(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
A63B 53/00 20150101AFI20240404BHJP
A63B 53/04 20150101ALI20240404BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20240404BHJP
【FI】
A63B53/00 Z
A63B53/04 E
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2021011845
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】592113511
【氏名又は名称】株式会社フォーティーン
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩之
【審査官】三田村 陽平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-135628(JP,A)
【文献】特開2014-151184(JP,A)
【文献】特開2007-215761(JP,A)
【文献】特開平02-063483(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0028880(US,A1)
【文献】特開2005-253562(JP,A)
【文献】特開2013-000161(JP,A)
【文献】特開2001-170221(JP,A)
【文献】特開2003-135631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの先端に、フェース部及びソール部を具備したヘッドを装着したアイアン型のゴルフクラブにおいて、
前記シャフトは、全長が35.5インチ以下であり、
前記ヘッドは、
前記シャフトの軸線を水平面に対して垂直に設置した際、ロフト角αが56°以上、フェースプログレッションFPが-1mmから-(ヘッドのホーゼル外径の半分の値)mmの範囲であり、
かつ、前記フェース部のフェースセンター部分での前記ソール部の断面形状は、リーディングエッジの高さHが8mm以上であり、接地点からリーディングエッジまでの距離をW1、接地点からトレーリングエッジまでの距離をW2とした場合、W1>W2である、
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】
前記ソール部の断面形状は、W1+W2が30mm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ。
【請求項3】
前記ソール部の断面形状は、接地点からリーディングエッジまでの距離W1の部分が曲率半径R1の湾曲面を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のゴルフクラブ。
【請求項4】
前記ソール部の断面形状は、接地点からトレーリングエッジまでの距離W2の部分が曲率半径R2の湾曲面を有しており、R1>R2である、
ことを特徴とする請求項3に記載のゴルフクラブ。
【請求項5】
前記ロフト角αは56°~58°であり、前記リーディングエッジの高さHは10mm~12mmであることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ。
【請求項6】
前記フェース部のフェース・バック方向の形状は、前記フェース部のフェースセンターの位置からトウよりの位置に最大幅を有することを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイアン型のゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アイアン型のゴルフクラブ(以下、アイアンクラブとも称する)として、打球時にボールの手前の地面を掘り、ボールに十分な推進力が伝わらないこと(チャックリ、ダフリ等とも称される)を防止するように、ソール部の接地側の表面を複数の平坦面で形成したヘッドを装着したものが知られている。例えば、特許文献1には、ヘッドのソール部を、正のバウンス表面、トレーリングソール表面、及び、これらの表面の間に位置する三日月形表面の3つの表面で形成した構成が開示されている。前記三日月形のフェース側には、バウンス表面との間で境界を規定するフェース側稜線が形成されており、バック側には、トレーリングソール表面との間で境界を規定するバック側稜線が形成されている。
【0003】
上記したヘッドを有するアイアンクラブによれば、正のバウンス表面の傾斜角度θ1によって地面を掘ることが抑制され、かつ、トレーリングソール表面の負の傾斜角度θ3によって抜けが良くなり、地面を掘る現象が抑制できるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した構成のアイアンクラブでは、ソール部の表面が、平坦な複合面で構成されているため、稜線部分が抵抗となり易く、地面を掘る現象を十分に抑制することはできない。また、アドレスした際、特許文献1の
図2及び
図3に示すように、バック側稜線が接地するようにソール部の形状を形成しているため、アドレスした際に安定感を欠き、距離感及び方向性に影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
また、ゴルファーは、コースでプレーする場合、ロフト角(番手)が異なる複数のアイアンクラブを携行しており、グリーンまでの距離、地面の状態等を考慮して、最適な番手のアイアンクラブを選択してショットを行なっている。具体的には、グリーンまでの距離が近くなると、ロフト角が大きいアイアンクラブを選択してピンを狙うようにショットを行なう。これは、ロフト角が大きいアイアンクラブは、シャフトが短いことから操作性が良く、飛距離も短いことから、グリーンの周辺では、ロフト角が大きいアイアンクラブ(ピッチングウエッジ、アプローチウエッジ、サンドウエッジ等)を選択し、ボールを高く上げるロブショットで距離を合わせることが行なわれている。
【0007】
上記した特許文献1には、アイアンクラブの番手に応じて、バウンス表面の幅、トレーリングソール表面の幅、三日月形表面の幅、バウンス角、リーディングエッジの高さに関し、適切となる数値を示しているが(表I)、特にグリーン周りにおいて、打球時に地面
を掘る現象を抑制し、しかも距離感や方向性を合わせ易くするような構成を開示、示唆していない。すなわち、グリーン周り(主に30ヤード以下を想定)では、ロフト角が大きいクラブでロブショットのように高くボールを上げるよりも、低い弾道のランニングアプローチの方が距離感を出し易いケースが多く、しかも短いシャフトであれば、操作性も良くなり、結果的に、ピンに向けて方向性及び距離が正確なショットを行い易くなるが、従来のロフト角が大きいアイアンクラブでは、そのようなショットを行い易くする構成になっていない。
【0008】
本発明は、上記した問題に基づいてなされたものであり、打球時にボールの手前の地面を掘ることによるチャックリ現象が抑制でき、距離感及び方向性が出し易く、操作性の良いアイアン型のゴルフクラブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明は、シャフトの先端に、フェース部及びソール部を具備したヘッドを装着したアイアン型のゴルフクラブにおいて、前記シャフトは、全長が35.5インチ以下であり、前記ヘッドは、ロフト角αが56°以上、フェースプログレッションFPが-1mmから-(ヘッドのホーゼル外径の半分の値)mmの範囲であり、前記フェース部のフェースセンター部分での前記ソール部の断面形状は、リーディングエッジの高さHが8mm以上であり、接地点からリーディングエッジまでの距離をW1、接地点からトレーリングエッジまでの距離をW2とした場合、W1>W2であることを特徴とする。
【0010】
上記した構成のゴルフクラブは、シャフトが35.5インチ以下であるため、操作性が良くなり、ロフト角αが56°以上で、フェースプログレッションFPを-1mm~-(ホーゼル外径の半分)mmとしたことで、アドレスした際に、ボールを右足側に置いてハンドファーストに構え易くなる。このため、テークバックからインパクトに至るまでのスイングをスムーズに動かすことができ、ボールに対してフェース面をスムーズにコンタクトすることができるとともに、上から振り抜いてインパクトし易くなる(上から振り下ろし易くなる)。また、ハンドファースト状態に構えてフェース面を正面に向かせると、インパクトロフト角は、実際のロフト角(リアルロフト角)よりも10°~20°程度小さくなるが、このインパクトロフト角によって、ハンドファーストに構えて打球する際、リアルロフト角での打球と比較すると、弾道を低くする(高く上げない)ことができ、ピンまでの距離感を合わせ易くなる。なお、ハンドファーストで打球する際、フェース面が立った状態(10°~20°ロフトが立った状態)となるが、リーディングエッジの高さHが8mm以上あるため、フェース面が立っても高さをある程度維持してチャックリ現象を抑制することができる。また、接地点からリーディングエッジまでの距離をW1、接地点からトレーリングエッジまでの距離をW2とした場合、W1>W2としたことで、接地が安定し、ボールの手前でワンタッチしても滑り易くなり、チャックリ現象を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、打球時にボールの手前の地面を掘ることによるチャックリ現象を抑制することができ、距離感及び方向性が出し易く、操作性の良いアイアン型のゴルフクラブが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るゴルフクラブ(アイアン型のゴルフクラブ)の一実施形態を示す正面図。
【
図2】
図1に示すゴルフクラブを、設定されているロフト角(リアルロフト角)で構えた状態を示す図。
【
図3】ヘッドのフェースセンター部分の断面図であり、フェース面をリアルロフト角で接地した状態及びハンドファーストにしてインパクトロフト角で設置した状態を示す図。
【
図4】リアルロフト角とインパクトロフト角のフェース面の角度変化を示す図。
【
図6】(a)~(c)は、それぞれ
図5のA-A線、B-B線、C-C線に沿った断面図。
【
図7】ロフト角が56°以上のゴルフクラブに関し、本発明の実施例(本発明品)と、市販化されているゴルフクラブ(従来品)について比較した表であり、(a)は、評価結果を示す表、(b)は、試打試験を行なったゴルファーのクラブ毎の試打結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明に係るゴルフクラブの実施形態について、
図1から
図6を参照して説明する。
【0014】
本実施形態に係るゴルフクラブ1は、シャフト3の基端にグリップ5を止着し、先端にアイアン型(ウエッジタイプ)のヘッド10を装着した構成となっている。
前記シャフト3は、スチール又は繊維強化樹脂(FRP)で形成されており、その全長は、35.5インチ以下、好ましくは35インチ以下に構成されている。
【0015】
前記ヘッド10を構成するヘッド本体12は、トップ部12A、ソール部12B、トウ部12C、ヒール部12D、バック部12E、及び、打球が成されるフェース部12Fを具備しており、そのヒール側には、前記シャフト3の先端が挿入されて止着されるホーゼル15が形成されている。
【0016】
前記ヘッド本体2の構成材料については特に限定されることはないが、例えば、チタン、チタン合金、ステンレス鋼、炭素鋼、タングステン、タングステン合金等の金属材料を用いることができ、本実施形態は、このような金属材料を鋳造、鍛造などによって、一体形成されている。
この場合、ヘッド本体12を構成する構成体(トップ部12A、ソール部12B、トウ部12C、ヒール部12D、バック部12E、及び、フェース部12F)については、いずれかの部分を一体的に鋳造又は鍛造によって形成し、それ以外の部分についても、一体的に鋳造又は鍛造によって形成し、両者を一体化したものであっても良い。例えば、トップ部12A、ソール部12B、トウ部12C、ヒール部12D及びバック部12Eを鋳造又は鍛造によって一体形成し、この一体化された構成体に対して、別体として形成された板状のフェース部材(フェース部12F)を溶接することでヘッド本体を構成しても良い。すなわち、打球がされる部分については、最適な構成材料にしてヘッドを形成することも可能である。
なお、本実施形態のヘッド本体12は、板状のフェース部12Fの裏面(バック部12E)に凹所12aを形成しており、キャビティ構造となっているが、このような凹所を形成することなく、バック部12Eはフラット状に形成されていても良い。
【0017】
前記トップ部12A、ソール部12B、トウ部12C及びヒール部12Dは、それぞれフェース・バック方向に向けて略均一の肉厚を有しており、ソール部12Bについては、他の部位よりもフェース・バック方向の厚さを厚肉化して低重心化を図っている。また、前記ヘッド本体12のフェース部12Fは、シャフト3の軸線Xを水平面Pに対して垂直に設置した際(
図2及び
図3の左図)、軸線Xに対する傾斜角度(ロフト角又はリアルロフト角とも称する)αが56°以上に設定されている。
なお、一般的なアイアン型ゴルフクラブにおいて、ロフト角が56°~58°程度に形成されているものはサンドウエッジに相当する。
【0018】
前記フェース部12Fには、打球がなされる領域(トウ・ヒール方向のLfの範囲;
図5参照)に沿って多数本のスコアライン12bが形成されており、そのスコアラインの略中央部にフェースセンターFCが存在している。フェースセンターFCは、ゴルファーがボールを打球しようと意識する部分であり、本発明では、少なくともこのフェースセンターFCの部分における断面形状(ソール形状;
図3)が以下のように構成されている。
【0019】
前記ヘッド本体12は、リーディングエッジ20から軸線Xまでの距離(フェースプログレッションFPと称される)がマイナス値となるように形成されており、いわゆるグース形状となるように構成されている。ヘッド本体12がグース形状になることで、ゴルファーにとっては、アドレスした際、フェース部12Fが後方側に位置する状態(
図2参照)となって違和感が生じる傾向になるため、アドレス時において、自然とボールの位置を右足側にして、ヘッドの位置よりもグリップが前側となるハンドファーストに構え易くなる。そして、このようにハンドファーストに構えることで、テークバック、トップ、インパクトに至るまでのスイング起動をスムーズに動かしてボールにコンタクトし易くできるとともに、上から振りおろしてインパクトし易くなる。
【0020】
上記したように、ボールを右足側に置いてハンドファーストに構えた際、フェース面をターゲット方向に対して直交する状態にセットすると、リアルロフト角αよりもフェース部12Fが立った状態となる(
図3の右図、
図4の点線)。この状態でのロフト角(インパクトロフト角と称する)α1は、上記したリアルロフト角αよりも小さくなり、リアルロフト角αで打球する場合と比較すると、その弾道を低くしてランニングアプローチさせ易くすることができる。
【0021】
本発明のように、ロフト角αが56°以上のヘッド本体であれば、インパクトロフト角α1は、ロフト角αに対して10°~20°程度立つ(
図4のθが10°~20°)ようにすることが好ましい。このため、ヘッド本体12は、上記したフェースプログレッションFPの値を小さく(リーディングエッジ20からの距離を大きく)形成することで、そのようなインパクトロフト角α1に構え易くすることができる。具体的には、フェースプログレッションFPの値を-2mmに以下にして、リーディングエッジ20からの距離を大きく形成することで、ハンドファーストにした際、そのようなインパクトロフト角α1に構え易くすることができる。ただし、フェースプログレッションFPについては、小さくすることが好ましく、大き過ぎると、ハンドファーストが強くなり過ぎて、構え難くなる。その下限値は、-(ヘッドのホーゼル外径の半分の値)mmであり、通常のホーゼルでは、-6.5mm~-7mm程度が下限値とされる。
【0022】
なお、ヘッド本体をグースタイプにしたウエッジタイプのゴルフクラブについては市販化されたものも存在するが、フェースプログレッションFCは、2.5mm~-1mm程度となっている。このような公知のゴルフクラブと、フェースプログレッションFCを-2mm以下に設定したヘッド本体を有するゴルフクラブと比較すると、後者の方がボールを右足寄りに置くことに違和感が無くなり、リアルロフト角αに対してインパクトロフト角α1を10°~20°立たせた状態でハンドファーストに構え易くさせることができる。
【0023】
また、上記した構成において、前記フェース部12Fのフェースセンター部分でのリーディングエッジ20の高さHは、8mm以上となるように形成されている。リーディングエッジ20の高さHは、通常のサンドウエッジでは、6mm前後に形成することが多いが、本発明では、8mm以上の高さHを確保している。このため、リアルロフト角αの状態でアドレスすると、リーディングエッジ20はかなり浮いた状態となってトップし易い傾向となるが、上記したように、インパクトロフト角α1でアドレスすると、その高さH´は低くなるため、トップが生じ難くなると共に、ある程度の高さが維持されているため、チャックリ現象を生じ難くすることができる。
【0024】
例えば、リアルロフト角αが56°~58°でリーディングエッジ20の高さHを10mm~12mmにすると、ハンドファーストに構えてフェース部を10°~20°程度立たせても、高さH´は9.4mm~7.4mm程度を確保することができる。このように、インパクトロフト角α1の状態において、高さH´がある程度、確保されることから、チャックリ現象を効果的に抑制することができる。また、インパクトロフト時における高さH´がある程度高いと、トップが生じる可能性もあるが、ボールが芝の上にあり、沈み込んだ状態になっていれば、トップは生じ難い。すなわち、本発明のゴルフクラブは、ボールがグリーン周りの芝の上にある状態でアプローチショットを行なうようなケースで特に適したものとなる(ボールが沈み込んだ状態では、インパクトロフト時における高さH´が低いと、チャックリ現象が生じ易くなる)。
【0025】
また、前記ソール部12Bの断面形状は、リアルロフト角αとなるようにアドレスした際の最下点となる接地点30からリーディングエッジ20までの距離をW1、その接地点30からトレーリングエッジ21までの距離をW2とした場合、W1>W2となるように形成されている。これは、
図3に示すように、ハンドファーストに構えると、最下点となる接地点30´は、前記接地点30の位置よりも、多少、前方にシフトすることから、W1を大きくなるように形成することで、ハンドファーストに構えた際の接地が安定(アドレスが安定)させることができると共に、前記高さH´をある程度確保できるので、チャックリ現象を生じ難くすることができる。
【0026】
なお、上記したソール部の形状については、ソール部のフェース・バック方向の長さ(厚さ)であるW1+W2が30mm以下に形成することが好ましい。これは、30mmを超えてしまうと、必要以上にソール側が重量増になってしまい、操作性を低下させる不具合が発生する傾向になるためである。また、アドレス時の安定性を考慮すると、W1については、リアルトロフト時における高さHより長い構成であることが好ましいが、インパクトロフト時における高さH´が5mm以上、確保されていれば、リアルロフト時における高さHより短い構成(ソール幅が薄肉厚)であっても良い。
【0027】
また、ソール部12Bの断面形状については、接地点30からリーディングエッジ20までの距離W1の部分が湾曲面(曲率半径をR1とする)を有するように形成することが好ましい。
このように、接地点30からフェース側を、湾曲面を有するように形成することで、インパクト時において滑り易くなり、チャックリ現象を抑制できると共に、接地面の状況に応じて、ハンドファーストにする際、湾曲面に沿って回動するので接地状態が安定し、ハンドファーストに構え易くなる。
【0028】
上記した構成において、接地点30からトレーリングエッジ21までの距離W2の部分については、直線状に形成されていても良いが、湾曲面(曲率半径をR2とする)を有するように形成することが好ましい。このように、ソール部を、フェース・バック方向全体に亘って湾曲形状にすることで、アドレス時において、ソール部を接地した状態で回動操作し易くなり(ソール部が点接触した状態で回動する)、ソール部を接地した状態で、リアルロフト角の状態から、インパクトロフト状態となるハンドファーストに構える際、その操作を違和感なく行えるようになる。
【0029】
なお、上記したソール部12Bについては、湾曲形状にした場合、R1>R2にすることが好ましい。
これは、接地点30からリーディングエッジ20の領域は、インパクト時に、地面に滑らせて打つイメージであるため、上記したように、W1をW2よりも大きくしつつ、曲率半径R1も曲率半径R2よりもある程度大きくすることで、滑り易くなってチャックリ現象を効果的に抑制できるようになる。
【0030】
上記したソール部12Bの断面形状については、フェースセンターFCの部分(
図5のB-B線に沿った位置)の断面形状が上述したような形状になっていれば良く、それ以外の部分の断面形状については、特に限定されることはない。ただし、本実施形態では、
図6に示すように、スコアラインが形成される領域Lfのトウ・ヒール方向の領域において、略同一の断面形状となるように形成されており、打点位置が多少ばらついても、フェースセンター部分で打球した際と同様な感覚が得られるように構成している。
【0031】
また、ソール部12Bのフェース・バック方向の形状については、
図5に示すように、フェースセンターの位置(B-B線の位置)から多少、トウよりの位置に最大幅L1を有することで、重量的に必要なソール幅を確保しつつ、Lfの中心位置が地面に当たり過ぎない(邪魔にならない)形状となる。さらに、ソール部12Bのトウ・ヒール方向の表面形状については、平坦面に形成しても良いが、上記したフェースセンターの位置を頂点とした湾曲形状に形成することが好ましい。このような表面形状にすることで、ライの状態に応じてヘッドを安定して接地させることが可能となる。
【0032】
上記したゴルフクラブは、初級者、中級者、上級者のレベルに関係なく、特に、グリーン周りが苦手な人に適した構成となっている。一般的に、グリーン周り(主に30ヤード未満を想定している)では、リアルロフト角が大きいゴルフクラブを使用するケースが多く、このようにリアルロフト角が大きいゴルフクラブでは、打球の弾道が高くなって距離合わせが難しくなると共に、チャックリ現象も生じ易くなっている。
これに対し、本発明のゴルフクラブは、操作性が良く、ボールを高く上げずに、ランニングアプローチで距離を合わせ易くすることを目的としており、しかもチャックリ現象が生じ難いように、シャフト長、フェースプログレッションFP、ソール部の形状に特徴を備えている。すなわち、ハンドファーストに構えさせてインパクトロフト角を小さくすることでランニングアプローチさせ易くなるが、そのインパクトロフト角と同等なリアルロフト角が小さいゴルフクラブでは、シャフトが長くなって操作性が悪くなってしまう。
【0033】
これに対し、ロフト角を56°以上のゴルフクラブは、シャフト長が短く、ハンドファーストに構えて打球する際、打球を低くするインパクトロフトにすることができ、ランニングアプローチさせ易くすることができる。すなわち、ハンドファーストに構えたリアルロフト角を20°程度立たせると、インパクトロフト角は、40°以下となり、ランニングアプローチさせ易くなる。
【0034】
また、ヘッド本体のソール部12Bについては、フェースプログレッションFPをグースタイプにしており、ボールを右足側においてハンドファーストに構え易いようにしている。具体的なフェースプログレッションFPについては、-1mm以下であれば、ハンドファーストに構え易くさせることができるが、リアルロフト角αに対して、インパクトロフト角α1を10°~20°、特に、20°程度立たせ易くするように、上記のように-4mm以下にすることが好ましい。
これにより、上記した短いシャフト長によって操作し易く、ハンドファーストに構えてボールにミートし易くすることが可能となる。この場合、ボールを右足側に置いてハンドファーストに構えた際、フェース面がターゲット方向に向き易くなる。また、ハンドファーストにすると、テークバックからインパクトをスムーズに動かして、ボールの手前側からヘッドが入り、インパクトし易くなる(このとき、ボールの手前側で地面にワンタッチし易いが、本発明では、ソール形状によって、ソール部が地面に潜り込むことなく滑り、チャックリ現象を抑制するようにしている)。
【0035】
ソール部のリーディングエッジの高さHについては、8mm以上あれば、ハンドファーストに構えて10~20°ロフトが立っても、インパクトロフト角の高さH´がある程度確保されるため、チャックリ現象を抑制できる。従来のゴルフクラブでは、高さHが6mm前後と低く、ハンドファーストに構えた状態では、その高さH´が低くなることから、ボールを打つ前に地面にワンタッチさせており、これがチャックリ現象を誘引し、インパクトを難しくしている要因となっている。
【0036】
本発明では、高さHを8mm以上、特に、11mm以上あるように形成すると、通常にアドレスしてソールを接地するとリーディングエッジ20が浮いた状態になるが、ハンドファーストに構えた際、多少、その高さH´が低くなっても、ある程度の高さが維持された状態になるので、チャックリ現象を抑制することができる。
【0037】
なお、高さHについては、フェースプログレッションFPが小さく(0よりさらに小さい)なるほど、高くなるように形成した方がチャックリ現象の防止効果は出易くなる。ただし、高さHが高くなり過ぎると、ハンドファーストに構えて打球した際、トップの現象が生じ易くなってしまう。実際に、多数の打球をして検証したところ、ハンドファーストにして、リアルロフト角から約20°インパクトロフト角を立てた際、その高さH´が10mmを超えていると、トップが出やすい傾向となるため、フェースプログレッションFPの値については、リアルロフト角から20°インパクトロフト角を立てた際のリーディングエッジの高さH´が10mm以下となるように形成するのが好ましい。
【実施例】
【0038】
図7は、ロフト角が56°以上のゴルフクラブに関し、シャフト長、ロフト角(リアルロフト角α)、フェースプログレッション(FP)、リアルロフト角でのリーディングエッジ部分の高さH、インパクトロフト角α1を20°立たせたときのリーディングエッジ部分の高さH´について、上記した構成を有する本発明の実施例と、市販化されているゴルフクラブ(従来品)について比較した表であり、(a)は、評価結果を示す表、(b)は、試打試験を行なったゴルファーのクラブ毎の試打結果を示す表である。
【0039】
本実施品は、従来品と比較し、フェースプログレッション(FP)を-4.5mmに形成し、かつ、リーディングエッジの高さHを11.6mmに形成している。これにより、ハンドファーストに構えたときのインパクトロフト角を20°程度立たせた際のリーディングエッジの高さH´は7.4mmとなり、いずれの従来品とも異なる構成となっている。
【0040】
上述したように、本発明は、グリーン周りのアプローチを苦手とするゴルファー向けに適したゴルフラブであり、本実施品と従来品A~Fの7本のクラブを用いて、アプローチショットがどの程度向上するか、グリーン周りで試打試験を行なった。試打試験は、初級者レベル(H/C36)から上級者レベル(HC/4)で、グリーン周りのアプローチが苦手と称したゴルファー5名(試打者1~5)で行なった。各ゴルファーは、グリーン周りの30ヤード以下で任意の位置を選んでもらい、その選んだ位置で、各クラブでアプローチショットを10球打った。この場合、ショットに際しては、いずれのクラブもインパクトロフト角が約20°程度立つように、ハンドファーストに構えて行なうようにした。
そして、試打したクラブ毎に、ピンから2m以下に寄せた割合(P)、ピンから4m以下に寄せた割合(Q)、それ以外の割合(チャックリやトップなどのミスショットで寄せきれなかった割合(R))を出した。
【0041】
図7の表で示すように、本発明品は、従来品A~Fのゴルフクラブと比較して、2m乃至4m以下に寄せた割合が最も多く、難易度が最も低いゴルフクラブであるとの結果が得られた(
図7で示す難易度1~7は、ピンから2m以下に寄せた割合(P)に対応しており、最も割合が高いものを難易度が低いものとして7(本発明品)としてある。このため、最も難易度が高いゴルフクラブは、難易度1の従来品Dである)。なお、従来品Fは、フェースプログレッションが1.8mmのグースタイプであるものの、本発明品程の効果を得ることはできなかった。この試打試験から明らかように、本発明品によれば、初級者から上級者に関係なく、グリーン周りのアプローチショットが苦手なゴルファーにとって、総じてピンに寄せ易い、という結果が得られた。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々、変形することが可能である。
本発明は、ウエッジタイプのゴルフクラブにおいて、ヘッド本体を極端なグース形状にし、かつ、その際のリーディングエッジ20の高さHを高くすること、及び、接地点から前方の距離を後方の距離よりも長くしたことに特徴があり、それ以外の構成については適宜変形することが可能である。ヘッド本体については、例えば、プレーンタイプしたり、中空構造にするなど、適宜変形することが可能である。また、フェース部については、部分的に厚肉化されていたり、リブや凹所等が形成されていても良い。また、ヘッド本体の形状や各構成体(トップ部、ソール部、トウ部、ヒール部、バック部、フェース部)同士の止着位置や止着方法については、適宜、変形することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 ゴルフクラブ
3 シャフト
10 ヘッド
12 ヘッド本体
12A トップ部
12B ソール部
12C トウ部
12D ヒール部
15 ホーゼル
20 リーディングエッジ
21 トレーリングエッジ
30 接地点