(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】空調管理システム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/64 20180101AFI20240404BHJP
F24F 11/74 20180101ALI20240404BHJP
F24F 11/79 20180101ALI20240404BHJP
F24F 11/80 20180101ALI20240404BHJP
F24F 11/46 20180101ALI20240404BHJP
F24F 11/56 20180101ALI20240404BHJP
F24F 120/12 20180101ALN20240404BHJP
F24F 120/20 20180101ALN20240404BHJP
【FI】
F24F11/64
F24F11/74
F24F11/79
F24F11/80
F24F11/46
F24F11/56
F24F120:12
F24F120:20
(21)【出願番号】P 2020200071
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 尊衛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕道
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 竜大
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-116063(JP,A)
【文献】国際公開第2017/098589(WO,A1)
【文献】特開2011-247560(JP,A)
【文献】特開2020-094701(JP,A)
【文献】特開2020-038046(JP,A)
【文献】特開2005-254235(JP,A)
【文献】特開2011-075138(JP,A)
【文献】特開平11-351650(JP,A)
【文献】特開2008-196842(JP,A)
【文献】特開2019-027713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/64
F24F 11/74
F24F 11/79
F24F 11/80
F24F 11/46
F24F 11/56
F24F 120/12
F24F 120/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空調装置を制御する空調管理システムにおいて、
人から前記空調装置までの距離を検出する距離検出部と、
前記人の温熱環境要望を受け取る要望検出部と、
前記空調装置を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記人から前記空調装置までの前記距離に基づいて、前記人に対する前記空調装置のそれぞれの分担率を算出し、
前記人から受け取った前記温熱環境要望を前記空調装置のそれぞれに前記分担率で配分し、
前記空調装置のそれぞれに配分された前記人の前記温熱環境要望に基づいて前記空調装置のそれぞれの出力を制御
し、
前記制御部は、前記人から前記空調装置までの前記距離に基づいて、前記人に対して前記複数の空調装置から一つ以上の担当空調装置を選択し、
前記人から前記担当空調装置までの距離に基づいて、前記人に対する前記担当空調装置の分担率を算出し、
前記人から受け取った前記温熱環境要望を前記担当空調装置に前記分担率で配分し、
前記担当空調装置に配分された前記人の前記温熱環境要望に基づいて前記担当空調装置の出力を制御する、空調管理システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記人から前記空調装置までの前記距離に加え、前記空調装置から見た前記人の方向を示す角度と前記空調装置からの風の吹出し方向を示す角度とに基づいて、前記分担率を算出する、請求項1に記載の空調管理システム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記人から前記空調装置までの前記距離に加え、前記空調装置から見た前記人の方向を示す角度と前記空調装置からの風の吹出し方向を示す角度とに基づいて、前記人に対して前記複数の空調装置から前記一つ以上の担当空調装置を選択し、
前記人から前記担当空調装置までの前記距離に加え、前記担当空調装置から見た前記人の方向を示す角度と前記担当空調装置からの風の吹出し方向を示す角度とに基づいて、前記分担率を算出する、請求項
1に記載の空調管理システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記空調装置から見た前記人の方向を示す前記角度と前記空調装置からの風の吹出し方向を示す前記角度との差が小さいほど、当該空調装置の前記分担率を高くする、請求項2又は
3に記載の空調管理システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記人から前記空調装置までの前記距離が小さいほど、当該空調装置の前記分担率を高くする、請求項1に記載の空調管理システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記複数の空調装置の一つ以上をグループとし、前記グループのそれぞれに属する前記空調装置を同一の信号により制御する、請求項1に記載の空調管理システム。
【請求項7】
前記人の位置を検出する人位置検出部を更に備え、
前記制御部は、前記人位置検出部により検出された前記人の前記位置と、前記空調装置の位置とに基づいて、前記人から前記空調装置までの前記距離を算出する、請求項1に記載の空調管理システム。
【請求項8】
前記空調装置の空調位置を検出する空調位置検出部と、を更に備え、
前記制御部は、前記人位置検出部により検出された前記人の前記位置と、前記空調位置検出部により検出された前記空調装置の前記空調位置とに基づいて、前記人から前記空調装置までの前記距離を算出する、請求項
7に記載の空調管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
オフィス空間においては、執務する人に快適な温熱環境を提供し、生産性を向上することが重要である。しかし、一般的なオフィス空間、例えば数台の空調装置を備え数十人が執務する環境では、実際に空調装置の設定を操作する人が限られ、一部の執務者が快適となり、多くの執務者が快適と感じる環境にならない場合がある。
【0003】
特許文献1には、執務者ごとに設けられたパーソナル用の吹き出し口が各個人の執務スペースの床部に設けられたパーソナル空調システムであって、各執務者が執務室内で常時保持するように配布された識別情報発信手段と、識別情報発信手段の位置情報を取得する位置情報取得手段と、を有し、空調の制御を執務者位置情報とリンクすることにより、執務者によるスイッチのオン/オフを不要とし、利便性を向上させたものが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、居住空間を構成する複数の居住区画毎に設置された空調ユニットを個別制御する空調管理システムであって、各個人端末からの空調個人情報に基づいて居住区画毎の個人的温冷感データの統計的評価を行なうものが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ユーザの前面側から調和空気が供給されることにより生じる不快なドラフト感に着目し、ユーザの快適性を向上させることを目的として、空調位置データと人位置データと向きデータとに基づいて、ユーザから所定距離未満の位置に配置されている空調機のなかでユーザの後方に配置されている空調機を優先的に用いてユーザに向けた局所空調を行わせる空調制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-24906号公報
【文献】特開2014-70865号公報
【文献】特開2008-196842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたパーソナル空調システムは、各執務者の環境を個別に制御できるので、快適な環境を実現できるが、パーソナル空調システムが導入されていない建物には適用できず、また、新たに導入する場合は設備コストが高くなるという課題がある。
【0008】
特許文献2に記載された空調管理システムは、様々な形状を有する建物やオフィス空間の居住区画をどの空調装置のエリアにするかなど、システム導入時の設定作業が多く必要となると考えられる。また、居住区画の境目付近にいる人については、快適性を確保することが難しい場合があるという課題がある。
【0009】
特許文献3に記載された空調制御システムは、ドラフト感に着目するものであり、ユーザが居室の壁面の近くに壁面に背を向けて座っている場合等においては、調和空気を十分に供給することが困難となると考えられる。
【0010】
本発明の目的は、執務者の位置情報及び温熱環境要望に対応する適切な空調管理を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数の空調装置を制御する空調管理システムにおいて、人から空調装置までの距離を検出する距離検出部と、人の温熱環境要望を受け取る要望検出部と、空調装置を制御する制御部と、を備え、制御部は、人から空調装置までの距離に基づいて、人に対する空調装置のそれぞれの分担率を算出し、人から受け取った温熱環境要望を空調装置のそれぞれに分担率で配分し、空調装置のそれぞれに配分された人の温熱環境要望に基づいて空調装置のそれぞれの出力を制御する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、執務者の位置情報及び温熱環境要望に対応する適切な空調管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の空調管理システムを示す構成図である。
【
図2】
図1の温熱環境要望配分部10の内部構成を示すブロック図である。
【
図3】執務者と空調装置との位置関係を示す平面図である。
【
図4】各執務者と各空調装置との距離及び方向のデータの例を示す表である。
【
図5】執務者と空調装置との距離に対する分担係数の設定例を示すグラフである。
【
図6】空調装置からの風の吹出し方向と空調装置から見た執務者の方向との偏差角に対する分担係数の設定例を示すグラフである。
【
図7】複数の空調装置から執務者までの距離及び方向の一例を示す平面図である。
【
図8】複数の空調装置の分担係数から分担率を算出する例を示す図である。
【
図9】空調装置の分担率のデータの例を示す表である。
【
図10】実施例2の空調管理システムを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、人の位置情報を用いた空調管理システムに関する。
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、実施例1の空調管理システムを示す構成図である。
【0017】
本図において、空調管理システム1は、制御部2と、空調装置31~34と、位置検出手段11と、要望検出手段12と、を備え、空調対象空間3に設置されている空調装置31~34により、複数の執務者4が在室する空調対象空間3の空調制御をする。なお、空調装置31~34は、必ずしも空調対象空間3に設置された空調装置本体でなくてもよく、空調出力を空調対象空間3に供給する室内機や、空調ダクトに接続された吹出し口であってもよい。
【0018】
制御部2は、温熱環境要望配分部10と、体感制御部21~24と、を備え、検出した複数の執務者4の位置情報及び温熱環境要望並びに外部から受信した快適ランクrank及び運転モードmodeに基づいて、空調装置31~34に制御指令を出力する。
【0019】
複数の執務者4は、例えばスマートフォン等の通信端末を各自携帯しており、位置検出手段11(人位置検出部)は、この通信端末の位置を検出することで各執務者の位置を検出する。制御部2は、位置検出手段11から取得したデータに基づいて、執務者から空調装置までの距離を算出することができる。また、要望検出手段12は、各執務者が通信端末を用いて申告した温熱環境要望を検出する。なお、各執務者が申告する温熱環境要望の内容は、例えば「暑い」または「寒い」といった体感である。ゆえに、温熱環境要望は、体感申告と言い換えることもできる。
【0020】
よって、通信端末は、執務者から空調装置までの距離を検出する手段(距離検出部)や、執務者の温熱環境要望を検出する手段(要望検出部)となり得る。
【0021】
温熱環境要望配分部10は、位置検出手段11から入力した各執務者の位置情報に基づいて、要望検出手段12から入力した各執務者の温熱環境要望を配分し、各空調装置31~34に担当させる温熱環境要望rq1~rq4と、各空調装置31~34に担当させる分担人数N1~N4と、を体感制御部21~24に出力する。
【0022】
体感制御部21~24は、外部から入力した快適ランクrankおよび運転モードmodeと、温熱環境要望配分部10から入力した各空調装置31~34に担当させる温熱環境要望rq1~rq4および分担人数N1~N4と、に基づいて、空調装置31~34に出力する設定温度Tref1~Tref4および運転モードmode1~mode4を算出する。
【0023】
空調装置31~34は、体感制御部21~24から入力した設定温度Tref1~Tref4および運転モードmode1~mode4に基づいて動作する。そして、空調装置31~34は、空調対象空間3から入力する室温Troom1~Troom4が設定温度Tref1~Tref4になるように、空調対象空間3への空調出力Pout1~Pout4を調整する。
【0024】
ここで、快適ランクrankは、空調対象空間3の快適性と省エネ性とのトレードオフに関係する設定であり、例えば「快適性を重視」または「省エネ性を重視」を入力する。また、運転モードmodeは、空調対象空間3の基本的な運転モードであり、例えば「冷房」、「暖房」または「停止」を入力する。
【0025】
図2は、
図1の温熱環境要望配分部10の内部構成を示すブロック図である。
【0026】
図2に示すように、温熱環境要望配分部は、距離・方向演算部41と、分担率演算部42と、要望分配部43と、分担人数算出部44と、を有する。
【0027】
位置検出手段11から入力した各執務者の位置と、要望検出手段12から入力した各執務者の温熱環境要望と、予め登録された各空調装置の位置(空調位置)と、予め登録された各空調装置の吹出し方向と、を用いて、体感制御部21~24に出力する温熱環境要望rq1~rq4及び分担人数N1~N4を算出する。
【0028】
距離・方向演算部41では、各執務者の位置と、各空調装置の位置と、を用いて、各執務者から各空調装置までの距離rと、各空調装置から見た各執務者の方向βを示す角度(以下単に「方向β」ともいう。)と、を算出する。
【0029】
この場合において、執務者と空調装置の位置から、距離と方向を算出する方法を説明する。
【0030】
図3は、執務者と空調装置との位置関係を示す平面図である。
【0031】
本図においては、空調対象空間3の平面上の位置を座標(x,y)で表している。この場合において、執務者50の位置を(x1,y1)、空調装置60の位置を(X1,Y1)とする。執務者50と空調装置60との距離は、x方向に(X1-x1)、y方向に(Y1-y1)であるから、距離rは、(X1-x1)と(Y1-y1)の二乗和の平方根で求められる。また、方向βは、(X1-x1)と(Y1-y1)を用いて逆正接で求められる。ここでは、方向βは、x軸を基準とした角度で定義している。
【0032】
α1~α4は、空調装置60の吹出し方向を示す角度であり、x軸を基準とした角度で定義している。この例では、空調装置60として、4方向に吹き出すタイプを想定している。
【0033】
α1は、x軸の向きと一致しているため、0度である。α2は90度、α3は180度、α4は270度である。ここで、空調装置60から見た執務者50の方向βは、吹出し方向α1~α4の中でα2に最も近くなっており、方向βと吹出し方向α2との差を偏差角θとする。
【0034】
図4は、
図2の距離・方向演算部41により算出される、各執務者と各空調装置との距離rおよび方向βの仮想的なデータを表で表したものである。
【0035】
本図においては、4台の空調装置1~4及び40人の執務者1~40についての例を示している。また、r(2,3)は執務者2と空調装置3との距離、β(2,3)は空調装置3から見た執務者2の方向を意味している。
【0036】
次に、
図2の分担率演算部42では、上記のように求めた各執務者と各空調装置との距離rおよび方向βのデータと、予め登録された各空調装置の吹出し方向と、を用いて、各執務者に対する各空調装置の分担率を算出する。
【0037】
図5は、執務者と空調装置との距離rに対する分担係数Krの設定例を示すグラフである。距離rと分担係数Krとの関係は、あらかじめ設定しておくものである。
【0038】
本図に示すように、距離rが近いほど分担係数Krが高くなり、距離rが遠いほど分担係数Krが低くなるようにしている。これにより、執務者の温熱環境要望が、近くの空調装置により高い比率で配分されるようにしている。
【0039】
図6は、吹出し方向と空調装置から見た執務者の方向との偏差角θに対する分担係数Kθの設定例を示すグラフである。距離rと分担係数Kθとの関係も、あらかじめ設定しておくものである。
【0040】
本実施例においては、4方向に吹き出すタイプを想定しているため、偏差角θの範囲は-45度から+45度までの90度となっている。偏差角θが0度に近いほど分担係数Kθが高くなり、偏差角θが±45度に近いほど分担係数Kθが低くなるようにしている。これにより、執務者の温熱環境要望が、吹出し方向が執務者の方を向いている空調装置により高い比率で配分されるようにしている。
【0041】
距離rと偏差角θの両方を考慮して分担係数Kを決める場合には、
図5に示す距離rによる分担係数Krと、
図6に示す偏差角θによる分担係数Kθとの積を用いて分担係数Kを決定すればよい。
【0042】
K=Kr×Kθ …式(1)
また、Kは、次の式のとおり、分担係数Krと分担係数Kθとの和として定義してもよい。
【0043】
K=Kr+Kθ …式(2)
各執務者について、すべての空調装置の分担係数を算出する。そして、この分担係数の比をそのまま分担率としてもよい。また、すべての空調装置の分担係数の合計に対する所定の比率(例えば上位75%)に達するまで、各空調装置の分担係数を高い順に積算し、このとき積算した分担係数の空調装置を選択し、この選択した空調装置について分担係数の比を分担率としてもよい。この場合、選択されなかった空調装置の分担率はゼロとする。
【0044】
以下、
図7および
図8を用いて分担率の決定方法を説明する。
【0045】
図7は、複数の空調装置から執務者までの距離及び方向の一例を示す平面図である。
【0046】
本図に示すように、空調対象空間20には、複数の空調装置61~64が設置されており、執務者51が在室している。複数の空調装置61~64のうち、執務者51に対しては、空調装置64の距離が最も近い。また、空調装置63は、距離は空調装置64より遠いが、偏差角θ63が小さいため、執務者51に対する吹出し空気の効果が高い。一方で、空調装置62は、距離は空調装置63と同程度であるが、偏差角θ62が大きく、吹出し方向から外れている。また、空調装置61は、距離が遠く、かつ偏差角θ61も大きく、吹き出し方向から外れている。
【0047】
これらの結果、執務者51に対する各空調装置61~64の分担係数は、空調装置63、64が大きく、空調装置61、62が小さくなる。
【0048】
図8は、
図7に示す各空調装置61~64の分担係数K61~K64から各空調装置の分担率を算出する例を示す図である。
【0049】
図8においては、説明のために分担係数として具体的な値(K61=0.1,K62=0.2,K63=0.5,K64=0.8)を例示している。
【0050】
まず、分担係数K61~K64の合計値(=1.6)を求める。次に、合計値の75%(=1.2)に達するまで分担係数を大きい順に加算していく。具体的には、まず、空調装置64の分担係数K64は0.8であり、合計値の75%(=1.2)より小さいため、空調装置63の分担係数K63を加算する。分担係数K64にK63を加算すると1.3となり、合計値の75%(=1.2)に達する。したがって、執務者51に対しては、2台の空調装置63、64が選択される。ここで、選択された空調装置は、「担当空調装置」と呼んでもよい。
【0051】
次に、選択された空調装置63、64の間で執務者51に対する分担率を算出する。このとき、分担率は、選択された空調装置の分担係数K63、K64の比とすればよい。したがって、空調装置63の分担率は0.38(=K63/(K63+K64))、空調装置64の分担率は0.62(=K64/(K63+K64))と求まる。なお、選択されない空調装置61、62の分担率はゼロとする。
【0052】
まとめると、執務者から空調装置までの距離を用いて、執務者に対して複数の空調装置から一つ以上の担当空調装置を選択し、執務者から担当空調装置までの距離を用いて、執務者に対する担当空調装置の分担率を算出し、執務者から検出した温熱環境要望を担当空調装置に分担率で配分し、担当空調装置に配分された執務者の温熱環境要望を用いて担当空調装置の出力を調整する。執務者から空調装置までの距離に加え、空調装置から見た執務者の方向を示す角度及び空調装置の吹出し方向を示す角度を用いて、執務者に対して複数の空調装置から一つ以上の担当空調装置を選択してもよい。
【0053】
また、空調装置から見た執務者の方向を示す角度と空調装置の吹出し方向を示す角度との差が小さいほど、当該空調装置の分担率を高くすることが望ましい。
【0054】
図9は、
図2の分担率演算部42で求めた分担率のデータの例を表で表したものである。
【0055】
図9に示すように、各執務者1~40に対する各空調装置1~4の分担率及び各空調装置1~4の分担人数が算出される。
【0056】
図2の要望分配部43では、この分担率のデータに基づいて、各執務者の温熱環境要望を各空調装置に配分する。
【0057】
図9において、執務者1の分担率は空調装置2が1.0であり、執務者1の温熱環境要望はすべて空調装置1に配分する。執務者2の分担率は、空調装置3が0.4、空調装置4が0.6であり、執務者2の温熱環境要望の40%を空調装置3に配分し、60%を空調装置4に配分する。執務者3の分担率は、空調装置1が0.5、空調装置2が0.4、空調装置3が0.1であり、執務者3の温熱環境要望は、50%を空調装置1に配分し、40%を空調装置2に配分し、10%を空調装置3に配分する。このように、各執務者からの温熱環境要望を分担率に基づいて各空調装置に配分し、各空調装置を制御する体感制御部21~24(
図1)へ出力する。
【0058】
図2の分担人数算出部44では、各空調装置に割り当てられた人数(分担人数)を算出し、各空調装置を制御する体感制御部21~24へ出力する。
【0059】
図9に示すように、各空調装置について、各執務者に対する分担率を合計し、分担人数を算出する。この例では、各空調装置の分担人数は、空調装置1が8.8、空調装置2が13.5、空調装置3が11.0、空調装置4が6.7である。各空調装置を制御する体感制御部21~24では、この分担人数を入力することで、入力した温熱環境要望の全体(分担人数)に占める割合を算出することができる。例えば、「暑い(温度を下げて欲しい)」という温熱環境要望が1.5の場合に、分担人数が6.0の場合はこの温熱環境要望が25%を占めると算出でき、分担人数が15.0の場合はこの温熱環境要望は10%と算出できる。
【0060】
なお、この例では、各執務者について、各空調装置の分担率の合計が1になるようにしているが、執務者により合計値を変えることで、執務者間に温熱環境要望の重みを設定することも可能である。例えば、執務者1の温熱環境要望を執務者2の温熱環境要望より重視したい場合には、執務者1の各空調装置の分担率の合計を1.5としたり、執務者2の各空調装置の分担率の合計を0.7としたりすればよい。
【0061】
また、この例では、空調装置の台数が4台の場合について説明し、各執務者について4台すべての空調装置に対する分担率を算出したが、より空調装置の台数が多い場合には、各執務者からの位置が遠い空調装置を分担率の算出対象から除外するようにしてもよい。例えば、各執務者について、距離が近い順に8台の空調装置を抽出する場合は、この抽出した8台の空調装置について分担率を算出し、抽出されなかった他の空調装置については分担率をゼロに設定するなどすればよい。
【0062】
このように、空調管理システム1では、基本的に執務者と空調装置との相対位置に基づいて空調制御を実施するため、空調対象空間のエリア設定に伴うシステム導入時の登録作業を削減することができる。もちろん、壁等で仕切られた別の空調対象空間が隣接する場合には、同じ空調対象空間内の執務者と空調装置との間で分担率を算出するようにする。
【0063】
また、本実施例で説明したように、空調管理システム1では、空調装置の吹出し方向から大きく外れた方向には空調空気が十分に届かない問題に関し、吹出し方向から外れた方向よりも吹出し方向に近い方向の分担係数を高くすることで、執務者の温熱環境要望を吹出し方向が執務者の方向に近い空調装置に配分する。これにより、既設の空調装置を利用しつつ執務者の快適性を高めることができる。
【0064】
言い換えると、本実施例によれば、既設の空調装置の出力を執務者の要望に応じてきめ細かく調整し、執務者の快適性を高めることができる。
【0065】
なお、本実施例においては、距離及び方向の両方を用いて分担率を算出しているが、距離のみを用いて分担率を算出してもよい。
【実施例2】
【0066】
図10は、実施例2の空調管理システムを示す構成図である。
【0067】
本図においては、空調管理システム5は、制御部6と、空調装置35~38と、位置検出手段14と、要望検出手段15と、を備え、空調対象空間7に設置されている空調装置35~38により、複数の執務者8が在室する空調対象空間7の空調制御をする。なお、空調装置35~38は、必ずしも空調対象空間7に設置された空調装置本体でなくてもよく、空調出力を空調対象空間7に供給する室内機や、空調ダクトに接続された吹出し口であってもよい。
【0068】
制御部6は、温熱環境要望配分部13と、体感制御部25、26と、を備え、検出した複数の執務者8の位置情報及び温熱環境要望並びに外部から受信した快適ランクrank及び運転モードmodeに基づいて、空調装置35~38に制御指令を出力する。
【0069】
本実施例の空調管理システム5は、実施例1の空調管理システム1と比較して、空調装置35~38を2つのグループに設定している点と、空調装置35~38の位置を検出できるようにしている点とが異なっている。既存の設備に新たに空調管理システムを導入する場合、複数の空調装置に対して同じ制御が適用されるようになっている場合がある。例えば、2台の空調装置に対して操作部が1つであり、2台の空調装置に同じ設定温度が適用される場合などがある。
【0070】
空調管理システム5では、空調装置35及び空調装置36に、また空調装置37及び空調装置38にそれぞれ、同じ設定温度が適用される場合の構成となっている。体感制御部25は、空調装置35及び空調装置36に設定温度Tref5及び運転モードmode5を出力し、体感制御部26は、空調装置37及び空調装置38に設定温度Tref6及び運転モードmode6を出力する。
【0071】
温熱環境要望配分部13では、空調装置35及び空調装置36に対する合計の温熱環境要望rq5及び分担人数N5を体感制御部25に出力し、空調装置37及び空調装置38に対する合計の温熱環境要望rq6及び分担人数N6を体感制御部26に出力するようにすればよい。
【0072】
言い換えると、複数の空調装置の一つ以上をグループとし、そのグループのそれぞれに属する空調装置は、同一の信号により制御される。
【0073】
このような構成にすることで、複数の空調装置に同じ設定温度が適用される場合についても、本開示の空調管理システムを導入することができる。
【0074】
また、空調管理システム5では、空調装置35~38の位置を検出できるようにしている。これにより、空調装置35~38の位置を登録する際に、検出した位置を登録することができる。また、執務者と同様に、空調装置35~38の位置を随時検出することもできる。これにより、システム導入時の登録作業を更に削減することができる。空調装置35~38に位置検出可能な通信端末(Bluetooth(登録商標)等)を付加すれば、空調装置35~38の位置を随時検出することは可能である。このような通信端末等を「空調位置検出部」ともいう。
【0075】
なお、実施例1および実施例2では一例として、各執務者が携帯する通信端末を用いて、各執務者の位置と温熱環境要望を検出できるようにする構成を説明したが、例えば、カメラ画像から各執務者の位置及び温熱環境要望を検出できるように構成しても、本開示の空調管理システムを適用することができる。
【0076】
また、実施例1および実施例2では一例として、各執務者の位置と各空調装置の位置とを用いて、各執務者と各空調装置との距離と方向を算出したが、例えば、各空調装置に各執務者との相対位置を検出できる機能を設けるなど、他の方法で各執務者と各空調装置との距離と方向を算出してもよい。
【0077】
以上のように、本開示の空調管理システムでは、各執務者と各空調装置との相対的な位置関係に基づいて、各執務者の温熱環境要望を各空調装置に配分して空調制御を実施することにより、システム導入時に空調対象空間をエリア設定するなどの登録作業を削減することができるとともに、既存の建物にも比較的容易に導入することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1、5:空調管理システム、2、6:制御部、3、7:空調対象空間、4、8:複数の執務者、10、13:温熱環境要望配分部、11、14:位置検出手段、12、15:要望検出手段、21~26:体感制御部、31~38:空調装置、41:距離・方向演算部、42:分担率演算部、43:要望分配部、44:分担人数算出部、50:執務者、60:空調装置。