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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】燃料電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20240405BHJP
   H01M 8/0271 20160101ALI20240405BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240405BHJP
   H01M 8/06 20160101ALI20240405BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240405BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20240405BHJP
   H01M 8/102 20160101ALI20240405BHJP
【FI】
H01M8/02
H01M8/0271
H01M8/04 J
H01M8/06
H01M8/10 101
H01M8/1004
H01M8/102
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019226431
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021096923
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健治
(72)【発明者】
【氏名】小柳津 研一
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6402102(JP,B2)
【文献】特開2011-103295(JP,A)
【文献】特開2001-006697(JP,A)
【文献】特表2019-514190(JP,A)
【文献】特開2010-163358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード触媒層、電解質膜、及びカソード触媒層をこの順に備える燃料電池セルであって、
前記燃料電池セル内に水素貯蔵部材が配置されており、
前記水素貯蔵部材は、ヒドロキシ基を含む有機ポリマーであり、
前記水素貯蔵部材が配置されている空間は、発電時には前記燃料電池セルの外部に対して気密になっている、燃料電池セル。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池セルであって、
前記水素貯蔵部材は、前記アノード触媒層に隣接した位置に配置されている、燃料電池セル。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池セルであって、
前記水素貯蔵部材は、ゲル又は固体である、燃料電池セル。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1つに記載の燃料電池セルであって、
前記水素貯蔵部材は、シート状である、燃料電池セル。
【請求項5】
請求項1~請求項の何れか1つに記載の燃料電池セルであって、
前記電解質膜は、芳香族骨格からなる構造を有する、燃料電池セル。
【請求項6】
請求項1~請求項の何れか1つに記載の燃料電池セルであって、
前記電解質膜は、単位膜厚当たりの酸素透過係数が3.35×10-15(mol・m)/(m・s・Pa)以下である、燃料電池セル。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか1つに記載の燃料電池セルの運転方法であって、
第1温度で前記水素貯蔵部材に水素を貯蔵する工程と、
前記水素貯蔵部材を前記第1温度よりも高い第2温度にして水素を放出させる工程と、を含み、
前記第2温度が、40~150℃である、運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯性に優れた燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池セルは、アノードに水素、カソードに空気(酸素)を供給し、電気化学反応によって発電することができる。特許文献1では、燃料電池セルの外部に設けた水素供給源から燃料電池セルに水素を供給することによって発電することが想定されている。なお、本明細書では、特に明記しない限り、水素及び酸素は、それぞれ、水素ガス及び酸素ガスを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-16942号公報
【文献】特開2017-179345号公報
【文献】特許第6402102号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の構成では、燃料電池セルを動作させるには、外部の水素供給源を燃料電池セルと一緒に持ち運ぶ必要があるので、携帯性が悪い。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、携帯性に優れた燃料電池セルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、アノード触媒層、電解質膜、及びカソード触媒層をこの順に備える燃料電池セルであって、前記燃料電池セル内に水素貯蔵部材が配置されている、燃料電池セルが提供される。
【0007】
本発明では、燃料電池セル内に水素貯蔵部材が配置されており、水素貯蔵部材から放出される水素を用いて燃料電池セルを動作させることができる。このため、外部の水素供給源からの水素の供給を受けることなく、燃料電池セルを動作させることができるので、携帯性に優れている。
【0008】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記記載の燃料電池セルであって、前記水素貯蔵部材は、前記アノード触媒層に隣接した位置に配置されている、燃料電池セルである。
好ましくは、前記記載の燃料電池セルであって、前記水素貯蔵部材は、ゲル又は固体である、燃料電池セルである。
好ましくは、前記記載の燃料電池セルであって、前記水素貯蔵部材は、シート状である、燃料電池セルである。
好ましくは、前記記載の燃料電池セルであって、前記水素貯蔵部材は、ヒドロキシ基を含む有機ポリマーである、燃料電池セルである。
好ましくは、前記記載の燃料電池セルであって、前記水素貯蔵部材が配置されている空間は、発電時には前記燃料電池セルの外部に対して気密になっている、燃料電池セルである。
好ましくは、前記記載の燃料電池セルであって、前記電解質膜は、芳香族骨格からなる構造を有する、燃料電池セルである。
好ましくは、前記記載の燃料電池セルであって、前記電解質膜は、単位膜厚当たりの酸素透過係数が3.35×10 -15 (mol・m)/(m ・s・Pa)以下である、燃料電池セルである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態の燃料電池セル1の斜視図である。
図2図2Aは、図1中の触媒塗布膜2及び支持フレーム3の断面図であり、図2Bは、図2A中の領域Bの拡大図である。
図3図1中のアノードユニット10を図1とは異なる方向から見た斜視図である。
図4図1中のカソードユニット20を図1とは異なる方向から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0011】
1.燃料電池セル1の構成
図1図4に示すように、本発明の一実施形態の燃料電池セル1は、触媒塗布膜2と、支持フレーム3と、アノードユニット10と、カソードユニット20を備える。
【0012】
1-1.触媒塗布膜2と支持フレーム3
図2に示すように、触媒塗布膜2は、電解質膜2aの一方の面にアノード触媒層2bが塗布され、電解質膜2aの他方の面にカソード触媒層2cが塗布されて構成される。触媒塗布膜2の周縁部2dが支持フレーム3によって支持されている。電解質膜2aは、イオン伝導性を有する高分子膜であり、電解質膜2aを通じてアノード触媒層2b側からカソード触媒層2c側に向かってプロトンの移動が可能になっている。
【0013】
電解質膜2aとしては、一例では、芳香族骨格からなる構造を有する高分子電解質膜である。このような電解質膜としては、特許文献2に開示されているものが挙げられ、具体的には例えば、スルホン酸基が導入されていない、主鎖が主に複数の芳香環(例:ベンゼン環)からなる疎水性セグメント、及び、スルホン酸基が導入され、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントから構成される共重合体を含む高分子電解質であって、前記疎水性セグメントを構成する複数の芳香環は、前記疎水性セグメントを構成する芳香環の炭素-炭素直接結合で連結され、前記親水性セグメントのスルホン酸基は芳香環に直接結合し、かつ、前記疎水性セグメントと前記親水性セグメントの芳香環は、前記疎水性セグメントと前記親水性セグメントを構成する芳香環の炭素-炭素直接結合で連結されているものである。
【0014】
電解質膜2aは、ガス透過性が低いことが好ましく、単位膜厚当たりの酸素透過係数が3.35×10 -15 (mol・m)/(m ・s・Pa)以下であることがさらに好ましい。単位膜厚当たりの酸素透過係数は、等圧法によって決定することができる。
【0015】
1-2.アノードユニット10
図3に示すように、アノードユニット10は、水素貯蔵部材11と、アノード拡散部材12と、アノードガスケット13と、アノードセパレータ14と、アノード集電板15と、アノード筐体16を備える。
【0016】
水素貯蔵部材11は、アノード触媒層2bに隣接した位置に配置されている。水素貯蔵部材11は、水素の貯蔵と放出が切り替え可能な部材であり、有機物と無機物のどちらで構成されていてよく、軽量性や取り扱い性の観点から有機ポリマーで構成されることが好ましい。水素貯蔵部材11は、水素の貯蔵と放出を可逆的に切り替え可能な部材であることが好ましい。水素貯蔵部材11は単一の材料であってもよく、複数の材料を組み合わせたものであってもよい。水素の貯蔵と放出の切り替えは、水素貯蔵部材11の種類や性質により、温度又は圧力の変化によって行うことが好ましい。
【0017】
一例では、第1温度で水素貯蔵部材11に水素を接触させることによって水素貯蔵部材11に水素を貯蔵し、水素貯蔵部材11を第1温度よりも高い第2温度にすることによって水素貯蔵部材11から水素を放出させる。第1温度と第2温度の温度差は、例えば、20~120℃であり、好ましくは20~80℃であり、具体的には例えば、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。第2温度は、例えば、40~150℃であり、好ましくは60~100℃であり、具体的には例えば、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0018】
別の例では、第1圧力で水素貯蔵部材11に水素を接触させることによって水素貯蔵部材11に水素を貯蔵し、水素貯蔵部材11を第1圧力よりも水素分圧が低い第2圧力にすることによって水素貯蔵部材11から水素を放出させる。
【0019】
水素貯蔵部材11は、好ましくはゲル又は固体であり、好ましくはシート上である。このような形態であれば取り扱いが容易であるからである。水素貯蔵部材11は、一例では、ヒドロキシ基を含む(好ましくはヒドロキノイド構造を含む)有機ポリマーである。このようなポリマーとしては、特許文献3に開示されているものが挙げられる。ヒドロキシ基の水素原子が酸素原子から離脱することによって水素が放出され、水素原子が酸素原子に結合することによって水素が貯蔵される。ヒドロキシ基は、好ましくは炭素原子に結合しており、炭素原子に結合したヒドロキシ基がカルボニル基になることによって水素が放出され、カルボニル基の酸素原子に水素原子が結合してヒドロキシ基になることによって水素が貯蔵される。
【0020】
一例では、水素貯蔵部材11を構成する有機ポリマーは、ヒドロキノイド構造を含み、かつ(i)ポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールの誘導体であるか、又は、(ii)エチレン、スチレン、ノルボルネン、アリルアミン、メタクリル酸およびアクリル酸のうち少なくとも1種の化合物に由来する官能基と、フェニレンメチレン、フェニレンエーテルおよびフェニレンエステルのうち少なくとも1種の官能基とからなる群から選択される、少なくとも1種の官能基を繰り返し単位に含む。ヒドロキノイド構造は、ベンゾキノール、ナフトキノールおよびアントラキノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物から誘導されることが好ましい。水素貯蔵反応および発生反応を促進するために、イリジウム錯体などの触媒を混合してもよい。
【0021】
水素貯蔵部材11の厚さは、例えば1~20mmであり、3~10mmが好ましい。水素貯蔵部材11が薄すぎると水素貯蔵量が不十分である場合があり、厚すぎると燃料電池セル全体が過度に厚くなってしまう場合がある。水素貯蔵部材11の厚さが薄い場合には、複数の水素貯蔵部材を積層して用いてもよい。
【0022】
アノード拡散部材12は、アノード触媒層2bに隣接した位置において、水素貯蔵部材11を取り囲むように配置される。別の表現では、アノード拡散部材12に設けた開口部12a内に水素貯蔵部材11が配置される。開口部12aの大きさは水素貯蔵部材11が配置できるようであれば、特に制限されない。アノード拡散部材12は、水素を含むアノードガスを拡散させる部材であり、例えば多孔質材料で構成される。アノード拡散部材12を設けることによって、アノードガスの効率的な拡散が可能になる。
【0023】
アノードガスケット13は、支持フレーム3に隣接した位置において、アノード拡散部材12を取り囲むように配置される。別の表現では、アノードガスケット13に設けた開口部13a内に水素貯蔵部材11及びアノード拡散部材12が配置される。アノードガスケット13は、例えばゴムシートで構成されており、アノードガス(水素)のリークを防ぐ機能を有する。
【0024】
アノードセパレータ14は、水素貯蔵部材11、アノード拡散部材12及びアノードガスケット13に隣接した位置に配置され、これらの部材とアノード集電板15の間に配置され、アノードガスが流れる空間とその外側の空間を分離する。本実施形態では、燃料電池セル1は、単セル構成であるが、複数のセルが積層された積層セル構成であってもよい。この場合、アノードセパレータ14は、アノードガスが流れる空間と、酸素を含むカソードガス又は冷却水が流れる空間を分離する。アノードセパレータ14は、金属などの導電材料で形成されることが好ましい。アノードセパレータ14は、アノードガス入口14a及びアノードガス出口14bと、これらをつなぐ流路14cを備える。流路14cは不要であれば省略可能である。
【0025】
アノード集電板15は、アノードセパレータ14に隣接した位置に配置される。アノード集電板15は、金属など)の導電材料で形成される。アノード集電板15には、アノードガス入口14aとアノードガス出口14bに連通するアノードガス入口15a及びアノードガス出口15bが設けられている。アノード集電板15は、開口15cを有する突出部15dを有し、この部位に外部端子を接続して、燃料電池セル1が発生した電力を取り出し可能になっている。
【0026】
アノード筐体16は、アノード集電板15に隣接した位置に配置される。アノード筐体16は、アノードガス入口15a及びアノードガス出口15bに連通するアノードガス入口16a及びアノードガス出口16bを有する。
【0027】
水素貯蔵部材11から水素を取り出して発電している間はアノードガス入口16aとアノードガス出口16bは閉塞されていることが好ましい。これによって、水素貯蔵部材11が配置されている空間が燃料電池セル1の外部に対して気密になり、水素貯蔵部材11から発生した水素が外部に漏れることが抑制され効果的に発電することができる。一方、水素貯蔵部材11に水素を貯蔵する際には、水素を含むアノードガスがアノードガス入口16a,15a,14aから供給され、アノードガス中の水素の少なくとも一部が水素貯蔵部材11に吸収された後のアノードガスがアノードガス出口14b,15b,16bから排出される。これによって、水素貯蔵部材11に水素を貯蔵することができる。
【0028】
1-3.カソードユニット20
図4に示すように、カソードユニット20は、カソード拡散部材22と、カソードガスケット23と、カソードセパレータ24と、カソード集電板25と、カソード筐体26を備える。
【0029】
カソード拡散部材22は、カソード触媒層2cに隣接した位置に配置される。カソード拡散部材22は、酸素を含むカソードガスを拡散させる部材であり、例えば多孔質材料で構成される。カソード拡散部材22を設けることによって、カソードガスの効率的な拡散が可能になる。
【0030】
カソードガスケット23は、支持フレーム3に隣接した位置において、カソード拡散部材22を取り囲むように配置される。別の表現では、カソードガスケット23に設けた開口部23a内にカソード拡散部材22が配置される。カソードガスケット23は、例えばゴムシートで構成されており、カソードガス(酸素)のリークを防ぐ機能を有する。
【0031】
カソードセパレータ24は、カソード拡散部材22及びカソードガスケット23に隣接した位置に配置され、これらの部材とカソード集電板25の間に配置され、カソードガスが流れる空間とその外側の空間を分離する。本実施形態では、燃料電池セル1は、単セル構成であるが、複数のセルが積層された積層セル(スタック)構成であってもよい。この場合、カソードセパレータ24は、カソードガスが流れる空間と、アノードガス又は冷却水が流れる空間を分離する。カソードセパレータ24は、金属などの導電材料で形成されることが好ましい。カソードセパレータ24は、カソードガス入口24a及びカソードガス出口24bと、これらをつなぐ流路24cを備える。流路24cは不要であれば省略可能である。
【0032】
カソード集電板25は、カソードセパレータ24に隣接した位置に配置される。カソード集電板25は、金属など)の導電材料で形成される。カソード集電板25には、カソードガス入口24aとカソードガス出口24bに連通するカソードガス入口25a及びカソードガス出口25bが設けられている。カソード集電板25は、開口25cを有する突出部25dを有し、この部位に外部端子を接続して、燃料電池セル1が発生した電流を取り出し可能になっている。
【0033】
カソード筐体26は、カソード集電板25に隣接した位置に配置される。カソード筐体26は、カソードガス入口25a及びカソードガス出口25bに連通するカソードガス入口26a及びカソードガス出口26bを有する。
【0034】
燃料電池セル1において発電させる際には、酸素を含むカソードガスがカソードガス入口26a,25a,24aから供給され、カソードガス中の酸素の少なくとも一部が反応によって水になった後のカソードガスがカソードガス出口24b,25b,26bから排出される。
【0035】
2.燃料電池セル1の動作方法
燃料電池セル1は、水素貯蔵ステップにおいて水素貯蔵部材11に水素を貯蔵し、発電ステップにおいて水素貯蔵部材11から取り出した水素を用いて発電することができる。
【0036】
水素貯蔵ステップでは、水素を含むアノードガスをアノードガス入口16a,15a,14aから供給し、アノードガスを水素貯蔵部材11に接触させることによって、燃料電池セル1内に配置された水素貯蔵部材11に水素を貯蔵することができる。この際、水素貯蔵部材11が水素貯蔵に適した温度になるように温度調整を行うことが好ましい。温度調節は例えばヒーターと冷却水を制御することで行うことができる。
【0037】
なお、水素貯蔵ステップを設ける代わりに、燃料電池セル1外で予め水素を貯蔵させた状態の水素貯蔵部材11を準備し、これを燃料電池セル1内の水素貯蔵部材11と交換するステップを行ってもよい。この場合、水素貯蔵部材11を交換するだけで、燃料電池セル1内に水素貯蔵済みの水素貯蔵部材11を配置することができるので、燃料電池セル1の効率的な運用が可能になる。
【0038】
発電ステップでは、発電開始前に水素貯蔵部材11から水素を取り出してもよく、発電しながら水素貯蔵部材11から水素を取り出してもよい。水素貯蔵部材11からの水素の取り出しは、水素貯蔵部材11の種類や性質により、昇温や減圧などによって行うことができる。圧力調整は例えばポンプや減圧バルブを制御することで行うことができる。
【0039】
発電ステップでは、カソードガスとして空気を供給してもよく、酸素を供給してもよい。空気は、ファンなどの送風部材を用いて供給可能であるので、燃料電池セル1の携帯性を高めるのに適している。
【実施例
【0040】
以下の方法によって、燃料電池セル1内に配置された水素貯蔵部材11から取り出した水素を用いて発電実験を行った。
【0041】
1.実験用燃料電池セルの作製
図1図4に示す構成の実施例1~2の燃料電池セル1を表1に示す条件で作製した。実施例1と2は、表1に示すように電解質膜が異なる。
【0042】
【表1】
【0043】
表1中の各種部材の詳細は、以下の通りである。
TEC10E50E:田中貴金属工業製、カーボン担持白金触媒
Nafion NRE-212:シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、ナフィオン膜(単位膜厚当たりの酸素透過係数が約6.7×10 -15 (mol・m)/(m ・s・Pa)
SPP-QP:化学式(1)の構造を有する高分子電解質膜(単位膜厚当たりの酸素透過係数が約6.7×10 -16 (mol・m)/(m ・s・Pa)
【0044】
【化1】
【0045】
29BC:SGLカーボン社製、黒鉛繊維不織布(厚さ約200μm)
【0046】
水素貯蔵部材11としては、化学式(2)の構造を有する、厚さ5mmの有機ポリマー(イリジウム錯体触媒を含む)を用いた。アノード拡散部材12は、水素貯蔵部材11が収容される形状の開口を形成したものを25枚重ねて用いた。
【0047】
【化2】
【0048】
2.発電実験
表2に示す条件で発電実験を行った。水素貯蔵部材11の水素の貯蔵及び放出は、水分の存在によって促進されるので、発電実験は、相対湿度を100%にして行った。期間1では、セル温度30℃でアノードガスとして水素を供給して水素貯蔵部材11に水素を貯蔵した。期間2では、アノードガスを窒素に変更し、水素貯蔵部材11が配置されている空間に残留している水素を除去した。期間3では、水素貯蔵部材11が配置されている空間を密閉した状態で静置した。期間4では、セル温度を80℃に上昇させることによって、水素貯蔵部材11から水素を放出させた。期間5では、カソードガスとして酸素を供給した。この期間では、集電板15,25間に抵抗を接続していないので、発電を行っていない。期間6では、集電板15,25間に抵抗を接続して発電を行った。
【0049】
【表2】
【0050】
3.実験結果
発電実験の結果を表3に示す。
【0051】
3-1.発電時間
実施例1と2のどちらも、発電開始直後のセル電圧は0.8Vであった。時間の経過と共にセル電圧が徐々に低下した。セル電圧が0Vになるまでの時間を表3に示す。発電実験は10回行った。1回目、5回目、10回目の結果を表3に示す。
【0052】
実施例1と2とでは、用いた水素貯蔵部材11の質量が異なっているので、発電性能を対比しやすいように、発電時間を水素貯蔵部材11の質量で規格化した値を算出し、1g当たりの発電時間として表3に示す。表3に示すように、実施例2では、実施例1よりも、1g当たりの発電時間が長かった。
【0053】
時間の経過と共にセル電圧が徐々に低下する原因を調べるために、アノード電位、カソード電位、オーム抵抗を測定したところ、カソード電位とオーム抵抗は、発電中にほとんど変化しなかったのに対して、アノード電位は、発電中に大きく上昇していることが分かった。この結果は、セル電圧の変化は、発電に利用可能な水素の減少に伴ってアノード電位が上昇することであることを示している。
【0054】
3-2.水素利用率
以下の式に従って、電流密度が1,5,10mA cm-2であるときの水素利用率を算出した。その結果を表3に示す。表3に示すように、実施例2では、実施例1よりも、水素利用率が高かった。また、電流密度が小さいほど、水素利用率が高かった。
【0055】
水素利用率(%)=100×(実際に発電できた電気量)/(水素貯蔵部材11に貯蔵されている水素から理論的に発電可能な電気量)
【0056】
3-3.考察
上記の通り、実施例2では、実施例1よりも発電時間が長く、かつ水素利用率が高かった。この結果は、実施例2で用いた電解質膜のガス透過性が、実施例1で用いた電解質膜のガス透過性よりも低いために、水素貯蔵部材11で発生した水素が効率的に発電に利用されたためであると考えられる。
【0057】
【表3】
【符号の説明】
【0058】
1 :燃料電池セル
2 :触媒塗布膜
2a :電解質膜
2b :アノード触媒層
2c :カソード触媒層
2d :周縁部
3 :支持フレーム
10 :アノードユニット
11 :水素貯蔵部材
12 :アノード拡散部材
12a :開口部
13 :アノードガスケット
13a :開口部
14 :アノードセパレータ
14a :アノードガス入口
14b :アノードガス出口
14c :流路
15 :アノード集電板
15a :アノードガス入口
15b :アノードガス出口
15c :開口
15d :突出部
16 :アノード筐体
16a :アノードガス入口
16b :アノードガス出口
20 :カソードユニット
22 :カソード拡散部材
23 :カソードガスケット
23a :開口部
24 :カソードセパレータ
24a :カソードガス入口
24b :カソードガス出口
24c :流路
25 :カソード集電板
25a :カソードガス入口
25b :カソードガス出口
25c :開口
25d :突出部
26 :カソード筐体
26a :カソードガス入口
26b :カソードガス出口
図1
図2
図3
図4