(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】難燃性工業油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 105/74 20060101AFI20240404BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20240404BHJP
C10M 137/02 20060101ALN20240404BHJP
C10M 129/10 20060101ALN20240404BHJP
C10M 133/40 20060101ALN20240404BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20240404BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20240404BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240404BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240404BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
C10M105/74
C10M169/04
C10M137/02
C10M129/10
C10M133/40
C10N20:02
C10N40:20 Z
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:22
(21)【出願番号】P 2020151078
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 祐司
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-194559(JP,A)
【文献】特開昭61-296093(JP,A)
【文献】特開2009-249486(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115602(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/118707(WO,A1)
【文献】国際公開第96/020263(WO,A1)
【文献】特開平09-157681(JP,A)
【文献】国際公開第2011/110365(WO,A1)
【文献】特開2010-174209(JP,A)
【文献】特開2015-054858(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196467(WO,A1)
【文献】特開2010-031180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油としてリン酸エステル誘導体と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)と、りん酸トリフェニルとを含み、
前記リン酸エステル誘導体は、下記式(A1)で表される繰り返し単位を有し、一方の末端に、下記式(A2)で表される構造を有し、他方の末端に、下記式(A3)で表される構造を有し、40℃の動粘度が100cSt以上200cSt以下である、
難燃性工業油組成物。
【化1】
【化2】
【請求項2】
さらに、酸化防止剤として下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を含む、
請求項1に記載の難燃性工業油組成物。
【化3】
(上記式(B)中、R
b21~R
b24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、R
b25~R
b28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【化4】
(上記式(C)中、R
c1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
【請求項3】
前記基油の合計を100質量%としたときに、前記リン酸エステル誘導体が50質量%以下の量で含まれており、
前記酸化防止剤として、さらに、下記式(D)で表されるヒンダードアミン化合物を含む、
請求項2に記載の難燃性工業油組成物。
【化5】
(上記式(D)中、R
d21およびR
d22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、R
d23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項4】
さらに、油性剤としてジアルキルジチオりん酸亜鉛と、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体とを含み、
機械潤滑に用いられる、
請求項2または3に記載の難燃性工業油組成物。
【請求項5】
さらに、極圧剤として活性硫黄化合物と、金属不活性剤としてチアジアゾール誘導体とを含み、
金属加工に用いられる、
請求項2または3に記載の難燃性工業油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性工業油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基油として縮合リン酸エステルを含む難燃性潤滑油組成物が記載されている。具体的には、縮合リン酸エステルとしてビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の難燃性潤滑油組成物は、難燃性に問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、難燃性に優れる難燃性工業油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の難燃性工業油組成物は、基油としてリン酸エステル誘導体と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)と、りん酸トリフェニルとを含み、上記リン酸エステル誘導体は、下記式(A1)で表される繰り返し単位を有し、一方の末端に、下記式(A2)で表される構造を有し、他方の末端に、下記式(A3)で表される構造を有し、40℃の動粘度が100cSt以上200cSt以下である。
【0007】
【0008】
【発明の効果】
【0009】
本発明難燃性工業油組成物は、難燃性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0011】
<実施形態1の難燃性工業油組成物>
実施形態1の難燃性工業油組成物は、機械潤滑に好適に用いられる。実施形態1の難燃性工業油組成物は、基油と、酸化防止剤と、油性剤と、金属不活性剤とを含む。
【0012】
実施形態1の難燃性工業油組成物は、基油としてリン酸エステル誘導体と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)と、りん酸トリフェニルとを含む。本明細書において、これらを、それぞれ第1成分、第2成分、第3成分ともいう。この第1成分、第2成分および第3成分を含む基油は難燃性である。このため、実施形態1の難燃性工業油組成物は高温で使用できる。
【0013】
リン酸エステル誘導体(第1成分、CAS 125997-21-9)は、下記式(A1)で表される繰り返し単位を有し、一方の末端に、下記式(A2)で表される構造を有し、他方の末端に、下記式(A3)で表される構造を有する。具体的には、リン酸エステル誘導体では、繰り返し単位(A1)が1個または2個以上繰り返されている。また、一方の末端、すなわち構造(A1)のベンゼン環側の末端に構造(A2)が結合し、他方の末端、すなわち構造(A1)のO側に構造(A3)が結合している。また、リン酸エステル誘導体は、40℃の動粘度(JIS K 2283)が100cSt以上200cSt以下である。
【0014】
【0015】
【0016】
このようなリン酸エステル誘導体は、難燃性に優れる。具体的には、以下の4つの要件を満たすことができる。
(1)リン酸エステル誘導体の発火点は、550℃以上である。
(2)リン酸エステル誘導体を400℃に加熱し、火炎を接触させた際に、燃焼を継続しない。
(3)リン酸エステル誘導体を400℃に加熱し、700℃に加熱した金属棒を浸漬させた際に、引火しない。
(4)火炎および700℃に加熱した金属棒に、リン酸エステル誘導体のミストを噴霧させた際に、引火しない。
【0017】
リン酸エステル誘導体の市販品としては、アデカスタブ PFR(登録商標、株式会社ADEKA製、40℃の動粘度147.3cSt、引火点332℃、燃焼点および発火点なし)が好適に用いられる。なお、この市販品は、上記4つの要件を満たす。
【0018】
リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(第2成分、Isopropylphenyl phosphate、CAS 68937-41-7)およびりん酸トリフェニル(第3成分、Triphenyl phosphate、CAS 115-86-6)は、基油の粘度調整のために用いられる。第2成分および第3成分の合計100質量%中に、第2成分は、5質量%以上95質量%以下の量で含まれ、第3成分は、5質量%以上95質量%以下の量で含まれることが、粘度調整の観点から好ましい。第2成分および第3成分は混合物として市販されており、これを用いることができる。このような市販品としては、第2成分が41質量%含まれる混合物(40℃の動粘度(JIS K 2283)21cSt、引火点256℃、燃焼点320℃、発火点なし)、第2成分が24質量%含まれる混合物(40℃の動粘度(JIS K 2283)26cSt)が好適に用いられる。
【0019】
基油100質量%中に、第1成分は、3質量%以上70質量%以下の量で含まれることが、難燃性の観点から好ましい。また、基油が第1成分、第2成分および第3成分からなり、基油100質量%中に、第1成分は、3質量%以上70質量%以下の量で含まれ、第2成分および第3成分は、合計で30質量%以上97質量%以下の量で含まれることが、難燃性、粘度および潤滑性の観点から好ましい。なお、基油には、難燃性を妨げない範囲で、第1成分、第2成分および第3成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。
【0020】
酸化防止剤は、中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を含む。酸化防止剤として上記2種類を組み合わせて用いるため、難燃性工業油組成物の使用時に、酸化防止剤の分子が破壊され難くなり、酸化防止剤の消費を抑制できる。中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体をそれぞれ単独で用いるよりも、酸化防止剤の消費を抑制できる。したがって、難燃性工業油組成物の酸化防止能を長期に渡り持続できる。すなわち、難燃性工業油組成物は酸化安定性に優れ、粘度変化も抑制され、長期間使用可能となる。また、実施形態1の難燃性工業油組成物は、難燃性の基油を含んでいるため、高温においても使用できる。高温で使用する難燃性工業油組成物は、酸化防止機能を有することが重要となる。上記2種類の酸化防止剤の組み合わせによれば、難燃性工業油組成物を高温で使用する際にも、酸化防止機能を長期に渡って持続できる。
【0021】
中性亜リン酸エステル誘導体は、下記式(B)で表される。中性亜リン酸エステル誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中性亜リン酸エステル誘導体は、2量体であるため、蒸発しにくく、効率よく酸化防止性能を発揮できる。
【0022】
【0023】
式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表す。
【0024】
炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)などの直鎖状のアルキル基が好適に用いられる。
【0025】
Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0026】
炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基が挙げられる。
【0027】
中性亜リン酸エステルは、Rb25~Rb28に特定の置換基を有しているため、酸化防止性能に加えて、耐摩耗性にも優れる。これは、Rb25~Rb28に特定の置換基を有していると、摺動部に付着させた難燃性工業油組成物の膜がより強固になるためであると考えられる。
【0028】
特に、Rb25およびRb27が炭素原子数1~6、好ましくは1~3の直鎖状のアルキル基であり、Rb26およびRb28が炭素原子数3~6、好ましくは3~4の分枝状のアルキル基であると、耐摩耗性の改善の効果がより高まる。
【0029】
Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0030】
炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。
【0031】
ただし、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。したがって、たとえばRb291が水素原子のときは、Rb292は炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がメチル基のときは、Rb292は炭素原子数1~4の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がエチル基のときは、Rb292は炭素原子数2~3の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。
【0032】
難燃性工業油組成物の膜がより強固になるため、Rb291が水素原子であり、Rb292が炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であることがより好ましい。
【0033】
2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、下記式(C)で表される。2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
【0035】
式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。上記アルキル基であると、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体の相溶性が向上する。
【0036】
実施形態1の難燃性工業油組成物において、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体は、0.001質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましく、0.001質量部以上1質量部以下の量で含まれることがより好ましく、0.001質量部以上0.5質量部以下の量で含まれることがさらに好ましい。また、基油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、0.001質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましく、0.001質量部以上1質量部以下の量で含まれることがより好ましく、0.001質量部以上0.5質量部以下の量で含まれることがさらに好ましい。酸化防止剤が上記の量で含まれていると、酸化防止機能をより長期に渡って持続できる。
【0037】
基油100質量%中に、リン酸エステル誘導体が50質量%以下の量で含まれている場合、酸化防止剤として、さらに、ヒンダードアミン化合物を含んでいてもよい。リン酸エステル誘導体が上記の量で含まれていると、ヒンダードアミン化合物は、基油と好適に混合できる。ヒンダードアミン化合物を用いると、難燃性工業油組成物の酸化防止機能をさらに向上できる。また、難燃性工業油組成物を高温で使用する際にも、酸化防止機能をさらに向上できる。
【0038】
ヒンダードアミン化合物は、下記式(D)で表される。ヒンダードアミン化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0039】
【0040】
Rd21およびRd22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表す。
【0041】
炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。
【0042】
炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基などの直鎖もしくは分枝状のアルキル基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基がより好ましい。
【0043】
Rd23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0044】
炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基、1,10-デシレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基などの2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基がより好ましい。
【0045】
高温における耐久性の向上の観点から、上記の内でRd21、Rd22およびRd23の炭素原子数の和が16~30であることがより好ましい。
【0046】
実施形態1の難燃性工業油組成物において、ヒンダードアミン化合物を用いる場合は、基油100質量部に対して、0.002質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましく、0.002質量部以上1質量部以下の量で含まれることがより好ましく、0.002質量部以上0.5質量部以下の量で含まれることがさらに好ましい。
【0047】
油性剤は、ジアルキルジチオりん酸亜鉛を含む。実施形態1の難燃性工業油組成物にジアルキルジチオりん酸亜鉛が含まれていると、高温で使用する際にも、摺動性が向上され、摩耗を防止できる。また、金属不活性剤は、ベンゾトリアゾール誘導体を含む。実施形態1の難燃性工業油組成物にベンゾトリアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、金属表面が保護でき、腐食を防止できる。実施形態1の難燃性工業油組成物においては、上記特定の油性剤および金属不活性剤を組み合わせているため、より長期に渡って機械を潤滑できる。
【0048】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛が有するアルキル基は、第一級(プライマリー)タイプのアルキル基、第二級(セカンダリー)タイプのアルキル基が挙げられる。第一級(プライマリー)タイプのアルキル基および第二級(セカンダリー)タイプのアルキル基の両方を一分子中に有していてもよい。アルキル基は、直鎖であっても、分枝状であってもよい。アルキル基の炭素原子数は、特に制限はないが、摩耗を防止する観点から、3~12であることが好ましく、3~8であることがより好ましい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
ベンゾトリアゾール誘導体は、好ましくは下記式(E)で表される。このようなベンゾトリアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、腐食をより防止できる。
【0050】
【0051】
上記式(E)中、Re1は、水素原子または炭素原子数1~18のアルキル基を表し、Re2およびRe3は、それぞれ独立に、炭素原子数1~18のアルキル基を表す。ベンゾトリアゾール誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0052】
実施形態1の難燃性工業油組成物において、基油100質量部に対して、油性剤は、0.1質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。また、実施形態1の難燃性工業油組成物において、基油100質量部に対して、金属不活性剤は、0.01質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。
【0053】
実施形態1の難燃性工業油組成物には、その他の添加剤が含まれていてもよい。その他の添加剤としては、塩素化パラフィンが挙げられる。これらは、難燃性工業油組成物について高温での長期の使用を妨げない範囲で含まれていることが好ましい。
【0054】
実施形態1の難燃性工業油組成物は、通常、銅板腐食試験(JIS K 2513)において、変色番号が2以内の結果が得られる。なお、銅板腐食試験では、具体的には、実施形態1の難燃性工業油組成物に、よく磨いた銅板を浸し、100℃で3時間保った後、銅板を取り出し洗浄して、銅板腐食標準と比較する。
【0055】
また、実施形態1の難燃性工業油組成物は、通常、耐圧性(ASTM D 2783)が200kgf以上であり、摩擦整数(振り子式摩擦試験)が0.15以下である。
【0056】
実施形態1の難燃性工業油組成物は、上述した成分を適宜混合して調製することができる。
【0057】
実施形態1の難燃性工業油組成物によれば、上述のように高温においても長期に渡って機械を潤滑できる。したがって、高温中で使用される装置(たとえば摩擦接合ユニットを搭載した自動旋盤装置)の潤滑に特に好ましく用いられる。具体的には、摩擦接合時には金属を溶融するほどの高温になるが、装置の潤滑に用いている難燃性工業油組成物への引火による火災の懸念が低減できる。
【0058】
<実施形態2の難燃性工業油組成物>
実施形態2の難燃性工業油組成物は、金属加工に好適に用いられる。実施形態2の難燃性工業油組成物は、基油と、酸化防止剤と、極圧剤と、金属不活性剤とを含む。
【0059】
実施形態2の難燃性工業油組成物は、基油としてリン酸エステル誘導体と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)と、りん酸トリフェニルとを含む。この第1成分、第2成分および第3成分を含む基油は難燃性である。このため、実施形態2の難燃性工業油組成物は高温で使用できる。基油の詳細については、好ましい範囲、量、理由なども含め、実施形態1で説明したものと同様である。
【0060】
酸化防止剤は、中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を含む。酸化防止剤として上記2種類を組み合わせて用いるため、難燃性工業油組成物の酸化防止能を長期に渡り持続できる。すなわち、難燃性工業油組成物は酸化安定性に優れ、粘度変化も抑制され、長期間使用可能となる。また、上記2種類の酸化防止剤の組み合わせによれば、難燃性工業油組成物を高温で使用する際にも、酸化防止機能を長期に渡って持続できる。また、基油100質量%中に、リン酸エステル誘導体が50質量%以下の量で含まれている場合、酸化防止剤として、さらに、ヒンダードアミン化合物を含んでいてもよい。ヒンダードアミン化合物を用いると、難燃性工業油組成物の酸化防止機能をさらに向上できる。また、難燃性工業油組成物を高温で使用する際にも、酸化防止機能をさらに向上できる。酸化防止剤の詳細については、好ましい範囲、量、理由なども含め、実施形態1で説明したものと同様である。
【0061】
極圧剤は、活性硫黄化合物を含む。実施形態2の難燃性工業油組成物に活性硫黄化合物が含まれていると、高温で使用する際にも、加工性が向上できる。また、金属不活性剤は、チアジアゾール誘導体を含む。実施形態2の難燃性工業油組成物にチアジアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、金属表面が保護でき、腐食を防止できる。また、銅系金属の加工も可能となる。実施形態2の難燃性工業油組成物においては、上記特定の極圧剤および金属不活性剤を組み合わせているため、より長期に渡って金属を加工できる。
【0062】
活性硫黄化合物は、分子内に活性硫黄を含有する化合物であればよい。活性硫黄化合物としては、ポリサルファイド、硫化油脂、粉末硫黄、硫化鉱油、硫化エステル、硫化オレフィンが挙げられる。これらのうちで、硫化オレフィンが好適に用いられる。活性硫黄化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0063】
チアジアゾール誘導体は、好ましくは2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールであり、下記式(F)で表される。このようなチアジアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、腐食をより防止できる。
【0064】
【0065】
上記式(F)中、Rf1およびRf2は、それぞれ独立に、炭素原子数1~20のアルキル基を示し、aおよびbは、それぞれ独立に、1、2または3を表す。チアジアゾール誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0066】
実施形態2の難燃性工業油組成物において、基油100質量部に対して、極圧剤は、0.01質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。また、実施形態2の難燃性工業油組成物において、基油100質量部に対して、金属不活性剤は、0.01質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。
【0067】
実施形態2の難燃性工業油組成物には、その他の添加剤が含まれていてもよい。その他の添加剤としては、塩素化パラフィンが挙げられる。これらは、難燃性工業油組成物について高温での長期の使用を妨げない範囲で含まれていることが好ましい。
【0068】
実施形態2の難燃性工業油組成物は、通常、銅板腐食試験(JIS K 2513)において、変色番号が2以内の結果が得られる。なお、銅板腐食試験では、具体的には、実施形態2の難燃性工業油組成物に、よく磨いた銅板を浸し、100℃で3時間保った後、銅板を取り出し洗浄して、銅板腐食標準と比較する。
【0069】
また、実施形態2の難燃性工業油組成物は、通常、耐圧性(ASTM D 2783)が200kgf以上であり、摩擦整数(振り子式摩擦試験)が0.15以下である。
【0070】
実施形態2の難燃性工業油組成物は、上述した成分を適宜混合して調製することができる。
【0071】
実施形態2の難燃性工業油組成物によれば、上述のように高温においても長期に渡って金属を加工できる。したがって、高温中で使用される装置の切削加工に特に好ましく用いられる。さらに、切削加工により高温となる装置のほか、たとえば摩擦接合ユニットを搭載した自動旋盤装置にも好ましく用いられる。具体的には、切削加工に用いる難燃性工業油組成物は、通常、装置周辺にも付着する。切削加工に続いて摩擦接合を行うと、金属を溶融するほどの高温になるが、上記付着している実施形態2の難燃性工業油組成物は、難燃性であるため、引火による火災の懸念が低減できる。
【0072】
ところで、自動旋盤装置(具体的には摩擦接合ユニットを搭載した自動旋盤装置)においては、実施形態1の難燃性工業油組成物および実施形態2の難燃性工業油組成物を併用することが好ましい。すなわち、実施形態1の難燃性工業油組成物により、機械を潤滑し、実施形態2の難燃性工業油組成物により、切削加工を行うことが好ましい。これにより、実施形態1の難燃性工業油組成物および実施形態2の難燃性工業油組成物が、装置の稼働時に分離せずに混和する利点がある。
【0073】
<その他の実施形態の難燃性工業油組成物>
その他の実施形態の難燃性工業油組成物としては、実施形態1の難燃性工業油組成物に対して、酸化防止剤、油性剤および金属不活性剤の少なくとも1種を含まない組成物であってもよい。あるいは、実施形態2の難燃性工業油組成物に対して、酸化防止剤、極圧剤および金属不活性剤の少なくとも1種を含まない組成物であってもよい。たとえば、実施形態1で説明した基油に、実施形態1で説明した酸化防止剤を含み、必要に応じて、実施形態1で説明したその他の添加剤が含まれている難燃性工業油組成物であってもよい。これらの場合も、難燃性および酸化防止機能に優れるため、高温で長期にわたって使用可能である。
【0074】
以上より、本発明は以下に関する。
〔1〕 基油としてリン酸エステル誘導体と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)と、りん酸トリフェニルとを含み、前記リン酸エステル誘導体は、下記式(A1)で表される繰り返し単位を有し、一方の末端に、下記式(A2)で表される構造を有し、他方の末端に、下記式(A3)で表される構造を有し、40℃の動粘度が100cSt以上200cSt以下である、難燃性工業油組成物。
【0075】
【0076】
【0077】
上記〔1〕の難燃性工業油組成物は、難燃性に優れる。
〔2〕 さらに、酸化防止剤として下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を含む、〔1〕に記載の難燃性工業油組成物。
【0078】
【0079】
(上記式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0080】
【0081】
(上記式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
〔3〕 前記基油の合計を100質量%としたときに、前記リン酸エステル誘導体が50質量%以下の量で含まれており、前記酸化防止剤として、さらに、下記式(D)で表されるヒンダードアミン化合物を含む、〔2〕に記載の難燃性工業油組成物。
【0082】
【0083】
(上記式(D)中、Rd21およびRd22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Rd23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
上記〔2〕、〔3〕の難燃性工業油組成物は、高温で使用する際にも、酸化防止機能を長期に渡って持続できる。
〔4〕 さらに、油性剤としてジアルキルジチオりん酸亜鉛と、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体とを含み、機械潤滑に用いられる、〔2〕または〔3〕に記載の難燃性工業油組成物。
上記〔4〕の難燃性工業油組成物においては、上記特定の油性剤および金属不活性剤を組み合わせているため、より長期に渡って機械を潤滑できる。
〔5〕 さらに、極圧剤として活性硫黄化合物と、金属不活性剤としてチアジアゾール誘導体とを含み、金属加工に用いられる、〔2〕または〔3〕に記載の難燃性工業油組成物。
上記〔5〕の難燃性工業油組成物においては、上記特定の極圧剤および金属不活性剤を組み合わせているため、より長期に渡って金属を加工できる。
【0084】
[実施例]
以下実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
下記の試料および実施例の難燃性工業油組成物を用意した。
[試料1]
リン酸エステル誘導体(第1成分、CAS 125997-21-9、商品名:アデカスタブ(登録商標)PFR、株式会社ADEKA製、40℃の動粘度(JIS K 2283)147.3cSt)
[試料2]
リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(第2成分、CAS 68937-41-7)およびりん酸トリフェニル(第3成分、CAS 115-86-6)の混合物(商品名:レオフォス35、味の素ファインテクノ株式会社製、混合物中に第2成分が41質量%含まれる。40℃の動粘度(JIS K 2283)21cSt、引火点256℃、燃焼点320℃、発火点なし)
[試料3]
リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(第2成分、CAS 68937-41-7)およびりん酸トリフェニル(第3成分、CAS 115-86-6)の混合物(商品名:レオフォス65、味の素ファインテクノ株式会社製、第2成分が24質量%含まれる混合物(40℃の動粘度(JIS K 2283)26cSt)
【0086】
[実施例1]
リン酸エステル誘導体(第1成分、CAS 125997-21-9、商品名:アデカスタブ(登録商標)PFR、株式会社ADEKA製、40℃の動粘度(JIS K 2283)147.3cSt)を50質量%と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(第2成分、CAS 68937-41-7)およびりん酸トリフェニル(第3成分、CAS 115-86-6)の混合物(商品名:レオフォス35、味の素ファインテクノ株式会社製、混合物中に第2成分が41質量%含まれる。40℃の動粘度(JIS K 2283)21cSt、引火点256℃、燃焼点320℃、発火点なし)を50質量%とを混合して、難燃性工業油組成物を得た。
【0087】
[実施例2-1-1]
リン酸エステル誘導体(第1成分、CAS 125997-21-9、商品名:アデカスタブ(登録商標)PFR、株式会社ADEKA製、40℃の動粘度(JIS K 2283)147.3cSt)を50質量%と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(第2成分、CAS 68937-41-7)およびりん酸トリフェニル(第3成分、CAS 115-86-6)の混合物(商品名:レオフォス35、味の素ファインテクノ株式会社製、混合物中に第2成分が41質量%含まれる。40℃の動粘度(JIS K 2283)21cSt、燃焼点320℃、発火点なし)を50質量%とを含む基油を用いた。
この基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)0.076質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体としてオクチル=3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノアート(CAS 125643-61-0、商品名:イルガノックス(登録商標)L135、BASFジャパン株式会社製)0.076質量部と、ヒンダードアミン化合物として、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)0.015質量部と、油性剤としてジアルキルジチオりん酸亜鉛(商品名:アディティン(登録商標)RC308、ランクセス株式会社製)0.76質量部と、金属不活性剤として1-(N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾール(商品名:イルガメット(登録商標)39、BASFジャパン株式会社製)0.076質量部とを混合して、難燃性工業油組成物を得た。
【0088】
[実施例2-1-2]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例2-1-1と同様にして、難燃性工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.15質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.15質量部と、ヒンダードアミン化合物0.030質量部と、油性剤1.5質量部と、金属不活性剤0.15質量部とを混合して、難燃性工業油組成物を得た。
【0089】
[実施例2-1-3]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例2-1-1と同様にして、難燃性工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.38質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.38質量部と、ヒンダードアミン化合物0.076質量部と、油性剤3.8質量部と、金属不活性剤0.38質量部とを混合して、難燃性工業油組成物を得た。
【0090】
[実施例2-1-4~2-1-9]
中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)(Rb21~Rb24=トリデシル基、Rb25、Rb27=メチル基、Rb26、Rb28=t-ブチル基、Rb291=水素原子、Rb292=n-プロピル基)の代わりに、表1の化合物を用いた以外は、実施例2-1-1と同様にして、難燃性工業油組成物を得た。
【0091】
【0092】
[実施例2-1-10~2-1-15]
ヒンダードアミン化合物としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)(Rd21、Rd22=n-オクチル基、Rd23=1,8-オクチレン基)の代わりに、表2の化合物を用いた以外は、実施例2-1-1と同様にして、難燃性工業油組成物を得た。
【0093】
【0094】
[実施例2-1-16]
ヒンダードアミン化合物を用いなかった以外は、実施例2-1-1と同様にして、難燃性工業油組成物を得た。
【0095】
[実施例2-2-1]
リン酸エステル誘導体(第1成分、CAS 125997-21-9、商品名:アデカスタブ(登録商標)PFR、株式会社ADEKA製、40℃の動粘度(JIS K 2283)147.3cSt)を50質量%と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(第2成分、CAS 68937-41-7)およびりん酸トリフェニル(第3成分、CAS 115-86-6)の混合物(商品名:レオフォス35、味の素ファインテクノ株式会社製、混合物中に第2成分が41質量%含まれる。40℃の動粘度(JIS K 2283)21cSt、燃焼点320℃、発火点なし)を50質量%とを含む基油を用いた。
この基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)0.015質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体としてオクチル=3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノアート(CAS 125643-61-0、商品名:イルガノックス(登録商標)L135、BASFジャパン株式会社製)0.015質量部と、ヒンダードアミン化合物として、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)0.0030質量部と、極圧剤として硫化オレフィン(商品名:GS-440L、DIC株式会社製)0.15質量部と、金属不活性剤として2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール(商品名:R100、DIC株式会社製)0.015質量部とを混合して、難燃性工業油組成物を得た。
【0096】
[実施例2-2-2]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例2-2-1と同様にして、難燃性工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.076質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.076質量部と、ヒンダードアミン化合物0.015質量部と、極圧剤0.76質量部と、金属不活性剤0.076質量部とを混合して、難燃性工業油組成物を得た。
【0097】
[実施例2-2-3]
ヒンダードアミン化合物を用いなかった以外は、実施例2-2-1と同様にして、難燃性工業油組成物を得た。
【0098】
[評価方法]
〔引火点〕
JIS K 2265-4:2007に準拠して引火点を測定した。
【0099】
〔難燃性〕
難燃性の評価試験として、具体的には、下記の評価試験(1)~(4)を行った。
(1)金属棒(直径4.5mm、長さ86mm)を、予め、1400~1600℃のトーチ(商品名:強力耐風バーナー パワートーチ RZ-840AK、新富士バーナー株式会社製)で30秒加熱しておいた。これにより、金属棒は、700℃以上に加熱されていた。評価対象を400℃に加熱し、その中に、上記のように予め加熱しておいた金属棒を浸漬した。この際に、評価対象に引火するか否かを調べた。引火しなかった場合を合格、引火した場合を不合格とした。
(2)評価対象を400℃に加熱し、ユーティリティーライターの火炎を1~2秒接触させた。この際に、評価対象に引火するか否かを調べた。引火しなかった場合を合格、引火した場合を不合格とした。
(3)金属棒(直径4.5mm、長さ86mm)を、予め、1400~1600℃のトーチ(商品名:強力耐風バーナー パワートーチ RZ-840AK、新富士バーナー株式会社製)で30秒加熱しておいた。これにより、金属棒は、700℃以上に加熱されていた。上記のように予め加熱しておいた金属棒に対して、評価対象のミストを噴霧した。ここで、エアブラシ(商品名:HP-CP、アネスト岩田株式会社製、ノズル口径0.3mm)およびオイルフリータイプのエアコンプレッサ(商品名:TFP02E-10C、アネスト岩田株式会社製)を用いて、エアー圧力1MPaで評価対象を噴霧した。この際に、評価対象のミストが火炎になり引火するか否かを調べた。引火しなかった場合を合格、引火した場合を不合格とした。
(4)ブンゼンバーナーの炎を外径18mm、内炎40mm、外炎100mmの大きさとなるように調整した。この炎に対して、20cmの距離から、評価対象のミストを噴霧した。ここで、エアブラシ(商品名:HP-CP、アネスト岩田株式会社製、ノズル口径0.3mm)およびオイルフリータイプのエアコンプレッサ(商品名:TFP02E-10C、アネスト岩田株式会社製)を用いて、エアー圧力1MPaで評価対象を噴霧した。この際に、評価対象のミストが火炎になり引火するか否かを調べた。引火しなかった場合を合格、引火した場合を不合格とした。
【0100】
〔酸化防止機能〕
まず、円柱状のディスク(直径30mm、厚さ5mm、SUJ2製)を2枚用意した。一方のディスクの底面に実施例で得られた難燃性工業油組成物を塗布し、塗布した難燃性工業油組成物の上に他方のディスクの底面を重ね合わせた。容器中の80℃に加熱した実施例で得られた難燃性工業油組成物に、重ね合わせた2枚のディスクを、底面が地面と垂直となる方向に浸漬した。次いで、下側のディスクに対して、上側のディスクを150kgの圧力をかけて押しつけながら、下側のディスクを1000rpmで3時間または6時間回転させた。このようにして、3時間または6時間の熱履歴を受けた工業油組成物を作製した。
次いで、3時間または6時間の熱履歴を受けた難燃性工業油組成物について、振り子式摩擦試験を行い、摩擦係数を求めた。具体的には、3時間または6時間回転後のディスク間に存在する難燃性工業油組成物とともに容器中の難燃性工業油組成物を合わせて振り子式摩擦試験に用いた。また、作製したままの状態(熱履歴なしの状態)にある実施例で得られた難燃性工業油組成物についても、同様に、摩擦係数を求めた。
表3に結果を示す。
【0101】
【0102】
〔潤滑性・加工性〕
自動旋盤装置(製品名:シンコムL32、シチズンマシナリー株式会社製)に、摩擦接合ユニットを搭載した試作機において、自動旋盤装置の摺動部に実施例2-1-1で得られた難燃性工業油組成物を用い、切削加工時に実施例2-2-1で得られた難燃性工業油組成物を用いて、チタン部材を切削加工してチタン部品を100個製造した。また、チタン部品の製造後、自動旋盤装置の摺動部を観察したところ、摩耗は見られなかった。実施例2-2-1で得られた難燃性工業油組成物により、適切にチタン部品を切削加工でき、実施例2-1-1で得られた難燃性工業油組成物により、適切に摺動部を潤滑できることが分かった。
さらに、チタン部品の製造後、摩擦接合ユニットを用いて、チタン部材の摩擦接合を行った。この際、火花が散っても自動旋盤装置やその周囲に付着している難燃性工業油組成物に引火することなく、安全に行うことができた。