(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】歯付プーリ及び伝動システム
(51)【国際特許分類】
F16H 55/38 20060101AFI20240404BHJP
F16H 7/02 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
F16H55/38 A
F16H7/02 A
(21)【出願番号】P 2024509519
(86)(22)【出願日】2024-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2024003714
【審査請求日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023038561
(32)【優先日】2023-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉見 武将
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-42868(JP,A)
【文献】特開2004-308669(JP,A)
【文献】特開平1-316543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/38
F16H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯付ベルトのベルト歯と噛み合うプーリ溝が外周に沿って一定のピッチで設けられた歯付プーリであって、
前記歯付ベルトは、JIS B 1857-2(2015)に規定される種類がS5Mのプーリと噛み合う歯付ベルトであり、
前記歯付プーリは、プーリ溝の幅寸法として、前記プーリ溝の軸方向に垂直な断面において上寸法と下寸法とを有し、
前記上寸法は、プーリ溝の中心線と歯付プーリの歯先円との交点から0.50mm径方向内側の点を通る前記中心線の垂線と、前記プーリ溝の輪郭線と、が交わる2つの交点間の距離であり、
前記下寸法は、プーリ溝の中心線と歯付プーリの歯先円との交点から1.50mm径方向内側の点を通る前記中心線の垂線と、前記プーリ溝の輪郭線と、が交わる2つの交点間の距離であり、
前記下寸法は、2.20mm以下であり、
前記下寸法に対する前記上寸法の比は、1.40以上である、歯付プーリ。
【請求項2】
前記プーリ溝は、溝底半径r
bが、0.40mm以上0.50mm以下である、請求項1に記載の歯付プーリ。
【請求項3】
歯付ベルトと、歯付プーリと、を備える伝動システムであって、
前記歯付ベルトは、JIS B 1857-2(2015)に規定される種類がS5Mのプーリと噛み合う歯付ベルトであり、
前記歯付プーリは、請求項1又は2に記載の歯付プーリである、伝動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付プーリ及び伝動システムに関する。
本出願は、2023年3月13日出願の日本出願第2023-038561号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
歯付ベルト及び歯付プーリを含む伝動システムは、例えば、カメラ、コンピュータ、複写機などの精密機械、ロボットなどの一般産業用機械等において、同期伝動が必要なベルト伝動系に使用されている。
これらの伝動システムは、良好な位置決め性を有することが求められる。
【0003】
伝動システムの位置決め精度を向上させるためには、バックラッシを低減させることが検討できる。
特許文献1には、歯付ベルトとプーリとからなり、ベルトとプーリの静的なかみ合いでベルト歯部をプーリ溝壁に接触させた状態において、ベルト歯元部とプーリ溝壁間及びベルト歯先部とプーリ溝壁間には隙間がない歯付ベルトの駆動装置であって、プーリ溝を設計するに際し、歯付ベルトの成形収縮率を見込んでプーリ溝の寸法設計を行うことを特徴とする歯付プーリの設計方法、が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された発明は、バックラッシが極めて小さくなるように設計されているため、位置決め精度の向上が期待できる。
しかしながら、特許文献1に記載された発明は、ベルトとプーリとの噛み合い部分全体に亘ってバックラッシを小さくしている。そのため、特許文献1に記載の方法で設計された駆動装置は、ベルト歯の早期摩耗が発生したり、ベルト歯の歯元部に応力が集中してベルト歯の破損が発生したりすることがある。従って、特許文献1に記載された発明は、ベルトの耐久性が大きく低下するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、優れた位置決め精度を有する伝動システムを構成し、ベルトの耐久性を低下させにくい歯付プーリ、及びこのような歯付プーリを有する伝動システムを提供することを目的とする。
【0007】
(1)本発明の歯付プーリは、
歯付ベルトのベルト歯と噛み合うプーリ溝が外周に沿って一定のピッチで設けられた歯付プーリであって、
上記歯付ベルトは、JIS B 1857-2(2015)に規定される種類がS5Mのプーリと噛み合う歯付ベルトであり、
上記歯付プーリは、プーリ溝の幅寸法として、上記プーリ溝の軸方向に垂直な断面において上寸法と下寸法とを有し、
上記上寸法は、プーリ溝の中心線と歯付プーリの歯先円との交点から0.50mm径方向内側の点を通る上記中心線の垂線と、上記プーリ溝の輪郭線と、が交わる2つの交点間の距離であり、
上記下寸法は、プーリ溝の中心線と歯付プーリの歯先円との交点から1.50mm径方向内側の点を通る上記中心線の垂線と、上記プーリ溝の輪郭線と、が交わる2つの交点間の距離であり、
上記下寸法は、2.20mm以下であり、
上記下寸法に対する上記上寸法の比は、1.40以上である。
【0008】
上記歯付プ-リは、歯付プーリのプーリ溝底側の幅寸法を小さくすることで、噛み合い状態でのプーリ溝の溝底側のバックラッシを小さくして位置決め精度を向上させている。更に、上記歯付プ-リは、歯付プーリの下寸法に対する上寸法の比を大きくすることで、ベルト歯とプーリ溝とがスムーズに噛み合いを開始することができる。
そのため、上記歯付プ-リを備える伝動システムは、優れた位置決め精度を有しつつ、噛み合い時に歯付ベルトが摩耗されにくい。
【0009】
(2)好ましくは、上記(1)に記載の歯付プーリにおいて、
上記プーリ溝の溝底半径rbが、0.40mm以上0.50mm以下である。
この歯付プーリは、プーリ溝の溝底が狭くなりやすく、歯付ベルトと噛み合った際の位置決め精度を向上させるのにより適している。
【0010】
(3)本発明の伝動システムは、歯付ベルトと歯付プーリとを備える伝動システムであって、
上記歯付ベルトは、JIS B 1857-2(2015)に規定される種類がS5Mのプーリと噛み合う歯付ベルトであり、
上記歯付プーリは、上記(1)又は(2)に記載の歯付プーリである。
この伝動システムは、位置決め精度に優れ、歯付ベルトが摩耗しにくい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた位置決め精度を有しつつ、歯付ベルトの耐久性を損ないにくい伝動システムを提供できる。また、この伝動システムを構成する歯付プーリを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、伝動システムを模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、伝動システムが備える歯付ベルトの一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、歯付プーリが有する1つのプーリ溝を示す図である。
【
図4】
図4は、JIS B 1857-2(2015)からの引用である。
【
図5】
図5は、実施例及び比較例におけるロストモーションの評価方法を説明する図である。
【
図6】
図6は、ロストモーションの測定結果の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、ロストモーションの評価結果を示す図である。
【
図8】
図8は、耐久性(寿命)の評価方法を示す図である。
【
図9】
図9は、耐久性(寿命)の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(伝動システム)
図1は、本発明の実施形態に係る伝動システム1を模式的に示す側面図である。
伝動システム1は、ロボット等の位置決め精度が求められる用途に好適に用いられる。また、ロボット以外にも、カメラ、コンピュータ、複写機などの精密機械、紙幣搬送装置などの精密搬送装置、工作機械、印刷機械等にも好適に用いられる。
【0015】
伝動システム1は、
図1に示されるように、駆動プーリ22と、従動プーリ24と、歯付ベルト10とを備える。駆動プーリ22及び従動プーリ24は、それぞれ複数のプーリ溝21が形成されている。歯付ベルト10は、プーリ溝21と噛み合う複数のベルト歯12(
図2参照)を有し、駆動プーリ22及び従動プーリ24に掛け渡されている。
【0016】
駆動プーリ22及び従動プーリ24は、いずれも歯付ベルト10のベルト歯12と噛み合うプーリ溝21が所定のピッチで外周に沿って均等な間隔で設けられている。駆動プーリ22のプーリ溝21と、従動プーリ24のプーリ溝21とは同一形状である。以下、駆動プーリ22と従動プーリ24の両者を合わせて、単に歯付プーリ20ともいう。
【0017】
伝動システム1は、駆動源からの動力を従動側に伝達する。伝動システム1において、ベルト走行速度は、例えば10~2000m/minである、伝動システム1において、伝達容量は、例えば0.01~50KWである。
【0018】
(歯付ベルト)
図2は、本発明の実施形態に係る歯付ベルト10の一部を示す斜視図である。この歯付ベルト10は伝動システム1を構成する。
本実施形態で採用される歯付ベルト10は、JIS B 1857-2(2015)に規定される種類がS5Mのプーリと噛み合う歯付ベルトである。
このような歯付ベルト10としては、JIS B 1857-1(2015)に規定される種類がS5Mの歯付ベルトがある。
本発明の実施形態で採用される歯付ベルト10は、JIS B 1857-2(2015)に規定される種類がS5Mのプーリと噛み合う歯付ベルトであればよい。この歯付ベルト10は、必ずしも全ての寸法数値が、JIS B 1857-1(2015)に規定される種類がS5Mの歯付ベルトと一致していなくてもよい。
【0019】
図2には、歯付ベルト10の一部のみが示される。歯付ベルト10は、エンドレスの噛み合い伝動ベルトである。
歯付ベルト10のベルト長さは、例えば、150mm以上5000mm以下である。
歯付ベルト10のベルト幅は、例えば、5mm以上200mm以下である。
【0020】
歯付ベルト10は、内周面に複数のベルト歯12を有する。歯付ベルト10は、
図2に示されるように、ベルト本体11、心線13、及び補強布14を備える。
図2に示される歯付ベルト10のベルト歯12は直歯である。
本発明の実施形態において、ベルト歯12は、歯筋がベルト幅方向に対して傾斜するハス歯でもよい。
【0021】
歯付ベルト10が備えるベルト本体11は、帯状を有し、ベルト長手方向に垂直な断面の形状が矩形の基部11aと、この基部11aの内周側に設けられた複数の歯部11bとを備える。これら複数の歯部11bは、基部11aに一体化されている。複数の歯部11bは、ベルト長さ方向に沿って、所定の間隔をあけて等間隔に設けられている。
歯付ベルト10において、補強布14は、歯部11bの内周面を覆うように設けられている。歯付ベルト10において、ベルト歯12は、歯部11bと補強布14とで構成されている。
ベルト本体11、心線13、及び補強布14のそれぞれの構成材料としては、公知の材料を採用することができる。心線13及び補強布14は、いずれも任意の構成部材である。
歯付ベルト10の製造は、従来公知の方法を用いて行うことができる。
【0022】
(歯付プーリ)
本発明の実施形態で採用される歯付プーリ20は、上述した歯付ベルト10と噛み合う歯付プーリである。歯付プーリ20は、プーリ溝21の側面視形状が特定の形状を有している。
そのため、歯付プーリ20を備える伝動システム1は、位置決め精度に優れ、かつ歯付ベルト10の摩耗が発生しにくい。
【0023】
歯付プーリ20は、例えば、ステンレス製である。
歯付プーリ20は、外周に沿って歯付ベルト10のベルト歯12と噛み合うプーリ溝21が所定のピッチで設けられている。
歯付プーリ20の外径は、例えば15mm以上300mm以下である。
歯付プーリ20は、フランジを備えていてもよい。
【0024】
図3は、歯付プーリ20が有するプーリ溝21の1つを示す図である。
図3には、プーリ溝21の側面視形状を示す。
図3において、一点鎖線CLはプーリ溝21の中心線であり、点Pはプーリ溝21の中心線CLと歯付プーリ20の歯先円TCとの交点である。
図3において、点PUは点Pから0.50mm径方向内側の点であり、点PMは点Pから1.00mm径方向内側の点であり、点PLは点Pから1.50mm径方向内側の点である。
【0025】
図3において、WU、WM及びWLは、プーリ溝21の幅寸法である。
幅寸法WUはプーリ溝21の上寸法である。この上寸法WUは、点PUを通る中心線CLの垂線とプーリ溝21の輪郭線25との交点をIU1、IU2とした際の、交点IU1と交点IU2との距離である。
幅寸法WLはプーリ溝21の下寸法である。この下寸法WLは、点PLを通る中心線CLの垂線とプーリ溝21の輪郭線25との交点をIL1、IL2とした際の、交点IL1と交点IL2との距離である。
幅寸法WMはプーリ溝21の中寸法である。この中寸法WMは、点PMを通る中心線CLの垂線とプーリ溝21の輪郭線25との交点をIM1、IM2とした際の、交点IM1と交点IM2との距離である。
【0026】
歯付プーリ20において、プーリ溝21の下寸法WLは、2.20mm以下である。
この場合、歯付プーリ20のプーリ溝21の溝底側の幅が狭いため、歯付ベルト10との噛み合い時に、プーリ溝21の溝底側において、バックラッシが少ない。そのため、歯付プーリ20を備える伝動システム1は、優れた位置決め精度を確保することができる。
一方、下寸法WLが2.20mmを超えると、歯付ベルトとの噛み合い時に、歯付プーリ20のプーリ溝21の溝底側において、バックラッシが大きく、歯付プーリ20を備える伝動システム1の位置決め精度が低下する。
下寸法WLは、2.00mm以上が好ましい。
【0027】
歯付プーリ20のプーリ溝21において、下寸法WLに対する上寸法WUの比(WU/WL)は、1.40以上である。
この場合、歯付プーリ20のプーリ溝21の歯先側の幅寸法(上寸法)が狭くなっていない。そのため、プーリ溝21が歯付ベルト10のベルト歯12と噛み合う際に、噛み合い始め、噛合い終わりにおいてベルト歯12の歯元に応力集中が発生しにくく、ベルト歯12の早期摩耗を回避することができる。
下寸法WLを2.20mm以下にしつつ、WU/WLを1.40未満とした場合は、位置決め精度は確保できるものの、ベルト歯12が早期に摩耗し、歯付ベルト10ベルト寿命が短くなってしまう。
WU/WLは、1.60以下が好ましく、1.45以下がより好ましい。
【0028】
プーリ溝21は、溝底半径r
bが、0.40mm以上0.50mm以下であることが好ましい。
歯付プーリ20の溝底半径r
bは、JIS B 1857-2(2015)に規定される、S歯型の歯溝の寸法の1つである(
図4参照)。
溝底半径r
bが、上記範囲にあることは、プーリ21を備えた伝動システム1の位置決め精度の向上に適している。
一方、溝底半径r
bが0.40mm未満では、上記位置決め精度が不十分になることがある。また、溝底半径r
bが0.50mmを超えると、伝動システム1が備える歯付ベルト10は早期に摩耗しやすく、当該歯付ベルト10は、耐久性に劣ることになる。
【0029】
プーリ溝21は、深さH
gが、1.74mm以上1.80mm以下であることが好ましい。
歯付プーリ20の深さH
gは、JIS B 1857-2(2015)に規定される、S歯型の歯溝の寸法の1つである(
図4参照)。
深さH
gが、上記範囲にあることは、伝動システム1の位置決め精度の向上、及び、噛み合わせる歯付ベルト10の耐久性の確保に適している。
一方、深さH
gが1.74mm未満では、伝動システム1の位置決め精度が不十分となる。また、深さH
gが1.74mm未満の場合、伝動システム1が備える歯付ベルト10は早期に摩耗しやすく、当該歯付ベルト10は、耐久性に劣ることになる。深さH
gが1.80mmを超える場合、伝動システム1が備える歯付ベルト10のベルト歯が、ベルト歯元部の応力集中によって破損しやすくなり、当該歯付ベルト10は、耐久性に劣ることになる。
【0030】
歯付プーリ20の製造方法を説明する。
歯付プーリ20の製造は、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、歯付プーリの歯溝形状に応じた専用のホブカッターを作製し、その後、金属素材にこのホブカッターを用いた歯切り加工を施し、更に、必要に応じて穴あけ加工や外形加工、フランジの取り付け等を行うことにより製造することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によって本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明の実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1及び比較例1~3のそれぞれで、プーリ溝形状の異なる、ステンレス製の歯付プーリを作製した。具体的なプーリ溝の形状は、表1に示した通りである。
【0032】
実施例1及び比較例1~3のそれぞれでは、駆動プーリと従動プーリのそれぞれを作製した。このとき、駆動プーリのプーリ溝の形状と、従動プーリのプーリ溝の形状とは同一である。
作製した駆動プーリは、歯先円半径が12.8mmで、歯数が16で、幅が20mmである。
作製した従動プーリは、歯先円半径が38.2mmで、歯数が48で、幅が20mmである。
【0033】
実施例1及び比較例1~3の歯付プーリは、公知の方法で作製した。
ここでは、各歯付プーリのプーリ溝形状に応じた専用のホブカッターを作製し、このホブカッターを用いた歯切り加工を含む製造工程を経て作製した。
【0034】
【0035】
表1中、「WU」「WM」「WL」は、上述した寸法である(
図3参照)。
表1中、「B
g」「H
g」「R
2」「r
b」「r
t」「a」「R
1」及び「Y
1」は、JIS B 1857-2(2015)に規定される、S歯型の歯溝の寸法である(
図4参照)。
【0036】
実施例及び比較例で作製した歯付プーリ(駆動プーリ及び従動プーリ)と、歯付ベルトを組み合わせて伝動システムとし、伝動システムとしての性能を評価した。
歯付ベルトとしては、JIS B 1857-1(2015)に規定される種類がS5Mの歯付ベルトを使用した。
【0037】
歯付ベルトは、ベルト幅が15mmで、ベルト長さが415mmである。
歯付ベルトは、ベルト本体の材質がクロロプレンゴム、心線13の材質がガラス繊維で、補強布14がナイロン繊維製の織物である。
【0038】
(評価)
伝動システムの位置決め精度を評価するために、ロストモーション量の測定を行った。また、歯付ベルトの寿命を評価するために、耐久性試験を行った。
【0039】
<ロストモーション量の測定>
図5は、ロストモーション量の測定方法を説明する図である。
上記ロストモーションは、実施例及び比較例の伝動システムを取り付けた試験装置3を用いて測定した。
試験装置3は、歯付ベルト30、駆動プーリ32、従動プーリ34、荷重負荷用ハンドル37、レーザ変位計38を備える。
駆動プーリ32は、回転しない固定軸35に固定される、従動プーリ34は、回転可能な回転軸36に固定される。この回転軸36には、荷重負荷用ハンドル37も固定される。荷重負荷用ハンドル37は、径方向外側に延びるハンドル本体37aを有している。荷重負荷用ハンドル37は、ハンドル本体37aに荷重を掛けることによって回転軸36に対して回転させることができ、荷重負荷用ハンドル37を回転させると、同じ回転角度で従動プーリ34も回転軸36に対して回転する。
また、試験装置3は、ベルト取付周波数(ベルト張力)を調整可能に構成されている。
【0040】
以下、試験手順について説明する。
(1)固定軸35の位置を調整することで、ベルト取付周波数を調整する。
(2)ハンドル本体37aの回転軸36から100mmの点MPの位置をレーザ変位計38で測定し、点MPの位置を基準点BP(変位量0)とした。以下の操作中、レーザ変位計38で点MPの位置を測定し続けた。
(3)ハンドル本体37aの回転軸36から140mmの点EPに100Nの力を掛けて、ハンドル本体37aを正方向に回転させる動作を10回繰り返した。10回目の荷重を解放し、20秒間経過した後の点MPの位置を算出した。この位置を第1変位点CP1とした。
(4)更に、30秒間経過後、ハンドル本体37aの点EPに100Nの力を掛けて、ハンドル本体37aを逆方向に回転させる動作を10回繰り返した。10回目の荷重を解放し、20秒間経過した後の点MPの位置を算出した。この位置を第2変位点CP2とした。
(5)第1変位点CP1及び第2変位点CP2を算出した後、両者の距離(
図6中、L1参照)をロストモーション量とした算出する。
【0041】
図6は、ロストモーションの測定結果の一例を示す図である。
図6において、横軸は計測時間(秒)、縦軸は変位量を示す。
【0042】
図7に評価結果を示した。
図7は、ロストモーションの評価結果を示す図であり、ベルト取付周波数を横軸とし、ロストモーション量(mm)を縦軸とするグラフである。
図7に示す通り、本発明の実施形態に係る歯付プーリを用いた伝動システム(実施例1)は、ロストモーション量が少なく、位置決め精度に優れることが明らかとなった。
【0043】
<耐久試験>
図8は、耐久試験用のベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す。
実施例及び比較例で準備した伝動システムを、
図8に示されたプーリレイアウトで配置し、ベルト走行試験機5とした。このベルト走行試験機5では、駆動プーリ52及び従動プーリ54が横方向に間隔をおいて配設されており、2つのプーリ間に歯付ベルト50が巻き掛けられている。
従動プーリ54には、側方に軸荷重(SW)を負荷できるように構成されている。
【0044】
この耐久試験では、駆動プーリ52の回転数を5000rpm、軸荷重(SW)500Nの条件でベルト走行試験を行い、ベルトの歯欠けが発生するまでの走行時間を測定した。
【0045】
結果を
図9に示した。
図9には、比較例1の走行時間を100とし、比較例2、3及び実施例1の走行時間は、比較例1の走行時間の相対値で示した。
【0046】
図7及び
図9に示した通り、本発明の実施形態に係る歯付プーリを備えた伝動システムによれば、歯付ベルトの耐久性と、優れた位置決め精度とを確保できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0047】
1 伝動システム
3 試験装置
5 ベルト走行試験機
10、30、50 歯付ベルト
11 ベルト本体
11a 基部
11b 歯部
12 ベルト歯
13 心線
14 補強布
20 歯付プーリ
21 プーリ溝
22、32、52 駆動プーリ
24、34、54 従動プーリ
25 輪郭線
35 固定軸
36 回転軸
37 荷重負荷用ハンドル
37a ハンドル本体
38 レーザ変位計
WU 上寸法
WL 下寸法
WM 中寸法
【要約】
歯付ベルトのベルト歯と噛み合うプーリ溝が外周に沿って一定のピッチで設けられた歯付プーリであって、前記歯付ベルトは、JIS B 1857-2(2015)に規定される種類がS5Mのプーリと噛み合う歯付ベルトであり、前記歯付プーリは、プーリ溝の幅寸法として、前記プーリ溝の軸方向に垂直な断面において上寸法と下寸法とを有し、前記下寸法は、2.20mm以下であり、前記下寸法に対する前記上寸法の比は、1.40以上である、歯付プーリ。