(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B61D 37/00 20060101AFI20240405BHJP
【FI】
B61D37/00 F
(21)【出願番号】P 2019173539
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】大塚 大輔
(72)【発明者】
【氏名】林 元気
(72)【発明者】
【氏名】中桐 隆寿
(72)【発明者】
【氏名】吉原 聖史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 恵子
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107499325(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0096833(KR,A)
【文献】特開2015-191310(JP,A)
【文献】特開2003-301639(JP,A)
【文献】中国実用新案第208665193(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 37/00
B64D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側方側に窓が設けられる車体と、その車体の内部に形成される客室と、その客室内に設けられ乗客の荷物が載置される荷棚と、を備える鉄道車両において、
前記荷棚を上下に昇降させる駆動手段と、
前記荷棚を上昇させる際に乗客が出す上昇指示を検出する上昇指示検出手段と、
その上昇指示検出手段による検出結果に基づいて前記荷棚を上昇させる上昇開始手段と、を備え、
前記荷棚は、前記客室の幅方向中央側の天井面に設けられ、
前記上昇指示検出手段は、前記荷棚に加わる荷重を計測する荷重センサとして構成され、
前記上昇開始手段は、上方へ向けた荷重が前記荷棚に加わったことが前記荷重センサで検出されたことに基づいて、前記荷棚を上昇させることを特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
側方側に窓が設けられる車体と、その車体の内部に形成される客室と、その客室内に設けられ乗客の荷物が載置される荷棚と、を備える鉄道車両において、
前記荷棚を上下に昇降させる駆動手段を備え、
前記荷棚は、
前記
客室の幅方向中央側の天井面から垂下され上下に昇降する昇降部と、
その昇降部の下端側から前記昇降部の昇降方向と略直交する方向に突出し前記荷物が載置される載置面を有する載置部と、を備
え、
前記載置部の角度は、前記載置面が前記昇降部側に向けて下降傾斜する第1角度と、その第1角度よりも前記載置面が水平方向に近付くか、又は、前記載置面が前記昇降部側に向けて上昇傾斜する第2角度と、に設定可能に構成され、
前記荷棚の昇降時には、前記載置部の角度が前記第1角度に設定され、前記荷棚が最下部まで下降した場合には、前記載置部の角度が前記第2角度に設定されることを特徴とする鉄道車両。
【請求項3】
前記荷棚を下降させる際に乗客が出す下降指示を非接触で検出する下降指示検出手段と、
その下降指示検出手段による検出結果に基づいて前記荷棚の下降を開始させる下降開始手段と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両。
【請求項4】
前記下降開始手段は、乗客が前記荷棚に視線を向けた状態で特定動作を行ったことが前記下降指示検出手段で検出された場合に前記荷棚を下降させることを特徴とする請求項3記載の鉄道車両。
【請求項5】
前記下降指示を行った乗客の乗客情報を記憶する乗客情報記憶手段を備え、
前記荷棚に荷物が載置されていない状態で前記下降指示が前記下降指示検出手段で検出された場合に、前記下降開始手段は、前記荷棚を下降させる際に前記乗客情報を前記乗客情報記憶手段に記憶し、
前記荷棚に荷物が載置された状態で前記下降指示が前記下降指示検出手段で検出された場合に、前記下降開始手段は、前記下降指示を行った乗客と前記乗客情報記憶手段に記憶された乗客情報とが一致する場合に前記荷棚を下降させることを特徴とする請求項3又は4に記載の鉄道車両。
【請求項6】
前記荷棚の下方の障害物を検出する障害物検出手段と、
その障害物検出手段で前記障害物が検出された場合に前記荷棚の下降を停止させる下降停止手段と、を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の鉄道車両。
【請求項7】
前記荷棚の上昇中に前記荷重センサで計測される荷重が、前記荷棚の上昇開始時に前記荷重センサで計測された荷重よりも所定以上増加した場合に、前記荷棚の上昇を停止させる上昇停止手段を備えることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両。
【請求項8】
前記上昇停止手段により前記荷棚の上昇が停止された後に前記荷重センサで計測される荷重が、前記荷棚の上昇開始時に前記荷重センサで計測された荷重よりも所定以上増加している場合に、前記荷棚を下降させることを特徴とする請求項7記載の鉄道車両。
【請求項9】
前記上昇開始手段は、上方へ向けた荷重が前記荷棚に加わった後、その荷重が前記荷棚から除去されたことが前記荷重センサで計測された場合に前記荷棚を上昇させることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両。
【請求項10】
前記第2角度は、前記載置面が前記昇降部側に向けて上昇傾斜する角度とされ、
前記載置面における前記昇降部とは反対側の先端部分には、前記載置面から上方に突出する規制壁が形成されることを特徴とする請求項2記載の鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に関し、特に、客室内の開放感を向上できる鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客の荷物を載置するための荷棚が客室内に設けられる鉄道車両が知られている。従来の鉄道車両においては、客室の側壁面(側構体)において、窓の上方側に荷棚を配置することが一般的である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-016817号公報(例えば、段落0016,0018、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術では、荷棚を配置するためのスペースの分、窓の上下方向寸法を小さくする必要があるため、客室内の開放感が低下するという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、客室内の開放感を向上できる鉄道車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の鉄道車両は、側方側に窓が設けられる車体と、その車体の内部に形成される客室と、その客室内に設けられ乗客の荷物が載置される荷棚と、を備えるものであり、前記荷棚を上下に昇降させる駆動手段と、前記荷棚を上昇させる際に乗客が出す上昇指示を検出する上昇指示検出手段と、その上昇指示検出手段による検出結果に基づいて前記荷棚を上昇させる上昇開始手段と、を備え、前記荷棚は、前記客室の幅方向中央側の天井面に設けられ、前記上昇指示検出手段は、前記荷棚に加わる荷重を計測する荷重センサとして構成され、前記上昇開始手段は、上方へ向けた荷重が前記荷棚に加わったことが前記荷重センサで検出されたことに基づいて、前記荷棚を上昇させる。
本発明の鉄道車両は、側方側に窓が設けられる車体と、その車体の内部に形成される客室と、その客室内に設けられ乗客の荷物が載置される荷棚と、を備えるものであり、前記荷棚を上下に昇降させる駆動手段を備え、前記荷棚は、前記客室の幅方向中央側の天井面から垂下され上下に昇降する昇降部と、その昇降部の下端側から前記昇降部の昇降方向と略直交する方向に突出し前記荷物が載置される載置面を有する載置部と、を備え、前記載置部の角度は、前記載置面が前記昇降部側に向けて下降傾斜する第1角度と、その第1角度よりも前記載置面が水平方向に近付くか、又は、前記載置面が前記昇降部側に向けて上昇傾斜する第2角度と、に設定可能に構成され、前記荷棚の昇降時には、前記載置部の角度が前記第1角度に設定され、前記荷棚が最下部まで下降した場合には、前記載置部の角度が前記第2角度に設定される。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び請求項2記載の鉄道車両によれば、荷棚が客室の幅方向中央側の天井面に設けられるので、その分、客室の側壁面において窓の配置スペースを広く確保できる。即ち、窓の上方側に荷棚を設ける場合に比べ、窓の上下方向寸法を大きくできるので、客室内の開放感を向上できるという効果がある。更に、荷棚を昇降させる駆動手段を備えるので、荷棚を下降させて荷物を積み降ろした後は、荷棚を上昇させることで客室内のスペースを広く確保できる。これによっても、客室内の開放感を向上できるという効果がある。
また、請求項1記載の鉄道車両によれば、荷棚を上昇させるための上昇指示が乗客から出されると、その上昇指示が上昇指示検出手段によって検出される。その検出結果に基づいて荷棚の上昇が上昇開始手段によって開始されるので、乗客の意思に基づいて荷棚を上昇させることができる。これにより、乗客が自身の安全を確保した状態で荷棚を上昇させることができるので、荷棚の上昇時における安全性を向上できるという効果がある。
更に、請求項1記載の鉄道車両によれば、乗客が出す上昇指示は、荷棚に加わる荷重を計測する荷重センサによって検出される。上方へ向けた荷重が荷棚に加わったことが荷重センサで検出されると、荷棚の上昇が上昇開始手段によって開始されるので、乗客が荷棚を持ち上げる動作を行った際に荷棚を上昇させることができる。これにより、乗客の手が荷棚の上方側に位置した状態で荷棚が上昇することを抑制できるので、荷棚の上昇時に乗客の手が荷棚に引っ掛かることを抑制できる。よって、荷棚の上昇時における安全性を向上できると共に、荷棚の破損を抑制できるという効果がある。
また、請求項2記載の鉄道車両によれば、荷棚は、天井面から垂下され上下に昇降する昇降部と、その昇降部の下端側から昇降部の昇降方向と略直交する方向に突出し荷物が載置される載置面を有する載置部と、を備えるので、載置面に荷物が載置された載置部を昇降部によって上下に昇降させることができる。
荷棚の昇降時には、載置部の角度が、載置面が昇降部側に向けて下降傾斜する第1角度に設定されるので、荷棚の昇降時に載置部の先端側(昇降部とは反対側)に向けて荷物がずり落ちることを抑制できる。よって、荷棚の昇降時に載置部から荷物が落下することを抑制できるという効果がある。
一方、荷棚が最下部まで下降した場合には、載置部の角度が、第1角度よりも載置面が水平方向に近付くか、又は、載置面が昇降部側に向けて上昇傾斜する第2角度に設定される。これにより、荷棚が最下部まで下降した際に、載置部の基端側(昇降部側)の載置面に向けて乗客が手を伸ばし易くなるので、荷物の積み降ろしを容易に行うことができるという効果がある。
【0008】
請求項3記載の鉄道車両によれば、請求項1又は2に記載の鉄道車両の奏する効果に加え、次の効果を奏する。荷棚を下降させるための下降指示が乗客から出されると、その下降指示が下降指示検出手段によって検出される。その検出結果に基づいて荷棚の下降が下降開始手段によって開始されるので、乗客の意思に基づいて荷棚を下降させることができる。下降指示検出手段は、乗客からの下降指示を非接触で検出するので、比較的高い位置(天井面)に荷棚が配置される場合でも、乗客の身長に依らず荷棚を下降させることができるという効果がある。
【0009】
請求項4記載の鉄道車両によれば、請求項3記載の鉄道車両の奏する効果に加え、次の効果を奏する。乗客が荷棚に視線を向けた状態で特定動作を行うと、その特定動作が下降指示として下降指示検出手段で検出される。下降開始手段は、その特定動作の検出に基づいて荷棚を下降させるので、荷棚を下降させる意思のない他の乗客の動作が下降指示として誤検出され、その誤検出によって荷棚の下降が開始されることを抑制できる。よって、荷棚が不要なタイミングで下降することを抑制できるという効果がある。
【0010】
請求項5記載の鉄道車両によれば、請求項3又は4に記載の鉄道車両の奏する効果に加え、次の効果を奏する。荷棚に荷物が載置されていない状態で下降指示が下降指示検出手段で検出されると、下降開始手段によって荷棚を下降させる際に、下降指示を行った乗客の乗客情報が乗客情報記憶手段に記憶される。これにより、空の荷棚を下降させた乗客、即ち、これから荷棚に荷物を積み込む乗客の乗客情報を乗客情報記憶手段に記憶することができる。
【0011】
荷棚に荷物が載置された状態で下降指示が下降指示検出手段で検出されると、その下降指示を行った乗客と乗客情報記憶手段に記憶された乗客情報とが一致する場合に下降開始手段によって荷棚の下降が開始される。これにより、荷棚を下降させようとしている乗客と、かかる荷棚に荷物を積み込んだ乗客とが一致する場合に荷棚を下降させることができるので、荷物が盗難されることを抑制できるという効果がある。
【0012】
請求項6記載の鉄道車両によれば、請求項1から5のいずれかに記載の鉄道車両の奏する効果に加え、次の効果を奏する。荷棚の下方の障害物は、障害物検出手段によって検出される。障害物が検出されると、下降停止手段によって荷棚の下降が停止されるので、乗客や乗客の持つ荷物等の障害物が下降中の荷棚に接触することを抑制できる。これにより、荷棚の下降時における安全性を向上できると共に、荷棚の破損を抑制できるという効果がある。
【0013】
【0014】
【0015】
請求項7記載の鉄道車両によれば、請求項1記載の鉄道車両の奏する効果に加え、次の効果を奏する。荷棚の上昇中に荷重センサで計測される荷重が、荷棚の上昇開始時に荷重センサで計測された荷重よりも所定以上増加すると、荷棚の上昇が上昇停止手段によって停止される。これにより、例えば、乗客の手が荷棚に引っ掛かった状態や、荷棚上の荷物によって荷棚の上昇が阻まれた状態等の異常状態で、荷棚が上昇し続けようとすることを抑制できる。よって、荷棚の上昇時における安全性を向上できると共に、荷棚の破損を抑制できるという効果がある。
【0016】
請求項8記載の鉄道車両によれば、請求項7記載の鉄道車両の奏する効果に加え、次の効果を奏する。上昇停止手段により荷棚の上昇が停止された後に荷重センサで計測される荷重が、荷棚の上昇開始時に荷重センサで計測された荷重よりも所定以上増加している場合、荷棚が下降する。これにより、上述した異常状態が継続することを抑制できるので、荷棚の上昇時における安全性を向上できると共に、荷棚の破損を抑制できるという効果がある。なお、この請求項9における「所定以上」との定義は、請求項8における「所定以上」の定義と必ずしも一致するものではない。
【0017】
請求項9記載の鉄道車両によれば、請求項1記載の鉄道車両の奏する効果に加え、次の効果を奏する。上方へ向けた荷重が荷棚に加わった後、その荷重が荷棚から除去されたことが荷重センサで計測されると、上昇開始手段によって荷棚の上昇が開始される。これにより、乗客が荷棚を持ち上げる動作をした後、荷棚から手を離した際に荷棚を上昇させることができる。よって、乗客の手が荷棚に触れた状態で荷棚が上昇することを抑制できるので、荷棚の上昇時における安全性を向上できるという効果がある。
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
請求項10記載の鉄道車両によれば、請求項2記載の鉄道車両の奏する効果に加え、荷棚が最下部まで下降した場合には、載置部の角度は、載置面が昇降部側に向けて上昇傾斜する角度とされるので、荷物の積み降ろしを更に容易に行うことができるという効果がある。載置部が第2角度になると、載置面に載置された荷物が載置部の先端側(昇降部とは反対側)に向けてずり落ちようとするが、その載置部の先端部分には、載置面から上方に突出する規制壁が形成される。これにより、載置面からの荷物の落下を規制壁によって規制できるので、荷物の積み降ろしを行う際に載置部から荷物が落下することを抑制できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態における鉄道車両の部分断面図である。
【
図2】
図1の状態から荷棚を下降させた状態を示す鉄道車両の部分断面図である。
【
図4】(a)は、メイン処理のフローチャートであり、(b)は、タイマー処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1及び
図2を参照して、鉄道車両1の全体構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態における鉄道車両1の部分断面図であり、
図2は、
図1の状態から荷棚5を下降させた状態を示す鉄道車両1の部分断面図である。なお、
図1及び
図2では、鉄道車両1の前後方向と直交する平面で切断した断面が図示される。また、
図1及び
図2では、図面を簡素化するために、鉄道車両1の一部(例えば、車輪や台車等)の図示が省略され、鉄道車両1の構造(断面)を模式的に図示している。
【0024】
図1に示すように、鉄道車両1は、複数の車輪を有する台車(図示せず)に車体2(構体)が支持される。車体2の内部には、台枠、側構体、及び、屋根構体等によって取り囲まれる客室Rが形成される。客室Rは、車体2の前後方向(
図1の紙面垂直方向)に延びるようにして形成され、客室Rの側壁面R1(側構体)には、複数の窓3が車体2の前後方向に並べて設けられる。
【0025】
客室Rの空間は、車体2の前後方向に延設される仕切り4によって仕切られる。仕切り4は、立位の乗客Pを支えるための部材である。仕切り4は、車体2の幅方向(
図1の左右方向)における客室Rの中央に設けられており、客室Rは、仕切り4を挟んで車体2の幅方向に2分割される。図示は省略するが、仕切り4は、車体2の前後方向に複数個が断続的に設けられており、その断続部分(仕切り4同士の隙間)における乗客Pの移動が可能となっている。
【0026】
仕切り4は、客室Rの床面から天井面R2(屋根構体)まで延びるようにして設けられ、仕切り4の上端部分を挟んだ左右の両脇には荷棚5を収容するための収容部6が設けられる。収容部6は、下方に開口を有する箱状に形成され、乗客Pの荷物Bが載置された荷棚5が収容部6に収容可能に構成される。荷棚5は、荷物Bを載置するための載置部50を備え、載置部50は、その上面が荷物Bを載置するための載置面50aとして構成される。収容部6に荷棚5が収容された収容状態では、載置部50の下面が天井面R2の一部を構成しているため、かかる収容状態においては載置部50に載置された荷物Bを乗客Pが視認できないようになっている。
【0027】
なお、図示は省略するが、客室Rの天井面R2には、複数の荷棚5が車体2の前後方向に沿って複数並べて設けられている。前後に並ぶ複数の荷棚5を1列とすると、客室Rの天井面R2の幅方向中央(仕切り4)を挟んで2列の荷棚5が設けられる。それら複数の荷棚5は、配置される向きや位置が異なる点を除き、それぞれ同一の構成を備えている。
【0028】
このように、本実施形態では、窓3が設けられる客室Rの側壁面R1よりも、客室Rの幅方向中央側の天井面R2に荷棚5を設けているため、客室Rの側壁面R1における窓3の配置スペースを広く確保できる。これにより、例えば、窓3の上方側の側壁面R1に荷棚5を設ける場合に比べ、窓3の上下方向寸法を大きくし、窓3の配置領域を側壁面R1(側構体)の上端付近まで広げることができる。よって、客室R内の開放感を向上できる。
【0029】
一方、天井面R2に荷棚5を設けることにより、側壁面R1に荷棚5を設ける場合に比べて荷棚5が比較的高い位置に配置されることになる。これに対して本実施形態の荷棚5は、収容部6から下降、又は、収容部6に向けて上昇可能に構成されている。この構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0030】
図1及び
図2に示すように、荷棚5の載置部50の下面には、下方にレンズを向けるカメラ50cが設けられる。詳細は後述するが、カメラ50cに乗客Pが視線を向けた状態で特定動作(本実施形態では、手を振る動作)を行うことで荷棚5の下降が開始される(
図2参照)。即ち、荷棚5は、乗客Pの意思で下降するように構成されている。
【0031】
荷棚5は、載置部50を昇降させるための第1シリンダ51及び第2シリンダ52と(
図2参照)、第2シリンダ52に対する載置部50の角度を変更するための第3シリンダ53と、を備える。
【0032】
荷棚5の下降は、第1シリンダ51が伸長する第1段階と、その第1シリンダ51のスライド板51aに沿って第2シリンダ52がスライドする第2段階と、そのスライド後に第2シリンダ52が伸長する第3段階との順に行われる。
図2は、かかる第3段階の状態を図示している。一方、荷棚5の上昇は、それらの各段階が下降時と逆の順に行われる。
【0033】
第1シリンダ51、第2シリンダ52、及び、第3シリンダ53は、それぞれ伸縮可能なアクチュエータ(例えば、電動シリンダ)である。これらの各シリンダは、公知の構成が採用で可能であるので構造の詳細な説明は省略する。第1シリンダ51及び第2シリンダ52は、それぞれテレスコ機構を有し多段階の伸縮が可能となっているが、
図2では、図面を簡素化するために第1シリンダ51及び第2シリンダ52の伸長状態を模式的に図示している。
【0034】
また、以下の説明においては、第1シリンダ51(第2シリンダ52)のうち、第1シリンダ51(第2シリンダ52)が最も伸長した状態で上端側に位置する部位を「上端部分」、下端側に位置する部位を「下端部分」、と記載して説明する。
【0035】
第1シリンダ51は、その上端部分が屋根構体に連結されることで天井面R2(収容部6の内部)から下方に垂下するようにして設けられ、第1シリンダ51の下端部分には、第2シリンダ52をスライドさせるためのスライド板51aが固定される。スライド板51aは、第2シリンダ52をスライド可能に保持する板である。
【0036】
第1シリンダ51は車体2の前後方向に所定間隔を隔てて一対に配置されており、それら一対の第1シリンダ51(スライド板51a)の対向間に第2シリンダ52がスライド可能に保持されている。よって、第1シリンダ51の伸長に伴い、第1シリンダ51のスライド板51aに保持された状態の第2シリンダ52(短縮状態のもの)が収容部6から下降する。
【0037】
スライド板51aには、上下に所定間隔を隔てて配置される一対のスライド孔51bが形成され(
図2の拡大部分参照)、第2シリンダ52の上端部分には、スライド孔51bに挿通される一対の突起52aが形成される。よって、第2シリンダ52の突起52aがスライド板51aのスライド孔51bに沿ってスライドすることにより、第1シリンダ51に対して第2シリンダ52が相対変位可能に構成される。この第2シリンダ52のスライド変位は、図示しないアクチュエータの伸縮によって行われる。
【0038】
スライド孔51bは、第1シリンダ51よりも車体2の側方側(第1シリンダ51の伸縮方向と直交する方向)に向けて突出するようにして下降傾斜しているため、スライド孔51bに沿って第2シリンダ52がスライド変位することにより、第1シリンダ51よりも車体2の側方側に第2シリンダ52が張り出すように構成される。これにより、第1シリンダ51の伸長方向の延長線上に障害物(本実施形態では、仕切り4)が配置される場合であっても、その障害物を避けた位置で第2シリンダ52を伸長させることができる。
【0039】
短縮状態の第2シリンダ52をスライド板51aに沿ってスライドさせた後、第2シリンダ52を伸長させることにより、第2シリンダ52の下端部分に接続される載置部50が最下部まで下降した状態(
図2の状態)となる。これにより、天井面R2の比較的高い位置に荷棚5が配置される場合でも、荷棚5を下降させて荷物Bの積み降ろしを容易に行うことができる。また、乗客Pが出す下降指示をカメラ50cが非接触で検出するので、比較的高い位置(天井面R2)に荷棚5が配置される場合でも、乗客Pの身長に依らず荷棚5を下降させることができる。
【0040】
載置部50は、第2シリンダ52の下端部分から車体2の側方側に向けて突出する板状に形成され、載置部50の基端部分は第2シリンダ52の下端部分に回転可能に軸支される。第3シリンダ53の一端は、載置部50と第2シリンダ52との軸支位置よりも第2シリンダ52の上端側に軸支され、第3シリンダ53の他端は、載置部50と第2シリンダ52との軸支位置よりも載置部50の先端側に軸支される。
【0041】
これにより、第3シリンダ53を伸縮させることにより、第2シリンダ52に対する載置部50の角度を変化させることができる。第2シリンダ52が最も伸長し、載置部50が最下部まで下降した状態(
図2の状態)においては、第3シリンダ53が所定の長さまで伸長される。第3シリンダ53の伸長により、載置部50の載置面50aが第2シリンダ52側に向けて上昇傾斜する(乗客P側に向けて下降傾斜する)角度となる。これにより、荷棚5の載置部50が最下部まで下降した際に、載置部50の基端側(第2シリンダ52側)の載置面50aに向けて乗客Pが手を伸ばし易くなるので、荷物Bの積み降ろしを容易に行うことができる。
【0042】
また、載置面50aが第2シリンダ52側に向けて上昇傾斜する角度になった場合、載置面50aに載置された荷物Bが載置部50の先端側に向けてずり落ちようとするが、載置部50の先端部分には、載置面50aから上方に突出する規制壁50bが形成されている(
図2参照)。これにより、載置面50aからの荷物Bの落下を規制壁50bによって規制できるので、荷物Bの積み降ろしを行う際に荷物Bが載置部50から落下することを防止(抑制)できる。
【0043】
第3シリンダ53には、荷棚5の載置部50に加わる荷重を計測するための荷重センサ53aが設けられる。詳細は後述するが、乗客Pが荷棚5の載置部50を持ち上げる動作を行った際に、その載置部50に加わる荷重の変化が荷重センサ53aで計測され、その計測結果に基づいて荷棚5の上昇が開始される。
【0044】
荷棚5の上昇は、荷棚5の下降時とは逆の順序で第1シリンダ51及び第2シリンダ52を短縮させることで行われ、荷棚5が最上部まで上昇すると、荷棚5が収容部6に収容される収容状態(
図1の状態)となる。このように、荷物Bの積み降ろしを終えた後は、荷棚5を上昇させることで客室R内のスペースを広く確保できるので、客室R内の開放感を向上できる。また、乗客Pの意思に基づいて荷棚5を上昇させることにより、乗客Pが自身の安全を確保した状態で荷棚5を上昇させることができる。よって、荷棚5の上昇時における安全性を向上できる。
【0045】
また、荷棚5の昇降中においては、第3シリンダ53が所定の長さまで短縮され、載置部50の載置面50aが第2シリンダ52側に向けて下降傾斜する角度(
図1に示す載置部50の角度)に設定される。これにより、荷棚5の昇降時に載置部50の先端側に向けて荷物Bがずり落ちることを防止できる。よって、荷棚5の昇降時に載置部50から荷物Bが落下することを防止できる。なお、載置部50の傾斜角度は、載置面50aから荷物Bが落下しない程度の角度に設定すれば良い。
【0046】
このように、本実施形態では、荷棚5(載置部50)が昇降可能に構成されているが、この荷棚5の昇降の制御について、
図3~
図7を参照して更に説明する。まず、
図3を参照して、荷棚5の電気的構成について説明する。
図3は、荷棚5の電気的構成を示すブロック図である。
【0047】
図3に示すように、鉄道車両1には複数の荷棚5が設けられている。各荷棚5は、CPU10と、フラッシュROM11と、RAM12とを備え、これらはバスライン13を介して入出力ポート14にそれぞれ接続される。入出力ポート14には、上述したカメラ50c、第1シリンダ51、第2シリンダ52、及び、第3シリンダ53がそれぞれ接続される。
【0048】
CPU10は、バスライン13により接続された各部を制御する演算装置である。フラッシュROM11は、CPU10により実行されるプログラムや固定値データ等を格納した書き換え可能な不揮発性のメモリであり、制御プログラム11aが記憶される。CPU10によって制御プログラム11aが実行されると、後述するメイン処理およびタイマー処理(
図4参照)が実行される。
【0049】
RAM12は、CPU10が制御プログラム11a等のプログラム実行時に各種のワークデータやフラグ等を書き換え可能に記憶するメモリである。RAM12には、所有者メモリ12a、荷重メモリ12b、及び、上昇前荷重メモリ12cが設けられる。
【0050】
所有者メモリ12aは、荷棚5に載置された荷物Bの所有者を記憶するためのメモリである。また、荷重メモリ12bは、第3シリンダ53の荷重センサ53aで計測された値を記憶するためのメモリであり、上昇前荷重メモリ12cは、荷棚5の上昇前に荷重センサ53aで計測された値を記憶するためのメモリである。
【0051】
なお、上述した通り、荷棚5(載置部50)の昇降は、第1シリンダ51及び第2シリンダ52の伸縮によって行われるが、以下の説明においては、第1シリンダ51及び第2シリンダ52の伸縮動作についての説明は省略し、単に荷棚5の「上昇」又は「下降」と省略して記載する。
【0052】
次いで、
図4から
図7を参照して、CPU10で実行される各処理について説明する。
図4(a)は、メイン処理のフローチャートであり、
図4(b)は、タイマー処理のフローチャートである。メイン処理およびタイマー処理は、鉄道車両1の制御装置の電源が投入されると実行される。
【0053】
図4に示すように、メイン処理は、荷棚5の昇降を制御するための処理である。タイマー処理は、荷重センサ53aで計測された値を記憶するための処理であり、メイン処理と並列に処理される。タイマー処理では、荷重センサ53aで計測される値を荷重メモリ12bに追加(記憶)する(S11)。このタイマー処理は、1ms毎に繰り返し実行され、荷重メモリ12bには、荷重センサ53aで計測された値、即ち、荷棚5に加わる荷重の推移が所定時間分(例えば、過去1分間分)記憶される。
【0054】
メイン処理では、まず荷棚5を最上部まで上昇させる(S1)。このS1の処理により、鉄道車両1の走行開始前に下降状態にある荷棚5を含め、鉄道車両1の走行開始時には全ての荷棚5を最上部まで上昇させた状態(
図1の状態)にすることができる。
【0055】
S1の処理の後、荷棚5(載置部50)が最上部まで上昇したかを図示しないセンサによって確認する(S2)。荷棚5が最上部まで上昇している場合は(S2:Yes)、荷棚下降処理を実行する(S3)。この荷棚下降処理(S3)について、
図5を参照して説明する。
【0056】
図5は、荷棚下降処理(S3)を示すフローチャートである。荷棚下降処理(S3)では、まず乗客Pの視線をカメラ50cで検出したかを確認する(S21)。即ち、乗客Pが荷棚5を見上げ、下降指示を出そうとしているか否かを確認する。乗客Pの視線がカメラ50cで検出されていない場合は(S21:No)、乗客Pが下降指示を出しておらず、未だ荷棚5を下降させるS26の下降処理(下降処理の詳細については後述する)を行うタイミングではないので、以降の処理をスキップして荷棚下降処理(S3)を終了する。
【0057】
一方、乗客Pの視線をカメラ50cで検出した場合(S21:Yes)、乗客Pの特定動作(本実施形態では、手を振る動作)をカメラ50cで検出したかを確認する(S22)。乗客Pの特定動作がカメラ50cで検出されていない場合は(S22:No)、上述した乗客Pの視線が検出されない場合と同様、未だ荷棚5の下降処理を行うタイミングではないので、以降の処理をスキップして荷棚下降処理(S3)を終了する。
【0058】
このように、荷棚下降処理(S3)では、乗客Pが荷棚5に視線を向けた状態で特定動作を行わない限り、荷棚5を下降させる下降処理(S26)が行われないようになっている。これにより、荷棚5を下降させる意思のない他の乗客Pの動作が下降指示として誤検出されることを防止できるので、その誤検出による荷棚5の下降を防止できる。即ち、荷棚5が不要なタイミングで下降することを防止できる。
【0059】
乗客Pの視線をカメラ50cが検出した状態で(S21:Yes)、乗客Pの特定動作がカメラ50cで検出された場合は(S22:Yes)、荷重メモリ12bの値がマージンαよりも大きいかどうか、即ち、荷棚5の載置部50に荷物Bが載置されているかを確認する(S23)。マージンαは、荷重センサ53aの計測誤差や、車両走行中の振動によって生じる荷重の誤検出等を考慮して設定される変動値である。
【0060】
荷重メモリ12bの値がマージンα以下である場合は(S23:No)、載置部50に荷物Bが載置されておらず荷棚5が空の状態であり、荷棚5の下降後に荷物Bが積み込まれることが想定される。よって、荷棚5が空の状態である場合には(S23:No)、下降後に積み込まれる荷物Bの所有者を特定するために、特定動作を行っている乗客P(カメラ50cで撮影されている乗客P)の顔の画像を所有者メモリ12aに保存して(S24)、荷棚5の下降処理を実行する(S26)。これにより、空の荷棚5を下降させた乗客P、即ち、これから積み込まれる荷物Bの所有者である乗客Pの顔の画像(乗客情報)を所有者メモリ12aに保存することができる。
【0061】
一方、荷重メモリ12bの値がマージンαよりも大きい場合は(S23:Yes)、既に荷棚5の載置部50に荷物Bが載置されている状態である。この場合には、その荷物Bの所有者でない乗客Pが荷棚5を下降させることを防止するために、上述した特定動作を行っている乗客Pが、所有者メモリ12aに保存された所有者であるかどうかを確認する(S25)。
【0062】
特定動作を行う乗客Pが、所有者メモリ12aに保存された所有者ではない場合は(S25:No)、荷棚5を下降させるべきではないため、以降の処理をスキップして荷棚下降処理(S3)を終了する。一方、特定動作を行う乗客Pが、所有者メモリ12aに保存された所有者である場合には(S25:Yes)、荷棚5の下降処理を実行する(S26)。
【0063】
このS25の処理により、荷棚5を下降させようとしている乗客Pと、かかる荷棚5に荷物Bを積み込んだ乗客Pとが一致する場合のみ、荷棚5の下降処理(S26)が実行される。言い換えると、荷物Bが積み込まれた状態における荷棚5の下降は、荷物Bの所有者のみが行うことができるので、荷物Bが盗難されることを防止できる。次いで、
図6を参照して、荷棚5の下降処理について説明する。
【0064】
図6は、下降処理のフローチャートである。下降処理(S26)では、まず荷棚5の下降を開始させる(S31)。そして、荷棚5が下降している最中に、荷棚5の下方側において障害物をカメラ50cで検出したかどうかを確認する(S32)。障害物をカメラ50cで検出した場合(S32:Yes)、荷棚5の下降を停止させる(S33)。これにより、乗客Pや、乗客Pの持つ荷物等の障害物が下降中の荷棚5に接触することを防止できる。よって、荷棚5の下降時における安全性を向上できると共に、荷棚5の破損を防止できる。
【0065】
S33の処理によって荷棚5の下降が停止された後、荷棚5の下方側において障害物をカメラ50cで検出しているかどうかを確認する(S34)。障害物がカメラ50cで検出されている場合は(S34:Yes)、荷棚5の下降を再開すべきではないため、S34の処理を繰り返す。一方、荷棚5の停止中に障害物がカメラ50cで検出されなくなった場合は(S34:No)、S31以下の処理を繰り返す。このS34の処理により、荷棚5の下方側から障害物が除去された場合に、荷棚5の下降を再開させることができる。
【0066】
一方、S31の処理の後、荷棚5が下降している最中に障害物をカメラ50cで検出していない場合は(S:32:No)、荷棚5が最下部まで下降したかどうかを図示しないセンサによって確認する(S35)。荷棚5が最下部まで下降していない場合は(S35:No)、最下部に下降するまで障害物の検出を行うためにS32以下の処理を繰り返し、荷棚5が最下部まで下降した場合には(S35:Yes)、荷棚5の下降を停止させて(S36)、下降処理(S26)を終了する。
【0067】
これにより、空の荷棚5が最下部まで下降した状態となり、荷物Bの積み下ろしが可能となる。なお、荷棚5の下降が停止した際には、第3シリンダ53を伸長させる処理が行われる。第3シリンダ53を伸長させるのは、上述した通り、載置部50を乗客P側に向けて下降傾斜させ、荷物Bの積み降ろし作業を容易にするためである。
【0068】
図4,5に戻って説明する。荷棚下降処理(S3)では(
図5参照)、下降処理(S26)の終了後、荷棚下降処理(S3)を終了してメイン処理に戻る(
図4参照)。メイン処理では、荷棚下降処理(S3)の終了後、荷棚上昇処理を実行する(S4)。この荷棚上昇処理(S4)について、
図7を参照して説明する。
【0069】
図7は、荷棚上昇処理のフローチャートである。上述した通り、荷棚5の上昇の開始は、乗客Pが荷棚5の載置部50を持ち上げた際に行われる。よって、荷棚上昇処理(S4)では、まず荷重メモリ12bを参照して、上方に向けた荷重が荷重センサ53aで所定時間(例えば、1秒間)継続して計測されたかどうかを確認する(S41)。上方に向けた荷重が所定時間継続して計測されていない場合は(S41:No)、乗客Pによって荷棚5が持ち上げられていない状態である。よって、かかる場合には、未だ荷棚5を上昇させる処理(後述するS45の処理)を行うタイミングではないので、以降の処理をスキップして荷棚上昇処理(S4)を終了する。
【0070】
一方、上方に向けた荷重が荷重センサ53aで所定時間継続して計測された場合は(S41:Yes)、乗客Pが荷棚5を上昇させようとして荷棚5の載置部50を下面側から持ち上げる動作(上昇指示)を行った場合であるので、荷棚5を上昇させる前に第3シリンダ53を短縮させる(S42)。第3シリンダ53を短縮させるのは、上述した通り、荷棚5の上昇時に載置部50から荷物Bが落下することを防止するためである。
【0071】
S42の処理の後、上方に向けた荷重が荷重センサ53aで計測されているかどうかを確認する(S43)。上方に向けた荷重が荷重センサ53aで計測されている場合は(S43:Yes)、乗客Pが載置部50から手を離しておらず、そのまま荷棚5を上昇させると危険が生じるおそれがあるので、S43の処理を繰り返す。
【0072】
一方、上方に向けた荷重が荷重センサ53aで計測されなくなった場合は(S43:No)、乗客Pが荷棚5から手を離したと判断できるので、荷重センサ53aの値を上昇前荷重メモリ12cへ保存して(S44)、荷棚5の上昇を開始させる(S45)。荷棚5の上昇前に荷重センサ53aの値を上昇前荷重メモリ12cへ保存するのは、荷棚5の上昇前に加わる荷重と、上昇中に加わる荷重との比較によって荷棚5の上昇時の異常を検出するためである。
【0073】
このように、乗客Pが荷棚5の載置部50を下面側から持ち上げる動作(下降指示)を契機にして荷棚5を上昇させることにより、乗客Pの手を載置部50の下面側に位置させた状態で、荷棚5の上昇を開始させることができる。これにより、荷棚5の上昇時に乗客Pの手や衣服が載置部50に引っ掛かることを防止できるので、荷棚5の上昇時における安全性を向上できると共に、荷棚5の破損を防止できる。
【0074】
更に、S43の処理により、乗客Pが荷棚5(載置部50)を持ち上げる動作をした後、荷棚5から手を離した際に荷棚5を上昇させることができるので、乗客Pの手が触れた状態で荷棚5が上昇することを防止できる。よって、荷棚5の上昇時における安全性を更に向上できる。
【0075】
荷棚5の上昇を開始させるS45の処理の後、荷棚5の上昇中における荷重センサ53aの値が、上昇前荷重メモリ12cの値にマージンβを加えた値よりも大きいかどうかを確認する(S46)。マージンβは、荷重センサ53aの計測誤差や、車両走行中の振動によって生じる荷重の誤検出等を考慮して設定される変動値である。
【0076】
荷棚5の上昇中における荷重センサ53aの値が、上昇前荷重メモリ12cの値にマージンβを加えた値よりも大きい場合は(S46:Yes)、荷棚5(載置部50)に乗客Pの手が引っ掛かった状態や、荷棚5上の荷物Bによって荷棚5の上昇が阻まれた状態等の異常状態が生じている可能性があるため、荷棚5の上昇を停止させる(S47)。これにより、かかる異常状態で荷棚5が上昇し続けようとすることを防止できるので、荷棚5の上昇時における安全性を向上できると共に、荷棚5の破損を防止できる。
【0077】
S47の処理の所定時間経過後(例えば、3秒後)において、荷重センサ53aの値が、上昇前荷重メモリ12cの値にマージンγを加えた値よりも大きいかどうかを確認する(S48)。マージンγは、荷重センサ53aの計測誤差や、車両走行中の振動によって生じる荷重の誤検出等を考慮して設定される変動値である。
【0078】
荷重センサ53aの値が、上昇前荷重メモリ12cの値にマージンγを加えた値以下である場合は(S48:No)、上述した異常状態が解除されたと判断できるので、S45の処理に戻って荷棚5の上昇を開始(再開)させる。
【0079】
一方、S47の処理の所定時間経過後において、荷重センサ53aの値が、上昇前荷重メモリ12cの値にマージンγを加えた値よりも大きい場合は(S48:Yes)、上述した異常状態の継続を防止するために荷棚5の下降処理を行う(S26)。この荷棚上昇処理(S4)で実行される下降処理は、上述した荷棚下降処理(S3)で実行される下降処理(
図6参照)と同一の処理であるので、詳細な説明は省略する。
【0080】
このように、荷棚上昇処理(S4)では、荷棚5の上昇中に異常状態が生じた所定時間経過後においても、その異常状態が解除されていないと判断された場合には、荷棚5が下降するように構成されている。これにより、かかる異常状態が継続することを防止できるので、荷棚5の上昇時における安全性を向上できると共に、荷棚5の破損を防止できる。
【0081】
なお、S45~S48の処理(荷棚5の上昇および停止)を不要に繰り返すことを防止するために、S48の処理におけるマージンγの値は、S46の処理におけるマージンβの値よりも小さい値に設定されている。即ち、S46,48におけるマージンβ,γの値は、それぞれ異なる値に設定されているが、各マージンβ,γの値を同一の値としても良い。
【0082】
一方、荷棚5の上昇中における荷重センサ53aの値が、上昇前荷重メモリ12cの値にマージンβを加えた値以下である場合は(S46:No)、荷棚5が最上部まで上昇したかどうかを図示しないセンサによって確認する(S49)。荷棚5が最上部まで上昇していない場合は(S49:No)、最上部に上昇するまで異常状態の検出を行うためにS46以下の処理を繰り返す。荷棚5が最上部まで上昇した場合(S49:Yes)、荷棚5の上昇を停止させて(S50)、荷棚上昇処理(S4)を終了する。
【0083】
図4のメイン処理に戻って説明する。メイン処理では、荷棚上昇処理(S4)の終了後、S2以下の処理を繰り返す。よって、荷棚上昇処理(S4)の終了時に、荷棚5が最上部まで上昇していない場合は(S2:No)、荷棚下降処理(S3)をスキップして、再度、荷棚上昇処理が実行される(S4)。一方、荷棚上昇処理(S4)の終了時に、荷棚5が最上部まで上昇している場合は(S2:Yes)、荷棚下降処理が実行される(S3)。
【0084】
以上の通り、本実施形態の鉄道車両1によれば、荷棚5が客室Rの天井面R2に設けられるので、その分、窓3の配置スペースを広く確保して客室R内の開放感を向上できる。更に、荷棚5が昇降可能に構成されるので、荷棚5を下降させて荷物Bを積み降ろした後は、荷棚5を上昇させることで客室R内のスペースを広く確保できる。これによっても、客室R内の開放感を向上できる。
【0085】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0086】
上記実施形態では、荷棚5が最上部まで上昇した場合に収容部6に収容される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、収容部6を省略し、載置部50の載置面50aが常に露出された状態とされる構成でも良い。
【0087】
上記実施形態では、乗客Pが出す下降指示に基づいて荷棚5を下降させる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、乗客Pが出す下降指示ではなく(又は、乗客Pが出す下降指示に加え)、終着駅に到着時等の予め設定されたタイミングで自動的に荷棚5を下降させる構成や、乗務員が出す下降指示に基づいて荷棚5を下降させる構成を適用しても良い(或いは、それらの構成を組み合わせても良い)。
【0088】
上記実施形態では、乗客Pの下降指示をカメラ50cによって非接触で検出する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、接触型のセンサや、ボタン等の下降指示検出手段を荷棚5に設ける構成でも良い。
【0089】
上記実施形態では、乗客Pの下降指示を非接触で検出する下降指示検出手段の一例として、カメラ50cを説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、かかる手段の他の例として、赤外線センサや、その他の非接触型のセンサ等、公知の手段を適用できる。また、センサではなく、乗客Pが操作するスマートフォン等の電子機器から送信された下降指示を受け付ける構成でも良い。
【0090】
上記実施形態では、乗客Pの下降指示の検出と、荷棚5の下方の障害物の検出とのそれぞれをカメラ50cで行う場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、下降指示を検出する手段と、障害物を検出する手段とをそれぞれ別個に設けても良い。また、下降指示や障害物を検出する機能に加え、防犯カメラとしての機能をカメラ50cに持たせても良い。
【0091】
上記実施形態では、乗客Pが荷棚5(カメラ50c)に視線を向けた状態で行う特定動作の一例として、手を振る動作を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、まばたきや眼球の移動、又は、手招き等の他の(手を振る以外の)手の動作を特定動作として検出しても良い。また、1つの特定動作のみを下降指示として検出する構成ではなく、種類の異なる複数の動作を特定動作として設定し、いずれかの特定動作を乗客Pが行った場合に下降指示として検出する構成や、複数の特定動作を組み合わせた動作を乗客Pが行った場合に下降指示として検出する構成でも良い。
【0092】
上記実施形態では、乗客Pが出す上昇指示に基づいて荷棚5を上昇させる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、乗客Pが出す上昇指示ではなく(又は、乗客Pが出す上昇指示に加え)、車両の発車時や、荷棚5が最下部まで下降した所定時間経過時に、荷棚5を自動的に上昇させる構成や、乗務員が出す上昇指示に基づいて荷棚5を上昇させる構成を適用しても良い(或いは、それらの構成を組み合わせても良い)。
【0093】
上記実施形態では、乗客Pが荷棚5(載置部50)を持ち上げる動作を上昇指示として検出する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、カメラ50c(下降指示検出手段)を利用して乗客Pからの上昇指示を検出する構成でも良い。また、接触型のセンサや、ボタン等の上昇指示検出手段を荷棚5に設ける構成でも良い。いずれの構成の場合においても、上昇指示検出手段を荷棚5(載置部50)の下面に設けることが好ましい。これにより、乗客Pの手を荷棚5の下面側に位置させた状態で上昇指示を検出することができるので、荷棚5の上昇時の安全性を向上できる。
【0094】
上記実施形態において、ディスプレイやスピーカ等の案内手段を荷棚5(載置部50)の下面に設け、荷棚5を昇降させる手順を案内手段の映像や音声によって案内する構成でも良い。
【0095】
上記実施形態では、荷棚5を下降させた乗客Pの顔画像を乗客情報として保存し、その乗客情報に基づいて荷物Bの所有者であるか否かを判断する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、上述したようなスマートフォンの操作によって荷棚5を下降させる場合には、そのスマートフォンから送られる情報を乗客情報として保存する構成でも良い。
【0096】
上記実施形態では、第3シリンダ53に荷重センサ53aを設けることで荷物Bの有無を検出する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、荷物Bの有無を検出する他のセンサやカメラを荷棚5(収容部6)に設ける構成でも良い。また、荷重センサ53aを第3シリンダ53に設けるのではなく、第1シリンダ51や、第2シリンダ52、又は、第2シリンダ52と第3シリンダ53との軸支部分等に荷重センサを設ける構成でも良い。即ち、荷棚5上の荷物Bの荷重を検出できる構成であれば、荷重センサの配設位置は適宜設定できる。
【0097】
上記実施形態では、荷棚5の載置部50が車体2の側方側に向けて突出する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、載置部50が車体2の前後方向に突出する構成や、車体2の前後方向に対して傾斜する方向に突出する構成でも良い。即ち、第2シリンダ52(昇降部)の昇降方向と略直交する方向であれば、載置部50の突出方向は適宜設定できる。つまり、載置部50の突出方向は、荷物Bの積み降ろしが行い易くなるように、車両の形態(座席の配置等)に応じて設定すれば良い。
【0098】
上記実施形態では、荷棚5(載置部50)を昇降させる駆動手段(昇降部)の一例として、テレスコ機構を有するシリンダを説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、直動可能なものであれば、公知の駆動装置やアクチュエータを採用できる。また、かかるアクチュエータやスライドレール等を組み合わせて荷棚5を昇降させる構成でも良い。
【0099】
上記実施形態では、第1シリンダ51に対して第2シリンダ52が側方側にスライド変位した後、第2シリンダ52が伸長する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、1つのシリンダ(駆動手段)によって載置部50を単に直動させる構成でも良い。
【0100】
上記実施形態では、第2シリンダ52(昇降部)に対する載置部50の角度が可変とされる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、第2シリンダ52(昇降部)に対して載置部50が回転不能に固定される構成でも良い。
【0101】
上記実施形態では、荷棚5が最下部まで下降した場合に、載置部50の角度が、第2シリンダ52側に向けて載置面50aが上昇傾斜する角度とされる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。荷棚5が最下部まで下降した際の載置部50の角度が、荷棚5の昇降時における載置部50の傾斜角(載置面50aが第2シリンダ52側に向けて下降傾斜する角度)よりも水平方向に近い角度であれば、荷棚5が最下部まで下降した際に荷物Bの積み降ろしを容易にできる。
【0102】
上記実施形態では、立位の乗客が乗車する(座席を有しない)車両に荷棚5を設ける場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ロングシートやクロスシートが設けられる一般車両や優等車両に荷棚5を設けても良い。
【符号の説明】
【0103】
1 鉄道車両
2 車体
3 窓
5 荷棚
50 載置部
50a 載置面
50b 規制壁
50c カメラ(下降指示検出手段、障害物検出手段)
51 第1シリンダ(駆動手段、昇降部)
52 第2シリンダ(駆動手段、昇降部)
53a 荷重センサ(上昇指示検出手段)
12a 所有者メモリ(乗客情報記憶手段)
R 客室
R2 天井面
S3 荷棚下降処理(下降開始手段)
S4 荷棚上昇処理(上昇開始手段)
S33 下降停止手段
S47 上昇停止手段