(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】方向性電気鋼板、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240404BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20240404BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20240404BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/06
C21D8/12 B
H01F1/147 183
(21)【出願番号】P 2022536951
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(86)【国際出願番号】 KR2020018330
(87)【国際公開番号】W WO2021125738
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】10-2019-0169752
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,チャン‐ス
(72)【発明者】
【氏名】ハン,キュ‐ソク
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ジン‐ウク
(72)【発明者】
【氏名】バク,ユ‐ジュン
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-156693(JP,A)
【文献】特開2009-270129(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0127648(KR,A)
【文献】特開平04-187721(JP,A)
【文献】特開平06-220540(JP,A)
【文献】特開2000-144251(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109402513(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:3.0~4.5%、Mn:0.05~0.2%、Al:0.015~0.035%、C:0.0015%以下(0%を除く)、N:0.0015%以下(0%を除く)、及びS:0.0015%以下(0%を除く)、残部はFe及びその他不可避な不純物からなり、下記関係式1及び2を満た
し、
磁束密度B
8
が1.94T以上であることを特徴とする方向性電気鋼板。
[関係式1]
(W
13/50/W
17/50)≦0.57
[関係式2]
(W
15/50/W
17/50)≦0.76
(但し、前記関係式1において、Wx/yは、印加磁場の大きさがx/10Tであり、周波数yHz条件での鉄損値を示す。)
【請求項2】
前記方向性電気鋼板は、圧延面を基準として粒径100mm以上の結晶粒が占める面積割合が20%以下であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電気鋼板。
【請求項3】
重量%で、Si:3.0~4.5%、Mn:0.05~0.2%、Al:0.015~0.035%、C:0.005~0.1%、N:0.005%以下(0%を除く)、及びS:0.005%以下(0%を除く)、残部はFe及びその他不可避な不純物からなる鋼スラブを加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延板を得る段階と、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を得る段階と、
前記冷延板を1次再結晶焼鈍する段階と、
前記1次再結晶焼鈍された冷延板を2次再結晶焼鈍する段階と、を含み、
前記2次再結晶焼鈍する段階は昇温及び均熱段階を含み、
前記昇温段階は1次昇温及び2次昇温を含み、
前記1次昇温及び2次昇温時、1次昇温速度及び2次昇温速度は下記関係式3を満たし、
前記1次昇温速度は5~15℃/hrであり、
前記1次昇温時、開始温度は700~800℃であり、
前記2次昇温時、開始温度は1000~1100℃であり、
前記均熱時、1150℃以上で10時間以上維持することを特徴とする
請求項1に記載の方向性電気鋼板の製造方法。
[関係式3]
(1次昇温速度)≧2×(2次昇温速度)
【請求項4】
前記鋼スラブ加熱時、加熱温度は1000~1280℃であることを特徴とする請求項
3に記載の方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記熱間圧延時、仕上げ温度は950℃以下であることを特徴とする請求項
3に記載の方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱延板を得る段階の後、前記熱延板を水冷してから600℃以下で巻取る段階をさらに含むことを特徴とする請求項
3に記載の方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延板を得る段階の後、900℃以上で熱延板焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする請求項
3に記載の方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記1次再結晶焼鈍は、露点温度50~70℃の雰囲気で850~950℃の温度で行われることを特徴とする請求項
3に記載の方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記2次昇温時、昇温速度は7.5℃/hr以下であることを特徴とする請求項
3に記載の方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記2次再結晶焼鈍段階の後、2次再結晶焼鈍された冷延板の表面に絶縁被膜を形成する段階をさらに含むことを特徴とする請求項
3に記載の方向性電気鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電気鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電気鋼板は、鋼板の結晶方位が{110}<001>である所謂ゴス(Goss)方位を有する結晶粒からなる圧延方向への磁気特性に優れた軟磁性材料である。
一般的に、磁気特性は、磁束密度と鉄損で表現され、高い磁束密度は、結晶粒の方位を{110}<001>方位に正確に配列することにより得られる。磁束密度の高い電気鋼板は、電気機器の鉄心材料のサイズを小さくできるだけでなく、履歴損失(Hysteresis loss)を減らして電気機器の小型化と同時に高効率化を高めることができる。鉄損は、鋼板に任意の交流磁場を加えた時、熱エネルギーとして消費される電力損失であって、鋼板の磁束密度と板厚、鋼板中の不純物量、比抵抗、並びに2次再結晶粒径などによって大きく変化し、磁束密度と比抵抗が高いほど、そして板厚と鋼板中の不純物量が低いほど、鉄損が低くなって電気機器の効率が増加する。
【0003】
ゴス方位を発達させるためには、製鋼段階における成分の制御から熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、1次焼鈍及び2次焼鈍などの様々な工程条件が非常に精密かつ厳格に管理されなければならない。
特に、ゴス方位の成長は2次焼鈍段階で起こるが、鋼板中に分散しているインヒビター(Inhibitor)成分によって成長が抑制されている他の結晶を侵食し、(110)<001>結晶が優先して成長(2次再結晶)される。
【0004】
一般的に、ゴス方位を安定的に力強く発達させるためには、昇温区間において2次再結晶開始温度まで遅い速度で昇温することが好ましいことが知られている。
しかしながら、2次焼鈍昇温過程で昇温速度を低下させると、ゴス方位の結晶サイズが極めて粗大になるが、ゴス方位の結晶サイズが大きくなるほど磁区サイズが増加し、渦電流損失(Eddy-current loss)の増加につながり、鉄損特性が劣化する恐れがある。
【0005】
特に、印加する磁場の大きさが減少するほどその影響が大きくなるため、方向性電気鋼板製品の特性を保証する1.7Tでの鉄損値よりも、実際の変圧器が動作する1.5T以下の領域での損失低減効果がさらに大きくなる。
したがって、単に2次焼鈍昇温過程での昇温速度を低下させるだけでは、優れた低磁場特性及び高い磁束密度を同時に有する方向性電気鋼板を製造することが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、優れた低磁場特性及び高い磁束密度を同時に有する方向性電気鋼板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の方向性電気鋼板は、重量%で、Si:3.0~4.5%、Mn:0.05~0.2%、Al:0.015~0.035%、C:0.0015%以下(0%を除く)、N:0.0015%以下(0%を除く)、及びS:0.0015%以下(0%を除く)、残部はFe及びその他不可避な不純物からなり、下記関係式1及び2を満たすことを特徴とする。
[関係式1]
(W13/50/W17/50)≦0.57
[関係式2]
(W15/50/W17/50)≦0.76
(但し、上記関係式1において、Wx/yは、印加磁場の大きさがx/10Tであり、周波数yHz条件での鉄損値を示す。)
【0008】
本発明の方向性電気鋼板の製造方法は、重量%で、Si:3.0~4.5%、Mn:0.05~0.2%、Al:0.015~0.035%、C:0.005~0.1%、N:0.005%以下(0%を除く)、及びS:0.005%以下(0%を除く)、残部はFe及びその他不可避な不純物からなる鋼スラブを加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延板を得る段階と、上記熱延板を冷間圧延して冷延板を得る段階と、上記冷延板を1次再結晶焼鈍する段階と、上記1次再結晶焼鈍された冷延板を2次再結晶焼鈍する段階と、を含み、上記2次再結晶焼鈍する段階は昇温及び均熱段階を含み、上記昇温段階は1次昇温及び2次昇温を含み、上記1次昇温及び2次昇温時、1次昇温速度及び2次昇温速度は下記関係式3を満たし、上記1次昇温速度は5~15℃/hrであり、上記均熱時、1150℃以上で10時間以上維持することを特徴とする。
[関係式3]
(1次昇温速度)≧2×(2次昇温速度)
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によると、優れた低磁場特性及び高い磁束密度を同時に有する方向性電気鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る方向性電気鋼板について説明する。本発明の一方向性電気鋼板は、重量%で、Si:3.0~4.5%、Mn:0.05~0.2%、Al:0.015~0.035%、C:0.0015%以下(0%を除く)、N:0.0015%以下(0%を除く)、及びS:0.0015%以下(0%を除く)、残部はFe及びその他不可避な不純物からなり、下記関係式1及び2を満たす。
[関係式1]
(W13/50/W17/50)≦0.57
[関係式2]
(W15/50/W17/50)≦0.76
(但し、上記関係式1において、Wx/yは、印加磁場の大きさがx/10Tであり、周波数yHz条件での鉄損値を示す。)
本発明の方向性電気鋼板は、上記関係式1及び2を満たすことで、優れた低磁場鉄損の確保とともに、1.94T(tesla)以上の優れた磁束密度を確保することができ、その結果、優れた磁気特性を確保することができる。
【0011】
また、本発明の方向性電気鋼板は、圧延面を基準として粒径100mm以上の結晶粒が占める面積割合が20%以下であることが好ましい。ゴス方位の粒径が増加すると、磁区間隔が増加して低磁場での磁化特性が低下し、低磁場鉄損を悪化させる。特に、2次再結晶焼鈍段階で昇温速度が低下すると、コイル上部で温度勾配が生じて粒径100mm以上の粗大粒の分率が増加するが、このような粗大粒は、低磁場鉄損の劣化に大きな影響を及ぼす。したがって、圧延面を基準として粒径100mm以上の結晶粒が占める面積割合は、20%以下であることが好ましい。本発明で言及する圧延面とは、鋼板の板面を意味する。
【0012】
以下、本発明の方向性電気鋼板を製造するための方法について説明する。
本発明の方向性電気鋼板の製造方法は、重量%で、Si:3.0~4.5%、Mn:0.05~0.2%、Al:0.015~0.035%、C:0.005~0.1%、N:0.005%以下(0%を除く)、及びS:0.005%以下(0%を除く)、残部はFe及びその他不可避な不純物からなる鋼スラブを加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延板を得る段階と、上記熱延板を冷間圧延して冷延板を得る段階と、上記冷延板を1次再結晶焼鈍する段階と、上記1次再結晶焼鈍された冷延板を2次再結晶焼鈍する段階と、を含み、上記2次再結晶焼鈍する段階は昇温段階及び均熱段階を含み、上記昇温段階は1次昇温及び2次昇温を含み、上記1次昇温及び2次昇温時、1次昇温速度及び2次昇温速度は下記関係式3を満たし、上記1次昇温速度は5~15℃/hrであり、上記均熱段階は、1150℃以上で10時間以上維持することが好ましい。
[関係式3]
(1次昇温速度)≧2×(2次昇温速度)
【0013】
先ず、合金組成について説明する。以下に説明する方向性電気鋼板の合金組成の単位は、特に言及しない限り、重量%を意味する。
【0014】
Si:3.0~4.5%
シリコン(Si)は、電気鋼板の基本組成であり、素材の比抵抗を増加させて鉄損を改善する役割を果たす。Siが3.0%未満であると、比抵抗の減少に加えて渦電流損失が増加し、鉄損特性が劣化する欠点がある。一方、Siが4.5%を超えると、機械的特性である延性と靭性が減少し、圧延過程中に板破断発生率が著しく増加するだけでなく、商業的生産のための連続焼鈍時に板間溶接性が悪化して生産性が低下する欠点がある。したがって、上記Siの含量は3.0~4.5%の範囲を有することが好ましい。上記Si含量の下限は3.1%であることがより好ましく、3.3%であることがさらに好ましい。上記Si含量の上限は4.0%であることがより好ましく、3.8%であることがさらに好ましい。
【0015】
Mn:0.05~0.2%
マンガン(Mn)は、Siと同様に比抵抗を増加させて渦電流損失を減少させることで鉄損を低下させる元素であり、鋼中に存在するSと反応してMn系化合物を形成するか、又は、Al、Si及びNイオンと反応して(Al、Si、Mn)N型の窒化物を形成することにより、結晶粒成長抑制剤を形成する役割を果たす。上記Mnの含量が0.05%未満であると、上記効果を発揮することができず、0.2%を超えると、2次再結晶焼鈍中のオーステナイト相変態率が増加してゴス集合組織が激しく損傷し、磁気的特性が大きく低下する恐れがある。よって、上記Mnの含量は0.05~0.2%の範囲を有することが好ましい。上記Mn含量の下限は0.08%であることがより好ましく、0.1%であることがさらに好ましい。上記Mn含量の上限は0.18%であることがより好ましく、0.15%であることがさらに好ましい。
【0016】
Al:0.015~0.035%
アルミニウム(Al)は、脱炭窒化焼鈍過程で雰囲気ガスであるアンモニアガスによって導入されたNイオンと結合してAlN型の窒化物を形成するだけでなく、鋼中に固溶状態で存在するSi、Mn及びNイオンと結合して(Al、Si、Mn)N型の窒化物を形成することにより、結晶粒成長抑制剤を形成する役割を果たす。上記Alの含量が0.015%未満であると、上記効果を発揮することができず、上記Alの含量が0.035%を超えると、非常に粗大な窒化物が形成されるため、結晶粒成長抑制力が大きく低下する恐れがある。よって、Alの含量は0.015~0.035%の範囲を有することが好ましい。Al含量の下限は0.023%であることがより好ましく、0.028%であることがさらに好ましい。Al含量の上限は0.033%であることがより好ましく、0.031%であることがさらに好ましい。
【0017】
C:0.005~0.1%
炭素(C)は、オーステナイト安定化元素であり、スラブ中に添加されて、連鋳過程で発生する粗大な柱状組織を微細化し、Sのスラブ中心偏析を抑制する役割を果たす。また、冷間圧延中に鋼板の加工硬化を促進して、鋼板内に{110}<001>方位の2次再結晶の核生成を促進する役割も果たす。しかしながら、上記Cの含量が0.005%未満であると、上記効果を十分に発揮することができず、0.1%を超えると、鋼板内部の炭化物が増加して冷間圧延特性を劣化させる恐れがある。よって、Cの含量は0.005~0.1%の範囲を有することが好ましい。C含量の下限は0.03%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましい。C含量の上限は0.8%であることがより好ましく、0.65%であることがさらに好ましい。一方、最終的に得られる方向性電気鋼板に含まれるCは、磁気時効を起こして磁束密度及び低磁場特性を悪化させるため、電気鋼板の製造過程で脱炭焼鈍を経ることがよく、脱炭焼鈍後に最終的に得られる方向性電気鋼板中のC含量は0.0015%以下であることが好ましい。
【0018】
N:0.005%以下(0%を除く)
窒素(N)は、Si、Al及びMnと反応してAlN及び(Al、Si、Mn)Nなどの化合物を形成する重要な元素であり、スラブ中に0.005%以下の含量で含まれることができる。但し、上記Nの含量が0.005%を超えると、熱延後の工程で窒素拡散によるブリスター(blister)という表面欠陥を誘発するだけでなく、スラブ状態で窒化物が過度に多く形成されて圧延が難しくなり、製造コストを上昇させる原因となる。このため、上記Nの含量は0.005%以下(0%を除く)であることが好ましい。上記N含量の下限は0.002%であることがより好ましく、0.003%であることがさらに好ましい。上記N含量の上限は0.0045%であることがより好ましく、0.0040%であることがさらに好ましい。一方、ゴス集合組織の2次再結晶を形成するための窒化物の補強は、脱炭焼鈍工程でアンモニアガスを雰囲気ガスとして導入することでNイオンを鋼中に拡散させる窒化処理を施して補強する。さらに、上記Nも、磁気時効を起こす元素であって、磁束密度及び低磁場鉄損特性を劣化させる恐れがあるため、2次焼鈍工程で純化焼鈍を経ることがよく、純化焼鈍後に最終的に得られる方向性電気鋼板中のNの含量は0.0015%以下であることが好ましい。
【0019】
S:0.005%以下(0%を除く)
硫黄(S)は、製造工程上、不可避に含有される元素であり、その含量が0.005%を超えると、鋳造時にスラブ中心部に偏析して脆性を引き起こし、鋼中のMnと反応してMn系硫化物を形成し、微細組織の不均一化とともに圧延性の悪化を招く。よって、上記Sの含量は0.005%以下(0%を除く)であることが好ましい。上記Sの含量は0.0045%以下であることがより好ましく、0.004%以下であることがさらに好ましい。一方、上記Sも、磁気時効を起こす元素であるため、低磁場鉄損特性を改善するために2次焼鈍工程で純化焼鈍を経ることがよく、純化焼鈍後に最終的に得られる方向性電気鋼板中のS含量は0.0015%以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の方向性電気鋼板と上記方向性電気鋼板の製造方法に用いられる鋼スラブの残りの合金成分はFeであり、その他当該技術分野で不可避に含有される不純物を含むことができる。
【0021】
先ず、上記の合金組成を有する鋼スラブを加熱する。上記鋼スラブの加熱時、加熱温度は1000~1280℃であることがよい。上記加熱温度範囲に加熱することで、スラブの柱状晶組織が粗大に成長することを防止し、熱間圧延工程で板のクラックが発生することを防止することができる。上記鋼スラブの加熱温度が1280℃を超えると、上記効果が十分に得られず、1000℃未満であると、鋳造過程で形成された析出物がスラブ加熱過程で再固溶されず熱延後に非常に粗大な析出物を形成し、これによって組織制御が難しくなり、鉄損劣化を引き起こすという欠点がある。上記鋼スラブ加熱温度の下限は1050℃であることがより好ましく、1100℃であることがさらに好ましい。上記鋼スラブ加熱温度の上限は1250℃であることがより好ましく、1200℃であることがさらに好ましい。
【0022】
その後、加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延板を得る。本発明では、上記熱間圧延温度については特に限定されないが、当該技術分野で通常用いられる温度範囲を適用することができる。但し、一例として、上記熱間圧延時の仕上げ温度は950℃以下であることがよい。上記熱間圧延時の仕上げ温度が950℃を超えると、熱間圧延の終了後に相変態が起こり、集合組織の劣化を招くことがある。上記熱間圧延によって得られる熱延板は1.5~5.5mmの厚さを有することができる。
上記熱間圧延後には、上記熱延板を水冷してから600℃以下で巻取ることが好ましい。巻取り温度が600℃を超えると、鋼の内部に形成された析出物のサイズが大きくなり、磁性が悪化する恐れがある。
【0023】
一方、上記熱延板は、必要に応じて、熱延板焼鈍を行ってもよく、熱延板焼鈍を行わずに冷間圧延を行ってもよい。熱延板焼鈍を行う場合、均一な熱延組織のためには、900℃以上の温度に加熱し均熱した後、冷却する。
その後、上記熱延板を冷間圧延して冷延板を得る。上記冷間圧延には、リバース(Reverse)圧延機或いはタンデム(Tandom)圧延機を用いて1回の冷間圧延、複数回の冷間圧延、又は中間焼鈍を含む複数回の冷間圧延方法を用いることができる。上記冷間圧延によって得られる冷延板は0.1~0.5mmの厚さを有することがよい。また、上記冷間圧延中に鋼板の温度を100℃以上に維持する温間圧延を行うことができる。さらに、上記冷間圧延による最終圧下率は50~95%であることができる。
【0024】
次に、上記冷延板を1次再結晶焼鈍する。上記1次再結晶焼鈍段階ではゴス結晶粒の核が生成される1次再結晶が起こる。上記1次再結晶焼鈍過程で鋼板の脱炭及び窒化を行うことができる。脱炭及び窒化のために、水蒸気、水素及びアンモニアの混合ガス雰囲気下で1次再結晶焼鈍することがよい。上記1次再結晶焼鈍は、脱炭のために露点温度50~70℃の雰囲気で850~950℃の温度で行うことが好ましい。上記1次再結晶焼鈍時、露点温度が50℃未満であると、脱炭能が足りなく、鋼中の炭素を十分に除去することができない。一方、70℃を超えると、鋼板の表面にFe系の酸化層が多く生成し、最終製品の表面不良を誘発する恐れがある。上記1次再結晶焼鈍温度が850℃未満であると、再結晶粒が微細に成長して結晶成長駆動力が大きくなり、安定した2次再結晶が起こらない恐れがあり、950℃を超えると、再結晶粒が粗大に成長して結晶成長駆動力が低下し、安定した2次再結晶が起こらないことがある。一方、上記1次再結晶焼鈍時、焼鈍時間は、本発明で特に限定しないが、生産性を考慮して通常5分以内に制御することができる。上記1次再結晶焼鈍時、窒化のためにアンモニアガスを用いて鋼板にNイオンを導入することにより、主析出物である(Al、Si、Mn)N及びAlN等の窒化物を形成することができる。このような窒化処理は、脱炭及び再結晶を済ませた後に行う方法、脱炭と同時に窒化処理を行う方法、又は、窒化処理を行ってから脱炭焼鈍を行う方法のいずれも本発明の効果を発揮するのに問題がない。
その後、上記1次再結晶焼鈍された冷延板を2次再結晶焼鈍する。上記2次再結晶焼鈍は、上記1次再結晶焼鈍が終了した冷延板に焼鈍分離剤を塗布した後、焼鈍する方法により行うことができる。本発明では、上記焼鈍分離剤の種類については特に限定されず、例えば、MgOを主成分として含む焼鈍分離剤を用いることができる。
【0025】
上記2次再結晶焼鈍する段階は昇温及び均熱段階を含み、上記昇温段階は1次昇温及び2次昇温を含み、上記1次昇温及び2次昇温時、1次昇温速度及び2次昇温速度は下記関係式3を満たすことが好ましい。さらに、上記1次昇温速度は5~15℃/hrであり、上記1次昇温開始温度は700~800℃であり、上記2次昇温開始温度は1000~1100℃であり、上記2次昇温時昇温速度は7.5℃/hr以下であることが好ましい。
[関係式3]
(1次昇温速度)≧2×(2次昇温速度)
【0026】
昇温速度を2つの条件下で行う理由は、次の通りである。
昇温段階ではゴス方位の2次再結晶が起こり、昇温速度が遅いほど{110}<001>方位に近いゴス結晶が優先成長するにつれて集積度が増加して磁束密度は上昇するが、低温から2次再結晶が起こるため、ゴス方位の結晶サイズが増加し、低磁場特性は劣化する。したがって、AlN等のような析出物によってゴス結晶の成長が十分に行われない低温度範囲では昇温速度を高め、AlNが分解してゴス結晶の成長が十分に行われる高い温度範囲では昇温速度を下げることで、ゴス方位の集積度は高くしながら、ゴス方位の結晶サイズが粗大化することを抑制することが好ましい。
【0027】
このために、本発明では、上記のとおり、2次再結晶焼鈍時の昇温速度を2段階に分けているが、1次昇温開始温度は700~800℃に制御し、2次昇温開始温度は1000~1100℃に制御することが好ましい。上記1次昇温開始温度が700℃未満であると、焼鈍時間が長くなって生産性が低下する欠点があり、800℃を超えると、焼鈍分離剤に含まれている水分が十分に除去されていない状態で高温となり、表面品質の劣化を招く恐れがある。上記2次昇温開始温度が1000℃未満であると、ゴス結晶粒のサイズが粗大となって低磁場鉄損特性が劣化し、1100℃を超えると、昇温速度の変化前に既にゴス方位の成長が始まって集積度を制御できなくなり、高い磁束密度特性を得ることができない。
【0028】
上記1次昇温速度は5~15℃/hrであることが好ましい。上記1次昇温速度が5℃/hr未満であると、ゴス粒子の2次再結晶が非常に低い温度から起こり始め、ゴス結晶方位の集積度が劣化し、一方、15℃/hrを超えると、コイル内の温度勾配が大きくなり、粗大粒の分率が増加する恐れがある。また、関係式3のように、1次昇温速度が2次昇温速度よりも2倍以上高いことが好ましいが、もしそうでない場合は、低い昇温速度によってゴス方位結晶成長が盛んに行われ、安定した2次再結晶が起こらないことがある。
【0029】
上記2次再結晶焼鈍段階での均熱段階は、1150℃以上で10時間以上維持することがよい。上記均熱段階では、鋼中に分布して磁気時効を起こすC、N及びSを除去することを目的とし、低磁場特性を改善するためには、各成分の含量を0.0015重量%以下に下げる必要がある。上記均熱段階時、均熱温度が1150℃未満、又は、均熱時間が10時間未満であると、C、N及びSの含量制御が難しくなる恐れがある。
その後、必要に応じて、上記のように得られる方向性電気鋼板に対してその表面に絶縁被膜を形成してもよい。上記絶縁被膜の例としては、フォルステライト被膜を用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。但し、以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するための例示であり、本発明の権利範囲を限定するものではない。
(実施例1)
重量%で、Si:3.15%、C:0.052%、Mn:0.105%、Al:0.028%、N:0.0045%、及びS:0.0045%を含み、残部がFe及びその他不純物からなる鋼スラブを準備した。上記鋼スラブを1150℃で加熱し、さらに2.6mの厚さに熱間圧延して熱延板を製造した。この熱延板を1050℃以上の温度に加熱した後、910℃で90秒間維持し、水冷してから酸洗した。次いで、リバース(Reverse)圧延機を用いて、0.27mm厚さまで冷間圧延して冷延板を製造した。この冷延板を65℃の露点温度雰囲気で860℃で120秒間維持して1次再結晶焼鈍した。その後、MgOを塗布した後、コイル状に巻取った後、2次再結晶焼鈍した。このとき、2次再結晶焼鈍過程中、750℃から1210℃までの加熱時に1次及び2次昇温速度を下記表1のように制御し、1210℃で20時間維持する均熱を行った後、炉冷して方向性電気鋼板を製造した。
【0031】
このようにして製造された方向性電気鋼板の合金組成は、重量%で、Si:3.15%、C:0.0012%、Mn:0.105%、Al:0.028%、N:0.001%、及びS:0.001%を含んでいた。このようにして製造された方向性電気鋼板に対して磁束密度及び鉄損を測定し、下記表1に記載した。
磁気特性はEpstein測定法を用いて測定し、磁束密度は800A/mの磁場下で誘導される磁束密度の大きさ(Tesla)を測定し、鉄損は印加磁場の大きさが1.3T、1.5T、及び1.7Tであり、周波数50Hzの条件でそれぞれ測定した。
【0032】
【0033】
上記表1に示したとおり、2次再結晶焼鈍過程において昇温速度を2段階とし、1次及び2次昇温速度と2次昇温開始温度を本発明が特定する範囲に適切に調整した発明例1~5では、低磁場鉄損に優れるとともに、磁束密度(B
8
)が1.94T以上であることが確認できた。
これに対し、本発明が特定する条件を満たさない比較例1~9では、1.94T以上の磁束密度(B
8
)を確保できないか、又は、高い磁束密度(B
8
)にもかかわらず低磁場鉄損が劣位にあることが確認できた。
【0034】
(実施例2)
実施例1により製造された方向性電気鋼板の一部を20体積%濃度及び50℃に加熱された塩酸に10分間浸漬して表面に形成されたベースコーティングを除去した後、結晶粒径を測定して下記表2に記載した。
【0035】
【0036】
上記表2に」示したとおり、本発明が特定する条件を満たす発明例1~4では、圧延面を基準として粒径100mm以上の結晶粒(粗大粒)が占める面積割合が20%以下であったのに対し、本発明が特定する条件を満たさない比較例4及び7では、圧延面を基準として粒径100mm以上の結晶粒(粗対立)が占める面積割合が20%を超えていたことが確認できた。