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  • 特許-原油中の鉄成分量低減方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】原油中の鉄成分量低減方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 17/09 20060101AFI20240405BHJP
   C10G 29/20 20060101ALI20240405BHJP
   C10G 33/02 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C10G17/09
C10G29/20
C10G33/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021516197
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017451
(87)【国際公開番号】W WO2020218403
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019086034
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】甲田 浩気
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-505350(JP,A)
【文献】特表2005-537351(JP,A)
【文献】特開昭61-66791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 17/09
C10G 29/20
C10G 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油中の鉄成分量を低減させる方法であって、
ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーを原油及び/又は洗浄水に添加する薬剤添加工程1と、
ポリカルボン酸塩を前記洗浄水に添加する薬剤添加工程2と、
前記原油と前記洗浄水とを混合し、混合エマルジョンを形成する混合工程と、
前記混合エマルジョンから前記鉄成分を含む水を分離する分離工程と
を含むことを特徴とする原油中の鉄成分量低減方法。
【請求項2】
混合工程において、原油の体積に対し3~10体積%の洗浄水を混合する請求項1に記載の原油中の鉄成分量低減方法。
【請求項3】
薬剤添加工程1において、原油に対し、ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーを1~15ppm添加する請求項1又は2に記載の原油中の鉄成分量低減方法。
【請求項4】
薬剤添加工程2において、洗浄水に対し、ポリカルボン酸塩を6~24ppm添加する請求項1、2又は3に記載の原油中の鉄成分量低減方法。
【請求項5】
ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーは、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のホルマリン縮合物、アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物、及び、ポリアルキレングリコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1、2、3又は4に記載の原油中の鉄成分量低減方法。
【請求項6】
ポリカルボン酸塩は、アクリル酸系ホモポリマーの塩、アクリル酸系コポリマーの塩、及び、アクリル酸系ターポリマーの塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1、2、3、4又は5に記載の原油中の鉄成分量低減方法。
【請求項7】
分離工程は、デソルターにて実施される請求項1、2、3、4、5又は6に記載の原油中の鉄成分量低減方法。
【請求項8】
デソルター内に導入された混合エマルジョンに高電圧を印加する請求項7に記載の原油中の鉄成分量低減方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原油中の鉄成分量低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油は主として炭化水素の混合物であるが、製油所の運転上、また、製品の品質上好ましくない不純物を含んでいる。この不純物は、非親油性不純物と親油性不純物の大きく2つに分類することができ、前者の非親油性不純物は、塩分、水分、泥分等を含んでいる。
【0003】
石油精製において、脱塩処理は、非親油性不純物を除去するための原油の水抽出であり、原油を精製する際の最初の工程で実施される。一般的に脱塩処理では、原油の水洗、続いて形成したエマルジョンの油水分離を伴う。この脱塩工程は、後の工程における各装置に対する原油の腐食性を低下させるために、より多量の塩分の除去を意図するものである。
【0004】
より詳細に、原油は極めて少量の水分を含んでおり、この水分は原油中で水滴として存在し、この中に塩分を含んでいる。原油中の水滴はあまりに小さく重力のみで沈降するものではない。また、このように小さな水滴は非常に大きな界面を有し、油分子や水分子と構造の異なるアスファルト、アスファルテン、レジン、泥分等が押し出されて界面に層を作り、水滴同士が凝集するのを妨害している。そのため原油中のエマルジョンは非常に安定性が良い。このようなエマルジョンを破壊し、原油中から塩分を除去するために、加熱によりエマルジョンの不安定化を促し、さらに、洗浄水を追加して原油中の水分量を増加させ、水分子相互引力を増加させ油水分離を行うことが知られている。しかしながら、このような手法のみでは工業的な水の凝縮という観点からは不充分である。よって、原油と洗浄水とが混合された混合エマルジョンを、脱塩装置(デソルター)を用いて、薬剤処理、滞留時間及び/又は電界の印加によって分解する方法が一般的である。この処理により、非親油性不純物を比較的に含まない原油(脱塩された原油)と、油を含まないが塩分等を含む水に分離し、脱塩された原油及び塩分を含む水は脱塩装置から別々に放出される。
【0005】
非親油性不純物を比較的に含まない原油と、油を含まないが塩分を含む水を得るためには、混合エマルジョンの破壊を速めるための薬剤が必要である。このような薬剤は、エマルジョンブレーカーまたはデマルシファイアーとして知られている。
【0006】
また、粒子状固体を高い割合で含む原油の脱塩処理は煩雑になることがある。粒子状固体は本来水層に移層するものである。しかし、油田から産出された原油に含まれる多くの固体は、堅固な油中水エマルジョン中に存在する。つまり、原油に高濃度で含まれる原油で湿潤した固体によって、破壊しにくい堅固な油中水エマルジョンが形成されることもある。これらの堅固なエマルジョンはよく「ラグ(微小固形物)」と呼ばれ、分離された油相と水相の間に層として存在していることもある。脱塩装置内のラグ層がある程度多くなってしまうと、その一部が水相に移層されてしまうこともある。このことは、ラグ層が依然高濃度の未分離乳化油を含んでいるため、排水処理プラントにとって問題となる。
【0007】
一般的に上記非親油性不純物に含まれる金属塩類は、カルシウム、亜鉛、ケイ素、ニッケル、ナトリウム、カリウム等である。このような金属塩類のいくつかは水溶性の形態をとって存在している。通常の脱塩処理では、水溶性の金属塩類の除去を主な目的としている。しかし、無機塩、有機酸塩、金属錯体の形態をとることができる鉄等の金属類は非親油性不純物及び親油性不純物のいずれにも含まれており、脱塩処理を複雑にすると共に、石油精製プロセスの下流の処理工程における各装置において重大な懸念事項となる。また、脱塩処理された原油に残存する鉄及び他の金属類は、後段において精製装置で使用される触媒に対して触媒の効果を低下させたり、製品として製造されるコークスに不純物として存在することで、コークスの低品質化に繋がる。そのため、石油精製プロセスの初期段階で原油から鉄及び金属類を除去することは、後の各装置における腐食及び付着物が発生するという問題を抑えるだけでなく、最終的に高品質のコークスを産出させるためにも望まれている。
【0008】
例えば、特許文献1には、原油がデソルター洗浄水中で乳化しまたは分散することを抑制する方法が開示されており、洗浄水をデソルターに加える前に、水溶性のカチオンポリマーの分散体を有効量で洗浄水に添加することが開示されている。また、これにより油層中に凝集塊を生じさせることなく、油相及び水相との界面におけるエマルジョン(ラグ層)を生じないこと、及び、エマルジョンブレーカーの使用量を低減できることが開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、原油中の加水分解可能な陽イオンを除去する方法が開示されており、加水分解可能な金属陽イオン塩化物塩を含む原油を、水溶性の負電荷を帯びたビニル付加重合体を100~5,000ppm含む水と混合することにより、原油からカルシウム及びマグネシウム塩化物塩を除去することが開示されている。さらに、特許文献2では、従来技術として次の文献が開示されている。米国特許第4,833,109号(Reynolds)には、カルシウム及び鉄等の二価金属の除去するための二塩基性カルボン酸、特にシュウ酸の使用が開示されている。米国特許第5,271,863号には、可溶性の鉄及び他の二価金属のナフテン酸塩を原油から抽出するためのマンニッヒ反応生成物の使用が教示されている。前記特許権者により使用された好ましいマンニッヒ反応生成物は、3-メトキシプロイルアミン-N-(2’-ヒドロキシ-5-メチルフェニル酢酸)=3-メトキシプロピルアミン塩である。米国特許第5,114,566号及び米国特許第4,992,210号には、2~6のpKbを有する特定の有機アミンを含む組成物及び水酸化カリウムをデソルター洗浄水に添加することによって、原油から腐食性汚染物質を除去することが教示されている。この組成物はデソルターにおいて原油から塩化物を効果的に除去することが記載されている。米国特許第5,078,858号には、シュウ酸及びクエン酸から成る群より選ばれたキレート化剤をデソルター洗浄水に添加することが提案されている。同様に、米国特許第4,992,164号にも、キレート化剤、特にニトリロ三酢酸をデソルター洗浄水に添加することが提案されている。米国特許第5,256,304号は、油及び凝集金属イオンを解乳化するために、重合体タンニン物質を油状廃水に添加することが記載されている。米国特許第5,080,779号には、鉄を除去するための2段階デソルター工程にキレート化剤におけるキレート化剤の使用が教示されている。
【0010】
また、特許文献3には、脱塩処理において、原油に含まれる金属類及び/又はアミン類を水相に移層する方法を提供することを目的とし、炭化水素と水とのエマルジョンを添加することで金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相へ移層する方法、及び、少なくとも一つの水溶性ヒドロキシ酸を含む、金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相へ移層させる組成物の有効量を提供することが開示されている。また、特許文献4には、カルボン酸エステルを用いて炭化水素供給原料から金属を除去する方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献5には、分離した水/油エマルジョンの水相との接触面でのカルシウムの堆積を低減する方法について開示しており、高カルシウム原油などを金属イオン封鎖剤と接触させて、分離したエマルジョンの水相に分配される封鎖カルシウム含有錯体を生成させ、ポリマー系堆積抑制剤を水相に加えて、水相中及び水相との接触面でのカルシウム堆積物の形成を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第3554063号
【文献】特開平8-319488号公報
【文献】特許第4350039号
【文献】特許第5449195号
【文献】特表2009-517535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、原油中のカルシウム、マグネシウムなどの金属塩類や、鉄等の金属類は、原油精製プロセスの下流に配置された精製装置で使用される触媒に対し触媒毒として作用したり、コークスの品質を低下させるため、脱塩処理において原油中の塩類、金属類を除去するよう様々な技術が開発されている。しかしながら、上述の通り、カルシウム、マグネシウムなどの金属塩類は、原油中に極めて微量に含まれる水滴中に含まれているのに対し、鉄等の金属類は非親油性不純物及び親油性不純物のいずれにも含まれるため、油層にも含まれており、原油中の鉄成分を効果的に除去する方法については、さらに検討の余地があった。
【0014】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、原油中の鉄成分を効果的に除去する方法を提供することを目的とする。
【0015】
発明者は、原油の脱塩処理において、原油と洗浄水とを混合し混合エマルジョンとし、その後、混合エマルジョンから水を分離し、比較的水を含まない原油と油を含まない水とを得る際に、原油中に含まれていた鉄成分が水層側で検出される点に着目し、原油中の鉄成分を洗浄水に移層させる働きを有する薬剤と、混合エマルジョンから水を分離(エマルジョンの破壊ともいう)する薬剤(エマルジョンブレーカー)との組合せが重要であることに想到し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、原油中の鉄成分量を低減させる方法であって、ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーを原油及び/又は洗浄水に添加する薬剤添加工程1と、ポリカルボン酸塩を上記洗浄水に添加する薬剤添加工程2と、上記原油と上記洗浄水とを混合し、混合エマルジョンを形成する混合工程と、上記混合エマルジョンから上記鉄成分を含む水を分離する分離工程とを含むことを特徴とする原油中の鉄成分量低減方法である。
上記混合工程において、原油の体積に対し3~10体積%の洗浄水を混合することが好ましい。
また、上記薬剤添加工程1において、原油に対し、ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーを1~15ppm添加することが好ましい。
また、上記薬剤添加工程2において、上記洗浄水に対し、ポリカルボン酸塩を6~24ppm添加することが好ましい。
また、ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーは、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のホルマリン縮合物、アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物、及び、ポリアルキレングリコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、ポリカルボン酸塩は、アクリル酸系ホモポリマーの塩、アクリル酸系コポリマーの塩、及び、アクリル酸系ターポリマーの塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
上記分離工程は、デソルターにて実施されることが好ましい。
上記デソルター内に導入された混合エマルジョンに高電圧を印加することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の原油中の鉄成分量低減方法によると、原油中の鉄成分を効果的に除去することができ、石油精製の各工程における各装置に対する原油の腐食性をより低下させることができ付着物等の汚染を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】デソルターを備える脱塩処理の一例を示すブロック図である。
【0019】
以下本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、石油精製プロセスの初期段階で設置される脱塩処理において、原油中の鉄成分を洗浄水に移層させる働きをする薬剤(以下除鉄剤という。)と、混合エマルジョンを油層と水層とに破壊する薬剤(エマルジョンブレーカー)との組合せにより、効果的に原油から鉄成分を除去できるという知見に基づく。
【0021】
本発明は、原油中の鉄成分量を低減させる方法であって、ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーを原油及び/又は洗浄水に添加する薬剤添加工程1と、ポリカルボン酸塩を上記洗浄水に添加する薬剤添加工程2と、上記原油と上記洗浄水とを混合し、混合エマルジョンを形成する混合工程と、上記混合エマルジョンから上記鉄成分を含む水を分離する分離工程とを含むことを特徴とする。原油及び/又は洗浄水に対し、エマルジョンブレーカーであるノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーを添加し、洗浄水に対し、ポリカルボン酸塩を添加し、原油と洗浄水とを混合することで、原油中の油層に含まれる鉄成分が効果的に洗浄水に移層される。次に、混合エマルジョンから水分を比較的含まない原油と、油は含まないが鉄成分を含む水とに分離することにより、原油から鉄成分が除去される。
【0022】
ここで、本発明者は、原油から鉄成分量を効果的に低減するためには、原油中に含まれる鉄成分を効果的に洗浄水に移層させ、さらに、原油と洗浄水とを混合することにより形成された混合エマルジョンから、鉄成分を含む水を充分に分離しなければ、原油中の鉄成分量を効果的に低減できないことに着目した。そして、エマルジョンブレーカー単体の効果においては、充分な油水分離効果を発揮する薬剤であっても、除鉄剤との併用によって、油水分離効果が低下したり、また反対に、原油中の鉄成分を水層に移層させる効果(除鉄効果)に優れた薬剤であっても、エマルジョンブレーカーとの併用により除鉄効果が低下する薬剤が多々あることを見出した。そこで、本発明者は鋭意検討を重ね、特定のエマルジョンブレーカーと特定の除鉄剤との組み合わせにより、原油中の鉄成分量を効果的に低減できることを見出したのである。
【0023】
なお、本発明の原油中の鉄成分量低減方法は、石油精製プロセスの初期段階である脱塩処理において行われるが、脱塩処理に送られる原油は、限定されない一又は複数の実施形態において、予熱交(予熱交換器)、プレヒーター、リボイラー等の熱交換器により100~150℃に昇温されている。本発明の方法においては、薬剤添加工程1におけるノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーが添加される原油及び/又は洗浄水の温度は特に限定されず、常温の段階から熱交換器により昇温された段階のいずれであっても構わない。また、薬剤添加工程2におけるポリカルボン酸塩が添加される洗浄水の温度も特に限定されず、常温から熱交換器により昇温された段階のいずれであっても構わない。
【0024】
本発明の原油中の鉄成分量低減方法では、混合工程において、原油の体積に対し3~10体積%の洗浄水を混合することが好ましく、5~8体積%の洗浄水を混合することがより好ましい。原油の体積に対して、混合される洗浄水の添加量が3体積%未満であると、原油に含まれる鉄成分を水抽出するには不充分であり、混合される洗浄水の添加量が10体積%を超えると、原油と洗浄水とを混合した後の混合エマルジョンから、水分を比較的含まない原油と、油は含まないが鉄成分を含む水とに分離するために、より多量のエマルジョンブレーカーを必要とする可能性があるためである。
【0025】
上記薬剤添加工程1において、原油に対し、上記ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーを1~15ppm添加することが好ましく、2~10ppm添加することがより好ましい。原油に対する上記ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーの添加量が1ppm未満であると、原油と洗浄水との混合エマルジョンから、鉄成分を含む水を分離するのに時間を要したり、他の手法を合わせなければ充分な分離ができない可能性が生じるためである。また、原油に対する上記ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーの添加量が15ppmを超えても、原油と洗浄水との混合エマルジョンから鉄成分を含む水を分離する効果が向上しない傾向にあるためである。
【0026】
なお、上記薬剤添加工程1において、上記ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーを洗浄水に添加する場合は、洗浄水に対し、原油換算量のノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーを添加する。
【0027】
上記薬剤添加工程2において、洗浄水に対し、ポリカルボン酸塩を6~24ppm添加することが好ましく、12~16ppm添加することがより好ましい。洗浄水に対し、上記ポリカルボン酸塩が6ppm未満であると、原油中の油層に含まれる鉄成分を効果的に洗浄水に移層させることができず、原油中の鉄成分を充分に除去できない可能性が生じるためである。また、ポリカルボン酸塩が24ppmを超えると、原油からの鉄成分の除去率は向上するが、分離工程において混合エマルジョンから水を充分に分離できない可能性(すなわち、油水分離が不充分となる可能性)が生じ、エマルジョンブレーカーの添加量が増加する可能性があるためである。
【0028】
上記薬剤添加工程1において、上記ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーを原油に添加する場合、上記薬剤添加工程1と上記薬剤添加工程2とは別々の位置で実施される。一方、上記薬剤添加工程1において、上記ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーを洗浄水に添加する場合、上記薬剤添加工程1及び上記薬剤添加工程2は、別々の位置で実施されてもよく、同じ位置で実施されてもよい。また、この場合、洗浄水に対し、上記薬剤添加工程1又は上記薬剤添加工程2が実施される順序は特に限定されず、洗浄水に対し、ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーが先に添加されてもよく、ポリカルボン酸塩が先に添加されてもよく、また、同時に添加されてもよい。
【0029】
上記ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーは、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のホルマリン縮合物、アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物、及び、ポリアルキレングリコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
具体的に、上記アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のホルマリン縮合物は、下記化学式1で示されるものである。
【化1】
(n:2~15、m:1~13、R:C14までのアルキル基)
【0031】
また、上記アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物は、下記化学式2で示されるものである。
【0032】
【化2】
(n+m:10~50、R:C12~C18のアルキル基)
【0033】
また、上記ポリアルキレングリコール共重合体は、下記化学式3で示されるものである。
【0034】
【化3】
(n:5~100、m:5~140)
【0035】
上記ポリカルボン酸塩としては、アクリル酸系のホモポリマーの塩(アクリル酸系重合体の塩)、アクリル酸系コポリマーの塩及びアクリル酸系ターポリマーの塩等のアクリル酸系共重合体の塩が挙げられ、これらの群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。具体的には、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、アクリル酸-スルホン酸共重合体の塩、アクリル酸-マレイン酸共重合体の塩、スチレン-メタクリル酸共重合体の塩、スチレン-マレイン酸共重合体の塩、アクリル酸エステル-アクリル酸共重合体の塩等が挙げられる。これらの中でもポリアクリル酸塩、アクリル酸-スルホン酸共重合体の塩、及び、アクリル酸-マレイン酸共重合体の塩からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。また、ポリカルボン酸塩は、ポリアクリル酸ソーダ、アクリル酸ソーダ/ヒドロキシプロパンスルホン酸ソーダアリルエーテル共重合体、アクリル酸ソーダ/マレイン酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種からなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0036】
また、上記ポリカルボン酸塩の重量平均分子量は特に限定されず、本発明の効果を奏する範囲であればよく、例えば、1,000~50,000であってよい。上記ポリカルボン酸塩の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは3,000~10,000である。Mwが3,000を下回ると、除鉄効果が低下する懸念があり、Mwが10,000を超えると、原油と洗浄水とが混合されて形成した混合エマルジョンの油水分離が充分にできない可能性が生じ、エマルジョンブレーカーの添加量を増加させる必要が生じるためである。
【0037】
本発明における分離工程は、デソルターにて実施されることが好ましい。デソルターは、脱塩装置や脱塩容器ともいわれ、一般的に、脱塩の原理から電気脱塩法と化学脱塩法とその併用法の3法がある。本発明の原油中の鉄成分量低減方法では、上記の通り原油及び洗浄水に対し特定の薬剤を添加しているため、化学脱塩法、又は、化学脱塩法と電気脱塩法との併用法のいずれかとすることができる。
【0038】
本発明で用いられるデソルターは、デソルターとして一般的に使用されている装置であれば特に限定されないが、好ましくは、上記デソルターは内部に高電圧付加可能な電極を有し、静電作用で混合エマルジョンを凝集させて水を分離するものであることが好ましい。本発明の鉄成分量低減方法によると、得られた混合エマルジョンに対し電圧を付加しない場合であっても、混合エマルジョンから鉄成分を含む水を分離することができるが、電気脱塩法を用いることにより、分離工程に係る時間をより短時間とすることができるためである。
【0039】
よって、本発明における分離工程は、デソルター内に導入された混合エマルジョンに高電圧を印加することが好ましい。混合工程で得られた混合エマルジョンに高電圧を印加することにより、上記混合エマルジョンから上記鉄成分を含む水の分離が促進され、より短時間に油水分離を行うことが可能であるためである。
【0040】
上記分離工程で、デソルター内に導入された混合エマルジョンに高電圧が印加される場合、印加電圧は本発明の効果を奏する程度の電圧であれば特に限定されないが、例えば、20~60kVであることが好ましい。なお、電場は、直流電場でも、直-交流電場でも、交流電場であってもよいが、直-交流電場であることが好ましい。
【0041】
本発明の原油中の鉄成分量低減方法は、脱塩処理に適用されるものであり、脱塩処理は石油精製プロセスの初期段階で実施されるものである。そのため、初期段階で原油中の鉄成分が効果的に除去されることにより、石油精製プロセスの後の段階における各装置の腐食や汚染等を低減させることができる。なお、「石油精製プロセス」とは、原料(原油)から各種石油製品が製造されるまでの工程の全部又は一部をいう。限定されない一又は複数の実施形態において、石油精製プロセスは、蒸留装置、水素化精製装置、接触改質装置、接触分解装置、水素化分解装置、及び熱分解装置からなる群から選択される少なくとも1つの装置を使用する工程である。
【0042】
図1は、デソルターを備える脱塩処理の一例を示すブロック図である。原油タンク1に貯蔵されている原油は、供給ポンプ2を介してデソルター5に供給されるが、原油タンク1とデソルター5との間の流路にて、プレヒーター3により加熱され、又、混合弁4において、原油と洗浄水とが混合される。なお、図1には示されていないが、洗浄水は、原油タンク1と混合弁4との間のいずれかにおいて添加されていればよい。また、ノニオン界面活性剤エマルジョンブレーカーは、原油タンク1において添加されてもよく、また、原油タンク1から洗浄水が添加されるまでの間の流路のいずれかにおいて添加されてもよく、また、原油に添加される前の洗浄水に添加されてもよい。また、ポリカルボン酸塩は、原油に添加される前の洗浄水に添加されていればよい。
【0043】
以下の実施例、比較例及び参考例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例
【0044】
<エマルジョンブレーカー(EB)>
一般的に原油用エマルジョンブレーカーとして使用されている界面活性剤を用いた。
EB1:アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のホルマリン縮合物(ノニオン界面活性剤)
EB2:アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物(ノニオン界面活性剤)
EB3:ポリアルキレングリコール共重合体(ノニオン界面活性剤)
アニオンEB:アルキルエーテル硫酸エステルソーダ(アニオン界面活性剤)
【0045】
<洗浄水への添加剤>
特定の重量平均分子量をもつ一般的に入手可能なポリマーを用いた。
ポリカルボン酸塩1:ポリアクリル酸ソーダ(重量平均分子量:6,000)
ポリカルボン酸塩2:アクリル酸ソーダ/ヒドロキシプロパンスルホン酸ソーダアリルエーテル共重合体(重量平均分子量:10,000)
ポリカルボン酸塩3:アクリル酸ソーダ/マレイン酸共重合体(重量平均分子量:10,000)
カチオン凝集剤:アクリルアミド/アミノメチルアクリルアミド共重合体の塩(または第4級アンモニウム塩)(重量平均分子量:4,500,000)
キレート剤:EDTA・2Na
【0046】
(実施例1)
原油からの鉄成分の低減方法に関する試験方法は以下の通りである。
(1)試験対象の原油100mLに対し、2.5ppmのノニオン界面活性剤EB1を添加し、充分に攪拌した。
(2)精製水5mLに対し、40ppmのポリカルボン酸塩1を添加し、90℃恒温槽に15分間静置した。
(3)上記(1)で得られた原油と、上記(2)で得られた洗浄水とをミキサーで10秒間充分に攪拌した。
(4)次に上記(3)で得られた混合エマルジョンを75mL遠心管に移し、パイロット脱塩ユニットに設置した。このパイロット脱塩ユニットは、現場における脱塩条件のシミュレーションができるものであり、遠心攪拌、温度制御及び電圧印加制御が可能である。本ユニットにおいて、上記(3)で得られた混合エマルジョンを、130℃まで昇温し、高電圧(3000V)を1分間印加し、130℃の状態で60分間静置し油水分離を行った。
(5)油水分離後に、スポイトで上層から20gの原油を採取し、焼結炉で灰化させ、得られた灰分を塩酸に溶解させ、原子吸光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて鉄成分の濃度を測定した。また、油水分離後の油層及び水層の状態を目視にて観察し、メジャーを用いて油層と水層との境界位置を測定し、得られた数値より油水分離率を算出した。
【0047】
(実施例2~5、比較例1~5、参考例1)
実施例1における試験方法(1)及び(2)で用いた薬剤を下記表1に示す薬剤に変更した以外は、実施例1と同様にして原油中の鉄成分の濃度を測定し、油水分離率を算出した。
結果を下記表1に示す。
【0048】
(実施例6)
試験方法の(4)において高電圧を印加しなかった以外は、実施例1と同様にして原油中の鉄成分の濃度を測定し、油水分離率を算出した。
結果を下記表2に示す。
【0049】
(実施例7、比較例6~8、参考例2)
実施例6における試験方法(1)及び(2)で用いた薬剤を下記表2に示す薬剤に変更した以外は、実施例6と同様にして原油中の鉄成分の濃度を測定し、油水分離率を算出した。
結果を下記表2に示す。
【0050】
(除鉄率の算出)
試験対象の原油を20g採取し、焼結炉で灰化させ、得られた灰分を塩酸に溶解させ、原子吸光分析装置を用いて鉄成分の濃度を測定し、原油中の鉄成分の濃度を得た。次に、実施例、比較例及び参考例で得られた鉄成分濃度、及び、原油中の鉄成分濃度から、各実施例、比較例及び参考例における除鉄率を算出した。結果を下記表1及び2に示す。
【0051】
<総合評価>
総合的に、下記基準に基づき、原油の鉄成分量低減を評価した。
◎:除鉄率が65%以上であり、油水分離率が70~80%である。
〇:除鉄率が65%以上であり、油水分離率が40%以上70%未満である。
△:除鉄率が60%以上65%未満であり、油水分離率が40%以上である。
×:除鉄率が60%未満である、又は、油水分離率が40%未満である。
評価結果を下記表1及び2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1に示すとおり、実施例1~5は、比較例1~5及び参考例1よりも、除鉄率及び油水分離率が高く、原油中の鉄成分を低減する方法として優れた効果を示した。また、表2に示す通り、混合エマルジョンから鉄成分を含む水を分離する際に電圧をかけない場合であっても、本方法に原油中の鉄成分を効果的に低減できることを確認した。
【0055】
(実験例1~3)
次に実施例1と同様の試験方法を用いて、上記試験方法(2)で添加した薬剤の分子量を下記表3に示す分子量に変更した以外は実施例1と同様にして原油中の鉄成分の濃度を測定した。
結果を下記表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3に示す通り、実験例1~3より、カルボン酸塩の重量平均分子量が大きくなるほど、除鉄効果は向上することが確認された。
【符号の説明】
【0058】
1:原油タンク
2:供給ポンプ
3:プレヒーター
4:混合弁
5:デソルター



図1