IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコの特許一覧

特許7465955拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法
<>
  • 特許-拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法 図1
  • 特許-拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法 図2
  • 特許-拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法 図3
  • 特許-拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法 図4
  • 特許-拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法 図5
  • 特許-拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法 図6
  • 特許-拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法 図7
  • 特許-拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法 図8
  • 特許-拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240404BHJP
   C22C 38/34 20060101ALI20240404BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/34
C21D9/46 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022517506
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(86)【国際出願番号】 KR2020008946
(87)【国際公開番号】W WO2021054587
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0114190
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ハンジン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,イルチャン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヘフン
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104870674(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1632512(KR,B1)
【文献】特開2014-162964(JP,A)
【文献】国際公開第2014/142302(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181401(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1676193(KR,B1)
【文献】国際公開第2014/119796(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.01%以下(0は除く)、N:0.01%以下(0は除く)、Si:1.0~2.0%、Mn:0.5%以下(0は除く)、Cr:9.0~15.0%、Ti:0.1~0.5%、Sn:0.05~0.2%、Cu:1.0%以下(0は除く)、P:0.035%以下(0は除く)、S:0.01%以下(0は除く)、残りのFe及び不可避な不純物からなり、
表面から100μm以下の深さに該当する領域の平均結晶粒のサイズ(Gs)及び中心部領域の平均結晶粒のサイズ(Gc)の比(Gs/Gc)が1.5以下であり、
表面から100μm以下の深さに該当する領域の平均結晶粒のサイズは50μm以下であり、
下記式(1)を満たし、
下記式(2)を満たすことを特徴とする拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板。
式(1):Cr+3Si+10Sn+2Cu≧17
式(2):Cr+2Si+15Sn+5Cu≧17
(ここで、Cr、Si、Sn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項2】
圧延方向の垂直方向における延伸率が30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項3】
拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
重量%で、C:0.01%以下(0は除く)、N:0.01%以下(0は除く)、Si:1.0~2.0%、Mn:0.5%以下(0は除く)、Cr:9.0~15.0%、Ti:0.1~0.5%、Sn:0.05~0.2%、Cu:1.0%以下(0は除く)、P:0.035%以下(0は除く)、S:0.01%以下(0は除く)、残りのFe及び不可避な不純物からなり、
下記式(1)を満たし、
下記式(2)を満たすスラブを熱間圧延する段階と、
冷間圧延及び冷延焼鈍する段階と、
中性塩電解及び硫酸電解を通じて冷延酸洗いをする段階と、を含み、
前記低Crフェライト系ステンレス鋼板は、
表面から100μm以下の深さに相当する領域の平均結晶粒のサイズ(Gs)及び中心部領域の平均結晶粒のサイズ(Gc)の比(Gs/Gc)が1.5以下であり、
前記表面から100μm以下の深さに相当する領域の前記平均結晶粒のサイズは50μm以下であることを特徴とする拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
式(1):Cr+3Si+10Sn+2Cu≧17
式(2):Cr+2Si+15Sn+5Cu≧17
(ここで、Cr、Si、Sn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項4】
前記スラブを1,020~1,180℃の温度で熱間圧延することを特徴とする請求項に記載の拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項5】
900~1,100℃の温度範囲で冷延焼鈍することを特徴とする請求項に記載の拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、特に拡管加工性が向上した自動車排気系用の低Crフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にステンレス鋼は、化学成分や金属組織によって分類される。金属組織による場合、ステンレス鋼は、オーステナイト(Austenite)系、フェライト(Ferrite)系、マルテンサイト(Martensite)系、及び二重相(Dual Phase)系に分類できる。
フェライト系ステンレス鋼は、高価な合金元素が少量しか添加されないにも拘わらず耐食性に優れており、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて価格競争力が高い。特に、STS409L、439、436Lなどのフェライト系ステンレス鋼は、400℃以内の温度範囲で適用されるマフラーケース、パイプ、プレートなど自動車排気系用部材の素材として使用されている。
【0003】
例えば、STS409L鋼は、Crを11%程度使用し、炭素(C)及び窒素(N)をチタン(Ti)で安定化して溶接部の脆弱化を防止し、加工性を改善した鋼種で、700℃以下の温度で主に使用され、自動車の排気系から発生する凝縮水の成分に対しても不完全ながら腐食抵抗性を有しているため、最も広く使用されてきた。
STS439鋼は、炭素(C)及び窒素(N)をチタン(Ti)で安定化したもので、クロム(Cr)を17%程度含有している。また、STS436L鋼は、STS439鋼にモリブデン(Mo)を約1%程度添加した鋼で、凝縮水に対する優れた耐腐食特性及び耐発錆腐食特性を有している鋼である。
【0004】
一方、近年、中国、中南米、インドなど多様な国で自動車普及率が急激に増加しているが、これらの国々は、ガソリン成分に硫黄(S)が他の先進国に比べて多量に含まれている。例えば、韓国、日本は、ガソリンの成分中の硫黄(S)成分を10ppm以下に規制しているが、中国のガソリンの規制値は、500ppm以下であるにもかかわらず、実際にはそれ以上の硫黄(S)が含まれているものと推定される。
ガソリン中の硫黄(S)成分は、自動車排気ガスの凝縮水成分中に含まれるSO 2-イオンに濃縮され、pH2以下の硫酸(HSO)に変化し、高い腐食性を示す。
このように、ガソリン成分中の硫黄(S)成分が多量含有されている地域では、自動車マフラー素材として使用されるSTS409L鋼が、次第にSTS439鋼、436L鋼などクロム(Cr)成分を17%以上含有した高クロム系のステンレス素材に代替せざるを得ない状況にある。このため、資源価格の上昇に伴い、モリブデン(Mo)など高価な元素を添加しないか、または微量の添加でもSTS439鋼または436L鋼素材と同等以上の凝縮水耐腐食特性を有するステンレス素材開発が求められている。
【0005】
一方、実際の自動車排気系環境では、凝縮水によって発生する内面凝縮水の腐食だけでなく、除雪塩や海水などにより発生する外面腐食が同時に発生し、このような外面腐食環境を考慮したフェライト系ステンレス鋼の開発普及は不備であるのが実情で、既存のSTS439鋼での代替は不可能な状況である。
また、近年、自動車排気系部品のトレンドは、自動車の下部の排気系部品の個数が増加する傾向にあり、これにより、自動車下部の空間効率性を高めるために各部品の形状が非常に複雑になっており、既存に比べて拡管加工性の改善を求めている実情がある。
したがって、内面凝縮水腐食だけでなく、外面腐食を考慮して既存の439鋼または436L鋼素材と同等以上の凝縮水耐腐食特性を有する、拡管加工性が向上したフェライト系ステンレス鋼の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、Sn、Si、Cuの含量を最適化し、Cr含量の増加がなくても高Crフェライト系ステンレス鋼に匹敵する外面腐食及び内面凝縮水腐食に対する抵抗性を確保するとともに、拡管加工性が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.01%以下(0は除く)、N:0.01%以下(0は除く)、Si:1.0~2.0、Mn:0.5%以下(0は除く)、Cr:9.0~15.0%、Ti:0.1~0.5%、Sn:0.05~0.2%、Cu:1.0%以下(0は除く)、P:0.035%以下(0は除く)、S:0.01%以下(0は除く)、残りのFe及び不可避な不純物からなり、表面から100μm以下の深さに該当する領域の平均結晶粒のサイズ(Gs)及び中心部領域の平均結晶粒のサイズ(Gc)の比(Gs/Gc)が1.5以下であり、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
式(1):Cr+3Si+10Sn+2Cu≧17
ここで、Cr、Si、Sn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0008】
また、本発明の拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼は、下記式(2)を満たすことができる。
式(2):Cr+2Si+15Sn+5Cu≧17
ここで、Cr、Si、Sn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
更に、本発明の低Crフェライト系ステンレス鋼は、下記式(3)で定義される拡管率が25%以上であることがよい。
式(3):(Df-D0)/D0*100
ここで、Dfは、成形後の加工部の孔の長さを、D0は、初期加工孔の長さを意味する。
【0009】
本発明の低Crフェライト系ステンレス鋼は、圧延方向の垂直方向における延伸率が30%以上であることがよい。
また、本発明の低Crフェライト系ステンレス鋼は、表面から100μm以下の深さに該当する領域の平均結晶粒のサイズは、50μm以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.01%以下(0は除く)、N:0.01%以下(0は除く)、Si:1.0~2.0%、Mn:0.5%以下(0は除く)、Cr:9.0~15.0%、Ti:0.1~0.5%、Sn:0.05~0.2%、Cu:1.0%以下(0は除く)、P:0.035%以下(0は除く)、S:0.01%以下(0は除く)、残りのFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満たすスラブを熱間圧延する段階、冷間圧延及び冷延焼鈍する段階、及び中性塩電解及び硫酸電解を通じて冷延酸洗いをする段階を含むことを特徴とする。
式(1):Cr+3Si+10Sn+2Cu≧17
ここで、Cr、Si、Sn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0011】
本発明の低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法で、スラブは、下記式(2)を満たすことができる。
式(2):Cr+2Si+15Sn+5Cu≧17
ここで、Cr、Si、Sn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
また、本発明の低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法で、前記スラブを1,020~1,180℃の温度で熱間圧延することがよい。
更に、本発明の低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法で、900~1,100℃の温度範囲で冷延焼鈍することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施例によれば、本発明は、拡管加工性を向上させるとともに、STS439水準の外面腐食及び内面凝縮水腐食に対する抵抗性を確保できる低Crフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】自動車排気系環境において、鋼種別の除雪塩などにより発生する外面腐食試験の結果を示すグラフである。
図2】自動車排気系環境において、Cr+3Si+10Sn+2Cuで定義される外面腐食指数による耐食性評価の結果を示すグラフである。
図3】自動車排気系凝縮水環境において、Cr+2Si+15Sn+5Cuで定義される内面腐食指数による耐食性評価の結果を示すグラフである。
図4】実施例2の冷延焼鈍後、Scale構造を示す図である。
図5】比較例12の冷延焼鈍後、Scale構造を示す図である。
図6】実施例2を中性塩電解、硫酸電解を通じて冷延酸洗いをした後の冷延鋼板の表面状態及び耐食性評価後の表面状態を示す写真であり、(a)は、混酸浸漬工程を省略した中性塩電解-硫酸電解条件の冷延酸洗を導入した場合、(b)は、発錆の発生が少なく、発錆の発生時点も遅くなることを示す図である。
図7】実施例2を中性塩電解、硫酸電解、混酸(硝酸+フッ酸)浸漬を通じて冷延酸洗いをした後の表面状態及び耐食性評価後の表面状態を示す写真であって、(a)は、フッ酸を使用した場合、(b)は、表面に形成されているピット(pit)の影響により発錆が多数発生した状態の図である。
図8】実施例2の冷延焼鈍温度変化による微細組織を観察した写真である。
図9】比較例12の冷延焼鈍温度変化による微細組織を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施例による拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.01%以下(0は除く)、N:0.01%以下(0は除く)、Si:1.0~2.0%、Mn:0.5%以下(0は除く)、Cr:9.0~15.0%、Ti:0.1~0.5%、Sn:0.05~0.2%、Cu:1.0%以下(0は除く)、P:0.035%以下(0は除く)、S:0.01%以下(0は除く)、残りのFe及び不可避な不純物からなり、表面から100μm以下の深さに該当する領域の平均結晶粒のサイズ(Gs)及び中心部領域の平均結晶粒のサイズ(Gc)の比(Gs/Gc)が1.5以下であり、下記式(1)を満たす。
式(1):Cr+3Si+10Sn+2Cu≧17
ここで、Cr、Si、Sn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0015】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照し、詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例のみに限定されず、他の形態で具体化されてもよい。図面では、本発明を明確にするために説明と関係のない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現できる。
明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」としたとき、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
単数の表現は、文脈上、明らかに定義されない限り、複数の表現を含む。以下では、本発明による実施例を添付の図面を基にして詳細に説明する。
【0016】
本発明者らは、原価の安い低Crフェライト系ステンレス鋼の除雪塩または海水などにより発生する外面腐食抵抗性及び拡管加工性を向上させるために種々の検討を行った結果、以下の知見を得た。
耐食性の向上のためには一般にCr含量を高めるが、Crも原料費が高価で製造コストを上昇させる原因となるので、好ましい開発方向ではない。
【0017】
本発明では、フェライト系ステンレス鋼の外面腐食及び内面凝縮水腐食抵抗性を向上させるための合金元素としてSi、Sn、Cu候補を選定した。一方、Snは、熱間加工性を低下させる元素として知られている。しかし、本発明者らは、Sn含量を0.2%以下に制御する場合、熱間加工性の低下を効果的に制御できるということを見出した。
また、0.5%以下のCuと、1~2%のSiをSnと複合添加することにより、熱間加工性を確保するとともに、自動車排気系の外面腐食抵抗性が急激に向上することを見出した。
【0018】
一方、Cuは、外面腐食及び内面凝縮水腐食抵抗性を向上させる元素であるが、その含量が増加するほどフェライト系ステンレス鋼の表層の結晶粒サイズが急激に増加し、パイプ造管後の拡管加工時に加工性を確保できないという問題がある。
そこで、本発明者は、Cu含量が0.5%以下の状態で、Si含量を1.0%以上で確保すれば表層結晶粒の成長が抑制されることを見出し、外面腐食抵抗性及び拡管加工性を考慮して合金成分の最適化を行った。
【0019】
図1は、自動車排気系環境において、鋼種別の除雪塩などにより発生する外面腐食試験の結果を示すグラフである。
図1に示したとおり、他の合金元素を添加しない状態でCrを11%含有する場合、平均腐食深さが約0.6mmであり、Crを11%含有した状態でSn、Cu及びSiを単独で添加した場合には、腐食深さが0.4~0.5mmであるので、11Cr STS鋼より若干減少したことが確認できる。
一方、Crを11%含有した状態で合金元素Sn、Cu、Siを同時に複合添加した場合には、腐食深さが0.1mm水準で急激に減少し、18Cr STS鋼水準の耐食性を確保できることを確認した。
【0020】
本発明の一側面による拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.01%以下(0は除く)、N:0.01%以下(0は除く)、Si:1.0~2.0%、Mn:0.5%以下(0は除く)、Cr:9.0~15.0%、Ti:0.1~0.5%、Sn:0.05~0.2%、Cu:1.0%以下(0は除く)、P:0.035%以下(0は除く)、S:0.01%以下(0は除く)、残りのFe及び不可避な不純物からなる。
以下、本発明の実施例における含金成分含量の数値限定理由について説明する。以下では、特に言及のない限り、単位は、重量%である。
【0021】
CとNの含量は、0.01%以下(0は除く)である。
炭素(C)及び窒素(N)は、Ti(C、N)炭窒化物を形成する侵入型元素である。
C、N含量が高くなると、Ti(C、N)炭窒化物を形成できない固溶C、Nは、素材の延伸率及び低温衝撃特性を低下させ、溶接後600℃以下で長時間使用された場合、Crと結合し、Cr23などのCr炭化物を生成して粒界腐食が発生するため、C及びNの上限を0.01%に限定する。
また、C+N含量が高くなると、Ti含量の増加により製鋼性の介在物が増加することになり、これによりスキャブ(scab)などの表面欠陥が発生する。更に、連鋳時にノズル詰まり現象が発生し、延伸率及び衝撃特性が低下するという問題があり、C+Nの総含量は、0.02%以内に限定することがよい。
【0022】
Siの含量は、1.0~2.0%である。
シリコーン(Si)は、製鋼工程中において脱酸剤の役割を果たし、フェライト相を安定化する元素である。Siの含量が増加すると結晶粒界の周辺に濃化現象が発生し、濃化したSiによって結晶粒の成長が抑制される効果がある。本発明では、凝縮水雰囲気で耐食性の増大、表層結晶粒の成長を抑制するため、Siを1.0%以上添加する。ただし、その含量が過剰な場合、延性及び成形性が低下するという問題があり、本発明では、その上限を2.0%に限定する。
【0023】
Mnの含量は、0.5%以下(0は除く)である。
マンガン(Mn)は、オーステナイトを安定化する元素であり、Mn含量が増加するとMnSなどの析出物を形成して耐孔食性を低下させることになるが、過度に低減する場合には、精製コストが増加するので、その上限を0.5%に限定する。
【0024】
Crの含量は、9.0~15.0%である。
クロム(Cr)は、酸化を抑制する不動態皮膜を形成し、フェライトを安定化する元素である。本発明では、凝縮水雰囲気で耐食性を確保するために9.0%以上添加する。ただし、その含量が過剰な場合、製造コストが上昇し、加工性及び衝撃特性に劣る問題があり、その上限を15.0%に限定する。
【0025】
Tiの含量は、0.1~0.5%である。
チタン(Ti)は、Ti(C、N)炭窒化物を形成して粒界腐食を防止する元素である。Tiは、炭素(C)と窒素(N)などの侵入型元素と優先的に結合して析出物Ti(C、N)炭窒化物を形成することにより、鋼中固溶C及び固溶Nの量を低減し、Cr枯渇領域の形成を抑制して鋼の耐食性確保に効果的な元素であり、本発明では、0.1%以上添加することがよい。ただし、その含量が過剰な場合、Ti系介在物を形成してスキャブ(scab)などの表面欠陥が多量に発生し、連鋳時にノズル詰まり現象が発生するという問題があり、その上限を0.5%に限定する。
【0026】
Snの含量は、0.05~0.2%である。
錫(Sn)は、本発明で目標とする凝縮水雰囲気における耐食性を確保するための必須元素であり、18Cr STS439鋼と同等水準以上の耐食性を確保するため、0.05%以上添加することがよい。ただし、その含量が過剰な場合、熱間加工性が低下し、製造工程の効率が低下するという問題があり、その上限を0.2%に限定する。
【0027】
Cuの含量は1.0%以下(0は除く)である。
銅(Cu)は、本発明で目標とする凝縮水雰囲気における耐食性を確保するための必須元素であり、18Cr STS439鋼と同等水準以上の耐食性を確保するために添加する。ただし、その含量が過剰な場合、素材コストの上昇だけでなく熱間加工性を低下させるという問題点があり、その上限を1.0%に制限する。
【0028】
Pの含量は、0.035%以下(0は除く)である。
リン(P)は、鋼のうち不可避に含有される不純物であり、粒界偏析及びMnS析出物を形成して熱間加工性を低下させる主要原因となる元素であるため、その含量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、前記P含量を0.035%以下に管理する。
【0029】
Sの含量は、0.01%以下(0は除く)である。
硫黄(S)は、鋼のうち不可避に含有される不純物であり、粒界偏析及びMnS析出物を形成して熱間加工性を低下させる主要原因となる元素であるため、その含量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、前記S含量を0.01%以下に管理する。
【0030】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入されることがあるので、これを完全に排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書で言及していない。
【0031】
一方、本発明の一実施例による拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼は、下記式(1)を満たすことができる。
式(1):Cr+3Si+10Sn+2Cu)≧17
ここで、Cr、Si、Sn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
本発明では、フェライトステンレス鋼の外面腐食環境を模した溶液における耐食性を評価した結果、式(1)で表される外面腐食指数を導き出した。
【0032】
図2は、自動車排気系環境においてCr+3Si+10Sn+2Cuで定義される外面腐食指数による耐食性評価の結果を示すグラフである。図2において、既存のSTS439鋼の腐食深さは、1mmと測定され、STS439鋼と同等以上の外面腐食抵抗性を確保するため、外面腐食指数を17以上に限定した。
図2に示したとおり、前記外面腐食指数が17未満の場合には、腐食深さが1mmを超え、STS439鋼水準の除雪塩または海水などにより発生する外面腐食に対する抵抗性を確保できない。
【0033】
一方、本発明の一実施例による拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼は、下記式(2)を満たす。
式(2):Cr+2Si+15Sn+5Cu≧17
ここで、Cr、Si、Sn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
本発明では、フェライトステンレス鋼の外面腐食環境だけでなく、凝縮水を模した溶液における耐食性を評価した結果、式(2)で表される内面腐食指数を導き出した。
【0034】
図3は、自動車排気系凝縮水環境でCr+2Si+15Sn+5Cuで定義される内面腐食指数による耐食性評価の結果を示すグラフである。図3において、既存のSTS439鋼の腐食深さは、2.5mmと測定され、STS439鋼と同等以上の外面腐食抵抗性を確保するため、内面腐食指数を17以上に限定した。
図3に示したとおり、前記内面腐食指数が17未満の場合には、腐食深さが2.5mmを超え、STS439鋼水準の凝縮水環境における耐食性を確保できない。
【0035】
上記のとおり、CuとSiをSnと複合添加する場合には、Cu含量が増加するほどフェライト系ステンレス鋼の表層の結晶粒サイズが急激に増加し、パイプ造管後の拡管加工時に加工性を確保できない。本発明では、Cu含量が0.5%以下の状態で、Si含量を1.0~2.0%に制御することで表層結晶粒の成長を抑制することができた。
【0036】
本発明の一実施例による拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼は、表面から100μm以下の深さに該当する領域の平均結晶粒のサイズ(Gs)及び中心部領域の平均結晶粒のサイズ(Gc)の比(Gs/Gc)が1.5以下である。
すなわち、フェライト系ステンレス鋼で内部結晶粒に比べて、表面から100μm以下の領域に分布した表面結晶粒の成長を制御してパイプ造管時に拡管加工性を確保することができる。例えば、前記表面領域の平均結晶粒のサイズ(Gs)は、造管延伸率を考慮して50μm以下であることがよい。
したがって、開示された実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、下記式(3)で定義される拡管率が25%以上である。
式(3):(D-D)/D*100
(ここで、Dは、成形後の加工部の穴の長さを、Dは、初期加工穴の長さを意味する。)
【0037】
拡管率は、鋼板に多様な加工方法を通じて加工した穴がクラック(crack)やネッキング(necking)などの不良なしにどれだけ拡張可能なのかに対する材料特性で、(成形後加工部の穴の長さ)-(初期加工穴の長さ)*100/(初期加工穴の長さ)で定義される。
次に、本発明の他の一側面による拡管加工性が向上した低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
例えば、上述した合金成分組成を含むスラブを熱間圧延し、熱間圧延された熱延鋼板を焼鈍熱処理し、冷間圧延及び冷延焼鈍して冷延焼鈍鋼板として製造してもよい。
【0038】
熱間圧延条件の場合、スラブ加熱温度が高いほど熱延操業中に再結晶形成に有利であるが、加熱温度が高すぎると、表面欠陥が多量発生するため、熱間圧延温度の上限を1,180℃に限定することがよい。
熱間圧延時の仕上げ圧延温度は低いほど熱間圧延中に変形蓄積エネルギーが高くなり焼鈍時の再結晶に役立つため、延伸率の向上に有利である。一方、仕上げ圧延温度が低すぎると圧延ロールに素材がくっつくスティッキング(sticking)欠陥が発生しやすいため、熱間圧延温度の下限を1,020℃に限定することがよい。
【0039】
一方、素材の冷間圧下率が低すぎると、表面欠陥除去及び表面特性確保が困難であり、冷間圧下率が高すぎると、r-bar値が上昇して成形性が改善されるため、冷間圧下率を70~80%に限定することがよい。
次に、通常の900~1,100℃の温度範囲で冷延焼鈍する段階を経た後、冷延焼鈍鋼板を中性塩電解及び硫酸電解を通じて冷延酸洗することがよい。
【0040】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、Sn、Cu、Siを同時に複合添加し、冷延焼鈍鋼板の表面にスケールが環状に形成されず、薄い層で均一に形成される。
すなわち、Snを一定量含むことにより冷延焼鈍後のSiOスケール層の形成が抑制されることがある。したがって、従来では、SiOスケール層が環状に厚く形成されることにより、このようなスケールを除去するために冷延酸洗工程においてフッ酸と硝酸が添加された混酸浸漬工程を行っていたが、このようなフッ酸及び硝酸を添加せず、中性塩電解及び硫酸電解のみを行っても十分な冷延酸洗の効果が得られ、工程コストを節減できる。
【0041】
したがって、冷延焼鈍鋼板は、表面から100μm以下の深さに該当する領域の平均結晶粒のサイズ(Gs)及び中心部領域の平均結晶粒のサイズ(Gc)の比(Gs/Gc)が1.5以下であることがよい。
すなわち、表面結晶粒の成長を制御することによりパイプ造管時の拡管加工性を確保することができ、これにより開示された実施例によるフェライト系ステンレス鋼で製造されたパイプの造管時、拡管率を25%以上に確保できる。
【0042】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。
下記表1に示す多様な合金成分範囲に対して、インゴット(Ingot)溶解により120mm厚のインゴットを鋳造した後、1,150℃の温度で熱間圧延を行い、3.0mm厚の熱延鋼板を製造した。その後、冷間圧延により1.2mm厚の冷延鋼板を製造した後、1,100℃の温度で冷延焼鈍を1分間行った。
以後、冷延焼鈍鋼板を溶融塩温度400℃で5秒沈積を行った後、60℃の硝酸溶液で約10秒程度沈積し、冷延酸洗して最終冷延酸洗鋼板を製造した。このとき、硝酸溶液の濃度は、110g/Lに維持した。
【0043】
各実験鋼種に対する合金組成(重量%)と式(1)の値及び式(2)の値を下記表1に示す。

【表1】
【0044】
除雪塩や海水などによって発生する外面腐食及び凝縮水によって発生する内面腐食環境を模し、それぞれの腐食深さを測定した。
外面腐食試験は、各実施例及び比較例の試片サイズを150*70mmサイズに切断して表面に存在する油分などを苛性ソーダで除去した後、400℃に維持された熱処理炉で約24時間熱処理を行った。
【0045】
次いで、複合サイクル腐食試験を行った。具体的には、各試片に30℃で5%NaCl溶液を2時間噴霧した後、相対湿度25%、温度60℃の雰囲気で約4時間乾燥し、相対湿度90%、温度50℃の雰囲気で2時間維持させることを1サイクルとして、100サイクルを繰り返して腐食試験を行った。以後、各試片を60%硝酸溶液に浸漬して酸化スケールを除去し、腐食深さを測定した。腐食深さは、それぞれの試片から肉眼で最も深い10部分を選定して測定した後、その平均値で計算した。
内面腐食試験は、各実施例及び比較例の試片サイズを40*70mmサイズに切断し、400℃に維持された電気炉で約24時間維持する前処理過程を行った。
【0046】
次いで、Cl濃度が50ppm、SO 2-濃度が100ppmであり、pHが8.0に維持された凝縮水模写環境のHCl、HSO溶液を製造した。このとき、pHは、NH溶液を用いて8.0に調節した。以後、各試片に6時間ごとに試験溶液を10mL注入し、100サイクル繰り返す腐食試験を行った。
一方、表面から100μm以下の深さに該当する領域及び厚さの半分に該当する中心部領域の結晶粒サイズをエッチングして光学顕微鏡を用いて測定し、表面領域の平均結晶粒のサイズ及び中心部領域の平均結晶粒のサイズの比(Gs/Gc)及び表面領域の平均結晶粒のサイズを下記表2に示した。
【0047】

【表2】
【0048】
前記表1及び表2において、比較例1及び比較例2は、それぞれ汎用的に自動車排気系素材として使用されるCr11%の11Cr STS409鋼、Cr18%の18Cr STS439鋼に該当する。
【0049】
図2は、自動車排気系環境においてCr+3Si+10Sn+2Cuで定義される外面腐食指数による耐食性評価の結果を示すグラフである。
図2に示したとおり、外面腐食指数が増加することにより、外面腐食深さが線形的に減少することが確認でき、式(1)で表される外面腐食抵抗性指数が17以上である実施例1~7の場合、腐食深さが1.0mm以下でSTS439鋼と同等以上の外面腐食抵抗性を確保できた。
【0050】
図3は、自動車排気系凝縮水環境においてCr+2Si+15Sn+5Cuで定義される内面腐食指数による耐食性評価の結果を示すグラフである。
図3に示したとおり、内面腐食指数が増加することにより内面腐食深さが線形的に減少することが確認でき、式(2)で表される内面腐食抵抗指数が17以上である実施例1~7の場合、腐食深さが2.5mm以下でSTS439鋼と同等以上の内面腐食抵抗性を確保できた。
【0051】
図4は、実施例2の冷延焼鈍後、スケール構造を示す図である。図5は、比較例12の冷延焼鈍後、スケール構造を示す図である。
図4及び図5に示したとおり、Snを含まない比較例12の場合、冷延焼鈍後、SiO焼鈍スケールが環状に表面に全体的に形成されている。これとは異なり、Snの含量を0.05%以上で、例えば、0.15%で含んでいる実施例2の場合、SiO焼鈍スケールが表に形状が環状に形成されておらず、非常に薄い層で均一に形成されている。したがって、冷延焼鈍酸洗時、フッ酸を添加しなくても十分な冷延酸洗の効果が得られる。
【0052】
図6は、実施例2を中性塩電解、硫酸電解を通じて冷延酸洗いをした後の冷延鋼板の表面状態及び耐食性評価後の表面状態を示す写真であり、(a)は、混酸浸漬工程を省略した中性塩電解-硫酸電解条件の冷延酸洗を導入した場合、(b)は、発錆の発生が少なく、発錆の発生時点も遅くなることを示す図である。図7は、実施例2を中性塩電解、硫酸電解、混酸(硝酸+フッ酸)浸漬を通じて冷延酸洗いをした後の表面状態及び耐食性評価後の表面状態を示す写真であり、(a)は、フッ酸を使用した場合、(b)は、表面に形成されているピット(pit)の影響により発錆が多数発生した状態の図である。
耐食性評価は、複合サイクル腐食試験機を用いて耐食性を評価した。複合サイクル腐食試験条件は、塩水噴霧(5%NaCl溶液を30℃で2時間噴霧)、乾燥(相対湿度25%、温度60℃で4時間乾燥)、湿潤(相対湿度90%、温度50℃で2時間湿潤状態に維持)状態を繰り返すことを1サイクルとし、本条件では、5サイクル繰り返した後の試片表面の写真を観察することで耐食性を評価した。
【0053】
図7の(a)に示したとおり、硝/フッ酸混酸浸漬条件の冷延酸洗を導入した場合、フッ酸を使用することにより、表面に母材が溶解しているピット(pit)が多数発生することが確認できる。また、図7の(b)に示したとおり、表面に形成されているピット(pit)の影響により発錆が多数発生することが確認できる。
一方、図6の(a)に示したとおり、混酸浸漬工程を省略した中性塩電解-硫酸電解条件の冷延酸洗を導入した場合、ピット(pit)が観察されず、均一なステンレス鋼表面が得られた。また、図6の(b)に示したとおり、発錆の発生が少なく、発錆の発生時点も遅くなることが確認できる。
すなわち、本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板は、中性塩電解、硫酸電解を通じて冷延焼鈍スケールを完全に除去することが可能であり、発錆の発生が少ないことに加えて、発錆発生時点も比較例に比べて遅く、酸洗時に混酸工程を行わなくても十分な冷延酸洗効果が得られるだけでなく、表面特性を確保できるため、工程コストを節減することができる。
【0054】
一方、実施例2及び比較例12の冷延焼鈍温度が900~1,030℃に変化することにより、圧延方向TD面における厚み方向に表面領域の平均結晶粒のサイズ及び中心部領域の平均結晶粒のサイズの比(Gs/Gc)、延伸率、25%以上の拡管加工時のクラック発生の有無を下記表3に示す。
延伸率は、圧延方向に垂直な方向の延伸率値をJIS 13Bサイズに加工してJIS 2241基準により測定した。パイプ造管時に25%の拡管率を付与し、クラック発生の有無をチェックした。
【0055】

【表3】
【0056】
図8は、実施例2の冷延焼鈍温度変化による微細組織を観察した写真であり、図9は、比較例12の冷延焼鈍温度変化による微細組織を観察した写真である。
図8及び図9に示したとおり、比較例12の場合、930℃以上から表層の結晶粒サイズが急激に増加することが確認できる。一方、実施例2の場合、1,030℃まで表層の結晶粒サイズの急激な変化なしに、表層部と中心部で均一な結晶粒サイズ分布を示している。
【0057】
表3に示したとおり、実施例2の場合、延伸率値が32~33%で、比較例12の場合より相対的に1~2%低く測定された。これは実施例2の場合、Si含量が1%以上と高く、加工硬化現象が発生することによるものと判断される。
通常、延伸率に優れていれば、それによって拡管率が高くなる。
しかし、冷延焼鈍鋼板をパイプに造管し、25%以上の拡管加工を行う際、比較例12の場合には表層と中心部の結晶粒サイズが不均一に分布し、拡管加工時にクラックが発生することが確認できる。
【0058】
これとは異なり、実施例2の場合には、Siを1.0%以上添加し、表面領域の平均結晶粒のサイズ及び中心部領域の平均結晶粒のサイズの比を1.5以下に制御することにより、クラックの発生を抑制した。
このように、開示された実施例によれば、合金成分、成分関係式を制御することにより凝縮水腐食だけでなく、外面腐食抵抗性を確保するとともに、拡管加工性を向上させたフェライト系ステンレス鋼を製造することができる。
【0059】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、以下に記載する特許請求の範囲の概念と範囲から逸脱しない範囲内で様々な変更及び変形が可能であろうことが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によるフェライト系ステンレス鋼は、拡管加工性を向上させるとともに、STS439水準の外面腐食及び内面凝縮水腐食に対する抵抗性を確保できるので、自動車排気系用素材に適用が可能である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9