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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】発泡性飲料用缶、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 25/14 20060101AFI20240404BHJP
   B65D 8/00 20060101ALI20240404BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
B65D25/14 A
B65D8/00 A
A23L2/00 S
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022109926
(22)【出願日】2022-07-07
(62)【分割の表示】P 2021186547の分割
【原出願日】2021-11-16
(65)【公開番号】P2022153430
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2020219053
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】古原 徹
(72)【発明者】
【氏名】黒田 隆平
(72)【発明者】
【氏名】森田 碧
(72)【発明者】
【氏名】小林 雄介
(72)【発明者】
【氏名】夏本 徹哉
【審査官】長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-097149(JP,A)
【文献】特開2001-180671(JP,A)
【文献】特開2007-008495(JP,A)
【文献】特開2005-041217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 25/14
B65D 8/00
A23L 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と、下面と、筒状の胴部とを有し、前記上面がフルオープン形式で開栓するように構成された缶蓋により形成されており、320~500mlの飲用可能液を充填するための飲料用缶と、
前記飲料用缶に密封された320~500mlの発泡性飲用可能液とを有し、
前記胴部の内面に、直径が5μm以上、20μm以下である第1の凹部及び直径が0.5μm以上、5μm未満である第2の凹部が設けられており、前記第1の凹部の個数が1mm2あたり200~1200個であり、前記第2の凹部の個数が1mm2あたり000~15000個であり、
4℃で24時間の静置後に開栓することにより、前記飲料用缶の上端部が隠れるように前記発泡性飲用可能液が発泡する、
缶詰発泡性飲料。
【請求項2】
前記発泡性飲用可能液が、ビール様発泡性飲料である、請求項1に記載の缶詰発泡性飲料。
【請求項3】
前記缶蓋が円形の缶蓋である、請求項1又は2に記載の缶詰発泡性飲料。
【請求項4】
前記缶蓋が円形の缶蓋であり、前記飲料用缶の口径が200~211径である、請求項1又は2に記載の缶詰発泡性飲料。
【請求項5】
開栓から10秒以内に前記飲料用缶の上端部が隠れるように前記発泡性飲用可能液が発泡する、請求項1~4のいずれか1項に記載の缶詰発泡性飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性飲料用缶、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールなどの発泡性飲料は、容器に密封された状態で提供される場合がある。発泡性飲料の重要な特性の1つは、発泡性である。飲用時に適切な量の泡が得られるように、各種の検討がなされている。
【0003】
発泡性を高めるために、容器の構造に工夫を施したものも知られている。例えば、特許文献1(特許4758693号)には、充填性に悪影響がなく、かつ開缶時の泡立ち性を良好に向上させることができる発泡性飲料用缶を提供することを目的とした技術が開示されている。特許文献1には、発泡性飲料用缶において、缶の内面に有機樹脂被覆層が設けられている点、所定の大径粒子が所定量で混合された有機樹脂被覆材が前記缶の内面積の20%以上60%以下を占めるとともに、所定の小径粒子が所定量で混入された有機樹脂被覆材が前記缶の内面積の残部を占める点、及び、大径粒子の少なくとも一部が離脱して生じた凹部または残留して生じた凸部と、小径粒子が離脱して生じた凹部とが有機樹脂被覆層に形成されている点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許4758693号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、発泡性を更に向上させたいと考えている。そこで、本発明の課題は、発泡性を更に向上させることのできる、発泡性飲料用缶及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、缶の内面に所定の構造を形成することによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の手段により実現される。
[1]上面と、下面と、胴部とを有し、前記胴部の内面に、直径が5μm以上、20μm以下である第1の凹部が複数設けられており、前記複数の第1の凹部の個数が、1mm2あたり200~2000個である、発泡性飲料用缶。
[2]前記胴部の内面に、直径が0.5μm以上、5μm未満である第2の凹部が複数設けられており、前記複数の第2の凹部の個数が、1mm2あたり5000~20000個である、[1]に記載の発泡性飲料缶。
[3]前記胴部の内面には、樹脂層が設けられており、前記第1の凹部は、前記樹脂層に形成されている、[1]又は[2]に記載の発泡性飲料用缶。
[4]前記上面が、フルオープン形式で開栓するように構成された缶蓋により形成されている、[1]~[3]のいずれかに記載の発泡性飲料用缶。
[5]上面と、下面と、胴部とを有する発泡性飲料用缶の製造方法であって、前記胴部の内面、又は、前記胴部の内面になる予定の領域に、樹脂及びワックスを含む塗料を塗装する工程と、前記塗装された塗料を加熱処理することにより、樹脂層を形成させ、前記ワックスを脱離させる工程を備え、前記塗料中の前記ワックスの平均粒径が1μm以上であり、前記塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対するワックスの含有量が7~40質量部である、製造方法。
[6]前記ワックスが、ポリエチレンワックスを含む、[5]に記載の製造方法。
[7]前記塗料が、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む、[5]又は[6]に記載の製造方法。
[8][1]乃至[4]のいずれかに記載された飲料用缶と、前記飲料用缶に充填された発泡性の飲用可能液と、を備える、発泡性飲料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発泡性をより向上させることのできる、発泡性飲料用缶及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、クレーター状構造を模式的に示す断面図である。
図2図2は、クレーター状構造の形成方法を模式的に示す断面図である。
図3A図3Aは、対照区の胴部内面を示す顕微鏡写真である。
図3B図3Bは、試験区1の胴部内面を示す顕微鏡写真である。
図3C図3Cは、試験区2の胴部内面を示す顕微鏡写真である。
図4A図4Aは、対照区の胴部内面の3D画像を示す図である。
図4B図4Bは、試験区1の胴部内面の3D画像を示す図である。
図4C図4Cは、試験区2の胴部内面の3D画像を示す図である。
図5A図5Aは、試験区2の表面のプロファイルの測定場所を示す図である。
図5B図5Bは、試験区2の表面プロファイルの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る発泡性飲料用缶は、上面、胴部及び下面を有している。胴部及び下面は一体化又は接合状態にある、有底筒状であり、上部の開口部が、上面によって開栓可能に閉じられている。
【0010】
胴部の内面には、複数の第1の凹部が設けられている。
なお、本明細書において、「凹部」とは、深さが1μm以上の構造をいう。
第1の凹部は、正面から見た場合に、概ね円形をしている。第1の凹部は、直径が5μm以上、20μm以下の凹部である。
第1の凹部の個数は、1mm2あたり200~2000個であり、好ましくは300~1500個、より好ましくは400~1200個である。
複数の第1の凹部の平均深さは、例えば1~5μmであり、好ましくは2~4μmである。
尚、第1の凹部の個数及び平均深さは、例えば、レーザ顕微鏡を用いて求めることが可能である。
【0011】
第1の凹部は、好ましくは、クレーター状構造である。図1は、クレーター状構造を模式的に示す断面図である。図1に示されるように、クレーター状構造とは、凹部の縁部分が逆に盛り上がっている構造を指す。
【0012】
好ましくは、本実施形態において、胴部の内面には、更に、複数の第2の凹部が設けられている。第2の凹部は、直径が0.5μm以上、5μm未満の凹部である。
複数の第2の凹部の個数は、1mm2あたり5000~20000個、好ましくは7000~15000個である。
複数の第2の凹部の平均深さは、例えば1~5μmであり、好ましくは2~4μmである。
第2の凹部の個数及び平均深さは、第1の凹部と同様の方法により求めることができる。
第1の凹部と同様に、第2の凹部もクレーター状構造であることが好ましい。
【0013】
好ましくは、本実施形態に係る発泡性飲料用缶は、金属製である。また、好ましくは、胴部の内面には、金属層上に塗料を塗装・乾燥して得られた樹脂層が設けられており、第1の凹部及び第2の凹部は、その樹脂層に形成されている。
樹脂層の厚みは、例えば1~10μm、好ましくは3~8μmである。
尚、本発明において、「樹脂層」とは、塗装された塗料を乾燥させた後の層であることを意味し、乾燥前の塗料の層とは区別されている点に留意されたい。
【0014】
好ましくは、本実施形態に係る発泡性飲料用缶の缶蓋は、フルオープンエンドである。フルオープンエンドとは、缶蓋天面の面積の30%以上の領域が開口されるタイプの蓋である。開口される領域は、好ましくは、缶蓋天面の50%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは缶蓋天面全体である。
好ましい態様は、例えば円形の缶蓋天面の全周にわたってスコア(切欠き)加工を施し、蓋天面全体が缶本体から脱離し、開口されるタイプの蓋である。一方で、蓋は、完全には脱離せず、蓋の一部が缶本体に残っている構成であってもよい。フルオープンエンドは通常の缶蓋と比べ、缶胴からの発泡を視覚的に捉えることができることから、ジョッキに注いだビールを想起することにつながる。加えて、通常の缶蓋よりも同一角度で口の中に流入する液量が多いことから、泡と液を一度に楽しむことができる。
【0015】
発泡性飲料用缶の容量(飲料液が充填される量)は、例えば135~1000ml、好ましくは320~500mlである。
また、蓋が円形である場合、発泡性飲料用缶の口径は、例えば200~211径、好ましくは202~206径である。
【0016】
続いて、上述した発泡性飲料用缶の製造方法の一例について説明する。
本実施形態に係る製造方法は、胴部の内面(又は胴部の内面になる予定の領域)に樹脂及びワックスを含む塗料を塗装する工程と、続けて塗装された塗料を加熱処理することにより、内面に樹脂層を形成し、ワックスを脱離させる工程(以下、焼き付け工程ともいう)を含む。
この方法によれば、ワックスを脱離させることによって、樹脂層に凹部が形成される。
なお、ワックスは一般的に製缶工程において塗膜の傷つきを防止する目的で用いられるが、本明細書においてワックスは、常温で固形粒子状の成分を指す。
内面に樹脂層を有する缶体を形成する方法としては、例えば、絞りしごき加工により予め有底筒状の缶体を形成した後、スプレー塗装により本発明に係る塗料を塗装し焼き付けを行うことで樹脂層を形成する方法(得られた缶はツーピース缶と呼ばれる)が挙げられる。あるいは、内面となる予定の領域を有する金属板を準備し、内面になる予定の領域に塗料を塗装し、焼き付けを行うことで樹脂層を形成し、その後、樹脂層を有する金属板を筒状に成形し、下面となる缶底を巻き締めることにより有底筒状の缶体を得る方法(得られた缶はスリーピース缶と呼ばれる)なども用いることができる。
【0017】
以下に、塗料の塗装及び焼き付け工程について詳細に説明する。
【0018】
まず、樹脂及びワックスを含む塗料を準備する。
塗料としては、例えば水性の塗料を用いることができる。
塗料に含まれる樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等が用いられる。
【0019】
塗料中のワックスは、平均粒径が1μm以上のワックスである。ここでいう平均粒径とは、体積換算で頻度累積が50%となる粒子径(D50)を指し、ワックスを20質量%程度含む水分散体を水で500倍に希釈したものを動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装社製「マイクロトラックS3500」)にて測定した値である。
ワックスの平均粒径は、好ましくは1~15μm、より好ましくは2~10μm、更に好ましくは3~8μmである。
【0020】
塗料中のワックスの含有量は、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して例えば7~40質量部、好ましくは10~40質量部、より好ましくは12~30質量部である。尚、ここでいう不揮発成分(ワックスを除く)とは、塗料を塗装し焼き付けた後に被着体上に残存し樹脂層を形成する成分のうちワックスを除く成分を指す。
【0021】
また、平均粒径が異なる複数種類のワックスを組み合わせて用いてもよい。このように異なる平均粒径を有するワックスを複数組み合わせることにより、凹部の大きさ及び個数を制御しやすくなる。
【0022】
ワックスとしては、例えば、軟化点が90~160℃、好ましくは110~140℃のものが用いられる。
ワックスとしては、カルナバワックス、及びポリエチレンワックス等を用いることができる。
ワックスの形態としては、粉末・ペースト・水ないしは溶剤分散体の形態のものを適宜用いることができるが、塗料中の分散安定性の点から、水ないし溶剤分散体のものを用いることが好ましい。
【0023】
本実施形態における塗料の塗装方法は、エアスプレー、エアレススプレー、静電スプレー等のスプレー塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装、電着塗装等が好ましく、スプレー塗装がより好ましい。
塗料の乾燥及び均一な樹脂層の形成のため、塗装の後速やかに焼き付け処理を行うことが好ましい。
焼き付け工程における条件は、塗料の乾燥・樹脂層形成が可能な条件を適宜選択できるが、150~280℃で10秒間~30分間程度が好ましい。また、この焼き付けの際にワックスを溶融させることで塗膜からの脱離を生じさせるためには、180~280℃で1分間~30分間程度がより好ましい。焼き付け後の樹脂層の厚みは、例えば1~10μm、好ましくは3~8μmである。
図2は、クレーター状構造の形成方法を模式的に示す断面図である。図2に示されるように、塗料を塗装・乾燥させることによって、まず水や溶剤の揮発が生じ、樹脂層1が形成される。ここで、ワックス2は、一旦、樹脂層1に埋め込まれるように配置される。また、ワックス2の上部は、樹脂層1の表面に露出する。続いて、焼き付け時に、ワックス2が溶融し、樹脂層1から脱離する。これにより、樹脂層1に、クレーター状構造の凹部が形成される。
【0024】
その後は、当業界で通常使用されている方法と同様に、飲料用缶が製造され、缶に飲用可能液が充填され、密封される。
飲用可能液の充填は、好ましくは低温(例えば1~20℃)で行われる。
【0025】
上述の方法によれば、特定の平均粒径を有するワックスが特定の量で含まれる塗料を使用することによって、特定のサイズの凹部が、特定の密度で胴部の内面に形成される。そして、このような特殊な構造が特定の密度で胴部に形成された発泡性飲料用缶を用いることにより、極めて高い発泡性を実現することができる。
【0026】
尚、本実施形態に係る発泡性飲料用缶に充填される飲用液は、発泡性の液体であればよく、特に限定されない。
好ましくは、充填される飲用液は、ビール様発泡性飲料である。「ビール様発泡性飲料」とは、アルコール含有量、麦芽及びホップの使用の有無、発酵の有無に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有し、高い止渇感・ドリンカビリティー(飽きずに何杯も飲み続けられる性質)を有する発泡性飲料を意味する。ビール様発泡性飲料は、アルコール飲料であってもよく、アルコール含量が1容量%未満であるいわゆるノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であってもよい。また、麦芽を原料とする飲料であってもよく、麦芽を原料としない飲料であってもよく、発酵工程を経て製造される発酵飲料であってもよく、発酵工程を経ずに製造される非発酵飲料であってもよい。
ビール様発泡性飲料としては、具体的には、ビール、麦芽を原料とする発泡酒、麦芽を使用しない発泡性アルコール飲料、ローアルコール発泡性飲料、ノンアルコールビール等が挙げられる。その他、麦芽を原料とし、発酵工程を経て製造された飲料を、アルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類であってもよい。
より好ましくは、充填される飲用液は、ビールである。本実施形態に係る発泡性飲料用缶にビールを充填した場合、開栓と同時に缶の内面から泡が発生し、泡とビールとを併せて飲用できる。
但し、ビール以外の飲料を充填した場合であっても、発泡に伴い香気成分が揮散するため、内容物の風味を強く感じることができる。
好ましくは、発泡性飲料は、ガス圧が2~4ガスボリュームである。
【実施例
【0027】
以下、本発明をより詳細に説明するため、本発明者らによって行われた実施例について説明する。
【0028】
(対照区)
下面及び胴部を有するアルミニウム製の容器(350ml容)を準備した。また、平均粒径が0.3μmのカルナバワックスを塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して1質量部含む水性エポキシアクリル系塗料を準備した。準備した塗料を、容器の胴部内面の全面にスプレー塗装により塗装し、続けて200℃で2分間加熱し、対照区に係る飲料用缶を得た。胴部樹脂層の厚みは、平均5μmであった。
【0029】
(試験区1)
ワックスとして、平均粒径6μmのワックスを、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して7.5質量部の量で用いた。その他の点は、対照区と同様にして、実施例1に係る飲料用缶を得た。
【0030】
(試験区2)
ワックスとして、平均粒径6μmのワックス(第1のワックス)と、平均粒径4μmのワックス(第2のワックス)とを用いた。第1のワックスの量は、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して、7.5質量部とした。第2のワックスの量は、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して、7.5質量部とした。
その他の点は、対照区と同様にして、試験区2に係る飲料用缶を得た。
【0031】
(ガス抜け量の測定)
準備した各飲料用缶に、ビールを350ml静かに注ぎ入れ、質量を測定した。その後5分間静置させた後、再び質量を測定した。5分間静置させる前と後の質量の差を「ガス抜け量」として算出した。各飲料缶について5本ずつ、測定を行った。各飲料缶のガス抜け量測定値の上限値及び下限値を下記表1に示す。
【表1】
【0032】
表1に示される通り、ガス抜け量は、試験区1及び試験区2の方が、対照区よりも顕著に大きかった。また、試験区2の方が試験区1よりも更に大きかった。ガス抜け量は、ガスが抜けた量(泡立ちの大きさ)を表しており、即ち、この値が大きいほど発泡性が高い(泡立ちが大きい)ことを意味している。
【0033】
(カバー性の評価)
準備した各飲料用缶に、ビールを充填し、上面をフルオープン形式の缶蓋により閉じた。充填後、飲料缶を4℃で24時間静置した。次いで、カバー時間(飲料缶を開栓し、飲料缶の中から泡が立ち、その泡で飲料缶の上端部が隠れるまでの時間)の基準を10秒間と定めて、カバー性を評価した。各飲料缶について10本ずつ試験を行い、カバー時間が10秒以内であった本数をカウントした。結果を表2に示す。
【表2】
【0034】
表2に示されるように、カバー性も、試験区2、試験区1、対照区の順に大きかった。カバー性の評価結果からも、試験区1及び2が対照区よりも優れており、特に試験区2が優れていることが判った。
【0035】
(表面状態の計測)
得られた各飲料缶について、胴部内面の表面状態を観測した。具体的には、白色干渉計搭載レーザ顕微鏡VK-X3000(株式会社キーエンス製)を用いて、胴部内面の画像を取得した。図3A図3Cに、それぞれ、対照区、試験区1、及び試験区2について得られた画像を示す。また、図4A図4Cに、それぞれ、対照区、試験区1、及び試験区2について得られた画像を3D化処理した画像を示す。
【0036】
また、試験区2について、表面のプロファイルを計測した。図5Aは、表面プロファイルの計測位置を示す図である。すなわち、図5Aに示される線分に沿って表面プロファイルを計測した。図5Bは、表面プロファイルの計測結果を示すグラフである。図5Bの横軸は、位置を表し、縦軸はベースラインからの高さ(深さ)を示す。
【0037】
更に、得られた画像に基づいて、直径5μm以上、20μm以下の凹部(第1の凹部)と、直径0.5μm以上、5μm未満の凹部(第2の凹部)の数を、白色干渉計搭載レーザ顕微鏡VK-X3000(株式会社キーエンス製)を用いて計数し、1mm2当たりの個数を求めた。
凹部の数の計数にあたっては、ベースラインからの深さが1μm以上であるものの数をカウントした。
結果を下記表3に示す。尚、第1の凹部としてカウントされた構造は、最大でも直径が8.8μmであった。
【表3】

【0038】
(結果についてのまとめ)
第1の凹部が1mm2あたり200~2000個設けられた試験区1及び試験区2は、第1の凹部が確認できなかった対照区に比べて、ガス抜け量及びカバー性が大きく、発泡性が高いことが確認された。第2の凹部の個数が1mm2あたり7000~15000である試験区2は、更に発泡性が高かった。
【符号の説明】
【0039】
1 樹脂層
2 ワックス
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B