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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
F04C18/02 311M
F04C18/02 311P
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023531332
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2021025201
(87)【国際公開番号】W WO2023276157
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-12-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯島 遼太
(72)【発明者】
【氏名】松永 和行
【審査官】田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05366359(US,A)
【文献】特開平06-101660(JP,A)
【文献】特開平02-009973(JP,A)
【文献】特開2009-024664(JP,A)
【文献】特開2018-017211(JP,A)
【文献】特開昭62-000682(JP,A)
【文献】特開平01-273890(JP,A)
【文献】特開昭59-079086(JP,A)
【文献】特開平04-175486(JP,A)
【文献】特開昭64-063679(JP,A)
【文献】特開平06-173866(JP,A)
【文献】特開昭63-159689(JP,A)
【文献】特開平09-112455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、
固定子及び回転子を有し、前記密閉容器に収容される電動機と、
前記回転子と一体で回転するシャフトと、
渦巻状の固定ラップを有する固定スクロールと、
鏡板に設けられる渦巻状の旋回ラップを有し、前記固定ラップと前記旋回ラップとの間に圧縮室を形成する旋回スクロールと、
前記シャフトを前記旋回スクロールに対して回転自在に軸支する旋回軸受と、
前記シャフトの挿通孔を有し、前記固定スクロールを支持するフレームと
前記挿通孔に設置され、前記シャフトの端部を回転自在に軸支する主軸受と、を備えるとともに、
前記フレームと前記鏡板との間に設けられ、前記シャフトとともに回転する旋回バランスウェイトを備え、
前記シャフトと前記旋回バランスウェイトとが嵌合しており、
前記シャフト側の第1嵌合部と、前記旋回バランスウェイト側の第2嵌合部と、の間に隙間が設けられ、
前記シャフトの前記端部には、前記シャフトの中心軸線に対して偏心している偏心穴が設けられ、
前記電動機の駆動に伴って、前記旋回軸受が前記偏心穴の内周面に接触し、
前記主軸受及び前記旋回軸受の軸方向の設置領域が部分的に重なっている二重軸受構造であり、
前記旋回バランスウェイトは、その上面及び下面が前記シャフトの中心軸線に対して垂直な板状を呈している、スクロール圧縮機。
【請求項2】
前記旋回スクロールにおいて、前記鏡板の一方側に前記旋回ラップが設けられ、前記鏡板の他方側に旋回軸が設けられ、
前記旋回軸受が設置された状態の前記旋回軸が、前記偏心穴に嵌合しており、
前記旋回バランスウェイトは、前記偏心穴から前記旋回軸受が露出している部分の径方向外側に設けられること
を特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記シャフトの前記端部には、前記旋回スクロール側に突出する突起部が前記第1嵌合部として設けられ、
前記旋回バランスウェイトには、前記突起部に嵌合する孔又は溝が前記第2嵌合部として設けられること
を特徴とする請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記旋回軸受と前記旋回バランスウェイトとの間の隙間の径方向の長さよりも、前記第2嵌合部の内壁面と前記突起部との間の隙間の径方向の長さの方が長いこと
を特徴とする請求項3に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記旋回スクロールと前記フレームとの間の空間を、前記シャフトの中心軸線の方向から見て前記シャフトの前記挿通孔を含む第1領域と、前記第1領域の径方向外側の第2領域と、に仕切る隔壁部材を備えること
を特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記隔壁部材は、
前記シャフトの中心軸線の方向から見て環状を呈し、前記旋回軸受を囲む環状部と、
前記環状部の外周縁から前記フレーム側に延びる周壁と、を備え、
前記周壁の縁部は、前記フレームに当接していること
を特徴とする請求項5に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記隔壁部材における前記旋回スクロール側の面、及び/又は、前記鏡板における前記隔壁部材側の面には、前記第1領域から前記第2領域に潤滑油を導く溝が設けられること
を特徴とする請求項6に記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】
前記旋回バランスウェイトと前記鏡板との間の隙間に設けられる環状の第1シール部材を備えるとともに、
前記旋回バランスウェイトと前記フレームとの間の隙間に設けられる環状の第2シール部材を備えること
を特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機を備えるとともに、室外熱交換器と、膨張弁と、室内熱交換器と、を備える冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機等に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機の構成として、旋回スクロールに旋回軸を設け、この旋回軸に旋回軸受を設置するとともに、旋回軸受の径方向外側のフレームに主軸受を設置する、いわゆる二重軸受構造のものが知られている。このような二重軸受構造のスクロール圧縮機として、例えば、特許文献1には、シャフトの上部に径の拡大した主軸部を設け、この主軸部に旋回軸受を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5018832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように二重軸受構造にすることで、旋回スクロールとバランスウェイトとの間の距離が短くなるため、バランスウェイトの重量を小さくできる他、特に高速運転時の遠心力によるクランク軸のたわみを抑制できる。
【0005】
しかしながら、高速運転時には、旋回スクロールの遠心力の増加に伴って、旋回軸受への荷重も増加する。特許文献1に記載の技術では、このような旋回軸受への荷重の増加を抑制することは困難である。旋回軸受への過負荷を抑制し、スクロール圧縮機の信頼性をさらに高めることが望まれるが、そのような技術については特許文献1には記載されていない。
【0006】
そこで、本発明は、信頼性の高いスクロール圧縮機等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係るスクロール圧縮機は、密閉容器と、固定子及び回転子を有し、前記密閉容器に収容される電動機と、前記回転子と一体で回転するシャフトと、渦巻状の固定ラップを有する固定スクロールと、鏡板に設けられる渦巻状の旋回ラップを有し、前記固定ラップと前記旋回ラップとの間に圧縮室を形成する旋回スクロールと、前記シャフトを前記旋回スクロールに対して回転自在に軸支する旋回軸受と、前記シャフトの挿通孔を有し、前記固定スクロールを支持するフレームと、前記挿通孔に設置され、前記シャフトの端部を回転自在に軸支する主軸受と、を備えるとともに、前記フレームと前記鏡板との間に設けられ、前記シャフトとともに回転する旋回バランスウェイトを備え、前記シャフトと前記旋回バランスウェイトとが嵌合しており、前記シャフト側の第1嵌合部と、前記旋回バランスウェイト側の第2嵌合部と、の間に隙間が設けられ、前記シャフトの前記端部には、前記シャフトの中心軸線に対して偏心している偏心穴が設けられ、前記電動機の駆動に伴って、前記旋回軸受が前記偏心穴の内周面に接触し、前記主軸受及び前記旋回軸受の軸方向の設置領域が部分的に重なっている二重軸受構造であり、前記旋回バランスウェイトは、その上面及び下面が前記シャフトの中心軸線に対して垂直な板状を呈していることとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性の高いスクロール圧縮機等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
図2】第1実施形態に係るスクロール圧縮機を図1のII-II線で切断した場合の横断面図である。
図3】第1実施形態に係るスクロール圧縮機の旋回スクロール、旋回軸受、旋回バランスウェイト、及びクランク軸の上端部を含む分解斜視図である。
図4】第1実施形態に係るスクロール圧縮機において、図1に示す領域K1を部分的に拡大し、各部材に生ずる力を示した説明図である。
図5】第1実施形態に係るスクロール圧縮機の回転速度と荷重との関係を示す説明図である。
図6】第2実施形態に係るスクロール圧縮機において、図1に示す領域K1に相当する部分を拡大した縦断面図である。
図7】第2実施形態に係るスクロール圧縮機の旋回スクロール、旋回軸受、旋回バランスウェイト、隔壁部材、シール部材、及びクランク軸の上端部を含む分解斜視図である。
図8】第2実施形態の変形例に係るスクロール圧縮機の隔壁部材の斜視図である。
図9】第3実施形態に係るスクロール圧縮機において、図1に示す領域K1に相当する部分を拡大した縦断面図である。
図10】第3実施形態に係るスクロール圧縮機の旋回スクロール、旋回軸受、旋回バランスウェイト、シール部材、及びクランク軸の上端部を含む分解斜視図である。
図11】第4実施形態に係る空気調和機の冷媒回路の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪第1実施形態≫
<スクロール圧縮機の構成>
図1は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機100の縦断面図である。
図1に示すスクロール圧縮機100は、ガス状の冷媒を圧縮する機器である。図1に示すように、スクロール圧縮機100は、密閉容器1と、圧縮機構部2と、クランク軸3(シャフト)と、電動機4と、オルダムリング5と、バランスウェイト6a,6bと、を備えている。また、スクロール圧縮機100は、前記した構成の他に、固定部材7と、サブフレーム8と、下軸受9と、脚10と、電源端子11と、主軸受12と、旋回軸受13と、旋回バランスウェイト14と、を備えている。
【0011】
密閉容器1は、圧縮機構部2、クランク軸3、電動機4等を収容する殻状の容器であり、略密閉されている。密閉容器1には潤滑油が封入され、密閉容器1の底部に油溜りR1として貯留されている。密閉容器1は、円筒状の筒チャンバ1aと、この筒チャンバ1aの上側を塞ぐ蓋チャンバ1bと、筒チャンバ1aの下側を塞ぐ底チャンバ1cと、を備えている。
【0012】
図1に示すように、密閉容器1の蓋チャンバ1bには、吸入パイプP1が差し込まれて固定されている。吸入パイプP1は、圧縮機構部2の吸入ポートJ1に冷媒を導く管である。また、密閉容器1の筒チャンバ1aにおいて、フレーム21よりも下側の所定箇所には、吐出パイプP2が差し込まれて固定されている。吐出パイプP2は、圧縮機構部2で圧縮された冷媒をスクロール圧縮機100の外部に導く管である。
【0013】
圧縮機構部2は、クランク軸3の回転に伴って冷媒を圧縮する機構である。圧縮機構部2は、フレーム21と、固定スクロール22と、旋回スクロール23と、を備え、密閉容器1内の上部空間に配置されている。
【0014】
フレーム21は、固定スクロール22を支持する部材であり、密閉容器1の内部に固定されている。具体的には、フレーム21は、筒チャンバ1aに溶接等で固定されている。フレーム21には、クランク軸3(シャフト)が挿通される挿通孔H1が設けられている。
固定スクロール22は、次に説明する旋回スクロール23とともに圧縮室S1を形成する部材である。固定スクロール22は、フレーム21の上側に設置され、このフレーム21にボルトB1で締結されている。図1に示すように、固定スクロール22は、台板22aと、固定ラップ22bと、を備えている。
【0015】
台板22aは、平面視で円形状を呈する肉厚の部材である。なお、固定ラップ22bに対して旋回ラップ23bが旋回する領域S2(下面視で円形状の領域)を確保するために、台板22aの下面の中心付近が上側に所定に凹んでいる。また、吸入パイプP1を介して冷媒を導く吸入ポートJ1が、台板22aに設けられている。
固定ラップ22bは、渦巻状を呈し、前記した領域S2において台板22aから下側に延びている。なお、台板22aの下面(領域S2の径方向外側の部分の下面)と、固定ラップ22bの下端と、は略面一になっている。
【0016】
旋回スクロール23は、その移動(旋回)によって、固定スクロール22との間に圧縮室S1を形成する部材であり、フレーム21と固定スクロール22との間に設けられている。旋回スクロール23は、円板状の鏡板23aと、この鏡板23aに立設される渦巻状の旋回ラップ23bと、鏡板23aの中央付近から下側に延びる旋回軸23cと、を備えている。つまり、旋回スクロール23において、鏡板23aの上側(一方側)に旋回ラップ23bが設けられ、鏡板23aの下側(他方側)に旋回軸23cが設けられている。
【0017】
旋回ラップ23bは、固定ラップ22bとともに圧縮室S1を形成する部材である。旋回軸23cは、円柱状を呈し、クランク軸3の上端部3bの偏心穴H2に嵌合している。そして、渦巻状の固定ラップ22bと、渦巻状の旋回ラップ23bと、が噛み合うことで、固定ラップ22bと旋回ラップ23bとの間に圧縮室S1が形成されるようになっている。なお、圧縮室S1は、ガス状の冷媒を圧縮する空間であり、旋回ラップ23bの外線側・内線側にそれぞれ形成される。固定スクロール22の台板22aの中心付近には、圧縮室S1で圧縮された冷媒を密閉容器1内の上部空間S3に導く吐出ポートJ2が設けられている。
【0018】
クランク軸3(シャフト)は、電動機4の回転子4bと一体で回転する軸であり、上下方向に延びている。図1に示すように、クランク軸3は、主軸部3aと、上端部3bと、下軸部3cと、給油ピース3dと、を備えている。クランク軸3は、その上端部3bが主軸受12によって軸支されるとともに、下軸部3cが下軸受9によって軸支されている。
【0019】
主軸部3aは、電動機4の回転子4bに同軸で固定され、この回転子4bと一体で回転する。上端部3bは、主軸部3aから上側に延びている部分であり、上側に開口した有底円筒状を呈している。クランク軸3(シャフト)の上端部3b(端部)には、クランク軸3の中心軸線Z1に対して偏心している偏心穴H2が設けられている。言い換えると、横断面視で円形状を呈する偏心穴H2の中心軸線(図示せず)は、クランク軸3(主軸部3a等)の中心軸線Z1に対して偏心している。
【0020】
また、旋回軸受13が設置された状態の旋回軸23cが、偏心穴H2に嵌合している。なお、偏心穴H2の内周面と旋回軸受13との間には、潤滑油が入り込むように、径方向で微小な隙間が設けられている。そして、電動機4の駆動に伴い、主軸部3aに対して旋回軸23cが偏心しながら回転するようになっている。
【0021】
クランク軸3(シャフト)の上端部3b(端部)には、上側(旋回スクロール23側)に突出する突起部31b(図2も参照)が「第1嵌合部」として設けられている。詳細については後記するが、突起部31bは、旋回バランスウェイト14の嵌合孔H3(図1には符号を図示せず、図2参照)に嵌め込まれている。
【0022】
クランク軸3の下軸部3cは、下軸受9によって軸支される部分であり、主軸部3aの下側に延びている。給油ピース3dは、密閉容器1の油溜りR1から潤滑油を吸い上げる部分であり、下軸部3cから下側に細長く延びている。なお、容積型ポンプや遠心ポンプ等が給油ピース3dに設けられるようにしてもよい。
【0023】
図1に示すように、クランク軸3(つまり、主軸部3a、上端部3b、下軸部3c、及び給油ピース3d)には、潤滑油を導く給油流路3eが設けられている。そして、密閉容器1に油溜りR1として貯留されている潤滑油が、給油流路3eを介して上昇し、上端部3bの偏心穴H2に導かれるようになっている。また、給油流路3eは、下軸受9や主軸受12、旋回軸受13等にも潤滑油が供給されるように、所定に分岐している。
【0024】
電動機4は、クランク軸3を回転させる駆動源であり、軸方向においてフレーム21とサブフレーム8との間に設けられている。図1に示すように、電動機4は、固定子4aと、回転子4bと、を備えている。固定子4aは、巻線41aを有し、筒チャンバ1aの内周面に固定されている。回転子4bは、固定子4aの径方向内側で回転自在に配置されている。回転子4bには、その中心軸線Z1と同軸となるように、クランク軸3が圧入等で固定されている。
【0025】
オルダムリング5は、旋回軸23cの偏心回転を受けて、旋回スクロール23を自転させることなく公転(旋回)させる輪状部材である。図1に示すように、オルダムリング5は、フレーム21と旋回スクロール23との間に設けられている。具体的には、オルダムリング5は、旋回スクロール23の下面に形成された溝(符号は図示せず)に設置されるとともに、フレーム21に形成された溝(図示せず)に設置されている。
バランスウェイト6a,6bは、スクロール圧縮機100の振動を抑制するための部材である。図1の例では、主軸部3aにおいて回転子4bの上側にバランスウェイト6aが設置され、また、回転子4bの下面に別のバランスウェイト6bが設置されている。
【0026】
固定部材7は、サブフレーム8の位置を固定する部材であり、密閉容器1の内周面に溶接等で固定されている。サブフレーム8は、下軸受9が設置される部材であり、固定部材7にボルトB2で締結されている。サブフレーム8には、クランク軸3が挿通される孔(符号は図示せず)が設けられている。下軸受9は、クランク軸3の下軸部3cを回転自在に軸支するものであり、サブフレーム8の孔の内周面に設置されている。
【0027】
複数の脚10は、密閉容器1を支持する部材であり、底チャンバ1cに設置されている。電源端子11は、電動機4への電力供給に用いられる端子である。この電源端子11は、筒チャンバ1aに設置され、電動機4の巻線41aに電気的に接続されている。
【0028】
主軸受12は、クランク軸3の上端部3bをフレーム21に対して回転自在に軸支するものであり、フレーム21の挿通孔H1に圧入等で固定されている。このような主軸受12として、例えば、円筒状の滑り軸受が用いられる。
旋回軸受13は、クランク軸3(シャフト)の上端部3bを旋回スクロール23に対して回転自在に軸支するものであり、旋回軸23cの外周面に圧入等で固定されている。このような旋回軸受13として、例えば、円筒状の滑り軸受が用いられる。
【0029】
図1に示すように、主軸受12と旋回軸受13とは、軸方向において設置領域が部分的に重なっている。このような二重軸受構造にすることで、主軸受12からクランク軸3への力の作用点と、旋回軸受13からクランク軸3への力の作用点と、の間の軸方向の距離を短くすることができる。したがって、クランク軸3を傾斜させるモーメントが生じることを抑制し、ひいては、クランク軸3のたわみや片当たりを抑制できる。また、二重軸受構造にすることで、クランク軸3の長さが短くて済むため、スクロール圧縮機100の小型化・低コスト化を図ることができる。
【0030】
図1に示す旋回バランスウェイト14は、旋回軸受13に作用する荷重を低減するための部材であり、フレーム21と鏡板23aとの間に設けられている。つまり、旋回バランスウェイト14は、フレーム21と旋回スクロール23との間の空間に収まるように設置されている。なお、旋回バランスウェイト14の位置関係について別の観点で説明すると、クランク軸3と鏡板23aとの間に旋回バランスウェイト14が設けられている、ともいえる。
【0031】
前記したように、旋回軸受13が設置された状態の旋回軸23cが偏心穴H2に嵌合しているが、旋回軸受13の上端部は、偏心穴H2から露出している。そして、偏心穴H2から旋回軸受13が露出している部分(旋回軸受13の上端部)の径方向外側に、旋回バランスウェイト14が設けられている。このような旋回バランスウェイト14を含む構成について、図2を用いて詳細に説明する。
【0032】
図2は、スクロール圧縮機を図1のII-II線で切断した場合の横断面図である。
なお、図2では、密閉容器1(図1参照)やオルダムリング5(図1参照)、フレーム21(図1参照)等の図示を省略している。また、図2には、クランク軸3の中心軸線Z1や、旋回軸23cの中心軸線Z2の他、旋回バランスウェイト14の重心G1も図示している。
【0033】
図2に示すように、旋回軸23cの中心軸線Z2を基準として、横断面視で円形状の孔H4が、旋回バランスウェイト14に設けられている。なお、旋回バランスウェイト14の孔H4の径は、旋回軸受13の外径よりもわずかに大きい。つまり、旋回バランスウェイト14の孔H4の内周面と、旋回軸受13の外周面と、の間には、径方向で微小な隙間(符号は図示せず)が設けられている。このような微小な隙間を設けることで、旋回軸23cや旋回軸受13に対して、旋回バランスウェイト14が周方向で相対的に移動可能になっている。言い換えると、旋回バランスウェイト14が、旋回軸受13によって回転自在に軸支されている。
【0034】
旋回バランスウェイト14は、旋回軸23cの「偏心側」に対して反対側の領域に、横断面視で半円形状の錘部14aを有している。なお、前記した旋回軸23cの「偏心側」(つまり、図1の偏心穴H2の偏心側)とは、クランク軸3の中心軸線Z1に対して、旋回軸23cの中心軸線Z2が偏心している側(図2の紙面右側)のことである。つまり、旋回バランスウェイト14の重心G1は、クランク軸3の中心軸線Z1を基準として、旋回軸23cの中心軸線Z2の反対側に位置している。これによって、旋回スクロール23の遠心力の一部が旋回バランスウェイト14で相殺されるため、旋回軸受13への荷重を低減できる。
【0035】
また、クランク軸3(シャフト)と旋回バランスウェイト14とが嵌合している。すなわち、旋回バランスウェイト14の錘部14aには、クランク軸3の突起部31b(第1嵌合部:図1も参照)に嵌合する孔である嵌合孔H3が、「第2嵌合部」として設けられている。また、クランク軸3(シャフト)側の「第1嵌合部」である突起部31bと、旋回バランスウェイト14側の「第2嵌合部」である嵌合孔H3と、の間に隙間が設けられている。より詳しく説明すると、図2に示すように、嵌合孔H3の内壁面と突起部31bとの間には、クランク軸3の中心軸線Z1を基準(中心)として、径方向の隙間C1,C2が設けられている。突起部31bの径方向外側の隙間C1、及び、突起部31bの径方向内側の隙間C2は、それぞれ、旋回バランスウェイト14の孔H4の周壁面と旋回軸受13との間の微小な隙間(符号は図示せず)よりも十分に大きくなるように形成されている。
【0036】
言い換えると、旋回軸受13と旋回バランスウェイト14との間の隙間の径方向の長さよりも、嵌合孔H3(第2嵌合部)の内壁面と突起部31bとの間の隙間C1,C2のそれぞれの径方向の長さの方が長くなっている。これによって、旋回バランスウェイト14を径方向に動かそうとする力(ガス荷重や遠心力)が作用した場合、旋回軸受13が孔H4の周壁面に接触し、それ以上の移動が規制される。このように、旋回バランスウェイト14から旋回軸受13に径方向の力が直接的に作用するようにしている。
なお、クランク軸3の中心軸線Z1を基準(中心)とする周方向においても、嵌合孔H3の内壁面と突起部31bとの間には、わずかな隙間が設けられている。つまり、クランク軸3の中心軸線Z1に対して垂直な方向(径方向・周方向を含む横方向)において、嵌合孔H3の内壁面と突起部31bとの間には、所定の隙間が設けられている。
【0037】
図3は、旋回スクロール23、旋回軸受13、旋回バランスウェイト14、及びクランク軸3の上端部3bを含む分解斜視図である。
なお、図3では、旋回スクロール23や旋回軸受13については、クランク軸3の中心軸線Z1(図1参照)を含む所定平面(図示せず)で切断したものを図示している。
前記したように、クランク軸3の上端部3bには、上側に突出する突起部31bが設けられている。一方、旋回バランスウェイト14には、突起部31bが嵌め込まれる嵌合孔H3が設けられている。
【0038】
電動機4(図1参照)の駆動に伴ってクランク軸3が回転すると、突起部31bが周方向に移動するため、嵌合孔H3の内壁面を周方向(突起部31bが回転する際の接線方向)に押す力が作用する(図2も参照)。その結果、旋回バランスウェイト14がクランク軸3とともに回転する。つまり、旋回バランスウェイト14は、クランク軸3と一体的に同期回転(回転角が等しくなるように回転)する。
【0039】
また、図1に示す電動機4の駆動でクランク軸3が回転すると、これに伴って、上端部3bの偏心穴H2に嵌合している旋回軸23cが旋回する。その結果、固定スクロール22と旋回スクロール23との間の圧縮室S1が縮小して、冷媒が圧縮される。圧縮された冷媒は、固定スクロール22の吐出ポートJ2を介して、密閉容器1内の上部空間S3に吐出される。このように上部空間S3に吐出された冷媒は、密閉容器1と圧縮機構部2との間の流路(図示せず)を介して、圧縮機構部2の下側の空間に導かれ、さらに、吐出パイプP2を介して、密閉容器1の外部に吐出される。
【0040】
<作用>
図4は、図1に示す領域K1を部分的に拡大し、各部材に生ずる力を示した説明図である。
旋回スクロール23が旋回すると、その重心の移動に伴って、図4の白抜き矢印で示す遠心力Fcosが旋回スクロール23に作用する。また、冷媒の圧縮に伴う反作用として、旋回スクロール23の移動における接線方向及び径方向にガス荷重(白抜き矢印は図示せず)が発生する。
【0041】
ここで、旋回スクロール23に作用する遠心力Fcosは、旋回スクロール23の移動速度の2乗に比例して大きくなるため、特に高速域において旋回スクロール23の遠心力Fcosの増加が顕著になる。そのため、旋回バランスウェイト14が設けられていない従来の構成で、スクロール圧縮機の上限速度の拡大を図った場合、旋回軸受13に過負荷がかかる可能性があった。また、従来の構成では、特に高速域で、旋回軸受13の外周側の油膜厚さが薄くなり、偏心穴H2の内周面と旋回軸受13との直接的な接触に伴う摩擦係数が増加し、旋回軸受13等の摩耗や焼付きが生ずる可能性があった。
【0042】
これに対して、第1実施形態では、旋回スクロール23の鏡板23aとフレーム21との間に旋回バランスウェイト14を設けるようにしている。前記したように、旋回バランスウェイト14は、旋回スクロール23の旋回軸23cとは反対側に偏心している(図2参照)。したがって、旋回バランスウェイト14に作用する遠心力Fcobは、旋回スクロール23の遠心力Fcosに対して逆向きに作用する。その結果、旋回スクロール23の遠心力Fcosから、旋回バランスウェイト14の遠心力Fcobを差し引いた大きさの荷重Frが、遠心力の反力として旋回軸受13に作用する。
【0043】
図5は、スクロール圧縮機の回転速度と荷重との関係を示す説明図である(適宜、図4も参照)。
なお、図5の横軸は、スクロール圧縮機100の回転速度(つまり、電動機4の回転速度)であり、縦軸は、荷重である。図5の一点鎖線は、冷媒の圧縮に伴う水平方向のガス荷重Fgである。図5の破線は、旋回スクロール23に作用する遠心力Fcosである。図5の白抜き矢印は、旋回バランスウェイト14に作用する遠心力Fcobである。図5の実線は、遠心力の反力として旋回軸受13に作用する荷重Frである。
【0044】
図5に示すように、冷媒の圧縮に伴うガス荷重Fgは、スクロール圧縮機100の回転速度に関わらず略一定である。一方、旋回スクロール23の遠心力Fcosは、スクロール圧縮機100の回転速度の2乗に比例して大きくなる。仮に、旋回バランスウェイト14が設けられていなければ、ガス荷重Fgと遠心力Fcosの和の荷重が旋回軸受13に作用するため、高速域で旋回軸受13に過負荷がかかる可能性がある。
【0045】
これに対して、第1実施形態では、旋回バランスウェイト14が設けられているため、遠心力の反力として旋回軸受13に作用する荷重Frは、旋回スクロール23の遠心力Fcosから、旋回バランスウェイト14の遠心力Fcobを差し引いた値になる(Fr=Fcos-Fcob)。そして、この荷重Frとガス荷重Fgとの和が旋回軸受13に作用する。したがって、特に旋回スクロール23の遠心力が増加する高速域において、旋回軸受13にかかる荷重を大幅に低減できる。なお、旋回スクロール23とフレーム21との間の空間は、主軸受12や旋回軸受13に給油した後の潤滑油で満たされる。つまり、旋回バランスウェイト14の孔H4(図2参照)の内周面と、旋回軸受13と、の間に油膜が形成されるため、良好な潤滑状態が保たれる。
【0046】
<効果>
第1実施形態によれば、クランク軸3の突起部31b(第1嵌合部:図2参照)と、旋回バランスウェイト14の嵌合孔H3(第2嵌合部:図2参照)と、の間に隙間(図2の隙間C1,C2等)が設けられている。したがって、突起部31bが嵌合孔H3の壁面を周方向に押圧することで旋回バランスウェイト14が回転すると、前記した隙間の範囲内で、旋回バランスウェイト14が遠心力によって径方向に移動し、旋回軸受13に接触する。その結果、この旋回軸受13において、旋回スクロール23の遠心力Fcos(図4参照)の一部が、旋回バランスウェイト14の遠心力Fcob(図4参照)によって打ち消される。これによって、特に旋回スクロール23の遠心力が増加する高速域において、旋回軸受13にかかる荷重を大幅に低減できる。また、旋回軸受13における潤滑油の油膜厚さが十分に確保されるため、旋回軸受13の摩擦損失を低減できる他、旋回軸受13の摩耗・焼付きを抑制できる。
【0047】
また、旋回軸受13の信頼性を確保しつつ、スクロール圧縮機100の回転速度の上限値を高くする(さらなる高速化を図る)ことが可能になる。このように、第1実施形態によれば、高性能で信頼性の高いスクロール圧縮機100を提供できる。また、旋回スクロール23とフレーム21との間に旋回バランスウェイト14を設け、旋回バランスウェイト14の遠心力を旋回軸受13に直接的に作用させるようにしている。これによって、旋回軸受13にかかる荷重を低減できる他、クランク軸3のたわみを抑制できる。
【0048】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、旋回スクロール23とフレーム21との間に隔壁部材15(図6参照)を設ける点が、第1実施形態とは異なっているが、その他の点(スクロール圧縮機の全体的な構成等:図1参照)については第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0049】
図6は、第2実施形態に係るスクロール圧縮機100Aにおいて、図1に示す領域K1に相当する部分を拡大した縦断面図である。
図6に示すように、スクロール圧縮機100Aは、第1実施形態で説明した構成に加えて、隔壁部材15と、2つのシール部材16a,16bと、を備えている。
隔壁部材15は、旋回スクロール23とフレーム21との間の空間を、クランク軸3(シャフト)の中心軸線Z1の方向から見て、クランク軸3の挿通孔H1を含む吐出圧力空間S4(第1領域)と、この吐出圧力空間S4の径方向外側の背圧室S5(第2領域)と、に仕切る部材である。図6に示すように、隔壁部材15は、旋回スクロール23とフレーム21との間に設けられている。また、隔壁部材15の内部には、旋回バランスウェイト14が設けられている。
【0050】
隔壁部材15の内側の吐出圧力空間S4には、主軸受12や旋回軸受13等を潤滑した後の潤滑油が流入する。この潤滑油は、圧縮機構部2で圧縮された冷媒の吐出圧力に略等しい。したがって、吐出圧力空間S4の圧力は、前記した吐出圧力に略等しくなっている。また、吐出圧力空間S4よりも背圧室S5の方が圧力が低くなった場合には、吐出圧力空間S4と背圧室S5とが隔壁部材15で仕切られているため、その差圧が維持される。
【0051】
なお、背圧室S5の圧力(背圧)は、例えば、旋回スクロール23の移動に伴って圧縮室S1と背圧室S5とを間欠的に連通させたり、背圧弁(図示せず)を設けたりすることで調整できる。このような背圧室S5を設けることで、固定スクロール22に対して、旋回スクロール23を上向きに押し付ける力が大きくなりすぎることを抑制できる。
【0052】
図7は、スクロール圧縮機100Aの旋回スクロール23、旋回軸受13、旋回バランスウェイト14、隔壁部材15、シール部材16a、及びクランク軸3の上端部3bを含む分解斜視図である。
なお、図7では、旋回スクロール23や旋回軸受13の他、隔壁部材15やシール部材16aについては、クランク軸3の中心軸線Z1(図6参照)を含む所定平面(図示せず)で切断したものを図示している。また、図7では、隔壁部材15の内側のシール部材16b(図6参照)の図示を省略している。
【0053】
図7に示すように、隔壁部材15は、環状部15aと、周壁15bと、を備えている。環状部15aは、クランク軸3(シャフト)の中心軸線Z1(図1参照)の方向から見て環状を呈し、旋回軸受13を囲んでいる(図6も参照)。周壁15bは、環状部15aの外周縁から下側(フレーム21側:図6参照)に延びている。図6に示すように、隔壁部材15の周壁15bの縁部151b(下端)は、フレーム21に当接している。このような隔壁部材15は、例えば、金属製であってもよいし、また、樹脂製であってもよい。
【0054】
図6に示すシール部材16aは、隔壁部材15の環状部15aと、旋回スクロール23の鏡板23aと、の間の微小な隙間を塞ぐ樹脂製の部材である。図6の例では、鏡板23aの下面に環状の溝M1が形成され、この溝M1にシール部材16aが設置されている。そして、隔壁部材15と鏡板23aとによって、シール部材16aが上下方向に圧縮されるようになっている。
【0055】
図6に示すように、フレーム21は、挿通孔H1の周壁面を含む部分において、平面視で環状の肉厚部21aを有している。肉厚部21aは、その外周側よりも軸方向の厚さが肉厚に形成され、上側(旋回スクロール23側)に突出している。
【0056】
図6に示すシール部材16bは、隔壁部材15の周壁15bと、フレーム21の肉厚部21aと、の間の微小な隙間を塞ぐ樹脂製の部材である。図6の例では、フレーム21の肉厚部21aの外周面に環状の溝M2が形成され、この溝M2にシール部材16bが設置されている。そして、隔壁部材15とフレーム21とによって、シール部材16bが径方向に圧縮されるようになっている。これらのシール部材16a,16bを設けることで、隔壁部材15の内側から外側への冷媒の漏れを抑制できる。
【0057】
<効果>
第2実施形態によれば、隔壁部材15(図6参照)によって、旋回スクロール23とフレーム21との間の空間が吐出圧力空間S4と背圧室S5とを仕切られる。これによって、例えば、クランク軸3の下端に吐出圧力が作用する構造であっても、上・下の差圧でクランク軸3が浮上することを抑制できる。また、背圧室S5の圧力(背圧)を調整することで、旋回スクロール23を固定スクロール22に押し付ける際のスラスト荷重(軸方向の荷重)を低減できる。その結果、圧縮機構部2の摩擦損失を低減し、摩耗や焼付きを抑制できる。
【0058】
≪第2実施形態の変形例≫
第2実施形態では、隔壁部材15(図7参照)に溝が特に設けられていない構成について説明したが、これに限らない。例えば、次に説明するように、隔壁部材15A(図8参照)の環状部15aの上面に径方向の溝15cを設け、この溝15cを介して潤滑油を通流させるようにしてもよい。
【0059】
図8は、第2実施形態の変形例に係るスクロール圧縮機の隔壁部材15Aの斜視図である。
図8の変形例では、隔壁部材15Aの環状部15aの上面に溝15cが設けられている。より詳しく説明すると、環状部15aの内周縁から外周縁に至る溝15cが径方向に設けられている。この溝15cは、主軸受12や旋回軸受13等を潤滑した潤滑油を、吐出圧力空間S4(図6参照)から背圧室S5(図6参照)に導く流路である。
【0060】
このように隔壁部材15Aの上面に微小な溝15cを設けることで、吐出圧力空間S4(図6参照)から流入する潤滑油が溝15cで絞られた上で、背圧室S5(図6参照)に導かれる。これによって、例えば、溝15cの流路断面積を設計段階で適宜に調整することで、背圧室S5の圧力(背圧)を調整できる。なお、図8では1本の溝15cが設けられる例を示したが、複数の溝が設けられてもよい。
【0061】
また、図8に示す溝15cに代えて、吐出圧力空間S4(図6参照)から背圧室S5(図6参照)に潤滑油を導く流路としての溝(図示せず)を、旋回スクロール23の鏡板23a(図6参照)の下面に設けるようにしてもよい。
また、隔壁部材15Aの上面に溝15c(図8参照)を設けるとともに、旋回スクロール23の鏡板23a(図6参照)の下面に溝(図示せず)を設けるようにしてもよい。ここで、鏡板23aの下面に設けられた溝(図示せず)と、隔壁部材15Aの上面に設けられた溝15cとは、その位置が平面視で重なっていてもよいし、また、平面視で重なっていなくてもよい。
【0062】
このように、隔壁部材15Aの旋回スクロール23側の面、及び/又は、鏡板23aの隔壁部材15A側の面には、吐出圧力空間S4(第1領域)から背圧室S5(第2領域)に潤滑油を導く溝(図8の溝15c等)が設けられている。このような構成によれば、溝15c等の流路断面積を設計段階で適宜に調整することで、背圧室S5(図6参照)の圧力を調整できる。
【0063】
≪第3実施形態≫
第3実施形態は、前記した隔壁部材15A(図6参照)に代えて、2つのシール部材17a,17b(図9参照)を設ける点が、第2実施形態とは異なっているが、その他の点(スクロール圧縮機の全体的な構成等)については第2実施形態と同様である。したがって、第2実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0064】
図9は、第3実施形態に係るスクロール圧縮機100Bにおいて、図1に示す領域K1に相当する部分を拡大した縦断面図である。
図9に示すように、スクロール圧縮機100Bは、旋回バランスウェイト14Bに設置される2つのシール部材17a,17bを備えている。これらのシール部材17a,17bは、旋回スクロール23とフレーム21との間の空間を、径方向においてクランク軸3(シャフト)の挿通孔H1を含む吐出圧力空間S4(第1領域)と、この吐出圧力空間S4の径方向外側の背圧室S5(第2領域)と、に仕切る樹脂製の部材である。
【0065】
図10は、スクロール圧縮機100Bの旋回スクロール23、旋回軸受13、旋回バランスウェイト14B、シール部材17a,17b、及びクランク軸3の上端部3bを含む分解斜視図である。
図10に示すように、旋回バランスウェイト14Bの上面には、環状の溝M3(図9も参照)が形成されている。そして、この溝M3に環状のシール部材17a(第1シール部材)が設置されている。図9に示すように、環状のシール部材17aは、旋回バランスウェイト14Bと鏡板23aとの間の隙間に設けられている。
【0066】
一方、旋回バランスウェイト14Bの下面にも、環状の溝M4(図9参照)が形成されている。そして、この溝M4に環状のシール部材17b(第2シール部材)が設置されている。図9に示すように、環状のシール部材17bは、旋回バランスウェイト14Bとフレーム21との間の隙間に設けられている。なお、環状の溝M3,M4を設けるために、旋回バランスウェイト14Bの孔H4の周壁面を含む円環状の部分14bの径が、第1実施形態(図3参照)よりも長くなっている。
【0067】
スクロール圧縮機100Bの駆動中、旋回バランスウェイト14B及びシール部材17a,17bは、周方向に一体的に移動(回転)する。すなわち、一方のシール部材17aは、旋回バランスウェイト14Bと旋回スクロール23との間で上下方向に圧縮されつつ、旋回バランスウェイト14Bとともに周方向に移動する。他方のシール部材17bは、旋回バランスウェイト14Bとフレーム21との間で上下方向に圧縮されつつ、旋回バランスウェイト14Bとともに周方向に移動する。
【0068】
<効果>
第3実施形態によれば、2つのシール部材17a,17bを設けることで、旋回スクロール23とフレーム21との間の空間を吐出圧力空間S4(図9参照)と背圧室S5(図9参照)とに仕切ることができる。また、第2実施形態のように、旋回バランスウェイト14Bの径方向のサイズが、隔壁部材15(図6参照)に収容される程度の大きさに制限されることが特にない。したがって、第3実施形態によれば、旋回バランスウェイト14Bの外径を十分に確保できる。これによって、旋回軸受13への荷重をさらに低減し、ひいては、スクロール圧縮機100Bの性能や信頼性を高めることができる。
【0069】
≪第3実施形態の変形例≫
第3実施形態では、2つのシール部材17a,17bが旋回バランスウェイト14Bに設けられる場合について説明したが、これに限らない。例えば、旋回スクロール23の鏡板23aの下面に環状の溝(図示せず)を設け、この溝にシール部材17a(第1シール部材)を設置するようにしてもよい。また、フレーム21の上面に環状の溝(図示せず)を設け、この溝にシール部材17b(第2シール部材)を設置するようにしてもよい。このような構成でも、第3実施形態と同様の効果が奏される。
【0070】
また、吐出圧力空間S4から背圧室S5に潤滑油を導く溝(図示せず)を、旋回スクロール23の鏡板23aの下面(旋回バランスウェイト14側の面)、及び、フレーム21の上面(旋回バランスウェイト14側の面)のうちの少なくとも一方に設けてもよい。これによって、前記した溝(図示せず)の流路断面積を設計段階で適宜に調整することで、背圧室S5の圧力(背圧)を調整できる。
【0071】
≪第4実施形態≫
第4実施形態では、第1実施形態で説明したスクロール圧縮機100(図1参照)を備える空気調和機W1(冷凍サイクル装置:図11参照)について説明する。
【0072】
図11は、第4実施形態に係る空気調和機W1の冷媒回路Q1の構成図である。
なお、図11の実線矢印は、暖房運転時における冷媒の流れを示している。
一方、図11の破線矢印は、冷房運転時における冷媒の流れを示している。
空気調和機W1は、冷房や暖房等の空調を行う機器である。図11に示すように、空気調和機W1は、スクロール圧縮機100と、室外熱交換器71と、室外ファン72と、膨張弁73と、四方弁74と、室内熱交換器75と、室内ファン76と、を備えている。
【0073】
図11の例では、スクロール圧縮機100と、室外熱交換器71と、室外ファン72と、膨張弁73と、四方弁74と、が室外機81に設けられている。一方、室内熱交換器75や室内ファン76は、室内機82に設けられている。
【0074】
スクロール圧縮機100は、ガス状の冷媒を圧縮する機器であり、第1実施形態(図1参照)と同様の構成を備えている。室外熱交換器71は、その伝熱管(図示せず)を通流する冷媒と、室外ファン72から送り込まれる外気と、の間で熱交換が行われる熱交換器である。室外ファン72は、室外熱交換器71に外気を送り込むファンである。この室外ファン72は、駆動源である室外ファンモータ72aを備え、室外熱交換器71の付近に設置されている。
【0075】
室内熱交換器75は、その伝熱管(図示せず)を通流する冷媒と、室内ファン76から送り込まれる室内空気(空調室の空気)と、の間で熱交換が行われる熱交換器である。室内ファン76は、室内熱交換器75に室内空気を送り込むファンである。この室内ファン76は、駆動源である室内ファンモータ76aを備え、室内熱交換器75の付近に設置されている。
【0076】
膨張弁73は、「凝縮器」(室外熱交換器71及び室内熱交換器75の一方)で凝縮した冷媒を減圧する弁である。なお、膨張弁73によって減圧された冷媒は、「蒸発器」(室外熱交換器71及び室内熱交換器75の他方)に導かれる。
【0077】
四方弁74は、空気調和機W1の運転モードに応じて、冷媒の流路を切り替える弁である。例えば、冷房運転時(図11の破線矢印を参照)には、冷媒回路Q1において、スクロール圧縮機100、室外熱交換器71(凝縮器)、膨張弁73、及び室内熱交換器75(蒸発器)を順次に介して、冷媒が循環する。一方、暖房運転時(図11の実線矢印を参照)には、冷媒回路Q1において、スクロール圧縮機100、室内熱交換器75(凝縮器)、膨張弁73、及び室外熱交換器71(蒸発器)を順次に介して冷媒が循環する。なお、スクロール圧縮機100や室外ファン72の他、膨張弁73、四方弁74、室内ファン76等の機器は、制御装置(図示せず)によって所定に制御される。
【0078】
<効果>
第4実施形態によれば、空気調和機W1は、第1実施形態と同様の構成のスクロール圧縮機100を備えている。これによって、空気調和機W1の全体としての性能や信頼性を高めることができる。
【0079】
≪変形例≫
以上、本発明に係るスクロール圧縮機100や空気調和機W1について各実施形態で説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、各実施形態では、二重軸受構造のスクロール圧縮機100等(図1参照)について説明したが、これに限らない。すなわち、旋回スクロール23において、鏡板23aの上側(軸方向の一方側)に旋回ラップ23bを設ける一方、鏡板23aの下側(軸方向の他方側)にボス部(図示せず)を設け、クランク軸3の偏心部(図示せず)をボス部の凹部に嵌め込む構成にしてもよい。このような構成において、旋回バランスウェイト14は、フレーム21と鏡板23aとの間に設けられ、クランク軸3とともに回転する。なお、クランク軸3(シャフト)と旋回バランスウェイト14とは嵌合しており、クランク軸3側の「第1嵌合部」と、旋回バランスウェイト14側の「第2嵌合部」と、の間に所定の隙間(例えば、クランク軸3の中心軸線に対して垂直な方向での隙間)が設けられているものとする。また、クランク軸3の偏心部(図示せず)が中心軸線Z1に対して偏心している側とは反対側に、旋回バランスウェイト14の重心が位置するものとする。このような構成でも、遠心力の反力として旋回軸受13に作用する荷重を低減できるため、スクロール圧縮機の性能や信頼性を高めることができる。また、このような構成に第2実施形態を適用することも可能であり、また、第3実施形態や第4実施形態を適用することも可能である。
【0080】
また、各実施形態では、旋回バランスウェイト14(図2参照)に嵌合孔H3(第2嵌合部)が設けられ、この嵌合孔H3にクランク軸3の突起部31b(第1嵌合部)が嵌め込まれる構成について説明したが、これに限らない。例えば、旋回バランスウェイト14に嵌合する溝としての嵌合溝(第2嵌合部:図示せず)が設けられ、この嵌合溝にクランク軸3の突起部31b(第1嵌合部)が嵌め込まれるようにしてもよい。つまり、突起部31bに嵌合する孔又は溝である「第2嵌合部」が旋回バランスウェイト14に設けられるようにしてもよい。
【0081】
また、軸方向の下側(フレーム21側)に延びる突起部(第2嵌合部:図示せず)を旋回バランスウェイト14に設ける一方、この突起部が嵌め込まれる嵌合孔又は嵌合溝(第1嵌合部:図示せず)をクランク軸3の上端部3bに設けるようにしてもよい。このような構成において、クランク軸3側の「第1嵌合部」と、旋回バランスウェイト14側の「第2嵌合部」と、の間に隙間(例えば、クランク軸3の中心軸線に対して垂直な方向での隙間)が設けられるようにしてもよい。このような構成でも、各実施形態と同様の効果が奏される。
また、各実施形態では、主軸受12(図1参照)とフレーム21(図1参照)とが別体である場合について説明したが、これに限らない。例えば、フレーム21における挿通孔H1の周壁面に所定の研磨加工や表面処理を施すことで、この挿通孔H1の周壁面を「主軸受」として機能させるようにしてもよい。このような構成も、フレーム21の挿通孔H1に「主軸受」が設けられるという事項に含まれる。
また、各実施形態では、旋回軸受13(図1参照)が旋回軸23c(図1参照)と別体である場合について説明したが、これに限らない。例えば、旋回軸23cの周壁面に所定の研磨加工や表面処理を施すことで、この旋回軸23cの周壁面を「旋回軸受」として機能させるようにしてもよい。このような構成も、旋回スクロール23に「旋回軸受」が設けられるという事項に含まれる。
【0082】
また、第2実施形態(図6参照)では、隔壁部材15と鏡板23aとの間にシール部材16aを設け、また、隔壁部材15とフレーム21との間に別のシール部材16bを設ける構成について説明したが、これに限らない。例えば、2つのシール部材16a,16bのうち一方又は両方を省略してもよい。このような構成でも、隔壁部材15(図6参照)によって、旋回スクロール23とフレーム21との間の空間を吐出圧力空間S4と背圧室S5とに仕切ることができる。
【0083】
また、第4実施形態で説明した空気調和機W1(図11参照)は、ルームエアコンやパッケージエアコンの他、ビル用マルチエアコンといったさまざまな種類の空気調和機に適用できる。
また、第4実施形態では、スクロール圧縮機100を備える空気調和機W1(冷凍サイクル装置:図11参照)について説明したが、これに限らない。例えば、冷凍機、給湯機、空調給湯装置、チラー、冷蔵庫といった他の「冷凍サイクル装置」にも、第4実施形態を適用できる。
【0084】
また、各実施形態では、スクロール圧縮機100が縦置きで設置される構成について説明したが、これに限らない。例えば、スクロール圧縮機100が横置き又は斜め置きで設置される構成にも各実施形態を適用できる。
また、各実施形態では、スクロール圧縮機100で冷媒を圧縮する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、冷媒以外の所定のガスをスクロール圧縮機100で圧縮する場合にも、各実施形態を適用できる。
【0085】
また、各実施形態は、適宜に組み合わせることができる。例えば、第2実施形態と第4実施形態とを組み合わせ、空気調和機W1(第4実施形態:図11参照)が、第2実施形態で説明した構成のスクロール圧縮機100A(図7参照)を備えるようにしてもよい。同様に、第3実施形態と第4実施形態との組合せ等も可能である。
【0086】
また、各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換を適宜に行うことが可能である。
また、前記した機構や構成は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての機構や構成を示しているとは限らない。
【符号の説明】
【0087】
100,100A,100B スクロール圧縮機
1 密閉容器
2 圧縮機構部
21 フレーム
22 固定スクロール
22a 台板
22b 固定ラップ
23 旋回スクロール
23a 鏡板
23b 旋回ラップ
23c 旋回軸
3 クランク軸(シャフト)
3b 上端部(シャフトの端部)
31b 突起部(第1嵌合部)
4 電動機
4a 固定子
4b 回転子
12 主軸受
13 旋回軸受
14,14B 旋回バランスウェイト
15,15A 隔壁部材
15a 環状部
15b 周壁
151b 縁部
15c 溝
17a シール部材(第1シール部材)
17b シール部材(第2シール部材)
71 室外熱交換器
72 室外ファン
73 膨張弁
74 四方弁
75 室内熱交換器
76 室内ファン
C1,C2 隙間
H1 挿通孔
H2 偏心穴
H3 嵌合孔(第2嵌合部)
S1 圧縮室
S4 吐出圧力空間(第1領域)
S5 背圧室(第2領域)
W1 空気調和機(冷凍サイクル装置)
Z1 中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11