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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/14 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
H02P23/14
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020117382
(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公開番号】P2022014820
(43)【公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】高木 正志
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-022285(JP,A)
【文献】特開2005-057963(JP,A)
【文献】特開2003-259699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導機の制御装置であって、
前記誘導機に流れる電流ベクトルを検出する電流検出部と、
前記電流ベクトルに基づいて、前記誘導機に直流電流を流す拾い上げ電圧指令を出力する拾い上げ制御部と、
前記電流ベクトルと、前記拾い上げ電圧指令とに基づき、前記誘導機の磁束ベクトルを演算する磁束推定部と、
前記磁束ベクトルを用いて、所定の始点時刻における磁束ベクトルと、前記始点時刻の後の所定の時点における磁束ベクトルと、前記始点時刻と前記所定の時点との中間の時点における磁束ベクトルとに基づく中間ベクトルを、前記始点時刻の後の複数の時点について抽出する中間ベクトル抽出部と、
前記複数の時点について抽出された中間ベクトルに基づき、前記誘導機の初期速度を演算する速度推定部と、
前記初期速度と前記電流ベクトルとに基づき、前記誘導機の初期二次磁束を演算する初期磁束推定部と、を備える制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載に制御装置において、
前記中間ベクトル抽出部は、
前記始点時刻における磁束ベクトルをφ(ts)とし、前記所定の時点における磁束ベクトルをφ(tn)とし、前記始点時刻と前記所定の時点との中間の時点における磁束ベクトルをφ((ts+tn)/2)とすると、以下の式(1)により前記所定の時点における中間ベクトルφc(tn)を演算し、
φc(tn)=2*[φ((ts+tn)/2)-φ(ts)]
-[φ(tn)-φ(ts)] ・・・式(1)
前記速度推定部は、前記始点時刻の後の第1の時点t1における中間ベクトルφc(t1)のベクトル角度をθ(t1)とし、前記始点時刻の後の、前記第1の時点t1とは異なる第2の時点t2における中間ベクトルφc(t2)のベクトル角度をθ(t2)とすると、以下の式(2)により、前記初期速度ωm0を演算する、制御装置。
ωm0=2*(θc1-θc2)/(t1-t2) ・・・式(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機のトルク制御を行う制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機のメンテナンス性の向上、および、電動機の小型・高出力化の観点より、速度センサが設けられていない(速度センサを用いない)電動機の制御装置(いわゆる、速度センサレス電動機制御装置)が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような制御装置では一般に、電動機のトルクを制御する際には、電動機の速度(角速度)を推定する必要がある。
【0003】
図3は、速度センサを用いない、いわゆる速度センサレス電動機制御装置である従来の制御装置100Aの構成例を示す図である。
【0004】
図3に示す制御装置100Aは、電流検出部2と、拾い上げ制御部3と、初期値推定部4と、トルク制御部5と、切替部6と、電力変換部7とを備える。
【0005】
電流検出部2は、電動機1に流れる電流ベクトルiを検出し、拾い上げ制御部3、初期値推定部4およびトルク制御部5に出力する。
【0006】
拾い上げ制御部3は、電流検出部2により検出された電流ベクトルi、直流電流指令Iおよび電流位相角指令θが入力される。拾い上げ制御部3は、電動機1に流れる電流iを直流電流指令Iおよび電流位相角指令θ通りの直流電流にするための、拾い上げ電圧指令V0を生成し、初期値推定部4および切替部6に出力する。
【0007】
初期値推定部4は、電流検出部2により検出された電流ベクトルi、および、拾い上げ制御部3により生成された拾い上げ電圧指令V0が入力される。初期値推定部4は、電流ベクトルiおよび拾い上げ電圧指令V0に基づき、電動機1の初期速度ωm0および初期二次磁束φ20を演算し、トルク制御部5に出力する。初期値推定部4の構成の詳細については後述する。
【0008】
トルク制御部5は、電流検出部2により検出された電流ベクトルi、初期値推定部4により演算された電動機1の初期速度ωm0および初期二次磁束φ20、ならびに、トルク制御開始指令SWが入力される。トルク制御部5は、トルク制御開始指令SWがオンになると、初期速度ωm0および初期二次磁束φ20を初期値として、電流ベクトルiに基づき、電動機1のトルクを制御するトルク制御指令V1を生成し、切替部6に出力する。なお、図3においては、電動機1の電源が投入された時点では、トルク制御開始指令SWはオフの状態となっている。
【0009】
切替部6は、拾い上げ制御部3により生成された拾い上げ電圧指令V0、トルク制御部5により生成されたトルク制御指令V1およびトルク制御開始指令SWが入力される。切替部6は、制御開始指令SWに従い、拾い上げ電圧指令V0とトルク制御指令V1とを切り替えて電圧指令Vとして、電力変換部7に出力する。すなわち、切替部6は、トルク制御開始指令SWがオンになるまでは、拾い上げ電圧指令V0を電圧指令Vとして出力し、トルク制御開始指令SWがオンになると、トルク制御指令V1を電圧指令Vとして出力する。
【0010】
電力変換部7は、切替部6から出力された電圧指令Vを増幅して電動機1に電力を供給する。
【0011】
図3に示す制御装置100Aにおいては、トルク制御開始指令SWがオンになるまでは、拾い上げ制御部2と初期値推定部4とにより、電動機1の初期速度ωm0および初期二次磁束φ20が推定される。そして、トルク制御開始指令SWがオンになると、トルク制御開始指令SWがオンになった時点の初期速度ωm0および初期二次磁束φ20を初期値として、電動機1のトルク制御が行われる。トルク制御開始指令SWをオンにするタイミングは、拾い上げ制御の実施時間、初期速度ωm0および初期二次磁束φ20の状態などに基づいて決定される。
【0012】
以下、トルク制御開始指令SWがオンになるまでの、拾い上げ制御における初期値推定部4の動作について詳細に説明する。
【0013】
図3に示すように、初期値推定部4は、演算用タイマー8と、磁束推定部9と、磁束メモリ10と、3時点抽出部11と、速度推定部12と、初期磁束推定部13とを備える。
【0014】
演算用タイマー8は、拾い上げ制御開始指令STが入力される。演算用タイマー8は、拾い上げ制御開始指令STのエッジで0クリアされるタイマカウンタであり、拾い上げ時刻t0を磁束メモリ10、3時点抽出部11、速度推定部12および初期磁束推定部13に出力する。
【0015】
磁束推定部9は、電流検出部2により検出された電流ベクトルiおよび拾い上げ制御部3により生成された拾い上げ電圧指令V0が入力される。磁束推定部9は、電流ベクトルiおよび拾い上げ電圧指令V0に基づき、以下の式(1)により電動機1の磁束ベクトルφ2rを演算する。
【0016】
【数1】
【0017】
式(1)において、R1,L1,L2,Mはそれぞれ、電動機1の一次抵抗、一次自己インダクタンス、二次自己インダクタンス、相互インダクタンスである。
【0018】
磁束推定部9は、演算した磁束ベクトルφ2rを磁束メモリ10に出力する。
【0019】
磁束メモリ10は、演算用タイマー8により生成された拾い上げ時刻t0および磁束推定部9により演算された磁束ベクトルφ2rが入力される。磁束メモリ10は、時刻0から拾い上げ時刻t0までの区間において、時々刻々と変化する磁束ベクトルφ2rを記憶し、磁束ベクトルφ(t0)として3時点抽出部11に出力する。
【0020】
3時点抽出部11は、演算用タイマー8により生成された拾い上げ磁束t0および磁束メモリ10から出力された磁束ベクトルφ(t0)が入力される。3時点抽出部11は、時刻0から時刻t0までの区間における、任意の3時点t00,t01,t02での磁束ベクトルφ2rである磁束ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)を抽出し、速度推定部12に出力する。
【0021】
速度推定部12は、演算用タイマー8により生成された拾い上げ時刻t0および3時点抽出部11により抽出された3つの磁束ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)が入力される。速度推定部12は、拾い上げ時刻t0および磁束ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)に基づき、以下の式(2)~式(7)により、初期速度ωm0を演算する。
【0022】
まず、速度推定部12は、3つの磁束ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)それぞれの終点を通る円の中心Rを以下の式(2)~式(5)により求める。
【0023】
【数2】
【0024】
式(2)~式(5)において、ベクトルF1は、磁束ベクトルφ(t00)の終点から見た磁束ベクトルφ(t01)の終点を示すベクトルである。ベクトルF2は、磁束ベクトルφ(t00)の終点から見た磁束ベクトルφ(t02)の終点を示すベクトルである。(F1,F1)、(F2,F2)および(R,R)はそれぞれ、ベクトルF1、ベクトルF2、円の中心Rの成分である。
【0025】
次に、速度推定部12は、円の中心Rから見た、磁束ベクトルφ(t00)と磁束ベクトルφ(t02)との間の角度θCを式(6)により求める。
【0026】
【数3】
【0027】
式(6)において、記号「×」はベクトルの外積を示し、記号「・」はベクトルの内積を示す。
【0028】
時刻t00から時刻t02まで(例えば、数十ミリ秒)の電動機1の回転速度はほぼ一定とみなすことができる。このため、速度推定部12は、以下の式(7)により初期速度ωm0を求めることができる。
【0029】
【数4】
【0030】
速度演算部12は、演算した初期速度ωm0をトルク制御部5および初期磁束推定部13に出力する。
【0031】
初期磁束推定部13は、電流検出部2により検出された電流ベクトルi、演算用タイマー8により生成された拾い上げ時刻t0および速度演算部12により演算された初期速度ωm0が入力される。初期磁束推定部13は、電流ベクトルiおよび初期速度ωm0に基づき、以下の式(8)により初期二次磁束φ20を求める。
【0032】
【数5】
【0033】
式(8)において、「j」は虚数単位である。T2は、電動機1の二次時定数であり、二次抵抗R2を用いて、L2/R2により算出される。φxxは、拾い上げ制御開始時の残留磁束である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【文献】特開2000-287491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
上述した拾い上げ制御においては、以下に説明するように改良の余地がある。
【0036】
電動機1の温度の変動などにより、一次抵抗R1に誤差が発生している場合、式(1)の積分項により、後述する式(11)のように、当該誤差が磁束推定部9の出力値である磁束ベクトルφ2rに積算されていく。その結果、3時点抽出部11の出力である磁束ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)に誤差が生じる。また、磁束ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)に基づいて、式(2)~式(8)により演算する初期速度ωm0および初期磁束φ20にも誤差が生じる。
【0037】
以下では、式(9)に示すように、一次抵抗R1が誤差ΔRだけ真値R1realからずれていたと仮定する。
R1real=R1+ΔR ・・・式(9)
【0038】
この場合、実磁束ベクトルφ2realは、以下の式(10)により求められる。
【0039】
【数6】
【0040】
式(10)のR1realに式(9)を代入すると、電流ベクトルiは一定であるので、式(10)は、式(1)を用いて、以下の式(11)で表わされる。
φ2r=φ2real+ΔR・i・t ・・・式(11)
【0041】
式(11)において、tは磁束ベクトルφ2rの演算時間である。また、L2≒Mとした。
【0042】
式(11)に示すように、一次抵抗R1に誤差が発生している場合、式(1)の積分項により、その誤差が磁束推定部9の出力値である磁束ベクトルφ2rに積算されていく。
【0043】
このように、一次抵抗R1に誤差が存在する場合、初期値推定部4が推定する初期速度ωm0および初期二次磁束φ20に誤差が生じる。トルク制御部5によるトルク制御の初期値である初期速度ωm0および初期二次磁束φ20に誤差が生じると、電動機1のトルク制御の精度が低下するおそれがある。
【0044】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、電動機のトルク制御の精度向上を図ることができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0045】
上記課題を解決するため、本発明に係る制御装置は、電動機の制御装置であって、前記電動機に流れる電流ベクトルを検出する電流検出部と、前記電流ベクトルに基づいて、前記電動機に直流電流を流す拾い上げ電圧指令を出力する拾い上げ制御部と、前記電流ベクトルと、前記拾い上げ電圧指令とに基づき、前記電動機の磁束ベクトルを演算する磁束推定部と、前記磁束ベクトルを用いて、所定の始点時刻における磁束ベクトルと、前記始点時刻の後の所定の時点における磁束ベクトルと、前記始点時刻と前記所定の時点との中間の時点における磁束ベクトルとに基づく中間ベクトルを、前記始点時刻の後の複数の時点について抽出する中間ベクトル抽出部と、前記複数の時点について抽出された中間ベクトルに基づき、前記電動機の初期速度を演算する速度推定部と、前記初期速度と前記電流ベクトルとに基づき、前記電動機の初期二次磁束を演算する初期磁束推定部と、を備える。
【0046】
また、本発明に係る制御装置において、前記中間ベクトル抽出部は、前記始点時刻における磁束ベクトルをφ(ts)とし、前記所定の時点における磁束ベクトルをφ(tn)とし、前記始点時刻と前記所定の時点との中間の時点における磁束ベクトルをφ((ts+tn)/2)とすると、以下の式(12)により前記所定の時点における中間ベクトルφc(tn)を演算し、
φc(tn)=2*[φ((ts+tn)/2)-φ(ts)]
-[φ(tn)-φ(ts)] ・・・式(12)
前記速度推定部は、前記始点時刻の後の第1の時点t1における中間ベクトルφc(t1)のベクトル角度をθ(t1)とし、前記始点時刻の後の、前記第1の時点t1とは異なる第2の時点t2における中間ベクトルφc(t2)のベクトル角度をθ(t2)とすると、以下の式(13)により、前記初期速度ωm0を演算する。
ωm0=2*(θc1-θc2)/(t1-t2) ・・・式(13)
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る制御装置によれば、電動機のトルク制御の精度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置の構成例を示す図である。
図2図1に示す中間ベクトル抽出部が演算する中間ベクトルを示す図である。
図3】従来の制御装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0050】
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置100の構成例を示す図である。本実施形態に係る制御装置100は、電動機1のトルク制御を行うものである。図1において、図3と同様の構成には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0051】
図1に示す制御装置100は、電流検出部2と、拾い上げ制御部3と、トルク制御部5と、切替部6と、電力変換部7と、演算用タイマー8と、磁束推定部9と、磁束メモリ10と、初期磁束推定部13と、中間ベクトル抽出部101と、速度推定部102とを備える。すなわち、本実施形態に係る制御装置100は、図3に示す制御装置100Aと比較して、3時点抽出部11および速度推定部12をそれぞれ、中間ベクトル抽出部101および速度推定部102に変更した点が異なる。
【0052】
中間ベクトル抽出部101は、磁束ベクトルφ2rに基づき、複数の時点における中間ベクトルを演算し、速度推定部102に出力する。以下では、中間ベクトルについて、より詳細に説明する。
【0053】
中間ベクトル抽出部101は、所定の始点時刻tsにおける磁束ベクトルφ(ts)と、始点時刻tsの後の所定の時点tnにおける磁束ベクトルφ(tn)と、始点時刻tsと所定の時点tnとの中間の時点((ts+tn)/2)における磁束ベクトルφ((ts+tn)/2)とに基づき、所定の時点tnにおける中間ベクトルφc(tn)を演算する。より具体的には、中間ベクトル抽出部101は、以下の式(14)により、中間ベクトルφc(tn)を演算する。
φc(tn)=2*[φ((ts+tn)/2)-φ(ts)]
-[φ(tn)-φ(ts)] ・・・式(14)
【0054】
中間ベクトル抽出部101は、上述した中間ベクトルφc(tn)を複数の時点について演算する。
【0055】
以下では、中間ベクトル抽出部101は、始点時刻ts後の時点t1(第1の時点)における中間ベクトルφc(t1)、および、始点時刻ts後の、時点t1とは異なる時点t2(第2の時点)における中間ベクトルφc(t2)を演算する例を用いて説明する。また、以下では、始点時刻tsと時点t1との中間の時点をtAとし、時点tAにおける磁束ベクトルをφ(tA)とする。また、始点時刻tsと時点t2との中間の時点をtBとし、時点tBにおける磁束ベクトルをφ(tB)とする。
【0056】
中間ベクトル抽出部101は、以下の式(15)により、中間ベクトルφc(t1)を演算し、以下の式(16)により、中間ベクトルφc(t2)を演算する。
φc(t1)=2*[φ(tA)-φ(ts)]-[φ(t1)-φ(ts)]
・・・式(15)
φc(t2)=2*[φ(tB)-φ(ts)]-[φ(t2)-φ(ts)]
・・・式(16)
【0057】
中間ベクトルφc(t1)および中間ベクトルφc(t2)を図2に示す。図2に示すように、時点t1は、磁束ベクトルφ2rの軌跡(円)における、始点時刻tsよりも後の任意の時点である。時点t1における中間ベクトルφc(t1)は、磁束ベクトルφ(ts)と、2*(磁束ベクトルφ(tA)-磁束ベクトルφ(ts))とを加算し、さらに、磁束ベクトルφ(t1)を加算したものである。また、時点t2における中間ベクトルφc(t2)は、磁束ベクトルφ(ts)と、2*(磁束ベクトルφ(tB)-磁束ベクトルφ(ts))とを加算し、さらに、磁束ベクトルφ(t2)を加算したものである。
【0058】
上述した中間ベクトルφc(tn)(中間ベクトルφc(t1),φc(t2))は、電動機1の一次抵抗R1の誤差ΔRの影響を受けない。以下では、その理由について説明する。
【0059】
一次抵抗R1が誤差ΔRだけ真値R1realからずれていたと仮定する。この場合、式(11)より、始点時刻ts、時点t1および時点tAそれぞれにおける磁束ベクトルは、以下の式(17)~式(19)となる。
φ(ts)=φ2real(ts)+ΔR・i・ts ・・・式(17)
φ(t1)=φ2real(t1)+ΔR・i・t1 ・・・式(18)
φ(tA)=φ2real(tA)+ΔR・i・tA ・・・式(19)
【0060】
式(15)を考慮すると、中間ベクトルφc(t1)は以下の式(20)で表わされる。
φc(t1)=2*[φreal(tA)-φreal(ts)]
-[φreal(t1)-φreal(ts)]
+ΔR・i・[2*(tA-ts)-(t1-ts)]・・・式(20)
【0061】
tA=(t1+ts)/2であるので、式(20)におけるΔRの項は0となる。すなわち、中間ベクトルφc(t1)は誤差ΔRの影響を受けないことが分かる。また、同様にして、中間ベクトルφc(t2)は誤差ΔRの影響を受けないことが分かる。
【0062】
速度推定部102は、複数の時点について抽出された中間ベクトルφc(tn)に基づき、電動機1の初期速度ωm0を演算する。速度推定部102による初期速度ωm0の演算について、上述した時点t1および時点t2を例として、より詳細に説明する。
【0063】
時点t1における中間ベクトルφc(t1)の成分を(FCT1A,FCT1B)とすると、速度推定部102は、以下の式(21)により、中間ベクトルφc(t1)のベクトル角度θc1を演算する。
θc1=tan-1(FCT1B/FCT1A)(FCT1A≧0)
θc1=π+tan-1(FCT1B/FCT1A)(FCT1A<0)
・・・式(21)
【0064】
また、時点t2における中間ベクトルφc(t2)の成分を(FCT2A,FCT2B)とすると、速度推定部102は、以下の式(22)により、中間ベクトルφc(t2)のベクトル角度θc2を演算する。
θc2=tan-1(FCT2B/FCT2A)(FCT2A≧0)
θc2=π+tan-1(FCT2B/FCT2A)(FCT2A<0)
・・・式(22)
【0065】
ベクトル角度θc1-ベクトル角度θc2は、時点tA~時点tB間で回転した磁束ベクトルの角度となる。時点tA~時点tB間の時間は、時点t1から時点t2までの時間の1/2となるので、速度推定部102は、以下の式(23)により初期速度ωm0を演算する。
ωm0=2*(θc1-θc2)/(t1-t2) ・・・式(23)
【0066】
式(23)により求められる初期速度ωm0は、中間ベクトルφc(t1),φc(t2)から演算されるものであり、上述したように、中間ベクトルφc(t1),φc(t2)は、電動機1の一次抵抗R1の誤差ΔRの影響を受けない。したがって、本実施形態においては、一次抵抗R1の誤差ΔRの影響を受けることなく、電動機1の初期速度ωm0を演算することができる。
【0067】
初期磁束推定部13は、上述したように、電流ベクトルiおよび初期速度ωm0に基づき、式(8)により初期二次磁束φ20を求める。初期速度ωm0は一次抵抗R1の誤差ΔRの影響を受けないので、初期二次磁束φ20も一次抵抗R1の誤差ΔRの影響を受けることなく演算することができる。
【0068】
このように本実施形態においては、電動機1の初期速度ωm0および初期二次磁束φ20を、一次抵抗R1の誤差ΔRの影響を受けることなく演算することができる。そのため、初期速度ωm0および初期二次磁束φ20を用いた電動機1のトルク制御の精度向上を図ることができる。
【0069】
式(21)~式(23)を用いた初期速度ωm0の演算には制限がある。磁束ベクトルφ2rの軌跡が1周以上回転すると、低速高速あるいは正転逆転の見分けがつかなくなる。そのため、始点時刻tsに対して時点t1,t2は、磁束ベクトルφ2rの軌跡1周分以内の時点を選択する必要がある。
【0070】
上述した式(15)および式(16)に関しては、以下の式(15’)および式(16’)に示すように、右辺を1/2倍した式であってもよい。この場合も同様の効果が得られることは明らかである。また、右辺の倍数は、1/2以外でも、0でない正数であればよい。
φc(t1)=[φ(tA)-φ(ts)]-[φ(t1)-φ(ts)]/2
・・・式(15’)
φc(t2)=[φ(tB)-φ(ts)]-[φ(t2)-φ(ts)]/2
・・・式(16’)
【0071】
また、速度推定部102は、時点t1,t2とは少なくとも1つ時点が異なる2つの時点のセットを用いて、式(15)、式(16)、式(21)~式(23)と同様の演算を行うことにより、初期速度ωm0を複数回演算してもよい。また、速度推定部102は、複数回演算した初期速度ωm0の平均値あるいは一次遅れフィルタを通した値を、初期速度ωm0として出力してよい。
【0072】
このように本実施形態においては、制御装置100は、電動機1に流れる電流ベクトルiを検出する電流検出部2と、電流ベクトルiに基づいて、電動機1に直流電流を流す拾い上げ電圧指令V1を出力する拾い上げ制御部3と、電流ベクトルiと、拾い上げ電圧指令V1とに基づき、電動機1の磁束ベクトルφ2rを演算する磁束推定部9と、磁束ベクトルφ2rを用いて、所定の始点時刻tsにおける磁束ベクトルφ(ts)と、始点時刻tsの後の所定の時点tnにおける磁束ベクトルφ(tn)と、始点時刻tsと所定の時点tnとの中間の時点における磁束ベクトルφ((ts+tn)/2)とに基づく中間ベクトルφc(tn)を複数の時点について抽出する中間ベクトル抽出部101と、複数の時点について抽出された中間ベクトルφc(tn)に基づき、電動機1の初期速度ωm0を演算する速度推定部102と、初期速度ωm0と電流ベクトルiとに基づき、電動機1の初期二次磁束φ20を演算する初期磁束推定部13と、を備える。
【0073】
磁束ベクトルφ(ts)、磁束ベクトルφ(tn)および磁束ベクトルφ((ts+tn)/2)に基づく中間ベクトルφc(tn)は、電動機1の一次抵抗R1の誤差ΔRの影響を受けない。したがって、中間ベクトルφc(tn)に基づき初期速度ωm0を演算することで、一次抵抗R1の誤差ΔRの影響を受けることなく、初期速度ωm0を演算することができる。また、中間ベクトルφc(tn)に基づき演算された初期速度ωm0に基づき電動機1の初期二次磁束φ20を演算することで、一次抵抗R1の誤差ΔRの影響を受けることなく、初期二次磁束φ20を演算することができる。したがって、一次抵抗R1の誤差ΔRの影響を受けることなく、電動機1のトルク制御に用いられる初期速度ωm0および初期二次磁束φ20を演算することができるので、電動機1のトルク制御の精度向上を図ることができる。そのため、例えば、電動機1を搭載した電気車において、惰行走行状態からの再加速および惰行走行状態からのブレーキが可能となる。
【0074】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換が可能であることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 電動機
2 電流検出部
3 拾い上げ制御部
5 トルク制御部
6 切替部
7 電力変換部
8 演算用タイマー
9 磁束推定部
10 磁束メモリ
13 初期磁束推定部
100 制御装置
101 中間ベクトル抽出部
102 速度推定部
図1
図2
図3