(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ニコチアナ属F1ハイブリッドおよびその利用
(51)【国際特許分類】
A01H 6/82 20180101AFI20240404BHJP
A01H 1/02 20060101ALI20240404BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240404BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20240404BHJP
A61K 36/81 20060101ALI20240404BHJP
A24B 15/10 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
A01H6/82
A01H1/02 Z
A61K8/9789
A61Q13/00 101
A61K36/81
A24B15/10
(21)【出願番号】P 2022536459
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2021026787
(87)【国際公開番号】W WO2022014699
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2020122683
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】山内 俊
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】GANGADEVI, T., et al.,Morphological and Cytological Studies of Interspecific Hybrids in Nicotiana involving N. umbratica Burbidge,Cytologia,1987年,Vol. 52,pp. 475-486
【文献】OGURA, H.,Cytogenetic Studies on a Recently Identified Nicotiana Species, N. kawakamii Ohashi,Cytologia,1980年,Vol. 45,pp. 33-42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 6/82
A01H 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチアナ・アンブラチカ(Nicotiana umbratica)とニコチアナ・トメントーサ(Nicotiana tomentosa)とのF1ハイブリッド、またはその部分
であって、
以下の特性:
1株あたりの花数が、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイ(Nicotiana kawakamii)とのF1ハイブリッドよりも少ない;
食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドよりも向上している;
貯蔵たばこ害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドよりも向上している;
1株あたりの花数が、ニコチアナ・アンブラチカよりも少ない;
分枝数が、ニコチアナ・アンブラチカよりも減少している;
地上部の収量が、ニコチアナ・アンブラチカよりも増加している;
食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサよりも向上している;
食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサおよびニコチアナ・アンブラチカの双方よりも向上している;
貯蔵たばこ害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサよりも向上している;あるいは、
貯蔵たばこ害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサおよびニコチアナ・アンブラチカの双方よりも向上している、
の少なくとも1つを具備する、前記F1ハイブリッド、またはその部分。
【請求項2】
前記部分が、葉、茎、根、種子、花、花粉、葯、胚珠、小花柄、分裂組織、子葉、胚軸、内鞘、胚、胚乳、外植片、カルス、組織培養物、芽、細胞、およびプロトプラストからなる群から選択される、請求項1に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
【請求項3】
種子親がニコチアナ・アンブラチカであり、花粉親がニコチアナ・トメントーサである、請求項1または2に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
【請求項4】
花粉親がニコチアナ・アンブラチカであり、種子親がニコチアナ・トメントーサである、請求項1または2に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
【請求項5】
F1ハイブリッド、またはその部分の食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドよりも向上しており、そして、
食葉性害虫が, タバコガ(oriental tobacco budworm, Helicoverpa assulta)、ニセア
メリカタバコガ (tobacco budworm, Heliothis virescens)、オオタバコガ (cotton bollworm, Helicoverpa armigera)、タバコスズメガ (tobacco hornworm, Manduca sexta) 、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)およびシロイモジヨトウ(Spodoptera exigua)からなる群から選択される、
請求項1に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
【請求項6】
F1ハイブリッド、またはその部分の食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサよりも向上しており; あるいは、
F1ハイブリッド、またはその部分の食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサおよびニコチアナ・アンブラチカの双方よりも向上しており、
そして、
食葉性害虫が, タバコガ(oriental tobacco budworm, Helicoverpa assulta)、ニセア
メリカタバコガ (tobacco budworm, Heliothis virescens)、オオタバコガ (cotton bollworm, Helicoverpa armigera)、タバコスズメガ (tobacco hornworm, Manduca sexta) 、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)およびシロイモジヨトウ(Spodoptera exigua)からなる群から選択される、
請求項1に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
【請求項7】
ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとを交配することを含む、F1ハイブリッドを作成する方法
であって、
ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとを交配後、1株あたりの花数がニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドよりも少ないF1ハイブリッド、を選抜する工程をさらに含む、または、
ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとを交配後、1株あたりの花数がニコチアナ・アンブラチカよりも少ないF1ハイブリッド、を選抜する工程をさらに含む、
前記方法。
【請求項8】
種子親がニコチアナ・アンブラチカであり、花粉親がニコチアナ・トメントーサである、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
花粉親がニコチアナ・アンブラチカであり、種子親がニコチアナ・トメントーサである、
請求項7に記載の方法。
【請求項10】
請求項1-6のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む組成物。
【請求項11】
カットフィラー、粉末、シート、または溶液の形態である、
請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1-6のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む、製品。
【請求項13】
請求項11または12の組成物を含む、製品。
【請求項14】
たばこ製品、香料、農薬、および医薬品からなる群から選択される、
請求項12または13に記載の製品。
【請求項15】
組成物または製品の製造に使用するための、
請求項1-6のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物。
【請求項16】
請求項1-6のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物の、組成物または製品を製造するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニコチアナ属F1ハイブリッドおよびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
1.ニコチアナ属の植物
ニコチアナ属(genus Nicotiana)(「タバコ属」とも呼称される)の植物は、南・北アメリカ大陸、オーストラリア大陸およびアフリカ大陸に広く分布しており、現在、70種以上が報告されている。最もよく知られているのは、たばこ製品の原料として用いられている栽培種タバコ(Nicotiana tabacum)とニコチアナ・ルスチカ(Nicotiana rustica)の2種である。
【0003】
上記2種以外のニコチアナ属の野生種については、野生種同士の交配により得られた植物を材料としたものを含めて遺伝学的解析や病害抵抗性の解析に関しては多数報告されている。例えば、Takenaka, Jap. Jour. Genet. 31. 155-161, 1956;MULKH RAJ AHUJA, Genetica 47, 865-880, 1962。野生種そのものをたばこ製品の原料として利用する報告はあるものの数は少ない。例えば、米国特許第7,798,153号。しかしながら、野生種同士を交配して得られるF1ハイブリッド植物をたばこ製品に用いるという報告はこれまでのところ見つかっていない。
【0004】
2.ニコチアナ・アンブラチカ(Nicotiana umbratica)
「ニコチアナ・アンブラチカ」(Nicotiana umbratica)は、西オーストラリア州北西部に分布するニコチアナ属の種である。草丈は50-60cm程度で細い茎を多数分枝して茂る一年草で、全体に腺毛が生え粘つき、強い香りが漂う。葉身は長さ8cm位の広い卵形で、葉のある枝先と腋生の枝先に総状花序状に多くの花をつける。主アルカロイドはニコチン。うどんこ病、べと病(普通系)に抵抗性である(タバコ属植物図鑑、日本たばこ産業株式会社(編集)、180-183頁,1994年3月、株式会社誠文堂新光社)。ニコチアナ・アンブラチカは、このような特徴的な強い香りを有することから、たばこ製品の原料として好ましいと考えられる。しかしながら、ニコチアナ・アンブラチカをたばこ製品の原料として利用するという報告はこれまでのところ見つかっていない。
【0005】
一方で、ニコチアナ・アンブラチカを実験材料とした遺伝学的な解析等は多数の文献で報告されている。例えば、U.Subhashiniらは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ属の他の野生種との交配を行ったことを報告している(U. Subushini, Euphytica, 23, 289-293, 1974; U. Subushini at al., Cytologia 39, 403-409, 1974; U. Subushini at al., Cytologia 40, 409-413, 1975)。
【0006】
3.ニコチアナ・カワカミイ(Nicotiana kawakamii)
「ニコチアナ・カワカミイ」(Nicotiana kawakamii)は、1968年にボリビアで、川上嘉通らによって発見されたニコチアナ属の種である。原産地では高さ4m位の半木本性低木で、茎は粘つき、先端部は赤紫である。葉は長さ60cm程の広い楕円形。円錐花序の枝は太く、広がり、枝先に蕾と花を渦巻き状につけ、濃赤紫色のさくかが並んでつく。着葉も密である。花の数は少数であり、植物体の上部にまとまってつく。主アルカロイドはノルニコチン。うどんこ病、PVYに抵抗性である(タバコ属植物図鑑、日本たばこ産業株式会社(編集)、48-51頁,1994年3月、株式会社誠文堂新光社)。US Smokeless Tobacco Co.への米国特許第7,798,153号においてたばこ製品への利用が報告されている。
【0007】
4.ニコチアナ・トメントーサ(Nicotiana tomentosa)
「ニコチアナ・トメントーサ」(Nicotiana tomentosa)は、ペルー中央部~南部およびボリビア中西部に分布するニコチアナ属の種である。川堤、渓谷や荒れ地などの日当たりの良いところか半日陰地に生育する、高さ数mに達する半木本性低木である。茎は太く、粘質で、葉は極めて大型の卵形~楕円形。裏面は細綿毛に覆われてネバネバしている。開花までの日数は長い。花冠は長さ3cmほどで、花筒は淡い黄緑色、上端はカップ状に急に膨れて傾き、上部は円鋸歯状形で、裂刻に深浅あり、ピンク色または白色または赤色である。主アルカロイドはノルニコチンとアナバシン。うどんこ病、PVY、TEV、線虫病(サツマイモネコブ)に抵抗性である(タバコ属植物図鑑、日本たばこ産業株式会社(編集)、36-39頁,1994年3月、株式会社誠文堂新光社)。
【0008】
ニコチアナ・トメントーサと他の種との交配については以下のような報告がある。
Takenaka et al., Jap. Jour. Genet. 31. 155-161, 1956
ニコチアナ・トメントーサ×ニコチアナ・シルベストリス(Nicotiana sylvestris)
Greenleaf et al., Sterile and Fertile Amphidiploids: Their Possible Relation to the Origin of Nicotiana Tabacum, Genetics, 26, 301-324, 1941
ニコチアナ・シルベストリス×ニコチアナ・トメントーサ、ニコチアナ・グルチノーザ(Nicotiana glutinosa)×ニコチアナ・トメントーサ、ニコチアナ・トメントシフォルミス(Nicotiana tomentosiformis)×ニコチアナ・トメントーサ
Smith et al., Alkaloids in certain species and interspecific hybrids of Nicotiana, Journal of Agricultural Research, Vol.65(7), 347-359, 1942
ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)×ニコチアナ・トメントーサ
Tezuka et al., Hybrid lethality in the genus Nicotiana, Botany, 191-210, 2012
ニコチアナ・グラウカ×ニコチアナ・トメントーサ、ニコチアナ・トリゴノフィラ(Nicotiana trigonophylla)×ニコチアナ・トメントーサ、ニコチアナ・パルメリ(Nicotiana palmeri)×ニコチアナ・トメントーサ、ニコチアナ・トメントーサ×ニコチアナ・ビゲロビイ(Nicotiana bigelovii)、ニコチアナ・トメントーサ×ニコチアナ・コードリバルビス(Nicotiana quadrivalvis)、ニコチアナ・コードリバルビス×ニコチアナ・トメントーサ
【0009】
上記文献には、交配によって得られるハイブリッドの開花時期、花数、耐虫性等の特徴に関する記載はない。また、ニコチアナ・トメントーサと他野生種の交雑においていくつかの場合、作成したハイブリッドが成長せずに枯れてしまう(雑種致死)ことが知られている(例えば、ニコチアナ・グルチノーザ×ニコチアナ・トメントーサ、ニコチアナ・トメントーサ×ニコチアナ・ビゲロビイ、ニコチアナ・トメントーサ×ニコチアナ・コードリバルビスなど。)(McCray et al., Compatibility of Certain Nicotiana Species, Genetics, 17(6), 621-636, 1932およびEast et al., Genetic reactions in Nicotiana, Genetics, 20, 403-413, 1935)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第7,798,153号
【文献】国際公開2019/139176
【非特許文献】
【0011】
【文献】Takenaka, Jap. Jour. Genet. 31. 155-161, 1956
【文献】MULKH RAJ AHUJA, Genetica 47, 865-880, 1962
【文献】タバコ属植物図鑑、日本たばこ産業株式会社(編集)、180-183頁,1994年3月、株式会社誠文堂新光社
【文献】U. Subushini, Euphytica, 23, 289-293, 1974
【文献】U. Subushini at al., Cytologia 39, 403-409, 1974
【文献】U. Subushini at al., Cytologia 40, 409-413, 1975
【文献】BULLETIN OF THE IWATA TOBACCO EXPERIMENT STATION、磐田たばこ試験場報告第17号、1-69頁、昭和60年3月
【文献】タバコ属植物図鑑、日本たばこ産業株式会社(編集)、36-39頁,1994年3月、株式会社誠文堂新光社)
【文献】Takenaka et al., Jap. Jour. Genet. 31. 155-161, 1956
【文献】Greenleaf et al., Genetics, 26, 301-324, 1941
【文献】Smith et al., Journal of Agricultural Research, Vol.65(7), 347-359, 1942
【文献】Tezuka et al., Botany, 191-210, 2012
【文献】McCray et al., Genetics, 17(6), 621-636, 1932
【文献】East et al., Genetics, 20, 403-413, 1935。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ニコチアナ・アンブラチカをたばこ製品の原料として利用しようとする場合、(i)植物体が小さく収量性が低い、(ii)腋芽/分枝毎に花芽が形成されることから、通常のタバコ栽培で葉の充実を図るために実施している心止作業(花芽の切除)が煩雑、などの大きな問題がある。上記文献から得られる情報からでは、ニコチアナ・アンブラチカの特性を損なわずに、これらの問題を解決する手段は不明である。
【0013】
一つの解決手段として、ニコチアナ・アンブラチカと他のニコチアナ属の植物とを交配して得られるF1ハイブリッドを利用することが想定されるが、交配の組合せによっては交配種子が得られない、交配種子が得られても発芽しない等の問題が生じる。さらに、ニコチアナ・アンブラチカの特徴的な強い香りを損なわずに、収量性および心止作業の煩雑性が改善されたF1ハイブリッドを得るという条件を満たす交配相手を選び出すのは多くの労力を必要とする。
【0014】
本発明の課題は、ニコチアナ・アンブラチカ(対照品種1)の特徴的な強い香りを損なうことなく、収量性および心止作業の煩雑性が改善されたF1ハイブリッド植物およびその作成方法を提供することである。
【0015】
本発明者らは、ニコチアナ・アンブラチカと複数のニコチアナ属野生種との交配を行い、得られたF1ハイブリッドの特性を詳細に調べた。その結果、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとの組み合わせによるF1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカの特徴的な強い香りを損なうことなく、収量性および心止作業の煩雑性がニコチアナ・アンブラチカよりも改善されている、というたばこ製品の原料を得るのに優れた性質を有することを見出した。本発明者らは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとの組み合わせによるF1ハイブリッドについて国際出願PCT/JP2019/001363を出願し、当該出願は2019年7月18日に公開された(国際公開2019/139176)。本出願は、発明者および出願人を同一とする国際出願PCT/JP2019/001363の国際公開2019/139176から1年以内の出願である。
【0016】
ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドは、開花後、葉の付け根から腋芽が多数出る(多数の分枝)。その後、各腋芽の頂点に花がつき、成長した腋芽の葉の付け根からは更に腋芽が発生して同様に頂点に花を咲かせる。ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカと比較した場合、草丈に対する最下部の花の高さの割合(%)が、ニコチアナ・アンブラチカよりも増加している、1株あたりの花数が、ニコチアナ・アンブラチカよりも少ない、分枝数が、ニコチアナ・アンブラチカよりも減少している、等の改善がみられる。しかしながら、ニコチアナ・アンブラチカよりは改善されているが、通常のたばこ栽培で収穫葉の充実を図るために実施している心止作業(花芽・茎の切除)が未だに必要で、煩雑である。
【0017】
本発明の課題は、ニコチアナ・アンブラチカ(対照品種1)、あるいは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッド(対照品種2)の特徴的な香りを損なうことなく、対照品種1または対照品種2よりも1株あたりの花数が減少し、心止作業の煩雑性が改善されたF1ハイブリッド植物およびその作成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
ニコチアナ・アンブラチカ(Nicotiana umbratica)とニコチアナ・トメントーサ(Nicotiana tomentosa)とのF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様2]
前記部分が、葉、茎、根、種子、花、花粉、葯、胚珠、小花柄、分裂組織、子葉、胚軸、内鞘、胚、胚乳、外植片、カルス、組織培養物、芽、細胞、およびプロトプラストからなる群から選択される、態様1に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様3]
種子親がニコチアナ・アンブラチカであり、花粉親がニコチアナ・トメントーサである、態様1または2に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様4]
花粉親がニコチアナ・アンブラチカであり、種子親がニコチアナ・トメントーサである、態様1または2に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様5]
1株あたりの花数が、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイ(Nicotiana kawakamii)とのF1ハイブリッドよりも少ない、態様1-4のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様6]
食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドよりも向上している、態様1-5のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様7]
食葉性害虫が, タバコガ(oriental tobacco budworm, Helicoverpa assulta)、ニセアメリカタバコガ (tobacco budworm, Heliothis virescens)、オオタバコガ (cotton bollworm, Helicoverpa armigera)、タバコスズメガ (tobacco hornworm, Manduca sexta) 、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)およびシロイモジヨトウ(Spodoptera exigua)からなる群から選択される、態様6に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様8]
貯蔵たばこ害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドよりも向上している、態様1-7のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様9]
ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとを交配することを含む、F1ハイブリッドを作成する方法。
[態様10]
種子親がニコチアナ・アンブラチカであり、花粉親がニコチアナ・トメントーサである、態様9に記載の方法。
[態様11]
花粉親がニコチアナ・アンブラチカであり、種子親がニコチアナ・トメントーサである、態様9に記載の方法。
[態様12]
ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとを交配後、1株あたりの花数がニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドよりも少ないF1ハイブリッド、を選抜する工程をさらに含む、態様9-11のいずれか1項に記載の方法。
[態様13]
態様1-8のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む組成物。
[態様14]
カットフィラー、粉末、シート、または溶液の形態である、態様13に記載の組成物。
[態様15]
態様1-8のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む、製品。
[態様16]
態様13または14の組成物を含む、製品。
[態様17]
たばこ製品、香料、農薬、および医薬品からなる群から選択される、態様15または16に記載の製品。
[態様18]
組成物または製品の製造に使用するための、態様1-8のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物。
[態様19]
態様1-8のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物の、組成物または製品を製造するための使用。
[態様20]
1株あたりの花数が、ニコチアナ・アンブラチカよりも少ない、態様1-4のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様21]
分枝数が、ニコチアナ・アンブラチカよりも減少している、態様1-4および20のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様22]
地上部の収量が、ニコチアナ・アンブラチカよりも増加している、態様1-4および20-21のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様23]
食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサよりも向上している、態様1-4および20-22のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様24]
食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサおよびニコチアナ・アンブラチカの双方よりも向上している、態様1-4および20-23のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様25]
食葉性害虫が, タバコガ(oriental tobacco budworm, Helicoverpa assulta)、ニセアメリカタバコガ (tobacco budworm, Heliothis virescens)、オオタバコガ (cotton bollworm, Helicoverpa armigera)、タバコスズメガ (tobacco hornworm, Manduca sexta) 、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)およびシロイモジヨトウ(Spodoptera exigua)からなる群から選択される、態様23または24に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様26]
貯蔵たばこ害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサよりも向上している、態様1-4および20-25のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様27]
貯蔵たばこ害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサおよびニコチアナ・アンブラチカの双方よりも向上している、態様1-4および20-26のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分。
[態様28]
ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとを交配後、1株あたりの花数がニコチアナ・アンブラチカよりも少ないF1ハイブリッド、を選抜する工程をさらに含む、態様9-11のいずれか1項に記載の方法。
[態様29]
態様1-4および20-27のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む組成物。
[態様30]
カットフィラー、粉末、シート、または溶液の形態である、態様29に記載の組成物。
[態様31]
態様1-4および20-27のいずれか1項に記載のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む、製品。
[態様32]
態様29または態様30の組成物を含む、製品。
[態様33]
たばこ製品、香料、農薬、および医薬品からなる群から選択される、態様31または32に記載の製品。
【発明の効果】
【0019】
ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとを交配させて得られたF1ハイブリッドはまた、ニコチアナ・アンブラチカ(対照品種1)、あるいは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッド(対照品種2)の特徴的な香りを損なうことなく、対照品種1および対照品種2よりも1株あたりの花数が減少し、心止作業の煩雑性が改善されたF1ハイブリッドである。
【0020】
ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとを交配させて得られたF1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカ(対照品種1)の特徴的な強い香りを損なうことなく、収量性および心止作業の煩雑性が改善されたF1ハイブリッドである。
【0021】
当該F1ハイブリッドの栽培管理に特別な技術・ノウハウは不要で、一般的な栽培種タバコとほぼ同様の管理で収穫まで容易に栽培することができる。
【0022】
ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサによる、野生種同士のF1ハイブリッドを作成し、ニコチアナ・アンブラチカの特徴的な香りを損なうことなく収量および花部除去容易性を向上させる当該F1ハイブリッドを利用することで、従来技術の問題点を大きく改善することができる。当該F1ハイブリッドはさらに、ニコチアナ・アンブラチカ(対照品種1)、あるいは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッド(対照品種2)と比べ、虫による被摂食程度を大きく抑制することができる、という効果も有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッド(対照品種2)とニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドタバコ植物(F1ハイブリッド)の、播種後100日後の植物全体の様子を示した写真である。
【
図2】
図2は、対照品種2とF1ハイブリッドの株当重量(g)(平均値)を棒グラフで示したものである。
【
図3】
図3は、対照品種2とF1ハイブリッドの頂芽数(個/株)を棒グラフで示したものである。
【
図4】
図4は、対照品種2とF1ハイブリッドの花数を棒グラフで示したものである。
【
図5】
図5は、実施例2のタバコガの幼虫に対する耐虫性の調査における、F1ハイブリッド、対照品種2の各株の葉の配置(左)、並びに、実験開始時(左)とタバコガの幼虫を入れてから40時間後(右)の状態を示す写真である。
【
図6】
図6は、実施例2における放虫後の葉の面積の放虫前の面積に対する割合(%)の時間変化を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例3におけるF1ハイブリッド中の各成分の対照品種2に対する相対値(対照品種2中の成分量を1とする)を示す棒グラフである。
【0024】
3-hexenal:3-ヘキセナール、
IVA:イソ吉草酸(IVA)、
3MVA:3-メチル吉草酸、
4MHA:4-メチルヘキサン酸、
テルペン化合物A:(RI(Retention index)1617)(1-イソプロピル-5-(ヒドロキシメチル)-8-メチルトリシクロ[4.4.0.02,8]デカ-4-エン)、ならびに、
labdadien-8-ol:ラブダジエン-8-オル
【発明を実施するための形態】
【0025】
非限定的に本発明は、以下の態様を含む。
【0026】
1.F1ハイブリッド
本発明は、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッド、またはその部分に関する。
【0027】
「ニコチアナ・アンブラチカ」(Nicotiana umbratica)は、西オーストラリア州北西部に分布するニコチアナ属の種である。染色体数(2n)は46である。非限定的に、ニコチアナ・アンブラチカの草丈は50-60cm程度で細い茎を多数分枝して茂り、5~15cm程度の小さな葉が多数出る。枝先に総状花序状に多くの花をつける。非限定的に、ニコチアナ・アンブラチカは植物体全体で毛茸からの分泌量が多く粘つき、全体から強い香りが漂う。主なアルカロイド成分はニコチンである。
【0028】
「ニコチアナ・トメントーサ」(Nicotiana tomentosa)は、ペルー中央部~南部およびボリビア中西部に分布するニコチアナ属の種である。染色体数(2n)は24である。非限定的に、ニコチアナ・トメントーサの草丈は平均200cm以上になり、葉は極めて大型である。主なアルカロイド成分はノルニコチンとアナバシンである。
【0029】
「ニコチアナ・カワカミイ」(Nicotiana kawakamii)は、1968年にボリビアで、川上嘉通らによって発見された種である。染色体数(2n)は24である。非限定的に、ニコチアナ・カワカミイの草丈は平均200cm以上になり、葉は大型である。主なアルカロイド成分はノルニコチンである。
【0030】
「F1ハイブリッド」とは、種や品種が異なる植物から産まれた子孫である。本明細書および特許請求の範囲における「F1ハイブリッド」は、雑種第一代(F1)のF1ハイブリッドを意味する。F1は、生物において、ある異なった対立遺伝子をホモで有する両親の交配の結果生じた、第一世代目の子孫である。F1は、両親の遺伝子をヘテロで有し、遺伝子型は均一である。染色体数(2n)は35である。
【0031】
本明細書におけるF1ハイブリッドは、特に明記しない限り、「ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッド」を意味する。
【0032】
本発明における、F1ハイブリッドの部分とは、植物の成体の一部分のみならず、植物の種子から成体までのあらゆる態様を含む。
【0033】
非限定的に、前記「部分」は、葉(葉身と葉柄を含む)、茎、根、種子、花、花粉、葯、胚珠、小花柄、分裂組織、子葉、胚軸、内鞘、胚、胚乳、外植片、カルス、組織培養物、芽、細胞、およびプロトプラストからなる群から選択される。好ましくは、葉、または茎である。
【0034】
非限定的に「部分」は、F1ハイブリッドの非増殖性部分である。非限定的に、「非増殖性部分」とは、植物体より単離された葉(葉身と葉柄を含む)、茎、根、花、小花柄、内鞘、外植片、組織培養物を含む。
【0035】
「葉柄」とは、植物において葉身と茎を接続している小さな柄である。「小花柄」とは、種子植物において、単弁花と花序につながる茎との間を繋ぐ短い柄である。「内鞘」とは、植物の組織で、根の中心の存在する木部と篩部を取り囲む細胞の層である。内鞘が分裂することにより側根が形成される。「外植片」とは、植物から切り出した胚の一部分を人工条件下で培養して得られた植物の組織片である。「カルス」は、固体培地上等で培養されている分化していない状態の植物細胞の塊である。「組織培養物」とは、植物の任意の組織を人工条件下で培養して得られた植物組織の培養物である。
【0036】
F1ハイブリッドにおいて、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサはいずれが種子親であっても、花粉親であっても良い。
【0037】
一態様において、種子親がニコチアナ・アンブラチカであり、花粉親がニコチアナ・トメントーサである。別の一態様において、花粉親がニコチアナ・アンブラチカであり、種子親がニコチアナ・トメントーサである。より好ましくは、種子親がニコチアナ・アンブラチカであり、花粉親がニコチアナ・トメントーサである。
【0038】
2.F1ハイブリッドの特徴
(1)花数
タバコ植物から、たばこ製品の製造に使用するために有用な葉、茎を含む地上部を効率よく採取するためには、タバコ植物から花を除去することが必要である。F1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカと比較して、花の除去が容易である。
【0039】
一態様において、F1ハイブリッドは、葉タバコ収穫時期における1株あたりの花数が、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドよりも少ない。これは、非限定的に、F1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドと比べ、頂芽数はほぼ同等であるが、最初の開花以降、開花が大きく遅れる(葉の収穫時期以降に開花する)ためである。一態様において、F1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカと比較して1株あたりの花数が少ない。
【0040】
後述する実施例1において、F1ハイブリッドは、移植後約100日の1株あたりの「花数」が、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッド(対照品種2)と比較して約1/30と減少した。F1ハイブリッドは、好ましくは、対照2と比較して1株あたりの花数が、1/2以下、1/5以下、1/10以下、1/20以下、1/30以下である。F1ハイブリッドは、好ましくは、ニコチアナ・アンブラチカ(対照品種1)と比較して1株あたりの花数が、1/10以下、1/20以下、1/30以下、1/50以下、1/100以下、1/150以下である。
【0041】
F1ハイブリッドは、花の数が少ないため、花の除去、心止作業(花芽・茎の切除)が容易である。
【0042】
(2)分枝数
一態様において、F1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドと比べ分枝数はほぼ同等である。一態様において、F1ハイブリッドは、分枝数がニコチアナ・アンブラチカよりも減少している。
【0043】
F1ハイブリッドは、葉の収穫がニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッド、および、ニコチアナ・アンブラチカよりも容易である。
【0044】
(3)地上部の収穫
F1ハイブリッドは、好ましくは、たばこ製品の製造に使用するために有用な葉、茎を含む地上部を、ニコチアナ・アンブラチカよりも多く収穫できる。
【0045】
一態様において、F1ハイブリッドは、地上部の収量が、ニコチアナ・アンブラチカよりも増加している。
【0046】
好ましくは、1株あたりの地上部の収量が、ニコチアナ・アンブラチカと比較して、1.2倍以上、1.5倍以上、1.8倍以上、2倍以上、2.1倍以上である。
【0047】
一態様において、F1ハイブリッドは、乾燥葉の収量が、ニコチアナ・アンブラチカよりも増加している。「乾燥葉」とは、タバコ植物の葉に、凍結乾燥、加熱乾燥、日干乾燥、空気乾燥等の乾燥処理を施して、乾燥させた葉である。
【0048】
(4)害虫に対する耐虫性
F1ハイブリッドは、好ましくは、害虫に対する強い耐性を有する。
【0049】
一般に、野生種のニコチアナ・トメントーサおよびニコチアナ・カワカミイは多くの害虫に対する耐虫性が弱く、ニコチアナ・アンブラチカは害虫に対する耐虫性が強いことが知られている。
【0050】
一態様において、F1ハイブリッドは、食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドよりも向上している。
【0051】
一態様において、F1ハイブリッドは、食葉性害虫に対する耐虫性が、栽培種タバコよりも向上している。一態様において、F1ハイブリッドは、食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサよりも向上している。より好ましくは、F1ハイブリッドは、食葉性害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサおよびニコチアナ・アンブラチカの双方よりも向上している。
【0052】
本明細書および特許請求の範囲において、「害虫」は、タバコ植物に害を及ぼす任意の虫の総称として使用する。食葉性害虫の例示として、タバコガ(oriental tobacco budworm, Helicoverpa assulta)、ニセアメリカタバコガ (tobacco budworm, Heliothis virescens), オオタバコガ (cotton bollworm, Helicoverpa armigera)、 タバコスズメガ (tobacco hornworm, Manduca sexta)、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)およびシロイモジヨトウ(Spodoptera exigua)が含まれる。
【0053】
「タバコガ」は、特にその幼虫(アオムシ)が、各種の農作物を摂食し、特に、タバコ、ピーマンなどのナス科植物、果物、花などの害虫として知られている。「アオムシ」は、チョウ目(鱗翅目、蝶や蛾)の幼虫のうち、長い毛で体を覆われておらず、緑色のものである。
【0054】
一態様において、F1ハイブリッドは、貯蔵たばこ害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドよりも向上している。
【0055】
一態様において、F1ハイブリッドは、貯蔵たばこ害虫に対する耐虫性が、栽培種タバコよりも向上している。一態様において、F1ハイブリッドは、貯蔵たばこ害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサよりも向上している。一態様において、F1ハイブリッドは、貯蔵たばこ害虫に対する耐虫性が、ニコチアナ・トメントーサおよびニコチアナ・アンブラチカの双方よりも向上している。
【0056】
貯蔵たばこ害虫の例として、タバコシバンムシ(Lasioderma serricorne)やチャマダラメイガ(Ephestia elutella)のようにタバコの乾燥葉を食べるものも含まれる。
【0057】
(5)タバコに含まれる成分
F1ハイブリッドは、好ましくは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドと比較して、特徴的な香味(タバコとして好ましい香味)に寄与する成分の全部または一部が、減少しない。F1ハイブリッドは、好ましくは、ニコチアナ・アンブラチカと比較して、特徴的な香味(タバコとして好ましい香味)に寄与する成分の全部または一部が、減少しない。
【0058】
タバコとして好ましい香りに寄与する成分とは、例えば、1-イソプロピル-5-(ヒドロキシメチル)-8-メチルトリシクロ[4.4.0.02,8]デカ-4-エン、4-メチルヘキサン酸等である。
【0059】
よって、F1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカの好ましい香味を保持したまま、たばこ製品、香料等の製品に使用可能である。
【0060】
3.F1ハイブリッドを作成する方法
本発明は、一態様において、F1ハイブリッドを作成する方法を提供する。本発明の方法は、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとを交配することを含む。交配は、タバコ植物を交配するための公知の方法を用いることができる。
【0061】
上記「F1ハイブリッド」の定義は、「1.F1ハイブリッド」の項目において記載した通りである。
【0062】
本発明のF1ハイブリッドの作成方法において、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサはいずれが種子親であっても、花粉親であっても良い。
【0063】
一態様において、種子親がニコチアナ・アンブラチカであり、花粉親がニコチアナ・トメントーサである。別の一態様において、花粉親がニコチアナ・アンブラチカであり、種子親がニコチアナ・トメントーサである。より好ましくは、種子親がニコチアナ・アンブラチカであり、花粉親がニコチアナ・トメントーサである。
【0064】
本発明のF1ハイブリッドの作成方法の一態様において、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとを交配後、より好ましい特徴を有するF1ハイブリッドを選抜する工程をさらに含んでもよい。F1ハイブリッドを選抜する工程は、非限定的に、1株あたりの花数がニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドよりも少ないF1ハイブリッド、を選抜する工程を含む。
【0065】
4.組成物
本発明は、一態様において、上記F1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む組成物、を提供する。
【0066】
上記「F1ハイブリッド」、「部分」の定義は、「1.F1ハイブリッド」の項目において記載した通りである。
【0067】
組成物は、タバコ植物またはその部分をそのまま用いても、あるいは裁断、粉砕または磨砕して細片状、スラリー状、または微粉状としたものを用いてもよい。組成物は、タバコ植物またはその部分は、畑地などから収穫したものをそのまま用いても、所定期間屋内または屋外において水分を一部放散させたものを用いても、あるいは乾燥機などで水分をほとんど放散させたものを用いてもよい。
【0068】
一態様において、組成物は、F1ハイブリッドの非増殖性部分を含む。
【0069】
「抽出物」は、たばこ製品の香味を改善する目的やたばこ製品中の特定成分の含有量を低下させる目的で、タバコ植物由来の葉、茎などの材料(「部分」、好ましくは「非増殖性部分」を含む)を抽出して得られたものである。抽出方法は植物から精油や特定の成分等を抽出するための公知の方法を用いることができる。
【0070】
組成物は、非限定的に、カットフィラー、粉末、シート、または溶液の形態である。
【0071】
一態様において、組成物は、好ましくは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む組成物(対照1)と比較して、同程度の特徴的な香味(タバコとして好ましい香味)に寄与する成分を含む。一態様において、組成物は、好ましくは、ニコチアナ・アンブラチカまたはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む組成物(対照2)と比較して、同程度の特徴的な香味(タバコとして好ましい香味)に寄与する成分を含む。非限定的に、「同程度」とは、実質的に同量の材料を用いて同様に調製した対照1または対照2と比較した場合、本発明の組成物が、タバコとして好ましい香りに寄与する成分を、約80%-約120%、より好ましくは、約90%-約110%含むことを意味する。
【0072】
タバコとして好ましい香りに寄与する成分とは、例えば、1-イソプロピル-5-(ヒドロキシメチル)-8-メチルトリシクロ[4.4.0.02,8]デカ-4-エン、4-メチルヘキサン酸等である。
【0073】
本発明の組成物は、一態様において、、1-イソプロピル-5-(ヒドロキシメチル)-8-メチルトリシクロ[4.4.0.02,8]デカ-4-エン、及び/又は4-メチルヘキサン酸を含む。
【0074】
本発明は一態様において、上記F1ハイブリッドまたはその部分の抽出物を含む組成物の製造方法を含む。非限定的に、組成物の製造方法は、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドよりタバコ植物由来の材料を抽出する、ことを含む。
【0075】
本発明は、一態様において、上記F1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む、たばこ材料を含む。「たばこ材料」は、たばこ製品に使用する上記「組成物」と同義である。
【0076】
5.製品
上記のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物、並びに、F1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む組成物は、ニコチアナ・アンブラチカ、あるいは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドに由来する特徴的な香味を有する。よって、一態様において、これらをたばこ製品等の原料に使用することにより、ニコチアナ・アンブラチカ、あるいは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドに由来する特徴的な香味を製品に付与することが可能である。
【0077】
本発明は、一態様において、上記のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む、製品を提供する。
【0078】
本発明は、一態様において、上記のF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む組成物を含む、製品を提供する。非限定的に、製品には、たばこ製品、香料、農薬、医薬品を含む。
【0079】
一態様において、製品は、F1ハイブリッドの非増殖性部分を含む。
【0080】
「たばこ製品」の種類は特に限定されない。紙巻きたばこ(シガレット)の他、葉巻、パイプたばこ、嗅ぎたばこ、噛みたばこ、刻み(細刻みを含む)、水たばこ等を含む。さらに、たばこを加熱し発生するエアロゾルをエアロゾル源として用いた加熱型香味吸引器、たばこを加熱せずにその香味を吸引する非加熱型香味吸引器なども含まれる。
【0081】
香料、農薬の種類も限定されない。農薬は、例えば、「農作物等」を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物またはウイルスの防除、農作物等の生理機能の増進または抑制、発芽抑制等を目的とする農薬が含まれる。香料、農薬、医薬品は、単独でも他の有効成分と一緒にも使用可能である。
【0082】
一態様において、製品は、好ましくは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む製品(対照1)と比較して、同程度の特徴的な香味(タバコとして好ましい香味)に寄与する成分を含む。一態様において、製品は、好ましくは、ニコチアナ・アンブラチカまたはその部分、あるいは、これらの抽出物を含む製品(対照2)と比較して、同程度の特徴的な香味(タバコとして好ましい香味)に寄与する成分を含む。非限定的に、「同程度」とは、実質的に同量の材料を用いて同様に調製した対照1または対照2と比較した場合、本発明の製品が、タバコとして好ましい香りに寄与する成分を、約80%-約120%、より好ましくは、約90%-約110%含むことを意味する。
【0083】
タバコとして好ましい香りに寄与する成分とは、例えば、1-イソプロピル-5-(ヒドロキシメチル)-8-メチルトリシクロ[4.4.0.02,8]デカ-4-エン、4-メチルヘキサン酸等である。
【0084】
本発明の製品は、一態様において、、1-イソプロピル-5-(ヒドロキシメチル)-8-メチルトリシクロ[4.4.0.02,8]デカ-4-エン、及び/又は4-メチルヘキサン酸を含む。
【0085】
本発明は一態様において、上記F1ハイブリッド、またはその部分、あるいは、これらの抽出物の、組成物または製品を製造するための使用を提供する。
【0086】
本発明は一態様において、たばこ製品の製造方法を含む。非限定的に、たばこ製品の製造方法は、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドよりタバコ植物由来の材料を抽出する、ことを含む。ここにおいて、たばこ製品は、紙巻きたばこ、葉巻、パイプたばこ、嗅ぎたばこ、噛みたばこ、刻み(細刻みを含む)、水たばこ、加熱型香味吸引器および非加熱型香味吸引器からなるグループから選択される。
【実施例】
【0087】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0088】
実施例1 ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドの作成および特性
本実施例では、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドを作成した。
【0089】
ニコチアナ・アンブラチカ(1967年米国E.L.Moore博士より入手)を種子親として、ニコチアナ・トメントーサ(1963年米国D.R.Cameron博士より入手)を花粉親として、公知の方法で交配を行った。種子親と花粉親を入れ替えた場合でも目的とするF1ハイブリッドが得られた。
【0090】
ニコチアナ・アンブラチカを種子親として、ニコチアナ・カワカミイ(1976年 京都大学中央アンデス学術調査隊より入手)を花粉親として、公知の方法で交配を行った。種子親と花粉親を入れ替えた場合でもこれらのF1ハイブリッドが得られた。
【0091】
以下、本実施例においては、ニコチアナ・アンブラチカを種子親として、ニコチアナ・トメントーサを花粉親とした場合を例として詳述する。ニコチアナ・アンブラチカを種子親として、ニコチアナ・カワカミイを花粉親とした場合を、対照品種2の例とする。
【0092】
F1ハイブリッドをJT葉たばこ研究所(栃木県小山市)の温室で栽培した。播種用土にはスーパーミックス(サカタのタネ)を使用し、播種後約20日後に別の育苗用土であるスーパー培土(サンアグロ)へ仮植した。播種後約40日で移植に適した苗を得た。容積およそ3Lのプラスチック製鉢にバーミキュライトを7分目まで詰めて移植した。移植前にはバーミキュライトに充分量の水を含ませ、移植後は窒素等の肥料を含む培養液(OATハウス1号とOATハウス2号(OATアグリオ株式会社)、約200~500ppm)を日々の天候に応じて施用した。比較例としてニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッド(対照品種2)も同様に栽培した。なお、以下の
図1-7に記載の「対照品種」は、いずれもニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッド(対照品種2)を示す。
【0093】
移植後30日ごろ、開花直前の最初の花を切除してさらに30日間(播種後100日まで)栽培を行ったところ、いずれの品種もタバコ葉の収穫適期となった。播種後100日目の様子の写真を
図1に示す。
【0094】
F1ハイブリッド、対照品種2の各々について26株ずつ栽培し、収量(株当重量)、頂芽数および花数の各項目について評価した。結果を
図2-
図4に示す。
【0095】
(1)収量(地上部の生重量)
播種後100日目の株当重量(乾重量ではなく生重量)は
図2の通りであった。「株当重量」は、移植後100日において、地上3cm程度の位置で個体から切り離した地上部の乾燥前重量(生重量)を意味する。なお、この場合において花部は一部の茎部とともに除去されている。対照品種2とF1ハイブリッドの株当重量はほぼ同等であった。なお、特許文献2において、対照品種2の収量(株当重量)は、ニコチアナ・アンブラチカと比較して増加することが記載されている。特許文献2の実施例において、対照品種2の株あたりの地上部の収量は、ニコチアナ・アンブラチカの約2倍であった。
【0096】
よって、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドと同程度の収量であり、これは、ニコチアナ・アンブラチカよりも増加していることが示された。
【0097】
(2)頂芽数および花数
F1ハイブリッドおよび対照品種2の播種後100日目の頂芽数および花数を
図3および
図4に示す。
【0098】
頂芽数については、F1ハイブリッドは対照品種2と同等であった。しかし、対照品種2は腋芽の多くが成長し、その先に花を付けていたのに対して、F1ハイブリッドは、最初の開花以降は開花が大きく遅れ、株当たりの開花した花数も対照品種2の約1/30と顕著に減少した。以上からF1ハイブリッドでは、栽培時の花の除去にかかる労力を削減できることが明らかとなった。なお、特許文献2の実施例において、対照品種2の花数は、ニコチアナ・アンブラチカの約1/5に減少した。
【0099】
なお、対照品種2では全ての下部において頂芽8-10個/株においてすべて開花した花がついていた(全ての頂芽のうち開花した花がついている頂芽の割合=100%)。F1ハイブリッドでは、頂芽7-10個/株のうち開花した花がついていたのは0-1個/株(全ての頂芽のうち開花した花がついている頂芽の割合=約3%)であった。
【0100】
よって、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドは、対照品種2よりも株当たりの花数が顕著に減少し、ニコチアナ・アンブラチカと比較した場合はさらに減少する、ことが示された。
【0101】
以上より、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドと比較して、栽培時の心止作業、花の除去、にかかる労力を削減でき、ニコチアナ・アンブラチカと比較するとさらに削減できることが明らかになった。
【0102】
実施例2 ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドの食葉性害虫に対する耐虫性
本実施例では、タバコの葉を配置した網かごの中に放虫し、一定時間後に残っている葉の面積を比較することによりニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドのタバコガ(Helicoverpa assulta)の食害に対する耐虫性を調べた。比較例として対照品種2を用いた。
【0103】
F1ハイブリッドと対照品種2の葉をタバコガ(Helicoverpa assulta)の幼虫20~30匹とともに幅40cm×奥行40cm×高さ40cmの網かごに入れ、19時間後および40時間後に残っている葉の面積を開始前と比較し、食害程度を調査した。調査は直射日光の当たらない窓付きの屋内で実施し、室温は空調機により約25℃に設定した。比較例の種類、配置等の摂食の品種選択性への影響をなくす(最小限に留める)ために、F1ハイブリッドと対照品種2を
図5に示す様に(交互に)配置した。
【0104】
開始時と比較した残存葉面積(相対値)を
図6に示す。タバコガの幼虫は、F1ハイブリッドに比べて対照品種2をより多く摂食した。葉の自然萎凋分も含めて40時間後には対照品種の葉は開始時の23%しか残っていなかったのに対し、F1ハイブリッドの葉は60%が残っていた。
【0105】
なお、特許文献2の実施例において、対照品種2、ニコチアナ・アンブラチカ(対照品種1)およびその他のニコチアナ種(ニコチアナ・カワカミイ、および/または、栽培種タバコ(品種:たいへい)を用いて同様の食葉性害虫に対する耐虫性試験を行っている。その結果、対照品種2は、タバコガの幼虫による食害に対する抵抗性が、ニコチアナ・アンブラチカよりも有意に強いことが明らかにされている。
【0106】
以上より、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッドと比較して食葉性害虫に対する耐虫性が向上しており、ニコチアナ・アンブラチカと比較するとさらに向上している。
【0107】
実施例3 ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドの成分分析
本実施例では、GC/MSを用いてニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドの成分分析を行った。比較例として、対照品種2を用いた。
【0108】
[手順]
・移植後17日目(播種後59日目)の植物体から切り離したばかりの葉4gを50mL容遠沈管に入れる。
・ヘキサン20mLを加えて200rpm、60分間振とう抽出を行う。
・振とう後、遠沈管の内容物を濾紙で濾過し、濾液に硫酸ナトリウムを適量加えて30分静置し脱水する。
-脱水後の液を再び濾過したのちにバイアルに封入して分析サンプルとし、GC(ガスクロマトグラフィー)を行う。
-得られたトータルイオンクロマトグラムを解析し、3-ヘキセナール(3-hexenal)、イソ吉草酸(IVA)、3-メチル吉草酸(3MVA)、4-メチルヘキサン酸(4MHA)、テルペン化合物A(RI(Retention index)1617)(1-イソプロピル-5-(ヒドロキシメチル)-8-メチルトリシクロ[4.4.0.02,8]デカ-4-エン)、ならびに、ラブダジエン-8-オル(labdadien-8-ol)の量について相対比較を行う。対照品種2中の成分量を1とする。
【0109】
[分析条件]
機器:Agilent 5977B シリーズ GC/MSDシステム(7980B GC/5977B MSD)
カラム:HP-1MS(型番19091S-733、長さ(m)30×内径(mm)0.25×膜厚(um)1.00)
昇温プログラム:40℃を1分、5℃/分で40-200℃、1℃/分で200-220℃、5℃/分で220-300℃、300℃を21分
注入口:スプリットレス、1uL、300℃
検出器:Scanモード (m/z 40~400)
テルペン化合物A(1-イソプロピル-5-(ヒドロキシメチル)-8-メチルトリシクロ[4.4.0.02,8]デカ-4-エン)は、ニコチアナ・アンブラチカおよび対照品種2において、特徴的な香り(タバコとして好ましい香り)に寄与する成分である。
【0110】
上記成分分析の結果、
図7に示す通り対照品種2の重要な香気成分であるテルペン化合物Aは、F1ハイブリッドでも同程度含まれていた。なお、特許文献2の実施例において、対照品種2はニコチアナ・アンブラチカ(対照品種1)と比較して、テルペン化合物Aが減少しないことが確認されている。
【0111】
よって、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・トメントーサとのF1ハイブリッドは、ニコチアナ・アンブラチカとニコチアナ・カワカミイとのF1ハイブリッド、ニコチアナ・アンブラチカのいずれよりも、特徴的な香り(タバコとして好ましい香り)に寄与する成分が減少していないことが示された。