(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】電極装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240405BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
G01N27/416 300Z
G01N27/30 F
(21)【出願番号】P 2019023535
(22)【出願日】2019-02-13
【審査請求日】2022-01-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(72)【発明者】
【氏名】國武 雅司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 京成
(72)【発明者】
【氏名】竹本 光伸
(72)【発明者】
【氏名】北原 達也
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-535421(JP,A)
【文献】特表2011-527713(JP,A)
【文献】特開2016-208883(JP,A)
【文献】両連続相マイクロエマルションゲルを利用した全固体型電気化学分析システムの創成,2017 年度 実施状況報告書,2018年12月17日,<URL:https://kaken.nii.ac.jp/report/KAKENHI-PROJECT-17K19142/17K191422017hokoku/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極と間隔が隔てられる第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極と接触するように、それらに跨がるイオン伝導性媒質とを備え、
前記イオン伝導性媒質は、連続相である水相、および、連続相である油相を含む両連続マイクロエマルションからなり、
前記水相が、ゲルであり、
前記油層が、ゲルであり、
前記イオン伝導性媒質の厚みが、10μm以上、1500μm以下であることを特徴とする、電極装置。
【請求項2】
前記第1電極が、作用極であり、
前記第2電極が、対極であることを特徴とする、請求項
1に記載の電極装置。
【請求項3】
前記作用極および前記対極と間隔が隔てられる参照極をさらに備え、
前記イオン伝導性媒質は、前記作用極、前記対極および前記参照極と接触するように、それらに跨がることを特徴とする、請求項
2に記載の電極装置。
【請求項4】
前記第1電極および前記第2電極は、平帯形状を有し、
前記イオン伝導性媒質は、シート形状を有することを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一項に記載の電極装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作用極、対極および参照極を備える電極装置を、対象物質を含む水溶液に浸漬し、作用極の電極電位を循環的に(cyclic)変化させるサイクリックボルタンメトリーなどの電気化学分析が知られている。
【0003】
このような電気化学分析では、まず、電解セル(電解槽)を準備し、次いで、水溶液を電解セルに投入し、続いて、電極装置を容器内の溶液に漬ける。サイクリックボルタンメトリーでは、対象物質の拡散定数などが測定される。
【0004】
また、電気化学分析の反応場として、両連続相マイクロエマルションが提案されている(例えば、下記非特許文献1参照。)。両連続相マイクロエマルションでは、水と油とがミクロスケールで両連続的に共存するため、親水性物質を水に溶解させるとともに、親油性物質を油に溶解させることにより、親水性物質および親油性物質の両方を電気化学分析することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】藏屋英介著、「両連続相マイクロエマルションを用いた抗酸化物質の評価技術の開発」、博士論文、2015年9月25日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の両連続相マイクロエマルションを電気化学分析する場合には、液体である両連続相マイクロエマルションを、容器に収容する必要があり、分析装置の小型化を図るには、限界があり、また、液体を収容する容器の取扱いが不便であるという不具合がある。
【0007】
本発明は、小型化が図られ、取扱いが簡便である電極装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(1)は、第1電極と、前記第1電極と間隔が隔てられる第2電極と、前記第1電極および前記第2電極と接触するように、それらに跨がるイオン伝導性媒質とを備え、
前記イオン伝導性媒質は、連続相である水相、および、連続相である油相を含む両連続マイクロエマルションからなり、前記水相および前記油相のうち、少なくともいずれか一方が、ゲルである、電極装置を含む。
【0009】
この電極装置では、イオン伝導性媒質が、第1電極および第2電極に跨がっているので、第1電極および第2電極間のイオン伝導を実施できる。
【0010】
しかも、この電極装置では、水相および油相のうち、少なくともいずれか一方が、ゲルであるので、一方のゲルが他方の液体を内包することか、あるいは、両方がゲルであることにより、イオン導電性媒質の流動を抑制することができる。そのため、イオン導電性媒質を第1電極および第2電極に対して固定することができる。その結果、液体を収容する必要がなく、装置の小型化を図ることができるとともに、簡便に取扱うことができる。
【0011】
本発明(2)は、前記第1電極が、作用極であり、前記第2電極が、対極である、(1)に記載の電極装置を含む。
【0012】
この構成によれば、作用極からの電子移動によって酸化還元反応を生起させながら、作用極から対極までのイオン導電性媒質中のイオン伝導を確保することで、電極装置外部に電解質溶液を有しない状態での電気化学分析ができる。
【0013】
本発明(3)は、前記作用極および前記対極と間隔が隔てられる参照極をさらに備え、前記イオン伝導性媒質は、前記作用極、前記対極および前記参照極と接触するように、それらに跨がる、(2)に記載の電極装置を含む。
【0014】
この構成によれば、参照極の電位を基準として、電位差測定、電気伝導度測定、アンペロメトリー・ボルタンメトリー、交流インピーダンス測定などの電気化学測定を実施できる。
【0015】
本発明(4)は、前記水相および前記油相のうち、いずれか一方が、ゲルである、(1)~(3)のいずれか一方に記載の電極装置を含む。
【0016】
水相のみがゲルであれば、水相および油相の両方がゲルである場合より、油相における脂溶性(疎水性あるいは親油性)の物質の拡散の自由度が高く、そのため、脂溶性の対象物質を油相に溶解および拡散させ、作用極において電気化学的に検出することができる。一方、水相中のゲルのネットワークは、イオン伝導の妨げとならないので、脂溶性の対象物質の検出応答性に優れる。そのため、脂溶性の対象物質を精度よく分析することができる。
【0017】
油相のみがゲルである場合には、水相および油相の両方がゲルである場合より、水相の自由度が高く、そのため、親水性の対象物質を水相に溶解させれば、親水性の対象物質を迅速にイオン伝導させることができるので、親水性の対象物質の応答性に優れる。そのため、親水性の対象物質を精度よく分析することができる。
【0018】
従って、これらの構成によれば、脂溶性の対象物質または親水性の対象物質を精度よく分析することができる。
【0019】
本発明(5)は、前記油相が、電解質を含有せず、前記水相が、電解質を含有する、(4)に記載の電極装置を含む。
【0020】
この構成によれば、油相に脂溶性の対象物質を溶解させれば、油相に電解質を含有させることなく、油相と水相との界面において、かかる脂溶性の対象物質を、迅速にイオン伝導させることができる。そのため、油相に電解質を含有させずに、脂溶性の対象物質を分析することがでる。
【0021】
本発明(6)は、前記第1電極および前記第2電極は、平帯形状を有し、前記イオン伝導性媒質は、シート形状を有する、(1)~(5)のいずれか一項に記載の電極装置を含む。
【0022】
この構成によれば、電極装置を薄型化できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の電極装置は、小型であり、簡便に取扱うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1A~
図1Cは、本発明の第1実施形態および第2実施形態の電極装置の製造工程を説明する平面図を示し、
図1Aが、電極装置を準備する工程、
図1Bが、マスク層を配置する工程、
図1Cが、イオン導電性媒質を配置する工程を示す。
【
図2】
図2A~
図2Dは、本発明の第1実施形態および第2実施形態の電極装置の製造工程を説明する断面図であって、左側図が、
図1A~
図1CのX-X線に断面図であり、右側図が、
図1A~
図1CのY-Y線に断面図である。
図2Aが、電極装置を準備する工程、
図2Bが、マスク層を配置する工程、
図2Cが、まだゲルになっていない両連続マイクロエマルションを配置する工程、
図2Dが、イオン導電性媒質を形成する工程を示す。
【
図3】
図3は、
図1Cおよび
図2Dに示す電極装置によって、対象物質を含有する溶液を電気化学分析する態様を示す。
【
図4】
図4は、
図1Cに示す第1実施形態の電極装置の変形例(別の参照極をイオン導電性媒質に接触させる)の平面図である。
【
図5】
図5は、
図1Cに示す第1実施形態の電極装置の変形例(参照極を備えない電極装置)の平面図である。
【
図6】
図6は、比較例1のサイクリックボルタンメトリーで使用した測定装置の断面図を示す。
【
図7】
図7は、実施例1のサイクリックボルタモグラムおよび拡散定数を示す。
【
図8】
図8は、比較例1のサイクリックボルタモグラムおよび拡散定数を示す。
【
図9】
図9は、実施例2のサイクリックボルタモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の電極装置は、第1電極と、第2電極と、それらに跨がるイオン伝導性媒質とを備え、イオン伝導性媒質は、連続相である水相、および、連続相である油相を含む両連続マイクロエマルションからなり、水相および油相のうち、少なくともいずれか一方が、ゲルである。
【0026】
<第1実施形態>
水相がゲルである電極装置の第1実施形態を説明する。
【0027】
図1Cおよび
図2Dに示すように、この電極装置1は、電気化学分析用電極または電気化学測定電極の一例である。電極装置1は、厚み方向に対向する一方面および他方面を有する略板形状を有する。また、電極装置1は、厚み方向に直交する長手方向に長く延び、厚み方向および長手方向に直交する短手方向に短く延びる平面視略矩形(縦長の長方形状)状を有する。
【0028】
電極装置1は、基板2と、複数の電極3、4および5と、複数の電極3、4および5のそれぞれに対応する配線9と、マスク層6と、イオン伝導性媒質7とを備える。
【0029】
基板2は、厚み方向に対向する一方面8、および、他方面を有する。また、基板2は、平面視において、電極装置1の外形形状を形成する。基板2の材料としては、例えば、ポリマー、セラミックス(アルミナなど)などの絶縁性材料が挙げられる。
基板2の寸法は、電極装置1の用途および目的に応じて適宜設定される。基板2の厚みは、例えば、3000μm以下であり、また、例えば、10μm以上である。また、基板2の短手方向長さが、例えば、5mm以上であり、また、例えば、100mm以下、好ましくは、30mm以下である。基板2の長手方向長さが、例えば、10mm以上、好ましくは、20mm以上であり、また、例えば、1000mm以下、好ましくは、50mm以下である。
【0030】
複数の電極3、4および5は、基板2の一方面8に配置されている。具体的には、複数の電極3、4および5は、基板2の一方面8に接触している。また、複数の電極3、4および5は、基板2の長手方向一端部に配置されている。複数の電極3、4および5のそれぞれは、平帯形状(ストリップ形状)を有する。
【0031】
また、複数の電極3、4および5は、互いに間隔を隔てて配置されている。複数の電極3、4および5は、第1電極の一例としての作用極3、第2電極の一例としての対極4、および、参照極5を備える。好ましくは、複数の電極3、4および5は、作用極3、対極4、および、参照極5からなる。
【0032】
作用極3は、例えば、平面視略円板(円盤)形状を有する。作用極3の表面積は、例えば、例えば、5mm2以上、好ましくは、10mm2以上である。
【0033】
対極4は、作用極3に対して間隔を隔てて配置されている。具体的には、作用極4は、作用極3と中心を共有する平面視略円弧形状を有する。作用極4の中心角は、例えば、150度を超過し、好ましくは、180度を超過し、例えば、360度未満、好ましくは、270度未満である。対極4および作用極3間の間隔(最近接距離、以下同様)は、例えば、0.1mm以上、また、例えば、10mm以下である。
【0034】
参照極5は、作用極3および対極4に対して間隔を隔てて配置されている。具体的には、参照極5は、作用極3と中心を共有する平面視略円弧形状(または略C字形状あるいは、略U字形状)を有する。また、参照極5は、対極4の円弧形状を、その周方向に延長した円弧形状を有する。ただし、参照極5は、対極4の周方向一端部と、周方向に間隔が隔てられる。作用極4の中心角は、例えば、0度を超過し、好ましくは、30度を超過し、例えば、180度未満、好ましくは、75度未満である。
【0035】
複数の電極3、4および5のそれぞれの長手方向他端縁は、3つの配線9のそれぞれの長手方向一端縁に連続している。3つの配線9は、長手方向に延び、短手方向に互いに間隔を隔てて対向配置されている。3つの配線9は、基板2の長手方向中間部から、長手方向他端部まで延びる。
【0036】
複数の電極3、4および5と、配線9との材料としては、例えば、金属、炭素系化合物などが挙げられ、好ましくは、金属が挙げられる。とりわけ、作用極3および対極4の材料として、より好ましくは、金が挙げられる。参照極5の材料として、より好ましくは、銀が挙げられる。
【0037】
複数の電極3、4および5の厚みと、配線9の厚みとは、例えば、同一であって、具体的には、例えば、500μm以下、好ましくは、250μm以下、より好ましくは、100μm以下であり、また、例えば、10μm以上である。
【0038】
マスク層6は、基板2の一方面8において、3つの配線9の長手方向一端部を被覆するように、配置されている。マスク層6は、基板2の長手方向中間部において、基板2の短手方向全体にわたって延びる平面視略矩形(フィルム)状を有する。マスク層6は、複数の電極3、4および5を区画する。マスク層6の材料として、例えば、上記した絶縁性材料(例えば、ポリマーなど)が挙げられる。
【0039】
イオン伝導性媒質7は、作用極3、対極4および参照極5を被覆するように、それらに跨がる層(膜)形状を有する。また、イオン伝導性媒質7は、平面視において、作用極3、対極4および参照極5を含む略矩形シート形状を有する。イオン導電性媒質7は、基板2の一方面8における長手方向一端部に配置されている。イオン導電性媒質7は、作用極3の厚み方向一方面および側面と、対極4の厚み方向一方面および側面と、参照極5の厚み方向一方面および側面と、基板10において作用極3、対極4および参照極5から露出する一方面8とに接触する。
【0040】
イオン伝導性媒質7は、両連続マイクロエマルションからなる。両連続マイクロエマルションは、連続相である水相、および、連続相である油相を含む。両連続マイクロエマルションにおいて、水相は、例えば、水および電解質(例えば、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウムなどの無機塩)を含有する。また、油相は、例えば、有機溶媒(トルエンなどの芳香族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素など)を含有する。さらに、両連続マイクロエマルションは、水相および油相の界面に位置する界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤)および補助界面活性剤(2-ブタノールなどの炭素数1以上5以下の低級アルコールなど)を含有する。界面活性剤および補助界面活性剤は、水相および油相の界面に位置する。
【0041】
上記した電解質、有機溶媒、界面活性剤、および、補助界面活性剤のそれぞれの例示、種類、配合割合(水の配合割合を含む)、および、両連続マイクロエマルションの調製方法などは、例えば、特表平9-509196号公報、上記非特許文献1などに詳述される。
【0042】
そして、この第1実施形態では、水相がゲルである。水相は、ハイドロゲルとして調製される。
【0043】
ハイドロゲルは、水相から形成されるネットワーク構造を有していれば、軟質ゲル(膨潤ゲルを含む)、硬質ゲル(例えば、ケイ酸が部分脱水されたシリカゲルなど)のいずれであってもよい。ハイドロゲルとして、好ましくは、水が膨潤した軟質のハイドロゲルが挙げられる。
【0044】
ハイドロゲルでは、後述する第1のゲル化剤が水相中で3次元網目構造を分子レベルで形成している。
【0045】
水相を軟質のハイドロゲルとして調製するには、水相に第1のゲル化剤を含有させる。
【0046】
第1のゲル化剤としては、例えば、ゲル化剤原料を水相に配合し、その後、水相中で、ゲル化剤原料を反応させて、第1のゲル化剤を生成すると同時に、水相がゲルとなる第1のタイプ、例えば、第1のゲル化剤を水相に配合し、その後、加熱により、第1のゲル化剤を水相に一旦溶解させ、その後、冷却によって、水相がゲルとなる第2のタイプ、例えば、第1のゲル化剤を水相に配合し(加熱および冷却することなく)混合することによって、水相がゲルとなる第3のタイプなどを含む。なお、上記した第1~第3のタイプは、明確に峻別されず、例えば、重複することが許容される。
【0047】
第1のタイプとしては、例えば、ポリアクリルアミド化合物、ポリアクリル酸塩化合物、ポリビニルアルコール、ポリアミノ酸化合物などの合成高分子などが挙げられる。
【0048】
第2のタイプとしては、例えば、寒天、ゼラチン、アガロース、カラギナン、アルギン酸などの天然高分子などが挙げられる。
【0049】
第3のタイプとしては、例えば、第1のタイプで例示した合成高分子などが挙げられる。
【0050】
これらは、単独使用または併用することができる。
【0051】
好ましくは、第1および第3のタイプ、より好ましくは、第1のタイプ、具体的には、ポリアクリルアミド化合物が挙げられる。
【0052】
ポリアクリルアミド化合物は、アクリルアミド系モノマーを主成分として含有するモノマー成分のポリマーである。なお、モノマー成分は、上記したゲル化剤原料に含まれる。アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのノニオン性モノマー、例えば、(メタ)アクリルアミド-メチルプロパンスルホン酸塩(具体的には、ナトリウム塩)などのアニオン性モノマーなどが挙げられる。好ましくは、ノニオン性モノマー、より好ましくは、アクリルアミドが挙げられる。モノマー成分における主成分(好ましくは、アクリルアミド系モノマー)の割合は、例えば、50質量%超過、好ましくは、70質量%以上である。
【0053】
また、モノマー成分は、例えば、メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどの、ビニル基を2つ有する架橋性モノマーを含有することができる。モノマー成分における水溶性架橋剤の割合は、上記した主成分の残部である。
【0054】
ポリアクリルアミド化合物は、第1のタイプとして使用される場合には、例えば、水相に上記したモノマー成分を水溶性開始剤とともに配合し、また、油相を配合して両連続マイクロエマルションを調製し、その後、モノマー成分を、例えば、光、熱などによって重合して、調製される。水溶性開始剤は、モノマー成分とともにゲル化剤原料を構成する。水溶性開始剤としては、例えば、熱開始剤、光開始剤(具体的には、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(イルガキュア2959)などのヒドロキシケトン化合物)などが挙げられ、好ましくは、光開始剤が挙げられる。モノマー成分100質量部に対する水溶性開始剤の配合部数は、例えば、1質量部以上、好ましくは、5質量部以上、例えば、25質量部以下、好ましくは、15質量部以下である。
【0055】
水および電解質の合計100質量部に対する第1のゲル化剤の割合(あるいはゲル化剤原料の割合)(モノマー成分および水溶性開始剤の合計の割合)は、例えば、1質量部以上、好ましくは、5質量部以上であり、また、例えば、40質量部以下、好ましくは、25質量部以下である。
【0056】
このイオン導電性媒質7は、第1のゲル化剤によってゲルとなった水相と、水相より自由度が高い油相とが、それぞれが連続相として形成される両連続マイクロエマルションである。電解質は、水相に含有されている。界面活性剤および補助界面活性剤は、水相および油相の界面に位置する。
【0057】
この両連続マイクロエマルションでは、水相および油相がともに連続していることから、水相のゲルが、3次元網目構造を形成でき、この3次元網目構造の空隙に、油相が存在する。油相は、液体のままゲルとなった水相に内包されて(取り込まれて)おり、上記した空隙中を比較的自由に移動できる。
【0058】
なお、油相の自由度は、ゲルである水相の自由度より高い一方で、両連続マイクロエマルション中では、微小な上記した空隙に存在するため、イオン導電性媒質7における水相からの脱漏が抑制される。
【0059】
イオン導電性媒質7の厚みは、基板10の一方面8とイオン導電性媒質7の厚み方向一方面との距離であって、例えば、10μm以上、好ましくは、100μm以上であり、また、例えば、1500μm以下である。
【0060】
電極装置1を製造するには、例えば、まず、
図1Aおよび
図2Aに示すように、基板2と、その一方面8に配置される複数の電極3、4および5と備える電極基板10を準備する。なお、電極基板10は、複数の電極3、4および5に連続する3つの配線9を基板2の一方面8に備える。電極基板10は、市販品を用いることができる。
【0061】
次いで、
図1Bおよび
図2Bに示すように、マスク層6を電極基板10に配置する。例えば、ポリマーからなるフィルムを、電極基板10に貼り付ける。
【0062】
その後、
図1C、
図2C~
図2Dに示すように、イオン導電性媒質7を、電極基板10において、作用極3、対極4および参照極5に接触し、これらに跨がるように、配置する。
【0063】
例えば、まず、水相がまだゲルになっていない両連続マイクロエマルションを調製する。具体的には、第1のゲル化剤が第1のタイプであれば、水、電解質、有機溶媒、ゲル化剤原料(モノマー成分および水溶性開始剤)、界面活性剤、補助界面活性剤を配合し、これらを混合する。なお、電解質は、予め水に溶解された電解質水溶液と調製し、これを配合することもできる。
【0064】
これにより、水、電解質およびゲル化剤原料が含有された水相と、有機溶媒が含有された油相と、それらの界面に存在する界面活性剤および補助界面活性剤とを含有する両連続マイクロエマルションが調製される。
【0065】
続いて、上記した両連続マイクロエマルション13を、電極基板10において、作用極3、対極4および参照極5に接触し、これらに跨がるように、配置する。具体的には、両連続マイクロエマルション13を電極基板10の作用極3、対極4および参照極5に対して、例えば、塗布(滴下を含む)(
図2Bの右側図参照)する。
【0066】
この際、マスク層6は、常温(25℃)である液体である両連続マイクロエマルション13が配線9に向かって流れ出すことを抑制する堰部として機能する。
【0067】
その後、両連続マイクロエマルション13中の水相をゲル化する。開始剤が光開始剤を含有する場合には、紫外線を両連続マイクロエマルション13に照射する。具体的には、両連続マイクロエマルションの厚み方向一方側に、例えば、透光性を有するカバー材11(仮想線)を配置し、続いて、カバー材11を介して、両連続マイクロエマルション13に紫外線を照射する。これによって、水相において、ゲル化剤原料におけるモノマー成分が水溶性開始剤の存在下で重合して、第1のゲル化剤が調製される。第1のゲル化剤の調製と同時に、水相中において第1のゲル剤が3次元網目構造を分子レベルで形成して、水相のネットワーク構造を形成する。これによって、水相がゲル(化学ゲル)となったイオン導電性媒質7が調製される。
【0068】
イオン導電性媒質7中、電解質は、水相に含有されており、水相中でイオンとなっている。イオン導電性媒質7中、界面活性剤および補助界面活性剤は、水相および油相の界面に存在する。
【0069】
これによって、電極基板10と、作用極3、対極4および参照極5に接触し、これらに跨がるイオン導電性媒質7とを備える電極装置1が製造される。
【0070】
次に、電極装置1を用いて、脂溶性(疎水性あるいは親油性)の対象物質を含有する溶液14について、電位制御測定の一例としてのサイクリックボルタンメトリーを実施する方法を説明する。
【0071】
電極装置1は、上記した方法で準備する。また、3つの電極9のそれぞれの長手方向他端部を、図示しないラインを介して、ポテンシオスタットと電気的に接続する。
【0072】
続いて、
図3に示すように、イオン導電性媒質7に溶液14を配置する。
【0073】
溶液14は、例えば、脂溶性の対象物質、および、脂溶性の対象物質を溶解する脂溶性の溶媒を含む。脂溶性の対象物質は、特に限定されず、例えば、フェロセン、抗酸化物質などを含む。脂溶性の溶媒としては、例えば、上記した有機溶媒(トルエンなどの芳香族溶媒)、食用油(オリーブオイルなど)、化粧用油などが挙げられる。
【0074】
例えば、溶液を、塗布(滴下)により、イオン導電性媒質7に含浸させる。具体的には、溶液を、イオン導電性媒質7の厚み方向一方側(例えば、上側)から、イオン導電性媒質7の厚み方向一方面に対して塗布(滴下)する。溶液の塗布(滴下)量は、イオン導電性媒質7に含浸され、作用極3および対極4間のイオン伝導を確保できれば、特に限定されない。
【0075】
これにより、対象物質は、脂溶性であることから、油相に分配される。つまり、脂溶性の対象物質は、ゲルである水相ではなく、油相に移行する。
【0076】
その後、サイクリックボルタンメトリーによって、作用極3の電極電位を循環的に変化させる。
【0077】
すると、対象物質のイオンは、油相の近傍に連続して存在する界面(油相および水相の界面)から、作用極3および対極4間における水相を伝わる。
【0078】
これよって、例えば、ピーク電流を検出して、これに基づいて、脂溶性の対象物質の拡散定数Dを取得する。具体的には、下記式(1)に各パラメータを代入して、拡散定数Dを得る。
【0079】
【0080】
式中、各パラメータを以下に記載する。
ip:ピーク電流
n=対象物質の当量/モル
A=作用極3の表面積cm2
D=拡散係数(cm2/秒)
C=対象物質の濃度(mol/cm3)
v=掃引速度(V/秒)
そして、この電極装置1では、イオン伝導性媒質7が、作用極3および対極4に跨がっているので、作用極3および対極4間のイオン伝導を実施できる。
【0081】
しかも、この電極装置1では、両連続マイクロエマルションにおける水相がゲルであるので、水相のゲルが油相の液体を内包することにより、イオン導電性媒質7の流動を抑制することができる。そのため、イオン導電性媒質7を作用極3および対極4に対して固定することができる。その結果、非特許文献1のような溶液14(
図6参照)を収容する必要がなく、装置の小型化を図ることができるとともに、電極装置1を簡便に取扱うことができる。
【0082】
また、この電極装置1では、作用極3からの電子移動によって酸化還元反応を生起させながら、作用極3から対極4までのイオン導電性媒質7中のイオン伝導を確保することで、電極装置1外部に電解質溶液を有しない状態での電気化学分析、具体的には、サイクリックボルタンメトリーできる。
【0083】
さらに、この電極装置1では、参照極5の電位を基準として、電位差測定、電気伝導度測定、アンペロメトリー・ボルタンメトリー、交流インピーダンス測定などの電気化学測定を実施できる。
【0084】
また、この電極装置1では、油相に脂溶性の対象物質を溶解させることにより、油相に電解質を含有させることなく、油相と水相との界面において、かかる脂溶性の対象物質を、迅速にイオン伝導させることができる。そのため、油相に電解質を含有させずに、脂溶性の対象物質を分析することがでる。
【0085】
また、この電極装置1では、作用極3、対極4および参照極5が平帯形状を有し、イオン導電性媒質7がシート形状を有するので、電極装置1を薄型化できる。
【0086】
<第1実施形態の変形例>
以下の各変形例において、上記した第1実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、各変形例は、特記する以外、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、第1実施形態およびその変形例を適宜組み合わせることができる。
【0087】
第1実施形態の電極装置1の製造方法では、まず、水相がまだゲルになっていない両連続マイクロエマルションを作用極3、対極4および参照極5に配置し、その後、水相をゲル化した。
【0088】
しかし、図示しないが、例えば、まず、水相がゲル化した両連続マイクロエマルションの膜を調製し、次いで、両連続マイクロエマルションの膜を、作用極3、対極4および参照極5に接触させる(貼着する)こともできる。この際、両連続マイクロエマルションの膜に、対象物質を含有する溶液を予め含浸させ、その後、溶液が含浸された膜を、作用極3、対極4および参照極5に接触させて、溶液14の塗布(滴下)を省くこともできる。
【0089】
また、ゲル化剤の好適例として第1のタイプを用いてイオン導電性媒質7の調製を説明したが、ゲル化剤の別の好適例である第3のタイプとして、予め(別途)合成された合成高分子(ポリアミド化合物)を水相に配合して(分散させて)、水相をゲルにすることもできる。
【0090】
また、
図3では、対象物質を含有する溶液をイオン導電性媒質7の厚み方向一方面に対して塗布(滴下)しているが、別途作製したイオン導電性媒質7の厚み方向他方面に塗布し、その後、かかるイオン導電性媒質7の他方面を作用極3、対極4および参照極5に接触させることもできる。あるいは、電極基板10に形成されたイオン導電性媒質7を、電極基板10から、それらの間に隙間が形成されるように一旦剥離し、その後、イオン導電性媒質7および電極基板10の隙間に、対象物質を含有する溶液14を配置し、その後、イオン導電性媒質7を電極基板10に再度配置することもできる。
【0091】
また、図示しないが、作用極3、対極4および参照極5のそれぞれの形状は、上記に限定されず、例えば、櫛形形状(櫛形電極状)でもよい。
【0092】
好ましくは、作用極3、対極4および参照極5のそれぞれを平帯形状に形成し、かつ、イオン伝導性媒質7をシート形状に形成する。この構成によれば、電極装置1を薄型化できる。
【0093】
また、第1実施形態では、電極装置1は、基板2を備えるが、例えば、図示しないが、電極装置1が基板2を備えなくてもよい。
【0094】
また、第1実施形態では、電極装置1は、マスク層6を備えるが、例えば、図示しないが、電極装置1がマスク層6を備えなくてもよい。
【0095】
これらの構成によれば、イオン伝導性媒質7が、作用極3、対極4および参照極5に接触するように、跨がっているので、作用極3で酸化還元反応を生起させながら、対極4では、対応する酸化還元反応を生起させて、参照極5の電位を基準として、精度よくポテンシオメトリーすることができる。
【0096】
また、電位制御測定以外にも、ガルバノスタット(電流制御測定)を実施することができる。この構成では、イオン伝導性媒質7が、作用極3、対極4および参照極に接触するように、跨がっているので、精度よくガルバノスタットを実施することができる。
【0097】
また、
図5に示すように、電極装置1が、参照極5を備えず、作用極3および対極4を備えることができる。この構成によれば、作用極3および対極4によって、それらの間に生じる対象物質の電位差を測定することもできる。具体的には、作用極3からの電子移動によって酸化還元反応を生起させながら、作用極3から対極4までのイオン導電性媒質7中のイオン伝導を確保して、電極装置1外部に電解質溶液を有しない状態でのサイクリックボルタンメトリーを実施できる。
【0098】
上記した作用極3および対極4を備えるが、参照極5を装置構成として備えない電極装置1によって、ポテンシオメトリーおよびガルバノスタットを実施することもできる。この方法では、例えば、参照極5を、電極装置1の別部材(別の外部装置に備えられる参照極5)とし、作用極3および対極4を備える電極装置1を準備し、その後、サイクリックボルタンメトリーの測定時に、
図4の太い実線で示すように、別の参照極5を、外側から(例えば、厚み方向一方側から)イオン導電性媒質7に接触させる(押し当てる)。
【0099】
<第2実施形態>
以下の第2実施形態において、上記した第1実施形態およびその変形例と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、第2実施形態は、特記する以外、第1実施形態およびその変形例と同様の作用効果を奏することができる。さらに、第1実施形態、その変形例、および、第2実施形態を適宜組み合わせることができる。
【0100】
油相がゲルである電極装置の第2実施形態を説明する。
【0101】
油相は、オルガノゲルとして調製される。
【0102】
オルガノゲルは、油相から形成されるネットワーク構造を有していれば、軟質ゲル(膨潤ゲルを含む)、硬質ゲルのいずれであってもよい。オルガノゲルとして、好ましくは、軟質ゲルが挙げられる。
【0103】
なお、オルガノゲルでは、後述する第2のゲル化剤が油相中で3次元網目構造を分子レベルで形成している。
【0104】
油相を軟質のオルガノゲルとして調製するには、油相に第2のゲル化剤を配合する。
【0105】
第2のゲル化剤としては、例えば、第2のゲル化剤を油相に配合し、加熱により、第2のゲル化剤が油相に一旦溶解し、その後、冷却によって、油相がゲルとなる第4のタイプ、例えば、第2のゲル化剤を油相に配合し(加熱および冷却することなく)混合することによって、油相がゲルとなる第5のタイプを含む。
【0106】
第4のタイプとして、例えば、ヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。
【0107】
第5のタイプとして、例えば、油溶性ポリマー、アミノ酸ゲル化剤などが挙げられる。
【0108】
これらは、単独使用または併用することができる。
【0109】
上記した各第2のゲル化剤(第4および第5のタイプ)は、例えば、特開2013-141664などに詳述される。
【0110】
第2のゲル化剤として、好ましくは、第4のタイプ、具体的には、ヒドロキシカルボン酸が挙げられ、より好ましくは、炭素数12以上、22以下のヒドロキシカルボン酸、さらに好ましくは、12-ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。
【0111】
有機溶媒100質量部に対する第2のゲル化剤の割合は、例えば、1質量部以上、好ましくは、5質量部以上であり、また、例えば、40質量部以下、好ましくは、25質量部以下である。
【0112】
第2実施形態において、イオン導電性媒質7は、第2のゲル化剤によってゲルとなった油相と、油相より自由度が高い水相とが、それぞれが連続相として形成される両連続マイクロエマルションである。電解質は、水相に含有されている。
【0113】
なお、水相は、自由度が高いが、両連続マイクロエマルション中では、ゲルとなった油相の近傍に存在でき、イオン導電性媒質7における油相からの脱漏が抑制される。
【0114】
電極装置1の製造方法では、
図1Aおよび
図2Aに示すように、電極基板10を準備する。
【0115】
次いで、
図1Bおよび
図2Bに示すように、マスク層6を電極基板10に配置する。
【0116】
その後、
図1C、
図2C~
図2Dに示すように、イオン導電性媒質7を、電極基板10において、作用極3、対極4および参照極5に接触し、これらに跨がるように、配置する。
【0117】
まず、油相がまだゲルになっていない両連続マイクロエマルションを調製する。具体的には、第2のゲル化剤が第4のタイプであれば、水、電解質、有機溶媒、第2のゲル化剤、界面活性剤および補助界面活性剤を配合し、これらを混合して混合液を調製する。その後、混合液を加熱する。加熱温度は、例えば、30℃以上、好ましくは、35℃以上、また、例えば、80℃以下、好ましくは、70℃以下である。その後、加熱された混合液を、電極基板10の作用極3、対極4および参照極5に対して、配置する。具体的には、混合液を電極基板10に塗布する。これにより、両連続マイクロエマルションの塗膜を調製する。
【0118】
その後、両連続マイクロエマルションの塗膜を常温(25℃)に冷却する。
【0119】
これによって、第2のゲル化剤によって、油相がゲル(具体的には、物理ゲル)となる。これによって、電極基板10の一方面8において、油相がゲルであるイオン導電性媒質7が形成される。
【0120】
イオン導電性媒質7は、水および電解質が含有された水相と、有機溶媒が含有され、ゲルとなった油相と、それらの界面に存在する界面活性剤および補助界面活性剤とを含有する両連続マイクロエマルションが調製される。
【0121】
次いで、この電極装置1を用いて、親水性(水溶性)の対象物質を含有する水溶液について、サイクリックボルタンメトリーの実施を説明する。
【0122】
水溶液は、例えば、上記した親水性の対象物質、および、対象物質を溶解する水を含む。親水性の対象物質は、イオン性であれば特に限定されず、例えば、フェリシアン化カリウム(ヘキサシアノ鉄酸カリウム)、ビオロゲンなどを含む。
【0123】
サイクリックボルタンメトリーの測定中、対象物質は、親水性(水溶性)であることから、水相に分配される。つまり、親水性の対象物質は、ゲルである油相ではなく、水相に移行して、作用極3および対極4間を移動する。
【0124】
これによって、例えば、ピーク電流を検出して、これに基づいて、親水性の対象物質の拡散定数Dを取得する。
【0125】
この電極装置1では、油相がゲルであるので、油相のゲルが水相の液体を内包することにより、イオン導電性媒質7の流動を抑制することができる。そのため、イオン導電性媒質7を作用極3および対極4に対して固定することができる。その結果、非特許文献1のような溶液14(
図6参照)を収容する必要がなく、装置の小型化を図ることができるとともに、電極装置1を簡便に取扱うことができる。
【0126】
<第3実施形態>
第3実施形態において、上記した第1実施形態、その変形例および第2実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、第3実施形態は、特記する以外、第1実施形態、その変形例および第2実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、第1実施形態、その変形例、第2実施形態、および、第3実施形態を適宜組み合わせることができる。
【0127】
イオン導電性媒質7において、水相および油相の両方をゲルとすることができる。
【0128】
このイオン導電性媒質7を調製するには、第1実施形態の製造方法に準じて、水相をゲルとし、また、第2実施形態の製造方法に準じて、油相をゲルとする。
【0129】
この構成では、水相および油相のいずれもがゲルであるので、第1実施形態および第2実施形態より、作用極3、対極4および参照極5に対する確実な固定を実施することができる。
【0130】
一方、脂溶性の対象物質または親水性の対象物質を精度よく分析する観点からは、第3実施形態より、第1実施形態または第2実施形態が好適である。
【0131】
第1実施形態であれば、水相のみがゲルであるので、水相および油相の両方がゲルである第3実施形態より、油相における脂溶性の物質の拡散の自由度が高く、そのため、脂溶性の対象物質を油相に溶解および拡散させ、作用極3において電気化学的に検出することができる。一方、水相中のゲルのネットワークは、イオン伝導の妨げとならないので、脂溶性の対象物質の検出応答性に優れる。そのため、脂溶性の対象物質を精度よく分析することができる。
【0132】
第2実施形態であれば、油相のみがゲルであるので、水相および油相の両方がゲルである第3実施形態より、水相の自由度が高く、そのため、親水性の対象物質を水相に溶解させれば、親水性の対象物質を迅速にイオン伝導させることができるので、親水性の対象物質の応答性に優れる。その結果、親水性の対象物質を精度よく分析することができる。
【0133】
従って、第1実施形態または第2実施形態は、第3実施形態より、脂溶性の対象物質または親水性の対象物質を精度よく分析することができる。
【実施例】
【0134】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0135】
実施例1
表1に示す全ての成分を、表1に示す量に従って、配合して、両連続マイクロエマルションを調製した。
【0136】
別途、
図1Aおよび
図2Aに示すように、基板2と、作用極3、対極4および参照極5とを備える電極基板10を準備した。続いて、
図1Bおよび
図2Bに示すように、ポリマーフィルムからなるマスク層6を電極基板10に貼り付けた。基板2の材料は、アルミナであった。
【0137】
作用極3の表面積は、12.56mm2であった。作用極3および対極4の材料は、金であり、参照極5の材料は、銀であった。
【0138】
次いで、上記した両連続マイクロエマルションを、電極基板10の厚み方向一方側に、作用極3、対極4および参照極5と接触するように、それらに跨がるように滴下した。
【0139】
その後、ガラス製のカバー材11で、両連続マイクロエマルション13を被覆し、続いて、紫外線を両連続マイクロエマルション13に照射して、第1のゲル化剤の調製と同時に、水相をゲル化した。これにより、イオン導電性媒質7を調製した。イオン導電性媒質7の厚みは、1000μmであった。
【0140】
次に、フェロセン(脂溶性の対象物質)のトルエン溶液0.1cm3をイオン導電性媒質7の厚み方向一方面に滴下した。フェロセンの濃度は、5mMであった。
【0141】
滴下後、1分経過後、電極装置1に接続したポテンシオスタットを用いて、サイクリックボルタンメトリーを実施した。
【0142】
得られた実施例1のサイクリックボルタモグラムおよび拡散常数を
図7に描画する。
【0143】
比較例1
両連続マイクロエマルションの水相をゲルにせず、また、別途、
図6に示すように、電解セル12を準備した以外は、実施例1と同様に処理した。
【0144】
次いで、実施例1と同様の、油相および水相のいずれもゲルではなく、液体である両連続マイクロエマルション13 10cm3を、電解セル12に投入した。
【0145】
別途、
図1Aおよび
図2Aに示すように、電極基板10を準備し、次いで、
図1Bおよび
図2Bに示すように、マスク層6を電極基板10に配置して、作用極3、対極4および参照極5を区画した。
【0146】
次いで、
図6に示すように、基板10、作用極3、対極4および参照極5を、両連続マイクロエマルション13に浸漬し、その後、サイクリックボルタンメトリーを実施した。
【0147】
得られた比較例1のサイクリックボルタモグラムおよび拡散常数を
図8に描画する。
【0148】
実施例2
イオン導電性媒質7の調製を以下の通りに変更し、油相をゲルにし、ゲルの調製方法下記のように変更した以外は、実施例1と同様に処理した。
【0149】
すなわち、表2に示す全ての成分を、表2に示す量に従って、配合して混合して混合液(両連続マイクロエマルション)を調製し、混合液を40℃に加熱した。
【0150】
続いて、40℃に加熱したホットプレート上に配置された電極基板10に、加熱した混合液を塗布して、混合液からなる塗膜を調製した。
【0151】
その後、透光性のカバー材11を、塗膜の厚み方向一方面に配置した。
【0152】
その後、塗膜(混合液)を25℃に冷却して、油相をゲル化(物理ゲル化)した。これにより、油相がゲルであるイオン導電性媒質7を調製した。
【0153】
次に、フェリシアン化カリウム(III)(親水性の対象物質)の水溶液0.1cm3をイオン導電性媒質7の厚み方向一方面に滴下した。フェリシアン化カリウム(III)の濃度は、5mMであった。
【0154】
滴下後、1分経過後、電極装置1に接続したポテンシオスタットを用いて、サイクリックボルタンメトリーを実施した。
【0155】
得られた実施例2のサイクリックボルタモグラムを
図9に描画する。
【0156】
<考察>
(1) 実施例1
図7から分かるように、実施例1では、水相がゲルであるイオン導電性媒質7によって、脂溶性の対象物質であるフェロセンをサイクリックボルタンメトリーすることができた。また、実施例1および比較例1のサイクリックボルタモグラムは、ほぼ同一であり、また、拡散定数もほぼ等しい。その結果、実施例1のサイクリックボルタンメトリー優れた精度が維持されたことが分かる。
(2) 実施例2
図9から分かるように、実施例2では、油相がゲルであるイオン導電性媒質7によって、親水性の対象物質であるフェリシアン化カリウム(III)をサイクリックボルタンメトリーすることができた。
【0157】
【0158】
【符号の説明】
【0159】
1 電極装置
3 作用極(第1電極の一例)
4 対極(第2電極の一例)
5 参照極
7 イオン導電性媒質
13 両連続マイクロエマルション