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特許7466095燃料電池セル、燃料電池、および燃料電池セルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】燃料電池セル、燃料電池、および燃料電池セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240405BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240405BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20240405BHJP
   H01M 8/026 20160101ALI20240405BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240405BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20240405BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/88 Z
H01M8/0258
H01M8/026
H01M8/10 101
H01M8/1004
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020085339
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2021180129
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172236
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 宣憲
(72)【発明者】
【氏名】山本 曜子
(72)【発明者】
【氏名】川島 勉
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-147134(JP,A)
【文献】特開2004-146230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向に沿って順に積層された第1セパレータ、第1ガス拡散層、第1触媒層、高分子電解質膜、第2触媒層、第2ガス拡散層および第2セパレータと、
前記第1セパレータと前記第1ガス拡散層との間に設けられた第1ガス流路部と、
前記第1セパレータと前記第1ガス拡散層との間でかつ前記積層方向に交差する方向において前記第1ガス流路部に隣接して設けられ、前記積層方向に沿って見た平面視における流路面積が前記第1ガス流路部よりも大きい第2ガス流路部と、
を備え、
前記第1ガス拡散層は、
前記第1ガス流路部に対向する第1低弾性率部と、
前記第2ガス流路部に対向し、前記積層方向において前記第1低弾性率部よりも高い圧縮弾性率を有する第1高弾性率部と、
を有し、
前記第1低弾性率部は一層構造であり、前記第1高弾性率部は二層構造である、燃料電池セル。
【請求項2】
積層方向に沿って順に積層された第1セパレータ、第1ガス拡散層、第1触媒層、高分子電解質膜、第2触媒層、第2ガス拡散層および第2セパレータと、
前記第1セパレータと前記第1ガス拡散層との間に設けられた第1ガス流路部と、
前記第1セパレータと前記第1ガス拡散層との間でかつ前記積層方向に交差する方向において前記第1ガス流路部に隣接して設けられ、前記積層方向に沿って見た平面視における流路面積が前記第1ガス流路部よりも大きい第2ガス流路部と、
を備え、
前記第1ガス拡散層は、
前記第1ガス流路部に対向する第1低弾性率部と、
前記第2ガス流路部に対向し、前記積層方向において前記第1低弾性率部よりも高い圧縮弾性率を有する第1高弾性率部と、
を有し、
前記第1低弾性率部と前記第1高弾性率部との厚みが異なる、燃料電池セル。
【請求項3】
前記第2セパレータと前記第2ガス拡散層との間に設けられた第3ガス流路部と、
前記第2セパレータと前記第2ガス拡散層との間でかつ前記積層方向に交差する方向において前記第3ガス流路部に隣接して設けられ、前記積層方向に沿って見た平面視における流路面積が前記第3ガス流路部よりも大きい第4ガス流路部と、
をさらに備え、
前記第2ガス拡散層は、
前記第3ガス流路部に対向する第2低弾性率部と、
前記第4ガス流路部に対向し、前記積層方向において前記第2低弾性率部よりも高い圧縮弾性率を有する第2高弾性率部と、
を有する、請求項1又は2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記第2低弾性率部は一層構造であり、前記第2高弾性率部は二層構造である、
請求項に記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記第2低弾性率部と前記第2高弾性率部とは、前記積層方向の寸法が異なる、
請求項又はに記載の燃料電池セル。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の燃料電池セルと、
前記燃料電池セルの前記積層方向の両側にそれぞれ配置された一対の集電板と、を備える、
燃料電池。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の燃料電池セルの製造方法であって、
前記第1低弾性率部の原料を混錬して作成した混錬物を圧延して、前記第1低弾性率部に対応する形状の第1圧延シートを形成することと、
前記第1低弾性率部の原料とは異なる組成の前記第1高弾性率部の原料を混錬して作成した混錬物を圧延して、前記第1高弾性率部に対応する形状の第2圧延シートを形成することと、
前記第1圧延シートを前記第1ガス流路部に対応する箇所に配置し、前記第2圧延シートを前記第2ガス流路部に対応する箇所に配置した後、前記第1圧延シートおよび前記第2圧延シートを圧延することで、前記第1ガス拡散層を形成することと、を含む、
燃料電池セルの製造方法。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1項に記載の燃料電池セルの製造方法であって、
原料を混錬して作成した第1の混錬物を圧延して、前記第1ガス拡散層に対応する形状の第1圧延シートを形成することと、
前記原料を混錬して作成した第2の混錬物を圧延して、前記第1高弾性率部に対応する形状の第2圧延シートを形成することと、
前記第1圧延シートと前記第2圧延シートとを積層し圧延することで、前記第1ガス拡散層を形成することと、を含む、
燃料電池セルの製造方法。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載の燃料電池セルの製造方法であって、
前記第1低弾性率部の原料を混錬して作成した混錬物を圧延して、前記第1低弾性率部に対応する形状の第1圧延シートを形成することと、
前記第1高弾性率部の原料を混錬して作成した混錬物を圧延して、前記第1高弾性率部に対応する形状の第2圧延シートを形成することと、
前記第1圧延シートを前記第1ガス流路部に対応する箇所に配置し、前記第2圧延シートを前記第2ガス流路部に対応する箇所に配置した後、前記第2圧延シートに前記第1高弾性率部に対応する形状の樹脂シートを積層させ、前記第1圧延シート、前記第2圧延シートおよび前記樹脂シートを圧延することで、前記第1ガス拡散層を形成することと、を含む、
燃料電池セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池セル、燃料電池、および燃料電池セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一例として、高分子電解質型燃料電池がある。高分子電解質型燃料電池は、水素イオン電導性高分子電解質膜の一方の面を水素等の燃料ガスに、他方の面を酸素にそれぞれ暴露し、電解質膜を介した化学反応によって水を合成することで、その際に生じる反応エネルギーを電気的に取り出す。
【0003】
高分子電解質型燃料電池の単電池は、膜電極接合体(以下、MEAと記載する。)と、MEAの両面に配置された一対の導電性のセパレータを有している。
【0004】
MEAは、水素イオン伝導性高分子電解質膜と、この電解質膜を挟む一対の電極層を備えている。一対の電極層は、高分子電解質膜の両面に形成され、白金族触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、触媒層上に形成され、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つガス拡散層とを有している。
【0005】
ガス拡散層は、セパレータから供給されるガスを触媒層に均一に供給する役割を果たすため、良好なガス透過性およびガス拡散性を有する必要がある。また、ガス拡散層は、触媒層とセパレータ間の電子の導電経路として、優れた導電性を有している必要がある。セパレータにおけるガス拡散層に接する表面には、供給ガスや余剰な水分を除去するために、所定のパターンを有するガス流路が形成されている。
【0006】
特許文献1には、燃料電池用ガス拡散層の製造方法が開示されている。特許文献1では、ガス拡散層の硬度を高めることで、ガス拡散層を柔軟性が高く硬度が不充分なカーボンクロスまたはカーボンフェルトを用いて作製した場合、ガス拡散層がセパレータのガス流路へ垂れ込み、ガス流路における圧力損失のバラツキが増加し、フラッディングが発生し易くなるという問題を解決している。
【0007】
特許文献2には、フッ素樹脂と、カーボン粒子とを含み、ガス拡散層の厚み方向の圧縮弾性率が15N/mm2以上である燃料電池用ガス拡散層が開示されている。特許文献2の燃料電池用ガス拡散層によれば、厚み方向に大きな圧力が加わった場合にも、セパレータ表面の凹凸などによるガス拡散層の変形を抑制できる。
【0008】
特許文献3には、流路とリブの形状とが電極内で変化しているセパレータが提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4824298号
【文献】特開第2007-242444号公報
【文献】特許第4469415号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、セパレータの形状によっては、特許文献3のようにガス拡散層の厚み方向に沿って見た平面視(以下、単に平面視という。)における流路の面積が、電極面内もしくは電極面外で部分的に、平面視におけるリブの面積よりも小さくなる場合がある。そのような形状のセパレータに特許文献1および特許文献2のガス拡散層を適用した場合、平面視におけるリブの面積がガス流路以上に小さい形状を有する領域では、ガス拡散層とセパレータとの間の空間によってガス拡散層の変形を十分に抑制できず、ガス拡散層の水の排出性を十分に向上させることができない場合がある。また、平面視におけるリブの面積がガス流路以上に小さい形状を有する領域では、セパレータがガス拡散層の変形による圧力損失を十分に低減することができない場合がある。つまり、ガス拡散層の変形を防止して、ガス拡散層の水の排出性を高めるとともに圧力損失を低減させることができる燃料電池セルを得ることは容易ではない。
【0011】
本開示は、ガス拡散層の変形を抑制可能な燃料電池セル、燃料電池セルを有する燃料電池、および燃料電池セルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の燃料電池セルは、積層方向に沿って順に積層された第1セパレータ、第1ガス拡散層、第1触媒層、高分子電解質膜、第2触媒層、第2ガス拡散層および第2セパレータと、前記第1セパレータと前記第1ガス拡散層との間に設けられた第1ガス流路部と、前記第1セパレータと前記第1ガス拡散層との間でかつ前記積層方向に交差する方向において前記第1ガス流路部に隣接して設けられ、前記積層方向に沿って見た平面視における流路面積が前記第1ガス流路部よりも大きい第2ガス流路部と、をさらに備える。前記第1ガス拡散層は、前記第1ガス流路部に対向する第1低弾性率部と、前記第2ガス流路部に対向し、前記積層方向において前記第1低弾性率部よりも高い圧縮弾性率を有する第1高弾性率部と、を有する。
【0013】
本開示の燃料電池は、前記燃料電池セルと、前記燃料電池セルの前記積層方向の両側にそれぞれ配置された一対の集電板と、を備える。
【0014】
本開示の燃料電池セルの第1の製造方法は、前記燃料電池セルの製造方法であって、以下を含む。前記第1低弾性率部の原料を混錬して作成した混錬物を圧延して、前記第1低弾性率に対応する形状の第1圧延シートを形成すること。前記第1高弾性率部の原料を混錬して作成した混錬物を圧延して、前記第1高弾性率に対応する形状の第2圧延シートを形成すること。前記第1圧延シートを前記第1ガス流路部に対向するように配置し、前記第2圧延シートを前記第2ガス流路部に対向するように配置した後、前記第1圧延シートおよび前記第2圧延シートを圧延することで、前記第1ガス拡散層を形成すること。
【0015】
本開示の燃料電池セルの第2の製造方法は、前記燃料電池セルの製造方法であって、以下を含む。原料を混錬して作成した第1の混練物を圧延して、前記第1ガス拡散層に対応する形状の第1圧延シートを形成すること。前記原料を混錬して作成した第2の混錬物を圧延して、前記第1高弾性率部に対応する形状の第2圧延シートを形成すること。前記第1圧延シートと前記第2圧延シートとを積層し圧延することで、前記第1ガス拡散層を形成すること。
【0016】
本開示の燃料電池セルの第3の製造方法は、前記燃料電池セルの製造方法であって、以下を含む。前記第1低弾性率部の原料を混錬して作成した混錬物を圧延して、前記第1低弾性率部に対応する形状の第1圧延シートを形成すること。前記第1高弾性率部の原料を混錬して作成した混錬物を圧延して、前記第1高弾性率部に対応する形状の第2圧延シートを形成すること。前記第1圧延シートを前記第1ガス流路部に対応する箇所に配置し、前記第2圧延シートを前記第2ガス流路部に対応する箇所に配置した後、前記第2圧延シートに前記第1高弾性率部に対応する形状の樹脂シートを積層させ、前記第1圧延シート、前記第2圧延シートおよび前記樹脂シートを圧延することで、前記第1ガス拡散層を形成すること。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、ガス拡散層の変形を抑制可能な燃料電池セルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示の第1実施形態の燃料電池セルを備えた燃料電池の概略分解斜視図。
図2図1の燃料電池セルの分解斜視図。
図3図1のIII-III線に沿った部分断面図。
図4】本開示の第2実施形態に係る燃料電池セルの図1のIII-III線に沿った断面図。
図5図1の燃料電池セルの製造方法を示すフローチャート。
図6図5のフローチャートのステップ3を説明するための第1の図。
図7図5のフローチャートのステップ3を説明するための第2の図。
図8図5のフローチャートのステップ3を説明するための第3の図。
図9図5のフローチャートのステップ3を説明するための第4の図。
図10図5のフローチャートのステップ3を説明するための第5の図。
図11図5のフローチャートのステップ3を説明するための第6の図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、実施形態は、本開示を限定するものではなく、例示であって、本開示の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0020】
<燃料電池>
図1に示すように、本開示の一実施形態の燃料電池100は、燃料電池セル10と集電板11とを備えている。本実施形態では、燃料電池100は、一例として、厚み方向に積層された複数の燃料電池セル10を備えている。集電板11は、積層された燃料電池セル10の積層方向の両側にそれぞれ配置されている。集電板11の燃料電池セル10の積層方向における両側に、それぞれ絶縁板12および端板13が配置されている。図1の燃料電池100では、燃料電池セル10が集電板11、絶縁板12および端板13により所定の荷重で圧縮された状態で、燃料電池セル10、集電板11、絶縁板12および端板13が相互に締結されている。なお、燃料電池セル10は、1枚でもよい。また、複数の燃料電池セル10を積層する場合、隣り合う燃料電池セル10の間にはガスケット(図示せず)が設けられていてもよい。
【0021】
集電板11は、銅、真鍮などのガス不透過性の導電性材料で構成されている。集電板11には電流取り出し端子部(図示せず)が設けられており、発電時には電流取り出し端子部から電流が取り出される。
【0022】
絶縁板12は、フッ素系樹脂、PPS樹脂などの絶縁性材料で構成されている。絶縁板12には、ガスまたは冷却水の導入口および排出口(図示せず)を設けてもよい。
【0023】
端板13は、鋼などの剛性の高い金属材料で構成されている。燃料電池セル10、集電板11および絶縁板12は、端板13を介して加圧手段(図示せず)によって所定の荷重で締結され、保持されている。
【0024】
<燃料電池セル>
(第1実施形態)
図2は、燃料電池セル10の分解斜視図である。図3は、図1のIII-III線に沿った断面図である。
【0025】
図2に示すように、燃料電池セル10は、膜電極接合体(以下、MEAと言う。)20と、MEA20をその膜厚方向の両側から挟む一対のセパレータ(以下、アノード側セパレータ4aおよびカソード側セパレータ4bという。)とを有する。MEA20は、高分子電解質膜1と、高分子電解質膜1のその膜厚方向の両側にそれぞれ配置された触媒層2a、2b(以下、アノード触媒層2aおよびカソード触媒層2bという。)およびガス拡散層3a、3b(以下、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bという。)と、を有する。つまり、燃料電池セル10は、第1セパレータの一例のアノード側セパレータ4aと、第1ガス拡散層の一例のアノード側ガス拡散層3aと、第1触媒層の一例のアノード触媒層2aと、高分子電解質膜1と、第2触媒層の一例のカソード触媒層2bと、第2ガス拡散層の一例カソード側ガス拡散層3bと、第2セパレータの一例のカソード側ガスセパレータ4bと、がこの順に積層された構造を有する。なお、カソード側セパレータ4bを第1セパレータとし、カソード側ガス拡散層3bを第1ガス拡散層とし、カソード触媒層2bを第1触媒層とし、アノード触媒層2aを第2触媒層とし、アノード側ガス拡散層3aを第2拡散層とし、アノード側ガスセパレータ4aを第2セパレータとしてもよい。
【0026】
アノード触媒層2a、高分子電解質膜1およびカソード触媒層2bの接合対は、Catalyst Coated Membrance CCM(以下、CCMと言う。)と呼ばれる。高分子電解質膜1は、アノード触媒層2aおよびカソード触媒層2bと同一の表面積か、又はアノード触媒層2aおよびカソード触媒層2bよりも大きい表面積を有している。
【0027】
アノード側セパレータ4aは、図2および図3に示すように、一例として、板状のセパレータ本体41を有している。セパレータ本体41のアノード側ガス拡散層3aに対向する面41aには、アノードガス流路5aを構成する複数の第1溝42と、複数の第1溝42を挟むように配置されたガス供給穴8とが設けられている。各ガス供給穴8は、アノード側セパレータ4aをその厚み方向に貫通している。また、カソード側セパレータ4bは、一例として、板状のセパレータ本体51を有している。セパレータ本体51のカソード側ガス拡散層3bに対向する面51aには、カソードガス流路5bを構成する複数の第2溝52と、複数の第2溝52を挟むように配置されたガス供給穴8とが設けられている。各ガス供給穴8は、カソード側セパレータ4bをその厚み方向に貫通している。セパレータ本体51の厚み方向における面51aの反対側の面51bには、冷却媒体流路を構成する複数の第3溝53が設けられている。本実施形態では、アノードガス流路5aは、第1ガス流路部5と、第1ガス流路部5とガス供給穴8との間に配置された第2ガス流路部6とで構成されている。また、カソードガス流路5bは、第3ガス流路部15と、第3ガス流路部15とガス供給穴8との間に配置された第4ガス流路部16とで構成されている。
【0028】
なお、ガス供給穴8は、一例として、図2に示すように、アノードガス供給穴8a、カソードガス供給穴8bおよび冷却媒体ガス供給穴8cを含んでいる。アノード側セパレータ4aのガス供給穴8および各カソード側セパレータ4bのガス供給穴8は、燃料電池セル10が積層されたときに相互に接続されて、燃料電池セル10の積層方向に延びて連続する。アノードガス供給穴8aは、アノードガス流路5aに接続され、燃料電池スタックの外側に接続される供給配管(図示せず)から水素を含む燃料ガスをアノードガス流路5aに供給し、アノードガス流路5aからアノードガスが排出される。カソードガス供給穴8bは、カソードガス流路5bに接続され、供給配管から空気を含む酸化剤ガスをカソードガス流路5bに供給し、カソードガス流路5bから酸化剤ガスが排出される。冷却媒体ガス供給穴8cは、冷却媒体流路7に接続され、供給配管から冷却媒体を冷却媒体流路7に供給し、冷却媒体流路7から冷却媒体が排出される。
【0029】
アノード側ガス拡散層3aは、アノード側セパレータ4aの第1ガス流路部5と対向する第1低弾性率部5’と、アノード側セパレータ4aの第2ガス流路部6と対向し、厚み方向において第1低弾性率部5’よりも高い圧縮弾性率を有する第1高弾性率部6’と、を有する。カソード側ガス拡散層3bは、カソード側セパレータ4bの第3ガス流路部15と対向する第2低弾性率部15’と、カソード側セパレータ4bの第4ガス流路部16と対向し、厚み方向において第2低弾性率部15’よりも高い圧縮弾性率を有する第2高弾性率部16’と、を有する。
【0030】
アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの各々が、高弾性率部6’、16’を有しているので、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの変形および膨張を抑制できる。その結果、第2ガス流路部6のアノード側セパレータ4aとアノード側ガス拡散層3aとの間の空間および第4ガス流路部16におけるカソード側セパレータ4bとカソード側ガス拡散層3bとの間の空間を十分に確保して、燃料電池セル10の水の排出性を向上させることができるとともに、圧力損失を低減することができる。したがって、燃料電池セル10は優れた発電性能を有することができる。
【0031】
なお、第2ガス流路部6および第4ガス流路部16の各々は、一例として、図2に示すように、ガス供給穴8と第1ガス流路部5および第3ガス流路部15との間に配置され、内部を流れる流体の流れを整える整流部として機能するように構成されている。また、第2ガス流路部6および第4ガス流路部16は、ガス拡散層および触媒層で構成された電極の面内および面外のいずれに設けられていても構わない。
【0032】
(第2実施形態)
図4は、本開示の第2実施形態に係る燃料電池セル10の図1のIII-III線に沿った断面図である。第2実施形態の燃料電池セル10では、第1ガス流路部5の上流に配置された第2ガス流路部6および第3ガス流路部15の上流に配置された第4ガス流路部16と、第1ガス流路部5の下流に配置された第2ガス流路部6および第3ガス流路部15の下流に配置された第4ガス流路部16とで、MEA20の積層方向に沿って見た平面視における流路面積が異なっている。なお、第2実施形態では、第1実施形態と同じ構成には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0033】
図4に示すように、第2実施形態の燃料電池セル10では、MEA20の積層方向に沿って見た平面視における流路面積が、第1ガス流路部5、第1ガス流路部5の上流の第2ガス流路部6および第1ガス流路部5の下流の第2ガス流路部6の順に大きくなっている。
【0034】
また、第2実施形態の燃料電池セル10では、MEA20の積層方向に沿って見た平面視における流路面積が、第3ガス流路部15、第3ガス流路部15の上流の第4ガス流路部16および第3ガス流路部15の下流の第4ガス流路部16の順に大きくなっている。
【0035】
なお、上記2つの本実施形態では、アノード側ガス拡散層3aとカソード側ガス拡散層3bとの両方に高弾性率部6’、16’が形成されているが、アノード側ガス拡散層3aとカソード側ガス拡散層3bとの少なくとも一方に高弾性率部6’、16’が設けられていてもよい。この場合でも、燃料電池セル10の発電性能を高めることができる。ただし、より発電性能の高い燃料電池セル10を実現する観点から、アノード側ガス拡散層3aとカソード側ガス拡散層3bとの両方に高弾性率部6’、16’が形成されていることが好ましい。
【0036】
高分子電解質膜1には、水素イオンを選択的に輸送可能なプロトン導電性を有する材料、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸重合体を用いることができる。
【0037】
アノード触媒層2aおよびカソード触媒層2bの各々には、白金等の触媒粒子を担持した炭素材料と高分子電解質とを含む層を用いることができる。
【0038】
アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの各々には、カーボンを主成分としたガス透過性の高いシートを用いることができる。
【0039】
アノード側セパレータ4aおよびカソード側セパレータ4bの各々には、カーボン系、および金属系の材料を用いることができる。
【0040】
第1実施形態および第2実施形態の燃料電池セル10では、カソード側セパレータ4bにのみ、冷却媒体流路7が形成されているが、アノード側セパレータ4aにも冷却媒体流路が形成されていることが好ましい。
【0041】
第2ガス流路部6および第4ガス流路部16の各々は、ガス供給穴から第1ガス流路部5に対して均一に燃料ガスが分配され、第3ガス流路部15に対して均一に酸化剤ガスが分配されるように設けられる。隣接する第1溝42の間の第1リブ43および隣接する第2溝52の間の第2リブ53の各々は、ライン形状またはアイランド形状等、任意の形状で形成できる。第2ガス流路部6の第1リブ43がアノード側ガス拡散層3aに接触する面積は、第1ガス流路部5の第1リブ53がアノード側ガス拡散層3aに接触する面積よりも小さくなっている。また、第4ガス流路部16の第2リブ54がカソード側ガス拡散層3bに接触する面積は、第3ガス流路部15の第2リブ54がカソード側ガス拡散層3bに接触する面積よりも小さくなっている。つまり、アノード側ガス拡散層3aは、アノード側セパレータ4aに対向する面の面積が、第1ガス流路部5を構成するアノード側セパレータ4aの面41aおよび第1溝42の表面積、又は、第1ガス流路部5および第2ガス流路部6を構成するアノード側セパレータ4aの面41aおよび第1溝42の表面積と同じ面積か、若しくは、これらの表面積よりも大きい面積を有するように形成される。同様に、カソード側ガス拡散層3bは、カソード側セパレータ4bに対向する面の面積が、第3ガス流路部15を構成するカソード側セパレータ4bの面51aおよび第2溝52の表面積、又は、第3ガス流路部15および第4ガス流路部16を構成するカソード側セパレータ4bの面51aおよび第2溝52の表面積と同じ面積か、若しくは、これらの表面積よりも大きい面積を有するように形成される。
【0042】
アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bにおいて、高弾性率部6’、16’の圧縮弾性率は、3.0N/mm以上であることが好ましい。アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの高弾性率部6’、16’の圧縮弾性率が3.0N/mm以上であることで、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの高弾性率部6’、16’が変形し難くなり、第2ガス流路部6および第4ガス流路部16が閉塞され難くなるため、第2ガス流路部6および第4ガス流路部16において水つまりが発生し難くなる。さらに、第2ガス流路部6および第4ガス流路部16が閉塞され難くなることから、第2ガス流路部6および第4ガス流路部16の圧力損失をより低減することができる。
【0043】
アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bにおいて、低弾性率部5’、15’の多孔度は、65%以上かつ75%以下であることが好ましい。低弾性率部5’、15’の多孔度が65%以上であることで、ガスの拡散性が高くなるとともに、水の排出経路を十分に確保できるため、フラッディングが生じ難くなり、燃料電池セル10の電池性能をより向上させることができる。また、低弾性率部5’、15’の多孔度が75%以下であることで、良好な導電性および保水性が実現され、燃料電池セル10の電池性能をより向上させることができる。
【0044】
アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bにおいて、高弾性率部6’、16’の多孔度は、65%以上かつ70%以下であることが好ましい。高弾性率部6’、16’の多孔度が65%以上であることで、良好なガスの拡散性および十分な水の排出経路を確保しつつ、高弾性率部6’、16’の変形を抑制することができるので、燃料電池セル10の電池性能をより向上させることができる。また、高弾性率部6’、16’の多孔度が70%以下であることで、高弾性率部6’、16’は、良好な導電性および保水性を有するため、燃料電池セル10の電池性能をより向上させることができる。
【0045】
アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの各々の多孔度は次の方法で測定できる。まず、アノード側ガス拡散層3およびカソード側ガス拡散層3bの各材料の真密度と組成比率から、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの見かけ真密度を算出する。次いで、製造したアノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの重量、厚み、および縦横寸法を測定して、製造したアノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの密度を算出する。次いで、多孔度=(アノード側ガス拡散層3aまたはカソード側ガス拡散層3bの密度)/(見かけ真密度)×100の式から、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの多孔度をそれぞれ算出する。
【0046】
アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの各々の水に対する接触角は、150度以上であることが好ましい。すなわち、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの低弾性率部5’、15’および高弾性率部6’、16’の表面の水接触角は、150度以上であることが好ましい。アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの接触角が150度以上である場合、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの表面は優れた撥水性を有し、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの表面に水が滞留し難くなるため、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bのガス透過性がより向上する。
【0047】
アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの各々は、50sec/100mL以上150sec/100mL以下のガーレー数を有することが好ましい。すなわち、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの各々の低弾性率部5’、15’および高弾性率部6’、16’の両方が、50sec/100mL以上150sec/100mL以下のガーレー数を有することが好ましい。その理由は、以下の通りである。低弾性率部5’、15’および高弾性率部6’、16’のガーレー数が50sec/100mL以上であることで、特に低加湿時の保水性が低下しにくくなり、プロトン抵抗の上昇を防止することができるため、燃料電池セル10の電池性能を高めることができる。また、低弾性率部5’、15’および高弾性率部6’、16’のガーレー数が150sec/100mL以下であることで、ガス拡散層3のガス透過性および水の排出性を十分に確保することができるため、燃料電池セル10の電池性能をより高めることができる。
【0048】
なお、ガーレー数とは、以下のようにして測定される数値である。内部に油を満たした外筒の内部に、内部にガスが封入された内筒を入れると、内筒は自重によって外筒の内部を徐々に降下し、その内部のガスが圧縮される。この際、一定体積(100mL)のガスが、外筒内にセットされた試験片を透過するために要する時間を測定し、ガーレー数とする。
【0049】
アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bにおいて、低弾性率部5’、15’は一層構造であり、高弾性率部6’、16’は二層構造であることが好ましい。後述の製造方法で説明するように、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの各々の材料を圧延した2つの圧延シートを積層して再圧延することで、高弾性率部6’、16’を形成することができる。つまり、高弾性率部6’、16’を二層構造にすることで、容易に高弾性率部6’、16’を形成することができる。
【0050】
アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bにおいて、低弾性率部5’、15’と高弾性率部6’、16’との厚み(言い換えると、MEA20の積層方向における寸法)が異なることが好ましい。詳しくは、高弾性率部6’、16’の厚みは、低弾性率部5’、15’の厚みよりも薄いことがより好ましい。高弾性率部6’、16’の厚みが低弾性率部5’、15’の厚みよりも薄くすることで、第2ガス流路部6および第4ガス流路部16が特に閉塞され難くなる。
【0051】
<燃料電池セルの製造方法>
次に、本開示の燃料電池セル10の製造方法を説明する。ここでは、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの製造方法について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0052】
ステップS1では、製造するガス拡散層の原料、例えば、導電性粒子としてのカーボン材料と、導電性繊維としてのカーボンナノチューブと、界面活性剤と、分散溶剤とを混錬する。カーボン材料、カーボンナノチューブ、界面活性剤および分散溶剤を混錬した後に、フッ素樹脂としてPTFEを投入し、再度混錬して、混錬物を得る。なお、製造するガス拡散層の低弾性率部5’、15’と高弾性率部6’、16’とで異なる組成の原料を用いる場合は、それぞれの原料を混錬し、混錬物を準備すればよい。
【0053】
ステップS1の原料の混錬には、例えばプラネタリーミキサー、自公転ミキサー、ニーダー、ロールミルを使用することができる。
【0054】
ステップS2では、ステップS1で得た混錬物をシート状に圧延する。ステップS2の圧延には、例えば圧延ロール機を使用することができる。例えば、0.001ton/cmから4ton/cmを圧延の条件として、1回又は複数回の圧延を行うことにより、製造されるガス拡散層の厚み、多孔度、および弾性率を調整することができる。なお、製造されるガス拡散層の低弾性率部5’、15’と高弾性率部6’、16’とで異なる組成の原料を用いる場合は、それぞれの原料から準備された混錬物を圧延して、低弾性率部5’、15’を形成するための圧延シートと、高弾性率部6’、16’を形成するための圧延シートとをそれぞれ製造すればよい。また後述のように、高弾性率部6’、16’を2層構造にする場合は、同じ混錬物から、製造されるガス拡散層に対応した形状の圧延シートと、高弾性率部6’、16’に対応した形状の圧延シートとをそれぞれ製造すればよい。
【0055】
ステップS3では、低弾性率部5’、16’と高弾性率部6’、16’とを形成して、圧延する。ここでは、図5~11に基づいて、ステップS3を行う3つの方法を説明する。
【0056】
まず、図6および図7を用いて、図5のステップS3を行う一つ目の方法を説明する。図6(A)にステップS2で作製したガス拡散層30の上面図を示し、図6(B)にステップS2で作製したガス拡散層30の断面図を示す。図6および図7に示す方法では、最初に、低弾性率部5’、15’の原料を混錬し、混錬して作成した混錬物を圧延して、低弾性率部5’、15’に対応する形状の第1圧延シート31を形成する。次に、低弾性率部5’、15’の原料とは異なる組成の高弾性率部6’、16’の原料を混錬し、混錬して作成した混錬物を圧延して、高弾性率部6’、16’に対応する形状の第2圧延シート32を形成する。その後、第1ガス流路部5および第3ガス流路部15に対応する箇所に第1圧延シート31を配置し、第2ガス流路部6および第4ガス流路部16に対応する箇所に第2圧延シート32を配置して、第1圧延シート31および第2圧延シート32を圧延する。これにより、図7に示す低弾性率部5’、16’と高弾性率部6’、16’とを有する圧延シートが形成される。
【0057】
次いで、図8および図9を用いて、図5のステップS3を行う二つ目の方法を説明する。図8(A)にステップS2で作製したガス拡散層30の上面図を示し、図9(B)にステップS2で作製したガス拡散層30の断面図を示す。図8および図9に示す方法では、最初に、所定の原料(例えば、低弾性率部5’、15’の原料)を混錬して作成した混錬物を圧延して、製造されるガス拡散層に対応する形状の第1圧延シート31を形成する。次に、第1圧延シート31と同じ原料を混錬して作成した混錬物を圧延して、高弾性率部6’、16’に対応する形状の第2圧延シート32を形成する。その後、第1圧延シート31の第2ガス流路部6および第4ガス流路部16に対応する部分だけ第2圧延シート32を重ねて配置して、第1圧延シート31および第2圧延シート32を圧延する。これにより、図9に示す低弾性率部5’、16’と高弾性率部6’、16’とを有する圧延シートが形成される。
【0058】
次いで、図10および図11を用いて、図5のステップ3を行う三つ目の方法を説明する。図10(A)にステップS2で作製したガス拡散層30の上面図を示し、図10(B)にステップS2で作製したガス拡散層30の断面図を示す。図10および図11に示す方法では、最初に、低弾性率部5’、15’の原料を混錬して作成した混錬物を圧延して、製造されるガス拡散層に対応する形状の第1圧延シート31を形成する。次に、第1圧延シート31の第2ガス流路部6および第4ガス流路部16に対応する部分に樹脂シート9を積層させ、第1圧延シート31および樹脂シート9を圧延する。これにより、図11に示す低弾性率部5’、16’と高弾性率部6’、16’とを有する圧延シートが形成される。なお、樹脂シート9の材料としては、例えば、カプトンシートを用いることができる。
【0059】
ステップS3の圧延には、例えばロールプレス機を使用することができる。例えば、0.01ton/cmから4ton/cmをロールプレスの条件として、1回又は複数回の圧延を行うことで、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの厚み、多孔度、および弾性率を調整することができる。
【0060】
ステップS4では、ステップS3で圧延されたシートを焼成して、界面活性剤および分散溶剤を除去する。
【0061】
ステップS4の焼成では、例えば、IR炉または熱風乾燥炉を使用することができる。焼成温度は、界面活性剤が分解する温度より高く、フッ素樹脂が溶融する温度よりも低い温度に設定されることが好ましい。その理由は以下の通りである。焼成温度を界面活性剤の分解する温度よりも高くすることで、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3b内に界面活性剤が残留し難くなり、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの内部の親水化を防ぐことができる。その結果、水が滞留しにくいアノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bを得ることができ、ガス拡散層のガス透過性を向上させることができる。また、焼成温度をフッ素樹脂の融点よりも低くすることで、原料中のフッ素樹脂が融解しにくくなり、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの強度低下を防ぐことができる。具体的には、例えば、フッ素樹脂としてPTFEを用いる場合、焼成温度は、280~340℃が好ましい。
【0062】
ステップS5では、界面活性剤と分散溶剤とを除去したシートをロールプレス機でさらに再圧延し厚みを調整する。これにより、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bを製造することができる。
【0063】
ステップS5の再圧延には、例えばロールプレス機を使用することができる。例えば、0.01ton/cmから4ton/cmをロールプレスの条件として、1回又は複数回の再圧延を行うことで、アノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bの厚み、多孔度、弾性率をさらに調整することができる。
【0064】
このようにして得られたアノード側ガス拡散層3aおよびカソード側ガス拡散層3bを用いて得られたMEA20を一対のセパレータ4で挟むことで、燃料電池セル10を製造することができる。
【0065】
本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。
【実施例
【0066】
以下、本開示の実施例について説明する。
【0067】
<ガス拡散層の作製>
(原料)
導電性粒子:アセチレンブラック(以下、ABという。)(電気化学工業製)
導電性繊維:VGCF(昭和電工製、VGCF-H)
フッ素樹脂:PTFEディスパージョン(ダイキン製)
【0068】
(実施例1)
図5のステップS3の一つ目の方法を用いてガス拡散層を次の通り作製した。導電性粒子と導電性繊維とを界面活性剤および水を用いて分散させ、撹拌、混錬した後、フッ素樹脂を投入し、再度撹拌、混錬して、混錬物を得た。次いで、圧延ロール機を用いて、0.1ton/cmの圧延条件で混錬物を3回圧延し、多孔度約71%の圧延シートを得た。同様に、圧延ロール機を用いて、0.1ton/cmの圧延条件で混錬物を4回圧延し、多孔度約66%の圧延シートを得た。多孔度約71%の圧延シートを第1ガス流路部5に対応するよう配置し、多孔度約66%の圧延シートを第2ガス流路部6に対応するよう配置し、圧延ロール機を用いて、0.1ton/cmの圧延条件で混錬物を1回圧延した。圧延したシートをIR炉内に配置し、300℃で0.5時間焼成を行った。ロールプレス機を用いて、1ton/cmの圧延条件で焼成したシートを2回圧延し、実施例1のガス拡散層を得た。
【0069】
(実施例2)
図5のステップS3の二つ目の方法を用いてガス拡散層を次の通り作製した。実施例1と同様の方法で、混錬物を得た。次いで、圧延ロール機を用いて、0.1ton/cmの圧延条件で混錬物を3回圧延し、多孔度約70%の圧延シートを得た。多孔度約70%の圧延シート上に、第2ガス流路部6に対応する箇所のみに多孔度約70%の圧延シートを2層になるよう積層した。その後、実施例1と同様の工程を同様の条件で行い、実施例2のガス拡散層を得た。
【0070】
(実施例3)
図5のステップS3の三つ目の方法を用いてガス拡散層を次の通り作製した。実施例1と同様の方法で、混錬物を得た。次いで、圧延ロール機を用いて、0.1ton/cmの圧延条件で混錬物を3回圧延し、多孔度約72%の圧延シートを得た。多孔度約72%の圧延シート上の第2ガス流路部6に対応する箇所のみに樹脂シート9(東レ・デュポン株式会社製、カプトンシート、厚み100μm)を積層した。その後、実施例1と同様の工程を同様の条件で行い、実施例3のガス拡散層を得た。
【0071】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で、混錬物を得た。次いで、圧延ロール機を用いて、0.1ton/cmの圧延条件で混錬物を3回圧延し、多孔度約73%の圧延シートを得た。圧延シートをIR炉内に配置し、300℃で0.5時間焼成を行った。焼成したシートを、ロールプレス機を用いて1ton/cmの圧延条件で3回圧延し、比較例1のガス拡散層を得た。
【0072】
<評価試験>
実施例1~3および比較例1のガス拡散層について、下記の評価試験を行った。実施例1~3については、セパレータ4の第1ガス流路部5に対応する低弾性率部5’および第2ガス流路部6に対応する高弾性率部6’の両方に対して評価試験を行った。その結果を後掲の表1に示す。
【0073】
(圧縮弾性率)
圧縮弾性率は、以下の方法で測定した。引張圧縮試験機(今田製作所製SVZ-200NB型)を用いて、6.42cmの大きさのガス拡散層に面圧20kgf/cmまでの荷重を加えて応力ひずみを算出し、圧縮弾性率を測定した。
【0074】
(膜厚)
膜厚は、以下の方法で測定した。ミツトヨのシックネスゲージを用いて、6.42cmの大きさのガス拡散層の5か所の膜厚を測定し、平均値を膜厚とした。
【0075】
(多孔度)
多孔度は、以下の方法で測定した。ガス拡散層の各材料の真密度と組成比率から、ガス拡散層の見かけ真密度を算出した。次いで、ガス拡散層の重量、厚み、および縦横寸法を測定して、ガス拡散層の密度を算出し、多孔度=(ガス拡散層の密度)/(見かけ真密度)×100の式から、多孔度を計算した。
【0076】
(接触角)
接触角は、以下の方法で測定した。接触角は、携帯式接触角計(マツボー製PG-X)で純水に対する静的接触角を測定した。
【0077】
(ガーレー数)
ガーレー数は、以下の方法で測定した。内部が油で満たされたた外筒と、内部にガスが封入された内筒とを有し、外筒の内部に内筒を入れると自重によって内筒が外筒の内部を徐々に降下し、内筒内のガスが圧縮される装置を用いた。この装置の外筒内に、6.42cmの大きさのガス拡散層をセットし、100mLのガスが、外筒内にセットされたガス拡散層を透過するために要する時間を測定し、ガーレー数とした。
【表1】
【0078】
表1に示すように、実施例1~3では、セパレータ4の第2ガス流路部6に対応する高弾性率部6’が、第1ガス流路部5に対応する低弾性率部5’よりも圧縮弾性率が大きくなっている。しかし、比較例1では、ガス拡散層全体の圧縮弾性率は一定である。また、実施例1~3は、150sec/100mL以下のガーレー数を有するとともに、接触角についても比較例1と同等のレベルである。したがって、圧縮弾性率が高い領域においても、十分なガス透過性を確保できている。このように、実施例1~3のガス拡散層では、多孔度が低く圧縮弾性率が高い高密度層がセパレータ4の第2ガス流路部6に対応する領域に形成されているため、高密度層は変形し難く、セパレータ4の第2ガス流路部6の空間を十分に確保することができるので、水つまりの発生を抑制できる。また、高密度層が形成されていても、ガス拡散層3自体のガス透過性は十分に確保される。つまり、本開示により、発電性能の高い燃料電池セル10を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示の燃料電池セルは、燃料電池の発電性能を向上させることができるとともに、製造コストの低減を実現することができる。これにより、本開示の燃料電池セルは、家庭用コージェネレーションシステム、自動車用燃料電池、モバイル用燃料電池、およびバックアップ用燃料電池などの用途に有用である。
【符号の説明】
【0080】
100 燃料電池
1 高分子電解質膜
2 触媒層
2a アノード触媒層
2b カソード触媒層
3 ガス拡散層
3a アノード側ガス拡散層
3b カソード側ガス拡散層
4 セパレータ
4a アノード側セパレータ
4b カソード側セパレータ
5 第1ガス流路部
5a アノードガス流路
5b カソードガス流路
5’低弾性率部
6 第2ガス流路部
6’高弾性率部
7 冷却媒体流路
8 ガス供給穴
8a アノードガス供給穴
8b カソードガス供給穴
8c 冷却媒体ガス供給穴
9 樹脂シート
10 燃料電池セル
11 集電板
12 絶縁板
13 端板
15 第3ガス流路部
16 第4ガス流路部
20 MEA
30 ガス拡散層
31 第1圧延シート
32 第2圧延シート
41、51 セパレータ本体
41a、51a、51b 面
42 第1溝
43 第1リブ
52 第2溝
53 第3溝
54 第2リブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11