(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】親油性化合物及び親水性化合物のカプセル化のためのナノカプセル・イン・ナノカプセルタイプのマルチコンパートメントシステム並びに関連する製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/113 20060101AFI20240404BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240404BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240404BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240404BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240404BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240404BHJP
A61K 38/28 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
A61K9/113
A61K9/14
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/44
A61K47/36
A61K38/28
(21)【出願番号】P 2021532256
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(86)【国際出願番号】 PL2019000069
(87)【国際公開番号】W WO2020036501
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-08-17
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PL
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PL
(73)【特許権者】
【識別番号】521069320
【氏名又は名称】クシシュトフ スメラ
【氏名又は名称原語表記】Krzysztof SMELA
【住所又は居所原語表記】ul. Szopena 7, 35-055 Rzeszow, Poland
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】クシシュトフ スメラ
(72)【発明者】
【氏名】シチェパン ザポトツィニー
(72)【発明者】
【氏名】ジョアンナ シュフレイニアック
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第103371973(CN,B)
【文献】国際公開第2009/003960(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/077977(WO,A1)
【文献】特表2016-518454(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014655(WO,A1)
【文献】特表2011-512418(JP,A)
【文献】特開2005-97292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 38/00-38/58
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性化合物及び親油性化合物の同時送達のための、水中油中水型ダブルエマルションの形態のナノカプセル・イン・ナノカプセルタイプのマルチコンパートメントシステムであって、
a)オレイン酸、パルミチン酸イソプロピル、脂肪酸、
天然の油、又はこれらの混合物を含む群から選択される油を含む、親油性化合物の輸送のための液体油コア
を有する外側カプセルであって、水溶液中で安定な、1μm未満の流体力学的直径(体積平均)を有する外側カプセルと、
b)親水性化合物の輸送のための、
前記液体油コアに埋め込まれた水性コアを有する1以上の
内部カプセルと、
c)
各々が1~30の範囲の炭素原子を有する疎水性の側鎖により修飾されたヒアルロン酸誘導体からなる
、前記
外側カプセルと
前記内部カプセルの両方のための安定化シェルと、
d)活性物質と、
を含む、システム。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸誘導体中の疎水性側鎖置換の程度が0.1~40%の範囲である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記
外側カプセル及
び前記内部カプセルのための前記安定化シェルが、以下の式:
【化1】
(ここで
、pは10であり、数の比m/(m+n)は0.001~0.4の範囲である)
を有する疎水化修飾ヒアルロン酸ナトリウ
ムからなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記輸送される親油性化合物が、蛍光染料、脂溶性ビタミン、又は疎水性薬
物である、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記輸送される親水性化合物が、蛍光染料、水溶性ビタミン、タンパク質、又は親水性薬物
である、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記輸送される親水性化合物がインスリンであり、
前記インスリンが、カプセル懸濁液の1mlあたり0.005~20.000のインスリン単位の濃度である、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
界面活性剤、乳化剤及び安定剤を更に含まない、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
請求項1に定義される水中油中水型ダブルエマルションの形態のナノカプセル・イン・ナノカプセルタイプのマルチコンパートメントシステムを製造する方法であって、
a)第1工程の間に、油中水(W/O)型の逆エマルションが、
前記ヒアルロン酸誘導
体の水溶液を、混合物体積
の0.1~99.9%を構成する非毒性の油と、超音波(音波処理)又は機械的刺激にさらすこ
とにより、水相と油相の体積比を1:10~1:10000の範囲として混合することにより製造され、
b)第2工程の間に、前記連続的な油相に懸濁している水滴が、ヒアルロネートコーティングを、W/O相エマルションと水相の体積比を1:10~1:10000の範囲として受け取り、
c)結果として、水中油中水型(W/O/W)ダブルエマルションシステムが、超音波(音波処理)又は機械的刺激へさらすことにより製造され、
ここで、適用される前記水相が、
前記ヒアルロン酸誘導体の水溶液に基づいており、
前記油相が、オレイン酸、パルミチン酸イソプロピル、脂肪酸、天然の
油、又はこれらの混合物を含む群から選択される油を含み、
前記プロセスが、小粒子界面活性剤を全く使用せずに実施される、
方法。
【請求項9】
パルス状音波処理が、衝撃持続期間を、2つの連続する衝撃の間の間隔の継続期間の半分として実施される、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記カプセル化された親油性化合物が前記油コアに含まれ、前記カプセル化された親水性化合物が前記ナノカプセルの前記水コアに含まれる、請求項
8に記載の方法。
【請求項11】
前記
ヒアルロン酸誘導体中のイオン性基の含量が20mol%以上
(一量体あたりで計算)である、請求項
8に記載の方法。
【請求項12】
前記第1及び第2工程の間、音波処理が、15~60分間、18℃~40℃の温度で、好都合には60分間継続されて逆エマルションが得られ、25~30℃で30分間継続されてダブルエマルションが得られる、請求項
8に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、更なる界面活性剤、乳化剤及び安定剤を使用せずに実施される、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
親油性化合物及び親水性化合物の輸送のための、請求項1に記載のマルチコンパートメントシステム
を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、親油性化合物及び親水性化合物のカプセル化のためのナノカプセル・イン・ナノカプセル(nanocapsule-in-nanocapsule)タイプのマルチコンパートメントシステム並びにヒアルロン酸の疎水化誘導体により安定化され追加の乳化剤を使用することを全く必要としない水中油中水型(W/O/W)ダブルエマルションに基づく関連する製造方法であり、前記システムは、タンパク質を含む影響を受けやすい親水性物質の攻撃的な外部環境に対する保護を確保する必要性に関連する問題も解決し、様々な親水性の活性物質の同時投与を可能にする担体である。
【背景技術】
【0002】
疎水性化合物及び親水性化合物を同時に適用する必要性は、多くの場合、活性物質の組合せの相乗的作用に(Chou TC(2006)Theoretical basis,experimental design,and computerized simulation of synergism and antagonism in drug combination studies.Pharmacol Rev 58:621-681;Zimmermann GR,Lehar J,Keith CT(2007)Multi-target therapeutics:when the whole is greater than the sum of the parts.Drug discovery today 12:34-42.)、又は治療薬と診断プロセスを支援する物質の同時で共局在化された(colocalized)送達の可能性(セラノスティクス)に(Liu G,Deng J,Liu F,Wang Z,Peerc D,Zhao Y,Hierarchical theranostic nanomedicine:MRI contrast agents as a physical vehicle anchor for high drug loading and triggered on-demand delivery,J.Mater.Chem.B,2018,6,1995-2003)関連している。これは、特に、医薬品、ビタミン、ホルモン、及び磁気共鳴画像法における造影剤などの投与と関連している。薬物投与の場合、それは、癌などの複雑な疾病の治療において(Blanco E et al.Colocalized delivery of rapamycin and paclitaxel to tumors enhances synergistic targeting of the PI3K/Akt/mTOR pathway.Mol Ther.2014 Jul;22(7):1310-1319.)、又は微生物及び真菌における薬剤耐性と戦う際に(Levy SB,Marshall B(2004)Antibacterial resistance worldwide:causes,challenges and responses.Nature medicine 10:2 S122-129;Fitzgerald JB,Schoeberl B,Nielsen UB,Sorger PK(2006)Systems biology and combination therapy in the quest for clinical efficacy.Nature chemical biology 2:458-466)特に重要である。
【0003】
様々な親水性の適用される活性物質は、通常、薬物動態の点で異なり、それは、そのような物質の混合物が同時投与される場合ですら、体内の相乗効果に悪影響を及ぼす。問題は、両方の(又は多くの)物質を同時に1つの位置に送達する(共局在)1つのサブマイクロメートルサイズの担体中でのそのような物質の投与により解決され得る。そのような担体は、水中油中水型ダブルエマルションのシステムに基づいており、構造上、それらは、本発明のように、油コアを有するカプセルに埋め込まれた水コアを有するカプセルとして記述することができる。
【0004】
親水性化合物の場合、物質を外部環境から分離することにより達成される保護効果も、後者が物質を破壊し得るため(例えば、低pHの胃液、体の免疫応答を担当するリンパ球)重要である。これは、タンパク質及びペプチドの経口送達に特に関連する(Abdul Muheem,Faiyaz Shakeel,Mohammad Asadullah,Jahangir,Mohammed Anwar,Neha Mallick,Gaurav Kumar Jain,Musarrat HusainWarsi,Farhan Jalees Ahmad,A review on the strategies for oral delivery of proteins and peptides and their clinical perspectives,Saudi Pharmaceutical Journal 2016,24,413-428)。
【0005】
生物活性のある物質のバイオアベイラビリティは、それらの吸収の速度及び範囲により決まる[US Food and Drug Administration.Code of federal regulation.Title 21,volume 5,chapter 1,subchapter D,part 320.Bioavailability and bioequivalence reagents]。薬物の生物学的アベイラビリティが低いことは、医薬品が血中で最小有効濃度を達成できず、その結果望ましい治療効果を生み出すのが困難であることを意味する。物質が、要求される位置に到達できず、且つ/又はそこに蓄積できないと、投与量を増やすことが必要であり、その結果望まれない副作用が生じ、より高い療法のコストをもたらし得る。上記の因子のため、新たに合成された物質9つのうち、規制機関に認可されるのは1つである[Blanco E.et al.,Nat.Biotechnol.2015,33,941-951]。
【0006】
バイオアベイラビリティの改善のために適用される方法には、プロドラッグの製造、ポリマー担体による固体分散体、物質粒子の微粉化、又は界面活性剤の添加がある[Baghel,S.et al.,Int.J.Pharm.2016,105,2527-2544]。ここ数年、とりわけ難水溶性物質に関連してマイクロ担体及びナノ担体も非常に注目されてきた[Chen H.,et al.,Drug Discov.Today.2010,7-8 354-360]。ナノ化は、治療物質の溶解度増加及び薬物動態改善をもたらす。それは、物質取込みの有害副作用の低減にも貢献する。総合的に研究された担体には、ナノエマルション、ミセル、リポソーム、自己乳化型システム、固体脂質ナノ粒子、及びポリマー-薬物コンジュゲートがある[Jain S.et al.,Drug Dev.Ind.Pharm.2015,41,875-887]。
【0007】
研究により、ナノ担体の使用が、薬物動態パラメーターの改善及び影響を受けやすい物質の分解に対するより良好な保護をもたらすだけでなく、活性物質の循環の期間を延ばし、標的化送達を確保することも示された。薬物送達系に焦点をあてた研究の進歩から生じて、現在市販されている選択肢には、真菌感染症、A型肝炎、及び多発性硬化症の治療に使用されるナノ粒子製剤がある[Zhang L.,et al.Clin.Pharmacol.Ther.2008,83,761-769]。ナノ製剤に基づく最初の薬物は、カポジ肉腫の治療のために設計され、1995年にUS Food and Drug Administrationに認可されたリポソーマル型のドキソルビシン(Doxil)であった[Barenholz Y.J.Control.Release 2012,160,117-134]。10年後に、別の製剤、すなわちナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル(Abraxane)に認可が得られた。この場合、Cremophor ELの使用を無くすことにより、従来のパクリタキセル製剤に伴う有害な副作用を減少させることが可能であった。
【0008】
疎水性又は親油性物質の担体システムは、主に、これらの物質の医薬的及び生物学的アベイラビリティを改善することを意図している。親水性化合物の場合、物質を外部環境から分離することにより達成される保護効果は、後者が物質を破壊し得るので(例えば、低pHの胃液、体の免疫応答を担当するリンパ球)重要である。これは、タンパク質及びペプチドの経口送達に特に関連する[Muheem A.et al.,Saudi Pharm.J.2016,24,413-428]。
【0009】
インスリンは、1型糖尿病の治療に必要な、膵ランゲルハンス島のβ細胞により合成される主なタンパク質ホルモンである。その有病率を考えると、糖尿病は、世界的に、最も広くみられる非感染性疾患の1つである[Shah R.B.et al.,Int.J.Pharm.Investig.2016,6,1-9]。インスリンは、最も一般的には皮下注射されるが、それは、多くの場合、血糖コントロール不良、不快感、及び生活様式の悪化と関連する[Owens D.R.Nat.Rev.Drug Discov.2002,1,529-540]。経口インスリン送達は、最も快適で優先的なホルモン投与の方法であろう。さらに、ホルモンの経口送達は肝門脈循環へのその吸収を促進して、インスリンを肝臓に供給する生理学的経路を模倣し、インスリンを末梢循環に送達する皮下注射と関連する全身性高インスリン血症を減少させ、おそらくは、低血糖のリスクを最小限にし、代謝制御を改善するであろう[Heinemann L.and Jacques Y.J.Diabetes Sci.Technol.2009,3,568-584]。
【0010】
インスリンの腸内吸収の主な障壁には、腸壁へのタンパク質の低い透過性並びに酸性の胃内環境中の変性及び腸内の酵素分解に対する高い感受性がある。今まで文献に発表された、消化管内のインスリンの吸収を改善するいくつかの戦略には、インスリンのナノスフィア又はナノ粒子、ミクロ粒子、及びリポソーム中へのカプセル化がある。これらの担体は、ペプチドを、消化管の上部でタンパク質分解性/変性プロセスに対して保護し、小腸の種々の部分での経粘膜タンパク質捕捉の増加を可能にする。しかし、担体の使用は、カプセル化の有効性の低さ及び活性物質の放出速度に関する制御の欠如のため、限定されている[Song L.et al.,Int.J.Nanomedicine 2014,9,2127-2136;Sajeesh S.and Sharma C.P.J.Biomed.Mater.Res.B Appl.Biomater.2006,76,298-305;Sarmento B.et al.,Biomacromolecules.2007,8,3054-3060;Niu M et al.,Eur.J.Pharm.Biopharm.2012,81,265-272]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ポーランド特許第PL229276B号明細書は、修飾された多糖により安定化され、疎水性化合物を効果的にカプセル化できる、コアシェル構造を有する安定な水中油型(O/W)システムを開示している。
【0012】
国際特許国際公開第2016/179251号パンフレットは、揮発性化学化合物、例えばシクロプロパンの誘導体をカプセル化できる安定なエマルションを提示している。水中油中水型ダブルエマルションは、乳化剤及びその安定性を確保する界面活性剤を含んでいる。
【0013】
安定なダブルエマルションは、米国特許出願公開第2010/0233221号明細書に記載されている。それらは、油中水型エマルション及びダブルエマルションの安定化を確保する、様々なモル質量を有する、最低で2種の乳化剤を含む。
【0014】
国際特許国際公開第2018/077977号パンフレットは、化粧品に使用される親水性化合物をカプセル化することが意図される、架橋脂肪酸を内層として含むダブルエマルションを提示している。エマルションは、最低で3か月安定である。
【0015】
国際特許国際公開第2017/199008号パンフレットは、乳化剤及び高温で架橋を受けるポリマーを含む内水相を含むダブルエマルションであって、その結果として水中油中ハイドロゲルシステムが得られる、ダブルエマルションを記載している。得られたシステムは、親水コロイド粒子中に組み込まれた活性物質(薬物及び細胞)を運ぶことができる。
【0016】
安定なダブルエマルションは、米国特許出願公開第2010/0233221号明細書に記載されている。それらは、油中水型エマルション及びダブルエマルションの安定化を確保する、様々なモル質量を有する最低で2種の乳化剤を含む。
【0017】
米国明細書米国特許出願公開20170360894号明細書は、酸性の胃内環境を中和する作用物質並びに自己乳化型タンパク質含有システムを含むボーラス剤の製造を含む、経口型インスリンの製造を開示している。
【0018】
特許明細書米国特許第6191105号明細書は、インスリンを含む油中水型(W/O)エマルションシステムを提示している。しかし、製剤の経口送達は、エマルションシステム内の相転移をもたらすことがあり、それは、ペプチドの時期尚早な放出及び消化管内でのその分解を起こし得る。
【0019】
米国特許第6277413号明細書において明らかになった通り、ポリマー及び脂質含有ミクロスフィアの製剤中で、インスリンは内水相中にカプセル化されているが、そのようなカプセル化の有効性は非常に低い。
【0020】
多糖インスリン担体の製造は、米国特許第09828445号明細書に記載された。キトサンナノ粒子は、事前に、脂肪酸、修飾脂肪酸、及び/又はアミノ酸によるアミド化を受けたキトサンの架橋により製造される。インスリンは、他方で、担体に吸着している。
【0021】
キトサンは、タンパク質カプセル化及び経口投与のためのW/O/Wシステムの製造にも使用されている。明細書CN106139162号明細書に開示されているナノ担体は、さらに、ポリガラクツロン酸(PGLA)及びポリマー界面活性剤Poloxamer(登録商標)188を含む。
【0022】
特許明細書国際出願第2011086093号明細書は、自己マイクロ乳化型薬物送達系(SMEDDS)の使用による、インスリンを含むペプチドの経口送達のための組成物を開示している。担体システム内でのペプチドの不安定性を克服するために(酸性胃内環境中での分解又は不活性化に対する保護)、それは、被覆された軟質カプセル中に埋め込まれており、それは、残念なことに、経口投与後に遅延した活性を示す。さらに、胃内容排出の速度が人によって異なり、これが、製剤からのインスリン放出のタイミング及び腸による適切な吸収に影響する。そのような変化は、インスリン吸収の著しい差をもたらし、潜在的に血糖のコントロール不良につながる。問題には、担体薬物システムにおける可能性がある不適合性も含まれる。
【0023】
関連する文献は、活性物質の経口送達を可能にするために、疎水性化合物及び親水性化合物の同時の効率よいカプセル化の能力を有する小粒子若しくは大粒子(small-particle or large-particle)界面活性化合物又は他の安定剤の添加を必要としない、水中油中水型ダブルエマルションを製造し安定化する方法を提示していない。この問題は本発明において達成された。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の目的は、ナノカプセル・イン・ナノカプセル構造を有する水中油中水型(W/O/W)エマルションシステムであって、小分子界面活性剤、乳化剤、及び/又は安定剤がシステム安定性のために必要とされないシステムである。前記システムは、影響を受けやすい親水性物質の攻撃的な外部環境に対する保護並びに生じる分解及び不活性化に対する保護を可能にし、様々な親水性の活性物質を同時に投与することを可能にし、特にタンパク質の送達を可能にする担体として機能する。
【0025】
本発明の目的は、新規な水中油中水型エマルションシステム(ナノカプセル・イン・ナノカプセル)を提供することである。新たなシステムは、医薬剤形であり、抗腫瘍活性物質又はタンパク質を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明の目的は、以下に列記される実施例及び図面に示される。
【0027】
【
図1】
図1は、水及びオレイン酸を含むプレエマルションをヒアルロン酸ドデシル誘導体の水-エタノール溶液(2:3の水:アルコール体積比)と混合することにより得られた、実施例Iに記載の逆エマルションを表す。矢印は、乳化の間に生み出された大きい泡を示す。
【
図2】
図2は、水及びオレイン酸を含むプレエマルションをヒアルロン酸ドデシル誘導体の水-エタノール溶液(1:2の水:アルコール体積比)と混合することにより得られた、実施例IIに記載の逆エマルションを製造するプロセスの間に生み出された泡を表す。
【
図3】
図3は、水及びオレイン酸を含むプレエマルションをヒアルロン酸ドデシル誘導体の水溶液と混合することにより得られた、製造された1日後(a)及び5日後(b)の実施例IIIに記載の逆エマルションを表わす。
【
図4】
図4は、水及びオレイン酸を含むプレエマルションをヒアルロン酸ドデシル誘導体の水溶液と混合することにより得られた、実施例IIIに記載の逆エマルション中の分子サイズ分布を表す(乳化の日の構造)。
【
図5】
図5は、水及びオレイン酸を含むプレエマルションをヒアルロン酸ドデシル誘導体の水溶液と混合することにより得られた、実施例IIIに記載の逆エマルション中の分子サイズ分布を表す(乳化の5日後)。
【
図6】
図6は、水及びオレイン酸を含むプレエマルションを、タングステン酸(VI)ナトリウムを含むヒアルロン酸ドデシル誘導体の水溶液と混合することにより得られた、実施例IVに記載の逆エマルション(W/O)の分子のクライオTEM顕微鏡写真を表す。
【
図7】
図7は、FITC標識ヒアルロン酸ドデシル誘導体を含む0.4体積%の逆エマルションを、RhBITC標識ヒアルロネートの水溶液と混合することにより得られた、実施例Vに記載のダブルエマルション中の分子サイズ分布を表す(乳化の日の構造)。
【
図8】
図8は、FITC標識ヒアルロン酸ドデシル誘導体を含む0.4体積%の逆エマルションを、RhBITC標識ヒアルロネートの水溶液と混合することにより得られた、実施例Vに記載のダブルエマルション中の分子サイズ分布を表す(乳化の7日後の構造)。
【
図9】
図9は、FITC標識ヒアルロン酸ドデシル誘導体を含む0.4体積%の逆エマルションを、RhBITC標識ヒアルロネートの水溶液と混合することにより得られた、実施例VIに記載のダブルエマルションシステムの共焦点顕微鏡画像-累積チャネル(cumulative channel)(a)及びFITCチャネル(b)(5μmスケール)における観察を表す。
【
図10】
図10は、FITC標識ヒアルロン酸ドデシル誘導体及び溶解されたタングステン酸(VI)ナトリウムを含む0.4体積%の逆エマルションを、RhBITC標識ヒアルロネートの水溶液と混合することにより得られた、実施例VIIに記載のダブルエマルションの分子のクライオTEM顕微鏡写真を表す。
【
図11】
図11は、カルセインを内水相中に含む、実施例VIIIに記載のダブルエマルション中の分子サイズ分布を表す。
【
図12】
図12は、実施例VIIIに記載のダブルエマルションシステムの共焦点顕微鏡画像-累積/集合(collective)チャネルにおける観察-カルセイン及びヒアルロネートの修飾に使用したローダミンのシグナルの重複(10μmスケール)を表す。
【
図13】
図13は、FITC標識ヒアルロン酸ドデシル誘導体を含む0.1体積%の逆エマルション(1:30の水相-油相の体積比)を、RhBITC標識ヒアルロネートの水溶液と混合することにより得られた、実施例IXに記載のダブルエマルション中の分子サイズ分布を表す。
【
図14】
図14は、FITC標識ヒアルロン酸ドデシル誘導体を含む0.1体積%の逆エマルション(1:30の水相-油相の体積比)を、RhBITC標識ヒアルロネートの水溶液と混合することにより得られた、実施例IXに記載のダブルエマルションの共焦点顕微鏡画像を表す。累積チャネル(a)、FITCチャネル(b)及びTRITCチャネル(c)における観察(10μmスケール)。
【
図15】
図15は、W/O/Wシステムが製造された11週間後の、実施例Xに記載のダブルエマルション中の分子サイズ分布を表す。
【
図16】
図16は、ダブルエマルションシステムが得られた日並びに7、14、21、28、43、59及び79日後に測定された、実施例Xに記載のW/O/Wシステムのゼータ電位及び標準偏差(SD)の一覧を表す。
【
図17】
図17は、実施例Xに記載のダブルエマルションシステムの共焦点顕微鏡画像-3週間後(上のパネル)、及び4週間後(下のパネル)の累積チャネルにおける観察(5μmスケール)を表す。
【
図18】
図18は、カルセインを内水相に、ナイルレッドを油相に含む、実施例XIに記載のダブルエマルション中の分子サイズ分布を表す。
【
図19】
図19は、カルセインを水相に、ナイルレッドを油相に含む、実施例XIに記載のダブルエマルションシステムの共焦点顕微鏡により得られた画像-TRITCチャネル(a、ナイルレッド)、FITC(b、カルセイン)及び累積チャネル(c)における観察(5μmスケール)を表す。
【
図20】
図20は、実施例1に記載の手順に従ってダブルエマルションが製造された日(a)、1週間後(b)、及び2週間後(c)の、実施例XIIに記載のダブルエマルションのナノカプセルサイズ分布を表す。
【
図21】
図21は、実施例1に記載の手順に従ってダブルエマルションが製造された1週間後の、実施例XIIに記載のエマルションの油相の表面への小さな流出及び希釈を示す写真を表す。
【
図22】
図22は、実施例1に記載の手順に従ってダブルエマルションが製造された2週間後の、実施例XIIに記載のエマルションの油相の表面への小さな流出及び希釈を示す写真を表す。
【
図23】
図23は、透過光モードにおける測定を使用した(a)、及びTRITCフィルターを使用した(b)、実施例XIIに記載のカプセルの調製された日の共焦点顕微鏡画像-共焦点顕微鏡を使用して収集された画像を表す。
【
図24】
図24は、実施例XIIIに記載のダブルエマルションが製造された日(a)、実施例2に記載の手順に従ってダブルエマルションが製造された1週間後(b)、2週間後(c)及び3週間後(d)のナノカプセルサイズ分布を表す。
【
図25】
図25は、透過光モードにおける測定を使用した(a、c)及びTRITCフィルターを使用した(b、d)、実施例XIIIに記載のカプセルの、調製された日の共焦点顕微鏡画像-共焦点顕微鏡を使用して収集された画像を表す。
【
図26】
図26は、透過光モードにおける測定を使用した(a)及びTRITCフィルターを使用した(b)、実施例XIIIに記載のカプセルの製造の3週間後の共焦点顕微鏡画像-共焦点顕微鏡を使用して収集された画像を表す。
【
図27】
図27は、実施例3に記載の手順に従ってダブルエマルションが製造された日(a)及びその1週間後(b)の、実施例XIVに記載のダブルエマルションのナノカプセルサイズ分布を表す。
【
図28】
図28は、透過光モードにおける測定を使用した(a)及びTRITCフィルターを使用した(b)、実施例XIVに記載のカプセルの調製された日の共焦点顕微鏡画像-共焦点顕微鏡を使用して収集された画像を表す。
【
図29】
図29は、ダブルエマルションが製造された日(a)及びその1週間後(b)の、実施例XVに記載のダブルエマルションのナノカプセルサイズ分布を表す。
【
図30】
図30は、ダブルエマルションが製造された日(a)及びその1週間後(b)の、実施例XVIに記載のダブルエマルションのナノカプセルサイズ分布を表す。
【
図31】
図31は、関連する対照群を参照した、第1群及び第2群(a)並びに第3群、第4群、及び第5群(b)の、平均値として計算された実施例XVIIに記載のグルコースレベル測定の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の目的は、親油性化合物(油相中)及び親水性化合物(内水相中)の同時送達のために設計された生体適合性水中油中水型ダブルエマルションシステムである。小粒子界面活性化合物(界面活性剤)を使用するのではなく、システムの安定性は、疎水化修飾ヒアルロン酸により確保されている。
【0029】
油コアを有するカプセル及び水性コア(aquatic core)(内部カプセル)を有するカプセルの製造された安定化シェルは、以下の式:
【化1】
(ここで、xは、1~30の範囲の整数であり、それは、疎水性側鎖中の炭素原子の総数を規定し、数の比m/(m+n)は0.001~0.4の範囲である)を有する疎水化修飾ヒアルロン酸ナトリウム、Hy-Cxからなる。
【0030】
ナノカプセル・イン・ナノカプセルシステムは2段階のプロセスで製造される。第1段階の間、油中水型の逆エマルション(inverted emulsion)は、例えば、ヒアルロン酸ドデシル誘導体の水溶液を、混合物体積の80%~99.9%を構成する非毒性の油と混合することにより製造される。次の段階で、連続的な油相中に懸濁している水滴はヒアルロネートコーティングを受け取り、その結果として水中油中水型ダブルエマルションが製造される。第2段階は、コロイドシステムの安定性の達成を可能にするので必要である;第1段階の間に製造されたW/Oシステムが不安定である一方で、ダブルエマルションは最低で2か月安定性を示す。
【0031】
時間が経過しても安定であるW/O/Wエマルションを得るために、多糖高分子の親水性フラグメントと疎水性フラグメントの間のバランスを維持することが必要である。多糖鎖中の疎水性基の置換度が0.1%~40%の範囲である場合に有益である。実施された研究は、ドデシル側鎖により修飾されたヒアルロン酸により安定化されたシステムにより最良の性質が示されることを示した。多糖鎖中の最も効果的な置換度は5%以下である。これは、疎水性鎖が過度に含まれるとポリマーの水への溶解度が減少し得るからである。
【0032】
システムの良好な安定性を達成するために、イオン性基、例えばカルボキシル基を含む多糖を使用することも重要である。多糖中のイオン性基の含量が20mol%を超える場合(一量体あたりで計算)好都合であり、含量が40mol%を超える場合、より効果的であり、それが60mol%を超える場合、最も効果的である。
【0033】
W/O逆エマルションとW/O/Wダブルエマルションの両方を得るために、音波処理(又は動的混合(dynamic mixing))を適用することが必要である。音波処理が、15~60分間、18℃より高く40℃以下の温度で継続される場合に好都合である。音波処理が60分間継続して逆エマルションが得られ、30分継続してダブルエマルションが得られ、且つプロセスが25~30℃の範囲の温度で実施されると最も効果的である。
【0034】
安定なダブルエマルションは、0.1~20g/Lの濃度及び0.001~1.0mol/dm3のイオン強度を有する疎水化修飾イオン性多糖の水溶液を使用して製造される。塩化ナトリウムの0.15mol/dm3溶液に溶解されたヒアルロン酸の2g/L溶液を適用することが好都合である。
【0035】
得られたナノカプセル・イン・ナノカプセルシステムは、疎水性化合物(油相へ)及び親水性化合物(内水相へ)の同時カプセル化を可能にするので、広範囲の目的に使用できる。画像化調査のために蛍光染料をカプセル化することが可能である。親水性染料及び疎水性染料の同時適用は、カプセル形状の画像化を可能にする。ヒアルロン酸の蛍光標識された誘導体を使用することも可能である。様々なスペクトル特性を有する染料を適用することが好都合である。異なるレーザーにより励起され、共焦点蛍光顕微鏡法において様々な発光のチャネルにおける放射を発する染料を使用することがより効果的である。ローダミンイソチオシアネート又はフルオレセインイソチオシアネートにより修飾されたヒアルロン酸を使用することが最も効果的である。
【0036】
本発明の目的は、親水性化合物及び親油性化合物の同時送達のための、水中油中水型ダブルエマルションの形態のナノカプセル・イン・ナノカプセルタイプのマルチコンパートメントシステムであって:
a)オレイン酸、パルミチン酸イソプロピル、脂肪酸、天然抽出物(natural extracts)及びコーン油、亜麻仁油、大豆油、アルガンオイルなどの油、又はこれらの混合物を含む群から選択される油;有益にはオレイン酸を含む、親油性化合物の輸送のための液体油コア;
b)油コアに埋め込まれた、親水性化合物の輸送のための、水性コアを有するカプセル又は多くのカプセル;
c)キトサン、オリゴキトサン、デキストラン、カラギーナン、アミロース、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン及びグリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、硫酸コンドロイチン、デルマタン硫酸の誘導体を含む群から選択される疎水化修飾多糖;有益にはヒアルロン酸の誘導体からなる、油コアを有するカプセルと水コアを有する内部カプセルの両方のための安定化シェル;
d)水溶液中で安定な、1μm未満の直径を有する外側カプセル;
e)活性物質
を含むマルチコンパートメントシステムである。
【0037】
疎水化修飾多糖中の疎水性側鎖置換の程度が0.1~40%の範囲であるシステム。
【0038】
油コアを有するカプセル及び水コアを有するカプセル(内部カプセル)のための安定化シェルが、以下の式:
【化2】
(ここで、xは、1~30の範囲の整数であり、それは、疎水性側鎖中の炭素原子の総数を規定し、数の比m/(m+n)は0.001~0.4の範囲である)を有する疎水化修飾ヒアルロン酸ナトリウム、Hy-Cxからなるシステム。
【0039】
輸送される親油性化合物が、蛍光染料、脂溶性ビタミン、又は疎水性薬物であり得るシステム。
【0040】
輸送される親水性化合物が、蛍光染料、水溶性ビタミン、タンパク質、又は親水性薬物;好都合にはインスリンであり得るシステム。
【0041】
インスリンが、カプセル懸濁液の1mlあたり0.005~20.000のインスリン単位の濃度であるシステム。
【0042】
請求項1に定義された水中油中水型ダブルエマルションの形態のナノカプセル・イン・ナノカプセルタイプのマルチコンパートメントシステムを製造する方法であって:
a)第1工程の間に、油中水型(W/O)型の逆エマルションが、上記式により記述されるヒアルロン酸ドデシル誘導体Hy-Cxの水溶液を、混合物体積の約0.1~99.9%を構成する非毒性の油と、超音波(音波処理)又は機械的刺激へさらすことにより、好都合には混合又は振盪により、水相と油相の体積比を1:10~1:10000の範囲;好都合にはおよそ1:100として混合することにより製造され;
b)第2工程の間に、連続的な油相中に懸濁している水滴が、ヒアルロネートコーティングを、W/O相エマルションと水相の体積比を1:10~1:10000の範囲;好都合にはおよそ1:100として受け取り、
c)結果として、水中油中水型(W/O/W)ダブルエマルションシステムが、超音波(音波処理)又は機械的刺激へさらすこと、好都合には混合又は振盪により製造され、
ここで、適用される水相が、キトサン、オリゴキトサン、デキストラン、カラギーナン、アミロース、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン及びグリコサミノグリカン、及び特にヒアルロン酸、ヘパリン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、硫酸コンドロイチン、デルマタン硫酸の誘導体を含む群から選択される疎水化修飾多糖;好都合にはヒアルロン酸の誘導体の、2~12の範囲のpH、0.1~30g/Lの濃度、及び0.001~3mol/dm3の範囲のイオン強度を有する水溶液に基づいており、
油相が、オレイン酸、パルミチン酸イソプロピル、脂肪酸、天然の油、とりわけ亜麻仁油、大豆油、アルガンオイル、又はそれらの混合物を含む群から選択される油;有益にはオレイン酸を含み、
注目すべきことに、プロセスが小粒子界面活性剤を全く使用せずに実施される、
製造方法。
【0043】
パルス音波処理が、衝撃持続期間を、2つの連続する衝撃の間の間隔の持続期間の半分として実施される方法。
【0044】
カプセル化された親油性化合物が油コア中に含まれ、カプセル化された親水性化合物がナノカプセルの水コア中に含まれる方法。
【0045】
多糖中のイオン性基の含量が20mol%以上である場合に好都合であり、それが60mol%(一量体あたりで計算)を超える場合に好都合である方法。
【0046】
第1及び第2工程の間、音波処理が、15~60分間、18℃~40℃の温度で、好都合には60分間継続されて逆エマルションが得られ、25~30℃の温度で30分間継続されてダブルエマルションが得られる方法。
【0047】
親油性化合物が、蛍光染料、脂溶性ビタミン、又は疎水性薬物であり得て、親水性化合物が、蛍光染料、水溶性ビタミン、タンパク質、又は親水性薬物;好都合にはインスリンであり得る、親油性化合物及び親水性化合物の輸送のための、上記で定義されたマルチコンパートメントシステムの適用。
【0048】
前記発明の利点は、二重ナノカプセルの別なコンパートメント中で親水性化合物及び親油性化合物を同時に送達することができる生体適合性で安定なナノ製剤を得る可能性を含む。これは、分解、担体からの時期尚早な放出、及び系、例えば血液循環からの過度に迅速な消失に対して、カプセル化された化合物を保護する。これは、調製の簡潔さ及び低い金銭的コストも特徴とする前記システムの用途の範囲を著しく改善する。さらに、担体システムの使用により、ペプチド及び他の活性物質の経口投与並びにそれらのバイオアベイラビリティの改善が可能である。
【0049】
本発明は、以下の非限定的な例により説明される。
【実施例】
【0050】
実施例I
油中水型の逆エマルションを製造する方法
逆エマルション(W-O型)を製造するために、ヒアルロン酸ドデシル誘導体の水-エタノール溶液を適用した。揮発性有機溶媒の存在は、(逆エマルションを製造するために)ポリマー鎖が伸びたコンフォメーションを達成するのを可能にすることになっていた。溶媒は、その後に、蒸発されることになっていた。
【0051】
ヒアルロン酸ドデシル誘導体(4.5%からの疎水性側鎖置換の程度)の溶液を、生理食塩水中に調製した(濃度およそ7.5g/L)。次いで、中性の溶液をエタノール化して(ethanolized)、2:3の体積比の混合物が得られた。
【0052】
同時にプレエマルションを、オレイン酸を、塩化ナトリウムの水溶液(c=0.15mol/dm3)と、100:1の体積比で混合することにより調製した。システムを、10分間ボルテックスタイプのシェーカーでの振盪に付し、30分間超音波洗浄機中で(パルスモード、1秒超音波、2秒間隔)室温で音波処理に付した。音波処理の結果として、乳白色のエマルションが生じた。
【0053】
ヒアルロン酸ドデシル誘導体の水-エタノール溶液を、徐々に、プレエマルションに5分間滴加した。エタノールを蒸発させるために、混合物全体を、蓋がないボトル中で、パルスモードで30分間音波処理に付した。
【0054】
動的光散乱(DLS)を使用して測定したサイズ分布は、システムが多くの分子分画(molecular fractions)を含んでいたことを示す。システムの安定性を示すゼータ電位(ζ)を測定することは不可能であった(非常に不安定な測定)。さらに、ボトルは、直径が1mmを超える、目に見える球状の泡を含んでいた(
図1)。
【0055】
実施例II
水-エタノール溶液中の水相の含量を減少させた後に油中水型の逆エマルションを製造する方法
プレエマルションを、実施例Iに記載の通り調製した。ヒアルロン酸ドデシル誘導体の水-エタノール溶液を徐々に加えたが、1:2の水相とエタノール相の体積比を適用した。
【0056】
エタノールを蒸発させるために、システムを、より高温で(約34℃)音波処理に付した。
【0057】
最初、白色の懸濁液は油中に見えなかった。システムをDLS測定に使用されるキュベット中に導入した後、懸濁液は、直径が1mmを超える泡に変わった(
図2)。
【0058】
DLS装置でサイズを測定した後、2つの大きい水滴がキュベット中に観察された。ゼータ電位は測定できなかった。
【0059】
実施例I及びIIに表された結果に基づいて、エタノールがエマルションの製造に悪影響を与えたと結論付けた。次の段階で、アルコールをシステムから除去した。
【0060】
実施例III
システムからエタノールを除去した後に油中水型の逆エマルションを製造する方法
油中水型の逆エマルションを、ヒアルロン酸ドデシル誘導体の生理食塩水(cNaCl=0.15mol/dm3)中の溶液(c=4.7g/L)を、オレイン酸と、1:100の体積比で混合することにより調製した。システムを、実施例Iに記載の通り振盪及び音波処理に付したが、音波処理プロセスは1時間続いた。
【0061】
乳白色エマルションが得られて、その安定性を、乳化の日及び5日後に測定した。DLS試験は、初期システムの高い安定性を示した(ζ=-33±21.7mV)。分子サイズは狭い分布を特徴とした。5日後に、分子サイズを記述する分布はより小さい分子の方にシフトした。さらに、別の小さい極大が観察できた。5日後に、試料の濁度が著しく減少した(
図3、
図4、
図5)。目視観察とDLSデータを組み合わせると、5日後に、分子の含量の減少(a decrease in the contents of molecules)があったと結論付けることができ、それは、得られたシステムが安定な要素と不安定な要素を両方含んでいたことを示唆する。適応性の観点から、この状況は、材料の喪失及び制御できない組成のシステムの製造につながるので不利益を呈する。上記のため、次の段階では、逆エマルションシステムを、ダブルエマルションの製造につながるその後の工程に直接付した。
【0062】
実施例IV
低温観測(cryoscopic)透過型電子顕微鏡による逆エマルション画像化
逆エマルションを、実施例IIIに記載の手順に従って調製したが、画像化調査の間にコントラストを増大させるために内水相はタングステン酸(VI)ナトリウムを含んでいた。2日後に、エマルションを、低温観測装置が追加された透過型電子顕微鏡技法を使用して調査した。得られた画像の分析により、およそ250nmの直径を有する球状分子の存在が確認される(
図6)。
【0063】
実施例V
ダブルエマルションを製造する方法
逆エマルションを実施例IIIと同様に調製したが、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識ヒアルロン酸のドデシル誘導体を2g/Lの濃度で適用し、音波処理を30分間続けた。
【0064】
混合物の0.4体積%を構成する逆エマルションを、生理食塩水中1g/Lの濃度のローダミンイソチオシアネート(RhBITC)標識ヒアルロン酸のドデシル誘導体と混合することにより、ダブルエマルションが得られた。システムを、実施例Iに記載のパラメーターに従って、ボルテックスタイプのシェーカーで10分間振盪に付し、室温で30分間音波処理に付した。DLS試験における分子サイズ分布の分析により、500~600nmの直径を有する分子があることが示される一方で、ゼータ電位測定により、得られたシステムの安定性が確認される(ζ=-44.6±3.33mV)。7日間の観察の後、分子サイズにもゼータ電位の値にも(ζ=-44.6±3.08mV)著しい変化は示されなかった(
図7、
図8)。
【0065】
実施例VI
共焦点顕微鏡法によるダブルエマルション画像化
標識された多糖を適用して、実施例Vで得られた構造を、共焦点顕微鏡法を使用して可視化した。スペクトル特性のために、両染料を、様々な波長のレーザー(488nm及び561nm)により励起させることができ、発光は他の顕微鏡チャネルで観察できる。FITCがRhBに対応するレーザーにより励起されず(逆も同様である);RhBシグナルがFITCチャネルにおいて観察されず、FITCシグナルがローダミン発光に対応するチャネルで特定されないことが示された。
【0066】
FITCを含む誘導体を第1のW-O型エマルションに適用し、RhBITCを含む誘導体を第2段階で適用してダブルエマルションを製造することにより、得られた構造を可視化し、それらのモルホロジーを確認することが可能であった。
【0067】
共焦点顕微鏡(100×レンズ、488nm及び561nmレーザー)から得られた画像により、「層状」シースの存在が確認された-全てのチャネル及びFITCに独特なチャネルからのシグナルの観察(
図9)。
【0068】
実施例VII
低温観測透過型電子顕微鏡によるダブルエマルション画像化
ダブルエマルションを、実施例Vに記載の手順に従って調製したが、画像化調査の間のコントラストを増大させるために内水相はタングステン酸(VI)ナトリウムを含んでいた。2日後、透過型電子顕微鏡技法及び低温観測装置を使用して試料を調査した。得られた画像の分析により、およそ600nmの直径を有する球状分子の存在が確認された(
図10)。
【0069】
実施例VIII
内水相中の親水性染料のカプセル化
ダブルエマルションを、実施例Vに記載の通り調製したが、生理食塩水中4.5g/Lの濃度のヒアルロン酸ドデシル誘導体の水溶液を、カルセイン溶液と(c
kalc=2g/L)、3:1の体積比で混合して逆エマルションを調製した。DLS測定の結果に基づく分子サイズの分析により、得られた製剤が安定であり(ζ=-32.5±6.58mV)、およそ600nmの流体力学的直径を有する分子を含んでいたことが確認された(
図11)。知見は、コロイドシステムの物理化学的性質においてカプセル化された物質の影響が全くないことを示した。
【0070】
共焦点顕微鏡画像(全てのチャネルにおける観察)により、ナノカプセル・イン・ナノカプセルシステムが得られ、両チャネルにおける目に見えるシグナル及び観察された分子内での重複により示されることが確認された(
図12)。
【0071】
Przyklad IX
ダブルエマルション組成の最適化
得られるシステムのサイズ及び組成を最適化するために、逆エマルション中の水相と油相の体積比に変化を導入し、水相と油相の体積比を30:1として実施例VIIIに記載の通り製造した。ダブルエマルションは、逆エマルションと、1g/Lの濃度のローダミンイソチオシアネート標識ヒアルロン酸のドデシル誘導体を混合することにより得られた。混合物中の逆エマルションの含量は0.1体積%であった。音波処理を実施例Vに記載の通り実施した。
【0072】
得られたシステムは、ゼータ電位の値により測定された高い安定性(ζ=-31.0±2.32mV)と共に、分子サイズの狭い分布(
図13)を特徴とした。
【0073】
共焦点顕微鏡(100×レンズ、488nm及び561nmレーザー)による観察により、ナノカプセル・イン・ナノカプセルシステムが形成されたことが確認された(
図14)。
【0074】
実施例X
ダブルエマルションの長期安定性
ヒアルロン酸ドデシル誘導体を使用して製造した水中油中水型ダブルエマルションの安定性を、11週間にわたり試験した。システムのパラメーターを、動的光散乱技法及び共焦点顕微鏡法を使用して、明示された時点で調査した。カプセルを実施例IXに記載の通り製造した。
【0075】
得られたシステムは単峰性分子サイズ分布を特徴とし(
図15)、ゼータ電位の値(ζ=-37.2±1.4mV)により測定して高い安定性を有した(
図16)。システムの安定性を評価する試験の間、サイズ分布の極大はより大きい分子の方にわずかにシフトした。システム中のゼータ電位の測定値により定義した安定性は11週間の観察の後に低下しなかった。共焦点顕微鏡によるシステムの観察により、「ナノカプセル・イン・ナノカプセル」システムが形成されたことが確認された(両蛍光チャネルからのシグナルの重複)(
図17)。
【0076】
実施例XI
溶解した蛍光染料を含むダブルエマルションの調製及び可視化
逆エマルションを、実施例IXに記載の通り、オレイン酸を、ヒアルロン酸ドデシル誘導体の生理食塩水中の溶液と、ナイルレッド染料が油相に溶解し(c=0.85g/L)、カルセインが水相に溶解している状態で(c=0.17g/L)混合することにより製造した。ダブルエマルションを、実施例IXに記載の通り製造した。
【0077】
得られた分子は、実施例Xで形成された分子に類似の流体力学的直径を特徴とした(
図18)。サイズ分布は、目に見える比率の、直径がおよそ700nmである分子を含んでいた。
【0078】
共焦点顕微鏡を使用して実施した可視化は、ナノカプセル・イン・ナノカプセルシステムが形成されたことを示した(両蛍光チャネルからのシグナルの重複)(
図19)。
【0079】
実施例XII
1)インスリン溶液の調製
21.66mgのインスリン(Sigma Aldrich)を1mlの0.15M NaClに溶解させた(4μl 3M HCl、pHおよそ1.9の添加)、すなわちおよそ600UI/ml(3.56mg=100UI)*。
【0080】
プロセスにより透明なインスリン溶液が生じ、それは4℃の温度で保存すると透明な形態を保った(2週間の観察)。
【0081】
その後に、インスリン溶液を、染料、すなわちニュートラルレッド(0.15M NaCl中C=1g/l)の添加により調製した(180μlインスリン溶液+20μl染料溶液)。
【0082】
インスリン溶液に加えた染料の悪影響は全く観察されなかった。
【0083】
2)カプセルの調製
a)エマルション1:
本発明において上述された手順に従って、エマルション1が、以下の処方に従って得られた:3.6mlのオレイン酸を100μlのHyC12溶液(0.15M NaCl中C=4.6g/l)及び20μlの染料を有するインスリン溶液と共に乳化した;プロセスを、ボルテックスタイプのシェーカー(10分)及び超音波(パルスモード、30分)を使用して実施した。
【0084】
b)エマルション2:
エマルション2を、6mlのHyC12溶液(0.15M NaCl中C=1g/l)及び12μlのエマルション1から製造した。混合物を、ボルテックスシェーカー(10分)及び超音波(30分、パルスモード)を使用して乳化した。
【0085】
乳白色のエマルションが得られた。
【0086】
1mlのカプセルは0.01μlのインスリン溶液を含んでおり、すなわちカプセルの1mlあたり0.0061単位のインスリンであった。
【0087】
3)特性:
得られたW/O/Wエマルションは、180nmまでの流体力学的直径を有する懸濁した分子からなっていた。それは、高い値のゼータ電位により示される通り非常に安定であった。カプセルを4℃の温度で保存した。1週間後、表面への油相の小さい流出が、エマルションの希釈と共に観察された。動的光散乱(DLS)技法を使用して実施した測定は、わずかに減少したモジュール値(modular value)のゼータ電位及び分子サイズの減少を示した。結果を、表1及び
図20~23に表す。
【0088】
【0089】
実施例XIII
1)インスリン溶液の調製
実施例1のインスリン溶液を49.73mgのインスリンのさらなる溶液により濃縮し(condensed)、透明な溶液を得るために6μlの塩酸(C=3mol/dm3)の添加により酸性化させ、次いでそれをボルテックスシェーカーでの5分間の振盪に付した。
【0090】
得られたインスリンは、81.34mg/ml(2284.75UI)の濃度を有した。
【0091】
エマルション1の第1の成分を、30μlのHyC12溶液(0.15M NaCl中C=15g/l)を、80μlのインスリン溶液及び10μlの染料(ニュートラルレッド、0.15M NaCl中C=3.5mg/ml)と混合することにより調製した。
【0092】
エマルション1:
120μlのエマルション1の第1の成分と3.6mlのオレイン酸の混合物を、ボルテックスシェーカーでの10分間の振盪に付し、次いで、パルスモードでの30分間の音波処理に付した。
【0093】
エマルション2:
20μlのエマルション1と2mlのHyC12溶液(0.15M NaClのC=5mg/ml)の混合物を、ボルテックスシェーカーでの10分間の振盪に付し、次いで、パルスモードで30分間の音波処理に付した。得られた乳状で粘性があり非常に濃いエマルションは、1mlあたり0.49単位のインスリンを含んでいた。
【0094】
特性:
得られたカプセルは、高い値のゼータ電位により反映される良好な安定性を特徴としていた。カプセル化された染料もこれらの高い値に影響した。カプセルを4℃で保存した。1及び2週間後、エマルションはその安定性を保っていた。1週間後(及びその後)流体力学的直径の測定、高い分散指数(dispersion indicator)、及び共焦点顕微鏡法により、凝集体及びより大きい構造が形成されることが示され、試料中の単分散性の証拠はない。
【0095】
測定の目的で、カプセルを0.15M NaCl溶液で希釈した(100倍)。結果を表2及び
図24~26に示す。
【0096】
【0097】
実施例XIV
エマルション1:実施例2に記載の手順に従って調製
エマルション2:
10μlのエマルション1及び2mlのHyC12(C=2.5mg/ml;0.15M NaCl)を、ボルテックスシェーカーでの10分間の振盪に付し、次いで、パルスモードで30分間の音波処理に付した。
【0098】
得られた乳状で粘性のあるエマルションは、1mlあたり0.245単位のインスリンを含んでいた。
【0099】
特性:
得られたカプセルは、高い値のゼータ電位により示される良好な安定性を特徴としていた。カプセル化された染料もこれらの高い値に影響した。カプセルを4℃の温度で保存した。
【0100】
1週間後、エマルションはその安定性を保っていた。低いPDI値は、試料の単分散性及び凝集の傾向がないことを反映する。
【0101】
測定の目的で、カプセルを0.15M NaCl溶液で希釈した(100倍)。結果を表3及び
図27~28に示す。
【0102】
【0103】
実施例XV
インスリン溶液の調製:実施例2に記載の手順に従う
エマルション1の第1の成分を、60μlのHyC12溶液(0.15M NaCl中C=7.5mg/ml)を50μlのインスリン溶液及び10μlの染料(ニュートラルレッド0.15M NaCl中C=3.5mg/ml)と混合することにより調製した。
【0104】
エマルション1:
120μlのエマルション1の第1の成分と3.6mlのオレイン酸の混合物を、ボルテックスシェーカーでの10分間の振盪に付し、次いで、パルスモードでの30分間の音波処理に付した。
【0105】
エマルション2:
10μlのエマルション1と2mlのHyC12溶液(0.15M NaCl中C=2.5mg/ml)の混合物を、ボルテックスシェーカーでの10分間の振盪に付し、次いで、パルスモードでの30分間の音波処理に付した。得られた乳状で粘性のある非常に濃いエマルションは、1mlあたり0.154単位のインスリンを含んでいた。
【0106】
特性:
得られたカプセルは、高い値のゼータ電位により反映される良好な安定性を特徴としていた。カプセル化された染料もこれらの高い値に影響した。カプセルを4℃の温度で保存した。
【0107】
1週間後エマルションはその安定性を保っていた。流体力学的直径の得られた分布により、最初に凝集体があり、それが1週間後に分解したことが示される。
【0108】
測定の目的で、カプセルを0.15M NaCl溶液で希釈した(100倍)。結果を表4及び
図29に示す。
【0109】
【0110】
実施例XVI
1)インスリン溶液の調製
実施例4で得られたインスリン溶液を、94mgのインスリンの添加により濃縮し、透明な溶液を得るために4μlの3M塩酸により酸性化させ、それを、その後に、ボルテックスシェーカーでの5分間の振盪に付した。
【0111】
得られたインスリン溶液は、200mg/ml(5617.98UI)の濃度を有した。
【0112】
エマルション1の第1の成分を、20μlのHyC12溶液(C=7.5mg/ml;0.15M NaCl)を100μlのインスリン溶液と混合することにより調製した。
【0113】
エマルション1:
120μlのエマルション1の第1の成分と3.6mlのオレイン酸の混合物を、ボルテックスシェーカーでの10分間の振盪に付し、次いで、パルスモードでの30分間の音波処理に付した。
【0114】
エマルション2:
10μlのエマルション1と1mlのHyC12溶液(0.15M NaCl中C=1.5mg/ml)の混合物を、ボルテックスシェーカーでの20分間の振盪に付し、次いで、パルスモードで35分間の音波処理に付した。
【0115】
得られた乳状で粘性のある非常に濃いエマルションは1mlあたり1.5単位のインスリンを含んでいた。
【0116】
特性:
得られたカプセルは、高い値のゼータ電位により示される良好な安定性を特徴とした。カプセルを4℃の温度で保存した。1週間後、エマルションはその安定性を保っていた。流体力学的直径サイズの分布は狭い。
【0117】
測定の目的で、カプセルを0.15M NaCl溶液で希釈した(100倍)。結果を表5及び
図30に示す。
【0118】
【表5】
*3.56mg = 100 UI [(c) 2011, “Drug Discovery and Evaluation: Methods in Clinical Pharmacology”, Editors: Vogel, H.Gerhard, Maas, Jochen, Gebauer, Alexander]
【0119】
実施例XVII
1型糖尿病を誘発する
体重180~200gの範囲である1群の30匹の雄性Wistarラットに、チオペンタール(50mg/体質量kg)により麻酔をかけた。;その後に、リン酸緩衝液に溶解させたストレプトゾトシン(STZ)を、60mg/体質量kgの割合で尾静脈により注射した。注射した溶液の最終体積は、1ml/体質量kgであった。血糖を、ストレプトゾトシン注射の3日後に測定した。動物のそれぞれは、450mg%を超える血糖値を有することが分かり、それは、膵臓中のインスリン産生β細胞が損傷を受けた事実を反映していた。この時間の間、動物は、飼料及び水へのアクセスが制限されなかった。
【0120】
カプセル化されたインスリン活性の評価
耐糖能試験の12時間前、ラットを、6匹の動物の5群に分け(合計で30匹の動物)、飼料を利用できないようにした。動物は、引き続き水へのアクセスを制限されなかった。実験を、以下の群で実施した:
1.対照群:体質量の1kgあたり2gのグルコース、胃管により投与。
2.インスリン群:1キログラムあたり7.5単位及び体質量のkgあたり2gのグルコース、胃管により同時に投与。
3.対照群:体質量の1kgあたり0.5gのグルコース、胃管により投与。
4.インスリン群:胃管により体質量の1kgあたり0.5gのグルコースの投与の20分前に送達される1キログラムあたり11.25単位。
5.インスリン群:1キログラムあたり11.25単位及び体質量のkgあたり0.5gのグルコース、胃管により同時に投与。
【0121】
インスリンを、実施例5に記載の手順に従って得られたW/O/Wシステム中のカプセル化された形態で投与した。
【0122】
各群において、グルコースレベルを、以下の時点:0;15;30;45;60;75;90;105;120(並びに第1群及び2群で135)で、尾静脈から採取した血液試料中で測定した。グルコース測定を、Bionime Rightest(登録商標)GM100血糖測定器を使用して実施した。
【0123】
グルコースレベル測定の結果を、表6~10及び
図12に、関連する対照群を参照して第1群及び第2群における平均値(
図31a)並びに第3群、第4群、及び第5群における平均値(
図31b)を表すグラフの形態で示す。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
測定に基づき、グルコース曲線下の表面積(surface area)を計算した。平均値を各群で計算し、関連する対照群と比較し、パーセント比率を、対照群との関連で、すなわち対照群1に対して第2群、並びに対照群3に対して第4群及び第5群で計算した(表11)。
【0130】
【0131】
最終結論:
1.知見は、ストレプトゾトシン誘発1型糖尿病を有する動物において、グルコース曲線におけるカプセル化されたインスリンにより生み出された正の効果を示す。
2.観察された効果は、グルコース投与量がより低い場合により明らかであり、製剤中のインスリンの単位数を増加させる必要性を示唆している。
3.より有益な効果は、グルコース投与の20分前のカプセル化されたインスリンの投与により生じる。