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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】建物の床面レベルの調整方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/00 20060101AFI20240405BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
E04F15/00 101G
E04G23/02 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023053542
(22)【出願日】2023-03-29
【審査請求日】2024-01-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】396015046
【氏名又は名称】株式会社エス・アイ・ルネス
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100154748
【弁理士】
【氏名又は名称】菅沼 和弘
(72)【発明者】
【氏名】前田 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】川口 貴之
(72)【発明者】
【氏名】八田 徹也
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-339916(JP,A)
【文献】特開平10-61148(JP,A)
【文献】特開2004-169456(JP,A)
【文献】特開平7-233613(JP,A)
【文献】特開平9-303678(JP,A)
【文献】特開2009-235806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F15/00-15/22
E04G23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブの上面に複数の逆梁が間隔を隔てて突設されている状態で、互いに対向する逆梁間に複数の大引が橋架支持され、それらの大引上に根太材を介して床材が敷設されることで、複数の前記逆梁により囲まれる床下空間が1以上形成される建物における、施行後の床面がNmm下降した際の当該建物の床面レベルの調整方法であって、
前記大引の両端は、±Mmm(MはN以上の値)の範囲内で垂直方向の位置を調整可能なアジャスター式床下支持具により支持され、
前記床下空間は、前記大引の下面と前記スラブの上面にジャッキを配置してジャッキアップの作業を作業者が行うために必要な高さを有している場合において、
前記作業者が、前記床下空間に進入する第1ステップと、
前記作業者が、調整対象の前記大引の下面と前記スラブの上面との間にジャッキを配置し、当該ジャッキによりジャッキアップすることで、前記調整対象の大引を上方向に略Nmmだけ移動させる第2ステップと、
前記作業者が、前記アジャスター式床下支持具に対して略+Nmmの調整をして、上方向に略Nmm移動した前記調整対象の大引を当該アジャスター式床下支持具により支持させることで、床面レベルをNmm上昇させる第3ステップと、
を含む建物の床面レベルの調整方法。
【請求項2】
前記アジャスター式床下支持具は、調整用の一対のレベル調整ボルト及びロックナットを有する、
請求項1に記載の建物の床面レベルの調整方法。
【請求項3】
前記アジャスター式床下支持具の調整しろMは、±12.5mmである、
請求項1に記載の建物の床面レベルの調整方法。
【請求項4】
前記床下空間の高さは、430mm以上である、
請求項1に記載の建物の床面レベルの調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の床面レベルの調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、床面のレベル調整を、床下から簡単に行なうことができる床下支持構造自体は存在する(例えば先行技術文献1参照)。
この先行技術文献1には、床構造体の経年変化や地震等に起因して、床面のレベルの水平度を維持できなくなることがあるため、床面の水平度を復元させる必要があることが記載されている(段落[0004]、段落[0005])。
また、先行技術文献1には、床板を外さずに、床下空間に下りた作業者が、床下支持具の一対のレベル調整ボルト及びロックナットの回転操作をすることで、床面のレベル調整をすることが記載されている(段落[0028]、図9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3742081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、床下支持具が支持しているものは、大引を構成するビーム材である。このため、人手により、床下支持具のレベル調整ボルト及びロックナットの回転操作を単にしただけでは、ビーム部材を上方に移動させることは実際には困難である。
即ち、床構造体の経年劣化や地震等に起因して下降した床レベルを復元することは実際には困難である。
【0005】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、床構造体の経年劣化等に起因して下降した床レベルを人手の作業により復元することができる建物の床面レベルの調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様の建物の床面レベルの調整方法は、
スラブの上面に複数の逆梁が間隔を存して突設されている状態で、互いに対向する逆梁間に複数の大引が橋架支持され、それらの大引上に根太材を介して床材が敷設されることで、複数の前記逆梁により囲まれる床下空間が1以上形成される建物における、施行後の床面がNmm下降した際の当該建物の床面レベルの調整方法であって、
前記大引の両端は、±Mmm(MはN以上の値)の範囲内で垂直方向の位置を調整可能なアジャスター式床下支持具により支持され、
前記床下空間は、前記大引の下面と前記スラブの上面にジャッキを配置してジャッキアップの作業を作業者が行うために必要な高さを有している場合において、
前記作業者が、前記床下空間に進入する第1ステップと、
前記作業者が、調整対象の前記大引の下面と前記スラブの上面との間にジャッキを配置し、当該ジャッキによりジャッキアップすることで、前記調整対象の大引を上方向に略Nmmだけ移動させる第2ステップと、
前記作業者が、前記アジャスター式床下支持具に対して略+Nmmの調整をして、上方向に略Nmm移動した前記調整対象の大引を当該アジャスター式床下支持具により支持させることで、床面レベルをNmm上昇させる第3ステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、床構造体の経年劣化等に起因して下降した床レベルを人手の作業により復元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】集合住宅の一部破断平面図である。
図2図1の2-2線に沿う断面図である。
図3図1の3-3線に沿う拡大断面図である。
図4図3の4-4線に沿う拡大断面図である。
図5図3の破線囲い部分5の拡大図である。
図6図5の6-6線に沿う拡大断面図である。
図7】大引の支持部の斜視図である。
図8】大引の支持部の分解縦断面図である。
図9】床レベルの復元作業のために集合住宅の床下空間に作業者がもぐり込んでいる様子を示す図である。
図10】床下空間の大引の下面とスラブの上面との間にジャッキを配置した様子を示す図である。
図11図10のジャッキにより大引をジャッキアップする様子を示す図である。
図12図11の大引のジャッキアップにより浮かせたことで、負荷がなくなった床構造体のレベルを調整している様子を示す図である。
図13】他のジャッキアップ方法の例を示す図である。
図14図13のA-A断面図である。
図15図13のジャッキアップ方法で使用されるジョイント金具を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
まず、図1図8を参照して、本発明に係る一実施形態の建物の床面レベル調整方法が適用される集合住宅の床支持構造について説明する。
図1は、集合住宅の一部破断平面図、図2は、図1の2-2線に沿う断面図、図3は、図1の3-3線に沿う拡大断面図、図4は、図3の4-4線に沿う拡大断面図、図5は、図3の破線囲い部分5の拡大図、図6は、図5の6-6線に沿う拡大断面図、図7は、大引の支持部の斜視図、図8は、大引支持部の分解縦断面図である。
【0010】
図1乃至3において、集合住宅の骨格を構成する、逆梁構造のコンクリート躯体Fは、水平方向に延びて、建物を複数の階層に区画する水平躯体部分Fhと、鉛直方向に延びて上下の水平躯体部分Fhを相互に連結する鉛直躯体部分Fvを備えている。
【0011】
水平躯体部分Fhにより仕切られる各階層には、複数戸の住宅空間Hが並設され、各住宅空間Hは、その四隅にそれぞれ立設されて上下の床スラブSfを結合する躯体柱1と、対向する躯体柱1間を一体に結合する、躯体外壁2及び躯体隔壁(耐力壁)3により仕切られる。
【0012】
水平躯体部分Fhを構成する床スラブSfには、各住宅空間Hの床下空間Hdを区画する縦、横の逆大梁5L,5Tが床スラブSfから上向きに一体に突設されている。これらの縦、横の逆大梁5L,5T上に、躯体隔壁3及び躯体外壁2の下端が一体に結合されている。また、それらの逆大梁5L,5Tは、住宅空間Hの四隅に位置する躯体柱1に一体に結合される。
【0013】
各住宅空間Hにおいて、床スラブSf上には、前記逆大梁5L,5Tよりも低い縦、横の逆小梁6L,6Tが上向きに一体に突設されている。これらの縦、横の逆小梁6L,6Tは互いに交差して、それらの端部は、横、縦の逆大梁5T,5Lの中間部にそれぞれ一体に連結されている。
【0014】
この他、住宅空間Hの外側、例えば並列する複数戸の住宅空間Hの一方の躯体外壁2(図1、左側)の外側には、通路7が構築され、またそれらの他方の躯体外壁2(図1、右側)の外側には、ベランダ8が構築されている。通路7側及びベランダ8側の、横の逆大梁5Tの内面には、断熱材としての発泡ウレタン9が設けられる。
【0015】
各住宅空間Hの縦横の逆大梁5L,5Tと、縦横の逆小梁6L,6T間には、床構造体Frが支持され、この床構造体Frにより、住宅空間Hは、床下空間(物入れ空間)Hdと、床上空間(居住空間)Huとに画成される。
【0016】
上記の床構造体Frは、図4に示すように、複数本の大引10と、それらの上にそれらと直交して支持される複数本の根太11と、それらの根太11上に敷設される木質系のフローリング板等よりなる床板12とより一体的に構成されている。該床板12は、下地材上に仕上材を一体に積層して構成されている。
根太11は、木製のものを根太木といい、鋼製のものを鋼製根太という。鋼製根太の場合は、大引10との間にゴム部材等の緩衝材(防音及び防振材)を介在させることが好ましい。大引10は、例えば防錆性の亜鉛鉄板を断面Σ状に屈曲加工して形成したものをΣビームと呼び、本実施形態では、Σビームを使用したものを例示する。
【0017】
図1に示すように、各住宅空間Hは平面長方形状に形成され、その長手方向と直交する方向、すなわち該住宅空間Hの幅方向において、縦の逆大梁5Lと縦の逆小梁6Lとの比較的短いスパン間に、複数本の大引10がそれぞれ橋架支持される。
図2に示すように、縦の逆大梁5Lの側部には、逆小梁6L,6Tと略同じレベルの打増部すなわち床支持部14が段状に一体に成形(縦の逆大梁5Lの型枠による成形時に同時に一体成形)されている。この床支持部14と縦の逆小梁6Lの上面との間に、複数本の大引10の端部が、アジャスター式床下支持金具FSを介してフローティング支持される。
【0018】
このアジャスター式床下支持金具FSは、図7,8に示すように、ピット状に折り曲げ成形される、亜鉛鉄板製の支持板16と、断面凹状の防振ゴム17と、一対のレベル調整ボルト18と、それらのレベル調整ボルト18にそれぞれ螺挿される一対のロックナット22とより構成されている。アジャスター式床下支持金具FSの調整しろをMとした場合、Mは、±12.5mmである。
支持板16は、左右両側に略水平に張出す張出部16aを有し、これらの張出部16aには、レベル調整ボルト18が貫通し得るボルト孔16bが穿設されると共にそれらの下面に該ボルト孔16bと同心であり、レベル調整ボルト18の螺挿されるウエルドナット19が溶接されている。
【0019】
また、支持板16の凹部には、防振ゴム17が多少の締代を以て着座嵌合され、その際に、それらは一体に接合されることがない。また、一対のレベル調整ボルト18は、その下端の頭部18bが六角形状に形成されている。以下、この頭部18bを、六角形状頭部18bと呼ぶ。
六角形状頭部18bの下面には、円形の着座板20がそれぞれ溶接されている。その着座板20の下面には、円盤状の緩衝ゴム21が接着されている。
【0020】
次に、このアジャスター式床下支持金具FSを用いて、大引10をコンクリート躯体Fの支持面もしくは縦逆小梁6L上に支持する手順について説明する。
一対のレベル調整ボルト18の雄ねじ部を、一対のウエルドナット19に螺挿すると共にボルト孔16bを貫通させることにより、支持板16の左右の張出部16aに、一対のレベル調整ボルト18の雄ねじ部をそれぞれ螺挿し、左右の張出部16aより突出する雄ねじ部の自由端に、ロックナット22を螺締する。これにより、支持板16は、一対のレベル調整ボルト18とロックナット22により固定される。
【0021】
次に、一対のレベル調整ボルト18の着座板20を、緩衝ゴム21を介してコンクリート躯体Fの支持面上に着座させる。このとき、レベル調整ボルト18は、コンクリート躯体の支持面もしくは縦逆小梁6T上に固定しない。
したがって、一対のレベル調整ボルト18は、コンクリート躯体Fの支持面に対して自由な横移動が可能であり、また支持板16の底面は、コンクリート躯体Fとの間に隙間が形成されていて該コンクリート躯体Fと接触することがない。
支持板16の凹部には、防振ゴム17が固定されることなく密に嵌着されている。この防振ゴム17上に、大引10の下面が固定されることなく支持される。
したがって、アジャスター式床下支持金具FSを構成する支持板16、一対のレベル調整ボルト18、一対のロックナット22及び防振ゴム17は、いずれも互いに固定されることがなく、それらは自由に分離可能である。
【0022】
複数の大引10上には、大引10の長手方向と直交して複数の根太11が載置されている。これらの根太11に、例えば木製のもの、つまり根太木を使用する場合は、根太木にビスを打ち込むことで大引10に固定する。根太11上には床板12が敷設される。
【0023】
しかして、床板12が根太11、大引10及びアジャスター式床下支持金具FSを介して支持されている状態で、床板12の床面のレベル調整を行なうには、まず、各アジャスター式床下支持金具FSの一対のロックナット22をスパナSp等の工具を用いて緩み方向にそれぞれ回転して、支持板16に左右の張出部16aの下面から離す。
その後、図5、6に示すように、一対のレベル調整ボルト18の下端の六角形状頭部18bをスパナSp等の工具により左あるいは右方向に回転すれば、一対のレベル調整ボルト18に螺合されている支持板16の左右の張出部16aを個別に昇降調整することができる。また、支持板16上に支持される大引10の上下動調整を個別に行なうことができる。さらに、複数の大引10上に支持される床板12の床面のレベル調整を行なうことができる。また、該床板12の傾きを修正することができる。
そして、床板12の床面のレベル調整終了後、一対のロックナット22を螺締すれば、床板12を所期のレベル位置に固定することができる。
【0024】
ところで、この実施形態によれば、図5に示すように、一対のレベル調整ボルト18及びロックナット22の回転操作は、床板12を外さずに、床下空間Hdに下りた作業者がスパナSp等の工具を用いて行なうことができる。
これにより、従来行なっていた床板12の撤去作業をしないで済むので、床板12の床面のレベル調整作業が容易になる。
特に、この実施形態のように、逆梁構造のコンクリート躯体Fを備えた建物では、床下空間Hdの高さを高く、例えば430mm以上(大引10のないところでは649mm:約60cm)とることができることから、作業空間が広くとれるので、レベル調整作業が一層容易になる。
【0025】
また、アジャスター式床下支持金具FSの各構成部品は、図8に示すように、それぞれ分離可能であり、しかも大引10及びコンクリート躯体Fの支持面からも分離可能であることから耐用年数の長い大引10を残したまま、それよりも耐用年数の短いアジャスター式床下支持金具FSの各構成部品、例えば防振ゴム17、レベル調整ボルト18等の交換を行なうことができる。また、建物をリフォームする際には、コストダウンと省資源化に寄与することができる。
【0026】
続いて、図9乃至図12を参照して、床構造体の経年劣化や地震等に起因して下降した床レベルを復元するための建物の床面レベル調整方法を具体的に説明する。
図9は、床レベルの復元作業のために集合住宅の床下空間に作業者がもぐり込んでいる様子を示す図である。図10は、床下空間の大引の下面とスラブの上面との間にジャッキを配置した様子を示す図である。図11は、図10の油圧ジャッキにより大引をジャッキアップする様子を示す図である。図12は、図11の大引のジャッキアップにより浮かせたことで、負荷がなくなった床構造体のレベルを調整している様子を示す図である。
【0027】
床構造体Frは、床アジャスター式床下支持金具FSが支持しているものの、多数の大引10が張り巡らされているため、床全体としては数百Kgもの重量がある。
このため、作業者が床下空間Hdにもぐり込んだ状態で、スパナSpを用いてアジャスター式床下支持金具FSのレベル調整ボルト18及びロックナット22を回転させて床構造体Fr全体を上方に移動させることは実質的に困難である。
【0028】
そこで、本実施形態では、以下に示す手順(第1ステップ乃至第3ステップ)により建物の床面レベルを調整する。
ここで、建物は、床スラブSfの上面に複数の縦の逆大梁5L等の逆梁が間隔を隔てて突設されている状態で、互いに対向する逆梁間に複数の大引10が橋架支持され、それらの大引10上に根太11を介して床板12が敷設されることで、複数の縦の逆大梁5Lにより囲まれる床下空間Hdが1以上形成される建物である。
【0029】
実施形態の調整方法は、建物における、施行後の床面がNmm下降した際の当該建物の床面レベルを調整する方法である。
この調整方法が適用可能な条件を以下に示す。
一つは、大引10の両端は、例えば±12.5mm程度(±Mmm(MはN以上の値))の範囲内で垂直方向の位置を調整可能なアジャスター式床下支持金具FSにより支持されていることである。
もう一つは、床下空間Hdは、大引10の下面と床スラブSfの上面に油圧ジャッキUjを配置してジャッキアップの作業を作業者が行うために必要な高さHを有していることである。具体的には、例えば床下空間Hdの高さHは、例えば430mm以上が必要である。この例の場合、床下空間Hdの高さHは、430mmとされ、床下空間Hdから上の部分(床面まで)は、219mmのため、床面からスラブSfの上面までの距離は、430+219=649mmであり、大引10が渡っている位置を避ければ、作業スペースもある程度確保される。
【0030】
このような条件下において、第1ステップにおいて、図9に示すように、作業者は、床下空間Hdに進入する。
具体的には、作業者は、床下空間Hdに進入し、沈下している部位にある大引10の端部(横の逆大梁5Tのアジャスター式床下支持金具FSの近傍の位置)で、その大引10の下面と床スラブSfの上面との間に木バタ角Kb(スペーサ)を配置する。木バタ角Kbは、例えば90mm×90mm×200mmのものを2段に積み重ねて高さ180mmの土台を作る。
【0031】
続いて、第2ステップにおいて、作業者は、調整対象の大引10の下面と床スラブSfの上面との間に油圧ジャッキUjを配置し、当該油圧ジャッキUjにより大引10をジャッキアップすることで、大引10を略Nmmだけ上方向に移動させる。
具体的には、作業者は、図10に示すように、木バタ角Kbで作った台座の上に、油圧ジャッキUj(高さ約250mm)を大引10の直下に潜り込ませるようにセットする。
なお、1本の大引10にかかるおおよその重量は、160kg程度であるため、油圧ジャッキUjは、手動式で2トン程度の小型のものを使用する。
ここで、作業者は、矢印方向に油圧ジャッキUjを操作し、軽く油圧をかけて、ストローク上部が大引10の幅の中心に来るように位置を調整する。
【0032】
そして、作業者は、図11に示すように、当該油圧ジャッキUjのハンドルを操作して大引10をジャッキアップすることで、大引10を上方向に略Nmmだけ移動させ、大引10を床アジャスター式床下支持金具FSから離す(浮かす)。略Nmmとは、下降した床レベルを元の高さに復元する高さである。
具体的には、油圧ジャッキUjのハンドルを上下(図10の矢印方向)させてストロークを伸ばし、ジャッキアップを行う。
【0033】
なお、ジャッキアップを行う際に、レベルを上げすぎて室内巾木が破損するのを防ぐため、二重床上で観察する別の作業者を配置し、床下の作業者と声を掛け合って作業をするものとする。作業者どうしがヘッドセット等を含む無線機器を身に付け、互いに無線機器で情報のやり取りをしてもよい。また床上の作業者がカメラで室内巾木を撮影し、床下の作業者がカメラの映像を映したモニタを見ながらジャッキアップ作業を行うようにしてもよい。
【0034】
第3テップにおいて、作業者は、アジャスター式床下支持金具FSを略+Nmm調整して、上方向に略Nmm移動した調整対象の大引10を当該アジャスター式床下支持金具FSにより支持させることで床面レベルをNmm上昇させる。
具体的には、作業者は、ジャッキアップ作業により大引10が適正なレベルまでジャッキアップができた状態であれば、アジャスター式床下支持金具FSに対する大引10の加重による負荷がなくなっているため、図12に示すように、スパナSpを用いて、図5及び図6に示したアジャスター式床下支持金具FSのロックナット22を回転させて緩め、その後、図7及び図8の防振ゴム17付きの支持板16が適正レベルに来るまで、レベル調整ボルト18の下端の六角形状頭部18b(着座板20を含む)をスパナSpで回転させて、支持板16の位置を上方へ略+Nmmだけ調整する。
【0035】
この調整により、上方向に略Nmm移動した調整対象の大引10を当該アジャスター式床下支持金具FSにより支持させることで、床面レベルをNmm上昇させた状態で固定する。
具体的には、適正な位置に防振ゴム17付きの支持板16がセットできた状態で、作業者は、ロックナット22をスパナSpにより締め付け、支持板16を固定する。
そして、作業者は、床面レベルが元の位置まで復元されたことを二重床上の別の作業者に確認した後、油圧ジャッキUj及び木バタ角Kbを撤去し、その場の清掃を行う。
【0036】
この実施形態の建物の床面レベルの調整方法によれば、作業者は、大引10を油圧ジャッキUjによりジャッキアップした上で(アジャスター式床下支持金具FSから浮かせた上で)、大引10の荷重の負荷がなくなったアジャスター式床下支持金具FSのレベル調整ボルト18の下端の六角形状頭部18b及びロックナット22をスパナSpで回転させて床レベルの調整を行う。
これにより、床下空間Hdに入り込んだ作業者の人力だけで床構造体Frの経年劣化や地震等に起因して下降した床レベルを復元することができる。
【0037】
このようにこの実施形態の建物の床面レベルの調整方法によれば、床下にもぐりこんだ作業者が、大引10をジャッキアップした上で、調整しろのあるアジャスター式床下支持金具FSを調整することで、床構造体Frの経年劣化や地震等に起因して下降した床レベルを手作業で容易に復元することができる。
【0038】
続いて、他のジャッキアップ方法(他の建物の床面レベルの調整方法)を説明する。
ルネス工法における二重床構造で起こり得る沈降現象について、床下600mmの床下空間Hdに配置されている複数の大引10のうちの1本の部位のみに発生するとは限らない。複数本の大引10や大引10全体にレベル調整が必要になる可能性もあり得る。
【0039】
このような場合、床下空間Hdに配置されているすべての大引10の下部に油圧ジャッキUjを挟み、大引10を1本ずつジャッキアップしながらレベル調整することは作業的に手間がかがる上、床面の平行度をとるための精度調整が難しい。
【0040】
そこで、図13乃至図15を参照して、他の調整方法を説明する。
図13は、本発明にかかる建物の床レベルの調整方法の他の例で用いる治具を床下空間に配置した側面図である。図14は、図13のA-A断面図である。図15は、図13に示した治具と共に使用するジョイント金具の一例を示す図である。
【0041】
この調整方法では、図13図14に示すように、大引10と同材(厚さ2.3mmの亜鉛鉄板を断面Σ状に屈曲加工したビーム材)を用いた長さ3000mmの治具Gと、大引10と油圧ジャッキUjとの間に介挿して配置されるジョイント金具Jkとを用いる。
治具Gは、大引10の下部に、調整対象の複数本の大引10と交差、例えば直行するように配置される。
【0042】
ジョイント金具Jkは、様々な間取り合わせた大引10の間隔に対応するためのもので、大引10と治具Gとの間に介挿して配置されるものである。
具体的には、図15に示すように、ジョイント金具Jkは、断面コの状に加工した2つの金具K1、K2の夫々を背面で上下に対向させて、その対向面の中心を軸として90度回転させた向きで互いを溶接等で固着させたものである。
【0043】
金具K1の大引受部側面には、すべてり止め用のゴム部材Gmが配置されている。大引10の幅は、50mmのため、ゴム部材Gmの厚みを1mmとし、金具K1の大引受部側面間の間隔(幅)を52mmとすることで、金具K1の大引受部に大引10が隙間なく収まるようにされている。
【0044】
この場合、作業者は、まず、治具Gを渡す2か所の位置に、夫々木バタ角Kbを配置し、その上に油圧ジャッキUjを載置する。
続いて、治具Gの上に、ジョイント金具Jkを、調整対象の大引10の数だけ並べて配置する。
【0045】
次に、作業者は、治具Gを複数の大引10の下に渡られるように配置する。そして、2か所の油圧ジャッキUjの上に載せながら、治具Gの上の各ジョイント金具Jkを夫々の大引10の位置にスライドさせて大引10にあてがう。
【0046】
そして、作業者は、夫々の大引10の両端のアジャスター式床下支持金具FSのロックナット22(図7図8参照)を緩めた後、2か所の油圧ジャッキUjを操作して治具Gと共に、複数の大引10を一気にジャッキアップする。
【0047】
ジャッキアップの後、夫々の大引10の端部のアジャスター式床下支持金具FSを調整し、大引10の高さまで支持板16を上昇させた復元位置で固定する。
その後、油圧ジャッキUjのストロークを下げて、油圧ジャッキUjと木バタ角Kbを撤去する。
【0048】
このようにこの例の床面レベルの調整方法によれば、複数の大引10の下にジョイント金具Jkと治具Gとを配置して、治具Gの下の2か所に配置した油圧ジャッキUjで治具Gと共に複数の大引10を一気に上昇させるので、作業工数を大幅に削減することができると共に、床面の平行度を精度よく調整することができる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものとみなす。
【0050】
例えば、上述の実施形態では、1本の大引10(厚さ2.3mmの鋼板を断面Σ形状に屈曲加工したビーム材)を複数本使用して逆梁間に橋架支持した例について説明したが、この他、2本の大引10の背面どうしで対向配置したダブルビームとして強度を増したものを使用してもよい。
【0051】
例えば、上述の実施形態では、断面Σ状の大引10を例示したが、この他、断面コの字状のC型ビーム材、断面H状のH型ビーム材等を使用してもよく、大引きの形状には限定されない。
【0052】
例えば、上述の実施形態では、床下空間Hdに、台座として木バタ角Kbを使用し油圧ジャッキUjを載置してジャッキアップしたが、ジャッキアップの機材は、床構造体Frの重量に応じた性能の油圧ジャッキUjを使用し、台座は、床下空間Hdと油圧ジャッキUjの高さに応じた数や形状のものを選定するものとする。
【0053】
以上をまとめると、本発明が適用される建物の床面レベルの調整方法は、次のようなステップを有していれば足り、各種各様な実施の形態を取ることができる。
即ち、本発明が適用される建物の床面レベルの調整方法は、
スラブ(例えば図2の床スラブSf等)の上面に複数の逆梁(例えば図2の縦の逆小梁6L、図10の縦の逆大梁5L等)が間隔を存して突設されている状態で、互いに対向する逆梁間に複数の大引(例えば図10の大引10等)が橋架支持され、それらの大引(例えば図10の大引10等)上に根太材(例えば図10の根太11等)を介して床材(例えば図10の床板12等)が敷設されることで、複数の前記逆梁により囲まれる床下空間(例えば図10の床下空間Hd等)が1以上形成される建物における、施行後の床面がNmm下降した際の当該建物の床面レベルの調整方法であって、
前記大引(例えば図10の大引10等)の両端は、±Mmm(MはN以上の値)の範囲内で垂直方向の位置を調整可能なアジャスター式床下支持具(例えば図10のアジャスター式床下支持金具FS等)により支持され、
前記床下空間(例えば図10の床下空間Hd等)は、前記大引(例えば図10の大引10等)の下面と前記スラブ(例えば図10の床スラブSf等)の上面にジャッキ(例えば図10の油圧ジャッキUj等)を配置してジャッキアップの作業を作業者が行うために必要な高さ(例えば図10の高さH等)を有している場合において、
前記作業者が、前記床下空間(例えば図10の床下空間Hd等)に進入する第1ステップと、
前記作業者が、調整対象の前記大引(例えば図10の大引10等)の下面と前記スラブ(例えば図10の床スラブSf等)の上面との間にジャッキ(例えば図10の油圧ジャッキUj等)を配置し、当該ジャッキ(例えば図10の油圧ジャッキUj等)によりジャッキアップすることで、前記調整対象の大引(例えば図10の大引10等)を上方向に略Nmmだけ移動させる第2ステップと、
前記作業者が、前記アジャスター式床下支持具(例えば図10のアジャスター式床下支持金具FS等)に対して略+Nmmの調整をして、上方向に略Nmm移動した前記調整対象の大引(例えば図10の大引10等)を当該アジャスター式床下支持具(例えば図10のアジャスター式床下支持金具FS等)により支持させることで、床面レベルをNmm上昇させる第3ステップと、
を含む。
このように、大引(例えば図2の大引10等)をジャッキアップした上で、調整しろのあるアジャスター式床下支持具(例えば図10のアジャスター式床下支持金具FS等)の調整を行うことで、床構造体(例えば図2の床構造体Fr等)の経年劣化等に起因して下降した床レベルを人手の作業により復元することができる。
【0054】
前記アジャスター式床下支持具(例えば図10のアジャスター式床下支持金具FS等)は、調整用の一対のレベル調整ボルト(例えば図7図8のレベル調整ボルト18等)及びロックナット(例えば図7図8のロックナット22等)を有する。
前記アジャスター式床下支持具(例えば図10のアジャスター式床下支持金具FS等)の調整しろMは、±12.5mmである。
前記床下空間(例えば図10の床下空間Hd等)の高さ(例えば図10の高さの矢印H等)は、430mm以上である。
【符号の説明】
【0055】
10・・・大引、16・・・支持板、16a・・・張出部、16b・・・雌ねじ孔、17・・・防振ゴム、18・・・レベル調整ボルト、18a・・・雄ねじ部、18b・・・頭部、20・・・着座板、22・・・ロックナット、F・・・コンクリート躯体、Fr・・・床構造体、FS・・・アジャスター式床下支持金具、G・・・治具、Hd・・・床下空間、Jk・・・ジョイント金具、Kb・・・木バタ角、Sf・・・床スラブ、Sp・・・スパナ、Uj・・・油圧ジャッキ
【要約】
【課題】床構造体の経年劣化等に起因して下降した床レベルを人手の作業により復元できるようにすること。
【解決手段】建物の床面レベルの調整方法は、下記第1ステップ乃至第3ステップを含む。第1ステップでは、作業者は、床下空間Hdに進入する。第2ステップでは、作業者は、調整対象の大引10の下面と床スラブSfの上面との間に油圧ジャッキUjを配置し、当該油圧ジャッキUjにより大引10をジャッキアップすることで、大引10を略Nmmだけ上方向に移動させる。第3ステップでは、作業者は、大引10が浮いたことで負荷がなくなったアジャスター式床下支持金具FSを略+Nmm調整して、上方向に略Nmm移動した調整対象の大引10を当該アジャスター式床下支持金具FSにより支持させることで床面レベルをNmm上昇させる。
【選択図】図10
図1
図2
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