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特許7466166乳酸菌含有ウイルス感染防御剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】乳酸菌含有ウイルス感染防御剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/744 20150101AFI20240405BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240405BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20240405BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240405BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
A61K35/744
A23L33/135
A61K35/747
A61P31/12
A61P37/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018149553
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020023459
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2020-03-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 FOOD STYLE 21、第21巻、第4号、58~62頁(平成30年4月1日、株式会社食品化学新聞社)
(73)【特許権者】
【識別番号】505164690
【氏名又は名称】有限会社バイオ研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】菅 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】林 京子
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/157073(WO,A1)
【文献】特開2017-081853(JP,A)
【文献】特開2012-072113(JP,A)
【文献】特表2002-537866(JP,A)
【文献】Nature,2014年,Vol.513,pp.382-387
【文献】岩崎未央,遺伝子発現の量と質を制御するメカニズムを明らかにする,K-CONNEX研究者紹介[online],2021年,pp.12-13,[令和4年8月31日検索]、インターネット、<URL:http://k-connex.kyoto-u.ac.jp/ja/wp-content/uploads/sites/2/2021/03/K-CONNEEX_reserachers_pamph.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35/00-35/768, A23L31/00-31/15, A23L33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式によるレーザー回折散乱法により測定された菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下であり、経口摂取によりパイエル板到達性を有する乳酸菌末を有効成分とする経口摂取用の乳酸菌含有ウイルス感染防御剤。
【請求項2】
ノロウイルスに対する、請求項記載の乳酸菌含有ウイルス感染防御剤。
【請求項3】
前記乳酸菌末の乳酸菌は、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)である、請求項1又は2に記載の乳酸菌含有ウイルス感染防御剤。
【請求項4】
乳酸菌の菌体培養液を乾燥菌体換算で0.01質量%以上88質量%未満となるように調製し、該菌体培養液に可溶性賦形剤を乾燥終濃度で12質量%以上となるように添加し、該可溶性賦形剤を添加した菌体培養液を粉砕・分散した後、乾燥粉末化することにより、湿式によるレーザー回折散乱法により測定された菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下であり、経口摂取によりパイエル板到達性を有する乳酸菌末を得て、該乳酸菌末を有効成分として含有させることを特徴とする経口摂取用の乳酸菌含有ウイルス感染防御剤の製造方法。
【請求項5】
前記粉砕・分散をミキサー又はホモゲナイザーを用いて行う、請求項に記載の乳酸菌含有ウイルス感染防御剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口摂取された乳酸菌のパイエル板への到達性を高め乳酸菌を含有する乳酸菌含有ウイルス感染防御剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、IL-12産生誘導能を有する乳酸菌の菌体に分散剤又は賦形剤を添加し、これを湿式分散処理して前記菌体の粒度を1ミクロン未満に粉砕・分散することで、前記菌体を前記分散剤又は賦形剤によって再凝集防止し、その状態で粉末化することを特徴とするTh1誘導剤の製造方法を既に提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4621218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乳酸菌はパイエル板から取り込まれ免疫細胞に渡されることが知られているが、必ずしもすべての乳酸菌が取り込まれるわけではないことも知られている。
【0005】
本発明の目的は、経口摂取された乳酸菌のパイエル板への到達性を高めた乳酸菌含有ウイルス感染防御剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明者らは、種々研究した結果、乳酸菌の菌体培養液に可溶性賦形剤を添加して所定の調製をした後、該菌体培養液を粉砕・分散し、さらに乾燥粉末化することにより得られた乳酸菌末が、経口摂取された場合にパイエル板への到達性が高まり、優れたウイルス感染防止効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の一つは、湿式によるレーザー回折散乱法により測定された菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下である乳酸菌末を有効成分とする乳酸菌含有ウイルス感染防御剤を提供するものである。本発明のウイルス感染防御剤によれば、乳酸菌の菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下と小さいことにより、消化管粘膜面を覆っている粘液の網目構造をすり抜けて、パイエル板に到達することができる。そして、パイエル板上のM細胞から取り込まれ、その下層に待機する樹上細胞やマクロファージに捕捉されることで、これらの細胞がサイトカインを産生し、免疫反応を活性化することができる。それによって、優れたウイルス感染防御効果が発揮される。
【0008】
本発明の乳酸菌含有ウイルス感染防御剤における前記乳酸菌末は、経口摂取によりパイエル板到達性を有することが好ましい。
【0009】
本発明の乳酸菌含有ウイルス感染防御剤は、ノロウイルスに対するものであることが好ましい。
【0010】
前記乳酸菌末の乳酸菌は、ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチラス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、及びエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)からなる群から選択された1種又は2種以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のもう一つは、乳酸菌の菌体培養液を乾燥菌体換算で0.01質量%以上88質量%未満となるように調製し、該菌体培養液に可溶性賦形剤を乾燥終濃度で12質量%以上となるように添加し、該可溶性賦形剤を添加した菌体培養液を粉砕・分散した後、乾燥粉末化することにより、湿式によるレーザー回折散乱法により測定された菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下である乳酸菌末を得て、該乳酸菌末を有効成分として含有させることを特徴とする乳酸菌含有ウイルス感染防御剤の製造方法を提供するものである。
本発明において、前記粉砕・分散をミキサー又はホモゲナイザーを用いて行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乳酸菌含有ウイルス感染防御剤によれば、乳酸菌の菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下と小さいことにより、消化管粘膜面を覆っている粘液の網目構造をすり抜けて、パイエル板に到達することができる。そして、パイエル板上のM細胞から取り込まれ、その下層に待機する樹上細胞やマクロファージに捕捉されることで、これらの細胞がサイトカインを産生し、免疫反応を活性化することができる。それによって、優れたウイルス感染防御効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】デキストリンの各添加量における、乳酸菌菌体粒子のメジアン径の測定結果を示す図表である。
図2】デキストリンの各添加量((A)0質量%、(B)10質量%、(C)15質量%)における、乳酸菌菌体粒子の粒度分布(縦軸:相対粒子量(%)、横軸:粒子径(μm))を示す図表である。
図3】デキストリンの各添加量((D)20質量%、(E)25質量%、(F)50質量%)における、乳酸菌菌体粒子の粒度分布を示す図表である。
図4】(A)乳酸菌分散型が粘液の網目構造をすり抜けてパイエル板に達している様子、(B)乳酸菌分散型がパイエル板上のM細胞に取り込まれている様子、(C)乳酸菌凝集型が粘液の網目構造をすり抜けられず、パイエル板に達していない様子を示す図表である。
図5】免疫機能正常MNVマウスの糞便中のウイルス量の経時変化を示す図表である。
図6】免疫機能低下MNVマウスの糞便中のウイルス量の経時変化を示す図表である。
図7】免疫機能正常MNVマウス、及び免疫機能低下MNVマウスの中和抗体価を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の乳酸菌含有ウイルス感染防御剤に用いる乳酸菌末の原料となる乳酸菌としては、特に限定されないが、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)等のラクトバチルス属に属する微生物、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等のエンテロコッカス属に属する微生物、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)等のストレプトコッカス属に属する微生物、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属に属する微生物等が挙げられる。
【0015】
上記乳酸菌の中でも、ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチラス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、及びエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)からなる群から選択された1種又は2種以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の乳酸菌含有ウイルス感染防御剤に用いる乳酸菌末は、まず、上記乳酸菌の菌体培養液を乾燥菌体換算で0.01質量%以上88質量%未満となるように、好ましくは0.1質量%以上80質量%未満となるように、より好ましくは1質量%以上50質量%未満となるように調製する。
【0017】
このように調製した菌体培養液に、可溶性賦形剤を乾燥終濃度で12質量%以上となるように、好ましくは13質量%以上となるように、より好ましくは15質量%以上となるように添加する。可溶性賦形剤を12質量%以上添加することで、後述する粉砕・分散する際の乳酸菌末の再凝集を防止することができる。
【0018】
用いる可溶性賦形剤としては、特に限定されず、例えば、デキストリン;マルトデキストリン;キサンタンガム;ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、及びキシリトール等の糖アルコール類;デキストロース、フルクトース、グルコース、ラクトース、ショ糖等の糖類;アジピン酸、クエン酸、フマル酸、グルタル酸、リンゴ酸、コハク酸、及び酒石酸等の有機酸類等が挙げられる。
【0019】
次に、可溶性賦形剤を添加した菌体培養液を粉砕・分散する。粉砕・分散方法としては、攪拌、ミキサー、ホモゲナイザー、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ジェネレーター等を用いた公知の手法が挙げられるが、ミキサー又はホモゲナイザーを用いて行うことが好ましい。
【0020】
粉砕・分散した後、菌体培養液を乾燥粉末化する。乾燥粉末化方法としては、凍結乾燥、減圧噴霧乾燥等を用いた公知の手法が挙げられる。
【0021】
このようにして得られた乳酸菌末の、湿式のレーザー回析錯乱法により測定された菌体粒子のメジアン径は1.0μm以下であり、好ましくは0.9μm以下であり、より好ましくは0.8μm以下である。菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下と小さいことにより、消化管粘膜面を覆っている粘液の網目構造をすり抜けて、パイエル板に到達することができる。そして、パイエル板上のM細胞から取り込まれ、その下層に待機する樹上細胞やマクロファージに捕捉されることで、これらの細胞がサイトカインを産生し、免疫反応を活性化することができる。
【0022】
なお、本明細書において、「菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下である」とは、菌体粒子の粒径が、小さい側からの体積累積が50%に相当する粒径が1.0μm以下であることを指す。
【0023】
菌体粒子のメジアン径は、以下に記載の条件における湿式によるレーザー回折散乱法により測定される。具体的には、(株)島津製作所製の粒度分布測定装置SALD-3100を用いて常法により、詳細には、フローセルを使用し、水を測定溶媒とし、屈折率が1.55-0.00i、測定吸光度範囲の最大値を0.2、最小値を0.02とした条件で、測定したものにより得られる。
【0024】
本発明の方法で得られた乳酸菌は、ウイルス感染防御のために用いることができる。ウイルスは特に限定されないが、例えば、ロタウイルス、ポリオウイルス、インフルエンザウイルス、エイズウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、サポウイルス、アストロウイルス、アイチウイルス、パレコウイルス等が挙げられる。
【0025】
また、本発明の方法により得られた乳酸菌は、免疫活性増強のために用いることができる。本発明の方法により得られた乳酸菌は、経口摂取した際のパイエル板の到達性が向上しているので、摂取することにより、樹状細胞やマクロファージが活性化され免疫活性が増強して、生体防御力が高まり種々の病気の予防が可能となる。
【0026】
本発明の方法により得られた乳酸菌は、そのままでも製品とすることができるが、風味を上げたり、必要な形状とする等のために種々の成分を添加、配合し、更にフレーバーを添加して最終製品とすることもできる。
【0027】
乳酸菌に添加、配合される成分としては、各種糖質や乳化剤、甘味料、酸味料、果汁等が挙げられる。より具体的には、グルコース、シュークロース、フラクトース、蜂蜜等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット等の糖アルコール、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等の各種ビタミン類やハーブエキス、穀物成分、野菜成分、乳成分等が挙げられる。
【0028】
また、フレーバーとしては、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、シソ系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、ペア、カスタードクリーム、ピーチ、メロン、バナナ、トロピカル、ハーブ系、紅茶、コーヒー系等のフレーバーが挙げられ、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
以上説明した乳酸菌は、固形状、液状等いずれの形態の製品とすることも可能である。
【0030】
本発明の方法によって得られた乳酸菌は、医薬的に受容な塩、賦形剤、保存剤、着色剤、矯味剤等とともに、医薬品あるいは食品の製造分野において公知の方法によって、飲料、顆粒、錠剤、カプセル剤等の種々の形態で使用することができる。
【0031】
また、上記乳酸菌は、健康食品に利用することができる。健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・増進等の目的とした食品を意味し、例えば、液体又は半固形、固形の製品、具体的には、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、栄養飲料、スープ等が挙げられる。
【0032】
本発明の方法によって得られた乳酸菌の服用量は、乳酸菌末の品質や、対象者の年齢、症状等によって異なる。例えば、ウイルス感染等の病気の予防や、免疫力向上のために用いるには、成人1回につき固形分換算で0.001~10g程度が挙げられ、毎日服用するのが望ましい。また、健康食品としての使用時には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対し、固形分換算で0.01~100g程度の範囲で用いることが適当である。
【0033】
さらに、本発明の方法によって得られた乳酸菌は、ローション(化粧水)、化粧用クリーム類、乳液、化粧水、パック剤、スキンミルク(乳剤)、ジェル剤、パウダー、リップクリーム、口紅、アンダーメークアップ、ファンデーション、サンケア、浴用剤、ボディシャンプー、ボディリンス、石鹸、クレンジングフォーム、軟膏、貼付剤、ゼリー剤、エアゾール剤等種々の製品形態で皮膚外用剤に利用することもできる。
【0034】
また、本発明で得られる乳酸菌には、下記に示されるような化粧品、医薬部外品、医薬品において通常用いられる各種成分や添加剤を必要に応じて適宜配合することができる。
【0035】
即ち、グリセリン、ワセリン、尿素、ヒアルロン酸、ヘパリン等の保湿剤;PABA誘導体(パラアミノ安息香酸、エスカロール507等)、桂皮酸誘導体(ネオヘリオパン、パルソールMCX、サンガードB等)、サリチル酸誘導体(オクチルサリチレート等)、ベンゾフェノン誘導体(ASL-24、ASL-24S等)、ジベンゾイルメタン誘導体(パルソールA、パルソールDAM等)、複素環誘導体(チヌビン系等)、酸化チタン等の紫外線吸収剤・散乱剤;エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、乳酸、リンゴ酸、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤;サリチル酸、イオウ、カフェイン、タンニン等の皮脂抑制剤;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等の殺菌・消毒剤;塩酸ジフェンヒドラミン、トラネキサム酸、グアイアズレン、アズレン、アラントイン、ヒノキチオール、グリチルリチン酸及びその塩、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸等の抗炎症剤;ビタミンA、ビタミンB群(B1,B2,B6,B12,B15)、葉酸、ニコチン酸類、パントテン酸類、ビオチン、ビタミンC、ビタミンD群(D2,D3)、ビタミンE、ユビキノン類、ビタミンK(K1,K2,K3,K4)等のビタミン類;アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、リジン、グリシン、グルタミン、セリン、システイン、シスチン、チロシン、プロリン、アルギニン、ピロリドンカルボン酸等のアミノ酸及びその誘導体;レチノール、酢酸トコフェロール、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸、胎盤抽出液等の美白剤;ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル等の抗酸化剤;塩化亜鉛、硫酸亜鉛、石炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸アルミニウムカリウム等の収斂剤;グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、トレハロース、エリスリトール、マンニトール、キシリトール、ラクチトール等の糖類;甘草、カミツレ、マロニエ、ユキノシタ、芍薬、カリン、オウゴン、オウバク、オウレン、ジュウヤク、イチョウ葉等の各種植物エキス等の他、油性成分、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色素等を適宜配合することができる。
【実施例
【0036】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0037】
<I.乳酸菌末の調製>
1.凝集型の乳酸菌末
乳酸菌Enterococcus faecalis菌株を公知の方法で培養した。当該培養液(乾燥乳酸菌濃度5~10質量%)を、凍結乾燥させた(以下、乳酸菌凝集型という)。
【0038】
2.分散型の乳酸菌末
乳酸菌Enterococcus faecalis菌株を公知の方法で培養した。当該培養液(乾燥菌体換算で5~10質量%)に10、15、20、25、50質量%(乾燥終濃度)になるようにデキストリンを添加し、ホモジナイズして菌体を十分に分散させた後、凍結乾燥させた(以下、乳酸菌分散型という)。
【0039】
<II.粒度分布の測定>
上記で得られた乳酸菌凝集型と、乳酸菌分散型を、乾燥菌体換算で10mg/mLになるように精製水に懸濁した。懸濁液中の乳酸菌末の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-3100(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。具体的には、フローセルを使用し、水を測定溶媒とし、屈折率が1.50-0.00i、測定回数を2、平均回数を64、測定吸光度範囲の最大値を0.2、最小値を0.02として、サンプル溶液を測定範囲に達するまで添加して測定した。メジアン径の測定結果を表1と図1に、粒度分布を図2,3に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、乳酸菌凝集型においては、メジアン径が29.556μmであった。また、デキストリンを10質量%添加して菌体を分散させた乳酸菌分散型においては、メジアン径が1.233μmであった。一方、デキストリンを15質量%以上添加して菌体を分散させた乳酸菌分散型においては、メジアン径が0.796μm以下であり、乳酸菌凝集型に比べて顕著に小さい値であった。
【0042】
<III.消化管内の観察>
1.方法
マウスにCy3で蛍光染色した乳酸菌凝集型(上記Iで調製)と乳酸菌分散型(上記Iで調製、デキストリン50質量%)を摂取させ、小腸パイエル板付近に存在する乳酸菌を蛍光顕微鏡で観察し、パイエル板内部は共焦点レーザー顕微鏡を用い観察した。撮影は株式会社アイカムの協力を得て実施した。
【0043】
2.結果及び考察
乳酸菌分散型は、菌体が1個1個分散化し、且つ粒子径が1.0μm以下と小さいので、消化管粘膜面をすり抜けて、パイエル板に到達していることがわかった(図4(A)矢印)。そしてパイエル板上のM細胞から取り込まれ(図4(B)矢印)、その下層に待機する樹状細胞やマクロファージに捕捉され、これらの細胞がサイトカインを産生し、免疫反応を活性化することができることがわかった。
【0044】
一方、乳酸菌凝集型は、菌体が大きな菌塊となっているので、粘液の網目構造をすり抜けられず(図4(C)矢印)、パイエル板に達することなく、腸管を単に通過するだけで、本来の乳酸菌の効果が低減すると考えられることがわかった。
【0045】
<IV.マウスノロウイルス(MNV)感染実験>
1.材料
ウイルス株及び宿主細胞には下記のものを用いた。
・ウイルス:マウスノロウイルス S7-PP3株
・宿主細胞:RAW264.7細胞(マウスマクロファージ様細胞)
(増殖培地=10%牛胎児血清加ダルベッコMEM培地)
【0046】
2.方法
(1)BALB/cマウス(6週齢、雌)を、免疫機能正常群(5-fluorouracil(5-FU)非処理群)と免疫機能低下群(5-FU(0.25 mg/day/mouse)処理群)の2群に分け、1日おきにウイルス接種7日前から21日後まで皮下注射した(両群ともn=3)(表2)。
【0047】
【表2】
【0048】
(2)MNV(1 x 106 PFU/0.2 ml/mouse)を経口接種させた。
【0049】
(3)乳酸菌凝集型(上記Iで調製)又は乳酸菌分散型(上記Iで調製、デキストリン50質量%)は、ウイルス接種7日前から21日後まで経口投与した(1日2回、9時、18時)。
【0050】
(4)8時間後、1、2、3、4、5、6、8、10、12、14、16、18、21日後に、1匹ずつ糞便を5mLチューブに回収した(マウスを空の飼育用ケージに15~30分間入れる)。
【0051】
(5)糞便中のウイルス量を次の方法で測定した(プラークアッセイ法)。糞便1mg当たりPBS 10μLを加え、超音波処理して均一に分散させ、遠心後、上清をPBSで10、100、1000倍希釈した。24穴プレートに培養しておいたRAW 264.7細胞に上記の各希釈液を加え感染させた。その後、1.5%SeaPlaque agarose加DMEM培地を重層し、37℃で培養した。2日後に、ニュートラルレッド液を重層して細胞を染色後、顕微鏡下でプラーク数を測定した。
【0052】
(6)血清中の中和抗体価を次の方法で測定した。感染21日後に、全採血し遠心して血清を分離後、PBSで10、50、200、1000、5000倍希釈した。ウイルス100μLを上記希釈液100μLと混合し(対照として、血清の代わりにPBSを加える)、24穴プレートに単層状に培養したRAW 264.7細胞に加え室温で感染させた。1.5% SeaPlaque agarose加DMEM培地を重層し、37℃で培養した。2日後に、ニュートラルレッド液を重層して細胞を染色後、顕微鏡下でプラーク数を測定した。対照のプラーク数を100%とした時の各希釈液のプラーク数の%を計算し、プラーク形成を50%阻害する血清希釈倍数をグラフ上で求めそれを中和抗体価とした。
【0053】
3.結果及び考察
21日間の観察中、5-FUの処理を受けたマウスの一部には軽度の軟便がみられたが、マウスには体重の減少等は認められず全例生存した。
【0054】
(1)糞便中のウイルス量(図5,6)
免疫機能正常マウス(5-FU非処理)(図5):対照群では、感染1日後にウイルス量が最大となり、その後漸減し、18日後には検出されなくなった。乳酸菌分散型投与群では、1日後のウイルス量が対照群の40%にまで減少し、乳酸菌凝集型投与群では50%にまで減少し、その後も一貫して低値であった。12日後までのウイルス量は、乳酸菌分散型投与群の方が乳酸菌凝集型投与群よりも少なくなっていて、両投与群とも感染16日後に、糞便中のウイルスが消失した。
【0055】
免疫機能低下マウス(5-FU処理)(図6):5-FU処理によって、ウイルス排泄量が多くなり、排出期間も長期化した。特に、対照群では、21日後にもまだウイルスが検出された。乳酸菌投与によってウイルス量は21日間にわたって減少した。乳酸菌分散型投与群では、乳酸菌凝集型投与群に比べて、糞便中のウイルス量が感染14日後までの期間中、少なくなっていた。両投与群とも、18日後にはウイルスは検出されなくなった。
【0056】
従って、乳酸菌の投与によって、腸管内でのウイルス増殖が抑制され、早期にウイルス排泄が停止した。その効果は分散型の乳酸菌の方が高いと考えられる。
【0057】
(2)中和抗体価
感染3週間後に、MNVの中和抗体の量を測定した(表3、図7)。
【0058】
免疫機能正常マウス(5-FU非処理):乳酸菌分散型投与群及び乳酸菌凝集型投与群では、対照群に比べて抗体価が有意に(p<0.05)に上昇した。分散型の方が、凝集型に比べて高い値となった。
【0059】
免疫機能低下マウス(5-FU処理):いずれの投与群でも、対応する5-FU非処理群に比べて、抗体価は低下した。しかし、両乳酸菌投与群は、非処理対照群と同等かそれ以上の高い抗体価を維持した。乳酸菌分散型投与群と乳酸菌凝集型投与群はいずれも、対照群に比べて有意に(p<0.05)高い抗体価を示し、分散型投与群の抗体価の方が、凝集型投与群よりも高い傾向がみられた。
【0060】
【表3】
【0061】
以上の結果から、乳酸菌投与による抗体量の増加が、腸管内でのウイルス増殖抑制をもたらしたと推察され、分散型の乳酸菌が、凝集型の乳酸菌に比べて免疫刺激効果が高いと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7