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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】さび止め油組成物
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/00 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
C23F11/00 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020145991
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2021063289
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019189251
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】金子 波路
(72)【発明者】
【氏名】柴田 潤一
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-248264(JP,A)
【文献】特開2007-119680(JP,A)
【文献】特開2010-065142(JP,A)
【文献】特開2012-062488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00-11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸カルシウムと、モノオレイン酸ソルビタンとを含有し、
40℃における動粘度が40mm/s以上120mm/s以下である、さび止め油組成物。
【請求項2】
前記(B)成分の含有量が、さび止め油組成物全量に対して、5質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載のさび止め油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さび止め油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板、軸受、鋼球、ガイドレールなどの金属製部材の分野では、部材のさびの発生を防止するためにさび止め油が使用されている。
さび止め油の規格はJIS K2246で規定されており、指紋除去形、溶剤希釈形、ペトロラタム形、潤滑油形、気化性さび止め油の5種類に分類されている。また、指紋除去形、ペトロラタム形以外の3種類はその用途や性質によって更に細かく分類されている。
【0003】
近年、さび止め油組成物に対するさび止め性の向上がより一層求められている。さび止め性を向上させるため、防錆添加剤として、一般的には、スルホン酸バリウム塩が用いられている。しかしながら、特定の水溶性バリウム化合物については、その取り扱いが難しいため、該水溶性バリウム化合物以外のバリウム化合物についても、その取り扱い性が懸念されている。そのため、取り扱い性の面で懸念のあるバリウム化合物を含まないさび止め油組成物が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1では、鉱油及び/又は合成油からなる基油中に、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩(但し、スルホン酸バリウム塩を除く)及びスルホン酸アミン塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のスルホン酸塩を組成物全量基準で1~10質量%含有するさび止め油組成物が提案されており、スルホン酸バリウム塩を用いずとも従来のさび止め油組成物と同等以上のさび止め性が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-302690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、優れた取り扱い性に加え、より高いさび止め性が求められるようになってきており、特許文献1のような従来のさび止め油組成物では、その要求特性を満たすのに十分なさび止め性を有していなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、取り扱い性に優れ、さび止め性にも優れるさび止め油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第1の態様は、(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸カルシウムとを含有し、40℃における動粘度が40mm/s以上120mm/s以下である、さび止め油組成物である。
【0009】
本発明の第1の態様においては、前記(B)成分の含有量が、さび止め油組成物全量に対して、5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、取り扱い性に優れ、さび止め性にも優れるさび止め油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、動粘度は、JIS K 2283-2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0012】
(さび止め油組成物)
本実施形態のさび止め油組成物は、(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸カルシウムとを含有し、40℃における動粘度が40mm/s以上120mm/s以下である。
【0013】
本実施形態のさび止め油組成物は、40℃における動粘度が40mm/s以上であり、好ましくは45mm/s以上であり、より好ましくは55mm/s以上である。
本実施形態のさび止め油組成物の40℃における動粘度が上記好ましい下限値以上であれば、被膜強度がより向上して、さび止め性がより優れる。
【0014】
本実施形態のさび止め油組成物は、40℃における動粘度が120mm/s以下であり、好ましくは110mm/s以下であり、より好ましくは100mm/s以下である。
本実施形態のさび止め油組成物の40℃における動粘度が上記好ましい上限値以下であれば、さび止め性がより優れる。
【0015】
例えば、本実施形態のさび止め油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは、45mm/s以上110mm/s以下であり、より好ましくは、55mm/s以上100mm/s以下である。
【0016】
<(A)成分:基油>
本実施形態のさび止め油組成物は、(A)成分:基油を含有する。
(A)成分としては、鉱油、合成油等が挙げられる。
【0017】
≪鉱油≫
鉱油として、具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理の1種以上の精製手段を適用して得られるパラフィン系又はナフテン系の鉱油等が挙げられる。
【0018】
また、上記鉱油の5%留出温度は200℃以上であることが好ましく、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは260℃以上である。鉱油の5%留出温度を200℃以上とすることにより、室温での油剤の揮発を十分に防止することができる。
【0019】
一方、上記鉱油の95%留出温度は620℃以下であることが好ましく、より好ましくは500℃以下、さらに好ましくは480℃以下である。鉱油の95%留出温度を620℃以下とすることにより、油剤除去工程における油剤除去性を良好にすることができる。
【0020】
鉱油の5%留出温度と95%留出温度の温度差は150℃以下であることが好ましく、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは125℃以下である。かかる温度差を150℃以下とすることにより、室温での油剤の揮発の防止と油剤除去工程における油剤除去性とをより両立させることができる。
ここで、5%留出温度および95%留出温度とは、JIS K2254「石油製品-蒸留試験方法」に準拠して測定されたGC蒸留での値を意味する。
【0021】
≪合成油≫
合成油としては、ポリオレフィン、アルキルベンゼン等が好適に使用される。
【0022】
・ポリオレフィン
ポリオレフィンとしては、炭素数2~16、好ましくは炭素数2~12のオレフィンモノマーを単独重合又は共重合したもの、これらの重合体の水素化物等が挙げられる。前記オレフィンモノマーは、α-オレフィン、内部オレフィン、直鎖状オレフィン、分岐鎖状オレフィンのうちのいずれであってもよい。このようなオレフィンモノマーとしては、具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0023】
上記ポリオレフィンは公知の方法により製造することができる。例えば、無触媒による熱反応によって製造することができるほか、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物触媒;塩化アルミニウム、塩化アルミニウム-多価アルコール系、塩化アルミニウム-四塩化チタン系、塩化アルミニウム-アルキル錫ハライド系、フッ化ホウ素等のフリーデルクラフツ型触媒;有機塩化アルミニウム-四塩化チタン系、有機アルミニウム-四塩化チタン系等のチーグラー型触媒;アルミノキサン-ジルコノセン系、イオン性化合物-ジルコノセン系等のメタロセン型触媒;塩化アルミニウム-塩基系、フッ化ホウ素-塩基系等のルイス酸コンプレックス型触媒等の公知の触媒を用いて、上記のオレフィンを単独重合又は共重合させることによって目的のポリオレフィンを製造することができる。
【0024】
・アルキルベンゼン
アルキルベンゼンとしては、分子中に炭素数1~40のアルキル基を1~4個有するものが好ましい。また、アルキルベンゼンのアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、安定性、粘度特性等の点から分岐鎖状のアルキル基が好ましく、特に入手が容易であるという点から、プロピレン、ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーから誘導される分岐鎖状アルキル基がより好ましい。
【0025】
本実施形態におけるアルキルベンゼンは上記の中でも、安定性、入手可能性の点から1個又は2個のアルキル基を有するアルキルベンゼン、すなわちモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、又はこれらの混合物が最も好ましい。また、アルキルベンゼンとしては、単一の構造のアルキルベンゼンだけでなく、異なる構造を有するアルキルベンゼンの混合物であっても良い。
【0026】
上記アルキルベンゼンは公知の方法により製造することができる。例えば、芳香族化合物を原料とし、アルキル化剤及びアルキル化触媒を用いて製造することができる。
ここで、原料として使用される芳香族化合物として、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、ジエチルベンゼン、これらの混合物等が挙げられる。
アルキル化剤として、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン等の低級モノオレフィン、好ましくはプロピレンの重合によって得られる炭素数6~40の直鎖状又は分枝鎖状のオレフィン;ワックス、重質油、石油留分、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱分解によって得られる炭素数6~40の直鎖状又は分岐鎖状のオレフィン;灯油、軽油等の石油留分からn-パラフィンを分離し、これを触媒によりオレフィン化することによって得られる炭素数9~40の直鎖状オレフィン、これらの混合物等が挙げられる。
アルキル化の際のアルキル化触媒としては、塩化アルミニウム、塩化亜鉛等のフリーデルクラフツ型触媒;硫酸、リン酸、ケイタングステン酸、フッ化水素酸、活性白土等の酸性触媒、等の公知の触媒が挙げられる。
【0027】
本実施形態のさび止め油組成物における基油は、上述した鉱油及び/又は合成油をそれぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
本実施形態のさび止め油組成物における(A)成分:基油の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、下限値は好ましくは70質量%であり、より好ましくは75質量%であり、さらに好ましくは78質量%である。上限値は好ましくは98質量%であり、より好ましくは96質量%であり、さらに好ましくは95質量%以下ある。(A)成分の含有量が、上記好ましい上限値以下であれば、さび止め性がより良好になる傾向がある。(A)成分の含有量が、上記好ましい下限値以上であれば、耐ステイン性がより良好になる傾向がある。
【0029】
<(B)成分:スルホン酸カルシウム>
本実施形態のさび止め油組成物は、スルホン酸カルシウムを含む。
スルホン酸カルシウムは取り扱い性に優れるものである。
本実施形態のさび止め油組成物は、スルホン酸カルシウムを含有することにより、さび止め性を向上させることができる。
【0030】
本実施形態におけるスルホン酸カルシウムは、カルシウムの酸化物や水酸化物等とスルホン酸とを反応させることにより得ることができる。
【0031】
・スルホン酸
スルホン酸カルシウムの原料として使用されるスルホン酸は、常法によって製造された公知のものを使用することができる。具体的には、石油スルホン酸、合成スルホン酸等が挙げられる。
【0032】
・・石油スルホン酸
石油スルホン酸とは、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生するマホガニー酸等である。
【0033】
・・合成スルホン酸
合成スルホン酸とは、洗剤等の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生するもの、若しくは、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる直鎖状や分岐鎖状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したもの、又は、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等が挙げられる。これらのスルホン酸の分子量について特に制限はないが、好ましくは100~1500、より好ましくは200~700のものが使用される。
【0034】
上記スルホン酸の中でも、ナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14~30であるジアルキルナフタレンスルホン酸;ベンゼン環に結合する2つのアルキル基がそれぞれ直鎖アルキル基又は側鎖メチル基を1個有する分岐鎖状アルキル基であり、かつ、2つのアルキル基の総炭素数が14~30であるジアルキルベンゼンスルホン酸;及びベンゼン環に結合するアルキルの炭素数が14以上であるモノアルキルベンゼンスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0035】
・・・ジアルキルナフタレンスルホン酸
ナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14~30のジアルキルナフタレンスルホン酸は、2つのアルキル基の総炭素数が14以上であれば、抗乳化性がより向上し、他方30以下であれば、貯蔵安定性がより向上する。なお、2つのアルキル基はそれぞれ直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。また、2つのアルキル基の総炭素数が14~30であれば各アルキル基の炭素数について特に制限はないが、各アルキル基の炭素数はそれぞれ6~18であることが好ましい。
【0036】
・・・ジアルキルベンゼンスルホン酸
ベンゼン環に結合する2つのアルキル基がそれぞれ直鎖アルキル基又は側鎖メチル基を1個有する分岐鎖状アルキル基であり、かつ、2つのアルキル基の総炭素数が14~30のジアルキルベンゼンスルホン酸は、アルキル基の炭素数が14以上であれば、抗乳化性がより向上し、他方30以下であれば、貯蔵安定性がより向上する。なお、ベンゼン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14~30であれば各アルキル基の炭素数については特に限定はないが、各アルキル基の炭素数はそれぞれ6~18であることが好ましい。
【0037】
・・・モノアルキルベンゼンスルホン酸
ベンゼン環に結合する1つのアルキル基の炭素数が14以上のモノアルキルベンゼンスルホン酸は、炭素数が14以上であれば、貯蔵安定性がより向上する。また、ベンゼン環に結合するアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0038】
スルホン酸カルシウムとして、具体的には以下のものが挙げられる。すなわち、カルシウムの塩基(カルシウムの酸化物や水酸化物等)とスルホン酸とを反応させることにより得られる中性(正塩)スルホネート;上記の中性(正塩)スルホネートと、過剰のカルシウムの塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性スルホネート;炭酸ガスの存在下で上記の中性(正塩)スルホネートをカルシウムの塩基と反応させることにより得られる炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート;上記の中性(正塩)スルホネートをカルシウムの塩基、及び、ホウ酸、若しくは無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応、又は、上記の炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネートとホウ酸、若しくは無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応によって得られるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0039】
(B)成分としては、さび止め性の観点から、上記の中でも、ジアルキルベンゼンスルホン酸カルシウムが特に好ましい。
【0040】
本実施形態のさび止め油組成物に含まれる(B)成分は、1種でもよく2種以上でもよい。
(B)成分の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。
(B)成分の含有量が、上記好ましい下限値以上であれば、さび止め性がより優れる。
【0041】
また、(B)成分の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
(B)成分の含有量が、上記好ましい上限値以下であれば、耐ステイン性がより良好になる傾向がある。
【0042】
例えば、(B)成分の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、5質量%以上20質量%以下が好ましく、8質量%以上18質量%以下がより好ましく、10質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。
【0043】
<任意成分>
本実施形態のさび止め油組成物は、上述した(A)成分及び(B)成分を含有し、本発明の効果を奏する範囲で、これらの成分以外の成分(任意成分)をさらに含有してもよい。
かかる任意成分としては、例えば、以下に示す(C)成分:エステル系さび止め剤、(D)成分:酸化防止剤等が挙げられる。
【0044】
≪(C)成分:エステル系防錆剤≫
エステル系防錆剤としては、多価アルコールの部分エステル、エステル化酸化ワックス、エステル化ラノリン脂肪酸、アルキル又はアルケニルコハク酸エステル等が挙げられる。
【0045】
・多価アルコールの部分エステル
多価アルコールの部分エステルは、多価アルコール中のヒドロキシ基の少なくとも1つ以上がエステル化されておらず、ヒドロキシ基のままで残っているエステルである。
【0046】
多価アルコールの部分エステルの原料である多価アルコールとしては、分子中のヒドロキシ基の数が、好ましくは2~10(より好ましくは3~6)であり、かつ、炭素数が2~20(より好ましくは3~10)である多価アルコールが挙げられる。
これらの多価アルコールの中でも、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価アルコールを用いることが好ましい。
【0047】
多価アルコールの部分エステルの原料であるカルボン酸としては、カルボン酸の炭素数が、好ましくは2~30、より好ましくは6~24、さらに好ましくは10~22である。
当該カルボン酸は、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよく、また直鎖状カルボン酸であっても分岐鎖状カルボン酸であってもよい。
具体的には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸等の飽和脂肪酸;ドデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸等)、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸、リノール酸等)、エイコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0048】
多価アルコールの部分エステルとしては、上記の中でも、モノオレイン酸ソルビタンが好ましい。
【0049】
・エステル化酸化ワックス
エステル化酸化ワックスは、酸化ワックスとアルコール類とを反応させ、酸化ワックスが有するカルボキシ基の一部又は全部をエステル化させたものである。
エステル化酸化ワックスの原料として使用される酸化ワックスは、ワックスを酸化して得られるものである。前記ワックスとして、具体的には、石油留分の精製の際に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトラタム、合成により得られるポリオレフィンワックス等が挙げられる。
エステル化酸化ワックスの原料として使用されるアルコール類としては、炭素数1~20の直鎖状または分岐状の飽和1価アルコール、炭素数1~20の直鎖状または分岐状の不飽和1価アルコール、上記多価アルコールの部分エステルにおいて説明した多価アルコール、ラノリンの加水分解により得られるアルコール等が挙げられる。
【0050】
・エステル化ラノリン脂肪酸
エステル化ラノリン脂肪酸は、羊の毛に付着するろう状物質を精製(加水分解等)して得られたラノリン脂肪酸とアルコールとを反応させて得られたものである。ここで、エステル化ラノリン脂肪酸の原料として使用されるアルコールとしては、上記のエステル化酸化ワックスにおいて説明したアルコールと同様のものが挙げられる。その中でも多価アルコールが好ましく、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、グリセリンがより好ましい。
【0051】
・アルキル又はアルケニルコハク酸エステル
アルキル又はアルケニルコハク酸エステルは、アルキル又はアルケニルコハク酸とアルコールとを反応させて得られたものである。ここで、アルキル又はアルケニルコハク酸エステルの原料として使用されるアルコールとしては、上記のエステル化酸化ワックスにおいて説明したアルコールと同様のものが挙げられる。
【0052】
本実施形態のさび止め油組成物に含まれる(C)成分は、1種でもよく2種以上でもよい。
(C)成分としては、上記の中でも、多価アルコールの部分エステルが好ましい。
(C)成分の含有量としては、さび止め油組成物全量に対して、下限値は好ましくは1質量%、より好ましくは3質量%、さらに好ましくは5質量%である。上限値は15質量%、より好ましくは12質量%、さらに好ましくは10質量%である。
(C)成分の含有量が上記範囲内であれば、さび止め性をより向上させることができる。
【0053】
≪(D)成分:酸化防止剤≫
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系酸化防止剤、ベンゾフェノン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、サリチル酸エステル系酸化防止剤、トリアジン系酸化防止剤等が挙げられる。その中でも、フェノール系酸化防止剤が好ましく、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールがより好ましい。
【0054】
本実施形態のさび止め油組成物に含まれる(D)成分は、1種でもよく2種以上でもよい。
(D)成分の含有量としては、さび止め油組成物全量に対して、下限値は好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.1質量%、さらに好ましくは0.2質量%である。上限値は5質量%、より好ましくは2質量%、さらに好ましくは1質量%である。
【0055】
本実施形態のさび止め油組成物は、必要に応じて(C)成分及び(D)成分以外の添加剤を含有させてもよい。具体的には、腐食防止剤、造膜剤、消泡剤、界面活性剤、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0056】
以上説明した本実施形態のさび止め油組成物は、(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸カルシウムとを含有し、40℃における動粘度が40mm/s以上120mm/s以下である。前記(B)成分を含有し、かつ、さび止め油組成物自体の動粘度を特定の範囲にすることにより、さび止め性が非常に高まる。これは、スルホン酸カルシウムによる吸着膜と、高粘度の基油による増膜によるものと推測される。
【実施例
【0057】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
<さび止め油組成物の調製>
(実施例1~8、比較例1~4)
表1及び2に示す各成分を用いて、各例のさび止め油組成物をそれぞれ調製した。なお、表1中の40℃における動粘度は、JIS K 2283-2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定した値である。
【0059】
[さび止め性の評価]
JISK2246「さび止め油」中性塩水噴霧試験に準拠して、各例のさび止め油組成物のさび止め性を評価した。評価は所定の時間毎(2、4、7、24、48、72時間)に行った。本試験における評価はJISK2246「さび止め油」に規定されるさび発生度(A級~E級;A級が最もさび止め性に優れていることを表す)に基づいて行った。なお、試験片としては、SPCC-SBを用いた。
上記評価を3つの試験片で行い、その結果をそれぞれ表1及び2に示す。
【0060】
[耐ステイン性の評価]
試験片としては、JISK2246「さび止め油」中性塩水噴霧試験に準拠し、脱脂したSPCC-SBを用いた。
複数の試験片を水平に保持し、中央部に0.3gの各例のさび止め油組成物をそれぞれ滴下した。その後、直ちに同様の別の試験片を、各例のさび止め油組成物がそれぞれ滴下された試験片の上部に載せ、さらに、その上に100gの分銅を載せた。各例のさび止め油組成物が挟み込まれた各試験片をオーブン内で水平に静置し、60℃、湿度95%RHで加熱した。試験片は各例のさび止め油組成物1種につき、10セット用意し、24時間ごとに2セットずつ取り出しステイン(変色)の発生状況を調査した。試験片の評価は、試験片同士でさび止め油組成物を挟み込んだ面に生じるステインを目視で観察し、以下の基準で評価した。その結果を表1及び2に示す。
A:ステインの発生が無かった
B:ステインが極軽微に発生した
C:ステインが明確に発生した
D:ステインが重度に発生した
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1、2中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。なお、数値は配合量(質量%)である。
(A1)-1:鉱油(40℃における動粘度:23mm/s、5%留出温度:347.6℃、95%留出温度:469.6℃)
(A1)-2:鉱油(40℃における動粘度:6.8mm/s、5%留出温度:270.1℃、95%留出温度:392.4℃)
(A1)-3:鉱油(40℃における動粘度:472.3mm/s、5%留出温度:493.3℃、95%留出温度:608.6℃)
【0064】
(B)-1:ジアルキルベンゼンスルホン酸カルシウム
(B)-2:ジアルキルナフタレンスルホン酸バリウム
【0065】
(C)-1:モノオレイン酸ソルビタン
(D)-1:2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール
【0066】
表1、2に示す結果から、スルホン酸カルシウムを用いた実施例のさび止め油組成物は、40℃における動粘度を特定の範囲とすることで、比較例のさび止め油組成物のような従来のさび止め油組成物より、非常に優れたさび止め性を有することが確認できる。一方で、従来から用いられているスルホン酸バリウム塩を用いた比較例のさび止め油組成物では、40℃における動粘度を変更しても、さび止め性は向上しなかった(比較例2~4)。
また、スルホン酸カルシウムを用いても、40℃における動粘度が特定の範囲になければ、さび止め性は向上しなかった(比較例1)。
【0067】
以上の結果から、本発明のさび止め油組成物は、スルホン酸バリウム塩を用いていないため取り扱い性に優れ、加えてさび止め性にも優れることが確認できる。