(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】モ-ルド変圧器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/30 20060101AFI20240404BHJP
H01F 27/26 20060101ALI20240404BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
H01F27/30 160
H01F27/26 130B
H01F30/10 T
(21)【出願番号】P 2021106467
(22)【出願日】2021-06-28
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊明
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-087823(JP,U)
【文献】特開平10-172837(JP,A)
【文献】実開昭56-154136(JP,U)
【文献】特開平10-335150(JP,A)
【文献】特開2018-107224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/30
H01F 27/26
H01F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧損失の少ない材料からなる略矩形環状の鉄心と、
絶縁性のモ-ルド樹脂に被われた一次巻線および二次巻線と、
前記鉄心を保持する締め付け金具と、
前記鉄心と共に、前記一次巻線および前記二次巻線を巻き回されており、前記締め付け金具に到達するまで前記鉄心に沿って長手方向に延在した楔板と、を備え、
前記楔板の長手方向端部に近い部分を
挟み込むことにより予め定められた自由度を以って規制する
一対の規制部材を前記締め付け金具に
位置調整可能に設けたことを特徴とするモ-ルド変圧器。
【請求項2】
前記
規制部材は、前記締め付け金具の端面に設けられた凹形状の切り欠き部に接合する凸形状の突出部を有することを特徴とする請求項1に記載のモ-ルド変圧器。
【請求項3】
前記規制部材は、前記締め付け金具の側面に一対のピン形状に形成され、前記ピンが前記楔板を予め定められた自由度を以って規制することを特徴とする請求項1に記載のモ-ルド変圧器。
【請求項4】
前記規制部材は、前記締め付け金具の側面に溝形状のガイドに形成され、前記ガイドが前記楔板を予め定められた自由度を以って規制することを特徴とする請求項1に記載のモ-ルド変圧器。
【請求項5】
前記規制部材は、前記楔板を規制する規制幅を予め定められた自由度を以って調整されるように、前記締め付け金具に対して位置調整可能とすることを特徴とする
請求項1乃至4に記載のモ-ルド変圧器。
【請求項6】
電圧損失の少ない材料からなる略円環形状の鉄心と、絶縁性のモ-ルド樹脂に被われた一次巻線および二次巻線と、前記鉄心を保持する締め付け金具と、前記鉄心と共に、前記一次巻線および前記二次巻線を巻き回され、前記締め付け金具に到達するまで前記鉄心に沿って長手方向に延在した楔板と、を備えたモールド変圧器の製造方法であって、
前記楔板の長手方向端部に近い部分を
、前記締め付け金具に位置調整可能に設けた一対の規制部材により挟み込むことにより予め定められた自由度を以って前記締め付け金具に規制することを特徴とするモールド変圧器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動により構成部品を破損させることのない、耐震性を向上したモ-ルド変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
地震による振動(またはこれに相当する外力)が変圧器に加わった際、鉄心、および鉄心に巻き回される巻線がずれたり、鉄心が保持用金具に対してずれたりすることがある。鉄心が保持用金具に対してずれると、変圧器の所望の変圧機能を発揮できない機能性異常を発生させる可能性がある。このような配置がずれる現象を防ぐ方法として特許文献1には「楔板は帯板上の金属板により形成することができるが、この楔板を金属板により形成する場合には、該楔板の両端をコイルの両端から突出させて鉄心の上部継鉄部及び下部継鉄部をそれぞれ締付ける上下の鉄心締付金具に連結することにより、楔板を、上下の鉄心締め付け金具間を連結する上下連結金具として兼用することができる」ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような変圧器の構成では、鉄心を継鉄部に固定する位置関係がずれる現象を防ぐ方法として、
図6に示すように、各鉄心と内側コイル間に楔板80を挿入し、鉄心を上部締め付け金具、下部締め付け金具、上下連結金具等を使用して固定することも考えられるが、固定する際にボルト等の連結部が必要となり、変圧器を設置する設備が大型化したり、連結することで地震等強い振動が加わった際に変圧器の構成部品が破損したりする恐れがある。
【0005】
本発明は、変圧器の機能性異常を発生させることなく、大きな振動が発生した際にも壊れにくい耐震構造を、変圧器を設置する設備を大型化することなく実現するモールド変圧器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための、本願発明のモ-ルド変圧器の一例を挙げるならば、電圧損失の少ない材料からなる略矩形環状の鉄心と、絶縁性のモ-ルド樹脂に被われた一次巻線および二次巻線と、前記鉄心を保持する締め付け金具と、前記鉄心と共に、前記一次巻線および前記二次巻線を巻き回されており、前記締め付け金具に到達するまで前記鉄心に沿って長手方向に延在した楔板と、を備え、前記楔板の長手方向端部に近い部分を予め定められた自由度を以って規制する規制部材を前記締め付け金具に設けた構成を有する。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、変圧器の機能性異常を発生させることなく鉄心の移動を規制し、大きな振動が発生した際にも壊れにくい耐震構造を、変圧器を設置する設備を大型化することなく実現するモールド変圧器を提供する。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】三相三脚型モ-ルド変圧器100の外観斜視図
【
図2】実施例1における鉄心、巻線および楔板を配置した三相型モールド変圧器100を正面から見た断面図
【
図3】実施例1における鉄心、巻線および楔板を配置した三相型モ-ルド変圧器100の側面図
【
図4】実施例1における鉄心、巻線および楔板を配置した三相型モ-ルド変圧器100の上部詳細図
【
図5】実施例3における鉄心、巻線および楔板を配置した単相型モ-ルド変圧器200の正面から見た断面図
【
図6】モ-ルド変圧器の従来技術の配置関係を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。更に、以下の実施の形態では便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細補足説明などの関係にある。
【0010】
図1に、三相三脚型のモ-ルド変圧器100の外観斜視図を示す。
図1において、各部の機能、構成を順次説明する。金属製の上部締め付け金具40aおよび下部締め付け金具40bは、モ-ルド変圧器100本体を上下方向から挟み込み、モールド変圧器100を設置する受電設備等に固定している。
【0011】
図1に示すモールド変圧器100は、1次側端子60、2次側端子50をそれぞれ3端子設けており、各端子に応じて1次側タップ切換器70を設けている。また、
図2は、
図1におけるモールド変圧器100の内部構造断面図を示しており、外側鉄心30a、左内側鉄心30b、右内側鉄心30c、1次巻線10u,10v,10w、2次巻線20u,20v,20wおよび楔板90の配置関係を示す断面図である。
【0012】
図2に示すように、三相三脚型のモ-ルド変圧器100は2つの左内側鉄心30b、右内側鉄心30cを配置し、左内側鉄心30b、右内側鉄心30cを囲むように外側鉄心30aを配置して三脚の鉄心を構成する。そして、3脚の鉄心のそれぞれに、絶縁性のモールド樹脂で覆われた2次巻線20u,20v,20wを巻き回し、その外側に絶縁性のモールド樹脂で覆われた1次巻線10u,10v,10wを巻き回して変圧器を構成している。
【0013】
外側鉄心30a、左内側鉄心30b、右内側鉄心30cは、変圧器のコアとなるもので略矩形環状を形成し、鉄損が少なく、飽和磁束密度・透磁率の大きい材料が適しており、ケイ素鋼板が多く用いられ、特定の方向に磁化し易い方向性鋼板が採用されることも多い。また、特に損失の低減を図る目的でアモルファス磁性材料が用いられることもある。上記各鉄心は、
図2において略矩形環状として記載しているが、略矩形環状に拘らず、変圧機能を発生させる形状であればよい。
【0014】
モールド変圧器100は、1次側端子60から電圧を入力することにより、外側鉄心30a、内側鉄心30b、右内側鉄心30cに巻き付けてある1次巻線10u,10v,10wに電圧を印加し、1次巻線10u,10v,10wと2次巻線20u,20v,20wの巻線数比の関係から、電磁誘導作用(ファラデーの法則)により変圧された電圧を2次巻線20u,20v,20wを経て、2次側端子50から出力させる構成を有する。
【0015】
1次側タップ切換器70は、製造された変圧器の巻線数比の誤差により出力される電圧に誤差が発生する可能性があるため、出力電圧を所望の電圧に適合するように出力電圧の調整機能を有する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を
図2、
図3、
図4を用いて説明する。
図2は、図面の向かって左側から外側鉄心30aと左内側鉄心30bの間、左内側鉄心30bと右内側鉄心30cの間、右内側鉄心30cと外側鉄心30aの間にそれぞれ楔板90を配置している。3つの楔板90は、絶縁性材料を使用しており、上部締め付け金具40aおよび下部締め付け金具40bと、モールド変圧器100の導通部分とが電気的に絶縁されている。3つの楔板90を金属材料とする場合、鉄心積層面の端面に絶縁被覆処理を施す、または絶縁板を挟むなど絶縁性に対処する必要がある。
【0017】
楔板90は、外側鉄心30aの高さ方向に、外側鉄心30aと略同一高さを有し、外側鉄心30a、左内側鉄心30bと右内側鉄心30cに対して、変圧機能に異常を発生させないように各鉄心と共に、1次巻線10u,10v,10wと2次巻線20u,20v,20wが巻き回されることで鉄心に保持されている。
【0018】
図3は、3つの鉄心30a、30b、30cの前面側に楔板90を配置したモ-ルド変圧器100の側面方向の断面図である。上部締め付け金具40aの側面に一対の規制部材110が突出している。1次巻線10u,10v,10wと、2次巻線20u,20v,20wが3つの鉄心に巻き回されることにより、3つの鉄心30a、30b、30cと各楔板90を拘束しており、各楔板90の上部を一対の規制部材110が挟み込むことにより、変圧器の機能性異常を発生させることなく、強い振動によって破損することのない程度に、予め定められた自由度で楔板90を規制している。
【0019】
図3において、楔板90は、鉄心30a、30bの左側側面に設けられているが、鉄心の右側、もしくは両側に設けてもよい。言い換えれば、各鉄心の略矩形環状の内環を通過する方向のいずれか片側、もしくは両側の鉄心側面に設けてもよい。
【0020】
すなわち、楔板90が各鉄心のストッパの機能を有しており、一対の規制部材110が各楔板90を規制していることにより、各鉄心間の配置関係がずれないように、モールド変圧器100が正常な変圧機能を発生させるように機能している。
【0021】
図4は、
図2に示すモ-ルド変圧器100の上部を正面から見た詳細図である。上部締め付け金具40aの側面に設けられた一対の規制部材110が楔板90を挟み込むことにより規制している状態を示している。楔板90は、変圧器の機能異常を発生させることなく、地震等強い振動によって破損することなく、予め定められた自由度を以って規制部材110によって移動を規制されている。
【0022】
ここで楔板90の形状は、棒状の部材、または長手の板状の部材であり、鉄心と共に巻線が巻き回され、上部締め付け金具40aに設けられた規制部材に到達する長さを有していればよく、鉄心高さまで突出している必要はなく、逆に鉄心高さより高くてもよい。更に、楔板90の形状は、アルファベットのU字形状としてもよい。U字形状とした場合、U字の内側に鉄心を挟み込む構成が好ましい。
【0023】
また、規制部材110の形状は、
図3、
図4に示したように、一対のピン形状に拘らず、上部締め付け金具40aに溝状のガイドを設けて楔板90を規制してもよい。
【0024】
また、上部締め付け金具40aの端面に切り欠き部を設けて、規制部材110の突出部が切り欠き部に接合するように構成してもよい。
【0025】
また、上記ピン、または上記ガイドを保持する位置を調整する手段を設け、上記規制部材110の取り付け位置を調整可能としてもよい。例えば、上部締め付け金具40aの側面に丸穴と長孔を設け、長孔にピン、またはガイドを固定する際に位置調整することで、地震等で破損することなく、変圧器の機能性異常を発生させることのない程度に、上記楔板90が移動する自由度を調整可能とすれば、なお有効な効果を奏する。このように、規制部材の位置を調整可能とすれば、モールド変圧器の製造ばらつきを吸収するように構成することが可能となる。
【0026】
図3で示す変圧器の前後方向の揺れに対しては、楔板90は上部締め付け金具40aに対してボルト等で強固に固定していないので、地震のような強い振動によって破壊されにくく、モールド変圧器100の構成部品が破損しにくい効果を有する。更に、楔板90は鉄心の高さから大きく逸脱しない長さであるため、変圧器自体の大きさを大きく変更させる必要がない。
【0027】
上部締め付け金具40aに対して鉄心の左右方向の耐震性は鉄心の幅方向に配置している上下連結金具120が担保しているため鉄心自体が大きく変位する可能性は低い。楔板90の左右方向のズレに対してはボルト等で強固に固定せず、楔板90を規制するピン、または溝状ガイド等を配置することでストッパとしての機能を有している。
【0028】
本実施例によれば、鉄心と共に巻き回され、上部締め付け金具に到達するまで鉄心に沿って長手方向に延在した楔板を有し、更に、楔板を予め定められた自由度を以って規制する規制部材を締め付け金具に設けたことにより、変圧器の機能性異常を発生させることなく、地震等強い振動で変圧器の構成部品を破損させることなく、更に変圧器を設置する設備を大型化することなく、モールド変圧器を提供可能とする効果を奏する。
【実施例2】
【0029】
実施例1では、上部締め付け金具40aと楔板90の配置関係を規制する構造について述べたが、実施例2では、下部締め付け金具40bと楔板90の配置関係を規制する構造とすることで機能異常を発生しにくく、構成部品が破損しにくい、耐震性を向上させた変圧器を実現可能となる。
【0030】
また、実施例1と実施例2を組み合わせ、規制部材110は、上部締め付け金具40a、および下部締め付け金具40bの両方に設けて、上部、および下部の両方で楔板90を規制してもよい。
【0031】
図示は省略するが、
図3、
図4に示される楔板90を規制する規制部材110を下部締め付け金具40bに設けることにより、同様の効果を奏することが可能となる。
【実施例3】
【0032】
実施例1、実施例2では、三相のモールド変圧器に関して記載したが、単相のモールド変圧器に関しても同様な構造で同様な効果を奏することが可能である。
【0033】
図5は、実施例3における鉄心、巻線および楔板を配置した単相型モ-ルド変圧器200を正面から見た断面図である。単相型モールド変圧器200は、略矩形環状の鉄心230の2つの鉄心脚部それぞれに、絶縁性のモールド樹脂で覆われた2次巻線(低圧巻線)220u,220vを巻き回し、その外側に絶縁性のモールド樹脂で覆われた1次巻線(高圧巻線)210u,210vを巻き回して変圧器を構成している。
【0034】
実施例1或いは実施例2と同様に、1次巻線210u,210v、2次巻線220u,220vを、鉄心230と楔板240に巻き回すことで鉄心230と楔板240を拘束し、更に、楔板240を実施例1の
図4と同様に、上部、または下部の締め付け金具の少なくともいずれかに設けられた規制部材で規制することにより、実施例1、実施例2と同様の効果を奏する。
【実施例4】
【0035】
実施例1、または実施例3を更に拡張し、多相多脚型のモールド変圧器にも適用することが可能である。複数の鉄心それぞれの鉄心脚部と、それぞれに設けた各楔板に巻線を巻き回し、更に各楔板を上部、または下部の締め付け金具の少なくともいずれかに設けられた規制部材で規制することにより、実施例1~3と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0036】
10u,10v,10w…一次巻線
20u,20v,20w…二次巻線
30a…外側鉄心
30b…左内側鉄心
30c…右内側鉄心
40a…上部締め付け金具
40b…下部締め付け金具
50…二次側端子
60…一次側端子
70…一次側タップ切換器
90…楔板
100…三相三脚型モ-ルド変圧器
110…規制部材
120…上下連結金具
200…単相型モ-ルド変圧器
210u,210v…一次巻線
220u,220v…二次巻線
230…鉄心
240…楔板