(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】グルテン分解によってパンの物理・化学的消化率を増加させるラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318菌株及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240404BHJP
A21D 8/04 20060101ALI20240404BHJP
A21D 13/066 20170101ALI20240404BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
A21D8/04
A21D13/066
(21)【出願番号】P 2022152892
(22)【出願日】2022-09-26
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0126261
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12988P
(73)【特許権者】
【識別番号】317017461
【氏名又は名称】ロッテ ウェルフード カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ユンジュ
(72)【発明者】
【氏名】イム アヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ ビョンゴン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジェウン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョンファン
(72)【発明者】
【氏名】ユン インスプ
(72)【発明者】
【氏名】チョ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ユン ウォンジュ
(72)【発明者】
【氏名】イ ギョンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ ウンジュ
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0073069(KR,A)
【文献】特表2009-543576(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0142263(KR,A)
【文献】柴田茂久他,改訂増補 小麦粉製品の知識,第2版,日本,幸書房,1995年08月10日,pp. 126-132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンの消化率を増加させる効果を有する寄託番号KCCM 12988Pのラクチプランチバチルスプランタラム(
Lactiplantibacillus plantarum)LRCC 5318菌株。
【請求項2】
前記消化率の増加は、菌株培養液及び乳酸菌発酵液の高いプロテアーゼ濃度と製パン発酵時のグルテン低減によって発生する、請求項1に記載の菌株。
【請求項3】
前記菌株は、配列番号1の塩基配列を含む16S rDNAを有する、請求項1に記載の菌株。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項による菌株;その破砕物;その培養物;
及びその発酵
物のいずれか一つ以上を含む乳酸菌発酵液。
【請求項5】
請求項4による乳酸菌発酵液を用いる段階を含むパンの製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項による菌株;その破砕物;その培養物;
及びその発酵
物のいずれか一つ以上を含むパン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルテン分解及びパンの消化率増加の効果を有する新規なラクチプランチバチルスプランタラム菌株及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的にコメを主食とする韓国人の食生活は、経済成長と生活レベルの向上などによる変化によって食生活の形態が多様化し、パン類の消費も大きく増加してきている。しかし、パン摂取のとき、胃もたれがしたりよく消化されない感じがする消費者も多い実情である。
【0003】
パンがよく消化されないことは、グルテンにその原因があるとされているが、グルテンは、グリアジン(Gliadin)とグルテニン(Glutenin)というタンパク質からなるタンパク質複合体である。小麦タンパク質の一つであるグルテニンは、長く延びる形態であり、両末端部にチオール基(-SH)を有するアミノ酸システインを含む構造であるので、他のグルテニンのシステイン末端部と二硫化結合(-S-S-)することができる。このように、種々のグルテニンが二硫化結合で連結され、分解し難い網構造をなす。一方、グリアジンは球状のタンパク質であって、グルテニンのように強力な二硫化結合を形成することはできないが、グリアジンタンパク質同士が水素結合又はイオン結合で連結され、粘性を有する長い鎖の構造をなしたり、パンの練り過程でグルテニンの網構造中に絡んで入り、粘性と弾性を同時に有するグルテン構造を形成する。
【0004】
このように、グルテンが水によく溶けずに強力な二硫化結合ベースの網の構造を有することにより、パンの摂取時に胃もたれがしたりよく消化されないことがあるわけである。また、グリアジンタンパク質自体が、人体の消化酵素への抵抗性が強いペプチド配列(プロリン、グルタミン)を含有していることも、消化を妨害する要素といえる。
【0005】
一般に、パンの消化を改善するために、小麦粉の代わりにコメ粉を活用してパンを製造したり、一部の小型パン屋では、パンにおいて小麦粉を含む固形分の含有量を下げて密度の低いパンを作り、よく消化されるようにする場合もある。しかし、コメ粉で作ったパンは、モチに近い食感を有するため、'パン'特有の食感と味があるとは言い難く、後者の場合も、水分含有量が高いため、微生物増殖の危険が増加して賞味期限が短くなる他、しこしこした感じよりはややぱさぱさとした食感がするなど、官能的品質にも影響するという不具合がある。
【0006】
このため、パン特有の食感と味を保持或いは改善しながらも、グルテン構造によってパン摂取時に胃もたれがしたりよく消化されない点を解決できる技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国登録特許第10-1370941号
【文献】韓国登録特許第10-1315393号
【文献】韓国登録特許第10-0747754号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Frances Smith etc.,Mol.Nutr.Food Res.,59:2034-2043,2015
【文献】キム・ヒスン.,韓国食品科学会誌、26(5):603-608,1994
【文献】ゾ・ユナ.,韓国食品栄養科学会誌、47(10):1029-1035,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような背景下でこのような問題の解決のために、本発明は、プロテアーゼ活性の高い新規乳酸菌を選別して発酵種を製造した後、これをパンの生地に添加して、発酵過程で生地中のグルテンを一部分解し、有機酸によってグルテンの網状構造を緩くして消化されやすくした。すなわち、前記新規乳酸菌は、高いグルテン利用能とプロテアーゼ活性を有するので、パンの製造時に乳酸菌を添加せずに作ったパンに比べてグルテン含有量が低く、In vitro人工消化モデルにおいて物理化学的消化率が高いよく消化されるパンを生産可能にする。
【0010】
そこで、本発明者らは、下記のような新規微生物及びその用途を提供しようとする。
【0011】
本発明の一側面は、ラクチプランチバチルス属の菌株によって、製パンへの適用時にグルテン含有量を下げて物理化学的消化率を増加させる菌株及びその製剤を提供しようとする。
【0012】
本発明の目的は、受託番号KCCM 12988Pとして寄託されたラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318(Lactiplantibacillus plantarum LRCC 5318)菌株を提供しようとする。
【0013】
本発明の他の目的は、前記ラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318菌株;その破砕物;その培養物;その発酵物;及び前記菌株、破砕物、培養液又は発酵物の抽出物;のいずれか一つ以上を用いる段階;を含む乳酸菌発酵液及びその製造方法を提供しようとする。
【0014】
本発明の他の目的は、前記乳酸菌発酵液を用いる段階;を含むパンの製造方法を提供しようとする。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、前記ラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318菌株;その破砕物;その培養物;その発酵物;及び前記菌株、破砕物、培養液又は発酵物の抽出物;のいずれか一つ以上を用いる段階;を含むパンの製造方法及び該方法で製造されたパンを提供しようとする。
【0016】
本発明の目的は、以上に言及した目的に限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、下記の解決手段を提供する。
【0018】
本発明の一側面は、製パン時にパンの物理化学的消化率を改善する効果を有するラクチプランチバチルスプランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)菌株を提供する。
【0019】
本発明の一側面において、 高い物理化学的消化率はグルテン(Gluten)含有量の減少によって発生するものである、菌株を提供する。
【0020】
本発明の一側面において、前記菌株は、発酵時にグルテンのようなタンパク質分解力に優れた、菌株を提供する。
【0021】
本発明の一側面において、前記菌株は、配列番号1の塩基配列を含む16S rDNAを有する、菌株を提供する。
【0022】
本発明の一側面において、前記菌株は、ラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318である、菌株を提供する。
【0023】
本発明の一側面において、前記菌株は、寄託番号がKCCM 12988Pである、菌株を提供する。
【0024】
本発明の他の側面は、前記本発明の一側面のいずれか一つによる菌株;その破砕物;その培養物;その発酵物;及び前記菌株、破砕物、培養液又は発酵物の抽出物;のいずれか一つ以上を含む微生物製剤を提供する。
【0025】
本発明の他の側面は、前記本発明の一側面のいずれか一つによる菌株;その破砕物;その培養物;その発酵物;及び前記菌株、破砕物、培養液又は発酵物の抽出物;のいずれか一つ以上を含む乳酸菌発酵液を提供する。
【0026】
一具現例において、前記乳酸菌発酵液を用いる段階を含むパンの製造方法を提供する。
【0027】
本発明の他の側面は、前記本発明の一側面のいずれか一つによる菌株;その破砕物;その培養物;その発酵物;及び前記菌株、破砕物、培養液又は発酵物の抽出物;のいずれか一つ以上を含むパン及びその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一側面による菌株、これを含む発酵液及びこれを含めて製造されたパンは、物理化学的消化率が高く、消費者の消化力向上に役立つ。
【0029】
本発明の一側面による菌株、これを含む発酵液及びこれを含めて製造されたパンは、グルテン含有量が、乳酸菌を添加しないで製造されたパンに比べて少ない。
【0030】
本発明の一側面による菌株、これを含む発酵液及びこれを含めて製造されたパンは、乳酸菌自体の酸生成力による低いpHによってパン生地のグルテン構造を緩くする効果がある。
【0031】
本発明の一側面による菌株、これを含む発酵液及びこれを含めて製造されたパンは、パン生地のグルテン構造を緩くさせて体積膨張力を高めることができる。
【0032】
本発明の一側面による菌株、これを含む発酵液及びこれを含めて製造されたパンは、体積膨張力に優れ、優れたテキスチャーを具現することができる。
【0033】
本発明の一側面による菌株、これを含む発酵液及びこれを含めて製造されたパンは、体積膨張力に優れた、軟らかい食感の具現が可能である。
【0034】
本発明の効果は、以上で言及した効果に限定されない。本発明の効果は、以下の説明から推論可能な全ての効果を含むものと理解されるべきであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1A】本願発明菌株の糖利用性分析(API 50CHL kit)結果である。
【
図1B】本願発明菌株の16s rDNAのBLAST分析結果である。
【
図2】菌株培養液のプロテアーゼ濃度を定量するための標準曲線(Standard curve)である。
【
図3】8種の菌株のグルテン利用能をグルテン培地における生長性から測定した結果である。
【
図4】乳酸菌発酵液のプロテアーゼ濃度を定量するための標準曲線である。
【
図5】4種のパンの人工消化モデルを用いて物理的消化率(%)を計算した結果である。
【
図6】4種のパンの初期タンパク質含有量と消化液処理後の遊離アミノ酸含有量から化学的消化率(%)を計算した結果である。
【
図7】4種のパンのグルテン含有量を定量するための標準曲線である。
【
図8】4種のパンのグルテン含有量を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以上の本発明の目的、他の目的、特徴及び利点は、添付の図面と関連した以下の好ましい実施例から容易に理解されるであろう。ただし、本発明は、ここで説明される実施例に限定されず、他の形態として具体化されてもよい。むしろ、ここで紹介される実施例は、開示されている内容が徹底且つ完全になり得るように、且つ通常の技術者に本発明の思想が十分に伝達され得るようにするために提供されるものである。
【0037】
本明細書において、「含む」又は「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品又はこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、1つ又はそれ以上の他の特徴、数字、段階、動作、構成要素、部分品又はこれらを組み合わせたものの存在又は付加可能性をあらかじめ排除しないものとして理解されるべきである。
【0038】
本明細書において、範囲が変数に対して記載される場合に、前記変数は、前記範囲の記載された終了点を含む記載範囲内の全ての値を含むものと理解されよう。例えば、「5~10」の範囲は、5、6、7、8、9、及び10の値だけでなく、6~10、7~10、6~9、7~9などの任意の下位範囲も含み、5.5、6.5、7.5、5.5~8.5及び6.5~9などのような、記載範囲の範疇に妥当な整数間の任意の値も含むものと理解されよう。また、例えば、「10%~30%」の範囲は、10%、11%、12%、13%などの値と30%までを含む全ての整数だけでなく、10%~15%、12%~18%、20%~30%などの任意の下位範囲も含み、10.5%、15.5%、25.5%などのような、記載範囲の範疇内の妥当な整数間の任意の値も含むものと理解されよう。
【0039】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0040】
本発明は、製パンへの適用時に、ラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318及びこれを用いた乳酸菌発酵食パンの製造方法を提供しようとする。具体的に、本発明は、よく消化されるパンに適する菌株とこれを適用した乳酸菌発酵液種及び乳酸菌発酵食パンに関し、より具体的には、製パンへの適用時に、グルテン含有量を低減させ、パンの物理化学的消化率を増加させるラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318(寄託番号KCCM 12988P)及びこれを含む乳酸菌発酵液種と発酵パンの製造方法、並びにその乳酸菌発酵液種と発酵パンに関する。また、グルテンは、生地の発酵過程で体積を膨脹させ、炭酸ガスを捕集し、焼成(焼く過程)後にもパンの形態を保持するとの側面でなくてはならない原料であるが、本発明は、生地を捏ねる初期から少量のグルテンが投入されるのではなく、生地の発酵過程から乳酸菌によってグルテンが徐々に分解し始め、グルテン構造を緩くさせて消化率を高めたものであるので、パンの品質に否定的な影響を与えず、製パン産業で広く活用可能である。
【0041】
本発明は、ハ-ブの一種であるアップルミントから分離し、製パンへの適用時にグルテン含有量低減の効果に優れた植物性乳酸菌ラクチプランチバチルスプランタラムを提供することにその目的がある。また、本発明は、製パンへの適用時に物理化学的消化率に優れたラクチプランチバチルスプランタラムを提供することにその目的がある。また、本発明は、発酵液種の製造時に、発酵前に比べてプロテアーゼ活性が強化されたラクチプランチバチルスプランタラムを提供することにその目的がある。上記の目的を達成するために、本発明は、小麦粉、マルトデキストリン、ブドウ糖をラクチプランチバチルスプランタラム菌株で発酵させた乳酸菌発酵液種を提供する。
【0042】
また、本発明は、小麦粉100重量部を基準に、前記乳酸菌発酵液種を3~20重量部、好ましくは10重量部を投入し、4時間以上発酵させて製造する乳酸菌発酵パンを提供する。
【0043】
本発明は、プロテアーゼ活性とグルテン利用能が高い菌株とこれを適用した乳酸菌発酵液種及び発酵パンに関し、パンのグルテン含有量を低減させ、乳酸菌自体の酸生成力による低いpHによってパン生地のグルテン構造を緩くさせて物理化学的消化率を高めることにより、よく消化されるパンに効果的に適用可能である。
【0044】
本発明は、ラクチプランチバチルスプランタラムを接種し培養した小麦粉発酵物(乳酸菌発酵液)を用いてパンを製造する方法に関する。より詳細には、ハーブの一種であるアップルミントから分離したラクチプランチバチルスプランタラム菌株を接種培養した乳酸菌発酵液を用いてパンを製造する方法に関する。食生活の西欧化によってパンの消費量は増加し続けてきている。しかし、パンを摂取する場合には、ご飯を主食して摂取する場合に比べて胃もたれがしたりよく消化されないという問題点があった。そこで、本発明の目的は、消化を妨害するグルテンの含有量を低減し、構造を緩くさせる菌株(ラクチプランチバチルスプランタラム)を開発し、乳酸菌不添加パンに比べてよく消化され、健康を追求する消費者たちに訴求できるパンを製造する方法を提供することにある。
【0045】
上記のような目的を達成するために、本発明は、ラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318を接種培養した乳酸菌発酵液を使用することをその特徴とする。
【0046】
特に、前記乳酸菌発酵液は、ラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318を接種後に36~38℃で16~18時間培養して得られる。このようにして得られた乳酸菌発酵液は、製パン原料のうち小麦粉全重量に対して5重量%~20重量%、好ましくは10重量%の量で使用されることが好ましい。これよりも多い量が使用されると、パンの生地があまりに水っぽくなり、グルテン形成が弱くなることにより、むしろ最終製品の体積が小さくなる問題が発生し得る。
【0047】
以下、本発明の様々な側面について説明する。
【0048】
本発明の一側面は、製パン時に、物理化学的消化率が高くなる効果を有するラクチプランチバチルスプランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)菌株を提供する。
【0049】
本発明の一側面は、パンの消化率を増加させる効果を有するラクチプランチバチルスプランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)LRCC 5318である菌株を提供する。
【0050】
本発明の一側面において、前記高い物理化学的消化率は、低減したグルテン含有量によって発生する、菌株を提供する。
【0051】
本発明の一側面において、前記菌株は、製パン発酵時にグルテン低減量が高い、菌株を提供する。
【0052】
本発明の一側面において、前記菌株は、製パン時に体積膨張力に優れた、菌株を提供する。
【0053】
本発明の一側面において、前記菌株は、配列番号1の塩基配列を含む16S rDNAを有する、菌株を提供する。
【0054】
本発明の一側面において、前記菌株は、ラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318である、菌株を提供する。
【0055】
本発明の一側面において、前記菌株は、寄託番号がKCCM 12988Pである、菌株を提供する。
【0056】
本発明の他の側面は、前記本発明の一側面のいずれか一つによる菌株;その破砕物;その培養物;その発酵物;及び前記菌株、破砕物、培養液又は発酵物の抽出物;のいずれか一つ以上を含む微生物製剤を提供する。
【0057】
本発明の他の側面は、前記本発明の一側面のいずれか一つによる菌株;その破砕物;その培養物;その発酵物;及び前記菌株、破砕物、培養液又は発酵物の抽出物;のいずれか一つ以上を含む乳酸菌発酵液を提供する。
【0058】
一具現例において、前記乳酸菌発酵液を用いる段階を含むパンの製造方法を提供する。
【0059】
本発明の他の側面は、前記本発明の一側面のいずれか一つによる菌株;その破砕物;その培養物;その発酵物;及び前記菌株、破砕物、培養液又は発酵物の抽出物;のいずれか一つ以上を含むパン及びその製造方法を提供する。
【0060】
以下、実施例、製造例及び実験例を用いて本発明の構成及び効果をより詳細に説明する。これらの実施例、製造例及び実験例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例、製造例及び実験例によって限定されるものではない。
【0061】
菌株実施例1.ラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318菌株の分離
(1)試料採取及び乳酸菌分離
パンの消化率を増加させる乳酸菌を選別するために、韓国全域の伝統在来市場から約150種のキムチ試料とミレウォンモールからハ-ブ6種を購買した。購買したキムチ試料には滅菌蒸留水を添加して10倍希釈した後、粉砕均質器(Stomacher,Pro-Media SH-001,ELMEX)を用いて均質化し、ハ-ブ試料には砂糖と蒸留水を添加して30℃で7日間培養後に濾過した。前記希釈液と濾過液を滅菌食塩水で多段希釈後に0.1mlを取り、0.002重量%のBCP(Bromocresol purple)と1.5重量%の寒天(Agar)が添加されたMRS固体培地に塗抹し、37℃培養器で48時間培養した。
培養後に、黄色の環が見られるコロニー(Colony)を選別し、個体別に、上述したBCP-MRS固体培地に2~3回継代培養して各菌株を純粋分離した。
前記菌株を個体別にMRS液体培地に接種して37℃で48時間再培養した後、4℃冷蔵保管しながら実験に使用した。
【0062】
(2)耐酸性
生地のpHは4.5にまで落ちるが、このような環境でも生長するためには耐酸性に優れた菌株が要求される。したがって、前記で分離した菌株の耐酸性を比較して優秀菌株を選別した。
上記で分離した乳酸菌をMRS平板培地に接種して37℃で24時間培養した。培養されたコロニーの一部を採取してMRS液状培地に接種した後、さらに、37℃で24時間静置培養し、種菌培養液を製造した。
分離乳酸菌の耐酸性試験のために種菌培養液1%をMRS液体培地に接種して37℃で24時間培養した。この培養液を遠心分離して菌体を沈殿させた後に上澄液を除去し、10% H2SO4を用いてpHを3.0に調整した0.1Mリン酸緩衝液(0.1M Phosphate buffer)を同体積で添加した。pH3.0緩衝液を添加した時点を基準に37℃培養器で0、2、4、8時間、その後は24時間単位で試料1mlを採取してその多段希釈液をMRS平板培地に塗抹し、37℃で24時間培養した。その後、初期生菌数と、pH3.0リン酸緩衝液処理後の生菌数をそれぞれ測定した後、(初期生菌数/pH処理後生菌数)で耐酸性を計算した。その結果、最も長い時間で高い耐酸性を示す菌株を選択し、本発明の最終菌株とした。
最終選別された菌株はMRS液体培地に接種して37℃で48時間培養して増殖させた後、遠心分離(10,000g,10分)して菌体を得た。前記菌体を、クライオチューブ(Cryo-tube)にあらかじめ分注しておいたMRS液体培地とグリセロール(Glycerol)が4:1の割合で混合された冷凍保管溶液(Freezing solution)1mlに入れ、-70℃で冷凍保管した。冷凍された菌株を、本発明の他の実験のためのスターターとして使用した。
【0063】
菌株実施例2.ラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318菌株の生物学的又は化学的形態把握
選別された菌株の形態学的及び生化学的特徴を分析した。分析結果は、下記の表1の通りである。
【0064】
【0065】
上記の表1のように、本願発明菌株は、グラム陽性、桿菌であり、胞子形成能及びカタラーゼ(Catalase)陰性と確認されたことが分かる。
【0066】
菌株実施例3.プランタラム菌株の同定
前記菌株の簡易的な同定のために糖利用性を測定しようとした。ここで、API 50CHLキット(bioMerieux ,France)を 用いた。詳細には、MRS固体培地で培養されたコロニーをAPI 50CHL培地10mlに懸濁した後、API 50CHストリップのチューブに接種し、37℃培養器で48時間培養した。
【0067】
LRCC 5318の糖利用性を分析した結果、下記の表2に示すように、L-アラビノース(L-Arabinose)、D-リボース(D-Ribose)、D-ガラクトース(D-Galactose)、D-グルコース(D-Glucose)、D-フラクトース(D-Fructose)、D-マンノース(D-Mannose)、D-マンニトール(D-Mannitol)、D-ソルビトール(D-Sorbitol)、メチル-α D-マンノピラノシド(Methyl-α D-Mannopyranoside)、N-アセチルグルコサミン(N-Acethyl glucosamine)、アミグダリン(Amygdalin)、アルブチン(Arbutin)、エスクリン(Esculin)、サリシン(Salicin)、D-セロビオース(D-Cellobiose)、D-マルトース(D-Maltose)、D-ラクトース(D-Lactose)、D-メリビオース(D-Melibiose)、D-スクロース(D-Saccharose(sucrose))、D-トレハロース(D-Trehalose)、D-メレジトース(D-Melezitose)、D-ラフィノース(D-Raffinose)、ゲンチオビオース(Gentiobiose)、D-ツラノース(D-Turanose)、グルコン酸カリウム(Potassium gluconate)を代謝すること、すなわち、これらの炭素源を利用することが見られた。
【0068】
測定された結果は、bioMerieux社のDBを用いて簡易同定結果を確認した(https://apiweb.biomerieux.com)。表2及び
図1Aに見られるように、ラクチプランチバチルスプランタラムである確率が99.9%と確認された。
【0069】
【0070】
また、正確な同定のために、前記菌株の16s rDNAを分析して遺伝同定を行った。すなわち、ゲノムDNA発現キット(Genomic DNA preparation kit)(Promega co.,Ltd.,USA)を用いてゲノムDNAを抽出した後、ユニバーサルプライマー(Universal primer)である、
27F(5'-AGA GTT TGA TCC TGG CTC AG-3')と
1492R(5'-TAC GGY TAC CTT GTT ACG ACT T-3')とでPCR反応を行って16s rDNA遺伝子を増幅させた。
【0071】
PCR産物は、QIAクイックPCRキット(QIAGEN,USA)で精製し、マクロジェン(Macrogen co.Ltd.,Seoul,Korea)に依頼して塩基配列を分析し、分析された塩基配列はNCBIサイトのGenBankでBLAST分析を行い、データベースと比較した(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)。
【0072】
前記菌株の16s rRNA遺伝子塩基配列は、配列番号1の通りである。
塩基配列分析結果は、
図1Bの通りである。
塩基配列分析の結果、前記菌株はラクチプランチバチルスプランタラム菌株と最大で99%の相同性を有する。本願発明菌株の系統図は、
図1Cの通りである。
【0073】
そこで、本発明者は、前記菌株を新しいラクチプランチバチルスプランタラム菌株と同定し、ラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318と命名して、韓国微生物保存センターに2021年5月13日付で寄託した(寄託番号KCCM 12988P)。
【0074】
下記の実験例及び製造例では、パン製品に適用時に物理化学的消化率を増加させる菌株を選別するために、培地段階におけるタンパク質分解力、タンパク質分解酵素であるプロテアーゼの活性、グルテン利用能を優先的に測定した。
【0075】
実験例1.平板培地上でのタンパク質分解力測定
パンに適用した時に物理化学的消化率に影響を与える要素の一つであり、タンパク質分解力を平板培地上で測定した。タンパク質源はスキムミルクとし、指示薬としてBCP(Bromocresol purple)を添加し、2%スキムミルクBCP-PCA培地を製造した。この培地に63種の乳酸菌の培養液を100μlずつ塗抹して37℃で48時間培養し、コロニー周辺のクリアゾーン(Clear zone)を確認した。
【0076】
総63種の乳酸菌を確認した結果、18種がタンパク質分解力を示し、クリアゾーンの判定基準は、直径10mm以上の場合に+++、6~10mmの場合に++、5mm以下の場合に+とし、上位8個菌株に対してのみ、下記表3にその結果を示した。
【0077】
【0078】
実験例2.液体培地内でのプロテアーゼ濃度測定
平板培地上でタンパク質分解力を示した18種の菌株に対して、当該タンパク質分解力の原因を明確にするために、MRS液体培地内でのプロテアーゼ活性を測定した。プロテアーゼの測定は、プロテアーゼアッセイキット(Pierce(tm) Colorimetric Protease Assay Kit、製造社:Thermo Scientific(tm))を用いてなされたし、TNBSA(2,4,6-Trinitrobenzene sulfonic acid)がタンパク質の分解物であるアミノ酸、ペプチドと定量的に反応して黄色化合物を生成する現象を測定原理とする。
【0079】
より詳細には、テストウェル(Test well)は、カゼインを基質にしてそれぞれ標準溶液とサンプル(菌株培養液)を処理し、ブランクウェル(Blank well)は基質を添加せずにそれぞれ標準溶液とサンプル(菌株培養液)を処理する。一定時間反応後に、発色反応に対して450nm波長で吸光度を測定してΔAbs(Absorbance、吸光度)=AbsTest-AbsBlankを計算した後、プロテアーゼ(Trypsin)が既知の濃度の標準溶液に対して標準曲線を作成し、サンプル内のプロテアーゼ濃度を推定する。
【0080】
これに該当する標準曲線は
図2に示しており、これを用いて推定したプロテアーゼ濃度は、上位8ケ菌株に対してのみ下記の表4に示す。
【0081】
【0082】
実験例3.菌株のグルテン利用能測定
平板培地上でタンパク質分解力を示した18種の菌株に対して、当該菌株がグルテンを栄養分(窒素源)として利用できるかどうか確認するために、グルテンを含む培地内での生長性を測定した。グルテン培地の組成は下記の表5に、生長性測定結果のうち上位8種に対する結果は
図3に示した。
【0083】
【0084】
製造例1.乳酸菌発酵液製造
(1)乳酸菌発酵液の組成
【表6】
【0085】
(2)前記発酵液組成において、8種の菌株の学名と分離源は表3に表記した通りであり、MRS培地に8種の菌株をそれぞれ培養して遠心分離及びPBS洗浄後に培養液として使用した。このとき、菌株含有量は109CFU/mlとし、培養温度は36±1℃、培養時間は18時間として発酵させた。
【0086】
実験例4.乳酸菌発酵液のプロテアーゼ濃度測定
8種の前記乳酸菌発酵液(実施例1~8)に対して、プロテアーゼ濃度を、実験例2と同一の方法で測定した。結果は、下記の表7の通りである。液体培地でのプロテアーゼ濃度と乳酸菌発酵液中のプロテアーゼ濃度の両方を確認した理由は、小麦粉を含有する乳酸菌発酵液組成とMRS液体培地組成に相違があり、菌株別にプロテアーゼを生成する程度が異なることがあるためである。実際の製パン時には、乳酸菌発酵液中のプロテアーゼ濃度が最終製品に影響を与えることから、実験例4の結果を優先的に参考し、LRCC 5241、LRCC 5318、LBS 51-3の3種を選定した。
【0087】
【0088】
製造例2.乳酸菌発酵食パン製造
(1)実験例4で選ばれた3種の菌株の食パンにおける効果を確認するために、菌株不添加食パン(比較例3)、レビラクトバチルスブレビスLRCC 5241添加食パン(実施例12)、ラクチプランチバチルスプランタラムLRCC 5318添加食パン(実施例13)、ラクチカゼイバチルスパラカゼイLBS 51-3添加食パン(実施例14)の4種を製造して比較した。
【0089】
また、4種の食パンは基本的な中種法を用いて製造した。中種法は、原料の一部を混合して発酵した後、それを残りの原料と混ぜて(本種)発酵後に焼成の過程を経る製パン法を意味する。
【0090】
(2)乳酸菌発酵食パン中種の組成及び製造方法
乳酸菌発酵食パン中種の組成は、下記の表8の通りである。
【0091】
【0092】
上記の表8の組成通りに原料を計量した後、パンこね機を用いて低速(1段)で3分、高速(3段)で3分間ミックスし、28±1℃、75±5%の発酵機で4時間発酵させた。
【0093】
(3)乳酸菌発酵食パン本種の組成及び食パン製造方法
【表9】
【0094】
上記の組成通りにショートニング以外の原料を計量した後、パンこね機を用いて低速(1段)で3分、高速(3段)で3分間ミックスした。その後、ショートニングを投入した後、再び、低速(1段)で3分、高速(3段)で3分間ミックスした。その後、15分のフロアタイム後に分割及び丸めをし、中間発酵を15分間行った。中間発酵の終わった生地はガスを抜き、成形した後、食パン型に入れて38±1℃、85±5%の発酵機で55~60分発酵させた。最終発酵の終わった生地は、200℃に余熱したオーブンで30分間焼成する。
【0095】
上記のようにして製造された各試料の物理化学的消化率を、実験例5及び実験例6で測定し、グルテン含有量は実験例7で測定した。
【0096】
実験例5.4種の食パンの物理的消化率測定
4種の食パン(比較例3、実施例12~14)の物理的消化率(%)は、人体の口腔、胃、小腸の消化過程をまねて作ったin vitro胃腸モデルを用いて測定した。人工唾液は、Pickering Laboratories社の人工唾液(cat.no.1700-0304)を購買して使用し、人工胃液は、NaCl 2.0gとペプシン3.2gにHCl 7mlを添加して溶解させ、pH 1.2に調整した後、D.W.(Distilled water)で1Lまで合わせて製造し、人工腸液は、KH
2PO
4 6.8gにD.W.250mlを入れて溶かし、0.2N NaOH 77ml、D.W.500ml、パンクレアチン10gを添加した後、pH6.8に調整し、D.W.で1Lまで合わせて製造した。製造した人工消化液は、実験前には37℃の水槽に保管する。その後、4種の食パンを粉砕し、各10gを取って、人工唾液で10分、人工胃液で2時間、人工腸液で4時間放置した後、4種の消化完了液を濾紙(Whatman,No.541)で濾過した固形分を80℃オープンで乾燥させた。その乾燥重量を測定し、下記の式1によって物理的消化率を計算した。
【数1】
4種の食パンの物理的消化率を計算した結果は、
図5に示した。
【0097】
実験例6.4種の食パンの化学的消化率測定
4種の食パン(比較例3、実施例12~14)の化学的消化率(%)は、実験例5で濾紙で濾過した後の残存液中の遊離アミノ酸含有量を用いて測定した。詳細には、4種の初期食パン試料10g中のタンパク質含有量をそれぞれ測定し、消化後残存液中の遊離アミノ酸含有量を測定して、下記式2によって化学的消化率を計算した。
【数2】
4種の食パンの化学的消化率を計算した結果は、
図6に示した。
【0098】
実験例7.4種の食パンのグルテン含有量測定
4種の食パン(比較例3、実施例12~14)の物理化学的消化率が実際に食パン中のグルテン含有量の減少と関連があるかどうか確認するために、グルテンアッセイキット(AgraQuant(登録商標) Gluten G12(登録商標)、製造社:Romer Lab(登録商標))を用いてグルテン含有量を測定した。
【0099】
測定原理は、ELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay、酵母免疫定量法)、すなわち、抗原-抗体反応を用いてサンプル内の特定物質を定量するものであり、特異性と感受性に優れている長所がある。グルテンが既知の濃度の標準の吸光度で4-PL(4-Parameter Logistic)標準曲線を描いた後、導出された計算式を用いて、4種の食パン中のグルテン含有量(ppm)を定量し、標準曲線とグルテン含有量の測定結果は
図7及び
図8に、計算式は下記の式3に示した。
【数3】
【受託番号】
【0100】
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM 12988P
受託日時:20210513
【配列表】