(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ホイストフックおよびホイストフックを用いる物品の運搬方法
(51)【国際特許分類】
B66C 1/28 20060101AFI20240404BHJP
B64U 10/13 20230101ALN20240404BHJP
B64U 101/64 20230101ALN20240404BHJP
【FI】
B66C1/28 A
B64U10/13
B64U101:64
(21)【出願番号】P 2024508773
(86)(22)【出願日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2023036974
【審査請求日】2024-02-13
(32)【優先日】2022-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中込 正
(72)【発明者】
【氏名】種子田 大幸
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-128632(JP,A)
【文献】特開2022-074674(JP,A)
【文献】特開平9-136786(JP,A)
【文献】特開2012-111570(JP,A)
【文献】中国実用新案第206768905(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第111960254(CN,A)
【文献】中国実用新案第212101652(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00-3/20
B64B 1/00-1/70
B64C 1/00-99/00
B64D 1/00-47/08
B64F 1/00-5/60
B64G 1/00-99/00
B64U 10/00-80/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線操縦無人航空機と接続するための接続部材、
前記接続部材に固定されるラック、
前記接続部材に対し、前記ラックの長手方向に沿って相対的にスライドするように構成されるベース、
前記ベースに連結され、前記ベースとの連結部を中心として回転し、前記回転に伴って開閉するように構成される一対のフック、および
ギアを介して前記ラックに連結されるフライホイールを備える、ホイストフック。
【請求項2】
前記一対のフックは、閉じた状態において、前記フックの回転軸に平行な方向で互いに一部が重なるように構成される、請求項1に記載のホイストフック。
【請求項3】
前記ベースと前記接続部材を互いに連結するばねをさらに有する、請求項1に記載のホイストフック。
【請求項4】
前記ベースに対して回転するように構成されるラッチをさらに備え、
前記ラッチは、ロックされた状態と前記ロックが解除された状態を取るように構成され、
前記ラッチは、前記ロックされた状態では前記一対のフックが閉じた状態を維持し、前記ロックが解除された状態では、前記一対のフックを開放するように構成される、請求項1に記載のホイストフック。
【請求項5】
前記フライホイールは、前記ベースと前記接続部材間の相対的なスライドによって回転する前記ギアによって駆動するように配置される、請求項1に記載のホイストフック。
【請求項6】
前記フライホイールは、前記ベースと前記接続部材間の相対的なスライドに対する抵抗として機能する、請求項1に記載のホイストフック。
【請求項7】
前記接続部材は、前記ラッチに対して突き出る突起部を有し、
前記ラッチは、前記接続部材がスライドする際、前記突起部に当接するように配置される、請求項4に記載のホイストフック。
【請求項8】
物品をホイストフックに吊り下げること、
前記ホイストフックを無線操縦無人航空機を用いて移動すること、および
前記物品を前記ホイストフックから解放することを含み、
前記ホイストフックは、
前記無線操縦無人航空機と接続するための接続部材、
前記接続部材に固定されるラック、
前記接続部材に対し、前記ラックの長手方向に沿って相対的にスライドするように構成されるベース、
前記ベースに連結され、前記ベースとの連結部を中心として回転し、前記回転に伴って開閉するように構成される一対のフック、および
ギアを介して前記ラックに連結されるフライホイールを備える、物品を搬送する方法。
【請求項9】
前記一対のフックは、閉じた状態において、前記フックの回転軸に平行な方向で互いに一部が重なるように構成される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ホイストフックは、前記ベースと前記接続部材を互いに連結するばねをさらに有する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ホイストフックは、前記ベースに対して回転するように構成されるラッチをさらに備え、
前記ラッチは、ロックされた状態と前記ロックが解除された状態を取るように構成され、
前記ラッチは、前記ロックされた状態では前記一対のフックが閉じた状態を維持し、前記ロックが解除された状態では、前記一対のフックを開放するように構成される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記フライホイールは、前記ベースと前記接続部材間の相対的なスライドによって回転する前記ギアによって駆動するように配置される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記フライホイールは、前記ベースと前記接続部材間の相対的なスライドに対する抵抗として機能する、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記接続部材は、前記ラッチに対して突き出る突起部を有し、
前記ラッチは、前記接続部材がスライドする際、前記突起部に当接するように配置される、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、無線操縦無人航空機(以下、ドローンとも記す。)に物品を吊り下げて運搬するための吊り具、および当該吊り具を用いる物品の運搬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドローンが様々な分野で利用されており、上空からの撮影に利用されるだけでなく、荷物や資材などの物品を運搬するための手段として利用されている。例えば特許文献1から5には、ドローンを用いて物品を運搬するための吊り具(以下、ホイストフックと記す。)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-128455号公報
【文献】特開2022-128632号公報
【文献】特開2021-050064号公報
【文献】特開2021-102521号公報
【文献】特開2022-128628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、新規な構造を有するホイストフック、およびこのホイストフックを用いる物品の運搬方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、意図せず生じるドローンの急降下によっても物品の落下を防止することが可能なホイストフック、およびこのホイストフックを用いる物品の運搬方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、ホイストフックである。このホイストフックは、メインプレート、第1のスライドプレートと第2のスライドプレート、第1のベースと第2のベース、一対のフック、フライホイール、およびラックを備える。第1のスライドプレートと第2のスライドプレートは、互いに固定され、無線操縦無人航空機から吊り下げるように構成され、メインプレートを挟んだ状態でメインプレートに対して相対的に上下にスライドするように構成される。第1のベースと第2のベースは、互いに固定され、メインプレートを挟んだ状態でメインプレートに対して相対的に上下にスライドするように構成される。一対のフックは、それぞれ第1のベースと第2のベースに対して回転可能なように連結される。フライホイールは、メインプレートに回転可能なように固定される。ラックは、フライホイールと噛み合い、第1のスライドプレートに固定される。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、物品を搬送する方法である。この方法は、物品をホイストフックに吊り下げること、ホイストフックを無線操縦無人航空機を用いて移動すること、および物品をホイストフックから解放することを含む。ホイストフックは、メインプレート、第1のスライドプレートと第2のスライドプレート、第1のベースと第2のベース、一対のフック、フライホイール、およびラックを備える。第1のスライドプレートと第2のスライドプレートは、互いに固定され、無線操縦無人航空機から吊り下げるように構成され、メインプレートを挟んだ状態でメインプレートに対して相対的に上下にスライドするように構成される。第1のベースと第2のベースは、互いに固定され、メインプレートを挟んだ状態でメインプレートに対して相対的に上下にスライドするように構成される。一対のフックは、それぞれ第1のベースと第2のベースに対して回転可能なように連結される。フライホイールは、メインプレートに回転可能なように固定される。ラックは、フライホイールと噛み合い、第1のスライドプレートに固定される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係るホイストフックの模式的正面図。
【
図2】本発明の実施形態に係るホイストフックの模式的背面図。
【
図3】本発明の実施形態に係るホイストフックの模式的斜視図。
【
図4】本発明の実施形態に係るホイストフックの模式的斜視図。
【
図5】本発明の実施形態に係るホイストフックの一部の模式的斜視図。
【
図6】本発明の実施形態に係るホイストフックの模式的正面図。
【
図7】本発明の実施形態に係るホイストフックの模式的正面図。
【
図8】本発明の実施形態に係るホイストフックの模式的正面図。
【
図9】本発明の実施形態に係るホイストフックの模式的正面図。
【
図10】本発明の実施形態に係るホイストフックの模式的背面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本出願で開示される発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0009】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0010】
以下、本発明の実施形態の一つに係るホイストフック100およびこのホイストフック100を用いる物品の運搬方法について説明する。ホイストフック100は、ドローンに吊り下げることができ、さらに物品を吊り下げることができるように構成されるフックである。以下に述べるように、ホイストフック100は、物品の運搬中、すなわち、ドローンの飛行中にフックが意図せず開放されること無く、かつ、物品を地面に降ろす際に自動的にフックを開放して荷物をホイストフック100から解放することができる。
【0011】
1.構造
図1と
図2は、それぞれ本発明の実施形態の一つに係るホイストフック100の模式的正面図と背面図であり、
図3と
図4はホイストフック100の模式的斜視図である。
図5はホイストフック100に取り付けられるフライホイール160とその周辺部品の模式的斜視図である。
図6から
図10はホイストフック100に物品を吊り下げる過程を示す模式的正面図または背面図である。なお、
図7から
図9では、見やすさを考慮し、後述するラッチ120や第1のばね110などは示されていない。以下、ホイストフック100がドローンなどによって吊り下げられた状態における鉛直方向を上下方向またはz方向と呼ぶ。また、z方向に垂直であり、後述するメインプレート102の主面の法線方向をx方向、z方向とx方向に垂直な方向をy方向と呼ぶ。
【0012】
これらの図から理解されるように、ホイストフック100は、基本的な構成として、以下の構成を有する。これらの構成は、鉄、アルミニウム、銅などの金属、またはステンレスや真鍮などの合金を含んでもよく、あるいはエポキシ樹脂やフェノール樹脂、フッ素樹脂などの樹脂を含んでもよい。樹脂は、ガラス繊維や炭素繊維などを含む繊維強化プラスチックでもよい。
メインプレート102
一対のスライドプレート(第1のスライドプレート104、第2のスライドプレート106)
ラッチ120
一対のベース(第1のベース130、第2のベース132)
第1のばね110
第2のばね112
フック140
ラック150
ピニオンギア152
フライホイール160
【0013】
(1)メインプレート
メインプレート102は、メインプレート102に取り付けられる各種構成を支持するパーツである。メインプレート102には、フック140が上下に移動しながら回転するための溝102b、102c、ラッチ120が上下に移動するための溝102a、第1のベース130と第2のベース132が上下に移動するための溝102f(
図7参照。)、第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106が上下に移動するための溝102g(
図8、
図9参照。)などが設けられる。また、図示しないが、ピニオンギア152の軸を挿入するための開口もメインプレート102に設けられる。
【0014】
(2)第1のスライドプレート、第2のスライドプレート、および第1のばねと第2のばね
第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106は、メインプレート102の少なくとも一部を挟持しつつ互いに対向するように、一つまたは複数のスライドピン170によって互いに固定される。メインプレート102には、スライドピン170が挿入された状態で上下に移動するための一つまたは複数の溝102gが設けられるため、メインプレート102は第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に対して相対的に上下に移動することができる。また、第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106には、ホイストフック100をドローンに吊り下げるための吊るし穴104a、106aがそれぞれ設けられている。メインプレート102に設けられるスライドピン170が移動するための溝102gは、メインプレート102が第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に対して相対的に上下に移動する際にメインプレート102が吊るし穴104a、106aとy方向において重ならないように形成される。
【0015】
第1のスライドプレート104には、上下方向に延伸するラック150が固定される。また、第1のスライドプレート104には第1のばね110が設けられる。具体的には、第1のばね110の一端が第1のスライドプレート104に、他端がラッチ120に連結される。第1のばね110もスライドピン173、172によってそれぞれ第1のスライドプレート104とラッチ120に連結されるため、第1のばね110は、スライドピン173の軸、すなわち、第1のスライドプレート104の主面に垂直な軸を中心として回転することができる。
【0016】
第2のスライドプレート106には、第2のばね112が設けられる。第1のばね110と同様、第2のばね112も一端がスライドピン173によって第2のスライドプレート106に連結されるため、スライドピン173の軸、すなわち、第2のスライドプレート106の主面に垂直な軸を中心として、第2のスライドプレート106に対して回転することができる。
【0017】
(3)第1のベース、第2のベース、およびラッチ
第1のベース130と第2のベース132は、メインプレート102を挟持するように配置され、複数のスライドピン174、176、178によって互いに固定される。上述したように、メインプレート102には第1のベース130と第2のベース132を固定するスライドピン178が貫通して上下に移動できるように配置された溝102bが設けられる。このため、第1のベース130と第2のベース132もメインプレート102に対して相対的に上下に移動することができる。
【0018】
第2のベース132には第2のばね112の他端がスライドピン174によって連結される。一方、第1のベース130には第1のばね110の他端がラッチ120を介して接続される。ラッチ120は、メインプレート102に対する第1のベース130と第2のベース132の位置を一時的に固定することを機能の一つとするパーツであり、L字型の形状を有する。ラッチ120のL字形状の屈曲部に第1のばね110の他端がスライドピン172を介して連結される。また、上述したように、ラッチ120と第1のばね110を連結するスライドピン172が貫通して上下に移動可能なようにメインプレート102には溝102aが設けられる。さらに、ラッチ120は、その一端(屈曲部を介して存在する二つの直線部の一方の端部)においてスライドピン174を介して第1のベース130と連結される。このため、ラッチ120は、第1のベース130と第2のベース132の上下移動に追従し、スライドピン172、174を中心としてそれぞれ第1のばね110と第1のベース130に対して回転しつつ、上下方向に移動することができる。
【0019】
なお、
図3に示すように、第1のばね110とラッチ120を連結するスライドピン172がメインプレート102を貫通する溝102aの下部には、当該スライドピン172を一時的に固定するための逃げ溝102d(点線の円参照。)が設けられる。このため、溝102aはL字状の溝であり、L字状溝の長手部が鉛直方向(すなわち、第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106がメインプレート102に対して相対的にスライドする方向)に平行に配置され、第1のベース130と第2のベース132をスライドした時に短手部が一時的にスライドピン172を嵌め込む逃げ溝102dとして機能する。逃げ溝102dの位置や大きさは、このスライドピン172が逃げ溝102dに嵌め込んだ状態において第1のばね110と第2のばね112の復元力が働き、かつ、この状態でスライドピン172が移動しないように設定される。
【0020】
ここで、第1のばね110と第2のばね112は、同一のスライドピン173を用いてそれぞれ第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に連結される。あるいは、第1のばね110と第2のばね112がそれぞれ第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に連結される一端は、y方向において重なる。しかしながら、第1のばね110は一方のフック140側に延伸し、第2のばね112は他方のフック140側に延伸する。このため、第1のばね110と第2のばね112が延伸された際に生じる復元力のベクトルはz方向またはほぼz方向となるため、第1のベース130と第2のベース132の移動方向をほぼ上下方向に固定することができ、第1のベース130と第2のベース132の安定的な上下移動を可能にする。
【0021】
(4)フック
一対のフック140は鉤型形状を有し、第1のベース130と第2のベース132に一部が挟持され、第1のベース130と第2のベース132を固定するスライドピン178が一方のフック140の端部を、他のスライドピン178が他方のフック140の端部を貫通する(
図1参照。)。これにより、一対のフック140がそれぞれ第1のベース130と第2のベース132に連結される。また、各フック140には、メインプレート102を貫通する回転用スライドピン180がさらに設けられる。スライドピン178は、メインプレート102に設けられるz方向に延伸する直線状の溝102b内に配置される。一方、回転用のスライドピン178は、メインプレート102に設けられる曲線状または円弧状の溝102c内に配置される。溝102cは、一対の直線状の溝102bに挟まれ、かつ、吊るし穴104a、106aに近づくほど互いの距離が離れるように設けられる。このため、第1のベース130と第2のベース132がメインプレート102に対して下に移動することで、スライドピン180が溝102cに沿って移動する。その結果、一対のフック140をy方向に延伸する軸を中心として、それぞれ第1のベース130と第2のベース132に対して回転させて閉じることができる。逆に、第1のベース130と第2のベース132がメインプレート102に対して上に移動することでフック140が逆方向に回転し、開放される。
【0022】
(5)ラック、ピニオンギア、およびフライホイール
ラック150は第1のスライドプレート104に固定され、鉛直方向に延伸する。このラック150と噛み合うピニオンギア152がメインプレート102を貫通するように設けられる。
図5などに示すように、ピニオンギア152と直接または一つ若しくは複数の中継ギア154、156を介して噛み合うフライホイール160がメインプレート102の第2のスライドプレート106側に回転可能なように固定される。詳細は後述するが、フック140に物品を吊り下げて運搬する際にドローンが急上昇または急降下すると、フック140に掛かる物品の荷重が一時的に変化し、その結果、第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に対して相対的にメインプレート102が上下移動する。ラック150は第1のスライドプレート104に固定され、ピニオンギア152はメインプレート102に連結されているため、第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に対するメインプレート102の相対的な上下移動によってラック150がピニオンギア152に対して相対的に上下する。この動きに伴ってピニオンギア152が回転するので、フライホイール160を駆動させることができる。フライホイール160は、大きな慣性モーメントを有する回転体であり、回転の始動には大きな力が必要であるものの、回転が始まるとその慣性モーメントが回転運動の維持に利用される。したがって、静止した状態においてラック150を上下に動かすには大きな力が必要となる。換言すると、フライホイール160は、ラック150の上下運動に対する抵抗、すなわち、第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に対するメインプレート102の相対的な上下運動に対して抵抗する抵抗素子として機能する。抵抗素子の抵抗の大きさは、フライホイール160の構造を適宜調整することで調整することができる。なお、ラック150、ピニオンギア152、フライホイール160などの配置は図示された配置に限られず、これらの一部またはすべてを第1のスライドプレート104側に配置してもよい。
【0023】
2.ホイストフックの動作と物品の運搬方法
(1)物品の吊り下げ
初期状態では、ラッチ120の屈曲部を貫通するスライドピン172が逃げ溝102dに位置せず、溝102aの長手部に存在する。この状態では、第1のばね110と第2のばね112の復元力によってラッチ120は上方に引き上げられる。このため、第1のベース130、第2のベース132、およびこれらに連結されるフック140も上方に引き上げられ、フック140は開放状態を維持する(
図1から
図4参照)。
【0024】
物品を吊り下げる際には、ラッチ120の屈曲部を貫通するスライドピン172が逃げ溝102dに噛み合うように第1のベース130と第2のベース132をメインプレート102に対して下方向に移動させる(
図6、
図7)。この時、溝102cを貫通するスライドピン180(
図1、
図2参照。)が溝102cを下方向に移動するため、フック140が回転して閉じられる(
図6、
図7)。また、スライドピン174は溝102fの最下部に位置するため、第1のベース130と第2のベース132のメインプレート102に対する下方向(フック140側)への移動が規制される。以下、この時の状態を待機状態と呼ぶ。待機状態では、スライドピン172が逃げ溝102dに噛み合うため、ラッチ120がロックされ、フック140は閉じた状態を維持する。この待機状態で物品をフック140に吊るすことでホイストフック100に物品を吊り下げることができる。通常、この段階では物品は地面または床面などに置かれた状態であるため、フック140には物品の全荷重は掛からない。
【0025】
(2)ドローンの離陸
この後、ドローンを離陸させて物品が地面または床面から離れると、フック140に物品の全荷重が掛かる。すると、フック140に連結される第1のベース130と第2のベース132とともにメインプレート102とラッチ120が第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に対して下に移動する。スライドピン170が102gの最上部に達すると、メインプレート102の下方向の動きが規制される。この時の状態を搬送状態と呼ぶ。
【0026】
ここで、第1のスライドプレート104は、待機状態から搬送状態へ移行する際、一時的にラッチ120のロックを解除し、かつ、搬送状態で再度ラッチ120をロックするように構成される。具体的には、
図6から
図9に示すように、第1のスライドプレート104の側面には、待機状態のラッチ120が第1のスライドプレート104に対して下に移動する際にスライドピン174を中心にラッチ120を回転しつつスライドピン172をx方向に(すなわち、短手部に沿って)スライドして逃げ溝102dから溝102aの長手部へシフトさせ、かつ、さらにラッチ120が下に移動するとラッチ120が逆回転しつつスライドピン172が再度逃げ溝102dに噛み合うことを許容する突起部102eを設けることができる。突起部102eは、待機状態においてスライドピン172が逃げ溝102dに噛み合い、かつ、ラッチ120の屈曲部が突起部102eよりも上に位置すると同時に、メインプレート102が第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に対して下に移動すると再度スライドピン172が逃げ溝102dに噛み合い、かつ、屈曲部が突起部102eよりも上に位置するように配置される。突起部102eを設けることで、メインプレート102が第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に対して上下に移動する際、ラッチ120が突起部102eと当接し、スライドピン172を可逆的に逃げ溝102dと長手部との間を移動させることができる。このため、待機状態だけでなく、搬送状態においてもラッチ120をロックすることができ、その結果、フック140が閉じた状態を維持することができる。
【0027】
(3)物品の運搬と解放
搬送状態に移行後、ドローンによって物品を移動して所定位置の上空まで運搬する。その後、物品を地上または床面にゆっくりと降ろす。物品が地上または床面に接すると、フック140に掛かる物品の荷重が徐々に低下する。このため、第1のばね110と第2のばね112の復元力によってメインプレート102が第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に対して上方向に移動する。物品による荷重が消失すると、突起部102eがラッチ120と当接し、スライドピン172が逃げ溝102dから溝102aの長手部に移動する(
図8参照。)。すなわち、ラッチ120のロックが解除される。すると、第1のばね110と第2のばね112の復元力によってスライドピン172は溝102aに沿って上に移動して初期状態に戻り、その結果、フック140が開放される。したがって、ホイストフック100から物品を取り外す労力は不要であり、人的資源を節約するとともに運搬に関する作業効率を向上させることができる。このように、突起部102eは、搬送状態においてラッチ120をロックする機能を発現するとともに、ドローンが着陸する際には自動的にロックを解除してフック140を開放する機能を発現する。
【0028】
ここで、ドローンが飛行中に気流の影響や操縦誤操作などの予期しない原因に起因して急降下すると、物品の荷重が瞬時に消失する、または急激に低減する。この時、ホイストフック100が待機状態を経て初期状態に戻ろうとするとフック140が意図せずに開き、物品が落下してしまう。しかしながら、ホイストフック100では、物品の荷重が瞬時に消失する、または急激に低減する場合に生じるメインプレート102の上方向の移動は、メインプレート102の相対的な上下運動に対する抵抗として機能するフライホイール160によって大きく制限される。すなわち、上下方向の移動がフライホイール160によって遅延される。さらに、物品の搬送時には、ラッチ120はロックされており、ラッチ120の溝102aに沿った上下方向の移動が禁止される。したがって、荷重の瞬間的な消失または急激な低減が生じてもメインプレート102の第1のスライドプレート104と第2のスライドプレート106に対する上方向の移動が遅延され、かつ、ラッチ120のアンロックによるフック140の意図しない開放が防止されるので、物品の落下を防止することができる。
【0029】
このように、本発明の実施形態の一つに係るホイストフック100を用いることで、ドローンを用いて物品を運搬する際に気流の影響やドローンの誤操作などに起因する物品の落下を防止することができる。さらに、物品をドローンから取り外すという煩雑な作業を排除することができる。このことは、人的資源の節約のみならず、物品の安全かつ高効率な運搬に寄与すると言える。
【0030】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0031】
また、上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0032】
100:ホイストフック、102:メインプレート、102a:溝、102b:溝、102c:溝、102d:逃げ溝、102e:突起部、102f:溝、102g:溝、104:第1のスライドプレート、104a:吊るし穴、106:第2のスライドプレート、106a:吊るし穴、110:第1のばね、112:第2のばね、120:ラッチ、130:第1のベース、132:第2のベース、140:フック、150:ラック、152:ピニオンギア、154:中継ギア、156:中継ギア、160:フライホイール、170:スライドピン、172:スライドピン、173:スライドピン、174:スライドピン、176:スライドピン、178:スライドピン、180:スライドピン
【要約】
ホイストフックは、メインプレート、第1のスライドプレートと第2のスライドプレート、第1のベースと第2のベース、一対のフック、フライホイール、およびラックを備える。第1のスライドプレートと第2のスライドプレートは、互いに固定され、無線操縦無人航空機から吊り下げるように構成され、メインプレートを挟んだ状態でメインプレートに対して相対的に上下にスライドするように構成される。第1のベースと第2のベースは、互いに固定され、メインプレートを挟んだ状態でメインプレートに対して相対的に上下にスライドするように構成される。一対のフックは、それぞれ第1のベースと第2のベースに対して回転可能なように連結される。フライホイールは、メインプレートに回転可能なように固定される。ラックは、フライホイールと噛み合い、第1のスライドプレートに固定される。