(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】動植物生育用鉄分補給剤
(51)【国際特許分類】
A23K 20/20 20160101AFI20240405BHJP
A23K 20/24 20160101ALI20240405BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20240405BHJP
C05D 9/02 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
A23K20/20
A23K20/24
A01G33/00
C05D9/02
(21)【出願番号】P 2024502439
(86)(22)【出願日】2023-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2023036194
【審査請求日】2024-01-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593227165
【氏名又は名称】ソブエクレー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】523103974
【氏名又は名称】株式会社ReMA
(74)【代理人】
【識別番号】100081466
【氏名又は名称】伊藤 研一
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 梅夫
(72)【発明者】
【氏名】笹本 大介
(72)【発明者】
【氏名】笹本 博彦
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-105898(JP,A)
【文献】特開昭56-78486(JP,A)
【文献】特開2003-18935(JP,A)
【文献】特開2009-227495(JP,A)
【文献】特開2019-151528(JP,A)
【文献】特開昭55-113687(JP,A)
【文献】特開昭62-191487(JP,A)
【文献】特開2007-313407(JP,A)
【文献】特許第5105322(JP,B2)
【文献】特開2016-88757(JP,A)
【文献】特開2016-74940(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103396196(CN,A)
【文献】特開2021-138600(JP,A)
【文献】特開2015-42168(JP,A)
【文献】森野奎二,電気炉酸化スラグ骨材を用いたコンクリートの耐海水性,コンクリート工学年次論文報告集,日本,日本コンクリート工学協会,1997年,Vol.19,No.1,335-360
【文献】竹田重三,鉄鋼スラグとその資源化-製鉄工場副産物のリサイクル-,無機マテリアル,日本,無機マテリアル学会,1997年,Vol.4 Sep.,520-528
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 20/20
A23K 20/24
A01G 33/00
C05D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄(FeO):20~50%,酸化カルシウム(CaO):20~40%,酸化マグネシウム(MgO):3~10%,二酸化ケイ素(SiO
2
):10~20%を主要組成とし,最大で10mmに粒状化及び断片化のいずれかの形態に生成された非晶質の
電気炉酸化スラグであって,
上記電気炉酸化スラグは,上記主要組成が水溶した際にpH8以上のアルカリ性で,かつ三価鉄イオン(Fe
3+
)に対して二価鉄イオン(Fe
2+
)を高い割合で溶出可能で,
上記電気炉酸化スラグを動植物の鉄分補給剤として使用することを特徴とする動植物生育用鉄分補給剤。
【請求項2】
請求項1において,
溶融状態の電気炉酸化スラグをキャリアガスにより吹き飛ばして粒状化しながら噴射急冷部材から噴射される冷却水により急冷した動植物生育用鉄分補給剤。
【請求項3】
請求項2において,
生成される動植物生育用鉄分補給剤の大きさに対応してキャリアガス圧力を可変可能にした動植物生育用鉄分補給剤。
【請求項4】
請求項1において,
溶融状態の電気炉酸化スラグを平板状及びブロック状のいずれの形態で急冷した後に断片化した動植物生育用鉄分補給剤。
【請求項5】
請求項2において,
粒状化及び断片化された電気炉酸化スラグは,所定の大きさに破砕された動植物生育用鉄分補給剤。
【請求項6】
請求項4において,
粒状化及び断片化された電気炉酸化スラグは,所定の大きさに破砕された動植物生育用鉄分補給剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,海水(水域)中において生息するワカメや昆布等の藻類や土壌に植生される野菜や果樹等,並びに家畜(牛,馬,豚,鳥等),魚介類(魚,貝類)等の動物(人間を除く)等の動植物に対し,その生育に不可欠な微量必須元素である鉄分を効率的かつ低コストで供給することが可能な動植物生育用鉄分補給剤に関する。
なお,本発明において「動植物生育用鉄分補給剤」を単に「生育用鉄分補給剤」と称する。
【背景技術】
【0002】
鉄分は,上記した各種動植物の生育に必要不可欠な微量必須元素で,例えば陸上植物や藻類にあっては,鉄分の欠乏により光合成不良や花芽の形成不良等の各種の生育不良が発生することが知られている。
【0003】
植物の内,特に水域に生育する藻類に関しては,近年,沿岸部水域においては鉄不足による藻類の成長や繁殖が減少して石灰藻で覆われる,いわゆる磯焼けやプランクトンの死滅による赤潮等の発生が進行している。その結果,これらの藻類を餌とするウニ,カキ,アワビ,魚等の魚介類の水産資源(動物資源)の減少が顕著になっている。
【0004】
従前であれば,森林の腐植土壌中で生成する水溶性フルボ酸鉄(フルボ酸と二価鉄Fe2+がキレート化した化合物)が河川を介して沿岸水域に流入することにより上記磯焼けの発生やプランクトンの死滅による赤潮の発生を抑制していたが,近年においては,森林の荒廃などによりフルボ酸鉄の溶出量が減少して上記磯焼けや赤潮の発生が増大している。
【0005】
また,陸上植物においても同様で,鉄分の不足により芽や根の成長不良,光合成不良,チッソ同化を行うアミノ酸やたんぱく質の合成不良,花芽の形成不良等が発生し,収穫量の減少を招いている。
【0006】
このような問題に対し、例えば特許文献1に示す肥料用含鉄組成物は,組成物中の全鉄分が3~50wt%であり、かつこの鉄分のうちの25wt%以上が水酸化第一鉄(Fe(OH)2 )、水酸化第二鉄(Fe(OH)3 )および鉄の複塩のなかから選ばれるいずれか1種以上から構成される結晶水を含む鉄化合物から構成され,植物への鉄分の吸収効率に優れているとしている。
【0007】
また,特許文献2に示す水域環境保全材料は,腐植酸供給物質を発酵させて腐植酸を生成させた腐植酸供給物質に鉄鋼スラグの一種である製鋼スラグの鉄含有物質を混合して製造され,該水域環境保全材料を混入又は付着させたコンクリート等の担持体を水域に投入し,水域環境保全材料から溶出する鉄分を水域に供給して海洋植物の鉄分不足を解消しようとしている。
【0008】
特許文献1及び2に示す物質を動植物生育用の生育用鉄分補給剤として使用する場合には,水に対し,動植物への摂取率が高い二価鉄イオン(Fe2+)の溶解割合が高く,かつ溶出する二価鉄イオン(Fe2+)が酸化して三価鉄イオン(Fe3+)へ遷移する割合が低いことが要求される。
【0009】
しかし,特許文献1の肥料用含鉄組成物にあっては,溶出する鉄分の大部分が三価鉄イオン(Fe3+)で,二価鉄イオン(Fe2+)の割合が低く,また,含有される鉄分が水溶性無機鉄塩のため,二価鉄イオン(Fe2+)の状態を維持することが困難で,酸化により三価鉄イオン(Fe3+)へ遷移し易く,動植物生育用の生育用鉄分の補給剤として有効でなかった。
【0010】
更に,特許文献1の肥料用含鉄組成物にあっては,塩基類の蓄積により土壌中や水域中の重金属を固定して土壌や水域の汚染を引き起こしたり,土壌にあっては地下水に溶出して水汚染を引き起こす要因になり易く,肥料用含鉄組成物として有効でなかった。また,十分な二価鉄イオン(Fe2+)を溶出させるには,投入量を多くする必要があり,その結果として改質コストが増大する問題を生じさせている。
【0011】
一方,特許文献2の水域環境保全材料にあっては,溶出する二価鉄イオン(Fe2+)は,海洋植物による摂取効率が高いが,溶出した二価鉄イオン(Fe2+)は水中の酸素によって酸化されて摂取効率が悪い三価鉄イオン(Fe3+)に遷移して粒状鉄(Fe2(OH)3)になって沈澱し易くなるため,海洋植物に効率的に摂取させることが困難であった。
【0012】
また,製鋼スラグは,酸化第一鉄の他に少なくとも1種類の複合酸化物(CaAl2O3, FeAL2O4, MgAl2O4, CaFeSiO6, MgFeSiO6, CaSiO5, MgSi2O3, FeAlO4, CaFe2O4, CaFeO2, MgFeO2)を含有しているため,水に溶けた際には,水域のpHを8以上(海水のpHは,平均で8.1)にアルカリ化することができ,これにより製鋼スラグから溶出する二価鉄イオン(Fe2+)が酸化して三価鉄イオン(Fe3+)へ遷移するのを低減するのに有効である。
【0013】
しかし,製鋼スラグ中の酸化鉄(FeO)は,それ自体が結晶質であるため,水に対する溶解度が低い特性がある。このため,水域において十分な二価鉄イオン(Fe2+)を溶出させるには,投入量を多くする必要があり,その結果として水域改質コストが増大する問題を生じさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平8-277183号公報
【文献】日本国特許6604017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1にあっては,溶出する二価鉄イオン(Fe2+)の状態を維持することが困難で,酸化により動植物への摂取率が悪い三価鉄イオン(Fe3+)へ遷移し易い点にある。
【0016】
また,含有された塩基類の蓄積により土壌中や水域中の重金属を固定して土壌や水域の汚染を引き起こしたり,土壌にあっては地下水に溶出して水汚染を引き起こす要因になり易い点にある。
【0017】
更に,十分な二価鉄イオン(Fe2+)を溶出させるには,投入量を多くする必要があり,土壌や水域の改質コストが増大する点にある。
【0018】
特許文献2にあっては,溶出する二価鉄イオン(Fe2+)が水中の酸素によって酸化されて三価鉄イオン(Fe3+)に遷移して粒状鉄(Fe2(OH)3)になって沈澱し,海洋植物に効率的に摂取させることが困難になる点にある。
【0019】
また,製鋼スラグは,含有された酸化鉄(FeO)が結晶質であるため,水に対する溶解度が低く,十分な二価鉄イオン(Fe2+)を溶出させるには,投入量を多くする必要があり,改質コストが増大する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は,酸化鉄(FeO):20~50%,酸化カルシウム(CaO):20~40%,酸化マグネシウム(MgO):3~10%,二酸化ケイ素(SiO
2
):10~20%を主要組成とし,最大で10mmに粒状化及び断片化のいずれかの形態に生成された非晶質の電気炉酸化スラグであって,上記電気炉酸化スラグは,上記主要組成が水溶した際にpH8以上のアルカリ性で,かつ三価鉄イオン(Fe
3+
)に対して二価鉄イオン(Fe
2+
)を高い割合で溶出可能で,上記電気炉酸化スラグを動植物の鉄分補給剤として使用することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は,溶出する二価鉄イオン(Fe2+)が三価鉄イオン(Fe3+)へ遷移するのを低減して二価鉄イオン(Fe2+)濃度を維持可能な生育用鉄分補給剤を提供する。
【0022】
塩基類の蓄積により土壌や水域が重金属により汚染されるのを防止可能な生育用鉄分補給剤を提供する。
【0023】
水に対する溶解度が高く,かつ二価鉄イオン(Fe2+)濃度を維持可能な生育用鉄分補給剤を提供する。
【0024】
土壌や水域を改質する際に投入量を低減して改質コストを低コスト化可能な生育用鉄分補給剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る生育用鉄分補給剤の製造工程を模式的に示す説明図である。
【
図2】本発明に係る生育用鉄分補給剤の適用した事例1を示す説明図である。
【
図3】本発明に係る生育用鉄分補給剤の適用した事例2を示す説明図である。
【
図4】本発明に係る生育用鉄分補給剤の適用した事例3を示す説明図である。
【
図5】本発明に係る生育用鉄分補給剤の適用した事例4を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
酸化鉄(FeO):20~50%,酸化カルシウム(CaO):20~40%,酸化マグネシウム(MgO):3~10%,二酸化ケイ素(SiO
2
):10~20%を主要組成とし,最大で10mmに粒状化及び断片化のいずれかの形態に生成された非晶質の電気炉酸化スラグは,上記主要組成が水溶した際にpH8以上のアルカリ性で,かつ三価鉄イオン(Fe
3+
)に対して二価鉄イオン(Fe
2+
)を高い割合で溶出可能で,上記電気炉酸化スラグを動植物の鉄分補給剤として使用することを最良の形態とする。
【実施例1】
【0027】
以下,本発明を実施例に従って詳細に説明する。
[生育用鉄分補給剤]
本発明の生育用鉄分補給剤は,酸化鉄(FeO),他に酸化カルシウム(生石灰,CaO),酸化マグネシウム(MgO),二酸化ケイ素(シリカ,SiO2)等を含有する,多くが非晶質の電気炉酸化スラグで,各組成物は,酸化鉄(FeO):20~50%,酸化カルシウム(CaO):20~40%,酸化マグネシウム(MgO):3~10%,二酸化ケイ素(シリカ,SiO2):10~20%の範囲内で含有される。本発明においての好適例としては,FeO:29%,CaO:23%,MgO:5%,SiO2:18%からなる。
【0028】
上記組成の電気炉酸化スラグは,多くが非晶質(アモルファス)で,結晶性FeOと比べて水に対する溶解率が高く,水溶した際に放出される鉄イオンとしては,三価鉄イオン(Fe3+)に比べて二酸化鉄イオン(Fe2+)の割合が高い特徴を備えている。
【0029】
また,上記組成の電気炉酸化スラグ中の酸化鉄(FeO)は,水溶した際においては,含有される酸化カルシウム(CaO),酸化マグネシウム(MgO),二酸化ケイ素(SiO2)によりpH:8以上のアルカリ性で,二酸化鉄イオン(Fe2+)が三価鉄イオン(Fe3+)へ遷移するのを低減する特徴を備えている。
【0030】
上記組成の電気炉酸化スラグは,酸化スラグ風砕装置1により粒状に生成されて生育用鉄分補給剤として製造される。スラグ風砕装置1により生成される生育用鉄分補給剤の大きさは,後述するキャリアガスの圧力や吹き飛ばし状態に依存して一様ではなく,大きさ(粒径)に関しては,特に限定されないが,好適例として最大で10mm程度の粒径とすることが望ましい。また,上記好適例以上の粒径で生成された場合にあっては,破砕装置により破砕して粒径を調整すればよい。
【0031】
なお,上記説明においては,生育用鉄分補給剤の大きさに付いて最大で10mm程度が望ましいとしたが,生育用鉄分補給剤の大きさは,使用用途に応じて適宜決定される。すなわち,生育用鉄分補給剤の大きさが大きい場合には,水への溶解率が悪くなって短期間に動植物へ摂取させ難くなるが,長期間にわたって低濃度の二酸化鉄イオン(Fe2+)を安定的に補給する用途に適している。反対に生育用鉄分補給剤の大きさが小さい場合には,水への溶解率が高くなって短期間に高濃度の二酸化鉄イオン(Fe2+)を補給することができる。したがって,二酸化鉄イオン(Fe2+)が補給される土壌や水域の状態(鉄分濃度)に応じて上記範囲内で適宜決定すればよい。
【0032】
生育用鉄分補給剤は,その粒径を細かくすることにより水に対する溶解率を高めることが可能で,これに伴って水に溶けだす二価鉄イオン(Fe2+)の濃度を高めることができることが知られている。このため,酸化スラグ風砕装置1により所定の粒径に生成されて生育用鉄分補給剤にあっては,更に破砕装置により粒径を,例えば0.007mm程度に微粉砕してもよい。
【0033】
【0034】
表1は,結晶性及び粒径が異なる生育用鉄分補給剤中の酸化鉄(FeO)をクエン酸水(2%)に添加して1時間,攪拌して溶解した際に,鉄(Fe)の量を100とした場合における水への溶解率を示す。
【0035】
粒径が同じ結晶性及び非結晶性の酸化鉄(FeO)にあっては,非晶質酸化鉄は,結晶質酸化鉄と比較し,水への溶解率が20倍であることを示している。また,粒径が0.007mmの非晶質酸化鉄にあっては,粒径が最大で10mmの非晶質酸化鉄と比べて水への溶解率が5倍であることを示している。この事実から,粒径が0.007mmの生育用鉄分補給剤にあっては,粒径が最大で10mmの生育用鉄分補給剤に対し,消費量を1/5にすることができ,改質コストの低減を可能にしている。
【0036】
但し,生育用鉄分補給剤の粒径を細かくすることにより水への溶解率が高くなるが,水に対して短時間(短期間)に溶解するため,適用土壌及び水域を長期にわたって改質する必要がある場合には,適用土壌及び水域に対する投入量を多くする必要があり,改質コストが増大する恐れがある。このため,生育用鉄分補給剤の粒径は,適用土壌及び水域の鉄分の不足状況や改質の進展状況等に応じて決定する必要がある。
【0037】
[生育用鉄分補給剤の製造方法]
上記組成の生育用鉄分補給剤は,
図1に示す酸化スラグ風砕装置1により製造される。
【0038】
図1に示すスラグ鍋3内には,
酸化鉄(FeO)を多く含む溶融状態の
電気炉酸化スラグが溜められる。
【0039】
電気炉から排出される電気炉酸化スラグは,溶解中に吹き込まれる酸素により発生する酸化鉄(FeO)の他に酸化マグネシウム(MgO),二酸化ケイ素(SiO2),精錬のために加えられる酸化カルシウム(CaO)等を含んでいる。
【0040】
スラグ鍋3の近傍には,吹付ノズル5が配置され,該吹付ノズル3は,上記スラグ鍋3から流下する溶融状態の電気炉酸化スラグにキャリアガスを吹き付けて溶融状態の電気炉酸化スラグを吹き飛ばして粒状化させる。
【0041】
キャリアガスとしては,その種類に制限はなく,例えば空気(圧縮空気),窒素,酸素等のいずれであってもよい。また,キャリアガスは,要求される生育用鉄分補給剤の粒径に対応する圧力で噴射されるように調整制御される。
【0042】
すなわち,比較的大径の生育用鉄分補給剤を生成する場合には,キャリアガスの圧力を,電気炉酸化スラグを吹き飛ばし可能な範囲で比較的低圧に,反対に比較的小径の生育用鉄分補給剤を生成する場合には,キャリアガスの圧力を高圧にそれぞれ設定し,キャリアガスの圧力により生育用鉄分供給剤の粒径を調整可能にする。
【0043】
また,キャリアガスには,本発明に係る生育用鉄分補給剤を混合し,電気炉酸化スラグを吹き飛ばす際に流下する溶融状態の電気炉酸化スラグに生育用鉄分補給剤を衝突させ,その衝突エネルギーにより吹き飛ばされる電気炉酸化スラグを微細化することができる。
【0044】
上記キャリアガスにより溶融状態の電気炉酸化スラグが吹き飛ばされる領域には,遮蔽体7が設けられ,該遮蔽体7内の上部には,複数(多数)の噴射急冷部材9が電気炉酸化スラグの吹き飛ばし領域に亘るように設けられている。
【0045】
各噴射急冷部材9は,遮蔽体7内において吹き飛ばされる溶融状態の電気炉酸化スラグに対して水又はミスト(望ましくは冷却水又は冷却ミスト)を噴射して急冷し,粒状の生育用鉄分補給剤に生成する。
【0046】
溶融状態の電気炉酸化スラグは,噴射急冷部材9から噴射される水により急冷されることにより適宜の大きさ(粒径),好適例としては最大10mm程度の大きさで粒状化され,かつその多くが非晶質状態で固化され,その自重によりストックヤード11に落下集積される。
【0047】
ストックヤード11に落下集積された電気炉酸化スラグは,異なる粒径で混在した状態で生育用鉄分補給剤として提供してもよいが,所望の粒径ごとのメッシュからなる複数のふるい装置(図示せず)により所定の粒径ごとの生育用鉄分補給剤に選別した形態で提供してもよい。
【0048】
なお,風砕により生成される生育用鉄分補給剤の大きさ(粒径)は,特に限定されず,大小混在した形態で生成される。しかし,粒径が過度に大きい場合には,二価鉄イオン(Fe2+)の溶出効率が悪くなるため,望ましくは最大10mm程度の粒径にする必要がある。このように生成された生育用鉄分補給剤の粒径が過度に大きい場合には,破砕装置により粉砕して上記した最大10mm程度の粒径にすればよい。
【0049】
また,上記した粒径に生成された生育用鉄分補給剤を破砕装置により,更にミクロン単位,ナノ単位まで微粒子化して水に対する溶解率を高め,溶出する二価鉄イオン(Fe2+)の濃度を高めてもよい。破砕装置としては,上記のように急冷され,粒径が異なる電気炉酸化スラグをジョークラッシャー,回転衝撃破砕機等の従来公知の破砕装置により粒径が,例えば0.007mmになるまで破砕し,微粒子状の生育用鉄分補給剤として提供してもよい。
【0050】
[事例1]
図2に示す生育用鉄分補給剤は,電気炉酸化スラグで,酸化鉄(FeO):29%,酸化カルシウム(CaO):23%,酸化マグネシウム(MgO):5%,二酸化ケイ素(SiO
2):18%で,粒径は,0.5~2mmからなる。
【0051】
本発明に係る生育用鉄分補給剤が混合されていない土壌の「対照区」に対し,「本発明品」においては,生育用鉄分補給剤を土壌1リットルに対して5gを混合し,10リットルのプランターに6株の「モロヘイヤ」を30日間,栽培した際の生育状態を示す。
【0052】
本発明に係る生育用鉄分補給剤が混合された土壌での栽培例にあっては,「対照区」に対し,いずれの項目において高い指数を示し,高濃度の二価鉄イオン(Fe2+)が長期にわたって補給されたと考察される。
【0053】
[事例2]
図3においては,事例1と同様の生育用鉄分補給剤を,土壌1リットルに対して5gを混合し,8号鉢に3株の「赤キャベツ」を19日間,栽培した際の生育状態を示す。
【0054】
本発明に係る生育用鉄分補給剤が混合された土壌での栽培例にあっては,「対照区」に対し,いずれの項目において高い指数を示し,高濃度の二価鉄イオン(Fe
2+)が長期にわたって補給されたと考察される。
[事例3]
図4においては,事例1と同様の生育用鉄分補給剤を,土壌1リットルに対して5gを混合し,10リットルのプランターに6株の「イタリアンパセリ」を22日間,栽培した際の生育状態を示す。
【0055】
本発明に係る生育用鉄分補給剤が混合された土壌での栽培例にあっては,「対照区」に対し,いずれの項目において高い指数を示し,高濃度の二価鉄イオン(Fe2+)が長期にわたって補給されたと考察される。
【0056】
[事例4]
図5に示す生育用鉄分補給剤は,事例1-3で使用した生育用鉄分補給剤と同様の組成で,粒径が0.007mmの生育用鉄分補給剤を土壌1リットルに対して1g及び粒径が0.5~2mmの生育用鉄分補給剤を土壌1リットルに対して5gを土壌にそれぞれ混合し,10リットルのプランターに5株の「コマツナ」を18日間,栽培した際の生育状態を示す。
【0057】
本発明に係る生育用鉄分補給剤が混合された各土壌での栽培例にあっては,「対照区」に対し,いずれの項目において高い指数を示し,高濃度の二価鉄イオン(Fe2+)が長期にわたって補給されたと考察される。
【0058】
[考察]
上記事例1-4から本発明に係る生育用鉄分補給剤は,水に対する溶解率が高く,少なくとも植物に対して摂取効率が高い二酸化鉄イオン(Fe2+)を補給することができた。
【0059】
また,生育用鉄分補給剤がアルカリ性であるため,水に溶解した二酸化鉄イオン(Fe2+)が三価鉄イオン(Fe3+)へ遷移するのを抑制し,二酸化鉄イオン(Fe2+)を長期にわたって安定的に補給することができた。
【0060】
上記説明は,陸上植物に付いて説明したが,藻類等の海洋植物に対しては,本発明に係る生育用鉄分補給剤を,例えば藻礁ブロックに取付けたり,ロープ等に取付けられる袋(不織布)に収容したりして水域に溶出可能にすることにより実施可能である。
【0061】
上記説明は,スラグ鍋から流下する溶融状態の電気炉酸化スラグをキャリアガスにより吹き飛ばしながら噴射急冷部材から噴射する水又はミストにより急冷して多くが非晶質で粒状化した電気炉酸化スラグを生成したが,スラグ鍋に溜められて溶融状態の電気炉酸化スラグを,必要により内蔵された水管や冷媒管により冷却された冷却台や冷却ロール(圧延ロール)上に流下させて平板状又はブロック状にしながら噴射急冷部材から水又はミストを噴射して急冷した電気炉酸化スラグとしてもよい。
【0062】
この場合にあっては,電気炉酸化スラグは,急冷により多くが非晶化されるが粒状化することができない。このため,平板状又はブロック状に生成された酸化スラグにあっては,上記した破砕装置により所望の大きさ(最大10mm)になるように破砕して断片化された生育用鉄分補給剤に生成すればよい。
【0063】
上記説明は,酸化スラグ風砕装置1により電気炉酸化スラグを吹き飛ばしながら急冷して最大10mm程度の大きさに粒状化して生育用鉄分補給剤を生成するものとしたが,酸化スラグ風砕装置により風砕及び急冷し,望ましくは最大10mm程度の大きさに直接,生成する製造態様としたが,これよりも大きさで電気炉酸化スラグを生成した後に破砕装置により上記大きさに生成する迂回的製造態様であってもよい。
【要約】
【課題】溶出する二価鉄イオン(Fe
2+)が動植物への摂取率が悪い三価鉄イオン(Fe
3+)へ遷移するのを低減して二価鉄イオン(Fe
2+)濃度を維持可能な生育用鉄分補給剤を提供する。塩基類の蓄積により土壌や水域が重金属により汚染され易くなるのを防止可能な生育用鉄分補給剤を提供する。水に対する溶解度が高く,かつ二価鉄イオン(Fe
2+)濃度を維持可能な生育用鉄分補給剤を提供する。土壌や水域を改質する際に投入量を低減して改質コストが低コスト化可能な生育用鉄分補給剤を提供する。
【解決手段】酸化鉄(FeO)及び少なくとも酸化カルシウム(CaO),酸化マグネシウム(MgO),二酸化ケイ素(SiO
2)のいずれかを含有し,非晶質及びアルカリ性で,粒状化及び断片化のいずれかの形態からなるスラグを動植物の生育に不可欠な鉄分の補給剤とする。
【選択図】
図1