(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】乳酸菌およびビフィズス菌増殖促進剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/125 20160101AFI20240405BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240405BHJP
A23L 33/21 20160101ALI20240405BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20240405BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20240405BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240405BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
A23L33/125
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L33/21
A61K31/7016
A61K31/702
A61P1/04
A61P1/14
(21)【出願番号】P 2022561180
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2022025846
(87)【国際公開番号】W WO2023277041
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2021106411
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 健司
(72)【発明者】
【氏名】三輪 智弘
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】高木 宏基
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-050173(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047616(WO,A1)
【文献】特開平03-187390(JP,A)
【文献】特開平03-175989(JP,A)
【文献】特開昭63-109790(JP,A)
【文献】特開平07-000191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
A61K 31/00-31/80
C12P 19/00-19/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を含んでなる、乳酸菌および/またはビフィズス菌増殖促進剤であって、前記加熱縮合物中の重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の含有量(固形分換算)が50質量%以上である、増殖促進剤。
【請求項2】
乳酸菌が、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノサスおよびラクトバチルス・ジョンソニイからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の増殖促進剤。
【請求項3】
ビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス・サブスピーシーズ・ラクティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタムおよびビフィドバクテリウム・シュードロンガムからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2に記載の増殖促進剤。
【請求項4】
重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の含有量(固形分換算)が70~100質量%である、請求項1または2に記載の増殖促進剤。
【請求項5】
プレバイオティクスとして使用するための、請求項1または2に記載の増殖促進剤。
【請求項6】
腸内フローラを良好にするための、および/または、腸内環境を改善するための、請求項1または2に記載の増殖促進剤。
【請求項7】
腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善に使用するための、請求項1または2に記載の増殖促進剤。
【請求項8】
乳酸菌および/またはビフィズス菌増殖促進に使用するための飲食品、医薬品または医薬部外品である、請求項1または2に記載の増殖促進剤。
【請求項9】
DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を含む組成物を、それを必要とする対象に摂取させるか、または投与することを含んでなる、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進方法あるいは腸内環境の改善方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)であって、前記加熱縮合物中の重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の含有量(固形分換算)が50質量%以上である、方法。
【請求項10】
腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進剤の製造のための、腸内環境改善剤またはプレバイオティクスの製造のための、あるいは、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善剤の製造のための、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を含む組成物の使用であって、前記加熱縮合物中の重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の含有量(固形分換算)が50質量%以上である、使用。
【請求項11】
腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進のための、腸内環境改善のための、あるいは、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善のための、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を含む組成物の使用
(但し、ヒトに対する医療行為を除く)であって、前記加熱縮合物中の重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の含有量(固形分換算)が50質量%以上である、使用。
【請求項12】
腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進剤としての、腸内環境改善剤としての、プレバイオティクスとしての、あるいは、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善剤としての、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を含む組成物の使用
(但し、ヒトに対する医療行為を除く)であって、前記加熱縮合物中の重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の含有量(固形分換算)が50質量%以上である、使用。
【請求項13】
腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進に用いるための、腸内環境の改善に用いるための、あるいは、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善に用いるための、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を含む組成物であって、前記加熱縮合物中の重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の含有量(固形分換算)が50質量%以上である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国出願である特願2021-106411(出願日:2021年6月28日)の優先権の利益を享受するものであり、その開示内容全体は引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその処理物を有効成分として含有する、乳酸菌および/またはビフィズス菌増殖促進用糖質組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトの腸内には約1,000種の100~1000兆個の腸内細菌が生育し、腸内細菌叢を構成している。近年、腸内細菌叢のバランスは人間の健康に大きな影響を及ぼすことが明らかにされている。腸内細菌は食物や薬物に由来するさまざまな物質や内因性物質の代謝に関与し、ヒトの栄養、生理機能、感染免疫、発癌、老化、薬効等に重要な役割を果たしている。腸内細菌は、ビフィズス菌や乳酸菌のように整腸作用、抗アレルギー作用、病原菌およびウイルス等に対する感染防御、栄養、有害菌増殖抑制等の面で有益に働く、プロバイオティクスとも呼ばれる有用菌と、クロストリジウム菌や病原性大腸菌のように発癌、肝臓疾患、動脈硬化症、高血圧症、感染症等に関係する有害菌と、これらのどちらにも属さない日和見菌とに大別される。腸内細菌叢を改善するためには、下部消化管において有用菌を定着および増殖させることが重要であると考えられている。
【0004】
一方、プロバイオティクスの栄養源となり、プロバイオティクスの成長や活動を選択的に促進することによって、宿主に有益な影響を及ぼす、消化管上部で分解吸収されない食品成分として、プレバイオティクスが知られている。これまでに、ポリデキストロースまたは水溶性トウモロコシ繊維を含む組成物によって腸管内菌叢中のコリオバクテリウム科の比率を減少させ、ベイヨネラ科および酪酸菌フィーカリバクテリウム属の比率を増加させる技術が提案されている(特許文献1)。また、高い難消化性度を持つガラクトオリゴ糖によってラクトバチルス・カゼイを高い選択性で増殖させる技術が提案されている(特許文献2)。しかしながら、有用菌を増殖させる糖質であっても、一般的に大腸菌やクロストリジウム属細菌等の有害菌に対しても資化性があり、腸内で有用菌のみを特異的に増殖させられるわけではないという現状がある(非特許文献1)。したがって、より有益なプロバイオティクスの増殖に寄与し、有害菌の増殖には寄与しないプレバイオティクスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2014-532710号公報
【文献】特開2011-036203号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】奥恒行, 栄養学雑誌 1986; 44(6):291-306
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは今般、糖質として難消化性グルカン、重合度2~5の難消化性グルカン、重合度5以上の難消化性グルカン、難消化性デキストリンまたはポリデキストロースを含有する培地において常在腸内細菌、ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌または悪玉菌の増殖を測定したところ、重合度2~5の難消化性グルカンを含有する培地では、当該難消化性グルカンを含有しない培地と比較して、特に乳酸菌およびビフィズス菌の増殖が促進されることを見出した。本発明者らはまた、重合度2~5の難消化性グルカンを含有する培地では、難消化性デキストリンまたはポリデキストロースを含む培地と比較して、乳酸菌およびビフィズス菌の増殖が促進されることを見出した。本発明者らはまた、澱粉分解物の加熱縮合反応において反応条件を調整することで重合度2~5の難消化性グルカンを多く含む難消化性グルカンを調製できること、該難消化性グルカンはα-アミラーゼおよびグルコアミラーゼによる酵素処理によっても消化されない重合度2~5の難消化性グルカンを多く含むものであることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を含んでなる、乳酸菌および/またはビフィズス菌増殖促進剤。
[2]乳酸菌が、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノサスおよびラクトバチルス・ジョンソニイからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]に記載の増殖促進剤。
[3]ビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス・サブスピーシーズ・ラクティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタムおよびビフィドバクテリウム・シュードロンガムからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]または[2]に記載の増殖促進剤。
[4]重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の含有量(固形分換算)が10~100質量%である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の増殖促進剤。
[5]プレバイオティクスとして使用するための、上記[1]~[4]のいずれかに記載の増殖促進剤。
[6]腸内フローラを良好にするための、および/または、腸内環境を改善するための、上記[1]~[5]のいずれかに記載の増殖促進剤。
[7]腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善に使用するための、上記[1]~[6]のいずれかに記載の増殖促進剤。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載の増殖促進剤を含有してなる、飲食品、医薬品または医薬部外品。
[9]DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物またはそれを含む組成物を、それを必要とする対象に摂取させるか、または投与することを含んでなる、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進方法、腸内環境の改善方法、あるいは腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善方法。
[10]腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進剤の製造のための、腸内環境改善剤またはプレバイオティクスの製造のための、あるいは、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善剤の製造のための、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物またはそれを含む組成物の使用。
[11]腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進のための、腸内環境改善のための、あるいは、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善のための、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物またはそれを含む組成物の使用。
[12]腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進剤としての、腸内環境改善剤としての、プレバイオティクスとしての、あるいは、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善剤としての、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物またはそれを含む組成物の使用。
[13]腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進に用いるための、腸内環境の改善に用いるための、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善に用いるための、あるいは、上記[9]に記載の治療または改善方法に用いるための、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物またはそれを含む組成物。
【0010】
本発明の増殖促進剤の有効成分は、腸管内の有用菌である乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進効果を有する。したがって、本発明の増殖促進剤はプレバイオティクスとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、難消化性グルカン(フィットファイバー#80)を含む本培養培地を用いた資化性試験の結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、重合度2~5の難消化性グルカンを含む本培養培地を用いた資化性試験の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、重合度5以上の難消化性グルカンを含む本培養培地を用いた資化性試験の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、難消化性デキストリンを含む本培養培地を用いた資化性試験の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、ポリデキストロースを含む本培養培地を用いた資化性試験の結果を示すグラフである。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明において「難消化性グルカン」は、難消化性のグルカン(グルコースポリマー)を意味し、DE70~100の澱粉分解物を加熱処理により縮合反応させた糖縮合物からなるものである。この難消化性グルカンは、NMR分析およびメチル化分析により、α-グルコシド結合およびβ-グルコシド結合のいずれのグルコシド結合をも含み、1,6-結合、1,2-結合、1,3-結合および1,4-結合を有し、1,6-結合が最も多く存在する多分岐多糖であることが確認されている。ただし、上記結合は加熱縮合によってランダムに形成されているため、単一構造ではなく、異なる重合度のものや異なる構造のものが混在している。
【0013】
難消化性グルカンの原料となる澱粉分解物としては、DEが70~100である澱粉分解物を使用することができる。澱粉分解物は、例えば、澱粉を酸で加水分解したものでも、酵素で加水分解したものでもよい。ここで、「DE(Dextrose Equivalent)」とは、澱粉分解物の分解度合いの指標であり、試料中の還元糖をブドウ糖として固形分に対する百分率で示した値である。澱粉分解物のDEは、例えばレーンエイノン法で測定することができる。難消化性グルカンの原料となる澱粉分解物は、DEが75~100であることが好ましく、80~100であることがより好ましい。
【0014】
本発明に用いられる「DE70~100の澱粉分解物」は、DEが所定の範囲を満たす澱粉分解物であればよく、例えば、マルトオリゴ糖、水飴、粉飴、グルコース等が挙げられる。その性状も特に制限はなく、結晶品(無水ぶどう糖結晶、含水ぶどう糖結晶等)、液状品(液状ぶどう糖、水飴等)、非結晶粉末品(粉飴等)のいずれでもよいが、ハンドリングや製造コストを考慮すると液状品を用いることが好ましい。特に、グルコースの精製工程で生じる副産物である「ハイドロール」と呼ばれるグルコースシラップの使用は、リサイクルや原料コスト削減の観点から極めて有利である。
【0015】
本発明において「加熱縮合」は、澱粉分解物を加熱条件下において縮合させることをいい、加熱縮合方法は当業者に周知である。加熱縮合における加熱条件は、縮合反応により本発明の難消化性グルカンが得られれば特に制限はなく、当業者であれば加熱条件を適宜決定することができるが、例えば、100℃~300℃で1~180分間、より好ましくは、150℃~250℃で1~180分間加熱処理することで本発明の難消化性グルカンを製造することができる。
【0016】
加熱縮合処理に用いる加熱機器としては、例えば、棚式熱風乾燥機、薄膜式蒸発器、フラッシュエバポレーター、減圧乾燥機、熱風乾燥機、スチームジャケットスクリューコンベヤー、ドラムドライヤー、エクストルーダー、ウォームシャフト反応機、ニーダー等が挙げられる。また、加熱縮合処理は常圧条件下で行ってもよく、減圧条件下で反応を行ってもよい。減圧条件下で行った場合、反応生成物の着色度が低下する点で有利である。
【0017】
本発明において加熱縮合処理は、無触媒条件下で行ってもよいが、縮合反応の反応効率の点から触媒存在下で行うことが好ましい。前記触媒としては糖縮合反応を触媒するものであれば特に制限はないが、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、酢酸等の有機酸、珪藻土、活性白土、酸性白土、ベントナイト、カオリナイト、タルク等の鉱物性物質および水蒸気炭、塩化亜鉛炭、スルホン化活性炭、酸化活性炭等の活性炭を用いることができる。得られる水溶性食物繊維素材の着色や安全性、更には味・臭いを考慮すると、触媒として活性炭を用いることが好ましい。前記各触媒は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0018】
本発明においては、食品加工上許容される処理が施された難消化性グルカンの加工処理物を用いることができる。難消化性グルカンの加工処理物としては、例えば、難消化性グルカン還元処理物が挙げられる。
【0019】
本発明において「難消化性グルカン還元処理物」は、難消化性グルカンおよびその難消化性グルカン分画処理物のいずれかを単独または組み合わせたものを還元処理して得ることができる。
【0020】
本発明において「還元処理」は、糖の還元末端のグルコシル基のアルデヒド基を還元する処理をいう。還元処理方法は当業者に周知であり、例えば、ヒドリド還元剤を用いる方法、プロトン性溶媒中の金属を用いる方法、電解還元方法、接触水素化反応方法が挙げられる。本発明においては、少量の難消化性グルカン還元処理物を調製する場合にはヒドリド還元剤を用いる方法が簡便で、かつ、特殊な装置を必要とせず好都合であり、一方で、工業的に大規模に実施する場合には、経済性に優れ、副生成物も少ないという点から、接触水素化反応を用いる方法が好ましい。「接触水素化反応」とは、触媒の存在下、不飽和有機化合物の二重結合部に水素を添加する反応であり、一般に水添反応ともいわれている。還元処理を実施することにより、本発明で使用する難消化性グルカンやその加工処理物の着色を低減したり、酸・アルカリに対する安定性を高めたり、加熱による褐変反応やアミノ酸、タンパク質とのメイラード反応を抑制したりすることができる。
【0021】
本発明における接触水素化反応による「還元処理」を具体的に説明すると、難消化性グルカンを水に溶解し、そこにラネーニッケル触媒を適量加え、水素ガスを添加し、高温条件下で還元する。次に、脱色・脱イオン処理して、難消化性グルカン還元処理物を得ることができる。
【0022】
本発明において重合度2~5の難消化性グルカンは、難消化性グルカンを含む糖質組成物を、膜分離やゲルろ過クロマトグラフィーなどの分画手段で分画処理することにより調製することができる。分画処理により重合度2~5の難消化性グルカンを調製する場合、加熱縮合反応により得られた難消化性グルカンをそのまま分画処理してもよく、あるいは、難消化性グルカンを前記のように加工処理(例えば還元処理)した後に分画処理してもよい。後者の場合、重合度2~5の難消化性グルカンの加工処理物を得ることができる。
【0023】
本発明において分画処理は特に制限はなく、その分離方法は当業者に周知の手段を利用することができる。例えば、膜分離、ゲルろ過クロマトグラフィー、カーボン-セライトカラムクロマトグラフィー、強酸性陽イオン交換カラムクロマトグラフィー、エタノール沈殿、溶媒沈殿など当業者に周知の糖質の精製手段を分画処理に使用することができる。
【0024】
本発明において重合度2~5の難消化性グルカンはまた、加熱縮合の反応条件を調整することにより調製することができる。加熱縮合の反応条件の調整により重合度2~5の難消化性グルカンを調製する方法としては、前記の難消化性グルカンの調製方法において、難消化性グルカンの原料となる澱粉分解物のDE、加熱温度、加熱時間などを適宜調整することにより、重合度2~5の画分を高い割合で含む難消化性グルカンを得る方法が挙げられる。例えば、加熱温度を高くすれば得られる難消化性グルカンの食物繊維含量は高くなり、分子量(重合度)も大きくなり、また、加熱時間を長くすれば同様に得られる難消化性グルカンの食物繊維含量は高くなり、分子量(重合度)も大きくなる。このため加熱条件としては、例えば、100℃~260℃で1~180分間、好ましくは140℃~220℃で1~120分間、より好ましくは160℃~200℃で1~60分間加熱処理することで重合度2~5の画分を高い割合で含む難消化性グルカンを調製することができる。また、効率的に重合度2~5の難消化性グルカンを得るために、前記の触媒の種類や添加量を適宜変更することもできる。
【0025】
本発明において重合度2~5の難消化性グルカンはまた、難消化性グルカンを糖質分解酵素処理することにより調製することができる。本発明において「糖質分解酵素」は、糖質に作用し加水分解反応を触媒する酵素を意味し、例えば、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ(アミログルコシダーゼ)、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、α-グルコシダーゼ、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、β-グルコシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-マンノシダーゼ、β-フルクトシダーゼ、セロビアーゼ、ゲンチオビアーゼが挙げられる。糖質分解酵素は、単独で用いてもよく、複数の酵素を組み合わせて用いてもよい。難消化性グルカンの分解作用の観点からα-アミラーゼおよびグルコアミラーゼが好ましく、両酵素のいずれかを単独で作用させてもよいが、α-アミラーゼおよびグルコアミラーゼを共に作用させるのが特に好ましい。糖質分解酵素処理により重合度2~5の難消化性グルカンを調製する場合、加熱縮合反応により得られた難消化性グルカンをそのまま糖質分解酵素処理してもよく、あるいは、難消化性グルカンを前記のように加工処理した後に糖質分解酵素処理してもよい。後者の場合、重合度2~5の難消化性グルカンの加工処理物を得ることができる。
【0026】
本発明においては難消化性グルカンに対する酵素処理条件を適宜変更することで、重合度2~5の画分を高い割合で含む難消化性グルカンを得ることができる。例えば、酵素処理により固形分当たり重合度2~5の含量が3質量%以上、より好ましくは5質量%以上増加するように処理するのが好ましく、20~120℃で30分間~48時間、より好ましくは、50~100℃で30分間~48時間酵素処理することができる。
【0027】
上記のようにして得られた重合度2~5の難消化性グルカンは、場合によってはさらに分画処理を実施してもよい。分画手段としては、前記の分画処理方法を用いることができる。
【0028】
このように加熱縮合の反応条件の調整や酵素処理により調製して得られた重合度2~5の難消化性グルカンを、前記のような加工処理(例えば還元処理)に付して重合度2~5の難消化性グルカンの加工処理物を得ることもできる。
【0029】
本発明の重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物は、必要に応じて活性炭により脱色したものや、イオン交換樹脂によりイオン性成分を除去したものを濃縮し、濃縮液とすることができる。保存性やその後の用途においては、脱色、イオン除去したものを微生物の繁殖が問題とならない程度の水分活性となるまで濃縮することが好適である。あるいは、用途によっては、利用しやすいように乾燥させて、粉末とすることもできる。乾燥は、通常、凍結乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥などの公知の方法により実施できる。乾燥物は、必要により粉砕することが望ましい。すなわち、本発明の重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の態様は、その用途に応じて好適な性状を選択することができる。
【0030】
本発明によれば、(1)DE70~100の澱粉分解物を加熱縮合させて難消化性グルカンを調製する工程と、(2)得られた難消化性グルカンを分画処理して重合度2~5の難消化性グルカンを調製する工程とを含んでなり、場合によっては工程(1)の後に難消化性グルカンを還元処理する工程、または工程(2)の後に重合度2~5の難消化性グルカンを還元処理する工程をさらに含んでなる、乳酸菌および/またはビフィズス菌増殖促進剤の製造方法が提供される。
【0031】
本発明によればまた、(3)DE70~100の澱粉分解物を100℃~260℃で1~180分間の条件で加熱縮合させて重合度2~5の難消化性グルカンを調製する工程を含んでなり、場合によっては工程(3)の後に難消化性グルカンを還元処理する工程をさらに含んでなる、乳酸菌および/またはビフィズス菌増殖促進剤の製造方法が提供される。
【0032】
本発明によればまた、(1)DE70~100の澱粉分解物を加熱縮合させて難消化性グルカンを調製する工程と、(4)得られた難消化性グルカンを糖質分解酵素処理して重合度2~5の難消化性グルカンを調製する工程とを含んでなり、場合によっては工程(1)の後に難消化性グルカンを還元処理する工程、または工程(4)の後に重合度2~5の難消化性グルカンを還元処理する工程をさらに含んでなる、乳酸菌および/またはビフィズス菌増殖促進剤の製造方法が提供される。
【0033】
本願発明の増殖促進剤は、重合度2~5の難消化性グルカンおよびその加工処理物のいずれかまたは両方を含んでなる組成物(好ましくは糖質組成物)の形態で提供することができる。すなわち、本発明によれば、重合度2~5の難消化性グルカンおよびその加工処理物のいずれかまたは両方を含んでなる、乳酸菌および/またはビフィズス菌増殖促進用組成物(好ましくは糖質組成物)が提供される。本発明の組成物は本発明の増殖促進剤の記載に従って実施することができる。
【0034】
本願発明の増殖促進剤は、重合度2~5の難消化性グルカンおよびその加工処理物のいずれかまたは両方を、例えば10質量%以上または20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、特に好ましくは50質量%以上、60質量%以上または70質量%以上の含有量(固形分換算)で含む組成物(好ましくは糖質組成物)で提供することができ、含有量の上限値は100質量%とすることができる。
【0035】
本発明の重合度2~5の難消化性グルカンはNMR分析およびメチル化分析により、グルコース同士の結合様式を確認することができる。本発明の重合度2~5の難消化性グルカンはまた、HPLCを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)法により重合度を確認することで定量することができる。GPC法に用いるHPLCカラムは糖分析に適したHPLCカラムであればよく、その中でもサイズ排除モードと配位子変換モードを組み合わせたHPLCカラムが好ましい。本発明の重合度2~5の難消化性グルカンの定量はまた、MALDI/MSやESI/MSによる質量分析により分子量を決定し、重合度を確認することで定量することができる。なお、本発明の重合度2~5の難消化性グルカンは重合度2~5のマルトオリゴ糖を参考に、342~829kDaの分子量に対応するものとして特定することができる。
【0036】
GPC法による重合度2~5の難消化性グルカンの定量は次のように行う。試料を5%(w/v)となるよう純水で溶解し、イオン交換樹脂(製品名:MB4、オルガノ社製)処理後、0.45μmメンブレンフィルターでろ過して以下の条件にてHPLC分析を行い、得られた分子量分布の測定結果より、重合度2~5の難消化性グルカンの分子量に相当する342~829kDaの分子量に対応するピーク面積を合計し、総ピーク面積に対する割合として算出することができる。342~829kDaの分子量に対応する領域は構造確認したサンプルを予めHPLC分析した結果に基づいて特定できる。
カラム:Aminex HPX-42A (Bio-Rad Laboratories, Inc.製)
カラム温度:75℃
移動相:超純水
流速:0.5mL/分
検出器:示差屈折率検出器
サンプル注入量:10μL
【0037】
本発明の増殖促進剤は乳酸菌およびビフィズス菌のいずれかまたは両方の増殖促進に用いることができる。ここで、「増殖促進」とは、細菌の増殖を促進することのみならず、細菌の減少を抑制することおよび細菌の菌数を維持することを含む意味で用いられるものとする。また本発明において、乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進は、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進とすることができ、好ましくはヒトまたは非ヒト動物(例えばヒトを除く哺乳動物)の腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進である。前記の通り、重合度2~5の難消化性グルカンは多様な結合様式を持つ多分岐多糖であり、ヒトの消化酵素では分解し切れず、元の構造を維持したまま腸管に到達させることができる。このため本願発明の増殖促進剤は、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進に用いることができる。
【0038】
本発明において細菌の増殖促進は、増殖率を指標にして評価することができる。具体的には、食物繊維を含む培地に植菌して所定時間培養した後の培地のOD(光学密度)値から植菌をしていない食物繊維を含む培地のOD値を引いた値を、食物繊維を含まない培地に植菌して所定時間培養した後の培地のOD値から植菌をしていない食物繊維を含まない培地のOD値を引いた値で割り、100を掛けることで増殖率(%)を算出する(後記式(I)参照)。本発明においてはこの増殖率(%)が後記実施例の例1(1)の評価方法により180を超えた場合に十分な増殖促進効果があると判断する。
【0039】
本発明の増殖促進剤の対象となる乳酸菌は、ラクトバチルス属に属する有用細菌であれば特に制限はなく、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)が挙げられ、好ましくはラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノサスおよびラクトバチルス・ジョンソニイからなる群から選択される1種または2種以上の乳酸菌とすることができる。本発明の増殖促進剤の対象となるビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム属に属する細菌であれば特に制限はなく、例えば、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)が挙げられ、好ましくはビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス・サブスピーシーズ・ラクティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタムおよびビフィドバクテリウム・シュードロンガムからなる群から選択される1種または2種以上のビフィズス菌とすることができる。
【0040】
これら乳酸菌やビフィズス菌は炭水化物を分解して、短鎖有機酸、特に酢酸や乳酸を生成し、これにより腸内環境のpH値を低下させ、病原菌の生育を阻害することが可能になる。この点から乳酸菌やビフィズス菌は人の健康にとって特に望ましいと考えられる細菌、すなわちプロバイオティクスである。本発明の増殖促進剤はこのようなプロバイオティクスの増殖を促進できることから、プレバイオティクスとして用いることができる。
【0041】
本発明の増殖促進剤が対象とする乳酸菌およびビフィズス菌の好ましい作用としては、病原菌の抑制、血液中のアンモニアおよび脂質濃度の減少、抗生物質により損傷した腸内細菌叢の再生、免疫系の刺激、並びにビタミン(例えば、ビタミンB、葉酸)の生成が挙げられる。乳酸菌やビフィズス菌はまた、病原菌の定着や成長を阻害することによって、感染症、特に細菌性腸感染症に対する防御的および予防的効果を有する。乳酸菌やビフィズス菌はさらに、大腸内での短鎖脂肪酸の生産によって、大腸粘膜の栄養物補給と健康維持にも寄与する。したがって、本発明の増殖促進剤は非治療的な側面を有しており、主として健常人の腸内フローラを良好にし、または、腸内環境を改善することを目的として使用することができる。本発明の増殖促進剤はまた、治療的な側面を有しており、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善を目的として使用することもできる。
【0042】
本発明の増殖促進剤は、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料(ペットフードを含む)等に配合して使用することができる。すなわち本発明の増殖促進剤は飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等への添加剤として使用することができる。有効成分である重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の飲食品、医薬品、医薬部外品等への配合量は、乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進効果を発揮できる量であれば特に限定されない。
【0043】
本発明の増殖促進剤を配合する飲食品の種類に特に制限はなく、例えば、日常的に食する飲食品、健康食品(サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、栄養補助食品等)、病者用食品等として提供することができる。その形態としては、飲食物、錠剤、液剤、カプセル(軟カプセル、硬カプセル)、粉末、顆粒、スティック、ゼリーなどが挙げられる。このような飲食品は、飲食品の製造に通常用いられる方法に従って、製造することができる。
【0044】
本発明の飲食品は本発明の増殖促進剤を含有することから、非治療的な側面を有しており、主として健常人における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進のために用いることができるとともに、主として健常人に対してプレバイオティクスとして用いることもできる。本発明の飲食品はまた、非治療的な側面から、主として健常人の腸内フローラを良好にし、または、腸内環境を改善することを目的として使用することができる。本発明の飲食品はまた、治療的な側面を有しており、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状(例えば、便秘症、下痢症(慢性下痢症および急性下痢症を含む)、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患)の治療または改善を目的として使用することもできる(Seong-Eun Kim et al., J. Neurogastroenterol Motil., Vol.21(1), 111-120 (2015); N. KIMURA et al., Bifidobacteria Microflora, Vol.2(1), 41-55 (1983); M. Mylonaki et al., Inflamm. Bowel Dis. Vol.11(5), 481-487 (2005); M. H. Giaffer et al., J. Med. Microbiol., Vol.35, 238-243 (1991); R. C. Martinez et al., Br. J. Nutr. Vol.114(12), 1993-2015(2015); S. Watanabe et al., Bioscience of Microbiota, Food and Health Vol.40(2), 123-134(2021))。例えば、過敏性腸症候群はビフィドバクテリウム・インファンティスの増殖促進により治療または改善できることが知られている(R. C. Martinez et al., Br. J. Nutr. Vol.114(12), 1993-2015(2015))。
【0045】
本発明の有効成分である重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を飲食品として提供する場合には、有効成分をそのまま飲食品として提供するか、あるいはそれを飲食品に含有させて提供することができる。このようにして提供された飲食品は本発明の有効成分を有効量含有した飲食品である。本明細書において、本発明の有効成分を「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に後述するような範囲で本発明の有効成分が摂取されるような含有量をいう。
【0046】
本発明の有効成分である重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を適用できる飲食品としては、例えば、以下のものが挙げられる。
・ノンアルコール飲料(果汁含有飲料、果汁ジュース、野菜ジュース、炭酸飲料、アイソトニック飲料、アミノ酸飲料、スポーツ飲料、コーヒー、カフェオレ、ココア飲料、茶系飲料、乳酸菌飲料、乳飲料、栄養ドリンク、ノンアルコールビール、ノンアルコールチューハイ、ノンアルコールカクテル、ニアウォーター、フレーバーウォーターなど)、アルコール飲料(ビール、発泡酒、リキュール、チューハイ、清酒、ワイン、果実酒、カクテル、蒸留酒など)などの飲料類
・アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、かき氷、フラッペ、フローズンヨーグルト、ゼリー、プリン、ババロア、水羊羹などの冷菓類
・水飴、果実のシロップ漬、氷みつ、チョコレートシロップ、カラメルシロップなどのシロップ類
・フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、バタークリーム、カスタードクリームなどのペースト類
・マーマレード、フルーツソース、ブルーベリージャム、苺ジャムなどのジャム類
・食パン、ロールパン、ブリオッシュ、蒸しパン、あんパン、クリームパンなどのパン類
・ビスケット、クラッカー、クッキー、ワッフル、マフィン、スポンジケーキ、パイなどの焼菓子類
・シュークリーム、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、ヌガー、キャンディなどの洋菓子類
・せんべい、あられ、おこし、求肥、餅類、まんじゅう、大福、ういろう、餡類、錦玉、カステラ、飴玉などの和菓子類
・醤油、魚醤、味噌、ひしお、マヨネーズ、ドレッシング、三杯酢、天つゆ、麺つゆ、ウスターソース、オイスターソース、ケチャップ、焼き鳥のタレ、焼き肉のタレ、漬け込みタレ、甘味料、粉飴、食酢、すし酢、カレールウ、中華の素、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルソルト、テーブルシュガーなどの各種調味料類
・パスタソース、ミートソース、トマトソース、ホワイトソース、デミグラスソース、カレーソース、ハヤシソース、グレービーソース、ハンバーグソース、サルサソース、ステーキソースなどのソース類
・糠漬け、粕漬け、味噌漬け、福神漬け、べったら漬、奈良漬け、千枚漬、梅干しなどの漬物類
・たくわん漬の素、白菜漬の素、キムチの素などの漬物の素
・ハム、ベーコン、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボールなどの畜肉製品類
・魚肉ハム、魚肉ソーセージ、カマボコ、チクワ、干物などの魚肉製品類
・塩ウニ、カラスミ、塩辛、なれずし、酢コンブ、さきするめ、田麩などの各種珍味類
・海苔、山菜、するめ、小魚、貝などで製造される佃煮類
・煮豆、煮魚、ポテトサラダ、コンブ巻などの惣菜食品
・乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜などの瓶詰類や缶詰類
・天ぷら、トンカツ、フリッター、唐揚げ、竜田揚げなどの揚げ物用衣類
・うどん、そば、中華麺、パスタ、春雨、ビーフン、餃子の皮、シューマイの皮などの麺類
・プリンミックス、ホットケーキミックス、即席ジュース、即席コーヒー、即席汁粉、即席スープなどの即席食品類
【0047】
本発明において、重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を日常的に食する飲食品に配合する場合には、飲食品における含有量は、例えば、その下限値(以上または超える)は0.5質量%、1質量%、1.5質量%とすることができ、その上限値(以下または未満)は35質量%、30質量%、25質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、日常的に食する食品における重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の含有量(固形分換算)の範囲は、例えば、0.5~35質量%、1~30質量%、1.5~25質量%とすることができる。
【0048】
本発明において、重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物をサプリメント(例えば、スティックサプリメント)として提供する場合には、サプリメントにおける含有量は、例えば、その下限値(以上または超える)は50質量%、60質量%、70質量%とすることができ、その上限値(以下または未満)は100質量%、98質量%、95質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、サプリメントにおける重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物の含有量(固形分換算)の範囲は、例えば、50~100質量%、60~98質量%、70~95質量%とすることができる。
【0049】
本発明の有効成分である重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を医薬品または医薬部外品として提供する場合には、必要に応じて、有効成分に対し薬学上許容される基材や担体を添加して製剤化することができる。例えば、重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を経口投与される医薬品または医薬部外品に製剤化することができる。経口投与製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、粉末、顆粒、カプセル剤が挙げられる。このような製剤は、医薬品および医薬部外品の製造に通常用いられる方法に従って、製造することができる。
【0050】
本発明の医薬品または医薬部外品は本発明の増殖促進剤を含有することから、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状(例えば、便秘症、下痢症、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患)の治療または改善を目的として使用することができる。例えば、本発明によれば、重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を整腸剤として提供することができる。本発明による整腸剤は医薬品または医薬部外品として使用することができる。
【0051】
本発明において、重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物を医薬品または医薬部外品に配合する場合には、医薬品または医薬部外品における含有量は、例えば、その下限値(以上または超える)は0.1質量%とすることができ、その上限値(以下または未満)は30質量%とすることができる。
【0052】
本発明の有効成分の摂取量または投与量は、受容者の性別、年齢および体重、摂取時間、剤形、症状、摂取・投与経路、並びに組み合わせる食品・薬剤等に依存して決定できる。本発明の有効成分の成人1日当たりの摂取量または投与量は固形分換算質量により特定することができ、例えば、その下限値は0.1g、3gとすることができ、その上限値は30g、10gとすることができる。これらの上限値および下限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記摂取量または投与量の範囲は、例えば、0.1~30g、3~10gとすることができる。
【0053】
本発明の増殖促進剤または本発明の有効成分は、腸内フローラのバランスが崩れた対象や、腸内フローラのバランスが崩れる恐れがある対象に摂取させ、あるいは投与することができる。このような摂取または投与対象としては、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌(好ましくは、ラクトバチルス属に属する有用細菌またはビフィドバクテリウム属に属する有用細菌、より好ましくはラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノサスおよびラクトバチルス・ジョンソニイからなる群から選択される1種または2種以上の乳酸菌および/またはビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス・サブスピーシーズ・ラクティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタムおよびビフィドバクテリウム・シュードロンガムからなる群から選択される1種または2種以上のビフィズス菌)の全腸管内細菌に対する割合が参照値に対して低下している対象や、腸管内における有用常在腸内細菌(好ましくは、ブラウチア・ハンセニイ、コリンゼラ・アエロファシエンス、ロゼブリア・インテスティナーリスおよびルミノコッカス・トルクエスからなる群から選択される1種または2種以上の常在腸内細菌)の全腸管内細菌に対する割合が参照値に対して低下している対象が挙げられる。参照値は、例えば、健康状態が良好なヒトの腸内細菌の分析結果を元に設定することができる(S. Watanabe et al., Bioscience of Microbiota, Food and Health Vol.40(2), 123-134(2021))。したがって、本発明の増殖促進剤または本発明の有効成分を対象に摂取させ、あるいは投与する場合には、それに先立って腸内細菌(腸内フローラ)の検査または測定を実施してもよく、その検査または測定結果に基づいて腸内フローラのバランスが崩れた対象や、腸内フローラのバランスが崩れる恐れがある対象に本発明の増殖促進剤または本発明の有効成分を摂取させ、あるいは投与してもよい(Seong-Eun Kim et al., J. Neurogastroenterol Motil., Vol.21(1), 111-120 (2015); N. KIMURA et al., Bifidobacteria Microflora, Vol.2(1), 41-55 (1983); M. Mylonaki et al., Inflamm. Bowel Dis. Vol.11(5), 481-487 (2005); M. H. Giaffer et al., J. Med. Microbiol., Vol.35, 238-243 (1991); R. C. Martinez et al., Br. J. Nutr. Vol.114(12), 1993-2015(2015); S. Watanabe et al., Bioscience of Microbiota, Food and Health Vol.40(2), 123-134(2021))。なお、対象はヒトまたは非ヒト動物であり、非ヒト動物としては、ヒトを除く哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル)が挙げられる。
【0054】
本発明によれば、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物またはそれを含む組成物を、それを必要とする対象に摂取させるか、または投与することを含んでなる、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進方法、腸内環境の改善方法、あるいは腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善方法が提供される。本発明の方法は、本発明の剤に関する記載に従って実施することができる。
【0055】
本発明によればまた、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進剤の製造のための、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進剤としての、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進のための、あるいは、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進方法における、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物またはそれを含む組成物の使用が提供される。
【0056】
本発明によればまた、腸内環境改善剤またはプレバイオティクスの製造のための、腸内環境改善剤またはプレバイオティクスとしての、腸内環境改善のための、あるいは、腸内環境の改善方法における、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物またはそれを含む組成物の使用が提供される。
【0057】
本発明によればまた、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善剤の製造のための、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善剤としての、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善のための、あるいは、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善方法における、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物またはそれを含む組成物の使用が提供される。本発明の使用は、本発明の剤および本発明の方法に関する記載に従って実施することができる。
【0058】
本発明によればさらに、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進に用いるための、腸内環境の改善に用いるための、腸管内における乳酸菌および/またはビフィズス菌の増殖促進により治療または改善できる疾患または症状の治療または改善に用いるための、あるいは、本発明の治療または改善方法に用いるための、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる重合度2~5の難消化性グルカンおよび/またはその加工処理物またはそれを含む組成物が提供される。これらの発明は、本発明の剤および本発明の方法に関する記載に従って実施することができる。
【0059】
本発明の方法および本発明の使用はヒトを含む哺乳動物における使用であってもよく、治療的使用と非治療的使用のいずれもが意図される。本明細書において、「非治療的」とはヒトを手術、治療または診断する行為(すなわち、ヒトに対する医療行為)を含まないことを意味し、具体的には、医師または医師の指示を受けた者がヒトに対して手術、治療または診断を行う方法を含まないことを意味する。
【実施例】
【0060】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0061】
食物繊維含量の測定
食物繊維含量は、平成28年11月17日消食表第706号(食品表示基準について)に記載されている高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)により測定した。具体的には以下のように行った。
【0062】
まず、サンプル1gを精密に測り、0.08mol/Lリン酸緩衝液50mLを加え、pH6.0±0.5であることを確認した。これに熱安定性α-アミラーゼ(EC3.2.1.1、バチルス・リセニフォルマ(Bacillus licheniformis)由来、Sigma)溶液0.1mLを加え、沸騰水中に入れ、5分ごとに撹拌しながら30分間放置した。次いで、冷却後、水酸化ナトリウム溶液(1.1→100)を加えてpHを7.5±0.1に調整した。プロテアーゼ(EC.3.4.21.62、バチルス・リセニフォルマ由来、Sigma社)溶液0.1mLを加えて、60±2℃の水浴中で振とうしながら30分間反応させた。次いで、冷却後、0.325mol/L塩酸を加え、pHを4.3±0.3に調整した。アミログルコシダーゼ(EC3.2.13、アスペルギルス・ニジェール(Aspergillus niger)由来、Sigma社)溶液0.1mLを加え、60±2℃の水浴中で振とうしながら30分間反応させた。以上の酵素処理終了後、直ちに沸騰水浴中で10分間加熱した後、冷却し、グリセリン(10→100)を内部標準物質として5mL加え、水で100mLとし酵素処理液とした。次に、酵素処理液50mLをイオン交換樹脂(OH型:H型=1:1)50mLが充填されたカラム(ガラス管20mm×300mm)に通液速度50mL/時で通液し、さらに水を通して流出液の全量を200mLとした。この溶液をロータリー・エバポレーターで濃縮し、全量を水で20mLとした。孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、検液とした。次に、検液20μLにつき、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を行い、検液のグリセリンおよび食物繊維画分のピーク面積値を測定した。
【0063】
HPLCの分析条件は以下の通りであった。
カラム:ULTRON PS-80N(φ8.0×300mm、島津ジーエルシー社製)を二本連結
カラム温度:80℃
移動相:純水
流速:0.5mL/分
検出器:示差屈折計
注入量:20μL
【0064】
食物繊維成分含量は以下の計算式(I)から算出した。
【数1】
(上記式中、f1はグリセリンとブドウ糖のピーク面積の感度比(0.82)である。)
【0065】
重量平均分子量の測定
各サンプルを10%(w/v)となるよう純水で溶解し、イオン交換樹脂(MB4、オルガノ)処理後、0.45μmメンブレンフィルターでろ過した。ろ液を終濃度50mM 硝酸ナトリウム、サンプル濃度を5%(w/v)となるよう調整し、分子量分析を行なった。較正曲線のスタンダードは、グルコース(富士フイルム和光純薬)、マルトトリオース(富士フイルム和光純薬)、プルランスタンダードP-82(昭和電工)を用いた。
【0066】
分析条件は下記の通りであった。
カラム:Shodex OHpak SB- 803 HQ+KB-802.5HQ(φ8.0×300mm、昭和電工)
カラム温度:70℃
移動相:50mM硝酸ナトリウム
流速:0.3mL/分
注入量:10μL
解析ソフト:Agilent OpenLAB CDS Ezchrom Edition(version.A.04.07.,Agilent Technology)
【0067】
糖組成の測定
各サンプルを5%(w/v)となるよう純水で溶解し、イオン交換樹脂(MB4、オルガノ)処理後、0.45μmメンブレンフィルターでろ過して下記の条件にてHPLC分析を行なった。
【0068】
カラム:Aminex HPX-42A (Bio-Rad Laboratories, Inc.)
カラム温度:75℃
移動相:超純水
流速:0.5mL/分
検出器:示差屈折率検出器
サンプル注入量:10μL
【0069】
例1:各種糖質の細菌増殖に対する影響
【0070】
(1)腸内細菌による各種糖質のイン・ビトロ資化性試験方法
所定量のGAMブイヨン(日水製薬)をショット瓶に測り取り、Elix水で溶解して前培養用培地を作製した。次いで、当該前培養培地を115℃、15分間オートクレーブで滅菌処理し、97℃まで低下した段階でオートクレーブから取り出し、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学、以下同様)とともにアネロパック角形ジャー(三菱ガス化学、以下同様)に入れ、37℃の恒温機内で一晩静置保管した。次いで、一晩静置保管した前培養用培地を96ウェルマイクロプレートに200μLずつ分注し、そこに事前に準備した表1に示す各種腸内細菌の凍結菌2μL(菌数:2.0×104cfu/mL以上)を添加した。次いで、マイクロプレートにSureseal Breathable(ビーエム機器、以下同様)を貼り付け、アネロパック・ケンキとともにアネロパック角形ジャーに入れ、37℃の恒温機内で表1に示す所定の培養時間で静置保管して対数増殖期となるように前培養をおこなった。
【0071】
本培養開始2日前に、所定量のGAM糖分解用半流動培地(日水製薬)をElix水にて溶解した後、定性濾紙(アドバンテック東洋)でろ過し、GAM糖分解用半流動液体培地を作製した。次いで、当該液体培地を115℃、15分間オートクレーブで滅菌処理し、97℃まで低下した段階でオートクレーブから取り出し、アネロパック・ケンキとともにアネロパック角形ジャーに入れ、37℃の恒温機内で一晩静置保管した。次いで、本培養開始前日、一晩静置保管したGAM糖分解用半流動液体培地に、事前に準備した各種糖質溶液(Brix値5.0度)を最終濃度が0.5%(w/v)となるように混合し、本培養培地を作製した(本培養培地)。また、対照の培地として、一晩静置保管したGAM糖分解用半流動液体培地に、各種糖質を混合せずに、糖質を含まない本培養培地を作製した(対照本培養培地)。各種糖質として、難消化性グルカン(フィットファイバー(登録商標)#80、日本食品化工)、重合度2~5の難消化性グルカン(フィットファイバー#80を下記手順により分画して得られたもの)、重合度5以上の難消化性グルカン(前記と同様)、難消化性デキストリン(ファイバーソル2、松谷化学工業)およびポリデキストロース(ライテスII、デュポン)を使用した。次いで、本培養培地または対照本培養培地を96ウェルマイクロプレートに200μLずつ分注し、マイクロプレートにSureseal Breathableを貼り付け、アネロパック・ケンキとともにアネロパック角形ジャーに入れ、37℃の恒温機内で一晩静置保管した。
【0072】
ここで、フィットファイバー#80は、DE87(レーンエイノン法で測定)の澱粉分解物を特開2013-76044号公報に記載の方法に従って、活性炭を触媒として加熱縮合させることで得られる糖縮合物である。また、フィットファイバー#80の分画はエタノール沈殿法およびイオン交換樹脂を用いたクロマト分離法により行った。
【0073】
本培養開始当日、一晩静置保管した本培養培地または対照本培養培地を分注したマイクロプレートに、表1に示す所定時間で前培養した前培養液2μLを添加した。また、対照として、一晩静置保管した本培養培地または対照本培養培地を分注したマイクロプレートに、前培養液を添加せずに、細菌を含まない本培養培地または対照本培養培地とした。次いで、これらのマイクロプレートにSureseal Breathableを貼り付け、アネロパック・ケンキとともにアネロパック角形ジャーに入れ、37℃の恒温機内で表1に示す所定の培養時間、静置保管して本培養をおこなった。次いで、所定時間経過した本培養培地または対照本培養培地を、マルチチャンネルピペットマンを用いて10回以上ピペッティングすることにより培地を攪拌した後、マイクロプレートリーダー(インフィニット F50R、テカンジャパン)を用いてOD595を測定した。これらの測定値から以下の計算式(II)により細菌の増殖率(%)を算出した。なお、増殖率が180%を超えた場合に細菌の増殖が十分促進されたと判断した。
【0074】
【0075】
【0076】
(2)結果
結果は、表2および
図1~5に示される通りであった。
【0077】
【0078】
難消化性グルカンを含む本培養培地を用いた資化性試験の結果は表2および
図1に示される通りであった。
図1の結果から、増殖率が180%を超える細菌は見られなかったことから、難消化性グルカンによる各種細菌の増殖に対する十分な促進効果は認められなかった。
【0079】
重合度2~5の難消化性グルカンを含む本培養培地を用いた資化性試験の結果は表2および
図2に示される通りであった。
図2の結果から、常在腸内細菌(ブラウチア・ハンセニイ JCM14655株、コリンゼラ・アエロファシエンス JCM7790株、ロゼブリア・インテスティナーリス JCM17583株およびルミノコッカス・トルクエス JCM6553株)、乳酸菌(ラクトバチルス・ガセリ JCM1131株、ラクトバチルス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノサス JCM1136株およびラクトバチルス・ジョンソニイ JCM2012株)並びにビフィズス菌(ビフィドバクテリウム・アドレセンティス JCM1275株、ビフィドバクテリウム・インファンティス JCM1222株、ビフィドバクテリウム・アニマリス・サブスピーシーズ・ラクティス JCM10602株、ビフィドバクテリウム・ブレーベ JCM1192株、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム JCM1194株、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタム JCM1200株およびビフィドバクテリウム・シュードロンガム DSMZ20099株)で増殖率が180%を超える増殖が確認されたことから、重合度2~5の難消化性グルカンによる上記細菌の増殖に対する十分な促進効果が確認された。なお、悪玉菌として知られるクロストリジウム・サイデンス JCM6567株およびフソバクテリウム・バリウム JCM6320株の増殖に対する重合度2~5の難消化性グルカンによる促進効果は認められなかった。
【0080】
重合度5以上の難消化性グルカンを含む本培養培地を用いた資化性試験の結果は表2および
図3に示される通りであった。
図3の結果から、いずれの細菌においても増殖率180%を超えるものは見られなかったことから、重合度5以上の難消化性グルカンによる各種細菌の増殖に対する十分な促進効果は認められなかった。
【0081】
難消化性デキストリンを含む本培養培地を用いた資化性試験の結果は表2および
図4に示される通りであった。
図4の結果から、常在腸内細菌であるアナエロツルンカス・コリホミニス JCM15631株およびビフィズス菌であるビフィドバクテリウム・アニマリス・サブスピーシーズ・ラクティス JCM10602株で増殖率が180%を超える増殖が確認されたことから、難消化性デキストリンによるこれらの細菌の増殖に対する十分な促進効果が確認された。
【0082】
ポリデキストロースを含む本培養培地を用いた資化性試験の結果は表2および
図5に示される通りであった。
図5の結果から、ビフィズス菌であるビフィドバクテリウム・ビフィダム JCM1255株で増殖率が180%を超える増殖が確認されたことから、ポリデキストロースによるこの細菌の増殖に対する促進効果が確認された。
【0083】
以上の結果から、重合度2~5の難消化性グルカンが乳酸菌およびビフィズス菌の増殖を促進することが示された。また、低分子(重合度2~5)の難消化性グルカンは同じ水溶性食物繊維として知られる難消化性デキストリンやポリデキストロースと比較して乳酸菌およびビフィズス菌を増殖させる効果が高いことが示された。すなわち、低分子(重合度2~5)の難消化性グルカンは、乳酸菌およびビフィズス菌を増殖させるプレバイオティクス用組成物として有用であることが示された。
【0084】
例2:加熱縮合による難消化性グルカンの調製
(1)方法
固形分濃度70%の澱粉分解物(DE87)1000gに活性炭(フタムラ化学)21gを添加し混合した後、流速2.1kg/hで2軸エクストルーダー反応機(φ25、テクノベル)に供し、回転数100rpmおよび表3に示される温度で加熱反応させて難消化性グルカンを調製した。加熱反応後の難消化性グルカンを室温まで冷却し、濾過処理により活性炭を完全に除去した。次いで、得られた難消化性グルカンを活性炭による脱色濾過およびイオン交換樹脂による脱塩を行った後、エバポレーターで濃縮した。
【0085】
得られた各サンプルについて食物繊維含量、重量平均分子量および糖組成を測定した。
【0086】
(2)結果
結果は表3に示される通りであった。なお、表中の「加熱反応生成物に対する重合度2~5の比率(質量%)」とは重合度2以上の加熱反応生成物(難消化性グルカン)に対する重合度2~5の難消化性グルカンの比率(質量%)を表す。
【0087】
【0088】
表3の結果から、DE87の澱粉分解物を加熱縮合反応させることで得られた糖縮合物である難消化性グルカンは加熱温度の上昇に応じて食物繊維含量および重量平均分子量が大きくなることが確認された。また、加熱温度を適宜調整することで重合度2~5の画分を多く含む難消化性グルカンを調製できることが確認された。
【0089】
例3:難消化性グルカンの酵素処理物の検討
(1)方法
例2(1)で得られた各サンプルを固形分20%水溶液とし、サンプルの固形分1gあたりの酵素添加量が各々1.0Uとなるようにα-アミラーゼ(クライスターゼT5N、天野エンザイム)およびグルコアミラーゼ(デキストロザイムDXJ、ノボザイム)を添加し、60℃で48時間反応させた。なお、α-アミラーゼの活性度は旧JIS K7001-1972に定められている細菌α-アミラーゼ活性測定法により、グルコアミラーゼの活性度はJIS K7001-1990に定められているグルコアミラーゼ活性測定法により、それぞれ測定した。次いで、煮沸により酵素を失活させた後、濾過処理により活性炭を完全に除去して難消化性グルカンの酵素処理物を得た。得られた難消化性グルカン酵素処理物を活性炭による脱色濾過およびイオン交換樹脂による脱塩を行った後、エバポレーターで濃縮した。
【0090】
得られた各サンプルについて食物繊維含量、重量平均分子量および糖組成を測定した。
【0091】
(2)結果
結果は表4に示される通りであった。なお、表中の「加熱反応生成物に対する重合度2~5の比率(質量%)」とは重合度2以上の加熱反応生成物(難消化性グルカン)に対する重合度2~5の難消化性グルカンの比率(質量%)を表す。
【0092】
【0093】
表4の結果から、DE87の澱粉分解物を加熱縮合反応させることで得られた糖縮合物である難消化性グルカンはα-アミラーゼおよびグルコアミラーゼによる酵素処理により易資化性糖がグルコースに変換されることが確認された。また、α-アミラーゼおよびグルコアミラーゼによる酵素処理によっても消化されない重合度2~5の画分を多く含む難消化性グルカンを調製できることが確認された。