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  • 特許-コーヒーチェリー素材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】コーヒーチェリー素材
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/30 20160101AFI20240405BHJP
   A23K 10/37 20160101ALI20240405BHJP
   A61K 36/74 20060101ALI20240405BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240405BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20240405BHJP
【FI】
A23K10/30
A23K10/37
A61K36/74
A61P15/00 171
A61K131:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019233441
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021101624
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 均
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-007407(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0038557(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104041645(CN,A)
【文献】特開2012-050452(JP,A)
【文献】特表2018-529378(JP,A)
【文献】大葉椋介ら,ストレス依存的な男性生殖機能障害に対するコーヒーチェリーの改善作用,第112回日本繁殖生物学会大会(開催日2019年9月2日~2019年9月5日)講演要旨集,OR1-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒーチェリー素材を有効成分とすることを特徴とする雌家畜の発情周期の異常の予防又は改善用組成物。
【請求項2】
コーヒーチェリー素材を有効成分とすることを特徴とする雌家畜の不妊の予防又は改善用組成物。
【請求項3】
前記コーヒーチェリー素材は、コーヒーチェリーの種子を除いた果肉及び/又は果皮の部分を乾燥粉末状にした素材である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
飲食品、飲食品用添加物、医薬品、医薬品用添加物、サプリメント、飼料、又は飼料用添加物の形態である、請求項1~のいずれか1つに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来素材を有効成分とする機能性組成物に関し、より詳細には、コーヒーチェリー素材を有効成分とする機能性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー豆の原料は、コーヒーノキ属(Coffea属)に属するコーヒーノキの果実であり、熟すとさくらんぼ様の赤い実であることからコーヒーチェリーと呼ばれている。コーヒーチェリーのうちの種子の部分が、乾燥、発酵、ロースト等の工程を経てコーヒー豆となるが、種子を取り出した後に残る、果皮、果肉、パーチメント等の残渣については、一般に利用価値がなく廃棄されている。世界で年間に2千万~3千万トンの廃棄が生じており、一部では食品素材等としての利用が提案されているものの(特許文献1~5参照)、あまり有効活用されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2006-513722号公報
【文献】特開2013-227418号公報
【文献】特表2016-512024号公報
【文献】特表2016-513964号公報
【文献】特開2018-46855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、コーヒーチェリー素材の新たな機能性を見出すことにある。そして、これにより、コーヒーチェリー素材の利用の促進を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意研究した結果、コーヒーチェリー素材に生体機能にかかる新たな機能性を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、第1の観点として、コーヒーチェリー素材を有効成分とすることを特徴とする女性側に起因する不妊の予防又は改善用組成物を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、第2の観点として、コーヒーチェリー素材を有効成分とすることを特徴とする女性の月経異常の予防又は改善用組成物を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、第3の観点として、コーヒーチェリー素材を有効成分とすることを特徴とする雌家畜の発情周期の異常の予防又は改善用組成物を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、第4の観点として、コーヒーチェリー素材を有効成分とすることを特徴とする雌家畜の不妊の予防又は改善用組成物を提供するものである。
【0010】
また、本発明の限定されない態様においては、上記組成物において、前記コーヒーチェリー素材は、コーヒーチェリーの種子を除いた果肉及び/又は果皮の部分を乾燥粉末状にした素材であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の他の限定されない態様においては、上記組成物において、該組成物は、飲食品、飲食品用添加物、医薬品、医薬品用添加物、サプリメント、飼料、又は飼料用添加物の形態であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コーヒーチェリー素材を利用して、種々機能性の高められた組成物、例えば、女性側に起因する不妊の予防又は改善用組成物、女性の月経異常の予防又は改善用組成物、雌家畜の発情周期の異常の予防又は改善用組成物、雌家畜の不妊の予防又は改善用組成物等を提供することができる。これら組成物は、飲食品、飲食品用添加物、医薬品、医薬品用添加物、サプリメント、飼料、飼料用添加物等の形態で利用することができる。よって、これにより、コーヒーチェリー素材の利用の促進を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】試験例1において雌マウスの発情周期について調べた結果を示す図表であり、「RT」ではコーヒーチェリー残渣粉末を投与せずに25℃環境下で飼育したときの結果を示し、「Heat」ではコーヒーチェリー残渣粉末を投与せずに35℃環境下で飼育したときの結果を示し、「CC300」ではコーヒーチェリー残渣粉末を300mg/kg体重の投与量で投与して35℃環境下で飼育したときの結果を示す。
図2】試験例2において雌マウスの発情周期について調べた結果を示す図表であり、「RT」ではコーヒーチェリー残渣粉末を投与せずに25℃環境下で飼育したときの結果を示し、「Heat」ではコーヒーチェリー残渣粉末を投与せずに35℃環境下で飼育したときの結果を示し、「CC30」ではコーヒーチェリー残渣粉末を30mg/kg体重の投与量で投与して35℃環境下で飼育したときの結果を示す。
図3】試験例3において雌マウスの発情周期について調べた結果を示す図表であり、「RT」ではビタミンE粉末を投与せずに25℃環境下で飼育したときの結果を示し、「Heat」ではビタミンE粉末を投与せずに35℃環境下で飼育したときの結果を示し、「VE」ではビタミンE粉末を30mg/kg体重の投与量で投与して35℃環境下で飼育したときの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に用いるコーヒーチェリー素材は、コーヒーノキ属(Coffea属)に属する植物(以下、「コーヒーノキ」という場合がある。)を基原とするものであればよく、一般にコーヒー豆の品種として知られているアラビカ種、カネフォラ種、コンジェンシス種、リベリカ種等に属する植物であってよく、あるいはその他の属種に属する植物であってよい。
【0015】
本発明に用いるコーヒーチェリー素材の基原にかかる植物部位としては、コーヒーノキの果実の部位である。果実(以下、「コーヒーチェリー」という場合がある。)の全体であってもよく、あるいはコーヒー豆に利用される種子の部分を除く、果実全体のうちの部分的な構成部位の1種ないしその2種以上の混合であってもよい。すなわち、果実全体のうちの果皮、果肉、ペクチン層、パーチメント、シルバースキン、センターカット、茎等の部分的部位の1種、ないしその2種以上の混合であってもよい。例えば、典型的なコーヒー豆の製造では、副産物として種子の部分が除かれた部分的部位が生じ、通常それは廃棄処分となるため比較的安価に入手可能である。本発明に用いるコーヒーチェリー素材は、そのようなコーヒーチェリー残渣を基原としてもよい。
【0016】
本明細書中において示された試験結果によれば、上記コーヒーチェリー素材は、ヒト又は動物に対して好ましい機能性を発揮し得る素材である。すなわち、コーヒーチェリー残渣の乾燥粉末体を用いた動物試験によって、雌動物の発情周期の乱れを改善する効果が確認されている。ただし、本発明に用いるコーヒーチェリー素材の形態は、その機能性を発現するための関与成分を含有するものであればよく、実施した試験の形態に限らない。例えば、上記した基原が乾燥処理前の状態のコーヒーチェリー残渣で提供された場合には、それを乾燥前の状態でコーヒーチェリー素材として用いてもよく、実施した試験と同様にして、コーヒーチェリー残渣を乾燥させたもの又はその粉末体としてから用いてもよい。あるいは、上記した基原から適当な溶媒により抽出して調製された抽出物の形態や、上記した基原を圧搾して調製した搾汁液の形態で、これを本発明に用いるコーヒーチェリー素材として用いてもよく、更にはそのような抽出液や搾汁液を濃縮、乾燥、粉末化等したうえで、本発明に用いるコーヒーチェリー素材として用いてもよい。また、一次的なコーヒーチェリー素材に対して当業者に周知の分画、精製の手段等により、所望の分画、精製等が施されてなるコーヒーチェリー素材を調製して用いてもよい。そのような場合には必要に応じて、本明細書中において示された試験結果が導出された試験方法に準じて、適宜所望する効果の観点から、分画、精製等が施されてなるコーヒーチェリー素材中に関与成分を必要的に含有するかどうか、その品質を確認することも可能である。
【0017】
抽出に使用する溶媒としては、水、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭素類等が挙げられる。アルコール類としては、エタノール、メタノール、プロパノール等が挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチル等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチル等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル等が挙げられる。ハロゲン化炭素類としては、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。また、それら有機溶媒と水との混合による含水有機溶媒等であってもよい。特に、本発明のコーヒーチェリー素材をヒト又は動物に経口的に投与する観点からは、水、エタノール、又は含水エタノール等の溶媒を用いて抽出した抽出物が好ましく例示され得る。
【0018】
本発明に用いるコーヒーチェリー素材は、固体状、液状(ジュース)、ペースト状、ゲル状、油状、エマルジョン等いずれの形態であってもよい。特に、乾燥粉末状に調製した調製物であれば、取り扱いが容易であり、輸送や保管にコストがかからない。乾燥粉末状への調製は、溶媒留去、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の通常当業者に周知の手段によりに乾燥させたり、解塊装置、粉砕装置、微粉砕装置等の通常当業者に周知の手段によりに粉末化したりしてもよい。また、本発明の限定されない態様としては、このような所定形態への調製の際、もしくはそれとともに、デキストリン等の乾燥助剤やショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤を添加してもよい。また、本発明の限定されない他の態様としては、このような所定形態への調製の際、もしくはそれとともに、コーヒーチェリー素材は、ロースト等の加熱処理が施されていてもよい。
【0019】
本発明は、上記したコーヒーチェリー素材をヒト又は動物に投与して、それを投与したヒト又は動物の生体機能に好ましい影響を与える目的で用いる組成物を提供するものである。よって、以下では、本発明にかかる特定の目的にために用いる組成物を、総じて「機能性組成物」という場合がある。
【0020】
本発明にかかる機能性組成物は、上記コーヒーチェリー素材を、ヒト又は動物の生体に作用させるようにして用いる。その投与形態としては、経口、静脈、経腸、経鼻、腹腔、経皮、経肺、口腔、皮膚外用等、いずれの投与形態でもあり得る。この場合、その各種の投与形態に適するように、適宜適当な製剤的基材等ともに、周知の製剤手段により、上記コーヒーチェリー素材を含有せしめるよう調製された剤形的形態をなしてもよい。例えば、粉末、顆粒、ソフトカプセル、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、ハードカプセル剤、ゼリー状剤、トローチ剤、口腔内崩壊剤、注射剤、吸引剤、坐剤、塗布剤等の剤形的形態中に、上記コーヒーチェリー素材を含有せしめて用いることに、特に制限はない。
【0021】
本発明にかかる機能性組成物は、日常の服用のし易さの観点からは、経口的に摂取するように用いられることが好ましい。そのため必要に応じて、経口摂取用として許容される基材や担体を用いて、粉末、顆粒、ソフトカプセル、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、ハードカプセル剤、ゼリー状剤、トローチ剤、口腔内崩壊剤等の経口摂取用組成物の形態とすることができる。
【0022】
投与量については、所望する機能性の種類や、適用するヒト又は動物の年齢、性別、健康状態等の条件に応じて適宜設定すればよく、一概ではないが、例えば、ヒトに経口的な投与を実施する場合には、成人1日当たり、上記コーヒーチェリー素材をその固形分換算で100mg~40gの範囲で投与することができ、より典型的には300mg~20gの範囲で投与することができ、更により典型的には600mg~10gの範囲で投与することができる。また、畜産動物としてウシに経口的な投与を実施する場合には、成体1日当たり、上記コーヒーチェリー素材をその固形分換算で100mg~40gの範囲で投与することができ、より典型的には300mg~20gの範囲で投与することができ、更により典型的には600mg~10gの範囲で投与することができる。
【0023】
本発明にかかる機能性組成物中の上記コーヒーチェリー素材の含有量としては、所望の投与形態や投与量に応じて適宜決定され得るが、典型的に上記コーヒーチェリー素材を、その固形分換算で1質量%~100質量%含有する形態であってよい。その上限としては100質量%でもよいが、典型的には90質量%以下であってもよく、より典型的には80質量%以下であってもよく、更により典型的には60質量%以下であってもよく、とくに典型的には40質量%以下であってもよく、もっとも典型的には10質量%以下であってもよい。その下限としては1質量%でもよいが、典型的には5質量%以上であってもよく、より典型的には10質量%以上であってもよく、更により典型的には20質量%以上であってもよく、とくに典型的には40質量%以上であってもよく、もっとも典型的には80質量%以上であってもよい。
【0024】
本発明にかかる機能性組成物の使用形態としては、その作用効果を損なわない限り、特に制限はない。例えば、飲食品、飲食品用添加物、医薬品、医薬品用添加物、サプリメント、動物飼料、動物飼料用添加物などの各種の形態で、あるいはそれら製品と組み合わせて使用され得る。ここで、飲食品用添加物、医薬品用添加物、ないし動物飼料用添加物とは通常当業者に理解される意義と同義であり、それぞれ飲食品、医薬品、ないし動物飼料を調製するときに配合する目的で提供される添加物製品等を含む意味である。
【0025】
本発明にかかる機能性組成物は、女性側に起因する不妊の予防又は改善用、女性の月経異常の予防又は改善用、雌家畜の発情周期の異常の予防又は改善用、雌家畜の不妊の予防又は改善用等の目的に供されるものとして、好ましく提供され得る。
【0026】
ここで、「女性側に起因する不妊の予防又は改善用」とは、通常当業者に理解される意義と同義であり、具体的には、例えば、現代人には種々のストレスに起因する不妊の解消が課題であり、女性側の卵胞発育阻害や過度な卵胞閉鎖、卵子そのものの劣化による受精能力や発生能力の低下等を改善し、精神的・肉体的ストレスや高齢化等による不妊を解消する目的を含む意味である。また、「女性の月経異常」とは、通常の25日~38日の周期ではなく、25日以内の頻発月経、39日以上を要する稀発月経、3ヶ月以上月経のない無月経等など周期の異常に加え、月経の持続期間の異常等も含めた月経の乱れた状態等を含む意味である。また、「雌家畜の不妊予防又は改善用」とは、通常当業者に理解される意義と同義である。一般に、畜産業界では、過密飼育、高温刺激などのストレスによる不妊が大きな課題であり、例えば、ストレスによる典型的な不妊として「夏季不妊」が知られている。日本の夏の季節など、高温多湿の環境下で雌雄の家畜の繁殖能力が低下することにより、食肉・鶏卵・乳の安定的供給を困難にする、深刻な課題である。通常、雌家畜の発情周期は、牛、豚、山羊で20~21日、羊で16~17日、馬で20~24日など種により一定であるが、外部温度の上昇は、雌の発情周期遅延や無発情等を引き起こす。精神的・肉体的ストレスによるヒトの不妊や月経異常、過密飼育や高温刺激による家畜の不妊のいずれも、外部からのストレスが体内で酸化ストレスに変換されることにより発現するものと考えられる。(1.阪谷美樹著、「暑熱ストレスが産業動物の生産性に与える影響」産業動物臨床医学雑誌 2015 年 5 巻 Supple 号 p. 238-246.;2.Samina Salim著、「Oxidative stress: a potential link between emotional wellbeing and immune response」 (2016) Current Opinion in Pharmacology, Vol. 29, 70-76.参照)
なお、本明細書において「予防又は改善」とは、通常当業者に理解される意義と同義であり、現状より悪くならないようにしたり、その悪くなる程度を軽減したりすることを含む意味である。よって、例えば、予防的目的で、健常なヒト又は動物に適用してもよい。ヒトでは、過剰な仕事等による精神的ストレスや激しい運動等の肉体的ストレスが予想される場合に、予め無月経を含む月経異常の予防として摂取することが考えられる。また、家畜では暑熱ストレスに暴露される夏季の前、例えば5月~6月から摂取することが考えられる。
【0027】
本発明に係るが適用される畜産動物としては、典型的には豚、牛、鶏等が挙げられるが、それらの動物に限定されるわけでなく、羊、山羊、馬等、その他の動物にかかるものであってもよい。
【0028】
上記のような目的で家畜動物に適用する場合、本発明の限定されない態様としては、上記コーヒーチェリー素材を家畜飼料に一定量含有せしめて、それにより家畜を飼育するのが便宜である。その場合、一定の期間以上、当該コーヒーチェリー素材を配合してなる飼料で飼育するのが好ましい。例えば、日本の夏季、例えば5月~9月にかけては、当該コーヒーチェリー素材を配合してなる飼料で飼育し、それ以外の期間には、上記コーヒーチェリー素材を配合しない飼料で飼育するようにしてもよい。家畜動物用飼料には、上記コーヒーチェリー素材を固形分換算で0.01質量%以上2質量%以下の範囲で含有せしめることが好ましく、0.02質量%以上1質量%以下の範囲で含有せしめることがより好ましく、0.03質量%以上0.5質量%以下の範囲で含有せしめることが更により好ましい。上記範囲未満であると、上記コーヒーチェリー素材の効果を享受するための摂取量が確保され難いので、好ましくはない。また、上記範囲を超えてコーヒーチェリー素材を飼料に含有せしめると、場合によっては体重低下等のデメリットがみられるようになるケースもあり、配合し過ぎることも望ましいとはいえない。
【実施例
【0029】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0030】
[試験例1]
コーヒーチェリー素材の投与による雌マウスの発情周期に対する影響について調べた。具体的には、以下のようにして試験を行なった。
【0031】
1.材料
(1-1)動物
日本チャールズリバー株式会社から購入したICRマウスを標準飼料「MF粉末」(日本チャールズリバー株式会社)で自家繁殖し、試験に用いた。
(1-2)コーヒーチェリー素材
コーヒーチェリーからコーヒー豆に用いる種子部分を採取した後の残渣を乾燥粉末化してなる、コーヒーチェリー残渣粉末を、住友食品株式会社から入手し、使用した。
【0032】
2.試験方法
(2-1)飼育条件
8週齢の雌ICRマウス(9匹)を25℃環境下で飼育し発情周期を2回測定した後、35℃環境下で発情周期を2回測定、その後、35℃環境下でコーヒーチェリー残渣粉末を標準飼料粉末中に混ぜ300mg/kg体重の用量で投与し、再び発情周期を2回測定した。各マウスは、光周期12L:12D(午前7時に点灯)で飼育した。
(2-1)発情周期の測定
発情周期は膣スメア観察により行った。毎日一定時刻に膣垢を採取し、スライト゛ク゛ラス上でキ゛ムサ゛染色を行い、顕微鏡下で発情前期、発情期、発情後期、発情休止期を判断した。
【0033】
3. 統計処理
結果は、平均値±SE(Standard error)で示した。2群間のデータはT検定を用いて有意差検定を行ない、P<0.05のときに有意な差があると判断した。
【0034】
その結果、図1に示されるように、25℃環境下で飼育したときの雌マウスの発情周期はおよそ4.6日であり、35℃環境下で飼育した暑熱ストレス下では、発情周期がおよそ10.0日となり発情周期の遅延が顕著であった。これに対して、コーヒーチェリー残渣粉末を投与すると、暑熱ストレス下にあっても発情周期は4.9日となり、コーヒーチェリー素材には、雌マウスの発情期周期遅延に対する改善効果があることが明らかとなった。
【0035】
[試験例2]
コーヒーチェリー素材の投与による雌マウスの発情周期に対する影響について調べた。具体的には、コーヒーチェリー残渣粉末を投与する場合の投与量を30mg/kg体重とした以外は、試験例1と同様の試験を行なった。
【0036】
結果は、平均値±SE(Standard error)で示した。2群間のデータはT検定を用いて有意差検定を行ない、P<0.05のときに有意な差があると判断した。
【0037】
その結果、図2に示されるように、25℃環境下で飼育したときの雌マウスの発情周期はおよそ4.5日であり、35℃環境下で飼育した暑熱ストレス下では、発情周期がおよそ9.9日となり発情周期の遅延が顕著であった。これに対して、コーヒーチェリー残渣粉末を投与すると、暑熱ストレス下にあっても発情周期は3.7日となり、コーヒーチェリー素材を30mg/kg体重の投与量で用いた場合も、300mg/kg体重の投与量で用いた試験例1同様に、雌マウスの発情期周期遅延に対する改善効果がみられた。
【0038】
[試験例3]
抗酸化ビタミンとして知られ、夏季不妊対策用に夏に飼料に添加されるビタミンEの投与による雌マウスの発情周期に対する影響について調べた。具体的には、ビタミンEとしてα-トコフェロールニコチン酸エステル(粉末)を購入して使用し、そのビタミンEを投与する場合の投与量を30mg/kg体重とした以外は、試験例1、2と同様の試験を行なった。
【0039】
結果は、平均値±SE(Standard error)で示した。2群間のデータはT検定を用いて有意差検定を行ない、P<0.05のときに有意な差があると判断した。
【0040】
その結果、図3に示されるように、25℃環境下で飼育したときの雌マウスの発情周期はおよそ4.2日であり、35℃環境下で飼育した暑熱ストレス下では、発情周期がおよそ10.4日となり発情周期の遅延が顕著であった。暑熱ストレス下でビタミンE粉末を投与すると、発情周期は7.8日と短くなったものの有意差は得られなかった。
【0041】
試験例2において、コーヒーチェリー素材が同じ30mg/kg体重の用量で3.7日まで顕著に短縮したことから、雌マウスの発情期周期遅延に対する改善効果は、ビタミンEに比べてコーヒーチェリー素材のほうがより顕著であることが明らかとなった。
図1
図2
図3