(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】加熱炉およびグラファイトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/205 20170101AFI20240404BHJP
F27B 5/04 20060101ALI20240404BHJP
F27B 5/16 20060101ALI20240404BHJP
F27B 5/06 20060101ALI20240404BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C01B32/205
F27B5/04
F27B5/16
F27B5/06
F27D7/06 A
(21)【出願番号】P 2021505553
(86)(22)【出願日】2020-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2020001719
(87)【国際公開番号】W WO2020183910
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019045065
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】片山 覚嗣
(72)【発明者】
【氏名】木村 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 直人
(72)【発明者】
【氏名】小鉄 貴広
(72)【発明者】
【氏名】田口 雅史
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/035237(WO,A1)
【文献】特開2009-132602(JP,A)
【文献】特開昭63-081300(JP,A)
【文献】特開平05-294725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
F27B 5/04、5/06、5/16
F27D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料からグラファイトを製造する加熱炉であって、
高分子材料を熱処理する加熱炉本体を備え、
上記加熱炉本体の内部に、高分子材料を収容する密閉容器を有し、
上記密閉容器
の底面に、高分子材料から発生する熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出する排出管が接続されているとともに、
上記密閉容器に、その内部に不活性ガスを導入するガス導入管が接続されており、当該ガス導入管は、上記密閉容器の底面に接続されている、加熱炉。
【請求項2】
上記密閉容器は黒鉛製である、請求項1に記載の加熱炉。
【請求項3】
高分子材料からグラファイトを製造する製造方法であって、
高分子材料を収容した密閉容器を加熱炉本体に導入する導入工程、
密閉容器に収容された高分子材料を炭素化して炭素質フィルムを得る炭化工程、
炭化工程で作製された炭素質フィルムを黒鉛化してグラファイトを得る黒鉛化工程、
黒鉛化工程で作製されたグラファイトを上記密閉容器から取り出す取出工程、
を包含し、
上記導入工程では、上記密閉容器の底面に、その内部に不活性ガスを導入するガス導入管を取り付ける導入管取付工程を行い、
上記導入工程では、上記密閉容器の底面に、高分子材料から発生する熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出する排出管を取り付ける排出管取付工程を行い、
少なくとも上記炭化工程では、高分子材料から発生する熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出する排出工程を行うと共に、上記炭化工程と黒鉛化工程とを連続して行う、グラファイトの製造方法。
【請求項4】
上記排出工程では、上記密閉容器に、その内部に不活性ガスを導入する不活性ガス導入工程を行う、請求項
3に記載のグラファイトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトを製造する加熱炉およびグラファイトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリイミド等の高分子材料を2500℃以上の高温で焼成して、グラファイトを製造する加熱炉が知られている。具体的には、グラファイトは、フィルム状の高分子材料を1000℃程度で熱処理(予備加熱)し、炭素化して炭素質フィルムを得る炭化工程と、炭化工程で作製された炭素質フィルムを2500℃以上の高温で焼成して、黒鉛化(グラファイト化)する黒鉛化工程とを経て製造される。そして、特許文献1においては、上記炭化工程と黒鉛化工程とで熱処理する温度が互いに異なるので、互いに構成が異なる加熱炉が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国公開特許公報「特開平3-75211号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記炭化工程においては、熱処理によって高分子材料から可燃性の熱分解ガスが発生する。従って、例えば、グラファイトの製造時間を短縮するためや、工程を簡素化するために、炭化工程と黒鉛化工程とで同じ加熱炉を使用すると、炭化工程で発生した熱分解ガスが、黒鉛化工程時に加熱炉のヒータおよび断熱材に悪影響を及ぼす。具体的には、熱分解ガスによってヒータおよび断熱材が汚染されると、黒鉛化工程において、加熱炉内部の温度が2500℃以上の高温にならない、発火の危険性が生じる、断熱材やヒータの寿命が短くなる、等の種々の問題が生じることとなる。即ち、本発明者は、炭化工程と黒鉛化工程とで同じ加熱炉を使用すると、上述した種々の問題が生じるという課題があることを見出した。
【0005】
本発明の一態様は、炭化工程と黒鉛化工程とを連続して行うことができる加熱炉およびグラファイトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、加熱炉本体の内部に、高分子材料を収容する密閉容器を有し、上記密閉容器に、高分子材料から発生する熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出する排出管が接続されている加熱炉とすることにより、炭化工程と黒鉛化工程とを連続して行うことができることを見出して、本発明を完成させた。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る加熱炉は、高分子材料からグラファイトを製造する加熱炉であって、高分子材料を熱処理する加熱炉本体を備え、上記加熱炉本体の内部に、高分子材料を収容する密閉容器を有し、上記密閉容器に、高分子材料から発生する熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出する排出管が接続されていることを特徴としている。
【0008】
上記密閉容器は、黒鉛化工程に耐え得る必要があるため、例えば黒鉛製であることが好ましい。上記密閉容器には、その内部で発生する熱分解ガスを追い出す(外部に排出する)ために、その内部に不活性ガスを導入する導入管が接続されていることが好ましい。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るグラファイトの製造方法は、高分子材料からグラファイトを製造する製造方法であって、高分子材料を収容した密閉容器を加熱炉本体に導入する導入工程、密閉容器に収容された高分子材料を炭素化して炭素質フィルムを得る炭化工程、炭化工程で作製された炭素質フィルムを黒鉛化してグラファイトを得る黒鉛化工程、黒鉛化工程で作製されたグラファイトを上記密閉容器から取り出す取出工程、を包含し、少なくとも上記炭化工程では、高分子材料から発生する熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出する排出工程を行うと共に、上記炭化工程と黒鉛化工程とを連続して行うことを特徴としている。
【0010】
上記導入工程では、上記密閉容器に、高分子材料から発生する熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出する排出管を取り付ける排出管取付工程を行うことが好ましい。上記導入工程では、上記密閉容器に、その内部に不活性ガスを導入する導入管を取り付ける導入管取付工程を行うことが好ましい。上記排出工程では、上記密閉容器に、その内部に不活性ガスを導入する不活性ガス導入工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、炭化工程で発生した熱分解ガスによって炉壁、ヒータおよび断熱材等の炉内材が汚染されないので、炭化工程と黒鉛化工程とを連続して行うことができる加熱炉、およびグラファイトの製造方法を提供することができる。当該加熱炉は、炭化工程と黒鉛化工程とを連続して行うことができるので、省スペース化や工程の簡素化等の利便性に優れる。また、当該製造方法は、炭化工程と黒鉛化工程との間で炭素質フィルムを取り出す操作を行う必要が無い。それゆえ、炭素質フィルムを一旦冷却する必要が無いので、製造時間の短縮、エネルギの節約を図ることができ、グラファイトを安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る加熱炉の概略の構成を示す正面図である。
【
図2】上記加熱炉の要部の構成を示す正面図である。
【
図3】上記加熱炉の要部の構成を示す斜視図である。
【
図4】本発明の他の実施の形態に係る加熱炉の要部の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「重量」と「質量」は同義語と見なす。
【0014】
〔加熱炉〕
本発明の一実施の形態における加熱炉は、高分子材料からグラファイトを製造する加熱炉であって、高分子材料を熱処理する加熱炉本体を備え、上記加熱炉本体の内部に、高分子材料を収容する密閉容器を有し、上記密閉容器に、高分子材料から発生する熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出する排出管が接続されている構成である。
【0015】
加熱炉は、
図1に示すように、筐体1の中に、板状の複数の断熱材を直方体状に組むことによって形成された加熱炉本体2を備えている。加熱炉本体2は、その内部における互いに対向する一組の側面部に、一対のメインヒータ(ヒータ)3を備えている。そして、加熱炉本体2は、メインヒータ3が備えられていないもう一組の側面部の一方に、加熱炉本体2内部を密閉する扉部(図示しない)を備えている。そして、加熱炉本体2は、その内部に、高分子材料10を収容する密閉容器8を備えている。密閉容器8は、上記扉部を通じて加熱炉本体2内部に収容される。
【0016】
加熱炉は、加熱炉本体2内部のメインヒータ3に電気を供給する給電部4をさらに備えている。上記給電部4は、メインヒータ3と直結するための黒鉛製の給電棒4aを備えている。
【0017】
さらに、加熱炉は、
図1~3に示すように、密閉容器8内部における高分子材料10から発生する可燃性の熱分解ガス(水素、窒素、酸素等を含むガス)を加熱炉本体2の外部に排出するガス排出管(排出管)11、および、必要に応じて、密閉容器8内部に不活性ガスを導入するガス導入管(導入管)12をさらに備えている。即ち、上記密閉容器8には、その内部で発生する可燃性の熱分解ガスを加熱炉本体2の外部に排出するガス排出管11、並びに、必要に応じて、その内部に不活性ガスを導入するガス導入管12が接続されている。
【0018】
密閉容器8の大きさは、高分子材料10をより多く収容することができるように、加熱炉本体2よりも一回り小さい大きさであることが好ましい。上記密閉容器8は、黒鉛製またはセラミックス製であり、黒鉛製がより好ましい。尚、加熱炉本体2に収容する密閉容器8の個数は、特に限定されない。
【0019】
密閉容器8とガス排出管11およびガス導入管12とは、ジョイントによる接続が好適である。即ち、ガス排出管11およびガス導入管12は、加熱炉本体2内部に密閉容器8を収容したとき、一緒に密閉容器8に接続され、その接続部分も密閉されることが好ましい。また、ガス排出管11およびガス導入管12は、耐熱性を有する材質で形成されていることが好ましい。さらに、ガス排出管11およびガス導入管12の口径(内径)は、密閉容器8の大きさや熱分解ガスの発生量に応じて設定すればよく、特に限定されない。
【0020】
熱処理によって高分子材料10から発生する熱分解ガスが雰囲気ガスよりも重い場合には、密閉容器8におけるガス排出管11の接続箇所は、収容する高分子材料10によって塞がれない位置であって、当該密閉容器8の下方にあることが好ましく、底面にあることがより好ましい。また、熱分解ガスがより効率的に排出される位置であることが好ましく、ガス排出管11の接続箇所は、収容する高分子材料10によって塞がれない位置であって、当該密閉容器8の底面の中央部分にあることが例示されるものの、底面の周縁部分にあっても構わない。さらに、ガス排出管11の接続箇所は、複数あってもよい。上記ガス排出管11の下流側には、熱分解ガスの排出がより円滑に行われるように、ブロワ等の送風機(図示しない)が接続されていてもよい。
【0021】
密閉容器8におけるガス導入管12の接続箇所は、収容する高分子材料10によって塞がれない位置であって、不活性ガスの導入によって熱分解ガスの排出が促進される位置であればよく、当該密閉容器8の下方にあることが好ましく、底面にあることがより好ましい。また、熱分解ガスがより効率的に排出される位置であることが好ましく、ガス導入管12の接続箇所は、収容する高分子材料10によって塞がれない位置であって、当該密閉容器8の底面の周縁部分にあることが例示されるものの、底面の中央部分にあっても構わない。さらに、ガス導入管12の接続箇所は、複数あってもよい。不活性ガスによる熱分解ガスの排出がより円滑に行われるように、密閉容器8におけるガス導入管12の接続箇所は、当該密閉容器8の上方にあってもよい。上記ガス導入管12の上流側には、不活性ガスを供給するボンベ等が接続されている。
【0022】
ガス排出管11の本数およびガス導入管12の本数は、密閉容器8の形状や大きさに応じて設定すればよく、特に限定されないものの、ガス導入管12は、不活性ガスの導入によって熱分解ガスの排出が様々な方向から促進されるように、ガス排出管11の本数より多くしてもよい。
【0023】
上記構成によれば、ガス排出管11を通じて熱分解ガスが加熱炉本体2の外部に排出されるので、加熱炉本体2を形成する断熱材、および、加熱炉本体2内部に備えられるメインヒータ3は、炭化工程時に発生する熱分解ガスと殆ど接触しない。即ち、断熱材およびメインヒータ3は、熱分解ガスによって汚染されない。従って、同じ加熱炉を使用して炭化工程と黒鉛化工程とを連続して行う場合、炭化工程に続く黒鉛化工程において、加熱炉内部の温度が2500℃以上の高温にならない、発火の危険性が生じる、ヒータの寿命が短くなる、等の種々の問題が生じることはない。それゆえ、炭化工程と黒鉛化工程とで同じ加熱炉を使用することができる。
【0024】
さらに、同じ加熱炉を使用して炭化工程と黒鉛化工程とを連続して行う場合、炭化工程と黒鉛化工程との間で炭素質フィルムを取り出す操作を行う必要が無い。それゆえ、炭素質フィルムを一旦冷却する必要が無いので、製造時間の短縮、エネルギの節約を図ることができる。
【0025】
尚、
図4に示すように、密閉容器8は、その内部に高分子材料10を複数収容してもよい。この場合には、密閉容器8におけるガス排出管11およびガス導入管12の接続箇所は、収容する高分子材料10同士の間にあることが例示されるものの、一方向に熱分解ガスや不活性ガスが流れるような箇所に接続してもよい。また、密閉容器は、複数用いてもよい。さらに、密閉容器内に仕切りを設けて、熱分解ガスや不活性ガスの流れを制御してもよい。
【0026】
〔グラファイトの製造方法〕
グラファイトは、優れた放熱特性を有していることから、コンピュータ等の各種電子機器または電気機器に搭載されている半導体素子、或いは、各種電子機器または電気機器が発する熱を放熱する放熱部品等として用いられる。本発明の一実施形態には、上記加熱炉を用いてグラファイト(グラファイトフィルム、グラファイトシート等)を製造する方法が含まれる。
【0027】
一般に、グラファイトは、ポリイミド等の高分子材料を不活性ガス雰囲気下または減圧下で熱処理する、いわゆる高分子熱分解法で製造される。具体的には、グラファイトは、フィルム状の高分子材料を1000℃程度で熱処理(予備加熱)し、炭素化して炭素質フィルムを得る炭化工程と、炭化工程で作製された炭素質フィルムを2500℃以上の高温で焼成して、黒鉛化(グラファイト化)する黒鉛化工程と、必要に応じて、黒鉛化した炭素質フィルム(グラファイト)を圧縮する圧縮工程と、を経て製造される。
【0028】
本発明の一実施の形態におけるグラファイトの製造方法は、高分子材料からグラファイトを製造する製造方法であって、高分子材料を収容した密閉容器を加熱炉本体に導入する導入工程、密閉容器に収容された高分子材料を炭素化して炭素質フィルムを得る炭化工程、炭化工程で作製された炭素質フィルムを黒鉛化してグラファイトを得る黒鉛化工程、黒鉛化工程で作製されたグラファイトを上記密閉容器から取り出す取出工程、を包含し、少なくとも上記炭化工程では、高分子材料から発生する熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出する排出工程を行うと共に、上記炭化工程と黒鉛化工程とを連続して行う方法である。即ち、本発明の一実施の形態におけるグラファイトの製造方法では、上記炭化工程において、高分子材料から発生する熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出する排出工程を行うと共に、上記炭化工程と黒鉛化工程とを連続して(高分子材料を加熱炉から取り出さずに)行う。また、高分子材料は、フィルム状であることが好ましいものの、その形状は特に限定されない。尚、以下の説明においては、高分子材料がフィルム状である場合を例に挙げることとする。
【0029】
(高分子材料)
グラファイトの製造に好適なフィルム状の高分子材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、およびポリチアゾールが挙げられる。特に、ポリイミドは、熱拡散率、熱伝導率、および電気伝導度に優れたグラファイトを製造することができるのでより好ましい。尚、高分子材料は、製造するグラファイトに求められる物性に応じて適宜選択すればよい。
【0030】
(導入工程)
導入工程は、フィルム状(枚葉)、好ましくはロール状(長尺)の高分子材料(以下、「高分子材料フィルム」と記す)を収容した密閉容器を加熱炉本体に導入する工程である。但し、密閉容器に収容する高分子材料フィルムの形態は特に限定されない。また、密閉容器に収容するロール状の高分子材料フィルムの個数も特に限定されない。
【0031】
さらに、上記導入工程では、上記密閉容器に、高分子材料から発生する熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出するガス排出管を取り付ける排出管取付工程、並びに、上記密閉容器に、その内部に不活性ガスを導入するガス導入管を取り付ける導入管取付工程も合わせて行う。
【0032】
(炭化工程)
炭化工程は、高分子材料フィルムを1000℃程度で熱処理し、炭素化して炭素質フィルムを得る工程である。熱処理時の最高温度は、例えば、500℃~1800℃であることが好ましく、700℃~1600℃であることがより好ましく、900℃~1400℃であることがさらに好ましく、1000℃であることが特に好ましい。
【0033】
炭化工程における昇温速度は、例えば、0.01℃/分~50℃/分であることが好ましく、0.1℃/分~25℃/分であることがより好ましく、0.2℃/分~10℃/分であることがさらに好ましく、0.5℃/分~5.0℃/分であることが特に好ましい。
【0034】
炭化工程では、高分子材料フィルムを密閉容器に収容された状態で炭化する。熱処理によって高分子材料フィルムから発生する可燃性の熱分解ガスは、ガス排出管によって加熱炉本体の外部に排出される。即ち、本発明の一実施形態において、少なくとも上記炭化工程では、高分子材料フィルムから発生する可燃性の熱分解ガスを加熱炉本体の外部に排出する排出工程を行う。
【0035】
また、熱分解ガスが、ガス排出管によって加熱炉本体の外部に排出されるとき、ガス導入管によって密閉容器の内部に不活性ガスを導入し、熱分解ガスの排出を促進してもよい。即ち、本発明の一実施形態において、上記排出工程では、上記密閉容器に、その内部に不活性ガスを導入する不活性ガス導入工程を行ってもよい。
【0036】
炭化工程での保持時間、具体的には上記最高温度での保持時間は、2時間以内であることが好ましく、5分間~1時間であることがより好ましく、8分間~30分間であることがさらに好ましい。但し、上記熱分解ガスが実質的に排出されなくなった時点で、炭化工程を終了し、連続的に黒鉛化工程に移行する。
【0037】
(黒鉛化工程)
黒鉛化工程は、炭化工程で作製された炭素質フィルムを2500℃以上の高温で焼成して、黒鉛化(グラファイト化)する工程である。焼成時の最高温度は、好ましくは、2500℃以上、2600℃以上、2700℃以上、2800℃以上、2900℃以上、3000℃以上、3100℃以上、または3200℃以上である。黒鉛化工程は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、または減圧下で行われる。
【0038】
黒鉛化工程における昇温速度は、例えば、0.01℃/分~50℃/分であることが好ましく、0.1℃/分~20℃/分であることがより好ましく、0.3℃/分~10℃/分であることがさらに好ましい。
【0039】
黒鉛化工程での保持時間、具体的には上記最高温度での保持時間は、2時間以内であることが好ましく、5分間~1時間であることがより好ましく、8分間~30分間であることがさらに好ましい。
【0040】
黒鉛化工程では、炭素質フィルムを密閉容器に収容された状態で黒鉛化する。高分子材料フィルムに含まれていた無機物が気化したガス、密閉容器から昇華した黒鉛等が発生する場合には、これらガスをガス排出管から排出してもよい。また、このとき、ガス導入管によって密閉容器の内部に不活性ガスを導入し、これらガスの排出を促進してもよい。
【0041】
(取出工程)
取出工程は、加熱炉本体から密閉容器を取り出すと共に、黒鉛化工程で作製されたグラファイトを上記密閉容器から取り出す工程である。本発明の一実施の形態においては、上記炭化工程と黒鉛化工程とを連続して行うので、炭化工程と黒鉛化工程との間で炭素質フィルムを取り出す操作を行う必要が無く、黒鉛化工程で作製されたグラファイトを取り出す取出工程を行うだけでよい。それゆえ、炭素質フィルムを一旦冷却する必要が無いので、製造時間の短縮、エネルギの節約を図ることができる。
【0042】
(圧縮工程)
必要に応じて行われる圧縮工程は、黒鉛化工程で作製されたグラファイトを圧縮する工程である。圧縮工程を行うことにより、得られるグラファイトに柔軟性を付与することができる。圧縮工程では、プレス等によって面状に圧縮する方法、金属ローラ等を用いて圧延する方法等によって黒鉛化工程で作製されたグラファイトを圧縮することができる。圧縮工程における押圧力は特に限定されない。また、圧縮工程は室温で行われるものの、温度は特に限定されない。
【0043】
上記方法によれば、炭化工程と黒鉛化工程との間で炭素質フィルムを取り出す操作を行う必要が無い。それゆえ、炭素質フィルムを一旦冷却する必要が無いので、製造時間の短縮、エネルギの節約を図ることができ、グラファイトを安価に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、グラファイトの製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 筐体
2 加熱炉本体
3 メインヒータ(ヒータ)
4 給電部
4a 給電棒
8 密閉容器
10 高分子材料
11 ガス排出管(排出管)
12 ガス導入管(導入管)