(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】TGFβ阻害剤およびプロドラッグ
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20240405BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20240405BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240405BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240405BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240405BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240405BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240405BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240405BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240405BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240405BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240405BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240405BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240405BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240405BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240405BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240405BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240405BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240405BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240405BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240405BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240405BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240405BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C07D487/04 138
C07D487/04 CSP
A61K31/4709
A61P1/16
A61P3/04
A61P3/10
A61P7/06
A61P9/00
A61P9/10
A61P9/12
A61P11/00
A61P13/12
A61P17/00
A61P17/02
A61P17/06
A61P19/08
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/28
A61P27/02
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61P43/00 111
A61P43/00 123
(21)【出願番号】P 2021525161
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2019082215
(87)【国際公開番号】W WO2020104648
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-10-28
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521196741
【氏名又は名称】フンダシオ インスティテュート デ レセルカ ビオメディカ(アイアールビー バルセロナ)
(73)【特許権者】
【識別番号】521196752
【氏名又は名称】インステテューシオ カタラーナ デ レセルカ イ エストディス アヴァンサッツ
(73)【特許権者】
【識別番号】521196763
【氏名又は名称】ウニヴェルシダー・デ・バルセロナ
(74)【復代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】タウリエロ,ダニエレ
(72)【発明者】
【氏名】バイロム,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】マタリン モラレス,ジョアン アントニー
(72)【発明者】
【氏名】バジェ ゴメス,エドゥアルド
(72)【発明者】
【氏名】リエラ エスカレ,アントニー
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-535404(JP,A)
【文献】国際公開第2014/072517(WO,A1)
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,2008年,Vol.51, No.7,pp.2302-2306
【文献】Molecular Cancer Therapeutics,2003年,Vo.2, No.11,pp.1171-1181
【文献】Green Chemistry,2013年,Vol.15, No.5,pp.1373-1381
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物。
【化1】
【請求項2】
薬剤として使用するための、式(I)の化合物、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物。
【化2】
【請求項3】
TGFβ経路の阻害剤に反応する疾患の予防および/または処置に使用するための、式(I)の化合物、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物。
【化3】
【請求項4】
前記式(I)の化合物が、化学療法または癌標的療法と併用して投与される、請求項2または3のいずれかに記載の式(I)の化合物、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物。
【請求項5】
前記式(I)の化合物が免疫療法と併用して投与される、請求項2または3のいずれかに記載の式(I)の化合物、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物。
【請求項6】
前記式(I)の化合物が免疫チェックポイント阻害剤と併用して投与される、請求項2または3のいずれかに記載の式(I)の化合物、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物。
【請求項7】
前記TGFβ経路の阻害剤に反応する疾患は、癌、硬皮症、乾癬、貧血、サルコペニア、アルツハイマー病、マルファン症候群、動脈瘤、肺高血圧症、骨形成不全症、特発性肺線維症、肝臓線維症、肝硬変、脂肪肝、肥大型心筋症、骨髄線維症、I型神経線維腫症、腎線維症、巣状分節性糸球体硬化症、放射線誘導型線維症、全身性硬化症における皮膚線維症、びまん性全身性硬化症、瘢痕化、角膜原発性翼状片、線維症、子宮平滑筋腫、肥満症、糖尿病、糖尿病網膜症における微小血管病、およびネフロパシーからなる群から選択される、請求項
3に記載の式(I)の化合物、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物。
【請求項8】
前記TGFβ経路の阻害剤に反応する疾患は癌であり、癌は、血液癌、B細胞またはT細胞白血病、非ホジキンリンパ腫、B細胞またはT細胞型非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、B細胞またはT細胞型リンパ腫、多発性骨髄腫、脳癌、中枢神経系のグリア系統の癌(神経膠腫)、肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、有害な胸膜の中皮腫、乳癌、抗HER2治療に耐性がある乳癌、乳房癌腫、乳腺腺癌、胃および食道の癌、胃癌腫、胃腺癌、大腸癌、結腸癌腫、結腸腺癌、直腸癌、大腸癌腫、転移性結腸癌、膵臓癌、膵臓癌腫、膵臓腺癌、腎細胞癌、明細胞腎細胞癌、肝臓癌、転移性肝臓癌、転移性疾患、肺癌、肺癌腫、肺腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、卵巣癌、卵巣癌腫、卵巣腺癌、卵巣癌腫、子宮内膜癌、子宮内膜間質部肉腫、子宮頚部の癌腫、甲状腺癌、転移性乳頭状甲状腺癌、濾胞状甲状腺癌、膀胱癌、尿膀胱癌、膀胱の移行上皮癌、前立腺癌、前立腺癌腫、神経内分泌癌、有棘細胞癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、胚性癌、神経芽細胞腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、腎芽腫、肝芽腫、黒色腫、および皮膚癌からなる群から選択される、請求項
3に記載の式(I)の化合物、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物。
【請求項9】
前記癌が転移性癌である、請求項8に記載の式(I)の化合物、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物。
【請求項10】
癌転移の予防に使用するための、式(I)の化合物、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物。
【化4】
【請求項11】
有効量の式(I)の化合物、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤または担体とを含む、医薬組成物。
【化5】
【請求項12】
少なくとも別の有効成分をさらに含み、該少なくとも別の有効成分は免疫療法薬である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
少なくとも別の有効成分をさらに含み、該少なくとも別の有効成分は化学療法薬である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
式(I)の化合物のプロドラッグであって、
【化6】
前記プロドラッグは、式(II)、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物を有しており、
【化7】
式中、
R
1は、H
であり、ならびに
R
2とR
3はそれぞれ独立して、H、アルキル、およびハロアルキルからなる群から選択される、プロドラッグ。
【請求項15】
前記プロドラッグは式(III)、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物を有する、請求項14に記載のプロドラッグ。
【化8】
【請求項16】
式(I)の化合物のプロドラッグであって、
【化9】
前記プロドラッグは、式(IV)、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物を有している、プロドラッグ。
【化10】
【請求項17】
薬剤として使用するための、請求項14から16のいずれかに記載のプロドラッグ。
【請求項18】
TGFβ経路の阻害剤に反応する疾患の予防および/または処置に使用するための、請求項14から16のいずれかに記載のプロドラッグ。
【請求項19】
前記式(I)の化合物のプロドラッグが、化学療法または癌標的療法と併用して投与される、請求項17または18のいずれかに記載のプロドラッグ。
【請求項20】
前記式(I)の化合物のプロドラッグが、免疫療法と併用して投与される、請求項17または18のいずれかに記載のプロドラッグ。
【請求項21】
前記式(I)の化合物のプロドラッグが、免疫チェックポイント阻害剤と併用して投与される、請求項17から20のいずれかに記載のプロドラッグ。
【請求項22】
前記疾患は、癌、硬皮症、乾癬、貧血、サルコペニア、アルツハイマー病、マルファン症候群、動脈瘤、肺高血圧症、骨形成不全症、特発性肺線維症、肝臓線維症、肝硬変、脂肪肝、肥大型心筋症、骨髄線維症、I型神経線維腫症、腎線維症、巣状分節性糸球体硬化症、放射線誘導型線維症、子宮平滑筋腫、肥満症、糖尿病、糖尿病網膜症における微小血管病、およびネフロパシーからなる群から選択される、請求項
18に記載のプロドラッグ。
【請求項23】
前記疾患は癌であり、癌は、血液癌、B細胞またはT細胞白血病、非ホジキンリンパ腫、B細胞またはT細胞型非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、B細胞またはT細胞型リンパ腫、多発性骨髄腫、脳癌、中枢神経系のグリア系統の癌(神経膠腫)、肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、有害な胸膜の中皮腫、乳癌、抗HER2治療に耐性がある乳癌、乳房癌腫、乳腺腺癌、胃および食道の癌、胃癌腫、胃腺癌、大腸癌、結腸癌腫、結腸腺癌、直腸癌、大腸癌腫、転移性結腸癌、膵臓癌、膵臓癌腫、膵臓腺癌、腎細胞癌、明細胞腎細胞癌、肝臓癌、転移性肝臓癌、転移性疾患、肺癌、肺癌腫、肺腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、卵巣癌、卵巣癌腫、卵巣腺癌、卵巣癌腫、子宮内膜癌、子宮内膜間質部肉腫、子宮頚部の癌腫、甲状腺癌、転移性乳頭状甲状腺癌、濾胞状甲状腺癌、膀胱癌、尿膀胱癌、膀胱の移行上皮癌、前立腺癌、前立腺癌腫、神経内分泌癌、有棘細胞癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、胚性癌、神経芽細胞腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、腎芽腫、肝芽腫、黒色腫、および皮膚癌からなる群から選択される、請求項22に記載のプロドラッグ。
【請求項24】
前記癌が転移性癌である、請求項23に記載のプロドラッグ。
【請求項25】
癌転移の予防に使用するための、請求項14から16のいずれかに記載のプロドラッグ。
【請求項26】
請求項14から16のいずれかに記載の有効量の式(I)の化合物のプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは溶媒和物と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤または担体とを含む、医薬組成物。
【請求項27】
少なくとも別の有効成分をさらに含み、該少なくとも別の有効成分は免疫療法薬である、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
少なくとも別の有効成分をさらに含み、該少なくとも別の有効成分は化学療法薬である、請求項26に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、阻害活性、治療能、および毒性プロファイルが改善された新規なTGFβシグナル伝達経路阻害剤、ならびにそのプロドラッグに関するものであり、前記TGFβシグナル伝達経路阻害剤は、アセトバニロン由来の断片またはカルバメート断片を含み、該アセトバニロン由来の断片またはカルバメート断片はTGFβシグナル伝達阻害活性を閉じ込める(cage)が、前記プロドラッグが加水分解されると、より活性なTGFβシグナル伝達経路阻害剤をインビボで送達することができる。TGFβシグナル伝達経路阻害剤とそのプロドラッグを含む組成物も開示される。さらに本発明は、TGFβシグナル伝達経路阻害に反応する疾患を処置する方法に使用するための、前記TGFβシグナル伝達経路阻害剤とそのプロドラッグを開示する。
【背景技術】
【0002】
トランスフォーミング成長因子βアイソフォームであるTGFβ1、TGFβ2、およびTGFβ3は、分泌された小さなホモ二量体シグナル伝達タンパク質である。これらアイソフォームは脊椎動物にのみ存在するとともに、適切な発達のほか、様々な器官や組織の恒常性に必要とされている。すべてではないが大半の活性は、細胞内運命やTGFβシグナル伝達経路の機能において特異的な受容体複合体により媒介され、この複合体はリガンド結合に際してアセンブルされるとともに、TGFβのII型受容体とI型受容体を含む。
【0003】
TGFβ受容体(TGFβR)として、I型TGFβ受容体とII型TGFβ受容体が挙げられる。I型TGFβ受容体は、7つのアクチビン受容体様キナーゼとしてALK1(ACVRL1)、ALK2(ACVR1)、ALK3(BMPR1A)、ALK4(ACVR1B)、ALK5(TGFBR1)、ALK6(BMPR1B)、およびALK7(ACVR1C)を含み、II型TGFβ受容体はTGFBR2、BMPR2、ACVR2A、およびACVR2Bを含む。TGFβリガンドは、ALK5/TGFBR1とTGFBR2を使用して細胞膜を介し信号を伝達することから、TGFβ経路の特異的阻害に対する標的である。特に、小分子を含む標的としてALK5が使用されているが、受容体ALK4とALK5は密に関連しているため、(そのいずれかに対する)阻害剤特異性が既知の課題である。ALK4/ACVR1Bは、アクチビンA、GDF1、GDF11、およびNodalを含む、TGFβスーパーファミリーにおける付加的な分子からのシグナル伝達を媒介する。しかし、ALK5シグナル伝達と同様、ALK4活性は組織線維症に関与している(「Jin.,et al.,Journal of Mecinal Chemistry 2014,57:4213-4238」、「Sugiyama M et al.,Gastroentenology 1998,114(3):550-558」、「Matsuse T et al.,Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.1995,13(1):17-24」、「Pawlowski,J.E.et al.,J.Clin.Invest.1997,100(3):639-648」、「Hubner,G.et al,Dev.Biol.1996,173(2):490-498」、「Munz,B.et al.,EMBO J.1999,18(19):5205-5215」、「Wankell,M.et al,EMBO J.2001,20(19):5361-5372」)。それゆえ、ALK4/ALK5の二重阻害は、線維性疾患に対するTGFβ経路阻害剤の治療効果を増強する場合がある。
【0004】
TGFβシグナル伝達は多様な病態に関与しており、創傷治癒、または例えば熱傷の瘢痕化において重要な役割を果たす。前記病態として、遺伝病(カムラティ・エンゲルマン病、マルファン症候群、筋ジストロフィー、およびファンコーニ貧血を含む)、肥満症、糖尿病、血液病、循環器疾患、乾癬などの皮膚病、および線維性疾患が挙げられる。
【0005】
TGFβシグナル伝達は、癌の進行でも重要な役割を果たす。TGFβシグナル伝達は、複雑で異なる方法で腫瘍中の異なる細胞型すべてに影響を及ぼす可能性がある一方、全体的な効果は、特にその疾患の後期に腫瘍の成長、侵入、および転移を強く促すと考えられる。それゆえ、TGFβシグナル伝達経路の阻害は臨床施設に強く関連するものであり、この経路を標的とする有効な薬剤の開発と試験が盛んに求められている。様々な癌種に対する臨床試験が進行中であり、この癌種として、多発性骨髄腫や骨髄異形成症候群などの血液癌、膠芽腫などの脳癌、ユーイング肉腫や悪性胸膜中皮腫などの軟性癌、ならびに、乳癌、胃および食道の癌、大腸癌、膵臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、有棘細胞癌、または黒色腫を含む固形腫瘍のほか、前述の癌種に関連する転移が挙げられる。
【0006】
Liらの文献(J.Med.Chem.2008,51(7):2302-2306)、WO02094833A1、およびWO2014072517A1には、TGFβシグナル伝達経路阻害剤として使用するための多様なジヒドロピロロピラゾール誘導体が記載されている。
【0007】
近年では、TGFβシグナル伝達阻害により抗腫瘍免疫応答が活性化して他の種類の免疫療法が強化されたことで、近い将来TGFβシグナル伝達阻害がおそらく、様々な種類の癌の処置における併用免疫療法の有望な要素となることが示されている(Batlle and Massague.Immunity.2019,50(4):924-940)。間質性TGFβシグナル伝達の阻害が腫瘍細胞に対して免疫系を放ち、この治療効果により、癌患者が死亡する主な原因である転移性疾患も治癒されることが示されている(「Tauriello et al.Nature.2018,554(7693):538-543.」、「Mariathasan et al.Nature.2018,554(7693):544-548」)。
【0008】
これは治療標的の候補として広く認識されているが、TGFβ経路の臨床的開拓は重要な毒性問題により妨げられている。経路成分を対象とする様々な小分子阻害剤と抗体の開発は、前臨床モデルと患者における広範な毒性が原因で放棄されている(Garber,K.(2009).JNCI Journal of the National Cancer Institute,101(24),1664-1667.)。小分子LY2157299(ガルニセルチブ(galunisertib))は、癌患者を対象に広範囲に試験されているTGFβ経路阻害剤である。ガルニセルチブは、初めに脳癌を対象とした臨床試験段階にあるTGFβ受容体Iの比較的弱い阻害剤(ALK5)であり(Herbertz S et al.,Drug Design,Development and Therapy,2015,9:4479-4499)、過去10年間にわたり、他の複数の癌種を対象に試験されている(Herbertz S et al.,Drug Design,Development and Therapy,2015,9:4479-4499)。経口毒性、心血管毒性、胃腸毒性、免疫毒性、骨/軟骨毒性、生殖毒性、および腎毒性を含む、前臨床モデルにおける関連毒性を考慮すると(Stauber et al.,J Clin Pract 2014,4(3):1-10)、ガルニセルチブ投与の量と頻度はともに、14日間投与と14日間休薬を行うレジメンにおいてヒトを対象に最大300mg/日に制限されている(Herbertz S et al.,Drug Design,Development and Therapy,2015,9:4479-4499)。しかし、臨床試験において広範な試験が行われているにもかかわらず、これまでこの投与レジメンを用いて報告されている癌患者に対するガルニセルチブの治療効果は、中程度であるか、または存在しなかった(「Herbertz S et al;2015」、「Melisi et al.,British Journal of Cancer,2018,119(10):1208-1214」、「Kelley RK,et al.,Clin Transl Gastroenterol.2019 Jul;10(7):e00056.」、「Brandes,A.et al.,Neuro-Oncology,18(8):1146-1156.」)。そのため、治療用量で毒性プロファイルの低下と活性の増強を呈するTGFβシグナル伝達経路の阻害剤は、重要で臨床的に必要なものであることを表す。
【0009】
さらに一般的には、多くの有効薬物は多数の副作用をもたらすか、または健康な組織や細胞に対し有毒であることが知られている。他の薬物は、薬物の系統的効果を避けるべく局所送達される場合がある。プロドラッグは活性な薬剤または薬物(親化合物)に由来する化合物であり、溶解性、吸収、分布、代謝、排泄、および毒性などの特性を調節するよう修飾されている。それゆえ、プロドラッグは、溶解性、吸収、分布、代謝、排泄および毒性などの1つ以上の特性を同時に調節する間に、活性を低減するか遮断する断片に付けられる親化合物を含む、化合物である。この意味では、Yoonら(Molecular Cancer Therapeutics,2003,2(11):1171-1181)により、活性代謝産物7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシンのプロドラッグとしてエステル結合4-ピペリジノピペリジン基の使用が報告されている。加えて、Reiterら(Green Chem.,2013,15(5):1373-1381)により、LigF(β-エテラ-ゼ)酵素とのリグニンβ-4アリールエーテル結合の酵素切断が報告されている。
【0010】
したがって、本発明の1つの目的は、毒性プロファイルが改善されるとともに治療効果が増強された、より有効なTGFβシグナル伝達経路阻害剤を開発することである。
【0011】
加えて、本発明の別の目的は、標的組織または器官に薬物をより効率的に送達して、有害作用または望ましくない系統的作用を回避し、高度に効率的な局所投与を行いつつ、毒性の本体の残りを取っておくのに使用可能なプロドラッグを開発することである。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、式(I)の化合物、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物に関する。
【0013】
【0014】
本発明はまた、有効量の式Iの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物、および/または少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤または担体、ならびに随意に少なくとも他の有効成分を含む、医薬組成物に関する。
【0015】
加えて本発明は、特にTGFβ経路の阻害剤に反応する疾患の処置に使用するための、式Iの化合物、あるいはその薬学的に許容可能な塩もしくは薬学的に許容可能な溶媒和物、または、前記式Iの化合物、あるいはその薬学的に許容可能な塩もしくは薬学的に許容可能な溶媒和物を含む医薬組成物に関する。
【0016】
本発明はまた、式Iの化合物のプロドラッグに関し、前記プロドラッグは式(II)のプロドラッグ、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物であり、
【0017】
【化2】
式中、
R
1は、H、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、アルカノイルアミノ、アルコキシ、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、N-アルキルアミノ、およびN,N-ジアルキルアミノからなる群から選択され、ならびに
R
2とR
3はそれぞれ独立して、H、アルキル、およびハロアルキルからなる群から選択される。
【0018】
本発明はまた、式Iの化合物のプロドラッグに関し、前記プロドラッグは式(III)、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物を有している。
【0019】
【0020】
さらに本発明は、式Iの化合物のプロドラッグに関し、前記プロドラッグは式(IV)、またはその医薬塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物を有している。
【0021】
【0022】
さらに本発明は、式IIのプロドラッグ、式IIIのプロドラッグ、あるいは式IVのプロドラッグから選択される、有効量の式Iの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤または担体とを含む医薬組成物に関する。
【0023】
本発明はまた、特にTGFβ経路の阻害剤に反応する疾患の処置に使用するための、式IIのプロドラッグ、式IIIのプロドラッグ、あるいは式IVのプロドラッグから選択される式Iの化合物のプロドラッグ、あるいはその薬学的に許容可能な塩もしくは薬学的に許容可能な溶媒和物、または、前記プロドラッグ、あるいはその薬学的に許容可能な塩もしくは薬学的に許容可能な溶媒和物を含む医薬組成物に関する。特に、癌、硬皮症、乾癬、貧血、サルコペニア、アルツハイマー病、マルファン症候群、動脈瘤、肺高血圧症、骨形成不全症、特発性肺線維症、肝臓線維症、肝硬変、脂肪肝、肥大型心筋症、骨髄線維症、I型神経線維腫症、腎線維症、巣状分節性糸球体硬化症、放射線誘導型線維症、全身性硬化症における皮膚線維症、びまん性全身性硬化症、瘢痕化、角膜原発性翼状片、線維症、子宮平滑筋腫、肥満症、糖尿病、糖尿病網膜症における微小血管病、およびネフロパシーからなる群から選択される、前記TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患、より具体的には癌の処置に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】CAGAルシフェラーゼレポーターを用いた細胞アッセイで得たIC
50値を示す。ガルニセルチブ
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【数4】
の様々な投与量における生物発光(y軸)が示されている。算出したIC
50値を図表に示す。
【
図2】リン酸化SMAD2に対する免疫組織化学的検査により染色した肝転移部分の写真である。矢印は染色された細胞母核を指しており、対照(ビヒクル)における活性TGFβシグナル伝達を示すが、式I、IV、またはガルニセルチブの各化合物で処置したマウスのものは示していない。等モル投与量(5x)のガルニセルチブ、式Iの化合物、および式IVの化合物を3日間投与した。
【
図3】マウス腫瘍オルガノイド(MTO)を埋め込んだ免疫適格マウスを用いた、TGFβ阻害および関連する抗癌作用に関する読み出しとしてのマウス肝転移初期アッセイを示す。標準マウス投与量80mg/kg1日2回の0.3倍、1倍、3倍、および9倍のモル当量(平均重量25gと仮定して、2mg/マウスへと翻訳される)にある式Iの化合物またはガルニセルチブによる処置後に、肝転移(LiM)の数を測定し(y軸)、空ビヒクルで処置した対照と比較した。0.3倍のガルニセルチブ(0.6mg/マウス、1日2回)の投与量は試験しなかった(n.t.)。
【
図4】TGFβ阻害および関連する抗癌作用に関する読み出しとしてのマウス肝転移初期アッセイを示す。免疫適格マウスに埋め込んだルシフェラーゼ発現MTOを用いて実行された生体内イメージングにより定量した正規化生物発光シグナルによって、3~14日目にわたり様々な投与量(マウスに対する標準ガルニセルチブ投与量80mg/kg1日2回の0.3倍、1倍、および3倍のモル当量)にある式Iの化合物およびガルニセルチブによる処置後に腫瘍成長と拒絶を認める。
【
図5】HEK293T細胞に対する式Iの化合物のインビトロ細胞毒性アッセイとガルニセルチブのインビトロ細胞毒性アッセイとを示す。DMSOを対照として使用した。
【
図6】4-メチルウンベリフェロンアセトバニロン、すなわち式IIのプロドラッグ、具体的には式IIIのプロドラッグのモデル化合物のβ-ケトエーテル部分の酵素切断に対し精製LigFを用いたインビトロ蛍光アッセイを示す。図は蛍光対時間を示す。
【
図7】4-メチルウンベリフェロンアセトバニロン(MUAV)、すなわち式IIのプロドラッグ、具体的には式IIIのプロドラッグのモデル化合物のβ-ケトエーテル部分の酵素切断に対し、LigFを安定して発現するHEK293T細胞を用いたインビトロ蛍光アッセイを示す。図は様々な濃度のMUAVの蛍光を示しており、LigF対時間に晒されている。MUAV基質の3つの濃度として、10μM(黒丸)、30μM(三角形)、100μM(黒塗り円形)を示す。MUAV100μMを使用するがLigFを使用しない対照を白丸で示す。
【
図8A】精製LigFによる式VIIのプロドラッグのβエーテル結合の切断、その後の4-OHTの提供に対するHPLC-MS実験を示す。
図8Aは陰性対照を示す。
【
図8B】精製LigFによる式VIIのプロドラッグのβエーテル結合の切断、その後の4-OHTの提供に対するHPLC-MS実験を示す。
図8Bは時間=0を示す。
【
図8C】精製LigFによる式VIIのプロドラッグのβエーテル結合の切断、その後の4-OHTの提供に対するHPLC-MS実験を示す。
図8Cは時間=1時間を示す。
【
図8D】精製LigFによる式VIIのプロドラッグのβエーテル結合の切断、その後の4-OHTの提供に対するHPLC-MS実験を示す。
図8Dは時間=3時間を示す。
【
図8E】精製LigFによる式VIIのプロドラッグのβエーテル結合の切断、その後の4-OHTの提供に対するHPLC-MS実験を示す。
図8Eは時間=44時間を示す。
【
図9】質量分光法により測定されるような、式VIIのプロドラッグ(異性体EとZとして示す)から4-OHT(異性体ZとE両方を示す)への変換の定量化を示す。様々な時点(x軸)での合計パーセンテージ(y軸)として分子の相対存在量を示す。
【
図10】4-OHT(遍在性Cre-E
RT2タンパク質を運ぶ、あるいは運ばない)に対して感受性を持つ、または持たないMEFを有するβエテラ-ゼを発現するとともに、式VIIの化合物または4-OHTにより処置された、マウス腸腫瘍オルガノイドの共培養アッセイを示す。FACS解析で測定されるように、再結合細胞の画分が示される。
【
図11】4-OHT、プロドラッグVIIを1μMおよび10μMで投与した細胞中のTCF4-ER
T2融合タンパク質、またはDMSOを投与した対照の、正規化遺伝子発現を示す。
【
図12】Ub-Cre-ER
T2とmTmGレポーターカセットの両方を発現し、陰性対照(油、
図12A)、または式VIIの化合物1μmol(
図12B)あるいは5μmol(
図12C)で処置された、マウス肝臓切片のEGFPに対する免疫組織化学的検査染色を示す。
【
図13】TGFβシグナル伝達阻害および関連する抗癌作用に関する読み出しとしてのマウス肝転移形成アッセイを示す。C57BL/6マウスにMTOを埋め込み、示された化合物による処置を腫瘍細胞の接種2日後に開始した。示された化合物の治療効果を、肝転移形成阻害能を測定することで評価した。次のモル当量:9倍、3倍、1倍、0.3倍での式Iの化合物、式IVの化合物、化合物338、またはガルニセルチブにより、マウスを処置した。対照マウスは空ビヒクルで処置した。肝転移(LiM)の数を処置後に測定した(y軸)。腫瘍細胞接種後2日目~14日目にすべてのマウスを処置し、MTO接種後4週間にわたり転移を集計する。3つの独立実験から結果を集め、これをデータポイントの形状(正方形、三角形、または円形)により表す。集めた対照に対するP値を次のように示す:
*:<0.05、
**:<0.001、
***:<0.0001。これらの値は次のとおりである:Gal 1x:0.72、Gal 3x:0.0107、Gal 9x:0.0078、(IV)1x:0.075、(I)0.3x:0.026、(I)1x:0.0002、(I)3x:0.0004、(I)9x:0.035、338 1x:0.72、両側マン-ホイットニー。
【
図14】明らかに転移性疾患のマウスに対する化合物の治療効果を示す。免疫適格マウスにMTOを埋め込み、転移性疾患が明らかになったとき接種後16日目にマウスを処置した。ALK5阻害剤を単独、またはチェックポイント分子PD-1に対する抗体と組み合わせて用いて、マウスを処置した。確立された肝転移の数を減らす能力を測定することで、示された化合物の治療効果を評価した。示された化合物を1倍相当のモル投与量で投与した。抗体を投与するために、3日毎で200μgの腹腔内注射によりマウスを処置した。胃管栄養ビヒクルとIgG2aアイソタイプ対照抗体200μgにより対照マウスを処置した。マウスを16日目から24日目まで処置した。肝転移(LiM、Y軸)の数をエンドポイントで測定した。2つの独立実験から結果を集め、これをデータポイントの形状(正方形、、または円形)により表す。集めた対照に対するP値を次のように示す:
*:<0.05、
**:<0.001、
***:<0.0001。これらの値は次のとおりである:Gal 1x:0.58、(I)1x:0.048、aPD-1:0.0068、Gal+aPD-1:0.18、(I)+aPD1:0.0001、両側マン-ホイットニー。
【
図15】明らかに転移性疾患のマウスに対する化合物の治療効果を示す。免疫適格マウスにMTOを埋め込み、肝転移性疾患が明らかになったとき接種後16日目にマウスを処置した。示された化合物での処置後にマウスの生存率を測定することで、治療効果を評価した。この化合物は1倍相当のモル投与量で投与した。対照マウスは胃管栄養ビヒクルで処置した。すべてのマウスを16日目から24日目まで処置した。
図14に示すのと同じ実験からデータを得る。集めた対照に対するP値は次のとおりであった:(I):0.0018、Gal:0.67、ログ・ランク検定。
【
図16】免疫適格マウスにMTOを埋め込み、転移性疾患が明らかになったとき接種後16日目にマウスを処置した。抗PD-1抗体(200μg、3日毎)による処置後、または抗PD-1抗体と1倍相当の等モル投与量の式Iの化合物あるいはガルニセルチブとを用いた併用免疫療法による処置後の生存率を測定することで、示された化合物の治療効果を評価した。胃管栄養ビヒクルとIgG2aアイソタイプ対照抗体200μgにより対照マウスを処置した。マウスを16日目から24日目まで処置した。
図14に示すのと同じ実験からデータを得る。集めた対照に対するP値は次のとおりであった:(I)+aPD-1:<0.0001、aPD-1:0.0048、Gal+aPD1:0.43、ログ・ランク検定。
【
図17】C57BL/6マウスにMTOを埋め込み、示された化合物による処置を腫瘍細胞の接種2日後に開始した。示された化合物の治療効果を、肝転移形成阻害能を測定することで評価した。1倍での式Iの化合物、化合物338、または化合物337でマウスを処置した。対照マウスは空ビヒクルで処置した。肝転移(LiM)の数を処置後に測定した(y軸)。すべてのマウスを腫瘍細胞の接種後2~18日目まで処置した。MTO接種後21日目に肝転移の数を計数した。Nsは有意でなく、
*はマン・ホイットニー両側検定により<0.05を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、式(I)の化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、薬学的に許容可能な溶媒和物、多形体、あるいは共結晶に関する。
【0030】
【0031】
具体的に本発明は、式(I)の化合物、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物に関する。
【0032】
本発明はまた、有効量の式Iの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、薬学的に許容可能な溶媒和物、多形体、あるいは共結晶と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0033】
本発明は、薬剤として使用するための、具体的にはTGFβ経路の阻害あるいはTGFβシグナル伝達の阻害に反応する疾患の処置に使用するための、式Iの化合物、または該化合物を含む医薬組成物に関する。本発明の目的では、用語「TGFβ経路の阻害剤」は、用語「TGFβシグナル伝達経路の阻害剤」および用語「TGFβ阻害剤」と同等であり、これら3つの用語は本記述全体にわたり目立つことなく使用される。このため、本発明の目的では、したがって用語「TGFβ経路の阻害に反応する疾患」は、用語「TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患」と同等である。
【0034】
式Iの化合物はTGFβ経路の阻害剤である。TGFβシグナル伝達経路の阻害剤は、ALK1、ALK2、ALK3、ALK4、ALK5、ALK6、ALK7、TGFBR2、BMPR2、ACVR2A、およびACVR2Bからなる群から選択される1つ以上のTGFβシグナル伝達経路受容体を阻害する場合がある。したがって、本発明はまた、1つ以上のTGFβシグナル伝達経路受容体の阻害に反応する疾患の処置に使用するための式Iの化合物を指し、前記TGFβシグナル伝達経路受容体はI型TGFβシグナル伝達経路受容体またはII型TGFβシグナル伝達経路受容体であり、ALK1、ALK2、ALK3、ALK4、ALK5、ALK6、ALK7、TGFBR2、BMPR2、ACVR2A、およびACVR2Bからなる群から選択される。それゆえ、本発明は、ALK1、ALK2、ALK3、ALK4、ALK5、ALK6、ALK7、TGFBR2、BMPR2、ACVR2A、およびACVR2Bからなる群から選択される1つ以上のTGFβシグナル伝達経路受容体の阻害剤として使用するための、式Iの化合物に関する。
【0035】
実施例2の表1に挙げられる結果より、式Iの化合物はガルニセルチブよりもALK5に対する結合親和性が驚くほど高かった(8.6倍)ことが認められる。この比較は、同じ技術(KINOMEscan(商標))を用いて公開データ(Jonathan M et al.,Oncotarget,2018,9(6):6659-6677)を考慮して行われている。また、実施例2の表2と
図1に見られるように、ALK5キナーゼ酵素力阻害のほか、式Iの化合物の培養細胞のTGFβシグナル伝達阻害能は、ガルニセルチブの約2.5倍である。さらに、実施例2(表1)に記載されるように、選択性アッセイ(KINOMEscan(商標)技術)により、式Iの化合物の特徴として、ALK5に対する選択性は、ALK1、ALK2、およびALK3に対して300倍、TGFBR2に対して100倍、ならびにACVR2BおよびALK6に対してそれぞれ5倍と8倍大きいことが認められる。さらに、式Iの化合物は、試験した全タンパク質に対する選択性がガルニセルチブより高かった。
【0036】
したがって、式Iの化合物と先行技術の化合物との構造上の差異により、TGFβシグナル伝達阻害能は驚くほど強く改善され、このことはより良好なALK5阻害に関連付けられる。式Iの化合物はまた、結合親和性をALK5と比較した場合、先行技術の化合物よりも選択的である。他方、式Iの化合物は明確化した毒性スクリーンを有しており、遺伝毒性に対するスクリーン、薬物有害反応に強く関連するタンパク質の摂動(実施例2に記載されるように、SafetyScreen44(商標))、および、式Iの化合物がガルニセルチブに比べて毒性プロファイルを改善し、場合により断続的処置の必要性を回避することを示すインビボ(マウス)毒性(実施例4)が挙げられる。
【0037】
式Iの化合物は、フェノールがパラ位にて隠れているか保護されているp-アニリンから合成されてもよい。この意味では、式Iの化合物の合成は、スキーム1の逆合成解析に見られるような様々な経路を使用してもよい。
【0038】
【0039】
実施例1は、好ましい合成経路(a)と(d)に従う式Iの化合物の調製に相当する合成詳細すべてを含むが、合成経路(b)と(c)も、本発明に従い式Iの化合物を得るのに適切な経路である。
【0040】
【0041】
経路(a)は式Iの化合物の合成を含むが、保護されたパラ-ヒドロキシアニリンから逸脱しており、ここで前記保護されたフェノールは端部でのみ脱保護される。第1の工程では、ルイス酸触媒存在下でのデーブナー・ミラー反応を介して6-メトキシ-4-メチルキノリンが得られる。デーブナー・ミラー反応は当該技術分野で周知である(Bergstrom,F.W.Chem.Rev.1944,35,153)。
【0042】
第2の工程では、強塩基(共役酸のpKaが17超)と適切な条件の存在下でメチル6-メチルピコリネートを添加することで、6-メトキシ-4-メチルキノリンのアシル化が行われる。
【0043】
最後に、まずディーン・シュタルク条件下で1-アミノピロリジン-2-オンとルチジンなどの塩基とを使用し、続いてディーン・シュタルク条件下での脱水に際してメチル脱保護された式Iの化合物をもたらす環化に適切な条件を使用して、ケトン中間体をメチル脱保護された式Iの化合物へと形質転換させる。
【0044】
メチル基はAcOHのHBrにおいて還流することで取り除くことができるが、BBr3、BCl3、TMSCl/NaI、またはBF3/RSHなどの他の通常の脱保護条件を使用することができる。
【0045】
【0046】
経路(b)は経路(a)と同等の第1の工程を含み、パラ-ニトロアニリンの改変デーブナー・ミラー反応が実施される。第2の工程はまた、塩基の存在下でメチル6-メチルピコリネートを添加する6-ニトロ-4-メチルキノリンのアシル化を含む。続いて、ヒドラゾン形成と環化を行う工程を、経路(a)と同様に実施した。既知の方法(H2/Pd/C;Sn/HClなど)、およびジアゾニウム塩の加水分解によるアミノ基からフェノールへの変換のいずれかにより、ニトロ誘導体の還元を行う。
【0047】
【0048】
経路(c)は経路(a)と同等の第1の工程を含み、改変デーブナー・ミラー反応がパラ-フルオロアニリンとクロラニルなどの酸化剤を用いて実行される。第2の工程はまた、強塩基の存在下でメチル6-メチルピコリネートを添加して実施された6-フルオロ-4-メチルキノリンのアシル化を含む。続いて、ヒドラゾン形成と環化を行う工程を、経路(a)と同様に実施する。遷移金属触媒作用、またはFier and Maloney(Org.Lett.2016,18,2244)に記載されるようなアセトキシヒドロキサム酸の使用を含む様々な方法で、フルオロ誘導体からフェノールへの変換を行うことができる。
【0049】
【0050】
経路(d)は経路(a)と同等の第1の工程を含み、酸化剤として空気を用いてパラ-ブロモアニリンの改変デーブナー・ミラー反応が実施される。第2の工程はまた、強塩基の存在下でメチル6-メチルピコリネートを添加して実施された6-ブロモ-4-メチルキノリンのアシル化を含む。続いて、ヒドラゾン形成と環化を行う工程を、経路(a)と同様に実施する。続いて、宮浦ホウ素化(T.Ishiyama,M.Murata,N.Miyaura,J.Org.Chem.1995,60:7508-7510)を用いて式Iの化合物を得ることができ、ここで臭化アリールは、ビス(ピナコラート)ジボロン(B2Pin2)などのジボロニルエステル類とのPd触媒クロスカップリング反応を介して、対応するボロン酸エステルへと変換される。このカップリングはPd(0)/Pd(II)機構を介して進められるため、Pd(0)のあらゆる供給源が反応を行うことができる。好ましい実施形態では、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(Pd(DPPF)Cl2)が適切な試薬である。さらに精製することなく、ボロン酸エステルを過酸化水素で酸化することができ、その後の塩基性媒体での加水分解後、式Iの化合物が得られる。
【0051】
本発明はさらにプロドラッグに関する。プロドラッグは活性な薬剤または薬物(親化合物)に由来する化合物であり、溶解性、吸収、分布、代謝、排泄、および毒性などの特性を調節するよう修飾されている。それゆえ、プロドラッグは、溶解性、吸収、分布、代謝、排泄、および毒性などの1つ以上の特性を同時に調節する間に、活性を低減するか遮断する断片に付けられる親化合物を含む、化合物である。
【0052】
具体的に本発明は、式Iの化合物のプロドラッグに関する。
【0053】
本発明の実施形態は式Iの化合物のプロドラッグに関し、前記プロドラッグは、式II、またはその薬学的に許容可能な塩、薬学的に許容可能な溶媒和物、多形体、あるいは共結晶を有しており、
【0054】
【化11】
式中、
R
1は、H、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、アルカノイルアミノ、アルコキシ、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、N-アルキルアミノ、およびN,N-ジアルキルアミノからなる群から選択され、ならびに
R
2とR
3はそれぞれ独立して、H、アルキル、およびハロアルキルからなる群から選択される。
【0055】
一実施形態は式Iの化合物のプロドラッグに関し、前記プロドラッグは式II、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物を有し、R1は、H、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、アルカノイルアミノ、アルコキシ、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、N-アルキルアミノ、およびN,N-ジアルキルアミノからなる群から選択され、R2はメチルであり、R3はHである。別の実施形態では、R1は、H、アルキル、ハロアルキル、アミノアルキル、およびヒドロキシアルキルからなる群から選択され、R2はメチルであり、R3はHである。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、R1はHであり、R2はメチルであり、R3はHであり、式Iの化合物のプロドラッグは、式(III)のプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩、薬学的に許容可能な溶媒和物、多形体、あるいは共結晶である。
【0057】
【0058】
好ましくは、式Iの化合物のプロドラッグは、式(III)のプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物である。実施例1に示すように、式Iの化合物のフェノール基と、アセトバニロンフェノール基が保護されたアセトバニロンのハロゲン化誘導体とのアルキル化反応、続いてアセトバニロン部分の脱保護により、式IIIのプロドラッグが得られる。
【0059】
別の好ましい実施形態では、式Iの化合物のプロドラッグは、式(IV)のプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩、薬学的に許容可能な溶媒和物、多形体、あるいは共結晶である。
【0060】
【0061】
好ましくは、式Iの化合物のプロドラッグは、式(IV)のプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物である。実施例1に示すように、式Iの化合物と4-ピペリジノピペリジン-1-カルボニルクロリドとの反応により、式IVのプロドラッグが得られる。
【0062】
用語「含む」は、特徴(A、B、C)の群を含むと理解されるが、他の特徴も含まれる実施形態を除外するものではなく、このとき他の特徴は前記実施形態を実行不能にしない。加えて、本発明の目的では、前記用語「含む」は、前記特徴(A、B、C)のみが含まれる実施形態も含み、この場合には用語「~からなる」と置き換えられる場合がある。
【0063】
用語「薬学的に許容可能な塩」は任意の薬学的に許容可能な塩を指し、患者への投与に際し、本明細書に記載されるような化合物を(直接的または間接的に)提供することができる。
【0064】
このような塩は酸付加塩または塩基付加塩であるのが好ましい。酸付加塩の例として、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの鉱物酸付加塩、ならびに、例えば酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、琥珀酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、およびp-トルエンスルホン酸塩などの有機酸付加塩が挙げられる。塩基付加塩類の例として、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、およびアンモニウム塩などの無機塩、ならびに、例えばエチレンジアミン、エタノールアミン、N,N-ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン、および塩基性アミノ酸塩などの有機塩基性塩が挙げられる。しかし、薬学的に許容可能でない塩も薬学的に許容可能な塩の調製に有用な場合があるため、本発明の範囲内にあることが認識される。塩の形成手順は当該技術分野で周知である。
【0065】
本発明の一実施形態では、式Iの化合物の薬学的に許容可能な塩は、塩基付加塩または酸付加塩である。好ましい実施形態では、前記式Iの化合物の薬学的に許容可能な塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアンモニウム塩、エタノールアミン塩、N,N-ジアルキレンエタノールアミン塩、およびアミノ酸塩からなる群から選択される。
【0066】
他の好ましい実施形態では、前記式Iの化合物の薬学的に許容可能な塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、グルコン酸塩、酒石酸、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、およびp-トルエンスルホン酸塩からなる群から選択される。
【0067】
本発明の一実施形態では、式IIのプロドラッグ、具体的には式IIIのプロドラッグの薬学的に許容可能な塩は、酸付加塩である。好ましい実施形態では、前記式IIのプロドラッグ、具体的には式IIIのプロドラッグの薬学的に許容可能な塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、グルコン酸塩、酒石酸、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、およびp-トルエンスルホン酸塩からなる群から選択される。
【0068】
本発明の一実施形態では、式IVの化合物の薬学的に許容可能な塩は、塩基付加塩または酸付加塩である。好ましい実施形態では、前記式IVの化合物の薬学的に許容可能な塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、およびp-トルエンスルホン酸塩からなる群から選択される。最も好ましくは、前記式IVの化合物の薬学的に許容可能な塩は塩酸塩である。
【0069】
別の好ましい実施形態では、前記式IVの化合物の薬学的に許容可能な塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアンモニウム塩、エタノールアミン塩、N,N-ジアルキレンエタノールアミン塩、およびアミノ酸塩からなる群から選択される。
【0070】
本発明に係る用語「溶媒和物」は本発明に係る活性化合物のあらゆる形態を意味するものとして理解されたい。前記化合物は、特に水和物とアルコラートを含む別の分子(通常は極性溶媒)へと非共有結合により結合される。本発明の一実施形態では、前記薬学的に許容可能な溶媒和物はアルコラートである。本発明の一実施形態では、前記薬学的に許容可能な溶媒和物は水和物である。本発明の一実施形態では、前記式Iの化合物、前記式IIのプロドラッグ、前記式IIIのプロドラッグ、または前記式IVのプロドラッグは、一水和物である。
【0071】
本明細書では、用語「多形体」は、同じ化学組成を持つが、結晶を形成する分子、原子、および/またはイオンの空間的配置が異なっている結晶形態を指す。したがって、式Iの同じ化合物、またはその医薬塩あるいは医薬溶媒和物は、前記結晶形態を形成する原子またはイオンの空間的配置に応じて、様々な結晶多形体を含む場合がある。
【0072】
式Iの化合物は、実施例2~4、および実施例8~10に示すように、阻害能が改善されかつ低毒性を特徴とする、TGFβシグナル伝達経路の阻害剤である。
【0073】
したがって、一実施形態は、TGFβシグナル伝達経路阻害に反応する疾患の処置に使用するための、式Iの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、薬学的に許容可能な溶媒和物、多形体、あるいは共結晶に関する。好ましくは、TGFβ経路阻害に反応する疾患の処置に使用するための、式Iの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物に関する。
【0074】
プロドラッグは、前記薬剤または薬物に結合される断片の切断後に親化合物へと形質転換される。これは様々な酵素により行われる場合がある。
【0075】
式Iの化合物のプロドラッグは代謝されると、式Iの化合物を放出し、それにより腫瘍へと局所投与され、このようにして、TGFβシグナル伝達経路の連続阻害が行われると有害作用をもたらす系統的経路阻害を防ぐ。したがって、式Iの化合物のプロドラッグは、TGFβ経路の阻害に反応する疾患の予防および/または処置にも有用である。
【0076】
図1と表2に見られるように、式Iの化合物のプロドラッグ、式IIのプロドラッグ、式IIIのプロドラッグ、および式IVのプロドラッグは、インビトロでのTGFβシグナル伝達阻害能が低下しているが、インビボで式Iの化合物を送達する。すなわち、式II、式III、式IVの各プロドラッグは、インビボで代謝されて式Iの活性化合物を放出するプロドラッグである。
【0077】
実際に、式IVのプロドラッグの4-ピペリジノピペリジン基は水溶性をもたらし、例えば肝臓細胞や腸細胞で発現されるインビボでのカルボキシルエステラーゼによる加水分解を介して切断される。
【0078】
したがって、式IVのプロドラッグが投与されると、式Iの化合物は、肝臓細胞や腸細胞でのカルボキシルエステラーゼによる加水分解に際して放出される。この主な利点としては、全身毒性を少なくして高局用量の投与とTGFβシグナル伝達阻害が可能になるということである。
【0079】
他方、式IIのプロドラッグ、具体的には式IIIのプロドラッグのアセトバニロン由来の断片は、シトクロムP450酵素ファミリー(主に肝臓に存在)などの酵素により酸化かつ切断することができ、この酵素は式Iの化合物を送達するエーテル結合を加水分解する。一方で、スフィンゴビウム属細菌株SYK-6酵素LigEとLigF、真菌Dichomitus squalens D-GST1など、非哺乳動物由来の特異的なβ-エーテラーゼを用いて、式Iの化合物もその式IIのプロドラッグから得ることができる。これらは式IIのプロドラッグ、好ましくは式IIIのプロドラッグと合わせて投与することができる。
【0080】
したがって、一実施形態は、TGFβ経路の阻害に反応する疾患の処置に使用するための式IIのプロドラッグを指し、ここでβ-エーテラーゼ酵素は、式IIの化合物と一緒に、その後、または前に投与される。好ましい実施形態は、TGFβ経路の阻害に反応する疾患の処置に使用するための式IIIのプロドラッグを指し、ここでβ-エーテラーゼ酵素は、式IIIの化合物と一緒に、またはその後に投与される。実施例6は、どのようにしてLigFすなわちβ-エーテラーゼ酵素が、4-メチルウンベリフェロンのアセトバニロンエーテルおよび4-ヒドロキシタモキシフェンのアセトバニロンエーテルを用いて実行されたモデル実験において、アセトバニロン断片を切断するエーテル結合を加水分解できるのかを示している。
【0081】
特定の実施形態では、β-エーテラーゼ酵素は、細胞療法、例えば養子T細胞移入や樹状細胞ワクチン療法として、前記β-エーテラーゼ酵素を発現する細胞中で投与される。代替的に、別の特定の実施形態では、β-エーテラーゼ酵素は、腫瘍または間質に特異的な抗体へと、随意にグルタチオンとともに結合されて投与される。肺内膜などのある組織は細胞外レベルが高いグルタチオンを含み、したがってグルタチオンの投与は必要とされない。
【0082】
式II、式III、および式IVのプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは溶媒和物は、TGFβシグナル伝達経路阻害剤として活性が大きく低減されており、そのため、βエーテル結合が切断されない限り、TGFβ経路に対する効果をほとんどまたは全く生じさせることなく投与することができる。
【0083】
式IIまたは式IIIのプロドラッグ、もしくはそれらの薬学的に許容可能な塩あるいは溶媒和物が投与されると、式Iの化合物は、β-エーテラーゼの局所投与に際し、標的腫瘍間質の中で放出される。この主な利点としては、全身毒性を少なくして高局所用量の投与とTGFβシグナル伝達経路阻害が可能になるということである。
【0084】
他方、式IVを有する式Iの化合物のプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩はさらに、インビトロでのTGFβシグナル伝達阻害活性を低減し、インビボで投与されると加水分解されて、肝臓細胞や腸細胞などの様々な体組織細胞に発現されるカルボキシルエステラーゼの酵素作用によりインビボで式Iの化合物を生じさせる。
【0085】
その後、式Iの化合物は、有効なガルニセルチブ用量よりも少ない用量で(実際は10倍少ない)、インビボ実験において有効であることが分かった。さらに、有効用量では、式Iの化合物には毒性がなかった(インビボで全体、組織切片上では病理学的)が、マウス関連投与量でのガルニセルチブには毒性があった(実施例2~4を参照)。
図1と表2に見られるように、式IIIのプロドラッグや式IVのプロドラッグなど、式Iの化合物のプロドラッグにおけるインビトロでのTGFβシグナル伝達阻害能は、最大10倍少なく、これにより、式Iの化合物のTGFβシグナル伝達阻害能は上手く閉じ込められる(caged)か遮断されることが認められる。
【0086】
図2は、式Iの化合物の高いTGFβシグナル伝達阻害活性を示しているが、式IVのプロドラッグは、インビトロでは有意なTGFβシグナル伝達阻害活性を示さなかったが、式Iの活性化合物を送達する前記プロドラッグのインビボでの加水分解により、インビボでは高いTGFβシグナル伝達経路の阻害活性をもたらす。
【0087】
したがって、本発明の一実施形態は、式Iの化合物のプロドラッグを指し、ここで、前記プロドラッグは、製剤として使用するための、特にTGFβシグナル伝達に反応する疾患の処置に使用するための、式IIのプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩、または薬学的に許容可能な溶媒和物、または多形体、または共結晶である。好ましくは、前記プロドラッグは、式IIIのプロドラッグである。好ましい実施形態は、製剤として使用するための、特にTGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患の処置に使用するための、式IIIの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物を指す。
【0088】
別の実施形態は、TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患の処置のための製剤の製造における、式Iの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、または薬学的に許容可能な溶媒和物、または多形体、または共結晶、あるいは前記式Iの化合物を含む組成物の使用を指す。
【0089】
追加の実施形態は、式Iの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、または薬学的に許容可能な溶媒和物、または多形体、または共結晶と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、随意に1つの追加の有効成分または治療剤とを含む医薬組成物を指す。
【0090】
本発明の目的上、「有効成分」または「治療剤」との用語は、本発明の化合物またはそのプロドラッグの治療効果を改善または増強する別の化合物または治療を指す。
【0091】
本発明の別の実施形態は式Iの化合物のプロドラッグを指し、ここで、前記プロドラッグは、薬剤として使用するための、特にTGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患の処置に使用するための、式IVのプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩、または薬学的に許容可能な溶媒和物、または多形体、または共結晶である。好ましくは、薬剤として使用するための、特にTGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患の処置に使用するための、式IVの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩あるいは薬学的に許容可能な溶媒和物である。
【0092】
本発明の別の実施形態は、前記式Iの化合物またはそのプロドラッグ、式II、式III、および式IVのプロドラッグ、またはそれらの薬学的に許容可能な塩あるいは溶媒和物の、単独での、または少なくとも前記式Iの化合物またはそのプロドラッグ、式II、式III、および式IVのプロドラッグを、相加的または相乗的な生物学的活性を有する少なくとも1つの他の活性化合物または治療剤と組み合わせて含む組成物、特に医薬組成物中で製剤化された、薬剤としての使用に関する。
【0093】
この意味で、本発明の一実施形態は、他の癌標的療法または化学療法と組み合わせて、TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患の予防および/または処置に使用するための、式Iの化合物またはそのプロドラッグ、式II、式III、および式IVのプロドラッグ、またはそれらの薬学的に許容可能な塩あるいは溶媒和物、もしくは前記化合物の少なくとも1つを含む医薬組成物に関する。
【0094】
本発明の目的上、「化学療法」との用語は、細胞を殺すことによって、または細胞の分裂を止めることによって、癌細胞の成長を止める作用をするあらゆる処置を指す。
【0095】
したがって、本発明の1つの実施形態は、化学療法または化学療法剤と組み合わせて使用するための、式Iの化合物またはそのプロドラッグ、式II、式III、および式IVのプロドラッグ、またはそれらの薬学的に許容可能な塩あるいは溶媒和物、もしくは前記化合物の少なくとも1つを含む医薬組成物を指す。特に、白金系抗悪性腫瘍剤、有糸分裂阻害化学療法剤(anti-mitotic chemotherapeutic agents)、ポリアデノシン二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤、I型トポイソメラーゼ阻害剤、II型トポイソメラーゼ阻害剤、エポチロン、細胞骨格破壊剤(cycloskeletal disruptor)、アルキル化剤、エポチロン、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、キナーゼ阻害剤、葉酸代謝拮抗剤、キナーゼ阻害剤、ペプチド抗生物質、レチノイド、ビンカアルカロイド、およびチミジル酸シンターゼ阻害剤からなる群から選択される1つの化学療法剤と組み合わされる。好ましくは、化学療法剤は、シクロホスファミド、イホスファミド、ブスルファン、テモゾロミド、メクロレタミン、クロラムブシル、メルファラン、ダカルバジン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、バルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、アブラキサン、タキソテール、エポチロン、ボリノスタット、ロミデプシン、イリノテカン、トポテカン、カンプトテシン、エキサテカン、ルルトテカン、エトポシド、テニポシド、タフルポシド、ボルテゾミブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ベムラフェニブ、ビスモデギブ、アザシタジン、アザチオプリン、カペシタビン、シタラビン、クラドリビン、フルダラビン、ドキシフルリジン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メルカプトプリン、メトトレキサート、ペメトレキセド、チオグアニン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、トレチノイン、アリトレチノイン、ベキサロテン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、およびビノレルビンからなる群から選択される。
【0096】
本発明の目的上、「癌標的療法」という用語は、癌の特定の遺伝子、タンパク質、または癌の成長と生存に寄与する組織環境を標的とするあらゆるタイプの治療を指す。したがって、本発明の一実施形態は、癌標的療法と組み合わせて、TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患の予防および/または処置に使用するための、式Iの化合物またはそのプロドラッグ、式II、式III、および式IVのプロドラッグ、またはそれらの薬学的に許容可能な塩あるいは溶媒和物、もしくは前記化合物の少なくとも1つを含む組成物を指し、好ましくは、前記癌標的療法は、ホルモン療法、シグナル伝達阻害剤、遺伝子発現モジュレーター、アポトーシス誘導剤、血管新生阻害剤、免疫療法剤、毒性分子を送達するモノクローナル抗体、癌治療、および遺伝子治療からなる群から選択される。
【0097】
したがって、本発明の一実施形態は、免疫療法と組み合わせてTGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患の予防および/または処置に使用するための、式Iの化合物またはそのプロドラッグ、式II、式III、および式IVのプロドラッグ、またはそれらの薬学的に許容可能な塩あるいは溶媒和物、もしくは前記化合物の少なくとも1つを含む組成物を指す。
【0098】
本発明の目的上、「免疫療法」という用語は、癌細胞を殺すために免疫系を活性化する免疫療法剤、化合物、または成分を指す。より好ましくは、免疫療法または免疫治療剤は、免疫チェックポイント阻害剤であり、さらに好ましくは、抗PD-1またはPDL1阻害剤である。
【0099】
この意味で、本発明の別の実施形態は、免疫療法剤、好ましくは免疫チェックポイント阻害剤、より好ましくは抗PD1またはPDL1阻害剤、さらに好ましくは抗PD1抗体と組み合わせて、TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患の予防および/または処置に使用するための、式Iの化合物またはそのプロドラッグ、式II、式III、および式IVのプロドラッグ、またはそれらの薬学的に許容可能な塩あるいは溶媒和物、もしくは前記化合物の少なくとも1つを含む医薬組成物を指す。
【0100】
プログラムされた細胞死タンパク質1(PD-1)は、T細胞で発現される膜貫通タンパク質であり、T細胞の活性化を負に制御する免疫チェックポイントとして機能し、免疫系のダウンレギュレーションを引き起こす。投与により、抗PD-1モノクローナル抗体は、PD-1およびその下流のシグナル伝達経路に結合して阻害し、T細胞の活性化および腫瘍細胞に対する細胞媒介性の免疫応答により、免疫機能を回復させる。
【0101】
好ましい実施形態では、前記少なくとも1つの他の活性化合物または治療剤は、PD1を阻害する腫瘍溶解性ウイルス、および抗PD-1またはPDL1の抗体、PD-1またはPDL1を阻害する二重特異性モノクローナル抗体、PD-1またはPDL-1を阻害する低分子、PD-1に拮抗するタンパク質、およびPD-1を標的とするワクチンからなる群から選択される。
【0102】
好ましい実施形態では、前記少なくとも1つの他の活性化合物または治療剤は、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、セミプリマブ、カムレリズマブ、シンティリマブ、トリパリマブ、チスレリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、KN-035、CK-301、AUNP12、CA-170、BMS-986189、MDX-1105、MEDI0680、LY3300054、LY-3434172、APL-502、ビントラスプ・アルファ、CS-1001、SHR-1316、BGBA-333、CX-072、GEN-1046、GS-4224、IO-103、KD-005、KLA-167、KN-046、ラゼルチニブ、STIA-1014、WP-1066、ADG-104、BCD-135 BCD-135、FAZ-053、FPT-155、FS-118、HLX-20、IBI-318、INBRX-105、INCB-86550、JS-003、ロダポリマブ、LP-002、MCLA-145、MSB-2311、RG-6084、SHR-1701、SL-279252、STIA-1015、LYN-00102、ACE-05、AP-201、AP-505、AVA-004、AVA-021、BBI-801、BH-2996h、BH-29XX、CA-327、CDX-527、CTX-8371、DPDL-1E、DSP-105、DSP-106、Gensci-047、HS-636、IBI-322、IBI-323、IKT-201、IMM-2505、JBI-426、KD-033、KY-1043、ND-021、PH-790、PMC-122、PRS-344、SNA-02、STT-01、TJL-14B、TJL-1C4、TJL-1D5、TJL-1H3、TJL-1I7、Toca-521、VXM-10、Y-111、ABM-101、ABP-160、AVA-027、AVA-040、DB-002、DB-003、IMC-2101、IMC-2102、IMM-2510、TE-7212、TXB-4BC3、YBL-007、YBL-008、ALN-PDL、BH-2941、BMS-936559 CBA-0710、GXP-2、HTI-1316、IGEM-P、IMM-25、IMM-2502、IMM-2503、IMM-2504、IO-104、KD-036、KY-1003、KY-1055、MSB-002、PMC-305、STIA-100X、STIA-1010、STIA-1011、STIA-1012、STIB-010X、LY-3415244、AK-103、AK-104、AK-105、AK-106、ドスタルリマブ、HLX-10、プロルゴリマブ(prolgolimab)、スパルタリズマブ、APL-501、バルスチリマブ、BAT-1306、BI-754091、セトレリマブ、GLS-010、MGA-012、ピディリズマブ、SCTI-10A、AMG-404、BCD-217、ブジガリマブ、CC-90006、CS-1003、F-520、HAB-21、HX-009、IBI-318、JTX-4014、LY-3434172、LZM-009、MEDI-5752、MGD-013、MGD-019、ONO-4685、RO-7121661、ササンリマブ、スリツズマブ(sulituzumab)、Sym-021、XmAb-20717、XmAb-23104、AK-112、PSB-205、AK-123、ALPN-202、AM-0001、ANB-030、BH-2922、BH-2950、BH-2954、BH-2996h、CB-201、CB-213、CBT-103、CBT-107、CTX-8371、GNR-051、HEISCOIII-003、IBI-319、KEY-Vaxx、LD-01、LD-10、MD-402、mDX-400、OT-2、PC-101、PEGMP-7、PH-762、PRS-332、PT-001、RO-7247669、SG-001、TSR-075、AT-16201、DB-004、IKT-202、IMT-200、KF-082、LBL-006、SSI-361、YBL-006、JY-034、TRS-007、AMP-224、AUR-012、BGB-108、BH-2941、BLSM-101、CX-188、ENUM-244C8、ENUM-388D4、IMM-1802、MEDI-0680、SNA-01、STIA-1110、およびSym-016からなる群から選択される。
【0103】
代替的に、前記組成物は、共溶媒、界面活性剤、油、湿潤剤、皮膚軟化薬、防腐剤、安定化剤、および抗酸化剤などの担体または賦形剤として少なくとも1つの不活性な成分とともに製剤化可能である。任意の薬理学的に許容可能な緩衝液、例えば、TRISまたはリン酸塩緩衝液が使用されてもよい。
【0104】
さらなる実施形態は、式Iの化合物のプロドラッグであって、式IIまたは式IIIを有するプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩、または薬学的に許容可能な溶媒和物、または多形体、または共結晶、および、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤、および、随意に1つの追加の有効成分を含む医薬組成物を指す。別のさらなる実施形態は、式Iの化合物のプロドラッグであって、式IVを有するプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩、または薬学的に許容可能な溶媒和物、または多形体、または共結晶、および、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤、および、随意に1つの追加の有効成分を含む医薬組成物を指す。
【0105】
別の実施形態は、TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患の処置のための製剤の製造における、式Iの化合物のプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩、または薬学的に許容可能な溶媒和物、または多形体、または共結晶、あるいは前記式Iの化合物のプロドラッグを含む組成物の使用を指す。好ましい実施形態は、TGFβシグナル伝達阻害に反応する疾患の処置のための製剤の製造における、式IIのプロドラッグ、より好ましくは式IIIのプロドラッグ、または式IVのプロドラッグの使用を指す。
【0106】
本発明の追加の実施形態は、TGFβシグナル伝達阻害に反応する疾患を処置するための方法を指し、上記方法は、有効な量の式Iの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、または薬学的に許容可能な溶媒和物、または多形体、または共結晶、あるいは前記式Iの化合物を含む組成物を、それを必要とする被験体に投与する工程を含む。
【0107】
本発明の別の実施形態は、TGFβシグナル伝達阻害に反応する疾患を処置するための方法を指し、上記方法は、有効な量の式Iの化合物のプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な塩、または薬学的に許容可能な溶媒和物、または多形体、または共結晶、あるいは前記式Iの化合物のプロドラッグを含む組成物を、それを必要とする被験体に投与する工程を含む。好ましくは、式Iの化合物のプロドラッグは、式II、または式III、または式IVのプロドラッグである。好ましい実施形態は、TGFβシグナル伝達阻害に反応する疾患を処置するための方法を指し、上記方法は、有効な量の式II、または式III、または式IVのプロドラッグ、またはその薬学的に許容可能な溶媒和物、または多形体、または共結晶、あるいは前記プロドラッグを含む組成物を、それを必要とする被験体に投与する工程を含む。
【0108】
本発明の実施形態では、TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患は、癌、強皮症、乾癬、貧血、サルコペニア、アルツハイマー病、マルファン症候群、動脈瘤、肺高血圧症、骨形成不全症、特発性肺線維症、肝線維症、肝硬変、脂肪肝、肥大型心筋症、骨髄線維症、神経線維腫症I型、線維性腎臓病、巣状分節性糸球体硬化症、放射線誘発性線維症、全身性硬化症における皮膚の線維化、びまん性全身性硬化症、瘢痕形成、角膜原発性翼状片、線維症、子宮平滑筋腫、肥満、糖尿病、糖尿病性網膜症における微小血管症、および腎症からなる群から選択される。特定の実施形態では、瘢痕形成は、病的な皮膚の瘢痕、皮膚の瘢痕、または角膜の瘢痕である。
【0109】
特定の実施形態では、TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患は、動脈再狭窄も含む。
【0110】
癌の進行において、TGFβシグナル伝達は、細胞増殖、血管新生、上皮間葉転換、免疫の浸潤と調節、転移の拡散、および薬剤耐性に関与している。前述したように、TGFβシグナル伝達経路の全体的な効果は、腫瘍の成長、浸潤、および転移を強く促進すると思われる。
【0111】
好ましい実施形態では、TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患は、癌である。好ましい実施形態では、癌は固形腫瘍である。別の好ましい実施形態では、癌は固形癌ではない。さらなる好ましい実施形態では、癌は小児癌である。
【0112】
図3に見られるように、式Iの化合物は、参照化合物であるガルニセルチブ(galunisertib)と比較して、ガルニセルチブの等モル投与量の1/3であっても、肝転移形成をブロックする能力が向上した。
【0113】
図13は、式Iの化合物が治療活性の大きな改善を示し、ガルニセルチブよりも、かつ、予期せぬことに先行技術によって開示された参照化合物4-[2-(メチル-ピリジン-2-イル)5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル]-キノリン-7-オール(参照化合物338)よりもはるかに大きな範囲で肝転移形成をブロックする様子を示している:
【0114】
【0115】
見て分かるように、参照化合物338は、キノリン部分の7位にフェノール性ヒドロキシルを有する式Iの化合物の構成異性体であるのに対し、式Iの化合物はキノリン部分の6位に前記フェノール性ヒドロキシルを有することを特徴とするので、
図13に示す結果は非常に予想外である。
【0116】
この意味では、ALK5に対する式Iの化合物のIC50として測定される酵素活性阻害も、先行技術の化合物337、338、およびガルニセルチブと比較して、本発明の化合物の予想外の高い効力を裏付けるものである。
【0117】
4-(2-ピドリジン-2-イル-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)-キノリン-7-オール(参照化合物337)の構造は、参照化合物337が、ピリジン部分の2位にメチル基を含まず、キノリン部分の7位にフェノール性ヒドロキシルを有し、式Iの化合物のようにはキノリン部分の6位にフェノール性ヒドロキシルを有していないことを特徴とする点で、式Iの化合物とは異なる。
【0118】
【0119】
実施例2で特徴づけられた表2に見られるように、結果は、構造的には、フェノール性ヒドロキシルの位置とピリジン部分のメチル基の有無が異なるだけであるが、式(I)の化合物は、予想に反して、参照化合物338よりも2.1倍、参照化合物337よりも1.8倍の効力を持つことを示している。
【0120】
追加のインビボアッセイは、式Iの化合物の治療効果を化合物337および338と比較している。
図17は、式Iの化合物が、化合物338よりも、治療活性の大きな向上を示し、かつ、肝転移形成をはるかに大きく阻害することを示しており、これは
図13に示した結果を裏付けている。この実験は、式(I)の化合物が、これらのインビボ転移アッセイにおいて、化合物337と比較して高い治療活性を示すことも実証している。したがって、本発明は、コア構造における置換の種類およびその位置が、驚くべきことに、式(I)の化合物によって示された予想外の改善された効力を提供することを示している。さらに、Liら(J.Med.Chem.2008,51(7):2302-2306)は電子不足の比較的小さな基が6位で許容されたことを開示しており、これは、7位のヒドロキシルを特徴とする先行技術の構造異性体338と比較して驚くほど強い効力が得られる式(I)の化合物によって6位で特徴付けられるヒドロキシルなどの電子供与基の導入とはかけ離れたものを教示している。
【0121】
一方、
図13は、式IVのプロドラッグが、インビトロでのTGFβシグナル伝達経路の阻害能力が最大10倍低いが、インビボの転移アッセイでは式Iの化合物と同様の治療活性をもたらすことも示している。したがって、式IIIのプロドラッグと式IVのプロドラッグは、インビトロのアッセイでは式Iの化合物よりも最大10倍低いTGFβシグナル伝達阻害能力を有するが、インビボでは同様の治療活性を示す。この結果は、式IIIと式IVのプロドラッグのTGFβシグナル阻害能力が、インビトロでは閉じ込められ、またはブロックされるが、インビボでは解放されることを裏付けている。
【0122】
さらに好ましい実施形態では、癌は転移性癌である。好ましくは、転移性癌は明らかな転移または明らかな転移性疾患である。
【0123】
この意味で、
図14は、式Iの化合物が、等モル投与量で投与されたときに、先行技術の化合物であるガルニセルチブと比較して、明らかな転移性疾患の動物モデルにおいて、非常に大幅に改善された活性を発揮する様子を示している。さらに、
図15は、明らかな転移性疾患の前記動物モデルへの式Iの化合物の投与により、生存率も高くなることを確認している。
【0124】
一方で、式Iの化合物は、他の治療法と組み合わせて投与されてもよい。前述のように、一実施形態では、式Iの化合物、または式II、または式III、式IVを有するそのプロドラッグ、あるいはその薬学的に許容可能な塩、または薬学的に許容可能な溶媒和物、または多形体、または共結晶は、免疫療法、例えば、免疫チェックポイントに対して向けられた免疫療法と一緒に使用されてもよい。
【0125】
したがって、好ましい実施形態は、式Iの化合物、または式II、式III、式IVを有するそのプロドラッグ、またはそれらの薬学的に許容される塩、または薬学的に許容される溶媒和物、または多形体、または共結晶と、免疫チェックポイント阻害剤、より好ましくは抗PD1抗体またはPDL1抗体とを含む医薬組成物を指す。この目的のために、
図14および
図16は、式Iの化合物と抗PD-1抗体との併用療法が、明らかな転移性疾患の動物モデルにおいて、生存率の大きな上昇をもたらし、肝転移の数を減少させたことを示している。
【0126】
好ましい実施形態において、TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患は、血液の癌、B細胞白血病またはT細胞白血病、非ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫B細胞型またはT細胞型、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、リンパ腫B細胞型またはT細胞型、多発性骨髄腫、脳癌、中枢神経系(神経膠腫)のグリア血統の癌、神経膠芽腫、肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、乳癌(breast cancer)、抗HER2の治療に耐性を示す乳癌、乳癌(breast carcinoma)、乳腺癌、転移性乳癌、胃と食道の癌、胃癌、胃腺癌、大腸癌、結腸癌、結腸腺癌、直腸癌、結腸直腸細胞腫、転移性結腸癌、膵臓癌(pancreatic cancer)、膵臓癌(pancreas carcinoma)、膵臓腺癌、腎細胞癌、明細胞腎細胞癌、肝臓癌、肝臓転移性癌、転移性疾患、肺癌(lung cancer)、肺癌(lung carcinoma)、肺腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、卵巣癌(ovarian cancer)、卵巣癌(ovarian carcinoma)、卵巣腺癌、卵巣癌(ovarian carcinoma)、子宮内膜癌、子宮内膜間質肉腫、子宮頸部癌、甲状腺癌、転移性甲状腺乳頭癌、濾胞性甲状腺癌、膀胱癌、尿膀胱癌、膀胱の移行上皮癌、前立腺癌(prostate cancer)、前立腺癌(prostate carcinoma)、神経内分泌癌、扁平上皮癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、胚性癌、神経芽細胞腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、腎芽細胞腫、肝芽腫、黒色腫、および皮膚癌からなる群から選択された癌である。
【0127】
好ましい実施形態では、TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患は、転移性疾患である。
【0128】
好ましくは、血液の癌は白血病、多発性骨髄腫、または骨髄異形成症候群である。好ましくは、脳癌は膠芽腫である。
【0129】
好ましい実施形態において、固形腫瘍は、乳癌、胃と食道の癌、大腸癌、膵臓癌、肝臓癌、肝臓転移性癌、転移性疾患、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、神経内分泌癌からなる群から選択される。好ましくは、皮膚癌は黒色腫である。
【0130】
好ましい実施形態では、TGFβシグナル伝達経路の阻害に反応する疾患は、白血病、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、膠芽腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、乳癌、胃と食道の癌、大腸癌、膵臓癌、肝臓癌、肝臓転移性癌、転移性疾患、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、神経内分泌癌、および黒色腫からなる群から選択された癌である。
【0131】
加えて、アセトバニヨン由来のフラグメントを含む式IIのプロドラッグに対して、本発明は他のアセトバニヨン由来のプロドラッグも開示している。
【0132】
したがって、式IIのプロドラッグのアセトバニロン由来のフラグメント、(AcV)
【0133】
【化16】
は、式Iの化合物とは異なる他の薬物のプロドラッグを得るためにも使用することができ、それによって、前記薬物は1つのヒドロキシル基を含んでいなければならない。この意味で、構造R-OHの1つのヒドロキシル基を含む前記薬物は、アセトバニロンフラグメントAcV-Xを含む化合物と反応し、スキームVIに見られるように、式VのプロドラッグAcV-ORのエーテル結合を形成することができる。
【0134】
【0135】
β-ケトエーテル結合がβ-エーテラーゼ酵素の存在下で、またはチトクロームP450などの肝酵素によって加水分解されると、1つのヒドロキシルR-OHを含む薬物が放出される。式R-OHの1つのヒドロキシルを含む薬剤の例は、限定されないが、4-ヒドロキシタモキシフェンまたは7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシン(SN-38、CAS No:86639-52-3、イリノテカンの活性代謝物)である。
【0136】
実施例6は、4-メチルウンベリフェロンのアセトバニロンエーテルおよび4-ヒドロキシタモキシフェンのアセトバニロンエーテルを用いて実施されたモデル実験において、β-エーテラーゼ酵素であるLigFが、アセトバニロンフラグメントを切断するエーテル結合を加水分解することができる様子を示している。
【0137】
この意味で、本発明は一般に、式R-OHの1つのヒドロキシルを含む薬物の式Vのプロドラッグも指し、ここで、前記プロドラッグはアセトバニロン由来のフラグメントを含み、
【0138】
【化18】
ここで、
R-OHは1つのヒドロキシルを含む薬物であり、
R
1は、H、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、アルカノイルアミノ、アルコキシ、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、N-アルキルアミノ、およびN,N-ジアルキルアミノからなる群から選択され、ならびに、
R
2とR
3はそれぞれ独立して、H、アルキル、およびハロアルキルからなる群から選択される。
【0139】
1つの実施形態において、R1は、H、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、アルカノイルアミノ、アルコキシ、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、N-アルキルアミノ、およびN,N-ジアルキルアミノからなる群から選択され、R2はメチルであり、および、R3はHである。別の実施形態では、R1は、H、アルキル、ハロアルキル、アミノアルキル、およびヒドロキシアルキルからなる群から選択され、R2はメチルであり、および、R3はHである。
【0140】
1つの実施形態は、有効な量の式Vのプロドラッグ、および少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を指す。
【0141】
本発明の1つの実施形態は、式VIの4-ヒドロキシタモキシフェンのプロドラッグを指し:
【0142】
【化19】
ここで、
R
1は、H、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、アルカノイルアミノ、アルコキシ、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、N-アルキルアミノ、およびN,N-ジアルキルアミノからなる群から選択され、ならびに、
R
2とR
3はそれぞれ独立して、H、アルキル、およびハロアルキルからなる群から選択される。
【0143】
1つの実施形態は、式VIの4-ヒドロキシタモキシフェンのプロドラッグを指し、ここで、R1は、H、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、アルカノイルアミノ、アルコキシ、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、N-アルキルアミノ、およびN,N-ジアルキルアミノからなる群から選択され、R2はメチルであり、および、R3はHである。別の実施形態では、R1は、H、アルキル、ハロアルキル、アミノアルキル、およびヒドロキシアルキルからなる群から選択され、R2はメチルであり、および、R3はHである。
【0144】
1つの異性体が描かれているが、異性体ZおよびEの両方、およびそれらの混合物は、式VIのプロドラッグに含まれる。一実施形態では、式VIのプロドラッグは、Z-異性体である。別の実施形態では、式VIのプロドラッグは、E-異性体である。さらなる実施形態では、式VIのプロドラッグは、Z-異性体とE-異性体の混合物である。特に、混合物は、50:50、60:40、70:30、80:20、90:10、95:5、99:1の比率、または他の任意の比率の両方の異性体の混合物を含む。
【0145】
好ましい実施形態において、R1はHであり、R2はメチルであり、およびR3はHであり、ならびに、式VIの4-ヒドロキシタモキシフェンのプロドラッグは、式VIIのプロドラッグである。
【0146】
【0147】
1つの異性体が描かれているが、異性体ZおよびEの両方、およびそれらの混合物は、式VIIのプロドラッグに含まれる。一実施形態では、式VIIのプロドラッグは、Z-異性体である。別の実施形態では、式VIIのプロドラッグは、E-異性体である。さらなる実施形態では、式VIIのプロドラッグは、Z-異性体とE-異性体の混合物である。特に、混合物は、50:50、60:40、70:30、80:20、90:10、95:5、99:1の比率、または他の任意の比率の両方の異性体の混合物を含む。
【0148】
1つの実施形態は、式VIまたは式VIIの有効な量のプロドラッグ、および少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を指す。
【0149】
式VIまたは式VIIのプロドラッグは、4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)と比較して、はるかに低い活性を有している。
【0150】
4-ヒドロキシタモキシフェンは、癌の処置、好ましくは、限定されないが、乳癌の予防および/または処置で使用されるエストロゲン受容体(ER)アンタゴニストである。さらに、それはERの変異型(特にERT2変異体)の強力なアゴニストであり、これは特許EP1692936B1に記載されているように、細胞核内で主たる活性を持つCre-ERTおよびCre-ERT2(T=タモキシフェンによる誘導可能な場合)などの融合タンパク質の活性化を誘発するために使用することができる。
【0151】
特にCre-ERT融合タンパク質は、リガンド結合活性を有する核エストロゲン受容体の少なくとも一部を含む。核内受容体またはそのフラグメントのリガンド結合活性は、(1)ヒト核エストロゲン受容体配列またはこの配列の天然変異体の521位でのグリシンからアルギニンへの変異(G521R)、(2)ヒト核エストロゲン受容体配列またはこの配列の天然変異体の400位でのグリシンからバリンへの変異(G400V)、および、(3)ヒト核エストロゲン受容体配列またはこの配列の天然変異体の543-544位に位置する(メチオニン-ロイシン)から(アラニン-アラニン)への変異(M543A/L544A変異)から選択された少なくとも1つの変異を有する。
【0152】
特許EP1692936B1に記載されているように、Cre-ERT2は、G400V/M543A/L544Aの三重変異体タンパク質であり、かつ、G521 R変異を有するCre-ERT融合タンパク質である。
【0153】
4-OHTの不在下では、融合タンパク質は細胞質で隔離されているため、不活性である。しかし、4-OHTがERT2に結合すると、これは融合タンパク質を核へと移動させる。ERT2がCre(Can Recombine)タンパク質に融合されると、および、Cre認識部位(loxP部位)に隣接する特定の遺伝子領域を用いると、これにより、4-OHTを用いて細胞内の特定の場所で遺伝子を活性化または欠失させることが可能になる。この意味で、実施例6に見られるように、特定の酵素をコードした細胞の周辺でのみ4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)を遊離させるプロドラッグを局所的に切断することが可能である。
【0154】
式VIIのプロドラッグは、既知の化合物4,4’-(1-フェニルブト-1-エン-1,2-ジイル)ジフェノール(化合物5-43)とアセトバニロンから出発して、実施例5に記載されるように合成された。この意味で、スキームVIIは使用された合成経路について記載している:
【0155】
【0156】
この意味で、その合成は、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンとプロピオフェノンからの、タモキシフェンのジヒドロキシ前駆体である化合物5-43(CAS No:91221-46-4)から出発する。4-ヒドロキシタモキシフェンのN.N.ジメチルアミノエチルエーテル基を特徴とする位置に対応するヒドロキシル基はまず、グリシドールを用いてエーテルに変換される。このジオールはその後、2,2-ジメトキシプロパンで保護され、第2のヒドロキシルのアルキル化によってアセトバニヨン由来のフラグメントをカップリングする。さらなる工程は、ジオール基の脱保護を含み、これはその後、アルデヒドに酸化され、続いて還元的アミノ化によってアミンに変換される。
【0157】
式VIIのプロドラッグは不活性であるが、β-エーテラーゼ酵素の存在下では4-OHTを放出することができる。これは、Cre-ERT2酵素を使用する場合、実施例6に示すように、特定の場所で細胞内の遺伝子を活性化または欠失させることができ、または、抗癌剤として作用して野生型エストロゲン受容体に拮抗する。
【0158】
このようにして、4-ヒドロキシタモキシフェンは、実施例6に記載されるように腫瘍細胞のDNAでコードされたLigFなどのβ-エーテラーゼ酵素をコードした細胞でのみ遊離される。LigFの酵素活性は、式VIのプロドラッグまたは式VIIのプロドラッグから4-ヒドロキシタモキシフェンを遊離させることになる。
【0159】
代替的に、式VIのプロドラッグまたは式VIIのプロドラッグは、場合によってはLigFよりも低い効率で、シトクロムP450酵素ファミリー(主に肝臓に存在する)などの酵素によって切断され得る。実施例7は、マウスの処置について記載しており、ここで、肝臓は用量依存的にプロドラッグを積極的に切断し、遺伝子組換えを受けることができたことから、このプロドラッグ戦略は、アセトバニロンβエーテルを含む式Vの任意の化合物、特に式VIのプロドラッグを用いて肝臓を特異的に標的とするために使用可能であることが示された。末梢組織における遺伝子組換えは、肝臓と比較して低く、肝臓を標的とする可能性を示していた。
【0160】
この意味で、式VIのプロドラッグまたは式VIIのプロドラッグは、生物医学的分野、遺伝学的分野、発生生物学的分野、細胞生物学的分野、幹細胞生物学的分野、または関連分野の研究ツールとして使用することができる。
【0161】
したがって、本明細書では、マウス中で対象となる1つ以上の遺伝子または1つ以上の配列の組換えを行うための方法が記載されており、ここで、前記1つ以上の遺伝子または配列は、4-ヒドロキシタモキシフェンの存在下で、Cre-ERT2融合タンパク質を発現する前記マウスの細胞群において、前記マウスの天然ゲノムに属し、前記方法は、
a)Creリコンビナーゼタンパク質の1つ以上の認識部位であって、マウスゲノムの染色体の1つ以上に位置する対象となる前記DNA配列に挿入される、前記認識部位と、4-ヒドロキシタモキシフェンの不在下または天然エストロゲンの存在下で実質的にリコンビナーゼ活性を有していないCre-ERT2融合タンパク質であって、リコンビナーゼ活性が少量の4-ヒドロキシタモキシフェンによって誘導される、Cre-ERT2融合タンパク質と、を含むマウスを提供する工程と、
b)前記マウスを式VIのプロドラッグに接触させる工程と、
c)組換えが望ましい場合、前記マウスの細胞の少なくとも一部を、式VIの化合物と反応させるためのβ-エーテラーゼ酵素と接触させる工程、4-ヒドロキシタモキシフェンを遊離させ、前記Cre-ERT2融合タンパク質の組換え活性を誘導する工程、および、遊離した4-ヒドロキシタモキシフェンの供給源であるβ-エーテラーゼ酵素の存在に局所的な特定の領域において、対象となる前記1つ以上の遺伝子または配列の組換えを得る工程、を含み、
前記組換えは、4-ヒドロキシタモキシフェンの不在下または天然エストロゲンの存在下で、Cre-ERT2融合タンパク質を発現する前記細胞において、実質的に起こらない。
【0162】
一実施形態では、β-エーテラーゼ酵素はLigFであり、式VIのプロドラッグは式VIIを有する。本発明の目的上、4-ヒドロキシタモキシフェンの不在下または天然エストロゲンの存在下で実質的に組換え活性を有さないCre-ERT2融合タンパク質は、前記融合タンパク質が10%未満の組換え活性、または5%未満、あるいはさらに1%未満の組換え活性を有することを示す。同様に、4-ヒドロキシタモキシフェンの不在下または天然エストロゲンの存在下でCre-ERT2融合タンパク質を発現する細胞において、組換えは実質的に起こらず、このことは、4-ヒドロキシタモキシフェンの不在下または天然エストロゲンの存在下で、10%未満、5%未満、または1%未満のケースで組換えが起こることも示している。
【0163】
本発明の別の実施形態は、薬剤として使用するための、式VIまたは式VIIのプロドラッグ、またはそれらの医薬組成物を指す。さらなる実施形態は、癌の処置に使用するための、式VIのプロドラッグ、好ましくは式VIIのプロドラッグを指す。好ましくは、癌は、血液の癌、B細胞白血病またはT細胞白血病、非ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫B細胞型またはT細胞型、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、リンパ腫B細胞型またはT細胞型、多発性骨髄腫、脳癌、中枢神経系(神経膠腫)のグリア血統の癌、肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、乳癌(breast cancer)、抗HER2の治療に耐性を示す乳癌、乳癌(breast carcinoma)、乳腺癌、胃と食道の癌、胃癌、胃腺癌、大腸癌、結腸癌、結腸腺癌、直腸癌、結腸直腸癌、転移性結腸癌、膵臓癌(pancreatic cancer)、膵臓癌(pancreas carcinoma)、膵臓腺癌、腎細胞癌、明細胞腎細胞癌、肝臓癌、肺癌(lung cancer)、肺癌(lung carcinoma)、肺腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、卵巣癌(ovarian cancer)、卵巣癌(ovarian carcinoma)、卵巣腺癌、卵巣癌(ovarian carcinoma)、子宮内膜癌、子宮内膜間質肉腫、子宮頸部癌、甲状腺癌、転移性甲状腺乳頭癌、濾胞性甲状腺癌、膀胱癌、尿膀胱癌、膀胱の移行上皮癌、前立腺癌(prostate cancer)、前立腺癌(prostate carcinoma)、神経内分泌癌、扁平上皮癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、胚性癌、神経芽細胞腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、腎芽細胞腫、肝芽腫、黒色腫、および皮膚癌からなる群から選択される。
【0164】
好ましくは、血液の癌は白血病、多発性骨髄腫、または骨髄異形成症候群である。好ましくは、脳癌は膠芽腫である。
【0165】
好ましい実施形態において、固形腫瘍は、乳癌、胃と食道の癌、大腸癌、膵臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、神経内分泌癌からなる群から選択される。好ましくは、皮膚癌は黒色腫である。
【0166】
本発明のさらなる実施形態は、式VIIIの7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシンのプロドラッグを指し:
【0167】
【化22】
ここで、
R
1は、H、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、アルカノイルアミノ、アルコキシ、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、N-アルキルアミノ、およびN,N-ジアルキルアミノからなる群から選択され、ならびに、
R
2とR
3はそれぞれ独立して、H、アルキル、およびハロアルキルからなる群から選択される。
【0168】
1つの実施形態は、式VIIIの7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシンのプロドラッグを指し、ここで、R1は、H、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、アルカノイルアミノ、アルコキシ、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、N-アルキルアミノ、およびN,N-ジアルキルアミノからなる群から選択され、R2はメチルであり、および、R3はHである。別の実施形態では、R1は、H、アルキル、ハロアルキル、アミノアルキル、およびヒドロキシアルキルからなる群から選択され、R2はメチルであり、および、R3はHである。
【0169】
式VII、Iのプロドラッグの好ましい実施形態では、R1はHであり、R2はメチルであり、およびR3はHであり、7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシンのプロドラッグは、式IXのプロドラッグである。
【0170】
【0171】
1つの実施形態は、有効な量の式VIIIまたは式IXのプロドラッグ、および少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を指す。
【0172】
記載されている実施形態は、薬剤として使用するための、特に癌の処置に使用するための、式VIIIまたは式IXの7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシンのプロドラッグ、またはそれらの医薬組成物を指す。好ましくは、癌は、血液の癌、B細胞白血病またはT細胞白血病、非ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫B細胞型またはT細胞型、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、リンパ腫B細胞型またはT細胞型、多発性骨髄腫、脳癌、中枢神経系(神経膠腫)のグリア血統の癌、肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、乳癌(breast cancer)、抗HER2の治療に耐性を示す乳癌、乳癌(breast carcinoma)、乳腺癌、胃と食道の癌、胃癌、胃腺癌、大腸癌、結腸癌、結腸腺癌、直腸癌、結腸直腸癌、転移性結腸癌、膵臓癌(pancreatic cancer)、膵臓癌(pancreas carcinoma)、膵臓腺癌、腎細胞癌、明細胞腎細胞癌、肝臓癌、肺癌(lung cancer)、肺癌(lung carcinoma)、肺腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、卵巣癌(ovarian cancer)、卵巣癌(ovarian carcinoma)、卵巣腺癌、卵巣癌(ovarian carcinoma)、子宮内膜癌、子宮内膜間質肉腫、子宮頸部癌、甲状腺癌、転移性甲状腺乳頭癌、濾胞性甲状腺癌、膀胱癌、尿膀胱癌、膀胱の移行上皮癌、前立腺癌(prostate cancer)、前立腺癌(prostate carcinoma)、神経内分泌癌、扁平上皮癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、胚性癌、神経芽細胞腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、腎芽細胞腫、肝芽腫、黒色腫、および皮膚癌からなる群から選択される。
【0173】
好ましくは、血液の癌は白血病、多発性骨髄腫、または骨髄異形成症候群である。好ましくは、脳癌は膠芽腫である。
【0174】
好ましい実施形態において、固形腫瘍は、乳癌、胃と食道の癌、大腸癌、膵臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、神経内分泌癌からなる群から選択される。好ましくは、皮膚癌は黒色腫である。
【0175】
式Vのプロドラッグ、特に式VI、VII、VIII、およびIXのプロドラッグのアセトバニロン由来のフラグメントは、シトクロムP450酵素などの肝酵素によって酸化および切断され得、この酵素がエーテル結合を加水分解し、それにより式VIおよびVIIのプロドラッグの場合には4-ヒドロキシタモキシフェン、式VIIIおよびIXのプロドラッグの場合には7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシンである、1つのヒドロキシルR-OHを含む薬物が提供される。一方、エーテル結合は、スフィンゴビウム属細菌(Sphingobium sp.)株SYK-6酵素LigEおよびLigF、または真菌マツノオオウズラタケ(Dichomitus squalens)Ds-GST1などの非哺乳動物由来の特定のβ-エーテラーゼによっても加水分解可能であり、これらは、式Vのプロドラッグ、特に式VI、VII、VIII、またはIXのプロドラッグと併用して投与することができる。
【0176】
特定の実施形態では、β-エーテラーゼ酵素は、前記β-エーテラーゼ酵素を発現する細胞において、細胞療法として、例えば、養子T細胞移植または樹状細胞ワクチン接種として投与される。代替的に、別の実施形態では、β-エーテラーゼ酵素は、腫瘍または間質に特異的な抗体と結合して、随意にグルタチオンとともに投与される。肺粘膜などの特定の組織は、細胞外の高いレベルのグルタチオンを含むため、グルタチオンを投与する必要はない。
【0177】
本明細書の目的上、「活性化合物」との用語は、ヒトや動物に投与する際に治療的効果を発揮する化学物質または活性原理を意味する。
【0178】
典型的な組成物は、一例として、担体または希釈剤であり得る少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤に伴って、本発明の前記化合物を含む。そのような組成物は、カプセル、小袋(sachet)、紙、または他の容器の形態であり得る。組成物を作る際に、医薬組成物を調製するための従来の技術が使用されてもよい。例えば、対象となる化合物は通常、担体と混合されるか、または担体によって希釈されるか、またはアンプル、カプセル、小袋、紙、または他の容器の形態であり得る担体内に封入される。担体は、希釈剤として働くとき、活性化合物のためのビヒクル、賦形剤、または培地として作用する固体、半固体、または液体の材料であり得る。対象となる化合物は、例えば、小袋中で粒状固体容器上に吸着され得る。適切な担体のいくつかの例は、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエトキシル化ヒマシ油、ピーナッツ油、オリーブ油、ラクトース、白土、スクロース、シクロデキストリン、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸、またはセルロースの低級アルキルエーテル、ケイ酸、脂肪酸、脂肪酸アミン、脂肪酸モノグリセリドおよびジグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドンである。同様に、担体または希釈剤は、単独で、または、ワックスと混合して、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの当該技術分野で既知の任意の徐放材料を含み得る。製剤は、湿潤剤、乳化および懸濁化剤、保存剤、甘味剤、または香味料も含み得る。本発明の製剤は、当該技術分野で周知の手順を採用することによって、患者への投与後に、有効成分の急速放出、徐放、または遅延放出をもたらすように製剤化され得る。
【0179】
医薬組成物は滅菌され、必要に応じて、活性化合物に有害に反応しない、助剤、乳化剤、浸透圧に影響を与える塩、緩衝液、および/または発色物質などと混合され得る。
【0180】
本発明の1つの好ましい実施形態は、経口、頬側、経鼻、局所、経肺、経皮、または非経口、例えば、直腸、皮下、静脈内、尿道内、筋肉内、鼻腔内、点眼液、または軟膏などの適切なまたは所望の作用部位に、対象となる化合物を有効に輸送する任意の経路であり得る投与経路ルートを指す。
【0181】
経鼻投与のために、調製物は、エアロゾル用途のために、液体担体、特に水性担体中に溶解または懸濁された対象となる化合物を含有することもある。担体は、可溶化剤などの添加剤、例えば、プロピレングリコール、界面活性剤、レシチン(ホスファチジルコリン)またはシクロデキストリンなどの吸収促進剤、あるいはパラベンなどの防腐剤を含有し得る。
【0182】
局所製剤を調製するために、対象となる化合物は、当該技術分野で知られるように、皮膚用ビヒクル(dermatological vehicle)中に置かれる。投与される対象となる化合物の量および局所製剤中の化合物の濃度は、ビヒクル、選択された送達システムまたは装置、患者の臨床症状、副作用、および製剤中の化合物の安定性に依存する。したがって、医師は、当該患者または同様の患者の臨床経験に応じて、適切な濃度の対象となる化合物を含有している適切な調製物を採用し、投与される製剤の量を選択する。
【0183】
眼への適用のために、対象となる化合物は、眼での使用に適切な溶液、懸濁液、および軟膏へと製剤化される。濃度は通常、局所調製物について上に議論された通りである。
【0184】
経口投与のために、固体または液体の単位剤形のいずれかが調製可能である。錠剤などの固形組成物の調製のために、対象となる化合物は、薬学的な希釈剤または担体として、タルク、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、硫酸カルシウム、デンプン、ラクトース、アカシア、メチルセルロース、および機能的に類似する材料などの、従来の成分と混合されて製剤化される。
【0185】
カプセルは、対象となる化合物を不活性な薬学的な希釈剤と混合し、その混合物を適切なサイズのハードゼラチンカプセルに充填することによって調製される。ソフトゼラチンカプセルは、対象となる化合物のスラリーを、許容可能な植物油、軽質の液体ワセリン、または他の不活性な油と一緒に機械でカプセル化(machine encapsulation)することで調製される。シロップ、エリキシル剤、および懸濁液などの経口投与のための流体単位剤形が調製可能である。水溶性の形態は、糖、芳香性の香味料、および防腐剤と一緒に水性ビヒクル中に溶解し、シロップを形成することができる。エリキシル剤は、芳香性の香味料と一緒に、糖およびサッカリンなどの適切な甘味料を用いて水アルコール性(例えば、エタノール)ビヒクルを使用することによって調製される。懸濁液は、アカシア、トラガカント、メチルセルロースなどの懸濁化剤を用いて、水性ビヒクルで調製され得る。
【0186】
非経口用途のための適切な製剤は、適切な注射液または懸濁液の使用などの当該技術の実務家にとって明白である。無菌である製剤は、皮膚内、筋肉内、血管内、および皮下を含む、様々な局所的なまたは非経口的な経路に適している。
【0187】
対象となる化合物に加えて、組成物は、製剤および所望の送達様式に依存して、動物またはヒトへ投与される医薬組成物を形成するために一般に使用されるビヒクルを含む、薬学的に許容可能な無毒の担体または希釈剤を含み得る。希釈剤は、組み合わせの生物活性に過度に影響を及ぼさないように選択される。
【0188】
注射可能な製剤に特に有用であるそのような希釈剤の例は、水、様々な生理食塩水、有機塩溶液または無機塩溶液、リンゲル液、デキストロース溶液、およびハンクス液である。加えて、医薬組成物または製剤は、他の担体;アジュバント;または、無毒で非治療的な非免疫原性の安定化剤などの添加剤を含み得る。
【0189】
さらに、賦形剤は製剤中に含まれ得る。例としては、共溶媒、界面活性剤、油、湿潤剤、皮膚軟化剤、防腐剤、安定化剤、および抗酸化剤が挙げられる。任意の薬理学的に許容可能な緩衝液、例えば、トリス緩衝液またはリン酸緩衝液が使用されてもよい。希釈剤、添加剤、および賦形剤の有効な量とは、溶解度または生物活性の点から、薬学的に許容可能な製剤を得るのに有効な量である。
【0190】
対象となる化合物は、ミクロスフェアに組み込まれてもよい。対象となる化合物は、アルブミンミクロスフェアに充填され得、そこから、経鼻投与のための乾燥粉末中にそのようなミクロスフェアを回収することが可能である。ミクロスフェアの調製に適した他の材料は、寒天、アルギン酸塩、キトサン、デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、アルブミン、アガロース、デキストラン、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、およびカゼインを含む。ミクロスフェアは、噴霧乾燥プロセスまたは乳化プロセスなどの当業者に既知の様々なプロセスによって生成され得る。
【0191】
例えば、アルブミンミクロスフェアは、油中水型エマルションを生成するために、リン酸緩衝液中のウサギ血清アルブミンをオリーブ油に撹拌しながら添加することによって調製可能である。その後、グルタルアルデヒド溶液は、エマルジョンに添加され、エマルジョンは撹拌されることでアルブミンを架橋結合する。その後、ミクロスフェアは、遠心分離によって単離され得、油は除去され、その球(spheres)は例えば、石油エーテルで、その後、エタノールで洗浄される。最終的に、ミクロスフェアは篩いにかけられ、濾過によって収集および乾燥され得る。
【0192】
デンプンのミクロスフェアは、エマルジョンを形成するために、例えば、ジャガイモデンプンの暖かい水性デンプン溶液を、撹拌しながら水中のポリエチレングリコールの加熱溶液に添加することによって調製可能である。二相系が(内相としてデンプン溶液とともに)形成されると、混合物は、その後、引き続き撹拌しながら室温に冷却され、そこで内相はゲル粒子に変換される。その後、これらの粒子は室温で濾過され、エタノールなどの溶媒中でスラリー化され、その後、粒子は再び濾過され、静置されて空気乾燥される。ミクロスフェアは、熱処理などの周知の橋架手順によって、または化学的架橋剤の使用によって硬化され得る。適切な薬剤は、グリオキサール、マロンジアルデヒド、コハクアルデヒド、アジプアルデヒド、グルタルアルデヒドおよびフタルアルデヒドを含むジアルデヒド、ブタジオンなどのジケトン、エピクロロヒドリン、ポリリン酸塩、およびホウ酸塩を含む。ジアルデヒドは、アミノ基との相互作用によってアルブミンなどのタンパク質を架橋結合するために使用され、ジケトンはアミノ基を有するシッフ塩基を形成する。エピクロロヒドリンは、エポキシド誘導体に対するアミノまたはヒドロキシルなどの求核試薬で化合物を活性化する。
【0193】
本発明の別の好ましい実施形態は、投薬スキームである。「単位剤形」との用語は、被験体、例えば、哺乳動物の被験体、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、およびげっ歯類のための単位投薬量として適切な物理的に別々の単位を指し、各単位は、必要とされる薬学的な希釈剤、担体、またはビヒクルによって望ましい薬学的効果を与えるように計算された活性材料のあらかじめ決められた量を含有している。本発明の単位剤形の仕様は、(a)活性材料の固有の特性と達成されるべき特定の効果、および(b)ヒトと動物で使用するためにそのような活性材料を調合する技術に固有の制限により、かつ、それらに依存して、決定される。単位剤形の例は、錠剤、カプセル、丸剤、粉末パケット、ウェーハ、坐剤、果粒剤、カシェ剤、茶さじ1杯、テーブルスプーン1杯、スポイト1杯、アンプル、バイアル、定量排出のエアロゾル(aerosols with metered discharges)、分離された複数の前述のもの、および本明細書に記載されるような他の形態である。組成物はキットに含まれることができ、キットは、組成物の1以上の単位剤形および本明細書に記載される障害の1以上の処置に使用するための説明書を含むことができる。
【0194】
多くのバイオポリマー(生物ベースの系)、リポソーム、コロイド、樹脂を利用する系、および他のポリマー送達系または仕切られたリザーバーのいずれかを含む、遅延放出または持続放出の送達系は、本明細書に記載される組成物とともに利用されて、治療化合物の継続的または長期的なソースを提供することができる。そのような遅延放出系は、局所、眼内、経口、および非経口の経路を経由する送達向けに製剤に適用可能である。
【0195】
有効な量の対象となる化合物が処置に利用される。本発明に従って使用される化合物の投与量は、化合物および処置されている状態、例えば、レシピエント患者の年齢、体重、および臨床症状に応じて様々である。他の因子は、投与経路、患者、患者の病歴、疾患プロセスの重症度、および特定の化合物の効力を含む。投与量は、患者に対して許容しがたい毒性をもたらすことなく、処置される疾患の症状または徴候を改善するのに十分でなければならない。一般に、有効な量の化合物は、主観的な症状の緩和、または、臨床医あるいは他の資格のある観察者により認められるような客観的に特定可能な改善のいずれかを提供する量である。
【実施例】
【0196】
以下に記載される本発明の実施例は、その保護範囲を制限することなく、開示された実施形態の一部を例示することを目的とする。加えて、本明細書で開示されているが、特許請求の範囲に含まれない実施形態を参照している参照例が含まれている。マウスモデルを用いたすべての実験は、バルセロナサイエンスパークの動物実験委員会(Animal Care and Use Committee of Barcelona Science Park)(CEEA-PCB)とカタルーニャ州政府の承認を得ている。マウスは、特定病原体除去(SPF:Specific-Pathogen-Free)施設内で12時間の明暗サイクルで飼育され、標準的な食事と水を自由に与えられる。すべてのマウスは、動物福祉のために注意深くモニタリングされた。
【0197】
マウス実験での化合物投与に関する一般的な情報:ガルニセルチブ(LY2157299一水和物)、式Iと式IVの化合物、および化合物338と337の分子量は、それぞれ387.4、342.4、536.7、342.4、328.4であった。したがって、対応する分子量比は、1:0.88:1.39:0.88:0.85である。以下の図と実施例に記載されているすべてのマウスの処置は、基準としてガルニセルチブの1倍用量を用いて計算されており、これは、160mg/kg/日を2回の経口投与(午前と午後の遅い時間)で分割した、すなわち、1日2回80mg/kgに相当する。したがって、式Iの化合物の1倍モル当量は1日2回70.8mg/kgであり、式IVの化合物の1倍モル当量は1日2回111.2mg/kgであり、化合物338の1倍モル当量は1日2回70.8mg/kgであり、および、化合物337の1倍モル当量は1日2回68.0mg/kgである。
【0198】
従来の化合物337(CAS No.476474-11-0)および338(CAS No.476477-67-5)は、特許WO2005094833(338と337の両方)、および、J.Med Chem.2008,51,2302(337のみを記載)に従って調製された。
【0199】
実施例1:式I、III、およびIVの化合物の合成:
すべての反応は、別段の定めのない限り、不活性雰囲気(N2)下で行った。無水THF、DCM、およびジエチルエーテルは、Innovative Technology Inc. Puresolv Solvent Purification System(SPS)から入手した。その他の無水溶媒を購入し、それ以上精製または乾燥を行うことなく使用した。
【0200】
すべての実験は、シリカゲルTLC-アルミニウムシート(Merck 60 F254)を用いて分析薄層クロマトグラフィー(TLC)でモニタリングされた。結果をUVランプ(254nmまたは365nm)で可視化し、必要に応じてKMnO4染色を用いて明らかにした。
【0201】
フラッシュカラムクロマトグラフィーは、別段の定めのない限り、CombiFlash(登録商標)(Teledyne isco)またはPuriflash 430(Interchim)のいずれかで行われた。移動相は、ヘキサン/酢酸エチルの勾配、またはジクロロメタン/メタノールの勾配のいずれかであった。精製される分子に塩基性窒素が存在する場合、カラムをヘキサン中の2.5%トリエチルアミン溶液であらかじめ調整した。
【0202】
NMR用のサンプルを、CDCl3、CD3OD、DMSO、またはD2Oのいずれかに溶解させた。
【0203】
1Hおよび13Cスペクトルは、残留溶媒のピークおよび/またはテトラメチルシランを基準にした。カップリング定数はヘルツ(Hz)で測定された。すべてのIRスペクトルは、NaClディスク上でフィルム法を用いて行われ、Thermo Nicolet Nexus Ft-IRフーリエ変換分光計に記録された。
【0204】
1.1.p-ブロモアニリンからの式Iの化合物の合成-経路(d):
p-ブロモアニリンから式Iの化合物を合成した。これはブロモがフェノールに変換された最後のステップを含んでいた:
【0205】
【0206】
6-ブロモ-4-メチルキノリン
【0207】
【0208】
室温のエタノール(200mL、10体積)中の4-ブロモアニリン(20g、117mmol)とクロラニル(34.7g、141mmol、1.2当量)の攪拌溶液に、37%塩酸(29.3mL、351mmol、3当量)を5分かけて添加した。室温で5分間撹拌した後、反応混合物を75℃に加熱し、エタノール(15mL、1体積)中に希釈したメチルビニルケトン(15.45mL、190.5mmol、1.5当量)を30分かけて反応混合物に添加した。4時間後、いかなる出発物質もTLCでは観察されなかった。反応物を60℃に冷却し、それをTHF(165mL、11体積)で希釈し、60℃で1時間撹拌した後、一晩室温になるまで冷却した。懸濁液を焼結したブフナー漏斗でろ過した。残渣をTHF(2×45mL、合計で6体積)で洗浄した後、真空オーブンで50℃で一晩乾燥させることで、茶色の固形物として表題化合物(21.1g、81%)を得た。
【0209】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ8.78(d,J=4.4Hz,1H),8.16-8.14(m,1H),7.97(d,J=9.0Hz,1H),7.77(dd,J=9.0,2.2Hz,1H),7.25(dd,J=4.4,0.9Hz,1H),2.68(d,J=0.9Hz,3H).
【0210】
13C NMR(101MHz,DMSO)δ145.76,138.20,135.96,133.04,129.21,127.79,125.12,123.25,122.18,19.24.
【0211】
6-ブロモ-4-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン
【0212】
【0213】
THF(60mL)中の6-ブロモ-4-メチルキノリン(3.70g,14.31mmol)の-78℃の撹拌溶液に、1MのNaHMDS(57mL,57mmol,4当量)を添加した。反応混合物を3時間撹拌し、その後、THF(7.4mL、2体積)中に希釈した6-メチルピコリン酸メチル(2.60g、17.17mmol、1.2当量)を30分かけて滴下した。この反応物を一晩室温に温めた後、0℃に冷却し、その後、3MのHClでpH1にした。1時間かけて室温まで温めた後、固体のNaHCO3でpH8にした。この混合物を水(50mL)で希釈し、EtOAc(1×100mL)、その後、CHCl3(1×100mL)で抽出した。結合した有機抽出物を乾燥させ(MgSO4)、蒸発させ、残渣をMeOH(30mL、8体積)から再結晶させることで、オフホワイト固形物として2-(6-ブロモキノリン-4-イル)-1-(6-メチルピリジン-2-イル)エタン-1-オン(2.57g、53%)を得た。
【0214】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ8.84(d,J=4.4Hz,1H),8.36(d,J=2.1Hz,1H),7.97(d,J=9.0Hz,1H),7.86(d,J=7.7Hz,0H),7.75(dd,J=9.0,2.2Hz,1H),7.73(t,J=7.7Hz,1H),7.43(d,J=4.4Hz,1H),7.38(d,J=8.6Hz,1H),4.96(s,1H),2.70(s,2H).
【0215】
13C NMR(101MHz,CDCl3)δ197.87,158.43,152.01,150.47,147.24,141.30,137.39,132.77,131.95,129.36,127.58,127.09,124.09,120.89,119.76,40.53,24.60.
【0216】
6-ブロモ-4-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン
【0217】
【0218】
室温のDMF(15.5mL、6体積)、トルエン(26mL、10体積)、および2,6-ルチジン(2.6mL、1体積)中の2-(6-ブロモキノリン-4-イル)-1-(6-メチルピリジン-2-イル)エタン-1-オン(2.57g、7.53mmol)の撹拌溶液に、1-アミノピロリジン-2-オン トシレート塩(tosylate salt)(2.05g、7.53mmol、1当量)を添加し、室温で5分間撹拌した。出発物質のほとんどがTLCによって消費されるまで、反応物をディーン・スターク条件下で加熱還流した。反応混合物を室温に冷却し、そこでCs2CO3(4.17g、12.8mmol、1.7当量)を充填し、再度、加熱還流した。反応をモニタリングして中間体の消失を確認し、すべてが消費されたら、反応混合物が145℃に反応するまでトルエンを蒸留し、その後室温に冷却し、水(30mL)とEtOAc(30mL)に分け、相を分離した。水相をEtOAcで抽出し(2×20mL)、結合した有機抽出物を5%LiCl水溶液で洗浄し(2×20mL)、有機層を乾燥させ(MgSO4)、蒸発させ、残渣をクロマトグラフィーにかけることで(DCM中の0-10%のMeOH)、茶色の固形物として標題化合物(2.05g、67%)を得た。
【0219】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ8.85(d,J=4.4Hz,1H),7.98(d,J=8.9Hz,1H),7.92(d,J=2.2Hz,1H),7.71(dd,J=8.9,2.2Hz,1H),7.35(t,J=7.7Hz,1H),7.31(d,J=4.4Hz,1H),7.11(d,J=7.8Hz,1H),6.92(d,J=7.6Hz,1H),4.37(t,J=7.2Hz,2H),2.90-2.84(m,2H),2.75-2.66(m,2H),2.24(s,3H).
【0220】
13C NMR(101MHz,CDCl3)δ158.22,153.60,153.24,151.25,150.22,147.11,146.66,140.88,136.29,132.50,131.34,128.72,128.66,123.03,121.77,120.20,118.86,48.33,25.98,24.19,23.15.
UPLC-MS:407 m/z[M+H]
【0221】
式Iの化合物:4-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン-6-オール
【0222】
【0223】
加熱乾燥させたフラスコに、N2下で、6-ブロモ-4-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン(200mg、0.493mmol)、Pd(dppf)Cl2(36mg、0.050mmol、0.1当量)、KOAc(145mg、1.48mmol、3当量)、およびビス(ピナコラート)ジボロン(137mg、0.542mmol、1.1当量)を添加した。その後、反応フラスコに脱気したジオキサン(5mL)を添加し、2時間100℃に加熱し、その時点で、反応物を室温に冷却し、1MのNaOH(4.93mL、4.93mmol、10当量)で希釈し、30%のH2O2(46.6μL、0.542mmol、1.1当量)を滴下した。室温でさらに2時間後、反応を1.6Mの亜硫酸ナトリウム(1mM、625μL)を用いてクエンチした。30分間撹拌した後、過酸化物の存在について反応混合物を確認し、セライト(登録商標)のパッドに通して濾過し、37%のHClを用いてpH8にした。混合物を水(5mL)で希釈し、EtOAc(3×5mL)およびクロロホルム(1×5mL)で抽出した。組み合わせた有機抽出物を乾燥させ(MgSO4)、蒸発させ、残渣をクロマトグラフィー(ヘキサン中の0~100%のEtOAc)にかけることで、表題化合物Iを得た(130mg、77%)。
【0224】
1H NMR(400 MHz,DMSO)δ9.66(s,1H),8.58(d,J=4.4Hz,1H),7.86(d,J=9.0Hz,1H),7.56(t,J=7.7Hz,1H),7.48(d,J=7.8Hz,1H),7.29-7.16(m,2H),6.96(d,J=7.5Hz,1H),6.91(d,J=2.7Hz,1H),4.27(t,J=7.2Hz,2H),2.79(t,J=6.5Hz,2H),2.69-2.55(m,2H),1.89(s,3H).
【0225】
13C NMR(101 MHz,DMSO)δ156.49,155.08,152.01,151.70,146.55,146.24,143.18,139.37,136.48,130.60,128.71,122.47,121.16,117.73,109.89,106.98,47.86,25.53,23.41,22.50.
【0226】
IR(フィルム):3412,2949,2833,1650,1618,1508,1236,1010cm-1
【0227】
1.2. p-メトキシアニリンからの式Iの化合物の合成-経路(a):
6-メトキシ-4-メチルキノリン
【0228】
【0229】
室温のエタノール(20mL)中のp-アニシジン(5g、40.6mmol)およびZnCl2(719mg、5.3mmol、0.13当量)の撹拌溶液に、FeCl3(17.45g、107.6mmol、2.65当量)を、30分かけて少しずつ添加した。反応混合物を30分間撹拌し、このとき、メチルビニルケトン(3.38mL、40.6mmol、1当量)を添加し、2時間75℃に加熱した。その後、それを室温に冷却し、0℃でNaOH(1M、220mL)に注いだ。混合物を、EtOAc(3×40mL)で抽出し、組み合わせた有機抽出物を乾燥させ(MgSO4)、蒸発させ、残渣をクロマトグラフィー(ヘキサン中の0~100%のEtOAc)にかけることで、茶色の油として表題化合物(2.88g、41%)を得た。
【0230】
1H NMR(400 MHz;CDCl3)δ8.65(d,J=4.4Hz,1H),8.02(d,J=9.2Hz,1H),7.37(dd,J=9.2,2.8Hz,1H),7.21(d,J=4.4Hz,1H),7.19(d,J=2.8Hz,1H),3.96(s,3H),2.67(s,3H).
【0231】
2-(6-メトキシキノリン-4-イル)-1-(6-メチルピリジン-2-イル)エタン-1-オン
【0232】
【0233】
-78℃のTHF(80mL)中の6-メトキシ-4-メチルキノリン(2.5g、14.4mmol)の撹拌溶液に、LDA(33.19mmol、2.3当量)を添加した。反応混合物を30分間撹拌し、このとき、メチル6-メチルピコリネート(3.27g、21.6mmol、1.5当量)を、反応混合物に30分かけて滴下した。反応物を-78℃で放置し、一晩かけて室温に温めた。その後、それを飽和NH4Cl(20ml)でクエンチし、EtOAc(40mL)で希釈し、相を分離した。水相をクロロホルム(2×50mL)で抽出し、組み合わせた有機抽出物を乾燥させ(MgSO4)、蒸発させ、残渣をクロマトグラフィー(ヘキサン中の0~100%のEtOAc)にかけることで、茶色の油として表題化合物(1.91g、51%)を得た。
【0234】
6-メトキシ-4-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン
【0235】
【化31】
室温のDMF(9.6mL、6体積)、トルエン(16mL、10体積)、および2,6-ルチジン(1.6mL、1体積)中の2-(6-メトキシキノリン-4-イル)-1-(6-メチルピリジン-2-イル)エタン-1-オン(1.60g、5.47mmol)の撹拌溶液に、1-アミノピロリジン-2-オン トシレート塩(tosylate salt)(1.49g、5.47mmol、1当量)を添加し、室温で5分間撹拌した。出発物質のほとんどがTLCによって消費されるまで、反応物をディーン・スターク条件下で加熱還流した。反応混合物を室温に冷却し、そこでCs
2CO
3(3.029g、9.299mmol、1.7当量)を充填し、5分間放置してから、再度、加熱還流した。反応物を中間体の消失についてモニタリングし、すべてが消費されると、反応物を室温に冷却し、水(50mL)とEtOAc(50mL)とに分けた。水相を抽出し(2×25mL)、組み合わせた有機抽出物を5%のLiCl水溶液(2×50mL)で洗浄し、有機層を乾燥させ(MgSO
4)、蒸発させ、残渣をクロマトグラフィーにかけた(DCM中の0~10%のMeOH)。生成物を含む画分を、少量のCHCl
3に溶解し、混合物がわずかに濁るまでヘキサンでゆっくりと希釈した。フラスコを冷蔵庫に48時間放置することで、結晶が形成された。(1.28g、67%)白色固形物として;
【0236】
1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ8.74(d,J=4.4Hz,1H),7.98(d,J=9.2Hz,1H),7.35-7.20(m,4H),6.96-6.85(m,3H),4.37(t,J=7.2Hz,2H),3.54(s,3H),2.91(br s,2H),2.75-2.65(m,2H),2.38(s,3H).
【0237】
13C NMR(101 MHz,CDCl3)δ158.62,157.67,153.65,151.83,147.66,146.69,144.89,139.90,136.43,131.17,128.25,122.41,122.22,121.93,119.50,110.50,104.00,55.52,48.46,26.19,24.58,23.32.
【0238】
HRMS(ESI):m/z[M+H]+calculated for C22H20N4O:356.1637;found:356.1639.
【0239】
式Iの化合物:4-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン-6-オール
【0240】
【0241】
室温の酢酸(5mL)中の6-メトキシ-4-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン(432mg、1.21mmol)の撹拌溶液に、HBr(5mL、44.45mmol、36.7当量)を添加した。反応混合物を、120℃で48時間撹拌してから室温に冷却し、真空中で溶媒を除去した。残渣を、水(5mL)とEtOAc(10mL)とに分離して、40%のNaOHを用いてpH8にし、相を分離し、水相をEtOAc(3×10mL)で抽出した。組み合わせた有機抽出物を乾燥させ(MgSO4)、蒸発させ、残渣を、還流するトルエンに1時間懸濁してから、1時間にわたって室温に冷却した。固形物を濾過し、真空中で乾燥させることで、オフホワイト色の固形物として化合物(328mg、79%)を得た。
【0242】
1H NMR(400 MHz,DMSO)δ9.66(s,1H),8.58(d,J=4.4Hz,1H),7.86(d,J=9.0Hz,1H),7.56(t,J=7.7Hz,1H),7.48(d,J=7.8Hz,1H),7.29-7.16(m,2H),6.96(d,J=7.5Hz,1H),6.91(d,J=2.7Hz,1H),4.27(t,J=7.2Hz,2H),2.79(t,J=6.5Hz,2H),2.69-2.55(m,2H),1.89(s,3H).
【0243】
13C NMR(101 MHz,DMSO)δ156.49,155.08,152.01,151.70,146.55,146.24,143.18,139.37,136.48,130.60,128.71,122.47,121.16,117.73,109.89,106.98,47.86,25.53,23.41,22.50.
【0244】
IR(フィルム):3412,2949,2833,1650,1618,1508,1236,1010cm-1
【0245】
HRMS(ESI):m/z[M+H]+calculated for C21H18N4O:342.1481;found:342.1480.
【0246】
1.3. 式IIIのプロドラッグの合成:
1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-2-((4-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン-6-イル)オキシ)エタン-1-オン
式Iの化合物4-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン-6-オール(42mg、0.12mmol)およびCs2CO3(134mg、0.41mmol)を、1.5mLの無水DMFに溶解し、N2atm下で、60℃で、1.5時間加熱した。その後、0.5mLの無水DMF中の4-(2-ブロモアセチル)-2-メトキシフェニルピバレートの溶液を、明るい緑色の懸濁液にカニューレを介して添加した。結果として生じる混合物を60℃で2時間撹拌した。その後、反応物を室温に冷却し、水(15mL)で希釈し、0.5mLの1MのHCl溶液でクエンチした。結果として生じる水層をEtOAc(3x20mL)で抽出し、有機層を無水MgSO4上で乾燥させ、溶媒を真空中で除去した。粗製物をカラムクロマトグラフィー(DCM中のMeOHの0~20%)を介して精製することで、茶色の油を得て、これを、1.5mLのMeOHにおいてLiOH.H2O(13mg、0.31mmol)を用いて1時間処理した。反応を1MのHCl(0.3mL)でクエンチし、水で希釈し、EtOAc(3x20mL)で抽出した。有機層を、無水MgSO4上で乾燥させ、溶媒を真空中で除去し、粗製物をクロマトグラフィーにかけることで(EtOAc中のMeOHの0~20%)、51.9mg(82%)の表題化合物を得た。
【0247】
1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ8.73(d,J=4.6Hz,1H),8.11(d,J=9.2Hz,1H),7.50(d,J=1.9Hz,1H),7.47-7.43(m,2H),7.32-7.26(m,2H),7.06-6.95(m,3H),6.89(d,J=7.6Hz,1H),4.94(bs,2H),4.27(t,J=7.3Hz,2H),3.93(s,3H),2.82(bs,2H),2.61(bs,2H),2.24(s,3H)ppm.
【0248】
13C NMR(101 MHz,CDCl3)δ192.3,158.5,156.3,153.4,152.0,151.6,147.5,147.2,146.9,144.2,141.1,136.5,130.7,128.3,127.1,123.5,122.7,122.6,122.0,119.2,114.5,110.2,110.1,105.7,70.4,56.2,48.4,26.0,24.3,23.2ppm.
【0249】
IR(フィルム):3074,2958,2925,1686,1620,1589,1509,1428,1274,1225,1198,1088cm-1.
【0250】
HRMS(ESI):m/z[M+H]+calculated for C30H27N4O4:507.2027;found:507.2016.
【0251】
Mp:162-163℃.
【0252】
1.4. 式IVのプロドラッグの合成:
4-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン-6-イル[1,4’-ビピリジン]-1’-カルボキシレート
3mLのCHCl3において、1.1で合成された式Iの化合物の溶液(47mg、0.14mmol)を調製し、N2下で、3A活性化モレキュラーシーブを含むシュレンクフラスコに移した。溶液を室温で1時間撹拌した。その後、1mLのCHCl3中の[1,4’-ビピリジン]-1’-カルボニルクロリド(32mg、0.14mmol、1当量)、Et3N(23μL、0.17mmol、1.2当量)、および4-ジメチルアミノピリジンクロリドの結晶の溶液を滴下した。結果として生じる混合物を一晩中撹拌した。いくらかの出発物質がTLCにより検出されたため、翌日、0.5mLのCHCl3中の[1,4’-ビピリジン]-1’-カルボニルクロリド(16mg、0.07mmol、0.5当量)、Et3N(12μL、0.08mmol、0.6当量)、および4-ジメチルアミノピリジンの結晶の他の溶液を反応混合物に添加し、それを一晩撹拌した。20mLのH2Oを添加することにより、反応をクエンチした。結果として生じる水層をEtOAc(3×20mL)で抽出し、MgSO4上で乾燥させ、濃縮することで粗生成物を得て、これをカラムクロマトグラフィー(DCM中の10~20%のMeOHの勾配での溶離)によって精製することで、オレンジ色の油として64mg(87%)の所望の生成物を得た。
【0253】
1H NMR(400 MHz,DMSO)δ8.80(d,J=4.4Hz,1H),8.01(d,J=9.1Hz,1H),7.56(dd,J=24.0,7.5Hz,2H),7.47(dd,J=9.1,2.6Hz,1H),7.38(d,J=4.4Hz,1H),7.28(d,J=2.6Hz,1H),6.95(d,J=7.8Hz,1H),4.27(t,J=7.2Hz,2H),4.01(dd,J=37.1,14.3Hz,2H),3.65-3.14(m,1H),2.81(d,J=16.6Hz,4H),2.61(m,3H),1.82(s,3H),1.74(d,J=10.6Hz,3H),1.44(m,10H).
【0254】
13C NMR(101 MHz,DMSO)δ156.59,152.55,151.92,151.57,149.18,148.60,147.08,145.62,141.10,136.57,130.20,127.54,124.70,122.63,121.25,117.67,116.92,109.27,61.31,49.59,47.95,25.53,23.29,22.41.
【0255】
UPLC-MS:537.8(M+H)
【0256】
1.5. 式IVのプロドラッグの塩酸塩の合成:
1-(1-(((4-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン-6-イル)オキシ)カルボニル)ピペリジン-4-イル)ピペリジン-1-イウムクロリド
式IV(65mg、0.12mmol)の化合物をDCM(1.5mL)に溶解し、ジオキサン中の0.3mL(1.21mmol)の2MのHCl溶液を用いて2時間処理した。その後、溶媒を除去して、薄いオレンジ色の固形物(70mg、100%)を得た。
【0257】
1H NMR(400 MHz,Methanol-d4)δ9.18(d,J=5.6Hz,1H),8.35(d,J=9.2Hz,1H),8.12(d,J=5.6Hz,1H),8.06(t,J=7.9Hz,1H),8.02-7.93(m,2H),7.74(d,J=7.9Hz,1H),7.28(d,J=7.9Hz,1H),4.56-4.39(m,3H),4.31-4.28(m,1H),3.59-3.56(m,2H),3.52-3.45(m,2H),3.19-2.95(m,6H),2.88(s,3H),2.85-2.81(m,1H),2.25-2.20(m,2H),2.01-1.85(m,7H),1.60-1.50(m,1H)ppm.
【0258】
13C NMR(101 MHz,Methanol-d4)δ157.0,153.3,153.2,152.2,151.0,147.2,146.1,145.5,144.9,137.62,131.4,129.3,128.0,124.6,124.5,124.1,119.5,111.0,66.9,64.6,51.4,50.4,44.3,44.0,27.5,27.2,27.1,24.5,24.2,22.9,20.1,15.5ppm.
【0259】
IR(フィルム):3411,3048,2933,2857,1716,1589,1420,1195,1020,804cm-1.
【0260】
HRMS(ESI):m/z[M+H]+calculated for C32H37N6O2:537.2973;found:537.2968.
【0261】
Mp:214-215℃.
【0262】
実施例2:インビトロのTGFβ阻害剤の活性
2.1 分子親和性および選択性のアッセイ
ALKファミリーの式Iの化合物の、Kd(解離定数)として測定された親和性を、EurofinsのKINOMEscan(商標)技術を用いることによって決定した。ALK1(ACVRL1)、ALK2(ACVR1)、ALK3(BMPR1A)、ALK4(ACVR1B)、ALK6(BMPR1B)、ACVR2B、およびTGFβR2の前での(in front of)選択性を決定した。
【0263】
KINOMEscanスクリーニングプラットフォームは、活性部位指向性(active-site directed)競争結合アッセイを利用して、試験化合物とキナーゼの間の相互作用を定量的に測定する。KINOMEscanアッセイはATPを必要とせず、これにより、真の熱力学的相互作用親和性を報告する。
【0264】
以下の3つの構成要素を組み合わせることによってアッセイを実行する:DNA標識キナーゼ;固定化リガンド;および試験化合物。固定化リガンドと競争する試験化合物の能力を、DNAタグの定量PCRを介して測定する。
【0265】
1倍の結合緩衝液(20%のSeaBlock、0.17xPBS、0.05%のTween 20、6mMのDTT)中で、キナーゼ、リガンド化親和性ビーズ、および試験化合物を組み合わせることによって、結合反応を組み立てた。100%のDMSO中の111倍のストックとして試験化合物を調製した。3つのDMSO制御点(control points)を最高濃度30μMとして、11点の3倍の化合物希釈系列を用いてKdを決定した。Kd測定のための全ての化合物を、100%のDMSOにおいて音響伝達(非接触分注)により分配する。その後、DMSOの最終濃度が0.9%となるように、化合物をアッセイに直接希釈した。全ての反応を、ポリプロピレン384ウェルプレートにおいて実行した。それぞれ0.02mlの最終体積であった。アッセイプレートを、1時間、振盪しながら室温でインキュベートし、親和性ビーズを洗浄緩衝液(1xPBS、0.05%のTween 20)で洗浄した。その後、ビーズを、溶出緩衝液(1xPBS、0.05%のTween 20、0.5μMのビオチン化されていない親和性リガンド)に再懸濁し、30分間、振盪しながら室温でインキュベートした。溶離液中のキナーゼ濃度をqPCRによって測定した。
【0266】
キナーゼ活性部位に結合し、固定化リガンドへのキナーゼ結合を直接的に(立体的に)または間接的に(アロステリックに)妨げる化合物は、固体支持体上で捕捉されるキナーゼの量を減少させるだろう。反対に、キナーゼに結合しない試験分子は、固体支持体上で捕捉されるキナーゼの量に対して効果がない。試験化合物濃度の関数として固体支持体上で捕捉されるキナーゼの量を測定することによって、試験化合物とキナーゼの相互作用の解離定数(Kd)を計算する。
【0267】
下記の表1で見られるように、式Iの化合物は、ALK5親和性がガルニセルチブよりも8.6倍強力である。比較は、同じ技術を用いたガルニセルチブの公開データを考慮に入れて行った(Jonathan M et al.,Oncotarget,2018,9(6):6659-6677)。
【0268】
【0269】
ALK5に対する、本発明の式Iの化合物、式IIおよびIVのプロドラッグ、ならびに先行技術の化合物337、338、およびガルニセルチブの、IC50として測定される酵素活性阻害を、EurofinsのKinase Profiler serviceを使用することによって決定した。
【0270】
簡潔に言うと、ヒトALK5を、8mMのMOPS(pH7.0)、0.2mMのEDTA、1mMのMnCl2、2mg/mLのカゼイン、10mMのMgAcetate、および[γ-33P-ATP](およそ500cpm/pmolの比活性、必要に応じて濃縮)とインキュベートした。MgATP混合物の添加により反応を開始した。室温での40分間のインキュベーション後、3%のリン酸溶液を添加することにより反応を止めた。その後、10μLの反応物をP30フィルターマット(filtermat)上にスポットし(spotted)、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、メタノールで1回洗浄してから乾燥させ、シンチレーション計数を行った。
【0271】
ハーフログ連続希釈を用いた9点の曲線を使用して、化合物を試験した。試験した最高濃度は10μMであった。試験化合物を100%のDMSOにおいて調製した。
【0272】
表2に示される結果は、式Iの化合物がガルニセルチブよりも2.5倍強力であることを示す。本発明の式IIIおよびIVのプロドラッグ、ならびに先行技術の化合物337および338に関する結果を、以下の同じ表に示す:
【0273】
【0274】
表2で見られるように、意外にも、式(I)の化合物は、構造的に、フェノール性ヒドロキシルの位置のみが異なる場合、参照化合物338よりも2.1倍強力であることが上記結果により示される。加えて、同様の結果が参照化合物337と比較して示され、式(I)の化合物は、参照化合物337よりも1.8倍強力であり、これらの化合物は、構造的には、フェノール性ヒドロキシルの位置と、ピリジン部分におけるメチル基の有無が異なるだけである。
【0275】
見られるように、先行技術では、TGFβ経路の阻害剤として活性をもたらす化合物のファミリーが同定されたが、驚いたことに、本発明では、置換の種類およびそのコア構造の位置が、式(I)の化合物によって示される効力の予期しない改善をもたらす鍵となることが示される。
【0276】
さらに、Liら(J.Med.Chem.2008,51(7):2302-2306)は、電子不足で比較的小さな基が6位で許容されることを開示し、これは、式(I)の化合物によって6位において特徴付けられるヒドロキシルなどの電子供与基の導入から遠ざかる教示である。
【0277】
プロドラッグに関して、式Iの化合物は、式(III)および(IV)を有する式(I)の化合物のプロドラッグと比べて、それぞれ4.7倍および12.9倍強力であり、このことにより、TGFβ阻害活性はインビトロで遮断されることが強調される。
【0278】
scanEDGE(KINOMEscan、Eurofins)アッセイを用いて、97のタンパク質のパネルに対する式Iの化合物の選択性も測定した。式の化合物の選択性プロファイルは良好であった。
【0279】
加えて、EurofinsのSafetyScreen44(商標)サービスを使用することによって、安全評価を実行した。その標的はすべて、出版物Reducing safety-related drug attrition:the use of in vitro pharmacological profiling(Bowes J et al.,Nature Review Drug Discovery 2012,11(12):909-922)において言及されるように、インビボの薬物有害反応に強く関連している。パネルは、予備的安全評価における合理的な最初の工程となる。なぜなら、上記評価は、安全域の最適化のために可能性のあるオフターゲット相互作用の早期発見を提供するものであるからである。この安全パネルは、酵素アッセイおよび結合アッセイの両方を含む。10μMの式Iの化合物の阻害のパーセントは、試験された全てのタンパク質で50%未満であった。ALK5(20nM)に対する化合物の結合親和性を考慮に入れると、SafetyScreen44パネルにおけるタンパク質の選択比は500倍を超える。
【0280】
2.2. インビトロのルシフェラーゼアッセイ
HEK293T細胞をATCCから購入し、37℃および5%のCO2で、L-グルタミンおよび10%のウシ胎仔血清(Life Technologies)によって補足されたDMEM中で培養した。細胞を、24ウェルプレートに播種し、トランスフェクション試薬としてポリエチレンイミン(Polysciences)を用いて、12xCAGA-Firefly_LucおよびTk-Renilla_Luc(1つのウェル当たりそれぞれ75ngおよび10ng)をコードするプラスミドを用いてトランスフェクトした。7時間後、培地を飢餓培地(starvation medium)(DMEM+0.05%のFBS)に交換した。次の日、細胞を、ガルニセルチブ、(示されるように)103倍~108倍の間に希釈されたDMSO中の10mMのストック溶液からの式Iの化合物、式IIIのプロドラッグ化合物、および式IVの化合物、ならびに5ng/mlの組換えヒトTGFB1(Peprotech)で処理した。16時間後、ルシフェラーゼ活性を、Dual Luciferase Assay kit(Promega)を用いて測定し:培地を吸引し、細胞を200μlの受動溶解緩衝液(passive lysis buffer)(キット)に20分間溶解した。生物発光を、Berthold Lumat LB6507-ルミノメーターで測定した(18μlの試薬、10秒測定)。
【0281】
TGβが受容体に結合すると、TGFBR1のリン酸化が起こり、それによりSMAD2/3がリン酸化され、その後、SMAD4と複合体を形成して、核に進入する。その後、SMAD2/3-SMAD4複合体はプロモーター(または、TGF-β応答エレメント)に結合し、様々な補助因子を用いて、下流遺伝子、またはルシフェラーゼレポーターの転写を可能にする。
【0282】
細胞溶解物にルシフェラーゼ基質(ルシフェリン)を添加すると、光の放出により、pSMAD2/3-SMAD4の産生による活性なTGF-β経路が示唆されるが、光がまったくまたはほとんど観察されない場合は、阻害剤による上記経路の阻害が示唆される。最後に、Stop&Glo(登録商標)を添加することによって結果を正規化することができ、Stop&Glo(登録商標)は、ホタルルシフェラーゼ酵素/基質を消光し、かつウミシイタケトランスフェクション制御を活性化して光を生成するものであり、この光を、ルミノメーターで再び測定してデータを正規化するために使用した。
【0283】
図1は、式Iの化合物のTGFβシグナル伝達阻害能力が、ガルニセルチブの2倍を超えて大きいことを示し、すなわち、検出されたガルニセルチブのIC
50値は359nMであり、式Iの化合物では165nMであり、一方、式Iの化合物と比較して、式Iの化合物、式IIIの化合物、および式IVの化合物のプロドラッグは、最大8倍低いTGFβシグナル伝達阻害能力を有していた。このことは、TGFβシグナル伝達阻害能力が、その特異的な構造的特徴のために、式Iの化合物において強く、さらには、プロドラッグ、式IIIの化合物および式IVの化合物を得るために行った修飾により、TGFβシグナル伝達阻活性が成功裡に閉じ込められおよび遮断されることを意味する。
【0284】
実施例3:インビボ試験におけるTGFβ阻害剤
マウス腫瘍オルガノイド(MTO)は、C57BL6/J株の複合トランスジェニックマウス(compound transgenic mice)(Apc、Kras、Trp53、およびTgfbr2の条件突然変異、ならびにLgr5-EGFP/CreERT2を有する)に由来し、Tauriello et al.2018 Nature 554(7693):538-543.doi:10.1038/nature25492に記載されるように培養した。オルガノイドは、典型的には、内腔を有するスフェロイドとしての器官型構造を採用する、3次元マトリックスにおいて成長させた腫瘍上皮細胞である。このように、細胞は比較的正常な極性(このことは、外側の表面、内側/管腔側の表面、および細胞間の接触が別々に特定化されることを意味する)を保持し、これは、従来の2次元の細胞培養よりも生理学的である。さらに、これらのオルガノイドは、豊富で腫瘍形成促進性(すなわち、TGFβリッチ)の間質の動員を含む、ヒトの癌を再現する複雑な腫瘍構造を再構築することができる(つまり、上に記載されていない、ヒトのような腫瘍を移植し、肝転移を研究するシステムである)。
【0285】
インビボの抗癌効果およびTGFβ阻害剤試験のために、6週齢のC57BL/6JマウスをJanvierから購入し、7~8週齢で注射した。MTOをトリプシン処理し(マトリックスを消化し、オルガノイドを単細胞へと分解し)、計数し、HBSS(ハンクス平衡塩類溶液、Lonza)で300,000の細胞を脾臓に注射し、したがって、肝臓と腸とをつなぐ門脈に細胞を直接送達した。本発明に記載されるすべての実験において、MTO129を使用した(Tauriello et al.Nature.2018)。
【0286】
ミリQ水中の1%のカルボキシメチルセルロースナトリウム(Sigma)、0.4%のドデシル硫酸ナトリウム(Sigma)、0.085%のポリビニルピロリドン、0.05%の消泡剤-A(Sigma)中の4~120mg/mlの懸濁液を用いた胃管栄養法(経管栄養法)によって、化合物(式Iの化合物およびガルニセルチブ)による処置を行った。マウスを、150μlで1日2回、14日間処置するか、またはエンドポイントまで処置した。
【0287】
MTO移植から2週間後に処置を開始し、3日間継続してから屠殺したマウスにおいて、バイオマーカー上の治療効果を評価した。4μmの組織切片を、当該技術分野で周知の手順を利用して、リン酸化されたSMAD2(Cell Signaling、3108)に特異的な抗体を用いた免疫組織化学によって染色した。
図2は、矢印で示される、対照で処置されたマウス(ビヒクル)におけるホスホ-SMAD2陽性の細胞核を示すが、ガルニセルチブ、または式Iの化合物あるいはそのプロドラッグ、式IVの化合物で処理されたマウスでは示されない。
【0288】
図3は、異なる投与量(マウスに対する一般的なガルニセルチブ投与量80mg/kg1日2回の0.3倍、1倍、3倍、および9倍のモル当量であり、これは、平均重量が25gであると仮定すると、1匹のマウス当たり2mgに換算される)での、式Iの化合物およびガルニセルチブの肝腫瘍数(LiM)を示す。マウス、特に、転移性大腸癌マウスにおいて、ガルニセルチブは、標準的な160mg/kg/日の1倍の投与量では有効ではなく;上述のMTO論文(Tauriello et al.Nature et al.2018)では、転移性癌を効果的に処置するために、最大1600mg/kg/日(10倍)の投与量を使用する必要があった。しかし、上記投与量は結果として毒性(心臓毒性、筋組織および軟骨の欠損、骨の発達、および皮膚ならびに腸における炎症反応の変化)をもたらす可能性がある。患者では、処置投与量を、14日間投与し14日間投与しないレジメンで、80~150mg、1日2回に減らした。
図3に示されるように、式Iの化合物は、ガルニセルチブと比較して、有意に少ない量の肝腫瘍を結果としてもたらした。
【0289】
ルシフェラーゼレポーターを発現するMTOを、50μlの15mg/mlのD-ルシフェリンカリウム塩(Resem BV)の後眼窩注射を用いて、生物発光イメージングによって測定した。胸部/腹部にまたがる領域からの1秒あたりの光子を、注射当日に定量化し、測定値に対して正規化した。
図4は、12日間の処置の間(3日目から14日目まで)の様々な投与量(80mg/kgで1日2回のマウス投与量、すなわち、160mg/kg/日の0.3倍、1倍、3倍、および9倍)での、式Iの化合物およびガルニセルチブの転移性腫瘍の発育阻害能力を示す。
図4で見られるように、1倍の投与量(160mg/kg/日のマウス投与量)は、ガルニセルチブでは有効でなく、ほとんどの場合で有効にするためには3倍の投与量(480mg/kg/日に相当する)に増やす必要があった(
図3で見られるように、9倍の投与量である1440mg/kg/日が非常に効果的であった)が、式Iの化合物は、0.3倍の投与量(42.5mg/kg/日に相当する;これは、式Iの化合物の分子量が342.4であり、および、ガルニセルチブの分子量が387.4であるため、0.88:1の式Iとガルニセルチブ一水和物の分子量比について補正した後のものである)のモル当量で効果的であり、驚くほど強力に改善されたインビボの抗腫瘍活性を示した。
【0290】
実施例4:毒性評価
毒性に関連することが多いタンパク質に関する安全評価については、実施例2.1のSafetyScreen44アッセイを参照する。
【0291】
式Iの化合物の毒性をインビトロで評価するために、HEK293T細胞を96ウェルプレートに播種し、示される化合物で24時間処置した。DMSOを対照として使用した。式Iの化合物またはガルニセルチブを、1~100μMの範囲の様々な濃度で添加した。測定の4時間前にインキュベートし、製造者の指示に従って、XTTアッセイ(Biological Industries)によって細胞の生存率を評価した。細胞の生存率は、100μMで64%および30μMで93%であり(
図5)、特に、式Iの化合物のALK5の阻害のIC
50値がnM範囲内であることを考慮すると、生理学的レベルで非常に低い毒性を示した。
【0292】
インビボの毒性評価のために、マウスにMTO129を接種し、
図3で記載されているように、2週間にわたってガルニセルチブおよび式Iの化合物の様々なモル当量の投与量で処置した。治癒したマウス、すなわち実験的なエンドポイントで転移がないマウスの数をスコア化した。これらのマウスの腸、皮膚試料、心臓、胸郭骨、および四肢を、10%の緩衝化ホルマリンリン酸塩(Sigma)において固定した。軟組織を、パラフィンブロックに埋め込み、区分し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。骨格を、最初に2週間脱灰してから、埋め込み、区分し、染色した。経験豊富な病理医が、組織病理学異常について組織を分析した。肉眼で明らかな漏斗胸表現型(pectus excavatum phenotype)(胸骨中に陥没した)が、胸肋軟骨領域(胸骨と肋骨との間に存在する軟骨)における欠損に関連することがわかった。さらに、長骨の末端にある軟骨の骨化部位を、肥大部位(hypertrophic zone)の欠損について分析した。病理学的異常は、ガルニセルチブまたは式Iの化合物のいずれかの1倍の投与量を用いた皮膚および腸管の分析では観察されなかった。
【0293】
【0294】
ガルニセルチブは、3倍の用量当量(480mg/kg/日)から有効であり(>50%の有効性)、9倍の用量当量(1440mg/kg/日)で有毒であった(毒性>50%)。式Iの化合物は、0.3倍の用量当量(42.5mg/kg/日)で有効であり、9倍の用量当量(1272mg/kg/日)で有毒であった(毒性>50%)。
【0295】
これに基づいて、ガルニセルチブと比較した、式Iの化合物の治療指数(中毒量/有効量の比)を算出することができる。
【0296】
ガルニセルチブの治療指数=9/3=3。式Iの化合物の治療指数=9/0.3=30。この結果により、式Iの化合物が、ガルニセルチブと比較して少なくとも10倍の改善をもたらすことが示される。
【0297】
実施例5:式VIIのプロドラッグの合成:
4-ヒドロキシタモキシフェンにアセトバニロン(acetovanillone)-フラグメントをカップリングするために、最初に、市販のアセトバニロンから出発して、ハロゲン化アセトバニロンフラグメントを合成した。
【0298】
1-(4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシフェニル)エタン-1-オン
【0299】
【0300】
室温のDMF(120mL)のアセトバニロン(6g、36.1mmol)の撹拌溶液に、K2CO3(7.48g、54.15mmol、1.5当量)を、その後、臭化ベンジル(4.66mL、38.99mmol、1.08当量)を滴下した。反応混合物を40℃で14時間撹拌してから室温に冷却し、1Lの水/氷の混合物に注ぎ、10分間撹拌した。その後、懸濁液を、真空下でブフナー漏斗を使用して濾過し、固形物を0℃の水(3×70mL)ですすいでから、ブフナー漏斗内で、真空下で1時間放置した。その後、固形物を丸底フラスコに移し、高真空ライン上で恒量になるまで乾燥させることで、8.99g(97%の収率)の表題化合物を得た。(C.Miesch,T.Emrick,J.Colloid Interface Sci.2014,425,152-8).
【0301】
1H NMR(400 MHz,Chloroform-d)δ7.55(d,J=2.0Hz,1H),7.50(dd,J=8.4,2.0Hz,1H),7.43(dd,J=8.2,1.4Hz,2H),7.38(m,2H),7.34-7.29(m,1H),6.91-6.87(m,1H),5.23(s,2H),3.94(s,3H),2.55(s,3H).
【0302】
1-(4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシフェニル)-2-ブロモエタン-1-オン(5-8a)
【0303】
【0304】
上で得られた、60℃のEtOH(150mL)中の1-(4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシフェニル)エタン-1-オン(7.86g、30.69mmol)の撹拌溶液に、臭素(4.90g、30.69mmol、1当量)を添加した。反応混合物を6時間撹拌してから、一晩かけてゆっくりと室温に冷却した。午前に、反応混合物を0℃に冷却し、1時間撹拌した。その後、それをガラス製ブフナー漏斗を介して濾過し、冷EtOH(2×30mL)で洗浄し、その後、高真空ライン上で乾燥させた。これにより、表題化合物(7.25g、71%)を1H NMRにより純粋な白色固形物として得た。
【0305】
1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ7.58-7.49(m,2H),7.46-7.29(m,5H),6.92(d,J=8.4Hz,1H),5.25(s,2H),4.39(s,2H),3.95(s,3H).
【0306】
4,4’-(2-フェニルブト-1-エン-1,1-ジイル)ジフェノール(CAS No.4120-45-0)から出発した、式VIIのプロドラッグの合成が、スキームVIIIにおいて以下のように例示される:
【0307】
【0308】
3-(4-(1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニルブト-1-エン-1-イル)フェノキシ)プロパン-1,2-ジオール(5-46)
【0309】
【0310】
密封フラスコ内で、ジオール5-43(1.6g、5.06mmol)の溶液に、EtOH(24mL)中のNEt3(0.706mL、5.06mmol、1当量)およびグリシドール(0.301mL、4.55mmol、0.9当量)を添加し、一晩かけて最大80℃に加熱した。午前に、反応混合物を室温に冷却し、真空中で溶媒を除去した。残渣をEtOAc(40mL)と飽和塩化アンモニウム(40mL)とに分けてから、有機層をMgSO4上で乾燥させ、真空中で乾燥するまで濃縮した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、濃い無色の油(735mg、37.2%の収率)として表題化合物を得た。
【0311】
1H NMR(400 MHz,cd3od)δ7.19-7.06(m,1H),7.04(d,J=8.4Hz,1H),6.96(t,J=5.7Hz,1H),6.82-6.74(m,1H),6.67(d,J=8.5Hz,1H),6.62-6.55(m,1H),6.42(d,J=8.5Hz,1H),4.13-3.80(m,1H),3.79-3.53(m,1H),2.49(p,J=7.5Hz,1H),0.92(t,J=7.4Hz,1H).
【0312】
13C NMR(101 MHz,cd3od)δ159.14,158.29,157.25,156.36,144.11,144.10,141.99,141.80,139.74,139.71,137.87,137.50,136.34,135.98,133.02,133.00,131.57,130.89,130.87,128.84,126.94,115.84,115.18,115.09,114.35,71.84,71.76,70.34,70.08,64.21,64.14,29.89,29.85,13.94.**二重結合はシス異性体およびトランス異性体の1:1混合物であるという事実、および、使用されたグリシドールはラセミ体であるという事実により、予想よりも多くの炭素がある。これはジアステレオマーによるものである。**
【0313】
4-(1-(4-((2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メトキシ)フェニル)-2-フェニルブト-1-エン-1-イル)フェノール(5-49)
【0314】
【0315】
5-46(106mg、0.271mmol)の溶液をN2下でフラスコに添加し、室温でアセトン(3mL)に溶解し、p-TSA(7.7mg、0.040mmol、0.15当量)および2,2-ジメトキシプロパン(66μL、542mmol、2当量)を50℃で添加し、5時間反応させた。TLCによりすべての出発物質が消失すると、反応混合物を室温に冷却し、それを10%のNaHCO3(2mL)およびEtOAc(6mL)で希釈し、相を分離し、水層をEtOAc(2×6mL)で抽出し、有機層を組み合わせ、MgSO4上で乾燥させてから、真空中で濃縮した。その後、残渣をシリカを介して精製し、無色の油として表題化合物(102mg、87%の収率)を得た。
【0316】
1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ7.19-7.04(m,7H),6.92-6.83(m,1H),6.82-6.69(m,3H),6.56-6.52(m,1H),6.48-6.44(m,1H),4.96(s,0.5H),4.70(s,0.5H),4.54-3.77(m,5H),2.52-2.42(m,2H),1.49-1.34(m,6H),0.92(t,J=7.4Hz,3H).
【0317】
13C NMR(101 MHz,CDCl3)δ157.20,156.37,154.22,153.41,142.53,141.20,141.16,137.63,137.61,136.69,136.33,136.23,135.89,132.09,131.92,130.76,130.59,129.67,127.83,127.81,125.92,114.93,114.23,114.04,113.29,109.79,109.69,74.03,73.98,68.71,68.42,66.89,66.80,29.01,29.00,26.79,26.73,25.37,25.34,13.59.
【0318】
**二重結合はシス異性体およびトランス異性体の1:1混合物であるとういう事実、および、使用されたグリシドールがラセミ体であるという事実により、予想より多くの炭素がある。これはジアステレオマーによるものである。
【0319】
IR(フィルム):3400、2920、2851、1722、1673、1598、1496、1273cm-1
【0320】
HRMS(ESI):m/z(M+H) calculated for C28H30O4:430.2144;found:430.2143.
【0321】
1-(4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシフェニル)-2-(4-(1-(4-((2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メトキシ)フェニル)-2-フェニルブト-1-エン-1-イル)フェノキシ)エタン-1-オン(5-50)
【0322】
【0323】
アセトン(15mL)中の5-49(500mg、1.16mmol、1当量)の撹拌溶液に、K2CO3(321mg、2.32mmol、2当量)を添加し、その後、アルファブロモケトン5-8a(582mg、1.74mmol、1.5当量)を添加し、それを室温で一晩撹拌した。翌朝、溶媒を真空中で除去し、その後、それをEtOAc(50mL)および水(30mL)で希釈した。相を分離し、水層をEtOAc(2×20mL)で抽出し、有機層を組み合わせ、MgSO4上で乾燥させてから、真空中で濃縮した。その後、残渣をシリカを介して精製し、無色の油として表題化合物(737mg、92.7%の収率)を得た。
【0324】
1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ7.61-7.27(m,7H),7.19-6.84(m,10H),6.78-6.71(m,2H),6.59-6.50(m,2H),5.30-5.05(m,4H),4.53-4.34(m,1H),4.22-4.02(m,1H),3.99-3.86(m,5jH),3.85-3.74(m,1H),2.46(q,J=7.5Hz,2H),1.49-1.34(m,6H),0.91(td,J=7.3,1.0Hz,3H).
【0325】
13C NMR(101 MHz,CDCl3)δ193.25,193.20,157.39,156.98,156.55,156.15,153.18,153.05,149.91,149.82,142.62,142.58,141.53,141.48,137.66,137.23,136.76,136.73,136.26,136.23,132.10,132.07,130.78,130.75,129.80,128.86,128.84,128.32,128.30,128.13,128.12,127.98,127.31,127.30,126.09,122.75,122.68,114.53,114.20,113.79,113.45,112.38,112.32,110.94,110.91,109.88,109.78,74.17,74.12,70.98,70.95,70.91,70.78,68.89,68.60,67.06,66.97,56.27,56.23,29.19,29.14,26.98,26.89,25.52,25.50,13.74,13.73.
【0326】
**二重結合はシス異性体およびトランス異性体の1:1混合物であるという事実、および、使用したグリシドールがラセミ体であるという事実により、予想より多くの炭素がある。これはジアステレオマーによるものである。**
【0327】
UPLC-MS:685.9(M+H)
【0328】
1-(4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシフェニル)-2-(4-(1-(4-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)フェニル)-2-フェニルブト-1-エン-1-イル)フェノキシ)エタン-1-オン(5-51)
【0329】
【0330】
上記の5-50(634mg、1.09mmol)の撹拌溶液に、6:1のTHF:水(20mL)に溶解し、2MのHCl(2mL)を室温で添加した。反応をTLCによって追跡し、すべてのSMが消費されたときに、10%のNaHCO3(10mL)でクエンチした。反応混合物をEtOAcで希釈し、相を分離し、水相をEtOAc(5mL)およびクロロホルム(5mL)で抽出した。組み合わせた有機抽出物をMgSO4上で乾燥させてから、真空中で濃縮した。その後、残渣を、シリカ(MeOH/DCM)を介して精製し、無色の油として表題化合物(527mg、89%の収率)を得た。
【0331】
1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ7.61-7.30(m,7H),7.19-7.05(m,7H),6.95-6.85(m,3H),6.79-6.72(m,2H),6.59-6.51(m,2H),5.26-5.02(m,4H),4.23-3.53(m,8H),2.50-2.40(m,2H),0.91(td,J=7.3,1.1Hz,3H).
【0332】
2-(4-(1-(4-(2-(4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシフェニル)-2-オキソエトキシ)フェニル)-2-フェニルブト-1-エン-1-イル)フェノキシ)アセトアルデヒド(5-52)
【0333】
【0334】
DCM(7mL)中の上記5-51(250mg、0.388mmol)の撹拌溶液に、水(2mL)中のNaIO4(249mg、1.16mmol、3当量)を室温で添加した。反応物を勢いよく3時間撹拌し、ほとんどの出発物質が消費された。ブライン(4mL)で希釈してから、相を分離した。有機相を乾燥させ(MgSO4)、溶媒を真空中で除去してから、フラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製することで、無色の油(155mg、63%の収率)として表題化合物を得た。
【0335】
1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ9.88(br s,0.5H),9.77(br s,0.5H),7.62-7.28(m,7H),7.20-7.05(m,7H),6.94-6.84(m,3H),6.81-6.70(m,2H),6.60-6.49(m,2H),5.33-4.98(m,4H),3.93(d,J=14.5Hz,4H),2.51-2.38(m,2H),0.92(dt,J=8.5,4.2Hz,3H).
【0336】
1-(4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシフェニル)-2-(4-(1-(4-(2-(ジメチルアミノ)エトキシ)フェニル)-2-フェニルブト-1-エン-1-イル)フェノキシ)エタン-1-オン(5-54)
【0337】
【0338】
THF(15mL)中の5-52(143mg、0.233mmol、1当量)の撹拌溶液に、N2下で、THF(0.175mL、0.350mmol、1.5当量)中のジメチルアミンの2Mの溶液を室温で添加し、その後、Na(AcO)3BH(75mg、0.700mmol、3当量)を少しずつ添加した。反応を5時間反応させ、その時点で、TLCによって目に見えるSMはなかった。その後、反応混合物をブライン(3mL)およびEtOAc(10mL)で希釈し、相を15分間撹拌してから分離した。水相をEtOAc(2×10mL)およびクロロホルム(1×10mL)で抽出し、有機抽出物を組み合わせて乾燥し(MgSO4)、溶媒を真空中で除去した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH-0~15%)によって精製して、濃い油(93mg、62%の収率)として表題化合物を得た。
【0339】
1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ7.62-7.55(m,1H),7.55-7.48(m,1H),7.46-7.28(m,5H),7.21-7.06(m,7H),6.94-6.81(m,3H),6.78-6.71(m,2H),6.59-6.45(m,2H),5.24(s,1H),5.22(s,2H),5.06(s,1H),4.26(t,J=5.1Hz,1H),4.11-4.07(m,1H),3.95(s,1.5H),3.91(s,1.5H),3.11(dt,J=36.9,4.3Hz,2H),2.63(s,3H),2.57(s,3H),2.46(q,J=6.7Hz,2H),0.91(td,J=7.4,1.8Hz,3H).
【0340】
2-(4-(1-(4-(2-(ジメチルアミノ)エトキシ)フェニル)-2-フェニルブト-1-エン-1-イル)フェノキシ)-1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)エタン-1-オン(式VIIのプロドラッグ)
【0341】
【0342】
脱気した10%のMeOH/EtOAc(12mL)中の5-54(94mg、0.146mmol)の撹拌溶液に、Pd/C(9mg)を室温で添加した。N2雰囲気を、H2のバルーンと真空を用いて、3回のサイクルでH2雰囲気に置き換えた。反応をTLCによって追跡し、SMが消費されると、雰囲気をN2と置き換え、5分間パージした。反応混合物をセライトに通して濾過し、溶媒を除去した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH-勾配)によって精製することで、濃い油(74mg、92%の収率)として表題化合物を得た。
【0343】
1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ7.65-7.58(m,1H),7.55-7.50(m,1H),7.17-7.05(m,7H),7.00-6.86(m,3H),6.79-6.71(m,2H),6.59-6.51(m,2H),5.23(s,1H),5.07(s,1H),4.14(t,J=5.6Hz,1H),4.01-3.93(m,4H),2.86(t,J=5.6Hz,1H),2.77(t,J=5.4Hz,1H),2.50-2.40(m,5H),2.38(s,3H),0.91(td,J=7.4,2.0Hz,3H).
【0344】
実施例6:LigF酵素アッセイ
6.1 4-メチルウンベリフェロンアセトバニロンの合成
4-メチルウンベリフェロン(4-MU)誘導体は既知の化合物である。MUAVの合成は、以下のように例示することができる:
【0345】
【0346】
7-(2-(4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシフェニル)-2-オキソエトキシ)-4-メチル-2H-クロメン-2-オン(5-4b)
【0347】
【0348】
25℃のアセトン(30mL)中の4-メチルウンベリフェロン I(400mg、2.27mmol)の撹拌溶液に、1-(4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシフェニル)-2-ブロモエタン-1-オン(実施例5で合成された5-8a)(967mg、2.72mmol、1.2当量)を添加した。反応混合物を16時間撹拌してから濾過し、固形の残渣をアセトン(2×30mL)で洗浄した。その後、溶媒を減圧下で除去してから、トルエンに懸濁し、溶液が形成されるまで加熱した。その後、フラスコを90分間かけて室温に冷却し、それを濾過し、冷トルエン(10mL)で洗浄し、高真空ライン上で乾燥させた。これにより、白色固形物(801mg、82%)として表題化合物を得た。
【0349】
1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ7.57-7.30(m,8H),6.94(d,J=4.5Hz,2H),6.78(d,J=2.5Hz,1H),6.14(d,J=1.2Hz,1H),5.31(s,2H),5.26(s,2H),3.95(s,3H).
【0350】
7-(2-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-2-オキソエトキシ)-4-メチル-2H-クロメン-2-オン(5-4a)
【0351】
【0352】
圧力反応器に、脱気した10%のMeOH/EtOAc(10mL)中の5-4b(500mg、1.16mmol)および10%のPd/C(25mg、smの質量に対して5%)を室温で添加した。上記反応器に1バール(g)の水素を入れ、圧力に耐えることができる適切なニードルを用いて試料を採取することによって、反応をTLCによって追跡した。4時間後、出発物質が消費された。水素を反応器から放出し、3回の真空-窒素サイクルにより窒素と置き換えた。反応混合物をCHCl3(20mL)で希釈し、セライトに通して濾過した。濾液を減圧下で濃縮した。粗製物をクロマトグラフィーにかけ(0~10%のMeOH:DCM)、白色固形物として表題化合物5-4a(307mg、78%)を得た。
【0353】
1H NMR(400 MHz,Chloroform-d)δ7.59-7.55(m,2H),7.51(d,J=8.8Hz,1H),7.00(d,J=8.1Hz,1H),6.94(dd,J=8.8,2.6Hz,1H),6.79(d,J=2.6Hz,1H),6.18(br s,1H),6.14(d,J=1.2Hz,1H),5.33(s,2H),3.97(s,3H),2.39(d,J=1.2Hz,3H).
【0354】
6.2 インビトロの酵素蛍光アッセイ(enzymatic fluorescence assays)
一般的に、式IIIの化合物、式Iの化合物のプロドラッグ、式VIIの化合物、4-ヒドロキシタモキシフェンのプロドラッグ、および式IXの化合物、SN-38のプロドラッグを含む、式IIおよび式Vのプロドラッグのエーテル結合の切断の動態(kinetics)を研究するために、および、認識フラグメントの酵素の選択性を理解するために、蛍光化合物である蛍光4-メチルウンベリフェロンをモデル化合物として使用した。
【0355】
【0356】
LigFの酵素活性を試験するために、IRB Barcelona内のProtein Expression Core Facilityにより、Hisタグ付きLigF DNAをpOPINFベクトルに挿入することによって、純粋なLigFタンパク質を発現させ、大腸菌BL21(DE3)Rosetta lysS細胞中で発現させた。発現および溶解後、ニッケルカラムを用いることによってタンパク質を精製し、ゲル濾過を行った。注目すべきことには、Hisタグは、精製後にタンパク質から取り除かれなかった。
【0357】
インビトロの蛍光アッセイのために、精製したLigFを、20mMのTris-HCl(pH7.5)中で15μg/mlに希釈し、1mMのグルタチオンおよび30μMの4-メチルウンベリフェロンアセトバニロン(MUAV)モデル化合物を添加した。
【0358】
96ウェル固形ポリスチレンプレート(Corning)において反応を実行し、トップウェルプレートリーダー(BioTek FL600蛍光光度計)を用いて、励起360、放射485、および感度100で測定した。
【0359】
化合物MUAVのβエーテル結合の切断に起因する4-メチルウンベリフェロン(4-MU)の急速な産生ゆえに、マサイ(E.Masai et al.,J.Bacteriol.2003,185,1768-75)によって記載されるプロトコルを、LigF酵素濃度を下げることによって変更した。この最適化されたプロトコルを用いて、化合物MUAVを、緩衝剤、グルタチオン(GSH)、およびLigFの存在下で、室温でインキュベートし、蛍光により4-MUの産生を観察することによって、切断を観察した。GSH、LigF、およびMUAVを含有しないウェルを含む適切な対照により、エーテル結合がアッセイ条件下で分解しておらず、かつ酵素活性が必要であったことが示された。酵素LigFは、およそ30~40分で生成物MUAVを切断した(
図6)。
【0360】
細胞培養におけるアッセイでは、細胞を安定して形質導入して、pLenti PGK puroベクター、ならびにパッケージングプラスミドpCAG-RTR2、pCAG-VSVG、およびpCAG-KGP1Rによるレンチウイルス感染によってLigFを発現させた。1μg/mlのプロマイシン(InvivoGen)による選択後、感染細胞を24ウェルプレートに播種し、4-メチルウンベリフェロン アセトバニロン(MUAV)を添加した。MUAVの様々な濃度(すなわち、10、30、および100μM)の添加後の時点で、培地を採取して4-MU蛍光の測定を行った。
【0361】
図7は、細胞により発現されたLigFによって、MUAVのエーテル結合が実際に切断されたことを示し、これは、蛍光における用量依存性の増大によって示される。対照実験(100μMで処理された空ベクター(および、LigFではない)を発現するHEK293T細胞)において切断は観察されなかった。これらの実験により、LigFが哺乳動物細胞の内部で活性を有していること、および、少なくとも試験した細胞において、βエーテル結合を切断することができる酵素が他にないことが示された。
【0362】
6.3. 式VIIのプロドラッグのインビトロでのLigFアッセイ
LigFおよびアセトバニロン由来のプロドラッグを用いたインビトロの酵素アッセイのさらなる試験のために、式VIIの化合物である4-ヒドロキシタモキシフェンのプロドラッグを使用した。
【0363】
5.2でのインビトロのアッセイと同様に、式VIIの化合物を、DMSO中の30mMのストック溶液から20mMのTris-HCl(pH7.5)中の50μMへと希釈し、1mMのグルタチオンおよび15μg/mlのLigFを添加した。しかし、反応混合物を37℃でインキュベートしたところ、HPLC-MS/MSを使用した読み取り値は異なっていた。反応試料と、標準としての酵素およびZ-4-OHT(4-ヒドロキシタモキシフェン)のない対照試料とを、MeOH中で2:3に希釈し、2μlをBioBasic C18カラム(5μm、2.1x150mm、Thermo;Thermo EC Finnigan Mod Micro AS autosamplesおよびThermo EC Quarternary pump、Finnigan Mod. Surveyor MS chromatographを使用)上に、水-MeOH勾配(30分で60~90%のMeOH;5分で90~100%;100μl/分の流量)で注入した。チップ技術によるナノエレクトロスプレーを実行するnanoESI sourceとしてAdvion Triversa Nanomate(Advion BioSciences,Ithaca,NY,USA)を使用して、LC-MSカップリングを実施した。Nanomateを、LTQ-FT Ultra質量分析計に取り付け、正のモード(positive mode)で、1.7kVのスプレー電圧および0.5psiの吐出圧力で動作した。
【0364】
LTQ-FT Ultra(Thermo Scientif)質量分析計において、40Vのキャピラリー電圧および120Vのチューブレンズ電圧を用いて解析を実行した。MS/MSを、データ依存性取得(DDA)モードおよび選択反応モニタリング(SRM)モードで動作した。サーベイMSスキャン画像を、100,000に設定された分解能(400m/zで定義)を有するFTにおいて得た。1つのスキャン当たり最も強度の高いイオンのうち最大6つを断片化し、線形イオントラップにおいて検出した。イオンカウント標的値は、サーベイスキャンでは1,000,000であり、MS/MSスキャンでは50,000であった。MS/MSのために既に選択された標的イオンを、30秒間動的に排除した。SRMのために、最大注入を400msに設定し、平均して2つのマイクロスキャン(microscans)を行った。
【0365】
QuanBrowser(Xcaliburソフトウェア2.0SR2)を用いて、データを、並列反応モニタリング(PRM)遷移のXIC(抽出されたイオンクロマトグラム)ピーク面積として表す。
【0366】
LigFは、認識フラグメント(アセトバニロン)および4-OHTコアを結合する、式VIIのプロドラッグのβエーテル結合を切断し、4-OHTをもたらすことができた。対照実験において、LigF以外のすべての他の構成成分が存在した場合、分子が無傷のままであり、体温で安定性を延長することが示されたことに注目する。意外にも、式VIIのプロドラッグのE-異性体は、Z-異性体よりも早い速度で切断し、異性体(Z)-4-OHTの特異的遊離を結果としてもたらす。(式VIIのプロドラッグのE-異性体が切断して(Z)-4-OHTをもたらすという事実は、カーン・インゴルド・プレローグ順位則によるものである。)
【0367】
図8は、LigFにより、式VIIのプロドラッグのβエーテル結合が切断されて4-OHTがもたらされる、HPLC-MS/MSの実験を示す。(A)陰性対照。(B)時間=0。(C)時間=1時間。(D)時間=3時間。(E)時間=44時間。
【0368】
式VIIのプロドラッグの切断は、およそ30時間後に50%のプラトーに達し、3時間後にプラトーの途中に達し、これは、
図9で見られるように、有用なインビボのツールとなるのに十分な速度であると想定された。
【0369】
6.4 細胞共培養アッセイ:
これらのアッセイを実施して、式VIIの化合物に対するこの特異的なLigF酵素反応が、細胞状況において起こる可能性があるかどうかを評価し、これには、プロドラッグが細胞膜を通過することができること、および、LigFによる切断後、4-OHTが隣接細胞に拡散し、変異ERT2融合タンパク質を活性化し、それにより、融合タンパク質の核活性を達成することができることが含まれる。この例では、それらの融合タンパク質は、Cre-ERT2および転写因子(NTCF4-ERT2)-の活性部分である。
【0370】
LigFを発現する細胞に隣接する細胞における遺伝子組換えが実証される第1の実験では、マウス胚線維芽細胞(MEF)を使用した。マウスモデルは、組換えレポーターmTmG(Jax Stock:007676)を保有する。このシステムは、膜が、赤色蛍光タンパク質であるtdTomato(タンデムダイマーtomato(tandem dimer tomato);mTは膜Tomatoを表す)に結合したことを表す。活性化Cre酵素を用いた組換えの際に、mTおよびloxP部位間にある終止コドンのコード配列を切除する。これは、代わりに、膜結合強化された(membrane-bound enhanced)緑色蛍光タンパク質(EGFP;mG)の発現を結果としてもたらす。効果的に、このことは、Cre酵素の存在下、または4-OHT活性化Cre-ERT2融合タンパク質の存在下において、細胞がtdTomatoの産生を止めてEGFPを発現し始めることを意味する;この遺伝的スイッチ(genetic switch)は、フローサイトメトリー分析により効率的に定量化することができる。その後、mTmGを発現するマウス株を、すべての細胞中にCre-ERT2融合タンパク質(UbC-Cre-ERT2;Jax Stock:008085)を保有するマウスと交配させた。Cre-ERT2を含まないレポーター株だけでなく、二重トランスジェニックマウスからも、MEFを14日目の胎芽から採取した。簡単に言うと、妊娠しているメスを、プラグ形成(plug formation)後14日目に屠殺し、子宮を摘出し、胎芽を解剖し、頭部および胎仔肝臓を処分した。残りの部分を刻み、トリプシンで消化し、前述の補足されたDMEMを含む10cmのプレート中で成長させた。
【0371】
MEF組換え:pLenti PGK-LigF(puro)または同等の空ベクターで形質導入されたMTO129を、トリプシン処理し、単細胞をUbC-Cre-ERT2上に添加し;mTmG(または、対照mTmGのみ)MEFを12-ウェルプレート中で成長させた。翌日、Z-4-OHTまたは式VIIのプロドラッグのいずれかを、1000~1nMの範囲の濃度で添加した。2日後に、細胞をトリプシン処理し、フローサイトメトリーによって、TdTomato/EGFP蛍光(Gallios,Beckman Coulter)について分析した。蛍光を2次元で生存細胞上で分析し、4象限のパーセントとしてスコア化した。EGFPの正の象限(TdTomatoを有するまたはTdTomatoを有しないQ2およびQ4)は組換えられたと考えられ、合計の割合を計算した。データは、2つの独立実験からの平均(+SD)である。
【0372】
図10はアッセイの結果を示し、UVCre-mTmGの下にある棒は、組換えレポーターカセット(mTmG)と共に、Cre-ER
T2を発現するMEFで得られた結果を示し、一方、Con-mTmGの下にあるカラムは、対照として使用されるCre-ER
T2発現を欠くMEFでの結果を示す。
【0373】
図10で見られるように、Cre-ER
T2発現にかかわらず、4-OHTの添加による用量依存性の遺伝子組換えがあった。式VIIのプロドラッグを添加すると、これは、LigF エーテラーゼを発現するMEFにおいて、4-OHTに非常に類似する、MEFの遺伝子組換えのパターンを達成した。UbC-ER
T2を欠くMEFにおいて、最高用量である程度の組換えのみがあり、これは、わずかな不純物、または本質的に減少した活性によって説明することができる。このことは、式VIIのプロドラッグがほとんど不活性であるが、MEFと共培養された、Lig-Fを発現するMTO129において切断され、および、この反応が、遊離した4-OHTがMEFを拡散し、遺伝子組換えを引き起こすことを可能にするのに十分であったことを示す。
【0374】
第2の実験に関しては、ERT2融合生成物は、転写因子であるLS174T-NTCF4-ERT2(LS-NE)細胞(Whissell et al.,2014,Nature Cell Biology,16,695-707に記載される、オリジナルLS174T細胞をATCCから購入した)を、Lig-Fを発現するHEK293T細胞との共培養に使用した。これらのLS-NE細胞を、37℃および5%のCO2で、L-グルタミンおよび10%のウシ胎仔血清(Life Technologies)で補足されたDMEMにおいて培養した。
【0375】
NTCF4は、転写因子TCF4のN-終点を表す。この構築物は、ドミナントネガティブ機能(dominant negative function)を有しており、これによりWnt経路中のシグナル伝達のスイッチをオフに切り替え(WntOFF)、このことは、発達および(腸)幹細胞調節に重要である。加えて、大半の大腸癌(CRC)細胞はWntシグナル伝達に依存しており、それゆえ、それを阻害することにより、腫瘍形成促進活性幹細胞遺伝子(下降、抑制)および細胞分化遺伝子(上昇、活性化)の両方の遺伝子発現において強い反応を結果としてもたらす。ERT2への融合は、核外に構築物を維持し、したがって、不活性である。CRCでは、NTCF4-ERT2で修飾された細胞株LS174Tは、4-OHTを加えると、内因性遺伝子発現において、記載された変化をもたらす。
【0376】
pLenti PGK-LigF(puro)または同等の空ベクターで形質導入されたHEK293T細胞を、6ウェルプレートにおいて1/10の比率で、LS174T-NTCF4-ER
T2(LS-NE)細胞と共播種した(co-plated)。共培養物を、1または10μMで、DMSO、1μMのZ-4-OHT、または式VIIのプロドラッグで処理した。16時間後、細胞をトリゾールに溶解し、RNA抽出(PureLink RNA Mini Kit,Life Technologies)およびcDNA調製(High Capacity cDNA RT kit,Applied Biosysytems)を行った。幹細胞遺伝子ASCL2(4-OHT-媒介性WntOFFによって抑制された;Hs_00270888_S1)、分化遺伝子KRT20(4-OHT-媒介性WntOFFによって活性化された;Hs_00300643_m1)、およびハウスキーピング遺伝子PPIA(Hs_99999904_m1)を、StepOnePlus Real-Time PCR system(Applied Biosystems)上で、Taqmanプローブ(Applied Biosystems)を使用するRT-qPCRによって分析した。
図11のデータを、ハウスキーピング遺伝子、およびDMSO対照に正規化した。データは、単一の実験からの技術的反復(technical replicates)(+SD)の平均である。LigF陰性のHEK293Tの存在下では、4-OHTのみが転写スイッチ(活性化遺伝子KRT20(上昇)、および、抑制遺伝子ASCL2(下降))誘導することができたが、HEK293T-LigFの存在下では、式VIIのプロドラッグは10μMで同じ反応に到達した。
【0377】
実施例7:式のVIIの4-OHTプロドラッグインビボの試験
実施例6で記載されるUbCre-ER
T2;mTmGマウスを使用して、1または5μmol(それぞれおよそ0.6または3mg)の式VIIのプロドラッグ、またはビヒクル対照(油)でこれらのマウスを処置した。処置5日後に、マウスを屠殺し、肝臓を10%のリン酸緩衝ホルマリン(phosphate-buffered formalin)(sigma)中で一晩固定し、実施例3で説明されるものと同様のパラフィンに包埋した(
図1)。切片を切断し、免疫組織化学的検査を使用してEGFPを染色したところ、
図12に示される結果により、マウス肝臓中に存在する酵素(しかし、我々の培養細胞中ではない、実施例6を参照)は、式VIIのプロドラッグを切断することができ、遺伝子組換えおよびEGFP発現の用量依存性活性化を結果としてもたらすことが示される。
【0378】
実施例8:癌モデルを使用した、インビボのTGFβシグナル伝達阻害に関する追加試験
追加のインビボの試験を実施して、先行技術である参照化合物ガルニセルチブおよび参照化合物338と対比させて、本発明の式Iの化合物、および式IVのそれらのプロドラッグの効果をさらに評価する。実施例3で示されるように、マウス腫瘍オルガノイド(MTO129)を発達させた。インビボの抗癌効果およびTGFβシグナル伝達阻害試験のために、6週齢のC57BL/6JマウスをJanvierから購入し、7~8週齢で注射した。肝臓にMTO129を移植するために、細胞をトリプシン処理し(マトリックスを消化し、オルガノイドを単一細胞へと分解し)、計数し、HBSS(ハンクス平衡塩類溶液、Lonza)で300,000の細胞を脾臓に注射し、しがたって、肝臓と腸とをつなぐ門脈に細胞を直接送達した。
【0379】
化合物(式Iの化合物、式IVの化合物、ガルニセルチブ、または化合物338)を、ミリQ水中の1%のカルボキシメチルセルロースナトリウム(Sigma)、0.4%のドデシル硫酸ナトリウム(Sigma)、0.085%のポリビニルピロリドン、0.05%の消泡剤-A(Sigma)で構成されたビヒクル溶液中の懸濁液として調製した。150μlの化合物懸濁液を用いて1日2回、胃管栄養法(経管栄養法)によって、化合物による処置を行った。対照マウスを150μlのビヒクルで処置した。
【0380】
図13で示される実験において、転移形成を阻害する示された化合物の能力を評価した。MTO129移植の2日後から、示された化合物でマウスを処置し、2週間継続した。マウスを移植後4週間目に屠殺し、固定した肝臓上の肝転移(LiM)を目視で計数した。
図3は、図の説明で記載される様々なモル当量の投与量(9倍、3倍、1倍、0.3倍)での、式Iの化合物およびガルニセルチブの肝腫瘍数(LiM)を示す。1倍の投与量(70.8mg/kg、1日2回)の式Iの化合物は、同じモル投与量(70.8mg/kg、1日2回)の、式Iの化合物に構造的に最も近い化合物である参照化合物338と比較して、転移形成の防止において有意に改善された活性を提供した。
【0381】
さらに、
図13は、式Iの化合物が、0.3倍(21.25mg/kg、1日2回)の投与量で、肝転移を予防するのに依然として有効であることを示し、この治療効果は3倍のガルニセルチブ投与量に匹敵する。加えて、式Iの化合物の活性は、参照化合物338の活性よりも著しく優れており、このことは、参照化合物338が式Iの化合物の構造異性体であるために、非常に予期しないことであった。
【0382】
式I(すなわち、式IV)の化合物のプロドラッグは、このアッセイにおいて、ガルニセルチブより頑強に(robustly)肝転移の数を減少させる。
【0383】
加えて、
図14および
図15で示される実験は、1倍の等モル投与量(70.8mg/kgで1日2回の式Iの化合物および80mg/kgで1日2回のガルニセルチブ)で、先行技術の化合物であるガルニセルチブと比較して、式Iの化合物の明らかな転移性疾患(overt metastatic disease)に対する治療の効果を評価する。この目的のために、
図13で説明したMTO129をマウスに接種するプロトコルを使用したが、ここでは、化合物による処置を、接種後16日目に開始した。この時点で、マウスには大きな転移が生じていた。処置を24日目に終了した。結果(
図14)は、式Iの化合物が、等モル投与量でのガルニセルチブと比較すると、この実験的設定において肝転移の数を減少させる効果を改善したことを示す。一方、
図15は、化合物による処置を終えた後、明らかな転移性疾患を有するマウスの生存を示す。これらの実験において、対照マウスの大部分(>90%)が肝転移性疾患で死亡した。式Iの化合物で処置したマウスは、ガルニセルチブで処置したマウスよりも高い生存率を有していた。
図13、
図14、および
図15で示される実験により、化学的に関連する化合物であるガルニセルチブおよび参照化合物338(実際には、式(I)の化合物の配座異性体である)と比較した、式Iの化合物の予期しない強化された治療の効果が例示された。
【0384】
実施例9:PD1/PDL1チェックポイント免疫療法を伴うインビボの併用療法アッセイ
インビボの試験を実施し、先行技術の参照化合物であるガルニセルチブと対比して、式Iの化合物の明らかな転移性疾患を有するマウスに対する活性を、単独で、および、抗PD-1抗体処置などのPD1/PDL1の免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて評価した。
【0385】
実施例3で示されるように、マウス腫瘍オルガノイド(MTO129)を発達させた。6週齢のC57BL/6JマウスをJanvierから購入し、7~8週齢で注射した。肝臓にMTO129を移植するために、細胞をトリプシン処理し(マトリックスを消化し、オルガノイドを単細胞に分解し)、計数し、HBSS(ハンクス平衡塩類溶液、Lonza)中で、300,000の細胞を脾臓に注射し、したがって、肝臓と腸とをつなぐ門脈に細胞を直接送達した。化合物(式Iの化合物またはガルニセルチブ)を、ミリQ水中の1%のカルボキシメチルセルロースナトリウム(Sigma)、0.4%のドデシル硫酸ナトリウム(Sigma)、0.085%のポリビニルピロリドン、0.05%の消泡剤-A(Sigma)で構成されたビヒクル溶液中の懸濁液として調製した。化合物での処置を胃管栄養法(経管栄養法)によって行い、マウスをビヒクル中の150μlの化合物懸濁液により1日2回処置した。80mg/kで1日2回のガルニセルチブまたは70.8mg/kgで1日2回の式Iの化合物に相当する、1倍の等モル投与量の各化合物でマウスを処置した。200μgの抗PD1(クローンRMPI-14;Leinco Technologies)を、腹腔内注射により3日ごとに投与した。対照マウスに、ビヒクルおよびIgG2aアイソタイプ対照抗体を胃管栄養法で与えた。
【0386】
図14および
図16で示される実験において、化合物および示された抗体での処置を、MTO129の接種後16日目に開始した。この時点で、マウスには大きな肝転移が生じていた。処置を24日目に終了した。
図14は、1倍の等モル投与量(80mg/kで1日2回のガルニセルチブまたは70.8mg/kgで1日2回の式Iの化合物)で、先行技術の化合物であるガルニセルチブ単独と比較した、式Iの化合物での処置後の肝腫瘍数(LiM)、ならびに、抗PD-1抗体による処置後、あるいは、抗PD-1抗体と式Iの化合物またはガルニセルチブとの併用処置後の肝腫瘍数(LiM)を示す。さらに、この結果により、式Iの化合物が、単独療法として等モル投与量で改善された活性をもたらすことが示される。加えて、抗PD-1抗体と式Iの化合物との併用療法は、抗PD-1抗体とガルニセルチブとの組み合わせよりも改善された活性をもたらした。注目すべきことに、PD-1抗体療法と組み合わせて式Iの化合物で処置したマウスの大部分は、実験時点で、転移がないままであった。
図16は、処置を終えた後に明らかな転移性疾患を有するマウスの生存を示す。これらの実験において、対照マウスの大部分(>90%)が肝転移性疾患で死亡した。これに対して、抗PD1抗体と組み合わせて式1の化合物で処置したマウスの80%は、処置後に生き延びた。抗PD1抗体と組み合わせて式Iの化合物で処置したマウスは、ガルニセルチブと抗PD1抗体で処置したマウスと比較して、はるかに高い生存率を有していた(80%対20%)。
【0387】
実施例10:式Iの化合物ならびに参照化合物338および337のインビボの治療効果
他の実験(
図17)において、式Iの化合物のインビボの治療活性を、関連する化合物338および化合物337と比較した。実施例3で示されるように、マウス腫瘍オルガノイド(MTO129)を発達させた。6週齢のC57BL/6JマウスをJanvierから購入し、7~8週齢で注射した。肝臓にMTO129を移植するために、細胞をトリプシン処理し(マトリックスを消化し、オルガノイドを単細胞へと分解し)、計数し、HBSS(ハンクス平衡塩類溶液、Lonza)で、200,000の細胞を脾臓に注射し、したがって、肝臓と腸とをつなぐ門脈に直接細胞を送達した。マウスを、1倍の等モル投与量の各化合物(70.8mg/kgの1日2回の式Iの化合物、70.8mg/kgで1日2回の化合物338、または68.0mg/kgで1日2回の化合物337)で処置した。すべてのマウスを、腫瘍細胞の接種後2日目から18日目まで処置した。MTO接種後21日目に肝転移の数を計数した。実験(
図17)により、式Iの化合物が、化合物338および化合物337と比較して、転移形成を遮断する増強された効力を保持することが示された。