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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】加工方法および加工機
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20240404BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B23Q17/09 C
B23Q17/09 H
G05B19/18 X
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023085995
(22)【出願日】2023-05-25
【審査請求日】2023-12-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】末兼 勇汰
(72)【発明者】
【氏名】本江 隆人
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-064128(JP,A)
【文献】特開昭63-212447(JP,A)
【文献】特開平11-320201(JP,A)
【文献】特開2000-263378(JP,A)
【文献】特開2004-130407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q17/00-17/24
G05B19/18-19/416
G05B19/42-19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを加工しない状態で、加工送り開始点から加工終了点まで主軸が延びる方向に前記主軸を加工条件で送ったときの、前記主軸の参照推力を測定し、
前記加工送り開始点から前記加工終了点までを分割した複数の区間のそれぞれに対して、前記参照推力に基づいて、送り座標に対応する閾値を決定し、
前記ワークをドリル加工又はタップ加工しながら、前記送り座標に対応する前記主軸の加工推力を測定し、
前記送り座標に対して、前記加工推力と前記閾値とを比較
前記閾値は、折損閾値、及び/又は、戻し閾値を含む、
加工方法。
【請求項2】
前記参照推力に、フィルタ処理を実行し、
前記主軸の先端に取り付けた工具が前記ワークに接触する加工開始点をあらかじめ記憶し、
前記加工開始点から、前記フィルタ処理に対応する遅れ時間に相当する遅れ距離だけ前記主軸が進んだ後に、前記加工推力と前記閾値とを比較する、
請求項に記載の加工方法。
【請求項3】
前記参照推力に、フィルタ処理を実行し、
前記主軸の先端に取り付けた工具が前記ワークに接触する加工開始時を予め記憶し、
前記加工開始時から、前記フィルタ処理に対応する遅れ時間だけ経過後に、前記加工推力と前記閾値とを比較する、
請求項1又は2に記載の加工方法。
【請求項4】
前記閾値は、前記参照推力に予め定められた閾値オフセット量を加算して決定される、
請求項1又は2に記載の加工方法。
【請求項5】
前記参照推力は、前記ワークを加工しない状態における、前記主軸の送り軸の参照トルクであり、
前記加工推力は、前記送り軸の加工トルクである、
請求項1又は2に記載の加工方法。
【請求項6】
前記閾値は、折損閾値であり、
前記送り座標に対応する前記加工推力が前記折損閾値以下である推力未達時間が、予め定められた折損判定時間以上になったときに、加工開始時から工具が折損していたと判定する、
請求項1又は2に記載の加工方法。
【請求項7】
前記閾値は、戻し閾値であり、
前記送り座標に対応する前記加工推力が前記戻し閾値以上になったときに、前記主軸を前記加工送り開始点まで引き戻し、その後に再び前記主軸を送り加工する、
請求項1又は2に記載の加工方法。
【請求項8】
前記送り座標に対応する前記加工推力が前記戻し閾値以上となる推力超過時間が、予め定められた戻し判定時間以上になったときに、前記主軸を前記加工送り開始点まで引き戻す、
請求項に記載の加工方法。
【請求項9】
主軸を送る送り装置と、
前記主軸の推力を計測する推力計測装置と、
記憶装置であって、
ワークを加工しない状態で、加工送り開始点から加工終了点まで前記主軸が延びる方向に前記主軸を加工条件で送ったときに測定される、前記主軸の参照推力と、
送り座標に対応する閾値と、
を格納する記憶装置と、
前記加工送り開始点から前記加工終了点までを分割した複数の区間のそれぞれに対して、前記参照推力に基づいて、前記閾値を決定する閾値決定手段と、
前記ワークを加工しながら計測される、前記送り座標に対応する前記主軸の加工推力と、前記閾値とを比較する判定手段と、
を有する、加工機。
【請求項10】
前記閾値は、折損閾値であり、
前記判定手段は、前記送り座標に対応する前記加工推力が、前記折損閾値以下であるか否かを判別する、
請求項に記載の加工機。
【請求項11】
前記記憶装置は、折損判定時間を格納し、
前記判定手段は、前記加工推力が前記折損閾値以下である推力未達時間を計測するタイマーを有し、前記推力未達時間が前記折損判定時間以上となったときに、加工開始時から工具が折損していたと判定
前記閾値は、折損閾値、及び/又は、戻し閾値を含む、
請求項10に記載の加工機。
【請求項12】
前記閾値は、戻り閾値であり、
前記判定手段は、前記加工推力が、前記戻り閾値以上であるか否かを判別し、
前記加工推力が前記戻り閾値以上となったときに、前記主軸を前記加工送り開始点まで引き戻し、その後に再び前記主軸を送り加工する送り制御手段を更に有する、
請求項11のいずれかに記載の加工機。
【請求項13】
前記記憶装置は、戻し判定時間を格納し、
前記判定手段は、前記加工推力が前記戻り閾値以上となる推力超過時間を計測するタイマーを有し、前記推力超過時間が前記戻し判定時間以上となったときに、前記主軸を前記加工送り開始点まで引き戻す、
請求項12に記載の加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工方法および加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
サーボアンプで制御されるサーボモータにより穴あけ工具の送りを行なうNC穴あけ装置の工具折損検出方法が知られている(例えば、特開平05-329750号公報)。この工具折損検出方法では、入力したトルク信号電圧が閾値電圧を超えた状態の継続時間が、予め設定した時間を超えた時に、工具の折損を検出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
小径穴を加工する場合には、加工抵抗や工具折損時に生ずる送り軸への負荷が小さい。また、送り座標によって、送り軸の推力が変動する場合がある。
本発明は、小径穴を加工する際に、工具折損や加工点における推力変動を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の観点は、
ワークを加工しない状態で、加工送り開始点から加工終了点まで主軸を加工条件で送ったときの、前記主軸の参照推力を測定し、
前記参照推力に基づいて、送り座標に対応する閾値を決定し、
前記ワークを加工しながら、前記送り座標に対応する前記主軸の加工推力を測定し、
前記送り座標に対して、前記加工推力と前記閾値とを比較する、
加工方法である。
【0005】
本発明の第2の観点は、
主軸を送る送り装置と、
前記主軸の推力を計測する推力計測装置と、
記憶装置であって、
ワークを加工しない状態で、加工送り開始点から加工終了点まで前記主軸を加工条件で送ったときに測定される、前記主軸の参照推力と、
送り座標に対応する閾値と、
を格納する記憶装置と、
前記参照推力に基づいて、前記閾値を決定する閾値決定手段と、
前記ワークを加工しながら計測される、前記送り座標に対応する前記主軸の加工推力と、前記閾値とを比較する判定手段と、
を有する、加工機である。
【0006】
閾値は、折損閾値や戻し閾値を含む。
加工条件は、例えば、加工送り開始点や、加工終了点や、送り速度や、主軸回転速度や、工具番号によって規定される。
【0007】
送り装置が回転軸やモータを有する場合、参照推力は、参照トルクに置き換えて良い。この場合、加工推力は、加工トルクに置き換えて良い。
【0008】
フィルタは、例えば、ローパスフィルタである。
遅れ時間は、元の信号波形が立ち上がる時から、フィルタ処理した信号波形が立ち上がるまでの時間である。ここで、元の信号波形は、参照推力や、加工推力を含む。
【0009】
加工推力と閾値との比較は、工具がワークに接触する時から、遅れ時間が経過した時に開始しても良い。
【0010】
工具がワークに近づいていくときに、工具とワークが接触するときの工具や主軸の位置を加工開始点とする。工具がワークに近づいていくときに、工具とワークが接触する時を加工開始時とする。
遅れ時間は、フィルタによって決定される時定数によって定まる。遅れ時間に対応する送り座標の増加分を、遅れ座標とする。遅れ座標は、遅れ時間と、送り速度や加速度によって定まる。工具がワークに接触する位置である加工開始点の送り座標から遅れ座標を加算された座標から、加工推力と閾値との比較を開始しても良い。
環境温度や、加工機の温度や、累積運転時間や、ワークの材質に基づいて、折損閾値や戻し閾値を決定しても良い。また、環境温度や、加工機の温度や、累積運転時間や、ワークの材質に基づいて、折損オフセット量や戻しオフセット量を決定しても良い。環境温度や、加工機の温度や、累積運転時間や、ワークの材質を引数とする関数に基づいて、折損閾値や戻し閾値や、折損オフセット量や戻しオフセット量を決定しても良い。
【0011】
加工方法は、例えば、穴あけ加工、タップ加工、フライス加工、エンドミル加工である。加工方法は、穴あけ加工やタップ加工に特に好適に適用できる。
【0012】
加工機は、例えば、マシニングセンタ、穴あけ機である。穴あけ機は、例えば、タップ加工機である。
主軸は、主軸頭やラムに回転可能に支持される。主軸は、主軸頭やラムを介して、送り装置によって送られる。送り装置は、例えば、ボールねじ・モータ機構、シリンダ、リニアモータである。モータや、リニアモータは、サーボ式でも良い。シリンダは、例えば、エアシリンダや電動シリンダである。
推力計測装置は、例えば、トルクセンサ、モータアンプ、ひずみゲージである。モータアンプは、例えば、サーボアンプである。推力計測装置は、トルク計測装置でもよい。例えば、ひずみゲージは、ラムや送りテーブルに装着される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小径穴を加工する際に、工具折損や加工点における推力変動を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の加工機の概略構成図
図2】本実施形態の送り座標に対する送り座標、参照トルク及び閾値
図3】本実施形態の加工方法を示すフローチャート
図4】本実施形態の加工時間に対する送り座標、参照トルク及び閾値
図5】本実施形態の順調加工時における加工時間に対する送り座標、加工トルク及び閾値
図6】本実施形態の工具折損時における加工時間に対する送り座標、加工トルク及び閾値
図7】本実施形態のステップフィード時における加工時間に対する送り座標、加工トルク及び閾値
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態の穴あけ機について説明する。
図1に示すように、本実施形態の穴あけ機10は、送り装置11と、ラム16と、主軸17と、主軸モータ18と、ラムガイド19と、制御装置30と、を有する。主軸17が延びる方向(主軸方向)をZ方向とする。Z方向は、ワーク3から主軸17が離れる方向を正とする。
送り装置11は、送りモータ12と、送りねじ13と、送りテーブル15と、を有する。
送りモータ12は、送りねじ13に接続される。送りモータ12は、送りねじ13を介して、送りテーブル15をZ方向に往復する。送りモータ12は、例えば、サーボモータである。
【0016】
ラム16は、送りテーブル15に接続される。ラム16は、主軸17を回転可能に支持する。ラム16は、ラムガイド19に案内される。主軸17には、工具1が装着される。主軸17は、主軸モータ18と接続される。
【0017】
制御装置30は、記憶装置31と、送り制御手段35と、判定手段37と、閾値決定手段39と、を有する。制御装置30は、例えば、サーボアンプや、プログラマブルコントローラで構成される。プログラマブルコントローラは、数値制御装置である。プログラマブルコントローラは、シーケンス制御装置を有する。
【0018】
記憶装置31は、参照トルク(参照推力)Tr0と、加工トルク(加工推力)Tr1と、加工プログラム31cと、折損閾値Th1と、戻し閾値Th2と、折損判定時間tm0と、戻し判定時間tm2と、折損オフセット量o1と、戻しオフセット量o2と、を格納する。記憶装置31は、原点Z0や加工開始点Z2や加工開始時t2を格納しても良い。
【0019】
図1に示すように、加工プログラム31cは、加工送り開始点Z1や、加工終了点Z3を含む。加工プログラム31cは、送り速度(不図示)や、主軸回転速度(不図示)や、工具番号(不図示)を含んでも良い。加工条件は、例えば、加工送り開始点Z1や、加工終了点Z3や、送り速度(不図示)や、主軸回転速度(不図示)や、工具番号(不図示)によって規定される。
加工プログラム31cは、例えば、以下の4つのステップを有する。第1ステップにおいて、加工プログラム31cは、主軸17を主軸回転速度で回転させる。第2ステップにおいて、加工プログラム31cは、工具1の先端が原点50(Z=Z0)から加工送り開始点51(Z=Z1)に到達するまで、主軸17を早送りする。第3ステップにおいて、加工プログラム31cは、工具1の先端が加工終了点53(Z=Z3)に到達するまで、主軸17を送り速度で加工送りする。第4ステップにおいて、加工プログラム31cは、主軸17を原点50まで早送りする。
【0020】
参照トルクTr0は、工具1がワーク3を加工しないときにおける、座標(送り座標)Zに関連する送りモータ12のトルク(推力)Trである。ここで、トルクTrは、例えば、実際の測定値(単位:Nm)や、定格トルクに対する割合(単位:%)である。
図2の上半分に示すように、参照トルクTr0は、実参照トルクTr0aと、処理後参照トルクTr0bと、を有して良い。実参照トルクTr0aは、座標Zに対する実際のトルク値である。処理後参照トルクTr0bは、実参照トルクTr0aをフィルタ処理した値である。
【0021】
図4に示すように、参照トルクTr0は、実参照トルクTr0cと、処理後参照トルクTr0dと、座標Zaと、を有しても良い。実参照トルクTr0cは、時間(加工時間)tに対する実際のトルクTrである。処理後参照トルクTr0dは、実参照トルクTr0cをフィルタ処理した値である。参照トルクTr0は、早送りトルクTr0jを含んでも良い。早送りトルクTr0jは、送りテーブル15が早送りされるときのトルクTrである。座標Zaは、時間tに対する座標Zである。
なお、記憶装置31は、折損閾値Th1や戻し閾値Th2を演算するために、参照トルクTr0を一時的に格納しても良い。
【0022】
加工トルクTr1は、工具1がワーク3を加工したときの、座標Zに対する送りモータ12のトルクTrの値である。
図2の下半分に示すように、加工トルクTr1は、実加工トルクTr1aと、処理後加工トルクTr1bと、を有しても良い。実加工トルクTr1aは、座標Zに対する実際のトルク値である。処理後加工トルクTr1bは、実加工トルクTr1aをフィルタ処理した値である。
【0023】
図5図7に示すように、加工トルクTr1は、実加工トルクTr1c、Tr1e、Tr1gと、処理後加工トルクTr1d、Tr1f、Tr1hと、座標Zaと、を有しても良い。実加工トルクTr1c、Tr1e、Tr1gは、時間tに対する実際のトルクTrの値である。処理後加工トルクTr1d、Tr1f、Tr1hは、実加工トルクTr1c、Tr1e、Tr1gをそれぞれフィルタ処理した値である。加工トルクTr1は、早送りトルクTr1jを含んでも良い。早送りトルクTr1jは、送りテーブル15が早送りされるときのトルクTrである。
なお、記憶装置31は、実加工トルクTr1a,Tr1c、Tr1e、Tr1gや早送りトルクTr1jを格納しなくても良い。また、記憶装置31は、加工トルクTr1を一時的に格納しても良い。
【0024】
図2の上半分に示すように、折損閾値Th1は、座標Zに対するトルクTrの閾値である。加工送り幅(Z3-Z1)は、複数の区間55に等間隔に分割される。各区間55に対して、折損閾値Th1が設定される。ここで、加工送り幅とは、加工プログラム31cで定められた、主軸17が加工送りされる距離である。区間55の幅は、非常に小さくてもよい。極端な場合、区間55の幅は、送り座標Zの最小単位でも良い。
折損閾値Th1は、参照トルクTr0と、工具1がワーク3を順調に加工している時の加工トルクTr1との間に設定される。ここで、工具1が折損したり、加工中に生成された切りくずによって工具1が送られなくなったりせず、加工が進むことを、工具1がワーク3を順調に加工する状態とする。
【0025】
戻し閾値Th2は、座標Zに対するトルクTrの閾値である。戻し閾値Th2は、折損閾値Th1よりも大きい。戻し閾値Th2は、工具1がワーク3を順調に加工している時の加工トルクTr1と、工具1が折損する時の加工トルクTr1との間に設定される。その他の点については、戻し閾値Th2は、折損閾値Th1と実質的に同一である。
【0026】
折損判定時間tm0と、戻し判定時間tm2と、折損オフセット量o1と、戻しオフセット量o2は、外部から予め入力される。
なお、折損閾値Th1と戻し閾値Th2のいずれか一方と、折損判定時間tm0と、戻し判定時間tm2とは、省いても良い。また、折損オフセット量o1と戻しオフセット量o2のいずれか一方は、省いても良い。
【0027】
送り制御手段35は、フィルタ処理手段35aと、トルク計測手段(推力計測装置)35bと、送り手段35cとを有する。
フィルタ処理手段35aは、実参照トルクTr0a,Tr0cにフィルタ処理を行い、処理後参照トルクTr0b、Tr0dを得る。フィルタ処理手段35aは、実加工トルクTr1a、Tr1c、Tr1e、Tr1gにフィルタ処理を行い、処理後加工トルクTr1b、Tr1d、Tr1f、Tr1hを得る。フィルタは、例えば、ローパスフィルタである。
【0028】
ここで、実参照トルクTr0a,Tr0cや、実加工トルクTr1a、Tr1c、Tr1e、Tr1gは、工具1の刃先とワーク3との断続的な接触や、構成刃先の成長および切断や、切りくずの生成や、切りくずとワーク3や工具1との摩擦抵抗や、送り装置11やラム16の送り抵抗や、ラム16のたわみにより変動する。実参照トルクTr0a,Tr0cや、実加工トルクTr1a、Tr1c、Tr1e、Tr1gは、高い周波数を含んで振動する。処理後参照トルクTr0b、Tr0dや、処理後加工トルクTr1b、Tr1d、Tr1f、Tr1hは、高周波部分が除かれたなだらかな波形を有する。
【0029】
フィルタ処理手段35aは、処理後参照トルクTr0b、Tr0dや、処理後加工トルクTr1b、Tr1d、Tr1f、Tr1hを記憶装置31に格納する。
トルク計測手段35bは、時間tに対する座標ZやトルクTrを計測し、記憶装置31に格納する。
送り手段35cは、送りモータ12に電力を供給し、回転させる。送り手段35cは、送りモータ12をフィードバック制御する。送り手段35cは、加工プログラム31cに従って、送りモータ12や主軸モータ18を制御する。
【0030】
判定手段37は、処理後加工トルクTr1b、Tr1d、Tr1f、Tr1hを折損閾値Th1や戻し閾値Th2と比較する。判定手段37は、タイマー37aを有して良い。タイマー37aは、折損閾値Th1以下の加工トルクTr1が継続するトルク未達時間(推力未達時間)tm1を計測する。また、タイマー37aは、戻し閾値Th2以上の加工トルクTr1が継続するトルク超過時間(推力超過時間)tm3を計測する。
【0031】
閾値決定手段39は、処理後参照トルクTr0b、Tr0dと、折損オフセット量o1と、戻しオフセット量o2に基づいて、折損閾値Th1や戻し閾値Th2を決定する。具体的には、図2に示すように、閾値決定手段39は、加工送り幅(Z3-Z1)を予め定めた分割数又は区間幅で複数の区間55に分割する。そして、閾値決定手段39は、処理後参照トルクTr0bの各区間55の代表値に折損オフセット量o1を加算して、折損閾値Th1を得る。閾値決定手段39は、処理後参照トルクTr0bの各区間55の代表値に戻しオフセット量o2を加算して、戻し閾値Th2を得る。ここで、代表値は、例えば、平均値や、最大値や、最小値や、区間55の初期値である。
【0032】
なお、閾値決定手段39は、環境温度や、加工機の温度や、累積運転時間や、ワークの材質を引数とする関数に基づいて、折損閾値Th1や戻し閾値Th2を決定しても良い。この場合、記憶装置31は、環境温度や、加工機の温度や、累積運転時間や、ワークの材質を格納しても良い。また、閾値決定手段39は、環境温度や、加工機の温度や、累積運転時間や、ワークの材質に基づいて、折損オフセット量o1や戻しオフセット量o2を決定しても良い。
【0033】
図1及び図3に従って、本実施形態の加工方法を説明する。ステップS1において、ワーク3が設置されない状態で、穴あけ機10を加工プログラム31cに従って運転させる。トルク計測手段35bは、座標Zに対する参照トルクTr0を取得する。閾値決定手段39は、折損閾値Th1や戻し閾値Th2を決定し、記憶装置31に格納する。
【0034】
次いで、ワーク3を設置し、穴あけ機10を加工プログラム31cに従って運転させる。ここで、主軸モータ18は、主軸17を回転させる。ステップS2において、工具1が加工送り開始点51に到達するまで、主軸17を早送りする。ステップS3において、工具1が加工終了点53に到達するまで、主軸17を加工送りする。主軸17が加工送りされている間、ステップS4~S10の監視プロセスが常時、繰り返して実行される。この間、トルク計測手段35bは、加工トルクTr1と座標Zを常時取得する。また、この間、判定手段37は、加工トルクTr1を常時監視する。
【0035】
ステップS4において、加工トルクTr1が折損閾値Th1以下になると、ステップS5に進む。それ以外の場合、ステップS7へ進む。ステップS5において、タイマー37aは、トルク未達時間tm1(図6参照)を計測する。トルク未達時間tm1が折損判定時間tm0以上となると、ステップS6へ進む。それ以外の場合、ステップS7へ進む。ステップS6において、判定手段37は、アラームを発信する。その後、ステップS11へ進む。
【0036】
ステップS7において、加工トルクTr1が戻し閾値Th2以上となると、ステップS8へ進む。それ以外の場合、ステップS10へ進む。ステップS8において、トルク超過時間tm3が戻し判定時間tm2以上になると、ステップS9へ進む。それ以外の場合、ステップS10へ進む。
ステップS9において、送り手段35cは、加工送り開始点51まで主軸17を一旦早送りで引き戻す。次いで、引戻し位置Z5(図7参照)よりわずかに高い座標(Z=Z6、図7参照)まで早送りする。ここで、引戻し位置Z5は、主軸17を引戻した位置である。その後、ステップS3へ戻る。
ステップS10において、工具1が加工終了点53に到達すると、ステップS11へ進む。ステップS11において、主軸17は、原点50まで早送りで戻る。
【0037】
ステップS1は、定期的に実行されて良い。例えば、ステップS2~S11の実加工を指定回数(例えば、5000回)実行する毎に、ステップS1が実行されて良い。また、指定時間(例えば、30分)毎に、ステップS1が実行されても良い。
なお、ステップS7~S9を省いても良い。ステップS4~S6を省いても良い。折損判定時間tm0が省かれた場合、ステップS5は省かれる。戻し判定時間tm2が省かれた場合、ステップS8は省かれる。
【0038】
図1及び図4を参照して、ステップS1を詳しく説明する。ステップS1では、ワーク3が設置されない他、実際の加工と同じ条件で、穴あけ機10を駆動する。つまり、穴あけ機10は、加工プログラム31cに従って動作する。トルク計測手段35bは、加工開始(t=t0)から、加工終了(t=t3)まで、時間tに対する座標Zと参照トルクTr0を記録する。図4において、t0≦t≦t1において、工具1が原点50から加工送り開始点51に到達するまでの早送りを示す。この間、早送りトルクTr0jは、高いピークを示す。t1≦t≦t3において、主軸17が加工送り開始点51から加工終了点53まで加工送りされる。フィルタ処理手段35aは、実参照トルクTr0cをフィルタ処理して、処理後参照トルクTr0dを得る。フィルタ処理手段35aは、実参照トルクTr0cや処理後参照トルクTr0dや座標Zaを、記憶装置31に格納する。
【0039】
閾値決定手段39は、折損閾値Th1や戻し閾値Th2を決定するに際し、早送りトルクTr0jを除去する。言い換えると、Z0≦Z≦Z1において、折損閾値Th1や戻し閾値Th2は与えられない。
【0040】
図5図7を参照して、実際の加工プロセスについて説明する。実際の加工は、ステップS2~ステップS11に対応する。
図5は、順調に加工が進んだときの加工トルクTr1と座標Zaを示す。t0≦t≦t1において、ステップS2が実行される。主軸17は、原点50(Z=Z0)から、加工送り開始点51(Z=Z1)まで早送りされる。
次いで、ステップS3が実行される。すると、主軸17は、加工終了点53を終点として加工送りされる。
【0041】
t=t2において、工具1がワーク3に接触し、実加工トルクTr1cが急激に上昇する。このときの位置を加工開始点52(図1参照)という。加工開始点52の座標Zは、Z2である。処理後加工トルクTr1dは、実加工トルクTr1cから遅れて上昇する。加工開始時(t=t2)から処理後加工トルクTr1dが上昇するまでの時間を、遅れ時間tdという。ここで、加工開始時t2は、工具1が加工開始点52に到達した時である。遅れ時間tdは、フィルタによって決定される時定数によって定まる。遅れ時間tdに対応する送り座標の増加分を、遅れ座標Zdという。遅れ座標Zdは、遅れ時間tdと、送り速度(不図示)や加速度(不図示)によって定まる。
【0042】
判定手段37は、加工開始点(Z=Z2)から遅れ座標Zdだけ進むまでの間、ステップS4を実行しない。なお、判定手段37は、加工開始時t2から遅れ時間tdを経過するまでの間、ステップS4の実行を止めても良い。
加工開始時t2は、座標Z1と、加工開始点52の座標Z2と、送り速度(不図示)と、加速度(不図示)によって定まる。
【0043】
判定手段37は、処理後加工トルクTr1dが上昇した時(t=t2+td)から、ステップS4~S10を実行する。図5に示すように、加工中の処理後加工トルクTr1dが、折損閾値Th1以上(ステップS4でN)であり、かつ、戻し閾値Th2以下である(ステップS7でN)場合、ステップS3,S4,S7,S10を繰り返し実行する。主軸17が加工終了点53に到達すると(ステップS10でY)、ステップS11が実行される。そして、加工が完了する。
【0044】
図6は、加工開始から工具1が折損しているときにおける、時間tに対する加工トルクTr1と座標Zaを示す。工具1が折損しているため、時間t2において主軸17が本来の加工開始点52に到達しても、工具1はワーク3に接触しない。そのため、実加工トルクTr1eや処理後加工トルクTr1fは、参照トルクTr0と実質的に同一である。そして、処理後加工トルクTr1fは、加工開始(t=t2)から遅れ時間tdを経過しても、折損閾値Th1まで上昇しない(ステップS4でY)。ここで、タイマー37aは、トルク未達時間tm1の計測を開始する。トルク未達時間tm1が折損判定時間tm0以上になったとき(ステップS5でY)、判定手段37は、工具1が折損したと判断する(ステップS6)。
【0045】
なお、加工トルクTr1の折損閾値Th1への到達が遅れた場合(ステップS4でY)であっても、比較的短時間で加工トルクTr1が上昇する場合がある。ステップS5において、トルク未達時間tm1が折損判定時間tm0未満となると(ステップS5でN)、ステップS7へ進み、引き続き加工を続ける。
【0046】
図7は、工具1が折損しておらず(ステップS4でN)、かつ、ステップフィードが実行された(ステップS7でY)ときにおける、時間tに対する加工トルクTr1と座標Zaを示す。ステップS2~S3は、前述のとおり実行される。加工が進むにつれて、実加工トルクTr1gや処理後加工トルクTr1hが緩やかに上昇する。処理後加工トルクTr1hが戻し閾値Th2未満の間、加工送りを継続する(ステップS4でN,ステップS7でN)。
【0047】
処理後加工トルクTr1hが戻し閾値Th2を超えると、タイマー37aは、トルク超過時間tm3を計測する。トルク超過時間tm3が戻し判定時間tm2以上になると、ステップS9が実行される。このとき、時間t=t5において、座標Zが引戻し位置(Z=Z5)である。送り手段35cは、主軸17を加工送り開始点51(Z=Z1)まで早送りする。ここで、切りくずが排出される。次いで、送り手段35cは、Z=Z6まで主軸17を早送りする。この時、Z6はZ5よりわずかに大きいため、工具1は、ワーク3に接触しない。その後、送り手段35cは、加工終了点53に向けて、再び主軸17を加工送りする(ステップS3)。主軸17は、順調に加工終了点53に到達する(Z=Z3)と、ステップS11が実行される。
【0048】
なお、加工トルクTr1が一旦戻し閾値Th2を超えた場合であっても、ごく短時間で戻し閾値Th2を下回る場合がある。ステップS8において、トルク超過時間tm3が戻し判定時間tm2以上とならない場合(ステップS8のN)と、ステップS10へ進む。この場合、ステップS9のステップフィードを実行せずに、引き続き加工送りを継続する。
【0049】
本実施形態の穴あけ機10によって、小径ドリルや小径タップによる穴あけ加工を行うときは、切削抵抗が非常に小さい。そして、加工時における送りモータ12の加工トルクTr1と、非加工時における送りモータ12の参照トルクTr0との差は、非常に小さい。また、参照トルクTr0は、加工点の変化や、ラム16のたわみ、送りテーブル15の送り抵抗によって変動する。ラム16は、ラム16や主軸17に作用する重力によってたわむ。ラム16のたわみは、経時変化により増大する場合がある。ラム16がたわむと、ラム16とラムガイド19との摺動抵抗が増加する。また、参照トルクTr0や加工トルクTr1は、加工条件やラム16の送り出し量によって変動する。
参照トルクTr0や加工トルクTr1の変動量と経時変化量が切削抵抗に対して大きいときには、加工トルクTr1と閾値との比較により、工具折損やステップフィードのタイミングを制御することは困難である。
【0050】
本実施形態の加工方法によれば、制御装置30が、加工条件や座標Zに応じて参照トルクTr0を取得し、折損閾値Th1や戻し閾値Th2を決定する。すると、折損閾値Th1や戻し閾値Th2には、加工条件や、経時変化や、ラム16の送り出し量に対する摺動抵抗や、送りねじ13の抵抗の位置に対する変動などが盛り込まれている。そのため、本実施形態の加工方法によれば、切削抵抗が非常に小さく、加工トルクTr1や参照トルクTr0の変動が大きい場合であっても、工具1の折損や加工点の変化を適切に検出できる。
【0051】
本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
3 ワーク
17 主軸
51、Z1 加工送り開始点
53、Z3 加工終了点
Th1 折損閾値
Th2 戻し閾値
Tr0 参照トルク(参照推力)
Tr1 加工トルク(加工推力)
Z 送り座標
【要約】
【課題】小径穴を加工する際に、工具折損や加工点におけるトルク変動を検出する。
【解決手段】ワーク3を加工しない状態で、加工送り開始点Z1から加工終了点Z3まで主軸17を加工条件で送ったときの、主軸17の参照推力Tr0を測定し、参照推力Tr0に基づいて、送り座標Zに対応する閾値Th1,Th2を決定し、ワーク3を加工しながら、送り座標Zに対応する主軸17の加工推力Tr1を測定し、送り座標Zに対して、加工推力Tr1と閾値Th1,Th2とを比較する、加工方法。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7