(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】プレス成形のエネルギー算出プログラム、プレス成形のエネルギー算出方法及びプレス成形のエネルギー算出システム
(51)【国際特許分類】
B30B 15/00 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
B30B15/00 Z
(21)【出願番号】P 2023038474
(22)【出願日】2023-03-13
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】396012698
【氏名又は名称】株式会社理研計器奈良製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪森 進
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 一也
(72)【発明者】
【氏名】今沢 友哉
(72)【発明者】
【氏名】畑▲崎▼ 隆
(72)【発明者】
【氏名】久野 拓律
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特許第4843477(JP,B2)
【文献】特開2004-174558(JP,A)
【文献】特開昭58-047599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
フライホイール、スライド及びダイクッション装置を含むプレス装置における前記フライホイールからの駆動力が伝達されて上下動する前記スライドが下死点に位置する角度を含む所定角度範囲におけるスライド変位を取得する第1ステップと、
前記所定角度範囲において変化する荷重値を取得する第2ステップと、
前記所定角度範囲における所定角度に対応する、前記第1ステップで取得した前記スライド変位及び前記第2ステップで取得した前記荷重値により、前記スライド変位に対する前記荷重値を表す荷重ストローク線図を生成する第3ステップと、
前記荷重ストローク線図により、
下記の(1)式を用いてプレス成形で消費されたエネルギー
(EP)を算出する第4ステップと、
EP=E1-K・E2・・・(1)
EP;プレス成形で消費したエネルギー
E1;前記荷重ストローク線図における、荷重負荷開始から下死点までのエネルギー
E2;前記荷重ストローク線図における、下死点から荷重除荷までのエネルギー
K;前記ダイクッション装置により求められる効率
を実行させる、プレス成形のエネルギー算出プログラム。
【請求項2】
前記第1ステップは、前記スライドのストローク長さから前記スライド変位を算出する、請求項
1に記載のプレス成形のエネルギー算出プログラム。
【請求項3】
フライホイール、スライド及びダイクッション装置を含むプレス装置における前記フライホイールからの駆動力が伝達されて上下動する前記スライドが下死点に位置する角度を含む所定角度範囲におけるスライド変位を表すスライド変位線図及び前記所定角度範囲において変化する荷重値を表す荷重線図により、前記スライド変位に対する前記荷重値を表す荷重ストローク線図を作成し、前記荷重ストローク線図により、
下記(1)式を用いてプレス成形で消費されたエネルギー
(EP)を算出する、プレス成形のエネルギー算出方法。
E
P
=E
1
-K・E
2
・・・(1)
E
P
;プレス成形で消費したエネルギー
E
1
;前記荷重ストローク線図における、荷重負荷開始から下死点までのエネルギー
E
2
;前記荷重ストローク線図における、下死点から荷重除荷までのエネルギー
K;前記ダイクッション装置により求められる効率
【請求項4】
フライホイール、スライド及びダイクッション装置を含むプレス装置における前記フライホイールからの駆動力が伝達されて上下動する前記スライドが下死点に位置する角度を含む所定角度範囲におけるスライド変位を表すスライド変位線図を作成するスライド変位線図作成部と、
前記所定角度範囲において変化する荷重値を表す荷重線図を取得する荷重線図取得部と、
前記スライド変位線図及び前記荷重線図から前記スライド変位に対する前記荷重値を表す荷重ストローク線図を作成する荷重ストローク線図作成部と、
下記(1)式からプレス成形で消費されたエネルギー
(EP)を算出するエネルギー算出部と、
を有するプレス成形のエネルギー算出システム。
E
P=E
1-K・E
2・・・(1)
E
P;プレス成形で消費したエネルギー
E
1;前記荷重ストローク線図における、荷重負荷開始から下死点までのエネルギー
E
2;前記荷重ストローク線図における、下死点から荷重除荷までのエネルギー
K;
前記ダイクッション装置により求められる効率
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形のエネルギー算出プログラム、プレス成形のエネルギー算出方法及びプレス成形のエネルギー算出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への負荷を低減するため、プレス成形の分野においてもCO2排出量の削減が求められている。プレス成形においてどの程度のCO2が排出されているかは、プレス成形において消費されるエネルギーから算出することが考えられる。プレス成形において消費されるエネルギーを把握できれば、電力量に換算でき、公開されているCO2排出係数からCO2排出量を算出することができる。
【0003】
プレス成形において消費されるエネルギーの算出については、例えば、特許文献1には、プレス装置のスライドが上死点から下死点を通過して再び上死点に戻るまでの1サイクルにおけるプレス成形時の荷重波形の時間積分値から空打ち時の荷重波形の時間積分値を除してプレス成形に要するエネルギーを求め、プレス成形の異常判定に用いる技術が開示されている。荷重の測定は、プレス装置のコラム等のフレームにひずみゲージを貼着して行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来技術では、荷重波形の時間積分値からエネルギーを求めているとしているが、より具体的には、力積(単位:N・s)が求められていることとなる。しかしながら、CO2排出量の算出には、仕事(=エネルギー)(単位:N・m=J)から仕事率(単位:W=J/s)を求め、電力量(単位:kWh=kW×h)を求める必要がある。よって、上記の従来技術では、より精度の高いCO2排出量を求めることができなかった。
【0006】
本発明は、プレス成形におけるCO2排出量を精度よく求めることができるプレス成形におけるエネルギーを算出するプレス成形のエネルギー算出プログラム、プレス成形のエネルギー算出方法及びプレス成形のエネルギー算出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプレス成形のエネルギー算出プログラムは、コンピュータに、スライドが下死点に位置する角度を含む所定角度範囲におけるスライド変位を取得する第1ステップと、前記所定角度範囲において変化する荷重値を取得する第2ステップと、前記所定角度範囲における所定角度に対応する、前記第1ステップで取得した前記スライド変位及び前記第2ステップで取得した前記荷重値により、前記スライド変位に対する前記荷重値を表す荷重ストローク線図を生成する第3ステップと、前記荷重ストローク線図により、プレス成形で消費されたエネルギーを算出する第4ステップと、を実行させる。
【0008】
本発明のプレス成形のエネルギー算出方法は、スライドが下死点に位置する角度を含む所定角度範囲におけるスライド変位を表すスライド変位線図及び前記所定角度範囲において変化する荷重値を表す荷重線図により、前記スライド変位に対する前記荷重値を表す荷重ストローク線図を作成し、前記荷重ストローク線図により、プレス成形で消費されたエネルギーを算出する。
【0009】
本発明のプレス成形のエネルギー算出システムは、スライドが下死点に位置する角度を含む所定角度範囲におけるスライド変位を表すスライド変位線図を作成するスライド変位線図作成部と、前記所定角度範囲において変化する荷重値を表す荷重線図を取得する荷重線図取得部と、前記スライド変位線図及び前記荷重線図から前記スライド変位に対する前記荷重値を表す荷重ストローク線図を作成する荷重ストローク線図作成部と、下記(1)式からプレス成形で消費されたエネルギーを算出するエネルギー算出部と、を有する。
EP=E1-K・E2・・・(1)
EP;プレス成形で消費したエネルギー
E1;前記荷重ストローク線図における、荷重負荷開始から下死点までのエネルギー
E2;前記荷重ストローク線図における、下死点から荷重除荷までのエネルギー
K;効率
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プレス成形におけるCO2排出量を精度よく求めることができるプレス成形におけるエネルギーを算出するプレス成形のエネルギー算出プログラム、プレス成形のエネルギー算出方法及びプレス成形のエネルギー算出システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明が実施されるプレス成形を行うためのプレス装置の一例を示す、プレス機械の正面模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るシステム構成図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るスライド変位線図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るスライド変位線図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る荷重ストローク線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるプレス成形が行われるプレス装置10の模式図である。プレス装置10は、クラウン11、スライド12、ベッド13、コラム14を備えるプレス機械とされている。クラウン11及びベッド13は、略直方体状に形成される。プレス装置10は、4本のコラム14を備える。コラム14は、クラウン11、ベッド13間の4隅に配置されている。クラウン11、ベッド13及び4本のコラム14は、クラウン11から各コラム14の内部を通ってベッド13に挿通され、上下両端をナット17が螺合する4本のタイロッド15により固定されている。
【0013】
プレス装置10のクラウン11の内部には、フライホイール21と、フライホイール21を駆動するモータ20が設けられている。また、クラウン11の内部には、フライホイール21からの駆動力が伝達可能に接続されるクランク軸22が設けられている。クランク軸22の偏心部には、コンロッド23が接続される。コンロッド23は、クランク軸22とスライド12を連結する。スライド12は、クランク軸22の回転により、上下動するよう上下方向に摺動自在に設けられている。プレス装置10は、スライド12がクランクモーションで動作する。
【0014】
ベッド13には、ダイクッション装置30が設けられている。ダイクッション装置30は、クッションシリンダ31と、クッションシリンダ31の駆動軸に支持されるクッションパッド32を備える。複数のクッションピン33は、クッションパッド32によって支持される。ブランクホルダ34は、複数のクッションピン33によって支持されている。
【0015】
スライド12の下面には、プレス成形用の金型40の上型41が設けられる。ベッド13の上面には、ボルスタ16が設けられ、ボルスタ16の上面には金型40の下型42が設けられている。
図1では、プレス装置10のスライド12が下死点に位置している。
【0016】
また、プレス装置10には、荷重計50が設けられている。荷重計50は、ひずみゲージ51を有する。ひずみゲージ51は、コラム14に貼着されている。荷重計50は、ひずみゲージ51が伸長したときのひずみ量から、プレス成形において掛かる荷重を測定することができる。
【0017】
図2は、プレス成形のエネルギー算出システムとしての荷重計50の構成を示す。荷重計50は、制御部110を備える。制御部110は、ひずみゲージ51、記憶部120と、表示部130と、通信部140と、入力部150と接続されている。
【0018】
制御部110は、少なくとも1つのプロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)により構成され、記憶部120に記憶されるプログラムを読み出し、各種の処理を実行する。制御部110には、プレス成形のエネルギー算出プログラムにより、スライド変位線図作成部111、荷重線図取得部112、荷重ストローク線図作成部113、エネルギー算出部114とされる各機能部が構成される。
【0019】
記憶部120は、例えば、少なくとも1つのメモリとしてのフラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)等で構成される。記憶部120は、制御部110で実行される、プレス成形のエネルギー算出プログラムを含む、システムプログラムやアプリケーションプログラム及びこれらのプログラムの実行に必要なデータ等、例えば、プレス成形のエネルギー算出プログラムで用いられる効率K121の値が記憶されている。
【0020】
表示部130は、ディスプレイやプリンタ等の各種の出力機器で構成される。通信部140は、有線又は無線通信により、例えばパーソナルコンピュータ(PC)を含む各種の機器と通信し、データのやり取りや各種の制御を行うことができる。入力部150は、タッチキー等の各種の入力装置を含む。ひずみゲージ51からの計測値は、荷重値に変換されて制御部110に取り込まれる。
【0021】
プレス成形のエネルギー算出プログラムは、
図3のフローチャートに示す第1ステップS10~第4ステップS40の処理を備える。K値実測工程S50は、第4ステップS40におけるプレス成形で消費されるエネルギーを算出する際に用いられる効率K値を実測する工程である。
【0022】
第1ステップS10では、スライド12が下死点に位置する角度(クランク角度をいう。以下、単に「角度」ともいう。)を含む所定角度範囲におけるスライド変位を取得する。具体的には、プレス装置10はクランクモーションであることから、荷重計50は、ストローク長さ(クランク軸22の偏心量S)が入力されることで、
図4に示すように、横軸をクランク角度(deg)とし、縦軸をスライド変位(mm)とするスライド変位線
図200Aを制御部110のスライド変位線図作成部111により、作成する。
【0023】
ここで、本実施形態においては、第2ステップS20にて後述するが、荷重計50は、トリガ信号202がONする期間(荷重値を検出する期間)である所定角度範囲Tsdを設定すると、所定角度範囲Tsdに対応する所定時間範囲Tsにおける荷重値を出力する(
図6参照)。
【0024】
従って、本実施形態においては、荷重計50は、横軸をクランク角度(deg)、縦軸をスライド変位(mm)とする
図4のスライド変位線
図200Aを、横軸を時間(s)、縦軸をスライド変位(mm)とする
図5のスライド変位線
図200に変換する。この処理は、スライド変位線図作成部111で行われる。この変換は、設定されたプレス装置10の回転数(spm)と、ストローク長さ(mm)から導くことができる。本実施形態では、所定角度範囲Tsd(トリガ信号202がONする期間)を135度~225度とした。また、プレス装置10は、回転数が1(spm)でスライド12が動作し、ストローク長さは350(mm)である。すると、所定時間範囲Tsは、トリガ信号202がONされる時刻を0(s)として、0(s)~15(s)となる。下死点の時刻Tbは、7.5(s)となる。
【0025】
プレス装置10がクランクモーション以外(例えばナックルプレスのナックルモーション)のスライドモーションで作動する場合であっても、横軸をクランク角度(deg)としたスライド変位線図が既知であれば、荷重計50の記憶部120に記憶させておくことで、スライド変位線図作成部111により横軸を時間(s)としたスライド変位線
図200に変換することができる。また、プレス装置10にスライド12の変位を測定するスライド変位計を設けて、所定時間範囲Tsにおけるスライド12の変位を実測して作成しても良い。
【0026】
第2ステップS20では、所定時間範囲Tsにおいて変化する荷重値211を取得する。具体的には、制御部110の荷重線図取得部112により、計測した荷重値211から
図6に示す荷重線
図210を作成して取得する。荷重線
図210は、横軸を時間(s)、縦軸を荷重値(kN)で表される。
【0027】
なお、第1ステップS10と第2ステップS20は平行して処理することができる。また、第2ステップS20を先に行って、第1ステップS10を第2ステップS20の後に行ってもよい。
【0028】
第3ステップS30では、所定時間範囲Tsにおける所定時刻に対応する、第1ステップS10で取得したスライド変位201及び第2ステップS20で取得した荷重値211により、
図7に示す、スライド変位201に対する荷重値211を表す荷重ストローク線
図220を作成する。スライド変位線
図200及び荷重線
図210における横軸の時間(s)はクランク角度(deg)に対応している。よって、第3ステップS30では、所定角度範囲Tsdにおける所定角度範囲に対応する、スライド変位201及び荷重値211により荷重ストローク線
図220を作成する、といえる。荷重ストローク線
図220は、制御部110の荷重ストローク線図作成部113で作成される。
【0029】
荷重ストローク線
図220は、横軸をスライド変位(mm)、縦軸を荷重値(kN)で表される。荷重ストローク線
図220は、共に横軸を時間(sec)とするスライド変位線
図200(
図5)と荷重線
図210(
図6)から作成することができる。例えば、
図5において、スライド変位H1(mm)のときの時刻は、T1(sec)とT1'(sec)がある。一方、
図6において、時刻T1(sec)とT1'(sec)における荷重値211は、P1(kN)とP1'(kN)である。よって、
図7の荷重ストローク線
図220は、スライド変位201がH1(mm)のとき、荷重値211がP1(kN)とP1'(kN)の2点となる。すなわち、荷重ストローク線
図220では、スライド12が上死点から下死点に向かう方向の線
図221と、スライド12が下死点から上死点に向かう方向の線
図222が表される。
【0030】
第4ステップS40では、荷重ストローク線
図220により、プレス成形で消費されたエネルギーを算出する。プレス成形で消費されたエネルギーは、下記(1)式により算出することができる。
E
P=E
1-K・E
2・・・(1)
E
P;プレス成形で消費したエネルギー
E
1;荷重ストローク線
図220における、荷重負荷開始から下死点までのエネルギー
E
2;荷重ストローク線
図220における、下死点から荷重除荷までのエネルギー
K;効率
【0031】
具体的には、制御部110のエネルギー算出部114が式(1)からプレス成形で消費したエネルギー(E
P)を算出する。E
1;荷重ストローク線
図220における、荷重負荷開始から下死点までのエネルギーは、荷重ストローク線
図220において、線
図221と横軸、縦軸で囲まれる面積ES1で求めることができる。E
2;荷重ストローク線
図220における、下死点から荷重除荷までのエネルギーは、荷重ストローク線
図220において、線
図222と横軸、縦軸で囲まれる面積ES2で求めることができる。
【0032】
すなわち、線
図221は、スライド12が下降して、材料に塑性変形等が行われている期間であり、線
図222は、スライド12が上昇している期間である。スライド12が下降するとき、スライド12はダイクッション装置30を押し込む。従って、エネルギーE
1は、材料を塑性変形等させるエネルギーに加えてダイクッション装置30を押し込むためのエネルギーも含まれる。その他、スライド12の摺動に伴うエネルギー消費等も含まれる。
【0033】
スライド12が上昇するとき、プレス装置10では、ダイクッション装置30によりスライド12が上方に押し戻される。また、スライド12が上昇するとき、フライホイール21にエネルギーが回生される。すなわち、線
図222の期間に生じている荷重は、ダイクッション装置30等によりスライド12を押し戻す際に生じている荷重であるといえる。
【0034】
従って、エネルギーE1からエネルギーE2を減ずることによって、プレス成形によって消費されるエネルギーEPを算出することができる。
【0035】
エネルギーE
2は、効率Kを乗ずることで、更に正確な値とすることができる。効率Kは、下死点から上死点の間に、スライド12を上方に押す力が現実にどの程度作用しているかの割合を示している。本実施形態においては、下死点から上死点の間にスライド12を上方に押す力は、ダイクッション装置30により作用する。従って、本実施形態において効率Kは、ダイクッション装置30が上方に押す力を実測して求めることができる(
図3のK値実測工程S50)。具体的には、以下の手順で求めることができる。
【0036】
プレス装置10のモータ20が電圧200(V)で動作するものとする。そして、モータ20の一次側の電流値を測定する(測定電流値AK)。プレス成形は行わず、スライド12は作動させている状態(プレス装置10が無負荷の状態で動いている)の測定電流値AKは55(A)であるとする。
【0037】
また、ダイクッション装置30は、能力が10(kN)であり、プレス成形により100(mm)ストロークさせるものとする。このとき消費されるエネルギーEcは、
Ec=10(kN)×0.1(m)=1(kN・m)=1(kJ)
となる。プレス装置10のスライド12が20(spm)で動作すると、その仕事率Wcは、
Wc=1(kJ)×20回/60(s)≒0.33(kJ/s)=0.33(kW)
となる。0.33(kW)が示す電流値は、330(W)/200(V)=1.65(A)となる。
【0038】
プレス成形を行わずに、スライド12が上死点から下死点を通過して上死点に戻る一工程の間にダイクッション装置30のみを押した場合における、上死点に戻ったときの測定電流値AKが、仮に55(A)であれば、上死点から下死点までに消費されるダイクッション装置30をスライド12が押すエネルギーは下死点から上死点に戻る間にダイクッション装置30がスライド12を上方に押す力により完全に回復しているので、効率K=1となる。
【0039】
プレス成形を行わずに、スライド12の一工程の間にダイクッション装置30のみを押した場合における、上死点に戻ったときの測定電流値AKが、仮に56.65(A)(=55(A)+1.65(A))であれば、上死点から下死点までに消費されるダイクッション装置30をスライド12が押すエネルギーは、下死点から上死点に戻る間にダイクッション装置30がスライド12を上方に押す力により全く回復されていないので、効率K=0となる。
【0040】
測定電流値AKが55(A)のときには効率K=1、測定電流値AKが56.65(A)のときには効率K=0であることから、一次関数を用いて、次の式(2)を導くことができる。
K=-AK/1.65+34.33 ・・・(2)
【0041】
このようにして、プレス成形を行わず、ダイクッション装置30を作動させるようにスライド12を一工程動かして、そのときの測定電流値AKから効率Kを求めることができる。なお、効率Kの算出は、生産(プレス成形)を行う際のプレス装置10の回転数やダイクッション装置30のクッション能力を用いると、より精度の高い効率Kを算出することができる。
【0042】
また、本実施形態においては、荷重計50は、荷重線図として、時間(時刻)(s)におけるプレス荷重(kN)を出力して取得するものとしたが、クランク角度(deg)におけるプレス荷重(kN)を出力して取得することもできる。この場合には、
図4のスライド変位線
図200Aと、クランク角度(deg)を横軸とした荷重線図により荷重ストローク線
図220を作成することができる。
【0043】
このように、プレス成形のエネルギー算出方法は、スライド12が下死点に位置する角度を含む所定角度範囲Tsd(換言すれば、下死点の時刻Tbを含む所定時間範囲Ts)におけるスライド変位201を表すスライド変位線
図200及び所定角度範囲Tsd(換言すれば、所定時間範囲Ts)において変化する荷重値211を表す荷重線
図210により、スライド変位201に対する荷重値211を表す荷重ストローク線
図220を作成し、荷重ストローク線
図220により、プレス成形で消費されたエネルギーを算出する。そして、プレス成形で消費されたエネルギーE
Pは、(1)式を用いて算出され、効率Kは、ダイクッション装置30により求めることができる。
【0044】
プレス成形で消費されたエネルギーEPは、電力と等価であるので、エネルギーEPにプレス成形を行った時間を乗ずることで電力量を算出することができる。1(kWh)あたりのCO2排出量は、公表されているので、電力量からCO2排出量を算出することができる。例えば、東京電力エナジーパートナーでは、1(kWh)の使用で、0.447kgのCO2が排出されるとされている。
【0045】
このようにして、プレス成形におけるCO2排出量を精度よく算出することができるので、CO2排出量を削減することができるプレス成形の研究が促進され、環境負荷の削減に貢献することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は本実施形態により限定されることはなく、種々の変更を加えて実施することができる。例えば、プレス装置10は、本実施形態ではフライホイール21やダイクッション装置30を備えたプレス機械を例としたが、これに限定されることはなく、例えばサーボモータを用いたサーボプレスでもよい。サーボプレスでは、コンデンサにより電気が蓄えられる。よって、ダイクッション装置により下死点から上死点に戻る間にスライドが押し上げられると、コンデンサに電気が蓄えられる場合がある。
【0047】
また、スライドを下死点から上死点に戻る間に上方に押し上げる装置は、ダイクッション装置30に限られず、弾性部材を備えた構造(金型内のバネやガスクッション等)とする他の構造の装置であっても良い。また、プレス成形のエネルギー算出システムは、本実施形態では荷重計50としたが、PC(パーソナルコンピュータ)を用いて構成することもできる。
【符号の説明】
【0048】
10 プレス装置 11 クラウン
12 スライド 13 ベッド
14 コラム 15 タイロッド
16 ボルスタ 17 ナット
20 モータ 21 フライホイール
22 クランク軸 23 コンロッド
30 ダイクッション装置 31 クッションシリンダ
32 クッションパッド 33 クッションピン
34 ブランクホルダ 40 金型
41 上型 42 下型
50 荷重計 51 ゲージ
100 システム 110 制御部
111 スライド変位線図作成部 112 荷重線図取得部
113 荷重ストローク線図作成部 114 エネルギー算出部
120 記憶部 130 表示部
140 通信部 150 入力部
200 スライド変位線図
201 スライド変位 202 トリガ信号
210 荷重線図 211 荷重値
220 荷重ストローク線図 221 線図
222 線図
【要約】
【課題】精度よくプレス成形におけるエネルギーを算出する。
【解決手段】プレス成形のエネルギー算出プログラムは、コンピュータに、スライド12が下死点に位置する時刻Tbを含む所定時間範囲Tsにおけるスライド変位を取得する第1ステップS10と、所定時間範囲Tsにおいて変化する荷重値を取得する第2ステップS20と、所定時間範囲Tsにおける所定時刻に対応する、第1ステップS10で取得したスライド変位及び第2ステップS20で取得した荷重値により、スライド変位に対する荷重値を表す荷重ストローク線図を生成する第3ステップS30と、荷重ストローク線図により、プレス成形で消費されたエネルギーを算出する第4ステップS40と、を実行させる。
【選択図】
図3