイクル性に優れる。
【0023】
また本実施形態のコンパクト容器100は、閉蓋時においては、
図2(a)の部分拡大図に示すように蓋体爪部3gが本体爪部1hに係合するため、蓋体2を閉蓋した状態で維持することができる。このため、コンパクト容器100を持ち運ぶ際にも収容した中皿5や塗布具6がコンパクト容器100の外側に飛び出すことがない。そしてこの状態においては、
図3(a)に示すように、軸受け部3dと弾性部1fとの間には隙間があって、弾性部1fは非接触状態となっている。すなわち、弾性部1fに圧力は作用せず、弾性部1fの形状は初期の状態に戻っているため、弾性部1fが持つ当初の弾性力が維持される。
【0024】
一方、塗布具6を取り出して中皿5に収容した固形内容物を塗布するにあたっては、蓋体爪部3gの下方に指を入れてこれを上方に押し上げる。これにより本体爪部1hに蓋体爪部3gとの係合が解除されるため、蓋体2を開蓋させることができる。
【0025】
蓋体2を開蓋方向に揺動させていくと、
図3(b)に示すように、大径部3fが弾性部1fの凹状面1gに接触し始める。これにより大径部3fと凹状面1gとの間で摩擦力が生じるため、蓋体2をその時の角度で保持することができる。従って、蓋体2の内側に設けられている鏡4を見えやすい角度に維持した状態で化粧等を行うことができる。なお本実施形態のコンパクト容器100では、
図3(c)に示すように、閉蓋時から180度回転するまで蓋体2を開くことができる。
【0026】
ところで大径部3fが弾性部1fに接触する部位は平面であってもよいが、この場合は弾性部1fの弾性変形具合にもよるものの、基本的には大径部3fが弾性部1fに対して線状に接触することになる。これに対して本実施形態では、大径部3fと凹状面1gはともに中心軸Oを中心とした円弧状に形成されていて、大径部3fは凹状面1gに対して面状に接触するため、両者の接触面積が増えてこれらの間に作用する摩擦力は大きくなる。このため、蓋体2のフリーストップ機能をより有効に発揮させることができる。
【0027】
なお、比較例として示す
図4(a)のように、切り欠き部3e’が閉蓋時において下方に向けて開口するように構成する場合は、
図4(b)に示すように大径部3f’が凹状面1g’に接触する状態においては、切り欠き部3e’は弾性部1f’に対して対向となる向きに開口することになる。すなわち弾性部1f’の弾性力は、
図4(b)における矢印で示すような向きに作用するため、軸受け部3d’が軸部1e’から外れてしまうおそれがある。
【0028】
一方、本実施形態の軸受け部3dに設けた切り欠き部3eは、
図3(a)に示すように閉蓋時において前方に向けて開口している(閉蓋時において弾性部1fに対向する位置関係で設けられている)ため、
図3(b)、(c)に示すように、蓋体2を開蓋方向に揺動させて大径部3fが凹状面1gに接触する状態においては、切り欠き部3eが開口する向きは上方から後方に至る範囲となる。換言すると、大径部3fが凹状面1gに接触する状態においては、切り欠き部3eは弾性部1fとは非対向となる向きに開口することになる。すなわち、大径部3fが凹状面1gに接触する状態においては、弾性部1fの弾性力が軸受け部3dに対して、
図3(b)における矢印で示すような向きに作用するものの、切り欠き部3eが開口する向きは、弾性力が作用する向きに対してずれているため、軸受け部3dが軸部1eから外れてしまうことはない。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0030】
例えば、容器本体1に設けた軸部1e及び弾性部1fと、蓋体本体3に設けた軸受け部3d及び大径部3f(接触部)とを入れ替えるように構成し、蓋体本体3に弾性部を設け、容器本体1に接触部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1:容器本体
1a:底壁部
1b:本体周壁部
1c:第一壁部
1d:第二壁部
1e:軸部
1f:弾性部
1g:凹状面
1h:本体爪部
2:蓋体
3:蓋体本体
3a:天壁部
3b:蓋体周壁部
3c:段差部
3d:軸受け部
3e:切り欠き部
3f:大径部(接触部)
3g:蓋体爪部
4:鏡
5:中皿
6:塗布具
100:コンパクト容器
O:中心軸