(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】触覚センサ素子、触覚センサ、3軸触覚センサおよび触覚センサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01L 5/1623 20200101AFI20240405BHJP
G01L 1/20 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
G01L5/1623
G01L1/20 Z
(21)【出願番号】P 2021542821
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031521
(87)【国際公開番号】W WO2021039600
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019155358
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108372
【氏名又は名称】谷田 拓男
(72)【発明者】
【氏名】笹川 和彦
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/084284(WO,A1)
【文献】特開2013-079831(JP,A)
【文献】特開2013-232293(JP,A)
【文献】特開2018-115873(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0067000(US,A1)
【文献】特開2004-226380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/16-5/173
G01L 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の下電極と、該一対の下電極の各一端側に跨がって形成された応力感受層と、該応力感受層上に形成された上電極とが各々積層された構造を有する触覚センサ素子であって、該一対の下電極の各一端側において、平面上、該下電極と該上電極とは垂直方向に重なる領域を有しており、
前記触覚センサ素子に垂直方向に接触圧力が印加された場合、前記応力感受層が圧縮されて両電極(前記上電極及び前記下電極)間の電気抵抗が減少し、
前記触覚センサ素子に水平方向にせん断応力が印加された場合、前記重なる領域が減少する方向の場合は両電極間の電気抵抗が増大し、前記重なる領域が増大する方向の場合は両電極間の電気抵抗が減少することを特徴とする触覚センサ素子。
【請求項2】
請求項1記載の触覚センサ素子2個を前記一対の下電極の各一端側同士を対向させて平面の1軸上に配置した触覚センサであって、該触覚センサに垂直方向に接触圧力が印加された場合及び/又は水平方向にせん断応力が印加された場合、各触覚センサ素子の電気抵抗の変化に基づき、接触圧力及び/又はせん断応力を検出することを特徴とする触覚センサ。
【請求項3】
請求項2記載の触覚センサにおいて、該触覚センサは、第1の触覚センサ素子の電気抵抗(第1センサ抵抗)と、第2の触覚センサ素子の電気抵抗(第2センサ抵抗)と、接触圧力及びせん断応力無負荷時における第1センサ抵抗及び第2センサ抵抗(固定抵抗)とに基づくブリッジ回路を構成し、各抵抗値は該ブリッジ回路が平衡状態における抵抗値であり、一の対辺に第1センサ抵抗及び固定抵抗が配置され、他の対辺に第2センサ抵抗及び固定抵抗が配置され、第1センサ抵抗と第2センサ抵抗との分岐点に入力電圧が印加されるものであり、
第1センサ抵抗の抵抗値(第1センサ抵抗値)、第2センサ抵抗の抵抗値(第2センサ抵抗値)の変化量は前記触覚センサに印加される接触圧力、せん断応力及び周囲の温度により与えられ、せん断応力による第1センサ抵抗値の変化量と第2センサ抵抗値の変化量とは絶対値(「せん断応力によるセンサ抵抗値の変化量」と言う。)が等しいものであり、接触圧力による第1センサ抵抗値の変化量と第2センサ抵抗値の変化量(「接触圧力によるセンサ抵抗値の変化量」と言う。)とが等しいことを特徴とする触覚センサ。
【請求項4】
請求項3記載の触覚センサにおいて、該触覚センサに接触圧力及びせん断応力が印加された場合、前記一の対辺中の分岐点の接地に対する実測電位と前記他の対辺中の分岐点の接地に対する実測電位との差の電位は、前記せん断応力によるセンサ抵抗値の変化量と前記入力電圧と前記固定抵抗の抵抗値とにより得られるという原理に基づき、該せん断応力によるセンサ抵抗値の変化量を接触圧力及び周囲の温度を除去して得ることを特徴とする触覚センサ。
【請求項5】
請求項3又は4記載の触覚センサにおいて、該触覚センサに接触圧力及びせん断応力が印加された場合、前記一の対辺中の分岐点の接地に対する実測電位と前記他の対辺中の分岐点の接地に対する実測電位との和の電位は、前記接触圧力によるセンサ抵抗値の変化量と前記入力電圧と前記固定抵抗の抵抗値とにより得られるという原理に基づき、該接触圧力によるセンサ抵抗値の変化量をせん断応力及び周囲の温度を除去して得ることを特徴とする触覚センサ。
【請求項6】
請求項2記載の触覚センサ2個を平面上の2軸に沿わせて配置した3軸触覚センサであって、該3軸触覚センサに垂直方向に接触圧力が印加された場合及び/又は水平方向にせん断応力が印加された場合、各触覚センサ素子の電気抵抗値の変化に基づき、接触圧力及び/又はせん断応力を検出することを特徴とする3軸触覚センサ。
【請求項7】
請求項3乃至5のいずれかに記載の触覚センサ2個を平面上の2軸(xy軸)に沿わせて配置した3軸触覚センサであって、
前記3軸触覚センサは、x軸に配置した触覚センサが構成するx軸ブリッジ回路とy軸に配置した触覚センサが構成するy軸ブリッジ回路とを並列に組合わせたxy軸ブリッジ回路を構成し、x軸ブリッジ回路の各センサ抵抗の分岐点とy軸ブリッジ回路の各センサ抵抗の分岐点とに共通に入力電圧が印加されることを特徴とする3軸触覚センサ。
【請求項8】
請求項1記載の触覚センサ素子の製造方法であって、
所定の基材フィルム上に銀インクで一対の下電極を印刷して形成する下電極形成工程と、
前記下電極形成工程で形成された一対の下電極上に跨って、所定の導電ポリマーを塗布して応力感受層を形成する応力感受層形成工程と、
前記応力感受層形成工程で形成された応力感受層上に、金属インクを印刷して上電極を形成する上電極形成工程とを備えたことを特徴とする触覚センサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の下電極と、当該一対の下電極に跨がって形成された応力感受層と、当該応力感受層上に形成された上電極とが各々積層された構造を有する触覚センサ素子に関し、特に、当該触覚センサ素子2個を対向させて平面上に配置した触覚センサ、および当該触覚センサ2個を平面上の2軸に沿わせて配置した3軸触覚センサ等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の感圧センサとして、2つの電極を対向させ、その間に導電層または樹脂層を挟み込んだ構造を有しているものが知られている。当該感圧センサは、導電層または樹脂層が印加された力により変形することで変化する電極間の物理量(例えば、電極間の電気抵抗値)を、圧力またはずり応力として検知している。
【0003】
特許文献1には、第1の基板上に導電体(銀粒子をポリエステル等の樹脂中に分散させた材料からなる。)および抵抗体が形成され、第2の基板上に導電体および抵抗体が形成され、両基板を各抵抗体を接触させて対向させた感圧装置が開示されている。この感圧装置に荷重が加えられると両基板等が撓み2つの抵抗体を圧接する力が増加し、これに伴い両抵抗体の接触面積が増加して接触抵抗が低下するため、出力抵抗値が減少する。特許文献1の感圧装置は抵抗式感圧センサと言える。
【0004】
特許文献2には、磁性ゴム体に一対の電極を取り付けた構成の触覚センサが開示されている。この触覚センサと被検査物との接触状態が変化することにより被検査物からの力(せん断応力、ずり応力等)が磁性ゴム体に与えられ、一対の電極間の電流量が変化する。この電流量を検知して被検査物を検出する。
【0005】
上述した特許文献1または2に開示された感圧センサまたは触覚センサにより圧力、せん断応力を検知するためには、対向する電極間の導電体、磁性ゴム体等の力の検知層が力の方向に十分変形できる余地を持っていることが必要である。つまり、応力の印加前後で変形量が大きい程、よく応力を検知できるため、検知層は変形しやすくする方がよい。同じ材料で変形しやすくするためには、検知層の厚みを厚くする必要がある。これが、感圧センサまたは触覚センサの薄型化の実現を阻むことになるという問題があった。
上述した感圧センサ等の他にも、2枚の電極に導電性高分子を塗布し、それらを貼り合わせることにより、触覚センサを構成する例もある。しかし、当該両電極は接触(密着)していないため、低応力下(せん断応力負荷時の水平方向の変形が小さい場合等)での反応が不安定であり、測定が困難であるという問題があった。さらに、当該センサは作製における個体差が大きくバラツキを抑えにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3664622号公報
【文献】特開2013-232293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1または2に開示された感圧センサまたは触覚センサでは、導電体、磁性ゴム体等の力の検知層の厚みが重要な要素となるため、感圧センサまたは触覚センサの薄型化の実現を阻むことになるという問題があった。
【0008】
上述した2枚の電極に導電性高分子を塗布し、それらを貼り合わせた触覚センサでは、両電極が接触(密着)していないため、低応力下での反応が不安定であり、測定が困難であるという問題があった。さらに、当該センサは作製における個体差が大きくバラツキを抑えにくいという問題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は上記問題を解決するためになされたものであり、感圧センサまたは触覚センサの薄型化を図ることが可能な触覚センサ素子、触覚センサおよび3軸触覚センサ等を提供することにある。
【0010】
本発明の第2の目的は、低応力下での計測安定性を向上させて高感度な計測を可能とすると共に、作製における個体差を減少させバラツキを抑えた製造を可能とする触覚センサ素子、触覚センサおよび3軸触覚センサ等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の触覚センサ素子は、一対の下電極と、該一対の下電極の各一端側に跨がって形成された応力感受層と、該応力感受層上に形成された上電極とが各々密着して積層された構造を有する触覚センサ素子であって、該一対の下電極の各一端側において、平面上、該下電極と該上電極とは垂直方向に重なる領域を有しており、前記触覚センサ素子に垂直方向に接触圧力が印加された場合、前記応力感受層が圧縮されて両電極(前記上電極及び前記下電極)間の電気抵抗が減少し、前記触覚センサ素子に水平方向にせん断応力が印加された場合、前記重なる領域が減少する方向の場合は両電極間の電気抵抗が増大し、前記重なる領域が増大する方向の場合は両電極間の電気抵抗が減少することを特徴とする。
【0012】
この発明の触覚センサは、本発明の触覚センサ素子2個を前記一対の下電極の各一端側同士を対向させてxy平面の1軸(例えばx軸)上に配置した触覚センサであって、該触覚センサに垂直方向に接触圧力が印加された場合及び/又は水平方向にせん断応力が印加された場合、各触覚センサ素子の電気抵抗の変化に基づき、接触圧力及び/又はせん断応力を検出することを特徴とする。
【0013】
ここで、この発明の触覚センサにおいて、該触覚センサは、第1の触覚センサ素子の電気抵抗(第1センサ抵抗)と、第2の触覚センサ素子の電気抵抗(第2センサ抵抗)と、接触圧力及びせん断応力無負荷時における第1センサ抵抗及び第2センサ抵抗(固定抵抗)とに基づくブリッジ回路を構成し、各抵抗値は該ブリッジ回路が平衡状態における抵抗値であり、一の対辺に第1センサ抵抗及び固定抵抗が配置され、他の対辺に第2センサ抵抗及び固定抵抗が配置され、第1センサ抵抗と第2センサ抵抗との分岐点に入力電圧が印加されるものであり、第1センサ抵抗の抵抗値(第1センサ抵抗値)、第2センサ抵抗の抵抗値(第2センサ抵抗値)の変化量は前記触覚センサに印加される接触圧力、せん断応力及び周囲の温度により与えられ、せん断応力による第1センサ抵抗値の変化量と第2センサ抵抗値の変化量とは絶対値(「せん断応力によるセンサ抵抗値の変化量」と言う。)が等しいものであり、接触圧力による第1センサ抵抗値の変化量と第2センサ抵抗値の変化量(「接触圧力によるセンサ抵抗値の変化量」と言う。)とが等しいものとすることができる。
【0014】
ここで、この発明の触覚センサにおいて、該触覚センサに接触圧力及びせん断応力が印加された場合、前記一の対辺中の分岐点の接地に対する実測電位と前記他の対辺中の分岐点の接地に対する実測電位との差の電位は、前記せん断応力によるセンサ抵抗値の変化量と前記入力電圧と前記固定抵抗の抵抗値とにより得られるという原理に基づき、該せん断応力によるセンサ抵抗値の変化量を接触圧力及び周囲の温度を除去して得ることができる。
【0015】
ここで、この発明の触覚センサにおいて、該触覚センサに接触圧力及びせん断応力が印加された場合、前記一の対辺中の分岐点の接地に対する実測電位と前記他の対辺中の分岐点の接地に対する実測電位との和の電位は、前記接触圧力によるセンサ抵抗値の変化量と前記入力電圧と前記固定抵抗の抵抗値とにより得られるという原理に基づき、該接触圧力によるセンサ抵抗値の変化量をせん断応力及び周囲の温度を除去して得ることができる。
【0016】
この発明の3軸触覚センサは、本発明の触覚センサ2個を平面上の2軸に沿わせて配置した3軸触覚センサであって、該3軸触覚センサに垂直方向に接触圧力が印加された場合及び/又は水平方向にせん断応力が印加された場合、各触覚センサ素子の電気抵抗値の変化に基づき、接触圧力及び/又はせん断応力を検出することを特徴とする。
【0017】
この発明の3軸触覚センサは、本発明の触覚センサ2個を平面上の2軸(xy軸)に沿わせて配置した3軸触覚センサであって、前記3軸触覚センサは、x軸に配置した触覚センサが構成するx軸ブリッジ回路とy軸に配置した触覚センサが構成するy軸ブリッジ回路とを並列に組合わせたxy軸ブリッジ回路を構成し、x軸ブリッジ回路の各センサ抵抗の分岐点とy軸ブリッジ回路の各センサ抵抗の分岐点とに共通に入力電圧が印加されることを特徴とする。
【0018】
この発明の触覚センサ素子の製造方法は、所定の基材フィルム上に金属(好適には銀)インクで一対の下電極を印刷して形成する下電極形成工程と、前記下電極形成工程で形成された一対の下電極上に跨って、所定の導電ポリマーを塗布して応力感受層を形成する応力感受層形成工程と、前記応力感受層形成工程で形成された応力感受層上に、金属(好適には銀)インクを印刷して上電極を形成する上電極形成工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の触覚センサ素子の断面構造は、下電極と、下電極の一端側に跨がって形成された導電性高分子等(例えば、PEDOT/PSS)の応力感受層と、応力感受層上に形成された上電極とから構成されている。下電極の一端側において、平面上、下電極と上電極とは(応力感受層を介して)垂直方向に重なる領域(重複領域)を有している。触覚センサ素子の上電極に水平方向にせん断応力が加わると、水平方向の向きに応じて、重複領域は減少または増加し、これにより上電極と下電極との間の電気抵抗値は増加または減少する。従って、当該電気抵抗値の変化とせん断応力との関係に基づき、触覚センサ素子に加わるせん断応力を測定することができる。触覚センサ素子に垂直方向に接触圧力が印加された場合、応力感受層が圧縮されて上電極と下電極との間の電気抵抗が減少する。従って、当該電気抵抗値の変化と接触圧力との関係に基づき、触覚センサ素子に加わる接触圧力を測定することができるという効果がある。
【0020】
触覚センサ素子の製造は積層化工程を用いているため、触覚センサ素子により触覚センサの薄型化を図ることが可能であると共に、作製における個体差を減少させバラツキを抑えた製造を可能とするという効果がある。触覚センサ素子の下電極と応力感受層、および応力感受層と上電極は各々密着して積層された構造を有している。このため、触覚センサ素子は低応力下でも計測安定性を向上させ高感度な計測を可能とするという効果がある。
【0021】
触覚センサは、触覚センサ素子の一対の下電極と別の触覚センサ素子の一対の下電極とを対向させて、平面上、左右に対称的に配置した。触覚センサ素子の上電極に水平方向にせん断応力が加わると、水平方向の向きに応じて、重複領域は減少または増加し、これにより上電極と下電極との間の電気抵抗値は増加または減少する。一方、別の触覚センサ素子の上電極に水平方向に同じせん断応力が加わると、重複領域の減少または増加は先の触覚センサ素子とは逆になり、このため、上電極と下電極との間の電気抵抗値の増加または減少は先の触覚センサ素子とは逆になる。従って、1組の触覚センサ素子の各電気抵抗値の変化を差引きすることにより、触覚センサに加わる左右の(X軸方向の)せん断応力を検出することができるという効果がある。
【0022】
触覚センサをブリッジ回路で構成することができる。本発明で用いるせん断応力の検出原理によれば、せん断応力による抵抗値の変化量を接触圧力および周囲の温度を除去して得ることができるという効果がある。本発明で用いる接触圧力の検出原理によれば、接触圧力による抵抗値の変化量をせん断応力および周囲の温度を除去して得ることができるという効果がある。
【0023】
触覚センサを2個、(X―Y)平面上の2軸に沿わせて配置した3軸触覚センサを作製した。触覚センサに垂直方向に接触圧力が印加された場合および/または水平方向にせん断応力が印加された場合、触覚センサ素子の電気抵抗値の変化に基づき、接触圧力および/またはせん断応力を検出することができる。
【0024】
本発明の3軸触覚センサではセンシングを担う応力感受層と、上電極および下電極とを積層化によって密着させると共に、専用の測定原理を考案した。この結果、応力の検知層が応力の方向に十分変形できる余地を持ちながら検知層の厚みが薄いという触覚センサの薄型化を実現すると共に、低応力下でも計測安定性を向上させ高感度な計測が可能である3軸触覚センサを提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の触覚センサ素子10の構造を示す断面図である。
【
図2】本発明の触覚センサ素子10の斜視図である。
【
図3】導電性高分子の例であるPEDOT/PSSの写真と構造を示す図である。
【
図4】触覚センサ素子10を2個(触覚センサ素子10および10’)、(X―Y)平面上に配置した触覚センサ20を示す図である。
【
図5】
図4に示した触覚センサ20をブリッジ回路30で構成した回路図である。
【
図6】触覚センサ20を2個(触覚センサ20および20Y’)、(X―Y)平面上の2軸に沿わせて配置した3軸触覚センサ40を示す図である。
【
図7】
図6に示した3軸触覚センサ40をブリッジ回路50で構成した回路図である。
【
図9】3軸触覚センサ40の較正装置60を模式的に示す図である。
【
図10】接触圧力の較正試験に用いた材料試験機を示す図である。
【
図12】接触圧力の較正実験の結果を示すグラフである。
【
図13】接触圧力4kPa(重り64)の下で、せん断応力を付加したときの較正実験の結果を示すグラフである。
【
図14】接触圧力(重り64)を2kPaと4kPaとに変えた下で、せん断応力を付加したときの較正実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は本発明の触覚センサ素子10の断面構造を示す。
図1で、符号12は下電極、14は下電極12の一端側12r(
図1では右側)に跨がって形成された導電ポリマー等の応力感受層(後述するように電気伝導率を有している。)、16は応力感受層14上に形成された上電極である。
図1に示されるように、下電極12と応力感受層14、および応力感受層14と上電極16は各々密着して積層された構造を有している。加えて、下電極12の一端側12rにおいて、平面上、下電極12と上電極16とは(応力感受層14を介して)垂直方向に重なる領域(実線Sで示される重複領域。平面上では略矩形状になる。)を有している。触覚センサ素子10に電圧が印加された場合、電流経路は
図1に示されるように、下電極12における電流C1から応力感受層14を通る電流C2となり、上電極16を流れる電流C3(奥行方向)となる。
【0028】
図2は触覚センサ素子10の斜視図を示す。
図2で
図1と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
図2に示されるように、触覚センサ素子10の下電極は一対の下電極12aおよび12bから構成されている。これは後述するように触覚センサ素子10の電気抵抗値を計測するために設けられている。応力感受層14は、この一対の下電極12aの一端側12raと下電極12bの一端側12rbとに跨がって(橋渡すように)形成されている。但し、一端側12raでは
図1に示される一端側12rと同様に、平面上、下電極12aと上電極16とは(応力感受層14を介して)垂直方向に重なる領域(
図1に示される実線Sと同様の重複領域)を有している。一端側12rbの場合も同様に、平面上、下電極12bと上電極16とは(応力感受層14を介して)垂直方向に重なる領域(
図1に示される実線Sと同様の重複領域)を有している。このため、電流経路は
図2に示されるように、下電極12aにおける電流C1から応力感受層14を通る電流C2となり、次いで上電極16を流れる電流C3となり、応力感受層14を流れる電流C4となって下電極12bを流れる電流C5となる。
【0029】
図1および
図2を参照して、触覚センサ素子10の上電極16に水平方向にせん断応力Fr(図上左から右方向)が加わると、重複領域Sは減少し上電極16と下電極12との間の電気抵抗値は増加する。一方、触覚センサ素子10の上電極16に水平方向にせん断応力Fl(図上右から左方向)が加わると、重複領域Sは増加し上電極16と下電極12との間の電気抵抗値は減少する。従って、当該電気抵抗値の変化とせん断応力との関係に基づき、触覚センサ素子10に加わるせん断応力を測定することができる。
【0030】
応力感受層14は触覚センサ素子10へ印加される接触圧力およびせん断応力に対する(導電ポリマー等の)変換器であり、ポリエチレンジオキシチオフェン(polyethylenedioxythiophene :PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(polystyrenesulfonic(PSS)acid)の分散体を用いた。詳しくは、Orgacon (登録商標)EL-P 3040, Agfa(登録商標)-Material 社製のPEDOT/PSSを用いた。
図3(A)は導電性高分子の例であるPEDOT/PSSの写真を示し、
図3(B)はその構造を示す。PEDOT/PSSは分子中の多数の電子がπ軌道上を自由に移動するため、電気伝導率を有している。さらに、圧縮応力が印加された場合、電気抵抗が減少する性質を有していることが知られている。このため、触覚センサ素子10に垂直方向に接触圧力が印加された場合、応力感受層14が圧縮されて上電極16と下電極12との間の電気抵抗が減少する。従って、当該電気抵抗値の変化と接触圧力との関係に基づき、触覚センサ素子10に加わる接触圧力を測定することができる。応力感受層14は導電性高分子等であればPEDOT/PSSに限定されるものではない。以下では、PEDOT/PSSを例に説明する。
【0031】
次に、触覚センサ素子10の製造方法について説明する。触覚センサ素子10の製造は積層化工程積層化工程を用いる。一対の下電極12aおよび12bはインクジェットプリンタ(CLUSTER TECHNOLOGY社製およびDeskviewer)を用いて金属インク(HARIMA Chemical Group社製,NPS-J)により、基板(所定の基材フィルム)上に印刷した(下電極形成工程)。金属インクとしては例えば銀インクが好適である。以下では銀インクを例に取り上げるが、金属インクが銀インクに限定されるものではない。基板としては、銀インクに対する専用フィルム(MITSUBISHI(登録商標) PAPER MILLS LIMITED社製、NB-WF-3GF100)を用いた。下電極12を上記専用フィルムに印刷後、電気炉により適宜アニールした。なお、銀インクの電気伝導率は約6.30×107(S/m)であり、PEDOT/PSSの電位伝導率よりかなり大きい。
【0032】
続いて、下電極形成工程で形成された一対の下電極12aおよび12bの表面上に跨って、スクリーン印刷の方法を用いて導電ポリマー(例えば、上記PEDOT/PSS:所定の導電ポリマー)を塗布(コーティング)することにより、応力感受層14を形成した(応力感受層形成工程)。PEDOT/PSSの中に銀インクが入り込む可能性を減少させるため、複数の層でコーティングした。PEDOT/PSSの1層をコーティングした際、電気炉により適宜アニールした。全層をコーティング後、電気炉により適宜アニールした。
【0033】
上電極16は銀インクを用いてインクジェットプリンタにより、応力感受層形成工程で形成された応力感受層(PEDOT/PSS)上に印刷することにより形成した(上電極形成工程)。銀インクの飛翔状態および着滴状態を観察しながら上電極16を形成した。PEDOT/PSSの中に銀インクが送り込まれるのを避けるため、適宜加熱しつつ印刷をおこなった。上電極16を印刷後、電気炉により適宜アニールした。PEDOT/PSSの表面上に銀インクで上電極16を印刷後、規定通りの大きさであり横に広がっていないことを確認した。最後に、触覚センサ素子10の表面を電気的絶縁および保護のため、ポリエチレンフィルムでコーティングした。
【0034】
以上より、本発明の実施例1によれば、本発明の触覚センサ素子10の断面構造は、下電極12と、下電極12の一端側12rに跨がって形成されたPEDOT/PSSの応力感受層と、応力感受層14上に形成された上電極16とから構成されている。触覚センサ素子10の上電極16に水平方向にせん断応力FrまたはFlが加わると、水平方向の向きに応じて、重複領域Sは減少または増加し、これにより上電極16と下電極12との間の電気抵抗値は増加または減少する。従って、当該電気抵抗値の変化とせん断応力との関係に基づき、触覚センサ素子10に加わるせん断応力を測定することができる。触覚センサ素子10に垂直方向に接触圧力が印加された場合、応力感受層14が圧縮されて上電極16と下電極12との間の電気抵抗が減少する。従って、当該電気抵抗値の変化と接触圧力との関係に基づき、触覚センサ素子10に加わる接触圧力を測定することができる。
【0035】
上述したように、触覚センサ素子10の製造は積層化工程を用いているため、触覚センサ素子10により触覚センサの薄型化を図ることが可能であると共に、作製における個体差を減少させバラツキを抑えた製造を可能とするという効果がある。触覚センサ素子10の下電極12と応力感受層14、および応力感受層14と上電極16は各々密着して積層された構造を有している。このため、触覚センサ素子10は低応力下でも計測安定性を向上させ高感度な計測を可能とするという効果がある。
【実施例2】
【0036】
図4は、上述した触覚センサ素子10を2個(触覚センサ素子10および10’)、XY平面上の1軸(X軸)上に配置した触覚センサ20を示す。
図4で
図1と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
図4では説明の都合上、X軸およびZ軸のみを示しているが、Y軸は後述する
図6に示される方向と同じである。触覚センサ素子10’側の各要素には触覚センサ素子10側の対応する各要素にダッシュ(’)を付けて示す。
図4に示されるように触覚センサ20は、触覚センサ素子10の一対の下電極12aおよび12bの各一端側12raおよび12rbと、触覚センサ素子10’の一対の下電極12a’および12b’の各一端側12ra’および12rb’とを対向させて平面上の1軸(X軸)上に沿わせて配置した。つまり、各触覚センサ素子10等の一対の下電極12a、12b等同士を対向させて、左右に(X軸上に)対称的に配置した。下電極12aと12bとの間の電気抵抗値をR
X1、下電極12a’と12b’との間の電気抵抗値をR
X2とした。
図4に示される触覚センサ素子10
DGは、周囲の温度の変化によってのみ電気抵抗値が変化する(温度補償用の)ダミーゲージである。触覚センサ素子10
DG側の各要素には触覚センサ素子10側の対応する各要素に記号DGを付けて示す。R
DGは温度補償用の電気抵抗値である。
【0037】
上述したように、触覚センサ素子10に水平方向(X軸方向)にせん断応力が加わると、水平方向の向きにより重複領域Sは減少または増加して、上電極16と下電極12a等との間の電気抵抗値は増加または減少する。
図4に示される触覚センサ20の場合も同様であり、触覚センサ素子10の上電極16に水平方向にせん断応力Fr(図上左から右方向)が加わると、重複領域Sは減少し上電極16と下電極12aとの間の電気抵抗値R
X1は増加する。一方、触覚センサ素子10’の場合、上電極16’に水平方向に同じせん断応力Frが加わると、重複領域S’は増加し上電極16’と下電極12a’等との間の電気抵抗値R
X2は減少する。逆方向も同様に、触覚センサ素子10の上電極16に水平方向にせん断応力Fl(図上右から左方向)が加わると、重複領域Sは増加し上電極16と下電極12a等との間の電気抵抗値R
X1は減少する。一方、触覚センサ素子10’の場合、上電極16’に水平方向に同じせん断応力Flが加わると、重複領域S’は減少し上電極16’と下電極12a’等との間の電気抵抗値R
X2は増加する。従って、1組の触覚センサ素子10および10’の各電気抵抗値R
X1の変化とR
X2の変化とを差引きすることにより、触覚センサ20に加わる左右の(X軸方向の)せん断応力Fr、Flを検出することができる。
【0038】
上述したように、触覚センサ素子10に垂直方向(Z軸方向)に接触圧力が印加された場合、応力感受層14が圧縮されて上電極16と下電極12a等との間の電気抵抗が減少する。従って、当該電気抵抗値の変化と接触圧力との関係に基づき、触覚センサ素子10に加わる接触圧力を測定することができる。
図4に示される触覚センサ20の場合も同様に、触覚センサ20に垂直方向に接触圧力が印加された場合、各応力感受層14、14’が圧縮されて電気抵抗値R
X1とR
X2とが減少する。従って、当該電気抵抗値の変化と接触圧力との関係に基づき、触覚センサ20に加わる接触圧力を測定することができる。以上より、触覚センサ20に垂直方向に接触圧力が印加された場合および/または水平方向にせん断応力Fr、Flが印加された場合、各触覚センサ素子10、10’の電気抵抗値R
X1、R
X2の変化に基づき、接触圧力および/またはせん断応力Fr、Flを検出することができる(「Aおよび/またはB」は、「AおよびB」と「AまたはB」との併記を略したものである。)。
【0039】
以下では、本発明で用いるせん断応力、接触圧力の検出原理につき詳しく説明する。
図5は
図4に示した触覚センサ20をブリッジ回路30で構成した回路図である。
図5で
図4と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
図5に示されるように、触覚センサ20は、触覚センサ素子10(第1の触覚センサ素子)の電気抵抗R
X1(第1センサ抵抗)と、触覚センサ素子10’(第2の触覚センサ素子)の電気抵抗R
X2(第2センサ抵抗)と、接触圧力およびせん断応力が無負荷時における電気抵抗R
X1およびR
X2(=R。固定抵抗)とに基づくブリッジ回路30を構成する。ブリッジ回路30にはダミーゲージ10
DGの電気抵抗R
DGと固定抵抗Rとの直列回路も含む。各抵抗値はブリッジ回路30が平衡状態における抵抗値である。
図5に示されるように、ブリッジ回路30の一の対辺に電気抵抗R
X1および固定抵抗Rが配置され、他の対辺に電気抵抗R
X2および固定抵抗Rが配置されており、電気抵抗R
X1と電気抵抗R
X2と電気抵抗R
DGとを結ぶ分岐点rと接地間とに入力電圧Eが印加される。e
1xは分岐点aと接地との間の実測電位、e
2xは分岐点bと接地との間の実測電位、e
3は分岐点gと接地との間の実測電位である。触覚センサ20に垂直方向に接触圧力が印加された場合および水平方向にせん断応力Fr、Flが印加された場合、せん断応力による電圧の変化e
xは以下の式1で与えられる。
【0040】
【0041】
ここで、式1をテイラー展開すると式2になる。
【0042】
【0043】
電気抵抗RX1の変化量ΔRX1、電気抵抗RX2の変化量ΔRX2は、触覚センサ20に印加される接触圧力による変化量(ΔRX1CP、ΔRX2CP)、せん断応力による変化量(ΔRX1SS、ΔRX2SS)及び周囲の温度による変化量(ΔRX1TMP、ΔRX2TMP)により与えられる。電気抵抗RDGの変化量は周囲の温度による変化量(ΔRDGTMP)により与えられる。即ち、式3のように与えられる。
【0044】
ΔRX1=ΔRX1CP+ΔRX1SS+ΔRX1TMP
ΔRX2=ΔRX2CP+ΔRX2SS+ΔRX2TMP
ΔRDG=ΔRRGTMP (3)
【0045】
式2の第2項を無視し、式3を代入すると式4のようになる。
【0046】
【0047】
ここで、
接触圧力による変化量ΔRX1CP=ΔRX2CP=ΔRCP(<0)、
せん断応力による変化量ΔRX1SS=-ΔRX2SSとして両者の絶対値をΔRSS、
周囲の温度による変化量ΔRX1TMP=ΔRX2TMP=ΔRTMP (5)
とすれば、式4は式6のようになる。
【0048】
【0049】
以上より、本発明で用いるせん断応力の検出原理は次の通りである。即ち、触覚センサ20に接触圧力およびせん断応力が印加された場合、一の対辺(電気抵値RX1および固定抵値Rが配置された辺)中の分岐点aの接地に対する実測電位e1xと、他の対辺(電気抵値RX2および固定抵値Rが配置された辺)中の分岐点bの接地に対する実測電位e2xとの差の電位exは、せん断応力による変化量ΔRSSと入力電圧Eと固定抵値Rとにより得られるという原理である。電位exは実測値の差であり、入力電圧Eおよび固定抵抗Rは定数値であるため、式6に基づき、せん断応力による抵抗値の変化量ΔRSSを接触圧力および周囲の温度を除去して得ることができる。
【0050】
次に、触覚センサ20に垂直方向に接触圧力が印加された場合および水平方向にせん断応力Fr、Flが印加された場合、触覚センサ素子10の接触圧力による電圧の変化eZ1は以下の式7で与えられる。
【0051】
【0052】
ここで、式7をテイラー展開し、2次項までとると式8になる。
【0053】
【0054】
式8の第2項を無視し、式3および式5の関係を考慮すると式9のようになる。
【0055】
【0056】
同様にして、触覚センサ素子10’の接触圧力による電圧の変化eZ2は以下の式10で与えられる。
【0057】
【0058】
式9および10より、触覚センサ素子10および10’の接触圧力による電圧の変化eZは以下の式11で与えられる。
【0059】
【0060】
ここで、式5の関係を考慮すると、式11は式12のようになる。
【0061】
【0062】
なお、周囲の温度による電気抵抗値の変化が小さく無視できる場合(e1x、e2x>>e3)、式11は式13のようにしてもよい。
【0063】
【0064】
以上より、本発明で用いる接触圧力の検出原理は次の通りである。即ち、触覚センサ20に接触圧力およびせん断応力が印加された場合、一の対辺(電気抵抗RX1および固定抵抗Rが配置された辺)中の分岐点aの接地に対する実測電位e1xとダミーゲージを含む対辺(電気抵抗RDGおよび固定抵抗Rが配置された辺)中の分岐点gの接地に対する実測電位e3との差eZ1と、他の対辺(電気抵抗RX2および固定抵抗Rが配置された辺)中の分岐点bの接地に対する実測電位e2xとダミーゲージを含む対辺中の分岐点gの接地に対する実測電位e3との差eZ2との和の電位eZは、接触圧力による変化量ΔRCPと入力電圧Eと固定抵抗Rとにより得られるという原理である。電位eZは実測値の和であり、入力電圧Eおよび固定抵抗Rは定数値であるため、式12または13に基づき、接触圧力による抵抗値の変化量ΔRCPをせん断応力および周囲の温度を除去して得ることができる。周囲の温度による電気抵抗値の変化が小さく無視できる場合、ダミーゲージ側の実測電位e3を無視して、電位eZは実測電位e1xと実測電位e2xとの和により得られるとしてもよい。
【0065】
以上より、本発明の実施例2によれば、触覚センサ20は、触覚センサ素子10の一対の下電極12aおよび12bと、触覚センサ素子10’の一対の下電極12a’および12b’とを対向させて、平面上、左右に対称的に配置した。触覚センサ素子10の上電極16に水平方向にせん断応力FrまたはFlが加わると、水平方向の向きに応じて、重複領域Sは減少または増加し、これにより上電極16と下電極12a等との間の電気抵抗値RX1は増加または減少する。一方、触覚センサ素子10’の上電極16’に水平方向に同じせん断応力FrまたはFlが加わると、重複領域S’の減少または増加は触覚センサ素子10とは逆になり、このため、上電極16’と下電極12a’等との間の電気抵抗値RX2の増加または減少は触覚センサ素子10とは逆になる。従って、1組の触覚センサ素子10および10’の各電気抵抗値RX1の変化とRX2の変化とを差引きすることにより、触覚センサ20に加わる左右の(X軸方向の)せん断応力Fr、Flを検出することができる。触覚センサ20を構成する触覚センサ素子10の製造は積層化工程を用いているため、触覚センサ20により触覚センサの薄型化を図ることが可能であると共に、作製における個体差を減少させバラツキを抑えた製造を可能とするという効果がある。触覚センサ20を構成する触覚センサ素子10の下電極12a等と応力感受層14、および応力感受層14と上電極16は各々密着して積層された構造を有している。このため、触覚センサ20は低応力下でも計測安定性を向上させ高感度な計測を可能とするという効果がある。
【0066】
触覚センサ20をブリッジ回路30で構成することができる。本発明で用いるせん断応力の検出原理は次の通りである。即ち、触覚センサ20に接触圧力およびせん断応力が印加された場合、ブリッジ回路30の分岐点aの接地に対する実測電位e1xと、分岐点bの接地に対する実測電位e2xとの差の電位exは、せん断応力による変化量ΔRSSと入力電圧Eと固定抵抗Rとにより得られるという原理である。電位exは実測値の差であり、入力電圧Eおよび固定抵抗Rは定数値であるため、式6に基づき、せん断応力による抵抗値の変化量ΔRSSを接触圧力および周囲の温度を除去して得ることができるという効果がある。本発明で用いる接触圧力の検出原理は次の通りである。即ち、触覚センサ20に接触圧力およびせん断応力が印加された場合、ブリッジ回路30の分岐点aの接地に対する実測電位e1xと分岐点gの接地に対する実測電位e3との差eZ1と、分岐点bの接地に対する実測電位e2xと分岐点gの接地に対する実測電位e3との差eZ2との和の電位eZは、接触圧力による変化量ΔRCPと入力電圧Eと固定抵抗Rとにより得られるという原理である。電位eZは実測値の和であり、入力電圧Eおよび固定抵抗Rは定数値であるため、式12または13に基づき、接触圧力による抵抗値の変化量ΔRCPをせん断応力および周囲の温度を除去して得ることができるという効果がある。周囲の温度による電気抵抗値の変化が小さく無視できる場合、ダミーゲージ側の実測電位e3を無視して、電位eZは実測電位e1xと実測電位e2xとの和により得られるとしてもよい。
【実施例3】
【0067】
図6は、上述した触覚センサ20を2個(触覚センサ20および20Y)、XY平面上の各軸に沿わせて配置した3軸触覚センサ40を示す。
図6で
図4と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。触覚センサ20Y側の各要素には触覚センサ20側の対応する各要素にYを付けて示す。
図6に示されるように3軸触覚センサ40は、触覚センサ20をX軸方向に沿わせて配置し、触覚センサ20YをY軸方向に沿わせて配置した。触覚センサ20Yを構成する触覚センサ素子10Yの下電極12aYと12bYとの間の電気抵抗値をR
Y1、触覚センサ素子10Y’の下電極12a’Yと12b’Yとの間の電気抵抗値をR
Y2とした。触覚センサ20Yに水平方向(この場合はY軸方向)にせん断応力が加わった場合、実施例2で説明した触覚センサ20の場合と同様に、1組の触覚センサ素子10Yおよび10Y’の各電気抵抗R
Y1の変化とR
Y2の変化とを差引きすることにより、触覚センサ20Yに加わるY軸方向のせん断応力を検出することができる。触覚センサ20Yに垂直方向(Z軸方向)に接触圧力が印加された場合、実施例2で説明した触覚センサ20の場合と同様に、各応力感受層14Y、14Y’が圧縮されて電気抵抗R
Y1とおよびR
Y2の値が減少する。従って、当該電気抵抗値の変化と接触圧力との関係に基づき、触覚センサ20Yに加わる接触圧力を測定することができる。以上のように、3軸触覚センサ40はXY軸方向のせん断応力の計測だけではなく、Z軸方向の接触圧力の計測も含むため、3軸触覚センサ40とした。
図6に示される1点鎖線で囲まれた部分Mが応力測定領域であり、約3.6×3.6mm
2である。但し、応力測定領域Mのサイズはこれに限定されるものではない。以上より、触覚センサ20Yに垂直方向に接触圧力が印加された場合および/または水平方向にせん断応力が印加された場合、実施例2で説明した触覚センサ20の場合と同様に各触覚センサ素子10Y、10Y’の電気抵抗R
Y1、R
Y2の値の変化に基づき、接触圧力および/またはせん断応力を検出することができる。
【0068】
実施例2で説明したせん断応力、接触圧力の検出原理は実施例3の3軸触覚センサ40に対しても同様に適用することができる。
図7は
図6に示した3軸触覚センサ40をブリッジ回路50で構成した回路図である。
図7で
図5と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
図7に示されるように、3軸触覚センサ40は、x軸に配置した触覚センサ20が構成するx軸ブリッジ回路とy軸に配置した触覚センサ20Yが構成するy軸ブリッジ回路とを並列に組合わせたxy軸ブリッジ回路を構成している。電気抵抗R
X1、R
X2、R
Y1、R
Y2およびR
DGを結ぶ分岐点rと接地間とに入力電圧Eが印加される。x軸ブリッジ回路の各抵抗R
X1、R
X2の分岐点とy軸ブリッジ回路の各抵抗R
Y1、R
Y2の分岐点とに共通に入力電圧Eが印加される。e
1Yは分岐点cと接地との間の実測電位、e
2Yは分岐点dと接地との間の実測電位である。
【0069】
触覚センサ20Yに垂直方向に接触圧力が印加された場合および水平方向にせん断応力が印加された場合、せん断応力による電圧の変化eYは、式6と同様に与えられる。以下の式14は3軸触覚センサ40におけるせん断応力による電圧の変化eXおよびeYを纏めて表したものである。但し、X、Y方向を区別するため、せん断応力による抵抗値の変化量ΔRSSを、ΔRSSX、ΔRSSYとした。
【0070】
【0071】
触覚センサ20Yに垂直方向に接触圧力が印加された場合および水平方向にせん断応力が印加された場合、接触圧力による電圧の変化eZは、式12と同様に与えられる。以下の式15は3軸触覚センサ40における接触圧力による電圧の変化を纏めて表したものである。但し、X、Y方向を区別するため、触覚センサ20、20Yにおける接触圧力による電圧の変化をeZXおよびeZYとし、接触圧力による抵抗値の変化量ΔRCPをΔRCPX、ΔRCPYとした。
【0072】
【0073】
式15のeZXおよびeZYの平均(eXY)は式16のようになる。
【0074】
【0075】
ここで、ΔRCPX=ΔRCPY=ΔRCPとみなせる場合、式16は式17となる。
【0076】
【0077】
なお、周囲の温度による電気抵抗値の変化が小さく無視できる場合(e1x、e2x、e1Y、e2x>>e3)、式18のようにしてもよい。
【0078】
【0079】
図8は、3軸触覚センサ40を撮影した図であり、上述した応力測定領域Mが示されている。
【0080】
以上より、本発明の実施例3によれば、実施例2の触覚センサ20を2個(触覚センサ20および20Y)、XY平面上の各軸に沿わせて配置した3軸触覚センサ40を作製した。触覚センサ20Yに垂直方向に接触圧力が印加された場合および/または水平方向にせん断応力が印加された場合、実施例2で説明した触覚センサ20の場合と同様に各触覚センサ素子10Y、10Y’の電気抵抗RY1、RY2の値の変化に基づき、接触圧力および/またはせん断応力を検出することができる。実施例2で説明したせん断応力、接触圧力の検出原理は実施例3の3軸触覚センサ40に対しても同様に適用することができる。3軸触覚センサ40は、x軸に配置した触覚センサ20が構成するx軸ブリッジ回路とy軸に配置した触覚センサ20Yが構成するy軸ブリッジ回路とを並列に組合わせたxy軸ブリッジ回路を構成している。触覚センサ20Yに垂直方向に接触圧力が印加された場合および水平方向にせん断応力が印加された場合、せん断応力による電圧の変化eYは、実施例2の式6と同様に与えられる。このため、3軸触覚センサ40におけるせん断応力による電圧の変化eXおよびeYを纏めて式14で表すことができる。触覚センサ20Yに垂直方向に接触圧力が印加された場合および水平方向にせん断応力が印加された場合、接触圧力による電圧の変化eZは、実施例2の式12と同様に与えられる。このため、3軸触覚センサ40における接触圧力による電圧の変化を纏めて式15で表すことができる。
【0081】
3軸触覚センサ40を構成する各触覚センサ素子10等の製造は積層化工程を用いているため、3軸触覚センサ40により触覚センサの薄型化を図ることが可能であると共に、作製における個体差を減少させバラツキを抑えた製造を可能とするという効果がある。3軸触覚センサ40を構成する各触覚センサ素子10等の下電極12a等と応力感受層14等、および応力感受層14等と上電極16等は各々密着して積層された構造を有している。このため、3軸触覚センサ40は低応力下でも計測安定性を向上させ高感度な計測を可能とするという効果がある。言い換えると、本発明の3軸触覚センサ40ではセンシングを担う応力感受層14等と、上電極16等および下電極12a等とを積層化によって密着させると共に、上述した専用の測定原理を考案した。この結果、応力の検知層が応力の方向に十分変形できる余地を持ちながら検知層の厚みが薄いという触覚センサの薄型化を実現すると共に、低応力下でも計測安定性を向上させ高感度な計測が可能である3軸触覚センサ40を提供することができるという効果がある。
【0082】
較正装置.
図9(A)は、3軸触覚センサ40の較正装置60を模式的に示す。
図9(B)、(C)は較正装置60の撮影図である。
図9(A)に示されるように、ベース61上に3軸触覚センサ40が載せられ、3軸触覚センサ40上にパンチ(ゴム製。7×7mm
2)62を介してアクリル板63が載せられ、アクリル板63の上に接触圧力印加用の重り64が乗っている。せん断応力用に水平方向の変位を発生させるピエゾアクチュエータ(株式会社メステック製、MZ-1300ZL、最大変位1.3mm)72を用い、ロードセル(ユニパルス株式会社製、USM-5N)71をピエゾアクチュエータ72の先端にセットし、ロードセル71とアクリル板63とをワイヤ70で繋げた。
図9では図示されていないが、ピエゾアクチュエータ72にはピエゾドライバ(株式会社メステック製、M-2691)が接続され、それにDC定電圧源(松定プレシジョン株式会社製、P4K-80L)が接続されている。ピエゾアクチュエータ72への印加電圧は0~5Vのステップ駆動(矩形波)型とした。以上の構成により、3軸触覚センサ40へのせん断応力はピエゾアクチュエータ72でワイヤ70により(アクリル板63を介して)パンチ62を水平方向に引くことにより印加し、接触圧力は重り64をアクリル板63に置くことにより印加した。
図9(B)はベース61に3軸触覚センサ40を載せた状態を示している。較正装置60にはレール65(2本のスロット)が設けられており、これによりピエゾアクチュエータ72の位置、ベース61の位置を調節することができる。
図9(C)は
図9(B)の状態でさらに3軸触覚センサ40上にパンチ62、アクリル板63および重り64を載せた状態を示す。
【0083】
較正試験.
図10は、接触圧力の較正試験に用いた材料試験機を示す。材料試験機としては株式会社島津製作所(登録商標)製のオートグラフ(登録商標)AGS-J 5kNを用いた。
図11は
図10に示した材料試験機の一部拡大図を示す。
図11に示されるように、3軸触覚センサ40の上にスポンジラバーパンチ80(7×7mm
2)を置いた。ブリッジ回路50への入力電圧E=5Vとし、接触圧力は0~5kPaと変化させた。この条件で、上述した各電位e
1x、e
2x、e
1Y、e
2Y、e
3等を実測した。結果については後述する(
図12)。せん断応力の較正試験には
図9に示した較正装置60を用いた。ブリッジ回路50への入力電圧E=5Vとし、せん断応力は-8~+8kPaと変化させた。同時に重り64によりパンチ62を介して4kPaの接触圧力を印加した。結果については後述する(
図13~14)。
【0084】
実験結果.
図12は接触圧力の較正実験の結果をグラフで示す。
図12で、横軸は接触圧力(kPa)、縦軸は出力電圧(V)(例えば、上述した電位e
1x、e
2x、e
XY等)である。
図12に示されるように、出力電圧は接触圧力の増加と共に増加している。従って、式15、16等が正しいことがわかった。なお、ΔR
CPは基本的に負の値である。
【0085】
図13は、接触圧力4kPa(重り64)の下で、せん断応力を付加したときの較正実験の結果をグラフで示す。
図13(A)、(B)は各々X軸、Y軸に関する測定結果である。
図13(A)、(B)で、横軸はせん断応力(kPa)、縦軸は出力電圧(V)(例えば、上述した電位e
1x、e
1Y、e
X、e
Y等)である。
図13(A)では1回目の実験結果は薄い〇(原図では橙色)で示され、2回目の実験結果は濃い〇(原図では赤色)で示してあり、
図13(B)では1回目の実験結果は濃い〇(緑色)で示され、2回目の実験結果は薄い〇(薄青色)で示してある。
図13(A)、(B)に示されるように、3軸触覚センサ40の初期電圧は0Vにシフトされている。X軸、Y軸のいずれの場合も、出力電圧はせん断応力の増加と共に増加しており、1回目および2回目共に、せん断応力の増加に対する出力電圧の変化(即ち、傾き)はほぼ同じとなっている。このため、せん断応力はこの傾きを用いることにより出力電圧から決定することができる。従って、式14が正しいことがわかった。
【0086】
図14は、接触圧力(重り64)を2kPaと4kPaとに変えた下で、せん断応力を付加したときの較正実験の結果をグラフで示す。
図14で、横軸はせん断応力(kPa)、縦軸は出力電圧(V)(例えば、上述した電位e
1x、e
1Y、e
X、e
Y等)である。
図14では接触圧力2kPaの実験結果は濃い色(原図では青色)で示され、4kPaの実験結果は薄い色(原図では橙色)で示してある。
図14に示されるように、接触圧力(重り64)によらず傾きと切片が等しい直線が得られたため、せん断応力のみによって出力電圧が変化することが示された。従って、接触圧力とせん断応力とが組み合わされて印加された場合であっても、せん断応力のみを独立に測定することができることが示された。これにより、上述した本発明の測定原理の正しさが証明された。加えて、
図12~14に示されるように、低応力下でも安定した出力電圧を得ることができることも示された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の活用例として、低応力下でも安定した出力電圧を得ることができるため、生物学的な接触インタフェースとして適用することができる。例えば、人との接触を伴うロボットハンドの先端に取り付けたり、電子機器の入力インタフェースとしたりすることに適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
10、10’、10DG、10Y、10Y’ 触覚センサ素子、 12、12a、12b、12a’、12b’、12aY、12bY、12a’Y、12b’Y、12aDG、12bDG 下電極、 12r、12ra、12rb、12ra’、12rb’ 下電極の一端側、 14、14’、14DG、14Y、14Y’ 応力感受層、 16、16’、16DG、16Y、16Y’ 上電極、 20、20Y 触覚センサ、 30、50 ブリッジ回路、 60 較正装置、 61 ベース、 62 パンチ、 63 アクリル板、 64 重り、 70 ワイヤ、 71 ロードセル、 72 ピエゾアクチュエータ。