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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】脳卒中モニタリング
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0507 20210101AFI20240404BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
A61B5/0507 100
A61B5/055 390
A61B5/055 380
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021552625
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 AU2020050201
(87)【国際公開番号】W WO2020176940
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】2019900703
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】521091929
【氏名又は名称】エムビジョン・メディカル・デバイシーズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EMvision Medical Devices Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】アボッシュ,アミン
(72)【発明者】
【氏名】アフサリ,アーマン
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/223178(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0155740(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/055
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリティカルリハビリテーション期間中に脳卒中を継続的にモニタリングするためのコンピュータ実装方法であって、
脳卒中領域を含む被験者の脳の初期画像を表す初期画像データへアクセスする第1ステップと、
被験者の脳の周りに配置された複数のアンテナから発生するマイクロ波と被験者の脳によって散乱されたマイクロ波とを表す散乱パラメータデータにアクセスする第2ステップと、
勾配なし最適化手法を使用して前記初期画像データと前記散乱パラメータデータとを処理し、被験者の脳内の脳卒中領域の空間寸法の推定値を生成する第3ステップと、
を含み、
前記被験者の脳の前記初期画像は、生成された前記推定値の精度を向上させるための事前情報として使用され、前記脳卒中領域の空間寸法は、前記勾配なし最適化手法の大域パラメータとして生成される、
方法
【請求項2】
前記脳卒中領域の空間寸法は、前記脳卒中領域の第1の所定の誘電率値と、前記被験者の脳における脳卒中以外の領域の第2の所定の誘電率値との空間寸法を最適化することによって最初に決定される、
請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記脳卒中領域の形状は、2次元平面内の重なり合う楕円によって近似され、前記脳卒中領域の空間寸法は、前記重なり合う楕円の空間寸法を決定することによって決定される、
請求項1又は2に記載の方法
【請求項4】
前記重なり合う楕円は、一定の空間寸法を有する短軸を有し、
前記重なり合う楕円の空間寸法は、前記重なり合う楕円の長軸に対応する2つのパラメータとして決定される、
請求項3に記載の方法
【請求項5】
前記脳卒中領域の空間寸法は、4つの幾何学的パラメータを決定することによって決定される、
請求項1又は2に記載の方法
【請求項6】
前記脳卒中領域の拡大又は縮小を経時的にモニタリングするために、前記第2ステップと前記第3ステップとを連続に繰り返すことを含む、
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法
【請求項7】
前記勾配なし最適化手法は、ネルダーミード勾配なし最適化手法である、
請求項1から6のいずれか1項に記載の方法
【請求項8】
前記脳卒中領域の空間寸法と比誘電率とは、前記勾配なし最適化手法の大域パラメータとして生成される、
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法
【請求項9】
前記被験者の脳の前記初期画像は、磁気共鳴画像法、又はX線画像法、又は電磁断層撮影法によって生成される、
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法
【請求項10】
クリティカルリハビリテーション期間中に脳卒中を継続的にモニタリングするための装置であって、
メモリと、
少なくとも1つのプロセッサと、
命令を格納する少なくとも1つのコンピュータ可読記憶媒体と、
を備え、
前記命令は、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されるとき、前記少なくとも1つのプロセッサに、
脳卒中領域を含む被験者の脳の初期画像を表す初期画像データへアクセスする第1ステップと、
被験者の脳の周りに配置された複数のアンテナから発生するマイクロ波と被験者の脳によって散乱されたマイクロ波とを表す散乱パラメータデータにアクセスする第2ステップと、
勾配なし最適化手法を使用して前記初期画像データと前記散乱パラメータデータとを処理し、被験者の脳内の脳卒中領域の空間寸法の推定値を生成する第3ステップと、
を実行させ、
前記被験者の脳の前記初期画像は、生成された前記推定値の精度を向上させるための事前情報として使用され、前記脳卒中領域の空間寸法は、前記勾配なし最適化手法の大域パラメータとして生成される、
装置。
【請求項11】
前記脳卒中領域の空間寸法は、前記脳卒中領域の第1の所定の誘電率値と、前記被験者の脳の脳卒中以外の領域の第2の所定の誘電率値との空間寸法を最適化することによって最初に決定される、
請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記脳卒中領域の形状は、2次元平面内の重なり合う楕円によって近似され、前記脳卒中領域の空間寸法は、前記重なり合う楕円の空間寸法を決定することによって決定される、
請求項10又は11に記載の装置。
【請求項13】
前記重なり合う楕円のそれぞれの空間寸法は、2つの幾何学的パラメータを決定することによって決定される、
請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記脳卒中領域の空間寸法は、4つの幾何学的パラメータを決定することによって決定される、
請求項10又は11に記載の装置。
【請求項15】
前記脳卒中領域の拡大又は縮小を経時的にモニタリングするために、前記第2ステップと前記第3ステップとを連続に繰り返すことを含む、
請求項10から14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記勾配なし最適化手法は、ネルダーミード勾配なし最適化手法である、
請求項10から15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記脳卒中領域の空間寸法と比誘電率とは、前記勾配なし最適化手法の大域パラメータとして生成される、
請求項10から16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記被験者の脳の前記初期画像は、磁気共鳴画像法、又はX線画像法、又は電磁断層撮影法によって生成される、
請求項10から16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
命令を格納する少なくとも1つのコンピュータ可読記憶媒体であって、
前記命令は、脳モニタリング装置の少なくとも1つのプロセッサによって実行されるとき、前記少なくとも1つのプロセッサに請求項1から9のいずれか1項に記載の前記方法を実行させる、
コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像技術に関し、特に、クリティカルリハビリテーション期間中に脳卒中を継続的にモニタリングするための装置及びプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関は、脳卒中を「24時間を超えて継続する、又は24時間以内の死亡によって中断となった脳血管障害の神経疾患」と定義している。これは、症状の発症から約6時間経過後には、結果として失われた脳機能が不可逆的となることが知られているため、脳卒中の重症度を軽減する治療を適用できるように、迅速に行動する必要があることを示している。しかし、現在、脳卒中の「幾何学的形態」及びその治療に対する反応を効率的に測定するための脳卒中モニタリングツールがないため、このような迅速な行動は部分的に医学的な盲目下で行われている。
【0003】
脳卒中発生後の最初の6時間は、通常、「クリティカルリハビリテーション期間」(「CRP」)と呼ばれ、「脳卒中によって失われた機能が回復する可能性がある期間」として定義されている。したがって、脳卒中の治療は、脳卒中が診断された直後に行われる。ただし、その治療は、脳卒中の「幾何学的サイズ」に対して、投薬又は他の治療の効果を評価し、対応する医療的調整(例えば、脳卒中の挙動に応じて、直ちに別の治療に変更する)を提供するために、特にCRPの間に、必要に応じて、実質的継続的なモニタリングを含める必要がある。しかしながら、このような非常に重要な必要性は、現在利用可能な画像診断法によっては未だに容易にできておらず、その一例は、P.D.Schellinger等による、論文「拡散及び灌流MRIによる急性虚血性脳卒中の静脈内組換え組織プラスミノーゲン活性化因子血栓溶解のモニタリング」、Stroke,vol.31, no.6, pp.1318-1328, Mar.2000(”Schellinger”)に記載されている。
【0004】
(CRP中に脳卒中の幾何学的変化)
CRP中に脳卒中の挙動を示すために、図1Aは、症状の発症から3時間後の、MRIにより得られた脳卒中モデルであって、Schellinger氏の論文に記載の医学的状況に似たものを示している。当該モデルは、緊急事態で使用される「脳卒中MRI」画像診断法によって生成された画像から得られたものである。当該画像診断法の主な目的は、脳卒中の重症度を明らかにすることであり、したがって、通常、画像生成に長い計算時間を必要とする従来のMRI画像と比較して特異度が低い。
【0005】
図1B及び1Cは、CRP中の図1Aの脳卒中の形状の、症状の発症から5時間半後の2つの可能な変化を表した図である。図1Bに示す脳卒中の拡大は、通常「低灌流」と呼ばれ、「血塊」(脳卒中の間に、脳の動脈が破裂すると、約4分後に周囲の組織に溢れる血液が血塊を形成する。したがって、患者の到着時に、脳の患部は既に血塊で占められている)の拡大による脳組織への酸素供給不足を特徴とし、患部の誘電特性が、その周囲の組織の誘電特性よりも10-15%低い値まで低下している。この状況は、血栓溶解治療(血栓溶解薬を患部に注射または直接送達(カテーテルを使用)することによって「血塊」を破壊するプロセス)がかなり遅く、通常、症状の発症から4時間半後に行われる場合に発生する。このとき、治療が、意図したように脳卒中領域を縮小させることができず、反対に脳卒中領域を拡大してしまう。
【0006】
一方、図1Cは、血栓溶解治療が間に合った場合、通常、脳卒中の発症直後の4時間以内に行われた場合に、血塊の破壊を示している。図1Bと1Cとの幾何学的変化は、脳卒中治療に対する異なる重要な反応であるが、有効な脳卒中モニタリングプロセスの欠如のため、現在は検出できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(リアルタイムモニタリングに対する障壁)
継続的なモニタリング技術の欠如は、主にMRI及びX線である既存の医用画像診断法のいくつかの固有の制限に起因するものである。例えば、MRIの大きくて静的な構造により、継続的なモニタリングツールとしての使用が妨げられる。なぜなら、重度の脳卒中の患者は通常緊急治療状態であり、集中治療室(ICU)とモニタリング用の撮像ユニットとの間で繰り返し移送できないためである。更に、人体に対するX線の電離効果とMRIの遺伝子毒性影響により、これらの画像診断法を継続的に使用することによって身体を安全でない可能性がある線量の放射線に曝すことができない。
【0008】
これらの課題に対処するために、電磁断層撮影法(EMT)が有望なモニタリング診断法として導入された。EMTは、通常、当技術分野で「S-マトリックス」又は「散乱パラメータ」と呼ばれる形式で、測定データから未知の物体の画像を再構成することを含む。当該画像診断法は、EMTハードウェアが軽量であることから、ICUを含む全ての医療ユニットに持ち運び可能であり、設置可能である利点を有し、更に、MRI及びX線画像診断法のイオン化及び遺伝子毒性効果を生じさせないため安全である利点もある。
【0009】
しかしながら、EMTには、これらの確立された手法に比べていくつかの制限がある。特に、回折効果と、人間の頭部組織の鋭い角(特に図1Aに示す脳と脳脊髄液との間の丸い角)における高度に局所化されたエバネッセント波(evanescent wave)の存在とは、通常医療用EMTが実行されるUHF(300MHzから3GHz)周波数帯域及びS(2-4GHz)周波数帯域で顕著である。その結果、EMT画像は幾何学的に粗く、撮像される対象物(例えば、脳卒中領域)の実際の形状を正確に表すことができない。しかし、CRP中のモニタリングには、撮像される対象物(例えば、脳卒中領域)の実際の形状を正確に表すことが望ましい。
【0010】
例えば、図1Dは、1.5GHzで動作する8つの撮像ダイポールアンテナを使用して生成された、図1Aに示す例の比誘電率の空間分布を示すEMT画像である。図1Aとの簡略的な比較でさえ、計算された画像が脳卒中の実際の空間分布又は誘電特性を正確に表していないことが示されている(通常、対応する導電率σの探索精度が比誘電率εrの探索精度よりも劣っているので、探索された導電率σは、表示から除外されている)。更に、EMTによる医用画像を生成するために必要な対応する計算時間がかなり長い。例えば、3.6GHzのIntelCoreTMi7-4790 CPU及び16GBのRAMを搭載したコンピュータープラットフォームを使用して、15dBの信号対雑音比(SNR)で図1Dの画像を生成する時間は約76分である。したがって、回折効果、UHFおよびSバンドでのエバネッセント波の存在、及び必要な計算時間が非常に長いことから、従来のEMTを独立型の脳卒中モニタリングとして使用することはできない。Schellinger氏の論文で述べられているように、「高速で、最初の6時間以内に脳内出血(ICH)を検出するために十分な高感度を有し、リスクのある組織が存在する場合はそれを特定できる、脳卒中イメージングツールの必要が残っている」。
【0011】
したがって、先行技術の1つまたは複数の課題を克服または軽減すること、あるいは少なくとも有用な代替物を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のいくつかの実施形態によれば、クリティカルリハビリテーション期間中に脳卒中を継続的にモニタリングするためのコンピュータ実装プロセスが提供され、当該プロセスは、以下のステップ、すなわち、
(1)脳卒中領域を含む被験者の脳の初期画像を表す初期画像データにアクセスするステップと、
(2)被験者の脳の周りに配置された複数のアンテナから発生され、被験者の脳によって散乱されたマイクロ波を表す散乱パラメータデータにアクセスするステップと、
(3)勾配なし(gradient free)最適化手法を使用して散乱パラメータデータと初期画像データとを処理し、被験者の脳内の脳卒中領域の空間寸法の推定値を生成するステップと、
を含み、
被験者の脳の初期画像は、生成される推定値の精度を向上させるための事前情報として使用され、脳卒中領域の空間寸法は、勾配なし最適化手法の大域パラメータとして生成される。
【0013】
いくつかの実施形態では、脳卒中領域の空間寸法は、脳卒中領域の第1の所定の誘電率値と、被験者の脳における脳卒中以外の領域の第2の所定の誘電率値との空間寸法を最適化することによって最初に決定される。
【0014】
いくつかの実施形態では、脳卒中領域の空間寸法及び比誘電率は、勾配なし最適化手法の大域パラメータとして生成される。
【0015】
いくつかの実施形態では、脳卒中領域の形状は、2次元平面内の重なり合う楕円に近似され、脳卒中領域の空間寸法は、重なり合う楕円の空間寸法を決定することによって決定される。
【0016】
いくつかの実施形態では、重なり合う楕円は、一定の空間寸法を有する短軸を有し、重なり合う楕円の空間寸法は、重なり合う楕円の長軸に対応する2つのパラメータとして決定される。いくつかの他の実施形態では、脳卒中領域の空間寸法は、4つの幾何学的パラメータを決定することによって決定される。
【0017】
いくつかの実施形態では、プロセスは、経時的な脳卒中領域の拡大又は縮小をモニタリングするために、ステップ(2)及び(3)を連続に繰り返すことを含む。
【0018】
勾配なし最適化手法は、ネルダーミード(Nelder-Mead)勾配なし最適化手法であってもよい。
【0019】
被験者の脳の初期画像は、磁気共鳴画像法、又はX線画像法、又は電磁断層撮影画像法によって生成されてもよい。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によれば、クリティカルリハビリテーション期間中に脳卒中を継続的にモニタリングするための装置が提供される。当該装置は、
メモリと、
少なくとも1つのプロセッサと、
命令を格納する少なくとも1つのコンピュータ可読記憶媒体と、
を備え、
前記命令は、少なくとも1つのプロセッサによって実行されるとき、少なくとも1つのプロセッサに以下のステップ、すなわち、
(1)脳卒中領域を含む被験者の脳の初期画像を表す初期画像データにアクセスするステップと、
(2)被験者の脳の周りに配置された複数のアンテナから発生され、被験者の脳によって散乱されたマイクロ波を表す散乱パラメータデータにアクセスするステップと、
(3)勾配なし最適化手法を使用して散乱パラメータデータと初期画像データとを処理し、被験者の脳内の脳卒中領域の空間寸法の推定値を生成するステップと、
を実行させ、
被験者の脳の初期画像は、生成される推定値の精度を向上させるための事前情報として使用され、脳卒中領域の空間寸法は、勾配なし最適化手法の大域パラメータとして生成される。
【0021】
いくつかの実施形態では、脳卒中領域の空間寸法は、脳卒中領域の第1の所定の誘電率値と、被験者の脳における脳卒中領域以外の領域の第2の所定の誘電率値との空間寸法を最適化することによって最初に決定される。
【0022】
いくつかの実施形態では、脳卒中領域の形状は、2次元平面内の重なり合う楕円に近似され、脳卒中領域の空間寸法は、重なり合う楕円の空間寸法を決定することによって決定される。
【0023】
いくつかの実施形態では、重なり合う楕円のそれぞれの空間寸法は、2つの幾何学的パラメータとして決定される。
【0024】
いくつかの実施形態では、脳卒中領域の空間寸法は、4つの幾何学的パラメータを決定することによって決定される。
【0025】
いくつかの実施形態では、装置は、脳卒中領域の拡大又は縮小を経時的にモニタリングするために、ステップ(2)及び(3)を連続に繰り返すことを含む。
【0026】
勾配なし最適化手法は、ネルダーミード勾配なし最適化手法であってもよい。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によれば、命令を格納する少なくとも1つのコンピュータ可読記憶媒体が提供される。前記命令は、少なくとも1つのプロセッサによって実行されるとき、少なくとも1つのプロセッサに上記プロセスのいずれかを実行させる。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態は、添付の図面を参照して、例のみとして以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1A】脳卒中領域を含む被験者の頭部の断面平面のMRI画像から得られた図であって、Gabrielによる1.5GHzでの対応する組織誘電特性(εr、σ)を有する、EMTを開始するために利用される脳卒中モデル情報を示す図である。
図1B】Schellinger氏によるCRP中の図1Aの脳卒中の2つの対応する可能なクリティカルレスポンスの1つを示す図である。
図1C】Schellinger氏によるCRP中の図1Aの脳卒中の2つの対応する可能なクリティカルレスポンスの他の1つを示す図である。
図1D】従来技術のEMTプロセスによって生成された被験者の頭部の画像であって、強い勾配ベースの最適化に基づいて、脳卒中MRI画像によってEMTを開始しておらず、明らかに脳卒中領域を正確に特定できないことを示す図である。
図1E図1Dと同じプロセスで生成された対応するEMT画像である。図1Aの脳卒中MRI画像によってEMTが開始され、脳卒中領域を正確に特定したことを示すが、当該改善されたEMT探索プロセスは1時間以上かかるため、CRP中に脳卒中モニタリングにはこのアプローチは実用的ではない。
図1F図1Dと同じプロセスで生成された対応するEMT画像である。図1Aの脳卒中MRI画像によってEMTが開始され、全てのピクセルでの投薬(血栓溶解)に対するその後の反応を示すが、当該改善されたEMT探索プロセスは1時間以上かかるため、CRP中に脳卒中モニタリングにはこのアプローチは実用的ではない。
図2】3つの脳卒中パラメータa0,b0,εr(幾何学的パラメータa0及びb0は図1Aに示されている)の3D空間での幾何学的操作として表されるネルダーミード(「NM」)最適化の様々な最適化操作を示す図である。
図3】本発明に記載の実施形態によるNM最適化プロセスのフローチャートであって、頂点を生成した後、プロセスは先ず「ベスト」頂点が打ち切り条件を満たすかどうかをチェックする。条件を満たしていない場合は、最初のエラー軽減操作、つまり、「リフレクション」が実行される。そして、リフレクション頂点がベスト頂点に対してより低いエラーを有する場合、拡張操作は、更によい頂点を見つけるように実行される。そうでない場合は、ワースト頂点と第2のワースト頂点とに対するリフレクション頂点のエラーレベルに応じて、前方/後方短縮及び縮小が実行され、最終的に、各反復において、少なくともワースト頂点よりも良い(エラーが少ない)新しい頂点が見つかる。
図4A】本明細書で説明するNM最適化の探索プロセス及び収束挙動を示すグラフである。
図4B】本明細書で説明するNM最適化の探索プロセス及び収束挙動を示すグラフである。
図4C】本明細書で説明するNM最適化の探索プロセス及び収束挙動を示すグラフである。
図5A】2つの脳卒中形状パラメータa0、b0を使用し、8本のアンテナを備えたCRP中に脳卒中モニタリングにおけるNM最適化の精度及び計算時間に対して影響を与えるいくつかの要因の影響を示すグラフであって、SNR=15dBの場合のアンテナの総数の影響を示すグラフである。
図5B】2つの脳卒中形状パラメータa0、b0を使用し、8本のアンテナを備えたCRP中に脳卒中モニタリングにおけるNM最適化の精度及び計算時間に対して影響を与えるいくつかの要因の影響を示すグラフであって、SNRの影響を示すグラフである。
図5C】2つの脳卒中形状パラメータa0、b0を使用し、8本のアンテナを備えたCRP中に脳卒中モニタリングにおけるNM最適化の精度及び計算時間に対して影響を与えるいくつかの要因の影響を示すグラフであって、SNR=15dBの場合の脳卒中のサイズの影響を示すグラフである。
図5D】2つの脳卒中形状パラメータa0、b0を使用し、8本のアンテナを備えたCRP中に脳卒中モニタリングにおけるNM最適化の精度及び計算時間に対して影響を与えるいくつかの要因の影響を示すグラフであって、SNR=15dBの場合の、個々の組織とGabrielのデータベースとの間の差異の影響を示すグラフである。
図6A】3DMRIから得られた脳卒中モードのNM最適化探索プロセスであって、患者の頭部の周りに配置されたアンテナの円形アレイを備えた3次元EMT幾何学的表現を示す図である。
図6B】3DMRIから得られた脳卒中モードのNM最適化探索プロセスであって、本明細書に記載の3次元EMTプロセスによって画像化された、患者の頭内の脳卒中領域の拡大図である。
図6C】3DMRIから得られた脳卒中モードのNM最適化探索プロセスであって、3次元脳卒中領域を画定する4つの幾何学的パラメータを有する画像化された脳卒中領域を示す図である。
図6D】3DMRIから得られた脳卒中モードのNM最適化探索プロセスであって、血塊の破壊中に画像化された三次元脳卒中領域を示す図である。
図6E】3DMRIから得られた脳卒中モードのNM最適化探索プロセスであって、プロセスによって決定された、反復回数の関数としての4つの幾何学的脳卒中領域パラメータ及び比誘電率を示す図である。
図6F】3DMRIから得られた脳卒中モードのNM最適化探索プロセスであって、反復回数の関数としてのプロセスの収束をdBで示すグラフである。
図7】本発明の一実施形態にかかる脳卒中モニタリング装置の概略図である。
図8】本発明の一実施形態にかかる脳卒中モニタリングプロセスの流れを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
モニタリング診断法としてのEMTの可能性は、CRP中に脳卒中モニタリングに適した新しいEMTプロセスを開発するように発明者を動機付けた。実際には、上記EMTの固有の制限のいくつか、すなわち、回折効果と、UHFバンド及びSバンドでのエバネッセント波の存在とは避けられないものである。本発明者らは、従来技術のEMTプロセスの致命的な長い計算時間は、全ての従来技術によるEMTシステムで利用されている勾配ベースの最適化数値的定式化によるものであると判断した。それらの最適化は、結果の画像の全てのピクセルにおいて「変数」の最適値を探索するため、通常、これらの最適値を見つけるためには長い計算時間が必要となる。言い換えれば、脳内の脳卒中領域の空間分布と誘電特性が不明な場合、それらは、変数として扱われ、その最適値は、画像の全ての「ピクセル」(例えば、図1Aに示されているもの)で探索する必要がある。臨床的に許容できる空間分解能を得るためには、比較的多数のピクセルが必要であるため(EMTの限られた最大達成可能空間分解能を考慮した場合でも)、従来技術のEMT計算プロセスは、CRP中に脳卒中モニタリングには非常に非効率的である。更に、これらの非効率的なプロセスによって計算して得られた画像は、図1Dに明らかに示されているように、いずれの場合にも精度が不十分である。
【0031】
これを念頭に置いて、本発明者らは、患者が到着するとすぐに撮像ユニットに搬送されるため、高解像度画像診断法を使用する初期診断段階から、脳卒中領域の初期空間分布が事前情報として利用可能であることを特定した。例えば、図1Aに示すように、患者をICUに搬送される前のMRI(又はX線、又はEMT)を利用することができる(脳卒中MRI画像診断法を使用して脳卒中領域の初期画像を生成するのに1時間もかからない)。MRI(又はX線、又はEMT)画像は、上記の理由(安全性、コスト、計算時間)により、継続的なモニタリングには実際に使用できないが、患者の到着時に生成された脳卒中MRI(又はX線、又はEMT)画像は、位置合わせ又は「登録」できる。これについて、G.Boverman,C.E.L.Davis,S.D.Geimer,P.M.Meaney氏らの、論文「非同時の事前磁気共鳴画像からの事前情報を使用した乳房のマイクロ波トモグラフィーのための画像登録」、IEEE Journal of Electromagnetics,RF and Microwaves in Medicine and Biology,vol.2,no.1,pp.2-9,Mar.2018,及びR.L.Leijsen,W.M.Brink,C.A.T.van den Berg,A.G.Webb,R.F.Remis氏らの、論文「三次元コントラスト源反転-電気的特性トモグラフィー」、IEEE Tans.Med.Imag.,vol.37,no.9,Sep.2018(「Leijsen」)に記載されている。ここで、Leijsen氏の論文には、様々の組織の誘電特性が記載されている。
【0032】
登録された画像(この例では図1A)は、ICUに設置された従来のEMT装置で採用され(実際に、MRIは1回のみ実行される)、脳卒中反応(図1B及び1Cに概略的に示す)画像を生成するための事前情報として使用することができる。これによって、図1E及び1Fに示すように、探索精度を大幅に改善することができる。この改善の理由は、登録された脳卒中MRI画像を使用して、勾配ベースの最適化によって生成される探索可能な画像のスペースを限定することで、EMTをより正確な画像に収束させるためである。ただし、従来の(いわゆる勾配ベースの)EMTのピクセルベースの最適化の本質により、この方法の計算時間は依然として非常に長く、この例では約1時間である。これは、図1Dの例に比べて、僅かな時間短縮である。図1Dでは、EMTを補足するMRI画像を利用しないEMTの場合、計算時間が76分である。したがって、勾配ベースのEMTは、MRI、X線、又はCTスキャン画像によって開始される場合、緊急でないシナリオ、例えば、腫瘍スクリーニングにのみ役に立つ可能性がある(3D事例問題において、Leijsen氏が述べたように、報告された計算時間は、標準的なコンピュータでは約11時間であった)。
【0033】
本明細書に記載しているのは、クリティカルリハビリテーション期間(CRP)中に脳卒中を継続的にモニタリングするための装置及びプロセスであり、便宜上、脳卒中モニタリング装置及びプロセスとも呼ばれる。本明細書に記載の脳卒中モニタリングプロセス及び装置において、MRI(又はX線、またはEMT)登録画像は、脳卒中領域の初期の幾何学的形状及び誘電特性を提供するための事前情報として実装される。しかしながら、画像化された領域の全てのピクセルにおいて変数を計算する非効率的な従来技術の勾配ベースのEMTプロセスに代えて、脳卒中領域の形状、寸法、及び誘電特性は、大域パラメータとして計算される。したがって、これらのパラメータの大域値は、以下に説明するように、勾配なし最適化プロセスによって、後のモニタリング時間に継続的に更新される。
【0034】
例えば、本実施形態において、脳卒中領域の形状及び寸法を規定する2つの幾何学的パラメータは、図1Aに示すように、1cmの一定の短軸を有する2つの重なり合う楕円の半長軸、すなわち、a0及びb0(初期値は、a0=1.5cm,b0=2cm)であって、脳卒中領域の比誘電率を規定する第3のパラメータは、例えば、εrである。脳卒中の形状及び誘電特性を大域パラメータとして扱うと、未知の量の数を、例えば、図1Aの画像の約1000ピクセルベースの変数から、僅か3つの大域パラメータに減少させる。この再編成により、勾配なし最適化手法は、パラメータ最適化の非常に効率的な手法として(パラメータは各ピクセルで局所的ではなく、大域的に最適化されるため)、EMTに使用することが可能となる。明らかに、このような勾配なし最適化は、図1Dから1Fのようなピクセルベースの画像を提供することができない。しかしながら、CRP中の医療ニーズにおいて、2分ごとに脳卒中パラメータ(a0、b0、εrなど)の迅速且つ正確な追跡は、勾配ベースの最適化による、1時間ベースの脳卒中の粗い画像の取得よりも、はるかに医学的に妥当的である。
【0035】
勾配なし最適化手法は、特に最適化中に最小化される関数が微分可能又はスムーズでない場合に、勾配ベースの最適化が適用できない事例問題を解決するために開発された手法である。
【0036】
ネルダーミード(「NM」)、遺伝的アルゴリズム(「GA」)、粒子群最適化(「PSO」)など、様々な電磁及びアンテナアプリケーション向けに様々な勾配なし最適化手法が開発されてきた。ここで、精度から離れて、最適化過程において計算時間を重視する場合、NM最適化手法は通常、最速の勾配なし最適化手法である。時間が命であるCRP中の脳卒中モニタリングにおいて、本発明者らは、NM最適化手法がモニタリングの要求に最も適していると考える(ただし、他の実施形態において他の勾配なし最適化手法が使用されてもよい)。NM最適化手法はこれまでにEMTアプリケーションに使用されていなかったため、この特定のアプリケーションのNM最適化プロセスの概要を以下に説明する。一般的なNM手法は、N.Pham,A.Malinowski,及びT.Bartczak氏らの、論文「目的関数の微分情報を用いない(derivative free)最適化アルゴリズムの比較研究」、IEEE Tans.Industr.Inform.,vol.7,no.4,pp.592-600,Nov.2011(「Pham」)に記載されている。
【0037】
本実施形態において、説明されるプロセスは、図7に示されるように、脳卒中モニタリング装置によって実行される。使用中、当該装置は、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)又はトランシーバ701と通信し、トランシーバ701は、マイクロ波アンテナ705のアレイに接続されている。
【0038】
マイクロ波アンテナ701のアレイは、図示のように、脳が撮像される患者の頭部704を受信するように配置され、それにより、アレイの各アンテナは、選択的に励起され、電磁波又はマイクロ波周波数の信号を被験者の頭内に放射し、被験者の頭部を通って散乱させる。対応する散乱信号が、対応する信号を送信したアンテナを含む、アレイの全てのアンテナによって検出される。
【0039】
当業者には明らかであるように、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)701は、上記のようにアンテナを励起し、アンテナからの対応する信号をデータとして記録する。当該データは、散乱マイクロ波の振幅及び位相を表し、当技術分野で「散乱パラメータ」又は「Sパラメータ」として知られている形態で記録される。VNA701は、当該データを処理装置に送信し、撮像された被験者の内部特徴(例えば、脳血塊、出血部位、及び他の特徴)に関する情報を生成する。本実施形態において、700dBを超える広いダイナミックレンジと、-700dBm未満のノイズフロア(noise floor)とを有するVNAを使用して、アンテナを励起して、0.5から4GHzの周波数帯域にわたって電磁信号を送信し、それらのアンテナからの散乱信号を受信する。
【0040】
本実施形態の装置はコンピュータの形態であるが、他の実施形態では必ずしもこの形態である必要はない。図7に示すように、本実施形態の脳卒中モニタリング装置は、64ビットのインテルアーキテクチャ(Intel Architecture)コンピュータシステムであり、脳卒中モニタリング装置によって実行される脳卒中モニタリングプロセスは、コンピュータシステムに関連する不揮発性記憶装置704(例えば、ハードディスク、又はソリッドステートドライブ)に格納された1つ又は複数のソフトウェアモジュール702のプログラミング命令として実装される。ただし、これらのプロセスの少なくとも一部は、代替的に、1つ又は複数の他の形式、例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)の構成データとして、又は1つ以上の専用ハードウェアコンポーネント、例えば、特定用途集積回路(ASIC)として、又はこれらの形式の任意の組み合わせとして実装することができる。
【0041】
脳卒中モニタリング装置は、ランダムアクセスメモリ(RAM)706と、少なくとも1つのプロセッサ708と、外部インターフェース710、712、713、714と、を含み、これらの全ては、バス716によって相互接続されている。外部インターフェースは、ネットワークインターフェースコネクタ(NIC)712を含み、ネットワークインターフェースコネクタ(NIC)712は、脳卒中モニタリング装置をインターネット720などの通信ネットワーク、及びユニバーサルシリアルバス(USB(登録商標))インターフェース710に接続し、それらの少なくとも1つは、キーボード718、及びマウス719等のポインティングデバイス、及び、ディスプレイアダプタ714に接続することができる。ディスプレイアダプタ714は、LCDパネルディスプレイ722などのディスプレイデバイスに接続することができる。
【0042】
脳卒中モニタリング装置はまた、オペレーティングシステム724、例えば、Linux(登録商標)又はMicrosoft Windows(登録商標)を含み、いくつかの実施形態では、更にソフトウェアモジュール726-730を含む。ソフトウェアモジュール726-730は、ウェブサーバソフトウェア726、例えば、http://www.apache.orgで入手可能なApacheと、スクリプト言語サポート728、例えば、http://www.php.netで入手可能なPHP又はMicrosoft ASPと、SQLデータベース732にデータを格納したり、SQLデータベースからデータを取得したりする構造化クエリ言語(SQL)サポート730、例えば、http://www.mysql.comで入手可能なMySQLと、を含む。
【0043】
同時に、ウェブサーバ726、スクリプト言語モジュール728、及びSQLモジュール730は、脳卒中モニタリング装置に対し、標準のウェブブラウザソフトウェアを備えた標準のコンピューティングデバイスを有するリモートユーザが、脳卒中モニタリング装置にアクセスし、特にCRP中に脳卒中の進行をモニタリングすることを可能にする一般的な機能を提供する。
【0044】
(A.EMTのNM最適化:初期化)
図1B及び1C(図1Aで開始)に示すEMT事例問題の場合、(最適化プロセスで実装されるS-マトリックスはダイポールポートで記録されるため)被験者の頭部の2D MRIモデルがダイポールアンテナのポートと交差するように、8つの撮像ダイポールアンテナが被験者の頭部を囲む円形構成で配置される。
【0045】
アンテナは、血栓溶解療法が既に適用されている場合、例えば、症状の発症から5時間半後頃、1.5GHzの正弦波で頭部を照射する。このタイミングの例は、Schellinger氏が記載した脳卒中の症例に参考したものであって、被験者の到着時間は症状の発症から約3時間後、2Dシングルスライス脳卒中-MRIは到着後0.75時間で作成される。そして、アンテナは対応する散乱フィールドをS-マトリックスの形式で記録する(アンテナの数が精度及び探索時間に及ぼす影響については、後段で説明する)。次に、このS-マトリックスを実装し、3つの脳卒中パラメータa0、b0、εrを更新する。3つの脳卒中パラメータa0、b0、εrは、図1Aに示すように、初期値X0=(a0=1.5cm,b0=2cm,εr=39)を有し、これらは、3D空間(パラメータの数が3であるため)内の点(又は以下で説明する頂点)を規定すると考えることができる。
【0046】
これらのパラメータは、次の理由で選択された。脳卒中に適用された薬剤の効果は、被験者の脳の脳卒中領域の比誘電率の変化によって反映されるため、比誘電率は、その後脳卒中をモニタリングし、S-マトリックスに一致する値に収束する信頼できるパラメータとして考えることができる。前述したように、脳卒中領域の導電率σの探索精度は通常、比誘電率εに比べて低いため、導電率は探索されない。更に、幾何学的又は形状パラメータa0、b0は、脳卒中領域の幾何学的変化(拡大又は縮小)を最もよく反映するように選択される。図1Aに示すスムーズな脳卒中形状の場合、a0、b0は、2つの楕円の半主軸であり、可能な代替的な幾何学的パラメータ(より複雑な幾何学的形状については後段で説明する)において脳卒中領域の幾何学的変化を最も正確に表すと考えることができる。本発明者らは、これらの形状パラメータはまた、対応するS-マトリックスに最もよく合う値に連続的に収束することを見出した。図1Aの2D事例問題の物理的領域は、図2Aに示す構築されたパラメータの3D数学的空間とは異なる。
【0047】
X0に加えて、3つのパラメータの変化範囲は、利用可能なパラメータ空間を規定する。低灌流状態の脳卒中領域(図1B)が脳の左半球全体に広がる可能性があり、血塊の破壊が成功すれば(図1C)血塊を完全に除去することができる(つまり、脳卒中領域が縮小してなくなる)と仮定する。この大きな変化範囲は、0≦a0≦4cm、0≦b0≦7cm、39≦εr≦43.5cmのパラメータ空間に対応し、最適頂点を見つけるためには、最適化プロセスが非常に正確なパラメータ範囲を必要としないことを示し、投薬に対する脳卒中の反応について確固たる予測がない場合でも、これらの3つのパラメータを最適化するために、図2Aに示すように、NM最適化は、先ずパラメータの3D空間内に3+1の頂点を持つ等しい長さのシンプレックス(simplex)(一般化三角形)を構築する。頂点の1つは、実際、最初のMRI画像によって提供された初期推量(つまり、開始点)X0である。距離cが等しい他の全ての頂点は、以下の式により、この初期推量に次のベクトルを追加することによって導出される。
【0048】
【数1】
【0049】
ここで、ベクトル成分は以下の式により規定される。
【0050】
【数2】
【0051】
ここで、Nはパラメータの数(すなわち、本実施形態では3)である。通常、c=1は、プロセスが最初のステップで十分に大きなボリュームにおいて探索できるようにする。cの値が小さいと、通常、長い計算時間が必要になり、局所の最小値のみを見つけるようにプロセスを誤って導く可能性がある。また、ノイズの存在により、僅かに異なる頂点が同じ周波数応答(S-マトリックス)になる可能性があるため、頂点を互いに十分に離して配置することによって(c≧1で距離を置く)、早期の反復でノイズに対してプロセスを強くすることができる。
【0052】
シンプレックスを構築することにより、次のステップは、全ての頂点X0,X1,X2,X3で目的関数(すなわち、NM最適化によって最小化される関数)を評価することである。図1B又は1Cに示すEMT事例問題では、この目的関数は、次のように、測定されたS-マトリックス(「測定値」)と探索されたS-マトリックス(「探索値」)との間にL2ノルム不一致(norm mismatch)として定義される。
【0053】
【数3】
【0054】
ここで、Ωは撮像領域(円筒座標系で
)を示し、χは人間の頭部の誘電特性のコントラストであって、
で定義されている。ここで、
は、複素誘電率であり、
は、自由空間誘電率であり、ω=2π×1.5GHzは、角周波数である。本実施形態において、8つのアンテナが使用されるため、S-マトリックスのサイズは8×8である。そして、不一致は、対応する行列要素SmeasとSretrとの間の差である。Eは、図1B又は1Cの撮像領域にわたる総電界であり、W.C.Chewによる、「不均一媒体における波及びフィールド」、IEEE Press,New York,1995(「Chew」)の第9章、及びA.Afsari,A.Abbosh,Y.Rahnat-Samiiによる、「磁場変動コントラスト源演算子を用いた医療用電磁トモグラフィーにおける修正Born反復法」、IEEE Trans.Microw. Theory Techn.,DOI:10.1109/TMTT.2018.2876228に記載されているように、以下の式により算出することができる。
【0055】
【数4】
【0056】
incは、Ωに対象物がない場合の入射電界である。最後に、Gは、Chew氏が第1章で述べた双Green関数であり、
は自由空間波数であって、μ=4π×10-7は、自由空間透磁率である。
【0057】
全ての頂点の目的関数を評価した後、図2Bに示すように、3つの頂点がNM手法において特に重要である。目的関数の最小値を与える頂点(本実施形態では式(3)によって与えられる)は、「ベスト」頂点と呼ばれ、Xbで表す。L2ノルム不一致が最も大きい頂点は、「ワースト」頂点Xwと呼ばれる。プロセスを、式(3)の不一致が常に減少する方向に導くために、プロセスは、式(3)が2番目に高い値を持つ補点を決定する。当該頂点は、「セカンドワースト」頂点Xswと呼ばれる。次に、Xwを除く全ての頂点の平均値がXaとして計算される。XaとXwとの間の線分(LXwXa)は、常に下向きであり、最適化プロセス中に式(3)の不一致がXwよりも低い可能性があるいくつかの有用ポイントを含む。この下向きの最適点の探索に従って、このプロセスは「ダウンヒル(downhill)」最適化とも呼ばれる。
【0058】
上記初期化ステップの後、プロセスは少なくとも2回、最大で5回の「エラー軽減」操作を実行する。これらの各ステップにおいて、Xwの古い値がコンピュータメモリから削除され(つまり、次の反復のために保存されない)、他の全ての頂点が再配置されて、Xb,Xw,Xswの新しい値が提供される。以下に、後続の操作を説明する。
【0059】
(リフレクション(Reflection))
NMアプローチの最初の最適化ステップは、次のように、同じ長さでLをわたってワースト頂点Xを反射(reflect)する。
【0060】
【数5】
【0061】
この操作は、プロセスが方向LXwXaへの移動を続行すべきか、又は別の方向への移動がプロセスを最適頂点に導くのかを確認するためのものである。式(3)によるXrにおける不一致がXbにおける不一致よりも低い場合、つまり、F(Xr)<F(Xb)の場合、プロセスは、更に良い頂点を見つける可能性があると評価し、式(6)に示す置き換えを実行する(プログラミング規約A←Bとは、古い値Aが新しい値Bに置き換えられることを表す)。更に良い頂点を見つけるために、拡張操作は常に同じ方向LXwXaに更に移動することで実行される。
【0062】
【数6】
【0063】
(拡張(Expansion))
図2Dのように、プロセスは、同じステップ長、すなわち、式(7)に示すステップ長で方向LXwXaに沿って更に移動する。
【0064】
【数7】
【0065】
次に、式(3)により、この展開頂点で評価を行う。Xeの値がXbよりも低い場合(Xrよりも悪い場合でも)、つまり、F(Xe)<F(Xb)の場合、プロセスは式(8)に示す置き換えを実行する。
【0066】
【数8】
【0067】
そして、(繰り返しで)リフレクションステップに戻る。Xrが他の頂点の中で見つかったベスト頂点であるにもかかわらず、プロセスがXb←Xrの置き換えをすぐに受け入れない理由は、XrがXeによって形成された新しいシンプレックス内にあるため、プロセスによって確保されているためである。したがって、拡張を実行することにより、Xrの近傍領域はサブ領域として確保され、当該サブ領域において、式(3)による最小化によって、他のいくつかの良い頂点又は更により良い頂点が存在する可能性がある。反対に、もし式(3)により、Xeの値がXbに比べ低くない場合、式(6)の置き換えが実行され、プロセスは繰り返しで最初の操作(すなわち、リフレクション)に戻る。
【0068】
(前方短縮(Forward Contraction))
式(6)又は式(8)のいずれも、F(Xr)<F(Xb)を条件とするが、この条件を満たさないが、更に、条件F(Xsw)<F(Xr)<F(Xw)を満たす場合、プロセスが方向LXwXaに沿って過度に移動し、よりよい頂点がXrよりも近くにある可能性が示されている。したがって、図2Eに示すように、XrからXaに向かって半分のステップ長(一般に、バランスステップ長と称す)を戻ることによって、式(9)に示す前方短縮が実行される。
【0069】
【数9】
【0070】
F(Xfc)<F(Xr)を満たす場合、初期化ステップに戻って、頂点X,Xb,Xsw,Xfcによる新しいシンプレックスが形成され、これらの頂点をワースト頂点からベスト頂点に再配置される。
【0071】
(後方短縮(Backward Contraction))
F(Xw)<F(Xr)である場合、方向LXwXaにおいて式(3)による不一致がなお増加する頂点が含まれている可能性が示されている。この場合、前方短縮と同様な方法で、図2Fに示すように、XaからXwに向かって半分のステップ長を戻ることによって、式(10)に示す後方短縮が実行される。
【0072】
【数10】
【0073】
F(Xbc)<F(Xw)を満たす場合、初期化ステップに戻って、図2Fに示す頂点X,Xb,Xsw,Xbcによる新しいシンプレックスが形成され、これらの頂点をワースト頂点からベスト頂点に再配置される。
【0074】
(収縮(Shrinking))
一方、上記条件のいずれをも満たさない場合、最適頂点に向かうより良い方向を見つけるための最後のステップは、シンプレックスを収縮することである。この目的のために、ベスト頂点Xbのみを保持し、他の頂点については、式(11)に示すように(頂点iごとに)収縮操作を実行する。
【0075】
【数11】
【0076】
次に、プロセスは初期化ステップに戻り、図2Gに示す収縮ステップで形成された新しい頂点を再配置する。NM最適化のこの反復プロセスは、F(Xb)が目的関数の打ち切り条件を満たすまで続けられる。本実施形態において、目的関数の打ち切り条件は式(12)に示す。
【0077】
【数12】
【0078】
打ち切り条件を満たしたXbの値が最終結果として保存される。式(12)に示す打ち切り条件は、パラメータの探索において必要な精度が保証されるように、非常に小さくなるように選択される。打ち切り条件の値を大きくすると、パラメータを正確に探索することはできない。これら全てのステップを一度に示すように、図3はEMTのNM最適化プロセスのフローチャートであり、対応する擬似コードを示している。
【0079】
【数13】
【0080】
1.実際の勾配なしNM最適化:2D探索
図1Bに示す低灌流状態、又は図1Cに示す血塊破壊状態の様々な脳卒中挙動を効率的にモニタリングするために、前述したNM最適化プロセスを利用して、3つのパラメータa0、b0、及びεrを最適化する。最適化するために形状パラメータa0とb0とを選択し、図1B又は図1Cの脳卒中の中心座標などの位置パラメータを除外する理由は、低灌流又は血塊破壊プロセスのいずれかにおいて、脳卒中の位置が変化することなく、脳卒中は、単にその中心の周辺で拡大するか又は縮小するためである。
【0081】
A.NM最適化の実行
低灌流の場合、本実施例のパラメータの実際の値はa0=2.5cm、b0=3cm、εr=39であり、その進展は、連続した反復による探索されたパラメータによって表し、図4Aに示すように、a0=2.68cm、b0=3.32cm、εr=39.08である。図5Aに示すように、反復中にシンプレックスが小さくなると、NMプロセスの変動は徐々に安定する。一方、図1Cに示す血塊破壊の場合では、NM最適化プロセスの実際の値と探索された値とは、それぞれa0=1cm、b0=1cm、εr=40と、a0=0.997cm、b0=1.002cm、εr=40.07とである(図4B)。血栓破壊中の患部の比誘電率は、回復したときの脳の誘電率に再び近づいていることに注意されたい。どちらの場合も、シミュレーション環境はノイズが非常に多いが(S-マトリックスのSNRは15dBに設定されている)、パラメータは正確に更新された。この精度の定量分析を提供するために、「探索エラー」は次のように定義される。
【0082】
【数14】
【0083】
探索エラーは、低灌流の結果において-18.86dBであって、血塊破壊の結果においては-27.95dBであった。いずれの場合にも、探索エラーが低い。
【0084】
ただし、重要なポイントは探索時間である。図4Cに示すように、式(12)の打ち切り条件が満たされると、プロセスが終了する。本実施例では、低灌流と血塊破壊の探索には、それぞれ94回と69回の反復が必要であって、各反復には1.25秒がかかる。したがって、2分ごとの時間枠内で、脳卒中を継続的にモニタリングして治療プロセスを評価し、必要に応じて開頭術(患部に直接アクセスするために、被験者の頭蓋骨の一部を切除する)の準備を即座に行うことができる。
【0085】
図4A及び4Bは、最初の70回及び40回の反復のみのNMプロセスの実行をそれぞれグラフで示している(以降の反復で探索されたパラメータの変動が小さすぎるため、同一のグラフ内にプロットすることができない)。血塊破壊プロセスに比べて、初期トポロジー(すなわち、図1A)に対して、低灌流によって引き起こされたより大きな幾何学的変化は、血塊破壊探索と比較した場合、低灌流探索がより高い探索エラー及びより長い収束時間を有する原因であった。
【0086】
A.精度及び計算時間に影響を与える要因
NM最適化に基づくEMTの精度(探索エラー)及び計算時間に影響を与える様々な要因の中で、主に次の要因が挙げられる。すなわち、撮像アンテナの総数、SNR、形状パラメータa0、b0、及びC.Gabriel,S.Gabriel,E.Corthout氏らによる、論文「生体組織の誘電特性:I.Literature survey」、Phys.Med.Biol.,vol.41,No.1,pp.2231-2249,1996(「Gabriel」)に記載された、最初の脳卒中-MRI画像の登録に利用された各被験者の頭部組織の誘電特性の僅かな違いがある。これらの影響を述べるために、低灌流の場合の探索がより困難である(探索エラーが高い)ため、低灌流の場合の医学シナリオで、アンテナの数、SNR、及びGabrielによる精度レベルの影響について説明する。
【0087】
図5Aは、アンテナの数を特定のレベルまで増やすと、反復ごとの計算時間が長くなるが、精度が大幅に向上することを示している。この向上は、アンテナを追加することが、より多くの情報を得ることに相当するからである。同じ理由で、可能な解のスペースを更に制限した場合、打ち切り条件を満たすためにプロセスがより少ない反復回数を要するため、反復の総数は94から78に減少する。一方、目的関数のサイズは、S-マトリックスのサイズに対応して増加し、それにより、反復ごとの計算時間は大幅に増加する。実際、M個の撮像アンテナを使用すると、M×MのS-マトリックスとなる。文献において、許容可能な精度で頭部の医用画像を提供するためのアンテナの最小の数として8が提案されている。
【0088】
考慮すべき2番目の要素はSNRである。測定データに多くのノイズが混入している場合、互いに近い頂点(図2Aにおいて近いパラメータ値を有する)は、ノイズが支配的である可能性が高く、非常に類似した周波数応答を有する。従って、近い頂点を区別できなくなるため、プロセスの精度が低下する。ノイズから医療撮像領域がノイズからの影響が少ない場合、図5Bに示すように、探索精度と必要な反復回数との両方が向上する。これは、式(3)の測定S-マトリックスには、脳卒中応答(低灌流)を取得するためのより信頼性の高い情報が含まれているため、式(3)の目的関数を最も最小化する頂点が実際の頂点に近いためである。反復ごとの計算時間は、撮像アンテナの数と探索パラメータとの関数であるため、変わることなく、つまり、1.25秒である。
【0089】
次に考慮すべき要素は、正確に探索できる脳卒中領域のサイズ範囲である。そのために、経験則として、断面係数a0、b0が脳卒中領域のサイズを表すために導入されている。図5Cは、図1Bの例において、a0×b0<0.64cm、又はa0×b0>9cmの場合には、探索プロセスが不正確となることを示している。前述のように、UHFバンド及びSバンドでは回折効果とエバネッセント波との存在が顕著であり、脳卒中領域のサイズが1/4波長未満となると、これらの影響は非常に破壊的となる。血塊内において、1.5GHzでの波長は3.2cm(εr=39)であるため、1/4波長は0.8cmであり、断面係数が0.64cmとなり、それを下回ると探索精度が大幅に低下する。一方、非常に高い断面係数、例えば、a0×b0>9cmの場合、脳卒中形状の変化は正確に追跡できない。なぜなら、この場合、脳卒中の不規則性及び非対称性をより正確にモニタリングするためには、更なる形状パラメータ(a0、b0以外のパラメータ)が不可避的に必要となるためである。特に、脳卒中が片側において頭蓋骨によって変形され、反対側において拡張可能な場合。計算時間の観点から、大きいサイズの脳卒中領域に2つの形状パラメータのみが使用される場合、図1Bの脳卒中に対して、脳卒中の初期形状を図1Cに示すような拡張した形状に部分的に一致させるためには、プロセスを更に繰り返す必要がある。これは、各形状パラメータに、その対応する変化範囲を追加すると、可能な解のスペースが更に制限されるためである。2つの形状パラメータのみで処理するのは、拡張した脳卒中の不規則性と非対称性を部分的に一致させるために、より多くの反復が必要である(これは以下に説明する)。一方、探索エラーを改善し、総反復回数を減らすための解決策として、脳卒中パラメータの数を増やしても、事例問題に1つのパラメータを追加するとパラメータ空間に別の次元が追加されるため、必ずしも計算時間が短縮されるわけではないことに注意されたい。そして、反復ごとの計算時間は指数関数的に増加する。
【0090】
最後の要因は、Gabriel氏によるデータベースと個別の人間の頭部の誘電特性との間の一致レベルの影響である。勾配なし最適化プロセスは、単に脳卒中の大域パラメータの探索に焦点を当ており、Gabriel誘電特性に基づいて脳卒中MRIがEMT装置に登録されるため、Gabriel誘電特性の高い正確性が所望の値に対して大きな探索偏差を回避することに非常に重要である。幸い、図1Aの組織を構成する材料は異なる個人でも同じであり、これらの材料とGabrielによるデータベースとの僅かな違いは主に部分的な統計的ランダムに起因するものであるため、通常、一致レベルが非常に高い。この要素を考慮し、図5dは、Gabrielによる対応する値に対して、図1Aの各組織に最大5%のランダムな違いを適用し、異なる頭部の誘電特性の僅かな違いに対するプロセスの強さを示している。図示により、計算速度と探索エラーとの両方は、わずかに低下するが、CRPの要求の許容範囲内にあることが分かる。
【0091】
医療EMTアプリケーションにおけるNM最適化プロセスの精度及び計算時間に対する影響を与える要因の影響について研究することで、このプロセスは、以下のように、Leijsen氏の図4に示す3DMRIによる脳卒中モデルを、図6に示すNMプロセスに利用することによって、より複雑な事例問題に適用される。4つの形状パラメータが3Dで実装されて、より複雑な血塊破壊プロセスをモニタリングする。
【0092】
1.実際の勾配なしNM最適化:3D探索
現実的な3DEMT事例問題の場合、領域内の総電界又は探索されたS-マトリックスのいずれかが、十分に開発された数値手法、例えば、有限要素モデリング(FEM)を使用してシミュレートされると、探索されたパラメータの精度を更に向上させることができる。これは、上記の点光源ベースの方程式(3)及び(4)を使用するのではなく、波動方程式を直接解き、撮像アンテナの3次元物理構造全体を考慮することで実現できる(図6Aを参照)。実際、上記の式(3)の点光源ベースの目的関数を実装する理由は、同じ目的関数がEMTの従来技術の勾配ベースの最適化手法で使用されているためである。したがって、このような点光源近似は、2つの方法論を比較するためのより良いベースを提供する。しかし、図6に示す事例問題において、現実的なアンテナ構造が更に複雑であるため、シミュレーションには市販のCOMSOLソフトウェアパッケージが使用される。図6Bに示すように、頭部モデル全体の脳卒中領域は、三角形メッシュ要素によって画定された複雑な形状として決定される。脳卒中パラメータは、図6Cに示され、初期値X’0=(a1=0.41cm,b1=0.4cm,c1=0.41cm,d1=0.42cm,εr=39)を有し、これらの値は、脳卒中領域の中心点から領域の周囲の4つの最も遠い点までの距離である。
【0093】
血栓溶解治療が時間内に実行されると、図6Dに示すように血塊破壊プロセスが開始する。当該プロセスにおいて、脳卒中パラメータが僅かに又は大幅に変化し、X1=(a1=0.4cm,b1=0.395cm,c1=0.39cm,d1=0.41cm,εr=42)となる。
【0094】
図6Eのグラフによると、探索された脳卒中領域の形状パラメータはX1=(a1=0.401cm,b1=0.395cm,c1=0.392cm,d1=0.411cm)であって、探索された脳卒中領域の誘電率はεr=41.43であった。実際の値と非常によく一致している。図6Dに示すように、血塊破壊による脳卒中領域の空間寸法の変化は、形状パラメータc1、d1で最大であった。そのため、パラメータc1、d1について、実際の値に近づくには更なる反復が必要であった。図6Fは、NM最適化プロセスの収束プロットである。十分な形状パラメータがあるため、打ち切り条件に到達するために必要な反復は50回未満であった。同じPCにインストールされたCOMSOL Multiphysicsでは、3D事例問題の領域のサイズが大きいため、各反復が完了するまでに15秒かかった。合計すると、脳卒中の挙動は11分ごとにモニタリングできる(つまり、説明した装置は、11分ごとに図6Eのような新しいグループのプロットを生成することができる)。これは、CRP中の3Dモニタリングに適した時間である。Phamで説明された結果をグラウンドトゥルースとすると、NM法の代わりにGAまたはPSO勾配なし手法を使用すると、少なくとも10倍の計算時間が必要となる。すなわち、この特定の事例問題の場合は約110分である。この時間は、従来技術の勾配ベースの最適化手法の所要時間に近い、通常、CRPの時間枠を超える。したがって、本発明者らは、執筆時点で利用可能な勾配なし手法及び汎用コンピュータハードウェアの中で、NM勾配なし最適化に基づくEMTシステムのみが、CRP中に2D又は3D脳卒中モニタリングツールとして効率的に利用することができる。
【0095】
本明細書に記載されたEMTモニタリングプロセス及び装置は、ネルダーミード勾配なし最適化に基づいて、CRP中に脳卒中の拡大又は縮小をモニタリングする能力を提供し、したがって、脳卒中から生存可能性を高めるための並進診断として考えられる。ここでの説明によれば、このプロセスが非常に効率的であり、汎用のコンピュータープラットフォームで2分ごとに2D脳卒中応答の探索、又は11分ごとに3D脳卒中応答の探索を実現できることが示されている。一方、GA又はPSOなどの他の勾配なし手法では、同じ結果を生成できるが、計算時間が大幅に長くなる。説明したプロセスは、早期診断から入手可能な脳卒中MRIデータによって開始することができる。次に、脳卒中領域の形状及び誘電特性(誘電率の実数部)を大域パラメータとして規定される。これに続いて、患者は、少数の画像化アンテナを使用して、本明細書に記載された移動可能なEMTシステムによって連続的に撮像され、各画像化ステップにおいて、これらのアンテナによって記録されたS-マトリックスは、大域パラメータを更新し、そして、特に、1つ又は複数の治療に応じた脳卒中領域の拡大又は縮小を識別するために利用される。したがって、記載されたプロセス及び装置は、治療プロセスを改善し、その結果、脳卒中患者の生存可能性を向上することができる。
【0096】
本発明の範囲から逸脱することなく、多くの修正が当業者にとっては明らかであろう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8