(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240405BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240405BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20240405BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20240405BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240405BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M4/42
H01M4/40
H01M4/134
(21)【出願番号】P 2021558158
(86)(22)【出願日】2020-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2020016985
(87)【国際公開番号】W WO2021100224
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019211854
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】藤本 正久
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-079470(JP,A)
【文献】特開2012-089464(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230279(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0569
H01M 4/42
H01M 4/40
H01M 4/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを吸蔵または放出可能な正極、
負極集電体および負極活物質を含む負極、および
溶媒を含む電解液
を具備し、
前記負極活物質は、金属亜鉛またはその合金を含み、かつ
前記溶媒は、ビニレンカーボネートのみからなる、
非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極は、前記負極集電体上に配置された薄膜を具備し、かつ
前記薄膜は前記金属亜鉛を含む、
請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記合金は、Li
2Zn
3、LiZn
2、Li
2Zn
5、LiZn
4、およびLiZnからなる群から選択される少なくとも1つのリチウム亜鉛合金を含む、
請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質は、前記金属亜鉛の合金を含み、かつ
前記合金は、Li
2Zn
3、LiZn
2、Li
2Zn
5、LiZn
4、およびLiZnからなる群から選択される少なくとも1つのリチウム亜鉛合金を含む、
請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質は、前記金属亜鉛を含む、
請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池の研究開発が盛んに行われている。リチウム二次電池では、リチウム二次電池のために用いられる電極に依存して、充放電電圧、充放電サイクル特性、および保存特性のような電池特性が大きく変化する。電極活物質を改善することにより、電池特性の向上が図られている。
【0003】
特許文献1から5は、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素を含有する負極活物質が用いられた非水電解質電池を開示している。このような負極活物質は、容量およびサイクル特性のような電池特性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-103476号公報
【文献】特開2002-042889号公報
【文献】特開2004-253305号公報
【文献】特開2010-097761号公報
【文献】国際公開第2012/029401号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、サイクル特性が向上した非水電解質二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
リチウムを吸蔵または放出可能な正極、
負極集電体および負極活物質を含む負極、および
溶媒を含む電解液
を具備し、
前記負極活物質は、亜鉛を含み、
前記溶媒は、ビニレンカーボネートのみからなる、
非水電解質二次電池
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、サイクル特性が向上した非水電解質二次電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態による非水電解質二次電池の縦断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1から実施例4の非水電解質二次電池の放電容量維持率の測定結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例2および比較例1から比較例4の非水電解質二次電池の放電容量維持率の測定結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例2および比較例5から比較例8の非水電解質二次電池の放電容量維持率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
リチウム二次電池の高容量化を達成できる負極活物質として、充電時に電気化学的にリチウムと合金を形成するアルミニウム、シリコン、または錫を用いることが提案されている。リチウム合金は大きな容量密度を有する。特にリチウム-シリコン合金は大きな理論容量密度を有する。したがって、リチウムと合金を形成することができる材料が用いられた負極を備えるリチウム二次電池は、高容量を示す。このように、リチウム合金は、負極活物質として有望である。リチウムと合金化する材料を負極に用いる種々のリチウム二次電池が提案されている。
【0010】
しかしながら、リチウムと合金を形成することができる金属を含む負極は、リチウムを吸蔵すると膨張し、リチウムを放出すると収縮する。充放電中にこのような膨張および収縮を繰り返すと、負極活物質として機能するリチウム合金が微粉化してしまう。この微粉化によって負極の集電特性が悪化する。この悪化は、十分なサイクル特性が得られないという問題を引き起こす。この問題を改善するために、シリコンまたは錫のようなリチウムと合金を形成することができる金属の薄膜を形成し、次いで当該薄膜を集電体に密着させ得る。これによって、リチウムの吸蔵または放出により膨張および収縮を繰り返すことにより起こる負極の集電特性の悪化を抑えることができる。ただし、リチウムと合金化する金属の薄膜を用いるだけで負極の集電特性の悪化を十分に抑えることは難しい。
【0011】
スパッタリングまたは蒸着で金属薄膜を形成することは、製造コストが高いので、実用的ではない。めっきは、製造コストが安価であるという利点を有する。しかし、シリコンを用いるめっきは非常に困難である。錫はめっきが安易であるが、錫には、放電電位が高く、電池のエネルギー密度が低下するという問題がある。リチウムと合金を形成することができ、めっきが安易で、かつ放電電位の低い金属として、亜鉛、カドミウムおよび水銀が挙げられる。しかし毒性の問題から、実用化が考えられるのは唯一亜鉛だけである。
【0012】
亜鉛の放電電位は0.2VvsLi/Li+というかなり卑である値であるため、電解液の還元分解が生じやすい。したがって、亜鉛から形成された薄膜を用いて集電性を確保しても、適切な電解液を選択しなければ良好なサイクル特性が得られない。正極において電解液は高電位でも酸化分解されてはいけないため、電解液には、酸化にも還元にも抵抗力を有することが要求される。炭酸エステル類の溶媒のみがこのような性質(すなわち、抵抗力)を有するものの、卑な電位(0.2VvsLi/Li+)で還元される炭酸エステル類もいくつか存在する。
【0013】
本発明者は、上記の課題を克服するため鋭意検討した結果、以下に示す本開示の非水電解質二次電池を完成させた。
【0014】
(本開示に係る一態様の概要)
本開示の第1態様に係る非水電解質二次電池は、
リチウムを吸蔵または放出可能な正極、
負極集電体および負極活物質を含む負極、および
溶媒を含む電解液
を具備し、
前記負極活物質は、亜鉛を含み、
前記溶媒は、ビニレンカーボネートのみからなる。
【0015】
第1態様に係る非水電解質二次電池は、ビニレンカーボネートのみからなる溶媒を含む電解液を具備しているので、ビニレンカーボネートが還元されることによって緻密な被膜が負極表面上に形成される。この被膜により、負極集電体および負極活物質の密着性が高くなる。その結果、充放電が繰り返されても集電特性が維持される。したがって、第1態様に係る非水電解質二次電池では、サイクル特性が向上する。
【0016】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係る非水電解質二次電池では、前記負極が前記負極集電体上に配置された薄膜を具備し、前記薄膜が前記負極活物質としての前記亜鉛を含んでもよい。負極活物質として機能する亜鉛が、負極集電体上に配置された薄膜に含まれることにより、亜鉛および負極集電体の密着性がより高くなる。その結果、集電特性が向上する。したがって、第2態様に係る非水電解質二次電池では、サイクル特性がより向上する。
【0017】
本開示の第3態様において、例えば、第1または第2態様に係る非水電解質二次電池では、充電時の前記負極活物質は、Li2Zn3、LiZn2、Li2Zn5、LiZn4、およびLiZnからなる群から選択される少なくとも1つのリチウム亜鉛合金を含有していてもよい。
【0018】
第3態様では、サイクル特性が向上した非水電解質二次電池が得られる。
【0019】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態について説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0020】
(実施形態)
図1は、本開示の一実施形態に係る非水電解質二次電池10を模式的に示す縦断面図である。
図1に示すように、非水電解質二次電池10は、円筒形の電池ケース、巻回式の電極群14、および図示しない電解液を備える円筒形電池である。電極群14は、電池ケース内に収容されており、かつ電解液と接している。
【0021】
電池ケースは、有底円筒形の金属製容器であるケース本体15と、ケース本体15の開口部を封口する封口体16とによって構成されている。ケース本体15と封口体16との間には、ガスケット27が配置されている。ガスケット27によって、電池ケースの密閉性が確保されている。ケース本体15内において、電極群14の巻回軸方向における電極群14の両端には、絶縁板17および18がそれぞれ配置されている。
【0022】
ケース本体15は、例えば、段部21を有する。段部21は、ケース本体15の側壁を部分的に外側からプレスすることによって形成され得る。段部21は、ケース本体15の側壁において、ケース本体15によって規定された仮想円の周方向に沿って環状に形成されていてもよい。このとき、封口体16は、例えば、段部21の開口部側の面によって支持される。
【0023】
封口体16は、フィルタ22、下弁体23、絶縁部材24、上弁体25、およびキャップ26を備えている。封口体16では、これらの部材がこの順番で積層されている。封口体16は、キャップ26がケース本体15の外側に位置し、フィルタ22がケース本体15の内側に位置するように、ケース本体15の開口部に装着される。
【0024】
封口体16を構成する上記の各部材のそれぞれは、例えば、円板形状またはリング形状である。上記の各部材は、絶縁部材24を除いて、互いに電気的に接続している。
【0025】
電極群14は、正極11、負極12、およびセパレータ13を有する。正極11、負極12、およびセパレータ13は、いずれも帯状である。帯状の正極11および負極12の幅方向は、例えば、電極群14の巻回軸に平行である。セパレータ13は、正極11と負極12との間に配置されている。正極11および負極12は、これらの電極の間にセパレータ13を介在させた状態で渦巻状に巻回されている。
【0026】
電極群14の巻回軸に垂直な方向における非水電解質二次電池10の断面を観察したとき、正極11および負極12は、これらの電極間にセパレータ13を介在させた状態で、ケース本体15によって規定された仮想円の半径方向に交互に積層されている。
【0027】
正極11は、正極リード19を介して、正極端子を兼ねるキャップ26と電気的に接続されている。正極リード19の一端は、例えば、正極11の長さ方向における正極11の中央付近に接続されている。正極リード19は、絶縁板17に形成された貫通孔を通って、正極11からフィルタ22まで延びている。正極リード19の他端は、例えば、フィルタ22の電極群14側の面に溶接されている。
【0028】
負極12は、負極リード20を介して、負極端子を兼ねるケース本体15と電気的に接続されている。負極リード20の一端は、例えば、負極12の長さ方向における負極12の端部に接続されている。負極リード20の他端は、例えば、ケース本体15の内底面に溶接されている。
【0029】
以下では、非水電解質二次電池10の各構成が具体的に説明される。
【0030】
(正極11)
正極11は、リチウムを吸蔵または放出することができる。正極11は、正極集電体と、正極活物質層とを有していてもよい。正極活物質層は、例えば、正極集電体上に配置されている。正極活物質層は、例えば、正極集電体の表面に、正極集電体に直接接して配置されている。正極集電体および正極活物質層のそれぞれは、例えば、帯状である。正極集電体は、例えば、互いに向かい合う1対の主面を有する。「主面」とは、正極集電体の最も広い面積を有する面を意味する。正極11では、2つの正極活物質層が、それぞれ、正極集電体の1対の主面上に形成されていてもよい。ただし、正極11では、1つの正極活物質層が正極集電体の一方の主面上のみに形成されていてもよい。正極11において、正極リード19と接続している領域および負極12と対向していない領域からなる群から構成される少なくとも1つの領域では、正極集電体の一方の主面上のみに正極活物質層が形成されていてもよい。
【0031】
正極集電体には、公知の非水電解質二次電池に用いられる正極集電体が用いられ得る。正極集電体の材料としては、例えば、金属材料が挙げられる。金属材料としては、銅、ステンレス鋼、鉄、およびアルミニウムが挙げられる。
【0032】
正極活物質層は、正極活物質を含む層である。正極活物質は、リチウムを吸蔵または放出し得る材料である。正極活物質としては、遷移金属酸化物、フッ化物、ポリアニオン、フッ素化ポリアニオン、遷移金属硫化物、およびオリビン構造を有するリン酸化物が挙げられる。遷移金属酸化物としては、LiCoO2、LiNiO2、およびLi2Mn2O4が挙げられる。リン酸化物としては、LiFePO4、LiNiPO4、およびLiCoPO4が挙げられる。正極活物質層は、複数の種類の正極活物質を含んでいてもよい。
【0033】
正極活物質層は、必要に応じて、導電助剤、イオン伝導体、およびバインダーを含んでいてもよい。
【0034】
導電助剤およびイオン伝導体は、正極11の抵抗を低減するために用いられる。
導電助剤として、
(i) カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、フラーレン、および酸化黒鉛のような炭素材料、および
(ii) ポリアニリン、ポリピロール、およびポリチオフェンのような導電性高分子化合物
が挙げられる。
イオン伝導体として、
(i) ポリメチルメタクリレートおよびポリメタクリル酸メチルのようなゲル電解質、
(ii) ポリエチレンオキシドのような有機固体電解質、および
(iii) Li7La3Zr2O12のような無機固体電解質
が挙げられる。
【0035】
バインダーは、正極11を構成する材料の結着性を向上させるために用いられる。バインダーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、およびポリイミドのような高分子材料が挙げられる。
【0036】
正極11は、リチウム金属で構成されていてもよい。正極として、リチウム金属を用いた場合、金属正極としての溶解析出の制御が容易となる。
【0037】
(負極12)
負極12は、負極集電体および負極活物質を含む。負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出する特性を有する材料であり得る。負極活物質は、亜鉛を含む。負極活物質として含まれる亜鉛は、亜鉛金属であってもよいし、または亜鉛合金であってもよい。亜鉛合金としては、例えば、遷移金属よりなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素を含む合金が挙げられる。遷移金属は、鉄、マンガンおよびチタンからなる群から選ばれる少なくとも1つであってもよい。亜鉛合金は、亜鉛-鉄合金、亜鉛-マンガン合金または亜鉛-チタン合金であり得る。
【0038】
亜鉛は、リチウムと合金を形成することができる金属である。充電時に亜鉛がリチウムと合金を形成することによって、リチウムが吸蔵される。すなわち、負極12において、非水電解質二次電池10の充電時に、リチウム亜鉛合金が生成される。生成されるリチウム亜鉛合金には、Li2Zn3、LiZn2、Li2Zn5、LiZn4、およびLiZnからなる群より選ばれる少なくとも1つが含まれる。放電時にリチウム亜鉛合金からリチウムが放出され、リチウム亜鉛合金が金属亜鉛に戻る。
【0039】
負極活物質は、亜鉛以外の材料を活物質として含んでいてもよい。亜鉛以外の材料の例は、黒鉛のような炭素である。負極活物質は、亜鉛のみから構成されていてもよい。
【0040】
負極活物質は、例えば、負極12の負極活物質層に含まれる。ここで、負極活物質層は、負極活物質を含む層である。負極活物質層は、例えば、負極集電体上に配置されている。負極活物質層は、例えば、板状または箔状の負極集電体の表面に、負極集電体に直接接して配置されている。負極集電体および負極活物質層は、例えば、帯状である。負極集電体は、例えば、互いに向かい合う1対の主面を有する。「主面」とは、負極集電体の最も広い面積を有する面を意味する。より具体的には、板状の負極集電体は、表側の主面および裏側の主面を有する。負極12では、負極活物質層が、負極集電体の1対の主面上にそれぞれ形成されていてもよい。すなわち、負極活物質層は、負極集電体の表側の主面および裏側の主面に形成されていてもよい。負極12では、負極活物質層が負極集電体の一方の主面上のみに形成されていてもよい。言い換えれば、負極活物質層は、負極集電体の表側の主面または裏側の主面のいずれか一方に形成されていてもよい。負極12において、負極リード20と接続している領域および正極11と対向していない領域からなる群から選択される少なくとも1つの領域では、負極集電体の一方の主面上のみに負極活物質層が形成されていてもよい。
【0041】
負極活物質層は、例えば、負極集電体上に配置された薄膜である。当該薄膜が負極活物質としての亜鉛を含有する。すなわち、本実施形態において、負極12は、負極集電体上に配置され、かつ亜鉛を含有する薄膜を負極活物質層として含んでいてもよい。亜鉛を含有する薄膜の厚さは、0.1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質層は、亜鉛からなる薄膜であってもよい。負極集電体の上に負極活物質を含む薄膜が設けられている場合には、負極集電体および負極活物質が互いに密着する。したがって、リチウムの吸蔵および放出による負極活物質の膨張および収縮が繰り返されても、集電特性の低下が抑えられる。このように、負極集電体の上に負極活物質を含む負極活物質層が設けられている場合には、非水電解質二次電池10のサイクル特性を向上させることができる。
【0042】
負極活物質層は、必要に応じて、導電助剤、イオン伝導体、およびバインダーを含んでいてもよい。導電助剤、イオン伝導体、およびバインダーとして、正極活物質層に使用可能な材料と同じ材料を負極活物質層に使用できる。
【0043】
負極集電体は、通常、導電性シートから構成されている。負極集電体の材料は、金属および合金のような金属材料であってもよい。金属材料は、リチウムと反応しない材料またはリチウムと反応しにくい材料であってもよい。このような材料には、リチウム金属およびリチウムイオンからなる群から選択される少なくとも1つと反応しない材料が含まれる。より具体的には、金属材料は、リチウムと合金および金属間化合物のいずれも形成しない材料であってもよい。このような金属材料としては、例えば、銅、ニッケル、鉄、およびこれらの金属元素を含む合金が挙げられる。合金は、銅合金またはステンレス鋼などであってもよい。負極集電体は、これらの金属材料を少なくとも1種含んでいてもよい。負極集電体は、金属材料以外の導電性材料を含んでいてもよい。
【0044】
負極集電体の形状の例は、箔およびフィルムが挙げられる。負極集電体は、多孔質であってもよい。高い導電性の観点から、負極集電体は、金属箔であってもよい。負極集電体は銅を含む金属箔であってもよい。銅を含む金属箔としては、例えば、銅箔および銅合金箔が挙げられる。金属箔における銅の含有率は、50質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。特に、金属箔は、金属として実質的に銅のみを含む銅箔であってもよい。負極集電体の厚さは、例えば、5μm以上20μm以下である。
【0045】
(セパレータ13)
セパレータ13は、例えば、イオン透過性および絶縁性を有する。セパレータ13としては、例えば、多孔性シートが用いられる。セパレータ13としては、例えば、微多孔フィルム、織布、および不織布が挙げられる。セパレータ13の材料は、特に限定されず、高分子材料であってもよい。
【0046】
高分子材料としては、オレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、およびセルロースが挙げられる。オレフィン樹脂は、エチレンおよびプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1つをモノマー単位として含む重合体を含んでいてもよい。この重合体は、単独重合体であってもよく、または共重合体であってもよい。この重合体としては、ポリエチレンおよびポリプロピレンが挙げられる。
【0047】
セパレータ13は、高分子材料の他に、必要に応じて、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、無機フィラーが挙げられる。
【0048】
(電解液)
電解液は、溶媒を含む。溶媒は、ビニレンカーボネートのみからなる。ビニレンカーボネートはその環内に二重結合を含んでいるため、重合されやすい。そのため、ビニレンカーボネートは、還元時に負極12上で重合される。このようなビニレンカーボネートの還元時の重合により、ビニレンカーボネートのポリマーからなる緻密な被膜が負極12上に形成される。この被膜により、負極集電体および負極活物質の密着性が高くなる。その結果、充放電が繰り返されても集電特性が維持される。この被膜は、弾力性を有するので、充放電中に負極活物質が膨張および収縮を繰り返しても負極集電体および負極活物質の間の密着性が十分に維持され得る。これにより、非水電解質二次電池10のサイクル特性が向上する。
【0049】
電解液にリチウム塩が存在する状態でビニレンカーボネートが還元された場合、リチウム塩を含むビニレンカーボネートのポリマーが生成される。このようなリチウム塩を含むポリマーからなる被膜は、リチウムイオン伝導性を有する。このようなポリマーからなる被膜によって負極12の表面が被覆されることにより、ビニレンカーボネートのさらなる還元が抑制される。このようにして、負極活物質へのリチウムの吸蔵反応が進行する。
【0050】
以上のように、上記のポリマーからなる被膜は、負極活物質へのリチウムの吸蔵反応を妨げることなく、負極集電体および負極活物質の間の密着性を十分に維持することができる。したがって、非水電解質二次電池10は優れたサイクル特性を有する。
【0051】
電解液において、ビニレンカーボネート以外の溶媒が混合されている場合、ビニレンカーボネート以外の溶媒およびビニレンカーボネート以外の溶媒の分解生成物からなる群から選択される少なくとも1つが、生成されるポリマーに含まれる。この結果、ポリマーからなる被膜による負極12の表面の被覆が十分ではなくなり、負極集電体と負極活物質との間の密着性が十分でなくなる。そのため、充放電中に負極活物質が膨張および収縮を繰り返すと、サイクル特性の低下を招く。したがって、電解液の溶媒には、ビニレンカーボネートのみからなる溶媒を用いることが重要である。
【0052】
電解液は、電解質塩を含んでいてもよい。電解質塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiClO4、およびリチウムビスオキサレートボレートのようなリチウム塩が挙げられる。これらの電解質塩から選択される1種を用いてもよい。あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。電解液には、リチウムが溶解されていてもよい。
【0053】
電解液における電解質塩の濃度は特に限定されない。電解質塩は、例えば、ビニレンカーボネートに0.1mol/リットル以上3.0mol/リットル以下の濃度で溶解していてもよい。
【0054】
電解液に含まれるリチウムイオンは、電解液に添加されたリチウム塩に由来してもよく、あるいは充電により正極11から供給されてもよい。電解液には、電解液に添加されたリチウム塩に由来するリチウムイオンおよび充電により正極11から供給されたリチウムイオンの両方が存在していてもよい。
【0055】
(その他)
本開示の実施形態では、
図1に示された電池、すなわち円筒形の電池ケースを備えた円筒形の非水電解質二次電池10が説明されている。しかし、本開示に係る非水電解質二次電池は、
図1に示された電池に限定されない。本開示に係る非水電解質二次電池は、例えば、角形の電池ケースを備えた角形電池、または、アルミニウムラミネートシートのような樹脂外装体を備えたラミネート電池などであってもよい。本開示に係る非水電解質二次電池における電極群も、巻回型の電極群に限定されない。本開示に係る非水電解質二次電池における電極群は、例えば、複数の正極と複数の負極とが、正極と負極との間にセパレータが介在するように交互に積層された積層型の電極群であってもよい。
【0056】
(実施例)
以下の実施例を参照して、本開示の非水電解質二次電池をさらに詳細に説明する。以下の実施例は一例であって、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0057】
(実施例1)
作用極として、Fe箔(2×2cm)が用いられた。このFe箔の両面には、Znを用いてメッキされ、0.2μmの厚みを有するZn層が形成されていた。対極として、リチウム金属が用いられた。作用極は、非水電解質二次電池の負極として機能した。対極は、非水電解質二次電池の正極として機能した。Fe箔は、セルガード社製セパレータ(3401)で二重に被覆された。電解液として、LiPF6を0.5mol/リットルの濃度で溶解させたビニレンカーボネート(以下、「VC」という)が用いられた。このようにして、実施例1の試験セルが得られた。
【0058】
(実施例2)
電解液のLiPF6の濃度が1.0mol/リットルであったこと以外は、実施例1と同様に、実施例2の試験セルが得られた。
【0059】
(実施例3)
電解液のLiPF6の濃度が1.5mol/リットルであったこと以外は、実施例1と同様に、実施例3の試験セルが得られた。
【0060】
(実施例4)
電解液のLiPF6の濃度が2.0mol/リットルであったこと以外は、実施例1と同様に、実施例4の試験セルが得られた。
【0061】
(比較例1)
VCに代えてフルオロエチレンカーボネート(以下、「FEC」という)が用いられたこと、およびLiPF6の濃度が1mol/リットルであったこと以外は、実施例1と同様に、比較例1の試験セルが得られた。
【0062】
(比較例2)
VCに代えて2メチル‐テトラヒドロフラン(以下、「2MeTHF」という)が用いられたこと、およびLiPF6の濃度が1mol/リットルであったこと以外は、実施例1と同様に、比較例2の試験セルが得られた。
【0063】
(比較例3)
VCに代えてエチレンカーボネート(以下、「EC」という)およびメチルエチルカーボネート(以下、「MEC」という)の混合溶媒(EC/MECの体積比:1/3)が用いられたこと、およびLiPF6の濃度が1mol/リットルであったこと以外は、実施例1と同様に、比較例3の試験セルが得られた。
【0064】
(比較例4)
VCに代えてMECが用いられたこと、およびLiPF6の濃度が1mol/リットルであったこと以外は、実施例1と同様に、比較例4の試験セルが得られた。
【0065】
(比較例5)
VCに代えて、EC、MEC、およびVCを、1:3:4のEC:MEC:VCの体積比で含む混合溶媒が用いられたこと、およびLiPF6の濃度が1mol/リットルであったこと以外は、実施例1と同様に、比較例5の試験セルが得られた。
【0066】
(比較例6)
VCに代えて、EC、MEC、およびVCを、7:21:12のEC:MEC:VCの体積比で含む混合溶媒が用いられたこと、およびLiPF6の濃度が1mol/リットルであったこと以外は、実施例1と同様に、比較例6の試験セルが得られた。
【0067】
(比較例7)
VCに代えて、EC、MEC、およびVCを、19:57:4のEC:MEC:VCの体積比で含む混合溶媒が用いられたこと、およびLiPF6の濃度が1mol/リットルであったこと以外は、実施例1と同様に、比較例7の試験セルが得られた。
【0068】
(比較例8)
VCに代えて、プロピレンカーボネート(以下、「PC」という)とVCとの混合溶媒(PC/VCの体積比:1/1)が用いられたこと、およびLiPF6の濃度が1mol/リットルであったこと以外は、実施例1と同様に、比較例8の試験セルが得られた。
【0069】
(充放電のサイクル試験)
実施例1から実施例4および比較例1から比較例8の試験セルを、充放電のサイクル試験に供して、サイクル特性を評価した。1サイクルにおいて、30μAの定電流にて、電圧が0Vに到達するまで各試験セルを充電し、次いで、電圧が1Vに到達するまで各試験セルを放電した。充放電が10サイクル繰り返された。
【0070】
図2は、実施例1から実施例4の放電容量維持率の測定結果を示すグラフである。
図2において、横軸および縦軸は、それぞれ、サイクル数および放電容量維持率を示している。放電容量維持率は、初回の放電容量に対する放電容量の割合として定義される。言い換えれば、n番目のサイクル(ここで、nは2以上の整数である)での放電容量維持率は、初回の放電容量(すなわち、1番目のサイクルでの放電容量)に対するn番目のサイクルでの放電容量の割合として定義される。数式上は、放電容量維持率は、以下のように定義される。
(n番目のサイクルでの放電容量維持率)=(n番目のサイクルでの放電容量)/(1番目の(すなわち、初回の)サイクルでの放電容量)
図2に示す結果から、LiPF
6の濃度を変えても、放電容量維持率は大きく変化しないことが理解できる。
【0071】
図3は、実施例2および比較例1から比較例4の放電容量維持率の測定結果を示すグラフである。
図4は、実施例2および比較例5から比較例8の放電容量維持率の測定結果を示すグラフである。
図3および
図4において、横軸および縦軸は、それぞれ、サイクル数および放電容量維持率を示している。
【0072】
図3に示す結果から、実施例2のセル(すなわち、VCのみを溶媒に用いたセル)の放電容量維持率は10回のサイクルを経てもほとんど低下していないことがわかる。比較例1から比較例4のセル(すなわち、VC以外の溶媒を用いたセル)と比べて、実施例2のセルは、サイクル特性が格段に優れていることがわかる。
【0073】
図4に示す結果から、実施例2のセル(すなわち、VCのみを溶媒に用いたセル)は、比較例5から比較例8のセル(すなわち、VCだけでなくVC以外の溶媒も加えた混合溶媒を用いたセル)と比べて、サイクル特性が格段に優れていることがわかる。
【0074】
以上の結果から、VCのみからなる溶媒を用いることで、非水電解質二次電池のサイクル特性が格段に向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本開示の技術によれば、サイクル特性が格段に向上した非水電解質二次電池を提供できる。
【符号の説明】
【0076】
10 非水電解質二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極群
15 ケース本体
16 封口体
17,18 絶縁板
19 正極リード
20 負極リード
21 段部
22 フィルタ
23 下弁体
24 絶縁部材
25 上弁体
26 キャップ
27 ガスケット