IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 酒井化学工業株式会社の特許一覧

特許7466187ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/14 20060101AFI20240405BHJP
【FI】
C08J9/14 CES
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020067954
(22)【出願日】2020-04-04
(65)【公開番号】P2021161366
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】592093958
【氏名又は名称】酒井化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002804
【氏名又は名称】弁理士法人フェニックス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智一
(72)【発明者】
【氏名】佐野 真也
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-532857(JP,A)
【文献】特開2019-172883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂及び物理発泡剤を溶融混錬した溶融樹脂を押出発泡させるポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法であって、
前記物理発泡剤として、ブタン及び1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを用い
前記ブタン及び前記1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの総量に対する前記1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの配合割合が、2.0モル%以上であることを特徴とするポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項2】
前記ポリエチレン系樹脂が低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
独立気泡を有するポリエチレン系樹脂発泡シートは、緩衝性に特に優れており、包装材としてだけでなく、例えば断熱材や浮力材として幅広い分野で利用されている。
【0003】
ポリエチレン系樹脂発泡シートは一般的に、ブタン等の物理発泡剤を含有させた樹脂溶融物を押出機から押し出し、大気圧下で発泡させる方法によって製造されるが、その製造直後から、気泡内の発泡剤が気泡膜を透過して外部へ放散し、同時に外部からは空気が気泡内へ透過流入する。
【0004】
このとき、発泡剤の気泡膜に対する透過速度が、空気の透過速度よりも大きいため、製造直後は、発泡剤の放散が空気の流入を上回って各気泡が収縮し、その後、収縮した気泡内へ空気が徐々に流入することによって発泡シートの厚みや幅が回復する。したがって、製造直後に一旦収縮した発泡シートを所定の厚み等まで回復させるための養生を行う必要がある。
【0005】
ところが、特に低密度ポリエチレン系樹脂から成る発泡シートにおいては、ブタンガスと空気との透過速度の差がより大きくなるため、製造直後に、独立気泡が急減に収縮し、気泡膜がその弾性限界を超えて座屈してしまい、その後の回復が不足する問題があった。通常、発泡シートは、押出成形後、ロール状に巻かれた状態で養生されるが、このような気泡膜の座屈によって、ロール体の外周面が部分的に凹曲するコシ砕け現象が発生し、発泡シートに皺状の欠点が生じ易かったのである。
【0006】
特許文献1には、発泡シートの厚みを回復させる養生工程を短縮もしくは省略可能なポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法が記載されている。しかしながら、この方法は、発泡剤の少なくとも一部に、不燃性のハロゲン化不飽和炭化水素の1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO1233zd)を用いることで、気泡内の可燃性の発泡剤の残存量を低下させるための養生工程を短縮もしくは省略することを目的としており、上述した製造直後の急激な気泡収縮の改善を目的とするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-172883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法に上記のような難点があったことに鑑みて為されたものであり、ポリエチレン系樹脂に対し透過速度の大きなブタンを発泡剤として用いても、急激な気泡収縮による発泡シートの皺状の欠点発生を抑制することができるポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリエチレン系樹脂及び物理発泡剤を溶融混錬した溶融樹脂を押出発泡させるポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法であって、前記物理発泡剤として、ブタン及び1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを用い、前記ブタン及び前記1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの総量に対する前記1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの配合割合が、2.0モル%以上であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、前記ポリエチレン系樹脂が低密度ポリエチレンであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法によれば、物理発泡剤として、ブタン及び特定のハロゲン化不飽和炭化水素を用いているので、製造直後の急激な気泡の収縮を抑制し、発泡シートの皺状欠点の発生を有効に防ぎ、高品質のポリエチレン系樹脂発泡シートを安定に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法は、ポリエチレン系樹脂発泡シートを製造するにあたり、物理発泡剤として、ブタン及びハロゲン化不飽和炭化水素の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)を用いた点に特徴がある。
【0014】
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂は、ポリエチレン系樹脂発泡体に通常用いられるポリエチレン系樹脂であれば特に制限はなく、具体的には、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体等の1種又は2種以上の混合物を用いることができる。製造時の押出発泡性の観点から、低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0015】
本発明に用いられるブタンは、ノルマルブタン、イソブタンのいずれか又はこれらの混合物を用いることができる。ポリエチレン系樹脂から成る気泡膜に対するイソブタンの透過速度がノルマルブタンより小さいので、イソブタンを単独で用いることが好ましい。
【0016】
本発明に用いられる1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)は、トランス体、シス体のいずれか又はこれらの混合物を用いることができる。ポリエチレン系樹脂から成る気泡膜に対するトランス体の透過速度がシス体より小さいので、トランス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを単独で用いることが好ましい。
【0017】
本発明において、これら物理発泡剤のブタンと1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとの配合割合として、ブタン及び1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの総量に対する1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの割合は、2.0モル%以上である。2.0モル%より小さいと、透過速度の大きなブタンの急激な放散による気泡膜の座屈を有効に防ぐことができなくなる。また、ブタンは比較的に安価で、樹脂を過疎化して熱成形性を向上させる点から、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの配合割合は、14.0モル%以下が好ましく、7.0モル%以下がより好ましい。
【0018】
また、本発明に用いられる物理発泡剤として、本発明の効果を実質的に損なわない範囲内で、他の発泡剤を加えることができる。他の発泡剤の具体例として、プロパン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、塩化メチル、塩化エチル当の塩化炭化水素、ジメチルエーテル等のエーテル類、メタノール等のアルコール類を挙げることができる。
【0019】
さらに、本発明においては、必要に応じて、ポリエチレン系樹脂に対し他の配合成分として、例えば、シリカ、タルク等の気泡調整剤、顔料、染料等の着色剤、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、抗菌剤、充填剤等の各種の添加剤を添加することができる。
【0020】
本発明に係るポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法としては、広く一般的に行われている方法を採用することができる。具体的には、まず、ポリエチレン系樹脂及び各種の添加剤を混合して押出機に供給し、溶融混錬した後、物理発泡剤を圧入し、更に混錬して発泡性溶融樹脂とし、押出機内で発泡可能温度に調整し、環状ダイから大気中に押し出し、大気圧下で発泡させることにより筒状発泡体を形成し、この筒状発泡体をマンドレルで拡径しつつ引き取りながら押出方向に沿って切り開くことによって、ポリエチレン系樹脂発泡シートを得る。
【実施例
【0021】
以下に、具体的な実施例により本発明を更に詳しく説明する。
【0022】
各実施例及び各比較例において使用した物理発泡剤を以下に示す。
【0023】
「ブタンガス」;イソブタン
「HFO-1336mzz(E)」;トランス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン
「HFO-1233zd」;1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン
【0024】
(実施例1~4)
ポリエチレン系樹脂を押出機に300kg/hrで供給し、溶融混錬した後、物理発泡剤を、表1に示す成分及び配合割合で圧入し、更に混錬して約180℃の発泡性溶融樹脂とした。この発泡性溶融樹脂を環状ダイから、表1に示すダイ圧にて大気中に押し出し、発泡させて筒状発泡体とし、この筒状発泡体をマンドレルで拡径しつつ引き取りながら押出方向に沿って切り開くことによって、巾約1200mm、厚み約2mmのポリエチレン系樹脂発泡シートを得た。こうして得られたポリエチレン系樹脂発泡シートを約300m分、ロール状に巻き、このロール体を縦置きした状態で、室温で所定期間、養生させた。
【0025】
(比較例1)
ブタンと共に用いる物理発泡剤として、トランス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz(E))の代わりに、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd)を用いた以外は、実施例4と同様の条件にしてポリエチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0026】
(比較例2)
物理発泡剤のHF0割合(ブタン及び1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの総量に対する1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの配合割合を、1.0モル%とした以外は、実施例4と同様の条件にしてポリエチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0027】
【表1】
【0028】
(養生試験)
上述した実施例1~4及び比較例1、2のポリエチレン系樹脂発泡シートについて養生試験を行った結果を表2に示す。養生試験として、各実施例及び各比較例のポリエチレン系樹脂発泡シートを製造直後にロール状に巻き、このロール体を縦置きした状態で、製造時から2時間後、1日後、2日後、3日後のそれぞれの時点でのロール体の高さ(原反巾)の寸法を計測し、ポリエチレン系樹脂発泡シートの回復状態を評価した。
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示すように、本発明に係る実施例1~4のポリエチレン系樹脂発泡シートは、製造直後に一旦収縮するが、ロール体の外周面が部分的に凹曲するコシ砕け現象も発生せず、製造時から3日後には十分な回復が見られた。
【0031】
一方、比較例2のポリエチレン系樹脂発泡シートは、HFО割合(ブタン及び1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの総量に対する1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの配合割合)が2.0モル%より小さいため、製造時から2時間後には、発泡シートが急激に収縮し、気泡膜の座屈によるロール体のコシ砕け現象が発生し、発泡シートに皺状の欠点が生じた。
【0032】
また、比較例1のポリエチレン系樹脂発泡シートは、本発明に係る実施例1~4の物理発泡剤の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)と同様に、ハロゲン化不飽和炭化水素である1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd)を用い、しかも、そのHFO割合(ブタン及び1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの総量に対する1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの配合割合)が8.5モル%と、実施例2~4におけるHFO割合よりも大きいにも関わらず、ロール体にコシ砕け現象が発生し、発泡シートに皺状の欠点が生じた。