(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】尿中物質検出材及びその使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/52 20060101AFI20240405BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20240405BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240405BHJP
G01N 33/493 20060101ALI20240405BHJP
G01N 33/66 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
G01N33/52 C
G01N21/78 C
G01N21/64 C
G01N33/493 A
G01N33/66 A
(21)【出願番号】P 2019191062
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-08-24
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医療分野研究成果展開事業・先端計測分析技術・機器開発プログラム」「インスリン投与量を決定可能な連続グルコース計測システム」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】801000049
【氏名又は名称】一般財団法人生産技術研究奨励会
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100190355
【氏名又は名称】田中 紀央
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】澤山 淳
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/083638(WO,A1)
【文献】特開2015-064292(JP,A)
【文献】特開2018-116043(JP,A)
【文献】特開平08-053467(JP,A)
【文献】特表昭62-500121(JP,A)
【文献】特開昭63-007799(JP,A)
【文献】SHIBATA, Hideaki et al.,Injectable hydrogel microbeads for fluorescence-based in vivo continuous glucose monitoring,PNAS,2010年10月19日,Vol.107/No.42,PP.17894-17898
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
G01N 21/78
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体と、前記多孔質支持体中に固定された尿中物質検出用蛍光ゲルとを含む、
前記尿中物質がグルコースであり、
前記尿中物質検出用蛍光ゲルは、ポリエチレングリコール骨格を有する複数の四分岐型ポリマーがそれらの末端で架橋した3次元網目構造を有し、グルコースとの結合により蛍光応答を示す蛍光色素ユニットが共有結合によって前記3次元網目構造中に固定化されたものである、尿中物質検出材。
【請求項2】
前記多孔質支持体が、高分子多孔質体又はセラミックス多孔質体である、請求項1に記載の尿中物質検出材。
【請求項3】
前記蛍光色素ユニットが蛍光団及び消光団を有しており、
グルコース非存在下では前記消光団により前記蛍光団が消光されているが、前記消光団がグルコースと結合することによって蛍光団が発光することにより蛍光応答を示す、請求項1又は2に記載の尿中物質検出材。
【請求項4】
前記蛍光団がアントラセンを有し、前記消光団がアリールボロン酸を有する、請求項3に記載の尿中物質検出材。
【請求項5】
前記蛍光色素ユニットが末端に1又は複数のアミノ基を有し、当該アミノ基と前記四分岐型ポリマーとの共有結合によって前記3次元網目構造中に固定化されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の尿中物質検出材。
【請求項6】
前記蛍光色素ユニットが以下の式(III)又は(IV)で表される、請求項1~5のいずれか一項に記載の尿中物質検出材。
【化1】
【化2】
[式(IV)中、「PEG」は、ポリエチレングリコール鎖を表す。]
【請求項7】
前記四分岐型ポリマーが、末端に4個の求核性官能基を有する第1のポリマーと、末端に4個の求電子性官能基を有する第2のポリマーからなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の尿中物質検出材。
【請求項8】
前記求核性官能基が、ヒドロキシル基、アミノ基及びチオール基からなる群より選択され、
前記求電子性官能基が、カルボキシル基、N-ヒドロキシ-スクシンイミジル(NHS)基、スルホスクシンイミジル基、マレイミジル基、フタルイミジル基、及びニトロフェニル基からなる群より選択される、請求項7に記載の尿中物質検出材。
【請求項9】
前記第1のポリマーが下記式(I)で表される構造を有し、前記第2のポリマーが下記式(II)で表される構造を有する、請求項7又は8に記載の尿中物質検出材。
【化3】
[式(I)中、各mは、それぞれ同一又は異なる10~300であり、各Xは、R
1
-NH
2
又はR
1
-SHであり、R
1
はC
1
-C
7
アルキレン基である。]
【化4】
[式(II)中、各nは、それぞれ同一又は異なる10~300であり、各Yは、-CO-R
2
-COO-NHS又はR
2
-マレイミジル基であり、R
2
はC
1
-C
7
アルキレン基である。]
【請求項10】
哺乳動物が排出した尿を請求項1~9のいずれか一項に記載の尿中物質検出材に接触させることと、
前記尿中物質検出材に励起光を照射して蛍光を検出することと、を含み、
前記尿中物質がグルコースであり、
検出した前記蛍光が対照と比較して有意に高いこと又は有意に低いことが、疾患に罹患していることを示す、
疾患予測
のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿中物質検出材及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化、生活習慣の変化等に伴い、疾患の治療にかかる費用は社会の大きな負担となりつつある。患者の生活の質の向上、治療費の削減の点から、疾患を発症する前に疾患を予測することは重要である。
【0003】
例えば、糖尿病の患者数は世界的に急増している。糖尿病は、ヒトに限らず、ペットとして飼育されるネコやイヌにおいても発症する。糖尿病発症を予測するために、定期的に血液中のグルコース濃度を測定することが標準的に行われている。
【0004】
発明者らは、これまでに、体内のグルコース濃度を継続的に測定することができる技術を開発してきた(例えば、特許文献1及び非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Shibata H., et al., Injectable hydrogel microbeads for fluorescence-based in vivo continuous glucose monitoring., 107(42), 17894-17898, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、疾患の発症を予測するための、血液等に含まれる化学物質を分析する方法には煩雑な操作が必要とされ、必要な費用も高価である。そこで、本発明は、安価に、かつ簡便に、疾患の発症を予測する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]多孔質支持体と、前記多孔質支持体中に固定された尿中物質検出用蛍光ゲルとを含む、尿中物質検出材。
[2]前記多孔質支持体が、高分子多孔質体又はセラミックス多孔質体である、[1]に記載の尿中物質検出材。
[3]前記尿中物質が、グルコース、尿素、アンモニア、クレアチン、酸素、尿酸、アミノ酸、タンパク質、硫酸、リン、シュウ酸、イオン、血球、ビリルビン、ウロビリノーゲン、及びケトン体からなる群より選択される1種以上である、[1]又は[2]に記載の尿中物質検出材。
[4]前記尿中物質がグルコースであり、前記尿中物質検出用蛍光ゲルは、ポリエチレングリコール骨格を有する複数の四分岐型ポリマーがそれらの末端で架橋した3次元網目構造を有し、グルコースとの結合により蛍光応答を示す蛍光色素ユニットが共有結合によって前記3次元網目構造中に固定化されたものである、[1]~[3]のいずれかに記載の尿中物質検出材。
[5]前記蛍光色素ユニットが蛍光団及び消光団を有しており、グルコース非存在下では前記消光団により前記蛍光団が消光されているが、前記消光団がグルコースと結合することによって蛍光団が発光することにより蛍光応答を示す、[4]に記載の尿中物質検出材。
[6]前記蛍光団がアントラセンを有し、前記消光団がアリールボロン酸を有する、[5]に記載の尿中物質検出材。
[7]前記蛍光色素ユニットが末端に1又は複数のアミノ基を有し、当該アミノ基と前記四分岐型ポリマーとの共有結合によって前記3次元網目構造中に固定化されている、[4]~[6]のいずれかに記載の尿中物質検出材。
[8]前記蛍光色素ユニットが以下の式(III)又は(IV)で表される、[4]~[7]のいずれかに記載の尿中物質検出材。
【化1】
【化2】
[式(IV)中、「PEG」は、ポリエチレングリコール鎖を表す。]
[9]前記四分岐型ポリマーが、末端に4個の求核性官能基を有する第1のポリマーと、末端に4個の求電子性官能基を有する第2のポリマーからなる、[4]~[8]のいずれかに記載の尿中物質検出材。
[10]前記求核性官能基が、ヒドロキシル基、アミノ基及びチオール基からなる群より選択され、前記求電子性官能基が、カルボキシル基、N-ヒドロキシ-スクシンイミジル(NHS)基、スルホスクシンイミジル基、マレイミジル基、フタルイミジル基、及びニトロフェニル基からなる群より選択される、[9]に記載の尿中物質検出材。
[11]前記第1のポリマーが下記式(I)で表される構造を有し、前記第2のポリマーが下記式(II)で表される構造を有する、[9]又は[10]に記載の尿中物質検出材。
【化3】
[式(I)中、各mは、それぞれ同一又は異なる10~300であり、各Xは、R
1-NH
2又はR
1-SHであり、R
1はC
1-C
7アルキレン基である。]
【化4】
[式(II)中、各nは、それぞれ同一又は異なる10~300であり、各Yは、-CO-R
2-COO-NHS又はR
2-マレイミジル基であり、R
2はC
1-C
7アルキレン基である。]
[12]哺乳動物が排出した尿を[1]~[11]のいずれかに記載の尿中物質検出材に接触させることと、尿中物質検出材に励起光を照射して蛍光を検出することと、を含み、検出した前記蛍光が対照と比較して有意に高いこと又は有意に低いことが、疾患に罹患していることを示す、疾患予測方法。
[13]尿中物質がグルコースである、[12]に記載の疾患予測方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安価に、かつ簡便に、疾患の発症を予測する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】尿中物質検出材にグルコース水溶液を浸潤させ、蛍光する様子を撮影した写真である。
【
図2】グルコース水溶液の濃度と尿中物質検出材の蛍光強度の関係を表すグラフである。
【
図3】糖尿病モデルラットの血液中のグルコース濃度を経時的に測定した結果である。
【
図4】糖尿病モデルラットの尿中のグルコース濃度を経時的に測定した結果である。
【
図5】糖尿病モデルラットの尿を浸潤させた尿中物質検出材の蛍光を、乾燥させずに、撮影した写真である。
【
図6】糖尿病モデルラットの尿を浸潤させた尿中物質検出材の蛍光を、乾燥させた後に、撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[尿中物質検出材]
1実施形態において、本発明は、多孔質支持体と、前記多孔質支持体中に固定された尿中物質検出用蛍光ゲルとを含む、尿中物質検出材を提供する。尿中物質検出材は尿中物質検出デバイスといい換えることもできる。
【0012】
本実施形態の多孔質支持体としては、多数の微細孔を備えたものである限り特に限定されず、高分子多孔質体、セラミックス多孔質体、微細な孔を切削した部材等が挙げられる。
【0013】
本実施形態の多孔質支持体の孔径は、10nm~100μmが好ましく、100nm~50μmがより好ましく、500nm~20μmが更に好ましい。
【0014】
高分子多孔質体の材料としては、例えば、合成樹脂、シリコーン樹脂、合成繊維、合成ゴム等の合成高分子;セルロース誘導体、キチン誘導体等の半合成高分子;シリカ、天然ゴム等の天然高分子等が挙げられる。高分子多孔質体は、1種類の材料からなるものであってもよいし、2種類以上の材料からなるものであってもよい。
【0015】
セラミックス多孔質体の材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物;リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト等のリン酸塩;炭化ケイ素等の炭化物等が挙げられる。セラミックス多孔質体は、1種類の材料からなるものであってもよいし、2種類以上の材料からなるものであってもよい。
【0016】
微細な孔を切削した部材としては、例えば、微細なドリルで部材を切削したものであってもよいし、化学物質と部材とを反応させて微細な孔を形成させた部材であってもよい。微細な孔を切削した部材を製造するために用いられる部材としては、形状が保持できるものであれば特に限定されず、例えば、剛体、弾性体、塑性体等が挙げられる。
【0017】
本実施形態の多孔質支持体の形状としては、例えば、多孔膜状、発泡状、網目状、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0018】
発泡状の多孔質支持体としては、例えば、上述の材料に注入した気泡を分散させたもの、上述の材料に混錬した発泡剤から気泡を発生させたもの、フィラーを分散した上述の材料を延伸して発泡させたもの等が挙げられる。
【0019】
網目状の多孔質支持体としては、発泡状の多孔質支持体と同様のものであってもよく、例えば、無機塩粒子を混錬した上述の材料から無機塩を水抽出したもの、溶媒と混合した上述の材料から溶媒を除去したもの等が挙げられる。
【0020】
多孔膜状の多孔質支持体としては、例えば、発泡状の多孔質支持体、網目状の多孔質支持体であって、その厚さが薄いものであってもよい。また、多孔膜状の多孔質支持体は、膜に対し、重イオンビーム等を照射した後、化学研削したもの(トラック・エッチング法によるもの)であってもよい。また、多孔膜状の多孔質支持体は、多数の微細孔を有するマスク等を用いて、化学研削等により膜に多数の微細孔アレイを形成させたものであってもよい。
より具体的には、多孔膜状の多孔質支持体としては、例えば、ヒドロキシル基を有しない、ニトロセルロース膜、セルロースアセテート膜、ポリエチレン膜、又はポリカーボネート膜、ポリエチレンテレフタレート膜、ナイロン膜、親水性ポリテトラフルオロエチレン膜等が挙げられる。
【0021】
多孔質支持体に支持されない尿中物質検出用蛍光ゲルは、一度、乾燥して水分を失った場合、水分が浸潤しにくくなる。これに対し、上述の範囲内の孔径の多孔質支持体に固定された尿中物質検出用蛍光ゲルは、乾燥して水分を失った場合であっても、再び水分と接触すると、水分を急速に吸収し短時間で膨潤する。
【0022】
そのため、尿中物質検出用ゲルを含む多孔質支持体を乾燥した状態で保存し、尿を多孔質支持体に滴下すると、迅速に尿中物質を検出することができる。
【0023】
尿中物質としては、例えば、グルコース、尿素、アンモニア、クレアチン、酸素、尿酸、アミノ酸、タンパク質、硫酸、リン、シュウ酸、イオン、血球、ビリルビン、ウロビリノーゲン、ケトン体等を挙げることができる。検出する尿中物質は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0024】
多孔質支持体に固定された尿中物質検出用ゲルは、多孔質支持体に固定されていない尿中物質検出用ゲルよりも安定した形状を保ち、機械的強度が向上する。
【0025】
本実施形態の尿中物質検出材に固定された尿中物質検出用蛍光ゲルは、グルコースを含む液体を吸収することができる。尿中物質検出用蛍光ゲルがグルコースを取り込むことにより、特定の波長の励起光を照射したときの蛍光強度が変化する。
【0026】
実施例において後述するように、本実施形態の尿中物質検出材を用いて蛍光強度の変化を測定することにより、ラットの尿中のグルコース濃度を測定することができる。本実施形態の尿中物質検出材は、例えば、哺乳動物の尿中に含まれるグルコース濃度を測定することができる。
【0027】
本実施形態の尿中物質検出材を用いて、尿中物質の濃度を測定することのできる動物の種類としては、特に限定されず、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ラット、マウス、フェレット、ウサギ、サル、ウシ、ヤギ、ブタ、ヒツジ等を挙げることができる。
【0028】
本実施形態の尿中物質検出用蛍光ゲルを構成するポリマーは、ポリマー同士が末端において互いに架橋することによって均質な3次元網目構造を形成する。ゲルを構成するポリマーは、例えば、4つに分岐したエーテル鎖を有するポリエチレングリコール骨格を有していてもよい。このようなゲルは、多量の水を含むことによって、ハイドロゲルを形成する。
【0029】
また、尿中物質はグルコースであってもよく、グルコースとの結合により蛍光応答を示す蛍光色素ユニットは、上述したポリマーの3次元網目構造中に共有結合によって固定化されていてもよい。
【0030】
蛍光色素ユニットは、蛍光団及び消光団を有していることが好ましい。ここで、蛍光団は、特定の波長で励起されることにより蛍光を発する分子を含む部位である。また、消光団は、蛍光団との相互作用により蛍光団からの発光を低減し得る電子受容体を含む部位であり、尿中物質との結合により消光作用が解消されて、蛍光団の発光を再び生じさせる。
【0031】
上述の蛍光色素ユニットは、グルコース非存在下では消光団により蛍光は消光されるが、消光団がグルコースと結合することによって蛍光団が蛍光を発するものであってもよい。このような機構により、グルコースを含む尿中物質の存在下では蛍光強度が増強する。
【0032】
上述の蛍光色素ユニットにおいて、蛍光団と消光団の組み合わせは、尿中物質との結合によって蛍光応答を示すものであれば、特に限定されない。例えば、尿中のグルコースを検出する場合、蛍光団はアントラセンを有し、消光団はアリールボロン酸を有していてもよい。
【0033】
また、蛍光色素ユニットは、ポリマー中に共有結合によって固定化されていることが好ましい。蛍光色素ユニットは、末端に1又は複数のアミノ基を有し、そのアミノ基と四分岐型ポリマーとの共有結合によってゲル構造中に固定化されていてもよい。
【0034】
蛍光色素ユニットは、下記式(III)又は(IV)で表される化合物であってもよい。
【0035】
【0036】
【化6】
(式(IV)中、「PEG」は、ポリエチレングリコール鎖を表す。)
【0037】
上記式(III)で表される化合物において、中央に位置するアントラセンが蛍光団であり、その両側に位置する2つのアリールボロン酸が消光団である。
【0038】
下記平衡式に示すように、グルコース非存在下ではアリールボロン酸部位によりアントラセンの蛍光は消光されている。グルコースがアリールボロン酸部位に結合すると、分子内の窒素原子とホウ素原子の静電相互作用によりアントラセン部位への電子移動が抑えられ、その結果、アリールボロン酸部位による消光作用が解消し、アントラセンから蛍光が発せられる。このような機構によって、グルコースの存在を蛍光強度の変化として検出することができる。
【0039】
【0040】
アリールボロン酸はグルコースのヒドロキシル基を認識する。蛍光色素ユニットが、上記式(III)又は(IV)で表される化合物である場合、多孔質支持体はヒドロキシル基を有しないことが好ましい。
【0041】
尿中物質検出用ゲルは、複数のポリマー成分におけるそれぞれの4つのポリエチレングリコール分岐の末端が、互いに架橋して均一な網目構造ネットワークを形成したものであってもよい。
【0042】
四分岐型のポリエチレングリコール骨格よりなるゲルは、一般に、Tetra-PEGゲルとして知られており、それぞれ末端に活性エステル構造等の求電子性の官能基とアミノ基等の求核性の官能基を有する二種の四分岐高分子間のAB型クロスエンドカップリング反応によって網目構造ネットワークが構築される。
【0043】
尿中物質検出用蛍光ゲルを構成する四分岐型ポリマーは、末端に求核性官能基を有する第1のポリマーと、末端に求電子性官能基を有する第2のポリマーからなっていてもよい。
【0044】
第1のポリマーの末端と、第2のポリマーの末端が、共有結合による架橋反応(AB型クロスエンドカップリング反応)によって網目構造ネットワークを形成し、ゲルを構成する。
【0045】
第1のポリマーの末端に存在する求核性官能基は、好ましくは、ヒドロキシル基、アミノ基又チオール基であり、より好ましくはアミノ基又チオール基である。
【0046】
第1のポリマーの末端に存在する求核性官能基は、第2のポリマーと架橋してゲルを形成し得る限り、これら以外の求核性官能基を用いることもできる。当該求核性官能基は、それぞれ同一であっても、異なってもよいが、同一である方が好ましい。官能基が同一であることによって、架橋反応の対象となる求核性官能基との反応性が均一になり、均一な立体構造を有する高強度のゲルを得やすくなる。
【0047】
第2のポリマーの末端に存在する求電子性官能基は、好ましくは、カルボキシル基、N-ヒドロキシ-スクシンイミジル(NHS)基、スルホスクシンイミジル基、マレイミジル基、フタルイミジル基、及びニトロフェニル基よりなる群から選択される官能基である。より好ましくは、NHS基で又はマレイミジル基ある。
【0048】
第2のポリマーの末端に存在する求電子性官能基は、求電子性を有する他の活性エステル基を用いてもよく、当業者であれば公知の活性エステル基を適宜用いることができる。当該官能基は、それぞれ同一であっても、異なってもよいが、同一である方が好ましい。官能基が同一であることによって、架橋反応の対象となる求核性官能基との反応性が均一になり、均一な立体構造を有する高強度のゲルを得やすくなる。
【0049】
ポリマーの末端に存在する上記求核性官能基と求電子性官能基の組み合わせによる架橋反応に代えて、いわゆるクリック反応を用いてポリマーどうしを架橋させることもできる。例えば、アジド基及びアルキン基の組み合わせによるクリック反応を用いて、上記ポリマーどうしを架橋させてゲル化させることができる。かかるクリック反応は1,3-双極子環化付加反応であるため、アジド基及びアルキン基の双方が求核的かつ求電子的に働く。
【0050】
尿中物質検出用蛍光ゲルにおいて用いられる第1のポリマーは、下記一般式(I)で表されるポリエチレングリコール骨格を有する四分岐型ポリマーであってもよい。
【0051】
【化8】
[式(I)中、各mは、それぞれ同一又は異なる10~300であり、各Xは、R
1-NH
2又はR
1-SHであり、R
1はC
1-C
7アルキレン基である。]
【0052】
ここで、「C1-C7アルキレン基」とは、分岐を有してもよい炭素数が1以上7以下のアルキレン基を意味し、直鎖C1-C7アルキレン基又は1つ又は2つ以上の分岐を有するC2-C7アルキレン基(分岐を含めた炭素数が2以上7以下)を意味する。C1-C7アルキレン基の例は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基である。C1-C7アルキレン基の例は、-CH2-、-(CH2)2-、-(CH2)3-、-CH(CH3)-、-(CH2)3-、-(CH(CH3))2-、-(CH2)2-CH(CH3)-、-(CH2)3-CH(CH3)-、-(CH2)2-CH(C2H5)-、-(CH2)6-、-(CH2)2-C(C2H5)2-、及び-(CH2)3C(CH3)2CH2-等が挙げられる。
【0053】
また、本明細書において、アルキレン基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれであってもよい)、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、アシル基、又はアリール基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0054】
上記式(I)中、各mは、それぞれ同一でも又は異なってもよいが、各mの値が近いほど、均一な立体構造をとることができ、高強度となる。そのため、高強度のゲルを得るためには、同一であることが好ましい。各mの値が高すぎるとゲルの強度が弱くなり、各mの値が低すぎると化合物の立体障害によりゲルが形成され難くなる。また、ゲル中の空隙がグルコースを取り込むのに適した大きさの空間とする観点からは、上述のとおり、mは、10~300、好ましくは25~75であることが望ましい。
【0055】
尿中物質検出用蛍光ゲルにおいて用いられる第2のポリマーは、下記一般式(II)で表されるポリエチレングリコール骨格を有する四分岐型ポリマーであってもよい。
【0056】
【化9】
[式(II)中、各nは、それぞれ同一又は異なる10~300であり、各Yは、-CO-R
2-COO-NHS又はR
2-マレイミジル基であり、R
2はC
1-C
7アルキレン基である。]
【0057】
上記式(I)中のnと同様に、式(II)中の各nは、それぞれ同一でも又は異なってもよいが、各nの値が近いほど、均一な立体構造をとることができ、高強度となる。そのため、高強度のゲルを得るためには、同一であることが好ましい。各nの値が高すぎるとゲルの強度が弱くなり、各nの値が低すぎると化合物の立体障害によりゲルが形成され難くなる。また、ゲル中の空隙がグルコースを取り込むのに適した大きさの空間とする観点からは、上述のとおり、nは、10~300、好ましくは25~75であることが望ましい。
【0058】
尿中物質検出用蛍光ゲルは、上述の四分岐型ポリマー及び蛍光色素ユニットを用いて、当該技術分野において公知のゲル作製方法により調整することができるが、例えば、末端に求核性官能基を有する四分岐型ポリマー(第1のポリマー)と同じく末端に求核性官能基を有する蛍光色素ユニットを含む混合溶液と、末端に求電子性官能基を有する四分岐型ポリマー(第2のポリマー)を含む溶液とを混合する方法を用いることができる。これにより、四分岐型ポリマー成分の間でアミド結合の架橋反応が起こり、均一な網目構造を有するハイドロゲル構造が形成されるとともに、蛍光色素ユニットが共有結合によって固定化されたゲルを製造することができる。
【0059】
架橋反応の際のpHを適切な条件とするため、これらのポリマー成分を含む溶液は、適切な緩衝液を含むことが好ましい。用いられる緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液(PBS)、クエン酸緩衝液、クエン酸・リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、又はクエン酸・リン酸緩衝生理食塩水、塩化カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、りん酸水素二ナトリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、炭酸水素ナトリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、ほう酸-塩化カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、りん酸二水素カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、フタル酸水素カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液が挙げられる。
【0060】
上記ポリマー溶液の混合工程は、例えば、二液混合シリンジを用いて行うことができる。混合時の二液の温度は、特に限定されず、ポリマー成分がそれぞれ溶解され、それぞれの液が流動性を有する状態の温度であればよい。温度が低すぎると化合物が溶解されにくく、または溶液の流動性が低くなり、均一に混ざり難くなる。一方、温度が高すぎると四分岐型ポリマーどうしの反応性を制御し難くなる。そのため、混合するときの溶液の温度としては、1℃~100℃が挙げられ、5℃~50℃が好ましく、10℃~30℃がより好ましい。二液の温度は異なってもよいが、温度が同じである方が、二液が混合されやすいので好ましい。
【0061】
[疾患予測方法]
1実施形態において、本発明は、哺乳動物が排出した尿を尿中物質検出材に接触させることと、尿中物質検出材に励起光を照射して蛍光を検出することと、を含み、検出した蛍光が対照と比較して有意に高いこと又は有意に低いことが、疾患に罹患していることを示す、疾患予測方法を提供する。
【0062】
検出する尿中物質はグルコースであってもよい。実施例において後述するように、本発明の尿中物質検出材に哺乳動物の尿を接触させた後、尿中物質検出材の蛍光強度を測定することにより、尿中のグルコース濃度を測定することができる。
【0063】
実施例において後述するように、糖尿病モデルラットにおいて、血中のグルコース濃度が糖尿病と判断されるレベルまで上昇するより前に、尿中のグルコース濃度は顕著に上昇する。
【0064】
すなわち、本発明の尿中物質検出材を用いて、尿中に含まれるグルコース濃度を測定することにより、簡便に糖尿病の発症を予測することができる。
【0065】
糖尿病を予測することができる哺乳動物の種類としては、特に限定されず、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ラット、マウス、フェレット、ウサギ、サル、ウシ、ヤギ、ブタ、ヒツジ等を挙げることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
[実験例1]
(尿中物質検出材の作製)
下記式(V)で表されるゲル前駆体(TAPEG)を6質量%含み、上記式(III)で表されるグルコース応答性色素を0.01~0.5質量%含むゲル前駆体溶液Aを調製した。また、下記式(VI)で表されるゲル前駆体(TNPEG)を6質量%含むゲル前駆体溶液Bを調製した。続いて、ゲル前駆体溶液Aと、ゲル前駆体溶液Bとを混合した溶液を直ちにニトロセルロース膜上に滴下した。続いて、得られたニトロセルロース膜を乾燥を防止するために容器に入れて24時間静置した。続いて、静置後のニトロセルロース膜をPBSバッファーで洗浄し、ニトロセルロース膜上の未反応物を除去した。
【0068】
【0069】
【0070】
[実験例2]
実験例1で得た尿中物質検出材を用いてグルコースの蛍光応答を評価した。ゲルに0~1000mg/dLのグルコース溶液を添加し、各濃度における蛍光強度を測定した(励起波長:405nm、検出波長:490nm)。結果を
図1、2に示す。
【0071】
図1は、各濃度のグルコースを滴下した尿中物質検出材に励起光を照射し蛍光を撮影した写真である。
図2は、各濃度のグルコースを滴下した尿中物質検出材の蛍光強度を示すグラフである。
【0072】
その結果、いずれの尿中物質検出材についても、グルコース濃度の増加に伴い、蛍光強度の増大が観測された。繰り返しの測定に対しても、グルコース濃度に対して一意的に蛍光強度が決定された。
【0073】
[実験例3]
実験例1で得た尿中物質検出材を用いて、ストレプトゾシンを投与したラット糖尿病モデルの尿中に含まれるグルコースに対する蛍光応答を評価した。ストレプトゾシンは、毎日、計10回の腹腔内投与(15mg/kg)を行った。
【0074】
ストレプトゾシンは膵臓β細胞に対して毒性と有することが知られている。ストレプトゾシンを投与されたラットは、膵臓β細胞によるインスリンの分泌が障害されるため、血中のグルコース濃度が上昇し、糖尿病様の症状を示すようになる。
【0075】
ストレプトゾシンを投与した3匹のラット糖尿病モデルの、血液中及び尿中のグルコース濃度をそれぞれ定量した。結果を
図3、4に示す。
【0076】
図3は、3匹のラット糖尿病モデルの血液中のグルコース濃度を定量した結果である。その結果、血液中のグルコース濃度は、ストレプトゾシンの投与を開始して6~8日後以降に、糖尿病と判断されるレベルまで上昇することが確認された。
【0077】
図4は、上述した3匹のラット糖尿病モデルの尿中のグルコース濃度を定量した結果である。その結果、ストレプトゾシンの投与を開始して5~6日後以降に、尿中のグルコース濃度は、顕著に上昇することが明らかになった。
【0078】
いずれのラットにおいても、血液中のグルコース濃度が糖尿病と判断されるレベルまで上昇するより前に、尿中のグルコース濃度は顕著に上昇することが明らかになった。すなわち、尿中のグルコース濃度の顕著な上昇を検出することにより、糖尿病を予測することができる。
【0079】
さらに、上述の3匹のラットの尿を、本発明の尿中物質検出材に滴下して蛍光を観察した。結果を
図5、6に示す。
図5は、尿を滴下した後、尿中物質検出材が乾燥する前に、尿中物質検出材の蛍光を撮影した写真である。
図6は、尿を滴下した後、尿中物質検出材を乾燥させた後の、尿中物質検出材の蛍光を撮影した写真である。
【0080】
その結果、本発明の尿中物質検出材は、ストレプトゾシンの投与を開始して5日後と7日後の、ラット1の尿に含まれるグルコース濃度の上昇を検出できることが明らかになった。すなわち、本発明の尿中物質検出材を用いることにより、血中のグルコース濃度の上昇を予測することができることが明らかになった。
【0081】
また、本発明の尿中物質検出材は、吸収した尿の水分が乾燥により失われた場合であっても、強い蛍光を発することが明らかになった。そのため、本発明の尿中物質検出材を用いると、尿を接触させた後に時間が経過した場合であっても、尿中のグルコースを検出することができる。
【0082】
[実験例4]
実験例1と同様に、ゲル前駆体溶液Aと、ゲル前駆体溶液Bとを混合した溶液を、ポリエチレンテレフタレート膜、ポリカーボネート膜、ナイロン膜及び親水性ポリテトラフルオロエチレン膜にそれぞれ滴下して、尿中物質検出材を作製した。これらの尿中物質検出材を用いて、実験例2と同様の実験を行った。
【0083】
その結果、これらの尿中物質検出材は、いずれも、実験例1において作製した尿中物質検出材と同様に、グルコース濃度の増加に伴い、蛍光強度の増大が観測された。繰り返しの測定に対しても、グルコース濃度に対して一意的に蛍光強度が決定された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、安価に、かつ簡便に、疾患の発症を予測する技術を提供することができる。