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特許7465771複合焼結体、半導体製造装置部材および複合焼結体の製造方法
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  • 特許-複合焼結体、半導体製造装置部材および複合焼結体の製造方法 図1
  • 特許-複合焼結体、半導体製造装置部材および複合焼結体の製造方法 図2
  • 特許-複合焼結体、半導体製造装置部材および複合焼結体の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】複合焼結体、半導体製造装置部材および複合焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240404BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20240404BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20240404BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
H01L21/68 R
C04B35/111
C04B35/645
B32B18/00 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020154641
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2022048679
(43)【公開日】2022-03-28
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】阿閉 恭平
(72)【発明者】
【氏名】宮西 啓太
(72)【発明者】
【氏名】永井 明日美
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩文
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-016795(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0648001(KR,B1)
【文献】国際公開第2013/054806(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/042957(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C04B 35/111
C04B 35/645
B32B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合焼結体であって、
セラミックを主材料とする基材と、
前記基材の内部または表面に配置される電極と、
を備え、
前記電極は、
タングステンと、
酸化ジルコニウムと、
を含み、
前記電極において、X線回折法により得られる前記タングステンと前記酸化ジルコニウムとのメインピークの強度比は、0.90以上かつ0.96未満であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の複合焼結体であって、
前記電極と前記基材との熱膨張係数の差の絶対値は、40℃以上かつ1000℃以下の範囲において、0.5ppm/℃以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合焼結体であって、
前記電極の室温における抵抗率は、3.5×10-5Ω・cm以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の複合焼結体であって、
前記電極における前記タングステンおよび前記酸化ジルコニウムの合計含有率は、100体積%であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の複合焼結体であって、
前記酸化ジルコニウムの焼結粒径は、0.7μm以上かつ3.0μm以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の複合焼結体であって、
前記酸化ジルコニウムの焼結粒径と前記タングステンの焼結粒径との差の絶対値は、0.5μm以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の複合焼結体であって、
前記基材の主材料は酸化アルミニウムであり、
前記基材における前記酸化アルミニウムの含有率は95質量%以上であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項8】
半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材であって、
請求項1ないしのいずれか1つに記載の複合焼結体を用いて作製され、
前記基材が円板状であり、前記基材の主面に半導体基板が載置されることを特徴とする半導体製造装置部材。
【請求項9】
複合焼結体の製造方法であって、
a)セラミックを主材料とする成形体、仮焼体または焼結体である第1部材および第2部材を準備する工程と、
b)前記第1部材上に、タングステンおよび酸化ジルコニウムを含む電極または前記電極の前駆体を配置した後、前記第2部材を積層して積層体を形成する工程と、
c)前記積層体をホットプレス焼成する工程と、
を備え
前記c)工程終了後の前記電極において、X線回折法により得られる前記タングステンと前記酸化ジルコニウムとのメインピークの強度比は、0.90以上かつ0.96未満であることを特徴とする複合焼結体の製造方法。
【請求項10】
請求項に記載の複合焼結体の製造方法であって、
前記c)工程の終了後における前記電極と前記第1部材および前記第2部材との熱膨張係数の差の絶対値は、40℃以上かつ1000℃以下の範囲において、0.5ppm/℃以下であることを特徴とする複合焼結体の製造方法。
【請求項11】
請求項または10に記載の複合焼結体の製造方法であって、
前記c)工程における焼成温度は、1550℃以上かつ1650℃以下であることを特徴とする複合焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合焼結体、半導体製造装置部材および複合焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板の製造装置等において、半導体基板を吸着して保持する静電チャック、半導体基板を加熱するヒーター、これらを組み合わせた静電チャックヒーター等の、サセプターが利用されている。当該サセプターは、アルミナ等のセラミックの焼結体を主材料とする基材と、当該基材の内部等に配置される電極とを備える。
【0003】
上述のサセプターは、例えば、基材と電極とを一体焼成することにより形成される。当該焼成においては、基材の熱膨張係数と電極の熱膨張係数との差に起因する悪影響が生じるおそれがある。例えば、基材にクラックが生じたり、電極が基材から剥離するおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1では、アルミナ焼結体の基材と共に焼成される電極を、WC等の高融点の主材料に5重量%~30重量%のアルミナ(すなわち、基材成分)を添加した材料により形成することにより、基材と電極との密着性を向上する技術が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、アルミナにMgF等が添加された基材と、WCを主材料としてNi、Coおよびアルミナが添加された電極と、を有する焼結体が提案されている。電極におけるアルミナの添加は、上記と同様に、基材と電極との密着性向上のためである。電極におけるNiおよびCoの添加は、MgFの添加により低く設定された焼成温度(例えば、1120℃~1300℃)において電極の焼結性を向上させることを目的としている。
【0006】
一方、特許文献3では、アルミナを主材料とする基材と、上記WCに代えてMoを主材料とする電極と、を有するセラミックヒータが提案されている。当該電極では、抵抗率温度依存性の逆転現象を改善するために、Mo中にTi-Al-Mg-O複合酸化物が分散されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-343733号公報
【文献】特開2011-168472号公報
【文献】特開2013-229310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1および特許文献2では、WCを主材料とする電極に基材成分が添加されることにより、電極と基材との熱膨張係数の差はある程度小さくなるが、熱膨張係数の差の低減に限界がある。
【0009】
また、サセプターでは、基材に用いるアルミナ材料に対して、高抵抗率、高絶縁耐圧、パーティクルの発生リスクの低減等が求められるため、アルミナ材料を高純度化する必要があり、その結果、サセプター製造時の焼成温度が高温化(例えば、1500℃以上)する。このため、特許文献1および特許文献2のように電極材料にWCを使用すると、高温焼成によりWCの一部が酸化してWCが生成されるため、WCおよびWCの含有率が変動して電極の特性(例えば、抵抗率、熱膨張係数等)が安定しないおそれがある。また、WCの酸化の際に発生したCOガスにより、電極周辺に気孔が生じて基材の絶縁耐圧が低下するおそれもある。
【0010】
さらに、特許文献2では、電極に含まれるNiおよびCoは比較的融点が低いため、1500℃以上の高温焼成において形状を維持することは困難である。また、NiおよびCoは磁性材料であるため、当該電極が静電チャックに利用された場合、クーロン力による吸着力を阻害するおそれもある。
【0011】
一方、特許文献3では、Ti-Al-Mg-O複合酸化物により、電極と基材との熱膨張係数の差はある程度小さくなる可能性はある。しかしながら、Ti-Al-Mg-O複合酸化物は、焼成中の反応により生成されるため生成量が安定せず、電極の特性(例えば、抵抗率、熱膨張係数等)が安定しないおそれがある。また、電極中のTi-Al-Mg-O複合酸化物が粗大であり、Ti-Al-Mg-O複合酸化物の分布も不均一であるため、電極特性を安定的に制御することが困難となるおそれもある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、電極の抵抗率の増大を抑制しつつ、電極と基材との熱膨張係数の差を小さくすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の好ましい一の形態に係る複合焼結体は、セラミックを主材料とする基材と、前記基材の内部または表面に配置される電極と、を備える。前記電極は、タングステンと、酸化ジルコニウムと、を含む。前記電極において、X線回折法により得られる前記タングステンと前記酸化ジルコニウムとのメインピークの強度比は、0.90以上かつ0.96未満である。
【0014】
好ましくは、前記電極と前記基材との熱膨張係数の差の絶対値は、40℃以上かつ1000℃以下の範囲において、0.5ppm/℃以下である。
【0015】
好ましくは、前記電極の室温における抵抗率は、3.5×10-5Ω・cm以下である。
【0017】
好ましくは、前記電極における前記タングステンおよび前記酸化ジルコニウムの合計含有率は、100体積%である。
【0018】
好ましくは、前記酸化ジルコニウムの焼結粒径は、0.7μm以上かつ3.0μm以下である。
【0019】
好ましくは、前記酸化ジルコニウムの焼結粒径と前記タングステンの焼結粒径との差の絶対値は、0.5μm以下である。
【0020】
好ましくは、前記基材の主材料は酸化アルミニウムである。前記基材における前記酸化アルミニウムの含有率は95質量%以上である。
【0021】
本発明は、半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材にも向けられている。当該半導体製造装置部材は、上述の複合焼結体を用いて作製される。前記基材は円板状である。前記基材の主面に半導体基板が載置される。
【0022】
本発明は、複合焼結体の製造方法にも向けられている。当該複合焼結体の製造方法は、a)セラミックを主材料とする成形体、仮焼体または焼結体である第1部材および第2部材を準備する工程と、b)前記第1部材上に、タングステンおよび酸化ジルコニウムを含む電極または前記電極の前駆体を配置した後、前記第2部材を積層して積層体を形成する工程と、c)前記積層体をホットプレス焼成する工程と、を備える。前記c)工程終了後の前記電極において、X線回折法により得られる前記タングステンと前記酸化ジルコニウムとのメインピークの強度比は、0.90以上かつ0.96未満である。
【0023】
好ましくは、前記c)工程の終了後における前記電極と前記第1部材および前記第2部材との熱膨張係数の差の絶対値は、40℃以上かつ1000℃以下の範囲において、0.5ppm/℃以下である。
【0024】
好ましくは、前記c)工程における焼成温度は、1550℃以上かつ1650℃以下である。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、電極の抵抗率の増大を抑制しつつ、電極と基材との熱膨張係数の差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】一の実施の形態に係るサセプターの断面図である。
図2】複合焼結体の断面SEM画像である。
図3】複合焼結体の製造の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るサセプター1の断面図である。サセプター1は、半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材である。サセプター1は、略円板状の半導体基板9(以下、単に「基板9」と呼ぶ。)を、図1中の下側から支持する。以下の説明では、図1中の上側および下側を、単に「上側」および「下側」と呼ぶ。また、図1中の上下方向を、単に「上下方向」と呼ぶ。図1中の上下方向は、サセプター1が半導体製造装置に設置される際の実際の上下方向と必ずしも一致する必要はない。
【0028】
サセプター1は、本体部21と、ベース部22と、電極23とを備える。本体部21は、セラミックを主材料とする略板状(例えば、略円板状)の基材である。本体部21の上側の主面(すなわち、上面)上には基板9が載置される。ベース部22は、平面視において本体部21よりも大きい略板状(例えば、略円板状)の部材である。本体部21は、ベース部22上に取り付けられる。図1に示す例では、電極23は、本体部21の内部に配置(すなわち、埋設)される。電極23は、例えば、平面視において所定のパターンを描く略帯状の部材である。電極23は、比較的高い融点を有する材料により形成されることが好ましい。本体部21および電極23は、複数の材料により形成された複合焼結体である。以下の説明では、本体部21および電極23をまとめて「複合焼結体20」とも呼ぶ。本体部21および電極23の材料については後述する。なお、電極23の形状は様々に変更されてよい。また、電極23は、本体部21の表面に設けられてもよい。
【0029】
図1に示す例では、サセプター1は、電極23に直流電圧が印加されることにより発生する熱によって基板9を加熱するヒータである。すなわち、電極23は、基板9を加熱する抵抗発熱体である。サセプター1では、電極23に加えて、クーロン力またはジョンソン・ラーベック力を利用して基板9を静電吸着するチャック用電極が、本体部21の内部に設けられてもよい。あるいは、電極23がチャック用電極として利用されてもよい。
【0030】
本体部21は、例えば、酸化アルミニウム(Al)を主材料として形成されている。本体部21では、酸化マグネシウム(MgO)および/またはマグネシウムアルミニウムスピネル(MgAl)等の添加材料が、Alに添加されていてもよい。本体部21では、主材料であるAlの含有率は、例えば95質量%以上かつ100質量%以下であり、好ましくは99質量%以上かつ100質量%以下である。本体部21におけるAlの含有率は、所望する本体部21の材料特性に合わせて調整される。なお、本体部21の主材料はAlには限定されず、他のセラミックであってもよい。
【0031】
電極23は、タングステン(W)と、酸化ジルコニウム(ZrO)とを含む。本実施の形態では、電極23は、実質的にWおよびZrOのみにより形成されており、WおよびZrO以外の物質を実質的に含んでいない。換言すれば、本実施の形態では、電極23におけるWおよびZrOの合計含有率は100体積%である。
【0032】
電極23におけるWおよびZrOの含有率は、電極23と本体部21との熱膨張係数の差が実質的に0に近づくように調整される。また、電極23において、X線回折法(XRD)により得られるWとZrOとのメインピークの強度比(以下、「W-ZrOピーク比」とも呼ぶ。)は、例えば0.90以上かつ0.96未満であり、電極23と本体部21との熱膨張係数の差が実質的に0に近づくように調整される。W-ZrOピーク比は、Wのメインピーク強度を、Wのメインピーク強度とZrOのメインピーク強度との合計により除算した値である。
【0033】
Wの熱膨張係数(熱膨張率ともいう。)は、40℃以上かつ1000℃以下の範囲において、5.3ppm/℃(すなわち、ppm/K)である。以下の説明における熱膨張係数は、温度条件の記載が無い場合、40℃以上かつ1000℃以下の範囲における熱膨張係数である。ZrOの熱膨張係数は10.5ppm/℃である。Alの熱膨張係数は8.0ppm/℃である。本体部21の熱膨張係数は、主材料であるAlに添加される添加材料の種類および割合により変化するが、例えば、8.1ppm/℃~8.3ppm/℃である。
【0034】
電極23に含まれるWの熱膨張係数は、本体部21の熱膨張係数よりも低い。電極23に含まれるZrOの熱膨張係数は、本体部21の熱膨張係数よりも高い。40℃以上かつ1000℃以下の範囲における電極23と本体部21との熱膨張係数の差の絶対値(以下、「CTE差」とも呼ぶ。)は、例えば0.5ppm/℃以下であり、好ましくは0.2ppm/℃以下である。CTE差の下限は特に限定されないが、0.0ppm/℃以上である。
【0035】
電極23の室温における抵抗率は、例えば3.5×10-5Ω・cm以下であり、好ましくは3.0×10-5Ω・cm以下である。当該抵抗率の下限は特に限定されないが、例えば1.0×10-5Ω・cm以上である。
【0036】
電極23は、後述するように、本体部21と共に、あるいは、本体部21とは別に焼成されることにより形成される焼結体である。焼成温度は、例えば、1500℃以上の高温である。なお、Wの融点は3410℃であり、ZrOの融点は2715℃である。Wの焼結粒径は、例えば、0.7μm以上かつ3.0μm以下であり、好ましくは、1.0μm以上かつ2.0μm以下である。ZrOの焼結粒径は、例えば、0.7μm以上かつ3.0μm以下であり、好ましくは、1.0μm以上かつ2.0μm以下である。ZrOの焼結粒径とWの焼結粒径との差の絶対値(以下、単に「焼結粒径差」とも呼ぶ。)は、例えば0.5μm以下であり、好ましくは0.25μm以下である。焼結粒径差の下限は特に限定されないが、例えば0.0μm以上である。WおよびZrOの焼結粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)等を用いた微構造観察により求めることが可能である。
【0037】
図2は、後述する実施例10の複合焼結体20の断面SEM画像である。図2中の上下方向の中央部の白っぽい領域は電極23に対応する。また、電極23の下側の黒い帯状の領域は、本体部21の第1部材に対応し、電極23の上側の黒い帯状の領域は、本体部21の第2部材に対応する。電極23に対応する領域内において、最も色の薄い白色の領域はWであり、Wよりも色の濃い灰色の領域はZrOである。複合焼結体20では、上述のように電極23における焼結粒径差を小さくすることにより、電極23中におけるWおよびZrOの分散の均一性が向上する。
【0038】
次に、図3を参照しつつサセプター1の本体部21および電極23(すなわち、複合焼結体20)の製造方法の一例について説明する。当該例では、本体部21の下半分の略円板状の部位(以下、「第1部材」と呼ぶ。)と、上半分の略円板状の部位(以下、「第2部材」と呼ぶ。)とを作成し、第1部材と第2部材との間に電極23の材料を挟んで焼成を行うことにより、本体部21および電極23を製造する。
【0039】
当該製造方法では、まず、本体部21の第1部材および第2部材を準備する(ステップS11)。ステップS11において準備される第1部材および第2部材は、成形体、仮焼体および焼結体のいずれの状態であってもよい。ステップS11では、まず、本体部21(すなわち、第1部材および第2部材)の原料粉末を所定の組成となるように秤量し、当該原料粉末を湿式混合した上で、一軸加圧成形等により所定形状の成形体に成形する。
【0040】
ステップS11では、Al原料として、例えば、市販の高純度微粒粉末が使用される。また、本体部21にMgOが含まれる場合、MgO原料として、例えば、市販の高純度微粒粉末が使用される。本体部21にMgAlが含まれる場合、例えば、上述の市販のMgO粉末と市販のAlの高純度微粒粉末とを加熱合成したものが、MgAl原料として使用される。あるいは、MgAl原料として、市販のMgAlの高純度微粒粉末が使用されてもよい。Al原料、MgO原料およびMgAl原料の純度および平均粒径等は、適宜決定される。
【0041】
ステップS11では、原料粉末の混合条件(例えば、混合時間、溶媒種類等)は、適宜決定される。当該溶媒としては、例えば、有機溶媒またはイオン交換水が使用可能である。なお、ステップS11では、乾式混合により原料粉末が混合されてもよい。
【0042】
ステップS11では、成形体の成形条件(例えば、付与される圧力等)は、適宜決定される。成形体の形状が板状である場合には、原料粉末がホットプレスダイス等に充填されることにより、成形体が成形されてもよい。当該成形体の成形は、形状を保持できるのであれば、他の様々な方法により行われてもよい。例えば、湿式混合後のスラリーを、流動性のある状態のままモールドに流し込んだ後に溶媒成分を除去し、所定形状の成形体としてもよい。あるいは、ドクターブレード等を利用したテープ成形法により、所定計上のテープ成形体が形成されてもよい。
【0043】
ステップS11において、第1部材および/または第2部材の仮焼体または焼結体が準備される場合、上述の方法により形成された成形体がホットプレス法等により焼成され、仮焼体(すなわち、仮焼結体)または焼結体が形成される。当該成形体の焼成における焼成条件(例えば、プレス圧、焼成温度、焼成時間等)は、適宜決定される。また、当該成形体の焼成は、ホットプレス法以外の方法により行われてもよい。
【0044】
次に、電極23の原料粉末を所定の組成となるように秤量し、当該原料粉末を混合した上で、溶媒およびバインダ等と混練して、電極23の前駆体である電極ペーストを生成する(ステップS12)。ステップS12では、W原料およびZrO原料として、例えば、市販の高純度微粒粉末が使用される。W原料およびZrO原料の純度および平均粒径等は、適宜決定される。W原料およびZrO原料の平均粒径は、例えば、1μm未満である。
【0045】
上述の電極23の原料粉末の混合は、例えば、湿式混合により行われる。原料粉末の混合条件(例えば、混合時間、溶媒種類等)は、適宜決定される。当該溶媒としては、例えば、有機溶媒またはイオン交換水が使用可能である。なお、ステップS12では、乾式混合により原料粉末が混合されてもよい。ステップS12では、原料粉末と共に混練される上記溶媒(例えば、有機溶媒)およびバインダの種類は、適宜決定される。なお、ステップS12は、ステップS11よりも前に、または、ステップS11と並行して行われてもよい。
【0046】
ステップS12にて生成された電極ペーストは、ステップS11にて形成された第1部材の上面に、スクリーン印刷等により所定の形状にて付与される(ステップS13)。ステップS13において成形体である第1部材上に電極ペーストが付与される場合、第1部材は、例えばテープ成形体である。なお、ステップS13では、電極ペーストの塗布は、スクリーン印刷以外の方法により行われてもよい。第1部材が成形体または仮焼体である場合、正確には、電極ペーストは第1部材の前駆体の上面に付与される。そして、電極ペーストが大気中等において所定時間(例えば、1時間)乾燥された後、第1部材および電極ペーストの上に、第2部材が積層されて積層体が形成される(ステップS14)。
【0047】
なお、複合焼結体20の製造では、上述のステップS13~S14に代えて、ステップS12で生成された電極ペーストを単体で焼成して電極23を形成し、当該電極23が第1部材の上面上に配置され、第1部材および電極23上に第2部材が積層されてもよい。
【0048】
その後、ステップS14にて形成された積層体が、ホットプレス法等により焼成されることにより、第1部材と第2部材とが一体化し、本体部21および電極23(すなわち、複合焼結体20)が形成される(ステップS15)。ステップS15における焼成条件(例えば、プレス圧、焼成温度、焼成時間等)は、適宜決定される。ステップS15における焼成温度(すなわち、仮焼成時の最高温度)は、例えば、1550℃以上かつ1650℃以下である。ステップS15における積層体の焼成は、ホットプレス法以外の方法により行われてもよい。
【0049】
次に、表1~表3を参照しつつ、本発明に係る複合焼結体20(すなわち、本体部21および電極23)の実施例1~13、および、複合焼結体20と比較するための比較例1~4の複合焼結体について説明する。実施例1~13では、電極23がWおよびZrOを含むのに対し、比較例1~4では、電極23はZrOを含まず、比較例1~2では、電極23はWも含まない。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
実施例1~13、および、比較例1~4では、本体部21および電極23の製造は、上述のステップS11~S15により行った。実施例1~13、および、比較例1~4では、ステップS11におけるAlへの添加剤としてMgOを使用した。Al原料としては、市販のAlの高純度微粒粉末(純度99.99%以上、平均粒径0.5μm)を使用した。また、MgO原料として、市販のMgOの高純度微粒粉末(純度99.9%以上、平均粒径1μm以下)を使用した。
【0054】
実施例1~13、および、比較例1~4では、ステップS11における原料粉末の湿式混合は、アルミナボールおよびポリポットを用いたボールミルにより行った。混合時間は20時間であり、使用した溶媒は有機溶媒である。湿式混合により生成されたスラリーを、乾燥させた後に篩にかけることにより、本体部21の原料粉末を得た。また、ステップS11における成形体の成形は、一軸加圧成形用の金型に原料粉末を充填することにより行った。当該一軸加圧成形時の圧力は、100kgf/cmである。得られた成形体は、直径50mm、厚さ10mmの略円板状である。なお、実施例1~13、および、比較例1~4では、実際の複合焼結体20よりも小さい試験体を作製、使用する。
【0055】
実施例1~13、および、比較例1~4では、ステップS12において、W原料およびZrO原料として、市販のWの高純度微粒粉末(純度99.9%以上、平均粒径0.8μm)、および、ZrOの高純度微粒粉末(純度99%以上、平均粒径0.4μm)を使用した。
【0056】
実施例1~13、および、比較例1~4では、ステップS12における原料粉末の湿式混合は、アルミナボールおよびポリポットを用いたボールミルにより行った。混合時間は20時間であり、使用した溶媒は有機溶媒である。湿式混合により生成されたスラリーを、乾燥させた後に篩にかけることにより、電極23の原料粉末を得た。また、電極ペーストの生成時に当該原料粉末と混練される溶媒およびバインダとして、ブチルカルビトールおよびポリメタクリル酸-n-ブチルを使用した。
【0057】
実施例1~13、および、比較例1~4では、ステップS13における電極ペーストの塗布は、スクリーン印刷により行われる。第1部材上に塗布された電極ペーストの形状は、幅5mm、長さ15mmの略長方形である。電極ペーストの厚さは、60μm~70μmである。
【0058】
実施例1~13、および、比較例1~4では、ステップS13,S14において、第1部材および第2部材として、成形体、仮焼体または焼結体のいずれかを使用した。第1部材または第2部材として成形体を使用する場合、上述のステップS11で得られたものを使用する。
【0059】
第1部材または第2部材として仮焼体を使用する場合、前述した成形体と同様の手法で成形体を作製し、熱処理をして作製した。焼成温度(すなわち、熱処理時の最高温度)は、800℃以上かつ1000℃以下である。そして、得られた仮焼体を、直径50mm、厚さ5mmの略円板状に加工した。なお、仮焼体は、原料粉末に有機バインダなどの成形助剤を添加して保形した成形体を加熱処理して作製するなど、既存の方法を適宜採用すればよく、その作製条件は上記に限定されるものではない。
【0060】
第1部材または第2部材として焼結体を使用する場合、ホットプレス法により成形体の焼成を行った。具体的には、上述の成形体をホットプレス用の黒鉛型に収容し、ホットプレス炉にセットして焼成を行った。仮焼成時のプレス圧は、200kgf/cmである。焼成温度(すなわち、仮焼成時の最高温度)は、1550℃以上かつ1650℃以下である。焼成時間は、8時間である。昇温速度および降温速度は、300℃/hである。焼成雰囲気は、1000℃までの昇温時は真空引きを行い、その後は窒素ガスを導入した。窒素ガスの導入後のガス圧力は、約1.5atm(約0.152MPa)に維持した。降温時は、1400℃で温度制御を停止し、炉冷した。そして、得られた焼結体を、直径50mm、厚さ5mmの略円板状に加工した。
【0061】
実施例1~13、および、比較例1~4では、ステップS15における積層後の焼成は、ホットプレス法により行った。具体的には、上述の積層体をホットプレス用の黒鉛型に収容し、ホットプレス炉にセットして焼成を行った。焼成時のプレス圧は、200kgf/cmである。焼成温度(すなわち、焼成時の最高温度)は、1550℃以上かつ1650℃以下である。焼成時間は、4時間~8時間である。昇温速度および降温速度は、300℃/hである。焼成雰囲気は、窒素ガス雰囲気である。
【0062】
表1~表3において、基材(すなわち、本体部21の第1部材および第2部材)の熱膨張係数は、本体部21から切り出した焼結体試料を用いて、JIS-R1618に準じた方法により、40℃~1000℃の範囲で測定した。また、実施例1~13の電極23の熱膨張係数は、WおよびZrOのそれぞれ単体の熱膨張係数と、電極23におけるWおよびZrOの含有率とに基づいて求めた。具体的には、W単体の熱膨張係数と電極23におけるWの含有率(体積%)との積、および、ZrO単体の熱膨張係数と電極23におけるZrOの含有率(体積%)との積の合計を、電極23の熱膨張係数とした。WおよびZrOのそれぞれ単体の熱膨張係数は、ステップS12で使用した市販のW粉末およびZrO粉末をステップS11と同様の条件でホットプレス焼成して作製されたバルク材を用いて、JIS-R1618に準じた方法により、40℃~1000℃の範囲で測定した。比較例1~4においても同様である。CTE差は、上述のように、電極23の熱膨張係数と本体部21の熱膨張係数の差の絶対値である。
【0063】
電極23におけるW-ZrOピーク比は、上述のXRDにより測定されたWとZrOとのメインピークの強度比である。W-ZrOピーク比は、Wのメインピークである(110)面の強度をI1とし、ZrOのメインピークである(111)面の強度をI2として、I1/(I1+I2)を算出した。また、XRDによる測定の際には、第2部材を除去し、第1部材上に位置する電極23を露出させて測定を行った。X線回折装置として、封入管式X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製 D8-ADVANCE)を使用した。測定条件はCuKα、40kV、40mA、2θ=10~70°、ステップ幅を0.002°とした。
【0064】
電極23におけるWの焼結粒径は、SEMを用いた微構造観察により求めた。具体的には、試験片の一面を鏡面状に研磨仕上げし、電極23の研磨面をSEMを用いて観察する。そして、所定数(例えば、数十個)の焼結粒子のそれぞれの長径および短径の平均である平均径を算出し、当該所定数の焼結粒子の平均径の算術平均をWの焼結粒径とした。電極23におけるZrOの焼結粒径についても同様である。
【0065】
電極23の抵抗率は、次のように求めた。まず、ステップS15にて形成された複合焼結体20から、幅、長さおよび厚さがそれぞれ9mmの略直方体状の試験片を切り出す。試験片は、中央部に幅5mm、長さ9mmの電極23が内蔵されるように切り出される。試験片の両端面には、幅5mmの電極23が露出している。電極23の断面積S(cm)は、試験片の端面における電極23の幅および長さを光学顕微鏡により測定して求めた。また、電極23が露出する試験片の両端面間の距離をノギスにより測定し、電極23の長さL(cm)とした。抵抗測定用の回路は、電極23の両端面に導電性ペーストを塗布した上でリード線を接続して構成した。そして、大気中、室温において、電極23に微少電流I(mA)を0mA~150mAの範囲で付与し、その際に発生する微小電圧値V(mV)を測定し、電極23の抵抗R(Ω)をR=V/Iにより求めた。その後、電極23の抵抗率ρ(Ω・cm)を、ρ=R×S/Lにより求めた。
【0066】
電極23の組成は、次のように求めた。まず、試験片の上半分または下半分を除去して電極23の上面または下面を露出させ、露出した電極23を研磨した。そして、電極23の研磨面において、上述のX線回折装置により上記測定条件にて結晶相を同定した。
【0067】
実施例1~13、および、比較例1~4では、本体部21の主材料はAlであり、添加物はMgOである。また、上述のように、実施例1~13では、電極23はWおよびZrOにより形成される。換言すれば、実施例1~13では、電極23におけるWおよびZrOの合計含有率は、100体積%である。一方、比較例1では、電極23は炭化タングステン(WC)のみにより形成され、WおよびZrOを含まない。比較例2では、電極23は、WCおよびAlにより形成され、WおよびZrOを含まない。比較例3では、電極23は、Wのみにより形成され、ZrOを含まない。比較例4では、電極23は、WおよびAlにより形成され、ZrOを含まない。
【0068】
実施例1では、ステップS13において電極ペーストが付与される本体部21の第1部材は焼結体である。また、ステップS14において第1部材上に積層される第2部材は成形体である。本体部21のMgOの含有率は0.025質量%であり、本体部21の熱膨張係数は8.1ppm/℃である。なお、本体部21のMgO以外の残部はAlである(他の実施例および比較例においても同様)。電極23におけるWの含有率は46.2体積%であり、ZrOの含有率は53.8体積%である。電極23の熱膨張係数は8.1ppm/℃である。複合焼結体20の焼成温度(すなわち、焼成時の最高温度)は1600℃である。
【0069】
実施例1では、CTE差(すなわち、40℃以上かつ1000℃以下の範囲における電極23と本体部21との熱膨張係数の差の絶対値)は0.0ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.94であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、1.17μmおよび1.27μmであり、焼結粒径差(すなわち、ZrOの焼結粒径とWの焼結粒径との差の絶対値)は0.10μmであった。電極23の抵抗率は、2.9×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0070】
実施例1では、CTE差が0.5ppm/℃以下と小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は3.5×10-5Ω・cm以下と小さかった。W-ZrOピーク比は、0.90以上かつ0.96未満と好適な範囲であり、これにより、上述の熱膨張係数の差の低減および抵抗率の増大抑制を好適に両立することができる。ZrOの焼結粒径は、0.7μm以上かつ3.0μm以下と好適な範囲であり、焼結粒径差(すなわち、Wの焼結粒径とZrOの焼結粒径との差)は0.5μm以下と小さかった。このため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0071】
実施例2では、本体部21におけるMgOの含有率が1.0質量%であり、本体部21の熱膨張係数は8.2ppm/℃である。電極23におけるWの含有率は44.2体積%であり、ZrOの含有率は55.8体積%である。電極23の熱膨張係数は8.2ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0072】
実施例2では、CTE差は0.0ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.93であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、1.15μmおよび1.32μmであり、焼結粒径差は0.17μmであった。電極23の抵抗率は、3.0×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0073】
実施例2では、CTE差が小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0074】
実施例3では、本体部21におけるMgOの含有率が5.0質量%であり、本体部21の熱膨張係数は8.3ppm/℃である。電極23におけるWの含有率は42.3体積%であり、ZrOの含有率は57.7体積%である。電極23の熱膨張係数は8.3ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0075】
実施例3では、CTE差は0.0ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.91であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、1.14μmおよび1.36μmであり、焼結粒径差は0.22μmであった。電極23の抵抗率は、3.2×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0076】
実施例3では、CTE差が小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0077】
実施例1~3に注目すると、本体部21の熱膨張係数を上記範囲(すなわち、8.1ppm/℃~8.3ppm/℃)で変更した場合であっても、CTE差を0.0ppm/℃とすることができ、本体部21のクラックや電極23の剥離を防止することができた。また、電極23の抵抗率の増大を抑制することができた。
【0078】
実施例4では、電極23におけるWの含有率は55.8体積%であり、ZrOの含有率は44.2体積%である。電極23の熱膨張係数は7.6ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0079】
実施例4では、CTE差は0.5ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.96であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、1.20μmおよび1.11μmであり、焼結粒径差は0.09μmであった。電極23の抵抗率は、2.0×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0080】
実施例4では、CTE差が小さいため(すなわち、0.5ppm/℃以下であるため)、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0081】
実施例5では、電極23におけるWの含有率は51.9体積%であり、ZrOの含有率は48.1体積%である。電極23の熱膨張係数は7.8ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0082】
実施例5では、CTE差は0.3ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.95であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、1.19μmおよび1.14μmであり、焼結粒径差は0.05μmであった。電極23の抵抗率は、2.5×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0083】
実施例5では、CTE差が小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0084】
実施例6では、電極23におけるWの含有率は48.1体積%であり、ZrOの含有率は51.9体積%である。電極23の熱膨張係数は8.0ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0085】
実施例6では、CTE差は0.1ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.95であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、1.18μmおよび1.22μmであり、焼結粒径差は0.04μmであった。電極23の抵抗率は、2.8×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0086】
実施例6では、CTE差が小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0087】
実施例7では、電極23におけるWの含有率は44.2体積%であり、ZrOの含有率は55.8体積%である。電極23の熱膨張係数は8.2ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0088】
実施例7では、CTE差は0.1ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.93であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、1.16μmおよび1.30μmであり、焼結粒径差は0.14μmであった。電極23の抵抗率は、3.1×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0089】
実施例7では、CTE差が小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0090】
実施例8では、電極23におけるWの含有率は40.4体積%であり、ZrOの含有率は59.6体積%である。電極23の熱膨張係数は8.4ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0091】
実施例8では、CTE差は0.3ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.91であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、1.14μmおよび1.35μmであり、焼結粒径差は0.21μmであった。電極23の抵抗率は、3.3×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0092】
実施例8では、CTE差が小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0093】
実施例9では、電極23におけるWの含有率は36.5体積%であり、ZrOの含有率は63.5体積%である。電極23の熱膨張係数は8.6ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0094】
実施例9では、CTE差は0.5ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.90であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、1.13μmおよび1.38μmであり、焼結粒径差は0.25μmであった。電極23の抵抗率は、3.5×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0095】
実施例9では、CTE差が小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0096】
実施例1,4~9に注目すると、電極23におけるWおよびZrOの含有率を変更し、CTE差を上記範囲(すなわち、0.0ppm/℃~0.5ppm/℃)で変更した場合であっても、本体部21のクラックや電極23の剥離を防止することができた。また、電極23の抵抗率の増大を抑制することができた。
【0097】
実施例10では、複合焼結体20の焼成温度は1550℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0098】
実施例10では、電極23の熱膨張係数は8.0ppm/℃であり、CTE差は0.1ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.94であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、0.94μmおよび0.82μmであり、焼結粒径差は0.12μmであった。電極23の抵抗率は、3.0×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0099】
実施例10では、CTE差が小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0100】
実施例11では、複合焼結体20の焼成温度は1650℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0101】
実施例11では、電極23の熱膨張係数は8.2ppm/℃であり、CTE差は0.1ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.93であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、1.81μmおよび1.72μmであり、焼結粒径差は0.09μmであった。電極23の抵抗率は、3.1×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0102】
実施例11では、CTE差が小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0103】
実施例1,10~11に注目すると、複合焼結体20の焼成温度を上記範囲(すなわち、1550℃~1650℃)で変更した場合であっても、CTE差は0.0ppm/℃~0.1ppm/℃と小さく、本体部21のクラックや電極23の剥離を防止することができた。また、電極23の抵抗率の増大を抑制することができた。
【0104】
実施例12では、ステップS11において準備される第1部材、および、ステップS14において第1部材上に積層される第2部材は仮焼体である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0105】
実施例12では、CTE差は0.0ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.93であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、2.22μmおよび2.55μmであり、焼結粒径差は0.33μmであった。電極23の抵抗率は、2.8×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0106】
実施例12では、CTE差が小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0107】
実施例13では、ステップS14において第1部材上に積層される第2部材は焼結体である。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0108】
実施例13では、CTE差は0.0ppm/℃であった。W-ZrOピーク比は0.94であった。WおよびZrOの焼結粒径はそれぞれ、1.15μmおよび1.25μmであり、焼結粒径差は0.10μmであった。電極23の抵抗率は、2.9×10-5Ω・cmであった。電極23の組成は、WおよびZrOであった。
【0109】
実施例13では、CTE差が小さいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離は生じなかった。また、電極23の抵抗率は小さかった。さらに、ZrOの焼結粒径が好適な範囲であり、焼結粒径差が小さいため、電極23中において、WおよびZrOの略均等な分散が実現された。
【0110】
実施例1,12~13に注目すると、ステップS15における焼結前の第1部材および第2部材の状態(すなわち、成形体、仮焼体または焼結体)を変更した場合であっても、CTE差は0.0ppm/℃であり、本体部21のクラックや電極23の剥離を防止することができた。また、電極23の抵抗率の増大を抑制することができた。
【0111】
比較例1では、上述のように、電極23がWCのみにより形成され、WおよびZrOを含まない。電極23の熱膨張係数は5.3ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。比較例1では、CTE差が2.8ppm/℃と大きいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離が生じた。また、電極23の組成は、WCおよびWCであった。当該WCは、高温焼成によりWCの一部が酸化し生成されたものであり、電極23におけるWCおよびWCの含有率が変動して電極23の特性(例えば、抵抗率、熱膨張係数等)が不安定化する可能性がある。
【0112】
比較例2では、上述のように、電極23がWCおよびAlにより形成され、WおよびZrOを含まない。電極23の熱膨張係数は6.1ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。比較例2では、CTE差が2.0ppm/℃と大きいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離が生じた。また、電極23の組成は、WC、WCおよびAlであった。したがって、比較例1と同様に、電極23の特性が不安定化する可能性がある。
【0113】
比較例3では、上述のように、電極23がWのみにより形成され、ZrOを含まない。電極23の熱膨張係数は5.3ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。比較例では、CTE差が2.5ppm/℃と大きいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離が生じた。また、電極23の組成は、Wであった。
【0114】
比較例4では、上述のように、電極23がWおよびAlにより形成され、ZrOを含まない。電極23の熱膨張係数は6.1ppm/℃である。その他の条件は、実施例1と同様である。比較例では、CTE差が2.0ppm/℃と大きいため、本体部21と電極23との熱膨張係数の差に起因する本体部21のクラックや電極23の剥離が生じた。また、電極23の組成は、WおよびAlであった。
【0115】
以上に説明したように、複合焼結体20は、セラミックを主材料とする基材(上記例では、本体部21)と、当該基材の内部または表面に配置される電極23と、を備える。電極23は、Wと、ZrOとを含む。これにより、実施例1~13に示すように、電極23と基材との熱膨張係数の差を小さくすることができる。その結果、電極23と基材との熱膨張係数の差に起因する基材のクラックや電極23の剥離を抑制することができる。また、複合焼結体20では、電極23の抵抗率の増大を抑制することもできる。その結果、電極23による発熱量を精度良く制御することができる。さらに、WおよびZrOは、NiやCoのような磁性材料ではないため、複合焼結体20を静電チャックとして使用する場合であっても、クーロン力による基板9の吸着の阻害を抑制することができる。
【0116】
上述のように、電極23と基材との熱膨張係数の差の絶対値は、40℃以上かつ1000℃以下の範囲において、0.5ppm/℃以下であることが好ましい。これにより、電極23と基材との熱膨張係数の差に起因する基材のクラックや電極23の剥離をさらに抑制することができる。
【0117】
上述のように、電極23の室温における抵抗率は、3.5×10-5Ω・cm以下であることが好ましい。これにより、電極23による発熱量をさらに精度良く制御することができる。
【0118】
上述のように、電極23において、X線回折法により得られるWとZrOとのメインピークの強度比(すなわち、W-ZrOピーク比)は、0.90以上かつ0.96未満であることが好ましい。このように、電極23におけるWとZrOとの組成比を好適な範囲とすることにより、電極23の抵抗率の増大を好適に抑制しつつ、電極23と基材との熱膨張係数の差を好適に小さくすることができる。
【0119】
上述のように、電極23におけるWおよびZrOの合計含有率は、100体積%であることが好ましい。これにより、電極23の材料の種類増加による製造コスト増大を防止することができる。
【0120】
上述のように、ZrOの焼結粒径は、0.7μm以上かつ3.0μm以下であることが好ましい。これにより、電極23中におけるZrOの分散の均一性を向上することができる。その結果、電極23全体において、抵抗率の増大抑制、および、基材との熱膨張数差の低減を実現することができる。
【0121】
上述のように、ZrOの焼結粒径とWの焼結粒径との差の絶対値(すなわち、焼結粒径差)は、0.5μm以下であることが好ましい。これにより、電極23中におけるWおよびZrOの分散の均一性を向上することができる。その結果、電極23全体において、抵抗率の増大抑制、および、基材との熱膨張数差の低減を実現することができる。
【0122】
上述のように、基材の主材料はAlであり、当該基材におけるAlの含有率は95質量%以上であることが好ましい。これにより、複合焼結体20を製造する際に、複合焼結体20の高温焼成が可能となる。このため、焼成時におけるWの炭化および酸化を抑制することができる。その結果、電極23の特性を安定させることができる。
【0123】
上述のように、複合焼結体20では、電極23の抵抗率の増大を抑制しつつ、電極23と基材との熱膨張数の差を小さくして、基材のクラックや電極23の剥離を抑制することができる。このため、複合焼結体20は、半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材に適している。複合焼結体20は、特に、ハイパワーエッチング装置等の高出力半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材に適している。複合焼結体20を用いて作成される半導体製造装置部材の好適な一例として、上述のサセプター1が挙げられる。サセプター1では、上述のように、本体部21は円板状であり、本体部21の主面に基板9が載置される。
【0124】
上述の複合焼結体20の製造方法は、セラミックを主材料とする成形体、仮焼体または焼結体である第1部材および第2部材を準備する工程(ステップS11)と、当該第1部材上に、WおよびZrOを含む電極23または電極23の前駆体を配置した後、第2部材を積層して積層体を形成する工程(ステップS13,S14)と、当該積層体をホットプレス焼成する工程(ステップS15)と、を備える。これにより、上記と同様に、電極23と基材との熱膨張係数の差に起因する基材のクラックや電極23の剥離を抑制することができる。
【0125】
上述のように、ステップS15の終了後における電極23と第1部材および第2部材との熱膨張係数の差の絶対値は、40℃以上かつ1000℃以下の範囲において、0.5ppm/℃以下であることが好ましい。これにより、これにより、電極23と基材との熱膨張係数の差に起因する基材のクラックや電極23の剥離をさらに抑制することができる。
【0126】
上述のように、ステップS15における焼成温度は、1550℃以上かつ1650℃以下であることが好ましい。これにより、焼成時におけるWの炭化および酸化を抑制することができる。その結果、電極23の特性を安定させることができる。
【0127】
上述の複合焼結体20、半導体製造装置部材、および、複合焼結体20の製造方法では、様々な変更が可能である。
【0128】
例えば、複合焼結体20のCTE差は、0.5ppm/℃よりも大きくてもよい。
【0129】
電極23の室温における抵抗率は、3.5×10-5Ω・cmよりも高くてもよい。
【0130】
本発明に関連する技術に係る電極23では、W-ZrOピーク比は0.90未満であってもよく、0.96以上であってもよい。
【0131】
電極23中の固形物におけるWおよびZrOの合計含有率は、100体積%未満であってもよい。
【0132】
電極23におけるZrOの焼結粒径は、0.7μm未満であってもよく、3.0μmよりも大きくてもよい。
【0133】
電極23において、ZrOの焼結粒径とWの焼結粒径との差の絶対値(すなわち、焼結粒径差)は、0.5μmよりも大きくてもよい。
【0134】
本体部21におけるAlの含有率は、95質量%未満であってもよい。また、本体部21の主材料は、Al以外のセラミックであってもよい。
【0135】
複合焼結体20の製造方法では、上述のステップS15における焼成温度は、1550℃未満であってもよく、1650℃よりも高温であってもよい。
【0136】
複合焼結体20は、上記製造方法とは異なる方法により製造されてもよい。例えば、ステップS12が省略され、ステップS13において、電極23の原料粉末(すなわち、電極23の前駆体)が第1部材上に付与されてもよい。
【0137】
複合焼結体20は、サセプター1以外にも、半導体製造装置に設けられる他の半導体製造装置部材(例えば、リング、シャワーヘッド等)の作製に用いられてよい。また、複合焼結体20により半導体製造装置以外の装置にて使用される部材が作製されてもよい。例えば、複合焼結体20は、半導体基板以外の基板を支持するサセプターの作製に用いられてもよく、対象物を加熱するセラミックヒーターの作製に用いられてもよい。
【0138】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、半導体製造装置に関する分野、例えば、半導体基板を保持して加熱するサセプターの製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0140】
1 サセプター
20 複合焼結体
21 本体部
23 電極
9 基板
S11~S15 ステップ
図1
図2
図3