(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】歯科用ハンドピース
(51)【国際特許分類】
A61C 1/12 20060101AFI20240404BHJP
A61C 1/06 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
A61C1/12
A61C1/06
(21)【出願番号】P 2022118966
(22)【出願日】2022-07-26
(62)【分割の表示】P 2019181299の分割
【原出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 仁
(72)【発明者】
【氏名】村田 智哉
(72)【発明者】
【氏名】中山 照三
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-217954(JP,A)
【文献】特開平10-024052(JP,A)
【文献】国際公開第2018/094302(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 1/06,1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者が保持する本体部と、前記本体部と連接するヘッド部とで構成された歯科用ハンドピースであって、
前記ヘッド部には、
施術対象部位を施術する切削工具を保持するとともに、回転駆動する駆動部の回転に基づいて回転し、前記切削工具を回転させる工具回転機構が備えられ、
前記本体部には、
前記駆動部の回転が伝達される第1回転軸と、前記第1回転軸の回転が伝達される第2回転軸と、前記第2回転軸の回転が伝達される第3回転軸とが備えられ、
前記第1回転軸と前記第2回転軸との間には、前記第1回転軸の回転を前記第2回転軸へ
増速して伝達する第1歯車機構が備えられ、
前記第2回転軸と前記第3回転軸との間には、前記第2回転軸の回転を前記第3回転軸へ
増速して伝達する第2歯車機構が備えられ、
前記第3回転軸と前記工具回転機構との間には、前記第3回転軸の回転を前記工具回転機構へ
増速して伝達する第3歯車機構が備えられ、
前記本体部は、利用者が前記歯科用ハンドピースを、前記切削工具を下方とし、且つ前記ヘッド部を上方となるように水平に持った場合に、長手方向の前記第2歯車機構が位置する部分において上方へ屈曲し、
前記第1歯車機構は、歯数が23枚の歯車と、歯数が7枚の歯車で構成され、
前記第2歯車機構は、歯数が13枚の歯車と、歯数が8枚の歯車で構成され、
前記第3歯車機構は、歯数が16枚の歯車と、歯数が12枚の歯車で構成された
歯科用ハンドピース。
【請求項2】
前記第3歯車機構は、
前記第3回転軸に備わる傘歯車である第3回転軸側歯車と、前記工具回転機構に備わる傘歯車で、前記第3回転軸側歯車と噛合するヘッド側歯車で構成され
た
請求項
1に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項3】
前記本体部は、
前記第2回転軸が備えられた略円筒状の第1本体部と、前記第3回転軸の先端が備えられた略円筒状の第2本体部とで構成され、
前記第2本体部は、前記ヘッド部側が前記第1本体部側よりも径小である
請求項1
又は請求項
2に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項4】
前記第2回転軸と前記第3回転軸とが鈍角をなす
請求項
3に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項5】
前記駆動部の最大回転速度は、40000rpmであり、
前記工具回転機構の最大回転速度が、285000rpmである
請求項1乃至請求項
4のうちのいずれかに記載の歯科用ハンドピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯科医療の分野において、患部である齲歯を切削する切削工具を保持して高速回転させる歯科用ハンドピースに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科医療の分野における切削器具として、患者の患部である齲歯を、モータの駆動力によって切削するモータハンドピース、あるいはエアタービンの回転力によって切削するエアタービンハンドピースが知られている。
【0003】
これらのハンドピースは、ヘッド部の内部に設けたチャックで保持した切削工具を高速回転することで歯牙を切削することができる。なお、切削工具の一分間の回転数(rpm)、つまり、回転速度が速ければ速いほど、歯牙を滑らかに切削することができる。しかしながら、モータハンドピースで用いられる一般的なモータによる切削工具の回転は、エアタービンハンドピースの回転に比べて回転トルクはあるものの、エアタービンハンドピースのような高速回転が得られなかった。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に開示されているモータハンドピースでは、モータの回転を切削工具に伝達する回転伝達機構に2つの増速歯車機構を設けることで、モータの回転を増速させて切削工具を高速回転させるようにしている。これにより、歯牙を滑らかに切削できるとされている。
【0005】
しかしながら、上述したような、従来の増速させる工夫をしたモータハンドピースであっても、歯牙を効率よく切削するための十分な回転速度は得られず、さらなる回転速度の増加が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑み、従来に比べて切削工具を高速回転できる歯科用ハンドピースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、利用者が保持する本体部と、前記本体部と連接するヘッド部とで構成された歯科用ハンドピースであって、前記ヘッド部には、施術対象部位を施術する切削工具を保持するとともに、回転駆動する駆動部の回転に基づいて回転し、前記切削工具を回転させる工具回転機構が備えられ、前記本体部には、前記駆動部の回転が伝達される第1回転軸と、前記第1回転軸の回転が伝達される第2回転軸と、前記第2回転軸の回転が伝達される第3回転軸とが備えられ、前記第1回転軸と前記第2回転軸との間には、前記第1回転軸の回転を前記第2回転軸へ増速して伝達する第1歯車機構が備えられ、前記第2回転軸と前記第3回転軸との間には、前記第2回転軸の回転を前記第3回転軸へ増速して伝達する第2歯車機構が備えられ、前記第3回転軸と前記工具回転機構との間には、前記第3回転軸の回転を前記工具回転機構へ増速して伝達する第3歯車機構が備えられ、前記本体部は、利用者が前記歯科用ハンドピースを、前記切削工具を下方とし、且つ前記ヘッド部を上方となるように水平に持った場合に、長手方向の前記第2歯車機構が位置する部分において上方へ屈曲し、前記第1歯車機構は、歯数が23枚の歯車と、歯数が7枚の歯車で構成され、前記第2歯車機構は、歯数が13枚の歯車と、歯数が8枚の歯車で構成され、前記第3歯車機構は、歯数が16枚の歯車と、歯数が12枚の歯車で構成されたことを特徴とする。なお、回転速度は単位時間当たりの回転数ともいう。
【0009】
またこの発明の態様として、前記工具回転機構の回転速度は、前記駆動部の回転速度の少なくとも5.5倍以上であり、前記第1歯車機構は、前記第2回転軸の回転速度が、第1回転軸に伝達された前記駆動部の回転速度の1.64~4.50倍となるように、前記駆動部の回転を前記第2回転軸へ伝達し、前記第2歯車機構は、前記第3回転軸の回転速度が、前記第2回転軸の回転速度の1.00~2.43倍となるように、前記駆動部の回転を前記第3回転軸へ伝達し、前記第3歯車機構は、前記工具回転機構の回転速度が、前記第3回転軸の回転速度の0.80~2.00倍となるように、前記駆動部の回転を前記工具回転機構へ伝達し、前記切削工具を回転させてもよい。
【0011】
またこの発明の態様として、前記第3歯車機構は、前記第3回転軸に備わる傘歯車である第3回転軸側歯車と、前記工具回転機構に備わる傘歯車で、前記第3回転軸側歯車と噛合するヘッド側歯車で構成されてもよい。
【0012】
またこの発明の態様として、前記本体部は、前記第2回転軸が備えられた略円筒状の第1本体部と、前記第3回転軸の先端が備えられた略円筒状の第2本体部とで構成され、前記第2本体部は、前記ヘッド部側が前記第1本体部側よりも径小であってもよい。
またこの発明の態様として、前記第2回転軸と前記第3回転軸とが鈍角をなしてもよい。
【0013】
またこの発明の態様として、前記駆動部の最大回転速度は、40000rpmであり、前記工具回転機構の最大回転速度が、285000rpmであってもよい。
またこの発明の態様として、前記第1歯車機構、前記第2歯車機構及び前記第3歯車機構におけるそれぞれの回転速度変化率が、この順で小さくなってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来に比べて切削工具を高速回転できる歯科用ハンドピースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】歯科用ハンドピースの外観を示す外観斜視図。
【
図2】歯科用ハンドピースの内部に備えられた回転伝達機構の外観斜視図。
【
図13】分解状態におけるヘッド部の外観を示す分解斜視図。
【
図15】噛合されたドライブギヤ部とピニオンギヤ部の側面図。
【
図16】噛合されたドライブギヤ部とピニオンギヤ部との正面図。
【
図17】噛合されたベベルギヤ部とミドルギヤ部の平面図。
【
図18】噛合されたベベルギヤ部とミドルギヤ部の側方断面図。
【
図19】噛合された倍速ギヤ部とヘッド側ギヤ部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の一実施形態を以下図面とともに説明する。
モータハンドピース1は、歯牙を切削する切削工具3を保持して高速回転させる歯科用ハンドピースであり、モータの駆動を切削工具3に伝達し、切削工具3を高速回転させている。
【0017】
<全体構成>
このようなモータハンドピースの全体構成を
図1から
図19を用いて説明する。
まず、ハンドピースの概要を
図1及び
図2に基づいて説明する。モータハンドピース1は、基端側Bに接続されたモータ保持部2の駆動部2aの回転を、内部に配置した回転伝達機構10によって増速して、長手方向の先端側F(
図1中の左側)で保持した切削工具3を高速回転するように構成されている。
【0018】
具体的には、回転伝達機構10は、第1歯車機構10A、第2歯車機構10B、及び第3歯車機構10Cが備えられており、駆動部2aから入力された回転の速度を各歯車機構10A,10B,10Cのそれぞれにおいて所定の回転速度変化率で増速させる。このため、駆動部2aの回転速度を所定の回転速度変化率で増速させた回転速度で切削工具3を回転させて患部を切削することができる。各歯車機構10A,10B,10Cのそれぞれにおける所定の回転速度変化率の詳細については後述する。
【0019】
モータハンドピース1を構成する各要素について、以下で詳細に説明する。
まず、モータハンドピース1の基端側Bに接続されるモータ保持部2について説明すると、モータ保持部2は、回転駆動するモータで構成された駆動部2a(
図2参照)が内部に備えられており、モータハンドピース1の基端側Bに対して着脱可能に構成されている。
【0020】
次に、モータハンドピース1のヘッド部7の内部機構により保持し、回転させて歯牙を切削する切削工具3について
図3に基づいて説明する。
切削工具3は、
図3に示すように、ヘッド部7の内部機構により保持される一端である略柱状の基軸3aと、基軸3aの軸中心に沿った方向に延設された切削刃部3bとで一体構成されている。例えば、切削刃部3bは、歯牙を切削する切削刃が成形された略円錐台形状に形成されている。また、基軸3aの軸中心に沿った方向における切削工具3の両端のうち、基軸3aの側を刃基側とし、切削刃部3bの先端側を刃先側とする。
【0021】
切削工具3をヘッド部7の内部機構により保持するとともに高速回転させるモータハンドピース1は、
図1及び
図3に示すように、モータハンドピース1の長手方向の基端側B(
図1中の右側)から先端側F(
図1中の左側)に向けて、連結部4、ボディ部5、ネック部6、及びヘッド部7が備えられている。
【0022】
連結部4は、モータハンドピース1の基端側Bに設けられ、先端側Fに向かうに伴って徐々に縮径する中空状の略円筒体であり、基端側Bにおいてモータ保持部2と着脱可能に構成されている。
ボディ部5は、第1本体部であって、連結部4の先端に連接された中空状の略円筒体であり、施術者やメンテナス作業者などの利用者が把持するグリップ部分を構成している。このボディ部5は、利用者がモータハンドピース1を、切削工具3を下方にヘッド部7を上方に連結部4を水平にして持った場合に、長手方向の中央部分において上方へ屈曲するとともに、先端側Fに向かうに伴って徐々に縮径している。換言すると、ボディ部5は中央部分から先端側Fを、ヘッド部7で保持する第2回転軸33の軸方向における基軸3a側(
図1では上側)に屈曲させている。
【0023】
これにより、口腔内に挿入されるモータハンドピース1の先端側Fが径小となるため、狭隘な口腔内での施術における取り扱い性が向上するとともに、施術中における患者への負担を軽減できる。また、施術者は患部である齲歯を目視しやすくなる。
【0024】
ネック部6は、第2本体部であり、ボディ部5の先端に連接された中空状の略円筒体である。なお、このように形成され、基端側Bから先端側Fに向かって配置された連結部4、ボディ部5及びネック部6の外周面は面一となる。
【0025】
ヘッド部7は、側面視において、ネック部6を介してボディ部5と連接され、ネック部6の長手方向に対して略直交する方向(
図1において上下方向)を軸方向とする略円筒体で構成されている。
【0026】
さらにヘッド部7は、ハウジング本体部71、キャップ部72とが備えられ、内部に工具回転機構50及び回転機構保持部60が収容されている。
ハウジング本体部71は、装着される切削工具3の長手方向(
図1において上下方向)に沿って伸びる中空状の略円筒体で構成されている。なお、ハウジング本体部71の上端及び下端は開口されており、上端部分にはキャップ部72が螺合できるネジ山が設けられている。
また、キャップ部72は、刃先側に向かってスライド可能なスライド部を内部に設けたヘッド部7に対する切削工具3の着脱操作を行うキャップであるが、ここでは詳細な説明を省略する。
【0027】
ヘッド部7には、ハウジング本体部71の内部に、保持した切削工具3を回転駆動させる工具回転機構50と、工具回転機構50をヘッド部7の内部に保持する回転機構保持部60とが収容されている。
【0028】
このように形成されたヘッド部7は、歯牙を切削する切削工具3の基軸3aの一端を保持する機能とネック部6からの回転駆動力を切削工具3に伝達する機能とを有する。なお、工具回転機構50及び回転機構保持部60の構成の詳細については後述する。
【0029】
このように構成された連結部4、ボディ部5、ネック部6、ヘッド部7は、基端側Bから先端側Fに向けてこの順番で配置され、一体構成されたモータハンドピース1の内部には、モータ保持部2の駆動部2aから入力された回転を増速して切削工具3に伝達するための回転伝達機構10が内蔵されている。
【0030】
<各回歯車機構>
歯車機構について詳細に説明する。上述したように、第1歯車機構10A、第2歯車機構10B、及び第3歯車機構10Cは回転伝達機構10に備えられ、入力された回転を所定の回転速度変化率で増速して伝達するものである。この回転伝達機構10には、
図2及び
図3に示すように、第1回転体20、第2回転体30、第3回転体40及び工具回転機構50が備えられている。
なお、回転伝達機構10を構成する第1回転体20、第2回転体30、第3回転体40及び工具回転機構50は、モータハンドピース1の内部において基端側Bから先端側Fに向けてこの順番で配置されている。
【0031】
これら第1回転体20、第2回転体30、第3回転体40、及び工具回転機構50のそれぞれについて以下で詳細に説明する。
第1回転体20には、
図2乃至
図4に示すように、モータ連結部21、第1回転軸22、2つの第1軸受部23、ベアリングスペーサ24及びドライブギヤ25が備えられている。
なお、
図4(a)は第1回転体20の側面図を示し、
図4(b)は第1回転体20の正面図を示し、
図4(c)は
図4(b)におけるα部の拡大正面図を示している。
【0032】
モータ連結部21は、後述する第1回転軸22の基端側Bに設けられ、基端側Bが開放され、駆動部2aの軸部(図示省略)が挿入可能な筒状に形成されている。このように構成されたモータ連結部21に、基端側Bから駆動部2aの軸部が挿入されることで、駆動部2aとモータ連結部21とを連結することができる。
【0033】
第1回転軸22は、
図3に示すように、長尺状に構成された中空状の略円柱体であり、ステンレス及び銅合金で構成されている。この第1回転軸22は、連結部4の内部において、その長手方向に沿って配置されており、当該長手方向に対する連結部4の長さと略同じ長さで形成している。
【0034】
第1軸受部23は、
図3及び
図4に示すように、第1回転軸22の先端側Fの端部近くに装着されるボールベアリングで構成する軸受であり、長手方向に所定の間隔を隔てて2つ配置されている。なお、第1軸受部23は一般的なボールベアリングであるため、その構造の詳細な説明を省略する。
また、ベアリングスペーサ24は、長手方向に所定の間隔を隔てて配置された第1軸受部23の間に設けられ、それぞれの第1軸受部23に作用する負荷を分散することができる。
【0035】
ドライブギヤ25は、
図4に示すように、第1回転軸22の先端側Fの端部に配置されたステンレス製の内歯車である。
詳述すると、ドライブギヤ25は、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、第1回転軸22の先端側Fから視た正面視円形状の周縁部に沿って、所定間隔を隔てて、等間隔に配置し、円の中央且つ先端側Fに向かって突出する複数の歯を有する内歯車であり、傘歯車でもある。
【0036】
ドライブギヤ25には、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、略円盤状のギヤ本体部25aと、ギヤ本体部25aの先端側Fにおける周縁部に沿って配置されたドライブギヤ歯25bとが備えられている。なお、ドライブギヤ歯25b同士の間にドライブギヤ溝25cが形成されている。
【0037】
ギヤ本体部25aは、外径が第1回転軸22の外径のおよそ4倍である直径の円盤状である。
ドライブギヤ歯25bは、先端側Fから視た正面視において、径内側に凸な三角形状であり、円の中央且つ先端側Fに突出する略三角柱状で形成されている。このように略三角柱状に形成されたドライブギヤ歯25bは、正面視円形状のギヤ本体部25aの外周縁に沿って、周方向に所定間隔を隔てて、等間隔に複数配置されている。なお、本実施形態では、ドライブギヤ25は23個のドライブギヤ歯25bが設けられている。
【0038】
ドライブギヤ溝25cは、上述のように、ギヤ本体部25aの外周縁に沿って、周方向に所定間隔を隔てて、等間隔に複数配置したドライブギヤ歯25b同士の間に形成されている。ドライブギヤ溝25cは、先端側Fから視た正面視において、径外側に凸な三角柱状の溝形状であり、且つ側面視で径方向に沿うインボリュート形状の略半円状に形成されている。
【0039】
このように構成されたドライブギヤ25は、先端側Fにおいてギヤ本体部25aとドライブギヤ歯25bとで囲まれ、先端側Fが開放されるとともに、ドライブギヤ溝25cと連通するドライブギヤ空間25dが形成されている。
【0040】
このように各要素が構成された第1回転体20は、回転伝達機構10として、モータハンドピース1の内部に組み付けられた状態では、
図3に示すように、モータ連結部21及び第1回転軸22が連結部4の内部に配置される。また、第1軸受部23及びベアリングスペーサ24が連結部4とボディ部5との境界を跨いで配置され、ドライブギヤ25が連結部4から先端側Fに突出し、ボディ部5の基端部分に内蔵される。
なお、第1回転体20は、連結部4の内部において、第1回転軸22が回転自在に支持されている。
【0041】
第2回転体30は、回転伝達機構10において、第1回転体20と第3回転体40との間に配置され、第1回転体20に伝達された駆動部2aの回転速度を増速させて先端側Fに設けられた第3回転体40に伝達するものである。
【0042】
この第2回転体30には、
図3,
図5乃至
図8に示すように、後述する第2回転軸33の基端側Bの端部に設けられたピニオンギヤ31、第2回転軸33の基端側Bに装着された第2軸受部32、長尺状に構成された第2回転軸33、第2回転軸33の先端側Fに装着された第2軸受部32、及び第2回転軸33の先端側Fの端部に設けられたベベルギヤ34が備えられている。
【0043】
なお、
図6(a)はピニオンギヤ31の背面図を示し、
図6(b)は
図6(a)におけるA-A矢視断面図を示している。また、
図8(a)はベベルギヤ34の正面図を示し、
図8(b)は
図8(a)におけるB-B矢視断面図を示している。なお、
図7では第2軸受部32の図示を省略している。
【0044】
ピニオンギヤ31は、第1回転体20に設けられた駆動歯車であるドライブギヤ25に対する従動歯車であり、
図6(a)に示すように、所定数のギヤ歯を有する外歯車であり、傘歯車でもある。
このピニオンギヤ31は、後述する第2回転軸33の基端側Bの端部に設けられ、円柱部31a、及びピニオン歯31bが備えられ、ピニオン歯31b同士の間にピニオン溝31cが形成されている。
【0045】
円柱部31aは、第2回転軸33の長手方向に沿って基端側Bへ延出する略円柱体であり、第2回転軸33と一体構成されている。
ピニオン歯31bは、
図6(a)及び
図6(b)に示すように、円柱部31aの外周面から径外側に突出する円弧状の外歯であり、円柱部31aの長手方向の中央部分から基端側Bの端部に亘って設けられている。
【0046】
詳しくは、ピニオン歯31bは、
図6(a)に示すように、長手方向の基端側Bから視て、先端がとがったインボリュート形状で形成されている。
このように構成されたピニオン歯31bは、円柱部31aの周方向に沿って所定間隔を隔てて等間隔で複数設けられている。なお、本実施形態では、ピニオンギヤ31は7枚のピニオン歯31bが設けられている。
【0047】
ピニオン溝31cは、周方向に所定間隔を隔てて、等間隔に配置されたピニオン歯31b同士の間に形成されるとともに、円柱部31aの外表面を断面半円状に窪ませた溝で形成されている。なお、ピニオン溝31cは、長手方向における円柱部31aの全長に亘って形成されている。
【0048】
第2軸受部32は、後述する第2回転軸33の先端側F及び基端側Bに装着する軸受であり、上述の第1回転体20に装着した第1軸受部23と同様の構成であるため、詳細な説明は省く。
第2回転軸33は、
図3に示すように、長尺状に構成された中実状の略円柱体であり、第1回転軸22と同様に、ステンレス及び銅合金で構成されている。なお、第2回転軸33は、第1回転軸22より細径で形成されている。具体的には、本実施形態において、第2回転軸33の外径は、第1回転軸22の外径のおよそ0.6倍で構成されている。
【0049】
このように構成された第2回転軸33の長さは、ボディ部5の長手方向の長さに対して3分の2程度の長さで形成されている。
なお、第2回転軸33は、回転伝達機構10としてモータハンドピース1の内部に配置された状態で、ボディ部5の内部においてその長手方向に沿って配置される。また、第2回転軸33は、ボディ部5の長手方向の中央部分に内蔵される。
【0050】
ベベルギヤ34は、
図5、
図7及び
図8に示すように、第1回転体20から伝達された駆動部2aの回転を、軸方向が異なる第3回転体40に伝達するためのステンレス製の傘歯車である。
詳述すると、
図5、
図7及び
図8に示すように、ベベルギヤ34は第2回転軸33の先端側Fの端部に設けられた内歯車であり、傘歯車でもある。そして、先端側Fから視て円盤状のベベルギヤ本体部34aと、ベベルギヤ歯34bとが備えられ、ベベルギヤ歯34b同士の間にはベベルギヤ溝34cが形成されている。
ベベルギヤ本体部34aは、第1回転体20のドライブギヤ25を構成するギヤ本体部25aより小径、且つピニオンギヤ31を構成する円柱部31aより大径な円盤状ある。
【0051】
ベベルギヤ歯34bは、ベベルギヤ本体部34aの外周縁に沿って設けられている。なお、ベベルギヤ歯34bは、ベベルギヤ本体部34aの径外側面と面一となる径外側を先端側Fに突出する高さ方向とし、先端側Fを径内側に向かって徐々に基端側Bに傾斜する傾斜方向とする断面直角三角形状に形成されている。
また、ベベルギヤ歯34bは、径外側から視て、長手方向の先端側Fの半分程度が先端側Fに向かって幅狭となる略五角形状に形成されている。
【0052】
このような形状で形成されたベベルギヤ歯34bは、ベベルギヤ本体部34aの外周縁に沿って、周方向に所定間隔を隔てて、等間隔に複数設けられている。なお、本実施形態では、ベベルギヤ34は13枚のベベルギヤ歯34bが設けられている。
【0053】
また、ベベルギヤ溝34cは、上述したような形状で形成されたベベルギヤ歯34b同士の間に形成されている。なお、ベベルギヤ溝34cは、ベベルギヤ本体部34aの径外側の周縁部を長手方向に切り欠いて逃げ溝を構成している。
【0054】
また、このように構成されたベベルギヤ34は、先端側Fにおいてベベルギヤ本体部34aとベベルギヤ歯34bとで囲まれ、先端側Fが開放されるとともに、ベベルギヤ溝34cと連通するベベルギヤ空間34dが形成されている。
【0055】
第3回転体40は、回転伝達機構10において、第2回転体30と工具回転機構50との間に配置され、第2回転体30の第2回転軸33の先端側Fの端部に備えられたベベルギヤ34と噛合して、駆動部2aの回転を先端側Fに伝達するものである。
【0056】
この第3回転体40は、
図3、
図5、
図9乃至
図12に示すように、第3回転軸43の基端側Bの端部に設けられたミドルギヤ41、第3回転軸43の基端側Bに装着された第3軸受部42、長尺状の第3回転軸43、第3回転軸43の先端側Fに装着された第3軸受部42、及び第3回転軸43の先端側Fの端部に設けられた倍速ギヤ44が備えられている。
【0057】
なお、
図10は、ミドルギヤ歯41bにおける歯先の最頂部を通過するように径方向に沿って切断した切断面を表示した部分断面斜視図を示すものの、第3軸受部42の図示を省略している。
図11(a)はミドルギヤ41の背面図を示し、
図11(b)は
図11(a)におけるC-C矢視断面図を示している。同様に、
図12(a)は倍速ギヤ44の正面図を示し、
図12(b)は
図12(a)におけるD-D矢視断面図を示している。
【0058】
ミドルギヤ41は、第2回転軸33に備えられた駆動歯車であるベベルギヤ34に対する従動歯車であり、
図9乃至
図11に示すように、第3回転軸43の基端側Bの端部に設けられている。このミドルギヤ41は、基端側Bに向けて突出する歯を径外側に有するステンレス製の外歯車であり、傘歯車でもある。
【0059】
詳述すると、ミドルギヤ41は、
図9乃至
図11に示すように、略円筒状の円筒部41aと、ミドルギヤ歯41bとが備えられ、ミドルギヤ歯41b同士の間にミドルギヤ溝41cが形成されている。
【0060】
ミドルギヤ歯41bは、
図10に示すように、円筒部41aの外表面から基端側B且つ径外側に突出するように、略楕円体状に形成されている。このように、略楕円体状に形成されたミドルギヤ歯41bは、円筒部41aの外周面に対して、周方向に所定間隔を隔てて、等間隔に複数配置している。
【0061】
なお、本実施形態において、ミドルギヤ41に8枚のミドルギヤ歯41bが設けられている。また、複数のミドルギヤ歯41bが設けられたミドルギヤ41は、上述の第2回転体30のピニオンギヤ31より径大に形成されている。
【0062】
また、ミドルギヤ溝41cは、所定間隔を隔てて、等間隔に配置されたミドルギヤ歯41b同士の間に、先端側Fに向かうに伴って円筒部41aを径方向外側に向けて円弧状に窪ませて形成されている。すなわち、ミドルギヤ歯41b同士の間に形成されるミドルギヤ溝41cは、先端側Fに向かうに伴って径外側に向けて徐々に伸びる半円の溝状に形成されている。
【0063】
第3軸受部42は、第3回転軸43の先端側F及び基端側Bに装着する軸受であり、第1軸受部23や第2軸受部32と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
第3回転軸43は、
図3、
図10及び
図11に示すように、中実状の略円柱体である。なお、第3回転軸43はステンレスで構成されている。また、第3回転軸43は、第2回転軸33より太径、且つ第1回転軸22より細径である。具体的には、第3回転軸43は、第1回転軸22の外径の0.6倍程度の外径で形成した第2回転軸33の外径のおよそ1.2倍の外径で形成している。
【0064】
また、第3回転軸43は、ネック部6の長手方向に対する長さの2倍程度の長さで形成されている。そして、回転伝達機構10としてモータハンドピース1の内部に配置された状態では、第3回転軸43の先端部分はネック部6の内部に配置され、第3回転軸43の基端部分はボディ部5の内部に配置されることとなる。
【0065】
倍速ギヤ44は、第2回転体30から伝達されたモータ保持部2の回転を、軸方向が異なる工具回転機構50に伝達し、工具回転機構50に装着した切削工具3を回転させるための傘歯車である。
【0066】
倍速ギヤ44は、先端側Fから視て略円盤状の倍速ギヤ本体部44aと、先端側Fに向かって突出する倍速ギヤ歯44bとが備えられている。倍速ギヤ歯44bは、略円盤状の倍速ギヤ本体部44aの周縁部に沿って、所定間隔を隔てて、等間隔に複数設けられている。
【0067】
倍速ギヤ本体部44aは、第2回転体30のベベルギヤ34を構成するベベルギヤ本体部34aより小径、且つミドルギヤ41を構成する円筒部41aより径大な円盤状である。
倍速ギヤ歯44bは、長手方向に沿う断面において、径外側が長手方向に沿うとともに、径外側が先端側Fに向かって先細り方向に傾斜する片傾斜台形状に形成されている。
【0068】
また、倍速ギヤ歯44bは、長手方向の正面側から視て、径外側が径内側よりわずかに広い扇形形状で形成されている。
なお、本実施形態において、倍速ギヤ44は16個の倍速ギヤ歯44bが設けられている。
【0069】
倍速ギヤ溝部44cは、上述のように倍速ギヤ本体部44aの周縁部に沿って周方向に所定間隔を隔てて、等間隔に配置された複数の倍速ギヤ歯44b同士の間に形成されている。なお、倍速ギヤ溝部44cは、倍速ギヤ本体部44aの先端側Fの主面よりも深く形成している。
【0070】
<工具回転機構>
工具回転機構50について詳細に説明する。工具回転機構50は、
図13に示すように、ヘッド部7の内部に配置され、第3回転体40と接続される。この工具回転機構50は、工具保持部51及びヘッド部軸受部52とが備えられている。
また、工具保持部51は、切削工具3を着脱自在に保持する機構が内蔵されるとともに、切削工具3の長手方向に沿った回転軸を回転中心として回転するように構成されている。
【0071】
この工具保持部51は、
図13に示すように、切削工具3の長手方向(
図13の上下方向)に沿って伸びる略円筒状のヘッド側ギヤ53、チャック54、バネ55、スライド体56、第1ストッパ57、及び第2ストッパ58が備えられている。
【0072】
チャック54、バネ55、スライド体56、第1ストッパ57、及び第2ストッパ58は、切削工具3の刃先側(
図13において下方)から刃基側(
図13において上方)に向けてこの順番でヘッド側ギヤ53の内部に収容される。
【0073】
ヘッド側ギヤ53は、
図13及び
図14に示すように、円筒状に形成されたヘッド側歯車である。詳しくは、ヘッド側ギヤ53は、チャック54、バネ55、スライド体56、第1ストッパ57、及び第2ストッパ58を収容可能な内径と、ヘッド部軸受部52の内輪に嵌合可能な外径とを有する略円筒状である。
【0074】
さらに、ヘッド側ギヤ53は、ネック部6の長手方向に沿った軸を回転軸とした第3回転体40の回転を、切削工具3の長手方向(
図13において上下方向)に沿った軸を回転軸とした工具回転機構50の回転に変換することができる。
【0075】
このヘッド側ギヤ53は、
図13及び
図14に示すように、略円筒体である軸本体53aと、ヘッド側ギヤ歯53bとが備えられ、ヘッド側ギヤ歯53b同士の間にヘッド側ギヤ溝53cが形成された傘歯車である。
【0076】
軸本体53aは、回転機構保持部60に収容可能な略円筒体である。
ヘッド側ギヤ歯53bは、軸本体53aの外周面から径外側に突出するとともに、断面視において刃先側の面が径外側に向かうに伴って下方に傾斜している。
【0077】
このように構成されたヘッド側ギヤ歯53bは、軸本体53aの外周に沿って、所定間隔を隔てて、等間隔で複数備えられている。なお、本実施形態では、ヘッド側ギヤ53は、12枚のヘッド側ギヤ歯53bが設けられている。
【0078】
ヘッド側ギヤ溝53cには、ヘッド側ギヤ歯53b同士の間に、軸本体53aの長手方向に沿って軸本体53aの外周面を径内側に向けて半円状に窪ませて形成されている。
このように、複数のヘッド側ギヤ歯53bが備えられたヘッド側ギヤ53は、ベベルギヤであり、第3回転体40の倍速ギヤ44に噛合する従動歯車を構成することができる。
【0079】
また、チャック54は、
図13に示すように、ヘッド側ギヤ53の内部において、切削工具3の長手方向の略中央よりも刃先側(下方)に配設される。このチャック54は、切削工具3の長手方向に沿って挿通された切削工具3の基軸3aを保持可能に構成されている。
【0080】
バネ55は、圧縮方向に変形可能な圧縮バネであって、
図13に示すように、ヘッド側ギヤ53の内部においてチャック54の上部に外嵌される。
スライド体56は、
図13に示すように、略円柱状に構成され、バネ55より軸端側に収容され、バネ55を押圧可能に構成されている。
【0081】
このように構成された工具保持部51では、圧縮変形する前のバネ55がチャック54における刃基側の端部近傍を押圧し、バネ55の押圧によって縮径されたチャック54は、切削工具3を保持することができる。一方、バネ55が圧縮変形すると、チャック54による切削工具3の保持を開放できる。
【0082】
第1ストッパ57及び第2ストッパ58は、
図13に示すように、略リング状に構成され、切削工具3の刃先側からこの順でスライド体56の軸端側の部分に外嵌している。この第1ストッパ57及び第2ストッパ58は、キャップ部72が刃先側に向かってスライド移動することを規制している。
ヘッド部軸受部52は、略リング状に形成され、回転機構保持部60の内部において、工具保持部51の刃先側端部及び刃基側端部を回転自在に支持している。
【0083】
<回転機構保持部>
回転機構保持部60は、
図13に示すように、上述したように構成された工具回転機構50を、ネック部6と一体構成されたヘッド部7におけるハウジング本体部71の内部に保持するように構成している。また、回転機構保持部60によってハウジング本体部71の内部に収容される工具回転機構50は、その回転軸が第3回転体40の回転軸に対して略直交する向きに配置される。
【0084】
<組み立て>
第1回転体20、第2回転体30、第3回転体40及び工具回転機構50のそれぞれが上述のように構成された回転伝達機構10をモータハンドピース1の内部に配置すると、第1回転体20は連結部4の内部に配置される。また、第2回転体30はおよそボディ部5の内部に配置され、第3回転体40はおよそネック部6の内部に配置され、工具回転機構50はヘッド部7の内部に配置される。
【0085】
このとき、第1回転体20のドライブギヤ25のドライブギヤ空間25dに第2回転体30のピニオンギヤ31が配置され、ドライブギヤ25とピニオンギヤ31とが噛合する。これにより第1歯車機構10Aが構成される。
また、第2回転体30のベベルギヤ34のベベルギヤ空間34dに第3回転体40のミドルギヤ41が配置され、ベベルギヤ34とミドルギヤ41とが噛合する。これにより第2歯車機構10Bが構成される。
【0086】
さらに、第3回転体40の倍速ギヤ44と工具回転機構50のヘッド側ギヤ53とが噛合する。これにより第3歯車機構10Cが構成される。
このように、各ギヤのそれぞれが噛合することで、第1回転体20、第2回転体30、第3回転体40及び工具回転機構50が回転伝達可能に連結されて回転伝達機構10を構成することができる。
【0087】
<作用>
次に、このように構成された回転伝達機構10に基づき、回転駆動する駆動部2aの回転を先端側Fに装着された切削工具3の回転として伝達する作用について簡単に説明する。
まず、モータ保持部2の内部に備えられている駆動部2aは、歯科用ハンドピースに用いられる一般的な回転速度のモータであり、一分間当たりの最大回転速度は40000rpmである。
【0088】
このモータ保持部2をモータハンドピース1に接続する、すなわちモータ保持部2に連結部4を接続することにより、モータ保持部2の内部に備えられた駆動部2aと、連結部4に内蔵された第1回転体20のモータ連結部21とが連結される。
これにより、第1回転軸22は駆動部2aと同速回転することができる。そのため、第1回転軸22の先端側Fに設けられたドライブギヤ25も、駆動部2aと同速回転することとなる。
【0089】
図15及び
図16に示すように、ピニオンギヤ31は、ドライブギヤ25におけるドライブギヤ空間25dの上方側に配置され、ピニオンギヤ31のピニオン歯31bとドライブギヤ25のドライブギヤ歯25bとが、ピニオンギヤ31の径内外方向に噛合している。
なお、
図16は、第1回転軸22の長手方向に沿って先端側Fから視ている。
【0090】
このとき、ドライブギヤ25の回転軸方向に対してピニオンギヤ31は、その回転軸方向が所定の角度で傾斜する姿勢となる。そのため、ドライブギヤ25のドライブギヤ歯25bとピニオンギヤ31のピニオン歯31bも傾斜した状態で噛合することとなる。なお、本実施形態ではおよそ10度傾いて噛合する。そのため、第2回転体30は、その軸方向が第1回転体20の軸方向に対して、170度の角度をなすように刃先側に向かって屈曲するように配置されることとなる。
【0091】
このように噛合するドライブギヤ25とピニオンギヤ31とは、ドライブギヤ25におけるドライブギヤ歯25bの歯数に対し、ピニオンギヤ31のピニオン歯31bの歯数が少ないため、第1回転体20に対して第2回転体30は増速回転することとなる。
【0092】
本実施形態では、ドライブギヤ25におけるドライブギヤ歯25bの歯数が23枚であり、ピニオンギヤ31のピニオン歯31bの歯数が7枚であるため、第2回転体30の回転速度は第1回転体20の回転速度のおよそ3.29倍に増速される。すなわち、最大回転速度が40000rpmであるモータの駆動部2aと同速回転する第1回転体20に対して第2回転体30は増速され、第2回転体30の最大回転速度はおよそ130000rpmとなる。
【0093】
このように、第1回転体20に対して増速回転する第2回転体30における第2回転軸33の先端側Fの端部に設けられたベベルギヤ34には、
図17及び
図18に示すように、第3回転体40の基端側Bの端部に設けられ、ベベルギヤ空間34dに配置されたミドルギヤ41が噛合する。
【0094】
このため、第2回転体30の回転を第3回転体40へ伝達する第2歯車機構10Bを構成することとなり、第2回転体30の回転を、ベベルギヤ34とミドルギヤ41とを介して第3回転体40に伝達することができる。
【0095】
詳述すると、
図3、
図17及び
図18に示すように、ミドルギヤ41は、ベベルギヤ34におけるベベルギヤ空間34dの上方側に配置され、ピニオンギヤ31のピニオン歯31bとベベルギヤ34のベベルギヤ歯34bとが、ピニオンギヤ31の径内外方向に噛合している。
【0096】
このとき、ベベルギヤ34の回転軸方向に対してミドルギヤ41は、その回転軸方向が所定の角度で傾斜する姿勢となる。そのため、ベベルギヤ34のベベルギヤ歯34bとピニオンギヤ31のピニオン歯31bも傾斜した状態で噛合することとなる。なお、本実施形態ではおよそ30度傾いて噛合する。そのため、第3回転体40は、その軸方向が第2回転体30の軸方向に対して、150度の角度をなすように刃基側に向かって屈曲するように配置されることとなる。
【0097】
また、このように噛合するベベルギヤ34とミドルギヤ41とは、ベベルギヤ34におけるベベルギヤ歯34bの歯数に対し、ミドルギヤ41のミドルギヤ歯41bの歯数が少ないため、第2回転体30に対して第3回転体40は増速回転することとなる。
【0098】
本実施形態では、ベベルギヤ34におけるベベルギヤ歯34bの歯数が13枚であり、ミドルギヤ41のミドルギヤ歯41bの歯数が8枚であるため、第3回転体40の回転速度は第2回転体30の回転速度のおよそ1.63倍に増速される。すなわち、最大回転速度が130000rpmに増速回転した第2回転体30に対してさらに増速され、第3回転体40の最大回転速度はおよそ212000rpmとなる。
【0099】
次に、第2回転体30に対して増速回転する第3回転体40における第3回転軸43の先端側Fの端部に設けられた倍速ギヤ44は、
図2及び
図3に示すように、ヘッド部7の内部において工具回転機構50の工具保持部51に設けられたヘッド側ギヤ53と噛合する。
【0100】
このため、第3回転体40の回転を工具回転機構50へ伝達する第3歯車機構10Cを構成することとなり、第3回転体40の回転を、倍速ギヤ44及びヘッド側ギヤ53を介して工具回転機構50に伝達することができる。
【0101】
詳述すると、
図2及び
図3に示すように、ヘッド側ギヤ53の外周面から径外側に突出するヘッド側ギヤ歯53bに対して倍速ギヤ44の倍速ギヤ歯44bが噛合する。なお、倍速ギヤ44の回転軸方向に対してヘッド側ギヤ53は、その回転軸方向が略直交方向の姿勢となる。
【0102】
また、このように噛合する倍速ギヤ44とヘッド側ギヤ53とは、倍速ギヤ44における倍速ギヤ歯44bの歯数に対し、ヘッド側ギヤ53のヘッド側ギヤ歯53bの歯数が少ないため、第3回転体40に対して工具回転機構50は増速回転することとなる。本実施形態では、倍速ギヤ44における倍速ギヤ歯44bの歯数が16枚であり、ヘッド側ギヤ53のヘッド側ギヤ歯53bの歯数が12枚であるため、工具回転機構50の回転速度は第3回転体40の回転速度のおよそ1.33倍に増速される。
【0103】
すなわち、最大回転速度が212000rpmに増速回転した第3回転体40に対してさらに増速され、工具回転機構50の最大回転速度はおよそ282000rpmとなる。つまり、工具回転機構50の最大回転速度(およそ282000rpm)は駆動部2aの最大回転速度(およそ40000rpm)のおよそ7.11倍となり、工具回転機構50で保持する切削工具3を最大回転速度およそ282000rpmで回転させることができる。
【0104】
このように構成された回転伝達機構10では、ヘッド側ギヤ53に負担をかけることなく切削工具3を高速回転させることができ、施術者はより滑らかに歯牙を切削することができる。また、患部である齲歯の切削に要する時間を短縮することができるため、患者の負担をより軽減できる。
【0105】
また、第3歯車機構における倍速ギヤ44は第3回転軸43の先端側Fの端部に設けられた傘歯車であるため、つまり、噛合する倍速ギヤ44とヘッド側ギヤ53との双方が傘歯車であるため、第3回転軸43の回転軸と直交する方向に沿った軸を回転軸として工具回転機構50を回転させることができる。
【0106】
また、第3歯車機構は、傘歯車を利用することで回転を略直交方向へ伝える部分であるため、ギヤ同士の噛合せをより強固にする必要があり、従来では、ヘッド側ギヤの歯数を倍速ギヤの歯数よりも多くする、つまり、歯車比を減速比としていた。しかし、本実施形態では、ギヤ同士の噛合せを強固にしつつ、工具回転機構50の最大回転速度を駆動部2aの最大回転速度のおよそ7.11倍にするために、第3歯車機構における歯車比についても増速比とするものの、1倍に近い増速比(1.33倍)としている。
【0107】
また、上述したように、モータハンドピース1は、第1歯車機構10A(ドライブギヤ25とピニオンギヤ31)、第2歯車機構10B(ベベルギヤ34とミドルギヤ41)及び第3歯車機構10C(倍速ギヤ44とヘッド側ギヤ53)の3つの歯車機構を回転伝達機構10に設けている。つまり、3ギヤシステムを採用している。
【0108】
このため、駆動部2aの回転を切削工具3へ段階的に伝達しながら、切削工具3の最大回転速度を増速することができる。よって、複数の歯車機構のうち特定の歯車機構に負担が集中してハンドピースの耐久性が低下することを抑制することができる。
【0109】
このように形成されたベベルギヤ34の外径は、ドライブギヤ25の外径のおよそ0.6倍である。また、ミドルギヤ41の外径は、ドライブギヤ25の外径のおよそ0.5倍である。つまり、回転伝達機構10における複数の歯車機構は、先端側Fに向かうに伴って外径が縮径している。このため、第2回転体30及び第3回転体40を内蔵するボディ部5の外径を縮径することができる。
【0110】
また、第2回転軸33と第3回転軸43とが鈍角となるように構成されているため、ベベルギヤ34及びミドルギヤ41を内蔵するボディ部5を屈折させることができるため、口腔内に挿入させやすくするハンドピースの先端部分を奥の方へアクセスしやすくできる。したがって、施術者がハンドピース1を操作しやすく、施術対象部位である歯牙を適切に切削することができる。さらに、臼歯などの口腔内の奥にある歯牙などであっても、施術者は容易かつ効率よく歯牙を滑らかに切削することができる。
【0111】
<変形例>
上述の本実施形態では、ドライブギヤ25、ピニオンギヤ31、ベベルギヤ34、ミドルギヤ41、倍速ギヤ44、ヘッド側ギヤ53の歯数をそれぞれ、上述したように、23枚、7枚、13枚、8枚、16枚、12枚としている。しかしながら、これらのギヤは、必ずしもこの歯数である必要はなく、それぞれの歯数を変更することができる。
【0112】
ところで、ハンドピースには、軽量で小さくかつ耐久性を確保しなければならないという制約がある。このため、従来のハンドピースでは、例えば、ステンレスや銅合金等が使用され、その形状は持ち手部分からヘッド部にかけて徐々に縮径している。そのヘッド部のサイズに至っては、高さが13.0~17.0mmの範囲、径が8.5~10.5mmの範囲で設計されており非常に小さい。このような素材とサイズのハンドピースにおいて、内部ギヤが損傷しないように歯数等が設計されている。
【0113】
この従来のハンドピースにある制約を前提にして、工具回転機構50の回転速度が、駆動部2aの回転速度の5.5倍以上となるハンドピース1を実現する変形例、つまり、第1~第3歯車機構それぞれの歯車比の増速比を所定範囲とし、かつ、それぞれの歯車機構の組合せを所定の組合せとした変形例について、以下詳細に説明する。
【0114】
具体的には、
図20に示す表のように、各ギヤにおける歯数を調整し、第1歯車機構10A、第2歯車機構10B、第3歯車機構10Cのギヤ比をそれぞれ変更した上で、切削工具3の回転速度を駆動部2aの5.5倍以上としてもよい。
【0115】
なお、
図20(a)は、ドライブギヤ25とピニオンギヤ31の歯数による回転速度変化率、つまり第1歯車機構10Aの回転速度変化率Saを示し、
図20(b)は、ベベルギヤ34とミドルギヤ41の歯数による回転速度変化率、つまり第2歯車機構10Bの回転速度変化率Sbを示し、
図20(c)は、倍速ギヤ44とヘッド側ギヤ53の歯数による回転速度変化率、つまり第3歯車機構10Cの回転速度変化率Scを示している。
【0116】
より具体的に説明すると、第1歯車機構10Aのギヤ比、第2歯車機構10Bのギヤ比、及び第3歯車機構10Cのギヤ比を適宜組み合わせて、工具回転機構50の回転速度が、駆動部2aの回転速度の5.5倍以上となるハンドピース1を構成する。
【0117】
なお、ドライブギヤ25の歯数は、18~27枚の範囲で適宜変更することができる。これに対し、ドライブギヤ25と噛合するピニオンギヤ31の歯数は、6~11枚の範囲で適宜変更することができる。
【0118】
このように、ドライブギヤ25とピニオンギヤ31の歯数を適宜設定することにより、
図20(a)に示すように、第1歯車機構10Aによる第1回転軸22と第2回転軸33との回転速度変化率、つまり第1歯車機構10Aの回転速度変化率Saを1.64倍~4.50倍に設定できる。すなわち、ドライブギヤ25及びピニオンギヤ31の歯数を適宜設定することにより、第1回転軸22に対して第2回転軸33を所望の回転速度で回転させることができる。
【0119】
仮に、ドライブギヤ25の歯数を仮に17枚以下とすると、切削工具3を所望の回転速度で回転させることができない。具体的には、ドライブギヤ25の歯数を仮に17枚とすると、第1歯車機構10Aにおける回転速度変化率Saは2.6倍以下になる。そのため、工具回転機構50の回転速度を駆動部2aの回転速度の5.5倍以上の回転速度で回転させるためには、第2歯車機構10Bの回転速度変化率Sbや第3歯車機構10Cの回転速度変化率Scを大きく設定する必要がある。
【0120】
このように、回転速度変化率を大きく設定すると、第2歯車機構10B又は第3歯車機構10Cの負担が増大し、第2歯車機構10B又は第3歯車機構10Cの耐久性が低下するおそれがある。したがって、モータ保持部2の回転速度を増速して工具回転機構50の回転速度を駆動部2aの回転速度の5.5倍以上の回転速度で回転させることが困難である。
【0121】
また仮に、第2歯車機構10B又は第3歯車機構10Cの強度向上のために、各ギヤのサイズを大きくすると、ボディ部5やネック部6やヘッド部7の外径が大きくなり、患者の口腔内にヘッド部7を挿入するのが困難となり、また、口腔内での小回りが利かなくなるため施術が困難となる。
【0122】
一方で、ドライブギヤ歯25bの強度を維持したまま、ドライブギヤ25の歯数を仮に28枚以上とすると、ドライブギヤ歯25bの歯丈や歯厚が短くなる。このため、ドライブギヤ歯25bの強度が低下するとともに、ドライブギヤ25とピニオンギヤ31との間ですべりが生じやすくなる。
【0123】
同様に、ピニオンギヤ31の歯数を5枚以下とすると、各歯の歯厚が大きくなる、もしくは、各歯の間隔が広くなるため、対応するドライブギヤ25との間での噛合性が低下し、円滑に回転を伝達することができなくなる。仮に円滑に回転を伝達するために、ピニオンギヤ31の外形を小さくすると、ピニオンギヤ31の強度が下がり、ピニオンギヤ31の耐久性が低下する。
【0124】
また、ピニオン歯31bの強度を維持したまま、ピニオンギヤ31の歯数を12枚以上とすると、ピニオン歯31bの歯丈や歯厚が短くなり、ドライブギヤ25とピニオンギヤ31との噛合性が低下しやすくなる。
【0125】
また、第2歯車機構10Bを構成するベベルギヤ34とミドルギヤ41の歯数も適宜設定することができる。具体的には、ベベルギヤ34の歯数は11~17枚の範囲で適宜設定することができ、ベベルギヤ34に噛合するミドルギヤ41の歯数も7~11枚の範囲で適宜設定することができる。
【0126】
このように、ベベルギヤ34とミドルギヤ41の歯数を適宜設定することにより、第2歯車機構10Bによる第2回転軸33と第3回転軸43との回転速度変化率、つまり第2歯車機構10Bの回転速度変化率Sbを、
図20(b)の表に示すように、1.00倍~2.43倍に設定できる。すなわち、ベベルギヤ34及びミドルギヤ41の歯数を適宜設定することにより、第2回転軸33に対して第3回転軸43を所望の回転速度で回転させることができる。
【0127】
仮に、ベベルギヤ34の歯数を仮に10枚以下とすると、第2回転軸33の回転速度はおよそ1.4倍以下になる。そのため、モータ保持部2の回転速度を増速して切削工具3を所望の回転速度で回転させるためには、第1歯車機構10Aの回転速度変化率Sa又は第3歯車機構10Cの回転速度変化率Scを大きくする必要がある。この場合、第1歯車機構10A又は第3歯車機構10Cの負担が増大し、第1歯車機構10A又は第3歯車機構10Cの耐久性が低下するおそれがある。
一方で、ベベルギヤ歯34bの強度を維持したまま、ベベルギヤ34の歯数を仮に18以上とすると、ベベルギヤ歯34bの歯丈や歯厚が短くなる。このため、ベベルギヤ歯34bの強度が低下する。
【0128】
同様に、ミドルギヤ41の歯数を6枚以下とすると、各歯の歯厚が大きくなる、もしくは、各歯の間隔が広くなる。このため、対応するベベルギヤ34との間での噛合性が低下し、円滑に回転を伝達することができなくなる。仮に、円滑に回転を伝達するために、ミドルギヤ41の外形を小さくすると、ミドルギヤ41の強度が下がり、ミドルギヤ41の耐久性が低下する。
【0129】
また、ミドルギヤ歯41bの強度を維持したまま、ミドルギヤ41の歯数を13枚以上とすると、ミドルギヤ歯41bの歯丈や歯厚が短くなる。このため、ミドルギヤ歯41bの強度が低下する。
仮に、強度向上のために、ベベルギヤ34やミドルギヤ41のサイズを大きくすると、ボディ部5の外径が大きくなり、狭隘な口腔内での操作性が低下することとなる。
【0130】
同様に、第3歯車機構10Cを構成する倍速ギヤ44とヘッド側ギヤ53の歯数も適宜設定することができる。具体的には、第3軸受部42の歯数は12~20枚の範囲で適宜設定することができ、第3軸受部42に噛合するヘッド側ギヤ53の歯数も10~15枚の範囲で適宜設定することができる。
【0131】
このように、倍速ギヤ44とヘッド側ギヤ53の歯数を適宜設定することにより、第3歯車機構10Cによる第3回転軸43と工具保持部51との回転速度変化率を0.80倍~2.00倍に設定できる。すなわち、第3軸受部42及びヘッド側ギヤ53の歯数を適宜設定することにより、第3回転軸43に対して工具保持部51を所望の回転速度で回転させることができる。
【0132】
仮に、第3軸受部42の歯数を仮に11枚以下とすると、第3歯車機構10Cの回転速度変化率はおよそ1.2倍以下になる。そのため、モータ保持部2の回転速度を増速して切削工具3を所望の回転速度で回転させるためには、第1歯車機構10A又は第2歯車機構10Bでの回転速度変化率を大きくする必要がある。この場合、第1歯車機構10A又は第2歯車機構10Bの負担が増大し、第1歯車機構10A又は第2歯車機構10Bの耐久性が低下するおそれがある。したがって、モータ保持部2の回転速度を増速して切削工具3を所望の回転速度で回転させることが困難となる。
一方で、倍速ギヤ歯44bの強度を維持したまま、倍速ギヤ44の歯数を仮に21枚以上とすると、倍速ギヤ歯44bの歯丈や歯厚が短くなるため、倍速ギヤ歯44bの強度が低下する。
【0133】
同様に、ヘッド側ギヤ53の歯数を10枚以下とすると、各歯の歯厚が大きくなる、もしくは、各歯の間隔が広くなる。このため、対応する倍速ギヤ44との間での噛合性が低下し、円滑に回転を伝達することができなくなる。仮に、円滑に回転を伝達するために、ヘッド側ギヤ53の外形を小さくすると、ヘッド側ギヤ53の強度が下がり、ヘッド側ギヤ53の耐久性が低下する。
【0134】
仮に、強度向上のために、倍速ギヤ44やヘッド側ギヤ53のサイズを大きくすると、ネック部6やヘッド部7の外径が大きくなる。このため、狭隘な口腔内での操作性が低下することとなる。また、患者は大きく開口しなければならず、患者の負担も大きくなる。まして、子供にとってはより大きな負担となるおそれがある。
【0135】
これに対して、
図20(c)の表に示す範囲の第3歯車機構10Cの回転速度変化率とするとともに、回転伝達機構10全体の回転速度変化率を5.5倍以上、好ましくは6.5倍以上7.2倍以下とすることにより、適切に切削工具3を所望の回転速度で回転させることができる。
【0136】
詳述すると、先端側Fの歯車機構(すなわち第3歯車機構10C)における最小の回転速度変化率及び最大の回転速度変化率を基端側Bの歯車機構(すなわち第1歯車機構10A及び第2歯車機構10B)に比べて小さくすることで、先端側Fで噛合する歯車の大きさを小さくしつつ、それぞれの歯の大きさ及び歯数を近似させることができる。これにより、噛合性を向上できるとともに、ギヤに作用する負荷を軽減することができる。
【0137】
また、基端側Bに配置されたドライブギヤ25及びピニオンギヤ31における回転速度変化率(第1歯車機構10Aでの回転速度変化率Sa)を大きく設定することで、先端側Fに配置されたベベルギヤ34及びミドルギヤ41及び倍速ギヤ44及びヘッド側ギヤ53の回転速度変化率を低く設定することができる。これにより、内径の小さいベベルギヤ34及びミドルギヤ41及び倍速ギヤ44及びヘッド側ギヤ53に作用する負担を軽減できる。したがって、駆動部2aの回転を確実かつ円滑に切削工具3に伝達することができる。
また、各回転軸の間で回転を伝達する各歯車機構の耐久性低下を防止しつつ、駆動部2aの回転をより確実に切削工具3に伝達させることができ、患部である歯牙をより滑らかに切削することができる。
【0138】
また、先端側Fの第3歯車機構10Cの大きさを小さくできるため、先端側Fに向かうに伴って小径となる。したがって、口腔内に挿入しやすく、かつ、滑らかに歯牙を切削することができる。これにより、患者に負担をかけることがなく、施術することができる。
【0139】
このように、回転伝達機構10は、第1歯車機構10A(ドライブギヤ25とピニオンギヤ31)、第2歯車機構10B(ベベルギヤ34とミドルギヤ41)及び第3歯車機構10C(倍速ギヤ44とヘッド側ギヤ53)の回転速度変化率を適宜変更し、切削工具3の回転速度をモータ保持部2の回転速度の5.5倍以上に設定できる。これにより、少なくとも駆動部2aの最大回転速度(40000rpm)を増速して、切削工具3の最大回転速度を220000rpmとすることができる。したがって、従前のモータハンドピースに比べて切削工具3を高速回転させることができる。これにより、施術者は容易に齲歯を切削することができ、患者の負担も軽減できる。
【0140】
なお、上述したように、ドライブギヤ25とピニオンギヤ31の歯数をそれぞれ23枚と7枚とし、ベベルギヤ34とミドルギヤ41の歯数を13枚と8枚とし、倍速ギヤ44とヘッド側ギヤ53の歯数を16枚と12枚とするのがより好ましい。この場合、第1歯車機構10A(ドライブギヤ25とピニオンギヤ31)、第2歯車機構10B(ベベルギヤ34とミドルギヤ41)及び第3歯車機構10C(倍速ギヤ44とヘッド側ギヤ53)のそれぞれの回転速度変化率は3.26倍、1.63倍、1.33倍となる。
【0141】
これにより、最大回転速度が40000rpmである一般的な回転速度のモータを用いたモータハンドピース1であっても、切削工具3の最大回転速度を282000rpmとすることができるとともに、第1歯車機構10A、第2歯車機構10B及び第3歯車機構10Cのそれぞれに作用する負担を分散できる。また、第3歯車機構10Cの回転速度変化率を一番小さくできるため、ネック部6やヘッド部7の外径を小さくすることができる。これにより、施術者は施術が行いやすく、また患者の負担も軽減できる。
【0142】
なお、駆動部2aの最大回転速度に対する工具回転機構50の最大回転速度の回転速度変化率が大きくなると、切削工具3の最大回転速度が増大し、切削工具3で歯牙を滑らかに切削できるものの、歯車機構10A,10B,10Cで増速する回転伝達機構10の構造的負荷が増大する。また、モータハンドピース1を構成する連結部4、ボディ部5、ネック部6、ヘッド部7が基端側Bから先端側Fに向かって徐々に縮径される。そのため、下記式を満足することが好ましい。
【0143】
具体的には、数式1で示すように、第1歯車機構10Aの回転速度変化率Sa、第2歯車機構10Bの回転速度変化率Sb、及び第3歯車機構10Cの回転速度変化率Scがこの順で小さくなるように設定することが好ましい。なお、第3歯車機構10Cは第3回転体40に対して工具回転機構50を減速させる場合があるため回転速度変化率Scはその絶対値とする。
【0144】
【0145】
モータハンドピース1を構成する連結部4、ボディ部5、ネック部6、ヘッド部7が基端側Bから先端側Fに向かってこの順で配置されるとともに徐々に縮径され、それぞれに内蔵する第1回転体20、第2回転体30、第3回転体40及び工具回転機構50も徐々にコンパクト化するため、構造的強度も小さくなりやすい。
【0146】
殊に、工具回転機構50は切削工具3の保持機能を備えるとともに、第3歯車機構10Cにおける回転軸方向の変化も大きいため、その構造は他の歯車機構に比べて複雑化しやすい。また、工具回転機構50は高速回転して歯牙を切削する切削工具3の負荷がダイレクトに作用する。
【0147】
その反面、歯車機構における回転速度変化率が大きくなる、つまり回転を入力する側と増速される側とで回転速度差が大きくなると、増速される側に負荷が作用することとなる。そのため、構造的には、できるだけ低い回転速度変化率で所望の最大回転速度を得ることが好ましい。
【0148】
そこで、数式2で示すように、第2歯車機構10Bの回転速度変化率Sbに対する第1歯車機構10Aの回転速度変化率Saの比率より、第3歯車機構10Cの回転速度変化率Scに対する第2歯車機構10Bの回転速度変化率Sbの比率が小さくなるように設定することが好ましい。
【0149】
【0150】
上述したように、回転伝達機構10では、第1歯車機構10A,第2歯車機構10B及び第3歯車機構10Cのそれぞれを介した回転は、回転軸方向が伝達側と受動側とで変化するものの、第1回転体20における第1回転軸22に対する第2回転体30の第2回転軸33の向き、第2回転軸33に対する第3回転体40の第3回転軸43の向き、及び第3回転軸43に対する工具回転機構50のヘッド側ギヤ53の向きがこの順で大きくなる。しかしながら、数式2を満足することで、回転伝達機構10における第1回転体20、第2回転体30、第3回転体40及び工具回転機構50で、回転速度を増速しながら、円滑に回転を伝達することができる。
【0151】
なお、上述したように、数式1を満足する回転速度変化率の組み合わせがより好ましいものの、工具回転機構50の回転速度が駆動部2aの回転速度の5.5倍以上となれば、第1歯車機構10Aの回転速度変化率Saと第2歯車機構10Bの回転速度変化率Sbとが同レベルであってもよいし、回転速度変化率Sbが回転速度変化率Saよりやや大きく、第3歯車機構10Cの回転速度変化率Scが回転速度変化率Saや回転速度変化率Sbより小さいという組み合わせであってもよい。
【符号の説明】
【0152】
1・・・モータハンドピース
2a・・・駆動部
3・・・切削工具
4・・・連結部
5・・・ボディ部
6・・・ネック部
7・・・ヘッド部
21・・・第1回転軸
25・・・ドライブギヤ
31・・・ピニオンギヤ
33・・・第2回転軸
34・・・ベベルギヤ
41・・・ミドルギヤ
43・・・第3回転軸
44・・・倍速ギヤ
50・・・工具回転機構
53・・・中空軸体